ページ番号1006316 更新日 平成30年3月5日

シミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす

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レポートID 1006316
作成日 2008-01-18 01:00:00 +0900
更新日 2018-03-05 19:32:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 天然ガス・LNG技術
著者
著者直接入力 小山 和夫
年度 2008
Vol 42
No 1
ページ数
抽出データ アナリシス東京ガス株式会社 エネルギー生産部小山 和夫シミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?[要点]・LNG(LiquefiedNaturalGas:液化天然ガス)の組成・発熱量・密度等は、産地によって異なる。・異種LNG混合貯蔵は、大きな経済的メリットがあるが、一方で層状化・ロールオーバーのリスクに注意を払う必要がある。・異種LNGの混合による層状化リスクは、取り扱うLNGの種類のほか、LNGタンクの形状・構造や受入方法等にも左右されるため、LNG基地の計画・設計・建設・運用・維持管理の各段階における技術検討の良否が、その基地の操業の効率、柔軟性、経済性等に大きな影響を及ぼす。・リスクを極小化して異種LNG混合貯蔵のメリットを生かすための層状化防止ガイドラインの構築に、スーパーコンピューターを活用した数値流体シミュレーションが役立つ。1. はじめに 都市ガス原料や発電用燃料として広く使用されているLNGは、メタンを主成分とする炭化水素、窒素等の混合物であり、その組成、発熱量、密度等は、産地によって異なる。その物性、特に密度の違いは、LNG受入基地の設備や運転操作にコスト面・安全面等でさまざまな影響をもたらす。 異種LNG混合貯蔵とは、密度が互いにある程度以上異なるLNGを同一タンクに貯蔵する技術である。異種LNG混合貯蔵は、1基のタンクに多種類のLNGを貯蔵できるため、LNGのスポット契約等、取引の柔軟性を高め、LNGの流通促進に大きなメリットがあるが、一方で層状化・ロールオーバーのリスクに注意を払う必要がある。 こうしたリスクを極小化して、異種LNG混合貯蔵のメリットを生かすために、スーパーコンピューターを活用した数値流体シミュレーションが注目されている。そこで、異種LNG混合貯蔵の背景・意義、シミュレーションの事例等について解説する。2. LNGとは LNGは、天然ガスを、産地において約-162℃に冷却し液化したもので、主成分はメタンである。液化すると体積が元の約1/600となり、タンカーでの大量輸送が可能となる。液化工程で硫黄等の不純物が除去されるため、環境保全の観点から燃料として極めてクリーンであること(図1)、高発熱量(40?45MJ/m3N程度)であるため都市ガスとしてパイプラインで供給する際の輸送効率が高いこと、等の特徴があることから、日本では近年、都市ガスの原料として主流となっており、発電用の燃料としても大量に使用されている。都市ガスは、このLNGを海水等の熱源を用いて液体から気体に戻すとと27石油・天然ガスレビュー石炭100SOx石油68LNGLNG00もに、LPG(LiquefiedPetroleumGas:液化石油ガス)等を添加して所定の供給熱量(供給約款で定められた発熱量で45MJ/m3N前後)に調整し、最後に保安のために付臭(LNGを気化した天然ガスは無色無臭であるため、臭いを付けるために付臭剤を添加)することにより生産される。環境に優しいLNG(石炭を100とした燃焼排出物比較)出所:東京ガス図1石油71LNGLNG2020石炭100CO2LNGLNG5757石油80石炭100NOx. LNGチェーンと都市ガスの生産設備 LNGは天然ガス田、液化(輸出)基地、LNGタンカー(写1)による海上輸送、LNG受入基地(写2)等が統合されて、LNGチェーンを形成している(図2)。このため、供給者・需要者間の相互関係が緊密で、供給の安定性も高いと言える。 LNGの日本への入り口となるLNG受入基地は、多くの場合、都市ガス生産工場や火力発電所である。LNG受入基地を構成する基本的な要素(LNG設備)は、図3に示すように、受入設備、貯蔵設備、BOG(BoilOffGas)処理設備、気化設備の四つである。LNG受入基地の概略フローを図4に示し、それぞれの設備の概略について以下に記す。①受入設備:LNGタンカーが着桟するバース、LNGタンカーと受入配管を接続するアンローディングアーム、受入配管等からなる。②貯蔵設備:LNGの貯蔵用貯槽(以下「LNGタンク」という)で、地上式と地下式(図5)がある。③BOG処理設備:BOG(LNGが低温であるため、外部からの入熱等によりLNGタンクからその主成分であるメタンが少しずつ蒸発したガス)を圧縮機で昇圧して送出する設備。LNG受け入れ時に発生したBOGは、リターンガスブロワーと呼ばれる送風機によって、一部LNGタンカーに返送される。このほか、再液化して処理する場合もある。④気化設備:LNGを気体に戻す設備。オープンラック式(海水を熱源とする方式、図6)や、サブマージド式(水中バーナーによる温水を熱源とする方式)等がある。   都市ガス生産工場の場合には、このほかに、所定天然ガスLNG液化(輸出)基地LNG海上輸送LNG受入基地都市ガス導管網需要家設備他顧客アナリシスの供給熱量に調整するため少量のLPGを添加する熱量調整設備と、そのLPGを貯蔵するLPGタンク、付臭設備、保安設備、ユーティリティ設備、計装制御設備等を有する。出所:東京ガス写1LNGタンカー(LNGVESTA:127,500m3)出所:東京ガス写2LNG受入基地(東京ガス袖ヶ浦工場)BOG圧縮機冷熱利用出所:東京ガスアンローディングアーム海水図2LNGチェーン受入設備貯蔵設備気化設備送出LNGタンカー出所:東京ガスBOG処理設備図3LNG受入基地機能の基本構成LNG気化器LNG気化器LNGタンカーLNGタンクLPGタンカーLPGタンクポンプ出所:東京ガス液体酸・窒素発電用燃料熱量調整付臭都市ガスローリー出荷LNGLNG図4LNG受入基地概略フロー2008.1 Vol.42 No.128Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?東大寺型式:完全埋設型容量:20万m3内径:72m深さ:49m出所:東京ガス鉄筋コンクリート+保冷構造図5LNG地下タンクの例海水管:パネルの外側に海水を流す出所:東京ガス パネル:LNG管を並べたパネル状のもの図6オープンラック式LNG気化器4. LNG市場とその変化 ?LNG取引形態の多様化?拡大するに伴い、新たなLNG液化基地・受入基地の建設とともに、短期・スポット契約やスワップ取引等の弾力的な取引が増加しつつある。例えば、2006年の世界のLNG短期・スポット契約実績はガス換算で約340億m3で、これはLNG貿易量の約16%を占めており、取引形態の多様化が進んでいる。スポット契約は、冬期の異常な低気温で都市ガス需要が急増した場合や、LNG液化基地のトラブル時等にも、緊急原料調達のため必要となる場合がある。こうした取引によるLNGの物性は、長期契約で通常受け入れられているLNGの物性とはしばしば異なる場合があり、このような市場の変化が、LNG受入基地の設備や操業に、コスト面・安全面等でさまざまな影響を及ぼしている。異種LNG混合貯蔵は、その代表的な課題の一つである。アラスカ113113カタール771771アブダビ526526オマーン286286マレーシア1,2221,222ブルネイ639639インドネシア1,3951,3951,2611,261オーストラリア単位:万t出所:財務省貿易統計図7日本の主なLNG輸入先と輸入量(2006年) 日本の1次エネルギー消費量比(2006年)において、天然ガスは14.6%で石油、石炭に次いで第3位を占めている。図7に示すように、天然ガスは世界各地で産出されており、その確認埋蔵量は約175兆m3、可採年数約62年で、石油と比較しても遜色のない、魅力ある豊富な資源である。しかし、日本国内で産出する天然ガスはわずかであり、その大部分は輸入に頼っている。 世界の天然ガス消費量は約2.8兆m3(2006年)で、そのうちパイプラインおよびLNGによる貿易量はその約1/4の7,500億m3である。LNGは世界の天然ガス貿易量全体の30%弱(2,100億m3)を占め、日本はその約40%を輸入している。2006年の受入量は6,331万t(図8)で、用途は62%が発電用、36%が都市ガス用である。 日本に初めてLNGが輸入されたのは1969年11月のことで、輸出基地はアラスカのケナイ、受入基地は東京ガス根岸工場であった。2007年末現在、わが国で稼働中のLNG受入基地は31カ所(図9)あり、今後、建設・増設が予定されている基地も少なくない。このほか、ローリー輸送等を介して受け入れる、内陸のLNGサテライト基地が50カ所以上操業されており、LNGはわが国の基幹エネルギーとしての地位を確立し、さらなる発展が期待されている。 LNGプロジェクトは、液化設備・海上輸送・受入設備に巨額の投資を必要とするため、LNGの取引契約はそ期から長い間、弾力性の乏しいテイク・オア・ペイの黎条項付きの20?25年程度の長期契約が一般的であった。しかし近年、規制緩和・環境保全等を背景にLNG市場が明めれいい29石油・天然ガスレビュー徼7,0006,0005,0004,0003,0002,0001,000019701975198019851990199520002005年出所:財務省貿易統計アナリシス函館(ガス)八戸(石油)仙台(ガス)東扇島(電力)扇島(ガス)袖ヶ浦(ガス・電力)富津(電力)根岸(ガス・電力)清水(ガス)新潟(電力)姫路①、②(ガス・電力)高松(ガス)岡山(ガス)水島(電力・石油)広島(ガス)柳井(電力)北九州(電力・鉄鋼)福岡(ガス)大分(電力)堺(電力)知多①、②(ガス・電力)知多緑浜(ガス)長崎(ガス)泉北Ⅰ・Ⅱ(ガス)川越(電力)四日市①、②(ガス・電力)鹿児島(ガス)出所:東京ガス図8日本のLNG輸入量の推移図9日本のLNG受入基地(2007年)5. 異種LNG混合貯蔵とは ?メリットとリスク? 異種LNG混合貯蔵とは、異種LNG(密度が互いにある程度以上異なるLNG。詳細は後述)を同一タンクに混合して貯蔵する技術である。異種LNG混合貯蔵は、1基のタンクに多種類のLNGを貯蔵できるため、LNGのスポット契約等、取引の柔軟性を高め、LNGの流通促進に大きなメリットがある。異種LNGは、特に密度差が大きい場合には、層状化リスク(後述)を避けるため、別々のタンクに貯蔵するのがこれまでの基本的な受入方法である(図10)。この場合、層状化リスクは回避できるが、タンクの在庫管理・LNG船の配船計画等の大幅な制約は避けられない。 近年、LNG市場が拡大し、スポット契約等が増加するに伴い、多種類のLNGを効率的に取り扱うため、異種LNGの同一タンクへの混合貯蔵ニーズが高まってきている。密度差の大きい異種LNGの混合貯蔵が、より安全に実施できれば、次のような大きなメリットが得られる。①LNGタンクオペレーション、LNG船の配船等が容易になり、LNGの輸入調達・基地操業の柔軟性向上、操業の効率化が図れる。②タンク回転率を高め、LNGタンク設備投資の大幅な低減が図れる。 一方、主なリスクとして、BOG発生量の増加・層状化・ロールオーバー発生リスク(詳細は後述)がある。 以下、リスクの詳細並びに数値流体シミュレーションを活用してこれらのリスクを極小化し、異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす取り組みについて、順を追って述べていく。従来均一に混合するか?LNG ALNG BLNG ALNG BLNGLNGLNG(a)密度差が大きい場合の従来の受入方法出所:東京ガス(b)異種LNG混合貯蔵図10異種LNG混合貯蔵と従来の受入方法6. 異種LNGとは ?LNGにもいろいろある? LNGの主成分はメタンで、その他にエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、窒素等の成分を含む混合物である。しかも、各成分の含有割合は産地によって大きく異なる。そのため、LNGを燃焼させたときの発熱量が異なるほか、その密度も産地の違いで420?470kg/m3程度の範囲(最大11%程度)に分布する。図11に、東京ガスが受け入れているLNGの密度と発熱量の分布を示す。図から分かるように、発熱量と密度はほぼ比例関係にあり、発2008.1 Vol.42 No.130Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?440445450密度 [kg/m3]4554604654704753942042543043546454443424140発熱量 [MJ/m3N](注)各産地を色別で表示出所:東京ガス図11LNGの密度と発熱量の関係ク、LNG発熱量問題?」33)を参照されたい。熱量が高いLNGほど密度が大きい。 さらに、LNGはタンカーで輸送する間、あるいはタンクに貯蔵している間に、主に軽い成分であるメタンが蒸発(BOGが発生)して組成が変化し、密度が大きくなっていく。 異種LNGという言葉は、一般に同一タンクに混合して貯蔵する場合に層状化リスクがあり、受入操作に注意を喚起する目的で用いられる。層状化リスクについては、貯蔵設備や受入操作にも依存するため厳密な定義はないが、ここでは密度が互いにおおむね1?2%以上異なるLNGを異種LNGと呼ぶ。異種LNGに関する詳細は、石油・天然ガスレビュー2005年9月号、宮﨑信一「“熱”く、LNG市場を制す?グローバル化へのボトルネッ能よ7. LNGタンクオペレーションとは ?LNG受け入れのほか、タンクの在庫量、BOG発生量、LNGの品質、層状化リスク等をコントロールする? LNG基地の操業の主要な作業の一つはLNGタンクオペレーションと呼ばれ、LNG船の配船計画とLNGの消費パターン(ガスの需要量)との間を調整して、LNG受入作業を行うとともに、タンクの在庫量(液位)を適切に管理することである。どのLNGをどのタンクに貯蔵するか、どのタンクのLNGを払い出すかを計画し、タンク液位を最高液位と最低液位の間に管理するほか、BOG処理・発生量管理、濃縮管理すること等が必要である。7.1 BOG処理・発生量管理 定常時(非受け入れ時)、タンク内のLNGはほぼ沸点にあり、タンク外部から流入した熱で温められて対流現象を引き起こすとともに、BOG(主成分は一番軽いメタン)を発生している状態にある。下部の熱が対流により液表面に運ばれてLNGの蒸発に消費されるため、BOG発生量は、タンク外部からの入熱量とつり合っており、圧力の変化がなければほぼ一定である。 LNG受け入れ時は、受入液の蒸発や、受入液が引き起こす強制対流等により、定常時に比べBOG発生量が増加する。 発生したBOGは、BOG圧縮機の運転によりタンクから排出され、LNG気化後のガスラインに送出するのが通常のオペレーションであるが、再液化設備を用いて液化しタンクに戻す等の処理を行う場合もある。また、LNGの沸点はタンク気相部の圧力によって変化する。圧力が高くなるほど沸点が上昇し、BOGの発生が一時的に抑制されるため、必要に応じ、蓄圧・減圧によってBOG発生量の制御を行うこともある。7.2 濃縮管理 タンク内LNGは、タンク外部からの入熱により、0.1?0.2%/日(重量%)程度の割合でBOGを発生し、時間の経過とともに濃縮(重い成分が増加)していくため、発熱量も変化する。一方、供給する都市ガスの発熱量は供給約款で定められており、通常は、供給熱量より発熱量が小さいLNGに発熱量の大きいLPGを添加して発熱量を調整する。しかし、濃縮が進み過ぎると逆に希釈する必要が出てきてしまうので、タンク内のLNGは適切なタイミングで払い出す必要がある。この現象に関する詳細は、石油・天然ガスレビュー2006年11月号、三神直人「LNG刺し身論とハブ構想」34)を参照されたい。7.3 LNG受け入れと層状化リスク管理 LNG受け入れ時、特に密度差の大きい異種LNGの混合受け入れ時には、層状化リスクに対する十分な配慮が要求される。図12に、LNGタンクの代表的な受入設備を示す。産地による密度差のほか、同一産地のLNGでも輸送や貯蔵中の外部入熱による温度上昇や蒸発等により密度は変化する。このため、層状化を回避する手段として、タンクは通常上部と下部の2種の受け入れノズルを有し、受け入れるLNGの軽重によって使い分ける。 基本的に、貯残LNGより軽いLNGは下部ノズルから、重いLNGは上部ノズルから受け入れ、密度差に基づく31石油・天然ガスレビュー008.1 Vol.42 No.132浮力を利用することにより混合を促進し、層状化リスクを低減する(図13)。 異種LNGの受入方法によって、受け入れ終了後のタンク内のLNG密度分布は大きく変わる。この密度分布は、層状化と密接な関係にあることが知られている。LNG受入操作がタンク内のLNG密度分布に影響を与える主要因子として、 ①タンク形状・構造(受け入れノズルの位置・構造・寸法) ②受入位置(上部受け入れ/下部受け入れ) ③LNG密度差(重質液受け入れ/軽質液受け入れ) ④タンク液位 ⑤受入流量(流速) ⑥外部入熱等があり、層状化リスク管理のキーポイントとなる。アナリシスカーゴLNGT1T2液表面T1,T2:上部受け入れノズルB1T,B1L,B2:下部受け入れノズル貯残LNGB2B1T側壁B1L底面出所:東京ガス図12LNGタンクの代表的な受入設備軽い液の受け入れ重い液の受け入れ下部受け入れ①層状化し難い(リスクが低い)②層状化し易い(リスクが高い)上部受け入れ③層状化し易い(リスクが高い)④層状化し難い(リスクが低い)出所:東京ガス図13LNG受入方法と層状化リスク入熱層状化BOG上層密度上昇下層密度下降入熱タンク内密度分布BOG発生量の推移高さH入熱ロールオーバー密度大020406080100120140[h]温度分布の推移層境界密度分布の推移二重対流速度分布の推移密度10h密度50h速度10h速度50h温度10h温度50h時間経過層状化+入熱=二重対流・境界を通して物質と熱が少しずつ移動・上下層の密度が次第に近づくロールオーバー・上層と下層の急速な混合・短時間に多量のBOG発生温度100h密度100h速度100h温度120h密度120h速度120h温度125h密度125h速度125hロールオーバー発生ロールオーバー発生層境界消失密度135h温度135h速度135h赤:高温、青:低温赤:高密度、青:低密度速度ベクトル表示出所:東京ガス図14層状化とロールオーバー(分布図は数値流体シミュレーションによる) ここで層状化の意味とそのリスクについてまとめておく。LNGが残存しているタンクに異種LNG(密度が互いにある程度以上異なるLNG)を受け入れた場合、タンク内のLNGが2層(以上)に層状化する場合がある。これを層状化という。層状化すると、タンク内の上下方向の密度分布は、図14の「タンク内密度分布」に示すように、下層ほど密度が大きいステップ(階段状)関数に近い形状となる。ただし、実際にはもっと複雑な分布形状となる場合も多く、例えば3層に層状化した場合、多くの場合中間層は傾きを持った分布となる。これらも層状化と呼ぶ。 層状化は、条件によっては多量のBOGの発生を伴うロールオーバー現象を引き起こし、タンク内圧力の急激な上昇や、ときにはタンクの損傷につながる可能性があり、タンクオペレーションにとってリスクとなるため、層状化リスクと呼ばれる。 2種類の流体が混ざり合わずに層状化するこな現象ではなく、われわれの身とはそれほど稀の回りでむしろ日常的に見られる現象である。まれ8. 層状化リスク・ロールオーバーとはVミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?水と油(これは化学的性質の違いが原因である)は言うに及ばず、真水と塩水も層をつくる。しかし、組成がほぼ同じで密度が数%程度異なる2種類のLNGが層をつくる場合があることは、ちょっと想像しにくいかもしれないが、実際に混ぜてみると層の境界が確認できることが知られている。 一方、ロールオーバー現象とは、層状化したタンク内において、外部からの入熱により各層の内部で対流が起こり、層の境界を通して物質移動および熱移動が進んで上下層間の密度差が次第に減少し、一定時間経過後に層境界が消滅するとき、それまで下層に蓄積された熱が多量のBOG発生という形で短時間に解放される現象をいう。上層液・下層液があたかも逆転するという意味で「ロールオーバー」と呼ばれ、タンク操業上注意すべき事象とされている。このとき、BOG圧縮機の処理能力を超えるBOGが発生した場合には、タンク内圧力の上昇をもたらし、安全弁が作動したり、場合によってはタンクの損傷にもつながる可能性がある。 LNGのロールオーバー発生の事例としては、1971年、イタリアのラスペチアLNG基地で発生した例が知られている。また、層状化した真水(上層)と塩水(下層)を下部から加熱すれば、ロールオーバーの発生を実験で確かめることができる。ただし、この場合には、当然ながらBOGの発生といった現象は起こらず、層境界の消滅と上下層の急速な混合のみが見られる。9. ロールオーバーの発生メカニズム ロールオーバーの発生メカニズムを簡単に説明する(図14)。まず、前提として、・密度差のある2種以上の流体が2層以上に層状化していること(重い流体ほど下層になる)・外部入熱が存在することの二つの条件が必要である。 ロールオーバー発生のプロセスは、概略次のようになる。①外部入熱により、層ごとに内部に熱対流が起こる。これを二重(多重)対流と呼ぶ。②層境界を通して少しずつ物質移動・熱移動が進む。物質と熱の二つの拡散現象が同時に進行するので、これを「二重拡散」と呼ぶ。しかし、密度差のある層境界を通じての移動は起こりにくいため、その変化は比較的緩慢である。③上層はほぼ沸点にあるため、層内の温度はほぼ一定で、入熱に見合ったBOGが発生する(軽い成分であるメタンが蒸発する)。一方、層境界を通じ下層より重い成分の侵入があるため、二つの効果で密度が次第に増加する。④下層では、層境界を通じた熱移動の他には熱が排出されないので、入熱により温度が次第に上昇する*1。この温度上昇と、層境界を通じた上層からの軽い成分の侵入は、密度の減少をもたらす。その結果、上下層間の密度差は次第に減少していく。⑤時間が経過し、上下層間密度差がなくなったとき、二重対流は消失し、全体が一つの対流を引き起こす。すなわち、上層と下層の混合が始まる。ほぼ沸点にある上層の液と、それより温度の高い下層の液が混合し、短時間に多量のBOGが発生する。 以上が、層状化したLNGのロールオーバーの発生メカニズムである。既に述べたように、BOG圧縮機の処理能力を超えるBOGが発生した場合には、タンク内圧力の上昇をもたらし、安全弁が作動したり、場合によってはタンクの損傷にもつながる可能性がある。10. 層状化したらどうするか ?ロールオーバーの防止方法? 層状化した場合に、ロールオーバーを防止する主な方法には二つある。第1の方法は、層境界を破壊する方法である。よく用いられる方法はジェットミキシングと呼ばれ、先を細くしたノズルからLNGを勢いよく噴出させて層の境界にあて、層を壊す方法である。ジェットの勢いが大きく、層境界に十分な運動エネルギーを到達さ*1:実際には、層境界を通じた下層から上層への熱流がタンクの壁からの入熱より大きく、下層の温度が低下する現象も知られており、各層の温度変化にはいくつかのパターンがある。しかし、最終的に上下層間の密度差が減少していくという現象の本質は変わらない。また、LNGの沸点は圧力が高いほど、密度が大きいほど高くなる性質があるため、上層の圧力下にある下層のLNGは、上層の沸点より温度が数度程度高くても沸点以下にあり、その場で沸騰することはなく、下層が温かく上層が冷たい状態はこれら条件の下で安定的(準安定的)に存在し得る。33石油・天然ガスレビューAナリシスオーバー発生までの時間は、条件にもよるが、およそ数十時間?数百時間と長いのが普通である(図14)。そこで、ロールオーバーに至る前に下層のLNGを払い出してしまえば、層境界が消失することになり、ロールオーバーを避けることができる。操業上可能な場合には、確実な方法である。外国では、層状化した場合に通常よりBOG発生量が減少する現象をメリットととらえて*2、意図的に層状化させ、ロールオーバーが発生する前にLNGを計画的に払い出す操業を行っている例もある。 以上述べたように、層状化した場合のロールオーバーかく防止対策としては、攪等による層境界の破壊あるいは下層液の早期払い出し等があり、安全対策は確立されている。しかし、運転コストや操業効率等の面から層状化した場合のデメリットが少なくないため、一般的には受け入れ時に層状化を防止することを原則とし、万一層状化した場合にロールオーバー防止オペレーションを行うことが望ましいとされている。拌はんせることができれば技術的には大きな問題はないが、そのためにLNGポンプを長時間運転しなければならない。この場合、LNGポンプからの入熱等により、通常よりも多量のBOGが発生する。 このほかに、直接的な層境界の破壊ではないが、下層の重い液をLNGポンプで払い出して、上層の軽い液の上部からタンクに戻す方法もある。これを自己循環という。上部から注がれた重い液は重力の作用によって軽い液の中を下降しながら混合していき、上下層の密度差および温度差を減少させるとともに、層境界を下方に移動させる。これによって、層境界を消失させたり、ロールオーバーが発生した場合のBOGの急激な増加を緩和する効果が期待できる。しかし、この場合にもLNGポンプの長時間運転が必要となるほか、BOG発生量の増加は避けられない。 ロールオーバーを防止する第2の方法は、下層のLNGを早期に払い出すことである。層状化発生からロール11. 層状化防止の力強い助っ人・数値流体シミュレーションの方法とは?タンクをさらに有効かつ安全に使うために? 近年のコンピューターのハードウェア・ソフトウェアの進歩は著しく、なかでも数値流体シミュレーション(CFD:ComputationalFluidDynamics:数値流体力学)は、スーパーコンピューターの進歩に支えられ、天気予報や地球温暖化予測等、われわれの社会生活に役立てられるようになってきている。 これまで科学技術は、さまざまな経験・事実からある法則性を見出し、その法則性を統一的・原理的に体系化する「理論」と、人為的に設定した環境条件の下で現象を観察する「実験」の両面から研究され、進歩を遂げてきたと言える。しかし、最近の先端科学技術の分野では、従来の理論と実験に「第3の科学」を加える動きがある。例えば物理学の世界では、1980年代に理論物理学と実出所:東京ガス図15数値流体シミュレーションの方法*2:層状化すると、上層ではタンクの壁との接触面積が小さくなる(タンク底面は下層と接する)分、層状化しない場合に比べ、外部入熱が減少することになるため、一般にBOG発生量が減少する場合が多い。減少した分の熱量が下層に蓄積されると考えてもよい。BOG発生量の減少は、BOG処理コストの低減につながる。2008.1 Vol.42 No.134Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?験物理学から独立した学問領域として「計算物理学」が位置付けられ、同分野からのノーベル賞受賞者も輩出している。ここで言う第3の科学とは、いわゆる「コンピューターによる解析技術」である。コンピューター中に構築される仮想現実の世界は無限の可能性を持ち、現実世界では実験が困難あるいは不可能な極限状態でも、シミュレーションなら容易にかつ安価に実現できる。 数値流体シミュレーションの方法とは、このコンピューターによる解析技術の1分野で、流体力学の基礎方程式(複雑な非線形偏微分方程式群で、解析的に、紙と鉛筆で解が得られるのはごく限定された条件下にすぎない)を、コンピューターが計算できる形式に変換して(これを離散化という)、現実の熱や流れの複雑な現象を実用的な精度で数値的に解析する技術である。数値流体シミュレーションにも多種多様な手法が開発されているが、代表的な方法の概要について図15に示す。 以下、異種LNG混合受け入れに関する数値流体シミュレーションの事例を紹介する。12. 異種LNG混合受け入れシミュレーション12.1 目的 本シミュレーションの目的は、近年の異種LNG混合貯蔵ニーズの増大に即応して、さらなる安全性および操業効率の向上を図るため、実際のタンクの仕様と受入操作の実態をより具体的に反映できるCFDを手法として用い、密度差の大きい異種LNGを同一タンクに安全に混合貯蔵するためのガイドライン(層状化を防止し、安全を確保するためのタンク操業指針)の構築に必要となる、タンク受入操作と層状化との間の因果関係を定量的に明らかにすることである。最終的には、LNG受入条件と層状化との間の定量的な関係をチャート化し、タンクごとに層状化防止基準を作成、あるいは既存の基準を改定することが狙いである。 具体的には、LNGタンクに貯残液と組成・密度等が異なる異種LNGを受け入れた場合の、①2種LNGの混合(均質化)の成否(タンク内の密度・温度・濃度〈体積分率〉分布等の推移)②BOG発生量の推移等を、数値流体シミュレーション(非定常解析)によって解析し、結果をコンター図、グラフ、アニメーション等の形で可視化し、分析・評価を行う。12.2 数値解析モデルの構築 平底円筒形タンク内の異種LNGの混合挙動のシミュレーションモデルを構築するため、汎用伝熱流体解析ソフトCFX(ANSYS社)の、オイラー・オイラー法による均質多相流モデル(Eulerian-EulerianHomogeneousMultiphasemodel)を利用した。このモデルでは、2流体の体積分率*3(ra:Volumefraction)を除き、流れ場、温度場等は2流体共通である。図16に示すように、解析領域はタンク内の液領域とし、非定常解析を行う。カーゴLNG払い出し移動境界スリップ壁Q1払い出しBOGQ3貯残LNG入熱Q1Q2出所:東京ガス非スリップ壁図16解析モデル 以下、数式等は専門的になるため、12.2.1?12.2.6は読み飛ばしていただいても差し支えない。12.2.1 支配方程式 支配方程式は次のとおりである。2流体モデルとなるため、a=1、2である。記号の意味は巻末にまとめて示す。1)質量保存方程式(raρa)+∇?(raρaU)=SMSa ∂ ∂tここで、∑NpNp=2(カーゴ(受け入れ)LNGとヒール(貯残)LNG)。2流体間の質量移動はないと仮定する。(1)ra=1a=1(2)*3:2流体が存在する領域のある位置での体積分率とは、その位置の微小体積要素(CFDでは解析領域をメッシュ分割したときの一要素。セルと呼ぶこともある)に占める着目流体の体積割合をいう。例えば、その場所(セル)で受入液の体積割合が30%、貯残液の体積割合が70%であるとき、受入液の体積分率は0.3、貯残液の体積分率は0.7である。体積割合で表した濃度と考えてもよい。35石油・天然ガスレビューQ)運動量保存方程式(ρU)+∇?(ρU?U?μ(∇U+(∇U)T))=SM-∇p ∂ ∂tここで、ρ=∑Np    μ=∑Npa=1a=1raρaraμa(3)(4)(5) 流体の性質としては、例えばプールの中の水と同じような粘性に関する性質を数式で表現したニュートン流体(Newtonianfluid)と仮定する。均質多相流モデルでは相間輸送項はすべてキャンセルされるため、(3)式は、本質的に密度と粘性係数が可変の単相輸送方程式となる。3)エネルギー保存方程式 ∂ ∂t(raρaha)+∇?(ra(ρaUha?λa∇T))=Qa+Sa(6)2流体が液体で、気体のように圧縮により縮んだりせず、圧縮性は無視できるため、圧力による仕事(エネルギーのやりとり)は小さいとして省略する。12.2.2 乱流モデル 標準k?ε乱流モデルを使用する。(3)式中の粘性係数μはμ=μl+μt、(6)式中の熱伝導率λaはλa=λla+λtaで表される。ここで、添え字lは層流、tは乱流を表す。μtはk?εモデルから求められ、λtaはλta=μtCpa/Prtaで与えられる。ここで、Prtaは乱流プラントル数を表す。12.2.3 浮力 2流体の密度差に基づく浮力は、運動量保存方程式(3)に次の生成項を与えることにより表す。SM=(ρ?ρref)g(7)ここでρrefは参照密度である。12.2.4 物性 LNGの主な組成はCH4、C2H6、C3H8、C4H10、C5H12、N2である。圧力p0一定の条件下で2種のLNGのそれぞれの物性値は次のρa、λF、Tb((8)?(10)式)を除き、近似的に一定と見なす。ρa=aaT+ba [密度の温度依存性](8)λF=cTb+d [LNG蒸発潜熱の温度依存性](9)Tb=era+f [混合LNGの液表面における沸点](10)ここでaa、ba、c、d、e、fは温度によらない定数である。アナリシス12.2.5 境界条件 液表面はスリップ壁(すべり壁:流体に対して抵抗のない壁。液表面を壁としてモデル化するため、このような条件を付与する)、側壁、底面は非スリップ壁(非すべり壁:通常の壁。壁の表面で流体の速度は0)とする。液の受け入れに伴う液面上昇はCFXの移動境界機能(境界の移動に応じてメッシュを伸縮する)を利用する。LNGは低温(常圧で沸点約113K)であり、タンク壁からの入熱がLNGの対流とBOG発生を引き起こすため、外部入熱とLNGの蒸発(BOGの発生)による熱流出を考慮する。蒸発による質量の減少は小さいため省略する。LNG蒸発量の推定には次のハセミモデルを用いる。[ハセミモデル] ハセミ(Hashemi:工学博士。専門は低温工学、熱・流体力学)は、論文「CutLNGstoragecosts」(1971年)32)の中で、定常時のLNGタンクのBOG発生量を理論的に求めている。 ハセミモデルによれば、定常時のタンクからのLNG蒸発量(BOG発生量)mは、次の(11)式でkh=1として求められる。m=khChA(Ts?Tb)4/3(11) khは、ハセミモデルをタンク受け入れ時にも適用するために操業実績データから定めた補正係数である。LNGの蒸発により液表面から流出する熱流束は、mλF/A[W/m2]となる。12.2.6 数値積分法 数値積分法としては、非定常項にはCFXの2次オイラー積分法(SecondOrderBackwardEulerオプション)を、対流項には高解像度積分法(HighResolutionオプション)を使用する。12.3 解析モデルの評価 解析モデルの妥当性を次の条件で評価した。12.3.1 シミュレーション条件1)タンク仕様鉄筋コンクリート製平底円筒形LNG地下式タンク(図5)。容量:20万m3。内径D:72m。受け入れノズル内径Dn:0.695m。2)受入操作LNGタンカーからの軽いLNGの下部受け入れ。受け入れノズル形式はB1L(図12)。受け入れ中の同時払い出しはないものとする。2008.1 Vol.42 No.136Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?受け入れノズル出所:東京ガス図17密度分布(30分後)0-1-2-3-40タンク底部5101525タンク高さ H/D×100 [%]20解析0.5h1h1.5h2h2.5h4h実測0.5h1h1.5h2h2.5h4h3035タンク上部 密度(ρ-ρ)ρ×100 [%]0 0 (注)密度(ρ-ρ0)/ρ0は、基準密度ρ0で無次元化してある。出所:東京ガス図18シミュレーション結果と実測データの比較(タンク中心の密度分布の経時変化)12.4 ケーススタディー 層状化に影響を与えるタンク受入操作の主要因子と層状化との因果関係を把握するため、LNGサテライト基地向けの小規模地上タンクを対象として、ケーススタディーを実施した。12.4.1 シミュレーション条件1)タンク仕様金属二重殻平底円筒形LNG地上式タンク。容量:650t。内径D:13m。受け入れノズル内径Dn:0.102m。払い出しノズル(底部に設置)内径Dno:0.053m。2)受入操作LNGローリーからの軽いLNGの下部受け入れ。受け入れノズル形式はB2(図12)。受け入れ中のLNG同時払い出し流量は、各ケース共通で4t/hとする。3)3次元メッシュデータ(1/2モデル)使用要素:4面体、プリズム、ピラミッド。節点数:4万871?6万7,353。要素数:12万6,842?20万4,803。メッシュは初期液位別に4種類。4)その他の条件ケース数は8で、それぞれの物性値と受入条件は表3、4のとおり。3)3次元メッシュデータ(1/2モデル)使用要素:4面体、プリズム、ピラミッド(いずれも分割した要素の立体形状を表す。これらの立体要素を組み合わせて全体の形状モデルを作成する)。節点数:6万2,286。要素数:15万2,795。4)その他の条件物性値と受入条件は表1、表2のとおり。ここでρ0、T0、H0はそれぞれ基準密度、初期温度、初期(貯残)液位を表す。12.3.2 解析結果 図17に、受け入れ開始から30分後の密度コンターを示す。下部ノズルから流入した軽い(密度が小さい)LNGが、浮力により重い(密度が大きい)貯残液と混合(密度が上昇)しながら上昇して液表面に達し、表面を広がりながら緩やかな対流を形成していることが分かる。12.3.3 実測データとの比較 図18に、タンク中心位置の高さ方向の密度分布について、実際の計測データと解析結果との比較を示す。初期の30分?1時間を除き両者はよく一致している。初期における違いは、実際の受け入れ初期の流量のバラツキ等に起因するものと推定される。表1物性(1)物 性密度ρ[kg/m3] =aT+b+ρ0粘性係数μl[10-4Pa・s]熱伝導率λl[W/mK]定圧比熱Cp[kJ/kgK]初期温度T0[K]出所:東京ガスカーゴ LNGa=-1.286b=109.39貯残 LNGa=-1.147b=131.381.20.23.41.50.23113.85114.55表2受入条件(1)初期密度差[-(ρ-ρ0)/ρ0×100]貯残液位[H0/D×100]受入流量[103m3/h]受入時間[h]出所:東京ガス817.9114.437石油・天然ガスレビューAナリシス受け入れノズル出所:東京ガス図19受入液の体積分率(濃度)分布(Case3、10分後)10min20min30min35min40min100min0H /D=0.610.080.070.060.050.040.030.020.010.00受入LNGの体積分率[-]タンク底部出所:東京ガス010203050タンク高さ H/D×100 [%]406070 タンク上部図20タンク中心受入液体積分率(濃度)分布の経時変化(Case3)図21タンク中心受入液体積分率(濃度)分布の経時変化(Case7)2008.1 Vol.42 No.1380H /D=0.0510min20min30min35min40min100min78タンク上部 6345タンク高さ H/D×100 [%]0.001タンク底部出所:東京ガス20.50.40.30.20.1受入LNGの体積分率[-]表3物性(2)物  性密度ρ[kg/m3] =aT+b粘性係数μl[10-4Pa・s]熱伝導率λl[W/mK]定圧比熱Cp[kJ/kgK]初期温度T0[K]出所:東京ガスLNG-Aa=-1.24b=586.49LNG-Ba=-1.33b=573.35貯残LNGa=-1.24b=614.421.330.213.18113.551.220.213.44112.651.610.212.92114.69表4受入条件(2)1A2B3Case番号受入液種A初期密度差[Δρ/ρ0×100]5.710.45.7貯残液位[H0/D×100]61受入流量[t/min]0.6受入時間[min]35出所:東京ガス380.635380.6354A5.7380.2355A5.7380.6756A5.7100.6357A5.750.6358A5.751.0 3512.4.2 解析結果 図19に、Case3の10分後の軽い液(受入液)の体積分率(濃度)コンターを、図20と図21に、それぞれCase3とCase7のタンク中心での軽い液の体積分率(濃度)分布経時変化を示す。 図19は図17と類似しており、2液の混合が主に浮力に支配されていることを示している。図20は初期液位が高い(タンク径の60%の高さまでLNGが入っている)場合(H0/D?60%)、図21は初期液位が低い(タンク径の5%の高さまでLNGが入っている)場合(H0/D?5%)の混合の特徴を表している。すなわち、初期液位が相対的に高い場合には、浮力の働く距離が長く、受入液が十分に希釈されながら上昇して液表面に達するため、混合が進み、上下の体積分率(濃度)の差は比較的低いレベル(7%程度)にとどまるが、受け入れ終了後の体積分率(濃度)の変化は緩慢である。 一方、初期液位が低い場合には、浮力の働く距離が短く、受入液が短時間に液表面に達するため、希釈されにくく、比較的大きな上下の体積分率(濃度)の差(37%程度)を生じる。 図22に、各ケースのタンク中心の上下方向最大密度差の経時変化を示す。ここで、受け入れ終了時(35分。ただしCase5のみ75分)のタンク中心上下方向最大密度差を最終密度差(FDD:FinalDensityDifference)Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?つ受け入れ終了後の混合も緩慢な、層状化リスクの観点から注意すべき領域の存在が推定される。これは、軽い受入液が短時間に液表面に達して(突き抜けて)層を形成し、しかもその後の混合があまり進まない状況を意味しており、これまで経験的にその存在が推測されている、いわゆる「突き抜け」現象に相当する可能性が高い。い配ば2)主として、受け入れ終了後に生ずる層状化状態(密度分布がステップ関数に近い形状となる状態)は、こうタンク内に一定以上の密度勾が分布する状態を前提とし、タンク外部からの入熱による熱対流が誘因となって形成されることが知られている。この場合、最終密度差が一定値以下であれば、その後層状化しても安全性を損なうことなく自然に層が解消することが経験的に知られているので、最終密度差および密度(あるいは体積分率〈濃度〉)の分布形状とその経時変化を具体的な受入操作に即して推定できるこの解析手法は、安全な受け入れ操作のガイドライン作成に有効と考えられる。3)解析結果は、与えられた異種LNGの密度差に対して、受入方式(上部/下部)、タンク初期液位、受入流量(流速)等を調整することにより最終密度差、すなわち層状化をある程度防止または制御可能であることを示している。これらの調整は、既存設備を改造することなく実施できる点でメリットが大きい。12.5 シミュレーションのまとめ 取り扱うLNGが多様化し、密度範囲が拡大しているため、混合貯蔵する場合のリスクが高まりつつある。そこで、リスクを極小化して異種LNG混合貯蔵のメリットを生かすための層状化防止ガイドラインを構築するために必要となる、受け入れ操作と層状化との間の定量的因果関係について検討した。数値流体シミュレーションモデルを開発し、実際のデータとの比較によりその妥当性を確認した。小規模タンクで軽いLNGの下部受け入れのケーススタディーを実施し、受け入れ終了時の最大密度差が、異種LNG密度差、タンク初期液位、受入流量(流速)に依存することを定量的に明らかにして、本モデルが、実際の操業データや経験的知見とともに、層状化を防止・制御し、密度差の大きい異種LNGを同一タンクに安全に受け入れるためのガイドラインの作成に有効であることを示した。 重いLNGの受け入れ操作等、さらに多様な受け入れ操作についても順次検討を進め、具体的なガイドライン作成、既存のガイドラインの改訂等に活用していく考えと呼ぶことにすれば、上下の密度差が大きい状態は層状化発生の前提条件であることから、一般に最終密度差の大きいケースは層状化しやすいケースと考えられる。ただし、最終密度差が大きい場合でも、液位が低い場合には受入液の流速(運動量)の影響が相対的に大きくなり、受け入れ終了後急速に混合が進んで密度差が減少するケースも見られる(Case7)。受け入れ終了時刻Case1Case2Case3Case4Case5Case6Case7Case8Case5の受け入れ終了時刻Case1~8Case5のみ 02040356080751001201401601802002.22.01.81.61.41.21.00.80.60.40.20.0密度差Δρ / ρ ×100 [%]0出所:東京ガス経過時間[min]図22タンク中心位置での上下密度差の経時変化 図22の結果は、次のようにまとめることができる。1)初期液位が一定以上(H0/D>10%)の場合(Case1?6)① 初期密度差が大きいほど、最終密度差が大きい(Case1、2)。② 初期液位が大きいほど、最終密度差が小さい(Case1、3、6)。③ 受入流量(流速)が大きいほど、最終密度差が大きい(Case1、4)。④ 受入時間が長い程、最終密度差が大きい(Case1、5)。2)初期液位が一定以下(H0/D?5%)の場合(Case7、8)⑤ 受入流量(流速)が大きいほど、最終密度差が小さい(Case7、8)。⑥ 受入流量(流速)が十分大きい場合には、受入液の流速(運動量)の効果が大きくなり、受け入れ中および受け入れ終了後を通じて混合が進む(Case8)。12.4.3 考 察1)図22の結果で、③と⑤の傾向が逆であることから、タンク初期液位が5?10%の中間領域(この領域は流量によって変化する)に、最終密度差が大きくか39石油・天然ガスレビューナある。このガイドラインには、異種LNG密度差、タンク初期液位、受入流量等、層状化に影響を与える主要因子を横軸あるいは縦軸とし、層状化リスクの高い領域を表示したチャートが記載されることになろう。アナリシス13. おわりに 異種LNGの混合による層状化リスクは、取り扱うLNGの種類のほか、LNGタンクの形状・構造や受入方法等にも左右されるため、LNG基地の計画・設計・建設・運用・維持管理の各段階における技術検討の良否が、その基地の操業の効率、柔軟性、経済性等に大きな影響を及ぼす。 日本の1次エネルギー消費の約15%を占めるLNGの市場拡大傾向が続くなか、ここに紹介した数値流体シミュレーション技術は、スポット契約に伴う異種LNG混合貯蔵の事前検討等のため、既に活用の段階に入っている。層状化を防止・制御し、安全を確保しつつ、異種LNGの取り扱いを一層円滑にすることを通じて、LNG基地の操業のさらなる安全性・柔軟性・効率性の向上並びにコスト低減、ひいては日本のエネルギーの安定供給のために、一層の発展が期待される。【記 号】A:LNGタンク断面積[m2]Ch:ハセミ(Hashemi)係数[kg・m-2・K-4/3・s-1]Cp:定圧比熱[J・kg-1・K-1]g:重力ベクトル[m/s2]h:エンタルピー[J/kg]kh:ハセミ補正係数[-]m:BOG発生量[kg/s]Np:総相数[-]p:圧力[Pa]p0:LNGタンク気相部圧力[Pa]Q:相間熱移動[W/m3]ra:a相の体積分率(Volumefraction)[-]S:熱生成[W/m3]SM:運動量生成[kg・m-2・s-2]SMS:質量生成[kg・m-3・s-1]T:温度[K]Tb:液表面におけるLNG沸点[K]TS:LNG液温度[K]t:時刻[s]U:速度ベクトル[m/s]λ:熱伝導率[W・m-1・K-1]λF:LNGの蒸発潜熱[J/kg]μ:粘性係数[Pa・s]ρ:密度[kg/m3]a:a相を表す添字2008.1 Vol.42 No.140Vミュレーション技術がリスクを極小化し異種LNG混合貯蔵のメリットを生かす ?異種LNG混合貯蔵の数値流体シミュレーション?【参考文献】1)N.Baker,M.Creed:StratificationandRolloverinLiquefiedNaturalGasStorageTanks,InstitutionofChemicalEngineersSymposiumSeries,621/634(1995)2)A.Kamiya,M.Tashita,Y.Sugawara:AnExperimentalStudyonLNGRolloverPhenomenon,TheNationalHeatTransferConference,AmericanSocietyofMechanicalEngineers,August(1985)3)菅原,田下,山形,立岩,藤原,五十嵐:LNG貯槽におけるロールオーバ現象の実験的研究,三菱重工技報,Vol.21No.2,349/359(1984)4)A.LemembreandJ.-P.Petit:NumericalSimulationofLNGRollover,InternationalGasResearchConference,732/743(1998)5)T.Munakata,I.Tanasawa:AStudyofSurfaceTensionEffectonDouble-diffusiveRollover,AmericanSocietyofMechanicalEngineers,HeatTransferDiv.,39/46(1998)6)宗像,棚澤:二重拡散ロールオーバー現象に対する加熱条件の影響,日本伝熱シンポジウム講演論文集,139/140(1998)7)S.Bates,D.S.Morrison:LNGRollover-ComputationalandMathematicalAspects,InternationalConference&ExhibitiononLiquefiedNaturalGas,C.6-1/3(1995)8)宗像,棚澤:ロールオーバー発生に対する初期濃度差の影響,日本機械学会論文集(B編),60巻578号,290/296(1994)9)棚澤:成層化した二液層のロールオーバー現象に関する研究平成5年度No.04452145,1/41(1994)10)有田,片山,棚澤,西尾:二液層のロールオーバー現象に関する基礎的研究(第2報),日本伝熱シンポジウム講演論文集,336/337(1992)11)片山,林,棚澤,西尾:二液層のロールオーバー現象に関する基礎的研究,日本伝熱シンポジウム講演論文集,505/507(1991)12)A.Acton,R.C.VanMeerbeke:RolloverinLNGStorage-anIndustryView,InternationalConference&ExhibitiononLiquefiedNaturalGas,Paper12-1/21(1986)13)S.Enya,M.Morioka:AnEngineeringSimulationofLNGTankRollover,AdvancesinCryogenicEngineering,1151/1159(1986)14)M.Muro,M.Yoshiwa,Y.Yasuda,T.Miyata,Y.Iwata,Y.Yamazaki:ExperimentalandAnalyticalStudyoftheRolloverPhenomenonusingLNG,ProceedingsoftheInternationalCryogenicEngineeringConference,633/637(1986)15)室,吉和,岩田(章),安田,西村,足立,岩田(幸),山崎:LNGの貯槽内におけるロールオーバ現象に関する研究,川崎重工技報,93号,1/8(1986)16)塩冶,森岡:LNGタンク・ロールオーバ現象の工学的解析例,日本機械学会誌,第87巻第787号,579/584(1984)17)J.Heestand,C.W.Shipman,J.W.Meader:APredictiveModelforRolloverinStratifiedLNGTanks,AIChEJournal,Vol.29No.2,199/207(1983)18)三沢,平田,高雄,鈴川:LNGタンクのロールオーバー現象対策,日本鋼管技報,No.88,87/93(1981)19)森岡,塩冶:成層流体の容器内自然対流(LNGロールオーバー現象に対する模擬実験)I流動パターンの観察,冷凍,第56巻第644号,529/537(1981)20)森岡,塩冶:成層流体の容器内自然対流III無次元整理式,日本伝熱シンポジウム講演論文集,163/165(1980)21)北原:LNGのロールオーバー計算,高圧ガス,Vol.14No.10,571/574(1977)22)A.E.Germeles:AModelforLNGTankRollover,AdvCryogEng,326/336(1976)23)E.M.Drake:LNGRollover-update,HydrocarbonProcess,119/122(1976)24)M.Tamura,Y.Nakamura,H.Iwamoto:PreventionofLNGRoll-overinanLNGTank,InternationalConference&ExhibitiononLiquefiedNaturalGas,A.2-1/11(1998)25)高雄,鈴木,三沢,中森,北野:LNGタンク・ロールオーバー予測プログラムROSPの特徴,日本鋼管技報,No.104,185/189(1984)26)O.SuzukiandS.Takao:TheFormationofaNon-linearDensityGradientinaTank,AmericanSocietyof41石油・天然ガスレビューAナリシスMechanicalEngineers,1/8(1983)27)鈴木,高雄,三沢,中森,小倉:LNGタンクのロールオーバー現象の予測プログラムの開発,日本鋼管技報,No.100,52/60(1983)28)草刈,湯本,中村:LNG貯蔵タンク内液の層状化防止,石川島播磨技報,第22巻第5号,332/337(1982)29)K.A.Smith,J.P.Lewis,G.A.Randall,J.H.Meldon:MixingandRoll-overinLNGStorageTanks,AdvCryogEng,124/133(1975)30)内田,新井,杉原,内河,中山:LNGの異種混合上部受入数値シミュレーション,石川島播磨技報,第35巻第1号,24/27(1995)31)内田,新井,杉原,中山:LNGタンクにおけるスプレイ液混合の数値解析,日本機械学会熱工学シンポジウム講演論文集,92/93(1992)32)H.T.HashemiandH.R.Wesson:CutLNGstoragecosts,HydrocarbonProcessing,August,246/249(1971)33)石油・天然ガスレビュー2005年9月宮﨑信一「“熱”能く、LNG市場を制す?グローバル化へのボトルネック、LNG発熱量問題?」34)石油・天然ガスレビュー2006年11月三神直人「LNG刺し身論とハブ構想」執筆者紹介小山 和夫(こやま かずお)1973年東京大学理学部卒業。同年東京ガス株式会社入社。情報通信部、エネルギー生産部において、主としてシステム開発、技術開発、エンジニアリング業務に従事。現在、エネルギー生産部生産エンジニアリンググループ主席。技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)。専門分野は、コンピューターを利用した数値解析・技術計算。2008.1 Vol.42 No.142
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2008/01/18 [ 2008年01月号 ] 小山 和夫
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