2021年9月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、8月末には100万Btu当たり18米ドル台に達した後に、9月上旬には20米ドル台に上昇、一時28米ドルを上回り、月末にかけて26米ドル前後を推移している。中国、韓国を中心とした北東アジア地域や欧州地域においてLNG需要が高まり続けており、欧州ガス価格が高騰していることや米国でのハリケーンIda、Nicholas上陸によるLNG供給障害などがJKM高騰の要因となっている。
  • JOGMECによる8月の日本着スポットLNG月次価格(速報)は、8月に契約がなされて同月以降に日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)と、同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は、共に報告者が1社以下のため非公表となった。
  • 米国スポットガス価格HHは、8月下旬に4米ドルに達し、9月上旬に5米ドル台まで上昇した後、月末にかけて5米ドル前後を推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、8月の平均価格は2010年以来の高水準となり、価格上昇要因として、猛暑による発電用ガス需要の増加、アジア向けを中心とした米国産LNG輸出量の拡大、ハリケーンIdaによるメキシコ湾地域の天然ガス生産が9割以上停止したことを挙げている。価格見通しについては、2021年第4四半期は平均4.00米ドル、年間平均3.47米ドルと予測している。また、今後、天然ガス価格の上昇のため火力発電燃料が石炭に切り替わり、天然ガス消費量が抑制されるとしている。
  • 欧州ガススポット価格TTFは、8月末に17米ドルに達し、9月下旬には25米ドルを上回った後、24米ドル前後で推移している。特に7月最終週以降は、欧州スポットガス価格は一貫してブレント原油を上回る水準にあり、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給に支障が生じた2005年冬季と2008年冬季以来の高値となっている。高値の要因として、地下貯蔵へのガス充填が遅れていること、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給量の減少、Nord Stream2パイプラインの商業運転開始遅延への供給懸念などが挙げられる。また、炭素市場での排出権価格が70米ドル前後で取引されるなど、石炭火力発電をさらに不利にしており、欧州ガス価格を押し上げているとみられる。
  • 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年8月の日本平均LNG輸入価格は10.12米ドルであった。供給地域別では、米国産は10.65米ドル、ASEAN地域産が9.96米ドル、中東産が9.99米ドル、ロシア産が11.61米ドルであった。また、8月のアジア各国の平均輸入価格は、中国10.55米ドル、韓国10.31米ドル、台湾9.67米ドルであった。世界的な原油高に伴って、全日本平均原油輸入CIF価格(JCC: Japan crude cocktail)は、2020年11月の1バレル当たり42.28米ドルから上昇に転じ、2021年8月には73.76米ドルと上昇していることから、原油価格リンクの長期契約が大部分を占める日本平均LNG輸入価格は、今後も堅調に推移すると想定される。
  • 8月の日本のLNG輸入量は、630万トンと前年同月比で8%増加し、1月から8月までのLNG輸入量合計は5,138万トンと前年同期比で6%増加した。中国のLNG輸入量は665万トンと前年同月比で13%増加、1月から8月までのLNG輸入量合計は、5,181万トンと前年同期比で23%増加し、日本の輸入量を上回っている。韓国は348万トンと前年同月比で78%増加、台湾は172万トンと前年同月比15%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月比を上回っており、上半期の累計で1億4,660万トンと前年同期比15%増加となった。

天然ガス・LNG価格推移(直近2年)

中長期の値動き

  • JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、9月に28米ドルまで一時上昇した。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格の回復に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落、4月は7米ドル後半、5月は8米ドル前半、6月は9米ドル前半、7月は9米ドル後半、そして8月は2年振りに10米ドルを超えた。

天然ガス・LNG価格推移(直近10年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2021年5月末の国内LNG在庫量は420万tで、前月比1.2%、5万tの減少、前年同月比17.6%の減少、過去5年平均値を19万t下回っているが、過去5年変動幅の範囲内に収まっている。
  • 5月末のガス事業用LNG在庫量は171万tで、前月比4.3%増、前年同月比では26.3%の減少となった。5月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比27.7%増の225万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比25.4%増の232万tだった。ガス事業用LNG在庫は2020年9月以降、9か月連続にて前年同月比2桁以上の減少が継続しており、2018年以来の低水準となっている。
  • 5月末の発電燃料用LNG在庫量は249万tで前月比4.7%減、前年同月比10.4%の減少となった。5月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で7.1%増の279万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で6.4%増の296万tであった。

国内LNG月末在庫量(直近2年)

国内LNG月末在庫(直近10年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。


米国

  • 2021年9月17日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、3.08 Tcfで前月比8.1%増となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると16.3%低く、過去5年平均値を229 Bcf下回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
  • EIAが2021年9月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、8月末の在庫は2.9 Tcfで、過去5年間平均より7.0%下回り、2018年11月以来の最大の前年比減(-584 Bcf)となった。2020年~2021年冬季の暖房シーズンにおける貯蔵設備からの払い出し量が平均以上となった一方で、天然ガス生産量が比較的フラットの中で猛暑や輸出量が増加したことにより、今夏の注入量が平均以下となったことが要因となっている。EIAは貯蔵シーズンが終わる10月末には在庫量は3.6 Tcfに達するものの、過去5年平均水準を5%下回ると予測している。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2021年9月23日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社(欧州連合(EU)加盟国各社、英国)が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は807.3 TWhであった。在庫量は前月比12.0%増加、前年同期比では23.0%減少し、同時期の過去5年平均値よりも158.7TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は72.8%で前年同期の94.4%より低く、さらに過去5年間平均値である83.9%を下回っている。特に貯蔵容量の大きなドイツ、オランダの充填率が64.9%、55.2%と低い。両国を除く欧州ベースで集計すると、充填率は、78.6%であり、2017年同期80.2%、2018年同期79.5%とほぼ同水準である。
  • 2021年9月23日現在のウクライナが有する天然ガス地下貯蔵在庫は144.2 TWhであった。在庫量は前月比において6.8%増加、前年同期比では39.8%減少し、同時期の過去5年平均値よりも44.4TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は45.3%であり、前年同期の74.2%より低く、さらに過去5年間平均値である57.5%を下回っている。

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。

 

  • 2021年9月23日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は464万m3(液体ベース)で、前月比14.6%増加、前年同期比12.3%減、過去5年平均値7.4%下回っている。

欧州LNG在庫量(直近2年)

欧州LNG在庫量(直近10年)

(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


天然ガス・LNGプロジェクト動向

ハイライト

  • LNGプロジェクトのクリーン性を向上する動きが活発化している。インドネシア Tangguh LNG プロジェクトでのCCUS事業を含む開発計画、Bayu-Undan プロジェクトにおけるCCS計画の可能性などである。カーボンニュートラルLNGやカーボン/GHGオフセットのLNG取引の発表もさらに続いた。

 

アジア・オセアニア地域

  • bp Singapore は2021年9月6日、台湾CPC永安基地にbp LNGポートフォリオから調達したカーボンオフセットLNGカーゴを引き渡したと発表した。アジア太平洋地域でbp初のカーボンオフセットLNG引き渡しであり、7月のメキシコ Energía Costa Azul 基地での Sempra LNG 向けで自社世界初の引き渡しに続くものである。
  • Tangguh LNG 事業に携わる企業連合は2021年8月30日、CCUS事業を含む開発計画について SKK Migas (インドネシア石油ガス上流事業監督執行機関)の承認を得たと発表した。計画には、新規Ubadari ガス田開発のほか、生産中の Vorwata ガス田におけるCCUS技術の適用によるCO2排出量の削減および天然ガス生産効率向上・増産事業が含まれる。天然ガス生産に伴い排出されるCO2を累計で2,500万トン回収し、 Vorwata ガス田に再圧入・貯留することで、CO2の排出削減と同時に天然ガスの生産効率向上・増産を図る(CO2-EGR)。この結果、プロジェクト全体のCO2排出量が約半分に削減される。2022年半ば以降に基本設計(FEED)を開始し、最終投資決定(FID)を実施すれば、2026年から天然ガス生産とCCUS事業を開始できる見込み。
  • インドネシア Pertamina は2021年8月31日、子会社が TotalEnergies との間で、 Arun LNG Hub の2021年分利用にかかる基地利用契約を締結したことを発表した。 TotalEnergies はArun LNG Hubを使用して海外からのLNGを貯蔵する計画である。 Arun Hub は4タンクの容量合計508,000 m3を持つ。アンゴラからの最初のカーゴが9月初旬に見込まれている。
  • INPEX は2021年9月13日、Ichthys LNGプロジェクトから東邦ガス向けに供給されるLNGについてカーボンニュートラルアレンジメントを行ったことを発表した。
  • 静岡ガス、INPEXは2021年9月1日、両社間のカーボンニュートラルLNGの引き渡しを発表した。天然ガスの採掘から液化、輸送、再気化、国内顧客による燃焼に至るまでの全ての工程で発生する温室効果ガスに対して、INPEXがカーボンクレジットを用いたオフセットを行って供給する。
  • ティモール海 Bayu-Undan 合弁事業のオペレーター Santos は、2021年9月14日、ティモールレステ規制機関ANPMと、Bayu-Undan でのCCS共同研究に基本合意(MOU)したことを発表した。同合弁事業者とANPMは、既存の Bayu-Undan 施設を再利用し、Bayu-Undan 貯留層のCCS転用可能性に関して検討する。

 

北米地域

  • 米 Venture Global LNGとポーランドPGNiGは2021年9月2日、 Venture Global からPGNiGへ年間200万トンのLNGを20年間追加販売するLNG販売契約を最終決定したことを発表した。カーゴは Venture Global の Calcasieu Pass LNG とPlaquemines LNG 輸出設備から供給される。

 

その他地域

  • 商船三井は2021年9月2日、ロシア国営リース会社 State Transport Leasing Company (GTLK)と、ロシア・カムチャッカとムルマンスクでのLNG積替基地案件に関し、現在GTLKが100%出資するFSU保有会社に49%出資参画する方針について基本合意を締結したことを発表した。当該FSU保有会社は、 NOVATEK が主導するLNGプロジェクト向けに、砕氷LNG船から在来型LNG船への積替事業を提供する Arctic Transshipment LLC (NOVATEKとTotalEnergiesの合弁会社) との間で裸傭船契約を締結済である。本プロジェクトでは、カムチャッカ半島のベチェビンスカヤ湾とムルマンスクのウラ湾に、360,000 m3の再液化装置付FSUをLNG積替基地としてそれぞれ設置する。この2隻のFSUは韓国の大宇造船海洋株式会社にて建造されている。
  • NOVATEK は2021年9月8日、子会社 Yamal LNG Resource が、ヤマルネネツ自治区ヤマル半島 ArkticheskoyeとNeytinskoyeの両ガス田を含む2件の地下資源地質調査・探査・生産ライセンスを競争入札で獲得したことを発表した。両ガス田の炭化水素埋蔵量は、ロシアの炭化水素等級システムに基づき、原油換算29億バレル相当、このうち天然ガス413Bcm、液体2,800万トンとなる。ライセンス期間は27年間としている。
  • Gazprom は2021年9月9日、 RusKhimAlyans社、 Linde社、 Renaissance Heavy Industries社の3社が、Ust-Luga 近くのガス処理設備に液化設備を建設するためのEPC契約を締結したことを発表した。 Linde社と Renaissance Heavy Industries 社の企業連合が、LNG生産能力年間1,300万トン分の2系列、設計、資機材の供給、建設を実施する。ロシア特許技術がこのLNG生産に用いられることとなる。
  • Gazprom は2021年9月10日、 Nord Stream2ガスパイプラインの建設が完了したと発表した。ドイツ規制機関 Bundesnetzagentur は13日に同パイプライン許可手続き完了に4ヶ月間を要すると述べた。
  • ノルウェー Equinor は2021年8月30日、北海 Troll 第3段階プロジェクトから27日に生産開始されたことを発表した。新規の生産井はTroll A プラットフォームに連結され、 Troll 第3段階は同プラットフォームの寿命を2050年以降に延長することとなる。

 

 

作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所

 

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