石油・天然ガスレビュー
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タイトル 石油精製技術と石油需給動向~現状と今後の見通し~ 
著者 横溝 晃 
作成日 2017年09月20日 
地域 グローバル                                                       
分野 エネルギー一般   基礎情報
石油精製技術と石油需給動向~現状と今後の見通し~

はじめに

 石油需要の大きな変化(日本、EUでは、既にピークアウトして減少。一方、中国、インド、OECDを除くアジアとアフリカでの増加*1、さらには将来予測される電気自動車〈EV〉へのシフトを中心とするモーター燃料の大きな変化など)および供給側の事情(シェールオイル、オイルサンド等非在来型原油の増加、中東産油国の政情不安)、また、世界レベルでの自動車・船舶燃料の硫黄分等の品質規制やCO2削減・省エネ推進など、石油を取り巻く状況は大きな変化に直面している。この変化を正しく認識し今後の対応を考える一助とするため、石油精製技術と石油需給動向について、わが国を中心とした現状と今後の見通しを概説する。
 まず、代表的な石油精製フローなど石油精製プロセス技術の概要を説明し、次に処理する原油性状などからわが国製油所の特徴に関する説明を試みた。石油需給動向の現状と今後の見通しとして、世界の原油と石油製品の生産量、原油精製能力、ガソリンや軽油の硫黄分規制などについて解説した。まとめとして、石油精製技術と設備対応、ならびに石油需給面から留意すべきことを考察した。

1. 石油精製の仕組み

(1)代表的な石油精製フロー
 石油精製とは、原油に含まれるさまざまな分子量、分子構造を持つ炭化水素化合物の集合体を蒸留、水素化精製、接触分解、接触改質等の基本工程を経て、各種石油製品を製造する一連の工程である。国内製油所の代表的な生産フローを図1に示す。
 なお、石油精製から得られるナフサや芳香族(ベンゼン、トルエン、キシレンの芳香族炭化水素、いわゆるBTX)を原料として石油化学工業が成り立っている*2。

図1 代表的な石油精製フロー
出所:JPEC作成

(2)主要な石油精製プロセス*3
(1)原油の常圧蒸留装置と減圧蒸留装置
 原油常圧蒸留装置(CDU:Crude Distillation Unit)により、沸点範囲ごとに、それぞれナフサ(Naphtha)、灯油(Kerosene)、軽油(LGO:Light Gas Oil or Diesel)、常圧残油(AR:Atmospheric Residue)などの留分に分離する*4*5。常圧残油は、さらに減圧蒸留装置(Vacuum Distillation Unit)により、減圧軽油(VGO: Vacuum Gas Oil)と減圧残油(VR: Vacuum Residue)を分離する。
 容量ベースでの原油から常圧蒸留と減圧蒸留によって分留される各留分のイメージを図2に示す。沸点範囲の異なる留分ごとに分ける温度のことをカット温度と呼んでいる。図2に示すカット温度は典型的な数値で、実際には製油所や通油する原油種により調整されている。また、温度は米国式では華氏(?F)で表記され、常圧残油ARは650?F(343℃)、減圧残油VRは1000?F(538℃)や1050?F(566℃)などが使われている。
 なお重油成分は、蒸留性状の他にも化学性状、溶媒抽出やTLC(Thin-Layer Chromatography)等のカラムにより極性で分けられ、それぞれに対応した名称で分類されている(図3)。

図2 原油から分留される各留分イメージ
出所:JPEC作成

図3 重質油成分の分類(蒸留性状と化学性状)
出所:JPEC作成

(2)水素化精製(水素化脱硫)装置
 水素化脱硫装置(HDS:Hydro-Desulfurization Unit)により、各留分ごとに含有する不純物、特に硫黄分を取り除き各製品の品質規格(スペック)以内に調整する。原料油の種類によって、軽質留分から重質留分の順に、ナフサ水素化精製装置、灯軽油水素化脱硫装置、減圧軽油水素化脱硫装置(減圧軽油脱硫装置、もしくは「間脱」と略する場合あり)、重油直接脱硫装置(減圧残油脱硫装置、または「直脱」と略す)に分類される。留分や製品規制値により反応条件や運転過酷度が大きく異なるため、対応して各装置設計や運転条件が決められている(表1)。
 装置内部には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)などの金属をアルミナやシリカ-アルミナから成型された担体に担持(原子オーダーに近い金属微粒子を担体上に固定)した固体触媒、通称:脱硫触媒、が充てんされている。高圧水素との反応によって原料油中の不純物である硫黄、窒素、酸素はそれぞれ硫化水素、アンモニア、水となって炭化水素から分離される。また炭化水素と水素の反応として、オレフィンの飽和、芳香族炭化水素の飽和、炭素鎖の切断である水素化分解などが起こる。さらに重油水素化脱硫装置では、重油中に含まれるバナジウム(V)、ニッケルなど微量金属分が、反応の過程で触媒上に沈着することで炭化水素から分離され除かれる。

表1 水素化処理反応の代表的プロセス条件
水素化処理プロセス 温度(℃) 水素分圧(気圧) LHSV*(h-1) H2/Oil(Nm3k?-1) 水素消費量
(Nm3k?-1)
ナフサ 250~330 5~30 1~8 30~80 5~10
灯油 250~350 10~40 3~10 50~120 5~15
軽油 300~400 40~80 0.7~4 150~300 30~60
減圧軽油脱硫(間脱) 330~390 35~90 0.25~2 200~500 45~80
減圧軽油水素化分解 370~430 100~200 0.6~2 800~2,000 270~360
常圧残油脱硫(直脱) 350~430 120~200 0.1~0.5 600~1,500 100~250
*:LHSV(液空間速度):Liquid hourly space velocity
出所:加部利明監修、水素化精製、表1.1.9を参考に一部修正*6

(3)流動接触分解装置
 重油留分を流動床を用いて微細な触媒の作用によって分解し、ガソリン等、低沸点の炭化水素に変換するプロセスを、流動接触分解装置(FCC:Fluid Catalytic Cracking)と呼ぶ。通常、重油を原料として、ガソリンを50%前後の収率で得る目的で使われる装置で、製油所で重要な位置を占める。使用される触媒は、粒径数十マイクロメートル(μm)程度の球状のゼオライト系固体触媒である。触媒は流動層状態で装置内を循環し、分解反応と触媒再生(コーク燃焼)を繰り返すので、反応活性に加えて良好な流動性や耐摩耗性・耐熱性が求められる(図4)。
 FCC装置は、原料重油として主に脱硫処理後の減圧軽油(VGO)を用い、分解してガソリンを得るプロセスとして利用されてきた。製品としてガス分も得られ、特に需要の多いプロピレンも得られるため、最近では反応過酷度を増しプロピレン収率向上が指向されている。また、重油直接脱硫装置からの脱硫重油(DSAR:De-Sulfurized AR)等を原料とするFCC装置を、重油(残油)流動接触分解装置(RFCC:Residue FCC)と呼んで区別される。

図4 流動接触分解装置とFCC触媒
出所:JPEC作成

(4)接触改質装置
 固体触媒を用いた接触改質(catalytic reforming)反応により、原油から蒸留で得られたナフサ留分のオクタン価を高めガソリン基材を製造する装置である。白金(Pt)担持アルミナにレニウム、ハロゲン(塩素など)を添加したバイメタル触媒が主流であり、一般に、世界で最も多いUOP社のプロセス名(Platformer)からプラットと通称されることが多い。
 おもな反応は六員環シクロパラフィン(シクロアルカン)の脱水素反応で、芳香族と水素が得られる。このほかに五員環シクロパラフィンの異性化脱水素反応、パラフィンの環化脱水素反応、パラフィンの異性化反応などにより、原料ナフサのオクタン価を上げるとともに、製油所内の水素供給源ともなる。反応に伴い炭素質のコークが析出することで徐々に失活した触媒は、コークの燃焼除去、塩素化、還元によって再び改質反応に使用可能となる。これを触媒再生という。旧来は装置稼働を一旦停止して触媒再生を行う方式が採用されていたが、最近では運転中に触媒を連続的に抜き出して専用の触媒再生設備で再生して反応器に戻す連続触媒再生式設備 (CCR:Continuous Catalyst Regeneration)が主流となっている。

(5)熱分解装置(コーカーなど)
 熱分解装置とは、触媒を用いることなく高温下で重質油を熱分解し、軽質炭化水素と石油コークス(Petro Coke)を産出する設備の総称である。石油精製では、主に減圧残油などの重質油を分解し、分解ナフサや軽油を製造するアップグレーディング技術(2章(2)、(3) ii 参照)として利用されている。用途に応じて異なるプロセスが実用化されており、残油の粘度を下げるVisbreakingプロセス、残油を軽質油と石油コークスに転換する(Delayed)Cokingプロセス、また高温スチームを反応塔に吹き込み残油を軽油とピッチに転換するEUREKAプロセスやHSC(High-conversion Soaker Cracking)プロセスが知られている*3。

(6)潤滑油製造装置
 潤滑油は、ベースオイル(基油)と各種の添加剤を組み合わせ、その使用目的に応じて調合され製造される。潤滑油のベースオイルは、石油精製プロセスにより精製した鉱油系ベースオイルが一般的である。一部特殊用途向けとして、化学的に合成された合成油、ポリアルファオレフィン(PAO)なども用いられている。
 潤滑油ベースオイルの製造方法を図5に示す。図中(1)は、重質油成分をさらに減圧下で蒸留し、潤滑油として有効な成分を取り出した後、高温・高圧の条件下で精製(水素化改質)する方法を示している。この方法には、原油の性質に左右されない安定したベースオイルが得られる特徴がある。一方(2)は、減圧蒸留されたものをまずフルフラール注1などの溶剤に溶かし、潤滑油として有効な留分を分離させた後、比較的低温・低圧の条件下で不純物を取り除く。いずれの方法でも、脱ロウ装置で潤滑油留分に溶け込んでいるワックス分を取り除いた後、粘度の低い軽質留分から粘度の高い重質留分まで、いくつかの粘度グレードに分け、ベースオイルが取り出されている。

図5 潤滑油ベースオイルの製造方法
出所:出光興産(株)ホームページ

2. 日本の製油所の特徴:原油性状と重質油処理を可能にするプロセスなど

(1)代表的な原油性状と特徴
(1)代表的原油と産地
 原油は、天然に産出する炭化水素の混合物が大半を占める可燃性油状物質であり、硫黄化合物、窒素化合物、金属類を含み、多少の泥水分も含んだものの総称である。原油は産地によって物理的、化学的性質が異なり、生産量とともにこれら品質が考慮されて取引がなされている。産油国は多岐にわたっているが、よく使われる分類として石油輸出国機構(OPEC:Organization of the Petroleum Exporting Countries)による「OPEC原油」および「非OPEC原油」の二つに分類されてきた。最近ではこれらにオイルサンドなど「非在来型原油」を加えて大きく3分類とし、そのなかで代表的な原油として選定した計15種を表2に示す。なお、OPECは1960年にイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国を加盟国として結成され、2017年1月現在では13の産油国が加盟しており、2015年次統計で石油生産量42%を占める。

表2 代表的原油の産地と性状
原油名 産地 API度* CCR**
(wt%) 硫黄
(wt%) メルカプタン硫黄 (wtppm) V
(wtppm) Ni
(wtppm)
OPEC原油(OPEC Crude Oils)
Al Shaheen Qatar 28.0 - 2.37 359 - -
Arab Light Saudi Arabia 33.0 - 1.83 - 16.2 4.3
Arab Heavy Saudi Arabia 27.6 - 2.94 - 58.4 18.8
Basrah Light Iraq 29.7 6.90 2.85 12 52.0 14.0
Iranian Heavy Iran 30.1 5.78 1.78 - 96.0 21.0
Kuwait Kuwait 30.5 2.60 35.0 10.0
Murban UAE 40.2 1.50 0.79 31 3.0 2.0
非OPEC原油(Non-OPEC Crude Oils)
Brent UK 38.5 - 0.40 - 6.2 1.5
Marlim Brazil 19.0 - 0.78 - 28.0 19.0
Maya Mexico 21.8 - 3.33 - - -
Minas Indonesia 33.9 3.52 0.09 - 0.06 12.43
Urals Russia 31.3 - 1.35 - 37.4 11.1
非在来原油(オイルサンド由来、 Non-OPEC Non-Conventional Crude Oils)
Cold Lake Canada 19.7 11.91 3.77 58 163.0 63.4
Albian Heavy Canada 19.4 - 2.51 - 73.0 32.0
Premium Albian Canada 31.3 - 0.03 - - -
*:API度=141.5/(比重60/60。F)-131.5  **:CCR(コンラドソン残留炭素分):Conradson carbon residue注2
出所:Energy Intelligence資料を基にJPEC作成*7

(2)品質指標、密度と硫黄含有量
 一方、品質面の物理的指標で最も重要な尺度が「密度」で、API度(API gravity)として知られている。通常、API度が30より小さいものは「重質原油」、34より大きいものは「軽質原油」と呼ぶ。さらに、その中間を「中質原油」と呼ぶ場合もある。化学的品質では「硫黄含有量」が重要な指標となり、石油製品にとって硫黄は取り除くべき環境汚染物質であるため、最終製品までの硫黄除去コストが原油価格に影響する。硫黄含有量が1wt%以上の原油を「高硫黄原油(Sour crude)」、0.5wt%未満を「低硫黄原油(Sweet crude)」と呼ぶ。図6に示されるように原油のAPI度が低く重たいものは、含有する硫黄量のみならずコンラドソン残留炭素分(CCR:Conradson carbon residue)注2や金属分も多くなる傾向から、原油精製処理の難易度が増すため、一般にAPI度が高い原油より安価で取引される。このAPI度などに伴う原油の価格差を「重軽格差」(重質原油と軽質原油の価格差)という。

図6 原油のAPI度と硫黄含有量の関係(表2のデータをプロット)
出所:Energy Intelligence資料を基にJPEC作成*7

(3)製品(留分)収率
 さらに重要な原油性状として製品(留分)収率があり、原油を常圧蒸留装置(CDU)で処理した際に得られる各留分得率としてデータベース化されている。一例として、API度の大きく異なる4原油の留分収率を図7に示す。これらのデータは、実際に製油所で原油を処理する際に、得られる製品予測とともに運転条件の設定などに反映される。マーバン(Murban)のような軽質原油では、いわゆるボトム分と呼ばれる残油が少なく、ガソリンや灯軽油分など有効成分を多く含んでいる。一方、アラブヘビー(Arab Heavy)のような重質原油は、残油が過半数を占め有効成分を得るため、ボトム分を分解や改質などのプロセスにより軽質油に転換するアップグレーディング処理を石油精製過程で意図的に行う必要があり、その処理に適した装置構成が必要となる。前述の重軽格差から重質原油は比較的低価格で購入でき量も確保しやすいが、アップグレーディング装置を新規に採用する場合は、コスト(装置建設費、固定費、変動費)をかけても十分なマージンが得られるかどうかを慎重に判断する。

図7 4種の原油(カッコ内はAPI度)の留分収率
出所:Energy Intelligence資料を基にJPEC作成*7

(2)石油需要と原油種に対応した日本の製油所の特徴
(1)減少傾向の石油需要
 日本国内の石油需要は、「脱石油」によるエネルギー政策、エコカーの普及に代表される省エネルギー推進、さらには人口減という社会構造変化により、燃料油合計の需要量として1999年をピークに減少傾向にある*8。油種別に見ると、ジェット燃料油以外はすべて減少に転じており、B・C重油は1973年、軽油1996年、灯油2002年、そしてガソリンでさえ2004年に需要ピークを記録している (3章、図17「日本の石油製品需要」)。
(2)高い中東原油依存度
 わが国は、国内の石油製品需要を賄うため、原油と石油製品のほぼすべてを海外、特に中東を中心としたOPEC産油国に依存している(2014年の中東地域依存度:82.7%、OPEC依存度:83.2%)。原油輸入先の中東・OPEC依存度が高い理由は、サウジアラビアを主とする中東・OPEC原油が、生産量(供給量)が豊富で、比較的安価な生産コストに支えられ安定した供給が期待できることが要因として挙げられる(図8)。
 表3に、日本、米国および欧州(EU)での2006~2015年における処理原油の平均APIと平均硫黄分量を示す。国内輸入原油のAPIは35.6~36.3、硫黄分は1.39~1.47%で、アラブライト(Arab Light)よりやや軽めの性状である。一方、米国製油所の受け入れ原油のAPIは30.2~31.8、硫黄分は1.39~1.47%、欧州(EU) の輸入原油のAPIは34.8~35.8、硫黄分は0.87~0.99%であり、中東依存度がそれぞれ20%、22%と高くないことが反映されている。

図8 原油生産コスト(推定値)
出所:Energy Aspects, Nov. 2014*9

表3 受け入れ原油の性状
年 日本 米国 欧州(EU)
Avg. API gravity(60°F) Average Sulfur(wt%) Avg. API gravity(60°F) Average Sulfur(wt%) Avg. API gravity(60°F) Average Sulfur(wt%)
2006 35.63 1.44 30.44 1.41 35.18 0.99
2007 35.57 1.43 30.42 1.43 35.23 0.93
2008 35.56 1.44 30.21 1.47 34.78 0.93
2009 36.18 1.45 30.34 1.41 35.28 0.87
2010 35.77 1.47 30.47 1.39 35.75 0.92
2011 35.97 1.44 30.69 1.40 35.01 0.98
2012 35.97 1.41 31.00 1.42 34.80 0.95
2013 36.31 1.39 30.49 1.44 34.88 0.90
2014 36.19 1.41 31.77 1.45 34.96 0.91
2015 36.00 1.45 31.46 1.39 35.12 0.97
出所:各種資料を基にJPEC作成

(3)日本の製油所の特徴
 以上の特異性から、日本の製油所の特徴として大きく以下の3点が挙げられる。

(i)脱硫精製能力の充実
  日本は戦後に急速に工業化を進め、その弊害として大気汚染等による公害が問題となった。その理由の一つとして、早くから比較的硫黄分を多く含む中東系原油を処理していることが原因の一つと考えられ(図6)、対策として世界に先駆けて燃料油中の硫黄分低減が国策として推進された(1970年代)。さらに2000~2010年頃にかけて、自動車からの排出ガスによる大気環境の悪化を抑制すべく、自動車燃料であるガソリンと軽油の硫黄分の大幅な低減が図られた。特にディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)や煤・粉塵などの粒子状物質(PM)を削減するため、エンジン後処理として脱硝触媒やディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)が搭載される。強化された環境規制に対応するためには、これら後処理に悪影響を及ぼす硫黄分の大幅な削減が必須とされ、石油業界は500ppmから50ppmを2003年に、さらに10ppm以下の規制を2年前倒しで2005年に実現させた*8。
  ガソリン硫黄分も従来の100ppm以下から、2005年までに50ppm、さらに2008年までに10ppm以下と段階的に国内規制をしたにもかかわらず、3年前倒しとなる2005年の10ppm以下を実現させた。硫黄分10ppm以下の燃料はサルファーフリーと呼ばれ、2005年からサルファーフリーガソリン・軽油の国内供給開始は、世界に先駆けた対応として知られている。
  このため、日本の製油所の脱硫装置設置率(CDU処理量に対する脱硫装置合計の処理割合)は90%で、世界的に最も高い水準である(3章、表5「常圧蒸留装置に対する2次装置能力の比率」)。

(ii)ガソリンや石化原料を得るための分解設備の充実
  図7に示したように比較的軽質な原油でも残油を多く含む一方、石油製品需要の変化で、残油の需要は減少する一方で、ナフサ、ガソリン、灯軽油が必要とされる。そのため残油のアップグレーディングが行われる。典型的な残油アップグレーディングスキームを図9に示す。常圧残油(AR)や減圧残油(VR)を原料にして、重油直接脱硫装置(RDS)、FCCまたはRFCC、沸騰床型(Ebullated Bed)の減圧残油水素化分解装置(H-Oil等)、熱分解装置(コーカー)が対応するプロセスとして知られている。
 前述のように日本は原油の大半を中東に依存している。表2のとおり、中東産原油はメタル(Ni+V)を比較的多く含有しているものの、大半は100ppm以下であり、この場合、固定床であるRDSとRFCCによる組み合わせが最も有効であることが知られている(図10)。そのため、日本ではRDS+(FCC)RFCCの組み合わせを採用している製油所の割合が高いことが特徴である*11。
(iii)地域との共栄を図る環境配慮型
  日本の石油産業は早くからクリーンな製油所を目指し、大気、水質、騒音、廃棄物、緑化対策などに努力してきた。その結果、製油所からの廃油、汚泥、廃酸、廃アルカリ、集塵機の捕集ダストなどの産業廃棄物に対し、極めて低いほぼゼロレベルの低減を達成している(図11)。

 さらに、国内製油所では敷地面積の約10%を緑地とし地域環境に配慮し、製油所の緑地面積の割合は一般の製造業に比べても高い水準と言われ*8、グリーンベルトに囲まれた景観で親しまれている(写)。

図9 残油アップグレーディングスキーム
出所:JPEC作成

図10 原油性状からの残油アップグレーディング技術の位置づけ
出所:S. Inoue et al., Catal. Surveys Jpn., 2, 87(1998)*10

図11 製油所などの廃棄物発生量の削減
出所:JXエネルギー CSR報告2016

写 グリーンベルトに囲まれ市街地に隣接する製油所・工場
出所:出光レポート2016「持続可能な社会にむけて」

3. 世界の石油需給の現状

(1)世界の原油需要と取引ルート
 2016年の世界原油生産量*12は、約9,500万BPDで前年比40万BPDの微増となり、2013年以来の生産伸び率の鈍化となった。生産量を国別に見ると、イラン70万BPD、イラク40万BPD、サウジアラビア40万BPDと、それぞれ増加した一方、米国-40万BPD、中国-31万BPD、ナイジェリア-28万BPDの減産となった(図12)。
 2013年の世界の原油取引*13において、アジアの輸入量は260万BPD増加して2,210万BPDとなって世界原油市場の65%のシェアを占めた(図13)。
 北米は、米国でのシェールオイル増産により、石油製品の輸出が増加傾向にある。この地域はガソリンの輸入地域でもあるが、米国産原油の増産、製油所の高稼働、自動車の燃費改善と輸送用代替燃料の増加等により、輸入量が減少している。また、米国はLPGと軽油の輸出地域でもある(図14)。
 南米は、LPG、ガソリン、軽油の輸入量が増加し、輸入地域となっている。
 アフリカはLPG、ナフサの過剰生産により、小規模ながら輸出地域である一方、ガソリン、軽油の輸入量は増加している。
 欧州西部は軽油、灯油/ジェット燃料油の輸入地域となっている。一方、ガソリンは米国とアフリカへ輸出している。
 欧州東部は軽油と残渣燃料油の輸出地域になっている。製油所のアップグレードにより、残渣燃料油の輸出量は減少傾向にある。
 中東はLPG、ナフサ、灯油/ジェット燃料油の主要輸出地域である。この地域は、製油所生産能力の増強により、石油製品の最大輸出地域となっている。
 アジアは、製油所の生産能力を増強しているにもかかわらず、供給が需要の伸びに追いつかず、LPG、ナフサ、残渣燃料油の最大輸入地域となっている。
 原油輸入国では、米国原油輸出解禁により原油調達先の多様化を進めている。また、米国を中心に石油製品をショートバランスのアジア地域に輸出しているため、アジアの石油製品市場は、価格競争が激化している。

図12 世界の原油生産量
出所:BP HP*12

図13 2013年 世界原油の取引ルートと2019年までの見通し
出所:OECD IEA 2014*13

図14 2013年 世界の石油製品の取引ルート
出所:JPEC News, 2015年5月*14

(2)世界各地域の製油所装置能力の現状
 2015年の世界原油精製能力*15は9,745万BPDで、地域別にはアジア、北米、欧州の順に精製能力が高くなっている。アジアの製油所原油処理能力は3,092万BPDに達し、製油所の精製能力と需要が近年急速に拡大している。特に中国とインドで相当数の大規模な新規製油所プロジェクトが見られる(表4)。
 アジアの原油蒸留能力に対する2次装置能力の比率を見ると、熱分解・接触分解(ディレードコーカー、水素化分解、FCC)は25%、水素化脱硫処理能力は31%にとどまり、2次装置装備率は全世界平均よりも劣っている(表5)。北米製油所は、2次装置であるディレードコーカー、FCC、水素化分解の装備率が高く、品質面で優位にある。国内製油所は、水素化脱硫装置の装備率が高く、石油製品の低硫黄化が進んでいることが分かる。

表4 世界各地域の製油所装置能力の現状
地域 常圧蒸留 ディレード
コーカー FCC 水素化分解 水素化脱硫
合計
日本 3,917 96 773 71 3,542
アジア 30,922 1,913 4,046 1,788 9,553
中東 9,225 667 420 620 2,197
欧州 14,009 1,648 1,995 1,221 8,317
東欧 2,496 246 364 280 1,458
北米 22,524 3,626 6,992 2,546 19,778
中南米 6,548 655 1,172 112 1,295
アフリカ 3,448 147 223 100 819
ロシア・
NIS 7,648 686 580 201 3,147
大洋州 625 0 135 22 453
全世界 97,445 9,587 15,927 6,891 47,018
出所:JPEC 2016

表5 常圧蒸留装置に対する2次装置能力の比率
地域 コーカー FCC 水素化分解 水素化脱硫
合計
日本 2 20 2 90
アジア 6 13 6 31
中東 7 5 7 24
欧州 12 14 9 59
東欧 10 15 11 58
北米 16 31 11 88
中南米 10 18 2 20
アフリカ 4 6 3 24
ロシア・NIS 9 8 3 41
大洋州 0 22 4 72
全世界 10 16 7 48
出所:JPEC 2016

(3)世界の石油製品の需要*16
 過去15年間、世界のエネルギー需要は、発展途上国の人口増加と経済発展に伴い、著しく増加した。石油は、エネルギー市場で最大のシェアを有し、特に輸送部門において継続した有力なエネルギー源である。ガソリンと中間留分は、主要な輸送燃料源であるが、船舶用重油も重質油燃料市場の35%以上を占めている。さまざまな地域で、パイプラインインフラ、鉄道および輸送産業の成長が需給の溝を埋める重要な役割を果たしている(表6)。
 2016年の米国ガソリン需要*17は2015年比1.6%増加し、932万7,000BPDとなり、リーマンショック前のピークである2007年の928万6,000BPDを上回った。旅行等による自動車利用は堅調であるが、自動車の大幅な燃費改善により、ガソリン需要はピークを迎えている(図15)。
 EUの石油製品の需要*17は、過去6年間で8%減少した。減少した理由は、主にガソリンと重油の需要減による(図16)。
 国内の2014年度石油需要*19は、燃料油合計で約1億8,300万k?で、前年度比5.5%減少となった。1988年度に石油需要が2億k?を超えたが、2009年度以降は2億k?を下回っている。ジェット燃料油以外の油種は、前年度実績を下回る結果となっている。
 燃料油の総需要量は、1999年度の2億4,600万k?をピークに減少傾向が続いている。軽油の需要ピークは早く、1996年度の4,600万k?、ガソリンは2004年度の6,100万k?、灯油は2002年度の3,100万k?が需要のピークとなっている。石油需要減少の構造的要因として、(1)脱石油政策の展開、(2)社会構造の変化、(3)地球温暖化対策が挙げられる(図17)。
 世界の石油製品需要は増加しているが、国内と欧州の需要は、継続して減退している。国内と欧州では、製油所の閉鎖等による原油処理能力の削減が実施されているが、生き残りを懸けた競争力強化が課題である。

表6 世界の石油製品需要(2010~2014年)
Product 2010 2011 2012 2013 2014
Gasoline 22.72 22.66 23.07 23.47 23.79
Naphtha 6.19 6.07 6.37 6.54 6.64
Jet Fuel 5.17 5.30 5.35 5.50 5.56
Kerosene 1.18 1.10 1.06 1.09 1.10
Middle Distillate 25.73 26.37 26.60 27.15 27.25
Road Diesel 15.28 15.83 16.10 16.43 16.52
Off-Road Diesel* 3.33 3.44 3.45 3.51 3.55
Distillate Bunker 0.76 0.74 0.66 0.66 0.66
Other Gas Oil 6.37 6.35 6.39 6.55 6.52
Residual Fuel 8.67 8.55 8.35 8.09 7.93
Bunker 3.28 3.30 3.21 3.08 2.93
LPG 8.90 9.20 9.35 9.90 10.12
Other Products** 8.89 8.90 9.01 8.77 8.80
Total 87.45 88.16 89.17 90.53 91.19
 *:Contains diesel used in agriculture and on rail.
**:Lubricants, asphalt, refinery fuel gas, coke and miscellaneous product.
出所:Hart Energy, 2015

図15 米国石油製品需要
出所:Green Car Congress HP*17

図16 EUの石油製品需要
出所:Fuels Europe Statistical Report 2016*18

図17 日本の石油製品需要
出所:METI HP *19

(4)世界のガソリンと軽油の硫黄分規制*16
(1)2015年のガソリン硫黄分規制
 2015年の世界のガソリンの硫黄分上限は、先進国地域では10ppmで規制されているが、500ppm以上の途上国まで幅広く分布している(図18)。
 欧州では、対応が遅れているベラルーシ、グルジアおよびロシアが2015年より50ppmに移行した。
 アジアでは、キルギスタンとウズベキスタンは、2015年1月から500ppmに移行したが、2,000ppmを市場に残した。
 2015年時点でガソリン規制のサルファーフリーを実施している国は、日本、韓国、台湾、EUのみであり、日本のガソリン輸出競合国は、近隣国だけであった。

図18 2015年 世界のガソリン硫黄分上限
出所:Hart Energy, 2015*16

(2)2030年までのガソリン硫黄分規制
 2017年までに年平均硫黄分上限を10ppmまで削減する予定の米国を含めて、計14カ国がガソリンの硫黄分上限を10ppm、15ppmまたは50ppmに引き下げる見込みである。
 アジアでは、中国が2017年より10ppmに移行している。2020年までにインドとマレーシアが硫黄分上限を10ppmまで引き下げ、2021年にはベトナムが10ppmに引き下げる予定である。
 南米では、ペルーが2017年までに2,000 ppmから50ppmに引き下げる(図19)。

図19 2025~2030年世界のガソリン硫黄分上限
出所:Hart Energy, 2015*16

(3)2015年の軽油硫黄分規制
 2015年の軽油硫黄分上限も、先進国地域の10ppmから途上国の2,000ppm以上まで幅広く分布している(図20)。
 欧州では、2015年よりロシアが50ppm、ベラルーシが10ppmに移行した。
 アフリカでは、2015年より東アフリカ共同体(ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ)が50ppmに移行した。
 南米では、パラグアイが2015年1月以降、1,800ppmから1,300ppmに引き下げ、2015年7月から高硫黄油種を段階的に廃止して500ppmに切り替えた。また、油種を3種から2種に減らして製品構成を50ppmと500ppmとした。
 2015年時点で軽油のサルファーフリーを実施している国は、日本、韓国、台湾、豪州、ニュージーランド、EUだけで、日本の軽油輸出競合国も、近隣国のみであった。

図20 2015年 世界の軽油硫黄分上限
出所:Hart Energy, 2015*16

(4)2030年までの軽油硫黄分規制
 2030年の世界の軽油硫黄分規制は、多くの国でサルファーフリー化が進み、日本の品質レベルと同等となる見込みである。輸出市場は、現状以上に激化すると推定される。
 アジアでは、中国が、2017年より10ppmに移行している。インドは2019年に一部都市で50ppmから10ppmに移行し、2020年からインド全域で10ppmとなる見通しである。ベトナムが2021年までに10ppm、インドネシアは2025年までに50ppmに引き下げる。
 南米では、ペルーが2016年に5,000ppmから15ppmに引き下げた。
 2025年から2030年まで燃料品質規格の変更を表明している国はない(図21)。

図21 2025~2030年世界の軽油硫黄分上限
出所:Hart Energy, 2015*16

4. 今後の石油需給見通し

(1)地球温暖化対策
(1)国連気候変動枠組み条約 第21回締約国会議(COP21)に基づいたエネルギー政策*20
 2016年11月に気候変動に関するパリ協定(COP21)が発効、今後、低炭素エネルギーの推進が期待されている。
 WEO2016*20には、三つのシナリオ注3が記されているが、New Policies Scenarioにおいて、2040年までに世界のエネルギー需要は30%上昇し、燃料の消費が増加するが、そのうち、代替燃料、新エネルギーが進捗すると予測されている(図22)。

図22 地球温暖化対策に基づく原油需要と価格の見通し
出所:IEA,WEO2016*20

(2)2016年の世界バイオ燃料生産量*12
 2016年の世界のバイオ燃料生産量は、前年比2.6%増加した。過去10年間の平均伸び率は年率14.1%であった。エタノール生産量の最も多い国は、米国であり、バイオディーゼル生産量の多い地域は、欧州・ユーラシアである(図23)。

図23 世界のバイオ燃料生産量
出所:BP HP*12

(3)2040年までの世界バイオ燃料需要の見込み*20
 世界のバイオ燃料需要は、450シナリオを基準にすると、2040年までに9Mboe/dまで増加する見通し。陸上輸送部門は6.1Mboe/d、航空輸送部門は2Mboe/dまで増加すると予想される(図24)。
 長距離貨物輸送で、バイオ燃料は、低炭素化の選択肢の一つとして挙げられる。航空機燃料油については、バイオ燃料が既に重要な供給源として注目されているが、サプライチェーンの構築と従来型燃料油に対するコスト優位性が課題である。2040年のエタノールの主要需要国は、米国、中国、ブラジル、バイオディーゼル主要需要国は、米国、EUと予想される。
 バイオ燃料への投資額は、2016~2040年で1兆1,000億ドル、予想期間の後半はおよそ年平均670億ドルの投資額と予想している。
 バイオ燃料への移行は、環境負荷を低減させ、輸送部門のCO2排出量を減少させることができる。

図24 地域別のエタノール、バイオディーゼルの需要(CO2 450ppmシナリオ基準)
出所:IEA,WEO2016*20

(2)IMO注4船舶燃料油の硫黄分規制*21
 2020年1月1日から排出規制区域(ECA
Emission Control Area:バルト海周辺海域、北海周辺海域、米国〈ハワイを含む〉とカナダ沿海部の200海里内の北米海域、プエルトリコと米領ヴァージン諸島を含むカリブ海海域のこと)を除く全海域において、使用する船舶燃料油の硫黄分上限を0.5%に制限することが決定した。なお、ECA海域は、2015年1月より0.1%を上限値とする規制が既に開始されている。
 世界の船舶燃料油の需要は、2015~2025年の間増加し、350万BPDに達すると推定される。地域的な需要の分布に大きな変化はないようだ。需要は欧州、北米とアジア間の主要輸送ルートに集中する見通しである。アジアでは、インド、マレーシアおよびインドネシア等で計画されている港湾インフラの影響により、需要の中心は南および南東地域まで拡大しそうである(図25)。
 2020年に従来の高硫黄重油から低硫黄品に移行した場合、船舶用燃料の主な留分である重質残渣油が余剰となるため、世界の製油所での残渣油対策が課題となる。

図25 世界の船舶用燃料油の需要見通し
出所:JBC, 2016*21

(3)世界の原油需要の見通し(~2040年)*20
 世界の原油需要は、2040年に1億400万BPD、伸びは年率0.5%と推定される。OECD諸国の総需要は、2015年比で2040年に約1,170万BPD減少するが、他地域と国の需要が増加し、特にアジアの占める割合は約38%と大きくなる見通し(表7)。
 世界の原油需要は2040年まで増加するが、国内需要は継続して減少する。

表7 世界の原油需要の実績と見通し
出所:IEA、WEO2016*20

(4)今後の石油需給の予測
(1)世界製油所の原油精製能力と石油製品需要予測(~2040年)*20
 2040年世界製油所の原油処理能力は、2015年比で1,610万BPD増加し、1億1,090万BPDに達する見込みだ。2040年の世界石油製品生産量は、8,760万バレルと推定される(表8)。

表8 世界製油所の原油精製能力と生産量
出所:IEA、WEO2016*20

 米国の運輸部門の全エネルギー消費量*22は、2015~2040年の間減少する。ガソリンの需要は、2015~2040年において、自動車の燃費改善によって26.3%減少する。他燃料油需要(軽油、CNG)は、2015~2040年に増加する。2040年までの予想期間内の運輸部門の主要なエネルギー消費は、貨物ではなく人の移動(自動車燃料、航空燃料)に関わるものである(図26)。

図26 米国の石油製品需要の見通し
出所:eia, Annual Energy Outlook 2016*22

 2050年までのEUの石油製品需要*23の見通しで、ガソリン需要は、2030年までかなり減少し、その後、安定すると予想される。軽油は、2030年までメインの輸送用燃料シェアであると見込まれるが、2030~2050年の間緩やかに需要が減少する(図27)。

図27 EUの石油製品需要の見通し
出所:The European Commission, EU Reference Scenario 2016*23

(2)国内石油製品の需要予測*24
 2030年の石油製品需要は、燃料油全体で1億3,300万k?となり、2010年比-30%の減少になると見込まれる。(図28)。

図28 2030年度までの国内石油製品需要見通し
出所:METI 石油精製・流通研究会*24

 ガソリン需要は、ガソリン車保有台数の微減、総走行距離の減少、エコカーの普及や低燃費技術の推進により、2010年実績5,200万k?から2020年には3,600万k?、2030年には2,100万k?まで減少すると予想される。
 軽油の需要は、トラック保有台数の減少により、2010年実績3,200万k?から2020年には2,700万k?、2030年には2,500万k?まで減少すると見込まれる。

(3)2030年の世界のオレフィンと芳香族の需要*24
 2030年の世界オレフィンおよび芳香族の需要は、2015年比でほぼ倍増する見込み(図29)。

図29 世界のエチレン、プロピレン、ブタジエン、BTX需要
出所:METI 石油精製・流通研究会*24

 世界全体のエチレン系誘導品の需要伸び率は、東アジアで鈍化傾向も見られるが、引き続きアジアが需要の伸びを牽引する見通しで、2014~2020年で年平均3.7%(2007~2014年の実績は年平均2.2%増加)の増加が見込まれる。
 プロピレン系誘導品は、2014~2020年で年平均4.3%(2007~2014年の実績は年平均2.6%増加)増加の見込み。今後も引き続きアジアが需要の伸びを牽引していくと見られるが、今後の経済成長率が鈍化することにより小幅な需要の伸びにとどまることも考えられる。
 米国の、シェール由来の新増設エチレンプロジェクトは、原油価格の値下がりによる優位性の低下や建設コストの上昇等の影響を受けるとはいえ、ナフサに対する絶対的な価格競争力は変わらない状況である。2017年と2018年をピークに1,000万トンを超える能力増強が引き続き見込まれ、エチレンの生産能力は2,800万トン(2014年)から3,900万トン(2020年)まで増加する。
 中国の石炭化学プロジェクトは、公表済みの50件近い計画(エチレン換算で約1,700万トン)のうち稼働済みのものも含め、2017年末までに18プロジェクト(同585万トン)が実行される見込みである。しかし、原油安等の影響により、全体的に稼働予定時期に1年程度の遅れが見られ、2018年以降、どの程度実行されるかは不透明である。
 中国のエチレン生産能力は、ナフサクラッカーも含めた新増設計画の進展に伴い、2,100万トン(2014年)から3,100万トン(2020年)まで増加する見込み。プロピレンについては、プロパン脱水素(PDH:Propane dehydrogenation)の新規プロジェクトが増加し、MTP(Methanol to Propylene)も合わせたプロピレンの生産能力は2,400万トン(2014年)から3,700万トン(2020年)まで増加する。
 エチレン系誘導品の需給バランスは、中国の需給においては、石炭化学の進展に伴い生産能力は増加するが、それを上回る勢いで需要が増加、2020年には需要超過幅が2,200万トン(2014年1,600万トン)に広がる見通し。一方、中東ではイランのエチレンプラント建設計画が新たに具体化しており、2020年には2,200万トン(2014年1,800万トン)の供給超過になる。北米では供給超過幅が2020年には810万トン(2014年670万トン)に広がる。
 プロピレン系誘導品の需給バランスは、中国では2014年に需要超過幅が520万トンに達し、PDHプロジェクト等の進展により、2020年には500万トンまで需要超過幅が減少する見通しだ。
(5)世界の製油所の新設・増設
 Hart Energy社のレポート*16によると、継続的な需要の増加から、精製能力拡大が見込まれている。公表されている拡張計画は、現状の処理能力を大きく上回るもので、中国、インド、中東の大規模な製油所の拡張が含まれる。
 2013年末の原油処理能力は9,318万BPDであった。2015年までに221万 BPD の処理能力が増強され、2.3%増加した。2016~2020年は、さらに739万BPDの原油処理能力増強が予想される(表9)。
 計画されている能力拡張により、アジア太平洋地域の原油蒸留能力は2020年までに3,400万BPDに達する(表10)。
 アジア域内の製油所は、今後も設備増強を継続するなかで、2次装置の拡充を図る見込み。

表9 世界製油所の装置増設計画
Process Capacity Expansion Projects Anticipated Expansion Project
2016-2020s
Crude Distillation 93.18 2.2 7.39
Downstream Units
Light Oil Processing
Reforming 12.28 0.29 0.54
Isomerization 1.66 0.14 0.17
Alkylation/
Polymerization 2.26 0 0.06
Conversion
Coking 6.58 0.66 0.91
Catalytic Cracking 17.03 0.68 0.43
Hydrocracking 8.35 0.62 0.94
Hydroprocessing
Gasoline 3.85 0.47 0.16
Naphtha 15.19 0.36 0.69
Middle Distillates 23.91 0.98 0.86
Heavy Oil/
Residual Fuel 8.64 0.45 0.43
出所:Hart Energy, 2015*16

表10 アジア地域の製油所の装置増設計画
Process Capacity Expansion Projects Anticipated Expansion Projects
Jan. 2014 Jan. 2014-2015* 2016-2020*
Crude Distillation 30.3 1 3.92
Downstream Units
Light Oil Processing
Reforming 3.18 0.08 0.16
Isomerization 0.14 0.03 0.01
Alkylation/
Polymerization 0.31 0.02 0.02
Conversion
Coking 2.15 0.24 0.2
Catalytic Cracking 5.36 0.5 0.23
Hydrocracking 3.15 0.09 0.17
Hydroprocessing
Gasoline 0.76 0.07 0.04
Naphtha 3.31 0.06 0.1
Middle Distillates 7.86 0.4 0.17
Heavy Oil/
Residual Fuel 3.14 0.21 0.2
*:Volumes indicate identified expansions and assumptions made by Stratas Advisors. These might not be a full representation of all projects because of lack of available data.
出所:Hart Energy, 2015*16

まとめ

(1)石油精製装置と設備対応からの考察
 Solomon社の調査*25により、国内製油所の競争力は、韓国の製油所またはアジア輸出型製油所に比べて、国際競争力が劣っていることが示された(図30)。日本国内の石油製品を取り巻く環境は、米国・ロシア・中南米原油のアジア流入により原油調達ソースの多様化、天然ガス・新エネルギーの利用拡大により国内石油需要が減少する。他方、アジア諸国の原油処理能力の増強と輸出拡大戦略による製品輸入への趨向に対し、国内の元売り会社はコスト削減によって、国内市場を維持するとともに、輸出市場で対抗できる国際競争力を構築することが課題である。
 JPECでは、アジアを中心とする各国製油所別の装置能力や装置構成等の調査を通じ、国内製油所の競争力強化に向けた以下の方策を提言した*26。

図30 世界製油所の競争力の比較
出所:Solomon, 2016*25

(1)日本としては、今後品質のよいガソリン留分の輸出や現有する分解装置(コーカー、RFCC、水素化分解装置)等への原料を相互に融通し、装置稼働率を上げボトム留分を減らすとともに、分解軽油および分解ナフサをさらに石化原料に用いるなどの工夫をし、アジア各国と差別化することが重要と考える。
 背景1)アジアは需要量も急増し、設備増強も行われる。2次装置の分析から、軽油増産型のコーカーや水素化分解装置の設備投資に傾斜している。その結果、ボトム処理装置の装備率は高くなり付加価値を上げる方策を採っていると考えられる。
 背景2)アジア各国は品質向上を掲げているが、品質向上に必要な水素化精製装置の能力は当面不足した状態が続くと予想されている。

(2)原油の特性解析やシミュレーション解析、あるいはビッグデータ、IoT(Internet of Things)など新技術の活用を推進し、点検周期決定や処理温度、滞留時間の変更、また必要であれば材質変更を科学的に先行して行い、劣悪原油処理に係る海外製油所の事故事例を教訓として、高いレベルの安定操業を目指すべきである。
 背景1)事故事例解析から、常圧蒸留塔高温留出部および減圧蒸留塔高温留出部等に事故事例が散見されることが分かった。
 背景2)長期的には、未利用原油等の安価な原油等の購入が今後進むと考えられ、高硫黄原油と高酸価成分等の含有原油も十分に精製できる対応力が必要となってくる。

(2)需給面からの考察
 原油調達の点では、米国原油の増産と原油輸出解禁に伴って、原油輸入国での原油調達の多様化が進んでいる。国内製油所の競争力強化の面では、国内石油元売り会社も原油のグローバル調達を展開して安価な原油を安定的に供給する体制を構築する必要がある。
 国内の石油需要は、次世代自動車の台頭、環境規制とコストのため石油火力発電の減退等により内需減少が続くことから、輸出を拡大して国内製油所の稼働率を維持しなければならない。輸出先は、安価な石油製品がショートポジションであるアジア域内をターゲットとし、特に石油製品が輸入ポジションであるオーストラリア等向けの輸出を推進すべきである。
 一方、OECDを除くアジア各国では、国内の需要増加に合わせ、製油所の新設・増強が進められており、アジア域内の製品流通構造に影響をもたらすと予想される。OECD域外で製油所の新設と増設が進められることで、今後も元売り会社にとって輸出環境は、厳しさが続く見通しである。中国の独立系精製企業は、常圧蒸留装置の能力拡大ではなく、2次装置の能力増強と石油製品の品質改良を通じて輸出拡大が推進される。
 燃料品質において、ガソリンと軽油の硫黄分規制は、2020年までには、インドとマレーシアも燃料の硫黄分上限が10ppmに引き下げられ、中国をはじめアジア各国での環境規制が強化され、石油製品の品質規格は先進国と同等になっていく見通し。
 加えて、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)による船舶燃料の硫黄分濃度規制、すなわち、一般海域における燃料油中硫黄分の規制値(現行3.5%以下)を2020年から0.5%以下に強化することを受け、いわゆるB、C重油の需要が極端に少なくなる可能性が高い。しかもこの規制は、排出規制海域(ECA)を除く一般海域に対し、世界同時にスタートするため、処理する原油の選択を含め効果的に対応する必要がある*27。

(3)今後の石油精製部門の方向性とJPECが進める技術開発
 2017年6月、総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会報告書*28が取りまとめられた。その石油精製部門の今後の対応の方向性として、「製油所の国際競争力強化」と「石油精製事業者による海外展開の促進」が挙げられており、調達コストや精製コストの低減、製品の高付加価値化、原油の有効利用などの側面において、技術開発の果たす役割がある。
 これまで、JPECは石油関係各社と協力して、あるべき将来の製油所の姿と技術開発の指針を「石油エネルギー資源関連分野の技術戦略マップ」としてまとめてきた*29。そのなかで石油産業が重点的に取り組むべき技術的課題として、図31に示す(1)分解・高付加価値化技術、(2)稼働信頼性向上技術、(3)省エネルギー技術、(4)次世代エネルギー技術、の括りでまとめた。
 JPECは、これらの提言を実現すべく、ペトロリオミクス注5と呼ぶ新しい技術体系を活用した石油精製プロセスの高度化、ビッグデータやIoTを活用した保守・点検コストの低減と効率化、分解系燃料の自動車およびその排気ガスへの影響評価、水素ステーションの規制の適正化等に取り組んでいる。特にペトロリオミクスを用いる高効率な石油精製技術に係る技術開発*30では、在来型重質原油を含む非在来型原油の重質成分を詳細に解析することを通じ、わが国における原油のアベイラビリティー向上および原油井戸元や輸送・備蓄時にも問題となるスラッジ生成(その原因はアスファルテン凝集)を分子レベルで理解し制御することも狙っている。
 今後の展開に期待していただきたい。

図31 今後の課題と重点的に取り組むべき技術
出所:JPEC「石油エネルギー資源関連分野の技術戦略マップ」平成27年度版、2016*29

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例えば、豊岡義行、ペトロテック(PETROTEC)、40(6)、456(2017). 中村勉ほか、日本エネルギー学会機関誌 えねるみくす、96(4)、427 ? 459 (2017)

<注・解説>
注1:フルフラール(furfural)は、示性式は(C4H3O)CHO、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)命名法では 2-フランカルボキシアルデヒド (2-furancarboxaldehyde)などと表される芳香族アルデヒドの一種。フルフラールは潤滑油に不適当な不飽和および芳香族炭化水素などを選択的に溶解するため、溶解しなかった潤滑油として好ましい成分を分離抽出することができる。
注2:石油類を一定条件下で加熱分解、蒸発させた後に残る炭素状物質量。燃料油では燃焼装置内のカーボン生成量の目安に、また潤滑油では精製度の目安になる。JIS K 2270。
注3:Current Policies Scenario:世界各国が既存のエネルギー・気候変動問題に関する政策を継続するシナリオ
New Policies Scenario:各国の掲げる最新の政策の奏効を考慮したシナリオ
450 Scenario:気温上昇を2℃以内に抑えるためには何が必要かを分析したシナリオ
注4:International Maritime Organization(国際海事機関)
注5:ペトロリオミクス(Petroleomics):分子の集合体(複雑系混合物)である重質油を分子レベルで分析・解析し、石油精製プロセスを分子(の集合体)レベルの挙動で捉える新たな技術体系

執筆者紹介

稲村 和浩(いなむら かずひろ)
[学歴]1985年、大阪大学大学院理学研究科前期課程(修士)修了。1994年、大阪大学(工学)博士。
[職歴]1985年、出光興産株式会社入社。1991~1993年、スイス連邦工科大学(ETH)チューリヒ客員研究員。出光興産では石油精製触媒(水素化脱硫触媒、残油水素化分解触媒)の開発と実機適用研究開発に従事。2012~2015年、アラブ首長国連邦(UAE)、アブダビ石油精製会社(TAKREER)リサーチセンター(TRC)にアドバイザーとして出向。2017年より現職、JPEC技術企画部・部長。
[趣味]自然観察を兼ねたランニングと登山。野良仕事のような力わざから、ルーペを使った細密木工細工まで。
[近況]千葉の自宅から勤務先浜松町まで片道約2時間の通勤。やっと慣れてきたところです。

横溝 晃(よこみぞ あきら)
[学歴]1992年3月、秋田大学大学院鉱山学研究科修了。
[職歴]1992年4月、コスモ石油株式会社入社。中央研究所で主にプロセスと分析、名古屋支店で潤滑油の販売、本社で石油化学品の販売と潤滑油の品質管理、製油所で品質管理と環境管理に従事後、2015年12月より現職。
[趣味]ジョギングですが、フルマラソンの経験なし。読書は、歴史物が多い。
[近況]JPECは、北京に中国事務所を持つことから、ただいま中国語に挑戦中。