二つの中国像と東アジアのエネルギー危機 ~「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」~
| レポートID | 1006189 |
|---|---|
| 作成日 | 2005-11-20 01:00:00 +0900 |
| 更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
| 公開フラグ | 1 |
| 媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
| 分野 | 探鉱開発 |
| 著者 | |
| 著者直接入力 | 大森 良太 |
| 年度 | 2005 |
| Vol | 39 |
| No | 6 |
| ページ数 | |
| 抽出データ | アナリシス独立行政法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センターomori@ristex.jst.go.jp大森 良太二つの中国像と東アジアのエネルギー危機?「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」?1.懸念される東アジアのエネルギー危機昨今、中国やインドのエネルギー需要の急増、中東情勢の不安定化、原油価格の高騰などを背景として、エネルギーセキュリティへの関心が再び高まっている(文献1?5)。また、東シナ海のガス田開発やシベリアからの石油輸送パイプラインのルート設定を巡る日本と中国との対立に見られるように、エネルギー資源を巡る問題が外交上の大きな懸案ともなってきている。90年代半ば、当時米国プリンストン大学の政治学部教授であったケント・カルダーは、「エネルギー問題」を東アジアの安全保障上の危機の根源に位置付け、東アジアの経済成長、エネルギー不足、戦略地政学的な不安定要素および軍拡競争の相関関係を図1のように表した(文献1)。現在の情勢からすると、軍拡競争という事態はやや唐突な印象もあるが、仮にこれを国際対立と置き換えてみれば、カルダーの指摘は今日ますます現実味を帯びてきていると言えよう。経済成長 戦略地政学 的な不安 エネルギー 不足 軍拡競争 出所:文献1より転載図1アジア軍拡の構図19石油・天然ガスレビュー表1アジアの一次エネルギー消費の見通し(石油換算百万トン)アジア*日本中国韓国インドインドネシア2000年2010年2020年2,42352593219132298 3,3355431,4062624521444,5705612,0633036842092020/20001.891.072.211.592.122.13*日本、中国、韓国、インド、インドネシア、台湾、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムなど出所:文献5から作成表2日本のエネルギーセキュリティ関連指標の推移第一次オイルショック時第二次オイルショック時湾岸戦争時77%72%58%現在50%(73年度)(79年度)(90年度)(02年度)76%(79年)54%71%(90年)30%89%(04年)12%(79年度)(90年度)(02年度)30.4%(79年度)民備85日国備7日計92日13.2%(90年)民備88日国備54日計142日12.0%(03年度)民備77日国備91日計169日一次エネルギー消費に占める石油の割合原油の中東依存度発電電力量に占める石油火力の割合総輸入額に占める原油輸入金額の割合78%(73年)75%(73年度)15.7%(73年)30.4%(74年)石油備蓄水準民間在庫67日(73年10月末)エネルギー消費の対GDP原単位(73年度を100)出所:文献6、7から作成(78年12月末)(90年12月末)(05年2月末)10085.966.863.1(73年度)(79年度)(90年度)(02年度)周知のように、今後東アジアのエネルギー需要は急速な伸びが見込まれる。文献5によれば、2020年には域内の一次エネルギー消費は約46億石油換算トンに達し、2000年の1.9倍となると予測されている(表1)。この増加量のおよそ半分を中国が占め、中国の一次エネルギー消費は2020年には日本の約3.7倍、東アジア全体の45%に相当するようになる。東アジアのエネルギーセキュリティにとって特に深刻な問題は、原油の域外依存度の上昇である。中国は1993年に原油の純輸入国となったが、今後、東アジア域内の原油生産力は頭打ちとなる一方、モータリゼーションの進展などに伴い需要は大きく伸びていく。その結果、東アジアの石油純輸入は2003年の日量1,440万バレルから、2020年には日量2,550万バレルへとほぼ倍増Aナリシスする見込みであり(文献5)、政治情勢が不透明な中東地域からの原油輸入に、より頼らざるを得ない状況にある。このような東アジアのエネルギーシステムの脆弱性は、将来にわたり、エネルギー需給の逼迫やエネルギー価格の高騰のみならず、東アジア諸国の政治力や経済力の低下、資源ナショナリズムの高揚、エネルギー資源を巡る国際対立の深刻化などをもたらす危険要因となる。ここで日本に目を転じると、70年代の2度のオイルショック以降、政府はエネルギーセキュリティの確保を最優先の政策課題の一つとし、省エネルギーの推進、エネルギー源の多様化、石油備蓄の拡充などに取り組んできた。その結果、日本のエネルギーセキュリティレベルは大幅に改善されたといえる(表2)。大きく貢献しよう。しかし、日本のエネルギー自給率は約5%(原子力を含め20%弱)にとどまっており、エネルギー資源の大半を海外に依存している構造に基本的な変化はない。今後も、日本はアジアの先進国として、また、国際エネルギー市場の恩恵を最も享受している国として、特にアジア諸国と連携しつつ率先してエネルギー危機の回避に努めていくべきである。また、このような努力を日本の安全や繁栄に結び付けていく視点も重要である。特に、日本が有するエネルギー分野の科学技術ストックは、エネルギー危機の回避、日本の国際競争力の向上、東アジアのエネルギーセキュリティ確保に向けた地域的な取り組みにおける日本のプレゼンスの維持・向上に以上の問題意識に基づき、本研究ではシナリオ・プランニングの手法にのっとり、「東アジア全体のエネルギー安定供給の確保」と「科学技術力の活用等による日本の安全・繁栄」の実現(マスタープラン)に対するリスク要因を総合的に分析した上で、特に中国の未来像に着目して二つの危機シナリオを作成した。本研究では、望ましい未来像を想定し、そこに至るまでの道筋を描く規範的シナリオではなく、いわば失敗ケースともいえる危機シナリオを作成することとしたが、それぞれのシナリオに描かれている危機が、エネルギー、科学技術、外交などに関する日本の将来戦略にとっての課題を浮き彫りにすることを期待する。2.シナリオ・プランニングによる東アジアエネルギー危機の分析盧シナリオ・プランニングとは本研究では、手法としてシナリオ・プランニング(文献8、9)を用いている。シナリオ・プランニングは、様々な分野の専門家や立場を異にするステークホルダーによる協働作業プロセスであり、対象とする問題領域の未来に影響を及ぼす要素を総合的に分析し、特に影響度と不確実性が大きい要素に着目して未来世界の可能性を構造化構造化 未来世界 1現在 事象の 分析・ 解釈 未来世界 2 図2シナリオ分岐と複数の未来像し、複数の未来像をシナリオとして記述する手法である(図2)。ことにより、重層的な戦略の構築が可能となる。我々は将来に向けて意思決定をする際、不確実な要素から無意識のうちに目をそらせたり、過去のトレンドを外挿することにより単一の未来像を想定しがちである。確かに、人口動態など高い精度で予測できる事柄もあるが、国際政治・経済情勢、技術革新、人々のライフスタイル・意識などの将来状況を見通すことは不可能である。エネルギー問題もまた然りである。単一の未来像を仮定した意思決定は、その予測が外れた場合のリスクが大きく、情勢の変化への柔軟な対応を阻害することにもつながる。シナリオ・プランニングでは未来を分析するに当たり、我々の問題意識、知識、見通しを一つの構造に基づく未来像に収斂させるのではなく、未来の不確実性、予測の困難さを前提として、未来を分かつ不確実な要素を抽出し、これに基づいて複数の未来像を構築する。未来の可能性を複眼的に理解する本手法は、エネルギー分野を始めとする企業の戦略構築手法として広く用いられてきた。特にロイヤル・ダッチ/シェルグループがエネルギー市場の将来予測などに活用してきた例が有名である(文献10)。我が国においてシナリオ・プランニングをエネルギー分野の問題に適用した例としては文献11、12などがある。盪 東アジアエネルギー危機シナリオ検討会本研究では、エネルギー技術、エネルギー経済、科学技術政策、国際政治、中国、中東などの分野の専門家からなる「東アジアエネルギー危機シナリオ検討会」を設置した。検討会メンバーは、堀井秀之(リーダー、東京大学大学院工学系研究科)、大森良太(サブリーダー、科学技術振興機構)、渥美正洋(世界平和研究所)、氏田博士(エネルギー総合工学研究所)、角和昌2005.11. Vol.39 No.620ツの中国像と東アジアのエネルギー危機 ?「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」?浩(ファシリテーター、日本エネルギー経済研究所)、鈴木達治郎(日本エネルギー経済研究所)、角南篤(政策研究大学院大学)、古川勝久(科学技術振興機構)、三室戸義光(日本エネルギー経済研究所)、寄元政宏(中東経済研究所、現在は中国電力)の10名である。本検討会は、2004年12月から2005年3月の間に計4回のシナリオ・プランニング作業会合を開催した。蘯 問題の設定とマスタープランシナリオ・プランニングを実施するに当たっては、検討対象とする問題の領域を明確化する必要がある。本検討会でははじめに、東アジアのエネルギー危機シナリオを検討する上で、日本として何を危機から守るべきか、何を目的として戦略を構築するべきかについて議論を行った。その結果、以下の二つの問題意識を共有化し、日本が目指すべき基本目標を図3のマスタープランとして表現した。○東アジア地域のエネルギー安定供給確保は日本の安全に資する。日本として守るべきもの、すなわち国民一人ひとりの安全や幸福や豊かさ、その前提となる経済の発展や福祉水準の確保は、東アジア地域の繁栄および平和安定と不可分の関係にあり、地域全体のエネルギー安定供給確保はその基盤である。○エネルギー関連技術は国家的資産であり、日本の安全・繁栄に向けて有効に活用していくことが重要である。日本の有するエネルギー分野の技術および研究開発資源は東アジアのエネルギー危機リスクを低減し、技術や製品の輸出を通じ日本を豊かにし、さらに日本と東アジア諸国の関係を戦略的に構築するための大切な資源であり、これを有効に活用していくことが重要である。これにより東アジア地域全体21石油・天然ガスレビューエネルギー の 安定供給 地域の 平和安定 資源確保のための 共同プロジェクト 省エネ等需要端エネ ルギー技術の移転 対東アジア地域協力推進 東アジア地域の エネルギー/経済/環境 の調和的発展 東アジア地域のエネルギー 安定供給確保は、日本の安 全に資する 日本の繁栄に向け国家的意 思を持って有効に活用すべ き 私 の安全 幸福 豊かさ 主権 国民 国土 経済/ 福祉 エネルギー需要端に対す る安価で安全で、安定的 な供給を確保 日本のエネルギー関連技 術は国際的優位性がある 国家的資産 (例) ・省エネ技術 ・環境技術 ・原子力技術 のエネルギー安全保障に向けた取り組みにおける日本のプレゼンスの維持・向上も図られる。以降、このマスタープランにとってのリスクを総合的に分析し、このプランが達成されないような未来状況をエネルギー危機シナリオとして描くこととした。図4に、危機シナリオ作成までの手順を示す。検討の対象とする期間は2020年頃までとした。対象期間を遠い将来にまで拡張すると、現在における意思決定への含意が不明瞭になる。また、エネルギー危機の定義に関してであるが、文献13はエネルギー安定供給に対するリスクを短期的・偶発的なリスクと、長期的・構造的なリスクに分類している。前者の要因は戦争・軍事紛争、テロ、革命、突発的な事故等であり、後者の要因は特定の供給源(供給者)に過度に依存することから生ずる脆弱性や買い手としての交渉力の弱さ、投資不足などである。本研究ではエネルギー危機をより広義に捉え、このようなリスクの存在、およびその低減に向けた各国の行動の結果生じる国力(経済力、国際政治力など)の低下やエネルギー資源を巡る国際対立などもエネルギー危機として扱った。図3マスタープラン問題の設定とマスタープランの作成 リスク要素の抽出 シナリオ構造の決定 未来世界の分析 危機シナリオの作成 図4シナリオ作成プロセス盻 リスク要素の抽出とシナリオ構造の決定図3のマスタープランに対するリスク要素を抽出するに当たり、盧中国の資源ナショナリズム、盪中国の科学技術体制、蘯地政学・国際関係、盻エネルギーインフラ危機(サプライチェーン)、眈モータリゼーションの進展、眇電力危機、眄原子力事故・核拡散、眩地球環境・気候変動、の八つのカテゴリーを設定した。それぞれのカテゴリーについての主な論点を表3に示す。本検討会では各カテゴリーごとに、現在見えているトレンド、見通しが不確実な点、特に着目すべき点に関する分析を実施した。その結果、我々のマスタープランの実現を大きく左右し、かつ不確実性が高い要素として、表4に\3リスク抽出のためのカテゴリーと主な論点リスクカテゴリー主な論点中国資源ナショナリズム中国科学技術体制地政学・国際関係・経済成長とモータリゼーション・計画経済の制度疲労・地域対立、領海紛争(東シナ海、南シナ海)・海外資源確保・ASEAN諸国への支配力強化・エネルギーマーケットの機能低下・中長期科学技術計画・共産党指導部と科学者との意見対立・3E問題に関する地域間コラボレーション・米中関係・朝鮮半島情勢・中・ロ・韓・朝連合+ASEAN連合・ASEAN諸国の日本離れ・台湾海峡有事・日中間対立の表面化・日本の一国平和主義・中東エネルギーインフラ危機(サプライチェーン)モータリゼーションの進展電力危機原子力事故・核拡散地球環境・気候変動ホルムズ海峡閉鎖にいたる中東戦争、サウジアラビアの政策、イランへの制裁、石油関連施設へのテロ・シーレーン海上輸送増加、マラッカ海峡航行への支障(海賊、テロ)・クリーン自動車普及の停滞・技術開発の停滞・市場自由化―需要急増、投資不足、省エネ困難・超合理的マーケット・事故、安全文化の喪失・廃棄物問題、核燃料サイクル問題・NIMBY、立地問題・北朝鮮の核能力の韓国への移転・主要インフラの脆弱性(テロ、事故、自然災害)・化石資源の価格・京都プロトコル、ポスト京都プロトコル・環境基準表4マスタープランの実現にとって影響が大きく不確実性が高い18の要素中国関連地政学・国際政治関連インフラ・事故・テロ関連科学技術・環境関連・中国がエネルギーセクターに市場メカニズムを導入するか?・中国が資源確保の手段として外国資源を求め続けるか?・中国の科学技術体制に政治課題が大きく介入してくるか?・中国の経済繁栄が国内政治の安定をもたらすか?・中国がGHGs排出削減に向けた国内措置を行うか?・朝鮮半島の地政学的情勢?・ロシア資源の北東アジアへの供給?・米中貿易摩擦?・シーレーン安保を巡る米中間対立?・中東資源輸送ルート確保のために国際協力体制ができるか?・中国の発電設備建設が間に合うか?・深刻な原発事故が発生するか?・東南アジアのテロの規模と頻度?・東アジア諸国の原子力保障措置が十分にとられるか?・日本のエネルギー科学技術の国際的優位性が維持できるか?・ガソリン・ハイブリッド車の普及・自動車の燃費改善度合?・消費者の省エネルギー・環境意識が高まるか?・ポスト京都プロトコルの行方?アナリシス示す18項目が抽出された。ここでは便宜上、項目を「中国関連」、「地政学・国際政治関連」、「インフラ・事故・テロ関連」、「科学技術・環境関連」の四つに分類しているが、これは事後的な括りである。ここではもはや、既に見えているトレンド、例えば「日本で少子高齢化が進展する」、あるいは、「中国・ASEAN諸国でエネルギー需要が伸びる」といった項目は捨象されている。表4に示した項目は、それぞれシナリオ分岐要素の候補となり得るが、その重要性と不確実性を評価し、さらに選別する必要がある。通常、シナリオ・プランニングでは1?3個のシナリオ分岐要素を選定し、これに従って未来世界の可能性を構造化し、数個のシナリオとして表現する。多くのシナリオを作ると、シナリオ間の相違が不明瞭になり、また全体的な解釈も複雑になることから、意思決定ツールとしての価値が失われてしまう危険性があるためである。本検討会では、表4に基づき、未来世界の構造化の仕方について議論した。その結果、マスタープランの実現に当たって最も影響が大きく、また不確実なファクターは「中国の未来像」であると合意し、これを分岐軸として複数のシナリオを構築することとした。実際、表4の18項目のうち、五つは中国に関するものである。なお、シナリオ分岐として、例えば中東情勢、環境意識、技術革新の推移といった中国以外の要素をシナリオ分岐軸とすることもできるし、表3に示したリスクカテゴリーごとに独立した危機シナリオを作成することも可能である。このように、シナリオ構造の選択は唯一のものではなく、参加メンバーの問題意識や見通しに依存する。しかしながら、本検討会では、中国の将来像を軸とするシナリオ構造が、本研究の目的やマスタープランに照らして最も適切であり、良い議論をする2005.11. Vol.39 No.622ツの中国像と東アジアのエネルギー危機 ?「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」?ためのフレームワークを提供すると合意し、これに基づき危機シナリオを作成することとした。また、表4に挙げられている中国関連以外の要素についても、その展開について可能な範囲で危機シナリオに書き込むことにした。なお、エネルギーセキュリティの観点から見た、中東地域や中東シーレーンの有事の影響分析については、文献14などで扱われている。眈 二つの中国像による未来世界の構造化―「国権的中国」と「オープンな中国」前節までの作業に基づき、シナリオの核となる中国の将来像について、表4に示した中国関連の項目を念頭に集中的な検討を実施した。その結果、中国が「統治優先の政治的ロジック」と「経済発展重視の経済的・科学的ロジック」のどちらを優先的に指向していくかという点を分岐として、以下の二つの中国像を形成した。◇統治優先の政治的ロジックに基づく「国権的な中国」◇経済発展重視の経済的・科学的ロジックに基づく「オープンな中国」以後、これら二つの「中国」の将来像について内政、外交、科学技術政策およびエネルギーシステム(エネルギー政策、エネルギー需要と利用効率、エネルギー技術の展開)の観点から詳細に検討し、マスタープランにとっての危機的状況を記述する。表5に二つの「中国」の内政、外交・科学技術政策についての検討結果を示す。これらは網羅的なものではなく、我々が対象としている東アジアのエネルギー危機問題に強く関連する項目を抽出して分析したものである。ここで、両者のポイントについて簡単に述べると(詳しくは次章の危機シ表5二つの「中国」の内政・外交・科学技術政策国権的な中国統治優先の政治的ロジック・国家管理型・市場経済の導入や規制緩和に消極的・農村振興・西部開発重視・地域覇権主義・日米欧に対して戦略的な外交・反日・反米感情の顕在化・軍事力増強・軍によるシーレーン確保・共産党・軍部主導・自前技術開発路線・科学技術は政治に奉仕オープンな中国経済発展重視の科学的・経済的ロジック・市場経済積極導入・規制緩和推進・沿海部大都市発展計画・大衆の意思の政策への影響増大・国際協調主義・西側・国際社会に対してオープン・比較的親日・親米・軍事的影響力への依存度低下・ASEAN諸国への政治的・経済的影響力拡大・国際派テクノクラート主導・外資技術積極導入・先端科学技術による発展重視・R&D分野で国際協調・合作路線内政外交科学技術表6二つの「中国」のエネルギーシステム盧エネルギー政策国権的な中国オープンな中国・国内エネルギー価格を政策的にコン・エネルギーセクターに市場メカニズムトロール積極導入・エネルギー自給力重視・積極的上流投資・海外資源確保・中ロ間および中国国内に大規模天然ガス・原油パイプライン建設・個人より国家重視から環境対策に遅れ・地球温暖化対策に消極的・エネルギー価格は国際市場価格とリンク・国際エネルギー市場の機能を信頼・エネルギー効率重視・国際協調による中東シーレーン確保・人権意識が高まり環境対策進展・CDMなど地球温暖化対策に前向き盪エネルギーの需要と利用効率国権的な中国オープンな中国・エネルギー需要増加に歯止めがかからず・特に電力と運輸部門の伸びが顕著・低エネルギー効率・電力不足や停電リスクの慢性化・エネルギー利用効率が改善・市場価格機能によるエネルギー需要の抑制効果・先端エネルギー技術の導入によるエネルギー需要の抑制効果蘯エネルギー技術の展開国権的な中国オープンな中国・旧式石炭火力の効率改善や脱硫・脱硝技術の普及・大規模集中型電力技術(石炭、原子力、水力)の拡大・国産原子力技術の開発・農村振興のための再生可能エネルギーの導入・省エネルギー技術の導入・普及・先進クリーンコールテクノロジー、革新的原子力システム、ハイブリッド自動車、燃料電池などの先端技術の実用化に向けた取り組み・オンサイト電源の普及・送配電ネットワーク制御技術高度化ナリオ原文を参照されたい)、「国権的な中国」は政治的安定性を重視し、国家管理型の政策を推進する。自由市場経済メカニズムや規制緩和の導入には抑制的なスタンスをとる一方、地域格差の解消が重要な内政課題となり、農村や西部地域の開発に注力していく。外交的には、地域覇権主義的な色彩を23石油・天然ガスレビューュめ、日米欧に対し戦略的な外交を展開する。反日・反米感情も顕在化しやすい。科学技術政策に対しては、共産党・軍部の意向が強く反映され、また自前技術開発路線が推進される。一方、「オープンな中国」は市場経済メカニズムの導入や規制緩和を積極的に推進していく。また、大衆の意思が政治的プロセスに反映される度合いも増していく。外交的には国際協調を重視し、西側・国際社会にオープンな姿勢をとり、ASEAN諸国とも政治的・経済的結び付きを強めていく。国際派テクノクラートが科学技術政策を主導し、外資技術の導入や先端科学技術開発に積極的に取り組んでいく。次に、以上の二つの「中国」の基本的性格を踏まえた上で、それぞれのエネルギーシステムの状態について、エネルギー政策、エネルギー需要と効率、エネルギー技術の展開の観点から検討した。結果を表6に示す。詳細については次章の危機シナリオ原文で記述されるため、ここでは説明を省略する。ここで二つの「中国」の関係について述べておく。本節で示した二つの中国像は、我々の関心事である東アジアのエネルギー危機に関する議論にとって最も有効なフレームワークを提供し得るとして設定したモデルである。それぞれのモデルはやや極端な状態ではあるが、この両者をあわせて考えることにより、中国の未来社会についての複眼的理解が可能となる。今後も、中国からはそれぞれのモデルの性格を担ったメッセージが発せられていくであろう。例えば、国権的な中国にしても、規制緩和やエネルギー効率重視の政策を全く採用しないということはありえない。我々は、「国権的な中国」と「オープンな中国」という二つの「中国」が並存しているといアナリシスう認識に立つ。現在の中国は中国共産党による計画経済体制が維持されつつ、その外側に民間ビジネス経営者たちが市場経済を作り出している。「国権的な中国」と「オープンな中国」はこれからも2020年に至るまで並存し続けるであろう。いずれかの「中国」のイメージを担った対外メッセージが強まる時期もあろうが、その時期にも、もう一方の「中国」も無くならずに存在している。大きな流れとしては、「国権的な中国」から「オープンな中国」に徐々に移行しているというのが、現時点での一般的な見方かもしれないが、これはあくまでも近年のトレンドから得られる仮説であって、2020年頃にかけ、どちらの「中国」が支配的となるかは予見できない。3.危機シナリオ――「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」前章で分析した「国権的な中国」および「オープンな中国」からは、それぞれマスタープランに対する重大な危機の可能性が導かれる。本研究ではこれらの危機の展開を、それぞれ「資源争奪シナリオ」、「極東の島国シナリオ」として叙述した。以下、各シナリオの原文を示す。また、図5に各シナリオの骨子を示す。盧 資源争奪シナリオ(国権的な中国)中国政府は、政治体制の安定を第一とする統治優先のロジックに基づき、国家管理型の政策を指向していく。地域格差や三農問題が重要な内政課題として位置付けられ、農村の振興や西部開発に多くの資源が投入される。既得権益が保護されていく一方、市場経済の導入や規制緩和のペースは鈍化する。大衆の政治参加も制限される傾向が続く。対して、西側諸国からの技術移転は停滞する。結果として技術イノベーションは低い水準にとどまる。また、地域覇権主義的な傾向を強め、日米欧に対し戦略的な外交を展開する。反日・反米感情もしばしば表面化する。軍事力の強化・近代化に注力し、周辺諸国や中東シーレーンへの軍事的影響力を高めていく。このような中国に対して西側諸国は不信感を高める。共産党や軍部の意向が科学技術政策に強く反映される。その結果、農村や地方の発展、および、軍事転用に結び付く科学技術課題への政府投資が優先的になされていく。海亀派と呼ばれる欧米帰りの研究者が、科学技術研究開発の中心的な役割を担っていくが、中長期の科学技術計画や研究開発体制は政治的影響を受けやすい。特にエネルギーなどの基幹技術分野においては、自前技術開発路線を指向する。このような一国主義的な中国に巨大な内需に支えられた経済は成長を続け、エネルギー消費も急増していく。国内のエネルギー価格は政策的に抑制され、エネルギー消費の伸びに拍車をかける。省エネルギーや都市・地球環境改善のための政策や新技術の導入は遅れ、エネルギー利用効率の向上は進まない。特に需要の伸びが著しいのは、電力と自動車用燃料である。中国政府は電力供給力を拡大するために、石炭、原子力、水力などの大規模集中型発電プラントや送電ネットワークの建設を進めていく。しかし、最も電力需給がタイトな華東地域では、発電所の建設が追いつかず、電力不足や停電の危機が続く。一方、国民所得の向上は急速なモータリゼーションの進展をもたらす。2005.11. Vol.39 No.624ツの中国像と東アジアのエネルギー危機 ?「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」?2010年代には自動車保有台数が1億台を突破するが、それでも先進国の平均的な自動車普及率に比べかなり低い水準である。政府や国民の省エネルギー・環境意識は高まらず、ガソリンハイブリッド自動車の普及は進まない。この他、旧式石炭火力発電プラントの高効率化技術や脱硫・脱硝技術、原子力発電技術、農村振興に向けたバイオエネルギーや風力などの再生可能エネルギー技術などが積極的に導入される。また、原子力発電に関しては、毎年数基の新規プラントが建設されていく一方で、それらの安全管理体制に対して国際的な懸念が高まっていく。世界のスーパーパワーたらんとする中国は、国際エネルギー市場への依存を嫌う。経済性を二の次としたエネルギー自給力の拡大を進め、西部資源開発や大規模な原油・天然ガスパイプライン建設などの上流投資を積極的に実施する。さらに海外資源の確保に向け、中東やアフリカ諸国に対し活発なエネルギー外交を展開していくが、中国が独裁的もしくは人権に相応の配慮を払わない政権との関係を強めていくことに、西側諸国は警戒感を高めていく。さらに日本、フィリピン、マレーシア、ベトナムとの間では、東シナ海や南シナ海の資源の領有権を巡り対立が深刻化していく。このような上流投資も、エネルギー需要の伸びには追いつかない。2020年、中国の総エネルギー需要は20億石油換算トンを超え、日本の約4倍となる。特に原油については約3/4を輸入に依存し、その輸入量は日本の約2倍となる。また、ASEAN諸国の経済成長も国際原油市場の需給逼迫に拍車をかける。東アジア地域の中東産原油依存度は上昇を続け、エネルギーシステムの脆弱性が一層顕著となっていく。中国の供給重視のエネルギー政策および国内外の資源確保に向けた資源ナショナリズム的な行動は、国際エネルギー市場の機能を低下させるとともに、他国の同様な行動を誘発してしまう。各国は、いわば一国主義的なエネルギー安全保障政策に追い込まれ、自らがエネルギー資源を確保する効用に対して、過大な期待感を抱き続ける。一方、東アジアにおける国際的なエネルギー機関や市場の創設、資源輸送ルートの確保、石油共同備蓄などに向けた国際協調的な取り組みに進展は見られない。以上の結果、東アジアのエネルギーシステムの脆弱性はさらに深刻化し、同地域の安全と繁栄が脅かされていく。エネルギー需要の増大にブレーキがかからず、多額のエネルギーインフラ投資がなされるにもかかわらず、エネルギー価格は高値安定で推移する。原油の中東依存度は上昇し、エネルギー供給支障リスクは高まり、さらに資源や中東シーレーンの確保を巡る国際対立が深刻化していく。盪 極東の島国シナリオ(オープンな中国)中国政府は経済発展を第一とする科学的・経済的ロジックに基づき、国際社会に対してオープンな政策を指向していく。政府は市場の効率化、規制緩和、外資導入、沿海部大都市発展計画に積極的に取り組んでいく。過熱気味であった国内経済も地域格差、国有企業改革、失業、不良債権などの問題を克服し、ソフトランディングに成功する。また、国民個人の政治的・経済的自由を尊重し、大衆の政治参加に対しても寛容な姿勢をとる。西側諸国と協調的な外交を展開し、国際的なレジームにも積極的に参加していく。反日・反米感情は顕在化せず、東アジアにおける日本のリーダーシップに対しても一定の範囲内で容認する姿勢をとる。軍事的潜在能力は高まっていくが、その影響力を国際社会に対して行使する意思は低下する。ASEAN諸国とはFTA協定の締結などを進めるなど、経済的依存関係を深めていく。国際派テクノクラートが科学技術政策を主導していく。彼らの多くは欧米帰りの研究者であり、国際的な人的ネットワークを生かして、西側諸国との共同研究開発プロジェクトを推進する。政府も先端技術開発の重要性を認識し、公的研究投資を拡大していく。自前技術開発にはこだわらず、効率性や経済性を重視し、外資技術を積極的に導入する。エネルギーセクターに市場原理が導入される。低廉な水準に抑えられていたエネルギー価格は国際市場価格とリンクして上昇していくものの、中国経済にとって大きな足枷とはならない。長期的には、エネルギー価格に対する市場メカニズム機能が過度のエネルギー消費を抑制し、またエネルギー利用効率の向上を促進していく。また、政府、企業、国民の各層で環境意識が高まり、大気汚染や地球温暖化の防止に向けた政策が積極的に実施される。一方、高コストな大規模資源開発やエネルギーインフラ建設は抑制される。外国企業は中国への投資や技術移転を活発化させる。エネルギー分野においても省エネルギー、ガソリンハイブッド自動車、原子力発電、再生可能エネルギー、分散電源、電力ネットワーク制御などに関する技術移転が進展する。また、中国政府は燃料電池システム、革新的原子力システム、クリーンコールテクノロジーなどの先端エネルギー技術の研究開発・実用化に関して国際協調路線を展開する。このようなオープンな中国への市場参入や技術移転、さらには国際的な技術標準の策定プロセスにおける主導権確保を巡り、グローバルな競争、特に日米欧間の競争が激化する。また、中国の科学技術水準も分野によっては日25石油・天然ガスレビュー搦。優先の 統治優先の 政治的ロジック 政治的ロジック 経済発展重視の 経済発展重視の 科学 的・ 経済的ロジック 科学 的・ 経済的ロジック 国権的な中国 国権的な中国 オープンな中国 オープンな中国 国家管理型 国家管理型 個人より国家重視 個人より国家重視 農村振 興・ 西部開発 農村振 興・ 西部開発 地域覇権主義 地域覇権主義 日米欧に対し戦略的な外交 日米欧に対し戦略的な外交 軍事力増強 軍事力増強 共産 党・ 軍部主導 共産 党・ 軍部主導 自前技術開発路線 自前技術開発路線 科学技術は政治に奉仕 科学技術は政治に奉仕 国内エネルギー価格規制 国内エネルギー価格規制 エネルギー自給力を重視 エネルギー自給力を重視 上流投 資・ 海外資源確保 上流投 資・ 海外資源確保 環境対策に遅れ 環境対策に遅れ 旧式石炭火力の改良 旧式石炭火力の改良 国産原子力技術の開発 国産原子力技術の開発 大規模集中型発電所 大規模集中型発電所 地域振興のための再生可能 地域振興のための再生可能 エネルギー エネルギー 資源争奪 資源争奪 シナリオ シナリオ 内政 内政 外交 外交 科学技術 科学技術 エネルギー・ エネルギー・ 環境政策 環境政策 エネルギー技術の エネルギー技術の 開発・導入 開発・導入 市場経 済・ 規制緩和 市場経 済・ 規制緩和 大衆の意思を尊重 大衆の意思を尊重 沿海部発展重 視・ 地域格差 沿海部発展重 視・ 地域格差 国際協調主義 国際協調主義 西側に対しオープン 西側に対しオープン 中国・ASEAN経済ブロック 中国・ASEAN経済ブロック 国際派テクノクラート主導 国際派テクノクラート主導 外資技術積極導入 外資技術積極導入 先端科学技術による発展 先端科学技術による発展 市場メカニズム導入 市場メカニズム導入 国際エネルギー市場を信頼 国際エネルギー市場を信頼 エネルギー効率重視 エネルギー効率重視 環境対策に積極的 環境対策に積極的 省エネ・環境調和技術の普及 省エネ・環境調和技術の普及 (→ハイブリッド車など) (→ハイブリッド車など) 先端技術の研究開発・実用化 先端技術の研究開発・実用化 (→燃料電池、革新的原子力、 (→燃料電池、革新的原子力、 クリーンコールなど) クリーンコールなど) 極東の島国 極東の島国 シナリオ シナリオ 東アジアの原油中東依存度上昇 東アジアの原油中東依存度上昇 資源ナショナリズムの高揚 資源ナショナリズムの高揚 資源やシーレーンを巡る国際対立 資源やシーレーンを巡る国際対立 国際エネルギー市場の機能低下 国際エネルギー市場の機能低下 エネルギーインフラ危機(事故・テロ) エネルギーインフラ危機(事故・テロ) 中国市場を巡る国際競争激化 中国市場を巡る国際競争激化 日本の科学技術力の国際的優位性喪失 日本の科学技術力の国際的優位性喪失 (少子高齢化、経済停滞、R&D費減少) (少子高齢化、経済停滞、R&D費減少) 日本のエネルギー政策の孤立化 日本のエネルギー政策の孤立化 日本の東アジアにおけるプレゼンス失墜 日本の東アジアにおけるプレゼンス失墜 図5二つの「中国」と危機シナリオの骨子本を凌駕するようになる。2020年以降の日本には少子高齢化や財政悪化が重くのしかかる。経済成長は東アジア諸国の中で低い水準にとどまる。官民の研究開発投資、特に先進国の中でも高水準にあったエネルギー研究開発投資の減少が顕著となる。この結果、日本のエネルギー分野を始めアナリシスとする技術の国際競争力は低下し、中国および世界への技術輸出、および国際標準獲得において欧米に遅れをとっていく。日本においては、人口の緩やかな減少やさらなる省エネルギーの推進によりエネルギー消費の伸びは小さい。また、GDPに占めるエネルギー資源輸入額の割合は低く、この意味においては効率的かつエネルギー価格の変動に対して強靭なエネルギーシステムを構築していると言える。しかし、一次エネルギー供給の約8割を占める化石資源のほぼ100%を海外に依存し、特に原油は中東頼みという脆弱な状況は根本的に解決されないままである。中国の東アジア地域でのプレゼンス拡大に伴い、ASEAN諸国は政治的および経済的に対中国依存度を高めていく。その一方、経済力や科学技術力を基盤としていた日本の東アジアにおけるプレゼンスは低下していく。その結果、東アジア地域のエネルギー安全保障確保に向けた国際的取り組み、すなわちエネルギー市場の整備、革新的エネルギー技術の研究開発・導入、中東シーレーン確保、原油・天然ガス・電力などの国際的パイプライン建設プロジェクトなどに関する日本の影響力も失われていく。資源小国日本は、これまで以上に単独で自国のエネルギー安全保障確保に取り組まざるを得ない状況に追い込まれていくが、手段と効果は限定的なものとなっていく。4.まとめ――危機シナリオの回避に向けて本研究では、シナリオ・プランニングの手法にのっとり、「東アジアのエネルギー安定供給」および「科学技術力の活用等による日本の安全・繁栄」という目標に対するリスクを多面的に検討し、中国の将来像をシナリオ軸として二つの危機シナリオを作成した。すなわち、統治優先の政治的なロジックを優先する「国権的な中国」と経済発展重視の経済的・科学的ロジックを優先する「オープンな中国」という二つの中国像を形成し、それぞれから「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」を作成した。「資源争奪シナリオ」では、歯止めのないエネルギー需要の増大や中東産原油への依存度上昇など、東アジアのエネルギーシステムのさらなる脆弱化、資源ナショナリズムの高揚、国際エネルギー市場の機能低下、資源やシーレーンを巡る国際対立などが顕在化する。2005.11. Vol.39 No.626ツの中国像と東アジアのエネルギー危機 ?「資源争奪シナリオ」と「極東の島国シナリオ」?一方、「極東の島国シナリオ」では、グローバルな競争の激化、日本の科学技術力の優位性や産業の国際競争力の低下、東アジアにおけるエネルギーセキュリティ確保に向けたリージョナルな取り組みへの影響力低下、日本のエネルギー政策の孤立化などが顕在化する。最後に、主にエネルギー科学技術分野に焦点を当て、二つのシナリオに描かれた危機の回避に向けたインプリケーションについて検討する。資源争奪シナリオで描かれた危機の回避に向け日本が成し得ることは、第一に各国が資源ナショナリズムへ向かう誘因を低減するための技術開発であろう。具体的には、省エネルギー技術、原油代替技術、化石資源の環境調和型利用技術などが主要な開発ターゲットとなるが、特に燃料をほぼ100%石油に依存している運輸部門の高効率化、脱石油化は原油需要抑制の切り札であり、現在、普及が進みつつある高効率のガソリンハイブリッド車に加え、中長期的な視点からは燃料電池自動車や電気自動車などの開発・普及が期待される。また、このシナリオで描かれたような一国主義的あるいは地域覇権的な中国に対し、日本はどのように対応すべきかといった問題は外交戦略上の難しい問題も孕むが、省エネルギー技術や原子力安全技術など日本の優れたエネルギー技術の中国への移転は、日中双方にとって有益であり、また、東アジア地域全体のエネルギーセキュリティの確保、ひいては地域の安定・平和に大きく貢献しよう。一方、極東の島国シナリオで描かれた危機を回避するためには、日本の国際的な競争力とプレゼンスを維持することが、東アジア地域におけるエネルギー問題の解決に向けた国際的イニシアティブに対する影響力を確保する観点から重要となる。このためには、エネルギー政策や科学技術政策のみならず、外交政策や産業政策なども含め総合的な取り組みが必要となる。エネルギー分野に関連する方策に絞って考えると、アジアにおけるエネルギー技術先進国としての地位を確保するための最先端技術開発およびエネルギーシステムのさらなる効率化、欧米との競争を勝ち抜き東アジア諸国へのエネルギー技術の移転を拡大していくこと、戦略的な共同研究開発や技術移転など科学技術ストックを外交カードとして活用すること、国際派テクノクラートの育成などが挙げられよう。東アジアのエネルギーシステムの脆弱性は、今後さらに深刻化していく。このような状況は、日本の安全にとっても脅威である一方、先端技術開発や27石油・天然ガスレビューAナリシス技術移転によって日本の国力や国際的プレゼンスを高める機会ともなり得る。本研究では「国権的な中国」と「オープンな中国」という二つの中国像を構築したが、今後どちらが現実化していくか、予見は困難である。我々は両者の可能性を考慮しつつ、重層的な戦略を構築していく必要があろう。昨今、世界のエネルギー情勢はますます複雑化している。シナリオ・プランニングは、過去のトレンドに拘束されがちな我々の視野を広げ、我々が関心を寄せる将来世界の可能性を示し、不確実な未来に対する適切な意思決定を支援する。今回の研究が、日本や東アジアが直面しているエネルギー危機への関心を高める一助となれば幸いである。引用文献1.ケント・カルダー:アジア危機の構図, 日本経済新聞社, P.31(1996)2.金子熊夫:日本の核・アジアの核, 朝日新聞社(1997)3.坂本吉弘他:エネルギー、いまそこにある危機, 日刊工業新聞社(2002)4.石井彰、藤和彦:世界を動かす石油戦略, ちくま新書(2003)5.田辺靖雄編著:アジアエネルギーパートナーシップ,エネルギーフォーラム(2004)6.林良造:エネルギーセキュリティについて,エネルギー・資源学会第26回特別講演,2005年6月9日,東京(2005)7.省エネルギーセンター:省エネルギー便覧2004年度版8.ピーター・シュワルツ:シナリオ・プランニングの技法,東洋経済(2000)9.キース・ヴァン・デル・ハイデン他:入門シナリオ・プランニング,ダイヤモンド社(2002)10.Shell International, Scenarios : An Explorer's Guide (2003) http://www.shell.com/static/royal-en/downloads/scenarios_explorersguide.pdf11.構想日本エネルギー戦略会議:シナリオ・プランニング手法による日本のエネルギー戦略?2030年に向けての政策提言?, 電気協会報学会誌, 平成13年9月号, p.14-18(2001)12.総合資源エネルギー調査会需給部会:2030年のエネルギー需給展望, p.56-78(2004)13.経済産業省資源エネルギー庁:エネルギー白書(2004)14.総合資源エネルギー調査会総合部会:エネルギーセキュリティーワーキンググループ報告書(2001)著者紹介大森 良太(おおもり りょうた)東京都出身。東京大学工学部卒業、同大学院修了、博士(工学)。東京大学工学系研究科講師、文部科学省科学技術政策研究所主任研究官を経て、現在は科学技術振興機構社会技術研究開発センター研究員。社会技術、科学技術動向、原子力、レーザー応用に関する研究に従事。著書「水素エネルギー最前線」(2003)(分担執筆)。趣味は読書、旅行、ゴルフ。2005.11. Vol.39 No.628 |
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