2021年8月
天然ガス・LNG価格動向
直近の値動き
- 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、7月末に100万Btu当たり15米ドル台を超えて8月半ばには17米ドルに達し、15米ドル台に下落した後に月末にかけて16米ドル前後を推移している。中国を中心に北東アジア地域でのLNG需要が引き続き堅調であること、また世界的にガス価格が高値傾向であることがJKMの上昇要因となっている。
- JOGMECは7月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、7月に契約がなされて同月以降に日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を12.2米ドル(6月は9.7米ドル)と発表した。同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は11.6米ドル(6月は報告者が1社以下のため非公表)となった。
- 米国スポットガス価格HHは、7月下旬に4米ドルに達し、8月上旬には一時的に4.1米ドル台まで上昇した後、月末にかけて3米ドル後半を推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、価格見通しを2021年第3四半期は3.71米ドル、年全体では3.42米ドルと予測しており、前年の平均価格2.03米ドルを大きく上回るとしている。価格上昇要因として、米国産LNG輸出量の拡大と国内での経済活動再開に伴うガス消費量の増加を挙げている。2022年は天然ガス生産量が増加し、平均価格は3.08米ドルと予測している。
- 欧州ガススポット価格TTFは、7月末に14米ドルに達し、8月半ばには16米ドルを上回った後に一時13米ドルまで下落、月末にかけては15米ドル前後で推移している。夏季に入っても高値が続く要因として、地下貯蔵へのガス充填が遅れていること、ノルウェーガス田のメンテナンスやロシアからのパイプラインガス供給懸念などが影響しているとみられている。
- 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年7月の日本平均LNG輸入価格は9.69米ドルであった。供給地域別では、ASEAN地域産が9.53米ドル、米国産は10.69米ドル、ロシア産が9.84米ドル、中東産が9.53米ドルであった。また、7月のアジア各国の平均輸入価格は、中国9.61米ドル、韓国9.59米ドル、台湾9.17米ドルであった。6月以降原油価格は1バレル当たり70米ドルを超えて推移したが、8月に入り原油価格は下落に転じており、この値動きが日本平均LNG輸入価格にも時間差で反映されると想定される。
- 7月の日本のLNG輸入量は、619万トンと前年同月比で3%増加し、1月から7月までのLNG輸入量合計は4,508万トンと前年同期比で6%増加した。中国のLNG輸入量は567万トンと前年同月比で14%増加、韓国は404万トンと前年同月比で71%増加、台湾は162万トンと前年同月比13%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月比を上回っており、上半期の累計で1億2,857万トンと前年同期比15%増加となった。
中長期の値動き
- JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、8月に17米ドルまで一時上昇した。
- 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格の回復に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落、4月は7米ドル後半、5月は8米ドル前半、6月は9米ドル前半、そして7月は9米ドル後半へと上昇して推移している。
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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange
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天然ガス・LNG在庫動向
日本
- 2021年4月末の国内LNG在庫量は425万tで、前月比4.0%、18万tの減少、前年同月比10.3%の減少となったが、3か月連続で過去5年平均値を上回った。発電燃料用LNG在庫では2020年12月以降前年同期を上回る受入量が続いていたが、4月の受入量は前月比で36.4%減少した。また、ガス事業用LNG在庫は2020年9月から8か月連続で前年同月比2桁の減少が継続しており、2018年以来の低水準となっている。
- 4月末のガス事業用LNG在庫量は164万tで、前月比14.8%増、前年同月比では26.6%の減少となった。4月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比3.4%増の235万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比13.1%増の256万tだった。
- 4月末の発電燃料用LNG在庫量は262万tで前月比13.0%減、前年同月比4.1%の増加となった。4月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で4.2%増の298万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で11.7%減の290万tであった。
(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。
米国
- 2021年8月13日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、EIAのデータによると、2.82 Tcfで前月比5.4%増となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると16.4%低く、過去5年平均値を174 Bcf下回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
- EIAが2021年8月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、7月末の在庫は2.8 Tcfで、過去5年間平均より6.0%下回った。2月中旬の異常寒波とガス生産が制約されたことで冬期の地下貯蔵からの天然ガス払い出し量は過去5年間の平均を上回った。EIAは貯蔵シーズンが終わる10月末には在庫量は3.6 Tcfで過去5年平均水準を4%下回ると予測している。
(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成
欧州
- 2021年8月18日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中の欧州連合(EU)・英国各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は694 TWhであった。在庫量は前月比において21.2%増だが、前年同期比では30.1%減少しており、同時期の過去5年平均値よりも177.4 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は62.4%であり、前年同期の89.5%より低く、さらに過去5年間平均値である73.1%を下回っている。
- 2021年8月18日現在のウクライナが有する天然ガス地下貯蔵在庫は133 TWhであった。在庫量は前月比において7.6%増、前年同期比では47.5%減少し、同時期の過去5年平均値よりも38.8 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は41.9%であり、前年同期の78.7%より低く、さらに過去5年間平均値である52.5%を下回っている。
(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。
- 2021年8月18日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は393万m3(液体ベース)で、前月比10.4%減少、前年同期比18.6%減、過去5年平均値を10.8%下回っている。特に、2021年8月9日以降、LNG在庫量は過去5年間の最小値を下回っていたが、8月18日に過去5年間の最小値より3.2%高い水準となった。在庫量の減少が大きかったのはスペインとフランスだった。
(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。
天然ガス・LNGプロジェクト動向
ハイライト
- 米国のLNG生産プロジェクトから年間800万トン分の複数のLNG引き取り契約と基本合意が発表され、オセアニア地域では豪州ガス・石油生産大手企業の合併やガス・石油アセットの統合、プロジェクトのエンジニアリング進展の発表があった。
アジア・オセアニア地域
- 商船三井は2021年8月17日、韓国の大宇造船海洋(DSME)とFSRU向けに共同開発中の「Cryo-Powered Regas(再ガス冷熱発電)」システムについて、DSME玉浦造船所での実証試験に成功したことを発表した。LNGを気化する際にこれまで海水に排出していた冷熱を低沸点の熱媒体に移し、温度差だけで発生する熱媒体の蒸気を利用してタービンを回し発電して利用することでFSRUからのCO2排出量を削減することが可能となる。
- マレーシア PETRONAS は2021年8月18日、自社初のカーボンニュートラルLNGカーゴをBintuluのPETRONAS LNG 設備(PLC)から、四国電力の坂出LNG基地に17日に引き渡したと発表した。PETRONAS は、当該LNGカーゴの上流から海上輸送までにかかるカーボンフットプリントをVerified Carbon Standardを通じて認証されたカーボンクレジットにより相殺する。PETRONAS はまた自社LNG・ガスバリューチェーンを通じて90 MW水力発電によるPLCへの電力供給、フレア回収、沖合ガス田でのCCS等によりカーボンフットプリントを削減している。
- Eni は2021年8月6日、台湾CPCとの間でBontang LNG 設備から調達したカーボンニュートラルLNGカーゴをCPC向けにYung-An LNG基地で引き渡すことで合意したと発表した。このGHG排出量はEni独自の手法により計算され、相殺するために使われるクレジットはザンビアとマラウィの森林・環境改善プロジェクトより調達される。
- 豪 Woodside は2021年8月4日、 Scarborough 開発への実施準備に向けた技術作業を完了し、資本的支出必要額の積算を完了したと発表した。最新のコスト見積は、2019年11月に発表した前回より5%高い120億米ドル(権益100%換算、名目値)で、海上要素57億米ドル、陸上要素63億米ドル。統合型 Scarborough・Pluto 第2系列開発では、2026年に初カーゴを出荷することを目標としている。
- WoodsideとBHPは2021年8月17日、ガス・石油ポートフォリオを統合する基本合意に達したことを発表した。これにより、豪州証券取引所に上場する最大のエネルギー企業となり、LNG生産量では世界で上位10社に入ることになる。
- 豪 Santos は2021年8月2日、 Oil Search との間で、両社合併案における合併比率とその他諸条件に合意したと発表した。 Oil Searchの株主は合併後のグループの38.5%株式を所有することとなる。
- INPEXは2021年8月11日、インドネシアのAbadi LNGプロジェクトについて、新型コロナウィルス感染拡⼤の影響により、LNGプラント建設予定地及びその周辺における詳細な調査作業を中断したと発表した。今後はCCS/CCUSの導⼊など外部環境の変化に合わせてプロジェクトの実現方法について検討予定であると述べた。
北米地域
- Cheniere は2021年8月5日、 Sabine Pass 第6系列を2022年に稼働を開始すると発表した。同系列は90%完成しており、2021年7月に早期試運転活動を開始している。Cheniere は Corpus Christi LNG のステージ3の拡張計画について2022年にFIDを行う予定としている。
- Cheniere は2021年8月5日、GHG排出量評価を改善するLNGライフサイクルアセスメント(LCA)スタディを発表した。この分析では、天然ガス生産からLNG出荷まで、 Cheniere のLNGサプライチェーンに特化したGHG排出データを活用しており、一般的な国や地域のデータを使用して米国のLNG排出量を評価する他の研究に比べてCheniere のGHG強度が30%から43%低く算定されている。Cheniere LCA は、 Cheniereのカーゴ・エミッション・タグ(CEタグ)に記載されるGHG排出量を推定するための基本的な分析ツールとなる予定である。
- Tellurianは2021年7月29日、 Shell との間で複数のSPAを締結したことを発表した。 Driftwood LNG についてFOB条件で10年間にわたり年間300万トンをJKM・TTF混合連動、輸送費ネットバック方式で販売する。本件は Tellurian がこの10週間で締結した3件目の契約となり、合計年間900万トン分とDriftwood LNG 最初の2つの設備のほぼ全容量に相当する。
- ポーランド PGNiG は2021年7月27日、米 Venture Global Calcasieu Pass, LLCおよびVenture Global Plaquemines, LLC との間で、年間200万トンのLNGを20年間にわたり購入する契約を締結したことを発表した。これによりPGNiG がVenture Global LNG から購入するLNGは合計年間550万トン、建設中の Calcasieu Pass 設備から150万トン、計画中の Plaquemines プロジェクトから400万トン、いずれもFOB条件となる。 Calcasieu Pass からの引き渡しは2023年初に見込まれている。
- PGNiGと米 Sempra は2021年7月27日、 Port Arthur LNG プロジェクトからの年間200万トンのLNG供給に関するSPAを開発遅延により打ち切ったことを発表した。両社は、Sempraの北米の他のプロジェクトのポートフォリオから年間200万トンのLNGを代替供給する可能性にかかるMOUを締結した。
- バングラデシュSummit Oil and Shipping Co. Ltd.(SOSCL)は2021年8月2日、米 Commonwealth LNG との間で、バングラデシュを含むアジア向けにLNG供給を共同で行うためのMOUを締結したことを発表した。本MOUでは、Commonwealth がルイジアナ州キャメロンで開発する年間840万トンのLNG設備からSOSCLが年間100万トンのLNGを最長20年の期間で引き取る可能性を含んでいる。
- カナダ Irving Oil は2021年8月3日、 Canaport LNG の25%持分をRepsol に譲渡したことを発表した。
- Sempra は2021年8月5日の第2四半期決算報告会において、 Energía Costa Azul (ECA) LNG 輸出プロジェクトは2024年後半に稼働する見込みであると述べた。
その他地域
- 米New Fortress Energyは2021年8月11日、 Unigel Participações との間で、ブラジルのバイア州 Unigel Agro-BA、セルジッペ州 Unigel Agro-SE 肥料工場に天然ガスを供給する2本の契約を締結したことを発表した。2022年第1四半期より5年間、最大年間 41 TBtu (LNG換算80万トン)を供給する。
作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所
添付ファイル
- 日本のLNG在庫量(17.0KB) (2021/8/20更新)
- 米国天然ガス地下貯蔵量(49.7KB) (2021/8/20更新)
- 欧州天然ガス地下貯蔵量(299.2KB) (2021/8/20更新)
- 欧州LNG在庫量(186.0KB) (2021/8/20更新)