ロシア:ガスプロムが取り組む LNG 事業 ~シュトックマノフ・ガス田からサハリン―2まで~
レポートID | 1006184 |
---|---|
作成日 | 2005-09-20 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 天然ガス・LNG |
著者 | 本村 真澄 |
著者直接入力 | |
年度 | 2005 |
Vol | 39 |
No | 5 |
ページ数 | |
抽出データ | ロシア:ガスプロムが取り組むLNG事業?シュトックマノフ・ガス田からサハリン?2まで?・シュトックマノフ・ガス田は、ムルマンスクの北方沖合い550km、バレンツ海のほぼ中央に位置し、1988年に発見された。埋蔵量は3.2兆m3(113Tcf)で、ロシア大陸棚で最大の超巨大ガス田である。・現在、同ガス田のLNG計画が進められ、早ければ2010年より米国、欧州の市場に1,500万トン/年のLNGが供給される。最終的な計画は2006年中に策定される予定である。・LNGの対米輸出計画は、米国におけるガス需給がタイトになった2002年頃より浮上し、その後、米ロ首脳による政治主導で進められてきた。米ロ商業エネルギーサミットで一時期盛り上がった米ロのエネルギー提携は、石油分野では停滞しているが、LNGに関しては緊密な連携がなされ進展を見せている。・ガスプロムはShellと西シベリアのZapolyarnoyeガス田深部の50%とサハリン?2の25%超の権益とを交換することにより、サハリン?2への参入を図る。ガスプロムにとり、これはShellのLNG技術を経験することも目的の1つと言える。・同時に、ガスプロムはパイプラインガスとLNGのスワップにより、2005年より米国へのLNG輸出業務を開始し、前倒しでLNGバリューチェーンへの部分参加を図る。2005年はガスプロムにとってLNG元年となる。・また、バルト海にも別途LNGターミナルを建設する計画がある。・ガスプロムは、西欧に対しては別途「北ヨーロッパ・ガスパイプライン計画」を進めており、ユーラシア大陸内ではパイプラインによる供給、米国その他の遠隔地域にはLNGと輸送手段を振り分けた国際展開を構想している。1.シュトックマノフ・ガス田開発のコンソーシアム形成の動き盧 ガス田の概要シュトックマノフ・ガス田は、ムルマンスクの北方沖合い550km、水深330m?380m、バレンツ海のほぼ中央に位置し、ガスプロムによって1988年に発見された。埋蔵量はガス3.2兆m3(113兆cf,C1+C2カテゴリー)、コンデンセート3,100万トンで、ロシアの海洋で最大規模の超巨大ガス田である。1990年から95年にかけて、追加地震探鉱と6坑の評価井掘削が実施され、1993年には、この権益はガスプロムの子会社Rosshelfに引き継がれ、25年間の生産ライセンスが付与された。盪 当初の事業の対応ガス田の開発のために、1996年に国際コンソーシアムが組織された。権益は、Rosshelf が50%を保有し、国際コンソーシアムにはTotalFinaElf(仏,当時)、Norsk Hydro(ノルウェー)、Conoco(米)、Fortum (フィンランド,前Neste)の4社が、各12.5%で参加した。ただし、開発時期を巡って合意に達せず、事業は停滞したままであった。また、開発方式についても、パイプラインによって出荷し、北ヨーロッパ・ガスパイプラインに繋ぎ込む案と、LNG化する案とがあり、決着していなかった。ロスネフチは2001年12月にガスプロムと合弁企業“Sevmorneftegaz”を設立し、バレンツ海のPrirazlomnoye油田(可採埋蔵量8億バレル)とシュトックマノフ・ガス田の49.95%、および西シベリア北部のKharampur油田等を操業するPurneftegazに50%参加した。これは、ともに国営企業であるという共通点と、自らの埋蔵量資産にガスの比率が高いロスネフチが、ガス生産技術の習得と自らのガスの有効活用を図るためにガスプロムと組んだものである。2004年12月、折からのユコスの主力子会社ユガンスクネフチェガス競売に当たって、この買収のための資金作りとしてロスネフチは、合弁企業“Sevmorneftegaz”に参加して保有していたシュトックマノフ・ガス田を持つRosshelfにおける保有株式と、西シベリア北部のKharampur油田等を操業するPurneftegazの保有株式を、ガスプロム傘下のガスプロムバンクに買い取らせて17億ドルを調達したといわれ2005.9. Vol.39 No.572驕iInterfax,2004/12/29)。これについてガスプロムは黙認しており、特段の反応を示していない。これにより、ロスネフチはシュトックマノフ・ガス田の事業から撤退した。蘯 ノルウェー企業との連携ガスプロムがシュトックマノフ・ガス田の開発についてLNG計画を立案し、正式に米国への輸出を指向する方針を採択したのは、2004年夏のことである(Russian Petroleum Investor, 2004/11-12)。この方針を受け、ノルウェーのStatoilは2004年9月に、ガスプロムとの6カ月の共同スタディに関するMOUを締結し、これを受けて2005年5月、ガスプロムに対してシュトックマノフ・ガス田権益の25%と、Statoilがノルウェー大陸棚で進めているSnohvitガス田LNGプロジェクトの10%権益との交換を提案した(IOD, 2005/5/20)。一方、同じくノルウェーのNorskHydroはシュトックマノフ・ガス田の15%の権益取得を希望している。2004年12月、Norsk Hydroはガスプロムとシュトックマノフ・ガス田の開発について、Norks Hydroが18.07%の権益を保有しオペレーターとなっているOrmen Langeガス田における海底仕上げ、LNGバリューチェーン、マーケティング等に関する知識を踏まえて協力するというMOUを締結した(IOD, 2004/12/15)。さらに、2005年6月20日には、ノルウェーのKjell Magne Bondevik首相とロシアのMikhail Fradkov首相が、両国によるバレンツ海域での石油・天然ガス開発の促進をうたった共同声明に署名し、これに併せてStatoil、Norsk Hydroとガスプロムの3社がバレンツ海域の石油・ガス開発における協力協定を結んだ(IOD,2005/6/21)。盻 LNGを前提にした国際コンソーシアムの再結成ともノルウェー勢の優位と、市場を持つ米国からの参加の可能性は高い。2004年9月、ガスプロムはChevronTexaco(当時)と、ガス田は特定しないまでも、共同してロシア国内においてLNG事業を推進するというMOUを結んでいる(RPI, 2004/11-12)。これに続き、2005年に入りガスプロムは、シュトックマノフ・ガス田の開発パートナーとして、さらにいくつかの外国石油企業をも交えることとし、ExxonMobil、Chevron、ConocoPhillips、Shell、Totalが潜在的パ?トナーとして名乗りを上げた(IOD, 2005/5/20他)。6月下旬には、Totalと住友商事がMOUを締結すると報じられた(IOD2005/6/23)。さらに名前の挙がっている企業としてPetro-Canada(PON, 2005/7/28)、Sempra Energy、三井物産(East & West Report, 2005/7/29)がある。Sempra Energyは、サハリン?2のLNGを受け入れるBaja CaliforniaのCosta Azul受け入れターミナルを操業することになっているが、今回の件では米国に供給するLNGの受け入れターミナルの権益51%を提供する用意があるとしている(IOD, 2005/6/23)。Shellも同様に、ガスプロムに対して米国へのLNG市場への道筋をつける役目を持つことができる。8月8日には、ガスプロムは9社からシュトックマノフ・ガス田開発に関する提言書を受け取ったと発表した。9社とは、ExxonMobil、Chevron、ConocoPhillips、Shell、Total、Norsk Hydro、Statoil、住友商事、三井物産である(Reuters, 2005/8/8)。Sempraは協力の提案は行ったが、シュトックマノフに関する事業はない。ガスプロムは、本年中にパートナーを決定する方針である。一部の観測では、ガスプロムがメジャーのシェアを持ち、ノルウェー勢のStatoilとNorsk Hydroも併せた3社で8?9割、残りはその他の外国勢となる可能性があるとしている(Gas MarketReview Upstream, 2005/7/4)が、少なく2.シュトックマノフ・ガス田のLNG計画盧 シュトックマノフ・ガス田の開発とTake-or-Pay条項の復活シュトックマノフ・ガス田は2000年4月にPSリストに登録され、それ以降、国際コンソーシアムとRosshelfとの間で、開発時期を巡って議論が交わされた。当時、Rosshelfは2006年の生産開始を指向していたが、国際コンソーシアム側はこれを2010年まで繰り延べることを主張した。この案では、第1フェーズでの生産量は210億m3/年で、ガスはムルマンスク港まで海底パイプラインで運ばれる。さらに、第2フェーズとして、2020年までにフル生産となる900億m3/年へ生産量を伸ばす。しかしながら、ガス市場の確保については、依然として不明なままであった。このガス田は、沖合いの厳しい環境にあり、埋蔵量規模も巨大なことから、本格開発に踏み切るには、長期かつTake-or-Pay条項付きのガス購入契約が不可欠である。これへの最大の障害となっているものが、天然ガス市場の規制緩和と短期あるいはスポット市場を推進する欧州共同体条例(European CommunityOrdinance)、そして欧州ガス指令(1998)であり、ガスプロムとしてはこれを強く批判していた。2002年秋になって、欧州委員会側がTake-or-Pay条項付きの長期ガス購入契約を容認する姿勢に転じたことから、同ガス田からバルト海の海底を通り英国まで、西欧州市場を対象とするパイプラインを建設する案がにわかに浮上してきた。この時点では、北ヨーロッパ・ガスパイプラインの供給ガス田の有力な候補であったが、その後米国市場のLNG需要増が見込まれるようになると、LNG73石油・天然ガスレビュー73ノよる輸出案がそれにとって替わった。盪 ガス田の概要と開発計画シュトックマノフ・ガス田は、集ガス範囲が35km×45kmの比較的単純なドームに近い形状を呈する。これまでに7坑の試探掘井が掘削され、4枚のジュラ系砂岩貯留層(J0, J1, J2, J3)が認められている。貯留岩深度は1,900m?2,300mと浅い。砂岩は連続が良く、クリーンで、比較的良好なガスのフローレートを得ることができる(RPI, 2004/11-12)。開発計画に関しては、ガスプロム傘下の研究所VNIIGAZが策定している。これによれば、3基のプラットフォームを配置し、全坑井数は156坑、プラトーの生産量は年産675億m3で、操業開始から12年で達成する。ガスプロムとしては、シュトックマノフ・ガス田をPS契約の下で開発することを指向しており、政府と交渉に入る。2005年内、あるいは2006年代四半期中の認可を期待している(RPI, 2005/4)。蘯 現在のLNG開発計画ガス田開発計画は、第1フェーズではもっぱらLNG化事業に集中し、ガスの年産量は225億m3である。LNGとしては年間1,400?1,500万トンとなる(IOD, 2005/5/23)。供給開始は2010年頃を見込んでいる。第1フェーズの総事業費は、Norsk Hydroによれば100億ドルと見積もられる(IOD,2005/6/23)。液化プラントの位置としては、ガス田に最も近く、かつ輸出港として優良な条件を備えていることから、ムルマンスクが有望視されている。盻 ロシアによる先行LNG供給計画ガスプロムは、シュトックマノフ・ガス田におけるLNG施設の完成を待たず、2005年から米国に向けてLNGを供給する計画を、この2月に表明した。これはパイプラインガスと既存のLNGとをスワップして、ガスプロムの事業として米国にLNGを輸出する計画で、LNGに関する輸送とマーケティングについて先行して経験を積みたいという考えによるものである。この9月には、BGのLNGを購入し、米国メリーランド州Cove PointにあるShell Western LNG社の受け入れターミナルに供給することになっている(PON, 2005/8/9)。眈 その他進行中のLNG計画ガスプロムは、本件と併行してバルト海に面したレニングラード州のUst-Luga港にLNGプラントを建造する計画を進めている。これは、本年後半にも正式決定したい意向である。このFSは最終段階にある。このLNG基地の稼動開始は、2009年を目指している。天然ガスの処理能力は50億?70億m3で、年産300万?500万トンのLNGを生産する。液化プラントの総工費は12億ドルと見込まれる。このLNG計画も、同様に米国への輸出を想定している。Petro-Canadaはこれへの参加を希望しているが、米国の受け入れ状況によっては、他の米国の企業が参加する可能性もある(Interfax, 2005/6/10)。3.サハリン?2のLNG事業へのガスプロムの参加盧 サハリン?2とガスプロムの権益交換Shellが中心となるサハリン・エナージー社をオペレーターとして、ロシアで最初のLNG事業が進められているサハリン?2は、ガスプロムとしても是非とも参入したいプロジェクトであり、参入条件を巡って複数年にわたって話し合いが続いていた。2005年7月7日、ガスプロムのAlexei Miller社長とShellのJeroen vander Veer会長はロンドンで会合し、ガスプロムがサハリン?2のブロックシェアとなる25%超を、Shellはガスプロムの操業する西シベリアZapolyarnoyeガス田のネオコム層権益の50%を、交換によりそれぞれ保有することで合意した(各紙2005/7/8)。サハリン?2の埋蔵量は、天然ガス5,000億m3(17.7Tcf)、石油11億バレルと公表されている。一方、Zapolyarnoyeガス田全体では128Tcfで世界第7位の超巨大ガス田であるが、今回、交換の対象となっている深部のネオコム層について見ると天然ガスは7,350億m3(26Tcf)、コンデンセート1.33億トン、石油10億バレル(NC, 2005/7/14)で、サハリンの25%とZapolyarnoyeの50%を比較すると、数量的にはガス、石油(コンデンセートを含めれば)ともにZapolyarnoyeがサハリンの3倍前後となる。開発・輸送コストそしてロシア国内の販売価格を考慮しないと比較はできないが、従来、その資産評価比較で見ると、ガスプロムのサハリン?2に保有可能な比率は22%といわれていただけに、これはShell側の大幅な譲歩と受け止められている。一方、Shellは2004年1月、自社全体の埋蔵量の20%に当たる39億boeの下方修正を行い、大きなダメージを受けた。同社は経営上、素早い埋蔵量の増加が求められる状況にあったが、Zapolyarnoyeガス田のネオコム層の埋蔵量が追加されることは、状況のかなりの改善となる。サハリン?2の盪LNGの進捗状況サハリン?2のLNGに関しては、960万トン/年の生産量に対して、既に750万トンが成約、または成約見込みであり、非常に優れた進捗である。LNG計画は以下の通り。・LNG生産計画:960万トン/年(480万トン×2トレーン)・LNG購入契約(年間量):東電150万トン、東ガス110万トン、九州電力50万トン、東邦ガス30万トン、広島ガス21万トン、東北電力12?42万トン、Sempra 160?190万トン、Kogas150万トン。ただし、現在、サハリン?2の事業にはいくつかの問題が発生している。7月14日、Shellは同プロジェクトの総事業費が、当初計画の2倍に当たる200億ドルに達するとの見込みを発表した(各紙、2005/7/15)。この主たる理由は、当初計画でのピリトゥン・アストフスコエ油ガス田のプラットフォームからのパイプラインルートがコク鯨の生息地を通るため、より南にルート変更したことによる2005.9. Vol.39 No.574Rストアップと言われているが、その他、昨今の鋼材の高騰、ロシア国内のインフレ、ユーロの対ドル上昇等があるものと思われる。これにより、当初2007年とされてきたLNGの生産開始が、2008年までずれ込むことが確実視されるようになった。LNGの供給に関しては、代替となるLNGを確保するなど、影響を極力小さくする努力がなされている。また、LNG基地になるプリゴロドノエのある建設資機材の積み下ろしに使用する予定の、アニワ湾の桟橋の建設に関し、オペレーターであるサハリン・エナージーが実施した環境調査の結論について、2005年1月にユージノサハリンスク市裁判所は、この結論を覆した。併せて州天然資源監視団(Rosprirodnadzor)が選出した州環境グループによるプロジェクトを承認した専門家見解も非合法とする判決を下した。これに対してサハリン・エナージーは控訴したが、サハリン地方裁判所はこの7月、先のユージノサハリンスク市裁判所の判断を支持した。この決定は直ちに効力を発揮することから、LNG基地建設は、作業中断の恐れが出てきた(Interfax, 2005/7/26)。ただし、この裁判所の判断が純粋に環境的な審査から導かれた結論であるかについては、疑問を呈する向きもある。現在、ガスプロムとShellは権益交換を行い、今後双方のガス田資産の価格を割り出し、2006年に権益が効力を発するまでに、評価額の差額についてはキャッシュで調整することになっている。今回の裁判所の決定は、当然、Shellの立場を弱く、ガスプロムの立場を強くする効果がある。4.ヤマル半島のLNG計画ヤマル半島北部のBovanenkovガス田は1971年に、カラ海の陸と海にまたがるKharasaveyガス田は1974年に発見されているが、今日まで開発が見送られてきた。その最大の理由は、ヤマル半島においては永久凍土が厚く発達しており、西シベリアの既往の主要ガス田地帯と比較して、ガス田開発工事とパイプライン敷設が著しく困難になるためである。ヤマル半島のガス田までをつなぐYamal 1Pipelineは1990年代に立案され、東欧区間から工事が開始されたが、モスクワ以北の区間については、結局断念した状態となっていた。その後、両ガス田が海に近いことから、LNG計画が頻繁に語られるようになり、Bovanenkovガス田は、サハリン?2、シュトックマノフに次ぐLNG計画の候補と考えられるようになった(Miller社長講演等、2003年6月、後述)。しかし、2003年11月のガスプロムの役員会での議論では、Bovanenkovガス田から、カラ海をかすめてティマン=ペチョラのUkhtaまでの「北オプション」と、西シベリアのYamburgガス田までをつなげる「南オプション」の2つのガス・パイプライン計画が議論された(RPI, 2004/3)。これにより、ヤマル半島のLNG計画は当面は棚上げになったものと思われる。5.ガスプロムのLNG戦略盧 ガスプロムのLNG参画の意義2003年に世界で輸出された天然ガスのうち、パイプラインによるものは4,548.7億m3で全世界の消費量の17.6%、一方LNGによるものは1億2,000万トン(ガス体積換算で1,688.4億m3)で全消費量6.5%である。パイプラインによる最大の輸出国はロシア(1,318億m3)で、LNGの輸出国では現在インドネシアが第1位であるが、近々カタールに1位をとって替わられる。2004年からエジプトが、世界で13番目のLNG輸出国となり、アンゴラにおいても2010年を目標としたLNG計画が検討されるなど、LNG事業には産ガス国の新規参入が相次いでいる。世界最大の埋蔵量と生産量を有するロシアにとっては、この拡大する市場を押さえることは焦眉の急であったが、具体的な検討に入ったのは、この数年ほどである。LNG市場は、これまでは日本等の太平洋圏が主であったが、今後は需要の伸びの著しい、北米、インド、中国等にも広がりつつあり、より自由度のあるスポット取引も増加し、市場の連携が進むと思われる。このような状況の中で、LNGに対する潜在的な供給力では、ロシアは圧倒的な力があるといえる。ロシアが天然ガス生産を拡大するためには、LNG事業への参画は不可避である。盪 世界ガス会議でのミレル社長講演2003年6月4日、東京で開催された第22回世界ガス会議におけるMiller社長の演説は、ロシアのガス戦略を概観したものであるが、特に米国との関係について言及した。2002年の米ロ商業エネルギーサミットで、ロシアにとって米国が石油の市場となったことを受け、ガスも今後そうなり得ること、よってロシアも米国へのLNGによるガス輸出を検討すべき時期にあることを表明した。LNG事業を立ち上げる地域としては、ヤマル半島、北方大陸棚(シュトックマノフ・ガス田、サハリン大陸棚)を挙げている。これは、ガスプロムのLNGに関する基本的な姿勢を表明したものである。次項に述べるように、2002年の米ロ商業エネルギーサミットでは、この方向性は明確ではなく、本講演で述べられたのはそれ以降策定された政策と見なされる。蘯 米ロ商業エネルギーサミットでの発言2002年8月に、エイブラハム米エネルギー省長官がモスクワを訪問した際に、ロシア産LNGの対米輸出問題が協議されているが、翌月ヒューストンで開催された第1回の米ロ商業エネルギーサミットでは議題とはならなかった。他方、米国側にはガスプロムに対して、ロシアガス産業の独占解体の要求があるとの憶測75石油・天然ガスレビュー75ェあったため、ガスプロムはサミットへの参加を見合わせた。③LNGの輸送④LNGのマーケティング(契約交渉、2003年9月、サンクトペテルブルグで開催された第2回米ロ商業エネルギーサミットにおいては、前年の第1回の議論では米国への石油輸出が大きなウェイトを占めたのに対し、ロシア側が、今後大きな伸びが予想される米国の天然ガス需要に関心を表明し、ガスプロムは石油同様、米国のエネルギー安全保障にロシアの天然ガスポテンシャルが貢献できる可能性を訴えた。具体的なプロジェクトとして提案されたのが、バレンツ海のシュトックマノフ・ガス田のLNG事業である。これに対し、米国側ではConocoPhillipsが関心を示した(JOGMECホームページ、石油・天然ガス資源情報「ロシア/米国:第二回米露エネルギーサミットが開催」2003年9月26日)。現在のシュトックマノフ・ガス田LNG計画はこれに連なるものである。盻 ブラチスラバでの米ロ首脳会談2005年2月24日の、スロバキアの首都ブラチスラバにおける米ロ首脳会談で、両国のエネルギー協力に関する声明が発せられたが、この中で特に「ロシアにおけるLNGの増産を図り、米国市場へのLNG輸出を強化する」ことがうたわれた。これは、米ロ商業エネルギーサミットでの議論をさらに進展させたものと受け止められている。眈 ガスプロムのLNG技術経験今日、多くの産ガス国がLNG輸出国へと名のりを挙げているが、ガスプロムはその中で、埋蔵量と生産量において最大の企業であり、真打登場の感がある。ガスプロムがLNG事業に参入するには、プロジェクトにおいて高度な技術が要求されることはもとより、広範なマネジメント力を習得することが不可欠である。LNGマネジメントとは、個別のプラント技術を指すというよりは、以下の4カテゴリーをチェーンとして最適運営するノウハウといえる。①LNGプラントの設計、建設②LNGプラントの操業心的な部分であり、後発企業にとっては先行事業に参画することにより、逐次習得する必要がある。ガスプロムは、シュトックマノフ・ガス田のLNG事業化に当たって、今般ようやくサハリン?2とSnohvitへの参加を決めたが、時間的な余裕はあまりない。今後は人材の育成が鍵となる。当面は、かつてユコスやシブネフチがそうしたように、西側の専門家を多数雇用し、ロシア人技術者を配下に置きながら、操業を継続しつつ人材の育成を図るものと思われる。既に、ロンドンにある小会社Gazprom Morketing & Traidingは、元Marathonの上級副社長をLNG担当取締役に引き抜いた。しかし、LNG技術に習熟した専門家の数は限られており、他の産ガス国もLNG事業への参加に意欲的であることから、世界的にLNG技術者が払底するという事態も懸念される。(本村 真澄)価格、需給等のコントロール)問題は、これだけ広範な技術的課題を、短時間に同社が吸収できるかである。ガスプロムは、まずStatoilからSnohvitガス田におけるLNG技術の吸収に努めている。次いで、サハリン?2に25%超の権益を取得して参加するが、当然これもShellのLNG技術の習得を目指しての戦略といえる。細かく見ると、サハリン?2でShellの採用しているガス液化技術はShell DMR方式(混合冷媒予冷方式)、SnohvitでStatoilが採用しているのはLinde MFC方式で、それぞれ異なる。冷凍サイクルの駆動方式でも、前者がガスタービン、後者が電気モーターと大きく異なる。両者とも、メジャーシェアを持つAPCI社の熱交換器を使用しない方式である。ガスプロムとしては、寒冷地域という共通点はあるものの、まずは自国内あるいは近隣のLNGプロジェクトに参加することにより、結果的には異なる方式となったが、複数のLNG液化方式を研究している過程と思われる。液化設備については、これらを設計するに当たってのコスト分析と、操業それ自体がLNGのマネージメント技術の中020004000Kmロシアのロシアの ロシアの 主張する境界主張する境界 主張する境界 SnohvitSnohvitSnohvitOrmen LangeOrmen LangeOrmen Langeノルウェーのノルウェーの ノルウェーの 主張する境界主張する境界 主張する境界 BovanenkovBovanenkovBovanenkovShtokhmanovShtokhmanovShtokhmanovMurmansk (LNG)Murmansk (LNG)Murmansk (LNG)Zapolyarnoye Zapolyarnoye Zapolyarnoye Yuzhno-Russkoye Yuzhno-Russkoye Yuzhno-Russkoye Urengoy Urengoy Urengoy MedvezheMedvezheMedvezhe西シベリア西シベリア 西シベリア 堆積盆地堆積盆地 堆積盆地 VyborgVyborgVyborgUst-Luga (LNG)Ust-Luga (LNG)Ust-Luga (LNG)Europe Gas PipelineEurope Gas PipelineEurope Gas Pipelinehhh rtrtrtoooNNNBactonBactonBactonBBLBBLBalgzandBalgzandBalgzandZeebruggeZeebruggeZeebruggeInterconnectorInterconnectorInterconnectorGreifswaldGreifswaldGreifswaldHammer Projection (Oblique)Hammer Projection (Oblique)Hammer Projection (Oblique)2005.9. Vol.39 No.576 |
地域1 | 旧ソ連 |
国1 | ロシア |
地域2 | |
国2 | |
地域3 | |
国3 | |
地域4 | |
国4 | |
地域5 | |
国5 | |
地域6 | |
国6 | |
地域7 | |
国7 | |
地域8 | |
国8 | |
地域9 | |
国9 | |
地域10 | |
国10 | 国・地域 | 旧ソ連,ロシア |
Global Disclaimer(免責事項)
このwebサイトに掲載されている情報は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Oil, Gas and Metals National Corporation All Rights Reserved.
PDFダウンロード725.7KB
本レポートはPDFファイルでのご提供となります。
上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。
アンケートの送信
送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。