ページ番号1006142 更新日 平成30年2月16日

国際競争力の強化につながる HSE 審査の導入 ―JOGMEC 出資・債務保証―

レポート属性
レポートID 1006142
作成日 2005-01-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般企業
著者
著者直接入力 水津 雅裕
年度 2005
Vol 39
No 1
ページ数
抽出データ AnalysisアナリシスJOGMEC HSE審査チームsuizu-masahiro@jogmec.go.jp水津 雅裕国際競争力の強化につながるHSE審査の導入―JOGMEC出資・債務保証― 石油・天然ガスの探鉱・開発事業は、爆発・火災による人身事故、原油・汚染物質による環境汚染、有害物質による健康障害等の大規模災害を引き起こすリスクを含んでいる。現に1980年代の後半に2件の大規模災害*1が起き、当事者であったOCCIDENTALは人材を一気に喪失し、EXXONは多大な財務負担を被り、その上両者の社会的信用は低落した。このため、石油開発業界、特にSHELL、EXXON等のスーパーメジャーは、これらの事故を契機として労働安全衛生および環境(以下、「HSE*2」という)に配慮した操業を行うことが重要と考え、本社組織および操業現場にHSEマネジメントシステム*3を導入し、これらのリスク低減に関する取り組みを開始した。 一方、産油国も、当然のことながら自国内で引き起こされる人身事故、環境汚染等は受容し難く、1990年代から特に環境に関する法規制の整備・強化を進めている。 このように、HSEマネジメント能力は技術力、経営能力と並び石油会社の重要な資質の一つであり、産油国と良好な関係を保つために必要不可欠なものである。国内においては国際協力銀行(JBIC)が融資の判断に資するため、環境審査を実施している。1. HSE審査導入の背景 前述の状況を認識した石油公団は、探鉱・開発作業におけるHSEリスクの低減や周囲の状況への対応を目的の一つとして、2001年3月に環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001と労働安全衛生の英国規格であるOHSAS18001の要求事項に基づくHSEマネジメントシステムの導入と認証取得を決意し、全職員を対象とした一般研修実施後の同年7月に、全業務に潜在するHSEリスク(人身事故、環境汚染、健康障害等を引き起こす可能性のある要因)の抽出・評価作業に着手した*4。 探鉱・開発業務についても、物理探査、坑井掘削、生産施設の建設、生産作業等の作業工程や作業場所ごとにHSEリスクを抽出し、発生の頻度と結果の重大性の観点からリスクが顕在化した際にもたらされる結果を一つ一つ評価した。この結果、これらのフィールドオペレーションには千差万別のHSEリスクがあり、作業従事者の死傷や原油の流出等、受容不可能な結果をもたらすリスクが多数存在することが明らかとなった。 石油公団では、自らがフィールドオペレーションを実施する海外地質構造調査、国内基礎物理探査等の事業は言うまでもなく、探鉱投融資等による民間プロジェクト支援事業についても、人身事故、環境汚染および健康障害の回避に努めることが探鉱・開発事業に係る組織の責務であり、資産・資金の喪失回避にもつながると判断し、前者については探鉱作業に特化するGS-HSEマネジメントシステム*5を構築し、2003年度の地震探査事業から運用を開始した。また、後者についてはHSE審査を実施することとし、2004年度中頃にガイドラインや手法の策定を完了した。これにより、採択審査では従前の技術・経済性・事業実施関連事項審査に加え、HSE審査の実施も可能となった。*1: 1988年7月、英領北海で操業するOccidental Petroleum(Caledonia)のプラットフォームであるパイパーアルファー号において大量のガスリークを原因とするガス爆発と火災が起き、作業者232名のうち167名の尊い命が失われた。原因は、安全バルブが取り外されたメンテナンス作業中のパイプにガスが送り込まれたことによると信じられている。    1989年3月、EXXONのタンカーバルディーズ号がアラスカ沖で座礁し、4万キロリットルの原油が流出した。その結果、10万羽の海鳥と100万頭の海洋動物の命が奪われ、海洋生態系が極めて大きな打撃を受けた。同社は原油を除去するために1,500隻の船を動員し、12,000人を海岸に派遣した。また、この除去作業のために20億ドル以上もの経費を負担し、生態系破壊の代償として損害賠償金11億ドルを支払った。*2: HSEはHealth, Safety & Environmentの省略形。日本では馴染みのない言葉であるが、石油・天然ガスの探鉱・開発業界では世界的に広く使用されている。*3: HSEマネジメントシステムは、HSEリスクの継続的改善を可能にする管理システム。*4: 石油公団は2002年8月にISO14001・OHSAS18001認証を取得した。現在は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下、「資源機構」という)の石油部門(春日事務所と幕張技術センター)がこれらの認証を継承している。*5: 探鉱作業に係るHSEリスクを回避・低減するためには、HSEマネジメント能力の高いコントラクターを雇用し、適正に管理することが必要であると考え、HSEマネジメント能力を考慮したコントラクターの選定方法、地震探査/坑井掘削に関するOperational Policy等を含むHSEマネジメントシステムを構築した。57石油・天然ガスレビューsisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAnssiissyyllaanA2. HSE審査対象 資源機構の民間プロジェクト支援は、探鉱出資、天然ガス液化出資、資産買収出資および開発債務保証により行うものであり、探鉱事業と開発事業の両者を対象としている。一方、支援を受ける本邦企業はオペレーターあるいはノンオペレーターとして事業に参加する。資源機構では、これらの要素に対する審査の是非を以下の考えにより確定し、その後審査ガイドラインと審査手順を策定することとした。? 石油・天然ガスの探鉱・開発は自然・社会環境への影響のみならず、作業従事者の人身事故や健康障害を起こすリスクを内在している。このため、審査はプロジェクトのHSEリスクすべてを対象とする。? 開発作業は、生産基地の建設、石油・天然ガスの長期生産等を実施するものであり、大規模な事故や災害を引き起こす可能性を秘めている。一方、探鉱作業は開発作業に比して可能性は低いものの、事故や災害につながる可能性がある。このため、開発プロジェクトのみならず、探鉱プロジェクトも審査対象とする。? 本邦企業がオペレーターとして実施するプロジェクトはもちろんのこと、ノンオペレーターとして参加するプロジェクトにおいても事故や災害による資産・資金の損失と社会的アナリシス信用の低落はまぬがれない。ノンオペレーターの場合には、作業に対する改善要求が受け入れられない可能性があることも考慮した上で、両者の審査を実施する。? 出資は資金面において探鉱・開発事業へ直接関与するものであるが、事故や災害の発生の際は出資額の損失に留まらず、株主としての社会的責任が問われることとなる。一方、債務保証は出資に比して事業当事者としての関与の度合いは低いが、事故や災害による資金の損失はまぬがれない。このため、支援制度の種別に関係なく審査を実施する。3. HSE審査ガイドライン 資源機構は、ISO14001・OHSAS18001認証を取得・維持してきた経験に基づき、以下の事項を重視し、これらの事項の確認が可能となるような審査内容にすることとした。? 当該国の法規制を遵守して作業が実施されている(される)こと? 適 切 な 環 境 影 響 評 価(Environmental Impact Assessment:以下、「EIA」という)およびリスク評価が実施されている(される)こと? ?の結果に基づき、また、資源機構のHSE審査ガイドラインにのっとり、作業(計画)が実施(策定)され、モニタリングが必要と判断される場合はその実施システムが適切に導入されている(される)こと? 事故発生による被害を最小化するための緊急時対応計画(操業現場⇒会社⇒資源機構への緊急連絡網を含む)が準備されている(される)こと表1 EIAガイドラインの項目1.プロジェクト名2.プロジェクト実施者のHSE計画 1)HSE基本方針 2)プロジェクトのHSE体制 3)HSE管理計画3.環境影響評価 1)当該国のEIA制度 2)EIA実施スケジュール 3)EIAの実施範囲 4)EIA実施手順 5)本プロジェクトにおいて予想される主要HSE問題と基本対策案 6)EIA報告書の内容・構成 7)情報公開計画 8)EIA実施予算 9)EIA実施機関 また、これらの考え方を具現化するため、世界銀行グループの環境ガイドラインを導入し、自らの認識を反映するために一部の項目を追加した。このガイドラインは、同グループが実施する融資に係る判断ガイドラインの一つとして用いられている。国内においては国際協力銀行が同ガイドラインに準拠し環境審査を行っており、資源機構が同ガイドラインを導入することにより、債務保証申請者が同一のガイドラインに基づき融資・債務保証の申請を行えるという付属的なメリットが得られる。 石油・天然ガスの探鉱・開発を実施する場合、当然のことながら当該国の関連法規制は厳守しなければならない。資源機構では、本邦企業と比較的馴染みのある13ヵ国を対象として環境法規制の調査を実施した。その結果、既に環境ガイドラインの整備を済ませていた7ヵ国のうち、6ヵ国(カタール、カナダ、ブラジル、ベトナム、ベネズエラ、ロシア)の環境ガイドラインが世界銀行グループの環境ガイドラインとほぼ同様の管理レベルにあり、残り1ヵ国(オーストラリア)の環境ガイ石油・天然ガスレビュー58総ロ競争力の強化につながるHSE審査の導入ドラインは同グループのもの以上の管理レベルを要求していた。このため、世界銀行グループの環境ガイドラインは世界各地で操業を行う石油会社にとり、比較的受け入れやすいレベルにあると思われる。 労働安全衛生審査ガイドラインについては、OGP(Oil & Gas Producers)等の国際的なガイドラインを参照し、さらに関係者からアドバイスを受けつつ資源機構の認識に基づき策定した。 これらのHSE審査ガイドラインは、当該国の関連法規制と比べ管理レベルが高い場合に用いるが、当該国の関連法規制の管理レベルが高い場合はそれを用いることにしている。表2 HSE審査ガイドラインの項目1. HSEに対する取り組み全般 1)HSEに対する体制等(HSEマネジメントシステム、EIA報告書等、モニタリング体制、法規制の遵守)2. HSE審査ガイドライン 1)汚染対策(大気、水質、廃棄物、土壌汚染、騒音・振動、悪臭) 2)自然環境(保護区、生態系、水象、地形・地質、地球環境問題) 3)社会環境(住民移転、生活・生計、文化遺産、景観、少数民族・先住民族、近隣プロジェクト) 4)健康への影響(有害物質、放射性物質、作業騒音、健康管理) 5)安全(設計方針、安全設計、リスク分析、事故防止対策、作業安全・保全、教育訓練)4. HSE審査手順 HSE審査では、原則として申請者から提出されたEIA報告書に基づき書類審査を実施するが、探鉱事業は開発事業に比してHSEへの負荷が小さいため、探鉱出資案件についてはEIA実施前でも申請書を受理し、HSE審査を実施する。しかし、天然ガス液化出資案件、資産買収出資案件および開発債務保証案件については大規模な人身事故や環境汚染を引き起こす可能性があるため、EIA実施によりプロジェクトのHSEリスクが確実に抽出され、適切なリスク軽減対策が計画されていることを受けて申請書を受理し、HSE審査を実施する。? EIA実施前の探鉱出資案件については、採択審査時にプロジェクトのHSE概要を把握した上で、資源機構のガイドラインに即したEIAが実施されることを確認するための審査を実施する。ただし、申請者にはHSEに関する負荷の大きい作業の実施までにEIAを実施するよう要請し、EIA終了後の作業計画承認時に?の①?④の観点から審査を実施する。  資源機構では、前述の13ヵ国を対象にEIA関連法令についても調査したが、全調査対象国においてEIA関連法令が制定されており(多くの場合は1990年代)、開発作業ではEIAが義務付けられていた。ただし、その内容は多様である。カタール、アラブ首長国連邦、シリアは、世界銀行グループのEIA制度に比して求める内容が緩く、オーストラリアは世界銀行グループのEIA制度よりも厳格であった。また、アゼルバイジャンは、1999年に制定された環境保護法において、プロジェクト融資を行う世界銀行等の国際協調融資団体のガイドラインを使用するよう規定している。? EIA実施後の探鉱出資案件、天然ガス液化出資案件、資産買収出資案件および開発債務保証案件については、採択審査時に以下の観点からHSE審査を実施する。 ① 当該国よりEIAに関する承認がなされていること ② HSEリスクが確実に抽出され、資源機構のHSE審査ガイドラインを満たす適切な対策・管理が実施されている(される)こと ③ 緊急時の対応計画・連絡体制が事前に準備されていること ④ モニタリングが必要と判断される場合は、それが実施されている(される)こと  探鉱計画/開発計画承認書(コピー)とEIA承認書(コピー、当該国にEIA承認制度がある場合)は採択の要件である。? モニタリングが必要と判断されるプロジェクトに関しては、年間事業計画ないしは作業計画審査時にモニタリング結果に基づき、資源機構のHSEガイドラインもしくは当該国の関連法規制のうち、管理レベルが高いものを満たす適切な管理が実施されていることを確認する。59石油・天然ガスレビューsisnalyssiissyyllaanAAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAn石油・天然ガスレビュー60アナリシス5. おわりに HSE審査の導入により、資源機構と申請者の業務は増加する。しかし、HSE審査が両者の人材・資産保全に資するとともに、我が国企業の国際的な競争力の強化につながるシステムであることを忘れてはならない。 資源機構のHSE審査は一般的に用いられている手法に比べ、①労働安全衛生リスクも審査対象としている、②開発事業のみならず、探鉱事業も審査対象としている、という特徴を有する。今後HSE審査ガイドラインや手法を実際のプロジェクトに適用し、様々な角度から検討を加え、質の高いツールに変えて行きたいと考えているが、これらの特徴がただ単に業務負担に終わることなく、HSEリスクの低減に貢献することを期待している。
地域1 アジア
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国・地域 アジア,日本
2005/01/20 [ 2005年01月号 ] 水津 雅裕
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