ページ番号1006033 更新日 平成30年2月16日

ロシア主要石油会社の経営スタイルとその功罪について

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レポートID 1006033
作成日 2002-11-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業
著者
著者直接入力 坂口 泉
年度 2002
Vol 35
No 6
ページ数
抽出データ ロシア主要石油会社の経営スタイルとその功罪についてロシア東欧貿易会 ロシア東欧経済研究所調査部次長 坂口 泉*原油生産量の拡大を続けるロシアは,10月初め,ヒューストンにおいて米露エネルギーサミットを開催する等,西側のエネルギー政策においてもそのプレゼンスを拡大しつつある。市場経済化が急がれるロシアでは,石油会社においてもコーポレート・ガバナンスの強化,生産技術の向上が進んでおり,今後も原油生産量の拡大が進との見方が一般的となっている。一方で,株価重視により短期的視点での経営指向を強めるロシア企業は,長期的なリスク・テイクを失っているとの見方もある。本レポートは,本誌2002年9月号「ロシアブームは原油市場に何をもたらし,いつまで続くのか」への対論として,主にロシアの企業経営の観点から今後のロシア原油生産の楽観的見解に警鐘を鳴らすものである。はじめに最近,ロシアの石油業界では自社の株価を上げることを最優先課題とする会社が増えてきており,「時価総額経営」とでも言うべき経営モデルが主流となっている。その先鞭をつけたのが,ユコスとシブネフチで,ここ2年ほどの間に株式の時価総額を数倍にすることに成功している注1)。さらに,最近ではルクオイルやスルグトネフチェガスといった老舗の大手石油会社も,それに追随し「時価総額経営」の手法を取り入れようとしている。以下では,まず,ロシアの主要石油会社の経営スタイルを具体的に紹介した後,株価重視(換言すれば短期収益性重視)の「時価総額経営」の隆盛がロシア石油分野に何をもたらそうとしているのかについて考察してみたい。1.ユコスという会社とその経営スタイル(1)オーナー経営者の特性についてユコスは最近,同社の支配可能株を保有する会社の実態を公表した。その結果,ユコスの社長のミハイル・ハダルコフスキーやその他のユコスの幹部たちが,「グループ・メナテップ」というオフショア・カンパニーおよび,さらにその下にくる2つのオフショア・カンパニーを通し,株式の約61%を保有していることが判明した注2)。この「グループ・メナテップ」というオフショア・カンパニーは,その総帥であるハダルコフスキーの「我々は複数の投資プロジェクトを手がけているが,ユコスは中でも最大の投資プロジェクトである」,「我々にはBPのように10?20年先のことを考える余裕はない」といった発言や,オフショアの上にまたオフショアがくるという複雑な資本関係を構築しているという点等から判断して,いわゆる投資・ファンドに近い存在であると考えられる。そして,その企業戦略にはポートフォリオ的発想,すなわち,短期投資家的発想が色濃く反映されている。より具体的に言えば,彼らの商売の基本は投機型M&Aで,買収した企業の株価を上げることによるキャピタルゲインがその主目的となっている。ユコスの株価をここ2年ほどで数倍にあげることに成功したことからもわかるとおり,彼らは機を見るのに敏な卓越した短期投資家であるといえるが,その分,長期的視野は希薄となっていると考えてよいであろう。*E-mail:sakaguchi@rotobo.or.jp石油/天然ガス レビュー ’02・11―34―i2)ユコス式「時価総額経営」についてユコスの場合,所有と経営が一体化しており株価上昇による最大の受益者はハダルコフスキーを筆頭とする投資家グループであるという特異性は有しているものの,その経営スタイルは,米国型の株主資本主義をベースとしたものであり,株価上昇のためのテクニックも基本的には米国企業のやり方を模倣したものである。以下では,ユコスの経営者たちが,ロシアの石油分野という環境の中,具体的にどのような形で株価を上昇させることに成功したかについて見ていきたい。1)生産量の急増1999年後半より石油の国際価格が高騰し,現在も高値で推移しているため,2000年以降,ロシアの各石油会社の石油生産量は全般的に増加しているが,中でもユコスの生産の伸びは著しい(第1表)。ロシアの石油会社の中でも飛びぬけて増産幅が大きく業績が良いという事実は,ユコスの積極的なPR作戦もあり,証券市場に非常に大きなインパクトを与え株価の急上昇につながった。しかし,生産の内容を見ると,長期的に懸念される点もある。たとえば,他の石油会社の場合,一部の例外を除き,油価が低迷していた1998年と比較すると,休止井割合が大幅に低下している(ロスネフチ22%→6.8%,タトネフチ18.5%→11.3%等)。油価があがれば休止井の割合が減少するのは,いうまでもなくコストの高い井戸での生産が可能になるからで,そこには,そのような形で採収困難な埋蔵量の比率が増加することを防ぐという意味合いも隠されている。ところが,ユコスの場合は休止井の割合が,1998年当時とほとんど変わらず(1%程度しか減少していない),しかも非常に高い数値となっている(第2表参照)。油価が上がっても休止井の割合がほとんど変化しないということは,新技術導入により生産効率が著しく向上したという一面が大きかろうが生産コストの悪い表1 ロシアの主要会社別石油生産量の推移(cid:0)(単位:1,000t)(cid:0)会社名(cid:0)1999(cid:0)58,334.2(cid:0)44,719.6(cid:0)37,573.2(cid:0)36,871.7(cid:0)24,064.5(cid:0)16,322.7(cid:0)11,929.7(cid:0)12,544.0(cid:0)12,261.2(cid:0)10,696.3(cid:0)9,915.1(cid:0)359.6(cid:0)20,899.6(cid:0)304,994.31998(cid:0)58,404.4(cid:0)44,847.2(cid:0)35,171.4(cid:0)36,282.1(cid:0)24,439.6(cid:0)17,313.8(cid:0)11,783.8(cid:0)12,626.1(cid:0)12,891.4(cid:0)11,160.3(cid:0)9,452.3(cid:0)339.7(cid:0)19,677.2(cid:0)303,370.5ルクオイル(cid:0)ユコス(cid:0)スルグトネフチェガス(cid:0)チュメニ石油会社 タトネフチ(cid:0)シブネフチ(cid:0)スラヴネフチ(cid:0)ロスネフチ(cid:0)バシネフチ(cid:0)シダンコ(cid:0)ガスプロム(cid:0)ロストプロム(cid:0)外資参加企業(cid:0)ロシア全体(cid:0)(注)ルクオイルの1998,1999年の数字は,当該年のルクオイルの生産量にコミテックとノベルオイル(2000年よりルクオイルに吸収合併)の生産量を加算したもの。ユコスの1998?1999年の数字は,当該年のユコスの生産量に東部石油会社(2000年よりユコスに吸収合併)の生産量を加算したもの。チュメニ石油会社の1998?2000年の数字は,当該年のチュメニ石油会社の生産量に,当時シダンコ傘下であったチェルノゴルネフチとコンドペトロリウム(2000年よりチュメニ石油会社に合併吸収)およびオナコ(2001年よりチュメニ石油会社に合併吸収)の数字を加算したもの。シダンコの1998,1999年の数字は,当該年のシダンコの生産量から,チェルノゴルネフチとコンドペトロリウムの生産量を引いたもの。生産量の伸びを比較するため,このような恣意的計算を行った。(cid:0)2000(cid:0)62,177.7(cid:0)49,547.4(cid:0)40,620.8(cid:0)38,348.0(cid:0)24,336.7(cid:0)17,198.8(cid:0)12,497.2(cid:0)13,473.1(cid:0)11,940.5(cid:0)10,688.5(cid:0)10,010.1(cid:0)496.8(cid:0)19,667.2(cid:0)323,223.92001(cid:0)62,916.4(cid:0)58,112.5(cid:0)44,027.6(cid:0)40,607.3(cid:0)24,611.8(cid:0)20,592.7(cid:0)14,927.5(cid:0)14,941.6(cid:0)11,864.0(cid:0)9,134.6(cid:0)10,186.4(cid:0)605.8(cid:0)?(cid:0)348,066.8(cid:0)(出所)『ロシア石油ガス垂直統合』誌各号の数字を基に筆者作成。(cid:0)―35―石油/天然ガス レビュー ’02・11芟ヒが事実上,廃棄された可能性もある。その場合,油価が高いときには条件の悪い井戸からの生産を増やし,将来にそなえコストの安い埋蔵量を可能な限り温存しようという戦略を欠いでることが懸念される。さらに,設備投資額が,ルクオイルやスルグトネフチェガスといった他の大手石油会社と比較するとかなり少なめとなっているのも気になる(第3表)。同社の場合,プリオブスコエという1996年に商業開発を開始したばかりの大型鉱床の開発権を保有しているという事実に加え(同鉱床では生産量が順調に伸びており,1996年には約80万t/年だったものが2000年には約300万t/年に達した),フラクチャリングに代表される生産刺激法を積極的に導入しているため,比較的少ない投資額で急激な増産が可能となっているものと推測されるが,効率の良いところから集中的に生産を行うというスタンスは,長期的に見た場合,資源の枯渇の促進(あるいは資源の質の低下)につながる可能性が高いように思われる。2)大胆なリストラ油価が低迷していた1998年夏にユコスは,傘下の子会社の不採算性部門(主に社会インフラ関連部門)やサービス部門(油井の掘削サービスを行う部門,井戸の修理を行う部門,機械・設備の修理を行う部門等)を独立した法人として切り離すという形での大幅な人員削減を実施することを発表した。たとえば,サマラネフチェガス(サマラ州を拠点とするユコス傘下の石表2 生産井に占める休止井の割合(2002年1月1日時点)(cid:0)会社名(cid:0)(cid:0)休止井の割合(%)(cid:0)生産井総数(cid:0)18,665(cid:0)7,630(cid:0)24,881(cid:0)16,408(cid:0)18,963(cid:0)9,006(cid:0)5,339(cid:0)21,333(cid:0)18,469(cid:0)?(cid:0)ユコス(cid:0)シブネフチ(cid:0)ルクオイル(cid:0)スルグトネフチェガス(cid:0)チュメニ石油会社 ロスネフチ(cid:0)スラヴネフチ(cid:0)タトネフチ(cid:0)バシネフチ(cid:0)ロシア石油会社平均(cid:0)(注)チュメニ石油会社でも休止井の割合が非常に高くなっているが,これは,やはり同社のオーナーも短期投資家的色彩が強い投資ファンドであることと無関係ではないだろう。その他,同社の場合,生産条件が非常に悪いサマトロール油田を主要拠点としているので,休油井の割合が非常に高くなっているとも考えられる。ちなみに油価が低迷していた1998年当時の同社の休油井の割合は実に47%に達していた。(cid:0)35.4(cid:0)44.1(cid:0)15.2(cid:0)12.4(cid:0)36.6(cid:0)6.8(cid:0)15.1(cid:0)11.3(cid:0)20.6(cid:0)21.5うち休止井(cid:0)6,600(cid:0)3,367(cid:0)3,776(cid:0)2,041(cid:0)6,946(cid:0)612(cid:0)805(cid:0)2,402(cid:0)3,796(cid:0)?(cid:0)(cid:0)(出所)『ロシア石油ガス垂直統合』誌,2002.3。(cid:0)表3 ロシアの主要石油会社の設備投資額の推移(cid:0)(単位:100万ルーブル)(cid:0)会社名(cid:0)ユコス(cid:0)シブネフチ(cid:0)ルクオイル(cid:0)スルグトネフチェガス(cid:0)チュメニ石油会社 タトネフチ(cid:0)ロスネフチ(cid:0)バシネフチ(cid:0)ロシア全体(cid:0)(出所)『ロシア石油ガス垂直統合』誌各号。(cid:0)1998(cid:0)4,192.9(cid:0)1,741.6(cid:0)4,011.8(cid:0)5,630.8(cid:0)1,028.5(cid:0)2,418.8(cid:0)1,512.5(cid:0)1,039.5(cid:0)28,854.11999(cid:0)2,221.2(cid:0)1,451.6(cid:0)5,892.0(cid:0)13,056.7(cid:0)2,33401(cid:0)5,724.0(cid:0)3,766.0(cid:0)1,757.0(cid:0)49,445.92000(cid:0)8,276.8(cid:0)5,699.3(cid:0)20,134.3(cid:0)31,251.9(cid:0)12,617.1(cid:0)11,746.8(cid:0)9,977.7(cid:0)5,080.2(cid:0)2001(cid:0)17,292.9(cid:0)3,999.7(cid:0)32,642.7(cid:0)40,125.5(cid:0)20,071.6(cid:0)17,745.3(cid:0)12,160.6(cid:0)9,591.3(cid:0)129,112.1183,100.7石油/天然ガス レビュー ’02・11―36―罇カ産企業)では,そのような形で従業員数を3万人から4分の1の7,000人にまで減らすこととなった。またハンティ・マンシ自治管区にある,ユガンスクネフチェガス(ユコス傘下最大の石油生産企業)でも同様のリストラ・プランが発表された。当該のリストラ・プランに対し,サマラでも,ユガンスクネフチェガスの企業城下町であるネフチェユガンスクでも猛烈な反発の声があがり,一時は暴動にまで発展しそうな気配であった。しかし,1999年後半から始まった油価の高騰のおかげで各石油会社が増産体制に移行したことにより,リストラにより切り離されたサービス部門にも十分な量の仕事が舞い込むようになり,最悪の事態は回避された。ユコスのリストラは油価の思わぬ高騰という僥倖がなければ,成否が極めて微妙な措置であったが,結果的には成功し,収益性の向上につながった。この点を証券アナリストたちはこぞって激賞し,それがユコスの株価の上昇につながった。3)プロジェクトを選別する嗅覚と巧みなPRユコスは,マーケット受けするインパクトのあるプロジェクトを探し出す嗅覚が鋭い。特に話題性の高い石油輸出プロジェクトを見出す才能は突出しており,4?5年前より中国向け石油輸出用パイプライン建設計画に積極的に取り組んでいる。また,つい最近(2002年7月)では,他のロシアの石油会社に先駆けて約200万バレルの石油を米国に輸出することに成功している。この米国向け石油輸出は,黒海の港から中型タンカーで石油を積み出し,黒海を出たところで20万t級の大型石油タンカー(VLCC)に積み替えるという煩雑な手順を経て実施されたもので,採算性を度外視した(時価総額を引き上げるための)企業PRであったと見るのが妥当であろう注3)。ユコスは,中国向け石油輸出用パイプライン建設計画の実現に引き続き取り組む他,20万?30万t級の大型石油タンカー(VLCCもしくはULCC:以下,単に大型石油タンカーと称する)の寄港が可能なクロアチアのオミシャリ港を起点に米国向け石油輸出を本格化する意向を表明している。(オミシャリ港は計画中のアドリア海パイプラインのターミナルとなる。)いずれのプロジェクトも話題性が極めて高く,ユコスの株価の上昇に今後も貢献し続けるものと推測される。4)企業の透明化ユコスは,ロシアの他の石油会社に先駆けて,GAAP(米国会計基準)の導入,石油輸出価格の操作による資金逃避の自粛注4),社外取締役制度の導入,株主の名前公開(正確にはユコスの支配可能株を保有する「グループ・メナテップ」の株主の名前の公開。ちなみに,ロシアの大手企業の中には大株主の名前を公表していない企業が珍しくない)を実施したことで有名である。このような企業の透明度を高めるための一連の措置をロシアの証券会社は絶賛し,それがユコスの株価の上昇につながったことは間違いない。ただ,たとえばGAAPを導入したといっても,オフショア・カンパニーが複雑に絡んだユコスの資本関係から判断して関連会社の範囲を特定することは困難であり,透明度が本当に高まったとは言えないのではというのが正直な感想である5)証券会社の囲い込み(アナリストの中立性の問題)ユコスは,ロシアで活動する大手証券会社の主要顧客となっている。たとえば,同社はある外資系証券会社を投資顧問として採用している。また,最近ユコスは,トムスクエネルゴをはじめとする複数の地域電力会社の株式の買収を行ったが,その際,ロシア有数の証券会社であるトロイカ・ジアログ社のサービスを受けている。さらに,アトンという証券会社については,一時,ユコスが買収を検討しているという情報が流れていた。あくまで筆者の個人的な意見であるが,ユコスは,このように主要な証券会社と密接な関係を築くことにより,彼らを囲い込み,マーケットにおいて自らに有利なオピニオンが形成されるよう仕向けているのではないだろうか。(3)同社の経営スタイルに対する評価ユコスのオーナー経営者であるハダルコフキーが,短期収益性を最重視していることは間違―37―石油/天然ガス レビュー ’02・11「ないが,彼のクレバーさは,経営のバランスが短期収益性重視の方向に過度に傾斜しているという印象を外部の人々に与えない点にある。たとえば,ハダルコフスキーは,ユコスが中国向け石油輸出用パイプライン建設プロジェクト,東シベリアのユルブチェンスコエ鉱床開発プロジェクト,米国向け石油輸出プロジェクト,サハ共和国やカザフスタンでの石油鉱床開発プロジェクト等の長期プロジェクトに真剣に取り組んでいることを積極的にPRし,ユコスにおいては短期収益性の向上という課題と,ロシアのエネルギー安全保障を考える上でも重要となる長期投資の遂行という課題がバランスよく達成されているという印象を内外に与えることに成功している。この点,短期収益性への傾斜を露骨に示す後述のシブネフチとは大いに異なっている。ただ,ハダルコフスキーがあるインタビュー記事で「我々は,当然ながら数億ドル単位の資金を10?20年後を見据えたプロジェクトに投資する意向はもちあわせていない」(『ヴェードモスチ』紙,2001.12.6)と語っていることからわかるとおり,彼には長期プロジェクトのリスクを引き受ける意向はない。恐らく,彼は,「自分の役割は有望な長期投資プロジェクトを見いだしその実現にむけての体制を整えるところまでで,その後のリスクは本当の長期投資家が負うべきである」と考えているのだろう。そのことに加え,ユコスが絡んでいる長期大型プロジェトはほとんどすべて,巨額の資金投下をまだ必要としない初期段階にあるという事実も勘案すると,ハダルコフスキーは,それらのプロジェクトをユコスの時価総額を上げるための格好のPR材料として利用していると考えるのが妥当であろう。つまり,ハダルコフキーは確かに長期投資プロジェクトに強い関心を示してはいるが,それは時価総額を上げるための一手段として位置づけられており,彼の経営の本質は,やはり短期収益性の追求にあると考えるのが妥当だと思われる。2.シブネフチ(1)オーナーの特性について英国に登記された「Mill House」という会社が,シブネフチの株式の88%を保有している。ただ,「Mill House」の株主の名前は公表されておらず,ロマン・アブラモビッチという政商が同社の大株主らしいということ以外は謎となっている。「Mill House」もまた,投機型M&Aを基本とする投資ファンドで,シブネフチの他にも,アルミニウム会社,発電所等を所有しその経営に関与している。ただ,ハダルコフスキー率いる「グループ・メナテップ」と比較すると短期投資家的色彩がより強く,短期収益性追及の姿勢はかなり露骨なものとなっている。以下では,その点に留意しつつ,シブネフチの経営スタイルをみていきたい。表4 ロシアの主要企業の掘削深度(cid:0)(単位:1,000m)(cid:0)2000年(cid:0)(cid:0)2001年(cid:0)(cid:0)生産井(cid:0)780.1(cid:0)725.0(cid:0)952.6(cid:0)2,119.4(cid:0)1,178.8(cid:0)622.8(cid:0)676.7(cid:0)試掘井(cid:0)65.6(cid:0)6.2(cid:0)276.6(cid:0)224.4(cid:0)91.0(cid:0)55.1(cid:0)76.2(cid:0)1,013.7生産井(cid:0)673.0(cid:0)931.7(cid:0)1,110.9(cid:0)2,266.4(cid:0)1,054.7(cid:0)839.3(cid:0)749.3(cid:0)9,011.0試掘井(cid:0)117.8(cid:0)25.2(cid:0)269.0(cid:0)270.1(cid:0)102.9(cid:0)63.6(cid:0)69.2(cid:0)1,145.0シブネフチ(cid:0)ルクオイル(cid:0)スルグトネフチェガス(cid:0)チュメニ石油会社 タトネフチ(cid:0)ロスネフチ(cid:0)ロシア全体(cid:0)(注)試掘井には,探掘井,評価井も含まれる。(cid:0)(出所)『ロシア石油ガス垂直統合』誌,2002.3。(cid:0)8,286.6石油/天然ガス レビュー ’02・11―38―コス(cid:0)(cid:0)(cid:0)ユi2)シブネフチ式「時価総額経営」について以下では,シブネフチがどのような形で株価を上昇させることに成功したのかについて見ていきたい。1)増産の達成第1表からもわかるとおり,シブネフチも最近,生産量を伸ばしてきている。とくに2002年に入ってからは好調で,上半期の生産量は前年同期比29%増の1,221.2万tとなっている(ロシア全体の伸び幅は8.5%)。ユコスのケース同様,このことをマーケットは好感し,シブネフチの株価高騰に貢献している。ただ,シブネフチの場合もロシアの他の大手石油会社と比較して設備投資額や掘削深度(特に試掘井)が極端に少ない水準に留まっている(第3表,第4表)。更に,2001年には他の大手石油会社がすべて設備投資額を増やしているのに対し,シブネフチだけは設備投資額を減少させている。また,休止井の割合も飛びぬけて大きくなっている(第2表)。しかも,既述のように他の大手石油会社多くが,油価が上昇傾向に転じた1999年後半以降休止井の数を大幅に減らしてきているのに対し,シブネフチにおいては,むしろ休止井の割合が増加傾向にある(1998年時点で43%であった休止井の割合が,2001年には44.1%になっている)。その他,ユコスもそうであるが,シブネフチがフラクチャリングという生産刺激法を多用しているという点にも注目する必要がある(2001年には354ものフラクチャリングを実施した)。一部には,このようなフラクチャリングの多用が,長期的に見た場合,生産条件の悪化につながるのではないかと指摘する声もでている『ロシア石油ガス垂直統合』誌,2000.7?8)。(以上の点から,シブネフチが,採収し易いところから優先的かつ集中的に石油生産を行っているとすれば,長期的に見た場合,埋蔵量の質の低下(採収困難な埋蔵量の急増)という問題が生じる可能性が非常に高い。2)大幅増益2001年は石油の国際価格が前年より低めで推移したため,ロシアの大手石油会社の純利益額は軒並み減少した。唯一の例外がシブネフチで,2001年の同社の純利益額は前年比93%増の約13億ドルにも達した。これがシブネフチの株価上昇に貢献したことはいうまでもない。ただ,問題はその内容である。実は,シブネフチが2001年から石油輸出の窓口を関連企業に一本化することを発表した時点で,関係者の間ではシブネフチの収益率が大幅に伸びることが確実視されていた。この場合,「輸出窓口を関連企業に一本化する」ということは,石油輸出価格の操作による資金逃避をやめることを意味するからである注5)。また,理由は不明であるが,シブネフチが支払った利潤税額が異常に少ないのも大幅な増益の一因だと思われる。同社の2001年の税引き前の利益額は14億4,000万ドル,納税額は約1億4,000万ドルなので,税率はわずか10%程度ということになる。ロシアの利潤税率は24%なので(2001年時点では35%であった),何故シブネフチがこれほど大幅な「節税」に成功したのかは謎である。大幅な増益は喜ばしいが,シブネフチの場合,その内容はかなり作為的で不透明なものであるといえる。3)巨額の株主配当2001年8月のシブネフチの株主総会で,2000年の純利6億7,800万ドルに対し6億1,200万ドルの株主配当を行うという決議が採択された。この思い切った決断に対する評価は賛否両論にわかれた。株式市場はこの異常ともいえる高額配当を評価し,この決議の採択の後,シブネフチの株価は上昇した。しかし,この高額配当に疑問を抱くものも少なくない。筆者もその一人である。まず,第一に配当率が高すぎる。設備投資をきちんと行っている企業ならともかく,ロシアの石油会社の中でも投資意欲が乏しい部類に属するシブネフチが,このような高額配当を行うのは,どう考えても不自然である。また,シブネフチの場合,株式の約88%をアブラモビッチ率いる「Mill House」が保有しているという点も忘れてはならない。単純計算して,約5億ドル以上がアブラモビッチたちの懐にころがりこんだことになる。株主への利益の還元という建前―39―石油/天然ガス レビュー ’02・11ェ前面に出すぎて実態が見え難くなっている点があるが,これはアブラモビッチ率いる投資家グループによる,シブネフチからの資金吸い上げに他ならない。恐らく,搾取された資金は,当該投資家グループが関与する他の投資プロジェクトに投下されたのであろう。4)透明度を高める努力シブネフチもユコス同様早い時期より,GAAP(米国会計基準)に準拠したバランスシートの作成,社外取締役制度の採用等,透明度を高める努力を行ってきた。各証券会社は,そのような努力を賞賛し,そのことがシブネフチの株価の上昇に貢献してきた。しかし,同社の場合,株式の88%を保有する「Mill House」の株主の名前が公表されていないなど,不透明な部分も少なくない。むしろ,謎の部分のほうが多い企業であるといえる。同社の透明度を高める努力は表面的なものにすぎず,それに対する証券会社の賞賛も作為的なものであると見るのが妥当な気がする。(3)同社の経営スタイルに対する評価その投資額の少なさや掘削深度の少なさ,あるいは,異常ともいえる高額配当等の事実から判断して,シブネフチのオーナー経営者たちは,ユコスのオーナーたちよりもさらに短期投資家的色彩が強いといえる。その分,短期収益性も高いわけで,その点を評価する証券アナリストも少なくないが,長期的な視点から見ると非常に問題の多い経営スタイルであるといえる。現在のオーナーたちは,シブネフチ以外にも数多くの企業を所有しているが,それらの企業に対するスタンスを見ていると,彼らが投機型M&Aを主体とする投資ファンドであることは明らかであり,シブネフチについては近い将来に転売することを視野に入れていると考えられる。3.ルクオイル(1)ルクオイルの現状ルクオイルはロシア最大の生産量を誇る会社であるが(第1表),「長い生産サイクル」に慣れ親しんだ生粋のオイルマンであるアゼルバイジャン出身のヴァギット・アレクペロフが経営者となっていることもあり,短期収益性の点では,金融セクター出身の経営者が指揮をとるユコスやシブネフチに大きく遅れをとってきた。また,組織が大きくなりすぎたせいもあり,企業としての統制が必ずしもとれているとは言いがたく,投資プロジェクトにも一貫性が見受けられない。より具体的にいえば,個としてみた場合興味深いプロジェクトは数多く存在するのであるが,それが線でつながらず,企業戦略のイメージを曖昧なものとさせてきた。ユコスのほとんどすべての大型プロジェクトが,「中国向け石油輸出」あるいは「米国向け石油輸出」といったキーワードで繋ぐことができるのと好対照である。さらに,ファンダメンタルズの部分での不安要素の多さも目立つ。たとえば,同社の石油生産量の約7割以上を占める西シベリアの油田では,含水率が平均で約80%に達するなど生産条件の悪化が著しく,数年後に減産に転じるのは不可避とみられている。また,その代替になると期待されているチマン・ペチョラやカスピ海北部の鉱床では,政治的な問題も絡み注6),事態が順調に推移しているとは言いがたい。さらに,下流部門でも,ルーマニア,ブルガリア,ウクライナ等で,巨額の債務を有する古い製油所を次々と買収したため,債務の肩代わりや設備刷新に絡む資金負担増が重荷となりつつある。以上のような点がマーケットに嫌われる形となり,2002年4月時点でのルクオイルの株式時価総額は約150億ドルと,ユコスの約220億ドルと比較すると物足りない数字となっている。(2)時価総額経営への傾斜ルクオイルは,2002年4月に2005年までの改革プログラムを発表した。このプログラムの枠内で実施される主な措置は,概略,以下のとおりである。1)日産量の少ない生産井を休止させることにより,生産コストを下げる。2005年までに合計で5,000の生産井を休止させる予定。2)掘削部門を独立した企業として切り離す。このことにより全体の15%に相当する約1石油/天然ガス レビュー ’02・11―40―?8,000人の人員削減が可能となる。3)Schlumberger等の外国サービス会社と提携し,新技術を導入する。4)部署,子会社,関連会社の統合整理を行い,組織をスリム化する。5)社外取締役制度の導入(2002年の株主総会で3名の社外取締役が選出された)。これらは,いずれもユコスおよびシブネフチが時価総額を上げる目的ですでに採用し目覚しい成果をあげてきた措置と酷似しており,二番煎じとの印象が強い。この改革プログラムは,ルクオイルが老舗の石油会社としてのプライドをかなぐり捨て,ユコスおよびシブネフチの経営スタイル(時価総額経営)を模倣することを決断したことを意味するものであるといえよう。見方によっては,オイルマンの金融資本(投資ファンド)に対する敗北宣言とも受け取れなくもない。特に注目すべきなのは,休止井の数を増加させると明言している点で,そこには,時価総額経営に取り組むのだという強い決意が読み取れる。また,ルクオイルが2002年5月に発表し,大きな話題となった米国向け石油輸出構想も「時価総額経営への傾斜」のコンテキストで理解すべきであろう。この構想では,コラ半島のムルマンスク付近に25万t級以上の大型石油タンカーが寄港できる石油ターミナルを建設すること,ヤロスラヴリ付近を起点に同ターミナルに至る新石油パイプラインを建設することなどが想定されているが注7),その実現の可能性は今のところ未知数である。ロシアの国営パイプライン輸送会社「トランスネフチ」が現在,やはり,米国への石油輸出を視野に入れた「アンガルスク?ナホトカ」パイプライン建設計画に取り組んでおり,いわばライバル関係にあるルクオイルの構想にロシア政府が全面的な支援を行うとは考えがたいからである注8)。ルクオイルもこの点は十分に承知しているはずで,この米国向け石油輸出構想は,時価総額を上げるためのPR活動としての側面を有していると解釈するのが妥当のような気がする。では,何故,ルクオイルはこれほどまでに時価総額を上げることに固執するのであろうか。その理由としては,まず,ロシア政府が2002年中にルクオイルの株式の約6%をDR(預託証書)の形で売却することを計画している関係で,同政府からの短期収益圧力(短期間で株価を上げるべしという圧力)があったことが考えられる。さらに,ルクオイル自体が,できるだけ早い時期に直接金融市場で資金調達することを検討している可能性もある。その他,ライバルのユコスに時価総額の点で大幅に遅れをとっているという事実が,老舗のルクオイルにとっては耐え難く,このような決断につながったとも考えられる。ただ,いずれにせよ,ルクオイルのこの方向転換により,時価総額経営がロシア石油業界における本流となったことは間違いない。4.スルグトネフチェガス(1)スルグトネフチェガスという企業について生粋のオイルマンであるウラジミール・ボグダノフが経営者となっており,ロシアの石油会社の中では設備投資意欲が突出して高い企業である(第3,4表)。より具体的に言えば,同社の場合,長期的に安定した石油生産量を維持するということが最優先課題となっており,他のロシアの石油会社のように,油価が低迷した時には極端に投資額が減少するという傾向は見受けられない。このため,開発中の油田の平均含水率が85%を越えているにもかかわらず,非常に安定した生産量を維持することに成功している(第2表)。投資の大半は自己資金により行われており,財務体質の強さも際立っている。同社では,資機材の購入は金額の多寡にかかわらず,すべて入札方式で実施されることになっており,他のロシアの石油会社に見受けられるような不透明な資金の流れは少なくなっているが,このことも同社の財務体質の強化につながっているものと推測される。また企業戦略も鮮明で,最近では,下流部門の強化が優先課題となっている。現在,傘下のキリシ製油所の改修計画(総額8億ドル)が進行中である他,フィンランド湾のバタレイナヤ―41―石油/天然ガス レビュー ’02・11ノ石油製品輸出用ターミナルを建設する計画(キリシ製油所とターミナルを結ぶパイプライン建設費を含め,プロジェクト総額は11?12億ドル)や,2001年末に買収したスルグト・ガス処理工場をベースに「スルグト・ポリマー」という石油化学コンビナートを構築する計画(プロジェクト総額は6?7億ドル)も有している。ただ,スルグトネフチェガスにも問題点がないわけではない。中でも最大の不安要素は,上流の状況である。拠点であるハンティ・マンシ自治管区のスルグト地区内の油田では,埋蔵量の質の低下や生産条件の悪化が確実に進行しており,できるだけ早期に有望未開発鉱床の開発権を獲得することが必要となってきている。ハンティ・マンシ自治管区内には大規模未開発鉱床は存在しないので,スルグトネフチェガスは,サハやチマン・ペチョラの鉱床の開発権を獲得すべく動いているが,今のところ,いずれの試みも失敗している。それがすべてとは言えないが,自社の方針に固執するあまり,地方行政府等との交渉の際に柔軟性を欠くことが多いのが,開発権を獲得できない主因のひとつのように思われる。また,同社の場合,自己資金での投資に固執する傾向が非常に強いので,どうしても株主への配当率が低くなる。このことがマーケットから嫌気される格好となっており,同社の株価の動向に否定的影響を及ぼしている。(2)スルグトネフチェガスと時価総額経営同社は極めて保守的で長期戦略に傾斜した企業であるが,時価総額経営の手法を否定はしていない。ただ,ユコスやシブネフチのように,時価総額を上げることが目的化していない。あくまで,時価総額を上げることは,長期投資のための資金調達源を確保もしくは多様化するための手段として位置づけられている。したがって,長期的安定を犠牲にしてまで短期収益性の向上を図るという姿勢は同社にはない。たとえば,同社のボグダノフ社長の,「我々は年間8,000万tの石油を生産することも可能である。設備の増強を行い,石油を掘れば,その数字は簡単に達成できる。しかし,常にサマトロールの悲劇を忘れてはならない。あの悲劇を繰り返してはならないのだ。石油を孫子の代にまで残すようにしなければならない」(『ロシア石油ガス垂直統合』誌,2002.6)という発言からもわかるとおり,休止井の数を増やし,生産効率の良い井戸から集中的に石油を掘るというような発想は同社にはない。しかし,資源の急激な枯渇を防ぎ生産を長期的に安定させるという同社の最優先課題に支障をもたらさない措置に関しては積極的に取り入れる姿勢を見せている。たとえば,現在,GAAP準拠のバランスシートの作成を行っているし,2003年からは社外取締役制度を導入することも決定している。同社の場合,「保守的で頑固」という企業イメージが強いが,これらの動きを見ていると,最近はかなり柔軟になってきているとの印象を受ける。結語(時価総額経営の隆盛がロシア石油分野に及ぼす影響)時価総額経営の根底にはポートフォリオ的発想があり,株主のために短期間で大幅な利益を確保すること(高い短期収益性の確保)が最優先課題となる。したがって,その経営スタイルを生産サイクルが長く長期投資が基本となる産業分野に移入すると,自己矛盾が生じる可能性が極めて高い。高い短期収益性の確保という課題と,投資回収期間が非常に長い長期投資プロジェクトの実現という課題の間のバランスを長期間にわたりとり続けることは不可能に近いからである。天才的な経営者でない限り,短期収益性か長期投資プロジェクトのいずれかを犠牲にする必要が生じる可能性が極めて高い。ところが,ユコスやシブネフチのオーナー筋にあたる投資家グループは,石油分野という生産サイクルが非常に長い産業分野において,高い短期収益性の確保という課題を見事に果たしている。これは,彼らが天才だからだろうか。実際,ユコスのハダルコフスキーなどには短期的利益を見出す嗅覚の点で天才的なものを感じるが,長期投資家としての資質が突出しているとは言えず,とても天才の域に達しているとは石油/天然ガス レビュー ’02・11―42―vえない。それでは,何故,彼らは課題を遂行できているのか。それは,彼らが時限的に石油分野にかかわろうとしているからであろう。したがって,彼らは長期投資計画を派手に喧伝するが,その実現プロセスに深く関与する意向は持ち合わせていない。たとえば,ユコスは,東シベリアのユルブチェンスコエ鉱床の開発に着手することを2001年初め頃より喧伝しており,同鉱床の開発権を保有する子会社「東シベリア石油会社」の大幅増資の大半を引き受けるという形で3億ドル以上を開発のために投下する意向を表明していた。ところが,実際に増資の時期がくるとユコス側の態度が一変し,結局,増資は中止となってしまった。そして,現在,ユコスはBPやCNPCにユルブチェンスコエ鉱床開発プロジェクトへの参加を呼びかけている。この事例からもわかるとおり,彼らには,10?20年先を見据えた長期プロジェクトに数億ドル単位の資金を投下する意向はないのである。つまり,「我々の役目は長期プロジェクトを立ち上げることにあり,その実現のための資金負担およびリスク負担を行うのは我々ではなく,我々の後を継ぐ長期投資家である」というのが彼らの基本スタンスであると考えてよいだろう。このようなスタンスがベースになっているからこそ,高い収益性を確保できていると考えられる。このコンテキストで考えるとルクオイルの時価総額経営への挑戦には不安を感じざるを得ない。ルクオイルは数多くの長期投資プロジェクトに深く関与しており,そこから派生する資金負担やリスクはかなり大きなものとなっている。そのような企業がユコスやシブネフチの経営スタイルを表面的に真似ても,どれだけの効果が得られるのであろうか。もし本当にルクオイルが短期収益性を追求するのであれば,関与するプロジェクトの抜本的見直しを行い,多くのプロジェクトから部分的もしくは全面的に撤退する必要があるだろう。時価総額経営と長期投資プロジェクトの実現を両立するだけの体力,技術および信用力がルクオイルにあるとは思えないからである。そうでなければ,同社の時価総額経営への挑戦は頓挫する可能性が高いように思える。また,もしルクオイルが,あくまで長期投資プロジェクトの実現のほうに軸足を置くというのであれば,スルグトネフチェガスのように,時価総額経営の手法を部分的に取り入れるというスタンスが妥当であろう。ルクオイルは,時価総額経営というトレンドに翻弄され方向性を見失いつつあるようにも見える。以上見てきたように,時価総額経営の隆盛は,スルグトネフチェガスのような一部の例外を除き,多くのロシアの石油会社を資源枯渇スピードの加速につながる無理な増産の実施あるいは長期投資プロジェクト軽視といった方向に導く危険性を有している。あくまで筆者の個人的見解であるが,このトレンド(ユコスやシブネフチの経営スタイルが絶賛される傾向)が長く続くようだと,10?20年後のロシア石油分野の状況は非常に厳しいものになるのではなかろうか。【注】1)2001年初頭時点のユコスの株価は1.8ドル,シブネフチは27セントだったが,2002年8月半ば時点では,それぞれ,9.15ドルと1.95ドルになっている(ロシア証券市場での数字)。2)一説によれば,ハダルコフスキーを総帥とする投資家グループは,「グループ・メナッテプ」以外のオフショア・カンパニー等をとおし,ユコスの株をさらに15%保有しているとのことである(『プロフィール』誌,2002.9.2)。すなわち,ハダルコフスキーを総帥とする投資家グループは,ユコスの株を合計で75%以上保有していることになる。3)ロシアからの米国向け石油輸出の場合,その輸送距離を勘案すると25?30万t級の大型石油タンカーで輸送することが,採算ベースにのせるための必要最低条件となるため,このような措置がとられた(ボスポラス海峡を通過することが不可能なので,黒海の港に大型石油タンカーを直接接岸させることはできない)。―43―石油/天然ガス レビュー ’02・11ウ確な数字は入手できなかったが,石油の積み替え作業には,かなりのコストがかかったものと推測される。投資会社「OFG」のあるアナリストは,この米国向け輸出により,ユコスはバレルあたり1.25ドルの損失を出した可能性があるとの意見を述べている(『ヴェードモスチ』紙,2002.7.23)。このアナリストの試算の信憑性はともかく,ユコスが実施した米国向け石油輸出が採算的に非常に厳しいものであったこと,ならびに,黒海を出たところで大型石油タンカーに積み替えるという方法が,(大型石油タンカーが寄航可能な大型ターミナルが完成するまでの)時限的な措置であることは,ほぼ間違いないように思われる。4)1998年までは,ユコスの石油輸出価格と石油の国際価格との間には,かなり大きな差が存在していた。これは,ユコスが身内の石油専門商社(表面上はユコスと資本関係がないが水面下でつながっているオフショア・カンパニー)に故意に安い価格で石油を販売し,国際価格との差額をオフショアに資金逃避させていたことを意味する。ところが,ユコスは1999年よりこのような取引をやめ,同社の石油輸出価格と国際価格との間の差はほとんどなくなった。このことをマーケットは,ユコスの透明度が上がった証拠であるとして好感した。5)「関連企業に輸出窓口を一本化する」というのは,ユコスのケースと同じで,水面下でつながった身内のオフショア・カンパニーに,資金逃避の目的で故意に安い価格(恐らく国際価格の6?7割程度)で石油を輸出するという操作をやめることを意味する。国際価格の低下分を考慮しても,それまでより高い価格で石油を輸出することになるのだから,増収増益になるのは当然である。6)ルクオイルはチマン・ペチョラ北部にいくつかの有望プロジェクトを有しているが,同社と地元行政府(ネネツ自治管区行政府)の関係の悪さがネックとなり,開発はあまり進展していない。また,カスピ海北部では,探査を進めてきたフヴァリンスコエ構造等の権益の50%を,2002年春のロシアとカザフスタンの政府間協定に基づき,カザフスタン側に譲渡しなければならなくなった。7)ルクオイルは,ネネツ自治管区のヴァランジェイ港から,チマン・ペチョラ産の石油を中型のアイスクラスのタンカーで海路ムルマンスク沖まで運び,そこで大型石油タンカーに積み替え欧州市場に輸出している。これを更に,米国に輸出する計画も視野に入っている。この計画の実現のためには,ヴァランジェイ港の処理能力増強工事,ムルマンスク沖での石油積み替え用インフラの建設等が必要となるものと推測される。情報が不足しており明確なことは言えないが,この計画は,パイプラインが完成するまでの時限的あるいは副次的な意味合いをもつものである可能性が高いように思われる。8)トランスネフチの場合は,議決権付普通株(全体の75%)をすべてロシア政府が保有しており,完全な国営企業だといえる。一方,ルクオイルの場合は,ロシア政府の持ち株比率は13.5%にすぎず(しかも,そのうちの約6%が近々売却される予定になっている),民間企業とみなすのが妥当であろう。石油/天然ガス レビュー ’02・11―44―
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2002/11/30 [ 2002年11月号 ] 坂口 泉
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