ページ番号1006159 更新日 平成30年2月16日

石油の資源量と寿命 ―フラクタル理論とダブルタンクモデルが明かす真の姿 ピークオイル論もチープオイル論も正しくない!―

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レポートID 1006159
作成日 2005-05-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 探鉱開発技術
著者
著者直接入力 井上 正澄
年度 2005
Vol 39
No 3
ページ数
抽出データ Analysisアナリシスエムシー・エクスプロレーション株式会社inoue@mpdc.co.jp井上 正澄石油の資源量と寿命フラクタル理論とダブルタンクモデルが明かす真の姿ピークオイル論もチープオイル論も正しくない!はじめに?「ピークオイル」vs.「チープオイル」 20世紀後半、石油の消費量は指数関数的に増加し、それに呼応して現代文明は急膨張した。一方で、人類は資源の枯渇と環境汚染という深刻な問題に直面している。石油を代表とする化石燃料は数千万年?数億年をかけて生成・集積したものだが、人類はわずか1世紀足らずの間にその大半を消費し尽くそうとしており、二酸化炭素の増加による温暖化も進行してきている。環境負荷が小さく更新可能な新エネルギーへの転換が急務であり、実用化も試みられているが、近い将来石油を全面的に代替する目処は立っていない。このバトンタッチが円滑に行えるかは、むしろ残存石油資源量、今後の生産量推移、原油価格(以下「油価」)等により、充分な移行期間と経済性が確保できるかに依存しており、これに失敗すると自動車もエアコンもない生活に逆戻りすることになる。 石油の資源量に関する悲観論と楽観論の論争(文献1)は21世紀に入ってより過熱してきている。悲観論は、石油生産は現在がピークで、今後は増産期を裏返しにした形で急速に減退し、今世紀半ばに枯渇するとしていて、「ピークオイル」説とも呼ばれている(文献2)。この場合、天然ガスや新エネルギーは石油生産の減退分と今後の需要増をすべてまかない、数十年後には完全に代替する必要がある。高油価により経済競争力は保証されるが、リードタイムが短く、人類は壊滅的な打撃を受ける危険がある。 一方楽観論は、石油資源は豊富で当面は供給サイドに大きな障害はなく、今後の需要増に応じて指数関数的に増産を継続していくが、やはり今世紀半ばまでには需要増に応じた増産は困難となり、生産量は急落せざるを得ないと予測している(図6の点線)。このケースでは数十年間のリードタイムが与えられるが、その間は低油価で(このため「チープオイル」説とも呼ばれる)新エネルギーへの転換は進まないと予測され、現在の2倍以上の需要を短期間に全面的に代替する必要があり、破局はより深刻となりかねない。 本小論は、従来の諸研究とは異なる手法で石油の資源量、生産量推移、油価に関する予測を行い、この両説を検証しつつ、エネルギー資源のバトンタッチが円滑に行えるかを考察したものである。タールサンドなどの「非在来型」石油や天然ガス(およびNGL*1など)は、その成因、組成、産状、探査法等々が「在来型」石油の延長線上にあることから、同じ手法が拡大適用可能である。しかし、これらの資源の統計は市場や経済性のバイアスをより強く受けており、本論では原則として「在来型」石油のみを対象とした。なお、予測理論と計算結果の詳細は別途報告している(文献3)。1. 石油資源はどれくらい残されているか?? 石油の埋蔵量と資源量 最近Shellは公表埋蔵量を大幅に下方修正し大きな波紋を呼んだ。一方、30年前には30年であった「石油の寿命」が、完全に枯渇しているはずの現在、40年を超えている。これらは「埋蔵量」が既発見資源のうち、地下での存在が確実で、評価時点の技術と経済環境で商業的に回収可能な量に限定されることに起因している。メディアなどが「40年を超えている」といっている「石油の寿命」とは、残存「埋蔵量」をその時点の年間生産量で割った年数(R/P比)で、将来の発見量や需要増は全く考慮されておらず、本当の「寿命」ではない。 本論では既生産量を含む既発見量に未発見量や技術の進歩および油価の上昇により追加回収可能となる量も加えた「究極可採資源量」(以下単に「資源量」)を対象とする。「資源量」の一部が発見されると、発見量のうちその時点の技術と経済環境で商業的に回収可能な量が「埋蔵量」として登録される。従って「埋蔵量」は時間の経過とともに追加される。新エネルギーが代替すれば「資源量」がすべて生産され*1: 天然ガス液。コンデンセートなど天然ガス起源の液体の総称。1石油・天然ガスレビューAナリシスル依存性がない」という)。a倍に拡大した図が元の図の相似図形N個から構成されている時、その図形のフラクタル次元Dは次式で定義される。 D=logaN=log N/log a ① 図1の左上1/3部分を2倍に拡大すると、元の図に似た図形4個から構成されていると考えると、フラクタル次元は、D=log2 4=log4/log2=2となる。このように現実の油田分布はフラクタル的で、小規模油田ほどその数が多い。2次元フラクタルが成立しているとすると、面積が1/4の油田は4倍の個数存在することになり、ランダムにダーツを投げるとどのサイズの油田に命中する確率も全く等しくなる。もし直径が2倍の油田の発見確率が1.6倍になっているのなら、それは地質解釈や地震探査の活用による成果と考えられ、過去の探鉱努力はランダムなダーツ投げより劣っていたわけでは決してない。ysisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAn? フラクタルとべき乗分布 サイズが連続的な値をとって変化する場合のフラクタルは①式より次のようなべき乗関数で定義すると使いやすい。 N=C/rD=C・r?D ② Dはフラクタル次元、Nはサイズがr(一次元のスケールで測る、例えばssiissyyllaanAある地域の「油田分布図」出所:文献3より転載2005.5. Vol.39 No.32るとは限らない。 悲観論は後述する「ハバート曲線」に基づき、今こそまさに石油生産の「ピーク」であるとして、石油の資源量を1.7?2.1兆バレルと推定している(文献2)。これは既に石油資源の8割以上が発見済で、約半分を生産済ということを意味している。一方、楽観論が根拠としているのは「USGS(米国地質調査所)2000」(文献4)で、地質データに基づき世界の資源量を3兆バレル(中間値)と推定している。以下で、これらとは異なる手法で石油資源量の推定を試みる。? 油田規模は対数正規分布か? Arps and Roberts(文献5)が米国デンバー盆地の例(図3)を示して以来、油田規模は対数正規分布、すなわち各油田の埋蔵量の対数を横軸にとった時の油田頻度は正規分布になるというのが定説化しており、埋蔵量評価やリスク分析もこの前提に基づき行われることが多い。一般にある代表値(例えば最頻値)や特定の分布範囲を持つ分布を多数足し合わせると、「中心極限定理」に基づきその結果は正規分布に近づき、一方、同様の分布を多数掛け合わせると、掛け算は対数の足し算であるから、その結果は対数正規分布に近づく。通常、油田の埋蔵量値は多くのパラメータを掛け合わせて求めるため、油田規模は必然的に対数正規分布になると説明されることがある。しかし油田の埋蔵量を規制する各パラメータは必ずしも特定の代表値や分布範囲を示さない。 また、地域によって油田のスケールは大きく異なっており、さらに、探鉱の進展、油価の上昇などによる追加発見で油田規模分布は小規模側へシフトしていく。これは既発見油田規模分布が探鉱熟成度や経済性などの人為的要因により規制された「見かけの分布」で、未発見や小規模で経済性のないものを含めた地下の「集油」規模分布を必ずしも反映していないことによる。? 探鉱効率と油田規模分布 ダーツを投げるがごとくランダムに試掘すれば、直径が2倍(面積4倍)の油田は4倍の確率でヒットするはずだが、過去の例では1.6倍程度にしか発見確率が向上しておらず、過去の探鉱努力はランダムなダーツ投げにも劣る効率であったという主張がある(文献2)。この主張はもっともらしく聞こえるが、実はトリックが隠されていて、どの面積規模の油田も同じ頻度で存在しているという前提が必要である。 図1はある地域の油田分布図である。北西から南東へ系列をなして大小の油田が分布しており、これが一枚の油田分布図であることを疑う人は少ないであろう。実はこの図は中央スマトラ盆地の主要部の油田分布図の縮尺を変えた3枚を合成したものである。左上の1/3が全体図で、そのさらに左上の四半部を2倍(面積4倍)に拡大したものが中央部、そのまた左上四半部付近を2倍に拡大したのが右下の1/3の部分である。縮尺を変えても油田の分布パターンが似ているため、それらを合成しても一続きの分布図のように見えている。このように元の図の一部を拡大すると元の図全体に似ており、無限の入れ子構造を形成している図形をフラクタル(自己相似)図形という。フラクタルが成立していると、どのスケールでも金太郎飴的に同じパターンが出現し、それを見ただけではスケール(縮尺)が全く判定できない(これを「スケー図1ホ油の資源量と寿命「直径」)より大きな対象物の個数、Cは定数である。②式はNとrの両対数グラフにおいて傾き?Dの直線として表現される。このようなべき乗関数で表現されるためにフラクタル分布のことを「べき乗分布」ともいう。 べき乗分布は、唯一大きさ(スケール)に依存しない分布で、異なる竿尺(歩幅)で測ったときの海岸線の長さ、世界の湖の大きさ、月のクレーターの大きさ、いん石や小惑星の大きさ、岩石を破壊したときの破片の大きさ等々、自然界には多くの例が知られている。複雑系科学やカオス理論によると臨界自己組織化により、多くの自然現象がべき乗分布を呈するとされている。地震規模とその頻度の間に明瞭な関係があることを示したグーテンベルグ・リヒター則はべき乗分布を言い換えたものであり、これは断層ブロックのフラクタル性に起因している。 石油は、不浸透性のシール層にカバーされた、貯留層中の相互に連結しネットワークを形成している孔隙内に集積している。孔隙は通常水に満たされているため、それより軽い油は連結している孔隙中を上方に移動し、シール層が高まっている部分(「背斜構造」)に捕捉され集油する。地表地形は典型的なフラクタルを示し、フラクタルを仮定してコンピューターに描かせた地形は現実の地表地形と酷似している。山や峰には特徴的サイズというものはなく、大規模なものから極めて微小なものまで認められ、その規模はべき乗分布を示す。地表地形がフラクタルであるのなら、地下地形であるシール層の形状もフラクタルと考えるのが自然であり、したがって背斜やドームの規模、すなわち集油規模も当然べき乗分布になるはずである。油の移動・集積過程はパーコレーションモデルでシミュレートできるが、得られる集油サイズはべき乗分布となる。こうした諸事実から、集油規模はスケールに依存3石油・天然ガスレビューしないべき乗分布で近似できると筆者は考えた(文献3)。 べき乗分布は、概念的には無限大から無限小にまで適用可能であるが、自然界では大は地球や宇宙のサイズ、小は素粒子サイズなどによる制限があり、当然ながらその間のスケールにしか当てはまらず、その適用範囲には上限および下限がある。集油規模分布の場合は、大は堆積盆地規模、小は石油分子や孔隙のサイズによる制限が働くと考えられ、これら上・下限にはさまれたスケールに適用される。? 集油規模はべき乗分布 世界各地の油田規模分布を両対数グラフにプロットすると、全地域ともある程度以上の規模では直線関係が認められ、次式のべき乗分布で近似される。 N=K・R?d ③ ただし、Nは埋蔵量Rバレル以上の油田の数(すなわちRバレルの油田の順位)、dは両対数グラフにおける直線の傾き、Kは定数。可採埋蔵量(資源量)Rは体積(三次元)であるから、フラクタル次元はD=3dとなる。世界の各地域の油田規模分布のプロットでは、その直線の傾きdは地域やサイズに関係なく、0.5?1.5の範囲にあり、多くの場合0.8?1.3に収束している。 探鉱熟成地域や世界全体の既発見油田規模分布(文献6, 7)は、大きなものはべき乗分布、小さなものは対数正規分布とべき乗分布の中間にプロットされ対数正規分布に比して小規模油田が有意に多い(図2)。小規模構造の探鉱はまだ不充分であることを考慮すると、本来の集油規模は全サイズに対してべき乗分布(フラクタル)であり、小規模油田の多くは未発見であると解釈できる。? 既発見油田規模分布の再現 Arps and Roberts(文献5)が示した対数正規分布で近似されるデンバー盆地の既発見油田規模分布が、集油規模をべき乗分布とした仮定から再現されることを示す。同地域では大規模油田の探鉱は熟成に達しており、その傾向を小規模側にも延長した次のべき乗分布で集油規模が表現されると仮定する。 N=4.0×108×R?1.1 ④ ただしNは資源量Rバレル以上の集図2世界の油田規模分布sisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAnssiissyyllaanAアナリシスき乗分布で表現されるとする(Nは資源量Rバレル以上の集油の順位)。 N=K・R?1.1 ⑦ 図2で巨大油田のトレンドを小規模側に延長すると、K=1.5×1012となる。これは巨大油田の発見がすでに飽和に達しているケースに相当する。デンバー盆地の例(経済限界以上)では「平均集油面積」×「探鉱効果」が各クラスの集油の平均的な資源量とほぼ比例することから、同じ関係が成立していると考え、⑥式を次のように書き換えた。 FM=F0(1?e?M・R) ⑧Rは各クラスの集油の平均資源量、Mは探鉱量の指数(時間とともに探鉱効率が変化しなければ坑井数に比例する)、FMはMに対応する各クラスの既発見油田数を示す。Mにいくつかの値を与え、⑦式および⑧式からその時点の既発見油田数を計算し、その結果を図4に示した。M値 (探鉱量)の増加に伴い、直線部分が左上へと延びていき、油田数は大規模なものから順次飽和してべき乗分布に乗る。これは探鉱の進行に伴う現実の油田規模分布の変化とよく対応している。既発見油田規模分布はM=5×10?9のケースにほぼ一致しているが、小さいクラスで現実の油田数がむしろやや上回っているのは世界各地の探鉱密度が一様ではなく、特に米国陸上で極端に熟成していることに起因している。いずれにせよ、全世界についても集油規模をべき乗分布とした仮定から現実の油田規模分布がほぼ再現された(文献3)。101001,000究極可採量R10,000×103B図3デンバー盆地の油田規模分布出所:文献3より転載? 世界の石油資源量の推定 各堆積盆地や全世界の集油規模がべき乗分布で近似できることが明らかになったが、これらの集油がすべて発見された時の合計資源量を算出してみる。べき乗分布は概念的には無限小まで延長できるが、ここでは経済限界を設けて小規模側をカットし、その2005.5. Vol.39 No.34油の数(すなわちRバレルの集油の順位)。係数d(両対数グラフでの直線の傾き)には全世界の油田規模分布と同じ1.1を使用した。 資源量規模に応じて集油をクラス分けすると、各クラスの油田発見率は、残存集油数および平均集油面積に比例すると考える。 d F =(F0?F)E・A/B ⑤ dW F=0からFWまで定積分すると次のように変換される。 FW=F0(1?e?E・A・W/B) ⑥ ただし、Wは全試掘数、Bは全堆積盆地面積、F0、FW、AおよびEは、それぞれそのクラスの、集油数、W坑試掘時の既発見油田数、平均集油面積および探鉱効果である。 ランダムな試掘の場合はE=1であるが物理探査や地質解釈の際には大規模な構造ほど容易に認識され、小規模なものは識別が困難である。また、経済限界(ここでは約3万バレル)以上の集油に対しては大きいと予想されるものから試掘し、一方これ以下の集油に対してはむしろ試掘を避け、発見されても油田とはカウントされないことも多い。そこで、こうした効果を反映させるために、経済限界直上のクラスを中立(E=1)とし、これ以上のクラスではEを徐々に増加させ(具体的には1クラス大きくなるごとに、Eを0.2ずつ増加させた)、これ以下のクラスではEを急減させた(具体的には1クラス小さくなるごとにEを半減させた)。 こうして④式と⑥式から3,705坑試掘時の既発見油田数を算出し、その結果を実績と比較して図3に示した。 探鉱効果を正確に推定できるデータがないため、きわめて単純化した前提に基づいているが、結果は実績とよく一致し、経済限界直上のピークなどは単純な対数正規分布よりも現実をよく再現している。これは、集油規模をべき乗分布とした仮定と、探鉱過程を模したサンプリングが妥当であったことを示している(文献3)。? 全世界の集油規模分布と既発見油田規模分布 同様に世界の集油規模分布は次のべデンバー盆地の油田規模分布実績(Arps?et?al.1958)計算結果605040302010N油?田数01ホ油の資源量と寿命資源量規模(R)より大きな集油の合計資源量(ΣR)を算出し、図5にプロットした。⑦式でK=1.5×1012としたケースが図中の最小ケースである。次の理由により、実際は巨大油田の発見も飽和に達しておらず、今後曲線は右上にシフトするので過去のトレンド(文献8)を参考にK=2.0×1012とK=2.5×1012の2ケースも図示した。① 既発見油田の埋蔵量は評価の進行や回収技術の向上により多くの場合「成長」する。② 極地や深海はまだほとんど探鉱されておらず、巨大油田も含めて追加発見が期待される。③ 「探鉱パラダイムの変換」(文献9, 10)により、背斜とは異なるタイプの油田の追加発見が多く見込まれる。 油田の経済限界は地域により大きく異なるが、今後の技術の進歩や油価の上昇も考慮して、ここでは全世界平均で100万バレル程度と考え、図5から世界の石油資源量を読み取った。その結果、世界の石油の総資源量は3?5兆バレル、中間ケースで約4兆バレルとなり、これは楽観論の代表であるUSGS 2000の3兆バレルよりも大きい。油価の上昇や技術の進歩により経済限界規模が低下すれば、資源量はさらに増加する(例えば、経済限界が10万バレルになれば、資源量は各ケースとも約1兆バレル増加する)。すなわち、資源量だけに限れば、従来の楽観論よりもさらに大きいと推定される。図4世界の油田規模分布の再現出所:文献3より転載図5世界の石油資源量の推定2. 今後の石油生産量と原油価格の予測? ハバート曲線 この豊富な石油資源量は今後の需要増に応じて自由に増産が可能な「チープオイル」を意味するのであろうか? この問題を考えるに当たって、悲観論の根拠となっている「ハバート曲線」を検討してみる。これは、M.K. Hubbertが1956年に発表したベル型曲線で、米国本土の石油生産は1970年をピークに減退すると予測した。当時米国は石油増産中で、この予測は各界から猛反発を受けたが、石油生産は実際に1970年をピークに彼の予測をほぼなぞる形で減退した。悲観論は世界の石油生産は今まさにピークに達しているとしており、「ハバート曲線」は「ピークオイル」説として再び脚光を集めている。同曲線は人口論などで用いられ5石油・天然ガスレビューAナリシス生産能力生産実績BA109?B/Y5040302010年間生産量019502150点線は楽観論の典型的生産予測(年2%増産、USGSの中間資源量)、破線は生産予測Bを平滑化したもの200020502100図6 世界の石油生産実績と生産能力予測ysisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAnssiissyyllaanA この仮定に基づく計算結果と実際の生産実績との比較を図6に示す。1944年以前の発見を無視しているため、生産開始は1950年となり1957年までは実績をやや下回っているが、1958?80年は実績とよく一致していて、この期間は生産能力と需要がほぼ釣り合っていたと見なせる。一方1980年以降は石油危機後の需要の落ち込みに相当し、生産能力は実績をかなり上回り1994年から年間300億バレルのプラトーに達している。その後需要(生産実績)は徐々に回復し、今また生産能力に接近してきている。 いずれにせよ埋蔵量追加推移をベル型の「ハバート曲線」(の前半)ではなく、毎年一定と仮定しても、生産プロファイルの重ね合わせ効果により生産能力は「ハバート曲線」の前半に似た曲線になる。逆に、埋蔵量追加推移をベル型の「ハバート曲線」と仮定すると、生産量推移は増産も減退もより緩やかになり、元のベル型曲線には一致しない。億バレルが追加されている*2。これは回収率向上などによる「埋蔵量成長」が加わっていることによる。では、この前提が成立しているかを検証しつつ、現実の生産量推移が何を反映しているのかを探ってみる。 発見された油はその何年か後に全量を一時に産出するわけではなく生産開始後数十年間にわたって生産される。これを考慮して、単純化した次の仮定に基づき世界の生産能力の推移を計算した。 ① 1945年から毎年300億バレルの発見(および「埋蔵量成長」)がある。 ② この発見量は次のプロファイルで生産可能である。(生産準備期間)5年 開発期 5年 30億バレル (直線増産) 増産期 15年 150億バレル (10億バレル/年) プラトー期 25年 120億バレル (年6.25%減退) 減退期    この生産プロファイルは、野本・藤田(文献11)の世界の225個の巨大油田の研究成果に基づいて設定した。 この仮定はシンプルであるが次の理由により現実をかなり良く反映している(文献3)。① 石油の発見量は1945年から急増し、1980年頃までは年平均約300億バレルであった。② 1980年以降は発見量が減少しているが、埋蔵量統計によると毎年約300るロジスティック曲線を石油生産に適用したもので、次式で表現される。 dQ/dt・1/Q=a?(a/Q0)Q ⑨ Qは累計生産量、aは初期生産量増加率(dQ/dt・1/Q)、Q0は総生産量(資源量)、tは時間。 生物の繁殖率が個体(または「つがい」)ごとにほぼ一定であると仮定すると、栄養(食料)やスペースの制限がなければ個体数は一定の増加率(a)で指数関数的に増加する。しかし実際には、個体間の干渉、栄養の制限、老廃物の集積などにより、個体数が増加すると増加率は低下し、ある段階で個体数は飽和に達する。この個体数に対する増加率の減少を直線的(傾きa/Q0)と仮定したものが⑨式の「ロジスティック曲線」であり、1838年にベルギーの数学者P. Verhulstにより提唱されたものである。生産された石油が「子孫」を生み出して増殖するわけではないので、これを石油生産に適用する理論的根拠はないが、二つのパラメータ(例えば⑨式中のaとQ0)さえ与えれば曲線は一意に決定することから、初期の生産履歴のカーブフィッティングだけで、ピーク生産量、その時期、総資源量などが求まる。 世界の生産量推移は、1980年以降の需要の落ち込みを除くと「ハバート曲線」の前半で比較的良く近似され、悲観論はこれを根拠に、石油生産は今後減退に転じ、総資源量は1.7?2.1兆バレルであると推定している(文献2)。? 石油生産能力のシミュレーション 成因論的根拠がなくカーブフィッティングも恣意的であるという批判に対し、「ピークオイル」論者は、発見量推移も「ハバート曲線」で近似でき、生産量はこれをそっくりそのまま何年か遅れで繰り返しているとして、生産量推移が「ハバート曲線」に従う理由を説明している(文献2)。そこでここ*2: 1987年と1989年にアラビア湾岸諸国が公表埋蔵量を大幅に上方修正したが、この増加分は政治的要因によるとの指摘があり、ここでは差し引いて考えている。2005.5. Vol.39 No.36ホ油の資源量と寿命? 石油生産量推移の予測 図6にはA、B 2ケースの将来予測も示した。Aは、2005年以降は石油の発見も「埋蔵量成長」も全くない非現実的ケースであるが、その形態は「ハバート曲線」に酷似していて、総資源量は1.8兆バレルと悲観論に一致する。米国の鯨油、ペンシルバニアの無煙炭、英国の石炭などの生産量推移も「ハバート曲線」に似たベル型を呈するが、これらの資源は枯渇したわけではなく輸入や他の資源との競合に敗れたもので(文献12)、「ハバート曲線」は探鉱・発見が停止した結果と見なすことができる。すなわち、近い将来に新エネルギーが全面的に代替することにより石油の探鉱・発見が停止しない限り、減退側がより緩やかになり、左右対称ベル型の「ピークオイル」とはならない。 米国の石油生産も枯渇したというよりは海外の安い原油との競争に敗れ衰退したと見るべきかも知れない。さらに、米国の石油生産は、アラスカやメキシコ湾深海も加えると、右側にもう1つあるいは複数のピークができ、減退も「ハバート曲線」よりずっとなだらかになる。世界の各地域の石油生産量推移にも複数ピークを示す例や、減退側が増産側に比べるとずっと緩やかな非対称形を示す例が多い。旧ソ連の石油生産量推移は1987年をピークに減退を開始しており、左右対称ベル型の「ハバート曲線」の典型例とされ、米国に比して増産が急激であった分、減退も急激であると説明されていたが、1997年以降再び生産は上昇に転じている(文献13)。 Bは前章で得た中間ケースの資源量4兆バレルに至るまで、毎年300億バレルの発見+「埋蔵量成長」が続くケースで、21世紀末近くまで300億バレル/年のプラトー生産が継続し、その後Aの曲線の後半と同じ形で減退し、22世紀前半に生産は停止する。実際は後期には発見+「埋蔵量成長」が減速すると考え、今後の石油生産を図中の破線のように、21世紀半ばより徐々に生産が減退し、22世紀半ばにほぼ生産が終了すると予測した。探鉱努力や技術の進歩により今後も半世紀程度は毎年約300億バレルの埋蔵量追加が行われ、省エネや他資源への転換により石油需要がこの生産能力の範囲内に抑えられることを前提に、このケースを「標準シナリオ」と考えた。新エネルギーへの代替が進み、石油需要がこれより低く抑えられれば、石油の寿命はさらに延びることになる。図7 探鉱量に伴う世界の埋蔵量の増加7石油・天然ガスレビュー? 制限される生産能力 楽観論に基づくEIA(米国エネルギー情報管理局)などの生産予測が年1?3%の需要増に応じて増産していく図6中の点線(年率2%の増産、USGSの中間資源量のケース)のパターンなのに対し、より資源量の多い本予測で生産が年300億バレルを越えないのは、石油の生産は探鉱・開発・生産システムにより規制されており、総資源量が自由に生産できないことによる。油価が上昇しても探鉱量はすぐには増加せず、探鉱活動が促進されても、発見量はすぐには増加しない。発見されてもその資源量は数十年間にわたって産出されるので、こうした変化は長期間にわたって徐々に進行し、速効的な影響は期待できない。事実、最近の油価上昇によっても探鉱活動に顕著な増加は認められないし、過去の油価急騰の際にも発見量や生産能力の有意な増加は認められていない。 上記「標準シナリオ」は、将来も毎年平均300億バレルの埋蔵量追加(発見+「埋蔵量成長」)があることを前提としている。この量は、今後の探鉱量および探鉱・生産技術の進歩に依存していて、油価動向や企業の投資意欲とも関連しており、正確に予測することは困難だが、以下の考察が可能である。 図7は、図4の各M値(探鉱量指数、探鉱効率が変化しなければ坑井数に比例)に対する世界の累計埋蔵量の変化を計算し、油田規模に分けて示したものである。現在M値(×10?9)は5と10の間付近に相当し、2兆バレル弱の累計埋蔵量(既生産量を含む)が発見されている。図7ではM値の増加に伴い、埋蔵量は一見直線的に増加しているが、この図が片対数グラフである点に注意する必要がある。M値を5→10→20と倍々に増加させても(すなわち過去の全探鉱量を繰り返しても)埋蔵量は各々2,000億バレル程度しか増加Aナリシス油価の上昇・技術ブレークスルーなどによる経済限界の低下数千万年~数億年かけての石油の生成・集積可採資源(本論の「資源量」に対応)非可採資源(小規模など)cesResourcesResour油田の発見・評価(ドレーク井以降)原油の漏出(古代からの石油利用)Reserves原油生産図8 ダブルタンクモデルysisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAnssiissyyllaanAが化石燃料として地下に蓄えられる。この過程を図では上のタンクに落ちてくる液滴で表現している。上のタンクの底には穴が開いていて、そこから微量の液滴が落ちている(破壊・湧出などによる散逸を表現している)が、タンク内の液位は徐々に上昇し、資源量は増加してくる。この過程は数億年継続して蛇口のレベルより上(「在来型」石油の回収可能量に相当)だけで3?5兆バレルたまった。 人類は古代エジプト・メソポタミアの時代から石油を使用しているが、これはタンクの底から漏れている液滴を使用していたもので、この限りでは石油もバイオマスなどと同じ更新可能エネルギーである。上のタンクへの流入と底の穴からの漏出は、数千万年?数億年の地質学的時間スケールでは意味があるが、数十年?数百年の人間の時間スケールでは無視できる。 それが1859年のドレーク井または1901年のスピンドルトップの大発見以降、上のタンクの蛇口が開かれ、下のタンクへと液が注がれだした。これは、発見された資源量のうちその時点の技術と経済環境で商業的に回収可能な量が埋蔵量として確保されることを意味する。上の蛇口が大きく開かれたのは背斜説と反射法地震探査技術が確立し、探鉱活動が世界全体に拡大した第二次世界大戦後で、1945年以降は年平均300億バレル(累計では2兆バレル弱)が上のタンクから下のタンクへと落ちていった。この流出により上のタンクの液面は低下するので(未発見資源量の減少や油田の小規模化に相当)蛇口にかかる液圧は低下し、開け方が同じであれば流下する液量は徐々に減少していく。300億バレル/年を維持するには蛇口を徐々に開けていく必要があり、これが探鉱量の増加、探鉱技術の進歩による発見率の向上、生産技術の進歩による回収率の向上などに相当する。こうやって少なくとも20世紀末までは、発見量に「埋蔵量成長」を加えると、毎年平均300億バレルが流下(埋蔵量追加)してきている。 下のタンクの蛇口は最初から開いていたが、そこからの流出量はタンク液2005.5. Vol.39 No.38しない。しかも今後の追加はほとんどが小規模油田であり、獲得エネルギーや収入に占める投入エネルギーやコストの割合が大きくなり、商業開発がより困難になる。 次の理由により、図7は埋蔵量追加をかなり過小評価しているとはいえ、過去と同じペースで埋蔵量追加を継続することが容易でないことは理解されよう。 ① 図7は新規発見のみを考慮しているが、実際には1980年以降は「埋蔵量成長」の寄与が大きい(最近では埋蔵量追加の約2/3を占める)。 ② 極地や深海などのフロンティアおよび背斜とは異なるタイプの油田が充分考慮されておらず、大規模油田も含めてこれ等による追加が期待される(文献9, 10)。 ③ 三次元地震探査など最近の探鉱技術の進歩は著しく(文献14)、M値を倍増させるのに必ずしも2倍の坑井数は必要ない。 すなわち、「資源量」は豊富ではあるが、今後ますます小規模化する油田を発見していくには質・量両面で相当の探鉱努力が要求され、また回収率(地下量に対する回収量の比率)には上限(100%)があることから「埋蔵量成長」も無限には期待できない。「標準シナリオ」は充分達成可能であると考えるが、そのためには探鉱と技術開発への大規模な投資が必須である。? ダブルタンクモデル こうした石油の資源量・埋蔵量と探鉱・開発・生産のシステムはダブルタンクモデル(図8)とのアナロジーを考えると理解しやすい。上の傾いているのが資源量(正確には蛇口レベルより上の液量が、資源量から累計生産量および残存埋蔵量を差し引いたものに相当する)のタンク、下にあるのが埋蔵量のタンクで、最初は両方とも空であった。生物の発生に伴い太陽エネルギーの一部が固定され、そのまた一部ホ油の資源量と寿命面の低い当初は小さかった。それが下のタンクの液位上昇に伴い、蛇口にかかる液圧が上昇し、流出量も徐々に増加していく。1980年以降は、需要が減少したため、下の蛇口が若干絞られ、これに呼応して液面は更に上昇したが、現在、下からの流出量は流入量にほぼ等しい300億バレル/年となっており、下のタンクの液量は約1兆バレルで平衡に達している。今ここで上のタンクの蛇口を閉じることは図6のAのケースに相当し、下のタンクの液面の低下に伴い流出量は「ハバート曲線」の後半部をたどって減少し、約50年後には下のタンクは空になり流出は停止する。 下の蛇口をより開くことにより一時的に流出量は300億バレル/年を超えることができるが、タンク内の液位(すなわち液圧)が低下してきて、結局流出量は流入量と等しくなる液位で平衡に達する。これは生産井の追加掘削などにより一時的に生産量を増加させても、結局それは埋蔵量の枯渇による減退を招くことに対応する。すなわち継続的に流出量を300億バレル/年以上に保つには、上のタンクからの流入量(埋蔵量の追加)を増やす必要がある。300億バレル/年の流入量を継続するだけでも、今後も上の蛇口を徐々に開いていかねばならず、これを更に上回ることは難しい。仮に上からの流入量が増加しても、それは、とりあえずは下のタンクの液面を上昇させることになり、埋蔵量の増加がそのまま流出量(生産量)の増加につながるわけではない。 資源量を増加させるもうひとつの方法がある。図5で検討したように、高油価などにより経済限界規模が1/10になれば資源量は約1兆バレル増加する(さらに「非在来型」石油の商業開発可能量も増加する)。これは図7において、上のタンクの傾きを徐々に直立に戻すことに相当し、従来蛇口レベルより下位にあった液体も流出可能な「資源量」に繰り込めることになる。 いずれにせよ重要なポイントは、これまでは300億バレル/年の流入量(埋蔵量の増加)に対して流出量(生産量)が少なかったので下のタンクの液面(残存埋蔵量)が上昇を続けてきたが、いまや流入量と流出量が一致してしまったため、下のタンクの液位は平衡に達していて、今後の増産が困難になってきているということである。? 原油価格の将来展望 過去2回(1973、1979)の石油危機は、図6で生産実績(需要)が生産能力に極めて接近した点に相当し、この時油価は急騰した。アナリスト達は、政治要因、在庫レベル、先物ポジションなどにより油価を予測しているが、それは短期予測であり、必ずしも的中していない。これらの要因は油価変動の引き金となったり、それを増幅したりすることはあっても、中長期的な油価は基本的には探鉱・開発・生産システムに基づく生産能力と需要のバランスに依存していると筆者は考える。 今、石油生産(需要)は300億バレル/年の生産能力にほぼ到達してきていて(実際には、1980年以降の生産実績の落ち込みに起因する生産余力がある程度存在するが)、需要が恒常的に発見量+「埋蔵量成長」、すなわち生産能力を上回るという過去に経験のない時代に突入しようとしている。過去2回(1973、1979)の油価高騰は需要と生産能力が急接近したときに起きているが、このときは生産能力自体も成長中であった。一方、現在生産能力は300億バレル/年のプラトーに達していて、このレベルを維持することすら困難になりつつある。筆者はこれが最近の油価の大幅上昇の真の原因であると考え、楽観論よりも大きい資源量を推定しながらも、今後は定常的に高油価が持続すると予測している。 さらに、需要と供給能力が接近したため、「カオス」が発生しやすく、今後の油価は些細なきっかけで高騰しかねない。油価の安定を望むのなら、需要の抑制と探鉱の促進がきわめて重要となる。逆に、石油探鉱の促進、新エネルギー技術の確立および環境負荷の小さな循環型社会システムの構築によりカタストロフィを回避するためには、安定的な高油価がむしろ望ましいと筆者は考えている。3. まとめ?ソフトランディングに向けて 石油は現代文明を支え続けてきたが、資源の枯渇と環境汚染という深刻な問題を惹起しており、環境負荷が小さく更新可能な新エネルギーへの転換が急務である。この転換においては、石油の資源量、生産量、油価等により充分な移行期間と経済性が確保できるかが鍵となる。 石油の集油規模はべき乗分布と推定され、この母集団に探鉱過程を模したサンプリングを施すことにより現実の油田規模分布は再現される。この前提に基づくと世界の石油資源量は従来の諸説より大きい3?5兆バレルと推定され、過去の累計生産量の少なくとも3倍程度は地下に残されている。しかし、生産量は探鉱・開発・生産システムの制約を受けていて、各年の発見量+「埋蔵量成長」を大きく上回ることはできず、21世紀前半は約300億バレル/年のプラトー生産が続き、その後22世紀半ばにかけて徐々に減退していくと予測される。これは、年率1?3%で増加する需要を完全に満たすことが9石油・天然ガスレビューsisnalyAAnalysisAAysAnana nalysisAnalysisAAnssiissyyllaanAアナリシスできず、今後高油価が持続することを意味する。今後は油価が高騰しやすい状況となり、安定的な油価を望むのなら、需要の抑制と探鉱の促進が必須である。 すなわち、石油資源量は1.7?2.1兆バレルで現在をピークに増産期を裏返して減退していくという「ピークオイル」説は正しくないが、一方、安価で、今後の需要増に応じて自由に増産していく「チープオイル」も期待できない。ソフトランディングを円滑に行うためには、むしろ安定的な高油価が望ましいと筆者は考えている。 天然ガスは、石油に比して残存資源量が多く、CO2排出量も少ないことから、当面はこの需給ギャップの大半を埋めることになるが、化石燃料の宿命である枯渇と環境汚染の問題から逃れることはできず、このギャップは究極的には新エネルギーが埋める必要がある。上記のシナリオによれば、新エネルギーは高油価により経済性を確保しつつ、需給ギャップを徐々に埋めながら一世紀以上の移行期間を経て石油を完全に代替することになり、従来の諸予測に比較するとソフトランディングの実現性は高い。 タールサンドなどの「非在来型石油」やメタンハイドレートなどの「非在来型天然ガス」、および石炭は、その資源量が莫大なことから(文献12)、高油価環境下では「新エネルギー」の一部としてこの需給ギャップを埋めることになろう。しかし、これらの資源はその組成、回収方法、改質の必要性などからエネルギー効率(投入エネルギー当たりの獲得エネルギー)や環境負荷の点でハンディキャップがあり、また枯渇性の化石燃料であることには変わりがない。これらの資源に大きく依存することは、問題を先送りするだけで、破局はより深刻になりかねず、その前に更新可能な新エネルギー技術を確立することが望ましい。石油を代表とする化石燃料は化学的にも多くの有用な特徴を備えており、エネルギーとして使い尽くすのではなく、他資源では代替できない用途限定の「貴重品」として次世代にも残しておきたいものである。 ソフトランディングに向けて、資源量、時間的余裕および経済性は確保される可能性があることが示されたが、このシナリオは無条件で保証されているわけではない。まず、新エネルギー技術の確立と循環型社会の構築を急ぎ、今後のエネルギー需要増をまかないつつ、1世紀以上をかけて完全に石油を代替せねばならない。一方で、石油探鉱の促進と開発技術の進歩により、当面は過去と同程度の発見量+「埋蔵量成長」を維持していく必要がある。埋蔵量追加と生産量維持はますます困難になってくるとはいえ、石油資源量は従来の諸予測よりむしろ大きいと予想され、「探鉱パラダイム変換」(文献9, 10)と開発技術のブレークスルーにより充分達成できるシナリオであり、挑戦する価値は大いにある。新エネルギーと石油開発の両分野は実は競合するのではなく、人類文明の破局を回避するために緊密な連携をとりつつ、それぞれが最善を尽くすことが求められている。参考文献(詳細文献リストは下記3.の論文の引用文献を参照) 1. 例えば 藤田和男, シリーズ"超石油資源講座"(その10, 11)、石油開発時報, No.125, p.52-63, No.126, p.35-43 (2000);   Williams, B., Debate over peak-oil issue boiling over, with major implication for industry, society. Oil and Gas Journal, July 14, p.18-29 (2003) 2. 例えば De?eyes, K.S., Hubbert's peak, Princeton University Press (2001) 3. 井上正澄, 石油資源の将来?生産量推移・油田規模分布・究極資源量に関する考察?, 石油技術協会誌、Vol.69, p.679-691 (2004) 4. U.S. Geological Survey World Energy Assessment Team, : World Petroleum Assessment 2000‐Description and Results. USGS Digital Data Series DOS‐60 Multi Disc Set Version 1.0. (2000) 5. Arps, J.J.and Roberts, T.G., Economics of drilling for Cretaceous oil on east ?ank of Denver-Julesburg basin. AAPG (Am.Assoc.Petrol.Geol.) Bull., Vol.42, p.2549-2566 (1958) 6. Carmalt, S.W. and St. John, B., Giant oil and gas ?elds. In Halbouty, M. T., ed., Future petroleum provinces of the world. AAPG Memoir 40, p.11-52 (1986) 7. Ivanhoe, L.F., Oil/gas potential in basins estimated. Oil and Gas Journal, Dec. 6, 1976, p.154-155 (1979) 8. Mann, P., Gahagan, L. and Gordon, M.B., Tectonic setting of the world's giant oil and gas ?elds. In Halbouty, M. T., ed., Giant oil and gas ?elds of the decade 1990-1999. AAPG Memoir 78, p.15-125 (2003) 9. 井上正澄, 背斜説から向斜説へ?― 21世紀の探鉱パラダイム―, 石油技術協会誌, Vol.67, p.143-152 (2002)10. 井上正澄, 石油探鉱におけるパラダイム変換.ペトロテック, Vol.25, p.503-507 (2002)2005.5. Vol.39 No.310ホ油の資源量と寿命11. 野本真介・藤田和男, 油田減退モデルによる世界の大型巨大油田の生産挙動に関する一試算. 石油技術協会誌, Vol.62, p.247-256 (1997)12. 例えば McCabe, P.J., Energy resources‐cornucopia or empty barrel? AAPG Bull., Vol.82, p.2110-2134 (1998)13. 本村眞澄, 復活した石油大国ロシアとその背景にあるもの―石油天然ガスの生産動向分析と地質ポテンシャル―. 石油/天然ガスレビュー, Vol.36, No1, p.20-48 (2003)14. 例えば 井上正澄, 坂牧和博, 町田幸弘, 佐伯龍男, 岡崎隆臣, ガボン沖合既存油田間鞍部における新油田の発見―voxel技法による貯留層分布予測―. 石油技術協会誌, Vol.65, p.557-570 (2000)著者紹介東京大学理学部卒業、同大学院修了、理学修士(地質学)、米国公認会計士。ミャンマー、アブダビ、カタール、ガボン、アンゴラ、豪州、インドネシア、ベネズエラ等の石油・ガスおよびLNGの探鉱・開発プロジェクトに従事。11石油・天然ガスレビュー
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2005/05/20 [ 2005年05月号 ] 井上 正澄
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