ページ番号1006248 更新日 平成30年2月16日

石油輸送の生命線マラッカ海峡航行: 現状と問題点

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レポートID 1006248
作成日 2006-11-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 探鉱開発
著者
著者直接入力 関根 博
年度 2006
Vol 40
No 1
ページ数
抽出データ アナリシス経営委員 安全環境グループ長関根 博日本郵船株式会社石油輸送の生命線マラッカ海峡航行:現状と問題点 図1に2006年9月20日16時現在(日本時間)の日本郵船の運航船のうち、南シナ海付近を航行する船舶について抽出したものを示す。この時点において、マラッカ海峡付近には約20隻が確認されたが、このうち7隻がタンカーであった。 また、日本方面とインド洋方面とを往来する交通流の大宗が、マラッカ・シンガポール海峡を航行していることがこの図からも一目瞭然であり、同海峡がまさに日本経済の大動脈と言えることが分かる。う*1効こ1.2 航海上の問題点1.2.1 海峡の地理的・地形的複雑さ マラッカ・シンガポール海峡には浅所・狭所が多く存在するが、シンガポールをはじめとする沿岸諸港への出入港やフェリーの横切り等により、大型船の操船余裕海域は極めて限定されている。 とりわけ満載喫水が約20mと深く、操船性能も制限されるVLCC(Very Large Crude Carrier:載貨重量20万トン以上の大型原油タンカー)にとって、3カ所の浅所、クアラルンプール沖のOne Fathom Bank、シンガポール沖のBatu Berhantiおよび海峡の東側に広がるEastern Bankは航海の三大難所とも言われている(図2)。だ 船舶の喫水と水深との関係は舵や速力等に大きく影響するが、その指標として一般的にUKC(Under Keel Clearance:余裕水深)が用いられる。UKC、は船体動揺による喫水の深浅1. マラッカ・シンガポール海峡の概要1.1 海上輸送の現状 マラッカ・シンガポール海峡を航行する船舶は、ベンガル湾(インド洋)と東シナ海とを結ぶ回廊として海峡を抜けるものと、マレーシア・インドネシア・シンガポール等の沿岸国を往来するものの二つに分かれるが、その総数は年間7万隻とも言われ、実に1日200隻以上の船が航行していることになる。 日本は、原油資源の9割近くを中東からの輸入に依存しているが、その8割がマラッカ海峡経由で輸送されている。東シナ海至日本 ベンガル湾/至インド洋 マラッカ・シンガポール海峡図12006年9月20日16時現在(日本時間)におけるマラッカ・シンガポール海峡航行中の日本郵船運航船図2VLCC航行の三大難所51石油・天然ガスレビューAナリシスにおいては、航行時間の指定等の管制はなく、航行は各社・各船の判断に委ねられているため、ピーク時には数隻のVLCCが集中して航行する場合があるが、上記に示すような船腹量の増加は、こういった状況にさらに拍車をかけることになる。1.2.4 船舶の輻ふく輳そう(混雑)による事故例 沿岸国中で最も船舶の出入港が多いシンガポールでは、国策として石油関連産業を基幹産業の一つと位置付けており、大規模な石油精製施設を持つほか、船舶燃料の給油地としても世界最大の給油量を誇っている。 当然ながらこれらに関連したタンカーの寄港も多く、同国港湾局による2005年度統計では、LNG船を含めると実に1万7,000隻以上、つまり大小含め1日50隻弱のタンカーがシンガポールに入港していることが分かる。したがって、シンガポール付近で衝突・座礁等の事故があった場合、それが油濁事故につながり、海峡閉鎖という事態に発展する確率は極めて高い。 1997年10月15日に船舶用燃料を満載したキプロス船籍のタンカーガポール海峡経由での海上輸送量も増加すると考えられる。その顕著な例として、各国による原油輸入量の増加について試算したものを表1に示す。 ここで、VLCCの1航海あたりの原油輸送量を28万トン、年間航海数を8航海と仮定し、上表の全量がVLCCにより輸送されるとして単純計算する表1マラッカ・シンガポール海峡経由での原油輸入量の推移予想輸入国中国日本韓国・台湾その他計2005 年2015 年982021463047627120716042680(日本郵船調査グループ調べ 単位:百万トン)と、2005年の213隻に対し、2015年には304隻もの船量が必要であり、交通流はほぼ1.5倍に膨れ上がることになる。 一方、1.2.1で述べたように、VLCC等の深喫水船が安全なUKCを確保できる潮高時で海峡を通航しようとすると、必然的に同じ時間帯に船舶が集中することになる。 現在、マラッカ・シンガポール海峡腹ぷせんくEVOIKOS衝突重油約2万5,000トンが流出祥和丸15.4mの浅瀬に乗り上げ原油約1,100トンが流出Batu Berhanti図3マラッカ・シンガポール海峡における重大油濁事故の実例や気象状況、海図の精度等の諸条件を考慮して決定されるべきであるが、IMO(International Maritime Organization:国際海事機関)ではマラッカ・シンガポール海峡を航行するVLCCのUKCは最低でも3.5mを確保することを推奨している。 一方、近年ではVLCCの船型も大型化し、いわゆるマラッカ・マックスと呼ばれる30万トン級の載貨重量が登場、満載喫水が21mに達するケースも出てきた。ここで図2に示すBatu Berhantiの航行条件を考えると、少なくとも2.0m以上の潮高があるタイミングで通過する必要があり、航行可能な時間帯が非常に限られていることが分かる。さらに、同じ時間帯に同様の船型を持つVLCCが集中した場合、可航幅を考えると極めて危険な状況になることが予想される。1.2.2 固有の気象条件と悪天候 マラッカ・シンガポール海峡の気候は高温多湿の典型的な熱帯モンスーン型であり、11月~3月の北東モンスーン期には激しいスコールが断続的に発生する。スコールによる局地的な豪雨は航海者にとっても脅威の一つであり、雨域に突入すると一瞬にして視界がゼロとなるため、特に漁船等の小型の目標を見失いやすい。 また、スマトラ島やボルネオ島の野焼きや森林火災によるヘイズ(Haze)と呼ばれる煙害の発生により、時に視界が1㎞以下まで悪化することがある。ヘイズの影響は数日間にわたることもあり、広い範囲で視界制限状態が続き、昨年はPort Klang港が一時閉鎖される事態に陥った。1.2.3 船舶交通量の増加 今後も中国を中心としたアジア経済の堅調な伸びが続くと仮定すると、当然ながらそれを支えるマラッカ・シン*1:舵(かじ)を取ることによって船首の向きを変える効果のこと。舵の構造、形、大きさ、船型、速力、船の重さと大きさ、喫水の状態など、波浪、潮流の具合などの要素で左右される(http://www.oceandictionary.net/)。2006.11 Vol.40 No.652ホ油輸送の生命線マラッカ海峡航行:現状と問題点EVOIKOS(以下、E号)と空船のタイ船籍タンカーORAPIN GLOBAL(以下、O号)が衝突、E号から重油約2万5,000トンが流出した事故は、シンガポール史上最悪の油濁事故と言われる。事故の直接の原因は、西航するO号が追い越しのために航行レーンをはみ出し、これに東航するE号が減速することなく衝突したことであるが、事故直前、両船に対しVTS(Vessel Traffic Service:事故当時のシンガポール海峡の航行管制システム)が警告を発し、両船ともそれを認識していたことが分かっている。 幸いにも海峡閉鎖という事態にはならなかったものの、油濁防除作業には延べ60隻弱の作業船が動員され、3週間を要した。 一方、1975年には日本籍のタンカー祥和丸が、灯標の誤認により、ほぼ同所で約1,100トンの軽質原油を流出させる座礁・油濁事故を起こしている(図3)。1.3  保安上の問題点 ?海賊・テロの脅威 IMB(International Maritime Bureau:国際海事局)が発表した2006年上期の海賊事件統計(未遂を含む)によると、全世界での事件数127件のうち、インドネシア海域におけるものが33件と、その約1/4を占めていることが分かった。 IMBは、沿岸国関係省庁による警備の強化により、マラッカ海峡については減少傾向が続いていると一定の評価はしているものの、その継続性については確かでないとしている。 また、2005年6月以来、ロイズ保険組合のJWC(Joint War Committee:共同戦争委員会)はマラッカ海峡を戦争・テロのリスク海域と指定、沿岸国の強い反発を受けていたが、上記同様の理由により今年8月にそれを解除した。一方、この改定では、マラッカ海峡の西端にあたるスマトラ島北東部が新たに指定を受けることとなった。 図4はIMBのウェブサイトから抜粋したマラッカ海峡付近における2006年度の海賊事件の発生状況で、赤は実際の襲撃、黄は襲撃未遂を示している。この図からも分かるように、スマトラ島北東部では4件の襲撃と1件の未遂があり、JWCの決定を裏付ける形になっている。 この地域における海賊行為には、インドネシアからの独立を求めるGAM(自由アチェ運動)が関与しているとの見方が多い。両者の間では2005年8月に和平協定が結ばれたが、逆に武装解除に伴う武器流出も懸念され、さらなる海賊事件の凶悪化を招く恐れもある。 また、単なる略奪および保釈金目的の海賊行為ではなくテロの可能性を考えた場合、海峡を往来するタンカー等の高付加価値船は、発電所や精油所のような陸上施設に比べ手厚い警備がされているとは言い難く、「ソフト・ターゲット」として容易に攻撃対象となり得る。出所:9月10日現在 IMBウェブサイトより抜粋図42006年に発生した襲撃事件(赤色は襲撃、黄色は襲撃未遂)2. 安全対策の現状とリスク・マネジメント2.1 航行安全対策2.1.1 IMOによる国際航行ルールの制定 海峡内においては、航行船舶の大型化や高速化に伴い、航行の安全性が懸念されていたが、1998年、IMOによりマラッカ海峡およびシンガポール海峡の通航に関する規則が、沿岸航行船のための専用通航帯の設定を含む図2のOne Fathom BankからEastern Bankに至る分離通航方式に改定された。 さらに、この改定ではSTRAITREPと呼ばれる強制船位通報制度も導入され、一定の総トン数・全長以上の船舶については通報を義務付けている。これはマラッカ・シンガポール海峡の主要区間を九つのセクターに分け、所管レーダー局により監視するもので、通53石油・天然ガスレビューAナリシス2.1.2 航路標識等の整備 沿岸3国も批准している国連海洋法条約では、第43条において、?航行および安全のために必要な援助施設または国際航行に資する他の改善措置の海峡における設定および維持、および?船舶からの汚染の防止、軽減および規制に関し、海峡利用国および海峡沿岸国の協力について規定している。 しかしながら、マラッカ・シンガポール海峡に設置されている航路標識等のほとんどが、日本の民間海事団体を主として構成されるマラッカ海峡協議会*2によって設置・整備されていることは、あまり知られていない。同協議会は、海峡内における航路標識の設置・整備、航路障害物の除去や設標船および集油船の寄贈等の業務を担っており、沿岸国および他の海峡利用国で、このような安全への投資を行っている国または民間団体は現時点では存在しない。 同協議会により海峡の主要地点に設置された航路標識は50以上にのぼるが、特に交通が輻輳する海域においてはこれらの損傷も激しく、その補修・維持費も相当の負担となっている。 1.2.1の図2ではマラッカ海峡の航行の難所を示したが、その一つである One Fathom Bank における航路標識の現状を写1に示す。写真から分かるとおり、現在、その一つは喪失しており、復旧の目 また、シンガポール海峡西側にあるTakong灯標にも大きな損傷が報告されており、こういった重要航路標識の損傷、喪失が現在、数多く報告されている(写2)。は立っていない。処どめゅ守しじゅんダー局は前述の分離通航帯航行の遵等について監視するとともに、安全情報等を提供する(図5)。航船は船名、船位、コールサインや危険物積載の有無等を指定されたVHF(超短波)無線で報告する。一方、レーSUMATRA出所:World VTS Guideウェブサイトより抜粋図5STRAITREP対象海域出所:マラッカ海峡協議会写1One Fathom Bankの灯標(左:正常状態、右:完全に喪失)出所:マラッカ海峡協議会写2Takong灯標(左:正常状態、右:接触により半壊したもの)2.1.3 国際協力の枠組み 沿岸国および海峡利用国による航行安全への取り組みについては、2005年にインドネシアのジャカルタで開催されたIMO国際会議(通称:ジャカル*2:船舶の航行の安全を維持増進するため、マラッカ・シンガポール海峡およびその他必要な海域における航路整備の促進を図ることを目的として設立された財団法人(http://www.koueki.jp/disclosure/ma/malacca/)。2006.11 Vol.40 No.654ホ油輸送の生命線マラッカ海峡航行:現状と問題点タ会議)において協議が行われ、共同声明である“ジャカルタ声明”が発表された。これに伴い、同海峡における航行安全について協議するため沿岸国海事関係機関により設置されたTTEG(Tripartite Technical Experts Group:沿岸3国技術専門家会合)と利用国の会合“TTEG・利用国協力協議”の開催をはじめ、近年、同海峡の航行安全・環境保全・セキュリティ対策に必要な資金・技術・人材面での負担を関係国間で分担する、いわゆるバーデン・シェアリングが促進される傾向にあることは、大きな前進であると言えよう。 また、今年9月にマレーシアのクアラルンプールで開催されたIMO国際会議(通称:クアラルンプール会議)においては、沿岸3カ国より、海峡の航行安全と環境保全のために必要なプロジェクトとして以下の6点が提案された。①分離通航帯内の沈船の撤去② HNS(有害危険物質)への対応の協力③ クラスB-AIS(船舶自動識別装置)の試験的導入④潮流等の観測システムの整備⑤ 既存の航行援助施設の維持・管理および更新⑥ 津波被害の航行援助施設の復旧整備 このうち、①の沈船撤去については、分離通航帯内に12隻あるといわれている沈船を今後5年以内に撤去することで合意されたが、こと⑤の航行援助施設の維持等については積極的な動きが見られていない。 一方、わが国では、今年8月に発表された国土交通省海事局の予算概算要求書において、マラッカ・シンガポール海峡をわが国のライフラインとして再認識した上で、①利用国負担の原則に基づき、今後考えられる新たな国際的協力スキームによる援助に関する調55石油・天然ガスレビュー査、および②海上テロ等の保安危機に対応すべく、わが国商船隊の現在位置を把握するためのシステム構築の2点について予算を要求している。2.1.4 船社としての航行安全対策 (1)緻ち密みつなPassagePlanの作成 マラッカ・シンガポール海峡のみならず、日本郵船の運航船については、出発港から到着港までの全航程にわたり、当直体制や安全上の注意事項、航行禁止区域等について詳細を記したPassage Planと呼ばれる航海計画書を立案・作成させている。特に航行性能に最も制限を受けるVLCCにおいては、日本郵船本社において標準航海計画書を作成し、UKCの確保はもちろん、区間航行速力等についても木目細かく規定している。本船では、この標準航海計画書を基に、各航海の計画書を作成の上、船橋当直チームが一丸となって安全運航を図っている。 (2)BTM(BridgeTeamManage-ment)訓練の実施さら 乗組員一人の判断ミスにより本船が危険な状態に晒されるということは、特にマラッカ・シンガポール海峡のような輻輳海域においてはあってはならないことであり、ミスの連鎖をチームとして防ぐことが重要である。このことから、日本郵船ではシミュレーターを用い、小さなミスをチーム員の相互作用により初期の段階で排除することに主眼を置いたBTM訓練を実施している(写3)。 (3)ハード面での対策 ヒューマン・エラーを防止し、かつ乗組員の負荷を可能な限り軽減する目的で、日本郵船では運航船にGPS(Global Positioning System)測位装置と連動したChart Plotter(海図上に自船のGPS測位位置を表示するシステム)や、ECDIS(Electronic Chart Display and Information System:電子海図表示システム)等の最新の航海計器を導入している。2.2 セキュリティ対策2.2.1 沿岸国による警備強化と利用国の協力 先にも触れたが、マラッカ・シンガポール海峡の保安問題を語る上で、同海峡の海賊問題を忘れることはできない。 海賊問題については、その歴史は古く、問題解決のためのさまざまな各国間協議等がこれまで実施されてきた。しかしながら、具体的な対応が関係国、主に沿岸3国(シンガポール・マレーシア・インドネシア)によって採られ始めたのは、ここ数年であると言える。特に、2.1.3でも述べた2005年のジャカルタ会議以降、沿岸3カ国による海と空、双方からのパトロールや海賊摘発活動の結果、海賊発生件数は減少の方向に向かっている。 また、航行安全同様、セキュリティの分野においても、沿岸国と利用国間で各種の会合開催、協力協定の締結が実施されており、今後、これらの会合・出所:マラッカ海峡協議会写3操船シミュレーターを使用したシンガポール海峡のBTM訓練Aナリシス図6FROM全般に関する事項を網羅する講義内容となっており、この研修を通して実際船舶保安に携わる本船乗組員を教育することが、全運航船の安全運航につながると日本郵船では考えている。 なお、本研修は、本社のみならず、日本郵船グループの船舶管理会社でも開催されており、フィリピン人船員等に対しても日本人同様の教育を行っていることを補足させていただきたい。2.3  マラッカ・シンガポール海峡のい回か代替ルートとそのリスク評価う マラッカ・シンガポール海峡の迂通路としては、一般的にインドネシアのスンダおよびロンボクの両海峡が考えられる(図7)。東シナ海ロンボク海峡マラッカ・シンガポール海峡の代替ルート2006.11 Vol.40 No.656ty 極的に参加しており、2004年にはMPA(Maritime and Port Authoriof Singapore:シンガポール港湾当局)との合同テロ対応訓練を実施した。 本訓練は、シンガびょうポール沖に錨中のLNG船に対し、不審船による自爆テロが計画されているとの情報をMPAが入手したという想定で行われ、実際に警備艇が出動し、不審船のだ追跡・拿を行った。また、MPA、日本郵船および船舶管理会社であるNYK SHIPMANAGEMENT社に設置された対策本部間の緊急連絡フローの確認等もなされた。 (4)SSO:研修等を通じた乗組員へ泊は捕ほくのセキュリティ教育 2004年7月のISPSコード導入に先立ち、日本郵船では2003年6月より独立行政法人・海技教育機構(海技大学校)公認のもと、船舶保安管理者(SSO、Ship Security Officer)研修を定期的に開催している。 2006年9月末現在で、約436名の船員および83名のグループ会社船員をSSOとして自社養成してきた。 本研修は、保安に関する歴史・世界情勢を始め、海上人命安全条約(SOLAS)・ISPSコード等の国際条約、条約に付随した船舶保安価(SSA)・船舶保安規定(SSP)等、セキュリティスンダ海峡図7評協定等で合意された内容が、同海峡の利用度に応じた具体的かつ平等な支援負担となって実現されることが期待されている。2.2.2 船社としてのセキュリティ対策 (1)テロ・海賊対策用高照度サーチライトの開発 海賊・密航者やテロリスト等、乗組員を含む本船に危害を加える者、または本船を不法行為に利用しようとする者(以下、海賊等)を早期に捕捉・確認すること、並びに本船が海賊等を警戒していることを知らしめることによる海賊等行為抑止効果に主眼を置き、日本郵船では、独自に商船用高照度サーチライト(通称:JACK LIGHT)を開発、2005年3月から各船への搭載を開始した(写4)。出所:マラッカ海峡協議会写4JACK LIGHT(2)船舶動静把握システム(FROM: FleetRemoteMonitoringsystem) 日本郵船では、インマルサット経由で船舶動静を把握できるシステム(FROM)を1999年から採用し、安全航行のみならず保安面においても有効活用している(図6)。 (3)テロ・海賊対応訓練の実施(官民合同訓練の促進) 実際に保安事件が発生した場合の対応をより確実なものとすべく、定期的にテロ・海賊等対応訓練(机上訓練)を実施している。また、世界各国の関係官庁および保安機関の訓練等には積ホ油輸送の生命線マラッカ海峡航行:現状と問題点2.3.1 スンダ海峡 スンダ海峡は、インドネシアの首都ジャカルタを擁するジャワ島と、同国最大の島であるスマトラ島との間に位置する海峡であり、古くから交通の要衝であった。現在でも昼夜を問わず多くのフェリーが就航しているが、地形的には可航域が狭い上に、浅所が点在しており、かつては未測部分も多かったため、大型船の通過には適さないとされていた。近年、海図記載水深等の信頼度は向上したものの、潮流が速い上に海賊襲撃の危険性も依然として高いために、航行にあたっては十分な検討を要する。2.3.2 ロンボク海峡 ロンボク海峡はバリ島の東側に位置し、水深1,000m以上と深い上に、可航幅も最狭部で2マイル(約3.2km)以上と広いため、満載状態ではマラッカ海峡を通航不可能であるULCC (Ultra Large Crude Carrier:30万トン以上で原油を運搬する船舶)をはじめ、豪州から北航するバルカー(ばら積み貸物を運ぶ貸物船)等の常用航路となっている。2.3.3 スンダ・ロンボク両海峡共通の問題点 (1)航海距離の増加 マラッカ・シンガポール海峡が封鎖された場合、上記のいずれの代替航路を採用した場合でも、航行距離の増加は避けられない。原油価格高騰が続く3. まとめ現在、航海日数の増加に伴う運賃の上昇や原油供給の遅延がもたらす経済的・社会的インパクトは計り知れない。 表2に、ペルシャ湾口のアラブ首長国連邦フジャイラ(Fujairah)から鹿児島県の喜入向けの東航タンカーが上記代替航路を採用した場合の、航行距離の増加を示す。 最新鋭のVLCCでの燃料消費量を95トン/日、燃料代を300ドル/トンとし、全航程において平均15ノットで航行したと仮定した場合(実際にはマラッカ・シンガポール海峡通航時は12ノット程度まで減速する)、ロンボク海峡経由では約8万6,000ドルものコスト増となる上に、3日間の所要時間増となる。 (2)海峡の国際的位置付け 現在、マラッカ・シンガポール海峡は「国際海峡」*3として世界的に認識されており、船舶の無害通航*4が認められている。一方、インドネシア領海内を横断するスンダおよびロンボク両海峡について、同様の解釈がされるという保証はなく、同国の政情次第では、海峡の封鎖、あるいは通航料金の徴収等といった種々の問題が発生する可能性がある。 (3)船舶の集中および海域の輻輳 既に述べたように、マラッカ・シンガポール海峡においてはTSS(Traffic Separation Scheme:分離通航方式)およびVTIS(Vessel Traffic Information Service:船舶交通情報サービス)等により交通の整流がなされているが、スンダおよびロンボク海峡についてはこれらが未整備であり、レーダーや航路標識のような航行援助施設・設備についても十分とは言えない。 したがって、仮にマラッカ・シンガポール海峡を航行する船舶のすべてがスンダおよびロンボク海峡に振り分けられたとして、果たしてこれだけの大交通流を受け入れることが可能かという点については疑問が残る。 実際に、どのような船種・船型が、どのルートを迂回路として選択するのか、また、これらの海峡への船舶の集中により座礁・衝突といった、いわば2次災害的な事故があった場合の安全対策等については、専門家を交えて早急に検討する必要があると考える。表2ペルシャ湾~日本航路で代替航路を採用した場合の比較距離(マイル)距離差(マイル)船速を15ノットとした場合の所要時間差マラッカ海峡経由スンダ海峡経由ロンボク海峡経由5,6946,2336,784?+539+1,090?+35.9時間(約1.5日)+72.7時間(約3日)(1マイル=1,852m) マラッカ・シンガポール海峡における航行およびセキュリティ上の安全確保は、わが国のみならず世界的な関心事であることは間違いない。 一方、その対策については、これまで各海峡利用国により十分な国際協力・支援がなされてきたとは言いがたい。ほとんどが沿岸国任せであった、とも言える。そのような状況のなか、*3:(1)公海または排他的経済水域の一部分と公海または排他的経済水域の他の部分との間にあって(=地理的基準)(2)国際航行に使用される(=使用基準)海峡(国連海洋法条約第37条)。*4:沿岸国の平和、秩序、安全を害しない通航(国連海洋法条約第19条を参照)。57石油・天然ガスレビューAナリシスわが国ではマラッカ海峡協議会を通じ、数十年にわたり積極的な活動を行ってきた実績があるが、民間の力だけでは限界があるのも事実である。冒頭に述べたように、わが国にとってマラッカ・シンガポール海峡は経済の大動脈であることから、特に2.1.2に示したような航路標識の不備は、船舶の安全航行上の重大な脅威となるだけでなく、国家としてのエネルギー政策にも重大な影響を及ぼす。 本件について関係省庁および関係機関は十分認識されていると思われるが、各分野の専門家を交え、リスク・マネジメントを含めた議論を早急に行う必要がある。他の海峡利用国の動きが鈍いなか、わが国エネルギー政策の重要課題として、国際協力という広い視野に立ち、マラッカ・シンガポール海峡における安全活動の先駆者としてイニシアティブを取ることを望む。参考文献1. マラッカ・シンガポール海峡白書2006(社団法人 日本海難防止協会)2. マラッカ・シンガポール海峡における国際協力に向けた取組み(海洋政策研究所)3. ICC IMB Piracy and armed robbery against ships / Annual report 2005 (IMB)4. ICC IMB Piracy and armed robbery against ships / Jan.- Jun. Report 2006(IMB)5. IMBウェブサイト6. World VTS Guide ウェブサイト7. 外務省ホームページ8. 国土交通省ホームページ2006.11 Vol.40 No.658
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2006/11/20 [ 2006年11月号 ] 関根 博
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