ページ番号1006030 更新日 平成30年2月16日

上流事業の経済性を左右する CDM 「排出権」

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レポートID 1006030
作成日 2002-11-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業探鉱開発
著者
著者直接入力 池ケ谷 清貴
年度 2002
Vol 35
No 6
ページ数
抽出データ 上流事業の経済性を左右するCDM「排出権」池ケ谷 清貴*本来上流のコスト上昇要因である環境対策を実施することで,逆に今までより経済性が向上するという夢のようなメカニズムがあることをご存知だろうか。それがクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)である。CDMは京都議定書で規定されたメカニズムのひとつで先進国の国または企業が発展途上国を技術支援することで削減したCO2排出量の減少分を自国の削減量に転換できる仕組みである。このCDMを実施するために上流企業がなすべきことは特別なことではない。例えば石油産出時の随伴ガスをその場で燃焼させずに発電用に使用すれば,これがCDMによる事業となりうる。これまでと異なる点は,このとき削減された随伴ガス中のCO2の量が「排出権」という販売可能な新しい権利となる点である。CDMに基づくCO2「排出権」が有効となるためには勿論,京都議定書の発効が必要である。京都議定書の発効を危ぶむ読者の方もおられると思うが,残された発効条件を満足させるために必要なロシアの議定書批准が,2002年内にも行われる見通しであり,年内の議定書発効が見込まれている状況にある。このため,日本は議定書発効を前提にCO2削減義務達成の有力な手段であるCDM実施に必要な国内外の環境整備を急ピッチで進めている。日本は国外でのCDMの「排出権」を有効なものとすべくCDM受け入れ側の途上国の体制整備に協力し,国内では「排出権」の取引を容易にするため市場を今秋に立ち上げる予定である。本稿は上流事業にとっては逆転のメカニズムであるこのCDMを紹介し,CDM「排出権」を有効にするための条件,「排出権」の価格見通し,上流事業のCDMの今後の可能性等について報告することを目的としている。なお,本稿取りまとめにあたっては7月に公団で行われたナットソースジャパン株式会社**のプレゼンテーションも一部参考にしたが,文責は全て筆者にある。1.CDMとはクリーン開発メカニズム(Clean DevelopmentMechanism:「CDM」)は,先進国の政府または企業がホスト国を技術支援して実施した省エネや植林によるCO2排出量の削減分を自国の削減量として換算可能とする仕組みである。これは,1997年に京都で行われた気候変動枠組み条*本稿は企画調査部池ヶ谷清貴(E-mail ; ikegay-k@jnoc,go,jp)が担当した。**ナットソースジャパン株式会社・温室効果ガス排出量の国内外の仲介取引,環境コンサルティング業務のほか,電力や各種エネルギー商品及びそれらに関わるリスクヘッジ商品の仲介業務を行う,エネルギーと環境のソリューションプロバイダー企業である。・2001年に東京短資・三菱商事・米国ナットソース社が中心となって設立,現在は石油会社エネルギー会社も参加し合計14社で構成されている。― 1 ―石油/天然ガス レビュー’02・11謔R回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書(注1)により,国内対策の補完的手段として定められた市場原理を活用する3つの京都メカニズム(注2)の一つとして認定されたものである。CDMはベースライン&クレジット方式によっている。つまり,プロジェクトの実施前のCO2排出量をベースラインとして,途上国に技術支援してCO2を実施前よりも削減できた場合に,そのCO2排出量の削減分をクレジット(排出権)として実施者が自国の削減量として換算できる方式である。注1 京都議定書:1992年に大気中の温室効果ガス(二酸化炭素,メタン等)の増大が,地球を温暖化し自然の生態系等に悪影響を及ぼす恐れがあることから,大気中の温室効果ガスの濃度安定化を目的にリオデジャネイロで署名のため開放された「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」がもとになっている。現在,日本を含む186ヶ国が締結済である。同条約は1994年に発効しているが,その条約の詳細については毎年会議を開いて逐次決められている。第三回の締約国会議(COP3)は京都で1997年に開催され,161ヶ国,1万人が参加し京都議定書がまとめられた。議定書では,地球環境問題は全人類的な課題で,問題に対する責任を先進国と途上国が共通に負うが,その原因の大きな部分が主要国にある場合には,両者に程度の差を認めるという「共通だが差異のある責任」の考え方に基づき,先進国に温室効果ガス削減の数値目標を設定することになった。第一約束期間の2008年?2012年までに排出量を1990年比5%以上削減するという形で目標設定(日本6%,米国7%,EU8%)がなされている。ただし,この削減を達成するための実施メカニズム(「京都メカニズム」)を導入することは認められたものの,実施メカニズム等の詳細が決定されなかったことから,我が国を含む大部分の先進国は批准を見送っている。詳細はCOP8以降に決定される予定である。現在,途上国には削減義務はないが将来的な扱いについては決まっていない。2002年議定書発効の場合には,2008年から削減義務が生じることとなる。注2 97年の京都会議決定事項で最も特筆すべき事項とされる以下の3つの京都メカニズムは,自国内での努力の他に先進国がCO2の発生量を削減するための柔軟性措置として認められた。市場原理を活用したCO2の排出移転を用い,削減を可能にするものである。①排出権取引(IET: International Emission Trading)先進国間で排出枠を売買,②共同実施(JI:Joint Implement):排出削減のプロジェクトを先進国間で共同実施し,その削減量を参加した先進国間で配分するルール③クリーン開発メカニズム(CDM: Clean DevelopmentMechanism):発展途上国を技術支援して実施した省エネや植林によるCO2排出削減分を自国の削減量として換算できる仕組みである。これにより日本は国際公約した6%削減中,1.6%分を達成する計画。2.上流事業のCDMCDMは上流企業にとって馴染みがないと思われがちだが,実際には以下のような通常,上流企業がCO2削減のために行っている環境対策事業等がCDM候補となる。(1)CDMの種類石油/天然ガス レビュー’02・11― 2 ―①エネルギー効率の改善: 石油からガスに燃料を転換または発電設備を通常のガス発電からコンバインドサイクル発電とする等により燃焼効率を高めることで単位使用量あたりのCO2排出が削減される。②原油・ガスの増進回収に使用:二酸化炭素等を原油・ガス回収のため油・ガス田に圧入することによりCO2が削減される。B地中・海洋に隔離:地中・海洋にCO2を環境対策のため封入することで放出量が削減される。海洋では帯水層にCO2を封入する。これはBP,Statoilが北海で実施している。また,国内では地球環境産業技術研究機構(RITE)と帝国石油が11月から新潟で実施する予定である。(2)CDM事業の実例(Natsource社のプレゼンテーションより)これは,世界銀行が欧州のある国の油田プロジェクトで随伴ガスを発電に使用する等の有効利用に対しファイナンスを行い,この結果CO2約52万トン/年の削減がなされ,プロジェクトから生じた排出権が世界銀行に実際に買い取られたときの実績値を示したものである。ただし,排出権の買取価格については非公開のため不明である。a.実施前,年間83万トンのCO2が発生・原油生産時に随伴ガス15万トン/年が発生。CO2:37万トン/年放出。内訳:ガスの燃焼(フレア)分9万トン/年。CO2:23万トン/年放出。油田操業時の燃料6.3万トン/年。CO2:14万トン/年放出。・プロジェクト関連で石油製品を5千トン/年使用。CO2:年間2万トン/年放出。・プロジェクトの電力を石炭火力発電所から獲得。使用電力320GWh/年CO2:44万トン/年放出。b.実施後,年間31万トンまでCO2発生量削減。・有効利用の内訳:①フレア取止め。CO2:0トン/年。②発電燃料を石炭から随伴ガスに変更約8.5万トン/年。CO2:16万トン/年放出。③C5+の成分5千トン/年を油田に封入CO2:11万トン/年放出。・その他:油田操業時の燃料6.3万トン/年。CO2:14万トン/年放出は上記に同じこの例でトンあたりのCO2排出権(CER:Certified Emission Reduction)の価格を10ドルとして試算してみると年間520万ドルのキャッシュが生じ,プロジェクト期間を20年とすれば10百万ドルのキャッシュフローが生じることになる。また,東南アジアでの5万b/日を生産する油田について同様の試算を試みると,随伴ガスの生産量が4,000万cf/日で,CO2排出量は1,132千t/年となり,CO2「排出権」がトン当り10ドル(120円/ドル)とすれば約32億円,同じくプロジェクトの期間を20年とすれば約640億円のキャッシュフローがこの「排出権」により追加されることになる。― 3 ―石油/天然ガス レビュー’02・11 R.CDMで得られた排出権の価格見通し上記では10ドルを当てはめたが,将来のCDMによる排出権(CER)価格はどのように予想されているのだろうか。京都議定書発効を前提とするものだけでもCO2トン当り12ドルのものから100ドルを優に超えるものまで様々な予想が出されている。ナットソースの情報によれば,現実の市場でもCO2排出権取引を先行して行っている欧州の数か国の中で英国では義務履行状況の検証時期という特殊事情もあるが,6月頃には5.6ポンド近辺であったが9月末には11ポンド(約16.5ドル)という高めの取引が行われているとのことである。4.CDMにおける排出権(CER)を有効にするための条件CDMは,京都メカニズムのひとつとして国際的に認められるものであるため,そこから生じる「排出権」(CER)(注3)が有効となるための条件として,京都議定書の発効は当然のことであるが,その他にも諸々の条件が設定されている。注3 排出権:京都議定書上取引可能とされる排出権には初期割当量(基準年排出量と数値目標から算定される)AAU(Assigned Amount Unit),共同実施(後述)で発行されるクレジットERU(Emission Reduction Unit),CDMで発行されるクレジットCER(CertifiedEmission Unit),先進国における吸収源活動による吸収量RMU(Removal Unit)がある。①京都議定書発効:京都議定書は以下の2つの条件が満足されれば発効する(2条件を満足した時から京都議定書は90日後に発効)。・気候変動枠組み条約の締約国の中で少なくとも55ヶ国以上が批准,受理,承認,同意のいずれかを行うこと・批准する国の1990年における温室効果ガス排出量の合計が,京都議定書附属書Ⅰ国(先進国等)の総排出量の55%を越えること現在の状況は,一つ目の条件である議定書発効に必要な締約国数55ヶ国は既に充足(5月31日現在69ヶ国)され,残りの条件である総排出量の55%についても,これを左右するロシアの議定書批准が2002年中に行われる可能性が高く,確実に発効するものと考えられている(現在の38.6%にロシア分17.4%加算)。②その他の条件:京都議定書発効以外にも以下の条件を充足しなければCDMによる排出権としては有効なものとはならない(参考図:図1:経済産業省の資料より)。a.実施者に関する条件・当該プロジェクトがCDMプロジェクトとして認定されるためにはホスト国の「持続可能な開発」(注4)に貢献することが必要・CDM理事会の認可を受けた2以上の指定運営組織(DOE:Designated OperationalEntity)の選定・審査を受けることが必要。Price Waterhouse等が有力候補。・CDM理事会の審査・認定が必要:上記DOE審査結果を受けてCDM理事会の審査・認定後に排出権(CER)発行b.ホスト国は京都議定書を批准し,CDMを所管する政府機関を指定することが必要c.先進国政府は,当該プロジェクトを認定することが必要注4 持続可能な開発(Sustainable Development):87年の国連の「環境と開発に関する世界委員会」において,環境保全に配慮した持続可能な開発がこれからの世界経済には必要であるとされた。持続可能な開発とは,子孫の世代の欲求を満たしつつ,我々の世代の欲求も満足させるような開発をいうとされている。この概念は,環境と安定的な経済成長・社会整備を達成すること。この両者を互いに反するものではなく共存し得るものとしてとらえ,環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えに立つものである。石油/天然ガス レビュー’02・11― 4 ―@(cid:0) (cid:0) (cid:0)③CDM事業だけに与えられた先行事業の排出権のプール(2000?2007年)上記の条件は大略決定しているもののプロジェクト実施者が直ちに申請できる段階には至っていない。次回以降の会議に先送りされた問題も多く,手続きの詳細は依然詰まっていない。このため,実施者には見切り発車が求められることとなる。ただし,CDMは京都メカニズムの中で唯一2000?2001年9月までの間に実施された事業についての排出権が2000年から2007年までプール(もち越し)可能となる優遇措置が与えられるため,場合によっては見切り発車の価値はあると考えられる(なお,2001年9月以降スタートする事業については2008年からしか計算されない)。5.上流事業CDMの今後の可能性について(1)可能性は大現在まで上流事業のCDMの企業による実績― 5 ―石油/天然ガス レビュー’02・11ヘ大前提である京都議定書の発効が未だなされていないことから上述以外の実例は入手できなかった。しかし石油・ガス上流事業でのCDMについては,世界銀行・欧州復興開発銀行等の国際的な金融機関が行ってきた発展途上国向けの94?99年の貿易とプロジェクトのファイナンスに係る実績の総額1500億ドルの40%が上流+電力に使用されていることから潜在的な可能性は大きいものと考えられる。また,日本政府は日本企業が行う全てのCDMプロジェクトを認可する方針であることからもCDMの可能性は大きいと考えられ,日本の石油上流企業の前向きの対応が期待される。(2)CDM無しにはプロジェクト実施も拡張も困難2002年8月から南アフリカ共和国のヨハネスブルグで実施された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(環境開発サミット)のビジネス会議において温室効果ガス削減のケーススタディ,持続可能な開発のモデルケース等について議論が行われた。このことからもわかるように環境分野での国際的取り組みが求められる中で石油企業はここ数年,企業活動と地域開発を政治的・社会的な動きと調和させる方向でのプロジェクト開発が必要となってきている(本誌9月号P62参照)。この傾向はさらに進むと考えられ温室効果ガス削減の計画を示すCDMは,石油企業が産油国・地域コミュニティ等からプロジェクト実施の理解を得るための必要不可欠な手段となることが考えられる。6.日本の取り組み米国を除けば最大のCO2排出国である日本は石油危機以降,省エネ対策を進めた結果,省エネ努力の余地が少なく排出抑制の余地も殆どない状況にあるが,京都議定書では2008?2012年までに90年ベースでCO2排出量の6%削減が義務付けられている。このため他国から排出権を獲得せざるを得ない日本にとって,CDMはまさに有用な手段として捉えられ,アジア諸国にCDMを用いた支援を実施することで排出権を獲得することが不可欠である。9月,日本政府は前述の環境開発サミットで日本の施策として,中国・インドネシア・インド・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナムの7ヶ国の温暖化対策事業を支援し,二酸化炭素などの温室効果ガス削減量の一部を日本の排出権として獲得する事業を今年度から開始すると発表した。途上国では排出権について理解が進んでいない国も多く,日本は各国の政府や産業界に情報を提供するとともに温暖化対策を推進する人材を育成する方針も打ち出している。排出権削減義務がない途上国は排出権を先進国等に与えることに問題はないがCDM手続きの国内制度や担当機関が整っていない等,CDM実施の環境が整っていないことを考慮したものである。また,日本はCDMに関する政府の戦略作り,候補地域の選定,モデル事業の研究にも共同で取り組む意向である。一方,日本政府は,国内では民間ベースでの共同実施(JI)やCDMを後押しするため日本企業に対して候補案件や対外交渉に関する情報についてNEDOを通じて提供する方針である。このほか,政府や企業が取得した排出権の移動状況を管理する「国別登録簿」を作り,政府と企業を結ぶ情報システムを開発し,03年から運用を始める予定である。また,日本政府はCDMで獲得した排出権(CER)等の取引市場を今秋にも創設する方針である。7.まとめ以上みてきたように上流業界にも新たなビジネスの機会を齎すと考えられるCDMについては,その前提条件である京都議定書の発効前にも関わらず,CO2削減余地のない日本で注目を集め,国内外で積極的に環境整備が進められている状況である。また,最近の傾向から環境・人権問題に配慮すること無しには上流事業の実施は難しくなってきているため,CDMが上流でのプロジェクト実施の条件となることも十分に考えられる。このため,日本の上流企業はこの大きな経済性向上を齎す可能性があるCDMについて前向きに検討を開始することが必要と考えられる。石油/天然ガス レビュー’02・11― 6 ―i参考資料)・ホームページ:経済産業省,環境省,RD/shell・“Banking on Climate Change”by KateHampton・情報提供:(財)地球産業文化研究所― 7 ―石油/天然ガス レビュー’02・11
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2002/11/30 [ 2002年11月号 ] 池ケ谷 清貴
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