ページ番号1006231 更新日 平成30年2月16日

石油の過去・現在・未来 ~目から鱗の新資源論~

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レポートID 1006231
作成日 2006-07-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般
著者
著者直接入力 井上 正澄
年度 2006
Vol 40
No 4
ページ数
抽出データ エッセーエムシー・エクスプロレーション株式会社inoue@mpdc.co.jp井上 正澄石油の過去・現在・未来?目から鱗うろこの新資源論? 近年、「石油生産のピークがいつ来るのか?」に関する「ピークオイル論争」が世界中で過熱している。日本でも、本誌を含めいろいろなところで、各専門家がそれぞれの立場から主張を述べている。しかし、これらの議論は、前提や定義が異なることもあり、必ずしもかみ合っておらず、一般には「ピークオイル」の真の姿がなかなか見えてこない。そこで本稿では、地質学を専門にする私なりに、石油の資源量・寿命・ちまた生産能力・原油価格などに関する総括を行い、巷で流布している「通説」の「落とし穴」について批判的に吟味を試みる。石油に関する議論を過去・現在・未来という形に要約し、通説(旧パラダイム)からの変換などを太字で示した。各議論の詳細は参考文献に列記した拙著論文・解説を参照していただきたい。かなり断定的に記しているが、もちろんこれは私なりの総括に過ぎず、建設的な反論は大歓迎である。 石油(petroleum)は、天然ガス(以下単に「ガス」)も含めた炭化水素の総称を指すこともあり、成因・産状等の共通点も多いが、本稿では、原則として液体の油(oil)または原油(crude)を対象としている。また、特に断りのない限り、常温では流動性の極めて低いタールサンドなどの「非在来型石油(unconventional oil)」は除外した。 なお、使用した諸統計には、NGL(コンデンセートなど天然ガス由来の液体の総称)の扱いなどの相違により1割程度の誤差があり、本議論も定量的には、同程度の精度のものである。(2) 油田のでき方 堆積盆地では、砂岩などの粗粒岩と泥岩などの細粒岩が成層しているが、砂岩では砂粒のすき間が連続してネットワークを形成していて、通常は水(海成層ならば濃縮した海水)で満たされている。 有機物の熟成により油が生成すると、それは小さな割れ目などを通って砂岩のすき間ネットワークに入り込み、浮力(比重の差)により、水と入れ替わって砂岩層中を上方へと移動する。そして、それ以上、上方移動できないところ(トラップ)があると、そこに油が集積する。背斜、ドーム、滅(ピンチアウト)、礁(リーフ)、断層ブロックなどがトラップであり、そこに油田が形成される(図1)。これらのうち、背斜やドームの存在は地表調査や地形から判断しやすく、そこを掘れば油田が見つかる可能性が高い。これが後で述べる「背斜説」である。 途中にトラップがなく、すき間の尖せたいせきんめつ石油自体が先カンブリア時代に生成したと考えられる例もあり、約15億年前の豪州マッカーサー盆地のものが「最古の石油」といわれている。しかし、現在残されている油のほとんどは古生代以降に生成したもので、そのうち中生代のジュラ?白亜紀(恐竜の時代)だけで約70%を占め、世界の石油の平均年齢は1億?2億歳程度である。 最近、資源の枯渇問題に関連して、石油の「無機起源説」が再び注目されている。メタンは惑星大気にも存在し、より高級な炭化水素にも無機起源のものがある可能性は高い。しかし、実際に発見されているもののうち、無機起源の可能性のある油は極めて少量で、そのほとんどが、生物起源では説明しにくいという状況証拠による「消去法」で主張されているに過ぎない。反応論を含め「無機説」の研究意義は認めるが、これにより資源問題がすべて解決するような論調は、いたずらに世を惑わすだけである。(1) 石油の起源と年齢 「石油の歴史」はどのくらいさかのぼれるのだろうか。当然、地球の年齢46億年よりは若い。石油やガスは流体で、石炭のようには肉眼や顕微鏡下で原初組織が確認できないために異論の余地があるが、少なくとも大部分のものは生物起源で、生物に特徴的な分子構造や組成が認められ、植物や微生物が地下に埋没し、熱と時間で化学変化して生成したものである。生物が発生した30億?40億年前以降であれば、石油が生成した可能性があるが、古い岩石の場合、その後の変成・変形により破壊・散逸してしまっていることが多いため、保存されていることはまれである。6億年以上前の先カンブリア時代(古生代より前、地球の歴史の最初の90%近くを占める)の岩石に石油がしている場合も、多くはより若い石油がその後移動してきたものだが、胎た胚はいい1.石油の過去81石油・天然ガスレビューGッセーどを一括して言う。いったんパラダイムが成立すると、もう根本問題で論争する必要はなくなり、研究が能率よく進むようになる。地震探査を実施し、抽出された背斜構造を順次掘削していけば、半自動的にそれなりの成果がついてきた。こうして、石油発見は1945年頃から、石油生産も5年遅れの1950年頃から急増して現在に至っている。石油需要は、オイルショックにより一時的に減少したが、その後回復し、現在は1950年頃の10倍近くの約300億バレル/年に達している。2.石油の現在(1) 新探鉱パラダイム   =超ひも理論? 探鉱がランダムであれば、石油の発見量は探鉱量に比例して増加していく。しかし、探鉱効率がよければ、発見量の増加は当初は急で、徐々に頭打ちになる(図2A)。過去の発見埋蔵量の曲線は後者であり、背斜説パラダイムによる探鉱が効率的であったことを示している。本パラダイムは強力であったがゆえに、過去の試掘はほとんどが背斜を狙ったものであり、世界の主要背斜はほぼ試掘し尽くされた。しかし、トラップがあれば背斜やドームでなくとも油は集積可能であり、これらは試掘されずに残されているものが多く、その存在を的確に判定する新パラダイムが成立すれば、発見量は今後も増加するはずである。 背斜に挟まれた向斜部(図1)で油ガス田を発見した例を、私がかかわった2プロジェクトより紹介する。 西アフリカ・ガボン沖鉱区では、1970年代に発見したドーム状の2油田が、約20年間生産しほぼ枯渇してきて注:斜線部は油の集積出所:著者作成図1トラップのいろいろネットワークが地表や海底まで連続し、露出していると、地質時代を通して生成・移動してきた油が地表や海中へ漏れ出し、散逸していく。これが「油兆」で、中東では発火して「ゾロアスターの火」となり、日本では「くそうず(臭水)」と呼ばれ、薬、接着剤、防水剤などに利用されてきた。油も、油兆を利用している限りは循環型の再生可能資源で、枯渇の心配はなかった(図4参照)。 地表では、油兆の軽質部分をバクテリアが選択的に消費し、粘性の高い重質部分のみが残って蓋となり、一種のトラップを形成することがある。こうなると、後から移動してきた油が下に集積し、その軽質部分も順次バクテリアに消費される。これが「タールサンド」や「ヘビーオイル」で、それらが産出されるカナダやベネズエラも、砂岩層が斜め上方に地表に露出している場所に集積していて、地表部が最も重質かつ高粘性で、斜め下方に向かって徐々に普通の油に近い性状となっている。ふた(3) 背斜説と地震探査   =探鉱パラダイムの成立 こうした石油や油田のでき方は当初よりわかっていたわけではない。「近代石油産業の始まり」とされる1859年の米国ペンシルベニアのドレーク*1による試掘井は、地表の油兆を頼りに掘削したものである。地質学の石油探鉱への関与は、1885年にホワイト*2がサイエンス誌に「背斜説」を発表して始まり、各地での試掘の成功を経て、背斜説は徐々に定着していく。しかし、地表から推定できる背斜は、すぐにほとんどが試掘されて、このままでは大量の石油は発見されず、現代文明の開花もなかったかもしれない。 ここで登場したのが反射法地震探査で、1920年頃から理論・技術・応用が急速に発展し、1940年頃には一応の完成を見る。本手法を用いれば、地下の地質構造が断面図の形で読み取れ、背斜が容易に判定できる。折しも、石油の重要性を再認識させた第二次世界大戦が終了し、全地球的規模での石油探鉱の展開が開始された時期であった。 背斜説は、反射法地震探査という強力なツールを得て、世界各地で目覚ましい成果を上げてパラダイム化していく。「パラダイム」とは、研究者全部が根本的な考え方では一致して、それに従って多くの問題を解くようになるとき、その法則・理論・モデル・装置な*1:本論文の脚注は編集部が付した(一部著者に執筆を依頼)。出典は括弧書きで文末に記す。ドレークは1859年、蒸気エンジンを使う掘削機械で原油を掘ることに成功した人物(編集部)。*2:I.C.Whiteは、石油鉱床に関して学術的基礎を持つ学説を確立するため1883年に研究を始めた。研究結果を実証するために3カ所の背斜構造の適当な場所で試掘を開始し、1884年にガス層に到達した。1885年、この結果を「天然ガスの地質」と題して「Science」誌に発表した(「石油・天然ガス用語辞典」より抜粋)。2006.7 Vol.40 No.482ホ油の過去・現在・未来 ?目から鱗うろこの新資源論?出所:著者作成図2探鉱量と累計埋蔵量た。当時、近隣他社のゴルゴン・ガス田が、LNGプラントの余剰能力を使用することを検討していた。新ガス田は怪物ゴルゴンを退治した英雄にちなんでペルセウス・ガス田と命名された。私がかかわったものだけでもこれだけあるのだから、世界には背斜以外にトラップされた油田が多く残されていることは容易に想像がつく。 最近、西アフリカのアンゴラなどの深海で大油田が続々と発見されているいた。ここで三次元地震探査を実施し、より細密にデータを取得し、従来の解析が地質構造のみを対象としていたのに対し、岩質の相違やその分布の判定を試みた。この結果、従来毛布のように薄く広く分布すると考えられていた砂岩層は、実はひも状のタービダイト(深海堆積物)チャネル*3であり、既存2油田は、それぞれドーム頂部付近を通過するチャネル砂岩から生産していることが判明した。その中間の向斜部にも、より発達したチャネルの分布が推定され、掘削の結果、既存2油田より大規模な油田を発見した(図3)。 豪州北西大陸棚LNGプロジェクトでは、並行する背斜(ガス層準では両側を断層に画された地塁)で1970年代に発見した2巨大ガス田から生産していた。1990年代に入り、ここでも三次元地震探査を実施し、地質構造だけでなく、ガスを胚胎する砂岩層を直接判読することを試みた。その結果、両ガス田間の向斜部にもガス砂岩の分布が推定され、試掘の結果、実は向斜部全体が巨大ガス田であることが判明しが、これらはみな、ひも状のタービダイトチャネルにトラップされている。三次元地震探査が普及し、データを細密に採り、P波*4だけでなくS波*5やポアソン比*6の情報も利用するようになり、これらを解析するコンピュータやソフトの能力も大幅に向上した。深海の探鉱が世界各地で進むにつれ、ひも状のタービダイトチャネルが普遍的に存在することが明らかになり、堆積機構や分布形態に関する研究も進展している。従来は、油を溜める砂岩層も、粘土や火山灰などの細粒降下堆積物同様、毛布のように面的に広がっていると考えていたが、粗粒岩の場合は、むしろひも状の形態のほうが卓越しているようだ。深海は、構造変形が軽微で背斜がまれなこともあって、過去にはほとんど探鉱されていない。地質学版「超ひも理論」は、新探鉱パラダイムの有力候補である。(2) ピークオイルvs.チープオイル 「石油生産のピークがいつくるのか?」に関して悲観論(「ピークオイル」)と楽観論(「チープオイル」)の出所:著者作成図3ガボン沖油田とチャネル砂岩*3:陸源堆積物が乱泥流/混濁流(turbidity current)で深海に運搬される際に形成される分流路またはその中の堆積物(編集部)。*4:地震波には縦波と横波がある。このうち、縦波は伝播速度が速く、ある地点に最初に到達することから「primary wave(最初の波)」とも呼ばれ、これを略して「P波」と呼ぶ(「石油・天然ガス用語辞典」より抜粋)。*5:地震波には縦波と横波があり、S波は横波のこと。縦波(P波)に対し、横波は、ずれ、ねじれなどせん断性(shear)の変化を伝える波であり、英語では「shear wave」といわれる。S波とは、この頭文字をとったものである(「石油・天然ガス用語辞典」より抜粋)。*6:ポアソン比(Poisson’s ratio)は、弾性限界内で、例えば引っ張りを加えた時に、荷重方向の伸び(ひずみ:%)と荷重に直角方向の寸法の縮み(ひずみ:%)の比をいう。ポアソン比=?横ひずみ(%)/縦ひずみ(%)である(ウィキペディアより抜粋)。83石油・天然ガスレビューGッセー論戦が世界中で大沸騰している。この議論が混乱している原因の一つが「累計生産量」「埋蔵量(リザーブス)」「資源量(リソーシズ)」の定義にあるので、ここで整理しておく。「累計生産量」は、読んで字のごとく過去の生産量の累計である。「埋蔵量」は、既に発見された石油のうち、現在の技術と経済環境で回収可能な量、「資源量」は、地下に存在する全資源のうち、今後の技術の進歩や経済環境の変化も考慮して最終的に回収可能と考えられる量である。 地下に存在する石油の全量は「インプレース」(「原始埋蔵量」と和訳されることが多いが、同じ「埋蔵量」の語が入っていて混乱の原因になっており、むしろ「地下鉱量」と訳すのが適切ではないか) といい、「埋蔵量」、「資源量」はこのうち技術や経済性も考慮して回収可能な量を指す。「資源量」は技術や経済環境の見通しが的確であれば増減しないが、その一部である「埋蔵量」は新規発見や回収技術の向上などによる「成長」により増加していく*7。 メディアなどが「石油の寿命は40年」と言っているのは、「残存埋蔵量」(埋蔵量?累計生産量)を現時点の年間生産量で割った「R/P比」のことで、将来の発見も需要増も全く考慮しておらず、真の寿命とは異なる。これまでは埋蔵量の増加が生産量を上回っていたため、R/P比は徐々に増加してきたが、後述するように、現在、生産量は埋蔵量増加に追いつき、さらに拡大の一途をたどろうとしている。したがって、「石油の寿命は、昔30年と言っていたのに現在40年なのだから、ほぼ無尽蔵だ」という議論は全く成立しない。 現在累計生産量は約1兆バレル、埋蔵量は統計により小異があるが約2兆バレル(すなわち残存埋蔵量は約1兆バレル)というのが大体のコンセンサスである。ところが資源量になると諸説あり、これが大論争の根本原因である。 「ピーク派」の悲観論は約2兆バレル(すなわちほぼ全資源量が発見済み)としており、石油生産は現在をピークに以後急落し、数十年後には枯渇するとしている。一方、「チープ派」の楽観論は世界の資源量を約3兆バレルとしていて、今後の需要増に応じて石油生産は順調に増加し、原油価格も低位安定すると予想している。しかし、この資源量でも、今のペースで増産していけば30?40年後には枯渇して、石油生産は事実上停止せざるを得ないが、楽観論者の多くは、(在来型)石油が枯渇しても、資源量の豊富な天然ガスや非在来型のタールサンド、メタンハイドレートなどが続くため、これらを含めれば当面は安泰だと考えている。(3) ハバート曲線 楽観論の資源量3兆バレルは、米国地質調査所の数値であるが、悲観論の2兆バレルの根拠は何だろうか。ちょうど50年前の1956年、シェルに在籍していた構造地質学者ハバートは、米国の石油生産のピークが1970年に来ると予告した。当時米国の石油は順調に増産中で、彼は大ブーイングを浴びたが、その予告は実現した。この「元祖ピーク論」の原理は、起源をマルサスの人口論にさかのぼる。マルサスは、人口は指数関数的に増加するが、食料生産は直線的にしか増加せず、したがって不足すると論じた。この考えを数式化したのがベルハルストで、簡略化すると次のロジスティック関数となる。(人口増加)=A×(人口)?B×(人口)2 ねずみも細菌も制約がなければ、単位時間あたり(例えば年間)の個体数増加はその時点の個体数に比例し、指数関数(ねずみ算)で繁殖する。これが右辺第1項である。しかし、個体数が増加すると栄養(食料)、競争、老廃物などにより増殖にはブレーキがかかる。これが右辺第2項で、(人口)の2乗に比例しているので、Aに比してBを十分小さくしておくと、その影響は当初は軽微だが、徐々にその効果が高まり、ついには第1項に匹敵する大きさになる。 ハバートはこの式を石油生産にあてはめた。上式の(人口増加)を(生産量)、(人口)を(累計生産量)と読み替えればよい。微分方程式を解いて本式を時間の関数に変換するとベル型の「ハバート曲線」になる。また、ロジスティック関数は離散系の差分法*8で解くと(卵で越冬する昆虫などに対応)、初期条件が決定論的であっても微細な誤差が拡大して結果が予測不能の「カオス」が発生することがある。 しかし、ハバート曲線の元々の原理は極めてシンプルで、上式の右辺が0、すなわち第1項と第2項が等しくなると「石油の生産」(または「人口増加」)が停止するというものである。このとき(累計生産量)がA/Bになり、これ以上(累計生産量)は増加できない。 一方、(生産量)が最大になるのは (累計生産量)がA/2Bの時で、これが「ピーク」である。ハバートはこの方法で米国石油生産のピークを予告した。世界の石油生産は、石油危機後の需要の落ち込みを除くとハバート曲線の前半でほぼ近似し、この式を当てはめると、A/B(最終累計生産量)が約2兆バレルの曲線が最もよくフィットし、その半分の1兆バレル生産時(すなわち今!)が「ピーク」になるというのが悲観論の根拠である。 「ハバート曲線」の適用には、資源量を別の方法で求める必要があり、そ*7:地下に存在する油の全量を意味する「インプレース」は、「原始埋蔵量」(既発見)または「総資源量」(未発見を含む)と和訳されることもあり、これらとの違いを強調するために、本稿の「埋蔵量」を「究極可採埋蔵量」、「資源量」を「究極可採資源量」と呼称することもある(なお、「(究極可採)埋蔵量から「累計生産量」を差し引いたものが「残存(可採)埋蔵量」)(著者)。 *8:対象が不連続値の場合や微分方程式の近似解を求めるときに、無限小の微分を有限の変化に置き換えた差分方程式を数値的に解く方法(著者)。2006.7 Vol.40 No.484Q兆バレル弱が下のタンクへと落ちていった。 下のタンクからの流出量は生産量であり、石油生産当初から徐々に増加し、現在、流入量とほぼ等しい300億バレル/年となっている。タンクの液量は約1兆バレルで平衡に達していて、過去の累計生産量は約1兆バレルである。蛇口をより開けば(生産井の追加掘削など)一時的に流出量を増やせるが、タンク内の液位(すなわち液圧)が低下してきて、結局流出量は流入量と等しくなる液位で平衡に達する。楽観論の予測のように、今後の需要増に世界の石油生産能力と生産実績ゆうしゅつ蔵量のタンクで、最初は両方とも空であった。生物により太陽エネルギーが固定され、さらに熟成して石油となり上のタンクに落ちてくる。その多くは破壊・涌出など(タンクから落ちる液滴)により散逸するが、残りは油田(タンク内)に蓄えられる。これらの液滴は、地質学的時間スケールでは意味があるが、人間の時間スケールでは無視でき、以下の議論では、上のタンクへの増量はないと考える。 油田が発見されると、その時点の技術と経済環境で商業的に回収可能な量が埋蔵量として下のタンクに確保される。背斜説が確立した1945年以降、新規発見と「埋蔵量成長」の合計平均300億バレルが、毎年下のタンクへと落ちて今日に至り(1980年代の中東産油国の大幅埋蔵量追加は信性に疑問があり、差し引いている)、これまでの累計で、出所:著者作成図5ょう憑ぴしん出所:「石油・天然ガスレビュー」2005年5月号より簡略化し転載図4ダブルタンクモデルの半分を生産した時がピークになると解説されることがある。後半は正しいが、前半は必ずしも正しくない。確かにハバート自身も、別の方法で資源量を推定して、それに合わせるようにフィッティングを行った形跡があるが、原理的には前期のカーブフィッティングのみで資源量が求められるところが「ハバート曲線」の真髄である。 この議論は、人口論(あるいは細菌数)ではそれなりの成因論的根拠があるが(にもかかわらず現実の人口推移にあまりあてはまらない)、生産された石油が子孫を生み出すわけではなく、なぜ石油生産がこの曲線をたどるかの説明がない。しかし、米国の石油生産のみならず、過去の米国の鯨油、ペンシルベニアの無煙炭、英国の石炭など多くの資源が、ほぼこの曲線に沿う増産・ピーク・減退を示した。 資源の増産は経済の拡大をもたらし、ますます需要を喚起する。しかし過度の増産は種々の矛盾を引き起こし、徐々に他者に取って代わられる。ハバート曲線は「驕おごれる者久しからず」という盛者必衰の理ことわりを表現した自然哲学と見るべきだろう。上記した諸資源も、実は枯渇したわけではなく、他資源や輸入との競争に敗れて衰退したものである。むしろ、後継者がいまだに現れてこないところに石油の悲劇がある、と私は考えている。(4) ダブルタンクモデル 油田の開発には、井戸の掘削や諸施設が必要なため長いリードタイム(準備期間)がかかる。その後の生産量も、井戸や生産・処理施設の能力に規制されるため、発見された埋蔵量を自由に生産できるわけではない。こうした探鉱・開発・生産過程は、本誌05年5月号で提案したダブルタンクモデル(図4)で考えると理解しやすい(詳細は同号を見ていただきたい)。 上の傾いているのが資源量、下が埋85石油・天然ガスレビュー石油の過去・現在・未来 ?目から鱗うろこの新資源論?006.7 Vol.40 No.486エッセー 葉の落ちた木々の一部の枝だけを見ると樹木全体と似た形をしており、さらにその一部を拡大しても形はやはり似ている。この現象を「フラクタル」と呼び、海岸線の形や地震、月面クレーター、隕石・小惑星などの規模分布にも認められる。油田の埋蔵量を規制すしゅうる断層ブロック・褶構造のサイズや砂岩の層厚などもフラクタル性を示し、したがって油田サイズもフラクタルで、小規模なものほど多数存在している可能性が高い。 確率過程の応用である「パーコレーションモデル*10」で石油の移動・集積をシミュレートすると、油田に相当する、油を含むセルのクラスターサイズはフラクタルになる。フラクタルは、概念的には無限小から無限大までのサイズに適用されるが、自然界には、大は宇宙・地球・堆積盆地、小は素粒子・分子・孔隙サイズなどによる制約があり、大規模側ではこの制約により分布が規制されていることが多い。一方、小規模側の制約が生じるのはわれわれの興味の対象よりはるかに小さいスケールであり、多くの場合実用上無視できる。地下の油田規模分布がフラクタルなら発見確率は油田面積に依存しないから、ランダムな探鉱の場合、埋蔵量増加は直線に近いはずで、図2Aの曲線が上に凸になっているのは、やはり背斜説パラダイムが効果的だったことを意味している。 しかし、現実の既発見油田の埋蔵量値に対する頻度分布はむしろ対数正規分布で近似されることが多く、必ずしもフラクタルではない。独立していて分散が有限の分布を多数足し(掛け)合わせると、(対数)正規分布に近づくことが「中心極限定理」として証明されている。油田の埋蔵量値は多くのパラメータを掛け合わせて求めるので、曲きこうげきいんせきょく応じて生産量が300億バレル/年を大きく超えるためには、探鉱を大々的に展開して上のタンクからの流入量(埋蔵量の追加)を大幅に増やす必要がある。このダブルタンクモデルを定量化すべく、1945年以降の埋蔵量増加を300億バレル/年で一定とし(それ以前は発見量も生産量も少ないので、ここでは無視した)、各油田の生産プロファイルの重ね合わせを考慮して、世界の石油生産能力の推移をシミュレートしてみた(図5)。 各油田で石油を産出しようとするエネルギーは、近似的には地下に残されている埋蔵量に比例し、生産能力は半減期*9を有する放射性元素と似た形で減退していく。このため、生産井の数を増加したり、水・ガス圧入やポンプ採油などの人工的な補助手段を講じたりしても、生産能力には残存埋蔵量に応じた頭打ちがある。しかし実際には、坑井数や諸施設の規模は経済性などにより制限され、初期にはそれらの制約により本来の産出能力より低いプラトーとなる。残存埋蔵量に応じた産出能力がこれを下回ると、生産は放射性元素同様に減退していく。これらを反映すべく、各油田の発見以後の生産プロファイルを、開発準備期、増産(生産井追加)期、プラトー(施設の制約)期、減退(産出エネルギーの制約)期に分けて計算し、これを足し合わせて世界の生産能力を予測している。 埋蔵量増加が一定であっても、各油田の開発時の立ち上がりプロファイルの重ね合わせにより、ハバート曲線のベル型の前半は再現される。一方、その後半、すなわち将来予測は、2004年で発見も埋蔵量成長も終了(上のタンクの蛇口レベルより上が空になり、下のタンクへの流入が停止)するという非現実的な仮定のケースが、悲観論者のハバート曲線に酷似していて、総生産量も約2兆バレルとほぼ一致する(図5A)。これは、ハバート曲線の後半が、各油田の生産減退プロファイルの重ね合わせにより再現できることを意味する。しかし、実際には2005年以降も油田発見は続いており、それは新探鉱パラダイムの成立により今後も継続すると期待され、「埋蔵量成長」も加わることから、仮に減退するとしてもずっと緩やかになるはずである。すなわち、ハバート曲線から推定される資源量は過少評価であり、資源量は別の方法で推定する必要がある。3. 石油の未来(1) 油田分布はフラクタルとつ ー探鉱シミュレーションと資源量推定 悲観論の2兆バレルという資源量は過少評価であることが判明した。楽観論の米国地質調査所の3兆バレルという数値も、既発見油田と地質情報から求めたもので、「探鉱パラダイム変換」の効果を十分反映していない可能性が高い。そこでここでは、従来と全く異なる方法で資源量の推定を試みた。 探鉱量に対する累計発見量のグラフ(図2A)が上に凸なのは探鉱パラダイムが効果的だったからと書いたが、これとは正反対の見解もある。ダーツを投げるがごとくランダムに試掘すれば,大きな油田ほど高い(面積が2倍なら2倍の)確率でヒットするはずだが、その確率に比べると過去の探鉱実績は上に凸の度合いが小さく、ランダムなダーツ投げにも劣る効率であったという主張である。この主張はもっともらしく聞こえるが、実はトリックが隠されていて、どの面積規模の油田も同じ頻度で存在しているという前提が必要である。*9:半減期(Half-life)は、放射性核種あるいは素粒子が崩壊して別の核種(原子核の種類)あるいは素粒子に変わるとき、元の核種あるいは素粒子の半*10:物質や情報の浸透・伝搬・拡散を再現するために考案された確率モデルで、空間に分布する要素の局所的なつながりから大域的な結合パターンを求め分が崩壊する期間を言う(ウィキペディアより抜粋)。る(著者)。ホ油の過去・現在・未来 ?目から鱗うろこの新資源論?必然的に対数正規分布になると説明されることがある。しかし、上述のように各パラメータはフラクタル(べき乗分布)のことが多く、べき乗分布の分散は無限大で、足し(掛け)合わせると、むしろやはりフラクタルに近づく(例えば図6Bでは、べき乗分布にいくつかの「ゆらぎ」が掛け合わさった結果も、やはり、べき乗分布になっている)。現実の既発見油田の規模分布が対数正規分布に近いのは、探鉱では大規模な油田から狙うが、地下情報には不確実性のゆらぎが伴い、「背斜説パラダイム」による偏りも加わり、それがフラクタルの油田サイズと組み合わされて生じていると考えることができる。 従来の諸研究は、大規模油田はほとんど発見済みで、地下にはほぼ小規模油田のみが残されていると仮定して、既発見油田規模分布とのフィッティングにより、対数正規分布またはそれとべき乗分布の中間的な、地下の油田規模分布を推定している。このフィッティングは、その時点では完璧でも、時間を経ると多くの場合、小規模油田だけでなく比較的大規模なものも発見されるため、形は相似形だが、大きく異なる分布に変化していき、常に修正を必要とする(例えば図7)。これは、地下油田と既発見油田を混同し、フィットを重視するあまり既発見分布を静的に捉えて、探鉱による選択効果や不確実性の「ゆらぎ」を無視していることに起因している。 そこで、地下の油田サイズをフラクタルと仮定し、探鉱過程やゆらぎを理論的に分析して、ランダムウォーク*11からなる確率過程(マルコフ連鎖*12)で模倣してシミュレートしてみた。この探鉱シミュレーションの原理の概要を図6に模式的に示した。地下では同じ埋蔵量クラスの油田であっても、不確実性や探鉱コンセプトなどによるゆくぎらぎ(釘)により、地上で評価されるプロスペクト規模(下で玉のたまる位置)は、見かけ上いろいろな埋蔵量クラスに評価される。多数の玉(油田)を1カ所(同じ埋蔵量クラス)から落とすと、下にたまる玉の形(プロスペクト規模)は「中心極限定理」により正規分布(左隣のクラスの埋蔵量が半分となる対数スケールなので、埋蔵量値に対しては対数正規分布)に近くなる(図6A)。 地下の油田規模(上の玉)の分布がフラクタルの場合(図6B)、下に落ちたとき元のクラスが判別できるように玉を色分けして、ぶつかり合わないように順次落としていくと(図では中間の釘列は省略し、元分布と途中結果のみを示している)、落ちた玉(プロスペクト規模)の分布も最終的にはフラクタルになる。ただし、左から来る玉のほうが多いため、同じ位置(埋蔵量クラス)で比較すると、上の元分布に比べて玉の数がやや多い。しかし、左側から来た玉は埋蔵量が等比級数的に小さいため、どの列の合計埋蔵量も、元(上)の対応する列の合計とほぼ一致する。「プロスペクト規模」は、より正確には埋蔵量だけでなく、経済性・リスクなど(これらも左右に振れる「ゆらぎ」の追加と解釈できる)も加味した試掘順位の評点であり、下に溜まった玉のうち右側の列(「プロスペクト評点」の上位)から順に試掘していくと考えればよい。その結果、発見される玉の色(個々の真の埋蔵量)は、その位置(クラス)に比べ濃い(大きい)ものも淡い(小さい)ものも含まれており、これを色の順に並べ替えた図6C(右から3列を試掘したケース)が発見油田規模分布に相当する。 この手法を世界各地の堆積盆地に適用すると、現実の既発見油田のサイズ出所:著者作成図6探鉱シミュレーションの原理*11:酔歩。線分に沿う運動の系列で、各運動の方向、時として長さも確率的に決定されるもの(McGraw-Hill)。*12:マルコフ連鎖(Markov Chain)は、状況空間が有限な中で、各事象の発生が直前の結果のみに依存することを仮定する確率過程(McGraw-Hill,「科学技術用語大辞典」)。87石油・天然ガスレビューェ布が、現時点だけでなく、過去の任意の時点について、驚くほど見事に再現された(一例を図7に示す)。 本手法は、油田統計さえあれば世界のどの地域にも適用でき、発見油田規模の歴史的変遷が合理的に再現され、将来予測も行える。すなわち、地下の油田規模分布をフラクタルとし、探鉱を確率過程で模倣した仮定の妥当性が実証された。地下の油田規模分布はフラクタルであるが、探鉱による選択および地下情報の不確実性や探鉱コンセプト(背斜説パラダイム)によるゆらぎが加わることにより、現実の既発見油田規模分布は対数正規分布に近くなるのである。したがって、比較的大規模な油田にも見逃しがあり、それらは今後の探鉱の進展と「パラダイム変換」により発見されると期待される。 地下の油田規模分布をフラクタルとして計算すると、経済限界サイズにもよるが、中間値で約4兆バレルという、米国地質調査所の3兆バレルよりもさらに大きい世界の資源量値が得られた。この数値には「探鉱パラダイム変換」による効果も加味されている。(2) ピークからプラトーへ 上記考察により、ハバート曲線に基づく悲観論の約2兆バレルはもとより、楽観論の約3兆バレルよりもさらに大きな約4兆バレルという資源量が得られた。これは、石油は楽観論の主張のように、今後の需要増に応じて増産可能であること(チープオイル)を意味しているのだろうか。 ダブルタンクモデルのシミュレーションでは、生産能力は1995年頃から300億バレル/年のプラトーに達している(図5)。ただし、これは「能力」の話で、石油危機後の需要の落ち込みがあったため、実際に生産量がこのレベルに達したのは2004年である。プラトーとなるのは、上のタンクからの流入量(新規発見+埋蔵量成長)を毎年300億バレルと仮定しているためで、下の蛇口をより開けば、生産量は一時的にはこれを上回ることができるが、長期的には継続できない。1980年以降は、新規発見よりも回収率の向上(20?30%→約50%)による埋蔵量成長の寄与が大きいが、これも100%(実際はもっと低い)が頭打ちで、再び倍増することは期待できない。したがって、今後の生産能力は、探鉱による新注:棒グラフ:実績(1943年、1963年、1984年)  折れ線:シミュレーション予測期待値  1?4はそれぞれ油ガス田数6,500、13,000、19,500、26,000に対応出所:著者作成図7米国本土油ガス田の発見実績と探鉱シミュレーションエッセー規発見量に依存している。 前記の探鉱過程シミュレーションでは、探鉱量の対数に対して、累計埋蔵量はほぼ直線的に増加していく(図2B)。フラクタルは概念的には無限小まで延長可能であるが、現実世界では石油分子やすき間サイズの制約があり、実際にはその前に経済限界が存在して、そこで累計埋蔵量は頭打ちとなる。増加部も、直線的なのは「探鉱量」ではなくその対数に対してであり、今、過去の全探鉱量を繰り返しても埋蔵量は約2,000億バレルしか増加しない。埋蔵量を1兆バレル増加させるには、過去の約20倍の探鉱量が、さらに1兆バレル増加させて資源量を全部発見するためには実に約500倍の探鉱量が要求される。油田サイズ分布はフラクタルで、個数は無限に近いが、残されているものはどんどん小規模になり、同じ埋蔵量を確保するために要求される探鉱量は指数関数的に増加するからである。もちろん、ここで「探鉱量」と記したものは効率も含めた相対的な概念であり、技術の進歩や探鉱パラダイム変換により、要求される実作業量はこれより大幅に少なくてすむが、それにしても現在の埋蔵量増加ペースを維持していくことがいかに困難かは理解できよう。こうした理由から、いかに資源量が多くとも需要に応じて自由に増産することは不可能で、頑張っても現在のプラトー生産量維持がやっとであると私は考えている。 一方、需要が毎年定率で増加すると、必要な生産量は指数関数で増加する。BP統計によると、天然ガス埋蔵量は現在の生産量の約65年分、米国地質調査所によると資源量はその倍の約130年分存在し、たとえ石油が枯渇してもエネルギー供給は安泰であるという楽観論の根拠の一つとなっている。現在、ガス需要は年率2.5?3.0%で増加しているが、今後、石油の増産が困難で、その分もガスで賄うとなれば、少なく2006.7 Vol.40 No.488ホ油の過去・現在・未来 ?目から鱗うろこの新資源論?とも年率5%の増産が必要である(熱量換算すると現在の石油生産量はガスの約2倍)。メタンハイドレートなども考慮して、上記米国地質調査所の数値の倍の260年分の資源量が存在すると仮定しても、年率5%で増産していくと、ガスも55年弱で完全に枯渇してしまう。日本近海に現在の日本の消費量の約100年分のハイドレートが存在するという試算があるが、これも年率5%で増産すると40年も続かず、石油より前に枯渇する。ハイドレートの商業開発に向けての研究は重要だが、これが実現してもエネルギー問題がすべて解決するわけではなく、あくまでも次世代への「つなぎ」と考えるべきである。指数関数的増産の前には、どんな資源も、再生可能でない限りは、早晩枯渇してしまう。とわな(3) 資源ピラミッドの罠   「オルバースのパラドクス」 楽観論の根拠の一つに「資源ピラミッド」(図8A)という考え方がある。現在利用されている資源は、個々の規模が大きく、高品位のものであるが、その数は少ない。一方、規模や品位が下がるにつれ(タールサンドやハイドレートも「低品位資源」)、その数はどんどん増加し、これらも今後の技術進歩や価格上昇により商業開発可能になるから、資源は無尽蔵に近いという主張である。 小規模なものほど多数存在するというのは、まさにフラクタルの言い換えである。ピラミッドの上位(大規模・高品位)から狙って探鉱され、情報が正確で、背斜だけでなくすべてのトラップを大きなものから試掘していけば、ピラミッドのある水平面より上の油田がすべて発見され、そのレベルが、探鉱の進展に伴い徐々に下がっていくはずである。しかし、地下情報の不確実性や「背斜説パラダイム」による偏りに起因するゆらぎがあるため、実際の発見油田規模分布は、前記探鉱シミュレーションで示されるように、中ほどがふくらみ、下位で再び細くなる上下対称形になる(図7)。個数については「資源ピラミッド」は確かにフラクタルと同義であり、実態を反映している。しかし、ここにも「罠」が隠されていて、個々の規模や品位を掛け合わせて、各クラスの合計資源量を比較するとピラミッドにはならない。油田規模分布のフラクタル次元が、資源量(三次元)と同じ3であると、サイズが1/10の油田は10倍の個数存在し、どのクラス(対数スケール)の合計資源量も等しい角柱形となる(図8Ba)。 この問題は、宇宙を例に「夜空がなぜ暗いか?」という「オルバースのパラドクス」と比較すると理解しやすい。銀河が一様に分布すると仮定すると、もし宇宙が平坦(すなわち銀河分布のフラクタル次元が空間次元と同じ3)なら、地球から一定距離の球面上の銀河の数は、その距離(半径)の2乗に比例する。一方、個々の銀河から地球に届く光の強さは、どの銀河も真の明るさが同じと仮定すると、距離の2乗に反比例して弱くなる。すなわち、見かけの明るさと個数はフラクタルの関係にあるが、これらを掛け合わせた全光量はどの距離からも等しくなる。もし、宇宙が正の曲率を持って閉じていれば(銀河分布のフラクタル次元が3より小)、遠くからの光量は徐々に減少していくが、逆に宇宙の曲率が負で開いていると(フラクタル次元が3より大)、遠くからの光量ほど多くなる。したがって、宇宙が平たんまたは開いていて、無限に広がっていると、地球にやってくる光量は無限になり、夜空も昼間同様、光に満ちているはずである。これを「オルバースのパラドクス」と呼ぶ。宇宙の進化・膨張および相対論の効果なども考慮すると複雑になるが、このパラドクスに対する最もシンプルな解答は、次のようなものである。宇宙は約140億年前にビッグバンで始まった。仮に、140億光年より遠くまで宇宙が広がっていたとしても、そこからの光はまだ地球には届かず(ここを「宇宙の地平線」と呼ぶ)、地球に届く光量は有限となる。 全世界や米国の油田規模分布のフラクタル次元は3.3で、「平坦宇宙」に近いが、小さいサイズの密度がやや高く(図2Bで実線部がやや上に反っているのはこのため)、宇宙はわずかに開いていて、「光量」(資源量追加)は無限に増加していく(図8Bb)。一方、サウジアラビアやイラクなど中東の大産油国の場合、フラクタル次元は2.0?2.5程度で、「閉じた宇宙」であり、小さいサイズの密度が低く、資源量増加は逓減していく(図8Bc)。これは、地質構造が雄大で、途中の小規模トラップに捕捉されることなく大規模トラップに集油していることによる。「米国は徹底的に探鉱され、小規模油田が多く発見されて、その総埋蔵量への寄与が大きい。中東でも米国同様の探鉱密度に達すれば、莫大な埋蔵量が追加される」という説があるが、これは必ずしも正しくない。中東の油田規模分布はフラクタル次元が低いため、米国並みに探鉱されても大きな埋蔵量追加は期待できない。 さらに経済性も考慮すると、利益はどんどん先細りする。小規模油田でも、そ出所:著者作成図889石油・天然ガスレビュー資源ピラミッドの罠Gッセー過去2回の石油危機は生産能力の成長中に起きたので(供給に価格弾力性があったわけではない)、ある程度の需要減退で逼迫は回避できたが、現在生産能力はほぼプラトーに達していて、増産は困難になっている。「需給のファンダメンタルズには全く問題がないが、地政学的要因と投機筋の動きのみで原油価格が高騰している」という人は、探鉱・開発・生産システムに基づく供給能力の制約を理解していない。こうした事情から、新エネルギーへの転換などにより石油需要が大幅に抑制されない限り、今後も高原油価格が続くと私は考えている。4.人類生き残りへの処方箋さい細さ 恐竜は、隕石の地球衝突により絶滅したという説が有力だが、当時進化の絶頂だったがゆえに些なきっかけでも絶滅する運命にあったとも言われる。現在、人類文明は栄華を極めているが、エネルギー資源の枯渇、CO2などによる環境汚染、世界人口が爆発する一方で諸国に先駆けて減少に転じた日本の人口等々、人類の行く末に恐竜の姿を重ね合わせて危機感を抱いているのは私だけではあるまい。上記の石油資源に関する考察に基づき、人類生き残りへの処方箋を私なりに列記してみる。以下の3項目のパラダイム変換を促進するためには、現在の高原油価格はむしろ好機であると私は考える。(1) 成長神話からの脱却 定率成長(複利)は指数関数的爆発を意味し、今、エネルギー資源の消費も環境への負荷も臨界点に達しようとしている。無限の資源量・人口増加・排出物(エントロピー)廃棄を前提にして永遠に続く将来の成長(GDP・金利・信用)を担保にしている経済理2006.7 Vol.40 No.490少なくとも油田の数だけ試掘井が必要で、発見してもバレル当たりの開発・生産費も割高になり、経済的に採取できる量には限界がある。また、タールサンドなどの非在来型資源の場合、回収・改質に必要な投入エネルギーや追加排出CO2の処理・廃棄コストを差し引いて考える必要がある。ただし、技術の進歩や原油価格の上昇により、経済限界(逆ピラミッドの頂点)は低下していく。とはいえ、技術の進歩や原油価格の上昇が指数関数的に無限に継続することは不可能で、やはり利益は逓減していき、逆ピラミッドの頂点は不可避である。図8Bにおいて、将来の技術の進歩や原油価格の上昇も勘案した経済限界レベル(図8Cの逆ピラミッドの頂点)に相当する水平面より上が「資源量」に相当する。個数ではピラミッドであっても、量・質で考えれば角柱に近く(図8B)、さらに経済性も加味すれば、やはり資源は逆ピラミッドなのである(図8C)。すなわち、ここでも「オルバースのパラドクス」は成立せず、地球に届く光量(「資源量」)は有限であり、残念ながらやはり「夜空は暗い」。先の4兆バレルという資源量も、今後の技術の進歩などを勘案した経済限界を想定して算出したもので、これを達成できるかは、今後の技術進歩や「探鉱パラダイム変換」により「宇宙の地平線」(経済限界)をどこまで遠ざけられるかにかかっている。(4) 石油の寿命と原油価格予測 生産能力シミュレーションで、資源量の4兆バレルがすべて発見されるまで、今後も毎年300億バレルの埋蔵量追加が続くと仮定すると、プラトー生産は今世紀末近くまで継続可能である(図5B)。楽観論の生産予測(点線)は、前述のごとく達成が困難であり、この曲線(図5B)も、予測というよりむしろ目標で、相当頑張って探鉱すれば何とか達成可能な「理想シナリオ」といえる。 この生産能力グラフと生産実績を重ねると面白い事が判明した。両曲線は1973年と1979年の2カ所でほぼ接しているが、これは2回の石油危機に相当する。一般には、第一次石油危機は第四次中東戦争、第二次はイラン革命が原油価格高騰の原因で、需給には問題がなかったとされている。しかし、この単純な前提に基づくグラフは、最近を含め過去3回の原油価格高騰が、実は経済学の大原則どおり、需給の逼ひっぱく迫が原因であったことを示している。 アナリストたちは、地政学、在庫レベル、先物ポジションなどにより価格を予測しているが、ほとんど的中していない。これらの要因は価格変動の引き金となったり、増幅したりすることはあっても、中長期的な価格は基本的には探鉱・開発・生産システムに基づく生産能力と需要のバランスに依存している。アナリストが「需給のファンダメンタルズ」というとき、彼らは原油の実需と実際の供給量(すなわち生産実績)を比較している。しかし、この差は「在庫」に相当し、これも短期需要予想や思惑により発生するもので「需要」に含めるべきである。確かに在庫はバッファ*13になるので、生産能力に余裕がある時には、価格と弱い逆相関がある。しかし、需給の逼迫が始まった2004年以降は、むしろ順相関が認められる。石油の将来予測を「ファンダメンタル」(根本的)に行うのであれば、生産実績(需要)と生産能力(供給)を比較しなければいけない。「第二次石油危機には在庫が積み上がっており、これを放出していれば危機は避けられた」との説があるが、これも「真の需給バランス」に気づいていない。*13:バッファ(buffer)は「緩衝するもの」の意味(ウィキペディアより抜粋)。ホ油の過去・現在・未来 ?目から鱗うろこの新資源論?論と社会哲学からのパラダイム変換が必須である。成長ではなく、需要抑制や省エネによる持続可能な安定が求められている。(2) 再生可能な循環型へ 石油の年齢は、最古のもので約15億歳、平均でも1?2億歳というのに、わずか1世紀弱の間にその大半を消費し尽くそうとしている。再生可能でない資源は、どんなに豊富でも早晩枯渇する運命にある。一方、地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、現在の化石燃料使用量の約1.5万倍といわれ、成長神話から脱却できれば十分な量である。化石燃料が残されているうちに新エネルギー技術を確立して、循環型社会を構築しなければならない。この変換が順調に進めば、石油生産は4兆バレルの資源量すべてを産出する前に減退するであろうが、それは石油にも人類にも幸せなシナリオである。石油にはエネルギー以外に、多くの優れた特徴があり、その生成・集積にかかった時間の100万分の1以下の期間で消費し尽くすのではなく、子孫にも残しておきたいものである。(3) 石油探鉱・技術開発への傾注 太陽光や風力発電の技術進歩は著しいが、完全に化石燃料に取って代わるには道はまだ遠く、多くの技術や経済性のブレークスルーが要求される。一方で、石油をはじめとする化石燃料は、現在の生産レベルであれば、今世紀中は持続可能な資源量が残されている。しかし、それらを活用して時間を稼ぎ、新エネルギーと循環型社会に円滑にバトンタッチするためには、過去と同程度の石油埋蔵量追加を継続しなければならない。残されている油田は小規模なものが多く、発見量あたりの必要とされる探鉱量は急増し、経済性も劣化してくる。これに打ち勝つためには、探鉱パラダイム変換と技術のブレークスルーが求められるが、石油会社や各国政府は、大規模投資に必ずしも積極的ではない。しかし、今後も高原油価が継続することから、その努力は必ず報われる。「石油の時代は終わるのだから、探鉱は必要ない」のではなく、次の時代に円滑につなぐためには、資金と頭脳を結集して、必死で石油探鉱と技術開発に取り組まなければならない。石油の探鉱・開発技術は、貯留層・貯留量の同定と圧入ガスのモニターや坑井掘削・ガス圧入技術など、CO2地下貯留にもそのまま適用できる。人類文明の存続はこれらのパラダイム変換の成否にかかっており、我々世代も最大限の努力をするが、学生諸君にも石油の探鉱・開発に是非チャレンジしていただきたい。参考文献詳細は下記の拙著論文・解説およびその文献リストを参照されたい。(なお、本稿は下記7の「地学クラブ講演」の内容を増補・発展させたものである。)1. 「背斜説から向斜説へ? ─21世紀の探鉱パラダイム─」石油技術協会誌,V.67,P143?152(2002)2. 「石油探鉱におけるパラダイム変換」ペトロテック,V.25,P 503?507(2002)3. 「石油資源の将来 ─生産量推移・油田規模分布・究極資源量に関する考察─」石油技術協会誌,V.69,P 679?691(2004)4. 「石油の資源量と寿命 ─ピークオイル論もチープオイル論も正しくない─」石油・天然ガスレビュー,V.39,P1?11(2005)5. 「ピークオイルの真実 ─石油資源量・生産能力・原油価格を科学する─」月刊エネルギー2006年2月号,日本工業新聞社,P 11?15(2006)6. 「未来の石油発見を予測する ─探鉱シミュレーターの試み─」石油技術協会誌,V.71,P280?292(2006)7. 「地学クラブ講演要旨 ?石油探鉱のパラダイム変換と『ピークオイル』」地学雑誌,V.115(2006,印刷中)著者紹介井上 正澄(いのうえ まさずみ)東京大学理学部卒業、同大学院修了、理学修士(地質学)、米国公認会計士。ミャンマー、アブダビ、カタール、ガボン、アンゴラ、豪州、インドネシア、ベネズエラ等の石油・ガスおよびLNGの探鉱・開発プロジェクトに従事。91石油・天然ガスレビュー
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2006/07/20 [ 2006年07月号 ] 井上 正澄
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