2021年11月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、10月末には100万Btu当たり30米ドル前半で推移した後に、欧州ガス価格の値動きに連動して11月上旬には20米ドル後半まで下落、月半ばから再び上昇し、月末にかけて30米ドル半ばを推移している。冬季に向けて北東アジア地域や欧州地域など世界的な需要の高まりに加えて、マレーシアにおける生産障害等への供給懸念もJKM高騰の要因となっている。
  • JOGMECは10月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、10月に契約がなされた同月以降に日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を26.5米ドルと発表した。同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は、報告者が1社以下のため非公表となった。
  • 米国スポットガス価格HHは、10月下旬に6.2米ドルに達し、11月上旬には4.7米ドル台まで下落した後、月末にかけて5米ドル前後を推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、価格高止まりの要因として、ガス在庫量が過去5年平均を下回る低水準にあることを挙げ、国内の発電需要とLNG輸出の増加が価格を下支えしているとしている。価格見通しについては、2021年11月から翌年2月までは平均5.53米ドルで、その後は米国の天然ガス生産量が増加し、LNG輸出は季節的な需要が限定的になることで、2022年の年間平均3.93米ドルまで下落すると予想している。
  • 欧州ガススポット価格TTFは、10月末に31米ドル台から22ドル台に下落し、11月上旬は25米ドル以下で推移した後再び上昇し、月末にかけて30米ドル前後で推移している。価格変動の要因として、10月末にロシア大統領が自国から欧州へのガス供給量の増加を指示したことで一時的にガス価格は下落したものの、低水準の欧州ガス貯蔵量、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給量の低迷、そしてドイツ規制当局による Nord Stream 2 パイプラインの承認手続きの一時停止などから、再び価格は上昇して推移している。
  • 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年10月の日本平均LNG輸入価格は11.87米ドルとなった。供給地域別では、米国産は13.68米ドル、ASEAN地域産が10.81米ドル、中東産が10.76米ドル、ロシア産が10.99米ドルであった。また、10月のアジア各国の平均輸入価格は、中国12.79米ドル、韓国12.88米ドル、台湾12.11米ドルと日本が最も安価となった。世界的な原油高に伴って、全日本平均原油輸入CIF価格(JCC: Japan crude cocktail)は、2021年10月には76.81米ドルと4年振りの高値を記録していることから、原油価格リンクの長期契約が7,8割を占める日本平均LNG輸入価格は、今後も堅調に推移すると想定される。
  • 10月の日本のLNG輸入量は、463万トンと前年同月比で22%減少した。冬季に備え早期からの在庫を積み増していたことにより、10月としては2005年以来の低い輸入量となった。また、1月から10月までのLNG輸入量合計は6,142万トンと前年同期比で1%増加している。中国のLNG輸入量は617万トンと前年同月比で24%増加、1月から10月までのLNG輸入量合計は、6,450万トンと前年同期比で23%増加し、日本の輸入量を上回った。韓国は390万トンと前年同月比で1%増加、台湾は152万トンと前年同月比14%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月量を上回っており、10月までの累計で1億8,019万トンと前年同期比13%増加となった。

天然ガス・LNG価格推移(直近2年)

中長期の値動き

  • JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、10月に56米ドルまで一時上昇し、11月には30米ドル半ばを推移している。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格上昇に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落した。その後は、原油価格の上昇に伴って、9月は10米ドル後半、そして10月は11米ドル後半まで上昇し、2015年以来の高値となっている。

天然ガス・LNG価格推移(直近10年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2021年7月末の国内LNG在庫量は454万tで、前月比0.2%、1万tの減少、前年同月比8.9%の減少、過去5年平均値を42万t上回り、過去5年変動幅の範囲内に収まっている。
  • 7月末のガス事業用LNG在庫量は161万tで、前月比14.4%減、前年同月比では24.1%の減少となった。7月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比7.0%増の242万t、都市ガス用LNG受入量は前年同月比5.3%減の208万tだった。ガス事業用LNG在庫は2020年9月以降、11か月連続で前年同月比2桁以上の減少が継続しており、2018年以来の低水準となっている。
  • 7月末の発電燃料用LNG在庫量は293万tで前月比10.1%増、前年同月比2.6%の増加となった。7月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で2.6%増の380万t、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で6.9%増の438万tであった。
  • 2021年11月18日に経済産業省が開催した「電力・ガス基本政策小委員会」の資料によると、大手電力事業者の11月15日時点のLNG在庫は約220万tで、昨年同期比で約60万t増、過去5年間で最も高い水準となっている。

国内LNG月末在庫量(直近2年)

国内LNG月末在庫(直近10年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。


米国

  • 2021年11月19日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、EIAによると、3.62 Tcfで前月比2.1%増となった。在庫量は前年同時期と比較すると8.0%低く、過去5年平均値を58 Bcf下回っているが、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
  • EIAが2021年11月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、10月末の在庫は3.6 Tcfで、過去5年間平均より3.0%下回っている。天然ガス生産量が比較的フラットの中で猛暑や輸出量が増加したことにより、今夏の注入量が平均以下となったことが要因となっている。しかし、9月と10月に注入量が5年平均を上回ったため、ここ数週間の貯蔵量は平均レベルに近づいている。EIAは冬季が終わる3月末には在庫量は1.6 Tcfまで減少するものの、過去5年平均水準を4%下回ると予測している。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2021年11月24日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社(欧州連合(EU)加盟国各社、英国)が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は793.7 TWhであった。貯蔵容量に対する充填率は71.1%で、前年同期の90.9%より低く、さらに過去5年間平均値である83.1%を下回っている。充填シーズンが終了する2021年10月31日時点での在庫量は862.7 TWhで、2014年以来の最低量となり、過去5年平均を14%、過去5年間の最小値を8.9%下回った。特に貯蔵容量の大きなドイツ、オランダの充填率が過去5年平均をそれぞれ21.5%、32.6%下回っている。
  • 2021年11月24日現在のウクライナが有する天然ガス地下貯蔵在庫は121.9 TWhであった。在庫量は前月比13.8%減少、前年同期比では47.2%減少し、同時期の過去5年平均値よりも69.2 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は38.3%で、前年同期の72.2%、過去5年間平均値の58.5%を下回っている。

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。

 

  • 2021年11月24日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は515万m3(液体ベース)で、前月比17.0%減少、前年同期比4.3%増加、過去5年平均値を5.3%上回っている。

欧州LNG在庫量(直近2年)

欧州LNG在庫量(直近10年)

(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


天然ガス・LNGプロジェクト動向

ハイライト

  • 中国企業による長期契約でのLNG調達が引き続き活発である。Sinochem(中国中化)は Cheniere Energy との間で、Sinopec(中国石化)とSinopec子会社UNIPECはVenture Global LNGとの間でLNG売買契約(SPA)を締結した。

 

アジア・オセアニア地域

  • シンガポール Pavilion Energy、 QatarEnergy、 Chevron は2021年11月17日、引き渡されるLNGカーゴの温室効果ガス排出ステートメントを作成するための定量化と報告方法を発表した。Pavilion EnergyがQatarEnergyと Chevron との間でそれぞれ締結したSPAに初めて適用されることになる。
  • ExxonMobil は2021年11月初旬、 Pertamina、 PETRONAS と、それぞれインドネシア、マレーシアにおけるCCS技術プロジェクトに関する協力について基本合意(MOU)を締結したと発表した。
  • 豪 Origin Energy は2021年10月25日、機関投資家EIGとの間で、 Australia Pacific LNG (APLNG)の持分10%の売却契約を締結したと発表した。売却完了後の持分配分は ConocoPhillips (37.5%)、 Origin (27.5%)、Sinopec (25%)、EIG (10%)で、Originは引き続きガスの探鉱・開発・生産のオペレーターを務める。
  • 豪 SantosとBeach Energy は2021年11月1日、南オーストラリア州 Moomba  CCSプロジェクトのFIDを発表した。2024年に稼働を開始する見込み。Santos は同プロジェクトを、クリーンエネルギー規制機関に登録しており、同機関のCCS手法では、クレジット適用期間は25年間で、その期間中は排出削減量として豪州連邦カーボンクレジットユニット(ACCUs)を受けることができる。
  • Chevron Australia は2021年11月11日、 Gorgon プロジェクトのオペレーターとして、西オーストラリア州の低炭素プロジェクトへの4,000万豪ドル投資を発表した。この投資は Gorgon設備での2021年7月17日までの5年間のCO2注入量の不足に対応するためにChevron が実施するオフセットパッケージの一部で、温室効果ガスのオフセット523万単位の取得・提供を通じて Chevron は規制上の義務を満たすことになる。
  • 豪 Woodside は2021年11月15日、 インフラファンドGlobal Infrastructure Partners との間で、 Pluto Train 2 Joint Venture への49%非操業参加持分を売却する契約を締結したと発表した。Woodside は Pluto Train 2 Joint Venture の51%持分を維持し、オペレーターに留まる。
  • 豪Woodside は2021年11月22日、ScarboroughとPluto Train 2 の開発について、新しい国内向けガス設備とPluto Train 1 改造も含めてFIDを行ったことを発表した。Scarboroughからのガスを Pluto Train 2 で処理することで、北アジア向けに供給されるLNGの中で最も炭素強度の低いものの一つになるとして、最初のLNGカーゴは2026年を目標としている。
  • 豪 AGIG は2021年11月17日、 Pluto NW Shelf Interconnector (PNI) パイプライン完成を発表した。PNIは、Pluto LNG 設備隣接の入口から、ダンピアの計量ステーションを経由して出荷するKarratha 設備内まで接続する30インチ径で構成され、コミッショニングと稼働開始は2022年初の見込みとしている。 PNIはWoodside が Pluto LNG 設備から、North West Shelf の Karratha ガス設備まで、LNG輸出と国内ガス供給のためガスを輸送するもので、全長3 km超、当初の輸送量は日量250 TJ、将来は900 TJ (年間600万トン)まで増加する可能性がある。

 

北米地域

  • Cheniere Energy は2021年10月25日、 Glencore とSPAを締結したと発表した。 Glencore は Cheniere Marketing からFOB条件で2023年4月から13年間、年間80万トンを購入することに合意した。
  • Cheniere Energy は2021年11月5日、 Cheniere Marketing がSinochem Groupとの間でSPAを締結したと発表した。Sinochem Groupは2022年7月から年間90万トンのLNGを購入し、その後年間180万トンに増加することに合意している。期間は17.5年間でFOB条件での引き取りとなる。
  • JERAは2021年11月15日、米 Freeport LNG プロジェクトを運営するFreeport LNG Development, L.P. (FLNG)の権益約25.7%を Global Infrastructure Partnersから取得する売買契約を締結したと発表した。これにより、既存 Freeport LNG プロジェクト(全3系列、年間生産能力約1545万トン)全体に関与するのみならず、同社とともに、生産能力拡張プロジェクトや第4系列の開発などの新規LNG事業を進めていくとしている。
  • FLNGと Talos Energy は2021年11月15日、Freeport LNG CCS プロジェクト (FLNG CCS) を、 Freeport LNG 天然ガス前処理設備隣接で建設する基本合意(LOI)を締結したことを発表した。早ければ2024年末までに注入開始を予定している。 FLNG CCS プロジェクトは Freeport LNG が所有する回収地点近くの貯蔵地点において30年間回収を行い、恒久的にCO2を貯蔵する。
  • Venture Global LNGとSinopecは2021年11月4日、 Venture Global のPlaquemines LNG 輸出設備から年間合計400万トンのLNGを購入する20年間のSPAを2件締結したことを発表した。また、Sinopec子会社UNIPECは Venture Global の Calcasieu Pass LNG 設備から350万トンのLNGを短期間で購入することに合意した。 Venture Global LNG は、米国企業が中国向けとして締結した単独では最大の取引となるとしている。

 

欧州・ロシア地域

  • Gazprom は2021年11月1日、2021年1月から10月までの間に422.6 bcm、前年同期比15.8%増のガスを生産したと発表した。
  • ドイツ規制機関 Bundesnetzagentur は2021年11月16日、 Nord Stream 2 AGを独立した輸送事業者として認証する手続きを中断したと発表した。 Nord Stream 2 パイプラインの事業者はドイツ法に基づいた法人に限られると結論付けた。

 

その他地域

  • カタール QatarEnergy は2021年11月7日、韓国の大宇造船海洋に4隻、サムスン重工に2隻のLNG新造船発注を行ったことを発表した。
  • 韓国企業連合は2021年11月18日、クウェート Al-Zour LNG 輸入基地が気化設備・貯蔵タンク群の試験運転を完了し、稼働開始したことを発表した。
  • Eniは2021年11月15日、モザンビーク第4鉱区参加企業(ExxonMobil、CNPC、GALP、KOGAS、ENH)を代表して、韓国・巨済のサムスン重工業造船所で、 Coral-Sul FLNG 命名式典を実施したことを発表した。当該FLNGは曳航され、モザンビーク沖 Rovuma操業拠点に繋留される。生産開始は2022年後半の見込み。
  • DNG Energy は2021年11月16日、南アフリカが Ngqurha 港でオランダからLNGコンテナを初めて受け入れたと発表した。同社は2022年第1四半期に最初の浮体貯蔵設備の稼働を開始する予定としている。
  • 国際LNG輸入者協会 GIIGNL は2021年11月17日、LNGカーゴを対象に、上流から下流までのすべての段階を考慮したGHG排出量報告とオフセットのためのフレームワークを発表した。
  • パナマ運河の2021年度(2020年10月 - 2021年9月)通航輸送量は、LNG、LPG、その他が牽引し、2020年度比8.7%、2019年度比10%増の過去最高を記録した。LNG輸送船舶は通過トン数で31.4%増と全部門を通じて最大の増加となった。また2021年1月は月間トン数、通過回数においてもLNGが新記録を付けた。
  • New Fortress Energyは2021年11月2日、ニカラグアでLNG基地・発電設備の建設を2021年第4四半期に完了し、2022年第1四半期に自社発電設備のコミッショニングを開始すると述べた。同社のメキシコ・バハカリフォルニアスル州 La Paz LNG 基地は全面稼働している。

 

 

作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所

 

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