ページ番号1006208 更新日 平成30年3月5日

ロシアは信頼に足らないエネルギー供給国か ~政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争~

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レポートID 1006208
作成日 2006-03-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-03-05 19:32:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 天然ガス・LNG
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2006
Vol 40
No 2
ページ数
抽出データ アナリシスJOGMEC 石油・天然ガス調査グループmotomura-masumi@jogmec.go.jp本村 真澄ロシアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?本年正月のロシアによる旧ソ連・東欧諸国へのガス価格大幅値上げ要求と、その後のウクライナに対するガス供給停止は、ロシアによる政治的動機に基づいたウクライナいじめとして、日本を含む西欧メディアで大きく取り上げられた。ライス米国務長官も、エネルギーを政治の道具として利用するのは好ましくないとロシアを批判した。しかし、このような見方は必ずしも事実に基づいているとは言えない。ガスプロムは、2005年における油価の高騰に連動して、2005年11月、旧ソ連、東欧諸国に対して天然ガス輸出価格の大幅な値上げを通告した(表1参照)。ウクライナに対しては、従来の50ドル/1,000立方メートルというガス価格を当初は160ドル/1,000立方メートルに、そしてウクライナがこれを拒否すると230ドル/1,000立方メートルにまで値上げした。さらに、ウクライナがこれに難色を示すと、2006年1月1日からは、送ガスを停止した。これに対して、西欧諸国を中心に国際的な批判が高まったため両国は再度交渉し、1月3日に中央アジア産のガス(55ドル/1,000立方メートル)と混合し、ウクライナには95ドル/1,000立方メートルでガスを供給すること、そして通過タリフ(パイプライン利用料)を1.09ドル/1,000立方メートル/100キロメートルから1.60ドル/1,000立方メートル/100キロメートルへ引き上げることで合意した。ウクライナは1990年代に、ロシアからの天然ガスの料金不払い、抜き取りを繰り返し、ロシアは再三にわたってガスの輸送停止措置を行ってきた。これは、国際社会ではCIS内部の内輪揉めと見なされ、国際世論の関心を呼ぶことはなかった。今回もロシアは同じ状況と見なして、従来通りの対策として送ガスを停止したところ、今回は、「オレンジ革命」を経て自由主義圏入りしたウクライナに対して国際的な同情が集まるところとなり、送ガス停止措置に関して、ロシアのエネルギー供給国としての責任を問うという国際世論が澎湃として起こった。これは、ロシアにとっては外交的な誤算となった。ほうはい今回の西側諸国の批判に対して、ロシア側は「新たな市場価格原則を適用したもの」と反論していたが、1月16日のメルケル独首相との会談では「説明の不足」を陳謝するなど、国際世論への配慮を滲ませた。ただし、西欧市場も現実的には、短期にロシアに替わりうるエネルギー供給ソースはなく、ドイツも、ウクライナを迂回してガス輸送を行う北ヨーロッパガスパイプライン(NEGP)計画を見直す予定はない。欧州のガス市場に関して、ロシアの比重が徐々に高まるという基本的な傾向に変化はない。今回の係争の本質は、これまでウクライナがパイプラインの通過国としての責任を十分に果たしてこなかった点にあり、ロシアはむしろ迷惑を被ってきた立場である。西側メディアにおける見方について、欧州のガス専門家は一致して、今回のガス紛争が余りに政治的に解釈され過ぎ、本質を見失っていると批判している。1.2006年1月のモスクワ2006年元旦のモスクワは、抜けるような青空であった。交通量は普段の半分、街中が静まり返り、例年より一日早く、大晦日から10日間の大型クリスマス休暇(ユリウス暦なのでクリスマスは1月7日)に入った人々は、GDP成長率6.4パーセントを達成し好況に沸いた2005年の締めくくりを、年越しパーティで楽しく過ごした。モスクワ市民のほとんどは、元日の午前10時にウクライナ向け天然ガスが止められるかもしれないということを知っており、インテリ家庭では、休暇中の親戚や友人の集まりでもこのことが話題になった。というのも、年末からのロシアの報道番組は、ほとんどウクライナとの天然ガス値上げ問題一色だったからである。年内に契約が成立しなければウクライナ向けのガス供給を止めるという政府の方針が伝えられ、ガスパイプラインのバルブを閉める作業をリハーサルする様子が年末のニュースでもしきりに流されていた。市民の関心は、本当にガスプロムが送ガスを止める事態になるのかどうかであった。ロシア人のウクライナを見る目は複雑である。ウクライナは、ロシアから格安のガスを輸入しておきながら、これを産業向けに使って相対的に安い価1石油・天然ガスレビューAナリシス表1近隣諸国向けのガス輸出価格現行販売ガス価格06年通告価格備考(単位:ドル/1,000立方メートル)?257270-2859546.68160120-125110110110既往契約の有効性主張親欧(230ドルで仲介業者へ販売)パイプライン取得。価格据置き反ロ共産政権。110ドル暫定合意CISに不参加親欧2006年シャーデニス生産開始親ロシア250183?5046.688080-95625062西欧諸国ブルガリアルーマニアウクライナベラルーシモルドババルト3国グルジアアゼルバイジャンアルメニアNorthern LightsYamal-EuropeBovanenkovBovanenkovBovanenkovYamburgYamburgYamburgZapolyarnoeZapolyarnoeZapolyarnoeMedvezheUrergoyBBBrrroootttherhoodherhoodherhoodOrenburgKarachaganakKarachaganakKarachaganakロシアロシアロシアMoscowYeletsSoyuzルーシベラルベラルベラルベラルルルベラルーシルーシシシMinskevevKievevノルウェーノルウェーノルウェースウェーデンスウェーデンスウェーデンポーランドポーランドポーランドフィンランドフィンランドフィンランドMurmanskShtokhmanovウクライナウクライナイナイナウクライナトルコトルコトルコBluestreamBluestreamBluestreamSamsanアアアルルルメメメグルジアグルジアグルジアニニニアアアハンガリーハンガリーハンガリーハンガリーハンガリーハンガリーハンガリーUzhgorodhgorodルーマニアルーマニアアアルーマニアブルガリアブルガリアブルガリアモルドモルドバモルドバモルモルドバドバモルドモルドドバドバドバドバドドモルドバカザフスタンカザフスタンカザフスタントトトルルルクククメメメニニニスススタタタンンンDauletabadDauletabadDauletabadウウウズズズベベベキキキスススタタタンンンイランイランイランSATsアゼルバイジャンアゼルバイジャンアゼルバイジャン出所:JOGMEC図1ロシアから欧州向けの天然ガスパイプラインネットワークったという。ちなみに、1月26日のインターファクスの報道では、ウクライナを肯定的に受け止めるロシア人は、昨年の60パーセントから54パーセントに低下、逆に否定的に受け止める人が29パーセントから34パーセントに増加している。2006.3. Vol.40 No.22格の製品を西欧に輸出し、利益を上げている。ウクライナは、支払い能力があるにもかかわらず、ロシアに対しては払えないふりをして蓄財している。そもそもソ連時代から、ウクライナがガスを抜き取っていることは周知の事実で、ロシア人は皆「いいかげんにしろ」と思っている。メーターもなく、安い固定料金だったロシアの住宅用ガスの値段は、今やウクライナよりも高くなってしまった。クリミヤ半島はかつてロシア領でロシア人が住んでいたのに、ウクライナ人のフルシチョフがソ連共産党第一書記になると、勝手にウクライナに割譲してしまい、ソ連崩壊の時にも返さないばかりか、今度はEU加盟申請で西側に持っていかれそうな情勢だ、等々。今回のウクライナに対するガス料金値上げについても、ロシア自身もこれまで国内向けの料金改定を受け入れてきたのだから当然という論調で、右も左も世論は完全に一致していた。元日昼のテレビニュースでガスプロムの職員が「本当に」バルブを閉める光景が放送されても、一般市民の間では正当な行為という受け止め方がほとんどであった。同時に、2005年の6月からロシアは値上げ問題について通告し、交渉を開始したにもかかわらず、年末ぎりぎりになって、まるでロシアが突然値上げを突き付けたかのような騒ぎ方をするウクライナの態度に、ロシア市民は、やり方が汚い、欧米諸国のサポートを期待しての所業である、との確信をもつことになった。1月3日に記者会見したロシアのフリステンコ産業エネルギー大臣は、「ウクライナは、国際価格に移行することには異論はないが移行期間が必要だ、と言っているが、ペレストロイカ、ソ連崩壊から今までの十数年間は移行期間ではなかったのか、いったい何年移行期間が必要なのだ」とはき捨てるように発言し、溜飲を下げる市民も多か鴻Vアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?2.ロシアの対応に対する国際的な受け止め方2004年暮れの「オレンジ革命」以来、ウクライナのユーシェンコ政権は親ロシア政策を放棄して、EUとNATOへの加盟を志向する親自由主義国家となった。ロシアにしてみれば、天然ガスの「友好価格」で同国を優遇する必然性はなくなったわけで、今回の措置は「新たな市場価格原則を適用したもの」(プーチン大統領)に過ぎない。2005年に、ウクライナがEUから「市場経済国家」の認定を受けた以上、西欧諸国と同等の市場価格でエネルギーの提供を受けるべきだという理にかなった主張でもある。2005年には、油価は一時的にバレル当たり70ドルを付けるまでに高騰し、これにつられてガス価格も上昇した。市場価格である対西欧向け(旧東欧諸国も含む)は250ドル/1,000立方メートル(7ドル/百万英国熱量単位)という価格となり、対ウクライナの数倍と大きな開きが出ていた。一方、ロシア国内では、進行するインフレによる操業費増、資機材費の高騰、ユーロ高によるドル価値の目減りが進行し、ガス価格の値上げは実行の急がれている課題であった。今回の措置に関して、ロシアがEU諸国を敵視したわけではなく、EU諸国で重大なガスの供給途絶が起こったわけでもないにもかかわらず、EUおよび米国の政府と主要メディアは、CIS諸国に対するガスの供給カットは政治的な動機に基づいたものであり、エネルギー供給者としてロシアは信頼できないとするものが圧倒的であった。また、日本の報道もほとんどがこれを踏襲していた。欧米からの強い反発の理由は、エネルギー供給者がその供給力を「武器」として使ったというのが主な点であろう。特に、3月に総選挙を控えたウクライナに対するガスの供給削減は、現政権への揺さぶりとも言える行為と映ったようだ。これまで石油は、それこそ第1次石油ショックのはるか以前からたびたび武器として使われてきた。ベネズエラは中南米諸国に安価な石油を提供することで政治的影響力を強めようとしており、イランもアフマディネジャド大統領が就任間もない2005年9月に「武器としての石油(OilWeapon)」の発動を示唆している。欧州の場合、LNGはあるもののパイプラインで生ガスの供給を受ける地域が主であり、産ガス国が「武器としてのガス」を使う誘惑にかられるのは悪夢に違いない。ここは牽制しておくべきと、西欧諸国は思ったかもしれない。しかし、この主張には無理がある。後述のように90年代、ウクライナはロシアからのガスについて、たびたび不払いと抜き取りを繰り返し、ロシア側は年中行事のようにガスの供給停止で対抗してきた。ロシアは、パイプライン通過国でありながらその責任をまっとうする気のないウクライナという国からずっと迷惑を被ってきた立場である。そしてこの当時、国際世論はCIS内部の内輪もめ程度の認識しか持たなかった。今回もロシアはガス供給国としての対抗策を講じたに過ぎない。変わったのは、ウクライナが自由主義陣営に入ったという点である。国際世論においては、2004年12月の「オレンジ革命」を熱狂的に支持した地合いが依然続いていることに、ロシアは無頓着であったようだ。西欧諸国から強い批判があがったことは、明らかな外交的誤算であった。プーチンが読み誤ったのは、ウクライナがもはや「クライ(krai,辺境)」の土地ではなく、欧米と監視するジャーナリズムが虎視眈々自由主義世界の中だという点である。ライス米国務長官は、「世界経済の一員たりたければ、ルールに従う必要がある。このような行動は、G8のリーダーに期待される姿と距離がある」たんたんと、ロシアが議長国となり、エネルギー安全保障が主な議題となる7月のサンクトペテルブルグ・サミットを念頭に置いて強い調子で牽制に出ている。フィナンシャルタイムズ(2006/1/4)も珍しく「ロシアは周到な準備のもと、厳しい態度で高価なガスを押し付けた。欧州がロシアに依存するのは緊張むものである」(Buckley,2006)を孕と、これに同調する論調である。はら一方ドイツでは、前首相のシュレーダーがロシアからのガス輸入計画に熱心であったことから、その路線との差別化を図りたいメルケル首相は、「ドイツは、ガス供給源の分散に全力を尽くす必要がある」(2006/1/1)と、NEGP計画の見直しがあるかのような発言をした。しかし、代替源が短期間に見つかるはずもなく、1月16日にモスクワでプーチン大統領とイランの核問題を協議した際には、ロシアに対して、エネルギー資源の世界的な供給国としての役割を強く認識するよう改めて要請したものの、一方で、両国で取り組んでいるNEGP計画は予定通り進めることを確認しており、事業の上での影響は出ていない。これに対してプーチン大統領は、今回の係争でロシア側からの説明が不十分であったと陳謝し(各紙2006/1/18)、関係維持に腐心している。日本の多くのメディアは「エネルギーをてこにウクライナに屈服を迫ったロシアの外交的敗北」といったトーンが主流である。一部で、「ロシアは昨年夏に、資源供給をてこに、旧ソ連の親ロ派と親欧米派を差別化し、後者に圧力をかける新政策を決定した」(読売、2006/1/04)という報道もあった。いかにも俗耳に入りやすい刺激的な話であるが、例えば表1にあるように、親ロ派の代表のようなアルメニアと、ロシアから離反する「カラー革命」の先頭を切ったグルジアが、ともに110ドル/1,000立方メートルという新ガ3石油・天然ガスレビューAナリシス遭って袋叩きにされた、といった「陰謀史観」はどうやら当てはまりそうにない。日本でも、プーチン政権が批判を承知で強硬策に出たとして、ロシアの強くなった立場を認識する論評も一部で出ている(日経,2006/1/12)。ロシアにとっても、隣国、それもガス輸送インフラの8割を押さえる国が、EUとNATO加盟を目指すのは、基本的には受け入れ難いことであろう。NATO陣営と陸域で対峙する際に、ロシアにとっては「戦略空間」というものがどうしても必要で、間に空間を配置することにより、他陣営からの侵攻の可能性をいち早く把握する早期警戒網を機能させることが、国境における安全保障の第一義である。この空間というのが、ベラルーシとウクライナに他ならない(三井,2005)。ロシアの国防関係者が、「カラー革命」に始まる自由主義陣営からの政治的な圧力を憂慮していることは事実である。しかし、今回のガスの値上げという措置は、国際的なエネルギー価格上昇に対処しようとする経済的な「調整」でこそあれ、ウクライナのEU、NATO加盟阻止を目的とした政治の発動ではあるまい。日本に駐在するあるロシア人は、ガスの値上げ策が相手国にとって不人気なのは初めから分かっていることだ、「政治的目的」を達成するためならあえて不人気策を選択するだろうか、これはあくまでビジネスの問題ではないのか、と筆者に語っている。ロシアが商品(コモディティ)の値上げという「懲罰的措置」により、3カ月後に総選挙を控えたウクライナ国民を翻意させようとしているという解説には無理がある。他の旧ソ連邦諸国に対しても一様にガス価格の値上げを通告している以上、ウクライナに対する措置のみが「政治的道具」に当たるというのは強弁というものであろう。ス料金を要求されていることから、今回の改定はあくまで経済的な観点からのものであり、政治的な要素が全くないことが見て取れる。改訂されたガス価格は、国によって、輸送コストの差、通過タリフをガスとバーターする際の計算方式の違い、あるいはその国におけるガスプロムの持つパイプライン権益の程度を勘案して、経済的に算出されたものである。露骨な親ロ政策を採るベラルーシは昨年並みの46.68ドル/1,000立方メートルと料金据え置きではないか、といった疑問を呈する向きもあるだろうが、後述するように、昨年ベラルーシは保有するパイプライン権益の50パーセントをガスプロムに譲渡する見返りに、ガス価格を据え置く策を選んだ。このぐ国では、インフラを売って糊口を凌生活が始まっているようである。世界を手玉に取ろうとする寒い国の政治家が、自由主義的な民衆の抵抗に筍たけのこしの3.ガスプロムに対する市場の評価政治の世界でロシア非難の大合唱がなされているさなか、市場ではガスプロム株が堅調な値上がりを示した。モスクワ証券取引所では、2006年1月13日時点で、ガスプロムの株価はクリスマス休暇明けの10日から25パーセント上昇した。また、外国人投資家の取引制限が緩和されたことも受けて、ロンドン証券取引所のガスプロムの米国預託証券(American Depositary Receipt:ADR)は、1月13日の時点で月初比27パーセント上昇した。今後のガスプロムの存在の拡大を織り込んだ市場の動きと思われる(IOD,2006/1/17)。には1,500億ドルと言われていたが(日経, 2005/12/24)、この値上がりにより2,000億ドルに達し、トヨタを抜いて世界第7位にランクされた(Bloomberg,2006/1/12、IHT,2006/1/15)。また、メジャーズと比較すると、国際価格で売れるガスが生産量の約25パーセントという状況の下で、総売上高では依然低いままだが、時価総額では2,002億ドルとエクソンモービル(3,794億ドル)、BP(2,428億ドル)、シェル(2,257億ドル)に次いで第4位であり、第5位のトタール(1,663億ドル)を大きく引き離している(FT,2006/1/17)。スタンダードアンドプアーズは、ガスプロムのこれまでの格付けをBBからBB+に引き上げた(Interfax, 2006/1/18)。ガスプロムの時価総額は、2005年末株価指数の提供会社であるモルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)は、ガスプロム株の外国人保有制限が事実上撤廃されたことを受け、世界の投資家に利用されている新興企業株価指数「MSCI EmergingMarket Index」におけるガスプロム株の構成比率を0.4パーセントから3.7パーセントへと引き上げると報じられている(ビジネスアイ,2005/12/30)。構成銘柄では最大の比重を占め、新興市場ファンドにとっては最も注目される。ガスプロムの保有するガス埋蔵量は1,180兆立方フィート、全世界の24パーセントを占め、資源量から見ても世界最大のガス企業である。ガスの販売価格も上げることができた。西側一般紙の論調をよそに、市場はその将来性を大いに買っている。2006.3. Vol.40 No.24鴻Vアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?4.欧州ガス専門家の見解多くのエネルギー専門誌は、今回の一連の動きについて冷静に伝えており、あくまで「ビジネス」上のディール、あるいは経済的もめごととして報道している。欧州ガス問題の一方の権威であるジェームズ・ボ?ルの主宰するガスマターズ誌は、政治的な見方を否定する一方で、NEGP計画については西欧世論の批判対象になる可能性も考慮に入れるなど、悲観的な見解も紹介している(Ball,2006)。しかし、英国で発行されているペトロリアムアーガス誌などは、「米国はロシアからの供給リスクについて警鐘を鳴らすだろうが、皮肉にも、ロシアから西欧への供給契約は冷戦時代からきちっと守られてきており、ウクライナとの係争は多少の混乱を生んだに過ぎない」(2006/1/09)と冷静な見方であり、英国のペトロリアム・エコノミスト誌の社説と同様に大方の見解を代表している。欧州における天然ガス研究の第一人者であるオックスフォード大学エネルギー研究所のジョナサン・スターンは、ロシアがウクライナに対して西欧並みのガス価格を課したことと、ウクライナ領内でのパイプラインとガスの地下貯蔵タンクの所有権を要求したことについて、全く経済的な理由からであるとして、ガスという政治的な「武器」の発動といった見方を排している。また、市場価格化を原則に掲げるWTOが、ロシアに対してエネルギー価格の市場化を要求しておきながら、今回の件ではロシアがウクライナにガスの市場価格並みの改定を要求して始まったこと(後述)については沈黙していると、痛烈な皮肉を投げ掛けている(Stern,2006)。「石油の世紀」で著名なダニエル・ヤーギンの主宰するCERA(ケンブリッジ・エネルギー研究所)は、むしろこれこそが、ロシアが旧ソ連諸国に対する「政治」を棄てて「経済」を選択した結果であると、斬新な指摘をしている(Hardin,2006)。この見解の方が遥かに説得力を持つのではないか? ソビエト連邦の崩壊の後も、ロシアは、これら連邦を構成してきた国々に対して、自国の経済的な混乱や、これら国々の支払い遅滞問題があるにもかかわらず、CISの結束のために割安なエネルギーを供給する責任を果たしてきた。今回のガス価格切り上げは、ガス価格に関して、石油価格に間接的ながらリンクしつつ、西欧レベルの国際価格に近づけようとするもので、ロシア自身の経済的利益のためには旧ソ連諸国をもはや特別扱いしないという「脱政治」への政策転換であるとも言える。90年代、「友好価格」で安価なガスを供給してきたにもかかわらず、CIS内では「民主化ドミノ」が進行した。安価なエネルギーは、これらの国をつなぎとめるのに効力を持たなかった。エネルギーはとうに政治の道具ではないことが証明されていたのである。ガスを多めに抜き取ったり、旧態依然の「友好価格」という補助金にしがみついてきたりしたガス通過国の姿勢こそが、過去のものになろうとしている。ロシアは、国際市場価格で効率的なビジネスを展開する方に、よほど魅力を感じていると言えよう。CERAはまた、今回の抗争を「ロシアの勝利―ただし一点を除いて」と総括している(Telyan & Gustafson,がりょうてんせいを欠いたのは、ウク2006)。画竜点睛ライナにおけるパイプライン管理権を取得できなかった点であるとの見解である。ベラルーシの問題は、前述のように、昨年ガスプロムが50パーセントのパイプラインの権益を取得することにより解決した。今回は実現しなかったが、ロシアがウクライナを通過するパイプラインの権益を取得すれば、ウクライナ領内でのパイプライン管理において透明性を確保することができる。ガスの抜き取りが横行し、時に下流の国に対する影響が出るようなこともなくなるであろう。一方、2004年のユコス問題以降、ロシアの国家管理が強まってきていることは事実で、欧米を中心にこれを憂慮する報道は衰える気配がない。ロシアにおけるこの管理強化は、許認可権限の拡大や、生産制限にまで波及しており、投資環境という次元では外資にとって明らかにマイナスであるし、石油の増産ペースもこれによりスローダウンしてきていることも確かである。また、ロシア国内の報道機関の独立性にも大いに疑問がある。しかし、このこととエネルギー供給者としての信頼性とは、全く異なった次元の議論である。現在よりもはるかに強い国家管理がなされていたソビエト連邦時代、西欧へのガス供給は完璧なもので、もっとも信頼できる供給者であった。エネルギーの安全保障とは、エネルギー産業というビッグビジネスを遂行する強固な意思と能力を有することに他ならない。今後のエネルギー問題全般を考える際には、安易なレッテル貼りや、硬直した旧来の認知フレームにとらわれることなく、事実に基づいた冷静な分析と対応が必要と言える。5石油・天然ガスレビュー.ガス価格改訂に至る流れ(1990年代から2005年まで)盧 ロシアのガス輸出におけるウクライナの位置づけ近年のウクライナのガス需要は、年間760億?775億立方メートルである。2005年のウクライナの、自国におけるガスの生産量はその27パーセントに当たる204億立方メートル、トルクメニスタンからの輸入分が370億立方メートル、その他にガスプロムの欧州向け輸出ガスの通過タリフ収入として230?250億立方メートルがある(Interfax,2006/1/10)。すなわち、ロシアから輸入されるガスは、実質的に、ロシアからウクライナを通過して欧州市場に輸出されるガスの通過タリフを天然ガスの現物で支払ったものと言える。トルクメニスタンからのガスもロシア経由で入ってくることを合わせると、ウクライナにとってロシアは、国内ガス需要の4分の3を占める唯一のガス供給国である。一方、ロシアにとってウクライナ自体は、比較的規模の小さいガス輸出市場に過ぎないが、欧州向けガス輸出の約80パーセントに当たる1,200億立方メートル/年を通過させている国である(図1参照)。このことから、お互いに重要な存在であると言える。そして、両国のガス関係者はそのことを十全に認識し、長い間に強固な関係を築いてきた。ウクライナを通過地とするロシアからの天然ガスパイプラインとしては、主なもので1967年建設のチェコスロバキア(当時)に至る「兄弟(ブラツボ:Bratstvo、英語名Brotherhood)」パイプライン、1978年に建設されたオレンブルグ・ガス田を起点とし東欧6カ国(東ドイツ、チェコスロバキア、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、ルーマニア)に至る総延長2,700キロメートルの「連合(ソユーズ:Soyuz)」などがあり、その後も拡張されている。一方、ウクライナの北に位置するベラルーシを通過するパイプラインとしては、1973年にウレンゴイガス田を起点とし、ウクライナのウシュゴロドを経由してチェコスロバキアに入り西欧に至る、総延長4,200キロメートルの「北光(ノーザンライツ:NorthernLights)」パイプラインや、それに併走して建設中のヤマル?ヨーロッパパイプライン(モスクワ北郊以南まで完成)などが建設されている。当初は、ロシアからの輸出量のうち、ウクライナ経由が90パーセント強を占めていたが、ヤマル?ヨーロッパパイプラインの完成によってベラルーシ経由が拡充し、ウクライナ経由はロシアからの輸送量の80パーセントとなっている。ガスプロムがロシアから欧州各国へ輸出する天然ガスは、図1に見る通り、いずれもベラルーシ、ウクライナを通過する。そしてバルカン諸国に対しては、ウクライナからさらにモルドバを通って供給される。2004年の輸出量は約1,600億立方メートル、このうち、ウクライナを通るのが1,200億立方メートル、ベラルーシが400億立方メートルである。昨年、計画が発表された北ヨーロッパガスパイプライン(NEGP)は、ウクライナ、ベラルーシを迂回して、バルト海経由で直接ドイツのグライフスバルトに陸揚げするもので、容量は300億立方メートル、欧州への輸出総量は1,900億立方メートルまで嵩上げされる。盪天然ガス通過におけるロシアとウクライナの関係1990年代、ウクライナはガス代金の不払いを間欠的に繰り返し、ロシアに対して多大な負債を抱えていた。一方、ロシアはこれへの懲戒として一時的に送ガス量を削減すると、ウクライナ側は通過タリフ分の引き取りを一方的にアナリシス増加させて埋め合わせる、すなわち「抜き取り」を行うということを繰り返してきた。少なくとも、93年、94年、95年、97年、98年に同様の係争が起こり、これはほとんど年中行事の観を呈していた。このウクライナの債務が解決したのは、2004年夏、両国が集中的にガス問題の解決に取り組んだ話し合いの場においてである。合意した内容は、2005年から2009年までの間、ウクライナは毎年210億?250億立方メートルのガスをガスプロムの欧州向け販売ガスの通過量として受け取るというもので、契約上、ガス価格は50ドル/1,000立方メートル、通過タリフは1.09375ドル/1,000立方メートル/100キロメートルという取り決めであった。ウクライナを通過するパイプラインの長さは、ソユーズが約1,100キロメートル、ブラツボが約800キロメートル、平均して1,000キロメートル弱とすると、欧州向けに毎年約1,200億立方メートルが送られることから、通過料は約12億ドル。それを50ドル/1,000立方メートルという価格で現物に直すと、約240億立方メートルという水準になる。ウクライナの輸入するガスの半分はタリフ見合いであり、実質無料で供給される形となった。この時、債務問題も処理し、今後新たな問題は発生しないものと関係者は確信していた。この話し合いで、ウクライナへのガスの販売をロスウクルエネルゴ(RosUkrEnergo)という会社を設立し委託することが決まった。同社は、ガスプロムバンク50パーセント、ライファイゼン・セントラルバンク(オーストリア)50パーセントの合弁企業として設立された。この会社の前身はハンガリー法人のユーラルトランスガス(ハンガリー)であり、トルクメニスタンのガスをウクライナへ輸入する業務を扱う会社として、2001年12月に設立され2006.3. Vol.40 No.26鴻Vアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?た(Interfax,2006/1/10)。ユーラルトランスガスは、不正な行為があるとの疑惑で2004年7月に捜査を受けたことから、ウクライナのクチマ大統領(当時)とプーチン大統領との間で、新会社ロスウクルエネルゴを設立することで合意し、同月22日にスイスに登記された。この50パーセントを保有するライファイゼン銀行は、あくまで株式保有を代行しているのみであり、実際の保有者については情報公開されていないが、「複数のウクライナの投資家」であるといわれている(Interfax,2006/1/10、RadioFreeEurope,2006/1/04)。クチマ前大統領の肝煎りで設立された経緯から見て、同大統領に連なる人物の可能性がある。2005年に入って事態は思わぬ展開を見せる。2004年暮れの選挙で発足したユーシェンコ政権は、2004年の合意を破棄する形で、2005年3月、ガスプロムに対して、天然ガスのウクライナ通過料を「欧州並み」の2.6ドル/1,000立方メートル/100キロメートルとし、かつ天然ガスとのバーターでなくドルのキャッシュで支払うことを提案した。これはウクライナ側の浅慮という他ない。ガスプロムはこの提案を逆手に取り、同年7月には、ロシア下院が旧ソ連邦諸国は「欧州並みのガス価格」を支払うべきことを決議した。これに対抗してウクライナ側は、2004年の債務解消協定をウクライナ側の持ち出しとなる不公正なものと批判し、一方で、その際に設立したロスウクルエネルゴについても犯罪性があるとして強制捜査を行った。これにより、2004年に決着したかに見えた両国の天然ガスを巡る係争は、再び泥沼化の様相を呈し始めた。そしてなお悪いことに、この時期に石油価格は歴史的な高値となり、西欧においてガス価格も高騰し始め、50?80ドルというCIS向け価格との間に3ないし4倍の開きが出た。ガスプロムのミレル社長は2005年6月28日に、ウクライナの石油ガス公社ナフトガス・ウクレイニ(以下ナフトガス)に対して現行50ドル/1,000立方メートルのガス価格を2006年1月から160ドル/1,000立方メートルに値上げする方針を伝えていたが、11月25日、モスクワで開催されたCIS首相級サミットにおいて、ガスの輸出価格の大幅な値上げを通告した(Moscow Times,2005/11/28)。この内容は29日、ガスプロム本社で開催された同社主催の「Russian GasForum 2005」の場でも一般に公表された(IOD,日経,2005/11/30)。今回の対旧ソ連邦諸国に関する発表、およびその他地域でのガス価格改定の動きは表1の通りである。ウクライナ側が段階的な値上げを要請すると、12月8日には、ガスプロムはさらにこれを西欧向けの250ドル/1,000立方メートルに近い230ドル/1,000立方メートルへと引き上げた。6.ロシアとウクライナのガス紛争の経緯盧2005年末?2006年初の係争クレムリンは、ウクライナが新価格をのむのであれば、当初の3カ月は価格据え置きでも良いと多少の譲歩を示した。これは、2006年3月に予定されているウクライナの議会選挙の後に値上げを実施してもよいという「政治的配慮」であった(その意味では、プーチン大統領のやり方に、相手国の選挙にあまり影響を与えたくないという意味での「政治性」は確かに存在する)。1月1日のモスクワ時間で午前10時に、ウクライナがこれを拒絶し、ガスプロムはウクライナへのガス供給を日量1億立方メートル(ロシアからの輸送量の約20パーセント)削減した。しかし、ウクライナによる抜き取りのためにロシアからのガス供給が、ハンガリーで40パーセント、オーストリアで30パーセント、フランスで25?30パーセント、イタリアで24パーセント、ポーランドで14パーセント、そのほかスロバキア、ドイツ等でも低下したと伝えられる(各紙,2006/1/03)。米国務省は1日、ロシアがエネルギーを政治圧力に使ったとしてこれを批判し、欧州連合(EU)も4日、緊急会合を開いて批判に回ったため、ロシアとウクライナは3日から再交渉し、ナフトガスのイフチェンコ社長とガスプロムのミレル社長が、以下のような合意を発表した(各紙,2006/1/05)。「ガスプロムは、合弁企業ロスウクルエネルゴに対して、通告どおりの230ドル/1,000立方メートルの価格でガスを販売する。同社は中央アジア産のガス(55ドル/1,000立方メートル)とを混合させ、ウクライナのナフトガスに対して95ドル/1,000立方メートルで販売する。また、欧州向けガスのウクライナ通過タリフは現行の1.09ドル/1,000立方メートル/100キロメートルを1.60ドル/1,000立方メートル/100キロメートルに引き上げる。」ロシアはこれまで、ロシアと欧州を結ぶウクライナ領土内のガスパイプラインと地下貯蔵施設に関しては共同管理を主張していたが、今回、ウクライナはこれを拒否している。一方、ウクライナが輸入する天然ガスについては、ガスプロム影響下にあるロスウクルエネルゴが一元管理することとなった。これは、ガスプロムにとって一定の成果であると言える。1月11日、プーチン大統領とユーシェンコ大統領は、カザフスタンのナザルバーエフ大統領の就任式にともに出7石油・天然ガスレビューカゅんしゅ席し、今回の係争以来初めて会談した、両者の協力が、その席で契約の遵守を確認した。これは、政権同士では既に問題が解決している、という懸命な演出である。なお当初の合意では、1月21日にナフトガス、ガスプロム、ロスウクルエネルゴの3社により、ウクライナの消費者へのガス販売を担うロシア=ウクライナの合弁企業「ガストランジット(Gaztransit)」を設立する予定であった(Interfax,2006/1/18)が、会議は若干延期となり、2月1日に「ウクルガス?エネルゴ(Ukrgaz-Energo)」という別名称で設立した(Interfax,2006/2/02)。この会社は、ロスウクルエネルゴとウクライナ消費者との間に介在する組織といわれ、その設立の趣旨は依然として不明確なままである。1月10日には、ウクライナ議会は、ガスプロムとナフトガスの契約が国の経済に悪影響を与えるとして、イエカヌロフ内閣の不信任投票を行い、可決した。内閣は60日、つまり3月12日までしか存続できない。一方、議会選挙は3月26日に行われる。ティモシェンコ前首相らの主張する受け入れ難い契約条件というのは、特に低目の値上げしか勝ち取れなかった通過タリフが5年存続であるのに対して、値上げを抑制したガス価格がわずかに6カ月有効というもので、ウクライナにとって不利な合意であるという主張である。フィナンシャルタイムズ紙(2006/1/ 11)は、これは市場価格であるガス価格とコストに連動するべき通過タリフの違いを受け入れようとしない思考法であると皮肉っている。盪 2006年のウクライナのガス輸入契約(図2参照)①トルクメニスタンからの輸入今回の契約では、ウクライナがトルクメニスタンから410億立方メートルを受け取ることになっている(TheMoscow Times,2006/1/11他)。この価格は、トルクメニスタン、ウズベキスタンの国境で50ドル/1,000立方メートル、しかもそれは2006年前半の値であり、後半は60ドル/1,000立方メートルに値上げされる。時に、55ドル/1,000立方メートルと報道されるのは、この平均値をとったものである。購入量に関しては、報道によって360億立方メートル(WGI,2006/1/04)、390億立方メートル(WGI,2005/11/30、Interfax, 2006/1/10)、あるいは400億立方メートル(PON,2006/1/06、IHT,2006/1/11)などとまちまちで、契約内容がどの程度公開されているのか疑わしい。ここでは、複数の信頼できるJOGMECのコンサルタントの間で一致した数字を採った。②カザフスタン、ウズベキスタンからの購入ロスウクルエネルゴは、カザフスタンから80億立方メートル、ウズベキスタンから70億立方メートル、合計150億立方メートルを、トルクメニスタンと同じく55ドル/1,000立方メートルで購入する(The Moscow Times,2006/1/ 11)。従来、両国からウクライナに対する天然ガスの輸出が詳しく報道されたことはなく、今回の契約に含まれたことは奇異に感じられるが、今のところ詳しい論評はない。トルクメニスタンからロシアに向かう天然ガスパイプラインであるSATsラインは、途中ウズベキスタン、カザフスタンの西部を経由するが、カザフスタンにおいては、主力ガス田のカラチャガナクのある北カスピ堆積盆地を通る。硫化水素の多いカラチャガナクガス田は自前の脱硫プラントを持たず、ガスは隣接するロシア領のオレンブルクガス田へ輸出され、ここのプラントで脱硫処理された後、ソユーズパイプラインに入る。ウズベキスタンからロシアへは、アナリシス2005年に81.5億立方メートルのガスが輸出されている。2006年もほぼ同規模の輸出になると見込まれている(Interfax,2006/1/20)。両国のガスの一部は、コーカサスからのガスとスワップによるとの説明がある(The Russian Energy Weekly,2006/1/10)。③ロシアからの輸入ロシアからは170億立方メートルを、230ドル/1,000立方メートルで購入する。これとトルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタンとの合計は730億立方メートルであるが、ロスウクルエネルゴがウクライナに販売するガスの量は560億立方メートル(他の情報ソースでは580億立方メートル)である。残りの170億立方メートルは、ロスウクルエネルゴが独自に、欧州市場に再輸出するという。これは、国際価格で販売されることとなり、同社の利益に上乗せされる。ロスウクルエネルゴにとっては、これは新たな収入源となる性格のものである。報道では、ロシアからの高価な170億立方メートルと、中央アジアからの廉価な560億立方メートルのガスを一定比率で混合させて、95ドルのガスをウクライナに売ると書かれているが、あたかも薬品を調合するようなイメージの書きぶりが多い。あえて比率を求めると、230ドル/1,000立方メートルのロシア産ガスを128億立方メートル、55ドル/1,000立方メートルの中央アジア産を432億立方メートルという計算になる。しかし、パイプラインネットワークはワン・システムであり、ガスがどこからか入り、玉突きでどこからか出るだけである。分子レベルでどの国のガスがどの国に輸送されるかを考えても意味がない。あくまで契約上の量と値段を決めて、購買者の手前にある流量計を実際に見て、金額を請求するのみである。2006.3. Vol.40 No.28001-012_アナリシス01 06.4.14 10:46 ページ 9ロシアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?1月11日付のモスクワタイムズは、ナフトガス側の「ウクライナが受け取るのは、全量中央アジア産であり、ロシアからのガスはない」という発言を紹介している。これは、図2に見る通り、ガスプロムから供給されるガスは、ロシア産のウクライナ通過ガス1,200億立方メートルに加えて170億立方メートルが全量、欧州市場へ再輸出されると見なし得るという意味と思われる。これは、契約上の概念と実際のガスの物理的な動きを意図的に混同させたもので、ウクライナ国内向けの政治的な発言であろう。蘯通過タリフの改訂欧州向けガスのウクライナ通過タリフは1.09375ドル/1,000立方メートル/100キロメートルから1.60ドル/1,000立方メートル/100キロメートルに引き上げられた。この契約は5年間有効である。ウクライナへのガス販売価格が約2倍になり、今後もさらに値上げの可能性があるのに比べ、タリフはわずかに約1.5倍の値上げで、かつ5年間固定で、ロシア側に一方的に有利なものとなっている。ウクライナを通過するタリフは、これまではバーターとしてガスの現物を受け取っており、昨年のウクライナの通過料としての受け取り量は約240億ウクライナロシア欧州市場(需要の25パーセントがロシアから)170億立方メートルウクライナ(ナフトガス)560億立方メートル@95ドル/1,000立方メートルウクルガスエネルゴ(UkrgazEnergo)自国産ガス 200億立方メートルナフトガスロスウクルエネルゴ5050パーセントパーセントガスプロムバンクライファイゼン・セントラルバンク出所:JOGMEC1,200億立方メートルロスウクルエネルゴ(RosUkrEnergo)170億立方メートルガスプロム@230ドル/1,000立方メートル80億立方メートル50パーセント  50パーセント150億立方メートル@55ドル/1,000立方メートル410億 立方メートル70億立方メートル@55ドル/1,000立方メートルカザフスタンウズベキスタントルクメニスタン図2ロスウクルエネルゴを介してのウクライナへのガス販売契約の概要立方メートルである。今後は現金決済となる。盻トルクメニスタンの対応トルクメニスタンは、2004年末にロシアに対して、2007?2008年のガス価格について60ドル/1,000立方メートルを要求して紛糾し、対抗措置として2005年1月からはガスの対ロシア輸出を削減していた。4月に、ロシア側が、これまで含めていた現物支払いを止め、すべてキャッシュ払いにすること、および2006年までは100億立方メートルを固定価格である44ドル/1,000立方メートルで購入し、価格の交渉については2007年渡しの分から行うことで合意し、ガス輸出が再開された。2005年の購入量は60?70億立方メートルである(IOD,2005/4/18)。ニヤゾフ大統領は、2006年1月1日をもって、ウクライナおよびロシアに対する輸出額を60ドル/1,000立方メートルとすることを、すでに2005年11月に宣言している(WGI,2005/11/30)。同大統領は、これは、油価の高騰にリンクすると同時に、上昇傾向にある探鉱費、パイプライン輸送コスト等を勘案した措置で、正当化されるべきものとしている。その後、12月末に価格は65ドル/1,000立方メートルまで引き上げられた(PON,2006/1/06)。輸出量は300億立方メートルである。今回の輸出価格の決定に関して、トルクメニスタン側のコメントは発表されておらず、これに至る過程でロシア、あるいはウクライナといかなる交渉がなされたのかは不明である。今回の措置においては、これまでの合意を破棄したものと思われるが、トルクメニスタンが何らかの対抗措置を取ることは大いに予想される。今回の決定が不安定と呼ばれるゆえんである。7.その他の国との関係盧ベラルーシガスプロムとベラルーシの国営天然ガス輸送会社ベルトランスガスは、2005年12月末に、2006年は210億立方メートルのガスを、前年同様の46.68ドル/1,000立方メートルで据え置くこと、ベラルーシ領内を通過するガスに対しては通過タリフを0.75ドル/1,000立方メートル/100キロメートルとし、ロシア側が50パーセントの権益を有することになったヤマル?ヨーロッパパイプラインでは0.46ドル/1,000立方メートル/100キロメートルとすることで合意した。2005年分の契約では、201.5億立方メートルが供給され、さらに通過分として404億立方メートル、うちヤマル?ヨーロッパパイプライン経由が217億立方メートルであった(Interfax,2005/12/27)。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ロシアとの緊密な関係を保ち、国家統合の過程にある。今回の合意は両国の経済的な一体性を表すものである。また、ガスプロムと共同でガスの地下貯蔵設備の建設で協力することになっている(Interfax,2006/1/18)。同時に、この契約の中で、価格据え9石油・天然ガスレビューuきと既往の負債免除の代償として、ヤマル?ヨーロッパパイプラインのベラルーシ区間がガスプロムの所有となった(IHT,2005/12/30)。2006年からロシアはさらに、同パイプラインの通過権(right of way)を長期リースで保有できるようになった。同パイプラインは、ロシアから欧州へのガス輸出の10パーセント、ベラルーシを通過するガスの50パーセントが通る。残りの50パーセントのガスがノーザンライツパイプライン経由で輸出されている。ロシアとベラルーシとの関係は、1996年に「共同体形成条約」、97年に「連合条約」、そして99年には「連合国家創設条約」を結び、2000年1月には批准書を交換するなど、国家連合の形成が順調に進むかに見えたが、2001年に再選を果たしたルカシェンコ大統領(初当選は1994年)は、内部には強権的な姿勢を強める一方、ロシアからの天然ガス代金の支払いは滞るなど、両国関係は次第に軋轢を増してきた。あつれき2002年6月には、プーチン大統領自身が連合国家構想を批判するようになり、実質的に構想は頓挫した状況であった。その間、ガスプロムはベルトランスガスのパイプラインインフラの譲渡を迫っていたが、2003年にルカシェンコ大統領がこれを拒絶すると、2004年2月からガスプロムは、ベラルーシへのガスの供給を削減した。パイプラインの下流のドイツやオランダは、貯蔵ガスを利用することでガスの不足分を何とか凌いだが、この時でも、ロシアに対する批判は起きていない。2005年12月の交渉では、ベラルーシは一転して、ロシアへの対抗心を喪失していた。ガスプロムは念願のヤマル?ヨーロッパパイプラインの100パーセント権益を手にし、ベラルーシはその対価として天然ガス価格の据え置きという措置を受けることができた。2004年のガスの供給途絶という荒治療は、モスクワに、外交的揺さぶりとしアナリシスて効果を発揮したとの印象を持たせたことであろう。恭順の意を表したルカシェンコ政権に対するモスクワの評価は冷ややかと伝えられる。両国は、協調する姿勢ではあるが蜜月ではない。ただし、このベラルーシモデルは、当然ウクライナに対しても有効とロシアに思われている節がある。盪モルドバモルドバに対する天然ガスの供給停止は、ウクライナと同様に1月1日に実施された。ウクライナとの間では合意が成立したものの、モルドバとは話し合いに入れず、11日には欧州委員会(EC)が話し合いに入るよう勧告した(FT,2006/1/12)。ガスプロムは、昨年の2倍に当たる160ドル/1,000立方メートルという価格を主張し、モルドバのウラジミール・ボロニン大統領は、これは政治的意図に基づくもので受け入れがたいと反発している。結局、1月16日に、ガスの価格を2006年第1四半期に限り、110ドル/1,000立方メートルとすることで合意した(PON,2006/1/18)。モルドバは、ロシアによるブルガリア、トルコ、マケドニア、ギリシャへのガス輸出の通路に位置する国である。ここでのパイプラインインフラの権益について、ロシアは高い関心を寄せていたが、今回、その影響力を高めることに成功した。ガスプロムは、ロシアとモルドバによるガス輸送ジョイントベンチャー(JV)であるモルドバガスの50パーセントを保有しているが、さらにトランスドニエステル地方政府の保有する13.4パーセントも獲得することで合意した(IOD,2006/1/18)。トランスドニエステル地方は、ドニエステル川東岸に位置するロシア人の多く住む地域で、1991年8月27日にモルドバ共和国がソ連邦から独立した後も、92年春にはモルドバ人とロシア人との武力衝突が起きた。同年7月のエリツィン=スネグル合意で、トランスドニエステル地方には特別の政治的地位が与えられている。今後もこの地域は親ロシアに傾斜してゆくものと思われる。蘯コーカサス諸国グルジア、アルメニアに対するガス価格は、従来62ドル/1,000立方メートルであったものを、110ドル/1,000立方メートルまで引き上げた。グルジアは、CIS内部で民主ドミノの発端となった国であり、一方でアジャリアのバトゥーミ、南オセチアのアハルカラキでは依然ロシア軍が駐留し、緊張関係が続いている。この地域での天然ガスの市場価格は65?70ドル/1,000立方メートルであり(Moscow Times,2005/11/28)、ガス価格の引き上げは経済的に大きな打撃になるものと思われる。一方、アルメニアはCISの中でも最も親ロ色の強い国であったことから、グルジアと同じ110ドル/1,000立方メートルという今回の値上げ措置には驚きを禁じ得ないでいる(Eurasia DailyMonitor,2005/12/07)。これは、アルメニアへのガスパイプラインはグルジアを経由するものであり、グルジアに対して110ドル/1,000立方メートルというガス価格を提示している以上、ロシアとしてはそれよりもパイプラインの下流にあるアルメニアに対する価格をグルジアより廉価にすることはあり得ないという事情による(RusEnergy社談,2005年12月)。ただし、アルメニアのアンドラニク・マルカリアン首相は、本件はロベルト・コシャリアン大統領とプーチン大統領との協議事項であるとして、直ちに受け入れない方針を示している。アゼルバイジャンは、伝統的に石油の輸出国であるが、天然ガスに関してで、1979年まではイは国内生産が脆弱ぜいじゃく2006.3. Vol.40 No.210鴻Vアは信頼に足らないエネルギー供給国か?政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争?ラン、ロシア、それ以降はロシアからのガスを輸入してきた。2005年12月の第3週、両国が協議に入った。アゼルバイジャンとしては、ガス価格が140?160ドル/1,000立方メートルになった場合には、ロシア産ガスの輸入を停止する措置も考慮していると伝えられたが(Interfax,2005/12/06)、110ドル/1,000立方メートルで決着した。ただし、100ドルという報道もある。アゼルバイジャンにおいては、BP/スタットオイルが操業するアゼルバイジャン沖合のシャーデニスガス田(1999年発見)が2006年にも生産を開始することから、これによる国内供給を見込んでいる。眈ブルガリアブルガリアは、パイプラインではモルドバの下流にあって、バルカン諸国とトルコへのガス輸出の通過地となる国である。ブルガリアのガス需要の97パーセントをロシアが賄っていた。2005年の輸入量は28億立方メートル、一方バルカン諸国、トルコへの通過量は160億立方メートルである。ブルガリアには、1998年にロシアと結んだ12年間のガス供給、通過タリフ協定があり、一定部分のガス価格は石油とガスの国際価格に連動するフォーミュラに基づき決定される取り決めである。通過タリフは、1.67ドル/1,000立方メートル/100キロメートル、これに見合うガス価格として83ドル/1,000立方メートルに固定されてきた。両者を組み合わせると、ブルガリアの購入するガスの価格は平均183ドル/1,000立方メートルとなる。今回のロシア側通告は、ガスを国際価格とすること、通過タリフを現金として、2種類のガス価格をいずれも257ドル/1,000立方メートルとするというもので、ブルガリアにとっては実質40パーセントの値上げとなる。ブルガリアのブルガルガスは、既往の契約は2010年まで有効との立場で、ロシア側の契約再考の申し入れを拒絶している(IHS,2006/1/16)。引用文献1. Ball, James(2006), The geopolitics of the Russian gas dispute with Ukraine, Gas Matters, Jan 2006.2. Buckley, Neil(2006), Gas unde pressure: why Putin is risking the west’s ire in his conflict with Ukraine, Finacial Times, Jan. 4,2006.3. Hardin, Katherine(2006), A new era for regional gas pricing for the Former Soviet Union: Gazprom moves towardEuropenization, CERA Insight(Jan. 11, 2006).4. 三井光雄(2005), 安全保障の視点から見た北東アジア情勢(2005/12/26, JOGMECにおける講演)5. Stern, Jonathan(2006), The Russian-Ukranian gas crisis of January 2006, Oxford Institute of Energy Studies.6. Telyan, Christine & Gustafson, Thane(2006), Russia and Ukraine’s New Gas Agreement - What Dose It Mean and How LongWill It Last? , Decision Brief, Jan.2006著者紹介本村 真澄(もとむら ますみ)[学歴]昭和52年3月東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了[職歴]昭和52年4月平成10年6月平成13年10月平成16年2月[主な研究テーマ]石油開発公団入団石油公団計画第一部ロシア中央アジア室長オクスフォード・エネルギー研究所客員研究員独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構石油・天然ガス調査グループ主席研究員(旧ソ連担当)、現在に至るロシア・カスピ海諸国の石油・天然ガス開発と輸送問題[主な著書]「ガイドブック 世界の大油田」(部分執筆)技報堂出版、1984年「石油大国ロシアの復活」アジア経済研究所、2005年11石油・天然ガスレビュー
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2 旧ソ連
国2 ウクライナ
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア旧ソ連,ウクライナ
2006/03/20 [ 2006年03月号 ] 本村 真澄
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