ページ番号1006322 更新日 平成30年2月16日

油ガス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性

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レポートID 1006322
作成日 2008-03-21 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 山根 一修
年度 2008
Vol 42
No 2
ページ数
抽出データ アナリシスJOGMEC R&D推進部山根 一修油ガス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性1. はじめに 近年、海底油ガス田の大水深化が急速に進み、メキシコ湾、西アフリカのアンゴラ沖、ブラジルのカンポスベイなどでは水深1,500?2,000mでの石油生産が実用化しつつある。また、水深3,000mを目指した研究開発も盛んに行われている。こうした背景のもと、海域での探鉱リスク軽減のための高精度で効率的な探鉱手法の確立が求められるようになっている。その一つとして、海底での電磁場観測技術を石油探鉱に適用する試みが2000年以降、始められ、多くの注目を浴びている。いままで、学術調査に限られていた海底電磁気観測が石油探鉱に有効であることが分かるや、OHM(Offshore Hydrocarbon Mapping)社、EMGS(Electromagnetic Geoservices AS)社、AGO(AOA Geomarine Operation)社(現WesternGeco社)などの海洋電磁法調査会社が、わずか数年のうちに設立された。 現在、学術調査や石油探鉱で用いられている海洋電磁法は、主に自然界の電磁場変動を観測するMT法(Magnetotelluric)と、制御電流源を用いるCSEM法(Controlled Source ElectroMagnetics)に大別される(図1)。最近、海洋での電磁法調査に関する文献が、諸外国の雑誌で見受けられるようになってきた。そこで今回は、海洋電磁法の簡単な概要のほかに、それらの雑誌で2. JOGMECの電磁法への取り組みはあまり紹介されていない観測装置などの話題も加えて当該技術を紹介する。(注) 上段:MT法では自然界の電磁場の観測を行う。(注) 下段:CSEM法では人工的に海中で電磁場を発生させる。出所: Scripps Institution of Oceanography Marine EM Laboratoryホームページより図1海洋電磁法の分類 JOGMECでは、石油公団当時の1990年代から石油探鉱を目的にした電磁法の研究を行ってきたが、そのなかでも、北海道、東北地方の日本海側含油第3系を対象としたMT法の調査研究が特筆される。 MT法とは、太陽風や赤道付近で発生した空電現象に乱により、大地にどのような電流が起因する外部磁場擾生じるかを電磁誘導現象に基づいて理解し、大地の比抵抗構造を推定する調査技術である。MT法は、日本語では地磁気地電流法と呼ばれていたこともあるが、そもそも日本で原理が見出され(Rikitake,1950)、その後じょうらんCagniard(1953)によって初期の理論がまとめられた手法である。自然界に存在する物理現象を信号源として利用するという点では、一見すると、自然地震などを用いた地震学のアナロジーが適用できるように見える。しかし、MT法は、さまざまな周波数成分を有する地球外部の電離圏・磁気圏を起源とする磁場変化が大地に入射して、大地中を波動としてどのように伝播するかを調べるのではなく、どのように入射磁場が拡散・減衰していくかを調べる。 さて、JOGMECのMT法の研究のなかで、高倉他55石油・天然ガスレビューAナリシス(1994)は、電磁ノイズが際立つ市街地に近い平野部におけるMT法データ品質を向上させるためには、調査地域から遠く離れた地点で観測した地球磁場を参照信号として用いるファーリモートリファレンス法という測定方式が有効であることを示した。また、高倉他(1995, 1997)では、新潟地域で取得されたMT法データに対して2次元インバージョン解析を適用した。その解析結果は、MT法調査技術が堆積盆の形状の把握のみならず、たいせき粘土鉱物やそれに付随するキャップロックの分布の推定にも寄与することを示した。JOGMECでは、MT法以外にも、メキシコでの時間領域電磁法調査、米国カリフォルニア州での電磁トモグラフィー試験を実施して、いずれも大きな成果を得ている。 では、海底での電磁法は、このような陸域での電磁法と、一体どのような類似点、相違点があるのであろうか。次節より海洋電磁法について紹介する。3. 海洋電磁法の概要3.1 海洋電磁法の歩み 海底でのMT法観測に成功したのは、カリフォルニア州サンディエゴにあるスクリプス海洋研究所のFilloux(フィユー)博士である(Filloux,1977)。それ以来、海底での電磁場観測は、地殻深部の比抵抗構造の調査が主な目的であった。地球の表面はその7割が海で覆われ、その海の底には海洋プレートと呼ばれる硬い層があり、この海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むことにより、地震発生帯や活火山帯、そして、日本列島のような島々や日本海のような海までもが形成されると考えられている。例えば、海洋底でのMT法観測が可能になってからは、プレートの沈み込みに伴う地震発生のメカニズムの解明は、大きな研究テーマの一つである。 海底でのMT法観測の大きな問題は、観測できる信号の周波数帯域にある。海水は良導体(およそ0.3Ω・m)であるため、高い周波数成分の外部磁場擾乱が海水中で大きく減衰してしまう(表皮効果)。そのため、海底でのMT法観測では、もっぱら数秒以下の低い周波数データを使って下部地殻、上部マントル構造を調査対象としていた。海底下数km程度までの堆積盆の構造を調査するためには、さらに高い周波数のデータが必要であった。 MT法に限らず、海底での電磁場観測のもう一つの問題として、磁場信号が海山などの海底地形の局所的な地形変化によって歪みを受けてしまうことが挙げられる。一方、陸上のMT法観測では、測点付近の地形や地表付近の比抵抗異常体の存在によって地電流の流れが大きく変わってしまい、電場信号の方が局所的に歪む現象が生じる(スタティック効果と呼ばれる)。陸上とは違って、海底では海水が良導体であるので、電場の歪みそのものは非常に小さい。しかし、それが非常に小さなものであっても、海水が良導体である分、それなりに電流が流れてしまい、結果として磁場の方が大きく歪められてしまう。このように、陸上と海底とでは、電磁場挙動が大ゆがきく異なる。 確かにMT法には、自然界の電磁場変動を利用できるメリットがある。しかし依然として、その性質上、海底では厚い海水層のスクリーニングを受けて外部磁場変化が海底面に展開した観測装置までなかなか到達せず、結局、海底でのMT法観測だけでは、海底下の数km程度までの比抵抗構造を決めることは難しい。これでは、海底下の浅部比抵抗分布に関する情報に乏しいMT法のような受動的な海底電磁気観測だけから求めた深部地球内部構造が信頼性に欠けていると判断されかねない。 そこで、自然の信号が利用できないのなら人工的に電磁場をつくってやろうとする考えが登場し、制御電流源(トランスミッタとも呼ばれる)を用いた海洋電磁法技術の研究が前述のスクリプス海洋研究所によって始められた(例えば、Cox他, 1986)。最近、諸外国の学術雑誌で海洋電磁法の油ガス田探鉱への適用が報告されているが、そこに登場しているほとんどの手法が、この制御電流源を用いた海洋CSEM法に関するものである。 ところで、海洋CSEM法が盛んに用いられている理由は、果たして、海洋MT法のデメリットを克服するためだけであろうか。現在、油ガス田調査に用いられている海洋CSEM法は、海洋MT法のように積極的に電磁誘導現象を利用するのではなく、高比抵抗値である油ガス層と、その周囲に分布する低比抵抗値を示す堆積岩類との間に生じる電場強度の差異に着眼して、水平に分布する油ガス層の直接検出を目的としている(次節で説明)。 図2に、海洋CSEM法の黎明期の年表を示した。1980年代から1990年代にかけて、スクリプス海洋研究所とイギリスのサザンプトン大学の研究者らが、海洋CSEM法の機器開発に着手した。 スクリプス海洋研究所のConstable教授と米国テキサス州オースティンに拠点を置くAOA Geophysics社は、1994年に海洋電磁法装置の商用化を目的とした研究開発れいめい2008.3 Vol.42 No.256禛Kス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性に着手した。この背景には、電子技術の進歩によって自己ノイズの少ないデータロガー(受信器)の開発が容易になってきたことがある。また、それまで使用されてきたFluxgate型磁力計に代わってインダクションコイルを採用することなどによって、海底下数kmまでの領域を調査するために必要な数Hzまでの海洋MT法データの取得を可能にした。例えば、同研究所は、1996年にメキシコ湾の岩塩ドーム地域において海洋MT法調査を実施している。この観測装置は、1990年代末までにいくつかの改良が重ねられている。 海洋CSEM法で使用される観測装置は、海洋MT法用に開発されたものがそのまま使用される。それは、微小な自然界の電磁場観測が行える性能のある海洋MT法観測装置は、より信号強度の強い海洋CSEM法にも流用できるからである。また、同研究所では、海中用の制御電流源も併せて開発した(通称:SUESI)。同研究所の観測装置の開発には、同じカリフォルニア州バークレーに拠点を置くEMI社(2001年にSchlumberger社により買収)が協力を行い、特に海洋MT法観測に必要な磁場コイルを提供した。その後、EMI社は、独自に海洋電磁法装置の開発・製造を始め(商標名MMT24)、ノルウェーの海洋電磁法調査会社であるEMGS社(後述)などに販売した。 サザンプトン大学では、Martin Sinha教授が中心となり、1980年代後半から1990年代にかけて海洋CSEM法の研究を始めた。同大学では、1999年に自作の制御電流源(通称:DASI)と観測装置を使い、大西洋中央海嶺において海洋CSEM法調査を行った。このDASIは、当時から1,000A程度の電流を海中に流すことが可能であり、観測データのSN比向上に大きく役立った。近年、多くの組織で制御電流源を製作しているが、その多くがDASIを模倣している。 このように、海洋CSEM法の発端は学術目的であり、資源探査ではなかった。しかし、1990年代の後半になると、Statoil(現・StatoilHydro)の研究者たちは、この技術は油ガス層のような高比抵抗の薄層検出にも適用できるはずであると考え、海洋CSEM法に対して、Sea Bed Logging(SBL)と命名した。彼らは、2000年11月にアンゴラ沖で、サザンプトン大学の制御電流源(DASI)とスクリプス海洋研究所の観測装置を使った試験航海を実施した。この実験で油ガス層を検出することに成功し、その成果は広く論文の形で公開された(Eidesmo他,2002)。翌年の2001年11月に、Statoil社に加えてShell社も参加して、再び海洋CSEM法の試験航海が行われ、同じく油ガス層を検出した。EMI社AOAGeophysics社スクリプス海洋研究所Cambridge大学/Southampton大学ExxonStatoil1980年1984年1985年1988年1989年1993年1994年4月1995年10月1998年10月2000年11月2001年1月2001年7月Cox教授海洋CSEM法を提唱Young&Cox東大西洋海嶺での海洋CSEM法を調査Cox他、大西洋で海洋CSEM法を調査Cox他、大西洋で海洋CSEM法を調査海洋CSEM法海洋CSEM法用用送信機の製作送信機の製作特許申請(1983年11月)東大西洋海嶺にて海洋CSEM法アイスランド沖海洋CSEM法調査調査調査サンディエゴ沖海洋CSEM法試験(MT法装置使用)初めての商用海洋MT法調査(地中海:AGIP)商用海洋MT法調査(メキシコ湾:AGIP、BP)Lau Basin海洋CSEM法調査ケンブリッジのグループがケンブリッジのグループがサザンプトンに転任サザンプトンに転任Schlumberger社により買収海洋CSEM法の初めての石油探査への適用(アンゴラ沖)EMI社製造による海洋MT法装置の試験フェロー諸島商用海洋MT法調査(AGIP、Statoil)フェロー諸島商用海洋CSEM法調査西アフリカ沖商用海洋CSEM法調査(Exxon)AGO設立2001年11月2002年1月2002年2月2002年6月2002年8月2002年10月2002年11月2003年6月2004年2月2004年12月出所:http://www.rijo.pro.br/mcsem.htmより転用および加筆・修正Schlumberger社により買収西アフリカ沖商用海洋CSEM法調査(Exxon)OHM設立図2海洋電磁法の歴史57石油・天然ガスレビューEMGS設立海洋CSEM法調査(Ormen Langeガス田)AナリシスHED空気海水1層(堆積岩類)2層(炭化水素鉱床)図3海洋CSEM法の概要non hydrocarbonhydrocarbon1.5km1.5km自己ノイズ自己ノイズレベルレベル10,000 12,0004,000 6,000 8,000 送受信機間隔(m)0 2,000 -710-810-910-1010-1110-1210-1310-1410-1510-1610電場強度(V/Am^2) (注) 上段:モデル図(注) 下段:電場の応答値。海洋CSEM法測定装置の自己ノイズレベルは、10-15V/Am2程度であるので、それ以下の値での議論は、数値計算による油層の有無による応答差が大きくても避けるべきである。出所:JOGMEC図4高比抵抗層(油ガス層)の存在による電場強度の変化の例えられることに着眼している。どうしても波動現象のアナロジーを使って説明するとすれば、tube waveのように境界内(ここでは高比抵抗層内)でエネルギーの集中が起こり、その中では、周辺媒質よりエネルギーの減衰が小さくなっていると言ったほうが近い。 ところで、海洋、陸上を問わず電磁法で重要な概念は、2008.3 Vol.42 No.258(注) 海底面付近から交流電流を海中に流す。周辺の堆積岩類より高比抵抗である油ガス層中では電場の減衰が小さい。出所:JOGMECはいたい3.2 海洋電磁法の原理 図3を使って、海洋CSEM法の原理を紹介する。なお、ここで仮定した比抵抗構造は、水平多層モデルである。海底面付近から水平方向の電流を流すと、1層と2層の境界では、電場の接線成分(モデル境界と平行な方向)が連続する。もし、2層が周辺の堆積層よりも、低比抵抗値だとしたら、1層より低比抵抗である2層中では、オームの法則(電流密度=電気伝導度×電場)に従って、1層中より多くの電流が境界面と同じ方向に発生する。そして、電流が流れると、その流れに対して垂直な面において円を描くように磁場が誘導される。この現象を電磁誘導と呼んでいる。このように、高比抵抗層中に挟在された低比抵抗体をターゲットとする場合、磁場観測が有効であり、したがって金属や地熱などの探査などは、この電磁誘導現象に基づく調査方法が有効である。胎する油ガス層は、周辺の泥岩 しかし、堆積盆中に胚などに比べて高比抵抗値を示す。すなわち、ターゲット層である2層の比抵抗値は、それを取り囲む1層より高比抵抗値であり、ターゲット層内で誘導される磁場はむしろ小さくなってしまう。そこで、海洋CSEM法では、2層(ここでは、石油などの高比抵抗層)に対して垂直方向に流れる電流を考える。すると、1層と1層の境界に垂直な方向の「電流密度」が、1層と2層の境界で連続になる。ところが、この境界条件は、1層と2層境界面に電荷を発生させることになる(galvanic効果)。よって、海底面で観測される電場の値は、高比抵抗である2層が存在することにより、1層のみの場合より、発生した表面電荷の分だけ大きくなる。これが、水平方向に際立つ高比抵抗層を検出する海洋CSEM法の大まかな原理である。 高比抵抗層の存在により、電場強度がどのように変化するかを、モデル計算で示す。図4の上段はモデル図であり、1Ω・mの堆積層中に30Ω・mの油ガス層を挟在させた。油ガス層がある場合とない場合との電場信号の違いを図4の下段に示した。横軸は送信機と受信機の距離であり、この間隔が離れるにつれ縦軸の電場強度は下がる。しかし、高比抵抗値である油ガス層が存在するモデルの応答値は、油ガス層がないモデルの値に比べ大きな応答を示していることが分かる。 外国雑誌の海洋CSEM法の紹介記事では、油ガス層と周辺の堆積岩との境界で電磁波の反射が起こり、それを海底面に展開した観測装置で検出するかのごとく説明をしている文献を見受けることがある。しかし、海洋CSEM法は、電磁波の反射現象を利用して油ガス層を検出するのではなく、高比抵抗の薄層内で電場の減衰が抑o所: http://marineemlab.ucsd.edu/より転用写1海洋電磁法観測装置写真アルミニウム製の円筒形の耐圧容器に格納されている。この耐圧容器は、海水による腐食を防ぐため陽極酸化処理をした上で、塗装を施して耐食性を持たせており、そふたの両端部は蓋が取り付けられ、Oリングで密封されている(写2)。耐圧容器の一方の蓋には、いくつかの高圧水中コネクターが設けられ、それらは電場ケーブル、磁場コイルケーブルとの接続用および機器制御用の外部PCとの接続用である。また、耐圧容器内を真空にするためのエアパージ用のポートがある。スクリプス海洋研究所の機器の場合、バッテリーは、データロガーの耐圧容器内に格納されているが、MMT24の場合は専用の耐圧容器に格納される。 データロガーは、4?8チャンネルのデジタルデータ記録・処理装置、各種増幅器で構成される。MMT24の場合、マイクロコンピューターとしてPersistor社製CF1を採用している。CPUのファームウェアは、スクリプス海洋研究所、MMT24ともPicoDos(商標名Motocross)である。データの格納には、データ容量やロガー内の省スペース化の面から、コンパクトフラッシュカードを使用している。なおA/D(アナログ/デジタル)変換は、24ビットで行われる。 海面から投入された観測装置は、海底に着底したときには、任意の方角を向いている。そこで、着底後の装置の「向き」、すなわち電場ダイポールや磁場コイルの方位を測定するための3成分の磁力計(ハネウェル社製GMRセンサーなど)と加速度計や傾斜計なども、データロガーの耐圧容器内に格納されている。電場の測定には、電極ドリフトを除去するために、電極位置を物理的に一定の頻度で交換しながら測定する「ソルトブリッジ・チョッパー」と呼ばれる方法が採られている。時刻同期にはGPSが用いられる。しかし、海底にはGPSからの電波が到達しないため、海中に投入する直前にGPS同周波数ごとに異なる電磁場の減衰具合である。電磁場の減衰の程度を表す指標として、表皮深度(skin depth)が知られている。ρfδ?503√-fは周波数(Hz)、ρは比抵抗値である。周波数が高いほど電磁場の減衰は大きく、高比抵抗ほど減衰は小さいことを示している。δ(表皮深度)は、もとの振幅値が1/e(約0.37倍)にまで減衰する距離に相当する。3.3 海洋CSEM法の観測装置3.3.1 観測装置の構成 海洋MT法は水平電場と水平磁場を観測するが、海洋CSEM法は電場の観測が主となっている。ここではスクリプス海洋研究所の海洋電磁法装置を中心に説明を行う。Schlumberger-EMI社のMMT24、ノルウェーのEMGS社の観測装置も、スクリプス海洋研究所の装置を参考に製造されている。EMGS社は、会社設立当初はSchlumberger-EMI社から観測装置を購入していたが、現在では独自の装置を製造して運用している。 WesternGeco社は、当初はMMT24を観測装置として使用していたが、現在はスクリプス海洋研究所の装置を主に使用している。 スクリプス海洋研究所の海洋電磁法装置の外観図を図5に示した。この装置は自己浮上型であり、水深6km(最大圧力8,000 psi)までの海底での測定・データ取得が可能である。この観測装置は、以下の四つのパートから構成されている。①データロガー データロガーは、水圧や打撃による損傷を防ぐため、先取りブイガラス球電場ダイポールアームデータロガートランスポンダー切り離し機構コンクリートアンカー出所:Key(2003)より転用および加筆図5スクリプス海洋研究所の海洋電磁法観測装置図解59石油・天然ガスレビュー油ガス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性冾ェ行われ、それ以降は内蔵水晶時計が時を刻むことになる。時刻合わせ時点での精度は、数マイクロ秒である。観測装置を海底から回収した後、再度、内蔵時計の時刻とGPS標準時とを照合して時刻誤差を見積もる。時間のズレは1日あたり1ミリ秒程度である。電場・磁場チャネルアナログ増幅器24ビット   型AD変換器方位計&傾斜計フラッシュカードクロックアナリシス近傍で、継続時間が20msecの各トランスポンダー固有のコード信号を、船上の発信器から出力する。海中のトランスポンダー内の受信器が、船上装置からの信号を受信すると、同様のノック音で応答する。このトランスポンダーも、データロガーの耐圧容器と同様に水深6kmまでの水圧に耐えられる。なお、WesternGeco社ではEdgetech社のトランスポンダーを使用している。③電極 第3のパートは、長さ4?5mの電場ダイポール・アームと、その先端部に取り付けられた銀-塩化銀(Ag-AgCl)電極である(図6)。出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用および加筆Underwater connectorSilver rod写2データロガーの外観②トランスポンダー トランスポンダーは、観測装置の海底面での着底座標を特定する役割とともに、データ取得が終了した後、観測装置を海底から浮上させる目的でも使われ(後述)、データロガーとは別の耐圧容器に格納されている(写3)。スクリプス海洋研究所の音響測位システムは、12 kHz出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用および加筆写3スクリプス海洋研究所設計によるトランスポンダーと切り離し機構Epoxy seal出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用Porous jacketAgC?bu?er図6電極の内部構造 海底での電位差を計測するときの最大の問題点は、海底下で安定した性能を保持する電極を製作することが困難なことにある。観測の対象は、海底面頂上の海水中における水平方向の電位差の時間的変化である。海底で電位差観測を行う場合、陸上とは異なり、電場ダイポール長は大幅に制限され、数mから10m程度がほとんどである。その際、測定される信号強度は、自然信号のMT法の場合、μV程度である。電極や測定システムは金属でできているので、それらの内部では電荷は電子によりキャリアされる。しかし、海水中での電荷の移動はイオンの動きによる。電極と海水の境界面ではイオンと金属との間で電子の交換がなされ、仕事がなされる。よって、海水中の電位と金属の内部電位とは一致しない(表面電位)。 電極間の内部電位の差のみが測定可能であり、これは2点間の海水の電位差と二つの電極の表面電位の差を加えたものである。二つの電極の表面電位が等しければ、正しい電位差を計測することはできる。しかし、一般的に表面電位の大きさは1V程度となり、測定信号の強度が数μVであることを考えると、表面電位の10-6程度の変動が観測値に大きな影響を及ぼすことになる。しかも、表面電位は海水中の金属イオンの濃度によって大きく変化する。仮に金属の単体を電極として用いたとしても、電位差を測定するために電流を流すことにより、各2008.3 Vol.42 No.260禛Kス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性電極の周りの金属イオン濃度が変化してしまい、表面電位が異なってくる。このため海水中での正しい電位差を測定することができなくなる。 一般に、医学などの分野では、電極として白金(プラチナ)が用いられることが多い。これは、白金が化学的に不活性で変化しにくいことによる。しかし、数μV以下の信号を長期間にわたって測定しようとすると、上述の理由からほとんど不可能となってしまう。結局、表面電位の電極によるバラツキをなくし、時間的にも変化しないようにするためには、金属電極の周りの金属イオンの量を一定に保つ必要がある。このため、金属と同じ金属の化合物からなる複合電極が製作されており、金属イオンの量を一定にする性質があることから平衡電極と呼ばれている。調査現場でも、電極の取り扱いは慎重であり、バクテリアの発生を抑える薬品をわずかに混入させた塩水中に保管し(写4)、海中に投入する直前の最後の段階で電極を観測装置に装着する。また、装着後から海中投入までのわずかな時間にも、海水で濡らしたボロ布を電極の周りに巻き付けて電極を液中での状態に近づけている。出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用写4電極の保管④磁場センサー 電場観測のみを行う海洋CSEM法の場合には、磁場コイルは必ずしも必要ではない。かつてスクリプス海洋研究所では、Schlumberger-EMI社製の陸上MT法用の多巻ミューメタル芯を用いたフィードバック型のインダクションコイルを使用していたが、最近では自作のインダクションコイルを使用するようになってきている。この磁場コイルは、直径約6cm、長さ1.3mのアルミニウム製の耐圧容器に格納される。また、Schlumberger-EMI填した圧力補正型のコ社は、コイルの外側をオイルで充イルを製造しており、深海の高圧下でも、耐圧容器によじゅうてん61石油・天然ガスレビューる保護が不要である。 これは、アルミニウム製の耐圧容器が高周波数領域の磁場信号を遮断してしまうことを回避するために製造されたものである。 これら四つのパートは、それぞれポリエチレン製のフレームに装着される。このフレームは、データロガーやトランスポンダーの荷役時における損傷を防止する役割おもりも果たしている。また、このフレームには、海底での錘となるコンクリート・アンカーと浮上用のガラス球が取り付けられる。ふなばた3.3.2 観測装置の運用 機器の組み立ては調査船のデッキ上で行われる。海底地震計とは異なり、10m近い電場アームを取り付ける必要性から、最低でも数メートル四方のデッキスペースが必要である。 調査測点に到着すると観測装置はデッキクレーンで持から海中に投入される。投入してから海ち上げられ、舷底に着底するまでは、トランスポンダーによって降下の状態を監視する。着底後は、観測機器のトランスポンダーを休止状態にする。観測が終わって装置を回収する場合には、まずトランスポンダーを稼働させる信号を船上より送信する。観測装置のフレームは、スクリプス海洋研究所が設計したナイロン絶縁皮膜のステンレススチールワイヤーを使用したケーブルリリース機構を介して、コンクリートアンカー(空気重量200kg程度)につながれている。このワイヤーは、絶縁材が一部切り取られ5㎜程度芯線がむき出しになっている(写3下段)。作動状態になったトランスポンダーにリリースコマンドを送信すると、トランスポンダーから18Vの電流がワイヤーに通流される。芯線がむき出しになって海水と接する個所は電気分解により、10分から20分程度の間に切断される。するとリリース機構のロックが解除されてケーブルが外れ、コンクリート・アンカーから観測装置が離脱して海面へと浮上を開始する。 浮力は観測装置の上面に装着されたガラス球から得ている(図5)。このガラス球は5個よりなるが、観測装置に浮力を与えているのは4個のみであり、残る1個のガラス球には20m程度のロープが装着されフレームにつながっているだけである。海面には観測装置本体と、そこから約10数m離れた所に、この残る1個のガラス球が浮上する。観測装置には、長さ数mの電場アームがあるため、調査船はバウスラスターなどに、このアームが巻き込まれるのを避けるため、観測装置のすぐ脇には近づくことができない。そこで、フックを取り付けたロープマ測装置を目がけて投げつけ観測装置を調査船に引き寄せるが、点である装置を狙うより、線であるロープを目標にする方が命中率は高く、観測装置本体への損傷も避けることができる(写5)。この方式を先取りブイ方式(stray line方式)と呼んでいる。 2000年5月に、(独)海洋研究開発機構(当時、海洋科学技術センター)とスクリプス海洋研究所により、青森県三陸沖にて海洋MT法の共同観測が実施され、スクリプス海洋研究所より観測装置が供与された。その際、調査船「かいよう」のデッキが海面より10m近くも高く、観測装置の回収が困難であることが事前に予想されたので、当時の担当研究員であった三ヶ田博士(現・京都大学大学院)により、この方式が提案された。当時のスクリプス海洋研究所の観測装置に、バケツと1個のガラス球を余分に取り付け、ロープはバケツ内に収納した。この回収方式は極めて有効であるとして、スクリプス海洋研究所は、この調査後、数十台もあるすべての観測装置を先取りブイ方式に改めた。また、Schlumberger社に買収される前のEMI社とAGO社のエンジニアも同船に乗船しており、この調査後に製造された海洋電磁法装置のほとんどに、この先取りブイ方式が採用されている。(注) 上段:観測装置が海面に浮上した際の様子。本体から10数m離れたところにロープで本体と連結した先取りブイ(ガラス球)が浮上している。(注) 下段:先取りブイのロープを目がけて回収用フックを投げつけた様子。出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用アナリシスえいこう3.3.3 制御電流源(トランスミッタ) 海洋CSEM法では、海洋MT法と異なり、人工的に海中に交流電流を流し、その大地からの応答を観測する。流電に使用されるトランスミッタ(写6)は、船尾より海中に投下され、海底面から数十m上方を曳航される。送信モメントを増加させるためには、流電量に加えて電場ダイポール長(アンテナ長)を大きく取る必要がある。しかし、送信アンテナを長くすると、海中で一定の送信電極間隔を維持することが難しくなる。スクリプス海洋研究所では100?200m程度、EMGS社では250?300m程度の電場ダイポール長を使用している。送信電極は良導体であればなんでもよいが、主に銅などが使われている。 安定して送信アンテナを曳航するため、調査船の速度は1?2ノットに抑えられる。また、ケーブルやケーブル末端に装着されるトランスポンダーなどが全体として中性浮力を保持することが必要である。トランスミッタは、船上トランスミッタと海中トランスミッタにより構成される。海水中では、電流値を大きくして観測データのSN比を高める必要がある。しかし、水深数kmの条件下で海中ユニットを曳航するために使用されるアーマードケーブルの長さも数kmに及ぶ。そこで、海中トランスミッタへ電力供給を行うときには、最初に伝送する過程で電力のロスが少ない高電圧・低電流を送信する。その後、海中トランスミッタで変圧し、電流量を増加させて海中に流す(図7)。現在、商用調査における流電量は、1,000A以上である。なお、トランスミッタと観測装置との時刻同期にはGPS時計が用いられる。 海中のトランスミッタには、トランスポンダーの他に圧力計、高度計が装備されている。送信ケーブルの末端に取り付けられたトランスポンダーとともに、1秒ごとに位置情報や海底面からの高度を送信する。このため、海底地形の急激な変化による海中トランスミッタの衝突などを回避するための常時監視が可能である。出所:http://marineemlab.ucsd.edu/より転用写5先取りブイによる観測装置の回収風景写6スクリプス海洋研究所のトランスミッタ2008.3 Vol.42 No.262sd圧信号ウインチモニター(荷重など)同軸ケーブル(RG8)銅電極トランスポンダーtail銅電極送信機制御用PC●●●●デッキコントロールユニット船内3相交流発電機(50-60Hz/440V、35kW以上)海中トランスミッタ(通称:SUESI)海中送信キッド送信波形モニターGPSユニット測位キッド・トランスポンダー・海流速度・水温・フレーム姿勢(ピッチ、ロール、ヨー)・水深・高度(海底面から)出所:JOGMEC図7トランスミッタシステムの概念図油ガス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性非常時停止用スイッチ船上トランスミッタ測位情報モニターPC4. データ処理・解析技術4.1 データ処理 トランスミッタによる送信データと観測装置による受信データは、すべて時系列データとして保存される。図8にてデータ処理の流れを示す。 最初に、観測時系列および送信波形の目視による検査が行われる。目視検査によりデータの不良個所の抽出、送信波形と受信波形の比較による時刻同期の誤差などを確認する。受信波形を注意深く見ることにより、データ不良の原因を特定できる場合が多い。特に、磁場データも取得されている場合、互いに直交する電磁場(ExとHy、EyとHx)は、アンペールの法則により相関性のある波形が得られるので、電場信号の信頼性を検討する際に役立つ。 ある測点の観測時系列データファイルには、異なる送信位置からの応答がすべて含まれている。また、トランスミッタは、前述のように1?2ノットの低速で曳航されている。そこで、数分程度の時間窓を設定し、その時間内ではトランスミッタ位置は一定であると仮定して、受信時系列データの周波数解析を行う。算出されたスペクトルは、増幅器の周波数特性の補正、単位ダイポール長での電場の値への正規化が施される。また、観測値は、送信電流量によっても変化するため、スペクトルの値は、さらに単位送信モメントあたりの電場の値に正規化される。このようなデータ処理結果は、異なる送信機-受信機の間隔ごとに求められるので、海洋CSEM法では、横 観測時系列データ送信波形データ目視によるデータ検査目視によるデータ検査周波数解析(FFT、ヘテロダイン変換など)(フーリエ変換)周波数解析・A/Dビットによる電圧値への変換・機器周波数特性の補正・増幅率の補正・時間窓の設定・電場長の正規化など受信機の測線方向への回転送信モメントによる正規化パワースペクトルの算出送受信間隔ごとの振幅・位相値の算出出所:JOGMEC図8海洋CSEM法データ処理の流れ63石油・天然ガスレビューAナリシスとはできなくなってしまう。したがって、海洋CSEM法のデータ処理は、実質的に調査会社に任せざるを得ないのが実情である。一方、人工送信源を使わない海洋MT法では、観測装置の増幅器の周波数特性、受信機の着底座標および水深データなどの提供があれば、調査を委託した会社でもデータ処理は可能である。しかし、自然信号を利用する海洋MT法のデータ処理は、海洋CSEM法に比べてノイズ汚染の程度が大きくなるので、リファレンス信号の導入、ロバスト処理の採用など、より高度な周波数解析技術が必要となる。△+〇+×☆+++〇〇〇+〇++〇+++××+×++×+☆☆++++++++△△△△△+〇 +×☆+++〇〇+〇++〇+ ++××+×++×+☆☆++++++++△△△△-10,000 0 10,000 20,000送受信機間隔(m)1E-41E-51E-61E-71E-81E-81E-91E-91E-101E-101E-111E-121E-121E-121E-131E-131E-131E-141E-141E-141E-151E-151E-151E-161E-161E-16-20,000 振幅値 電場:V/Am^2 磁場1/m^218013590450-45-90-135-180位相値(度)-20,000 10,000 0 10,000 20,000送受信機間隔(m)(注)上段:測点Aでの振幅分布(水平電場2成分、水平磁場2成分)(注)下段:測点Aでの位相分布(水平電場2成分、水平磁場2成分)出所:JOGMEC図9データ処理結果の例4.2 データ解析 データ処理では、測点ごとに観測時系列データから送受信機間隔ごとの複素スペクトル(もしくは振幅、位相)を算出した。次の段階は、これらの処理データを使って調査地域の比抵抗構造を求めていく。この観測データから比抵抗構造を求める作業プロセスをインバージョンと呼んでいる。図11にてインバージョン解析のフローを2008.3 Vol.42 No.264軸に送受信機間隔、縦軸に応答値(振幅値または位相値)を取ってデータ処理の結果を表示する。 図9に処理結果の例を示した。同図上段が振幅分布、下段が位相分布である。各グラフの見方は、横軸の0mのところに観測装置が位置するものとし、トランスミッタが右端(ないし左側)から順次、他方へ移動したときの値が示されている。したがって、送受信機間隔が0m付近のところで最も振幅値が大きくなっている。 観測装置は、調査船から海中に投入されると、任意の方位を向いて海底面に着底する。そこで、次の段階は、処理データを測線方向(送信方向)に回転する処理を行う。比抵抗プロファイルを求めるインバージョン計算(後述)には、測線方向に回転処理した後のデータ処理結果を用いる。 送信波形は、矩形波が用いられることが多い。矩形波に含まれる奇数次高調波(立ち上がり/立ち下がり時間から決まる周波数)は、その次数に反比例して減少していく。しかし、duty比などを変えることで、高調波成分の振幅を大きくする工夫もされている。海洋CSEM法では、調査期間短縮の観点から、単一周波数のみを送信するので、観測波形に含まれる高調波成分も利用している。 海洋CSEM法のデータ処理の基本はフーリエ変換であり、計算自体は困難ではない。しかし、海底面に着底している観測装置の姿勢の補正をはじめとする測位に関する補正が、データ処理を実施する際の重要なノウハウとなっている。例えば、送信アンテナは曳航に伴って絶えず動揺しているため、送信モメント(電流量×アンテナ長)も任意の方角を向きながら刻々と変化しており、観測信号も大地の比抵抗構造に関係なく変化してしまう。特に、水平成分の電場観測を行うときには、送信アンテナのyaw(進行方向に対して横方向のズレ)の補正が重要である。補正に必要な測位はトランスポンダーによって行われるが、測位精度を向上させるために、事前に水深ごとの海水の音速値を知っておくことが必要である。そのため調査会社では、音速分布の測定も併せて実施している(図10)。 この音速分布は、調査船と観測装置やトランスミッタとのスラントレンジの算出や音波の屈折を知る上で不可欠である。実際の海水の音速は深さに応じて変化しているため、音線は屈折しながら海底に到達する。音速は海水の塩分濃度と温度および水圧の変化によって、1,500m/sを中心として±数%程度の範囲内で変化する。海洋CSEM法では、測位精度の優劣が大きなウエートを占め、見掛け上、観測データのS/N比が高くても、測位データに不備があれば、そのデータを解析に使用するこrすることで、作成した有限要素法や差分法のメッシュデザインが適切か否かを確認する作業が有効である。また、調査地域内で比抵抗検層データが入手できたとき、検層モデルから作成したモデルの1次元フォワード計算値とデータ処理結果を比較して、観測データの信頼性を検査することにも、1次元フォワード計算は用いられる。 次に、インバージョン計算について説明する。インバージョン計算では、ⅰ)解(比抵抗値)が必ずしも存在するとは限らない、ⅱ)解が存在したとしても一意でないことがある、ⅲ)解が観測データに連続的に依存しない、という悪条件(ill-posed)と呼ばれる問題に遭遇する。悪条件下では、観測データに微小の摂動(ノイズ)を加えただけで解(比抵抗構造)が大きく変化する。実際の計算機を使った解析では、観測値とモデル推定値との残差を最小化する最適化問題(最小二乗法)を考える。この最適化問題も悪条件をそのまま引き継いでいる。このことは、モデルを大きくすると行列の条件数が大きくなり、連立方程式が非常に解きにくくなることを意味する。逆に、データ数やモデルのメッシュの数などを小さくすると正確な解が求められず、正しい大地の比抵抗イメージを得ることができなくなる。そこで、このような解析解の参照(1次元フォワード計算)既存データ(反射法、検層データなど)の参照比抵抗モデルの修正データ処理結果測線方向の電場(Ex)など・計算周波数の選択(基本周波数+高調波成分)・測点ごとに送受信パターンを選択表皮深度に基づくメッシュの作成インバージョン・パラメータの設定- 初期比抵抗値- 平滑化パラメータなど比抵抗モデルに対する理論値の計算測定データと理論値との残差の計算No収束判定YesNo地質学的に許容できるモデルか?Yes終了出所:JOGMEC図11海洋CSEM法2.5次元解析の流れ音速(m/秒)1,490 1,500 1,510 1,520 1,530 1,540 1,550,480 01図10海水中の音速分布の例2004006008001,0001,2001,4001,6001,8002,000水 深(m)出所:JOGMEC示した。CSEM法の支配方程式は非線形であるため、任意の初期比抵抗モデルのもとでテーラー展開を施して支配方程式の線形化を行う。そのときに求められるヤコビアン行列は、観測データのモデルパラメータ(地下の比抵抗分布)に対する感度、すなわちFrechet微分で表される。入力データと、推定されたモデルの応答値との差が、ある一定の許容範囲に収まるまでモデルパラメータの修正計算とモデル応答計算(フォワード計算)が繰り返され、最終的な比抵抗構造を求めていく。 2次元、3次元構造に対するフォワード計算では、有限要素法や差分法などのモデルの離散化・近似化を前提とした数値解析法が使われる。これらの解法では、対象とする空間や時間を有限幅で分割して、解を有限個の未定係数を持つ近似解で表現する。CSEM法の基礎原理や数値解析法は、Ward and Hohmann(1988)などに詳しい。 人工信号源を利用しているCSEM法の解析の困難の一つは、送信点と受信点の距離をrとすると、人工信号源はO(1/r2)やO(1/r3)という特異点をもたらし、計算機プログラムに必要な離散的な取り扱いが難しくなることにある。CSEM法では、上述のソース項による特異点問題を解消するために、モデルをバックグラウンド比抵抗による応答を表すprimary場と、比抵抗異常体からの応答によるsecondary場に分離するのが一般的である。 ところで、近似解ではなく、解析解が得られる計算は、1次元フォワード計算である。そこで、1次元フォワード計算結果と、2次元や3次元ソフトウェアによる水平多層モデルの計算結果を比油ガス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性65石油・天然ガスレビュー008.3 Vol.42 No.266アナリシスデルに取り込むと、行列の条件数が急激に増大してしまうので、その逆行列の解法として、緩和法や共役勾配法など(しばしば前処理を付加する)が用いられる。 差分法ではスタッカード格子を用いるのが一般的である。Smith(1996)やNewman and Alumbaugh(1995)こうは、格の各辺に電場の法線成分、各面に磁場の垂直成分を割り当てている。差分法では、地形、地質モデルを直方体で表現するため、どうしても曲線形状の構造を正確に表現することができない。したがって、有限要素法の方が有利に見える。しかし、自由度がメッシュ数の数倍になってしまい、プログラミングが複雑になる。また、パソコンレベルでは、メモリー格納が困難であるため、並列計算機の導入も視野に入れる必要がある。有限要素法を用いる最大のメリットは、大きな比抵抗コントラストを有するモデルを取り扱えるようになることであり(Sugeng他 ,1999)、海洋モデルに適用されることが期待される。米ユタ大学のZhdanov教授らのグループは、近子し2.5km0.01,0002,0003,0004,0005,0006,0001.0km2.5km3.0km4.5km25m3.0km25m0.00 3,750 7,500 11,250 15,000 18,750 22,500 26,250 30,000Distance (m)0.01,0002,0003,0004,0005,0006,000初期モデル0.00 3,750 7,500 11,250 15,000 18,750 22,500 26,250 30,0000.01,0002,0003,0004,0005,0006,000Distance (m)反復1回0.00 3,750 7,500 11,250 5,000 8,750 22,500 26,250 30,000Distance (m)0.01,0002,0003,0004,0005,0006,000反復8回------------------------Depth (m)Depth (m)Depth (m)Depth (m)0.00 3,750 7,500 11,250 15,000 18,750 22,500 26,250 30,000Distance (m)反復15回0.01,0002,0003,0004,0005,0006,000------Depth (m)0.00 3,750 7,500 11,250 15,000 18,750 22,500 26,250 30,000Distance (m)0.3 1.0 3.0 Resistivity10.0 20.0(注)最上段:計算モデル、以下、反復計算ごとの解の収束の様子出所:JOGMEC図12インバージョン計算例悪条件の方程式系の最小二乗法を安定化させるため、正規方程式の係数行列に人工ノイズを加える方法が知られている。例えば、ダンプト最小二乗法(Aki and Richards, 1980)や、平滑化などを含む拘束条件を付け加える方法がある。・2.5次元解析 CSEM法は、MT法と異なり、観測点近傍で入力信号を発生させるので、ソースの影響を考慮した解析が必要である。2.5次元解析とは、地質構造は2次元であると仮定するものの、人工的に発生させたソースの伝搬挙動は2次元で近似することができないため3次元として計算する手法のことを指している。 海洋CSEM法のインバージョン解析によって、比抵抗分布がどのようにイメージされるか、数値実験で示す。図12の上段にモデル図を示した。水深は2.5kmとし、1.0Ω・mの堆積岩に囲まれた25mの層厚を持つ30Ω・mの油ガス層を海底下2.5kmに設定した。そして、海底下1kmのところにターゲットの油ガス層を覆い隠すように浅部ガス層(15Ω・m)を置いた。また、油ガス層の下部には、岩塩ドームを想定した大きな高比抵抗ブロックを設定した。計算に用いた入力データとして、0.1Hzおよび0.3Hzの測線方向の電場の値を用いた。また、測点間隔は1.5kmである。例は暖色 インバージョン結果を同図下段に示す。色凡系が高比抵抗側を示す。1.0Ω・m均質大地を初期モデルとし、繰り返し計算ごとに徐々に比抵抗構造が鮮明になっていく様子が見られる。深部に設定した岩塩ドームも、そのイメージを再現しているが、計算された比抵抗値が20Ω・m程度とかなり低めの値になっている。これは、その上部に広く分布する油ガス層によるマスキングの影響によるものと考えられる。 ところで、2.5次元解析では、フォワード計算、インバージョン計算とも、ほとんどの数値計算法(差分法、有限要素法および積分方程式)は、ほぼ実用化された段階に達している。最近の2.5次元の数値計算に関する代表的な文献としては、Sugeng(1993), Mitsuhata(2000), Mitsuhata(2002)が挙げられる。実際の地質構造は3次元ではあるものの、単純な地質構造であれば、2.5次元解析は実用的な方法である。はんれい・3次元CSEM法解析技術 探鉱対象が複雑化するに伴い、3次元解析技術の実用化が望まれる。CSEM法の3次元解析技術は、この10数年の間に端緒がついたばかりである。海底地形を計算モ禛Kス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性似解法を中心とした高速解法を研究している。 さて、現在、CSEM法の3次元インバージョン計算が、ある程度成功している理由は、感度行列(ヤコビアン行列)とベクトル値の積が、相反定理などを使って最小限のフォワード計算量から高速に求めることが可能になったからである。しかし、現状の解析ソフトウェアは、海底地形を考慮したり、大きな比抵抗コントラストを有するモデルが取り扱える段階にまでは達していない。5. 海洋CSEM法の適用例 ここでは、既存文献による石油探鉱の適用例を紹介する。実際の調査事例は、各石油会社と調査会社との守秘義務になっていることから、公開に至っていないものがほとんどである。ここで紹介する事例は、すべてWEBサイトなどで公開されているものである。 図13で示した図面は、ノルウェーのEMGS社がシェル石油の依頼を受けて実施した東南アジアでの調査事例である。反射法プロファイルの上に海洋CSEM法インバージョン結果を重ね合わせて表示している。暖色系が高比抵抗、寒色系が低比抵抗である。また、白線は坑跡である。左側の坑井ではガス層には遭遇しなかったが、右側の坑井では海洋CSEM法結果で赤色で示された領域においてガス層が発見されたそうである。こうせい出所: http://www.emgs.com/_assets/media/files/46-36lores.pdfより転用図13実フィールドデータ解析の例(その1)-EMGS社によるデータ取得・解析- 図14は、イギリスのOHM社がフォークランド諸島で実施した海洋CSEM法データの2.5次元インバージョン解析結果の例である。図13と同様に、暖色系が高比抵抗値、寒色系が低比抵抗値を表している。高比抵抗の基盤層がグラーベン状に分布する。図中の右下に、楕円状の高比抵抗体が見られるが、これが油層に相当する。 図15は、ExxonMobil社が西アフリカ沖で実施した例である(Srnka,2005)。同図上段の赤線で示されたsurvey line2には21測点が展開されている。送信周波数は0.25Hzである。この地域では3次元解析が実施され、survey line2方向に切り出した断面図が同図下段である。暖色系の高比抵抗域が油ガス層に相当するが、電磁法で得られた深度と坑井で確認された深度とは、いくぶん異なったようである。また、海洋CSEM法インバージョン計算には、3次元地震探査結果から導いた地層境界などが拘束条件として付加されている。 図16は、同じくEMGS社がノルウェーTroll油ガス田で実施した調査結果である(Amundsen, 2004)。同図上段は、同地域での貯留層とされているジュラ紀のSognefjord層(砂岩)のトップの深度をマッピングした出所:http://www.ohmsurveys.com/dataanalysis17.phpより転用出所:Srnka(2005)より転用図14実フィールドデータ解析の例(その2)-OHM社によるデータ取得・解析-図15実フィールドデータ解析の例(その3)-ExxonMobil社によるデータ取得・解析-67石油・天然ガスレビュー}に、調査測点を重ね合わせたものである。測点数は24であり、送信周波数は0.25Hzである。ガス層の比抵抗値は平均70Ω・mで、周辺堆積層は0.5?2.0Ω・mである。同図下段は、測線南西側の2番測点(油ガス層がない地アナリシス点)のデータを基準に正規化して表示したグラフである。縦軸が2番測点データを基準にした倍率、横軸が各測点位置である。下段のグラフで倍率が高くなっている(すなわち、油ガス層のない測点の観測値より大きな観測値が得られている)地点と、油ガス層の賦存する地点が一致するとされている。出所: Amundsen他(2004)、http://www.emgs.com/_assets/documents/0511_o-g_journal.pdfより転用図16実フィールドデータ解析の例(その4)-EMGS社によるデータ取得・解析-6. 海洋電磁法調査会社 ここでは、代表的な海洋電磁法調査会社について、その概要を紹介する。6.2  EMGS社(Electromagnetic Geoservices AS)6.1 WesternGeco社 WesternGeco社の海洋電磁部門は、テキサス州オースティンに拠点を置くAOA Geophysics社が、2002年に設立した子会社であるAOA Geomarine Operation(AGO)社をSchlumberger社が2004年10月に買収したことに始まる。AGO社は、2003年から電磁法調査船舶PolarBjorn(ポーラービョン)号をチャーターして、主にExxonMobil社を顧客としていた。AGO社はサンディエゴのスクリプス海洋研究所から車で20分程度の所に拠点を置き(現在は閉鎖されている)、その親会社であるAOA Geophysics社は、スクリプス海洋研究所と10年以上も海洋電磁法の共同研究を進めていた。Schlumberger社は、AGO社の買収以前に、バークレーに拠点を置く電磁法機器であるEMI社を2000年に買収しており、EMI社は海洋電磁法装置(MMT24、前述)を製造していた。 Schlumberger社は、2007年7月に電磁法解析技術の充実を図る目的で、イタリアのミラノに拠点を置くGeosystem社を買収した。現在では、オペレーションはノルウェー、データ処理・解析はミラノおよびヒューストンという態勢をとっている。 EMGS社は、2002年2月にStatoil社の研究員であったSvein Ellingsrud博士とTerje Eidesmo博士が、Statoil社とNorwegian Geotechnical Instituteから資金提供を受けて設立した会社である。拠点はノルウェーのトロンヘルム市にある。2004年にPrivate equity companyであるWarburg Pincus社が株式の60%以上を取得した。EMGS社は、海洋CSEM法をSea Bed Logging(SBL)と命名した(前述)。この名前は、油ガス層調査という目的に特化した海洋CSEM法を指すものとしている。3節で述べたように、海洋CSEM法自体は、それ以前から知られていたが、海底下の薄い高比抵抗層、すなわち油ガス層の検出に適用させるアイデアは、両博士によるものである。また、二人は欧米でSBLに関する特許申請を行った。しかし、他社からは、既に学術論文も出版され、既知の技術である海洋CSEM法は、特許申請の対象にならないと抗弁され、論争の種となった。実際に、SBLの技術の多くは、大学や他の電磁法調査会社で使われているものと差異はない。表に、EMGS社をはじめとする各組織の海洋CSEM法に関する特許申請の一部を示した。EMGS社は、設立当初はSchlumberger-EMI社製造の観測装置を使用していたが、現在は、自社製の観測装置を使用し2008.3 Vol.42 No.268禛Kス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性ている。通常はx方向とy方向を各1チャンネルずつ(合計2チャンネル)測定するが、EMGS社では、電場測定の重要性から、バックアップとしてxおよびy方向とも2チャンネルずつ測定し、データ品質とデータ回収率の向上に努めている。送信機も自社で設計を行い、実際の製造はSiemens社が行った。6.3  OHM社(Offshore Hydrocarbon Mapping) OHM社は、2002年にサザンプトン大学海洋センターの研究者らによって設立され、現在はアバディーンに拠点を置いている。同社は、大学時代から続いている観測装置、送信機開発を進めるための資金調達の手段として、2004年3月、ロンドン株式市場のベンチャー企業の上場を主としたAIM市場に上場した。上場時の時価総額は4,930万ポンド(約120億円)に達した。同社の2006年度年次報告書によると、総収入は前年度の430万ポンドに比べ、1,040万ポンド(約25億円)と2倍以上に増加し、税引き前利益は前年度の100万ポンド弱から、約300万ポンド近くに増加している。 OHM社は、現場データ取得作業からインバージョン解析に至る技術全体のバランスがとれており、また、解釈技術、特に地震探査と電磁探査とのインテグレーション技術の向上を目指して、Rock Solid Images社と提携した。また、OHM社は早くから浅海域での電磁法調査に取り組んでいる。水深が浅いと、海底近くで発生した電場は、絶縁体である空気層の影響を取り込んでしまい、地下のターゲットからの信号をマスキングしてしまう(air waveと呼ばれる)が、OHM社は、2004年初頭に、このair wave問題を理論的には解決したと発表した。また、同年12月に、北海の水深120mの海域で実験航海を行い、成果を収めたとも発表したが、実験方法や結果の詳細内容は、まだ公開されていない。6.4 PGS社(Petroleum Gas Services) PGS社は、地震探鉱会社として有名であるが、2007年7月に電磁法調査会社であるMTEM社を買収した。MTEM社は、2004年に設立された。設立当初は、必ずしも海洋調査をサービス内容としていなかった。しかし、社名(MTEM)の由来にもなったMulticomponent Transient EMが、周波数領域の電磁法であるCSEM法と同じように高比抵抗値を示す薄層(油ガス層など)の検出に有効であり、また、原理的には浅海域も含めて水深を問わず適用できると、創業者の1人であるZiolkowski博士が唱えたのが、海洋調査への始まりで69石油・天然ガスレビューあった。時間領域電磁探査法も周波数領域電磁探査法も、結局はフーリエ変換の表裏であり、理論的には等価表海洋CSEM法に関する特許申請の例組織名特許項目浅海でのデータ取得(1)観測装置データ処理方法浅海でのデータ取得(2)電磁マイグレーション送信機(1)送信機(2)データ処理方法センサーデザインモニタリング観測装置(1)観測装置(2)多連式送信アンテナアンカー周波数最適化コンクリートアンカー送信機(1)浅海でのデータ取得(1)海洋電磁法+地震探査送信機(2)浅海でのデータ取得(2)調査方法(1)調査方法(2)データ処理方法測点+送信配置(1)測点+送信配置(2)観測装置(1)観測装置(2)海洋CSEM法手法送信配置浅海でのデータ取得垂直送信機送信波形データ表示法周波数最適化異方性解析SN比最適化異方性解析送信パターンキャリブレーションフィルタリング浅海でのデータ取得海洋電磁法+地震探査周波数最適化時間領域CSEM法OHMエジンバラ大学スクリプス海洋研究所EMGSSchlumbergerExxonMobilRocksourceStatoilHydroBP(注) 2007年10月、StatoilとNorsk Hydroが合併し、StatoilHydroとなる。表は合併以前に作成されたもの。出所:OHM社資料より転用および加筆ナある。MTEM社は、アバディーン大学のAnton Ziolkowski教授、Bruce Hobbs博士、David Wright博士によって設立され、現在の拠点はエジンバラにある。PGS社に買収される前まで、資金調達は主にNorwegian venture fund のEnergy VentureやScottish Equity よっていた。Bruce Hobbs博士はアバディーPartnersに拠ン大学時代に、MT法測定装置の製作に造詣の深いDawes氏とともに働いており、同氏はMTEM社の観測装置にGPS同期システムを導入した人でもある。このグループは、1994年から1996年にかけて、陸域で時間領域電磁法を浅部ガス層の検出に使用しており、2001年に特許申請を行っている。この1994?1996年の調査の内容は、Wright他(2002)に掲載されている。測定方法は、陸域、海域とも、送信機からの電場信号を数百m間隔で展開された観測点群で同時に受信する。MTEM社では、時間領域電磁法データのフォーマットを地震探査と同様にSEG-Yフォーマットで管理し、反射法地震探査のアプリケーション・ソフトウェアを電磁法データのデジタルフィルタリングなどに活用している。MTEM社は、2006年より海域での油ガス調査に参入した。2006年には、20台の観測装置と送信機の試作品しか整備されていなかったが、2007年には、30台の観測装置と800Aを送信できる送信機が整えられた。しかし、観測装置の最大耐圧水深が500mであること、送信用と受信用に2隻の7. 海中流電に伴う環境への影響 海洋物理探査では、調査行為と、それを取り巻く環境との間に生じる因果関係に対して説明が求められる場合が多い(環境インパクト・アセスメント)。海洋CSEM法では、海底面付近から交流電流を流す作業を伴うので、環境への影響が懸念される。しかし、海中での流電作業に関する室内実験、フィールド実験の報告などは、公開する段階には至っていない。米国のある石油会社は、環境コンサルティング会社に対して、生態系に対する諸問題の調査を依頼したそうである。しかし、その詳細については不明である。ここでは、(1)電磁放射の生態系への影響、(2)地磁気に対する影響(3)電気感受性の強い魚類に対する影響、について述べる。(1) 電磁放射の生態系への影響 海洋CSEM法では、送信時間が限られていることや、流す電流値がそれほど大きくないため、上に挙げた三つの問題点のなかでは、電磁放射は最も影響が少ないと考アナリシス調査船を準備しなければならないことなど、いくつかの問題点が残っている。6.5 Petromarker社 2005年に設立されたノルウェーのスタバンガー市に拠点を置く海洋電磁法調査会社である。持ち株会社であるORGホールディングスが株式を100%所有していたが、2007年10月にSchlumberger社が株式の10%を取得した。しかし、本稿執筆の時点では、Schlumberger社と具体的な技術交流は行われていない。この会社の特徴は、時間領域の垂直電場成分の送受信形態を採用していることである。垂直成分の電場の測定は、潮流による動揺の影響を被りやすく、電極位置を保持することが難しい。そこで、同社では、データロガーが装着された1トン近いコンクリート・アンカーの約1m程度上に海底面側の電極を装着し、その50m上方の電極には直径1m以上の浮き球を装着して、大きな浮力、すなわち張力によって潮流に抗している。データ回収は、ROVを海底のデータロガーのところまで潜行させ、ウェットコネクターを介してROVとデータロガー間のデータ転送を行う。このことで、データロガーを船上まで回収、そして再投入に要する時間を節約している。解析は、1次元解析までにとどまっている。えられている。米国内および国際的な委員会では、低周波数かつ低振幅である電磁放射ならば、生態系への影響は少ないというコンセンサスができているようである。海洋CSEM法で用いる周波数は極めて低く、数日程度の流電作業なので、後遺症が残るような悪影響はないと考えられている。(2) 地磁気に対する影響 ウミガメ、クジラ、イルカなど数多くの海中生物が、地磁気を検知する能力を持ち、移動の際に地磁気を利用して目的地へ向かうことが知られている。そこで、海中に流される電流から誘導される磁場と、地磁気の強度の差が問題となる。しかし、海洋CSEM法で形成される磁場強度は、地磁気の大きさに比べて格段に小さい。また、海洋CSEM法の流電作業は、通常、水深1km以深の深海域で実施され、その領域に生息する生物は極めて限定される。海水は、極めて高い良導体であるので、海中に2008.3 Vol.42 No.270禛Kス田探鉱における海洋電磁法の適用可能性流された電流は、たちどころにジュール熱に変換され、減衰してしまう。そのため、水深の浅い領域に生息している生物にとって、流電の影響は格段に小さくなる。(3) 電気感受性の強い魚類に対する影響 サメやエイなどの軟骨魚類は、電気に対して敏感であることが知られている。これらの生物は、電気的信号を検知する感覚器官を持っており、互いの連絡や捕食のときに、その能力を発揮している。海洋CSEM法の流電作業は、こうした生物にも影響を与える懸念があるが、具体的な影響は不明である。(2)でも述べたが、海洋CSEM法で流される電流は、海水の中ではすぐに減衰してしまうため、一体、どのような影響が発生するかは、送信機と生物の距離や送信する水深など多くの要因に依存する。流電中の海洋CSEM法調査船の速度は、1ノット程度と遅い速度なので、サメなどの泳ぎの速い生物は送信機を避けてしまうが、エイなどのように一カ所にとどまっていることが多い生物への影響は不明なままである。海洋CSEM法による流電は、海中生物にとって不快なものであるかもしれないが、後遺症が残るほどのダメージは与えないであろうと考えられている。の均質な大地を設定した。計算周波数は0.3Hzである。水深が無限大のとき、送受信間隔が大きくなると、振幅曲線や位相曲線はほぼ直線的(線形的)傾向を示す。これは、均質大地中の電場分布の特徴の一つである。水深が浅くなるにつれて電場強度が大きくなり、振幅カーブの急変部が送受信機間隔の短い方へ移動する。同様に、位相カーブも水深が浅くなると、より短い送受信機間隔のところで直線的傾向から外れて、平坦な位相分布を示す。空気層は絶縁体であるため、電場の減衰量は極めて小さい。振幅カーブは急変部を超えても、緩い勾配で減衰傾向を示しているが、これは送信源からの信号が平面波ではなく、球面発散である証拠の一つと考えられる。 注意すべきことは、air waveは単に、海水と空気層のみの相互作用ではなく、海底面下の比抵抗分布の影響も受けており、海水と空気の境界で生じる単なる屈折現象15,0001E-71E-81E-91E-101E-111E-121E-131E-141E-151E-161E-171E-181E-191E-20水深=無限大水深=1,500m水深=1,000m水深=500m水深=200m水深=100m2,500 0 5,000 7,500 10,000 12,500 電場強度(V/Am^2)8. 海洋CSEM法の問題点 海洋CSEM法は、まだ開発途上の探査技術であり、測定・運用技術、および解析・解釈技術などの面で、多くの技術的課題が山積している。ここでは、その一例としてair waveについてコメントする。 海底面で観測される電場信号のなかには、トランスミッタから一度海面に出て、再び海底に戻ってきたものがある。これは、慣用でair waveと呼ばれている。air waveは、絶縁体と見なせる空気中ではほとんど減衰せず、低比抵抗である海水に戻ると減衰する(表皮効果)。したがって、水深が大きい調査地域では、air waveの影響はあまり大きくない。逆に言えば、水深の浅いところではair waveの影響が無視できなくなる。 図17に、水深を無限大から100mまで変化させた場合の振幅分布(semi-logスケール)、位相分布(リニアスケール)を示した。海水の比抵抗を0.3Ω・m、そして1Ω・m送受信機間隔(m)水深=無限大水深=1,500m水深=1,000m水深=500m水深=200m水深=100m1,000800600400200位相値(度)水深=無限大水深=1,500m水深=1,000m水深=500m水深=200m水深=100m0 2,500 5,000 7,500 10,000 12,500 15,00000 2,500 5,000 7,500 10,000 12,500 15,000送受信機間隔(m)送受信機間隔(m)1E-71E-81E-91E-101E-111E-121E-131E-141E-151E-161E-171E-181E-191E-20電場強度(V/Am^2)出所:JOGMEC1,000水深=無限大水深=1,500m水深=1,000m水深=500m水深=200m水深=100m図17水深の違いによる振幅と位相の変化71石油・天然ガスレビュー800600400位相値(度)008.3 Vol.42 No.272ではないということである。現在、いくつかのair wave補正方法が提唱されているが、なかなか決定打が出てこないのが現状である。アナリシスになってから、まだわずかな年月しか経過していない。よって、地震探査に比べて、調査価格の割高感や、3次元調査・解析技術の後れが見られる。 電磁場は、基本的に拡散現象であるため、場の物性量の空間的平均に対して感度を示す。このことは、地質構造の微分とも言うべき反射面などの境界形状には分解能で劣ることを意味する。そこで、構造の積分である電磁法と、微分である地震探査法を組み合わせることで、構造に対する感度や油ガス層検出の確率を相乗的に上げられることが期待されるゆえんである。みながなく、しかも海底での電磁場観 今回は、あまり馴測という特殊なテーマについて紹介した。海洋CSEM法には、制御電流源の詳細、測位技術、他の物理探査種目とのジョイント解析技術など、紙面の都合上、紹介できなかったいくつかの重要な技術要素がある。 海洋CSEM法が感応するのは、高比抵抗体である。したがって、海洋CSEM法は、油ガス層だけでなく、火山岩岩脈、岩塩ドームなどの高比抵抗岩体にも反応を示す。つまり、海洋CSEM法は、油ガス層を直接見つけるものでなく、あくまでも探鉱リスクを軽減するための手段に過ぎない。海洋CSEM法は、石油探鉱に適用されるよう染じ9. おわりに【参考文献】1)Aki, K., and Richards, P., 1980, Quantitative seismology Theory and Method, W. 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2008/03/21 [ 2008年03月号 ] 山根 一修
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