ページ番号1006258 更新日 平成30年2月16日

ロシア:サハリン-2 問題をどう見るか?

レポート属性
レポートID 1006258
作成日 2007-01-30 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 探鉱開発
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2007
Vol 41
No 1
ページ数
抽出データ アナリシスJOGMEC 石油・天然ガス調査グループmotomura-masumi@jogmec.go.jp本村 眞澄ロシア:サハリン-2問題をどう見るか?要  旨・ サハリン-2のオペレーターであるサハリン・エナジー社(シェル55%、三井物産25%、三菱商事20%)は2005年7月14日、総事業費が当初の100億ドルから200億ドルへと倍増すると発表し、ロシア政府のフリステンコ産業エネルギー大臣は承認に難色を示してきた。・ サハリン-2のパイプライン建設では2006年夏から環境問題が表面化し、これを所管するロシア天然資源省傘下の自然利用分野監督局(Rosprirodnadzor)は、サハリン・エナジーに対して、2006年8月下旬から建設工事の中断を指示した。ょく捗ち・ 同局は9月5日、モスクワのPresnensky地区裁判所に、2003年にサハリン・エナジーに対して天然資源省がサハリン-2プロジェクトのフェーズ2を承認した省令の取り消しを求めて提訴し、ロシア総検察庁もこれをしん支持したことから、同月18日、天然資源省は工事認可を取り下げた。これにより、80%進してきたサハリン-2の事業が中止に追い込まれるとの懸念が広がり、国際的な問題に発展した。特に、2008年以降のLNG供給をサハリン-2から予定していた日本のバイヤーにとっては深刻な問題と受け止められた。ただし、パイプライン建設以外の工事は順調に進捗している。・ 日本側報道においては、環境問題を口実にしたロシア政府による管理強化・資源統制、さらにはガスプロムのサハリン-2参加問題での揺さぶり、生産物分与(PS)契約破棄の画策といった憶測がなされた。しかし、ガスプロムの参加とPS契約下でのコスト・オーバーランの処理問題に関しては2005年の7月から議論されていることであり、2006年夏に発生した環境問題と結びつけるのには無理がある。・ 環境問題に関しては、既に10月20日、サハリン・エナジー側が改善を約する書簡を天然資源省に提出して問題は解決に向かいつつあり、事業の停止や大幅な遅延は避けられる見込みである。・ ガスプロムの参加問題に関しては、12月21日、ガスプロムが支配株を保有する形での参加がまとまり、ガスプロムが譲渡価格74億5,000万ドルで50%プラス1株、シェルが27.5%マイナス1株、三井物産が12.5%、三菱商事10%の権益比率で合意した。シェルは引き続きオペレーターとなる。・ 約100億ドルに及ぶ大幅なコスト・オーバーランの扱いに関しては、第2フェーズの総事業費194億ドルのうち、シェル、三井物産、三菱商事の3社が、36億ドルの事業費をコスト回収の対象としないこととし、ロシア側が当初想定に近い利益を得られることで合意した。PS契約の枠組みは維持される。ぜいゃく弱じ・ ロシアの政策において環境保護は高い優先度を持っており、東シベリア・パイプラインの例に見るように、環であるという境問題を理由に大きな計画変更がなされることがある。これは、寒冷地が環境破壊に非常に脆現実的な問題から来ている。(本稿は、2006年12月29日時点での情報に基づくものである)はじめに 8月末から、エネルギー関係者の耳目を集めたサハリン-2の環境問題は、11月28日に自然利用分野監督局から600ページに及ぶ最終報告が天然資源省に提出され、同省からサハリン-2のオペレーターであるサハリン・エナジーの具体的な違反行為に関して告発がなされ、ようやく決着する見込みである(Itar-Tass,2006/11/28,朝日,11/29)。 ガスプロムの参加問題に関しては、12月21日、PS契約の権益譲渡の規定に基づき、ガスプロムが50%プラス1株の支配株を取得し、他パートナーは現行の半分、すなわちシェルは27.5%マイナス1株、三井物産12.5%、三菱商事10%とすることで決着した。譲渡価格は現金で74億5,000万ドルとなる(各紙,2006/12/21,22)。シェルは引き続きオペレーターとなり、出資比率に組み替えはあったものの、事業実施態勢に基本的に変更はない。 この合意に併せて、約100億ドル上昇するとされて来51石油・天然ガスレビューAナリシス解説する。ロシアにおいては、官憲の一挙手一投足の背後に思いもよらない意図が潜んでいることを、彼らはがった論理を展開して外国人に説明する。これは、彼らの商売の仕方である。ロシアの内実は、実際分かりにくい。短時間でインパクトのあるリポートを作成しなくてはならない立場の人間は、勢い彼らを頼ることになる。そして、鬼面人を驚かす解説が海外に打電される。 今回のサハリン-2に関する問題は、石油・ガスパイプラインの建設現場における著しい環境破壊と、同プロジェクトで持ち上がったコスト・オーバーランのPS契約下での負担の不平等、そしてガスプロムの参加問題の3要素が意図的に結びつけられて報道されている。 しかし、喫緊の問題はあくまで環境問題である。ほかの二つの要素に、環境問題が影響を与えることはあっても、それは結果であって、一部の報道にあるような「目的」ではない。 もちろん、コスト・オーバーランをめぐるロシア政府とサハリン・エナジーとの交渉のなかで環境問題が表面化したことは、サハリン・エナジー側の失態であり、ロシア政府がこれを奇貨として、交渉においてより強い立場を取ったであろうことは十分に推察できる。しかし、一部の報道が伝えるように、交渉を有利に進めるために環境問題を持ち出した、という解釈は本末転倒というべきであろう。 ただし、環境問題での査察に関しては、一部で「官僚の暴走」といった様相を呈している(井本,エコノミスト,2006/10/31)ことは事実で、その暴走ぶりは外国から見て大いに違和感がある。一部の高官がまともなことを話しても、ときおり妙に強面の人物が現れて、強硬な発言を繰り返す状況では、疑心暗鬼を生じることにもならざるを得ない。よくある説明は、goodcopbadcop(アメとムチ)、つまり宥めたり脅したりというもので、複数の官庁が役割分担を決めて共同謀議を図っているかのような気分にさせられる。しかし、子細に見ていくと、各官庁はかなりばらばらな意思のもとに動いており、このことは、政府部内の統制の緩みを物語っていると解すべきだろう。ロシアでは、国家管理の強化が問題なのではない。国家管理が不十分で、政府が一体となっていないことこそが問題である。 本稿では、サハリン-2の問題に関して、できうる限り憶測を排し、事実関係から実態を把握するように努めた。以下、環境問題、コスト・オーバーラン、ガスプロムの参加問題に分けて考察していきたい穿うなだ2007.1Vol.41No.152っていたものという解説が加わった。たコストについて、36億ドルに関してはコストとして勘定せず、優先回収の対象から外す。これにより、ロシア側の権益原油・ガスの受け取りが早まり、事業費が膨らむにも拘わらずロシア側は当初想定に近い利益が確保されるという(Vedomosti,2006/12/28,日経,12/29)。 今回のサハリン-2問題に関する報道では、「サハリン2、パイプライン建設中断――権益拡大へ駆け引きか」(日経,2006/8/26)といった見出しに見て取れるように、当初からパイプライン建設に伴って発生した環境問題に関する論議の背景に、ロシア側の別の意図があるという解釈であり、その後は各紙とも終始このパターンの報道記事が流されるという状況が続いた。すなわち、環境問題を持ち出した背景には、ガスプロムが事業参加にあたって権益比率の引き上げを狙っているというものである。 さらには、サハリン-2での事業費のコスト・オーバーランによりPS契約のもとでロシア側が一方的に不利な状況となっていることから、ロシア側がこれを変更する機会を窺 しかし、このとらえ方には無理がある。権益譲渡は有償であり、後年度負担も覚悟せねばならない。権益比率の引き上げが直ちに利益につながるわけではない。ガスプロムがシェルとの間で、ザポリヤルノエ・ガス田のネオコム層(白亜紀層の最下部)の50%とサハリン-2の25%との権益交換に合意したのは2005年の7月7日のことである(各紙,2005/7/08)。その1週間後に、事業費が120億ドルから200億ドルへと増大するという発表が、サハリン・エナジーからなされた(各紙,2005/7/14)。報道でこれを知ったガスプロムは、大いに不信感を募らせたと言われる。交換されるべき権益の経済性が低下していたにもかかわらず、シェルはそのことをガスプロムに内密にし、権益交換の話をまとめようとしていたからである。 ガスプロムの参加における権益交換の調整も、コスト・オーバーランの取り扱いも、昨年来議論して来ていることがらである。環境問題を梃に、この問題を有利に運ぼうとロシア政府が考えたという解釈では、1年以上もたってから思い出したように動き出したということになる。なぜ、2006年の8月に大きな問題となったかといえば、このときの査察でパイプライン建設現場での著しい環境破壊が明らかになったという事実に尽きる。 このような解釈の出所は、西側のジャーナリズムというよりも、実はロシアのアナリストたちである。彼らは、政府の施策に関しては、精いっぱいその意図を拡大して子こうかがてVュミット(S-4)エリザベチンスキー(S-5)東シュミット(S-5)ロプホフ(S-5)アストラハン(S-4)カイガンスコ・バシュカンスキー(S-5)東オドプトオドプト(S-3)(S-1)ピリトゥン・アストフ(S-2)アルクトン・ダギ(S-1)アヤシ(S-3)ルニ(S-2)チャイボ(S-1)ウェーニン(S-3)デカストリノグリキキリンスキー(S-3)S-6マカロフ地区プリゴロドノエ(LNG基地)アニワ湾出所:JOGMEC図1サハリン大陸棚鉱区図(赤線はサハリン-2のパイプライン、×印は工事差し止めの対象となったマカロフ地区)(2)サハリン・エナジーによる海洋生産設備に関する環境問題 パイプライン建設現場以外にも、環境問題が指摘されている。自然利用分野監督局サハリン支局のニコライ・ナム(NikolaiNam)によれば、サハリン・エナジーに対しては、2005年の水質汚染に関する環境審査報告書を2006年8月21日に手渡している(Interfax,2006/8/25)。その内容は、サハリン-2のピリトゥン=アストフ油ガス田の着底式生産プラットフォーム、モリクパック(Molikpaq)からの排水が規定量を超えているというものである。 これに対してサハリン・エナジーは、モリクパックからの排水は規定量を9%超えたとはいえ、隣接するオハ(Okha)貯蔵タンカーの排水量は基準を下回っており、この油ガス田全体のビティヤズ(Vityaz)生産施設としては、合計で規定量を12.6%下回っていると反論してい(1)パイプライン工事差し止めに関する報道 今回のサハリン-2問題の展開のきっかけは、トルトネフ天然資源相の指示により、サハリン-2の事業について環境に関する査察が、7月25日から開始されたことである。これを担当した同省傘下の自然利用分野監督局のオレグ・ミトボリ(OlegMitvol)副局長は8月3日、この検査結果の一部を公表した。そのなかで、パイプライン建設現場において「環境リスク」が指摘され、建設中止も含めて検討中であると述べた(PlattsOilgramNews,以下PON,2006/8/04)。このリスクとは、約20kmの区間における土砂崩れの危険であり、パイプライン区域に流入する土石流の規模は50万m3にも及ぶと予想され、埋設パイプラインは7万m3の土石流で破壊されうるとしている(Interfax,2006/8/04)。 一方、サハリン-2プロジェクトのオペレーターであるサハリン・エナジーは、正式な通知を受け取っていないこと、パイプライン建設の作業現場においては安全が保証されていること、土砂崩れの可能性のある個所の施工基準は設計段階で十分考慮されていることを挙げて反論した(PON,2006/8/04)。また、現在進行中のフェーズ2事業に関しては、2003年に天然資源省の承認を得ているが、この際に同省より受けたパイプラインとプラットフォームに関する60件の勧告については、2006年4月に履行した旨、自然利用分野監督局に対して連絡済みであると反論した(Interfax,2006/8/07)。 これに対してミトボリ副局長は、提訴を準備中である(PON,2006/8/07)と述べ、事態が軽微な違反にとどまらないことを示唆した。9月以降の動きを予見させる発言である。サハリン・エナジーがパイプライン敷設工事を進めているマカロフ地域の地滑り地帯(図1参照)の2個所では、建設下請け会社「溶接設営トラスト(Svarochno-montazhnyTrest)」による技術的な規定違反が指摘され、建設の中止を余儀なくされた(Kommersant,2006/8/28)。ここでは、急な斜面の山を開削した結果、地滑りプロセスが発生し、表土と針葉樹類が滑落した。保護構造物を置くなどの侵食防止策は施されていなかったという。 このような経緯を経てサハリン・エナジーは8月28日、「8月中旬にマカロフスキー・プレベト地区の総計7kmの区間でパイプライン建設を停止した。再開時期は未定」と発表した。これは、自然利用分野監督局の指摘を受けた措置である。2008年のLNG輸出開始に関しては当面変更はないことも強調した(日経,2006/8/29)。裾すきゅうゅん峻しそ53石油・天然ガスレビューロシア:サハリン-2問題をどう見るか?1.サハリン-2における環境問題の報道と事実関係Aナリシス 地質構造上の危険性には地滑りなども含まれると思われるが、マカロフ地区での地滑りなどの問題については、2003年の専門家審査においても想定外であって十分に吟味されておらず、現時点での問題に対応できていないという状況が考えられる。このため、省令を取り下げ、新たに発生した問題を盛り込んだ環境専門家審査を策定する必要が生じたため、いったん天然資源省令を取り下げるという手続きが取られたものと解される。 2003年7月15日付天然資源省令600号を取り消すという天然資源省令は、9月20日に内閣直属の環境審査機関である連邦環境・生産技術・原子力監督局(Rostekhnadzor)に送付されたが、同局は本件があくまで天然資源省の管轄であり、他省に影響を与える行動は取らないとしてこれへの署名を拒否した。これは、環境調査に関して再調査を行う場合には同一の部局でなされなければならないとの規定によるという(Interfax,2006/9/22)。 サンクト・ペテルブルクで開催されていた日露経済フォーラムに参加していたラブレンチェフ在日ロシア通商代表部主席は工事の中止に関して、「環境保護を理由に事業計画が廃棄されるというような事態は起こりえない。現時点で既にある環境保護の規制を守れば、問題が起きることはないはずである」(ビジネス・アイ,2006/9/08)と発言し、環境法規が遵守されるなら事業の認可取り消しには至らないと、至極常識的な考えを示している。また、アンドロソフ経済発展貿易省次官は9月20日、新たな技術経済評価が承認されるまで事業を一時中断せねばならないとする根拠はないと述べ、事業の継続を容認する姿勢を見せた(読売,2006/9/20)。 これらは、事業承認の取り消しが直ちに全作業の中止を意味するものではないというもので、過熱する外国の報道を打ち消すためのものと思われる。実際、この時点で地滑りを起こしたパイプライン建設現場は作業を停止しているが、プリゴロドノエのLNG基地の建設現場では作業は通常どおり進められていた。 一方、サハリン・エナジーは、事業承認の撤回については何ら法的な正当性は持たず、ロシア政府から公的な文書が届いていないことを理由に、現時点では開発を継続していると述べた(WSJ,2006/9/21)。この時点では、サハリン・エナジーはロシア政府と正面から対決する姿勢であった。 一方、日本貿易会の佐々木幹夫会長(三菱商事会長)は、ロシア天然資源省の事業化調査の承認取り消しの動きを受けて、問題となる工事部分への対応策を取り、サハリン・エナジーを通じて天然資源省と交渉していく方針を2007.1Vol.41No.154る(MoscowTimes,2006/8/28)。パイプライン建設問題と並んで、生産設備からの排水問題も、サハリン-2における環境問題の一部を構成している。 一方、生産設備に関しては、貯蔵タンカーのオハの周辺において、2005年の3月と11月に、海水中の石油製品の含有量が許容濃度を超えたことが指摘された(IOD,2006/8/25)。(3)自然利用分野監督局による提訴報道 9月5日、自然利用分野監督局は、サハリン-2での工事が環境保全措置を怠っていることを理由に、天然資源省が2003年にプロジェクト推進を承認した省令の取り消しを求める訴訟を、モスクワのPresnensky地区裁判所に起こした(日経,2006/9/07)。この省令とは、天然資源省が2003年7月15日付「サハリン-2プロジェクトのFSに関する国家環境委員会による結論」(省令600号)で、この付属書類に対する環境専門家審査SEER(StateEnvironmentalExpertReview)による肯定的結論を承認したものである。 これを無効にするよう提訴した同局の要求が入れられると、国家環境委員会による新たな結論が出されて、すべての環境保護関連法違反が正されるまで同プロジェクトの経済活動は禁止されることになる(Interfax,2006/9/05)との観測が広がった。違反項目は、「侵食防止」と「排水」に関する規定を遵しなかったという2点で(PON,2006/9/07)、マカロフ地域のパイプライン工事現場における地滑り防止策の不備と、ピルトゥン・アストフ油ガス田のVityaz生産施設における過剰排水問題の2件が対象になっている。 9月16日、ロシア総検事局がこのクレームを支持したことから、同18日、天然資源省はクレームを受け入れる形で、2003年の省令を取り消し、工事承認がない状況となった。 省令にある環境専門家審査の内容に違反しているのであれば、サハリン・エナジーにこれを遵守させればよく、改まらない場合には環境関係の法規で対応するのが筋であろう。省令を取り消し、サハリン-2の工事承認そのものが存在しない状況をつくる必要がどこにあるのか、大変分かりにくい。総検察庁は17日、2003年の天然資源省のプロジェクト承認においては、①環境調査が不十分な資料に基づいて行われている、②恒温槽(isothermalreservoir)建設に関するリスク評価が含まれていない、③地震と地質構造上の危険性(seismicandtectonicdanger)に関する評価が不十分である、ことから違法性があるとした(Interfax,2006/9/18)。守しじゅんゅ、んき貶へ褒ほ誉よシア最高検察庁に提出した(IOD,毎日,2006/10/06)。Starstroiは、イタリアのENIのエンジニアリング関係の子会社Saipemと、ロシアのLukoil-Neftegastroiとの合弁企業で、サハリン・エナジーからパイプライン建設を請け負っている会社である。 一方、10月18日、ロシア内務省犯罪組織・テロ取締局は、自然利用分野監督局に立ち入り、同局職員2名の出張に関する書類を押収した。これは、西シベリア・ヤマル半島のユージノ・タンベイガス田の開発許可をめぐる事件の捜査で、請求書、航空券のコピーなどが押収されたが、サハリン-2が注目を浴びているこの時期に、その主管の役所に対する家宅捜索がなされたということは極めて異例であり(朝日,2006/10/19)、同局に対する内務省筋からの意趣返しと見る向きもある。 実際、その後のミトボリ副局長の言動はおとなしいものに変化したと言われる。これなどは、ロシア政府の内部で統制が取れていない証左と思われる。 ミトボリ副局長の人となりに関しては毀が相半ばするが、トルトネフ天然資源相の信任は厚いと言われている。同氏は、1966年モスクワ生まれ、モスクワ電気通信大学を卒業後、ビジネスマンになった。アルチェホフ前天然資源大臣の息子と懇意であった関係から、2004年4月に自然利用分野監督局の副局長という職を得たとの噂がある(ロシアNIS経済速報,2006/10/05)。(5)シェルとロシア政府が話合いへ 10月4日、ロシアを訪問したオランダのワイン経済相と会談したグレフ経済発展貿易相とレウス産業エネルギー省次官は、サハリン-2における環境問題と事業費拡大について、シェルとの間に見解の相違があり、これを解決するためにシェルと早急に協議に入ることを伝えた(電気新聞,2006/10/06)。 ミトボリ副局長が強気の対応をしている一方で、10月16日には、フラトコフ首相が議長を務める外国投資家会議の席上で、シェルのファンデルフェール(JeroenvanderVeer)CEOはサハリン-2の環境問題は対話を通じて解決されるべきと述べた(Interfax,2006/10/16)。 同日、ファンデルフェールCEOとトルトネフ天然資源相が会談し、妥協の道を探り始めている。トルトネフ天然資源相が、もしもシェルが環境違反の責任を負うのであれば、この世界最大のLNG事業が停止することはないだろうと発言する一方、シェルは本プロジェクトのほとんどすべての問題に取り組んできたと主張し(IOD,2006/10/18)、当初の接触は平行線だったようである。 サハリン州においては翌日、サハリン・エナジーがサ述べるとともに、①今回の承認取り消しの理由はあくまで環境問題にあると理解しており、それ以外の事実は確認していない、②PS契約は維持されるはず、③ガスプロムの参加は株主の一員として歓迎したい、と事業当事者としての認識を示した(ビジネス・アイ,2006/9/22)。これは、極めて冷静な対応と言えるもので、サハリン・エナジーが強い調子で争う姿勢を見せているのとは際立った違いを見せている。その後の展開は、ほぼこの談話のとおりに動いている。 なお、モスクワ地区裁判所は10月17日、自然利用分野監督局が9月5日に行った提訴を、その権利がないことを理由に却下している(IOD,2006/10/18)。(4)「第10回サハリンオイル&ガス2006」(9月27~28日)を挟んでの動き このような経緯から国際的な関心が集まる中、「第10回サハリンオイル&ガス2006」がユジノサハリンスクで開催された。 基調講演に立ったラブロフ外相は、「サハリン-2への環境審査によってライセンスが取り消されることはない。国民の環境意識も高まっている。PS契約の廃棄や外資の締め出しを意図しているとの外部の見方には根拠がない」と述べ(PON,2006/9/28)、議論の中心部分は環境問題であって、政府としてPS契約のスキームを変更するような意図のないことを強調した。 これに合わせて、天然資源省は26日から現地での調査に着手し、同省の自然利用分野監督局のミトボリ副局長も27日からサハリン入りした。翌28日には、新聞記者団や環境保護団体を引き連れ、アニワ湾やユジノサハリンスクの北方60kmのパイプライン建設現場の視察を行い、土砂が流出して河川が堰き止められている現場を見せて回るなど精力的な調査と同時に、広報活動を行った。これを境に、日本の新聞からもサハリンにおける環境問題の深刻さを指摘する記事が現れ始め(毎日,2006/10/03,朝日,10/05,ガス・エネルギー新聞,10/18,世界週報,11/28)、環境問題は政府による介入の口実に過ぎないといったそれまでの論調はトーンダウンした。 ただし、このときのミトボリ副局長の振る舞いは、テレビカメラの回っている前で建設現場の作業員に詰問調で聞きただしたり、環境団体のメンバーを引き連れて会議場の壇上に居並んだりと、パフォーマンス過剰なもので、サハリン州関係者からの反発を招いている。 10月3日から20日までの予定で現地調査が開始され、ミトボリ副局長は下請けのロシア企業Starstroiが違法伐採を行い、土壌にダメージを与えたとする証拠資料をロせ55石油・天然ガスレビューロシア:サハリン-2問題をどう見るか?Aナリシスつ奪だうものである。水資源ライセンスは作業の根幹にかかわるもので、この取り消しは事業の停止を意味する(Interfax,2006/11/14)という。 その後、連邦水資源庁は12月5日、パイプライン建設作業請負会社であるStarstroiに対して付与された水資源利用の12件のライセンスに関して停止を命じ、2カ月以はく内に改善しない場合には、これを剥するとの措置を取った(天然資源省水資源局HP,2006/12/07)。(7)環境問題に対するロシアの姿勢 旧ソビエト連邦は、ある意味で環境汚染大国であった。そして、その体制の崩壊後も、長らく環境問題で苦しむことになり、今日ではむしろ積極的に環境問題に取り組む姿勢に転換している。 プーチン大統領は4月26日、東シベリア・パイプラインの建設ルートに関して、トムスク市での市民集会で科学アカデミー副総裁からバイカル湖で懸念される環境問題の説明を受けた後、同席していたトランスネフチ社のヴァインシュトック社長に、バイカル湖の北わずか800mのところを通過するという当初のトランスネフチ寒冷地では生態系は非常に脆弱であり、作業から40年以上経過しても植生の回復は見られない。環境保護は崇高な理念ではなく、現実の生活空間の保全の問題である。日本では、寒冷地における環境問題の重大性が十分理解されていない。出所:筆者撮影図2西シベリアにおける地震探鉱の跡2007.1Vol.41No.156ハリン地域環境検察局に対して、環境調査において法律に違反する行為があったとして自然利用分野監督局サハリン支局を相手取って訴訟を起こした(Interfax,2006/10/17)。この時点では、両者は対話に入ろうとしつつも、駆け込み的に最後の係争も行っていた。 10月20日、サハリン-2のオペレーターであるサハリン・エナジーのイアン・クレーグ(IanCraig)社長は、それまでの争う姿勢を撤回し、天然資源省と自然利用分野監督局への協力を再確認し、環境問題に関する是正措置を説明した書簡をトルトネフ天然資源相に出状した。 このなかで同社長は、8月の自然利用分野監督局によるパイプライン調査において見つかった環境基準に適合しない工事方法について、これを是正するための具体的な取り組みを報告している。 トルトネフ天然資源相は、「開発側との交渉が建設的な対話に移った」とし、同月内に制裁金などの処分を決定する意向を示した(北海道新聞,2006/10/21,PON,10/23)。この発言の直前にどのような状況変化があったかは不明であるが、これは天然資源省に対するサハリン・エナジーの全面的な服従と言える。わいょく曲き(6)刑事告発 サハリン訪問中のトルトネフ天然資源相は、10月25日の記者会見で、事業の全面中止はないこと、ただし、いくつかのパイプライン建設工事は中止すべきこと、損害の確定には2月末までかかること、サハリン-2の環境破壊に関して刑法260条(樹木の不法伐採、最高懲役3年)や刑法261条(森林破壊、最高懲役7年)など少なくとも五つの刑法に違反していることを指摘した。(Interfax,2006/10/25,各紙,10/26)。 さらにミトボリ副局長は、環境破壊を理由にサハリン・エナジーを相手取りストックホルム仲裁裁判所に提訴することを検討中であること、同プロジェクトからの遺失利益100億ドルを請求する可能性のあることを明らかにした(PON,2006/11/15)。ストックホルム仲裁裁判所への提訴は、サハリン-2のPS契約における紛争解決に関する条項に基づくものであるという。これに対してサハリン・エナジー側は「誇張と歪に満ちた根拠のない攻撃」と反論している。 また、同副局長は、連邦水資源庁に書簡を送り、サハリン・エナジーに対して付与された19件のライセンスに関して水資源利用の概要を報告し、ライセンスの取り消しを求めたことを明らかにした。これらは、河川への土壌投棄による汚染、不適切な侵食防止措置、水質汚濁、海岸線侵食など、水文学的なバランスを崩壊させたとい繧カしている(図2)。いことが知られている。地震探鉱調査の際に行った森林での伐採の跡は、熱帯であれば1~2年で元の植生に覆われるのに対して、シベリアでは数十年を経ても、依然さらとして生々しい表土を晒 太陽エネルギーに乏しい寒冷地の生態系は、温帯に住むわれわれの想像以上に脆弱である。2005年12月から欧州復興開発銀行(EBRD)がノグリキ、札幌、東京で開催した環境問題に関する公聴会の、サハリンにおける生そょう態系に関する議論は、コククジラ、オオワシ、遡するサケなどを守ろうという生物保護の色彩が強かった。今回明らかになった地滑りや河川の埋積などの実態は、それよりはるかに深刻であり、関係者の受けた衝撃も大きい。サハリンでは、自然環境保護は崇高な理念ではなく、地元の人々が普通に生活していく上で現実に守られねばならない約束事である。日本の報道では、当初は環境問題をあたかも口実として持ち出したかのように書いた記事が多かったが、実態が明らかになるにつれ、環境問題そのものの深刻さが報道されるようになった。回かいうするようその場で指示を案を廃棄し、北方に大きく迂与えた。パイプライン着工式を2日後に控えていたヴァインシュトック社長は、壇上で絶句したまま大統領の指示に従わざるを得なかった。このやり取りの模様はテレビ中継で全国に流されたという。これは、7月にG8サミットを控えて、「環境派」プーチンを演出したものと言われている。 サハリン-1に関しても、Chayvo-6号井の掘削にほりずあたって、掘の廃棄の問題で認可が下りず、1999年に予定した試掘が見送られ、許可は1年遅れの2000年になってからであった。このため、チャイボ構造における油層の発見は1年遅れる結果となった。 近年、環境審査を厳重に行うというロシア当局の姿勢は一貫しており、今回に限って、ガスプロムの権益問題や、PSAの廃棄といった問題にかこつけて意図的に持ち出したものではない。サハリン-1や、ほかのロシア企業に対しても同様の姿勢で臨んでいる。 熱帯と比較して、寒冷地では自然の回復力は格段に低屑くロシア:サハリン-2問題をどう見るか?2.サハリン-2におけるPS契約をめぐる議論(1)ロシアにおけるPS契約とPS法の成立 外資導入を活発化させるため、ロシア政府が生産物分与(ProductionSharing,PS)法を導入することを決定したのは1995年6月のことである。サハリン-1、サハリン-2、ハリヤガ(Kharyaga)の3件のPS契約は、立法化を待たず相次いで締結された。 PS法は議会通過後、1995年12月30日に、当時のエリツィン大統領が署名し、翌1996年1月11日に発効した。サハリン-1のPS契約が有効とされたのは、1996年6月11日、サハリン-2は6月22日、Kharyagaに至ってはかなり遅れて1999年1月である。その後、この3件に続くPS契約対象油ガス田をリストアップさせるために、PSリスト法が1997年7月に成立し、以降5回リストが追加されて、2001年2月までに26の油ガス田が登録された。しかし、新規に発効したPS契約はない。 PS法は、ユコスのホドルコフスキー社長(当時)による激しい攻撃に晒された。自社の株価に敏感であった彼は、外資が直接に権益に参加できるPS方式よりも、ロシア企業がライセンスを保有し、外資はそのライセンシーの株式を購入すべきと主張した。これにより、ロシアの石油企業はより高い株価を維持できると考えた。この考えは、彼の逮捕後も一定の支持を得ている。 これに対して、元ロスネフチの副社長で、産業エネルさらギー省のエネルギー局長に就任したオガネシアン等は、今後東シベリア、北極圏と技術的に困難な地域での探鉱に向かわざるを得ない状況のなかで、外資導入促進のためにPS方式の有効性を唱えていた。現状では凍結されたまま推移しているが、CERAは今後、油価下落の局面もあり得ないわけではなく、ロシアにおいてPS契約存続の余地があるとしている(CERAモスクワ談,2006/12)。 当初、PS契約の所管は経済発展貿易省であったが、同省が実務家を持たないため、ロスネフチとザルベジネフチ(Zarubezhneft)という二つの国営石油が実務面でこれを補佐する形態を取った。その後、所管が産業エネルギー省に移り、経済発展貿易省と天然資源省がこれに関与する形となった。 ロシア科学アカデミーは2006年5月25日、天然資源省からの委託研究として、PS契約の問題点をまとめて公表した。なかでもサハリン-2に関して、ロシア政府は収入を得るまで生産開始から3~5年待たねばならないこと、6%というロイヤルティーは世界的な標準である10~12%と比較しても低すぎること等を指摘して、PS契約を批判している(IOD,2006/5/26)。天然資源省は主管官庁でないことから、このような間接的な手法で批判を試みたものであろうが、産業エネルギー省の側は特57石油・天然ガスレビュー007.1Vol.41No.158アナリシスが問題であるというよりは、PS契約のなかでも石油会社側のみの取り分となるコスト回収が、石油会社と産油国の双方の取り分となる生産物分与よりも先行するという方式であるため、コスト・オーバーランが発生した場合には産油国側に著しく不利になるという点を強調したものである。 問題は、サハリン-2における今回のような規模のコスト・オーバーランが契約締結時には想定外であり、契約どおりに処理するとしたら、ロシア側が一方的に不利益を負わねばならない、という点である。 シュバーロフ(Shuvarov)大統領補佐官は9月6日、自然利用分野監督局がモスクワのPresnensky地区裁判所に環境承認の取り消しを求めて提訴したことを受け、「ロシアのPS契約参加者(複数)は、PS契約(複数)から撤退して通常のロシアの法体系に移行すべき」と発言した(Kommersant,2006/9/06,産経,9/07)。 これは、大統領府高官からの最初の発言として注目を集めたが、この部分は「天然資源省によるサハリン・エナジーに対する環境分野での批判はPS契約の条件改訂の要求とは何ら関係ない」とのコメントの後に、「個人的な見解」として付け加えられたものに過ぎない(AP,2006/9/06)。 10月4日、アルカジー・ドボルコビッチ(ArkadyDvorkovich)大統領府鑑定局長は露英商工会議所での会議で、「サハリン-2のコスト見積もりが200億ドルと倍増したことは、PS契約の違反であり認められない。どちらの側が条件を変えてきたか分かると思う」と述べた。他方で、サハリン-2の環境承認取り消しがエネルギー事業をロシア政府の支配下に置こうとする戦略の一環であるとの憶測を否定した(PS契約の違反となる根拠については述べられていない)。その上で、会議の席を外してからは、「契約内容と法規を遵守している限りPS契約は安泰である」とも付け加えた(MoscowTimes,2006/10/05)。 同日の日本の新聞では、「経費倍増ならPS契約を廃棄」と、かなりニュアンスの異なる報道がなされ、「環境問題で工事差し止めを迫っているのも最終的にはPS契約の廃棄が目的との見方があったが、これを裏付けることになった」と、正反対の論評をしている(日経,2006/10/05)。しかし、現地からの報道を見る限り、そのような事実は確認できない。 一方、これまでサハリン-2問題に関して特段の発言のなかったプーチン大統領は、フィンランドのラハティ(Lahti)でのEU首脳との会談後、記者団の質問に答えて、サハリン・エナジーに対して、99年からの石油生産開始段のコメントをしていない。既往契約に関しては、両者が合意しない限り契約の改訂はなされないことが規定されており、ロシア側の都合で改変するのは実質的に不可能である。産業エネルギー省としては、PS契約の法的枠組みは維持する方針である。(2)サハリン-2におけるコスト・オーバーランの実態とPS契約の問題点 サハリン-2の総開発費については、当初承認されていた予算は100億ドルであった。その後、120億ドルにまで増加したが、ロシア側の承認が得られないまま推移していた。その後2005年7月14日には、総事業費が約200億ドルへと倍増すると公表された(各紙,2005/7/15)。 このコスト・オーバーランの要因としては、ピルトゥせいン・アストフ油ガス田からの生産パイプライン経路に棲くするコククジラの餌場を迂回させるようルートを再設計したコスト、世界的に高騰した資機材コスト、ユーロ高による欧州企業のエンジニアリング費用のドルベースでの膨張などが理由となっている。 これに対してロシア政府としては、独立の機関による監査を行った上で、このコスト・オーバーランに対する何らかの対応を2006年年央にも行う予定としてきた(IOD,2006/2/13)。 一方、サハリン・エナジーのIanCraig社長は、この時点で、ロシア政府は超過コスト100億ドルのほぼ全額を承認するであろうとの楽観的な見通しを語っており(Reuters,2006/3/23)、事態の深刻さを十分把握していなかったふしがある。 既往のライセンス方式にあっては、支出されたコストは損金扱いとなり、減価償却として一定年数のなかで税控除を受ける。一方PS契約の特徴は、生産開始と同時にコスト回収期間が設けられており、ロイヤルティーを徴収された後はコスト回収枠から優先的に回収されていくというものである。 サハリン-2のPS契約におけるコスト・オーバーランの問題とは、生産開始からコスト回収までの期間が、当初想定の2倍近い長さとなって、ロシア側の回収が大幅に遅れる点にある。この問題は、コスト・オーバーランが公表された2005年7月以来議論されており、今回生じた環境破壊の問題とは、直接には関係がない。息そ(3)大統領府の発言 大統領府からの発言は、おしなべてPS契約がロシア側にとっていかに不利であるかという点で一貫している。ただし、これらの発言はPS契約という枠組み全体鴻Vア:サハリン-2問題をどう見るか?からも、現状でロシア側に収入はなく、事業費が倍増した場合には今後10年間も収入の見込みが立たないことから、コスト・オーバーランは認められないとの見解を示した。ただし、双方の受け入れ可能な解決法があると確信するとも付け加えた(Interfax,MoscowTimes,2006/10/23)。 以上を見ると、大統領府においては、コスト・オーバーランは認めないという姿勢で一貫しているとはいえ、サハリン・エナジーに対しては妥協による合意を呼びかけており、PS契約そのものを廃棄するという見解にまでは至っていないと思われる。(4)ロシア政府の見解 一方、ロシア政府の姿勢はより明確にPS契約の遵守うたを謳っている。これは、行政当局としては当然の対応と思われる。アンドロソフ経済発展貿易省次官は、PS契約が破棄されないことを政府高官として最初に述べた。発言内容は「環境関連省庁の担当者が発表した事業の環境への影響に関する声明文は、プロジェクトの過程に何ら影響を与えるものではない。PS契約は複数国間で決定したことであり、破棄できるとは考えていない(ビジネス・アイ,2006/9/12)」というもので、天然資源省に対する牽制が込められている印象もある。 同じころ、トルトネフ天然資源相は、サハリン-2における100億ドルものコスト・オーバーランはロシアにとって受け入れられるものではなく、この費用高騰がサハリン-1と2の監視強化につながっている、と述べた(IOD,2006/9/13)。このような発言は、いかにも強面で、国家による監視強化を思わせるが、翌9月13日には、フリステンコ産業エネルギー相がトルトネフ天然資源相に公式書簡を送り、PS契約プロジェクトの担当機関は産業エネルギー省であることを指摘した(VremyaNovostei,2006/9/13)。トルトネフ天然資源相は、当初はPS契約の問題と環境問題を結びつけたい意思のあった可能性があるが、それはあくまで個人的なものであり、政府部内では、これは否定されたと見るべきであろう。同相は9月25日には、天然資源省の査察はあくまで環境問題に限定されるもので、経済的な側面には踏み込まず、ライセンスの剥奪もあり得ないと述べている(Reuters,2006/9/25)。これは、同省の問題意識がPS契約を対象にしたものではないことを明らかにしたものである。 9月28日には、前述のとおりラブロフ外相がユジノサハリンスクでの「第10回サハリンオイル&ガス2006」で、サハリン-2への環境審査によってライセンスが取り消されることはないこと、PS契約の廃棄や外資の締め出しを意図しているとの外部の見方には根拠がないこと、を強調した(PON,2006/9/28)。 連邦環境・生産技術・原子力監督局(Rostekhnadzor)のプリコフスキー(Pulikovsky)長官は、サハリンでの石油・ガス開発は環境面で注意を要するが、PS契約なしでは不可能であったであろうと、前向きの評価を示した(Interfax,2006/10/06)。 フリスチェンコ産業エネルギー相は、10月17日の記者会見で、環境と犯罪分野におけるロシアの法規は、PS契約の問題とは何ら関係なく、いかなる投資家によっても遵守されるべきと述べ、PS契約に関しては「1990年代に締結されたもので理想的ではないが、ロシア政府と投資家とによって署名された法的な文書であることから、双方がその契約によって拘束される」と、契約の不可侵性に言及した。これは、西側の報道を十分に意識した発言であろう。これに続けて、①本件が投資家とロシア政府にとって満足のいく結論に達することを望む、②サハリン-2のコスト増大がロシア政府の収入減となってはならない、と述べ(PON,2006/10/18)、大統領府と非常に近い考えを示した。 政府公式の発言は、いずれもPS契約の遵守に言及しており、投資家側に疑心暗鬼を生じることがないよう配慮したものである。と同時に、コスト・オーバーランをそのままでは認めないという相反する発言を付け合わせることにより、サハリン・エナジーに対して妥協の道を探るようボールを投げていると解される。(5)会計検査院の見解 10月5日、ロシア会計検査院はサハリン-1とサハリン-2の検査結果を公表し、サハリン-2のコストが2倍になったのは正当化されえないと指摘したと報じられている(Interfax,2006/10/09)。しかし、「油価前提をバレル当たり34ドルとし、2045年まで年率3%のエスカレーションで計算すると、サハリン-2からロシアは生産物の10%以下しか手にできない不利な条件下で遂行されている」と述べる(Kommersant,2006/10/06)など、石油関係者には試算の前提に疑問の残る内容である。 これに対してサハリン・エナジーは、「そのような配分比率になるのは、プロジェクトの利益率が17.5%未満の場合だけであり、利益率が上がればロシア政府の取り分比率も上昇する」(Vedomosti,2006/10/09)と、PS契約の内容に照らして当然のことを指摘して反論している。 その後、セルゲイ・ステパーシン(SergeiStepashin)会計検査院長は、「PS方式はロシアに資金のなかった時59石油・天然ガスレビューAナリシス期に導入したもので政治的判断だった。現在、この契約は経済的観点からは不利なのは明らかだが、ひとたび締結された契約は遵守する義務がわれわれにはある。コストが2倍になるというのであれば、コスト削減のためにロシアのコントラクターを多く活用するなど、解決の道があるはずである」(Interfax,2006/10/13)と、具体的な工夫の必要を説いている。(6)サハリン・エナジーの事業費超過見積もり疑惑 サハリン-2では、第1フェーズで27億ドルの支出があり、2014年までの第2フェーズの予算は192億ドルに増大し、全体の合計額は219億ドルとなると試算されている。 サハリン・エナジーが報告した219億ドルという総事業費を精査していたザルベジネフチ(Zarubezhneft)は、16億ドル過大申告されていると報告した。そしてZarubezhneftの情報ソースは、「政府に対して、アジアへのLNG供給の1年間の遅れによる損失10億ドル、ノグリキ空港のインフラ改修費5億6,000万ドル、その他7,400万ドルを回収対象支出から除外するよう提案している」と述べた(Vedomosti,2006/10/23)。その後、11月13日付Vedomostiでは、Zarubezhneftは25億ドルの超過見積もりを発見した(PON,2006/11/15)と、さらに超過とされる分が増加する様相を呈している。(7)その後のサハリン-2の対応 全体の流れが、PS契約は維持するものの、100億ドルというコスト・オーバーランはそのままでは承認しないとのロシア政府関係者の発言が相次ぐなか、シェル、三井物産、三菱商事の3社は、総事業費を数十億ドル程度圧縮することにより、コスト回収期間を短縮し、ロシア側が早期に利益配分を得られるよう譲歩する方針を固め、年内の合意を目指してロシア側と交渉に入る、との関係者の発言が報道された(読売,2006/10/27,28)。この妥協は、ロシアにおいて今後も大型資源開発プロジェクトが続くと見込まれるなかで、対立を避け、新規事業に参入する際の布石とするのが狙いと解説されている。 コスト・オーバーランに関する最終決着は、ガスプロムの参加問題で合意した12月21日(後述)に併せて合意されていたことが、その後の報道で明らかになった(Vedomosti,2006/12/28,各紙,12/29)。これは、2014年までの予算である194億ドル(Vedomosti紙10/23日付けでは192億ドル)の内、鋼材等の値上がりなどの要因による増加は認めるものの、市場ファクターとは関係のない技術上のリスクから生じている36億ドルに及ぶ支出増はコスト回収の対象としないとするものである。すなわちコククジラの棲息域を回避するためのパイプライン・ルートの変更に関わる費用増などはコスト回収の対象とはされない。3.ガスプロムの参加問題の20%にあたる39億boe(石油換算バレル)分を下方修正で失い、経営責任問題となっていた。経営上、素早い埋蔵量の追加が求められる状況のなかで、超巨大ガス田で、かつ液分を多く含むザポリヤルノエの権益は魅力であった。 埋蔵量ベースで見ると、サハリン-2の埋蔵量は、天然ガス5,000億m3(17.7兆cf)、石油11億バレル(1億5,000万トン)と公表されている。一方、ザポリヤルノエ・ガス田全体では128兆cfと世界第7位の超巨大ガス田であるが、交換の対象となった深部のネオコム層について見ると、天然ガスは7,350億m3(26兆cf)、コンデンセート1億3,300万トン、石油1億3,700万トン(NC,2005/7/14)で、サハリンの25%とザポリヤルノエの50%を比較すると、数量的にはガス、石油(コンデンセートを含めれば)ともにザポリヤルノエがサハリン-2の約3倍となる。開発・輸送コストを考慮しないで比較はできないが、その資産評価比較で見ると、ガスプロムのサハリン-2に2007.1Vol.41No.160きょうう堡ほ頭と(1)シェルとガスプロムの資産交換の交渉 2005年7月7日、ガスプロムのアレクセイ・ミレル(AlexeiMiller)社長とシェルのJ.ファンデルフェール会長はロンドンで会合し、サハリン-2のブロック株となる25%+1株と、ガスプロムの操業する西シベリアのザポリヤルノエ(Zapolyarnoye)ガス田の下部白亜系ネオコム層権益の50%を交換することで合意した(各紙,2005/7/08)。 ロシアで最初のLNG事業が進められているサハリン-2は、LNG技術を習得したいガスプロムとしてもぜひとも参入したいプロジェクトである。そのほかにも、大陸棚油ガス田開発技術、氷海域開発技術に接することができ、何よりもサハリン-2にロシア企業が入っていないという、ロシア側から見て透明性の低い操業状況を改善できる。サハリン-3以降の事業展開の橋ともなりうる。 一方でシェル内部では2005年1月、自社全体の埋蔵量ツいて、当初ガスプロムは決めていなかったが、シェルは打ち続くトラブルの発生から、新規権益の取得に消極的になり、キャッシュを選択したとの報道がある(FT,2006/12/13)。しかし、資源高の状況下にあっては、むしろアセットを新たに確保する方が難しく、これはガスプロム側の判断という見方もある(CERAモスクワ談,2006/12)。 この話し合いは12月21日、ガスプロムが50%プラス1株、シェルが27.5%マイナス1株、三井物産が12.5%、三菱商事10%という権益比率となり、ガスプロムが譲渡価格として74億5,000万ドルを支払うことでまとまった(各紙,2006/12/22)。これは、PS契約に定められた権益譲渡の規定に基づいた措置である。オペレーターシップは引き続きシェルが保有し、事業形態での大きな変更はない。増大した事業コストの一部をロシア政府が承認したと伝えられる。また、需要家との間で締結されたLNG供給契約の遵守が確認された。 譲渡価格に関しては、既往投下額が120億ドル(各社ホームページによる)であり、その半額の60億ドルに、金利分を加えた後、さらにどの程度の上積みがなされるかが注目されていた。一方、WoodMackenzie社はサハリン-2プロジェクト全体の評価額を150億~180億ドルとしており(PON,2006/12/14)、今回の50%ベースの価格はほぼその下限値に相当する。また、ドイツUFGは75億ドルを下回ればガスプロム側にとって利益となると論評していること(Upstream,2006/12/15)と突き合わせると、双方が納得いく範囲の中立的な決着と言える。 通常メジャーは、サハリン-1のエクソンモービルがそうであるように、プロジェクトへの参加にあたって30%程度の権益とオペレーター権を取得するというのが基本型であり、サハリン-2におけるシェルの55%は明らかに過大であった。これは、かつてパートナーであった、マクダーモット、マラソンに次々とプロジェクトを去られた後を、シェルがやむを得ず埋めていたもので、今回27.5%となったのは、むしろ適正水準に戻ったと見るべきである。 昨年の議論と大きく変わった点は、既に述べたように三井、三菱がそれぞれ12.5%、10%という権益の譲渡に応じた点で、これによりガスプロムによる50%超の支配株獲得が可能となった。この背景は現時点では特段論評されていない。しかしこの1年間の新地下資源法の議論で石油7,000万トン(5億1,100万バレル)、天然ガス500億m3(1.77兆cf)以上の規模を有する「戦略的鉱床」ではロシア企業が50%超の権益を保有することとされており、法案自体はまだ成立していないが、サハリン-2で、保有可能な比率は22%と当初報道されていただけに、25%という権益比率はシェル側の大幅な譲歩とも見られていた。(2)コスト・オーバーランによる交渉の仕切り直し この交換合意から1週間後に、サハリン-2におけるコスト・オーバーランが公表された。当然、サハリン-2プロジェクトの経済価値は減じることになる。このような事実を秘匿して交渉を続けてきたサハリン・エナジー側の対応に、ガスプロム側は不信感を募らせたと言われている。 その後、サハリン-2の25%とザポリヤルノエ・ネオコム層の50%という権益は変更せず、キャッシュの上乗せで交換価値の不均衡を調整する方向で話し合うことになったと伝えられた。サハリン-2のコスト・オーバーランが明らかになってから、この権益交換に関する話し合いはほとんど進捗しなくなった(Reuters,2006/9/19)という報道もあるが、依然としてガスプロム側が協議を急ぎたいとしているという本年7月の段階の報道(Interfax,2006/7/19)の方が信性があると思われる。 シェルのロシア事業を統括するShellExplorationandProductionRussiaのクリス・フィンレイソン(ChrisFinlayson)社長は、10月17日時点で、ガスプロムが25%+1のブロック株を取得する問題については、年内に決着したいと述べている。また、環境問題とこの権益交換との連関について問われると、「われわれは全く別の事柄として扱っている」と答え、多くのアナリストたちの憶測を否定した(MoscowTimes,2006/10/18)。憑ぴしんょう(3)ガスプロムが74億5,000万ドルで50%の支配株取得へ その後、12月に入り事態は急展開した。12月8日に、シェルのファンデルフェールCEO、ガスプロムのミレル社長はフリステンコ産業エネルギー相の同席のもと、モスクワで協議し、シェル側がさまざまな提案を行ったと伝えられる。そのなかには、ガスプロムの参加比率の引き上げも含まれており、50%超の支配株を受け入れるとの観測がなされた。シェルはオペレーターの地位を維持するために25~30%の株式を引き続き保有するであろうから、50%を獲得するためには、25%を保有する三井、20%を保有する三菱からもその半分近い株式が譲渡されるとの観測が広がった(Reuters,PON,2006/12/12)。15日からは、三井物産の槍田社長、三菱商事の小島社長がモスクワでの会議に参加した。 参加の形態を資産交換とするかキャッシュとするかに61石油・天然ガスレビューロシア:サハリン-2問題をどう見るか?「ずれそのような方向性が打ち出される可能性があると判断し、事前に新地下資源法と整合性を取った可能性がある。既にサハリン-5においては、オペレーターのBPが49%、ロスネフチが51%で問題なく操業を行っており、これに類した形態であるといえる。アナリシス4.サハリン-2問題における結論・サハリン-2問題におけるガスプロムの参加問題は、これまでの経緯とは異なり、ガスプロムに50%+1株を、74億5,000万ドルで譲渡することで決着した。これは新地下資源法における「戦略的鉱床」の取り扱いと整合性を持たせるためと解される。ただし、現行の半分の27.5%を保有するシェルは引き続きオペレーターにとどまり、事業遂行の態勢は基本的に変更はない。譲渡価格は、双方が受け入れ可能な水準と判断される。・2006年夏~秋に展開されたロシア自然利用分野監督局によるサハリン-2事業に対する一連の査察と改善勧告は、80%まで仕上がったサハリン・エナジーの事業を廃棄させるのが目的ではなく、同社の環境対策に問題があったため、既往認可をいったん取り消し、同社に環境規則の遵守を徹底させることを目的とした実務的なプロセスである。・報道では、ロシア政府によるプロジェクトの管理強化や、資源統制、さらにはガスプロム参加問題での会社に対する揺さぶり、PS契約破棄の画策といった憶測が頻繁になされていた。しかし、ガスプロムの参加問題に関しては2005年7月の時点で基本的な条件が議論され、またPS契約の問題についてはその1週間後に、100億ドルから200億ドルへと大幅なコスト・オーバーランが報告されて以来、参加比率の調整とともに処理が検討されてきた問題であって、2006年の夏に発生した問題ではない。今回の環境問題を梃子に参加比率とPS契約下でのコスト・オーバーランの問題を有利に運ぶために持ち出したと解釈するのはバランスを欠く。約100億ドルに及ぶ大幅なコスト・オーバーランの扱いに関しては、第2フェーズの総事業費194億ドルの内、シェル、三井物産、三菱商事の3社が、36億ドルの事業費をコスト回収の対象としないこととし、ロシア側が当初想定に近い利益を得られるようにすることで合意した。PS契約の枠組みは維持される。・石油開発において環境問題が重要な争点となり、計画が大幅に変更された例として東シベリア・パイプラインがあり、作業が1年遅延した例としてサハリン-1のChayvo-6号井の掘削がある。ロシア政府の認識では、環境保護は高い優先度を持っている。・既に80%の作業が進捗しているサハリン-2プロジェクトの第2フェーズに関しては、その重大性はロシア側も同様の認識であり、実現への意欲は双方ともに高い。執筆者紹介本村 眞澄(もとむら ますみ)[学歴]1977年3月、東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了[職歴]同年4月、石油開発公団入団。98年6月、同公団計画第一部ロシア中央アジア室長。2001年10月、オクスフォード・エネルギー研究所客員研究員。04年2月、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油・天然ガス調査グループ主席研究員(旧ソ連担当)、現在に至る。[主な研究テーマ]ロシア・カスピ海諸国の石油・天然ガス開発と輸送問題[主な著書]「ガイドブック 世界の大油田」(分担執筆)技報堂出版、1984年「石油大国ロシアの復活」アジア経済研究所、2005年2007.1Vol.41No.162
地域1 旧ソ連
国1 ロシア
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 旧ソ連,ロシア
2007/01/30 [ 2007年01月号 ] 本村 真澄
Global Disclaimer(免責事項)

このwebサイトに掲載されている情報は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Oil, Gas and Metals National Corporation All Rights Reserved.

本レポートはPDFファイルでのご提供となります。

上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。