ページ番号1006001 更新日 平成30年2月16日

上流事業評価の新手法:リアルオプション ―どこまで有効か?―

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レポートID 1006001
作成日 2002-05-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業
著者
著者直接入力 企画調査部
年度 2002
Vol 35
No 3
ページ数
抽出データ 上流事業評価の新手法:リアル・オプション――どこまで有効か?――企画調査部*金融市場で使われているoption技術を石油・ガス上流事業のプロジェクト価値評価に応用しようとする動きがShell,BP等の大手石油企業を中心に徐々に広がりつつある。その際使用されるReal Option分析は,①マネージメント手段のフレキシビリティを考慮することができる,②ディスカウント・レートをリスクに応じて調整することができる,③動的な分析が可能であるなどの理由で,従来のNPV分析やDecision Tree分析よりも優れており,その分,Real Option価値(ROV)は従来の手法による評価額よりも高い値となる。Real Option分析には,①ブラック・ショールズ・モデルに代表されるAnalytical Solutionと,②意思決定の連鎖をベースとするBinomial Solutionなどの方法が用いられる。石油・ガス上流事業では,数多くの連鎖的な意思決定ポイントがあることなどから,同事業へReal Optionを応用するには後者の方法が適していると考えられる。ROVは事業の不確実性が高く,マネージメント手段にフレキシビリティがあり,その不確実性を排除しうるような場合に高い値を示す。それ故,石油・ガス上流事業では,ハイリスク・ハイリターンの状況にある評価・開発プロジェクトにおいて特に高いROVが得られることになる。Real Option分析の石油・上流事業への応用においては,業界標準となる方法は未だ確立されていない。この分析は発展途上の段階にあり,いろいろと留意すべき点がある。例えば,①多数の不確実性は単純化され,極めて少数に統合・集約化されるため,モデルの妥当性に疑問が生じる,②投資決定時と資金投入・収入発生時でタイム・ラグが生じるため,評価額最大化行動が実際にはとれない,③油価の動きは平均回帰的(mean-reverting)であり,油価の不確実性は意思決定時点で排除できないためROVが生じることはない,④Binomial Methodでモデル構築する場合,市場取引価格の代用としてプロジェクトのNPVを使用することに業界のコンセンサスは得られていない等である。但し,Real Option分析の改良は継続的に進められており,例えば上記①の不確実性の取り扱いについては,最近では幾つもの不確実性を同時に処理することが可能となってきている。1.はじめに金融の分野では既に広く普及しているoption技術が,その他の産業分野における事業の価値評価手法として使われ始めている。石油・ガス上流分野もその例に漏れず,ここ数年で徐々に*本稿は,企画調査部 後藤規夫(E-mail:goto-n@jnoc.go.jp)が担当した。普及する兆しを見せている。本稿は,平成14年3月1日に石油公団で開催されたIHS Energy社コンサルタントAndy Spriggs博士の講演会の内容に基づき,それに一部加筆修正を施すことにより,①そもそもReal Optionとは何かということから始まり,②Real Optionの石油・ガス上流部事業への応用はどのように行うのか,③Real Optionの導入によりどのような効果がもたらされるのか,また④そこにはどのような課― 1 ―石油/天然ガス レビュー’02・5閧ェ残されているのか,などにつき紹介するものである。2.Real Optionの概念ここでは,Financial Optionとの比較やNPV,Decision Treeとの比較などを通じ,いろいろな角度からReal Optionの基本概念を具体例も織り込みながら明らかにしていく。(1)Real Optionとは何か?Optionとは,何らかの資産に投資する権利である。但し,それは投資する義務を伴うものではない。その意味で通常の取引における権利と異なる選択的な権利である。投資する資産の将来的な価値に不確実性があり,その投資決定がなされる以前にその投資の不確実性を排除する機会がある場合にoptionは有益である(価値を生ずる)。Financial Option(の中のCall Option)とは,合意された特定価格で債券を購入する権利であり,購入義務を伴わないもの(例えば,将来値上がりするか,値下がりするか分からない株式を固定価格で購入しうる権利)である。それに対し,Real Optionとは,マネージメント上のいろいろな対応手段を考えながら,価値の不確実な資産に投資の意思決定を行う機会であり,それらを実施する義務を伴わないもの(例えば,保有している油田の開発・放棄・しばし静観などを選択しうる機会)である。環境変化に応じた弾力的経営というRealOptionの概念自体は,石油・ガス産業においても既に広く普及しており,意思決定分析や経営戦略として研究がなされてきた。しかし,Option Pricing理論を用いた価値評価法は新たに登場してきたものであり,その価値はプロジェクト・リスクの変化に応じて変わるディスカウント・レートにより異なる。まだ実験段階にあるため,これを価値評価手法の標準と定めている石油企業は今のところ見当たらないが,多方面で使われるようになってきている。大手石油企業などではReal Optionに関心を持ち,検討を行っており,中にはそれを実験的に使い始めたところも出てきている。最終的なRealOption価値(ROV)を求めるところまで行っている企業も見受けられる。Shellは,Real Option評価法の導入について最も進んだ企業といえる。同社は電力・ガス市場における事業に応用すべく社内独自のソフトウエァーを開発してきた。同社の電力事業では,電力を固定価格で市場に提供することを求められる一方,発電燃料たるガスの価格は市況により変動する。そのため,同社は電力・ガス価格契約において,ガスを幾らの価格で購入し,どの位の金額を支払うべきかという問題に直面する。その際の対応にReal Optionを用いている。石油上流事業でも,同社は多段階石油開発プロジェクトの価値評価をReal Optionの手法で行った実例がある。その他の企業でもReal Optionの使用例が散見される。BPは,北海における探鉱開発権益の評価や,また発見した小規模鉱区権益を保有すべきか,手放すべきかの判断などにRealOptionを用いている。Texacoは,多数の人員を投入してReal Option評価法におけるマネージメント手法のフレキシビリティを検討・確認してきたが,これが石油・ガス上流事業の価値を高めるために役立ったとしばしば述べている。Chevronは,Real Optionを意思決定分析の一部として実験的に使用してきた。それにより同社企画部門では,不確実性やマネージメント手段のフレキシビリティを認識できる分析手法としてReal Optionが有益であると評価している。但し,その評価は会社全体の共通認識には至っていない。Anadarkoは,権益をもつ小規模鉱区を評価するか,或いはファーム・アウトするかの意思決定に際し,Real Optionを用いた実績がある。Statoilも,沖合生産設備の生産能力設定に当り,いろいろな能力数値の下でROVを算出し,分析を行ったと発表している。Option Value(オプション価値)とは,プロジェクトを評価する際のOptimization Value(最大化された価値)のことである。つまり,プロジェクトの期待される評価額を最大化(optimizing)することによって得られる追加的な価値を含む価値である。NPV(Net石油/天然ガス レビュー’02・5― 2 ―resent Value)を用いて表現するなら,Option Valueは通常のNPV(Static NPV)にOptimization Valueを加えたOptimized NPVということになる(その際,Optimization Valueはゼロまたはプラスの値となる)。(2)Option Valueはどのように導かれるか?このOptimization Valueは,環境変化に応じて投資や事業計画を最適化しうる能力,つまり経営のフレキシビリティによってもたらされる。これが企業の業況改善や損失抑制を導くことになる。石油・ガス上流開発プロジェクトなどにコミットする以前の不確実性を排除できること(好ましい結果となるときにはコミットしてその利益を享受し,そうでないときにはコミットを差し控えることで損失を抑えること)がStatic NPVよりもより大きな価値を生み出す主たる源となる。その他,プロジェクト・リスクの変化に応じたディスカウント・レートの調整も追加的価値の源となる(Static NPVでは単一のディスカウント・レートを用いる)。以下ではStatic NPVとOptimized NPVの違いについて,単純化された具体例を見てみよう。ある鉱区では既に石油が発見されており,開発が進められている。今,同鉱区内の隣接地域も開発するかどうかを決定しようとしている。ここで,隣接地域を開発して得られるNPVのハイケースとローケースの発生確率をそれぞれ50%,ハイケースが生じた場合のNPVを100百万ドル,ローケースが生じた場合のNPVをマイナス50百万ドルと仮定すれば,ExpectedStatic NPVは25百万ドル(=0.5×100百万ドル+0.5×?50百万ドル)となる。これにコミットすれば,実際に出てくる結果は大きな利益を得るか,或いは大きな不利益を被るかの何れか一方ということになる。しかし,この状況でoption理論を導入するとより大きなNPVが得られる。今,10百万ドルのコストをかけて隣接地域の評価を行い,その結果を踏まえて,隣接地域を開発するか否かを決定できるものとする。そして,ハイケースとローケースの発生確率やハイケースのNPVは上記と同様のままで,ローケースのNPVは例えばマイナス20百万ドルだとすると,そこから算出されるNPV,つまりExpected OptimizedNPVは40百万ドル(=0.5×100百万ドル+0.5×MAX[?20百万ドル,0]?10百万ドル)になる。なぜなら近隣地域評価の結果がローケースのマイナス20百万ドルを示したとしても,その鉱区開発を放棄すれば実際のNPVはゼロとなるからである。そのため鉱区評価に10百万ドルの追加的コストを支払っても,ExpectedOptimized NPVはExpected Static NPVに比べ15百万ドル(=40百万ドル?25百万ドル)ほど上回ることになる。(3)Optionの種類Optionの種類には,1)Deferral Option,2)Learning Option,3)Expansion(またはContraction)Option,4)Start-up/Shut-downSwitching Option,5)Abandonment Option,6)Compound Option,7)Rainbow Optionなどがある。1)Deferral Option単純に行使を遅らせることにより利益を得るFinancial Optionである。株式市場などにおける古典的なCall Optionがこれに相当する。株や商品(農産物や鉱物資源などの商品取引上の商品)を一定期間の中で固定価格にて購入する権利。将来の不確実性が排除されるまで投資決定を遅らせることにより利益を確保する。市場価格の変化を観察し,それが有利になったこところで行使(購入)し,有利にならなかった場合には行使を遅らせ,或いは未行使のままその権利を放棄することにより利益を享受できる。2)Learning Option行使を遅らせるだけでなく,積極的に情報収集し,学習するOption。鉱区探鉱や鉱区評価などで用いられる。例えば,鉱区の掘削により得られる情報から石油開発・生産の不確実性を低減させる。積極的なリサーチを行い,技術的な不確実性を排除できるまで投資の実行を遅らせることにより利益が得られる。リサーチの結果次第で,投資を行うか,或いは放棄するなどを決定することで利益の最大化をはかる(上述(2)のOptimized NPVの具体例がこれに相当― 3 ―石油/天然ガス レビュー’02・5キる)。3)Expansion(またはContraction)Option投資を拡大するためのoption。より大型のプラットフォームを建設することにより石油・ガス生産の拡大を狙うという機会を獲得するには,どの位の投資資金を準備すればよいかなどを検討する際のoption。巨大油・ガス田の段階的鉱区開発(multistage field development)がその例となる。プラットフォームを建設して第一段階の開発(pilot development)を行うことにより生産にかかわる情報(productionhistory)を収集し,その結果を踏まえ,次のプラットフォームを建設して第二段階の開発を実行するか否かを決定する。第二段階の開発が実行されれば,同様のステップを踏んでそれ以降の開発を行うかどうかを決定していく。このような段階的過程を経ることにより油・ガス田の不確実性を排除することができ,主要な設備投資資金は不確実性排除後まで投入時期を遅らせることで, 全体として利益の極大化をはかることができる。4)Start-up/Shut-down Switching Option(またはSwitching Option)例えば,金採掘などの鉱業等,製品価格が変化しやすく, オペレーション・コスト(生産コスト)の比重の高い事業に応用しやすいoption。製品の市場価格,同価格の不確実性(volatility),オペレーション・コスト,オペレーションの開始・停止に伴うコストの状況により,オペレーションの開始・停止を決定することで利益を最大化しうる。ここで導かれる結論は,通常の古典派経済学の結論と少々異なったものとなる。古典派経済学では,製品価格が製品一単位当たりの生産コストを僅かでも下回ればオペレーションは停止し,逆に僅かでも上回ればオペレーションを開始すると考える。Real Optionアプローチでは,オペレーションの開始・停止コスト,製品価格の不確実性も考慮するため,製品単価が製品一単位当たりの生産コストよりもある程度下回った段階でオペレーションを停止し,逆にある程度上回った段階でオペレーションを開始することになる。(つまり,製品価格の不確実性が高ければ,いったん下落または上昇した製品価格も,その後すぐに反転する可能性もあるから,直ちにコストをかけてオペレーションを停止または開始するよりも,しばらく様子を見ようとの判断が働くことになる。)5)Abandonment Option石油・ガス上流事業において,例えば生産活動の末期を迎えている石油鉱区で油価次第でオペレーションを続行するか,直ちに放棄するか,しばらく様子を見た後放棄するかなどを決定する場合がある。こういう場合のoptionがAbandonment Optionである。オペレーション・コスト,放棄の際に必要となるコスト,石油の市場価格,油価の不確実性(volatility)に基づき,同鉱区生産プロジェクトの価値最大化をはかることで利益を確保しうる。6)Compound Optionプロジェクトの中に複数のoptionが存在し,あるoptionが行使されると,その結果がさらにShut(cid:0)downStart(cid:0)upUnit(cid:0)PriceUnit(cid:0)OPEXUnit(cid:0)PriceUnit(cid:0)OPEXShut(cid:0)downStart(cid:0)upTimeTime第1図 Start-up/Shut-down Options石油/天然ガス レビュー’02・5― 4 ―ハのoptionをもたらすようなoption。例えば,ある探鉱開発権益を獲得した企業は,もしその鉱区での探鉱に成功すれば,同鉱区での開発権益を獲得することになる。このように石油・ガス上流部門では,探鉱・開発価値評価などで登場する。石油・ガス上流開発投資の多くは,このCompound Optionに属する。7)Rainbow Option不確実性が複数存在する場合のoption。金融の世界では,例えば株価のように不確実性は1つであるが,石油・ガス上流部門では,例えば埋蔵量,設備投資額,課税率,オペレーション・コストなど不確実性は複数存在する。それらは互いに影響し合うため,同時に考慮する必要がある。このような場合を想定したoptionがRainbow Optionである。石油・ガス上流事業の現場で発生するoptionのほとんどが,上述のCompound OptionにRainbow Optionsを組み合わせたものとなる。フレキシビリティが導入される。プロジェクトが進捗する各段階でoptionの枝分かれがあり,全体として樹形図(枝分かれの連鎖)が構成される。選択肢の1つを選択すると,その先でさらに次ぎの選択を行うことになり,これを繰り返して最終的な決定に至る。この分析では,選択されないであろうoption (プロジェクトの評価額がより低くなってしまう,或いはマイナスになってしまうようなoption)が排除される。それ故,このようにして求められるExpectedValueは,Static Expected NPVより高い値を示す。Go/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goNo-goGo/(cid:0)No-goNo-go(4)NPV, Decision Tree, Real Option第3図 Decision Tree Analysis以下では,NPV分析とDecision Tree分析とReal Option分析の違いについて見てみよう。石油・ガス上流開発プロジェクトでは埋蔵量や生産量を始め,幾つもの不確実性がある。それらを数量的にどのように取り扱うかという点において違いが生じる。NPV分析ではStatic Expected NPVを使用する。Static Expected NPVは,プロジェクトにおいて生じうる全ての結果を,それらの予想発生確率でウェート付けしたNPVの平均値として求められる。Decision Tree分析では,NPV分析に経営のGo/(cid:0)No-go第2図 Static Expected NPV Approach第2図 Static Expected NPV ApproachReal Option分析は,基本的には上記のDecision Tree分析と類似している。但し,前者は選択するDecision Treeの枝に適用するディスカウント・レートをリスクの程度によって調整するが,後者は一定であるところが異なる。(ディスカウント・レートが一定ということは,プロジェクトが進捗し,その過程である程度結果が出ていても,プロジェクト・リスクはそれによって左右されないことを意味している。)Go/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goGo/(cid:0)No-goNo-goGo/(cid:0)No-goNo-go第4図 Real Options Analysis3つの分析方法の特徴を比較してみると,キャッシュ・フローに基づいている点,複数の期― 5 ―石油/天然ガス レビュー’02・5ヤに跨った価値評価が可能という点では3つとも共通している。しかし,経営のフレキシビリティはNPV分析には認められない。また,ディスカウント・レートをリスクに応じて調整するのはReal Option分析においてのみ認められる。逆に,他の2つと異なり,Real Option分析では全ての不確実性を価値評価する際に取り込むことは難しい。しかしReal Option分析では,他の2つと異なり,動的(dynamic)な分析が可能である。(NPV分析は静的(static)な分析であり,Decision Tree分析は枝分かれの際の意思決定はあるものの,一時点で1つの意思決定しかできない。それに対し,RealOption分析では,意思決定を遅らせ様子を見るなどの判断も含まれ,それぞれの意思決定がいろいろな時点で起こりうる。)3つの分析方法から導かれるプロジェクト評価額を比較してみると,最も低いのがNPV分析の値,その次がDecision Tree分析の値で,Real Option分析の値は最も高くなる。NPV分析では,経営のフレキシビリティ(価値を低めるような選択肢の排除)がないため,それを考慮に入れたDecision Tree分析の値が上回ることになる。但し,Decision Tree分析ではリスクの変化に応じたディスカウント・レートの調整がないため,それも考慮に入れたRealOption分析の値がさらに上回る結果となる。但し,実際には必ずしもReal Option分析による評価額が最高となるとは限らない。なぜなら,その分析では評価額を最大化ならしめるような意思決定が行われると仮定しているが,現実にはそうならない場合があるからである。プロジェクト評価額がマイナスになるような意思決定は理論的には生じないはずである。しかし現実には,結果としてプロジェクト評価額がマイナスとなるような意思決定をしてしまった例が散見される。このような事態が生じるのは,意思決定を迫られている時点で,不確実性を完全に排除できないからである。(因みに,金融の世界のように,不確実性が例えば株価のみに限定されている場合のoption―Financial Option―においては,こうした問題は生じない。)(5)Option Pricing理論とは何か?Option Pricing理論の説明に入る前に,NPV評価法とoption評価法のポイントに触れておくことにする。NPV評価法では,1)鉱区の生産計画をつくり,製品価格の予想を行う,2)収入を計算し,コスト面の予想を行う,3)年毎のネット・キャッシュ・フローを計算し,ディスカウント・レートを使い現在価値に直した後,それらを合計することによりNPVを求める。この方法では,将来の価格と生産の予想が難しく,それがこの評価法の弱点となる。また,当初に多額の設備投資が必要で,収入が遅れて発生する石油・ガス開発生産プロジェクトのような場合には,ディスカウント・レートの設定がプロジェクトの価値評価上,極めて重要な意味をもつ。Option評価法では,1)資産(例えば株式など)に対する市場の現在価値を調べ,2)資産価値の過去のボラティリティ(historicalvolatility)を検討し,そこから将来の不確実性を予測し,3)現在の資産価値と予測された不確実性に基づき,将来の資産価値は時間の経過と共にランダムに変化していくと考える。上記の基本概念を念頭に,以下ではOptionPricing理論について見てみよう。例えば,本日,株式を10ドルで購入し,その際1ドル支払ってその株式を11ドルで売却しうるoptionも合わせて購入したとする。翌日,この株式が値上がりして11ドルとなった場合には,その所有者はoptionを行使せず,そのままその株式を保有し続けるであろうし,逆に9ドルに値下がりした場合には,optionを行使し,その株式を11ドルで売却するであろう。つまり,株価がどのように変化しても当初の資産価値(11ドル)は維持されることになる。その意味でこれはリスク・フリー・ポートフォリオといえる。OptionPricing理論は,このリスク・フリー・ポートフォリオの概念に基づいている。また,Option Pricing理論では,「一物一価の法則」を前提としている。これは,「もし2つの資産が同一環境において同一のリターンを生むならば,それらの価値は同一であり,かつ石油/天然ガス レビュー’02・5― 6 ―潟Xクも同一である」というものである。リスク・フリー・ポートフォリオは,米国債などのリスク・フリー・ボンドと同じリターンになるように仕組まれている。そこで上記の法則から,前者の価値は後者と同じであり,前者に用いられるディスカウント・レートもリスク・フリー・レートということになる。もう1つの前提は,価格は刻々と上昇または下落し,その動きはランダム・ウォークとしてモデル化できるというものである。株価の現在から将来のある時期(t期)への変動は,パーセンテージで示された対数正規分布(log-normal distribution)を形作ると仮定されている。現実の株価はこれに近い動きを示している。石油・ガス上流開発プロジェクトにおいても,同様の仮定を設けることになる。(しかし,同プロジェクトについてこれが現実的仮定かどうかはやや疑問が残り,もしこの仮定が誤っていた場合には価値評価全体を狂わせることにもなってしまう。)Optionによる資産価値の計算に必要なパラメーターは以下に示される。オペレーション・コスト?課税額)X:Optionの行使価格(=設備投資額)σ:資産からのリターン割合のボラティリティ推定値(=リターンの不確実性の大きさ)t:Option満期までの期間r:リターンのリスク・フリー・レート(=f利子率)δ:意思決定を遅らせることにより生じる費用これらのパラメーターに基づき,OptionValueがどのようにして導かれるかを見てみよう。将来の特定時期(t期)におけるOptionValueは,将来の不確実性があるために確率分布(probability distribution)として示される。NPVはその確率分布領域の中の一点となる。Real Optionにおいては,価値最大化するように行動することを前提としているため,例えば収入が設備投資額を下回るなど,評価額がマイナスになる場合には,その選択肢は常に排除される。それ故,その結果として生じる評価額は常にプラスの値となり,Option Valueの確率分布の平均もそれだけ高くなる。S:市場における資産の現在価値(=収入?上記のパラメーターの数値が変化したときのShare(cid:0)Price(S)(cid:0)Option Value is represented(cid:0)by the area under the graphExercise price XTime(t)(cid:0)第5図 Visualising Option Value― 7 ―石油/天然ガス レビュー’02・5ption Valueの変化について検討してみよう。プロジェクト収入Sが増加すると,設備投資額は一定であるため,Option Valueも増加する。この変化は,縦軸をS,横軸をtとしたグラフにおいてはValueの分布の全体的な上方へのシフトとして示される。逆に,Sが一定で,設備投資額Xが減少した場合でも同様の結果となる。Option満期までの期間tを長くすると,リターンの不確実性もそれに従い拡大し,OptionValueも当初と比べより広範囲に分散することになる。縦・横軸が同じグラフにおいては,当初よりも縦方向に扁平な形の分布となる。但し,上述の通り,マイナスの評価額は排除されるため,その分布の中で選択される対象はプラスの評価額のもののみとなり,それ故,OptionValueの平均も増加する。つまり,時間的余裕があればあるほど,そのプロジェクトの評価額は高まることになる。これは,直感的な感覚とも一致している。例えば与えられた探鉱期間が1年しかない場合と10年もある場合を比較すると,後者では石油・ガス価格が好転するまで様Share(cid:0)Price(S)(cid:0)Share(cid:0)Price(S)(cid:0)Time(t)(cid:0)Time第6図 Option Value increases with S(t)(cid:0)Exercise price XTime(t)(cid:0)第7図 Option Value increases as t increases石油/天然ガス レビュー ’02・5―8―qを見ることもできるし,コストを下げる手段を発見できるかもしれない。その意味で後者のほうが前者よりも価値が高いといえる。リターンの不確実性の大きさσが増加した場合には,Option Valueも増加する。これについては,上述のoption満期までの期間tを長くした場合と基本的に同じである。(但し,σが増加した場合は,t期のOption Valueを問題にしているのに対し,tを長くした場合には,t+1期,t+2期などt期よりも後の期におけるOption Valueを問題にしているという違いに留意する必要がある。)リターンのリスク・フリー・レートrfが増加した場合,Xの現在価値が減少するため,Option Valueは増加する。これは,もし利子率が上昇すれば,投資の意思決定を遅らせることで評価額は増加することから,投資は減少傾向となることを意味している。意思決定を遅らせることによるコストδの増加は,Option Valueの減少をもたらす。δは,Financial Optionの場合にはさほど影響力はない。例えば株式投資の場合には配当(を受け取り損ねたという意味でのコスト)であり,株価の数パーセント程度に過ぎない。それ故,RealOptionの場合にも無視されがちである。しかし,石油・天然ガス上流事業においては,例えば掘削リグを常に使える状態にしておくためのコストに見られるように,そのコストは大きく,プロジェクト価値評価上でもかなりのウェートを占める。(6)ROVに影響する要因評価額に影響を与える要因は,NPV評価法の場合には,1)収入の現在価値と2)コストの現在価値の2つのみであるのに対し,RealOption評価法の場合には,1)収入の現在価値,2)コストの現在価値に加え,3)不確実性(評価額増大の可能性),4)意思決定を遅らせることによるコスト,5)リスク・フリー・レート,6)option満期までの期間などが存在する。それ故,これらの要因に積極的に働きかけるようなマネージメントを実施することによってROVを高めることが可能となる。ここにReal Option評価法を採用することによる企業戦略的な意味合いがある。上記の6つの要因に働きかけるマネージメント手段の具体例としては,それぞれ以下のものが挙げられる。上記1)については,製品価格引き上げに向けたマーケッテイング戦略の構築・サプライヤーとの関係強化・鉱区開発スケジュールの前倒し・適用技術の改良など,上記2)については,規模の経済の追求・学習を通Share(cid:0)Price(S)(cid:0)Time(t)(cid:0)Time(t)(cid:0)第8図 Option Value increases as σ increases―9―石油/天然ガス レビュー ’02・5カたコスト削減など,上記3)については,いろいろな機会の創出と拡大・新技術への投資と新機軸の導入など,上記4)については,生産に投入する資源の選定・より深い知識の獲得,上記5)については,利子率変化の影響のチェックなど,上記6)については,権益期間の延長・競争相手の参入阻止などである。3.ROVの石油・ガス上流事業への応用以上で見てきたReal Optionの概念を,石油・ガス上流事業の評価に応用するとどのようになるかについて以下言及する。(1)問題の枠組み設定ROVを求めるに当たり,最初に次ぎの作業を行う必要がある。1)基本となる投資決定の対象(開発すべき鉱区)を明確化する。2)前述1)の意思決定に影響を与える要因(埋蔵量,生産量,設備投資額,オペレーション・コスト,課税額など)を把握する。3)マネージメント手段(対応可能な期間,生産のために投入する資源の選択肢,評価額を上昇させるような機会など)を確認する。4)主要な不確実性が何かを見極める。5)事業の途中で生じる意思決定ポイントを確認する。6)不確実性を排除する機会(積極的または消極的学習など)を確認する。問題の枠組みを作る際に注意すべき点が2つある。その1つは,モデルに取り込む要因については,あまりに細部にまで手を広げたり,逆にあまりに大雑把になり過ぎないようにすることである。前者の場合には,モデルがあまりに複雑になり過ぎて,直感が働かなくなり,出てきた結果も細か過ぎて対応不能となりがちである。また後者の場合には,モデルそのものが,ビジネス上の問題をきちんと捉えていないということになりかねない。その意味で,どの要因をモデルに取り込み,どの要因を排除するか(または,変化せず一定の値として扱うか)が重要となる。もう1つは,不確実性を適切にモデル化することである。確率分布を用いたモデルの中で,全ての不確実性をそのまま取り込むことは,そもそも不可能である。また,幾つかの非常に異なる不確実性を1つのモデルに組み込むこともできない場合がある。それ故,この部分がRealOption分析の中で,最も難しい作業となる。それにもかかわらず,石油・ガス上流事業においては,最もしっかりとしたコントロールが必要となる部分でもある。この作業には金融界のoption理論に精通し,かつ,石油・ガス上流事業の現状を熟知していることが要求される。(2)異なるROVモデル上述の作業終了後,その内容に基づきRealOptionのモデルを構築する。その際,確率論的な過程,収入からコストを差し引いたペイオフ関数,意思決定のポイント等を数学的に表現する(確率論的な過程においては,株価や石油・ガス価格等の市場価格のボラティリティのみを使用すべきだと主張するグループと,例えば石油・ガス鉱区開発の機会のように市場価格のない資産価値も含めるべきだと主張するグループの意見の対立がある)。それから,Option Valueを計算する手法を選択することになる。それらの手法はいろいろあるが,ここではその中から代表的なAnalyticalSolutionsとBinomial Solutionについて見てみよう。1)Analytical SolutionAnalytical Solutionは,偏微分方程式に基づいたOption Pricing手法として金融市場向けに最初に開発されたものである。有名なブラック・ショールズ・フォーミュラ(Black-Scholes Formula)がその典型例となる。このフォーミュラは,問題となるoptionの性質により,いろいろなバリエーション(例えば,option満期までの期間を固定したものや固定していないもの,買うオプションと売るオプショ石油/天然ガス レビュー ’02・5―10―唐ネど)がある。また,数値を代入すれば直ちに計算できるので,最も手軽に使用でき,かつ最も早く結果が得られるという特徴がある。しかし他方,Analytical Solutionで使用される前提はかなり制約が多い。不確定性は1つか2つまでしか扱うことができない。その意味で非常に純粋かつ単純な問題に適しているといえる。例えばブラック・ショールズ・フォーミュラでは,資産価値が対数正規分布のボラティリティを伴いながら時間の経過と共に幾何級数的に増加すると仮定している。実際,株価はこのような動きを示しているといって差し支えなかろう。しかし,石油価格はそのような単純な動き方をしてはいない。それ故,同フォーミュラは石油・ガス上流事業に適しているとはいい難い(後述「3.(3)モデルにおける不確実性の取り扱い」参照)。Analytical Solutionでは,Decision Treeに見られるような全ての意思決定のポイント(optionの枝分かれ)とそれに伴う意思決定の結果が示されないという問題もある。石油・ガス上流事業では,こうした意思決定ポイントを個々に検討する必要があるはずである。因みに,ブラック・ショールズ・フォーミュラは,具体的には次ぎのように示される。C=Se?δtN(d1)?N(d2)Xe?rtd1=ln(S/X)+(r?δ+1/2σ2)tσ√td2=d1?σ√tC=Option ValueS=市場における資産の現在価値X=Option行使価格r=リスク・フリー・レートt=Option満期までの期間δ=意思決定を遅らせることにより生じる費用σ=ボラティリティ=資産のリターン・レートの標準偏差(d)=標準正規分布の累積密度関数N上記フォーミュラにおいて,Se?δtN(d1)の部分はoption満期におけるS>Xの場合のSの期待値,N(d2)の部分はoption満期におけるS >Xの場合の確率,また,Xe?rtの部分はoption行使コストの現在価値をそれぞれ意味している。2)Binomial SolutionBinomial Solutionは二者択一の枝分かれの連鎖による樹形図をつくることで,資産の評価額を導き出す手法である。このOption Value評価手法は単純であるが,計算は非常に複雑となる。表計算ソフトで計算可能ではあるが,かなり時間がかかることを覚悟せねばならない。Binomial SolutionはAnalytical Solutionと比べ,前提の制約が少ないという特徴を持つ。例えば,Compound Optionをモデル化することも可能であるし,異なる幾つかの不確実性をモデルに取り込むこともできる。また,例えば,option行使価格や意思決定を遅れせることによるコストを変更するなど,複雑な現実世界を反映したモデルを構築することも可能である。さらに,考え方はDecision Treeと類似していることから,Analytical Solutionと異なり,全ての意思決定のポイントとそれに伴う意思決定の結果が示され,非常に現実的なOptionValue評価手法といえる。Binomial Solutionには,1)Risk NaturalProbability Methodと,2)ReplicatingPortfolio Methodの2種類が含まれる。前者はリスクに応じてキャッシュ・フローを調整し,その後リスク・フリー・レートで割り引くのに対し,後者は実際のキャッシュ・フローを用い,リスクに応じたディスカウント・レートで割り引く。計算の過程は両者で異なるが,導き出される結果は同じになる。Binomial Solutionは,また,不確実性の処理方法によっても2種類に分かれる。1つは複数の不確実性を統合・集約化する方法であり,もう1つはそれをせずに複数の不確実性を別個に取り扱う方法である(後述「3.(3)モデルにおける不確実性の取り扱い」参照)。Binomial Model(二項モデル)は2つのステップを踏んで構築される。第1ステップでプロジェクト評価額の基となる樹形図を組み立て,―11―石油/天然ガス レビュー ’02・5ゥら最低値までの確率分布ができあがる。第2ステップでは,最終期(t=3)における最終OptionValueの計算からスタートし,時間の流れを遡るように計算を続け,OptionValueを求める。例えば,上図において,最終期(t=3)において,Cuuuの評価額はMax(Suuu?X,0)であり,Cuudの評価額はMax(Suud?X,0)であるから,それより1期遡った第2期(t=2)Cuuの評価額は,次ぎの式で示される。Cuu=Max[Cuu?X,(pCuuu+qCuud)]1+rp=リスク中立確率=(1+r?d)/(u?d)q=1?pX=Optionの行使価格(=設備投資額)つまり,Cuuの評価額は,第2期において投資することにより得られる評価額と,同時期に投資するoptionを行使しないことによって得られる評価額(CuuuとCuudの評価額の期待値)の大きい方ということになる。上記の方法でOption Valueを計算する場合のディスカウント・レートは,リスク・フリー・レートとなる。(3)モデルにおける不確実性の取り扱いプロジェクトに含まれる全ての不確実性は,確率論的な拡散の過程における単一尺度のボラティリティに集約可能であるという概念を基礎として,Option Value評価分析は成り立っている。株価や商品取引上の商品価格などにおいては,こうした概念が妥当する。しかし,その他の変数,例えば石油価格,埋蔵量,設備投資額などの推定においては必ずしも妥当しない。実際,これらの不確実性の取り扱いについては,はっきりとしたコンセンサスが形成されていないのが実状である。確率論的な拡散の過程では,時間の経過とともに不確実性が拡大していく。不確実性の中のあるものにおいては,これが明確にモデル化されている。例えば,株価の動きは,対数正規分第2ステップで枝分かれのそれぞれの結び目(意思決定ポイント)におけるOption Valueを計算する。この点をより具体的に述べれば以下の通りとなる。第1ステップでは,枝分かれの出発点からスタートし,そこに連なる結び目から時間の流れに従って順に計算することによって,枝分かれの連鎖を組み立てていく。つまり,スタート地点の評価額とボラティリティに基づく確率論的な動きにより,将来起こりうる結果の樹形図を組み立てていくのである。下図ではその過程が示されている。下図において出発点(t=0)のS(市場における現在価値)からスタートし,翌期(t=1)には上昇率uでSu,下落率dでSdが発生しうる。翌々期(t=2)には,Suは上昇率uでSuu,下落率dでSudが発生しうる。同様にSdからSudとSddが発生しうる。この過程を最終期(t=3)まで繰り返すことで評価額Sの樹形図が完成する。ここから評価額Sの最高値SuuSudSddSuuuSuudSuddSdddSuSduSS=Revenue-OPEX-tax(cid:0) (present market value)(cid:0)d=eo up increment(cid:0)d=1/u down increment(cid:0)ut=0t=1t=2t=3第9図 第1ステップ(cid:0)CuuuCuuCuuu=MAX(Suuu-X,0)(cid:0)CuudCuud=MAX(Suud-X,0)(cid:0)CuddCdddt=3CpqCuCdCudCdd=Exercise Price(CAPEX)(cid:0)t=0t=1t=2p=risk neutral probability(cid:0) (1+r?d)/(u?d)(cid:0)q=1?p(cid:0)(cid:0)X第10図 第2ステップ(cid:0)石油/天然ガス レビュー ’02・5―12―zに従いながら時間の経過と共に幾何級数的に増加していくと考えられている。確率論的な過程はブラック・ショールズ・オプション・プライシング・モデルの中でも使われている。それ故,同モデルでは,意思決定を遅らせることで大きな価値が生じることになる。15000(cid:0)12500(cid:0)10000(cid:0)7500(cid:0)5000(cid:0)2500(cid:0)0505565706085第11図 株価の推移7580Time9095100第11図 Stochastic Processesしかし,石油価格などの商品取引価格の動きはそのようにはならない。過去数十年の値動きを見る限り,それらは平均値を中心に正規分布を描く平均回帰過程(mean-reverting process)のモデル,つまりボラティリティはあるものの,長期的な平均値に向かって価格が動いていくモデルがより妥当するように思われる。このモデルでは,時間の経過とともに不確実性が拡大していくことがないため,意思決定を遅らせでもOption Valueは,上記モデルと比べかなり小さなものとなってしまう。幾つもの不確実性がある場合の処理は,統合・集約化する方法(Consolidated Method)と,それをせずに不確実性を別個に取り扱う方法(Keep uncertainties separate)とがある。前者は,モンテカルロ・シミュレーション(Monte Carlo Simulation)を用いて全ての不確実性を1つの変数に統合・集約化するもの。複雑な内容を単純なモデルにすることが可能である。また,市場リスク関連の不確実性,技術リスク関連の不確実性など,対象となる幾つもの不確実性の性質が互いに類似している場合には,この方法は特に有効である。後者は,樹形図が複雑になり,計算の作業量も増えるものの,意思決定に関し事業経営者の洞察力を反映させることができる。石油・ガス上流開発プロジェクトなどにおけるLearningOptionに特に有効な方法である。(4)Replicating Portfolioの構築上述のように,Option Pricing理論は,optionのペイオフと類似した条件をつくるため,市場価格をもつ株式やその他の債券の中で,Replicating Portfolio(擬似ポートフォリオ)を構築するという概念に基づいている。金融の世界では,これが実際に可能である。しかし,もしその資産が他に類を見ない性質のものであるか,或いは,そもそも未だに存在しFutures prices revert towards long-run mean9/5/895/8/901/8/919/10/915/12/921/12/939/14/935/17/921/17/959/19/95第12図 Stochastic Processes第12図 石油価格の推移―13―石油/天然ガス レビュー ’02・540(cid:0)35(cid:0)30(cid:0)25(cid:0)S/barrel20(cid:0)15(cid:0)(cid:0)1/3/89トいないものであったとしたら,どうなるのであろうか?これが正に,石油・ガス上流事業にReal Optionを適用しようとする際の状況である。このような状況でも,近似値(approximation)的にROVを求めることは可能である。NPVの基本ケースを用意し,これが市場における現在価値と同じであると仮定する方法である。これはマッケンジー・アプローチと呼ばれている。以下ではこれについて補足する。プロジェクトのExpected Present Value(期待現在価値)の基本ケース(マネージメント手段におけるフレキシビリティのないケース)が市場における現在価値と同じであると仮定する。S=Expected NPVここでReplicating Portfolio(mS?B)が,フレキシビリティを伴うプロジェクトの現在価値Cを意味すると考える(mは係数を表している)。C=mS?BここでROVは上記のReplicating Portfolioと同じとなる。このように単純化した前提を用いることで,他に類を見ない,市場価格のないプロジェクトにもOption Pricing理論を応用することができるようになる。但し,この方法は未だ業界のコンセンサスを得てはおらず,妥当性につき評価が固まっていないという点には留意する必要がある。(5)石油・ガス上流事業におけるReal Option分析の作業手順石油・ガス上流事業は,いろいろな場面でReal Optionを適用しうる環境にある。例えば,以下4つの段階においては,それぞれ幾つかのoptionが発生する。2)地震探査のデータを入手した段階における①鉱区の掘削,②しばし静観,③放棄というoption3)鉱区の掘削を開始した段階における①炭化水素発見の評価,②鉱区の開発,③しばし静観,④放棄というoption4)炭化水素発見の評価を実施した段階における①鉱区開発価値の最大化,②しばし静観,③放棄というoption問題はOption Pricing法が正しい答えを与えてくれるかどうかである。その点が必ずしも明確になっていない。しかし,この価値評価法を使い,その処理過程の中ですべての機会(option)を検討することで,分析が深まり,事業経営者は投資すべきか否かを判断する上で多くの示唆を得ることができる。石油・ガス上流事業のどのようなプロジェクトにおいても,ROVを計算するには,1)NPVの基本ケースのモデル化,2)不確実性の見極め,3)マネージメント手段のフレキシビリティの確認,4)Option Valueの計算と意思決定,という具体的な作業手順を踏むことになる。石油・天然ガス上流開発プロジェクトは以下のような特徴をもつことから,典型的なCompound - Rainbow Optionとなろう。・数多くの連鎖的な意思決定ポイントが存在する。・投資は一回限りでなく,何度も畳み掛けるように行われる。・何種類もの技術的不確実性が存在する。・鉱区評価により,不確実性の排除が定期的に行われる。・プロジェクト資産は他に類をみないタイプのものであり,市場価格動向から投資機会を見極めることができない。1)鉱区のデータを入手した段階における①探鉱権益の取得,②しばし静観,③放棄というoptionここでは全てのoptionが事前に示されているため,ROVを求めるには,Binomial Methodを用いるのが適当と思われる。その方法においては,市場価格の代用としてNPVの基本ケース石油/天然ガス レビュー ’02・5―14―gうことが可能であると仮定する必要がある。1)NPVの基本ケースのモデル化NPVの基本ケースのモデル化するに際しては,ゼロ期(t=0)のSとマネージメント手段のフレキシビリティのないプロジェクトを想定した基本ケースNPVを用意することから始めるべきであろう。2)不確実性の見極め石油・ガス上流開発プロジェクトにおいて,評価額に影響を与える主要な不確実性としては,①埋蔵量,②生産量,③設備投資額,④石油・天然ガス価格,⑤オペレーション・コスト,⑥資金調達条件などが考えられる。不確実性の範囲を数量化するに当たり,過去のデータが役立つ場合には,それを使用する。上記の項目の中で,不確実性を部分的に排除できるものもある。例えば,埋蔵量の不確実性は鉱区評価により,生産量の不確実性はテスト実施により,資金調達条件の不確実性は交渉により排除することが可能となる。但し,石油価格の不確実性は排除できない(後述「4.(2)3)弱点?石油価格の取り扱い」参照)。上記の不確実性を1つ,或いは2?3つ程度の不確実性に統合・集約化するため,モンテカルロ・シミュレーションを用い,ディスカウント・レートを一定とした時のExpected StaticNPV(=S)を求める。3)マネージメント手段のフレキシビリティの確認不確実性を伴う各事象のDecision Treeを組み立てて,事業経営者の意思決定ポイントを明確にする。4)Option Valueの計算と意思決定上記のDecision Treeの各事象の評価額に基づき,選択されない事象を除いた後,表計算ソフトを使用し,全体のROVを計算する。Decision Treeに基づく計算結果は,全てのプロジェクト評価額を最大化したときのリスク調整済み期待値(=C)となる。最大化されたプロジェクト評価額は,通常はExpected StaticNPVより大きい。(但し,意思決定を遅らせることによるコストや積極的学習のためのコストが含まれていれば,それらは差し引かねばならない。)Option Valueの増分(=C?S)は,不確実性が最大で,かつ不確実性を排除するためのマネージメント手段のフレキシビリティがある場合に最高となる。4.石油・ガス上流事業におけるReal Option分析の強みと弱み以下では,石油・ガス上流事業にRealOptionを応用した場合の強みと弱みについてまとめてみる。また最後に,どのような環境でReal Optionが妥当するか,高い価値,或いは低い値となるか等についても言及する。(1)Real Option分析の強み1)現実的な利益・Real Option分析は,評価額を最大化するために不確実性とマネージメント手段のフレキシビリティを考慮することで価値評価分析を改善することができる。・Real Option分析は,将来発生する意思決定ポイントを明確にし,意思決定ルール(例えば,価格が幾ら以下であれば契約締結に応じる等)を見出すことができる。・Real Option分析は,不確実性の動的な排除について戦略的な示唆を与えてくれる。(静的な確率論的方法では,不確実性は考慮するが,その排除は考慮されない。)・Real Option分析は,プロジェクト評価額の最大化のため価値評価と資産マネージメント手段(例えば,鉱区開発の拡大など)を結び付けることができる。2)理論上の利益・ROV は,プロジェクトのリスク状況,時間的変化,段階的に発生する結果を反映したディスカウント・レートで調整することが可能である。・ROVは,各意思決定ポイントにおいて,評価額最大化のために登場する多数のオプションを捉えることができる。また,投資決定を直ちに行うか,一定期間経過後に行―15―石油/天然ガス レビュー ’02・5、かなど,全ての可能性を取り込むことができる。・ROVでは,時間の経過(意思決定を遅らせるというoption)に価値があると考える(但し,時間の経過と共に評価額は確率分布を伴い幾何級数的に増加するという前提に立たなければ,その価値の増加はかなり目減りする)。・ROVでは,不確実性が価値を生み出すと考える。これは不確実性が排除された後,評価価値を最大化ならしめるような行動をとることを前提としている(但し,現実の世界では,不確実性は部分的にしか排除されない場合,ROVは不確実性の排除を過大評価するリスクを負うことになる)。(2)Real Option分析の弱み1)理論上の弱点・前述のように,Option Pricing理論は,Financial Optionでは妥当する数多くの前提に基づいている。しかし,その前提は必ずしも現実の事業評価には妥当しないところがある。それ故,石油・ガス上流プロジェクトの価値評価法としての有効性にやや疑問が残る。・石油・ガス上流事業において,ROVをどのように使っていくべきかにつき,業界内のコンセンサスが得られていない。・ROV分析のモデルでは,多数の不確実性を1つ(または2?3つ)に統合・集約化するため,複雑な現実事象を扱うには必ずしも十分とはいい難い。(但し,最近では,幾つもの不確実性を同時に取り扱うことのできるソフトウエァーも開発されており,より現実的な分析が可能になっている。これらは複雑な樹形図をもつ二項モデルもあれば,シミュレーションによる数量モデルもある。)2)弱点?時間の経過・Option Pricing理論では,意思決定を行う時点で収入とコストが明らかになっていることが前提となる。金融界ではこの前提は妥当する。例えば,株式のCall Option(株式を特定価格で購入するoption)では,株価(S)の変化はリアル・タイムで知ることができ,optionの行使価格(X)も既知の情報である。その結果,損失が発生するようなoptionの行使は実際に起こりえない。ところが,石油・ガス上流事業では投資の意思決定を行う時点と,それによる収入(S)や設備投資額(X)が明らかになる時点は異なり,その間タイム・ラグが生じる。それ故,評価額最大化に向けての意思決定は部分的に(或いは,完全に)妥当性を失ってしまう。その結果,損失を生じてしまうような意思決定も実際には起こりうる。3)弱点?石油価格の取り扱い・石油・ガス上流事業ROVの具体例の中で,確率変数として石油価格を用いた文献が多く見受けられるが,契約等で石油価格を設定するなど特段の事情のない限り,これらは基本的に誤りである。石油価格からOption Valueが生じることはない。なぜなら,①石油価格の動きは平均回帰過程であり,幾何級数的増加など特定の傾向を示してはおらず,また,②投資の意思決定時点と収入発生時点でタイム・ラグが生じるため,石油価格の不確実性は意思決定時点で排除することが決してできないからである。開発の意思決定を遅らせることによって不確実性を排除するのは,埋蔵量,生産量などでは可能であるが,石油価格では不可能である。税率は評価額に影響はあるものの,通常は数値の振れはそう大きくない。4)弱点?設備投資額・ROVモデルのほとんどの文献では設備投資額は固定され,既知の数字として示されているが,石油・ガス上流事業では設備投資額は固定されている訳ではない。ROVモデル構築にあたっては,この点に留意する必要がある。設備投資額の不確実性により,評価額最大化に向けて行動(option行使)するという前提が必ずしも妥当しなくなり,そのためコスト・オーバーランが発石油/天然ガス レビュー ’02・5―16―カする可能性もある。5)弱点?意思決定を遅らせることにより生じるコスト・ROVモデルのほとんどの文献では,意思決定を遅らせることにより生じるコストは小さいと述べられているが,石油・ガス上流事業では,間接費用と生産活動からの収入発生の遅延が含まれ,大きなコストとなる。このコストは意思決定を遅らせることから得られる利益を通常は上回る。(3)Real Option導入上の問題点・Real Optionの概念や用語について,ほとんどの事業経営者には馴染みがない。・Real Optionを石油・ガス上流事業に応用するに際し,適切な文献が用意されていない。一般に出回っている文献は,具体性に欠け,現実事象を単純化してしまっているため,実際に役立てるのは難しい。それ故,専門家の分析が必要となる。・Real Optionの専門家による分析が行われた場合,事業経営者はその分析内容と結果を理解することが難しく,速やかな投資決定に結びつきにくい。(4)未解決の問題以下の問題は,Real Optionを取り扱うに際し,関係者の間でコンセンサスが得られていないものである。・石油価格を確率変数として役立てることができないこと。・プロジェクトNPVを市場取引価格の近似値として使うことに妥当性があること。・二項モデルの枝分かれ(Binomial lattice)は,リスク・フリー・レートで割り引くべきであること。(5)Real Optionの応用の発展段階前述の通り,Real Option分析は発展途上にある。学術研究部門では,単純化された純粋理論の中でやや複雑な動的モデルを構築している一方,産業部門では,純粋なモデルを複雑な現実のビジネスに適用可能とすべく検討している。現在は,option理論と産業界の現実事象との間に生じるこのような溝を埋めつつある段階にある。その意味で,石油・ガス上流部門においても,標準となるようなReal Option分析法は未だ完成していない。学術研究部門は,石油・ガス事業へのRealOptionの応用に関し示唆を与えてはくれるが,細部の込み入った部分まで取り込むことはできない。他方,産業部門ではガス下流における供給契約においてReal Optionの導入が最も進んでいる。(6)Real Option分析を応用するのに最適な環境1)ROV分析法が最も妥当する環境・資産価値の不確実性が既知の確率変数である場合・価値評価の対象となる資産が市場で取引されている場合・収入(S)とコスト(X)が意思決定の際,既知である場合つまり,商品取引上の商品の売買契約のような場合である。2)ROVが最も高い値を示す環境・不確実性が高い場合・マネージメント手段(計画変更)のフレキシビリティがある場合・Expected NPVがゼロに近づき,しかし評価額が上昇する可能性が高い場合つまり,石油・ガス上流事業では,評価・開発プロジェクト,特にハイリスク・ハイリターンの状況にあるもの。3)ROVが最も低い値を示す環境・不確実性が低く,投資決定を遅らせることが難しく,選択肢が実質的に1つに限定されてしまっている場合・Expected NPVがプラスの大きな値,或いはマイナスの大きな値を示しており,意思決定が容易に行える場合石油・ガス上流事業においては,現に生産を行っている鉱区資産の評価額がそれに相当する(但し,今後開発を拡張するか,或いは放棄するか等の意思決定をする場合にはその限りでない)。―17―石油/天然ガス レビュー ’02・5PV?(cid:0)NPV+(cid:0)0Definitely AbandonDefinitely InvestNPVROVCumulative(cid:0)Uncertainty(cid:0)o√t第13図 Where Best to Apply ROV(参考文献)・IHS Energy社プレゼンテーション資料“Real Option Valuation in E&P”“ApplyingReal Option Valuation in E&P”“Pro’s andCon’s of Real Options Analysis in E&P”Andy Spriggs・“Real Option?Managing StrategicInvestment in the Uncertain World”Martha Amram/Nalin KulatilakaHarvard Business School Press・“Integration of financial and strategicplanning using a real options frameworkbolsters capital spending decisions”David Mercier“Oil &Gas Journal”Mar. 25, 2002・「リアル・オプション?経営戦略の新しいアプローチ」マーサ・アムラム/ ナリン・クラティラカ東洋経済新報社・「リアル・オプション?新しい企業価値評価の技術」刈屋武昭/山本大輔 東洋経済新報社・「事業価値評価の新手法?リアル・オプション」ティモシー・ルーマン「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス」1999年1月号 ダイヤモンド社・「リアル・オプション・アプローチを取り入れた石油・ガス探鉱・開発プロジェクトの評価について」高橋弘毅 「石油/天然ガスレビュー」2000年11月号 石油公団石油/天然ガス レビュー ’02・5―18―
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2002/05/30 [ 2002年05月号 ] 企画調査部
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