2021年4月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、4月上旬に7米ドル台まで上昇し、4月中旬に受渡し月が6月に切り替わり、8米ドル台まで上昇、その後も上昇を続け、4月下旬に8米ドル台後半を付けている。3月のLNG輸入量において、中国で前年同期比36.5%、韓国で19%増加するなど、北東アジア地域の旺盛なLNG需要の影響もあり、価格は堅調に推移している。経済産業省統計速報によれば、3月契約ベースのスポットLNG価格は6.6米ドル(2月比6.1米ドル下落)、3月入着ベースのスポットLNG価格は9.3米ドル(2月比7.0米ドル下落)となり、それぞれ前月比でほぼ半減した。
  • HHは、記録的な寒波の緩和とともに価格が下落傾向となり、3月上旬に2米ドル半ばに達して以降、4月下旬まで大きな変動なく安定的に推移している。3月末における米国の天然ガス在庫は、厳冬の影響で過去5年間平均よりも2%低くなっており、夏に向けて貯蔵用需要が拡大するとみられる。また今後、他地域の天然ガススポット市場と比較して価格優位性のある米国産LNGの輸出量は継続的に増加すると予想される。
  • TTFは、3月上旬には6米ドルを上回り、4月15日に7米ドルを超えて以降、4月下旬には7米ドル前半を推移している。欧州でも昨年より低い気温の影響で需要が増加し、4月中旬の天然ガス在庫は過去5年平均よりも6%低くなっている。またブレント原油価格の緩やかな上昇も、欧州の天然ガス価格の上昇要因とみられる。
  • 2021年3月の日本平均LNG輸入価格は、財務省貿易統計速報によれば、7.51米ドルで、供給地域別では、ASEAN地域産が7.02米ドル、中東産が6.93米ドル、ロシア産が6.37米ドルと全体平均を下回ったが、米国産は9.75米ドルと全体平均を上回った。
  • 3月の日本のLNG輸入量は、713万トンと前年同月比で1.1%減少した一方、1-3月のLNG輸入量は2,332万トンと前年同期比で9.2%増加した。また、3月の平均輸入価格は、中国7.99米ドル、韓国8.44米ドル、台湾7.86米ドルを下回った。中国の3月のLNG輸入量は564万トンと、前年同月比で36.5%増加し、韓国のLNG輸入量は421万トンと、前年同月比で19%増加した。台湾は163万トンと前年同月比24%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月比を上回り、第1四半期の累計で、6,119万トンと前年同期比15%増加となった。

天然ガス・LNG価格推移(直近1年)

中長期の値動き

  • JKMは、2019年冬期は6米ドル前後の水準にあったが、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増し32.5米ドルの史上最高値を付けた。この上昇率は下落時と同様に過去に類を見ない顕著なものとなった。ただし、実際にその価格水準で取引されたカーゴ数は限定的と想定される。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じ、3月は6ドル台後半を推移、4月に入り7米ドル後半から下旬には8米ドル台後半まで上昇した。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格の回復に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。2021年1月は8米ドル半ば、2月には9米ドル半ばまで上昇した。3月については、7米ドル台まで下落したが、その理由として、相対的に高価となった米国産LNGが13米ドル台から9ドル台まで、中東産LNGが9米ドル台から6ドル台までそれぞれ輸入価格が低下したことが一因と推定される。

天然ガス・LNG価格推移(直近10年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Futures Europe, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
METIスポットLNG価格: 経済産業省「スポットLNG価格調査」
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2020年12月末の国内LNG在庫量は334万tで、前月比14.5%、57万tの減少、前年同月比26.4%の減少となった。LNG在庫量の334万tは2018年2月以来の低水準であり、また過去5年平均値を91万t下回った。寒気により、都市ガス用・発電用ともLNG消費が増加したため、LNG受入量が増加したものの、在庫量減少につながった。
  • 12月末のガス事業用LNG在庫量は149万tで、前月比13.1%減、前年同月比では35.2%の減少となった。12月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比6.5%増の324万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比7.5%増の271万tだった。
  • 12月末の発電燃料用LNG在庫量は185万tで前月比15.6%減、前年同月比17.4%の減少となった。12月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で12.9%増の505万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で13.3%増の514万tであった。

国内LNG月末在庫量(直近2年)

国内LNG月末在庫(直近10年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。


米国

  • 2021年4月16日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、1.88 Tcfで前月比 7.5%増となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると12.0%低く、過去5年平均値を12 Bcf 上回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
  • EIAが2021年4月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、3月の在庫は1.8 Tcfで、過去5年間の平均より2.0%低い。要因として、2月中旬の異常寒波により天然ガスの生産量が減少したため、2020年~2021年の冬期の天然ガス払い出し量は過去5年間の平均を上回っていることが挙げられる。EIAによれば、今後天然ガスの生産量が増加し、発電用のガス消費量は過去2年間の夏よりも減少すると予測している。また、天然ガスの在庫量は2021年の天然ガス貯蔵シーズンが終わる10月末には、過去5年平均水準である3.7Tcfを上回ると予測している。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2021年4月24日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)・英国各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は327 TWhであった。在庫量は前月比において1.3%減、前年同期比では51.1%減少し、同時期の過去5年平均よりも107 TWh低い。これは2018年3月に記録した192 TWh以来、2年振りの低水準である。北極圏の寒気が南下したことにより、中東欧では記録的な寒さとなり、北西欧、中東欧の暖房需要は、3月27日から4月6日まで40%以上急増した。なお、貯蔵容量に対する充填率は、2021年4月24日時点で29%と前年同期の61%を大きく下回っているが、過去5年間の同時期の充填率平均の33%からは、僅かに下回る程度となった。

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。

 

  • 2021年4月24日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は359万m3であり、前月比4.2%減少した。在庫量は2021年1月から減少しており、3月には2018年4月以来の低水準となる294万m3を記録した。その後、在庫量は増加傾向にあったが、北極圏の寒気が南下したことにより、4月8日には318万m3、貯蔵容量の38%まで減少した。なお、ガス地下貯蔵設備を有する欧州では、輸入されたLNGは気化して地下貯蔵在庫に注入されることが一般的であり、LNG在庫量は少量にとどまる。

欧州LNG在庫量(直近2年)

欧州LNG在庫量(直近10年)

(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


天然ガス・LNGプロジェクト動向

ハイライト

  • アジア地域では、カーボンオフセットメカニズムを用いたカーボンニュートラルLNGカーゴの複数の取引が発表された。LNG生産プロジェクト開発では、豪州で既存プロジェクトへの原料ガス供給延長につながるバックフィル型のガス田開発の最終投資決定が1件発表された一方で、北米では2件のプロジェクトが検討の停止を表明した。

 

アジア・オセアニア地域

  • 北海道ガス、 Chevron は2021年4月7日、Chevronのグローバルポートフォリオから石狩LNG基地向けに2022年4月から5年間で50万トンのLNG売買契約(SPA)を締結したと発表した。
  • 東邦ガスは2021年4月8日、自社初となるカーボンニュートラルLNGを知多LNG基地で受け入れたと発表した。三菱商事100%子会社ダイアモンド・ガス・インターナショナル社(DGI)からCO2クレジットでカーボンオフセットしたLNGを購入した。
  • RWEは2021年3月29日、韓国の光陽基地に納入されるPOSCO向けのカーボンオフセット付きLNGカーゴを手配したと発表した。
  • Total は2021年3月23日、上海のShenergy Groupとの間で、 Total から年間140万トンのLNGを供給すること、および中国でのLNG販売を拡大するための合弁事業を設立することについて拘束力のある契約を締結したと発表した。同合弁事業(Total 49%, Shenergy Group 51%)は、 Total が供給するLNGを、上海および周辺の揚子江デルタ地域に販売する。 Total はShenergy Groupの天然ガス子会社であるShanghai GasにもLNGを供給する。
  • Eni は2021年3月30日、中国のZhejiang Energyとの間で、中国内外でのガス・LNGのバリューチェーンにおける協力促進を目指し、エネルギー分野における戦略的協力に関する覚書(MOU)を締結したことを発表した。
  • Qatar Petroleumは2021年3月22日、Sinopecとの間で、10年間にわたり年間200万トンのLNGを供給するSPAを締結したことを発表した。引き渡しは2022年1月から開始予定。
  • PipeChinaは2021年3月31日、PetroChina傘下のKunlun Energyより、北京天然ガスパイプラインの60%、大連LNGの75%を取得したことで、中国の主要ガスパイプライン網が完成したと発表した。
  • シンガポール規制機関EMAは2021年3月25日、 ExxonMobil、 Sembcorp を新たなLNG輸入業者に指名したことを発表した。
  • Pavilion Energy は2021年4月15日、シンガポールとPavilion Energyにとって初となるカーボンニュートラルLNGカーゴを輸入したと発表した。当該カーゴにかかる採取・生産・輸送・気化に係る炭素排出量は、ペルーと中国でのカーボンオフセットプロジェクトのポートフォリオから調達した同量の炭素クレジットにより相殺される。
  • PETRONAS は2021年3月25日、自社2番目となる浮体式LNG生産設備 PETRONAS Floating LNG DUA (PFLNG DUA)より、最初のカーゴ引き渡しをタイのLNG買主向けに行ったと発表した。 PFLNG DUA はサバ州沖140 kmのH鉱区 Rotan ガス田に配置されている。
  • フィリピン First Gen Corporation は2021年4月5日、バタンガス沖合ガス基地プロジェクト向けに、子会社のFGEN LNGが BW Paris 浮体貯蔵・気化機器(FSRU)をノルウェー BW Gas 子会社から傭船する5年契約を締結したと発表した。
  • McDermott International は2021年4月14日、子会社 CB&I Storage Solutions が、 Atlantic Gulf and Pacific Company of Manila Inc. (AG&P)より、同社のフィリピンのバタンガスで建設中の Philippines LNG 輸入・気化基地のLNG貯蔵タンク1基に関してエンジニアリング・調達・建設(EPC)契約を受注したと発表した。
  • 豪州ヴィクトリア州当局は2021年3月29日、 Crib Point のAGL APAガス輸入桟橋、 Crib Point - Pakenham ガスパイプラインのプロジェクトの環境影響評価を完了し、 本プロジェクトがWestern Port地区に与える環境影響は許容できないと結論づける評価を行った。AGLはこの決定に対して対応を検討中と述べた。
  • Santos は2021年3月30日、豪州北部準州沖 Barossa 合弁事業について最終投資決定(FID)を行ったことを発表した。このFIDにより、 Darwin LNG 設備寿命を20年延長する延命プロジェクトとパイプライン接続向けの投資も開始となる。 Barossa LNGプロジェクトは、浮体生産・貯蔵・積み出し(FPSO)船舶、海底生産井、支援海底インフラストラクチャー、既存 Bayu-UndanからDarwin LNG パイプラインへの繋ぎ込み用パイプラインが含まれる。ガス生産開始は、2025年前半を目標としている。
  • 東ティモール国有企業 Timor GAP は2021年3月31日、LNG受入基地の事業化調査を開始したことと発表した。同国公共事業省は、 Eletricidade de Timor-Leste (EDTL)を通じて、 Hera、 Betano 発電設備を、重油から天然ガスに転換する計画である。

 

北米地域

  • Cheniere Energy によるテキサス州Corpus Christi 第3系列の商業稼働開始計画は2021年3月25日、連邦エネルギー規制委員会(FERC)により承認された。
  • Sempra Energy は2021年4月5日、新規事業プラットフォームであるSempra Infrastructure Partners の非支配持分20%を世界的投資会社KKRに売却する最終合意に達したことを発表した。これは自社の非電力インフラ投資を単一の自己資金プラットフォームの下で簡素化するための取引の一環であり、メキシコ最大級の民間エネルギー企業で再生可能エネルギーと天然ガスインフラストラの開発・運営企業のIEnova (Infraestructura Energética Nova, S.A.B de C.V.)とSempra Energyとを統合するものである。
  • NextDecadeとOccidental 子会社 Oxy Low Carbon Ventures (OLCV)は2021年3月25日、 NextDecade が計画するテキサス州Rio Grande LNG プロジェクトから回収するCO2引き取りと恒久的貯留に関する基本合意を締結したことを発表した。OLCVは同LNGプロジェクトからCO2を引き取り、輸送し、リオグランデバレー地下構造に恒久的に隔離する。同29日、 NextDecade は OGCI Climate Investmentsに優先転換社債を割り当てることに合意した。
  • NextDecade と米国三菱重工業は2021年4月14日、NextDecade のRio Grande LNG プロジェクトLNGに適用する燃焼後炭素回収技術「KM CDR ProcessTM」の設計、ライセンス、性能保証に関するエンジニアリングサービス契約(ESA)を締結したと発表した。
  • Annova LNG は2021年3月22日、テキサス州ブラウンズヴィルで開発中の年間650万トンのLNG輸出設備の即時中止を発表した。Exelon、 Black & Veatch、 Kiewit Energy Group、 Enbridge が開発を進めていた。
  • Chevron は2021年3月17日、カナダのブリティッシュコロンビア州 Kitimat LNG プロジェクトの事業化検討作業を中止する意向を発表した。Chevron は2019年12月に同プロジェクトの50%持分の売却計画を明らかにした。 Chevron は売却手続きを進めつつも、パートナー Woodside と合意されたプロジェクト活動を継続していた。

 

欧州・ロシア地域

  • Total は2021年4月13日、Siemens Energyとの間でCO2排出削減のための持続可能なソリューションを研究する技術協力協定を締結したことを発表した。この共同研究では、天然ガス液化設備と関連する発電に焦点を当てている。
  • ロシア NOVATEK は2021年3月24日、 Arctic LNG 1 がヤマルネネツ自治区ギダン半島とカラ海ギダン湾の浅水部分に渡る North-Gydanskiy 地下資源ライセンス地域の地質調査・開発・生産ライセンスを獲得したと発表した。ロシア資源分類システムに基づく同地域の推定炭化水素資源量は石油換算で98億バレル相当に達している。ライセンス期間は30年間で、ライセンス地域はNOVATEK のギダン半島での既存資産と隣接し、新規LNGプロジェクト実施のための資源基盤を拡充するものであるとしている。

 

その他地域

  • Qatar Petroleumは2021年3月30日、 Qatargas Liquefied Natural Gas Company Limited (QG1)合弁事業を、現契約が満了となる2021年12月31日をもって更新しないことを発表した。Qatar Petroleumは2022年1月1日以降、QG1資産および設備を100%単独で所有することとなる。
  • Mozambique LNG プロジェクトと同国政府は2021年3月24日、2020年12月に現場付近で発生したセキュリティ事象を受けて、追加のセキュリティ対策を実施した上で、プロジェクトの建設活動を再開すると発表していたが、Total はPalma での武装襲撃事件の後、作業の再開を延期した。

 

作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所

 

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