2021年10月
天然ガス・LNG価格動向
直近の値動き
- 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、9月末には100万Btu当たり30米ドル台に達した後に、10月上旬には欧州ガス価格に反応して一時56米ドルまで急騰したが、翌日には35米ドルまで下落、月末にかけて35米ドルを下回って推移している。冬季に向けて北東アジア地域や欧州地域など世界的に天然ガス・LNG需要が高まっていることに加えて、欧州の再生可能エネルギー由来の電力不足やロシアガスパイプライン懸念なども重なり、欧州ガス価格が押し上げられたことがJKM高騰の要因となっている。
- JOGMECは9月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、9月に契約がなされて同月以降に日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を21.6米ドルと発表した。同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は、報告者が1社以下のため非公表となった。
- 米国スポットガス価格HHは、9月下旬に5.8米ドルに達し、10月上旬に6.3米ドル台まで上昇した後、月末にかけて5米ドル前後を推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、価格上昇要因として、9月のLNG輸出量が2016年2月の輸出開始以来の最大量を記録したこと、2022年1月まで天然ガス生産量が横ばいで推移すること、欧米の天然ガス低在庫や冬期の需要増加を挙げている。価格見通しについては、2021年第4四半期は平均5.80米ドル(前月予想4.00米ドル)、年間平均4.01米ドル(同3.47米ドル)としており、先月から予測を上方修正している。またEIAは、天然ガス価格高騰により、相対的に価格が安定している石炭火力の優位性が向上し、2021年の石炭火力発電量を前年比で22%増と見込んでおり、米国の石炭火力発電量が2014年以来で初めて、前年比で増加に転じると予測した。
- 欧州ガススポット価格TTFは、9月末に32米ドルに達し、10月上旬には一時38米ドルに達した後(同日の日中には一時54米ドルまで急騰、これにJKMも追随し最高値56米ドルを記録した。)、月末にかけて30米ドル前後で推移している。価格高騰の要因として、欧州域内に寒冷な気候の到来が予想され需要が高まる一方で、英国などの風力発電量が限定的となり、電力不足の懸念が高まったことが挙げられる。加えて、地下貯蔵へのガス充填が遅れていること、炭素価格の上昇、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給量の減少、9月に完成したNord Stream2パイプラインがドイツ規制当局と欧州連合による商業運転開始の承認に時間を要することによる供給懸念などが要因として挙げられる。
- 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年9月の日本平均LNG輸入価格は10.75米ドルとなり、北東アジア地域で最も安くなった。供給地域別では、米国産は11.19米ドル、ASEAN地域産が10.81米ドル、中東産が10.45米ドル、ロシア産が11.38米ドルであった。また、9月のアジア各国の平均輸入価格は、中国11.61米ドル、韓国11.00米ドル、台湾11.13米ドルであった。世界的な原油高に伴って、全日本平均原油輸入CIF価格(JCC: Japan crude cocktail)は、2020年11月の1バレル当たり42.28米ドルから上昇に転じ、2021年9月には73.82米ドルと、3年振りの高値を記録している。原油価格リンクの長期契約が大部分を占める日本平均LNG輸入価格は、今後も堅調に推移すると想定される。
- 9月の日本のLNG輸入量は、541万トンと前年同月比で17%減少し、1月から9月までのLNG輸入量合計は5,679万トンと前年同期比で4%増加した。中国のLNG輸入量は675万トンと前年同月比で19%増加、1月から9月までのLNG輸入量合計は、5,848万トンと前年同期比で23%増加し、日本の輸入量を上回っている。韓国は372万トンと前年同月比で27%増加、台湾は175万トンと前年同月比8%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月比を上回っており、上半期の累計で1億6,415万トンと前年同期比14%増加となった。
中長期の値動き
- JKMは2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、10月に56米ドルまで一時上昇した。
- 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格の回復に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落した。その後は、原油価格の上昇に伴って回復し、8月は10米ドル前半、そして9月は2年半振りに10米ドル後半の高値を付けている。
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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange
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天然ガス・LNG在庫動向
日本
- 2021年6月末の国内LNG在庫量は455万tで、前月比8.3%、35万tの増加、前年同月比7.3%の減少、過去5年平均値を35万t上回っているが、過去5年変動幅の範囲内に収まっている。
- 6月末のガス事業用LNG在庫量は188万tで、前月比10.5%増、前年同月比では13.4%の減少となった。6月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比2.5%増の222万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比18.6%増の240万tだった。ガス事業用LNG在庫は2020年9月以降、10か月連続で前年同月比2桁以上の減少が継続しており、2018年以来の低水準となっている。
- 6月末の発電燃料用LNG在庫量は266万tで前月比6.7%増、前年同月比2.4%の減少となった。6月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で0.8%増の333万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で4.3%増の365万tであった。
- 2021年10月21日に開催された「電力・ガス需給と燃料(LNG)調達に関する官民連絡会議」で提示された情報によると、大手電力会社の10月半ば時点のLNG在庫は過去5年間で最高水準であり、前年同期と比べ約70万トン増となっている。
(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。
米国
- 2021年10月15日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、3.46 Tcfで前月比12.3%増となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると11.8%低く、過去5年平均値を151 Bcf下回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
- EIAが2021年10月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、9月末の在庫は3.3 Tcfで、過去5年間平均より5.0%下回り、2018年11月以来の最大の前年比減(-584 Bcf)となった。天然ガス生産量が比較的フラットの中で猛暑や輸出量が増加したことにより、今夏の注入量が平均以下となったことが要因となっている。EIAは貯蔵シーズンが終わる10月末には在庫量は3.6 Tcfに達するものの、過去5年平均水準を5%下回ると予測している。また、在庫量は2021年 - 2022年の冬季に2.1 Tcf減少、2022年3月に過去5年平均水準を12%下回る1.5 Tcf未満で終了すると予測している。
(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成
欧州
- 2021年10月20日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社(欧州連合(EU)加盟国各社、英国)が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は855.4 TWhであった。在庫の充填期間が終盤となる中、在庫量は前月比7.0%増加、前年同期比では18.9%低く、同時期の過去5年平均値よりも147.0 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は77.4%で前年同期の94.6%より低く、さらに過去5年間平均値である88.3%を下回っている。特に貯蔵容量の大きなドイツ、オランダの充填率が71.0%、61.5%と低く、両国を除く欧州ベースで集計すると、充填率は、82.5%であり、2017年、2018年同期84.8%とほぼ同水準である。
- 2021年10月20日現在のウクライナが有する天然ガス地下貯蔵在庫は142.9 TWhであった。在庫量は前月比において0.4%減少、前年同期比では39.8%減少し、同時期の過去5年平均値よりも56.3 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は44.9%であり、前年同期の77.3%より低く、さらに過去5年間平均値である60.8%を下回っている。
(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。
- 2021年10月20日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は589万m3(液体ベース)で、前月比34.3%増加、前年同期比36.3%増加、過去5年平均値12.2%上回っている。
(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。
天然ガス・LNGプロジェクト動向
ハイライト
- 2021年1-9月の世界のLNG貿易量は、2.77億トンと前年同期比4.6%、1,200万トン強の堅調な増加となった。輸入国の中では、中国のLNG輸入量が前年同期比で1,100万トンと大幅に増加した。輸出国としては、豪州、カタールの各5,800万トンに対し、米国が前年同期比60%、1,900万トン増加して5,000万トンとなった。プロジェクト投資活動では、モザンビークLNGプロジェクト建設の遅延が確認された。一方 LNG Canada では、建設作業の進捗はみられたものの、液化プラントにガスを供給するパイプライン建設の遅延性が懸念されている。
アジア・オセアニア地域
- ロシア Sakhalin Energy は2021年9月28日、自社と東邦ガスが Sakhalin-2 プロジェクトから東邦ガス向けの最初のカーボンニュートラル/オフセットLNGカーゴの引き渡しに合意したことを発表した。
- 石油資源開発株式会社(JAPEX)は、自社として初のカーボンニュートラルLNGを10月7日に相馬LNG基地で受け入れたことを発表した。三菱商事子会社ダイアモンド・ガス・インターナショナル社から購入した。都市ガス会社など6社への販売を予定している。
- INPEXと九州電力は2021年10月19日、タイPTTの100%子会社 PTT International Trading Pte Ltd と、LNG調達・融通に係る協業に関する覚書を締結したことを発表した。
- bpは、2021年10月20日、中国Shenzhen Sino-Benny LPG Co Ltdとの間で、中国の国内ガス市場で国際LNGに価格連動する初の長期ガス売買契約を締結したことを発表した。2023年からShenzhen Gas Group子会社であるShenzhen Sino-Bennyにパイプラインガス最大年間30万トンを供給する。このガスはGuangdong Dapeng LNG基地を通じて供給される。
- Cheniere Energy は2021年10月11日、 Cheniere Marketing, LLC が、中国ENN Natural Gas Co., Ltd.の子会社 ENN LNG (Singapore) とLNG売買契約(SPA)を締結したことを発表した。 ENN LNG は、2022年7月から13年間にわたり、FOB条件で年間90万トンを購入することに合意した。購入価格は、ヘンリーハブ価格連動に固定の液化手数料が加算される。
- JERAは2021年9月27日、フィリピン大手電力会社 Aboitiz Power Corporation の発行済み株式の約27%を取得するため、同社の親会社との間で、株式売買契約を締結したことを発表した。JERAは今後、 Aboitiz Power との間で、LNG to Powerプロジェクトの共同開発や、火力発電所における技術協力を進めていくことに合意しており、LNG調達の協業に関するMOUを締結したことも明らかにした。
- マレーシア PETRONAS は2021年9月30日、中国Shenergyとの間で、サラワク州ビンツル PETRONAS LNG Complex (PLC)設備から、カーボンニュートラルLNGカーゴ3隻引き渡しの契約を締結したことを発表した。 PETRONAS による中国向け初のカーボンニュートラルLNG引き渡しで、Shenergy上海基地向けに、2021年10月から2022年3月の間に引き渡されることとなる。
- マレーシアPETRONAS は2021年9月29日、ビンツルの PETRONAS LNG Complex (PLC)で28日午後4.15頃火災があったことを発表した。
- 豪州 Beach Energy は2021年9月27日、 Waitsia ガスプロジェクト第2段階での2023年後半開始見込みの自社生産量LNG375万トンに関して、bpが全量を購入する基本合意(HOA)を締結したことを発表した。
- Santos はMoomba CCS プロジェクトをクリーンエネルギー規制機関に登録し、豪州炭素クレジットユニット(ACCUs)を獲得する手続きを開始すると発表した。同プロジェクトは二酸化炭素年間170万トンを、従来石油・ガスを維持していた同じ貯留層に貯蔵することとなる。
北米地域
- 米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は2021年10月21日、 Sabine Pass及び Corpus Christi LNG 設備の液化能力について、実績を反映して、新規設備や建設活動を伴うことなく、合計年間543万トンの能力拡大を承認する指令を発行した。
- 米 Venture Global LNG は2021年10月1日、自社 のPlaquemines LNG が、中国Sinopecと締結した2件の長期LNGオフテイク契約を連邦エネルギー省に提出したと述べた。当該契約は20年間にわたり年間280万トンと120万トンを供給するもの。
- LNG Canada社は2021年10月6日、プロジェクト全体での作業が50%完了を超えたことを発表し、同LNGプロジェクトと接続する Coastal GasLink パイプライン完成に向けてTC Energy社が開示したコスト超過、日程遅延に関して引き続き懸念していると述べた。
欧州・ロシア地域
- Gazprom は2021年10月7日、 Linde社、 RusKhimAlyans社との間で覚書を締結し、Ust-Luga 近くのガス処理設備(エタン含有量の多いガスを処理する設備(CPECG)の一部)の一環としてのLNG生産設備第3生産系列建設可能性を検討すると発表した。
- 日本郵船は2021年10月4日、ロシアの大手海運会社 Sovcomflot との合弁会社を通して、 Novatek Gas & Power Asia Pte. Limited と新造LNG運搬船4隻の長期定期傭船契約を9月29日に締結したことを発表した。本船は韓国のサムスン重工業株式会社(SHI)で建造され、2023年から2024年にかけて順次竣工する予定。
- Nord Stream 2 社は2021年10月18日、 Nord Stream 2 パイプライン第1線へのガス充填作業が完了したと発表した。
その他地域
- カタール Qatar Petroleum (QP)は2021年10月11日、自社名を QatarEnergyに変更し、新たなスローガンとして「あなたのエネルギートランジッションパートナー」と発表した。
- カタール Qatargas は2021年10月17日、ラスラファン工業都市で新たにLNGメガトレイン4系列建設を開始したとツイートした。
- QP、中国CNOOCは2021年9月29日、LNG年間350万トン、2022年1月より15年間のSPAを締結したことを発表した。
- QPは2021年10月3日、新造LNG輸送船舶4隻を、中国船舶工業集団(CSSC)子会社の沪東中華造船(Hudong)に発注したことを発表した。 North Field 拡張プロジェクト用の将来のLNG船団需要と既存船舶の代替需要に対応するもので、QPのLNG造船プログラム発注の第1弾となる。QP及び関連企業が中国の造船所にLNG輸送船舶を発注するのは初めてで、2020年4月に締結した造船能力の確保に関する契約の合意からHudongへ初めての発注となる。
- TotalEnergies は2021年9月28日に戦略見通しの発表の中で Mozambique LNG 生産プロジェクトについて2年延期させ、生産開始は2026年の見通しとなることを示した。プロジェクト活動の再開は2022年を予定している。
- Höegh LNG Partners LP は2021年9月24日、 New Fortress Energy (NFE)との間で、 Höegh Gallant をFSRU運転向けに10年間傭船する契約を締結し、2021年第4四半期から操業を開始する予定であると発表した。
作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所
添付ファイル
- 日本のLNG在庫量(17.4KB) (2021/10/20更新)
- 米国天然ガス地下貯蔵量(50.5KB) (2021/10/20更新)
- 欧州天然ガス地下貯蔵量(305.7KB) (2021/10/20更新)
- 欧州LNG在庫量(190.0KB) (2021/10/20更新)