ページ番号1006014 更新日 平成30年2月16日

微生物EOR技術を用いた成功例 ―中国吉林省扶余油田での国際共同研究プロジェクト―

レポート属性
レポートID 1006014
作成日 2002-07-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 永瀬 圭司
年度 2002
Vol 35
No 4
ページ数
抽出データ 微生物EOR技術を用いた成功例?中国吉林省扶余油田での国際共同研究プロジェクト?永 瀬 圭 司*世界のエネルギー事情に関しては,依然として石油の安定供給が大きな問題であることに変わりはない。しかし世界の油田探査も一段落し新規巨大油田の発見は極めて難しい現状を考慮すると,今後はEOR(採油増進法:Enhanced Oil Recovery)による老朽油田の再活性化が重要な戦略の一つになると予想される。その中でも微生物を用いた微生物攻法はコストが低く,低油価時でも適用が可能であることから,近年注目されてきている技術である。石油開発技術センターでは,中国吉林省扶余油田において共同研究「微生物攻法フィールドテスト」を中国石油天然気株式有限公司(PetroChina Jilin Oilfield Company)と実施した。同油田では,油層中に存在する高浸透率層の影響のため水攻法を効率的に行うことができず,多くの未回収原油が残存することが問題となっていた。そこで共同研究中に発見した不溶性ポリマーを代謝する微生物を用いて,微生物連続圧入テストを実施したところ,約2?3倍程度の増油効果を半年以上にわたり確認することができ,コスト的にも十分競争力を有することが証明された。世界では,過去にも油層中に栄養源を圧入することで,油層内に存在する微生物を活性化させ原油増産に結びつけた例はいくつか報告されている。しかし今回の様に,有益な微生物が油層内に存在しない油層に微生物と栄養源を圧入して,これほど明確な成功結果を得られた例は無い。扶余油田と同様な問題を抱えている油田は世界中にも多く存在することから,それらの油田への本微生物攻法の適用が期待されている。1.微生物攻法とはEOR技術は,ガス攻法(炭化水素ガス,炭酸ガス,空気),ケミカル攻法(ポリマー,界面活性剤,アルカリ),熱攻法(水蒸気攻法,火攻法)の三つに分類され,増油効果としては,大別して,置換効率の向上を目指す方法と,掃攻効率の向上を目指すもの,若しくは排油エネルギーを付与することにより原油回収量の向上を目指すものに分けられる(図1参照)。置換効率を高めるには,油層中の原油の粘性を低下させる方法(水蒸気攻法,火攻法),圧入ガスと原油間の成分移動もしくは圧入薬剤によって原油と圧入流体のミシブル(混合)状態*本稿は石油公団石油開発技術センター石油工学研究室 永瀬圭司(E-mail : nagase-k@jnoc.go.jp)が担当した。を生成して界面張力を下げる方法(炭化水素ガス攻法,炭酸ガス攻法,マイセラーポリマー攻法),油層岩の濡れ性を変化させる方法(アルカリ攻法)等がある。また,掃攻効率を高めるには,圧入流体の粘性を高めることにより原油との易動度比を改善する(ポリマー攻法),高浸透率層を選択的にプラギングすることにより浸透性が不均質な油層を均質化する(ジェルトリートメント)などの方法がある。一方,微生物攻法とはポリマー(水溶性,不溶性),界面活性剤,炭酸ガス,メタンガス,酸等の代謝物を生産する微生物などを用いて,各種EOR技術と同じ機能を油層内で期待するものである。さらに,微生物の中には重質油を分解して軽質化する機能を持つものもあり,これらの微生物では油層内で重質原油の粘性を低石油/天然ガス レビュー ’02・7―38―コさせることによる増油効果,あるいは坑井内及び坑井近傍に沈積したアスファルテン分を分解・除去することによって生産性の改善効果を持つものも存在する。また,原油を脱硫する性質を持つ微生物の存在も知られている。すなわち,微生物攻法とは微生物の持つ固有の機能を活用して原油の回収増加を図ろうとするものの総称ということになる。2.プロジェクトの経緯1987年に微生物攻法の研究を始めた石油開発技術センターでは,複数の有用微生物を収集し,1995年までにラボでの油回収実験で増油効果を確認し,十分な基礎的データを蓄積することができた。そこで実用化へ向けた次のステップとして,これまでに得られた微生物を実油田等に適用して,その効果を実証する必要があった。しかし国内には微生物の能力検証に適した油田が見つからなかったため,海外にフィールドを提供してくれる共同研究先を求めていたところ,中国吉林省油田管理局から共同研究に関する打診があった。同地域では水攻法の末期に達しつつある油田群の油回収量の維持・回復が課題であり,低コストである微生物攻法の適用に強い関心を抱いているため,双方のニーズが合致する状況であった。そこで現地調査を実施した結果,石油開発技術センターが収集してきた有用微生物が十分適用可能であると判断された。そのため,大型研究「EOR実油田適用技術」の一環として,1996年5月に石油公団は中国吉林省油田管理局と国際共同研究「中国人民共和国吉林油田におけるMEOR(微生物攻法)共同研究」の基本協定書を締結し,吉林省の扶余油田にて微生物攻法フィールドテストを開始することとなった。なお,次年度以降の協定書は研究の実施主体である吉林石油集団有限責任公司(現中国石油天然気株式有限公司,英語名:PetroChina Jilin Oilfield Company)と締結している。共同研究では東北大学に研究指導を,また微生物工学的分野の技術的協力を関西新技術研究所に仰ぎ実施された。図1 EORの分類―39―石油/天然ガス レビュー ’02・7998,1999年のフィールドテストでは,石油開発技術センターでそれまでに収集された3種類の有用微生物を用いて,34坑井にてハフ&パフ形式(微生物の圧入と油の生産を同一の生産井で続けて実施する方法)による微生物圧入を実施し,約半数の坑井にて増油効果を確認することができた。その結果を踏まえて,1999年4月には「中華人民共和国吉林省扶余油田における微生物攻法共同研究フェーズ2」の基本協定書を締結し,新たに発見した微生物(CJF-002)を圧入井から連続的に圧入することにより,実油田でのEOR能力確認を目指した。3.プロジェクトの目的EORの世界では,ラボ実験で良い結果が得られても,即実油田に適用できるわけではない。実際の油田では油層の不均質性,ラボ実験とのスケールの違い,操業上の制約等,クリアーしなければいけない問題が数々存在し,ラボ実験と同様の結果を得られないケースが多く見られる。加えて,生物である微生物を実油田に適用した場合の生存能力,油層内先住微生物との競合性などは実際に試してみないと分からない。そのため,油田での微生物の競合性の調査,微生物の増油能力の検証,評価手法の有効性の調査,実油田での微生物ハンドリング,微生物圧入/生産操業ノウハウの取得等を目的とした微生物攻法フィールドテストは,商業規模での適用を検討するために重要な情報を提供することとなる。数あるEORの中で,微生物攻法の低廉性は広く認識されているが,未だメジャーな技術になってはいないと言うのが,プロジェクト開始当時の微生物攻法に対する評価だった。この原因の一つに,数多くの微生物攻法フィールドテストが報告されているにもかかわらず,増油の要因,失敗の原因までを追求した報告がないことが挙げられる。すなわち油層中に圧入した後の微生物の増殖・代謝活動のメカニズム解明の把握が困難であることが,増油メカニズムの解明を難しくしていたのである。そこで,本プロジェクトでは遺伝子解析,代謝物解析の技術を導入し,油層内での圧入微生物の状況を正確に把握することにより増油機構を解明して微生物攻法の実用性向上を目指した。4.中国吉林省及び扶余油田について中国吉林省は北京から北東約700kmの中国東北地方に位置している。吉林省には中国第5位の規模を誇る吉林油田群が存在するが,扶余油田はその油田群の中で一番大きな油田であり,吉林省の省都,長春(旧満州国の首都)から車で3時間程度(200km強)の松原市に位置する(図2,3参照)。扶余油田のテストエリアの性状を表1に示す。テストに使用した油層深度は350?500mと浅く,温度も30℃と低いところが特徴であり,CJF-002の生育環境には比較的適していると言える。また長期にわたる水圧入の影響でウォーターカット(生産された流体中の水の割合)が高く,水攻法が非効率的になっていることが問題となっている。また,砂岩油層の岩石部分の浸透率はさほど高くなく,生産量アップのために,水圧破砕作業などが行われていたが,それが水攻法の掃攻効率に悪影響を与えていると推定されている。なお,当地は冬季には外気温が零下35℃まで下がり,坑井元での流体サンプリング等の屋外作業に支障があるため,今回の現場テストは5月?11月の期間に限定して実施された。5.微生物(CJF-002)の特徴1997,1998年に既収集微生物を用いたハフ&パフテストを実施実施したが,同時に新規有用微生物の探索も行った。その結果,いくつかの有望な微生物が得られ,連続圧入テストの候補微生物としてこれら新規有用微生物も加えた室内実験が実施された。その結果新たに発見した微生物CJF-002に不溶性ポリマーを産出する特徴が認められた。このCJF-002はサイズが小さいため(図4(a)参照),フラクチャー内や浸透性の高い油層岩内を移動することが可能であり,また,栄養源であるモラセス(精糖工程で石油/天然ガス レビュー ’02・7―40―}2 扶余油田の場所表1 微生物攻法フィールドテスト実施エリアの概要88%生じる糖分を含んだ副産物)を適当な濃度で付与すると,容易に増殖し不溶性ポリマーを産出する特徴を持っている。また,不溶性ポリマーは,網状またはシート状に発達する(図4(b)参照)ため,油層内で浸透性の高い地層をプラグして,水攻法の掃攻効率を改善する効果が期待できると判断して,連続圧入テストに用いることとなった。―41―石油/天然ガス レビュー ’02・7図3 吉林省及び黒龍江省の油田カ物圧入においては,圧入微生物が油層内で十分にそのEOR機能を発揮するために,油層内に生存する先住微生物に対する十分な競合性が要求される。そのためには,高濃度に培養した微生物溶液を油層内に圧入する必要がある。CJF-002においては下の手順で容易に培養することが可能であった。①1%モラセス溶液を100ml調製し,モラセス中の雑菌繁殖を防ぐため高温殺菌し,室温まで自然冷却した後にセルラーゼを10μl加えて十分に攪拌し,モラセス培地を作成する。(培養中にCJF-002が不溶性ポリマーを出すと,圧入時などに支障を来たす。そこで培養中に産出した不溶性ポリマーを溶解させるためにセルラーゼを用いる)。②寒天培地上に保存されたCJF-002を少量採取し,上のモラセス培地に接種する。③30℃の恒温槽内で20時間培養することにより,100mL容器内の微生物濃度は108個/ml程度まで培養できる。その後,同様の手法で約10Lのモラセス培地を作成し,100ml培養液を接種し,30℃の恒温槽内で20時間培養することにより,さらに約100倍の容量の微生物溶液を作成できる。6.CJF-002ハフ&パフテストCJF-002が油層内においても十分な増殖性を持ってポリマー生産を行い,かつEOR効果があるかを検証する目的で1999年にハフ&パフテストを実施した。扶余油田では,高浸透率ゾーン(フラクチャー)の存在により特定のゾーンのみに圧入水が流入し,効率的な水攻が行われないという欠点がある。そのため,不溶性ポリマーを代謝する微生物とモラセスを生産井から圧入することにより,生産井近傍の水の流路に沿って不溶性ポリマーが生成され水の流入を阻止するとともに,圧入水の流路の変化によって,これまで十分に掃攻されていなかった層での圧入水による原油置換により油の増産が期待できると考えた。そのため,ウォーターカットの変化並びに増油効果の確認が明確に確認できると考えられるウォーターカットが高くかつ水生産量の大きい6坑井を対象坑井にハフ&パフテストを実施した。ハフ&パフテストでは微生物溶液をタンクローリーで坑井元まで輸送し圧入する。今回のテストでは,連続圧入での最適な圧入条件を検討することも目的に,圧入方法やモラセス濃度を変えて,以下の3条件でのテストを各2坑井で実施した。(cid:0)実験条件A:10 m3分の微生物溶液(含む10L培養液8本分)を先行圧入後,1%モラセス溶液を80 m3分圧入(分別圧入)(cid:0)実験条件B:10 m3分の微生物溶液(含む10L培養液8本分)を先行圧入後,5%モラセス溶液を80 m3分圧入(分別圧入)(cid:0)実験条件C:80m3分の微生物溶液(10L培養液8本分+5%モラセス溶液)圧入(混合圧入)(a)図4 (a)CJF-002,(b)不溶性ポリマーの電子顕微鏡写真(b)石油/天然ガス レビュー ’02・7―42―ネお,微生物溶液,モラセス溶液の圧入後,坑井は10日間密閉し,その後生産を再開した。また,圧入/生産期間中は,圧入流体の微生物濃度,モラセス濃度,糖濃度等及び生産流体中の微生物濃度,モラセス濃度,糖濃度,ポリマー濃度,油粘度等を分析し,油層内での微生物挙動の評価に活用した。6坑井でのハフ&パフテストの結果,4坑井においては生産再開後ウォーターカットが低下し,油生産量の増加が観測された。特に実験条件Bでテストを実施した#22-264は,油生産量が日産0.25から2.0tへ,ウォーターカットが99から75%へと,もっとも効果の現れた坑井であり,ポリマーによって高浸透率領域を閉塞できたと思われる。また,ハフ&パフテスト後の油生産量及びウォーターカットは安定しており,CJF-002の生産した不溶性ポリマーは油層中で長期間安定して存在できることが示唆された(図5参照)。圧入方法に関する優劣は生産挙動のみからでは判断が難しかったが,生産流体中の不溶性ポリマーの検出量を見ると,CJF-002とモラセスを混合で圧入し,モラセス濃度を高くした方が不溶性ポリマーを多く検出することも判明した。以上から,CJF-002の油層内での生存能力及び十分な増殖性を持って不溶性ポリマーを生産する機能が確認されたのみならず,不溶性ポリマーによる掃攻効率の改善効果が検証された。また,高濃度のモラセスと高濃度のCJF-002を混合して圧入することが,油層中でCJF-002がより多くの不溶性ポリマーを生産することも確認できた。これらの結果は,圧入井から連続的にCJF-002を圧入することによって,さらに広範囲に油層内での掃攻効率改善が期待できることを示すものであった。7.CJF-002連続圧入テスト前年度のハフ&パフテストの結果を踏まえ,2000年からCJF-002を圧入井から連続的に圧入することによって,CJF-002が代謝する不溶性ポリマーによって油層内の圧入プロファイルを改善し,油掃攻効率の向上を目的とした連続圧入テストを開始した。7.1 テストエリアの概要連続圧入テストは地質構造を考慮し東24-26ブロック南部に位置する2坑の圧入井を中心と図5 ハフ&パフテストの成功例(実験条件B:#22-264)―43―石油/天然ガス レビュー ’02・7キるエリアを選択した(図6参照)。テストエリアの西側に走る北北東方向の断層は流体の移動を遮断するシール性を有し,東側には既存坑井はない。また,東26-26ブロックにはテストエリアの南北に圧入井#22-272と#28-242が配置されているため,圧入流体がテストエリアの南北方向に流出することも少なく,圧入井#24-252と#26-252を中心とする圧入パターン内での微生物モニタリング,生産挙動の把握が容易にでき,テスト結果の評価に適すると判断した。また,油層データの収集並びに連続圧入テスト時の観測井として新たに掘削したJ-17,J-18で採取したコア及び物理検層結果の解析を基に油層性状,地層対比を行い,Layer3,4及びLayer6,7を連続圧入テストの対象層とすることとした。貯留層の対比図の一例を図7に示す。7.2 微生物圧入施設連続圧入テストで使用した微生物培養施設の概略図を図8に示す。培養施設内にはモラセス,圧入水用タンク,CJF-002培養タンク(写真1参照)及び圧入用ポンプ(写真2参照)が設置されている。また,テストエリア内の圧入井(2坑井)まではファイバーグラス・コーティングされたフローライン(76.2mm径×3km)を設置した。図6 扶余油田東24-26ブロック内の連続圧入テストエリア図7 テストエリア内の坑井間対比図の一例石油/天然ガス レビュー ’02・7―44―V.3 2000年連続圧入テスト微生物連続圧入テストでは,長期間にわたりCJF-002を連続圧入することから生成された不溶性ポリマーが,培養施設内の配管及び坑井内が閉塞することが危惧されていた。そのため,万一トラブルが発生した場合に不溶性ポリマーの主要構造であるセルロース(β1?4結合)を特異的に分解する酵素(セルラーゼTRL)による閉塞防止処理を準備するとともに,CJF-002を先行的に圧入した後,モラセス溶液を圧入する分別圧入を採用した。また,モラセス濃度は,不溶性ポリマー生成に必要な最小濃度からテストを開始し,順次濃度を上げることとした。連続圧入テスト期間中は,微生物的データ(微生物濃度,雑菌濃度,モラセス濃度,ポリマー濃度等),生産データ(産液量,産油量,ウォーターカット等)のモニタリング及び微生物連続圧入前後の油層性状の変化を評価するためにトレーサーテスト,物理検層を実施し,油層挙動の評価に活用した。2000年はモラセス圧入濃度を変えて3回の連続圧入テストを実施したが,残念ながら生産井写真1 1KL微生物培養タンク(3基)写真2 圧入ポンプ図8 微生物圧入施設の概略図―45―石油/天然ガス レビュー ’02・7ナの有意な油生産量の増加またはウォーターカットの減少は認めらなかった。また,テストエリア北部の圧入井#24-252で実施したトレーサーテスト結果からも連続圧入テスト後のトレーサーの検出挙動には大きな差異も見られなかった。しかしながら,2000年のテスト結果から以下の様な知見が得られた。(cid:0)トレーサーテストの結果,圧入井から60m,120mに位置するJ-18及び#24-264では,トレーサー圧入後,僅か6時間,30時間でトレーサーが検出され,油層内にフラクチャーなどの高浸透率層の存在が示唆された。また,圧入井から120m北西に位置する#22-264は,トレーサー圧入3.5週間後にトレーサーが検出されており,J-18,#24-264方向と比べると比較的均質ではあるものの,やはり高浸透率層の存在がうかがえた。(cid:0)微生物の圧入状況に関しては,圧入井直前のマニホールドから採取された圧入水中の微生物濃度の推移(図9参照)に示されるように,圧入当初は概ね105?106個/ml のCJF-002が検出され,良好な状態でCJF-002を圧入できた。しかしその後の圧入では,徐々に雑菌の検出数が優勢となっている。この状態では油層内にモラセスを圧入しても,優勢となった雑菌によってモラセスが消費されてしまいCJF-002の増殖は阻害され,十分な量の不溶性ポリマーも産出できないことが判明した。雑菌の増殖原因を検討した結果,培養施設と圧入井間のパイプライン中に残留したモラセスがモラセス溶液中に存在した雑菌を繁殖させたものと考えられた。(cid:0)一方,CJF-002圧入後,複数の生産井の生産流体中からCJF-002及び不溶性ポリマーが検出された(図10参照)。これによりCJF-002が油層内で増殖し,不溶性ポリマーを産出していることが証明できた。またモラセスを高濃度で圧入すると,より長期間CJF-002が生産流体中で検出される(=生存可能である)ことも判明した。しかしながら,CJF-002圧入当初は,高濃度でCJF-002が圧入されていたことから,不溶性ポリマーの生成によるEOR効果が期待されたが,実際には初期のモラセス圧入濃度(0.1%)が低すぎたため,図9 マニホールドで採取した圧入水の微生物濃度の推移石油/天然ガス レビュー ’02・7―46―\分量の不溶性ポリマーの生産には至らなかったものと考えられた。その後,モラセス濃度を上げて圧入した時には,すでに雑菌によってCJF-002の増殖が阻害されている状況であり,不溶性ポリマーは生産されていたものの,EOR効果を発揮するには十分では無かったものと推定された。7.4 2001年連続圧入テスト2000年に実施した連続圧入テストでは,EOR効果を確認するには至らなかったものの,連続圧入操業に係るいくつかの技術課題が抽出されたことから,圧入方法において次の3点の改善を行った。(cid:0)培養施設-圧入井間のパイプライン中に残留したモラセスが,雑菌の繁殖を助長したことから,モラセスは培養施設からのフローラインを介してではなく,圧入井元のマニホールドから圧入する。そのため,図11のように設備を改良し,移動用モラセスタンク及び圧入ポンプを新規に使用する。(cid:0)油層内で十分な不溶性ポリマーを生産させるためにモラセス圧入濃度を10%とする。(cid:0)CJF-002がより多くのモラセスを摂取できるように,CJF-002と混合して圧入する。(1)微生物連続圧入テストスケジュール及びモニタリング項目CJF-002及びモラセスの圧入実績を図12に示す。油層内における他の菌との競合性を考慮して,モラセスとの混合圧入の前に1週間のCJF-002単独圧入期間を設け,モラセスが圧入されたときの油層内でのCJF-002濃度を高くすることを目標とした。なお,モニタリング項目は2000年連続圧入テスト時と同様である。(2)テスト結果(cid:0)生産挙動2001年6月11日にテストエリア北部,同25日に南部にCJF-002及び10%モラセス圧入後,ただちに油生産量の急激な増加とウォーターカットの低下が確認された(図13参照)。圧入井周辺の10坑の生産井では,CJF-002及びモラセス圧入前には約6t/dであった油生産量が,圧入直後には23t/dまで増加し,10坑井のうち8坑の生産井で,モラセス圧入直後から油生産量の図10 生産流体からの微生物検出濃度の一例(#24-264)―47―石油/天然ガス レビュー ’02・7}11 改良後の微生物圧入施設概略図図122001年連続圧入テストスケジュール増加及びウォーターカットの減少が確認された(図14,15参照)。増油効果が良好のため,モラセス圧入を開始後2ヶ月程度で中止し,その後は水圧入のみに切り替えたものの変わらぬ増油傾向を示し,その効果はモラセス圧入終了後6ヶ月以上も継続していることが確認された。微生物圧入後の累計油生産量は半年間で約3,000tに達するが,圧入を実施しなかった場合の累計油生産量予測が約1,150tであることを考えると,生産量は約2.6倍に改善され,約1,850tが本連続圧入テストにより増油されたことになる。今後もこの増油傾向は続くことが予想されることか石油/天然ガス レビュー ’02・7―48―轣C増油量はさらに増える見込みである。(cid:0)トレーサーテスト結果トレーサーが検出された生産井6坑での微生物連続圧入前後での挙動変化は以下のとおりである。なお,#24-252では,連続圧入テスト前にトレーサーテストを実施しなかったため,2000年10月に実施されたトレーサーテスト結果図13 テストエリア全体の生産挙動図14J-18の生産挙動―49―石油/天然ガス レビュー ’02・7}15#26-25の生産挙動と比較を行った。・J-18及び#24-264では,目立った変化は観測されなかった。・一方,#22-264(図16参照)及び#22-27(図17参照)では,以前は全くトレーサーが検出されないか,検出されるまでにも時間が掛かっていたのが,連続圧入後はトレーサー圧入後わずか数日でトレーサーが検出された。これは連続圧入後により多くの圧入水が#22-264,#22-27方向へ流れるようになったことを示唆している。・J-17(図18参照)では,1回目のトレーサー図16#22-264におけるトレーサー検出挙動の比較石油/天然ガス レビュー ’02・7―50―eストでは,トレーサー圧入後10日程経過してから,トレーサーが検出されたのに対し,2回目は圧入後1週間もせずにトレーサーが検出された。またピークでのトレーサー検出値は,1回目が100ppmであったのに対し,2回目は230ppmであった。連続圧入後はより多くの圧入水が#J-17方向に流れるようになったことが分かる。・#J-17とは対照的に,#26-25(図19参照)ではテスト前のトレーサーテストの際は圧入直後にトレーサーが検出されていたが,テスト後はトレーサーがほとんど検出されなかっ図17#22-27におけるトレーサー検出挙動の比較図18J-17におけるトレーサー検出挙動の比較―51―石油/天然ガス レビュー ’02・7}19#26-25におけるトレーサー検出挙動の比較た。これは,高浸透率層がプラギングされたことにより,それまで主流だった油層内での流れの方向が,変化したためと思われる。(cid:0)物理検層結果2001年微生物連続圧入テストでは,微生物連続圧入作業後にテストエリアの圧入井(#24-252,#26-252)及び生産井(J-17,J-18)にて,それぞれSchlumberger社のWater Flow Log(WFL),Reservoir Saturation Tool(RST)を実施した。これは連続圧入テスト前後の検層結果を比較することにより,微生物圧入がどのような効果をもたらしたかを定量的に評価することを目的とした。しかし,トレーサーテストが明確に連続圧入テストの効果を示していたことと比較して,物理検層結果は明瞭な変化は確認できなかった。それは以下のような理由であると考えられる。・圧入井でのWFLから判るのは垂直方向の掃攻効率の変化だけであり,水平方向の変化を確認するにはトレーサーテストの方が優れている。今回は,トレーサーテスト結果が示すように,水平方向への掃攻効率の改善が顕著であったと考えられ,垂直方向への変化は小さかった。・圧入プロファイルの変化が,圧入井(#24-252)とJ-18の中間地点で起こり,J-18の坑井近傍では起こらなかった。すなわち,圧入井元マニホールドで混合されたCJF-002とモラセスが,数時間のタイムラグをおいて代謝活動のピークを迎えた場合,時間的に不溶性ポリマーは圧入井とJ-18の中間付近で排出されることになる。するとその後に圧入された圧入水は,不溶性ポリマーが代謝された部分を回避して油層内を掃攻するため,その中間付近の水飽和率が大きく変わるものの,J-18周辺ではさほど変化が起きなかった可能性も考えられる。(3)微生物攻法のコストについて2001年の連続圧入テストでは,テストエリア内の2本の圧入井周辺10坑井において,2001年6月11日の圧入開始以降,2002年1月18日までに累計で3,296tの原油が生産された(日産平均15.8t)。連続圧入前のテストエリア10坑井での平均原油日産量は6.0tであったことから,連続圧入テストを実施しなかったと仮定すれば,この期間中に1257tの原油しか生産されなかったことになる。すなわち,連続圧入により2,039t石油/天然ガス レビュー ’02・7―52―フ原油が増産された計算になる(日産平均9.8t)。また,テストエリア内の10坑井以外の周辺坑井からも,連続圧入が原因と思われる増油が観測されており,我々の想定していたよりも広範囲までプロファイルモディフィケーションの影響が及んでいることも判明した。これらの原油増産量が約650t程度あり,トータルでは約2700t(19,519bbl)の増油が確認された。一方,微生物圧入に係る追加操業費としては,モラセス購入と微生物の培養,滅菌等に必要な軽油購入に掛かる費用が挙げられる。2001年の連続圧入テストではモラセス236t(224,200元(950元/t)≒27,000ドル(0.12ドル/元))及び軽油40t(127,200元(3,180元/t)≒15,500ドル)が消費された。したがって,増油分に対する追加操業費は約2.2ドル/bbl程度となり,微生物攻法の経済的合理性が見出せたと判断する。8.まとめ2001年に実施した微生物CJF-002を用いた連続圧入テストで採用した手法により明確な増油効果を実油田で確認した。微生物攻法による成功事例は世界的にも多くはなく,今回の結果は微生物攻法の実用性を立証する貴重な成果である。また本共同研究では,これまで石油開発分野では縁の薄かった微生物工学的な分析手法を活用したことが,非常に高い不溶性ポリマー生産能力を持つCJF-002の発見に繋がり,成功に大きく貢献したといえる。油層内には多くの微生物が存在するが,全ての油田に有益な微生物が存在するとは限らない。今回の扶余油田と同様,有益な微生物がいない油田では,詳細な微生物工学的調査の基にCJF-002の様な微生物を圧入することで,原油増産への可能性が広がったといえる。これまでの微生物攻法に係る研究は,世界的に見ても活発であったとは言えない状況であるが,近年になって石油開発への微生物の活用が注目されてきた傾向が見られる。石油開発技術センターで10数年にわたって実施されてきた微生物攻法に係る研究は今回の共同研究を以って1つの区切りとなるが,これまでに培われた研究成果が今後有効に活用されることを期待する。―53―石油/天然ガス レビュー ’02・7
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2002/07/30 [ 2002年07月号 ] 永瀬 圭司
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