ページ番号1006202 更新日 平成30年2月16日

石油の安全保障と価格見通し ~ロバート・マブロ氏の講演録~

レポート属性
レポートID 1006202
作成日 2006-01-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 市場
著者
著者直接入力 Robert Mabro(ロバート・マブロ)
年度 2006
Vol 40
No 1
ページ数
抽出データ アナリシスオックスフォード大学エネルギー研究所 前所長ロバート・マブロ石油の安全保障と価格見通し?ロバート・マブロ氏の講演録?ロバート・マブロ氏は、オックスフォード大学エネルギー研究所の設立者であり、かつ2004年まで主宰者であった。また、OPEC等の主要産油国首脳や欧米石油業界に幅広い人的ネットワークを有する欧州を代表するオイルエコノミストであり、我が国へも度々訪れ知己も数多い。本稿は、2005年11月にJOGMEC内で行われたマブロ氏による講演会の内容を、同氏の許可を得て編集部にて翻訳の上、掲載するものである。(編集者)1.石油の安全保障皆様にとって非常に重要であると思われる二つのテーマについて、本日はお話をさせていただきます。まず一つは「石油の安全保障」ということでありまして、皆様は直接またはサポートという形で危険な国へ投資をされていますから、これはとりわけご関心がおありかと思います。そして二つ目が「石油価格」に関してです。なぜ石油価格が上昇したのか、そして、石油価格は高止まりをするのか、それとも将来どうなるのかというお話です。まず最初に安全保障という問題ですが、これは疑いも無く非常に重要な問題です。同時に、この安全保障という問題は感情的な問題でもあります。安全保障というものはどうしても不安が伴うものであり、例えばある国において何かが起こるのではないか、という状況では、その不安というものが良い助言者になるということはあまりありません。すなわち、不安は良い意思決定をする上で助けにはならないということです。ですから安全保障に関しては、常に対応が非合理的になりうるという危険をはらんでおります。障の問題が起こったのは、1973年に第一次オイルショックが起こったときのことでした。このときのオイルショックには、二つの特徴がありました。第一は経済的な側面で、その当時において石油価格が、2ドルから10ドルぐらいに上がりました。現在では、2ドルから10ドルになっても誰も気がつかないかもしれませんが、当時としては非常に大幅な上昇でした。第二に、政治的な側面では、オイルショックのときに初めて禁輸措置がとられました。石油輸出国として発展途上にあり、OPECの加盟国であるアラブ諸国が、OECD諸国に対して禁輸措置をとり、そして減産をしたのです。私の見方では、経済的な、いわゆる価格ショックは、OECD諸国がかなりうまく吸収したと思います。価格ショックの結果苦しんだのは、石油を輸入する発展途上国でありました。しかし、最も大きな声で発言をしたのは、OECD諸国だったということです。なぜならば、豊かな国のほうが、貧しい国よりも良い形でメッセージを送る手段をもっていたからです。盧石油という武器ご案内のとおり、エネルギー安全保障というのは、ひいては石油の安全保障ということになります。この安全保ですから、石油価格の上昇は3?4年くらいの間におおむね吸収されたわけですが、政治的なショックは違いました。それは革命的な状況で、史上初めて、発展途上である第三世界の小さな国々が、世界で力をもっている超大国の国々に対して挑戦をしたということなのです。米国やヨーロッパといった国々に対して挑戦状を投げかけるということは、これまで力をもっていた国にとっては、まったく受け入れることができないことでした。ここではまず、力というコンセプトを十分正しく理解しておかなければなりません。国として一つの力だけしかもっていない、例えば石油という力しかもっていないとしたら、それはあまり大きな力になりません。それは一つの分野だけでの力だからです。ですから国際関係において強力であるためには、例えば優れた産業をもっているとか、軍をもっているとか、人口が多いとか、教育水準の高い国民を抱えているとか、そういういろいろな要素をもっていなくてはなりません。「国力」というのは、4本、5本、6本ぐらいの足によって、立っていなくてはならないのです。石油以外の例えでもいえることですが、石油なら石油という、1本の脚しかもっていないということになると、いずれは転んでしまう、倒れてしまいます。その証拠として、禁輸措置が、わずか4カ月間で解除されたという例があり27石油・天然ガスレビューワす。サウジアラビアなどに対して、米国から外交圧力がかかったために解除されました。わずか4カ月で、もはや禁輸措置は無くなってしまったのです。禁輸措置、または石油の減産を短期的なものに限ることができたという意味においては、OECD諸国がこの対決において勝利を収めたといえるでしょう。このときの状況を、後の状況と比較して見ていただきたいと思います。国連や米国がリビアやイラクなどに対して禁輸措置をとったときには、10年、15年、20年と措置が続きました。これを見ると、一体誰が力を持っているのかがわかると思います。私が申し上げたい第一の点は、1973年に使われた「石油という武器」を使うことは、もはやできないであろうということです。可能性としては、ある日、ある国の大統領が突然「石油という武器」を使おうと決定する、ということがないとは言えませんが、成功することは無いでしょう。それは、1973年時点と比べて二つの点が変わっているからです。第一に、もはや冷戦は終焉をしました。1973年においては、ソ連があったから、米国は軍事介入をすることができなかったわけです。しかし現在の状況においては、もし例えばイランやサウジアラビアが石油という武器を使うという決定をしたとすると、米国の海軍が、48時間以内にその国に到着するでしょう。米国の軍隊は、湾岸諸国やイラク、アフガニスタン、アラビア半島、トルクメニスタンなど、いろいろなところに駐留していますから、すぐに到着をすることできるでしょうし、それを阻止するソ連の存在はもはやありません。盪供給途絶したがって、供給を途絶する手段としての「石油という武器」は、可能性としてはほとんどゼロに等しいのです。しかし、それでも、石油の途絶は起こり得ます。戦争が勃発した場合、あるいは石油輸出国において革命が起こった場合、ちょうどナイジェリアにあったように内乱が起こったような場合、そういう場合にはあり得るでしょう。例えばベネズエラがそうでしたが、体制の転換によって国際企業のスタッフの半分ぐらいが解雇され、その結果、供給に問題が生じるといったことも起こり得ます。すなわち、「石油という武器」を使う可能性というのはゼロに等しくても、戦争や革命、内戦などが起こり、それによって供給が途絶するという可能性はある、ということです。実際、それはこれまでにも何回か起こっております。思い起こせば、1979年にはイランの革命がありましたし、1980年から87年までイラン・イラク戦争がありました。また、1990年にはイラクによるクウェート侵攻があり、2003年には米英によるイラク侵攻がありました。そしてベネズエラにおける革命による体制の交代が、またナイジェリアでも問題がありました。そうなると「ちょっと待ってくれ、今言ったようなことのどれかでも起これば、供給の途絶ということはあり得るだろう」という議論になるわけです。しかし、ここで十分に念頭におかなくてはならないのは、供給が途絶したからといって、必ずしもそれが価格上昇にはつながらない、という点です。それは、状況次第だからです。もし、供給途絶がちょうど需要が低迷している時に起きたら、あるいはほかの地域から新たな供給源が出てきて、そこから供給がされるようになった時に途絶が起こったとしたなら、価格は上昇しません。1980年代の状況を思い起こしていただきたいのですが、ちょうどイラン・イラク戦争で供給の途絶があったときには、実際に価格が下がりました。しかも1986年には、かなり低い水準までアナリシスに落ち込みました。理由は、ちょうど需要が低迷している時期に非OPEC諸国が増産をしたからです。蘯サウジアラビアと中東また、別のある時期を見ても、サウジアラビアには余剰生産能力がありますので、政治的なトラブルで供給量が減産しても、その分はサウジが増産することによって補われました。例えば1990年にイラクがクウェートに侵攻しましたが、ほんの3カ月もしないうちに、サウジアラビアが日産300万バレルの増産を行いました。2003年には、供給が少し混乱したということに、ほとんど誰も気がつかないような状況でした。なぜなら2003年においても、サウジが日産200万バレルほど増産をしたからです。では、今の時点で将来を展望して、一体どこに危険があるのか、どういった時点で危険が生じるのか、ということを考えてみましょう。まずイラクですが、イラクは今よりもさらに悪くなるということは考えられません。今後も悪いままであり続けるということは、可能性としてありますが、さらに悪化するということは無いだろうと考えられます。イランについては、もし問題があるとすれば、それは米国が軍事介入をする場合です。具体的に兵を派遣するということにはならないかもしれませんが、もし米国のイランに対する不快感が十分すぎるほどになれば、巡航ミサイルによる攻撃によって施設を破壊するというようなことは起こり得るでしょう。そうすると、それに対して、イランは報復措置として対米石油の輸出を2カ月か3カ月くらい停止をし、それによってオイルショックを発生させるということはあり得ます。今、なぜ米国がイランに介入しないかという理由は二つあり、一つには、米国はイラクにあまりにもかかわり過2006.1. Vol.40 No.128ホ油の安全保障と価格見通し ?ロバート・マブロ氏の講演録?ぎていて、ほかのことをする余力が無いということ。もう一つは、イランに介入して石油ショックが起こることを懸念しているからなのです。さて、今米国で最も人々が議論の的としている国は、サウジアラビアです。ニューヨークやワシントンに住んでいると、日々いろいろな記事や報告の類を目にします。「サウジは信頼に足る国ではない」、「サウジでは体制の交代が起こるかもしれない」というようなものや、「オサマ・ビン・ラディンはどうもサウジを好きではないらしい」とか「サウジの現状を好ましく思っていない」というような記事です。そうなると、米政府が反イスラム教原理主義になる。そして「原理主義者を好ましく思っていない米国に対し、サウジは石油輸出を停止するだろう」というような推測が出てきて、米国はサウジにあまり依存すべきではない、サウジの石油はあまり買うべきではない、という論調になります。それは非常に危険です。私にとっては非常に明らかなことで、そして恐らく皆様も同じお考えだと思いますが、サウジの現在の体制というのは、近代世界に十分に順応したものではありません。サウジの現在の体制は、中世の社会のあらゆる特徴を兼ね備えているように思われます。しかしそうは言っても、サウジは21世紀に生きている国でもあります。石油ゆえに、そして資金ゆえに、21世紀に生きている国ということです。そこに矛盾が存在しており、その矛盾がうまく管理されていないという状況なのです。だからといって、即、それが体制の崩壊につながるということではありません。体制が崩壊するためには、非常に強いブルドーザーのような、とても強い野党が必要です。サウド家を崩壊させるだけの、十分な強さのブルドーザーが必要ですが、そういう強いブルドーザーがあるわけではないので、すぐには崩壊には至りません。サウジの現体制が崩壊するという危機は、少なくとも、目先にはありません。「石油という武器」の使用は、どこの国も恐らくできないでしょう。中東やその他の石油輸出国における政治的な混乱というのは、可能性としてはあると思います。しかし、世界に非常に大きなダメージを与える政治的混乱というのが、短・中期的にどこで起こるかというのは、なかなか判断しにくいところです。盻 その他の途絶要因?ハリケーンとピークオイル?供給が途絶する要因は、それら以外に主として二つあると思います。一つがハリケーンやその他の自然災害です。ほんの数年前まで、エネルギー安全保障の話題において、ハリケーンによって供給の途絶が起こるなどということは、考えもしませんでした。しかし昨年、今年と、実際にそういうことが起きています。もう一つの新しい要因は、かの有名な「ピークオイル理論」であります。「生産というのは近いうちにピークを迎えるであろう」、「生産がピークを迎える一方で需要が伸びを続けるということになると、結果的には供給の途絶と同じような効果をもたらすのではないか」という考え方です。需要は伸び続ける、しかし生産はあまり伸びないとすると、需給のギャップが広がることによって価格ショックが起こり、それが世界に影響を及ぼすであろうという理論です。しかし、このピークオイル理論に関して、私は考えを留保しています。まず、私は「石油生産がある日ピークを迎える」ということに、あまり興味を持ちません。もちろん、有限の資源でありますから、ほかのもので代替されない限り、そういうことが起こるかもしれませんが、それでも私の関心は大きいものではありません。もし誰かが私の所へやってきて「おいマブロ、おまえはいつかある日死ぬんだぞ」と言っても、私は全く興味を持たないでしょう。人は誰もいずれ死ぬわけですから、「おまえ死ぬぞ」と言われても目新しくありませんし、そんなものは予測とはいえないわけです。そうではなくて、誰かが私の所にやってきて「おまえは2075年の7月31日の朝6時に死ぬぞ」と言えば、それは予測になるわけです。ですから、そのピークオイル理論に関しても「大体この日くらいに起こる」という予測となれば、それは重要性を増すのかもしれません。しかし問題は、そういった予測が、過去においては少なくても間違っていたということでしょう。最初は1989年、そして2000年と言われましたが、2000年も過ぎました。そして今、2005年がピークだと言う人もいますが、ご承知のとおり2005年もあと1カ月を残すのみです。ピークオイル理論に関してもう一つ問題と思われるのは、伝統的な在来の石油だけに焦点を当てている点です。これは、あまりにも狭義の概念ではないでしょうか。我々が関心があるのは、石油だけではなく、液体燃料です。ですから、仮にもし、伝統的な石油がピークを迎えるとしても、その時に非伝統的な燃料であるビチューメンなどが使えればそれで構わないわけです。それも駄目なら、GTLやCTL(Coal ToLiquid)、エタノールなども挙げられます。ですから、伝統的な石油がピークを過ぎるということにこだわる必要は無く、自動車や飛行機に供給できる何らかの液体燃料があればいいわけで、必ずしも、絶対に伝統的な石油でなくてはならないということはありません。眈 投資問題問題は、石油生産がピークを打つと29石油・天然ガスレビューAナリシスいうことではなく、エネルギー産業界が、石油以外の液体燃料源に対して、十分かつタイムリーに投資を行わなかった場合に生じるでしょう。ピークが来るといえば、それは、ピークはいつか来るわけです。しかし、そのピークが起こるということを、4?5年前に十分に見越して、GTLなどの非伝統的な液体燃料にきちんと投資をするということが必要なのです。投資というのは、成果が出るまでに4?5年ぐらいは時間がかかりますから、適切な時期に投資をすればそれほど問題にはなりません。業界が手をこまねいて待ちの姿勢をとってしまい、価格ショックが起こって初めて投資をしようということになると、それは問題になるでしょう。「ピークオイル理論」ではなく、むしろ「投資タイミング理論」が必要なのではないかと思います。眇 途絶対策起こる危険性というのはあるのです。必要なのは、どういった原因が最も途絶を引き起こしうるのかをきちんと特定すること、例えば「石油という武器」が使われる可能性、あるいは政治的な混乱が起こる可能性、ピークオイルが来る可能性、それぞれの確率がどのくらいなのかを、注意深く特定することです。石油に依存している国は、供給の途絶に対して、きちんとした「防衛策」を持つことが必要だと思います。それには、四つの方策があると思います。第一は備蓄、そして第二は第一と同じくらい重要ですが、緊急時に備蓄を取り崩す政策をきちんと持つことです。多くの国において、その政策が明らかになっておりません。ですから、きちんと政策を持つということ。第三に、供給源の分散化を図ること、第四に、エネルギーの使用効率をできる限り高めるということです。これらはいずれも古典的なことです。いずれにしても、常に供給の途絶が国によって、備蓄を持っている国もあれば持っていない国もあり、また、備蓄はあるけれどもその取り崩し政策を持っていない、あるいは逆に政策はあるけれども備蓄はない国もあります。また、分散化している国もあれば、省エネ分野でかなり前進を遂げている国もあります。私の意見では、日本の備蓄の水準は高いと思いますので、これ以上備蓄を積み増す必要は無いと思います。最も、経産省の方の中には、もっと備蓄を積み増したいと考えていらっしゃる方もいるようではありますが。エネルギー源の分散化も進んでいますが、分散化をしたからといってそれで良いという保証にはなりませんので、留意していただければと思います。前回の来日時に経産省の方とお会いした際、「もし、大臣に対してエネルギー安全保障の面でアドバイスをするとしたら、どういうことがあるか」と聞かれましたが、私は「日本はやるべきことをやっており、分散化努力もきちんとやっている」と申し上げました。2.石油価格では次に石油価格を見てみましょう。2003年、2004年に油価が上昇した理由はいろいろあって、そのいろいろな理由が組み合わさって上がりました。一つには地政学的な理由があります。イラクの侵攻があり、先ほど述べたようにサウジアラビアに対する懸念が特に米国で高まり、その懸念は今でも続いています。さらに、ロシアでユコスの問題があり、ロシアはどうなるのか、果たして石油生産の伸びは続くのかという産業界としての懸念があります。ベネズエラでも問題がありましたし、ナイジェリアも多くの問題を抱えています。経済的な要因としては、米国、中国における需要の増加があります。2004年の世界全体での需要を見ると、3.4パーセント伸びており、これはその前の20年間のどの年よりも大きな伸びでした。その結果として、サウジアラビアで現存する余剰生産能力が、果たしてこれで十分なのか、という懸念が生まれました。そして、商品市場、とりわけ先物市場に資金が流入をしてきています。そういったことがいろいろ起こったわけです。それに加えてハリケーンの問題が拍車をかけた。2004年、2005年のハリケーンです。そして2005年には新しい問題が表面化してきました。前からあるにはあったのですが、それが表面化し、目に見えるようになった。それは石油精製能力の制約です。石油価格が上昇したということが驚きの的ではないのです。むしろ驚かなくてはならないのは、「石油価格が上昇してみんなが驚いた」ということのほうなのです。では将来、油価の動向はどうなるのでしょうか。これは、需要の動向次第です。もし堅調な需要状況、2004年ほどではないとしても、強い堅調な需要が続く、すなわち年率2パーセントとか1.8パーセントくらいの伸びが続くということになると、これは需給が非常に逼迫する、タイトになり、生産能力が追いつかない、ということになるでしょう。そうなると、価格は高止まるか、あるいはさらに高騰するでしょう。一方、需要が落ち込んで年成長率1パーセント以下にまで落ちた場合は、人々の心情が変わり、さらに大幅に下落することになるでしょう。2006.1. Vol.40 No.130ホ油の安全保障と価格見通し ?ロバート・マブロ氏の講演録?盧 精製能力私の意見では、精製能力の問題というのは、少なくとも向こう4、5年ぐらいは続くであろうと思われます。例を挙げてみましょう。現在の世界全体の精製能力というのは、大体消費水準と同じぐらいです。すなわち、現在の精製能力をもってしても、世界の需要分は供給できているという状況です。ここで例えば、向こう5年間、現在から2010年まで平均で年率1.4パーセントの割合で需要が増加したとします。そうすると2010年には、需要が1日当たり600万バレル増えるということになります。その増えた需要分に対応するためには、50万バレル級の製油所が12個くらい必要になる。あるいは25万バレル級のものですと、24ぐらい必要になります。このシステムのバランスを維持するためには、それだけの新しい能力が必要になります。しかし、現時点で、そういう製油所を作ろうという決断を下したとしても、そこが出来上がって実際に供給が始まるには、2009年まで待たなくてはなりません。そうすると、今から2009年までの間どうするのかという問題が出てくる、これが問題の第一点。それから、第二点目ですが、業界紙などで「現在、計画中の新しい製油能力はどのくらいあるか」という記事を探してみてください。50万バレル級は12個も計画されておらず、すなわち向こう4、5年で、1日当たり550万、600万バレルといった能力の増強は全く計画されていません。向こう5年間に起こりうるのは、原油の供給は十分間に合う、つまり原油は十分にあって需要の伸びに対応できるけれども、それを精製して製品にし、供給する能力が追いつかないという状況です。そうなると価格の変動が大きく起こるでしょうし、ショックもトラブルも起こりうるということになります。石油の歴史が始まって以来、初めて大きな矛盾が起こってしまう。すなわち、「原油の供給」と「製品の供給」の間に大きな不均衡が生じるという矛盾です。この精製能力の問題は非常に深刻です。エクソンやシェブロン、トタールなどの民間の石油会社は、製油所に投資をしたがらないからです。なぜなら、歴史的に見て、投資収益率は10パーセントくらいにとどまっており、株主としてはそのような水準で満足しないからです。石油会社側としては、認可が得られないなどといろいろな言い訳をしますが、実際には投資をしたくないのです。そのことを公言もしていますし、私も「いやいや、投資はしないんだ」というようなことを聞いたことがあります。一方、国営石油会社は、下流でやったことがほとんど無い、精製の経験がありません。彼らの業務というのは、今までは上流のみでした。サウジは製油所に投資を始めていますが、サウジは製油所の投資に関する経験はあまり無く、良い状況ではありません。クウェートはいくつか製油所を持っていますが、事故ばかり起こしています。そういったわけで、下流を知っている国や企業は投資をしたがらず、知らないところは投資に積極的で、とても効率がいいとは言えない状況になっているのです。3.質疑質問者:私も全く同じような感じをもっているのですが、一言で言うと、今の油価というのは「市場の失敗」と言い換えてもいいのかなと思うのです。今までの石油については、「市場化をどんどん進めるべき」という議論が主流だったのですが、こうなってくると、やはり石油の政策というのは要るのではないか、政府の介入の余地があるのではないかという気がするのですが、特にイギリスや欧州でそういう意識が起きてはいないですか。マブロ:まず、石油価格はどこで決められるのか、1988年、89年以降どこで決められてきたかということを見てみると、輸出・輸入の石油価格というのは先物市場が決めてきました。先物市場というのは、投資が過剰になったり、少なすぎたりする傾向がある。すなわち、何かニュースがあった場合、それに過剰反応する傾向があります。そして第二に、先物市場で売買されるものは契約で、物理的な石油の「樽(バレル)」ではありません。石油という名前の契約取引は金融商品ですから、石油そのものとは異なった商品といえるわけです。石油の契約先物の売買をする人々というのは、ポートフォリオ(金融資産の一覧)を持っていて、その中にはほかの商品も入っていれば株式もあり、債券も入っています。彼らの主眼は、自身のポートフォリオの最適化を図るというところにあるわけです。すなわち、彼らは必ずしも石油業界で何が起こっているかや、需給がどうなっているかということのみに影響を受けるわけではないのです。物理的な石油の価格が、実際には80パーセントは石油ではないもの(先物市場で売買される石油という名の契約取引)によって決められているというのは、非常に奇異な状況だと思います。もう一つ奇異なのは、ニューヨーク31石油・天然ガスレビューS万バレルドル/バレル160140120100806040200-20-40-601234567891011121234567891011121234567891011(棒グラフ)非当業者のネットポジション原油価格(WTI)706560555045403530252015出所:米商品先物取引委員会(CFTC)他図1投機筋(非当業者)と価格の石油先物市場であるNYMEXで、統計データにおいてトレーダーを二つのカテゴリーに分類していることです。コマーシャル(商業的)とノンコマーシャル(非商業的)に分けており、コマーシャルは石油会社や石油生産者、航空会社などの石油の需要家などの当業者、ノンコマーシャルは銀行やヘッジ・ファンドなどの非当業者です。研究の結果、ノンコマーシャルな人たちのもっているネットのポジションと価格の動く方向との間には、相関関係があることがわかっています。図に示すように、ノンコマーシャルの人たちのトレーディングのポジションがショート、すなわち売り越しの場合には価格は下落し、それに対してロングの場合には価格は上昇するということです。これは既にきちんと確立された理論であります。この相関関係が正しいということになると、それは何を意味するのでしょうか? それは、ノンコマーシャル、すなわち銀行やヘッジ・ファンドが市場をリードしているということです。ここで、ノンコマーシャルの人たちがショートであるということは、逆にコマーシャルのトレーダーはロングでなくてはならないということになります。ノンコマーシャルが売っているとなると、その売った分を誰かが買っていなければならないからです。なぜマーケットは、石油業界ではないノンコマーシャルの人にリードさせているのか。そしてなぜ、石油業界であるコマーシャルの人たちにリードをさせないのか。その石油業界ではない人たちがリードをしているような石油市場というのはそもそも何なのか、という疑問が起こります。このことは、先物市場とは金融市場であるということを立証していると思います。金融市場だから、金融界の人たちがリードをしているのです。先物市場は石油市場ではありません。もし石油市場であるならば、石油業界の人がリードをとるはずです。しかし、その点に関しては誰も研究をしていません。さて、そこでご質問の「政府の介入の余地があるか」ということに立ち返るわけですが、私の見方では、石油産業は、あくまでも消費者のレベルにおいて危機が生じない限りにおいては、アナリシス民間業界でありえます。しかし、いったん危機が生じてしまうと、石油というのは公益事業になると思います。人々は車を走らせるためにガソリンが必要であるし、暖房をするために灯油が欲しい、そうなると、石油を供給する義務が生じてくる。義務があるということは、公共事業の特徴を備えているということになり、公共事業というのは政府の分野になるわけです。しかし、この二つをどのように折り合いをつけていくのか。政府の介入と民間の産業との間で、どのようにうまく調整、調和をとっていくのかというのが問題です。特に求められているのは、ある特定の状況のもとにおいての政府の介入ですから、常に介入が必要なわけではありません。常に政府の介入があったら、それは大変混乱した状況になってしまいます。この問題に対して、これは、という正しい答えを見つけるのは容易なことではありません。しかし、今のOECD諸国の政府は介入しないというムードで、すべてはマーケットが解決すべきであるという姿勢のようです。必ずしもそれは常に正しかったわけではなく、おっしゃられたように「市場の失敗」はたくさんあったわけですが。唯一、ここ数年間で政府ができることがあるとするならば、それは業界に対して「最低水準の余剰能力を製油所等において持つ」ことを義務付けるということでしょう。ちょうど1973年の後に、政府が業界に対して最低レベルの備蓄を持つことを要請したのと同じです。もちろんこれは、業界にとってはコストがかかることですが、なぜ、それが1973年にはできたが今はできないのかというと、現在では、ほとんどの国において業界のほうが政府よりも強くなっているからです。2006.1. Vol.40 No.132
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2006/01/20 [ 2006年01月号 ] Robert Mabro(ロバート・マブロ)
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