2021年7月
天然ガス・LNG価格動向
直近の値動き
- 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、6月末に100万Btu当たり13米ドル台を超えて7月初めには14米ドルに達し、その後13 米ドルから 14米ドルを推移、月末に15米ドルを目指す値動きとなっている。中国、韓国を中心に8月以降のLNG需要が引き続き堅調であること、また高値で推移する欧州ガス市場もJKMを引き上げる要因となっている。
- JOGMECは6月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、6月に契約がなされて同月以降に日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を9.7米ドル(5月と同価格)と発表した。同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は報告者が1社以下であったため、非公表となった。
- 米国スポットガス価格HHは、7月以降も上昇基調が継続し、3米ドル半ばから7月下旬には4米ドルを超えて推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、価格上昇要因として、天然ガス生産量が横ばいで推移するなか、メキシコ向けパイプラインガスとLNG輸出量が増加し、国内でも経済活動再開や記録的熱波による発電需要の増加を挙げている。天然ガス価格上昇のため火力発電燃料が石炭に切り替わり、天然ガスの使用量は今後抑制されるとEIAは予測している。
- 欧州ガススポット価格TTFは、6月末に12米ドルに達し、7月初旬に一時的に13米ドルを上回るもその後は12米ドルを挟んで推移し、月末にかけて13米ドルまで上昇している。欧州では冬季に向けた地下貯蔵へのガス充填が例年に比べて引き続き遅れており、ノルウェーのガス田でのメンテナンス、ロシアからの低水準なパイプラインガス供給等、堅調な炭素市場と南米のLNG需要が支援材料となって高値を維持した。
- 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年6月の日本平均LNG輸入価格は9.06米ドルであった。供給地域別では、ASEAN地域産が8.71米ドル、米国産は9.85米ドル、ロシア産が8.71米ドル、中東産が8.81米ドルであった。また、6月のアジア各国の平均輸入価格は、中国8.64米ドル、韓国8.87米ドル、台湾8.09米ドルであった。6月以降の原油価格は1バレル当たり70米ドルを超えて推移しているため、原油価格リンクの長期契約がLNG輸入量の大部分を占める日本では今後LNG平均輸入価格の上昇が見込まれる。
- 6月の日本のLNG輸入量は、571万トンと前年同月比で8%増加し、上半期のLNG輸入量は3,889万トンと前年同期比で7%増加した。中国の6月のLNG輸入量は672万トンと前年同月比で16.5%増加し、前月に引き続き日本の輸入量を上回った。韓国は315万トンと前年同月比で22%増加、台湾は164万トンと前年同月比2%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月比を上回り、上半期の累計で1億1,126万トンと前年同期比14%増加となった。
中長期の値動き
- JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、7月に14米ドルまで上昇した。
- 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格の回復に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落、4月は7米ドル後半、5月は8米ドル前半、そして6月は9米ドル前半へと上昇して推移している。
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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange
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天然ガス・LNG在庫動向
日本
- 2021年3月末の国内LNG在庫量は443万tで、前月比8.5%、35万tの増加、前年同月比6.4%の減少となった。LNG在庫量は2か月連続で過去5年平均値を上回っており増加傾向にある。発電燃料用LNG在庫は統計史上初となる300万tを記録した。一方、ガス事業用LNG在庫は受入量を消費量が上回り、低水準を記録している。
- 3月末のガス事業用LNG在庫量は142万tで、前月比6.2%減、前年同月比では38.1%の減少となった。3月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比2.7%減の282万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比17.7%減の272万tだった。
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3月末の発電燃料用LNG在庫量は300万tで前月比17.3%増、前年同月比23.6%の増加となった。3月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で1.2%減の371万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で14.7%増の456万tであった。
(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。
米国
- 2021年7月16日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2.68 Tcfで前月比7.9%増となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると16.7%低く、過去5年平均値を176 Bcf下回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
- EIAが2021年7月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、冬季の払い出しシーズンを終えた3月末の在庫は1.8 Tcfで、過去5年間平均より2.0%下回った。4月から10月にかけての貯蔵シーズンについては、今夏の米国の天然ガス生産量が横ばいのなかで、天然ガス輸出量が過去最大量となることから、貯蔵量は過去5年平均水準を5%下回ると予測している。EIAは貯蔵シーズンが終わる10月末には在庫量は3.6 Tcfを超えるものの、過去5年平均水準を3%下回り、前年同期を8%下回ると予測している。
(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成
欧州
- 2021年7月24日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)・英国各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は604 TWhであった。在庫量は前月比において19.4%増、前年同期比では35.3%減少し、同時期の過去5年平均値よりも170.5 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は54.3%であり、前年同期の84.2%より低く、さらに過去5年間平均値である67.4%を下回っている。
(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。
- 2021年7月24日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は377万m3(液体ベース)で、前月比12.5%減少、前年同期比21.7%減、過去5年平均値を18.7%下回っている。特に、2021年7月17日以降、LNG在庫量は過去5年間の最小値を下回っており、7月24日には過去5年間の最小値を9.0%下回った。在庫量の減少が大きかったのはスペインとフランスだった。
(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。
天然ガス・LNGプロジェクト動向
ハイライト
- 中国、韓国、台湾等の北東アジア向けに多数のLNGターム売買契約が発表され、その供給の多くをカタールが、続いてPETRONAS, bp, Shell といった既存の供給力を持つ大手サプライヤーが占めた。またアジアのみならず欧州、北米向けのカーボンオフセット方式のカーゴ取引やターム契約等が発表された。
アジア・オセアニア地域
- 大阪ガスは2021年7月6日、 Shell とカーボンニュートラルLNG(CNLNG)に関する契約を締結し、自社初となるCNLNGを積載したLNG船がブルネイから泉北製造所に到着したと発表した。
- INPEXは2021年7月10日、豪州イクシスLNGプロジェクトから自社初のCNLNGを直江津基地で受け入れたことを発表した。採掘から燃焼に至るまでに発生する温室効果ガスに対して、TotalEnergies SE と共同でVCS (Verified Carbon Standard)によるカーボンクレジットを用いたオフセットを行う。
- 西部ガスは2021年7月18日にひびきLNG基地にてロシア Novatek の Yamal LNG プロジェクトから大型砕氷LNG船による初のLNGを受け入れたことを発表した。海外出荷向けとして調達したものとしている。
- 韓国通商産業資源部(MOTIE)は2021年7月12日、韓国ガス公社(Kogas)とQatar Petroleum (QP)が、2025年から年間200万トンの20年間のLNG売買契約(SPA)を締結したと発表した。
- QPは2021年7月7日、台湾中油公司(CPC)と、2022年1月から年間125万トンのLNG供給に関する15年間のSPAを締結したことを発表した。
- Shell は2021年7月12日、中国石油(PetroChina)との間でCNLNGの5年間のSPAを締結したと発表した。業界初のCNLNGのターム契約となる。PetroChinaは同日、大連港で自社最初のCNLNGカーゴを受け入れた。
- 中国 Guangzhou Gasとbpは2021年7月9日、LNG年間65万トンについて2022年から2034年までのSPAを締結したことを発表した。
- マレーシア PETRONAS は2021年7月7日、中国海洋石油(CNOOC)子会社向けに、年間220万トン、10年間のLNG供給取引を確保したことを発表した。2020年代半ばに LNG Canada が稼働開始した際にはそこからの供給も含まれる。この取引は、ブレント、 AECO 指標混合連動となる。
- New Fortress Energyは2021年7月8日、スリランカ政府との間で、新規沖合LNG受入・貯蔵・気化基地建設に関して枠組協定を締結したと発表した。同基地はコロンボ沖に位置し、 Kerawalapitiya 発電所を中心にガスを供給する。同発電所では300 MWが稼働しており、2025年までに1,000 MWを超える見通し。同基地は同国で初めて天然ガスを導入することとなり、2022年後半稼働開始見込み。
- Chevron Australia は2021年7月19日、 Gorgon LNG にて2019年8月以降、温室効果ガス(CO2e)累計500万トンの注入を完了したと発表した。全面稼働に至れば、年間400万トン、注入プロジェクト寿命期間中に1億トン以上の注入が可能となる。 Chevron は安全にシステムを稼働させるのに時間がかかり、注入義務を未だ達成していないと述べた。
北米地域
- Cheniere Energy は2021年7月15日、カナダ最大の天然ガス生産企業 Tourmaline Oil Corporationとの間で長期ガス供給契約を締結し、Tourmaline は、2023年初より15年間にわたり日量140億Btuの天然ガスをCorpus Christi向けに販売することに合意した。このガスを液化したLNG年間85万トンはCheniere により販売され、Cheniere は Tourmaline に対して、 JKM に基づき、LNG輸送費・液化手数料を控除したLNG連動価格を支払う。
- Sempra は2021年6月30日、投資家向け説明会で、ルイジアナ州 Cameron LNG 輸出設備について、2系列・年間997万トンに代わり、1系列・年間600万トンの開発を明らかにした。最終投資決定(FID)は2022年末までになされる可能性が高い。同社はまたSaudi Aramcoとの間で、 Port Arthur プロジェクトの25%持分の移転と生産量引き取り可能性について交渉するための2019年の契約を解消することで合意したことを明らかにした。
- Nisga'a Nation、 Rockies LNG、 Western LNG は2021年7月19日、 Ksi Lisims LNG プロジェクトに関して基本計画を、カナダのブリティッシュコロンビア州政府と連邦政府に提出したことを発表した。 Ksi Lisims LNG は年間1,200万トンのLNGプロジェクトでPearse 島北端に位置する。
- Pieridae Energyは2021年7月2日、 Goldboro LNG プロジェクトへのFIDに必要な主要条件全てを6月30日までに満たすことはできなかったと発表した。同社は同プロジェクトを新たな方向に進めるとして、現在の環境により適合させるためのオプションを検討し代替案を分析する。また Foothills 資源や中流資産を、CCS・ブルー電力開発含め、操業・開発の最適化していくという。
- bpとSempra は2021年7月16日、両社初のカーボンオフセットLNGカーゴの受け渡しの契約を締結したことを発表した。このカーゴはメキシコ Energía Costa Azul基地にbpグローバルLNGポートフォリオから引き渡しされ、井戸元から荷揚げまでの推定排出量について、bpのポートフォリオからメキシコの造林プロジェクトから調達する相当量のカーボンクレジットによりオフセットされる。
欧州・ロシア地域
- オランダ Gate LNG 基地は、2021年6月30日、5月に TotalEnergiesとOMVにより購入された同基地最初のCNLNGが到着したと発表した。
その他地域
- QPは2021年6月30日、Shellとの間で中国向けLNG年間100万トン、10年間のSPAを発表した。LNGの引き渡しは2022年1月に中国の複数の基地向けに開始し、QPが100%所有するQatargas 1から供給する。今回の契約により、中国はカタールからの長期SPAにより年間1,200万トンが供給されることとなる。
- QPは2021年6月23日、 North Field Eastプロジェクトの参加入札で、パートナー候補の持分の2倍のオファーを受けていること、また年間3,200万トンの2倍に相当するオフテイク・コミットメント/SPAを得ていると述べた。QPは自社LNGの脱炭素化に着手しており、現在は年間200万トンのCO2を回収・貯蔵しているが、2030年には900万トンに拡大するとしている。
- Kosmos Energy は2021年7月6日、事業活動の報告の中で、モーリタニア・セネガル Greater Tortue Ahmeyim プロジェクトについて、コスト上昇・物資供給の遅延とまた範囲拡大のため、プロジェクトパートナー企業は見通しを修正しており、ガス生産開始は2023年第3四半期になると明らかにした。
作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所
添付ファイル
- 日本のLNG在庫量(17.0KB) (2021/7/27更新)
- 米国天然ガス地下貯蔵量(49.1KB) (2021/7/27更新)
- 欧州天然ガス地下貯蔵量(295.3KB) (2021/7/27更新)
- 欧州LNG在庫量(183.6KB) (2021/7/27更新)