2023年2月
天然ガス・LNG価格動向
直近の値動き
アジア
- 北東アジアのアセスメントされたスポットLNG価格JKM(期近分)は、2月前半は暖冬によるLNG在庫高の中取引が低調であり、また、米フリーポートLNGの生産再開への期待感から、100万Btu当たり18米ドルから15米ドルまで下落した。2月後半以降は、LNG価格の割安感から南アジア等からの購買意欲が見られたものの、JKM下落傾向には歯止めがかからず、14米ドル後半で推移している。
- JOGMECは1月の日本着スポットLNG月次価格(速報)について、同月以降に契約がなされて日本に入着するスポットLNG取引の平均価格(契約ベース)を、非公表とした。また、同月中に日本に入着したスポットLNG取引の平均価格(入着ベース)を非公表とした。
- 財務省貿易統計速報に基づくと、2023年1月の日本平均LNG輸入価格は100 万Btu当たり18.69米ドル、円建てでは円安の影響もあって1トン当たり128,023円となり、いずれも前月より下がったものの、高水準を維持している。供給地域別では、米国産は19.38米ドル、ASEAN地域産が17.15米ドル、中東産が19.04米ドル、ロシア産が16.31米ドルであった。また、1月のアジア各国の平均輸入価格は、韓国25.00米ドル、台湾18.31米ドルであった(2月27日時点、中国の貿易統計情報は未公表)。全日本平均原油輸入CIF価格(JCC: Japan crude cocktail)は2023年1月には1バレル当たり88.14米ドルとなった。また、円建てでは1キロリットル当たり73,235円となり、前月より値を下げた。原油価格リンクの長期契約が7,8割を占める日本平均LNG輸入価格は、引き続き足元の原油価格の影響を受けることが想定される。
- 1月の日本のLNG輸入量は、682万トンと前年同月比で0.5%増加した。韓国は481万トンと前年同月比で4%減少、台湾は183万トンと前年同月比28%増加となった(2月27日時点、中国の貿易統計情報は未公表)。
米国
- 米国スポットガス価格HHは、気象による需要の変化や気象予報に左右され、2月の前半は、2米ドル前半から後半の間で僅かな値動きを示しつつ推移した。フリーポートLNGの生産再開に向けた進展や天然ガス在庫の状況も価格に作用した。2月後半以降も同様の傾向を示したが、僅かに下落基調をたどり月末にかけて2米ドル前半で推移している。フリーポートLNGは、2月中旬に事故前に保管されていた在庫から2,3のカーゴを出荷した。また、2月21日にトレーン1及び2の商業生産再開に係る規制当局の承認を得たことを発表した。
- 米国エネルギー情報局(EIA)は、2月7日発表の短期エネルギー見通しにて2023年の天然ガススポット価格の平均値の見通しを、3.4米ドルと予測した。1月の気温が平年よりかなり高かったため、暖房用の天然ガスの消費量が平年より少なく、在庫が過去5年平均値を上回った結果として前回の予測を修正したという。
欧州
- 欧州ガススポット価格TTFは、厳しい寒さの予測とノルウェーのガス施設計画外補修延長を受け、2月1日に19.0米ドルを付けたが、以降、穏やかな気候と堅調な地下ガス貯蔵量、好調な英国風力発電を背景に16米ドル台まで下落した。2月後半以降も、米フリーポートLNG操業再開に向けた進展も手伝い価格は下落基調をたどり、月末にかけてTTFは15米ドル台で推移している。
中長期の値動き
- JKMは、2020年1月以降、供給拡大と需要増加ペースの失速により下落基調となり、2020年4月末には史上最安値の1.83米ドルを記録した。5月以降2米ドル台が続いたが、8月に入り複数の生産設備での供給障害により上昇基調に転じ、12月には10米ドル台を超え、2021年1月には寒波の影響で需要が急増したことにより、32.5米ドルの史上最高値を付けた。その後、価格は急落して2月下旬にかけて5米ドル台まで下落、3月に入り上昇基調に転じて以降は、高値で推移する欧州ガス市場にも牽引され、10月に一時56米ドルまで上昇し、11月は30米ドル半ば、12月には40米ドルに達した。2022年1月と2月は20米ドル台で推移し、3月にはロシア産パイプラインガス供給中断の懸念に伴って一時急騰し80米ドルを上回ったが、その後30米ドル台で推移した。4月以降取引は低調であり、JKMは36米ドルから22米ドルまで減少し、5月から6月前半にかけて20米ドル前半で推移した。しかし6月後半以降天然ガス・LNGの供給不安の高まりを背景に40米ドルに到達、7月も同様の水準で推移し、8月には概ね50米ドルで推移しつつ、一時、60米ドル、70米ドルを超える状況となった。9月、JKMはTTFの下落に伴い下落傾向を示し30米ドル後半まで下落し、10月~11月にかけて概ね20米ドル後半で推移した。12月には市場は年末商戦で活況となり30米ドル台で推移した。2023年1月取引が再開するも低調であり、20米ドル付近から下落基調にあり、2月は更に15米ドル付近まで落ち込んでいる。
- 日本平均LNG輸入価格は、2020年3月以降の原油価格急落の影響により、8月から10月にかけて2005年1月以来の低水準となる5米ドル台まで下落、その後原油価格上昇に伴い、12月には7米ドル台に上昇した。堅調な原油価格の値動きに応じて、2021年2月には9米ドル半ばまで上昇後、3月は7米ドル半ばまで下落した。その後は、原油価格の上昇に伴って、2022年2月には15米ドル後半に上昇したが、3月に14米ドル半ばに下落した。4、5月に15米ドル後半まで上昇し、6月に14米ドル後半に下落、7月から9月にかけて17ドル後半から20米ドル後半へと上昇した後、10月、11月には20米ドル後半から17米ドル後半へと下落した。12月と翌1月は18米ドル後半へと上昇した。
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(出典)
米国HH(Henry Hub)価格: NYMEX Futures and Options, CME Group
蘭TTF(Title Transfer Facility)価格:ICE Endex, Intercontinental Exchange
JKM: LNG Japan/Korea Marker© 2023 by S&P Global Platts, a division of S&P Global Inc.
JOGMECスポットLNG価格:JOGMEC「日本着スポットLNG月次価格」、2021年3月までは経済産業省「スポットLNG価格調査」を出典とする
日本平均LNG輸入価格: 財務省貿易統計をもとに作成
EUA(EU ETS): ICE Endex, Intercontinental Exchange
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天然ガス・LNG在庫動向
日本
- 2022年10月末の国内LNG在庫量は573万トンで、前月比0.6%、3.4万トンの増加、前年同月比では14.7%増加し、過去5年平均値を112.8万トン上回った。
- 10月末のガス事業用LNG在庫量は268万トンで、前月比4.7%増、前年同月比では9.4%増となった。10月の都市ガス用LNG消費量は前年同月比10.7%減の210万トン、都市ガス用LNG受入量は前年同月比6.3%増の222万トンだった。
- 10月末の発電燃料用LNG在庫量は305万トンで前月比2.8%減、前年同月比19.8%の増加となった。10月の発電燃料用LNG消費量は、前年同月比で7.3%減の286万トン、発電燃料用LNG受入量は、前年同月比で5.4%増の314万トンであった。
- 2023年2月22日に経済産業省が発表した「発電用LNGの在庫状況」によると、大手電力事業者の2月19日時点のLNG在庫は約263万トンであった。2022年2月末比では約94万トン、過去5年間の2月末平均を65万トン上回っている。
(出典)
経済産業省「ガス事業主生産動態統計」及び「電力調査統計・火力発電燃料実績」をもとに作成したもので、これら月末在庫を合算した値を国内在庫としてみなしたもの。なお、利用可能なデータは2008年1月以降のものであるため、過去5年平均は2013年1月分から計算している。
米国
- 2023年2月17日の米国天然ガス地下貯蔵有効稼働ガス在庫(ワーキングガス)は、米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2.20Tcfで前月比19.7%減となった。在庫量は2022年の同時期と比較すると23.2%高く、過去5年平均値を289Bcf上回っており、2020年11月以降は過去5年のレンジに入っている。
(出典)
米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration, EIA)のデータをもとに作成
欧州
- 2023年2月22日現在のAggregated Gas Storage Inventory(AGSI+)加盟各社中、EU加盟国各社が有する欧州天然ガス地下貯蔵在庫は705.6TWh(LNG換算4,667万トン相当)であった。これは前年同期より108.7%、367.5TWh (LNG換算2,431万トン相当)上回るものだった。貯蔵容量に対する充填率は63.0%であり、前年同期の30.4%、過去5年間平均値の42.3%を上回った。貯蔵容量の大きなドイツ、オランダの充填率はそれぞれ71.4%、63.7%であった。
(出典)
Aggregated Gas Storage Inventory(AGSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2011年1月以降のものであるため、過去5年平均は2016年1月分から計算している。
- 2023年2月22日現在のAggregated LNG Storage Inventory(ALSI)加盟各社(11か国、18社)が有する欧州LNG在庫量は385万m3で、前月比17.4%減少、前年同日比27.5%増加、過去5年平均値を9.3%上回っている。
(出典)
Aggregated LNG Storage Inventory(ALSI), Gas Infrastructure Europeのデータをもとに作成。なお、利用可能なデータは2012年1月以降のものであるため、グラフ中の過去10年平均及び過去10年平均幅の値については、5年未満の値が含まれる。
天然ガス・LNGプロジェクト動向
ハイライト
- 米 Freeport LNG は8ヶ月振りにLNGカーゴを出荷し、今後数ヶ月でフル稼働に達することが期待される。ドイツでは3件目のFSRUが最初のLNGカーゴをアブダビから受け入れた。
アジア・オセアニア地域
- 中国国家統計局によれば、中国の2022年の天然ガス消費量は前年比1.7%減の366.3 bcm、国内天然ガス生産量は前年比6.2%増の217.9 bcmだった。
- 中国連雲港人民政府は2023年2月13日、Jiangsu Huadian Ganyu LNG基地が建設を開始したと発表した。稼働開始は2026年を予定している。
- フィリピン・エネルギー省は2023年1月27日、 Samat LNG Corporation のバタン Barangay Sisiman でのLNG基地プロジェクトの推進許可(NTP)を発行したことを明らかにした。同社は2024年前半の稼働開始を目標としている。
- 豪連邦政府産業・科学・資源省は2023年2月9日、国内ガスセキュリティメカニズム(ADGSM)指針新案を発表した。新案ではガス供給不足が予測される四半期に東部LNG輸出者はLNG輸出許可を取得しなくてはならない。この許可はLNG生産者の国内市場向け供給量と不足緩和への貢献度に基づくこととなる。LNG輸出者は、長期LNG販売契約を保護するため、輸出が認められる数量の増枠を政府に申請することもできる。
- 豪州公正取引規制機関ACCCは2023年1月27日、最新のガス市場調査報告により、豪州東部ガス市場は2023年、域内LNG生産者が未契約ガスを全部輸出すれば、30ペタジュール(PJ)(55万トン)のガス供給不足となるとの予測であると述べた。今回の報告書は、見通しが改善したことを示している。LNG生産者は契約量に対応するため146 PJ多く生産することが見込まれる。この内30 PJは不足を回避するため国内向けに必要となる。
北米地域
- Cheniere Energyは2023年2月23日、Sabine Pass Stage 5 拡張プロジェクトに関して連邦エネルギー規制委員会(FERC)とのプレファイリング(事前審査)手続きを開始したと発表した。同プロジェクトは年間650万トン3系列による生産容量年間約2,000万トンで設計される。Cheniere は2023年末までに公式申請提出、稼働開始を2030年までに見込む。
- Freeport LNG は2022年2月21日、3系列中2系列の商業稼働再開に規制承認を得たと発表した。3系列目の再稼働と復帰には、追加で規制承認が必要となる。
- Sempra Infrastructure は2023年1月25日、ポーランドPKN ORLEN社との間で、Port Arthur LNG 第1段階プロジェクトに関しSPAを締結したと発表した。 PKN ORLEN は、FOB条件で20年間、年間100万トンを購入する。 Port Arthur LNG 第1段階は、拘束力ある長期契約で年間1,050万トンが全て申し込み済みとなっている。
- Sempra Infrastructure、メキシコ電力公社 CFEとCarso Energy は2023年2月14日、メキシコのソノラ州、バハカリフォルニア州間の天然ガス輸送インフラ共同開発に向けた戦略的提携検討のためのMOUを締結したと発表した。これは、メキシコ北西部でCFE発電容量、天然ガスの供給量を増加することを意図したものである。
- メキシコ Mexico Pacific 社は2023年2月7日、 ExxonMobil LNG Asia Pacificとの間で、Saguaro Energía LNG 設備最初の2系列から20年間FOB条件で合計年間200万トンのLNGについて2本のSPAを締結したと発表した。ExxonMobil はまた第3系列から年間100万トンを購入するオプションを持つ。
欧州および周辺地域
- オランダ Gasunie は2023年2月14日、 Eemshaven 基地とGate 基地容量をさらに拡大するオプションを引き続き検討すると発表した。この発表によれば、 Terneuzen 港湾の新規浮体LNG基地は短期的には実現が難しいとのこと。
- Macquarie Capital は2023年1月27日、自社が支援するドイツのDeutsche Ostsee LNG 輸入基地が操業ライセンスを取得したと発表した。 Deutsche Ostsee は1月に最初のLNG気化ガス引き渡しを実施し、Deutsche ReGas が開発した同国初の民間資金によるLNG基地である。Deutsche ReGas は2023年末までに2件目の浮体LNG基地設置を計画しており、その他の容量拡張を加えて、輸入容量を年間13.5 bcmまで増加する可能性が高い。
- ドイツRWEは 2023年2月15日、 Brunsbuettel Elbehafen 港湾がアブダビADNOCから最初のLNGカーゴをドイツ政府に代行してRWEが傭船したFSRU "Hoegh Gannet" で受け入れたことを発表した。 RWEとADNOC は2023年から数年間のドイツ向けLNG供給に関するMoUを2022年に締結した。
- エストニア Eesti Gaas は2023年2月3日、リトアニア Klaipėda 基地とフィンランド Inkoo 基地との間で2023年秋までに10隻のLNGカーゴを供給する契約を締結したと発表した。リトアニア向けに冬季3件、フィンランド向けに春・夏7件である。
- ロシア連邦国家統計によると、2022年のロシアの天然ガス生産は前年比13.4%減の573 bcm、LNG生産は同8.1%増の3,250万トンとなった。
- ロシア NOVATEK は2023年2月6日、自社とインド Deepak Fertilisers and Petrochemicals Corporationが、LNG・低カーボンアンモニア供給に関して非拘束MoUを締結したことを発表した。 Deepak Fertilisers 向けに、 Arctic LNG 2 プロジェクト含め、スポット・長期のLNG引き渡しを想定している。
その他地域
- Oman LNG は2023年1月30日、トルコBOTASとの間で2025年から10年間、年間100万トンを供給する拘束力ある基本合意を締結したと発表した。また2023年2月7日、中国Unipecとの間で2025年から4年間、年間100万トンのLNG供給に関して、拘束力ある基本合意を締結したと発表した。
- NewMed Energy 社は2023年2月21日、イスラエル Leviathan 資源の参加企業が、同ガス田開発フェーズ1Bの初期基本設計(プレFEED)作業実施に向け2023年予算を承認したと発表した。参加企業はLNG生産容量年間460万トンのFLNG設備建設を推進している。
- New Fortress Energyは2023年2月6日、カメルーン Kribi 沖に配置されている浮体LNG液化設備 Hilli におけるNFE持ち分を、同社の410万株およびキャッシュ1億米ドルと引き換えにGolar LNG社に譲渡することで合意に達したと発表した。 Golar LNG は同浮体LNG設備のNFE全所有権を取得する。
- bpは2023年1月23日、自社が操業する Greater Tortue Ahmeyim LNG プロジェクト向けの浮体生産・貯蔵・積み出し(FPSO)船舶設備が、モーリタニア・セネガル沖現場に向けて出港したと発表した。同プロジェクト第1段階では、年間230万トンのLNGを生産予定。
(注: CCS: 炭素回収・貯蔵、EPC: エンジニアリング・調達・建設、FEED: 基本設計、FID: 最終投資決定、FLNG: 浮体液化設備、FOB: 本船渡し、FSRU: 浮体貯蔵・気化設備、HOA: 基本合意、SPA: LNG売買契約)
作成協力 一般財団法人日本エネルギー経済研究所
添付ファイル
- 日本のLNG在庫量(27.3KB) (2023/2/24更新)
- 米国天然ガス地下貯蔵量(54.8KB) (2023/2/24更新)
- 欧州天然ガス地下貯蔵量(380.2KB) (2023/2/24更新)
- 欧州LNG在庫量(223.2KB) (2023/2/24更新)