ページ番号1006200 更新日 平成30年2月16日

重要性増す機動的備蓄石油放出 ~ 05 年 9 月ハリケーン被害時放出の評価と展望~

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レポートID 1006200
作成日 2006-01-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 備蓄
著者
著者直接入力 須藤 繁
年度 2006
Vol 40
No 1
ページ数
抽出データ アナリシス財団法人国際開発センター主任研究員sudo.s@idcj.or.jp須藤 繁重要性増す機動的備蓄石油放出?05年9月ハリケーン被害時放出の評価と展望?2005年8月下旬、米国メキシコ湾岸を直撃したハリケーン「カトリーナ」の影響で、9月に入ると米国ガソリン価格(小売、レギュラー)は一時3ドル/ガロン(1ガロン:約3.8リットル)を上回る水準に上昇した。供給不足を一因とするガソリン価格の上昇に対処するため、米エネルギー省は9月2日、戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserve)から1,200万バレルの原油を民間石油会社にリースするとともに、3,000万バレルの原油を市場に売却すると発表した。また、国際エネルギー機関(IEA)は同月2日、加盟26カ国が石油備蓄から200万バレル/日の石油を30日間、市場に放出する協調行動を取ることを決めた。これらの措置の発表後、2日のWTI(West Texas Intermediate)は67.57ドル/バレルと、前日より1.90ドル下げ、その後、一進一退を繰り返した後、徐々に価格は下落した。このことから、投機筋に対する一定の牽制的効果があったとみる者が多い。本稿においては、米国ハリケーン被害の影響、戦略石油備蓄の放出、IEA加盟国の協調的対応を概観しながら、今次の備蓄放出の効果を検証し、今後の備蓄放出政策の意義を考察する。1.米国ハリケーン被害の概況米国メキシコ湾岸を直撃したカトリーナの影響で、ルイジアナ州とミシシッピ州の多くの製油所が操業を停止し、一部に大きな被害を生じた。このため、ガソリン価格は一時3ドル/ガロンを上回る水準に上昇した。こうしたガソリン価格の上昇に対処するため、ブッシュ大統領は9月1日、便乗値上げに警告するとともに、被災地での略奪行為は容赦なく処罰すると発表した。また、ボドマン・エネルギー省長官は2日、戦略石油備蓄(SPR)から3,000万バレルの原油を市場に売却するとともに、1,200万バレルの原油を民間石油会社にリースすることを発表した。この措置の目的は、ハリケーン被害を受けたメキシコ湾岸の原油生産減の影響を緩和することだった。盧 原油生産への影響カトリーナの襲来により、メキシコ湾の原油生産量の総生産量の90パーセ表1石油・天然ガス産業におけるメキシコ湾の位置原油生産量(単位:百万バレル/日)精製能力量原油輸入量天然ガス(10億立方フィート/日)メキシコ湾1,5628,06864910.4全米計5,48817,00610,75354.1対全米シェア28.5%47.4%60.4%19.2%出所:エネルギー省、数値は2005年6月(ただし、精製能力は2005年初現在)ントが停止した。内務省鉱物資源管理部は9月1日、カトリーナの被害を以下のように発表した。方フィートの1.153パーセント)減少した。・生産量の減少の原因は、油田操業従・原油生産は135.6万バレル/日(メキシコ湾の総生産量の90.43パーセント)が停止した(通常の原油生産量は150万バレル/日)。・天然ガス生産は79億立方フィート/日(同78.66パーセント)が停止した(通常の天然ガス生産量は100億立方フィート/日)。・8月31日時点で、原油生産量は744万1,566バレル(メキシコ湾の年間総生産量5億4,750万バレルの約1.359パーセントの減少、天然ガスについては421億立方フィート(同3兆6,500億立業員の避難によるものである。また、ルイジアナ州アレキサンドリアの米国沿岸警備隊エネルギーセンターは9月1日、「航空機による調査で、リグ(探削装置)が沈んでいたり、流されていることが判明したが、それによる石油産業への影響については現時点では把握できない」と発表した。メキシコ湾での石油生産は、総延長3万3,000マイル(約5万3,000袰)にもわたる海中パイプラインに依存している。昨年9月に襲来したハリケーン「アイバン」の時には、40フィート(約12メー1石油・天然ガスレビューAナリシス%1009080706050403020001操業停止油田 左軸油田操業率  右軸9月7日9月12日9月15日9月20日9月23日9月26日9月29日10月4日10月13日10月7日10月18日10月21日10月26日10月31日11月3日11月14日11月8日11月17日11月22日%1009080706050403020001百万立方フィート/日10,0009,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,00008月29日9月1日操業停止ガス田 左軸ガス田操業率   右軸9月7日9月12日9月15日9月20日9月23日9月26日9月29日10月4日10月7日10月13日10月18日10月21日10月26日10月31日11月3日11月8日11月14日11月17日11月22日出所:DOE/EIA“Daily Report on Haricane Impacts on the US Oil &Natural Gas Markets”より筆者作成図2メキシコ湾ガス田の操業状況の推移損害をもたらした。しかし今回、カトリーナにより最大の被害を受けたのは下流部門の諸施設であり、ガソリン価格等への影響はアイバンよりも長期間にわたるものと予想された。2005年、被害をもたらしたのはハリケーンそのものでなく、その後の洪水であった。したがって、まず水が引くのを待って、精製施設の点検を行う必要がある。このため、被害を受けた製油所の操業が回復するまでには、少なくとも数週間の期間が予想された。今回、ハリケーンによる直接の被害を受けていないにもかかわらず、一部製油所が処理量を落とさざるを得なかった理由は、沖合油田での生産原油を製油所に輸送するパイプライン(Capline)と、輸入原油の荷揚げ港であるLOOP(Louisiana Offshore Oil Port)が8月28日に操業を停止し、その後も破損や電力供給不足により修復が遅れたことによるところが大きい。また、メキシコ湾岸の製油センターと消費地を結ぶ、2本の幹線石油製品パイプライン(コロニアル・パイプライン:能力240万バレル/日とプランテー2006.1. Vol.40 No.12出所:DOE/EIA“Daily Report on Haricane Impacts on the US Oil &Natural Gas Markets”より筆者作成図1メキシコ湾油田の操業状況の推移千バレル/日1,6001,4001,2001,00080060040020008月29日9月1日トル)ほど積もった泥や沈殿物により、パイプラインネットワークの数カ所が破損、その修復に数日間の復旧期間がかかった。今回のカトリーナでも、同様の問題が起こることが予想された。またアイバン襲来時、沖合プラットホームのいくつかが被害を受け、多くのリグが操業停止の状態に陥ったが、カトリーナでも同様の問題が起こることが併せて予想された。その後のメキシコ湾油田およびガス田の操業状況は、図1および図2に示す通りである。これによれば、メキシコ湾油田の操業率は、9月下旬には10パーセント以下に低下、11月下旬時点でも操業率は60パーセント台にも回復していない。また、天然ガス田の操業率は、9月下旬に30パーセント以下に低下した後、徐々に回復し、11月末時点には70パーセント程まで回復した。しかし、産業界によれば、ハリケーン被害の影響は、既存油・ガス田の操業への影響のみならず、新規油・ガス田の操業開始時期の遅れや新規プロジェクトの操業コスト等へ大きな影響を及ぼすとみられる。石油専門誌は、2006年(通期)の原油生産量においても約25万バレル/日の減少効果が見込まれるとしている。盪精製部門への影響カトリーナの影響で、メキシコ湾岸では8カ所の製油所が閉鎖され、1カ所が処理量を落として操業を継続した。8カ所の製油所の精製能力は約200万バレル/日(全米総精製能力の約12パーセント)、約100万バレル/日のガソリンを生産している。通常は、米国内での原油生産量が減少しても輸入原油により代替されるが、石油製品に関しては、精製設備能力が世界的に不足しているため、短期間で代替供給を得ることは困難である。2004年のハリケーン・アイバンは、メキシコ湾岸の石油生産地域に重大なd要性増す機動的備蓄石油放出 ?05年9月ハリケーン被害時放出の評価と展望?ション・パイプライン:同62万バレル/日)も、停電により29日に輸送を停止した。ただし、両パイプラインは操業運転を順次再開し、コロニアル・パイプラインは既にフル稼働しており、プランテーション・パイプラインも6日には、製品が供給され次第フル稼働状態に移行する、と発表した。表2に、カトリーナおよびその約20日後に襲来して被害を拡大させた「リタ」による、それぞれの被害状況を示す。2.米国政府の対応盧戦略石油備蓄(SPR)の放出米国エネルギー省は8月29日、民間石油企業へのSPR原油の貸し出しについて検討を開始した。翌30日には石油会社からSPR原油借り入れの申請を受け付け、31日には3社を対象として放出を承認した旨を発表した。貸し出し量は、プラシッド・リファイニングに対して100万バレル、エクソンモービルに対して600万バレル、バレロに150万バレルの、合計850万バレルであった。9月2日にはさらに、BPに対する200万バレルとマラソンへの150万バレルが追加された(表3)。盪米国エネルギー政策法の成立今回の対応とは直接関係ないが、ハリケーン被害の過程で、今後の米国のエネルギー産業動向に大きな影響を及ぼすエネルギー政策法が成立しているので、ここでポイントを見ておくことにしたい。米国では、4年間議会で審議された包括エネルギー法案が下院、上院で相次いで可決され、8月8日に成立した(法3石油・天然ガスレビュー表2ハリケーン被害を受けたメキシコ湾岸立地製油所カトリ?ナにより被害を受けた製油所能力製油所名会社名(千バレル/日)エクソン(Exxon)コノコフィリップス(ConocoPhillips)マーフィーオイル(Murphy Oil)シェブロン(Chevron)シャルメット(Chalmette)ベルシャセ(Belle Chasse)メロー(Meraux)パスカグラ(Pascagoula)190247120325リタにより被害を受けた製油所会社名製油所名能力(千バレル/日)BPカルカシュ(Calcasieu)シトゴ(Citgo)コノコフィリップスコノコフィリップステキサスシティ(Texas City)レークチャールズ(Lake Charles)ウエストレーク(Westlake)スウィーニー(Sweeny)レークチャールズ43732316229250リタにより被害を受けた製油所(続き)会社名製油所名能力(千バレル/日)アストラ(Astra)エクソンエクソンライオンデル・シトゴ(Lyondell-Citgo)マラソン(Marathon)モティバ(Motiva)シェル(Shell)トタール(Total)バレロ(Valero)バレロバレロパスカグラベイタウン(Baytown)ビューモント(Beaumont)ヒューストン(Houston)テキサスシティポートアーサー(Port Arthur)ディアパーク(Deer Park)ポートアーサーポートアーサーテキサスシティヒューストン1005573492707228533423425521083出所:IEA Oil Market Report(2005年10月号)より筆者作成表3戦略石油備蓄の放出対応形態放出先貸し出し(リース)売却プラシッド・リファイニングエクソンモービルバレロBPマラソン入札により決定放出量100万バレル600万バレル150万バレル200万バレル150万バレル計3,000万バレル日程8月31日承認8月31日承認8月31日承認9月2日承認9月2日承認9月6日売却開始律名はエネルギー政策法:EnergyPolicy Act)。同法律はブッシュ大統領のエネルギー政策を具体化するものであり、同法のポイントとしては、油田・ガス田新規開発の促進、製油所の増強、送電効率の向上推進、原子力発電所の新設の再開、水素エネルギーの技術開発の促進等が挙げられる。法案成立の背景には、国内供給力が弱体化し、海外石油依存度が大きく上昇していることが挙げられる。下院通過の時点でマクレラン米大統領報道官が、「この法案で米国の海外石油への依存度(約60パーセント)を減らすことができる」と、法案成立の意義を強調したことからも、そのことはうかがえる。予算面では、国内の油田・天然ガス田や新エネルギーの開発促進のために、エネルギー企業に対する減税措置やエネルギー節約を促すため、今後10年間に総額145億ドル(約1.6兆円)の予算措置が打ち出され、製油所の増強、送電施設の更新、原発の新設、水素エネルギーの技術開発促進などにも優遇税制が適用されることになった。法案の可決に向けて両院の調整に尽力したドメニチ上院議員は、法案可決後の記者会見で「この法律には、明日のガソリン価格を引き下げる力はないが、5年、10年と経つうちに、きっと役に立つときが来る」と述べたが、法律の性格を正確に指摘している。今回の法案成立には、7月14日から始まった両院協議会で、かねてから調整ェ困難視された懸案条項を事前に削除、調整を行ったことが大きく貢献した。削除された条項の中には、最大の争点であった、漓ガソリン添加剤であるメチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(MTBE)の免責条項、滷北極圏野生動物保護区(ANWR)における石油・天然ガス開発の解禁、澆発電所に対する再生可能エネルギー使用基準(RPS)、潺2015年における石油需要の100万バレル/日削減等が含まれている。これらのうち、漓と滷は上院可決が危ういと評価された条項であり、澆と潺は下院決議が危ういとみられていた条項である。エネルギー政策法は成立したが、同法にはガソリンの市況沈静効果を期待することはできない。米国のガソリン小売価格(レギュラー、全米平均)は、3.IEAの対応国際的には、IEAが9月2日、加盟26カ国が石油備蓄から200万バレル/日(月間6,000万バレル)の石油を30日間市場に放出する協調行動を取ることを決めた(表4)。IEAの備蓄緊急放出は、1991年1月の湾岸戦争時以来、14年ぶりのことである。IEAは2日に発表した声明の中で「メキシコ湾岸での原油生産の損失と石油精製施設、輸送インフラの損害は、深刻な石油供給の途絶をもたらす」とし、本措置は加盟国が保有する石油備蓄から市場に供給し、ハリケーン被害で米国が失った150万バレル/日相当の産油能力と、200万バレル/日相当の石油精製能力の一部を補うことを目的とするとした。またOPECでは、サウジアラビアのナイミ石油相が8月29日、「原油供給の不足を補うため同国の原油生産量を1,100万バレル/日へ拡大する用意がある」と言明した。また同日、サバーハOPEC議長(クウェートエネルギー相)アナリシス8月15日に2ドル55セント/ガロンまで上昇し、9月8日にはさらに3.08ドル/ガロンに上昇した(図3)。ガソリン価格に引っ張られて原油相場が上昇、高止まりするという展開は2005年夏も顕著であった。セント/ガロン350300250200150100505/14 171.312/17 105.9(31円/褄)3/1712/9 136.09/5 306.9(89円/褄)5/24206.4(71円/褄)4/181/3 177.8ガソリン小売価格02001年1月2002年1月2003年1月2004年1月2005年1月出所:DOE/EIA“Weekly Petroleum Status report”より筆者作成図3ガソリン小売価格(税込み、レギュラー、全国平均)は、9月19日に開催される総会においてイラクを除く10カ国の、計50万バレル/日の生産枠引き上げを検討すると発表した。さらに米国に対して60カ国以上が人道支援を申し出た。その中には、カナダによる電力供給システム復旧に関する専門家チームの派遣、ベネズエラによる低所得層、病院等に対する暖房油100万バレルの提供等も含まれた。ブッシュ大統領は、すべての申し出を受ける旨を表明した。しかしながら、これらの措置にもかかわらず、産油国の余剰原油生産能力の減少、米国の精製能力不足、中国・インド等を中心とする石油需要増など表4IEA加盟各国の国別対応状況加盟国備蓄放出量対応措置日程米国日本ドイツ韓国フランス英国スペイン豪州オランダカナダ3,000万バレル原油備蓄放出9月6日入札開始732万バレル351万バレル(=47.4万トン)288万バレル276万バレル219万バレル210万バレル原油/製品備蓄放出9月6日開始製品備蓄放出9月6日開始9月15日までに実施原油/製品備蓄放出9月7日開始原油/製品備蓄放出9月8日に閣議開催108万バレル(=3.6万バレル/日)90万バレル消費削減製品備蓄放出9月5日開始81万バレル(=2.7万バレル/日)消費削減ポルトガル44万バレル(=6万トン)原油/製品備蓄放出フィンランド31万バレル小計目標値5,430万バレル6,000万バレル原油/製品備蓄放出発表済の措置の合計加盟国全体の目標値出所:IEA資料等より作成(トンは、比重0.85としてバレルに換算)2006.1. Vol.40 No.14d要性増す機動的備蓄石油放出 ?05年9月ハリケーン被害時放出の評価と展望?の構造的要因が解消していない以上、価格抑制効果は限定的であるとの見方が一般的であった。これらの措置の発表後の9月2日、WTIは67.57ドルと前日より1.90ドル下げ、その後、一進一退を繰り返した後、徐々に価格は下落したので、投機筋に対しては一定の牽制的効果はあったとみる者が多かった。4.国際エネルギー情勢への影響今回のハリケーンでは、まずメキシコ湾の原油・ガス生産設備と、輸入原油の受け入れターミナル、パイプラインおよび一部の製油所が被害を受け、運転を停止した。その後、停電と原油供給不足によって周辺製油所も稼働率を下げ、北東部市場向け石油製品供給も削減された。この結果、原油価格、石油製品価格とも高騰したが、SPRの放出、IEAの協調措置実施の決定およびその後の石油生産施設の操業回復により、10月に入ると原油価格は沈静に向かった(WTIで10?11月は60ドル台前半?50ドル台後半で推移)。SPRおよびIEA加盟国の備蓄取り崩し量は、今回のハリケーン被害で失われた原油生産、精製能力を充分に補い得る数量である。しかしながら、今回のハリケーンは、石油需要に対して精製能力が不足し、製油所がほぼフル稼働状態にあった米国メキシコ湾岸を直撃した。9月末でも一部の製油所は操業再開に至っておらず、当面は追加された原油供給に対して精製能力が追いつかず、製品需給逼迫状況が続くことが懸念された。その点に関しては、OPECが9月19?20日開催の定例総会で現行生産上限(2,800万バレル/日)を据え置いたのは妥当な措置であった。精製能力に制約が残る状況では、必要以上の原油追加供給の効果は限定的となる可能性が大きいからである。OPECは、原油生産上限を現行の2,800万バレル/日に据え置くことに合意するとともに、必要に応じて200万バレル/日の余剰生産能力を活用する方針も示し、本合意は10月1日から3カ月間適用されるとした。IEAの協調対応やOPECによる増産の準備声明は、ハリケーンによりもたらされた国際石油需給の一時的不均衡に対して、国際的な協力体制での取り組みを強化するとのメッセージを市場に送った。したがって、市場参加者がその効果をどう見極めて、反応していくかが、当面の最大のポイントになるとみられた。今回のハリケーンによる長期的な影響として懸念されたのが、石油低在庫の問題と、米国経済の減速である。その点に関する関係者の評価は、一律でない。その点に関し、9月中旬に筆者は米国に調査出張し、今次ハリケーンのエネルギー産業、米国経済への影響度について関係者のヒアリングを行った。ヒアリングの結果は、総じて以下に要約される。・カトリーナの被害拡大でガソリン価格が高騰し、米経済の減速懸念が広がっているが、市場には悲観論(減速の長期化)と楽観論(減速は一時的)の両方の見方がある。米景気の先行きは世界経済にも大きな影響を及ぼすので、米国の景気動向は今後世界の注目を集めるだろう。・米経済の実質成長率は第1四半期(1?3月)が年率3.8パーセント、第2四半期(4?6月)が3.3パーセント。米政府が潜在成長率とする3.2パーセントを上回り、原油高でも堅調さを維持してきた。しかしながら、一連のハリケーンの襲来で原油価格が70ドル/バレルを突破し、ガソリン価格の高騰に拍車がかかった結果、一時インフレ懸念、景気への悪影響の懸念が広がった。一部の証券会社は、ガソリン価格の高止まりは、消費を圧迫し、第3四半期(7?9月)の成長率を3パーセント程に減速させ、その後も弱含みで推移すると予測している。9月1日のブッシュ米大統領とグリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長の会談に関しても、市場関係者の間で「大統領が利上げ休止を要請したのではないか」との憶測を呼び、米国債の利回りが急低下する展開もみられた。・しかしながら、他方、楽観論も根強く、「第3四半期(7?9月)の成長率は当初見込みより1パーセント低い3.5パーセントとなるが、ハリケーン被災地の復興活動による景気刺激が期待され、第4四半期(10?12月)は4.5パーセント成長に回復する」との見通しを示す者もいる。また、利上げ休止観測に対しても、FRBは原油高や住宅市場過熱に伴うインフレ圧力を警戒しており、年内は利上げが続くとの指摘が出ている。しかしながら、原油価格がさらに上昇するとの見方もあり、ハリケーンで打撃を受けた米石油施設の復旧がずれ込めば、悲観論がさらに強まる公算が大きい。カトリーナによる直接の被害は徐々に復旧に向かい、被災直後の深刻な石油供給不足も徐々に解消されつつあるが、産油国の余剰原油生産能力の減少、米国の精製能力不足、中国、インド等を中心とする石油需要増などの構造的要因が確定していない以上、石油需要増の価格抑制効果に言及するのは時期尚早であろう。5石油・天然ガスレビューAナリシス供給削減量(千バレル/日)供給削減率(%)%302520151050イラク戦争ベネズエラストライキイラク原油輸出停止湾岸戦争イランイラク戦争イラン革命第四次中東戦争北海油田事故エクソンバルデ(cid:7929)ス事故サウジ油田事故レバノン内戦アルジ(cid:7931)リア国有化紛争リビア国有化交渉ナイジ(cid:7931)リア内戦第三次中東戦争シリアパイプライン紛争スエズ動乱イラン石油国有化5,0004,0003,0002,0001,000千バレル/日6,00001951/541956/571966/671967/6819671970/7119711973/7419731978/7919771980/8119891990/911989200120022003注:青色は中東情勢に起因する途絶、黄色は中東情勢以外に起因する途絶を示す出所:IEA資料より筆者作成図4第2次世界大戦後の石油供給途絶事例千バレル/日8,000供給削減量産油国の増産量純供給削減量6,0004,0002,0000?2,000 ?4,000 08/9009/9010/9011/9012/9001/9102/91?6,000 出所:IEA資料より筆者作成図5湾岸戦争時の月別供給状況5.今次IEAの協調的備蓄放出措置の評価と展望今日、産油国の余剰能力が縮小した結果、世界全体での緩衝在庫のレベルは、仮需を吸収するにはおぼつかない規模になっている。このことは、投機家の格好の材料となり、国際原油価格水準を底上げするとともに、変動幅が大きく増幅している。一方、OPEC加盟国の産油能力拡張に向けての一連の方針表明をみても、余剰産油能力が1990年代前半のような生産水準の5?7パーセント(400?500万バレル/日)の水準に戻る可能性は小さいと考えざるを得ない。産油国グループの中では、サウジアラビアが150?200万バレル/日の余剰能力を保有しようとしていると見られているが、同国の措置は市場動向を見極めた上での対応とされており、場合によってはリップサービスの域を出ない対応と評価される。したがって、余剰産油能力はせいぜい200万バレル/日前後(2?3パーセント程度)の水準に止まり、一朝事あれば、石油需給が直ちに逼迫するという事態が、今後も数多く現出すると考えるのが自然であろう。ところで、これまでIEA加盟国が保有する石油備蓄は放出事例が極端に少なく、米国におけるテストセールなど個別対応の事例を除けば、1990/1991年湾岸戦争時を数えるのみであった。このことに対しては、IEA加盟国は備蓄石油を機動的に使っていないとの批判があった。中東情勢に起因するものであるので、その点からは、中東情勢を原因とする石油供給途絶は将来とも起こり得ると考えておくことが自然である。他方、IEAの対応とは別に、産油国の余剰能力は供給途絶時に動員され、これまで多くの危機を顕在化させないことに貢献した。IEAによれば、図4に示す通り第二次大戦後、世界は合計18回の石油供給途絶を経験した。そのうち青色で示した14回は、何らかの形でこれらの供給途絶事態を大きく二つに分けると、数量が減って価格が急激に上昇した場合と、一時的に急上昇してもすぐに急落して元に戻った場合とがある。1970年代の二度の石油危機(第1次、第2次)は前者の代表事例であり、実際に石油供給が途絶したことで引き起こされたものだった。また後者の事例において、原油価格がそれほど上昇しなかった理由は、産油国グループが保有していた余剰能力が動員され、供給途絶が吸収ないし相殺されたためである。湾岸戦争はその好例だった。そのことを図5で見てみると、1990年8月、イラクのクウェート侵攻によりイラク、クウェート両国からの石油の純供給量370万バレル/日が途絶した。こ2006.1. Vol.40 No.16d要性増す機動的備蓄石油放出 ?05年9月ハリケーン被害時放出の評価と展望?れに対して産油国が増産を行い、削減量の一部を補填した(補填量は水色で示したもの)。湾岸危機時、サウジアラビアは、90年上期平均の540万バレル/日から第4四半期には800万バレル/日に生産量を増やした。他国の増産を合わせた結果、11月にはイラク、クウェートの削減量は完全に吸収されるバランスになった。こうしたバランスの中で、年明けの、91年1月17日未明に多国籍軍のイラク空爆が開始されたわけである。このため、原油価格は実際に戦争が勃発すると直ちに急落した。このように、余剰能力は供給途絶状態になった時に非常に重要な役割を果たす。その意味からは、平常時はもとより緊急時においても、サウジアラビアは大きな役割を担っている。主要機関のエネルギー需給見通しによれば、総じて原油生産能力(余剰能力)は縮少均衡気味に推移すると見られている。需要規模が増加し続けると見られる中で、余剰能力が縮小気味に推移することは、安全保障上、大きな危険信号が灯っていると評価すべきであろう。表5は、米国エネルギー省が本年7月に発表した「国際エネルギー見通し」における原油生産能力の見通し(基準ケース)である。同見通しでも、2010年以後、需要規模が5割増加するにもかかわらず、原油の余剰生産能力は200万バレル/日台に止まると見られている。その点から、今後供給途絶が発生した場合、これまでのように危機が終息するか否か、筆者は疑問なしとしない。現在、石油緊急時対策のツールとしては、産油国側の余剰能力の動員と、消費国側の備蓄在庫の放出や消費の節約に大別されるが、現在では産油国の余剰能力が払底しつつあるため、緊急時における量的補填あるいは市況鎮静化対策が、消費者側だけのいわば「片肺運転」状態に陥る危険がある。既に見た通り、産油国グループの余剰産油能力は、90年代前半は400?5007石油・天然ガスレビュー表5生産能力と生産量見通し(基準ケース、百万バレル/日)形態湾岸OPEC(能力)生産量見通し余剰能力高価格基準ケース低価格高価格基準ケース低価格高価格基準ケース低価格1990年18.718.718.716.316.316.32.42.42.42002年20.720.720.719.019.019.01.71.71.72010年24.428.332.822.325.830.32.12.52.52015年24.530.837.921.827.935.12.72.92.82020年26.235.243.623.332.141.42.93.12.12025年27.839.350.025.136.748.42.72.61.6表6国別石油生産能力見通し(基準ケース、万バレル/日)形態実  績見 通 しサウジアラビア湾岸OPECうち、イランイラクUAEクウェートその他OPECOPEC計工業諸国計旧共産圏計その他非OPEC非OPEC計世界計1990年1,8708603202202502208502,7202,0101,1701,0404,2206,9402002年2,0709203702002502109903,0602,3701,1401,4304,9408,0002010年2,8301,4004003503302901,1603,9902,5201,3901,7505,6609,6502015年3,0801,4504304203603501,2904,3702,6101,5701,9906,17010,5402020年3,5201,5404705304504501,4504,9702,5801,6902,1206,39011,3602025年3,9301,6305006605405201,6705,6002,5401,8102,2706,62012,220出所:DOE/EIA“International Energy Outlook”(2005年版)(表5、表6とも)万バレル/日4,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000197919831990199719982000200120032005出所:IEA資料より筆者作成図6OPECの余剰産油能力の推移生産能力生産量産油余力Aナリシス備蓄取り崩し需要抑制燃料転換増産67,000バレル/日17,000バレル/日330,000バレル/日2,086,000バレル/日(83.4%)9月当初時点の想定10月末までの実際の取崩し見込み量合計米国の戦略石油備蓄貸付け実際の取り崩し量?OECD欧州?実際の取り崩し量?OECD大洋州?実際の取り崩し量?米国?合計石油製品備蓄取崩し見込み量?重油?石油製品備蓄取崩し見込み量?中間留分?石油製品備蓄取崩し見込み量?ガソリン?原油備蓄取崩し見込み量?米国以外のIEA加盟国?原油備蓄取崩し見込み量?米国?千バレル60,00050,00040,00030,00020,00010,0000出所:IEA Oil Market Report(2005年10月号)より筆者作成図8当初取り崩し想定量と実際の取崩し量の比較の方が、これまでの経験上、市況沈静化の効果が大きかった。我々が生きているのは物理的現実と情報の総和としての世界であり、現実の世界では物理的な供給増のみならず、いずれ供給が増えるという発表にも反応するのである。今回のIEAの協調的対応措置については、近くIEAで詳細な評価が行われるだろうが、図8の通り、米国では実際にオファーされた数量の44パーセント(3,954バレルに対して1,736万バレル)が市場に放出された。このことは、備蓄放出スキームの不備を意味するものではなく、市場が求めた石油供給量がその水準に止まったというに過ぎない。1991年1月の湾岸戦争の際も、IEA加盟国全体で250万バレル/日の緊急時対応が合意され、米国には125万バレル/日が割り当てられた。米国はこれに基づき合計3,375万バレル(日量125万バレルで30日間)の戦略石油備蓄の放出を決定したが、入札の結果実際に市場に放出された量は約半分(51.2パーセント)の1,730万バレルにとどまった。市場は、まず備蓄石油の放出アナウンスに反応し、次いで実際の物理的供給の実施、その規模に反応するのである。9月下旬以降、米国のガソリン小売価格が沈静したのは、オフシーズンに入ったこともあるが、製品輸入の継続・増加によるところが大きいと評価される。米国にとって、当面重要なのは、精製能力に制約が存在する以上、原油2006.1. Vol.40 No.18出所:IEA資料より筆者作成図7湾岸戦争時の緊急時対応措置の内訳万バレル/日の水準で推移したが、90年代前半の原油価格低迷に伴う上流部門への投資の遅れから、図6の通り徐々に縮小均衡で推移し、2004年夏には100万バレル/日程に減少した。2004年8月、プルモノ・インドネシア石油相(OPEC議長)は、「余剰産油能力が100万バレル/日あるので、心配は要らない」と発言したが、市場関係者の反応は100万バレル/日しかないのかというもので、原油価格(WTI)は数日のうちにあっさり50ドルの大台に乗る展開が見られたことは記憶に新しいところである。余剰能力が今後縮小均衡で推移する公算が大きい今日、IEAとしては備蓄石油をこれまで以上に弾力的に運用することが、経済合理性を持つのではないかと思われる。緊急時対応策とは、実際には産油国の余剰能力の動員を嚆矢とするが、消費国側のツールとしては、IEA加盟国内での産油国の緊急時増産、備蓄放出、需要抑制、燃料転換しかないのである(図7参照)。その消費国のツールの中では、これまでは備蓄放出が最大の効果を発揮してきた。消費国の措置としての緊急時増産は数十万バレル/日の規模に過ぎないこと、および需要抑制・燃料転換には大きな制約要因があることが、1990年代におけるIEAの一連の検討により確認されている。これらの点からも、備蓄石油の弾力的運用の意義が高まっていると評価することができる。備蓄石油放出の目的は、一つには市場の冷却(市況の沈静化)であり、もう一つには物理的供給量の増加である。そのうち、市場冷却効果については、筆者はアナウンス効果自体に大きな意義を認める。実際の備蓄石油の放出には物理的なタイムラグ(通常、最短で2週間)を伴う。その点からは、石油が物理的に市場に出ることよりも、いずれ物理的に供給量が増えるというアナウンス効果d要性増す機動的備蓄石油放出 ?05年9月ハリケーン被害時放出の評価と展望?千バレル/日800(1)2005年と2001?04年平均2001?04年平均2005年70060050040030020010001月2月3月4月5月6月7月8月9月 10月 11月 12月出所:DOE/EIA“Monthly Energy Review”より筆者作成8007006005004003002001000千バレル/日800(2)2001?2005年70060050040030020010002005年2001年2002年2003年2004年1月2月3月4月5月6月7月8月9月 10月 11月 12月図9米国の月別ガソリン輸入量の推移輸入よりも製品輸入である。図9は、2001?2005年までの米国の月別のガソリン輸入量の推移である。例年は4月?7月にピーク月が訪れ、10月以後はドライビングシーズンの終了に伴う需要減でガソリン輸入量は減少する。しかし、本年は本稿執筆時点で入手可能な10月までの輸入統計を見る限りにおいて、10月のガソリン輸入は9月の輸入実績を上回った。本稿の結論としては、今回のIEA加盟国の協調的対応措置は、産油国の余剰能力が減少した状態の中、IEA加盟国による「弾力的な対応措置時代」の先鞭を付けるものになる可能性がある。また、そうした方向で、国際的公共財ともいえるIEAの緊急時対応措置の枠組みの中で、備蓄石油を活用されることが期待される。著者紹介須藤 繁(すどう しげる)東京都出身。中央大学法学部卒業。1973年石油連盟に入局。1982?85年在サウジアラビア日本国大使館二等書記官。1991?96年ジェトロ・ロンドンセンター石油資源部長。1999年石油連盟退職、(株)三菱総合研究所を経て、2002年より現職。趣味は読書。最近興味あることは、石油産業投資の本来的循環性とその阻害要因。既婚(一女)。9石油・天然ガスレビュー
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2006/01/20 [ 2006年01月号 ] 須藤 繁
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