2021年12月

天然ガス・LNG価格動向

直近の値動き

  • 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、上旬に100万Btu当たり30米ドル半ばを推移し、中旬以降は欧州のガス価格高騰に連動して40米ドルを超えて推移した。冬季需要期においてマレーシアのLNG生産障害等によるスポット調達の増加や高騰する欧州ガス市場の影響を強く受けてJKMの高値が継続している。また12月は欧州ガス価格がJKMを上回って推移していることから、LNGカーゴのアジアから欧州向けダイバージョンが発生している。
  • JOGMECは11月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、同月以降に契約がなされて日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を35.0米ドルと発表した。これはスポットLNG取引価格報告が開始された2014年3月以来の最高値である。同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)は、報告者が1社以下のため非公表となった。
  • 米国スポットガス価格HHは、月初の4米ドル台から3米ドル半ばまで下落した後、月末にかけて3米ドル後半を一定して推移している。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、11月は比較的温暖な気候となり暖房需要が減少したことで、ガス在庫量が過去5年平均に近づくまで回復したことが価格下落要因となった一方で、世界的なLNG需要は依然として高く、米国産LNG輸出の増加が価格を下支えしている。価格見通しについては、2021年12月から翌年2月までは平均4.58米ドルで、その後は米国の天然ガス生産量が増加し、LNG輸出は季節的な需要が限定的になることで、2022年の年間平均3.98米ドルまで下落すると予想している。
  • 欧州ガススポット価格TTFは、月初の30米ドルから中旬にかけて40米ドル後半まで上昇を続けた後、一時は60米ドル近くまで上昇した。低水準の欧州ガス地下貯蔵量、欧州、ロシアの寒冷化による需要増加、風力発電の低下に加えて、ドイツ規制当局による Nord Stream 2 パイプラインの承認手続きの一時停止やロシアのウクライナ対立懸念等から欧州ガス価格は急伸し、史上最高値を記録している。
  • 財務省貿易統計速報に基づくと、2021年11月の日本平均LNG輸入価格は14.30米ドルとなった。供給地域別では、米国産は22.30米ドル、ASEAN地域産が12.23米ドル、中東産が12.28米ドル、ロシア産が18.99米ドルであった。米国産が突出した要因は、同月の同国からの40万トン輸入中、半分に相当する3カーゴが30米ドルを超える価格だったことによる。また、11月のアジア各国の平均輸入価格は、中国17.65米ドル、韓国15.42米ドル、台湾20.89米ドルと日本が最も安価となった。全日本平均原油輸入CIF価格(JCC: Japan crude cocktail)は2021年11月には82.08米ドルと2014年11月以来の高値を記録していることから、原油価格リンクの長期契約が7,8割を占める日本平均LNG輸入価格は、今後も堅調に推移すると想定される。
  • 11月の日本のLNG輸入量は、586万トンと前年同月比で3%減少、1月から11月までのLNG輸入量合計は6,728万トンと前年同期比で1%増加した。中国のLNG輸入量は690万トンと前年同月比で21%増加、1月から11月までのLNG輸入量合計は、7,136万トンと前年同期比で21%増加し、日本の輸入量を上回った。韓国は387万トンと前年同月比で8%増加、台湾は190万トンと前年同月比18%増となった。これら4市場合計のLNG輸入量は、2020年1月以降、連続して前年同月量を上回っており、11月までの累計で1億9,867万トンと前年同期比12%増加となった。

天然ガス・LNG価格推移(直近2年)

中長期の値動き

  • JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落し2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場に牽引され、10月に56米ドルまで一時上昇し、11月は30米ドル半ば、12月には40米ドルを超えて推移している。
  • 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格上昇に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落した。その後は、原油価格の上昇に伴って、10月は11米ドル後半、そして11月は14米ドルまで上昇し、最近は高価格のスポット調達の影響もあり、2015年1月以来の高値となっている。

天然ガス・LNG価格推移(直近10年)

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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2021 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange

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天然ガス・LNG在庫動向

日本

  • 2021年8月末の国内LNG在庫量は502万トンで、前月比10.5%増加、前年同月比28.7%増加となり、過去5年平均値を110万トン上回った。さらに過去5年の最大値を59万トン上回り、また15ヶ月振りに500万トンを上回った。
  • 8月末のガス事業用LNG在庫量は197万トンで、前月比22.5%増、前年同月比では2.5%の増加となった。8月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比0.3%増の235万トン、都市ガス用LNG受入量は前年同月比33.6%増の271万トンだった。ガス事業用LNG在庫は2020年7月以降、13ヶ月振りの前年同月比増加となった。
  • 8月末の発電燃料用LNG在庫量は305万トンで前月比4.0%増、前年同月比54.0%の増加となった。8月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で24.0%減の365万トン、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で1.2%減の412万トンであった。

  • 2021年12月15日に経済産業省が発表した「発電用LNG在庫状況」によると、大手電力事業者の12月12日時点のLNG在庫は237万トンであった。これは、昨年同期比にて95万トン増、過去4年平均を66万トン上回っている

国内LNG月末在庫量(直近2年)

国内LNG月末在庫(直近10年)

(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。


米国

  • 2021年12月17日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、3.36 Tcfで前月比7.2%減となった。在庫量は2020年の同時期と比較すると5.9%低く、過去5年平均値を34Bcf上回った。
  • EIAが2021年12月に発表した月例の短期エネルギー展望(Short-Term Energy Outlook)によると、11月末の在庫は3.5Tcfで、過去5年間平均より3.0%下回っている。天然ガス生産量が比較的フラットの中で猛暑や輸出量が増加したことにより、今夏の注入量が平均以下となったことが要因となっている。しかし、9月、10月、11月初旬に注入量が5年平均を上回ったため、ここ数週間の貯蔵量は平均レベルに近づいている。EIAは冬季が終わる3月末には在庫量は1.7 Tcfまで減少するものの、過去5年平均水準を2%下回ると予測している。

米国天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

米国天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成


欧州

  • 2021年12月22日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社(欧州連合(EU)加盟国各社、英国)が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は641.8 TWh (LNG換算4,200万トン)であった。貯蔵容量に対する充填率は57.5 %であり、前年同期の77.4%より大幅に低く、さらに過去5年間平均値である68.9%を下回っている。2021年11月30日時点での在庫量は758.8TWhで、2014年以来の最低量となり、過去5年平均を18.3%、過去5年間の最小値を12.3%下回った。特に貯蔵容量の大きなドイツ、オランダの充填率はそれぞれ57%、42%であった。
  • 2021年12月18日現在のウクライナが有する天然ガス地下貯蔵在庫は105.3TWhであった。在庫量は前月比17.3%減少、前年同期比では49.6%減少し、同時期の過去5年平均値よりも69.2 TWh低い。貯蔵容量に対する充填率は33.1%で、前年同期の65.3%、過去5年間平均値の53.4%を下回っている。

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近2年)

欧州天然ガス地下貯蔵量(直近10年)

(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。

 

  • 2021年12月18日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は443万m3(液体ベース)で、前月比18.3%減少、前年同期比2.6%減少、過去5年平均値を8.0%下回っている。

欧州LNG在庫量(直近2年)

欧州LNG在庫量(直近10年)

(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。


天然ガス・LNGプロジェクト動向

ハイライト

  • 年末に向けて北半球が高需要期にある中で一部ではパイプラインガス、LNGとも供給量が予想を下回るケースが発生し、LNG業界には需給バランスへの不確実性が広がっている。一方で、今後の高価格期待や、2020年代半ばの供給必要枠の見込みから、ターム契約やプロジェクト開発活動が活発化している。

 

アジア・オセアニア地域

  • 資源エネルギー庁は2021年12月1日、大手電力が使用する発電用LNG在庫について、各社の合計値を、毎週、ホームページに公表を開始した。
  • 西部ガスは2021年11月24日、Novatek Gas & Power Asia 社と、ひびきLNG基地を活用した中国向けLNG積替、供給事業に関する基本合意書(HOA)を締結したことを発表した。
  • China Gasは2021年11月26日、 Vitol と25日に戦略協力協定を締結したことを発表した。この合弁事業会社により、2023年に年間80万トン以上、2024年以降は年間100万トン以上のLNGをChina Gaに供給し、設立5年目には、年間500万トンを達成するとしている。
  • Sinopecは、天津LNG基地拡張計画について地元政府承認を受けたと報じられた。当該拡張により27万m3 LNGタンク5基を追加、基地容量は年間1,165万トンに拡大する。
  • 商船三井と Royal Vopak N.V. は、2021年12月16日、世界最大の FSRU 「MOL FSRU Challenger」の船主会社株式の49.99%を Vopak 社が取得することに合意し、船名を「Bauhinia Spirit」に変更すると発表した。Hong Kong LNG Terminal 社との長期傭船契約に基づき、本FSRUを香港洋上LNG受入基地に投入し、2022年中頃の操業開始を予定している。
  • 住友商事と東京ガスは2021年11月25日、マレーシア PETRONAS と、同国にて再生可能エネルギー由来のグリーン水素とCO2のメタネーションによりカーボンニュートラルメタンを合成し、日本に導入するサプライチェーンを構築する事業可能性調査を共同で開始することに合意したことを発表した。
  • 東京ガスと三菱商事は2021年11月26日、LNG輸出国における再生可能エネルギー由来のグリーン水素とCO2から製造するメタン(合成メタン)のサプライチェーン構築に関する事業可能性調査を開始することに合意したことを発表した。
  • PETRONAS は2021年12月1日、日揮・サムスン重工業連合とSAIPEM Spa との間で、サバ州岸近の容量年間200万トン以上のLNG生産プロジェクトの並走基本設計(FEED)競合方式実施として、2件のFEED契約を発注したことを発表した。FEED競合方式は10ヶ月間で実施し、2022年末にFID、2026年末までに稼働開始準備を完了見込み。
  • NOVATEK は2021年12月2日、ベトナム PetroVietnam Power と、同国でのLNG・発電プロジェクトでの協力協定を締結したことを発表した。
  • Australian Industrial Energyは2021年11月30日、ノルウェー Höegh LNG との間で、浮体貯蔵・気化機器(FSRU) Höegh Galleon を Port Kembla 基地に配置する長期傭船契約を締結し、グリーン水素等受け入れ可能な次世代FSRU開発で協力することに合意したことを発表した。
  • JERAは2021年12月8日、子会社 JERA Australia Pty Ltd を通じ、豪 Barossa/Caldita ガス田の権益12.5%を取得する契約を、豪 Santos 子会社との間で締結したことを発表した。生産開始時期は、2025年頃を見込んでいる。 JERA は、本プロジェクトから、年間約42.5万トンの権益相当分のLNGを引き取るとしている。
  • ConocoPhillips は2021年12月8日、 Origin Energy から Australia Pacific LNG (APLNG)における追加持分10%買い取りの第一先買権を行使する、と Origin Energy に通知したことを発表した。 ConocoPhillips 子会社は現在、 APLNG の37.5%を所有しており、この取引は2022年第1四半期完了見込みである。

 

北米地域

  • Cheniere Energy Partners, L.P. は、2021年11月23日、 Sabine Pass Liquefaction 設備第6系列よりLNGが生産されたことを発表した。実質的な完成は保証完成日程よりも1年早い2022年第1四半期を見込む。 Sabine Pass 総生産容量は年間3000万トンとなる。
  • Cheniere Energy, Inc. は、2021年11月24日、中国Foran Energyとの間で、拘束力あるSPAを締結したことを発表した。後者はDES条件で、2023年1月から20年間、年間30万トンの購入に合意している。
  • 米 Venture Global LNG は2021年12月2日、ルイジアナ州内に自社4件目のLNG輸出設備を開発すると発表した。CP2 LNG プロジェクトはキャメロン郡内のCalcasieu Pass 設備に隣接し、液化容量年間2,000万トンを見込む。
  • McDermott International は、2021年11月23日、 Woodfibre LNG とエンジニアリング・調達・組み立て・建設(EPFC)契約を締結したことを発表した。

 

欧州・ロシア地域

  • ロシア Gazprom の速報値によると、2021年1月から - 11月までのガス生産量は、同社は前年同期比14.7%、60 bcm増の467.6 bcmで、国内供給は15.8%、30.4 bcm増加した。FSU以外の外輸出は171.5 bcmと6.6%、10.6 bcm増加した。 Power of Siberia 中国向け「シベリアの力」パイプラインによる中国向けガスの供給は引き続き増加しており、11月以降、中国側の要請により一日の毎日契約義務を3分の1上回って供給している、と述べた。
  • ロシア Arctic LNG 2 プロジェクトは、2021年11月30日、国際金融機関、商業銀行との融資契約を発表した。ロシア、国内銀行団との融資による最大額は、15年間・95億ユーロとなる。
  • ロシア NOVATEK は、2021年12月7日、 RWE Supply & Trading GmbH との間で、LNG供給・脱炭素化で協力する覚書(MOU)を締結したことを発表した。 NOVATEK がRWE向けに、自社 Obskiy GCC (ガス化学コンプレックス)で生産した低炭素アンモニア・水素をRWE向けに、ドイツ・欧州市場に引き渡へのす供給を想定する。LNG (カーボンニュートラルLNGを含む)供給面でも、 NOVATEK によるRWE向け、既存のスポット供給に加え、 Arctic LNG 2 その他 NOVATEK プロジェクトで生産するLNG長期供給可能性も含め、協力関係強化を進める。
  • 三菱重工業(MHI)は、2021年11月25日、ロシアの Ust-Luga LNG プロジェクト向けに、主冷凍パッケージを受注したことを発表した。12万kWのH-100形ガスタービンで駆動するものとなる。同プロジェクトは、2系列から年間1,300万トンを生産する設計となる。で、本年9月にEPC(設計・調達・建設)契約が締結され、2026年の運転開始を目指している。

 

その他地域

  • カタール QatarEnergy は、2021年12月6日、LNG生産子会社 Ras Laffan Liquefied Natural Gas Company Limited が、Guangdong Energy Group广东能源集团天然气有限公司(GEG)との間で、中国向けLNG年間100万トンを2024年から10年間にわたり供給するSPAを締結したことを発表した。
  • QatarEnergy は、2021年12月8日、子会社 Qatar Liquified Gas Company Limited (2) が、S&T International Natural Gas Trading Company (S&T) と、中国向けにLNG年間100万トンを2022年末から15年間にわたり供給するSPAを締結したと発表した。
  • 米 Eagle LNG Partners LLC は、2021年12月10日、西インド諸島アルーバにLNG受入基地を設置するため長期供給契約を地元電力・水道公益事業企業 WEB Aruba と締結したことを発表した。 Aruba LNG 基地は、WEBの Balashi 発電設備のためのLNG受入基地となる。

 

 

作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所

 

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