石油・天然ガスレビュー
※この記事のオリジナルはPDFファイルです。PDFからテキストを抽出して表示 しているため、表の体裁が崩れたり、図が抜けている可能性があります。図や表 が入ったオリジナルをご覧になりたい場合は、 http://oilgas-info.jogmec.go.jp(JOGMEC 石油・天然ガス資源情報) から記事を検索してください。
タイトル エネルギーの安定的確保に向けたインドの取り組みと課題~石炭、石油、天然ガス、再生可能エネルギーの戦略的選択~ 
著者 増野 伊登 
作成日 2017年07月21日 
地域 アジア : インド                                                      
分野 エネルギー一般   基礎情報
エネルギーの安定的確保に向けたインドの取り組みと課題
~石炭、石油、天然ガス、再生可能エネルギーの戦略的選択~

はじめに

 経済成長を背景にエネルギー消費量が急増するインド。2016年に中国のGDP成長率を追い抜いた新興国は、今後、中国とともに世界のエネルギー需要増を引っ張っていくことが予想される。他方、大気汚染や地球温暖化問題への対策の一環として、世界各地で石炭の使用量削減に向けた取り組みが進められているなか、世界有数の石炭消費国である同国でも、よりクリーンなエネルギーの活用を促進しようとの動きが見られる。ここで気になるのが、今後漸減していく石炭依存の穴を埋めるエネルギー源は何なのか、また、そのためにインドはどのような方策を講じているのかということだ。本稿では、特に石油と天然ガスに焦点を当てインドのエネルギー動向を追った。
 なお、本稿は2017年5月17日時点の情報に基づいている。

1. インドのエネルギー事情概観
(1)エネルギー需要の現状と見通し
 2015年のインドの1次エネルギー消費量は年間約7億toe(石油換算トン)で、世界の5.3%を占める(BP統計)。2016年にはロシアを抜き、中国、米国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国に躍り出た(日本は年間約4.5億toeで、世界第5位)。1次エネルギー消費の内訳は、石炭58.1%、石油27.9%、天然ガス6.5%、水力発電4.0%、再生可能エネルギー2.2%、原子力発電1.2%となっており、依然として石炭が最大のエネルギー源だ(図1)。
 国際エネルギー機関(IEA)は、2016年発表のWorld Energy Outlookにおいて、2040年に向け同国のエネルギー消費量は年率9%で伸び、2014年比で2倍強に拡大するとの見通しを立てている(図2)。図3のとおり、電力源の観点から見れば、石炭、天然ガス、再生可能エネルギーの消費量が長期的に増加すると見込まれるが、1次エネルギーにおける石炭と石油への依存は当面続くことが予想されている。
 世界有数の石炭埋蔵国であり生産国でもあるインドは、その需要の8割を国内で調達し、エネルギー需要の約6割を石炭に依存している。インドが経済成長目覚ましい新興国であり、大産炭国であり、さらに、後述するように国内で生産される石油と天然ガスが減退傾向にあるという現状を踏まえれば、燃料コストの安価な石炭への依存がそう簡単に低減できるものではないことが分かるだろう。
(2)インド政府のエネルギー政策
(1)地球温暖化対策と大気汚染問題
 石炭への依存度を低減することが容易でないとはいえ、環境意識の高まりを受け、化石燃料のなかでも、石油や天然ガスと比較してとりわけCO2排出量が多い石炭の利用を減らすための世界的な試みが進みつつある。
 中国、米国、ロシアに次いで世界第4位の温室効果ガス排出国のインドも、2030年までにGDPあたりの排出量を2005年比で33~35%削減するという国別目標案(Intended Nationally Determined Contributions:INDC)を2015年10月に国連に提出した。さらに、2016年10月2日には、独立の父マハトマ・ガンジーの生誕記念祭に合わせ、地球温暖化対策のための国際的な枠組みである「パリ協定」を批准している。
 一方で、インド政府が経済成長と環境対策を天秤にかけた場合、やはり後者は劣後してしまうのではないか、との懐疑的な見方もあるだろう。同国政府は、2030年までに発電量に占める非化石燃料の割合を40%に引き上げるとの目標を掲げているが、2016年度(2016年4月~2017年3月)において石炭単独で8割弱を占める現状に鑑みて、目標達成の難しさは想像に難くない(図4)*1。
 しかし、インドにとって石炭への依存度低減に向けた取り組みは、気候変動対策で国際社会と足並みを揃えるという以上の意味合いを持つ。なぜなら、その大気汚染問題が、世界最悪レベルと言われるほどに深刻化しているからだ。2017年2月に米国の健康影響研究所(HEI)とワシントン大学健康指標評価研究所(IHME)が共同で発表した報告書によると、2015年に大気汚染を原因とした同国の死者数が110万人に上り、中国を追い抜く勢いだという。石炭依存に伴う大きな代償である。石炭火力発電所や工場からの排煙などに対して、インド政府は今のところこれといった有効な対策を打ち出せていない。
 ひるがえって日本では、世界最高水準とされる石炭火力発電の高効率化によって、CO2排出量の低減を図っている。そうした技術を導入できればインドの大気汚染は緩和できるだろうが、事はそう簡単ではない。一概には言えないが、石炭火力発電プラントの建設コストは、原子力よりも安価ではあるものの、ガス火力と比べればおよそ2倍とも言われている。こうした事情を踏まえると、まだ稼働可能な石炭火力プラントを徐々に閉鎖し、莫大な初期費用を投じて高効率なプラントに置き換えていくためには、資金調達だけでなくそれ相応の政治力が必要とされる。そもそもインドにそのような抜本的改革を行う意図があるかどうかは別にして、各州政府が大きな発言力を持つ同国で、中央政府の政治力に限界があることは確かだ。

(2)燃料コストとエネルギー安全保障
 環境以外の面に視点を移してみよう。インドのエネルギー政策を方向づける要因として、燃料コストとエネルギー安全保障の2点にも触れておきたい。
 インドは資源の国内調達比率の引き上げを目標に掲げており、よってエネルギー輸入全体に占める石炭と原油の比率縮小を目指している。それはなぜか。同国では、政府の価格統制により、化石燃料の国内販売価格が国際市場価格よりも低く設定されているため、供給側である国営会社にとってみれば、市況次第で仕入れ値と売り値に逆ザヤが発生することが挙げられる。救済措置として政府は国営会社に補助金を出してきたが、これでは価格が高水準となった場合政府財政を圧迫してしまい、根本的な解決にはならなかった。
 一部石油製品をはじめ化石燃料に対する価格規制も徐々に撤廃されてきてはいるが、政府としても、できる限り廉価な資源を、長期的かつ安定的に調達したい意向がある。それを可能にするための手立ては、やはり国内に眠る資源を最大限有効に活用することだろう。
 しかし、ここで起きたのが2014年夏以降の原油価格の急落だった。インドは期せずして安価なエネルギーの恩恵を受けることになったが、一方で原油と天然ガスの国内生産は打撃を受けることとなり、輸入比率の上昇に対する政府の懸念は一層強まった。現在、同国の原油輸入量は、2015年の約390万b/dで、国内消費量のおよそ8割を輸入に頼っている。伸び悩む国内生産量に対して、2015年の国内消費量はおよそ5倍で推移、今後も増勢の見通しだ(図5)。
 さらに、輸入全体における中東依存度は60%程度(約240万b/d)で、供給源の多様化も思うように進んでいない。2016年9月、プラダン(Pradhan)石油大臣は、2022年までに原油の輸入量を10%削減するという目標を打ち出した。政府財政だけでなく、エネルギー安全保障の強化も念頭に置いた場合、燃料や供給源の多様化に加え、輸入依存度の低下も促進すべきとインド政府は考えているのだろう。
 ところで、国内生産量と輸入量を合算した場合、2015年で見ると国内需要を60万b/d強上回っているが、この背景には、国営および民間の精製事業者が製油所の拡張や増強を進めているという事情がある。原油に付加価値をつけて、石油製品として国外に売り出す戦略だ。今後インドの製品輸出量はさらに増加していく見込みであるので、原油輸入量を10%削減するとの目標を達成するためには、国内の原油生産能力を向上させることがますます必要になってくる。
 また、石炭については、経済成長を背景に電力需要が急増したのに伴って石炭需要も伸びた結果、国内生産が追い付かず、輸入量は過去15年間で10倍に膨れ上がった(2000年度:約2,000万トン→2015年度:約2億トン)。これに対し、政府は2020年には国内生産量を15億トンまで増強する計画であることを明らかにしている。2015年度の実績生産量が8億トン強であるので、かなり野心的な目標設定ではあるが、ここにも輸入依存度を少しでも低減させたい同国政府の意向が見て取れる。
(3)インド政府が考えるエネルギーミックス
 インドのエネルギー政策を論じる際の難点は、必ずしも統一的かつ明確なビジョンが見えてこないことだ。石油、石炭、再生可能エネルギー、電力など、所管省庁がそれぞれに今後の目標計画案を発表したり、各省庁関係者が折に触れて見解を表明したりしているとはいえ、包括的な政策目標の設定の点では、まだまだ課題はある。しかし、ここまで本稿で論じてきた内容を総括すれば、インドが指向している方向を推察することはできる。
 エネルギー需要が急増するインドにおいて、単純に石炭の消費量を削減することは現実的に見ても困難だ。増え続ける国内需要を満たすと同時に、燃料コストやエネルギー安全保障、環境問題にも取り組むためには、石炭と石油の国内生産能力を拡大、輸入量を抑えるとともに、よりクリーンな資源の活用が欠かせなくなってくる。例えば、大気汚染や地球温暖化の原因とされるCO2、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)それぞれの排出量で見ると、石炭>石油>天然ガスの順に、より環境負荷が小さくなると言われている。
 インドは、2030年までの1次エネルギー供給に占める天然ガスの割合目標を15%に設定している。図1に見るように、エネルギー消費全体に占めるガスの割合は依然小さいが、環境問題の顕在化に加え、昨今のLNG価格の下落が追い風になり、LNG需要は堅調に推移、今後も伸びることが予想される(図6)。折柄、2016年12月、モディ(Modi)首相は、安価で環境に優しい天然ガスこそが次世代の燃料であるとし、天然ガスに根差した経済を指向すると発言している。
 2017年に向けLNG輸入が引き続き増えることを見越して、現在大手石油・ガス会社のExxonMobilやGazpromとの契約交渉が進んでいると聞く。燃料の多様化と大気汚染改善を急務と考える同国政府は、5年の間に天然ガス消費を倍増する目標を打ち出している(約880億m3以上)。また現在、政府内部では、LNG輸入税の撤廃についての議論も行われているようだ。
 再生可能エネルギーも今後の伸びが期待されている。例えば、2016年12月にインド電力庁が発表した電力計画案において、2017年1月末時点の発電設備容量と2026年度末時点の同目標値を比較してみると、ガスの場合は、25.3GW(ギガワット:10億ワット)から30GWへの増加であるのに対し、再生可能エネルギーは、50GWから最大275GWと桁違いに伸びることになっている。もちろん、これはあくまで目標値であり、さらに設備能力が実際にフル活用されるとは限らないことは留意しておくべきだろう。とはいえ、2026年度末までに、石炭が再生可能エネルギーに首位の座を譲ると想定されていることは特筆に値する(図7)。

図1 インドの1次エネルギー消費量とその内訳(2015年)
出所:BP統計

図2 IEAによるインドの1次エネルギー需要見通し(新政策シナリオ)
出所:IEA

図3 IEAによるインドの電力供給見通し(新政策シナリオ)
(注)TWh(テラワットアワー)=1兆Wh=10億kWh
出所:IEA

図4 インドの燃料別発電量(2016年度)
出所:Central Electricity Authority

図5 インドの原油生産量と国内消費量
(注)コンデンセートを含む。
出所:BP統計

図6 インドの天然ガス生産量・輸入量と国内消費量
出所:BP統計

図7 インドの燃料別発電設備容量
(注)MW(メガワット)=100万ワット=1,000kW
出所:Central Electricity Authority

2. 石油と天然ガスをめぐる状況

 本章では、国内資源の最大活用を目指すインドの石油・天然ガス増産に向けた取り組みと、直面する課題について考察する。
 
(1)石油と天然ガス開発の歩み
 インドの資源開発は、成熟油田がある北東部のAssam-Arakan堆積盆地(Basin)と西部のMumbai Offshore Basinに加え、近年発見があった南東部のKrishna-Godavari Offshore BasinやCauvery Basin、北西部のRajasthan BasinやCambay Basinに集中しており、未探鉱・未開発の地域はまだ多く残されている(図8)。IEAによると、米国メキシコ湾沖における井戸掘削数は14?あたり1坑であるのに対し、インド沖合では146?に1坑と、探鉱の余地があることを物語っている。
 インドの原油確認埋蔵量は57億バレル(約8億トン)で、世界全体の0.3%を占める(BP統計)。古くから北東部のアッサム州(Assam-Arakan Basin)などで小規模な石油生産が行われてきたが、1970年代に西岸沖合のムンバイ・ハイ(旧ボンベイ・ハイ)油田が発見されたことで、本格的な原油生産が始まった。
 1990年代から2000年代初めにかけての生産量は70万~80万b/dで推移し、2009年に北西部ラジャスタン州の陸上油田マンガラが生産を開始したことを受け、2011年に91万b/dを記録するも、以降は伸び悩んでいる(図5)。2015年のコンデンセートを含む原油生産量は87万6,000b/dだった。
 一方、天然ガスの確認埋蔵量は1兆5,000億m3(約12億3,000万トン)で、世界全体の0.8%程度。埋蔵量の7割弱が海底に賦存すると見られている。インド最大の国営石油会社ONGC(Oil & Natural Gas Corporation)がオペレーターを務めるムンバイ・ハイからのガス生産量がインド全体の約5割を占めるが、生産量は減少傾向にある。2002年にはKrishna-Godavari Basinで複数の大規模な発見があり、2009年にKG-DWN-98/3(通称:KG-D6)鉱区が生産を開始するも、こちらも予期せぬ減退に見舞われている。
 インドは2004年にカタールからのLNG輸入を開始しているが、昨今の国内生産減退を受け、石油と同じく消費量全体に占める輸入比率は上がっている(図6)。ちなみに、周辺諸国との対立関係や米国政府の圧力(主にイラン)といった政治問題に阻まれ、国外からの輸入パイプラインは今のところなく、ガス輸入については全量をLNGの形で受け入れている。

(2)主要企業の顔ぶれ
 インドの上流事業は主に国営企業によって担われている(図9)。生産規模で見ればONGCが突出しており、それに次ぐのがOIL(Oil India)。原油生産量で見れば、この2社でインド全体の約3分の2を占める。このほか、同じく国営で、主に下流事業を手掛けるIOC(Indian Oil Corporation)、Bharat Petroleum Corporation、Hindustan Petroleum Corporation、GAILなどに加え、民間企業では、財閥系のReliance Industriesなども上流分野に参入している。
 現在インド全体で約550の鉱区が付与されているが、このうち400件弱はONGCがオペレーターを務め、そのほとんどで100%の権益を有している、まさに国内最大の上流事業者だ。
 一方で外国石油企業の進出事例は多くない。外国企業のなかでは、20年以上にわたってインド上流に携わってきた英国独立系企業Cairn Energyの存在感がとりわけ大きく、ラジャスタン州陸上(Onshore)、東岸・西岸沖合(Offshore)と幅広く権益を持ち、オペレーターも務める*2。このほか、ディルバイ・ガス田が位置する南東岸沖合のKG-D6鉱区のBPをはじめ、Eni、Shell、BHP Billiton、日本企業では丸紅(東岸沖PKGM-1鉱区のラワ油田の権益12.5%を保有)などが挙げられる。インド全体の生産量に占める外国企業の割合は1割程度と見られる。

(3)最近の探鉱・開発動向
 直近の開発動向はどうか。IEAのWorld Energy Investment 2016によれば、2014年夏以降の原油価格の下落を受け、2015年のエネルギー分野に対する世界全体の投資額は1兆8,000億ドルで、前年比8%減となった。このうち、上流部門への投資額は25%減少して5,830億ドル。事実、Cairn Energyもインドにおける2015年度のCAPEX(Capital Expenditure:資本的支出)を6割削減、バレルあたり55ドルで採算可能な井戸からのみ生産を続行するとした。
 これに対し、原油安はインド国営企業の上流戦略を変更させるほどの影響は及ぼしていないようだ。インド政府関係筋によると、両社の生産コストはバレルあたり37ドル程度とのことで、現在の油価でも採算が取れる。また、ONGCのサラフ(Sarraf)社長は、「油価下落への対応の一つは、商業性が不透明なうちは新規案件に手を出さないということだが、当社は逆の見方をしている」と述べており、油価低迷によるサービス費用の低下と燃料補助金負担の軽減、これに石油製品価格の自由化の流れとも相まって、国営企業にとってはむしろ追い風になっていることが窺える。ONGCによれば、2017年度のCAPEXは3,000億ルピー(約45億ドル)を見込んでいるとのことだ。
 油・ガス井掘削装置(リグ)の稼働数で見ると、資源価格の低迷で一時減少したが、2016年以降は回復基調にある(図10)。最近の傾向では、主に国営企業が、特にグジャラート州やラジャスタン州などの北西部陸上と南東部沖合で集中的に掘削を行っているようだ。ムンバイ沖、アッサム州近辺、そして北西部陸上の成熟油田からの生産量が自然減退の影響で減少傾向にある一方で、輸入依存度の低下が国策の一つとして掲げられている今、ONGCとOIL Indiaを中心に、国内生産量を増加させるための再開発やEOR(Enhanced Oil Recovery:増進回収法)、有望Basinの周縁での探鉱・開発事業が行われている。
 2016年9月30日、ONGCは、南東部沖のKrishna-Godavari Offshore Basinに位置する深海鉱区KG-DWN-98/2の開発に対して、向こう4年間で3,401億2,000万ルピー(約5,200億円)を投資すると発表した(図11)。同鉱区は、RelianceとBPが共同開発し、2006年6月にインドの深海域では初めて原油が発見された上述のKG-D6(KG-DWN-98/3)鉱区の西側に隣接する。開発対象は、水深300~3,200mの「クラスター2」。原油埋蔵量は9,426万トン(約7億バレル)、ガス埋蔵量は519億8,000万m3と見られ、ガスは2019年6月、原油は2020年3月に生産を開始する予定だ。ピーク時の生産量は、原油7万7,305b/d、ガス1,275万m3/dだという。
 さらに、ONGCは周辺鉱区の権益買収にも動いており、国内生産能力の増強に向け積極的な戦略を展開している。2016年10月初めの報道によれば、同社は、KG-OSN-2001/3(通称:Deen Dayal)鉱区の権益買収に関して、グジャラート州石油公社(GSPC)との間で覚書を交わしたようだ。同鉱区は2013年の生産開始を予定していたが、埋蔵量が当初見込みを大幅に下回ったこともあり、事業は遅れている。2014年8月には試験生産を開始したが、GSPCは売却のタイミングを窺っていた。現在両社間で同鉱区の埋蔵量や評価額に関する協議が行われている。
 また、今後深海域での探鉱・開発がさらに活発化することが期待されており、IEAは2015年に発表した見通しで、深海油田の生産量が2040年にかけて徐々に拡大していくと予測している(図12)。
 この他、インド国営企業の最近の動向として、外国上流資産や外国石油企業株式の買収が挙げられる。変動する原油価格から国内の石油産業を保護することを目的に、インド政府自身が自国企業に対し供給源の多様化と自主開発原油の強化を奨励していることが背景にある。最近の主な買収状況は表のとおりである。

図8 インドの主要な堆積盆地と開発進展レベル
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成

図9 インドの主な石油・天然ガス事業関係者
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成

図10 インドのリグ稼働数
出所:Baker Hughes

図11 インド南東部沖合の主要鉱区
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成

図12 IEAによるインドの石油生産見通し
出所:India Energy Outlook, IEA 2015

表 インド石油企業による最近の対外上流投資動向
買収時期 買収元 買収対象
上流資産買収
2013年 ONGC等 Videocon(印)モザンビーク資産(10%)
2013年 ONGC Anadarko(米)モザンビーク資産(10%)
企業買収
2015年 ONGC Rosneft子会社Vankorneft株式15%
2016年 Oil India等 Rosneft子会社Vankorneft株式23.9%
2016年 Oil India等 Rosneft子会社Taas-Yuryakh-Neftegazdobycha株式29.9%
出所:報道などを基に作成

3. 安定的なエネルギーの確保に向けたインド政府の取り組みと課題

(1)インドの上流投資環境
 インドの石油・天然ガス業界では、国営企業を中心に増産計画が進行中であるが、いまださまざまな問題を抱えている。まず、国内の石油産業に対する政府の統制力が強いことが挙げられる。生産物の販売価格に対する政府規制のほかに、入札ラウンド実施の際の落札基準が不明確であることも一例で、技術力の伴う外国企業よりも国営企業に優先的に鉱区を付与するなどの傾向が見られ、これが外資離れを引き起こす要因となっている。
 このほか、インフラの未整備をはじめ、煩雑な税制・規制、時間を要する許認可プロセスも難点で、インド政府当局による事業計画の承認に時間がかかり事業が遅延するなど、外資にとっては必ずしも進出しやすい国とは言えない。世界銀行が発表しているビジネス環境ランキングでは189カ国中130位と、投資環境の整備に向け改善の余地が大きい印象を禁じ得ない。
 一方で、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)は、World Investment Report 2016において、最も魅力的な投資先として、米国、中国に次いでインドを挙げている。このことから、今後の可能性に対する注目も大きいことが窺える。同国は、1991年の経済危機以降、自給自足に基づく閉鎖的な経済政策からの脱却を図り、現在では主要セクターのほとんどで外資の参入が可能になった。持続的な成長に向け経済の抜本的な立て直しを図る政府は、マンモハン・シン(Manmohan Singh)前政権時代より、外国からの直接投資(FDI)に対する規制緩和を徐々に進めている(通信分野の出資上限を74%から100%に引き上げるなど)。
 モディ現政権が推し進める経済政策「モディノミクス」は、海外からの投資促進に加え、インフラ整備(道路、鉄道、電力、上下水道など)や雇用拡大などを梃子に経済を活性化させることを目指している。しかし、そのためには、FDI規制はもちろんのこと、電力の不足、用地取得の際の紛争解決、人材確保など、追加的な法整備を必要とする事案が多いことも事実だ。
 また、もう一つの課題は、連邦政府と地方行政(州政府)の足並みが揃わないこと。インドは、七つの連邦直轄領を除けば、29の州によって構成されている。モディ首相率いる与党BJP(インド人民党)は、インフラ整備や工業用地のための農地収用を容易にすることを目的に、政令の改正に踏み切ろうとしたが、各州の農村部に支持基盤を持つ地方政党や有力者の反発に遭い、断念せざるを得なかった経緯がある。モディ首相は、2015年のインタビューで、土地収用問題は今後連邦レベルではなく各州レベルの判断に委ねると発言している。
 土地収用が円滑に進まない場合、エネルギー関連インフラ全般の整備に支障を来すことになる。例えば、石油や天然ガスの生産をどれほど拡大できたとしても、それを各都市に供給するためのパイプラインが整備されなければ意味がない。現在のところ、石油については特に北東部、ガスについては北東部と南東部で、供給網へのアクセスが不足している。GAILやRelianceが中心になって複数のパイプライン建設計画が進められているが、土地収用をめぐる係争に発展し、思うように進んでいないのが現状だ。
 しかし、明るい兆しも見えている。2017年3月、インド北部ウッタルプラデシュ州の議会選挙が行われ、与党BJPが圧倒的勝利を収めた。まさに15年ぶりの州政権奪還だった。不正蓄財の撲滅を目的にした高額紙幣廃止をはじめ、モディ首相の一連の経済改革に対する国民の信任表明だったと捉えていいだろう。

(2)入札ラウンドの実施と契約の改定
 本節では、石油・天然ガスのさらなる増産に向け、政府主導で進められている上流改革について触れたい。
 1999年、政府は公開入札による探鉱鉱区付与制度New Exploration Licensing Policy(NELP)を導入し、国営企業と外資を含む民間企業が平等に上流事業に参入できる体制への転換を試みた。外資出資比率が最大100%まで可能になったNELPの下で、これまで計9回の入札ラウンドが実施されている(図13)。
 しかし、上述のとおり、実際には現在でもインド企業、特に国営企業が独占的な地位を占めている。2002年に東海岸沖合深海でディルバイ・ガス田が発見されて以降は、インド上流への関心が一気に高まった。2006年に実施されたNELP-VIでは、BP、BG、Eni、Totalなど大手メジャーを含む多くの外国石油企業が応札した。結果、落札者はONGCやRelianceなど同国企業がほとんどだった。深海について知見を持たないONGCの落札には政府側の意図が働いたと見る向きもあり、政策と現実の間に齟齬があることは否めない。
 また、NELP自体にも制度上の問題点がある。それは、NELPが在来型資源のみを対象としていることだ。炭層メタン(CBM)、シェール、ガス・ハイドレートなどの非在来型にはそれぞれに別の法制度が存在し、しばしば混乱と非効率を招いてきた。また、契約形態に起因した障害もある。NELPは生産物分与契約(PSC)を採用しているため、石油・ガスを発見したコントラクター(企業)は、コスト回収が完了した後に、落札時に提示した割合に基づいてインド政府と収益を分け合うことになる。しかし、回収するコスト額の正確性をめぐって企業と政府間でしばしば対立が起こり、多くのプロジェクトが遅延を余儀なくされてきた。さらに、ロイヤルティの算出において、NELPは浅海と深海・大水深を区別していないため、よりリスクの高い後者に対するインセンティブが設けられていないのも企業側には不利な点だ。
 こうした問題を解決するため、2016年3月、インド政府はNELPにとって代わるHydrocarbon Exploration Licensing Policy(HELP)の導入を検討していることを明らかにした(図14)。
 HELPの詳細はいま詰めの段階にあるようだが、2017年3月10日に政府が承認したHELPの概要をこれまで判明している範囲で以下に記す。
 ライセンスの単一化:在来型・非在来型の別にかかわらず、あらゆる炭化水素資源を単一のライセンス制度の下で付与し、業務のスリム化を図る
 探鉱期間の延長:探鉱期間を、陸上鉱区は7年から8年に、洋上鉱区は8年から10年に延長
 PSCからRevenue Sharing Contract(RSC)への移行
 Open Acreage Licensing Policy(OALP)の導入:企業は、政府による入札ラウンド実施の発表を待たずとも、探鉱を希望する鉱区についての関心表明(Expression of Interest)をいかなる時でも提出することが可能に。政府は、企業から受け付けた関心表明を精査し、入札にかける
 ロイヤルティの変更:浅海鉱区に対するロイヤルティを10%から7.5%に縮減。深海・大水深鉱区に関しては、契約締結から7年間は免除、以降は深海5%、大水深2%と設定
 国内におけるガス販売および価格設定の自由化

 しかし、E&P(Exploration and Production)の活発化を目的としたこれら上流改革は、全てがバラ色なわけではない。特に、PSCからRSCへの移行については、生産開始からすぐに収益の分配が開始されることになるため、コスト回収額をめぐるこれまでの企業・政府間の係争は避けられる一方で、企業にとっては投下した探鉱コスト回収の不透明性が増すことになり、改善とは言い難いからだ。2017年3月のプラダン石油大臣の発言によれば、HELP導入後初となる入札ラウンドの実施は2017年7月中頃を予定しているという*3。応札が活況を呈するか否かは、インド政府が企業にとってどれだけ有利な税制措置を追加して提示できるかにかかっているだろう。
 また、インド政府は、2016年5月25日、Discovered Small Fields(DSF)と称する小規模油・ガス田の入札ラウンドの開始を発表(政府承認は2015年9月2日)、2017年2月に入札結果が発表され、同3月には落札企業との間で契約が締結された。NELP-IXの実施から6年ぶりの入札である。ただし、DSFの対象は探鉱鉱区ではない。ONGCやOIL Indiaなどの国営企業によって石油・ガスが発見されはしたが、地理的・技術的制約や規模の小ささと、政府によるガス価格統制ゆえに商業性が得られず開発段階に至らなかった鉱区を新たに入札にかけ、生産増につなげることが狙いだ。DSFでは、九つのBasinに位置する46鉱区(67の油・ガス田)が入札にかけられた(図15)。既に生産段階にあるBasinが主な対象で、陸上、浅海、深海域にまたがる総面積1,500km2超の原始埋蔵量は6.25億boeになるという。
 DSFにおいても、以下のとおり一部HELPと同様のインセンティブが設けられているので、HELPの前哨戦としても位置付けられよう。
 単一ライセンスの下で在来型・非在来型の別なく開発可能
 PSCからRSCへの移行
 生産される石油・ガスの販売および価格設定の自由化。ただし、石油は国内販売に限る
 国営石油会社の参加義務およびキャリード・インタレスト(Carried Interest)なし
 技術的知見に関する前提条件や作業義務はなし
 契約期間中の探鉱活動に対する制約はなし
 ロイヤルティは、陸上鉱区では、原油が12.5%、ガスが10%、浅海では、原油・ガスともに10%、深海鉱区では、原油・ガスともに最初の7年間は5%、以降は10%
 石油開発に要する物品・サービスに対しては関税を免除

 入札の結果、34鉱区に対し134の札が入り、インド国営企業4社とインド民間企業17社、そしてインドを中心に事業を展開するSouth Asia Consultancy(本拠地:シャルジャ、UAE)の合わせて22社が計31鉱区を落札した。2016年6月から8月末にかけ、ムンバイ、グワーハーティー(インド東北部アッサム州の都市)のほか、ヒューストン、カルガリー、シンガポール、ロンドン、ドバイにおいても精力的にロードショーが行われたにもかかわらず、結局のところインド企業主体の体制は変わらないままだ。原油・ガス価格の低迷に加え、2019年の総選挙までは様子見の傾向が続くとの観測もあり、もとより外国企業の参加を危ぶむ見方が強かった。

図13 NELPに基づいて付与された鉱区
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト
(http://dghindia.gov.in//assets/downloads/56cef5a59811bExploration_By_PVT_JV_WITH_Nelp_Link_4.pdf)

図14 インドの上流改革に向けた歩み
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://182.19.5.116/dsf/Content/pdf/04_DG_Presentation_Dubai.pdf)

図15 DSF入札ラウンドの対象鉱区の概要
出所:PWC Indiaの公式ウェブサイト(http://www.pwc.in/assets/pdfs/government-reforms-and-infrastructure-development/everything-you-need-to-know-about-the-dsf-bidding-round.pdf)

おわりに

 2016年11月のパリ協定の発効により、気候変動対策の必要性が世界の共通認識となりつつあるが、各国のエネルギー消費動向や燃料選択の行方は、その国が保有する資源の規模や性質、インフラの整備状況、経済の発展度合いなどによって大きく左右される。インドの場合、燃料コストやエネルギー安全保障問題、大気汚染、投資環境、インフラの整備状況、国内の政治闘争など、内外のさまざまな事情が複雑に絡み合う。これらの点を考慮に入れた上で、エネルギーを長期にわたって安定的に確保しようとするならば、石炭が一番重要なエネルギー供給源としての位置を占める状態はこれからも続くだろう。既述のとおり、インド政府機関が掲げる非石炭資源の増強計画は野心的であり、主要エネルギー源の転換がなされる兆しは今のところ見られない。石炭への依存度低減は非常に緩やかに進んでいくというのが最も現実的なシナリオだろう。
 しかし、脱石炭依存の流れが今後どのような時間軸で進んでいくかについては、上記で挙げた要因次第であるとともに、インド自身がどういう道を自らの意志で選び取っていくかにかかっている。現在インド政府が進めている上流改革などは、注目すべき動きの一つだ。新たに導入された契約条件においては、生産される石油・ガスの販売と価格設定をコントラクター(企業)の裁量で決定できることになっている。これは、価格の自由化をさらに推し進め、国内生産能力の増強につなげるための必要不可欠なステップだ。しかし、これまでも同様の契約改定をほのめかしつつ実際には実行に移されなかった経緯があることも事実だ。エネルギーの安定的確保に向けて、同国政府が市場の自由化をどこまで本気で進めるつもりなのか、今後の動向に注目したい。

<注・解説>
*1:インドの会計年度は4月~翌年3月。
*2:2010年、Cairn Energyはインド部門Cairn Indiaの一部株式をVedanta Resourcesに売却。Cairn Indiaは現在同社の子会社。
*3:政府側にとってどれだけ高い収益分配率を提示できるか、が一番重要な入札パラメーターとなる。

執筆者紹介

増野 伊登(ましの いと)
愛媛県松山市出身。
学  歴:2008年、慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。
職  歴:2011年8月から2013年8月にかけ、専門調査員として在アラブ首長国連邦(UAE)日本国大使館に駐在。2013年11月よりJOGMEC調査部。現在のところ、中東(主にイランとイラク)、アフリカ(サブサハラ)、南アジアなどの地域を担当している。
趣  味:25年来の趣味は漫画。とにかく面白い漫画を発掘することに無上の喜びを感じる。
近  況:仕事でも趣味でも目を酷使しているので、視力の低下はもちろんのこと、ドライアイをこじらせて困っている。