石油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察
| レポートID | 1006342 |
|---|---|
| 作成日 | 2008-07-18 01:00:00 +0900 |
| 更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
| 公開フラグ | 1 |
| 媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
| 分野 | 技術探鉱開発 |
| 著者 | 野神 隆之 |
| 著者直接入力 | |
| 年度 | 2008 |
| Vol | 42 |
| No | 4 |
| ページ数 | |
| 抽出データ | アナリシスJOGMEC調査部野神 隆之石油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察はじめにたどり、2000年以降は30万人台と半分以下の水準となっている(図2)。 これまでの大手国際石油会社の軌跡を簡単に振り返ってみると、1970年代初めまでの、いわゆるセブンシスターズ(いわゆるExxon、Mobil、Chevron、Texaco、Shell、BP、Gulfのメジャー7社)の時代には、彼らは中東石油資産を含めた世界石油資産の相当部分を事実上支配していた。そして大手国際石油会社間で競争と協調を行ってきたわけであるが、1970年代に入って、中東産油国等が自国石油資源の国有化を実施したことにより、大手国際石油会社は中東石油資産の多くを失い、新たな収益源を探さざるを得なくなった。そこで彼らは、アラスカ等の米国や英国領ないしはノルウェー領北海における石油・天然ガス事業への進出に加え、ウラン、石炭、小売業など石油・天然ガス産業外の分野への進出といった、いわゆる「多角化」経営に走ることになる。しかし、この多角化経営はことごとく失敗し、結局その後彼らは石油・天然ガス産業に再び集中することとなった。さらに、1980年代半ばには、原油価格が急落し、1990年代を通じて低迷したままとなってしまった(図1)。また、欧州の下流部門では、ハイパーマーケット(いわゆる大型スーパーマーケット)によるガソリン等の石油製品に係る価格破壊が進み、大手国際石油会社を含めてこの分野での競争が激烈になってきた。このような厳しい経営環境のなか、大手国際石油会社各社は、経営合理化を実施し、人員削減を徹底的に行った。 例えば米国では、1982年当時、石油産業での雇用者数がおよそ80万人台半ばであったが、その後、それは減少の一途を辿 さらに、1997年にはタイにおける通貨危機が、アジアの金融危機、そして経済危機へと発展し、同地域を中心として石油需要が低迷した。その際OPECも原油生産調整に失敗した結果、原油価格は、それまでの1バレルあたり20ドル程度から、1998年には一時11ドルを割り込むなど一層下落した。このようなことから、大手国際石油会社の単独での経営合理化努力は行き詰まりの感を見せ始めた。 また、1970年代以降大手国際石油会社が主な上流部門収益源としていた、米国や北海での油・ガス田も全般的に成熟し始めてきた。このため、石油会社としては、アフリカや旧ソ連諸国、そして深海地域といった、新規地域ないしは高リスク分野に進出せざるを得なくなったわけだが、そこでの石油・天然ガス探鉱・開発事業等を大規模に推進するには、膨大な資金が必要であり、それだけの資金を支出することに加え、大型プロジェクトを推進するうえでのリスクに耐えられるだけの体力が必要であった。このような背景もあり、大手国際石油会社は、1990年代末ごろには巨大合併、大再編に突入することとなったのである(図3)。 大手国際石油会社は、巨大合併を通じて、さらに経営合理化努力を継続する一方で、より強固な財務基盤と豊富なキャッシュフローを生み出すことができるようになった。これにより新規地域などに大規模に進出、投資を実施し、大規模に探鉱・開発、大規模に生産、そして大規模に収益を得るというビジネスモデルを確立した。ほぼ並行して、原油価格は1998年の1バレルあたり11ドル割れの状況から、2008年には1バレルあたり140ドルを超過するほどに上昇し、大手国際石油会社には多額の利益をもたらす結果となったわけである。 しかし、これでめでたしめでたし、ということにはならないのかもしれない。これまでの大手国際石油会社の合理化努力は、経営環境の悪化によるもの、というやむをえない側面があったとはいえ、この合理化努力によって失ったものもあるように見受けられる。その一つに研究開発体制の縮小、というものが挙げられる。本稿では、この研究開発体制の縮小が大手国際石油会社とその周辺に何をもたらしたかについて、今後の展望と併せて考察してみることにしたい。1石油・天然ガスレビューAナリシス197019751980198519901995200020052010年千人1,00090080070060050040030020010096501出所:APIドル/バレル454035302520151019841985198619871988198919901991199219931994199519961997199819992000年図1原油価格の推移(NYMEX WTI)図2米国石油産業雇用者数の推移198485?9798992000010203040506年ExxonMobilSocalGulfTexacoBPRD/ShellTotalConocoPhillips 出所:各種資料よりJOGMEC作成図3大手国際石油会社の再編1. 石油・天然ガス産業における技術開発および研究開発の変遷 かつては、石油会社、特に大手国際石油会社は、自社により研究開発を実施することが基本であり、ここで開発された技術や得られた知見を、探鉱・開発活動等に生かす、という体制であった。しかしながら、前述のとおり、各社の経営合理化努力により、このような研究開発体制は1990年代を通して縮小していった。研究開発は、即座に収益に貢献する場合もあるが、結果として長期的に収益に影響を及ぼす、といった場合もあり、実際の探鉱・開発プロジェクトのように収益率が具体的に示されにくい。結果を数字として評価することが困難であるという特性もあり、経営上、いわゆる「コスト・センター」といった位置づけをされがちになったことが研究開発体制の縮小の背景にあったものと考えられる。米国エネルギー省の調査を見ると、上流部門向け研究開発予算は、1990年代に下降している(図4)が、実質ベースで見るとさらにこの傾向ははっきりする(図5)。 1990年代から現在に至るまでの、個別の大手国際石油おおむね2000年前後に至会社の研究開発費を見てみても、概るまで減少傾向を示している(図6、なお図7のように実質価格ベースで見ると、この傾向は一層はっきりする)。特にBPは1990年代前半から目立って減少している。2008.7 Vol.42 No.42ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察億ドル8765432547036958144703692258170362819099000899008899990888978889787099000999009999990999999999999211222111221111112111111111111年出所:米国エネルギー省データより筆者作成図4米国石油会社による上流部門向け研究開発費(名目価格)億ドル20151050681403925147039257658681492703090099900999008998988878878788090099900999009999999999999999212211122111221111111111111111年出所:米国エネルギー省データより筆者作成図5米国石油会社による上流部門向け研究開発費(2007年ドル) ここで、Totalは研究開発費の減少傾向が明確ではないうえ、他社を上回る状況となっている場合も見られるが、これは同社の研究開発が化学部門に重点を置いていることに起因するものと思われる。因みに他社においては、研究開発費に占める上流部門の割合は少なくとも50%といわれているなかで、Totalの研究開発費に占める化学部門の占める割合は65%(2007年)、つまり石油部門は下流部門を含めて35%である旨明らかにされている。 研究開発費を削減した石油・天然ガス会社はその代わり、外部からの調達(アウトソーシング)を積極的に行うことで、自社の事業における技術の利用をサポートしようとした。例えば、BPは会計・経理部門や人事・厚生部門、輸送部門、IT技術部門のアウトソーシングに加えて、英国領北海のMachar(埋蔵量は5,500万バレルであったうえ、油層構造が複雑だったことから、経済的にマージナルな油田とみなされた)の開発の際にSchlumbergerに坑井、エンジニアリングと施設建設管理等といった、上流部門の技術に関するアウトソーシングも実施した(表1)。その百万ドル1,000800600400200019891990199219931991ExxonMobil Total199419961995BP199719991998Shell20002003年20022001ChevronConocoPhillips百万ドル1,6001,4001,2001,000800600400200019891990199219931991ExxonMobil Total199419961995BP199719991998Shell20002003年20022001ChevronConocoPhillips(注)再編前については、主要各社の数値を合算。またTotalグループはSanofi相当分を除外出所:各種年報他より推定(注)再編前については、主要各社の数値を合算。またTotalグループはSanofi相当分を除外出所:各種年報他より推定図6大手国際石油会社の研究開発投資(名目価格)~2003年図7大手国際石油会社の研究開発投資(2007年ドル)~2003年3石油・天然ガスレビューAナリシス結果、本事業は通常、1坑目の評価井掘削から生産開始までに1~2年を要するところが、プロジェクト開始後19週間で生産が開始でき、事業効率の向上にも寄与したとされる。また、Amocoは、英国領北海で操業していたNorthwestHutton油田における2次回収をSchlumbergerにアウトソーシングしている。アウトソーシングは、研究開発を通じた技術開発の弱点でもある期間や費用リスクといった問題を克服し、石油・天然ガス会社が最先端技術を継続的に獲得することを可能にした。 このようなことを通じて大手国際石油会社各社は、石油・天然ガス探鉱・開発部門技術を自社で開発して適用する、といったことに対する優先順位を引き下げていったと言えよう。表1BPのMachar油田開発におけるアウトソーシング先とその業務アウトソーシング先業務内容Schlumberger Project Management 坑井のエンジニアリングと建設管理Sedco Forex(英国、アバディーン)半潜水式掘削装置Sedco 707の提供、生産装置の据え付けおよびロジスティックスABB Vetco Gray(米国、ヒューストン)海底生産システムのエンジニアリング、資材調達管理、生産および水圧入装置のデザインSchlumberger Wireline & Testing早期生産およびテスト装置の提供、電検とパーフォレーションの実施、坑底計測器の管理出所:石油公団企画調査部「欧米石油企業のアウトソーシング実施状況と効果」石油・天然ガスレビュー2000年6月号2. 石油サービス会社の台頭 一方、そのような経営合理化努力を進める石油・天然ガス会社の要望に応えたのが、いわゆる石油サービス産業であった。代表的なものには、Schlumberger、Halliburton、BakerHughesなどが挙げられる。 例えば、業界最大手のSchlumbergerの例を見てみると、同社の研究開発費は、1990年代半ばに増加しており(図8、なお実質価格ベースは図9)、その後も事業買収や売却で多少の変動はあるものの、概ね一定水準の範囲内で推移している。石油・天然ガス産業が経営合理化努力を進め、さまざまな技術的課題をより積極的に外部調達するにつれ、石油サービス産業のなかには、組織再編や企業買収等を通じて提供できるサービスを強化していったところもでてきた(後述)。 その結果、従来は、個別の作業における技術的課題百万ドル800600400百万ドル80060040020019931994199519992000出所:Schlumberger年報等より推定1998199719962001200220032004200520062007年20019931994199519992000出所:Schlumberger年報等より推定1998199719962001200220032004200520062007年図8Schlumberger研究開発支出(名目価格)図9Schlumberger研究開発支出(2007年ドル)2008.7 Vol.42 No.44ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察の解決が大部分であった石油サービス産業において、例えば石油・天然ガス探鉱・開発プロジェクトを統合的に管理するような事業(統合サービス)も発達、石油・天然ガス産業の全般的なコスト低減と作業の効率化に貢献するようになった。1997年に銀行のソロモン・ブラザーズ(当時)が石油・天然ガス会社228社に対して実施した調査によれば、石油サービス産業による統合サービスを利用する石油・天然ガス企業数は1980年代後半には全体の5%であったのが、1996年には30%へと増加していた。さらにその時点で既に50%を超える石油・天然ガス企業が石油サービス産業による統合サービスの利用に興味があると回答しており、この数は1980年代の20%未満から大幅に増大していた。このような流れに沿って、例えばSchlumbergerでは1995年にはIPM(IntegratedProjectManagement)といった統合サービスの手法を確立し、油・ガス田開発に関して、本格的に総合管理できるような体制を整えている。3. 技術の外部調達―その影響 一方、大手国際石油会社に対してコスト削減による経営効率と収益の改善に寄与する一要因となった技術の外ほころびが見えてくるように部調達について、最近ではその綻なった。それは「技術の商品化」の問題と言われている。技術の外部調達という手法により、石油・天然ガス企業350300250200150100500ドル/バレル70IOCNOCインディペンデント原油価格(WTI)2002200320042005年6050403020100出所:Schlumberger図10Schlumbergerの売上高推移(2002年=100、左軸)と原油価格(右軸)は石油サービス産業から廉価で技術を調達できたが、そのような技術は例えば、大手国際石油会社以外にも、費用さえ支払えば誰でも利用できることを意味する。 特に近年、世界石油・天然ガス産業の状況は変化してきている。前述のとおり、それまで大手国際石油会社にとって主力の石油・天然ガス生産地域であった米国や北海地域では、1990年代後半には生産ポテンシャルに陰りが見られるようになってきた。他方、原油価格はここ数年で高騰したが、これによって出現してきたのが、いわゆる産油国による資源ナショナリズムである。原油価格の高騰によって産油国(ないしは産油国国営石油会社)は莫大な収入を獲得することになった。このため産油国が強気になって、民間石油会社に対する投資条件を悪化させるといった例が散見されるようになった。一方で、石油需要が急増し、より多くの石油供給源を求めるようになった中国やインドといった国の国営石油会社等が、国外に石油供給源を求めて、産油国への参入を希望するばくだいNOCsこれまでの状況(例)最近の状況(例)産油国国営石油会社産油国国営石油会社権益付与権益付与納税等納税等大手国際石油会社作業発注作業発注技術提供技術提供大手国際石油会社作業発注作業発注技術提供技術提供サービス会社サービス会社OthersSuperMajorsQ4 06Q2 06Q4 05Q2 05Q4 04Q2 04Q4 03Q2 03Q4 022.62.42.22.01.81.61.41.21.0出所:BakerHughes出所:筆者作成図11Baker Hughesの売上高推移(2002年第4四半期=1.0)図12国営石油会社と大手国際石油会社、およびサービス会社の関係の変化(概念図)5石油・天然ガスレビューAナリシスようになった。 このため、従来型の石油・天然ガス資源を保有する産油・ガス国においては、鉱区入札において競争が激烈になり、サイン・ボーナスの高騰や生産された石油等の分配条件が悪化するという状況になっている。 「技術の商品化」は以上のような最近の石油・天然ガス産業に見られる状況にも影響を与えているものと考えられる。 中国等の企業では従来、資機材や人件費等のコストはOECD諸国の石油・天然ガス会社に比較して相対的に低廉であるとの指摘はあったが、技術力の面では、それらの企業よりも一般的には劣ると言われてきた。しかしながら、「技術の商品化」で、必要な技術のかなりの部分は対処できるようになった。このため、技術面で劣る企業であっても、資金面での問題さえ解決すれば、石油・天然ガス探鉱・開発事業の相当部分が可能となってきたという面がある。この意味では、中国等の石油・天然ガス企業は、技術面でのハンデを克服して、さらに相対的に廉価な人件費等を利用すれば、鉱区入札において欧米系石油・天然ガス企業よりも有利な条件で応札することが可能となる。 また産油国においても、原油価格高騰に伴い収入が増大していることから、かつては大手国際石油会社と自国の国営石油会社との共同事業により、大手国際石油会社の技術を利用して実施していた石油・天然ガス探鉱・開発事業について、大手国際石油会社を経由しなくても、直接石油サービス産業から技術を購入すれば、実施が可能な場合も多くなり、この面でも産油国の資源ナショナ表2Schlumbergerの他企業買収の歴史買収の内容備考統合プロジェクト管理(IPM:Integrated Project Management)事業を開始ロシア技術センター設置、SchlumbergerSema売却2008.7 Vol.42 No.46年1952196019621964197119771981198419851987198819911992199519961998200020012002200320042006Forex Rig Company(掘削装置会社)の株式50%を取得Dow ChemicalとDowell Schlumberger(石油生産サービス)を設立(Schlumberger 50%、Dow Chemical 50%)Vector Cable(ケーブル会社)およびDaystrom(計測機器会社)を買収Neptune(掘削企業)を設立(Forex 50%、Languedocienne 50%)Flopetrol(坑井生産テスト会社)買収およびForexの残りの株式50%を取得、Forex Neptune Drilling Company(掘削会社)を設立The Analyst(傾斜掘削および泥水検層会社)を買収Applicon(コンピュータ技術会社)買収SEDCO(掘削装置会社)買収およびDowellの残りの株式50%を取得Merlin(物理探鉱会社)買収およびGECO(物理探鉱会社)の株式50%を取得Neptuneの残りの株式50%を取得GECOの残りの株式50%を取得PRAKLA-SEISMOS(物理探鉱会社)を買収GeoQuest(石油・天然ガス探鉱・開発用ソフトウェア開発)およびSeismograph Service(物理探鉱会社)を買収Intera Technologiesの石油部門(油層ソフトウェア開発およびコンサルティング会社)、AEG meter(計測機器会社)、Eclipseの埋蔵量評価および油層技術部門を買収Oilphase Sampling Services(油層流体サンプリング会社)を買収Camco International(油田サービス会社)を買収GECO-PraklaとWestern Atlas(どちらも物理探鉱会社)によりWesternGecoを設立(Schlumberger70%、Baker Hughes30%)Sema(ITコンサルティング会社)、Phoenix(油田(特に人工採油井)サービス会社)、Sensa(光ファイバーモニタリング会社)を買収A. Comeau and Associates(人工採油井向けサービス会社)を買収VoxelVision(PCベースの視覚化および地震探鉱技術サービス会社)を買収およびPetroAlliance Service Company(ロシア油田サービス会社)の株式を取得Decision Team(石油・ガスソフトウェアおよびコンサルティングサービス会社)、AOA GeoMarine Operations(沖合信号源制御電磁・地磁気調査サービス会社)、CSEM(信号源制御電磁気サービス会社)、MMT(海洋地磁気サービス会社)を買収Baker HughesからWesternGeco株式30%を取得出所:Schlumberger他ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察リズムを補強する方向に働いているものと考えられよう。SchlumbergerやBakerHughesの2002~2005年の売上高を見てみると、大手国際石油会社(IOC)等に対する売上高の伸びに比べて、国営石油会社(NOC)の売上高の伸びが突出しており(図10、図11)、しかもそれは原油価格の上昇とほぼ同じペースとなっているが、これはそれを示す一例と言うことができよう。このことは一方で、大手国際石油会社にとってはビジネスチャンスの減少を意味し、一時的には企業経営上の問題を解決したかに見えた方法が、資源ナショナリズムの進展に伴う投資機会の減少と相俟って、再び経営上の問題となって企業を苦しめるようになってきている、といった皮肉な結果になっている(図12)。 なお、Schlumbergerについて言えば、国営石油会社つなとの繋がりは最近始まったことではない。石油産業労働者に対する待遇改善要求から1938年にメキシコの石油産業が国有化された(これが産油国による史上初めての国あいま有化の成功例と言われている)が、このときのメキシコ国有石油産業を手助けしたのがSchlumbergerであると言われている。つまり同社は、資源ナショナリズムの始まりから産油国と関係していたのである。同社は石油・天然ガス会社と違って油田権益を保有しないことから、国有化された産油国への参入が可能だったわけである。Schlumbergerは、その後さらに多数の企業を買収することで、活動範囲を前述のとおり探鉱・開発プロジェクト全域へとなお一層拡大・強化していった(表2)。現在でもメキシコ国営石油会社Pemexと関係を持ち、同社のIPMプロジェクトチームは、メキシコのブルガス(Burgos)盆地で、少なくとも1,000坑の坑井を掘削しているほか、チコンテペック油田の開発にも携わっていると伝えられる。この他Schlumbergerは、サウジアラビアやロシアで石油関連サービス事業を行っているとされている。4. 技術力による差別化を図る大手国際石油会社、しかし…百万ドルExxonMobilChevronShellTotalBPConocoPhillips1,4001,2001,000800600400200020032004出所:各社年報他より推定200520062007年図13大手国際石油会社の研究開発投資(名目価格)~2007年製薬・バイオテクノロジーソフトウェア・コンピュータサービス調査対象企業平均化学石油・天然ガス資機材・サービス石油・天然ガス生産0246810121416%(注)世界の大手企業1,250社を対象とした調査出所:英国貿易産業省(DTI)TheR&DScoreboard2007年版図14各業界の売り上げに占める研究開発投資の比率7石油・天然ガスレビュー そのような状況のなかで、大手国際石油会社はどのように対応しているのであろうか。 端的に言って、各社はこれまでの路線を修正し始めている。まず、各社とも研究開発費を増額し(図13)、再び自社内での研究開発活動を通じた技術開発に注目するようになってきている。また、他社に対して差別化でき、したがって企業の競争力を維持できる技術を開発することを目指すようになった。さらに大学や研究機関等との共同研究事業を通じて技術を開発することや、たとえ石油サービス産業等から購入してきた技術であっても、そのような技術に何らかの価値を付加(自社なりの技術を追加する等)し、他社との差別化を図るようになってきている。また、プロジェクト推進に際して、企業の技術力を存分に発揮できるような効率的な研究開発体制を構築すべく、社内の情報共有化やコミュニケーション体制の改善等を推進し、大規模で複雑なプロジェクトであっても、自社で利用可能な技術を効率的かつ最大限利用できる体制を目指して努力するようになってきている。ただ、とはいっても、ことはそれほど単純でもない側面もある。 一つには、石油・天然ガス会社は研究開発に関する費用のほか、資機材関連の多額の支出を迫られている、という事情がある。石油・天然ガス上流産業における主Aナリシス<研究開発集約型産業>製薬・バイオテクノロジー全産業平均石油・天然ガス資機材・サービス<資本集約型産業>石油・天然ガス生産61218%%1812600(注)世界の大手企業1,250社を対象とした調査出所:英国貿易産業省(DTI)TheR&DScoreboard2007年版図15各業界の売り上げに占める資本投資と研究開発投資のそれぞれの比率製薬・バイオテクノロジーソフトウェア・コンピュータサービス調査対象企業平均化学石油・天然ガス資機材・サービス石油・天然ガス生産研究開発投資資本投資0510152025%(注)世界の大手企業1,250社を対象とした調査出所:英国貿易産業省(DTI)TheR&DScoreboard2007年版図16各業界の売り上げに占める資本投資と研究開発投資の合計の比率ExxonMobilShellSchlumbergerBaker Hughes要企業の売上高に占める研究開発投資の割合は0.3%と、製薬、ソフトウェア、自動車、化学等の他の主要産業と比較しても圧倒的に低い状況にある(図14)。各種産業には、製薬のように研究開発に重点をおくような産業がある一方で、鉱業、通信、電力およびガスといった資本投資重点型産業、そしてそのどちらでもない産業と大きく分かれ(図15)、石油・天然ガス産業は、後者に属する。研究開発および資本投資の合計の売上高に占める割合となると、全産業平均にかなり近づくことが判明する(図16)。 最近では資機材や人材コストの上昇に伴い資本投資は上昇する傾向にあることもあり、このことが石油・天然かせガス会社にとっては足枷となる可能性があり、資本投資負担が相対的に低い石油サービス産業との間での競争上不利となる恐れがある。ただ、それでも、最近の原油価格高騰に伴う利益増大や、研究開発と資本投資の合計の売り上げに占める割合が、製薬やバイオテクノロジーを依然として下回っていることなどを考慮すると、研究開発費を増加させる余地というのはあるのかもしれない。 もう一つの問題点はより深刻であろう。つまり企業において研究開発を含めた技術力は、一度低下すると、それを再び競争力のある水準にまで引き戻すのは容易ではない、ということである。研究開発体制を再度充実させても、研究が進展し技術力が向上するには時間を要することが多いのである。研究開発の充実具合を評価する基準の一つとしては、特許の取得数の推移を見てみることが挙げられる。かつてExxonMobilやShellといった大手国際石油会社は、1980年には自社での研究開発を通じて取得した石油・天然ガス探鉱・開発分野における特許も相当数あった一方で、Schlumberger等の石油サービス会社のそれは限られた規模であった。しかしその後この面でも石油サービス会社は、急速に状況を改善させ(図17)、現在では特許取得数において、大手国際石油会社を大幅に上回る状況となっている(図18)。大手国際石油会社回するにが自力でこのような劣勢を挽は、相当な努力と支出、そして時間が必要となる恐れがある。 また、石油・天然ガス産業の他の部門同様、研究開発・技術開発分野においても、人材の不足が影響を及ぼしている、といったことが挙げられる。1980年代の石油需要減少と原油価格下落、それに伴う石油会社の業績悪化と経営合理化の実施で、技術者数が減少した他、学生の石ばんかい100120件8060402001980198519901995200020052007年出所:米国特許庁データを基に作成図17各社の特許取得数の推移(米国、上流部門)2008.7 Vol.42 No.48ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察立っても、さまざまな基礎研究に基づく革新的な技術が出現しにくくなる恐れがあり、大手国際石油会社にとって長期的にはこのような問題への対応に迫られる可能性も否定できない。ShellConocoPhillipsChevronBPTotalSchlum-bergerBakerHughes(注)2003年1月1日~2008年5月31日までの特許取得数。出所:米国特許庁データを基に筆者推定図18各社の特許取得数(米国、上流部門)件油・天然ガス業界に対するイメージ悪化に伴い石油工学等の専攻学生数が低迷し、石油・天然ガス産業に学生が流入せず、一方で業界の既存の技術者が高齢化し、退職しつつあることから、業界における技術者数は減少しつつある。このため、大手国際石油会社はインド等非OECD諸国において研究開発センターを開設したり、退職した技術者に職場に残ってもらい、若手への技術移転を円滑にするようにしたりするなどの工夫はしているものの、研究開発や技術開発要員の確保には各社とも苦心していると伝えられる。 さらに、石油・天然ガス会社にとっての研究開発や技術開発の対象の面でも問題はなしとしない。それはややもすると、各社の対象が目の前の事業になるべく直接結びつくものに行きがちとなり、長期的なヴィジョンを持った研究開発・技術開発を目的としたものが少なくなる、といった点である。この場合、日々の事業の改善には役1004003002006005000ExxonMobil5. 中堅石油会社の戦略 一方、北米等の中堅石油会社(いわゆる「インディペンデント」)はどうであろうか。 大手国際石油会社は少ないとはいえ、それなりの研究開発投資を行っており、総合的な技術力を再び養いつつある一方で、産油国等の国営石油会社は、収入が増大したことから、その豊富な資金力により、商品化した技術を購入、一定水準の技術力を事実上獲得している。しかしインディペンデントは、原油価格が高騰したとはいえ、収益では大手国際石油会社には劣り、またこの20年の間に自社での研究開発活動は弱体化に追い込まれていることから、他社と差別化できるような技術の開発は大手国際石油会社に比べると相対的に困難である。インディペンデントの研究開発費は公表されていないところが多いが、特許取得数を見てみると、総じて(Marathonのように幾分かは特許を取得している会社もあるが)わずかにとどまる(図19)ことからも、このような事象を裏づけていると言えよう。さらに、インディペンデントは人材面や資源アクセス等の面でも競争上不利であるように見える。 このような状況下、インディペンデントは小規模な組織であることから、内部の各部門の連携が大手国際石油会社(や一般的に大規模な国営石油会社)に比べて円滑に行われやすいことによMarathon件140120100806040200ExxonMobilShellAnadarkoApacheDevonEnCanaTalisman(注)2003年1月1日~2008年5月31日までの特許取得数。出所:米国特許庁データを基に筆者推定Occidental図19中堅石油会社の特許取得数(米国、上流部門)9石油・天然ガスレビューAナリシス 例えば、Apacheは大手国際石油会社等が手放した、いわゆる成熟化した油田へ事業を集中させ、徹底的に開発するという点に強みを持っている。またOccidentalは増進回収法の利用を得意とする他、一部の中東等の産油国における資源のアクセス方法を持っている。 このようにインディペンデントは大手国際石油会社や国営石油会社による事業進出が浸透していない分野で、簡素な組織により迅速な意思決定と小回りの利く経営、そして自社での経験と得意分野を武器に生き残りを目指していくものと考えられる。り、これを駆使して、社内横断的に技術を最大限かつ迅速に利用することが得意である傾向がある。また、特定の資源(シェール・ガス、タイトサンド・ガス、CBM:コール・ベッド・メタン等)に対して、以前(まだ大手国際石油会社が注目していない時点)からの操業を通じて経験や改善を積み重ねたりするなどしている。さらに、これは必ずしも研究開発や技術開発が直接関係するということではないのかもしれないが、インディペンデントのなかには、大手国際石油会社や国営石油会社の支配力の及びにくいような、ごく狭い範囲における特定の分野に特化した戦略を採用するところもある。6. 今後の展望 石油サービス会社のなかでは、少なくともSchlumbergerはIPMのような統合型サービスに注力していく方針であり、今後もこのようなサービスは中南米、中東、ロシア等で発展していくと予想されているが、それは引き続き産油国国営石油会社が必要に応じて石油サービス会社から技術サービスを提供してもらうことにより、単独で事業を推進するということを意味することから、大手国際石油会社にとっては事業機会が限定される、ということを意味する。 また、今後、非在来型石油・天然ガス資源や液化天然ガス(LNG)といった分野のみならず、二酸化炭素排出抑制、もしくはその利用といった、環境面でも技術力を要求される状況となってきているが、これまで見てきたように、大手国際石油会社は、技術的に差別化を図るといっても、肝心な技術力を競争力のある水準にまで向上させるのも容易なことではない。このような環境のもとで、大手国際石油会社が発展を維持していくには、どのような方策が考えられるであろうか。 一つ挙げるとすれば、上流部門と下流部門を統合した分野等での技術利用に活路を見出す、ということが考えられよう。例えば、非在来型石油資源であるオイルサンドにおいては、その開発・生産方法において、もちろん技術力が必要とされるのであるが、一方で、改質をいかに廉価に実施し、質の良い合成原油を生産できるか、ということが重要となってくる。また、LNG事業においては、液化における技術力が必要なのはもちろんであるが、その他にも、LNGタンカーや再ガス化施設といった、より下流の分野でも技術力が必要である場合もあり、さらに、それに加えてLNG販売のための消費国市場開拓に関するノウハウも要求される。石油サービス会社は、現在のところ上流分野を超えた事業に関する技術力は持ち合わせていないことや、産油国にとっても消費国市場開拓では、大手国際石油会社との競争では絶対的に優位というわけでもない。一方で大手国際石油会社は精製・販売・化学等の分野で事業を行っていくなかで、これらに関する技術を開発してきている。このような複数分野にまたがる事業においては、大手国際石油会社が活動を活発にできる余地というものがあろう。他方、資源ナショナリズムの及びにくい産油国(豪州や米国、カナダ等が挙げられよう)で商業リスクを大規模に負担する(小規模であれば、インディペンデントが石油サービス会社を利用して事業を推進することも可能であるが)ような事業においても、大手国際石油会社の出番はあるだろう。 そして、さらに大胆な議論を試みるとすれば、大手国際石油会社による石油サービス会社の買収、といったことも想定される。これにより手早く先端技術を含めた技術を吸収する、といったことが可能となるかもしれない。これは今後の状況次第であるが、1990年代末から2000年代初頭にかけての大手国際石油会社の大型合併・買収ブームのように、一種のトレンドとなることも考えられる(そのように指摘する業界関係者も見られる)。ただ、ここにおいては幾つか注意を要する点があろう。 一つ目は、現在のように原油価格が高水準の状況では、資産価格が総じて高くなっているという点である。2008.7 Vol.42 No.410ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察石油サービス会社の規模(例えば総資産)は、大手国際石油会社に比べて、かなり小さい(図20)。しかしながら、株式時価総額は、ここ数年上昇傾向であり(図21)、例えばSchlumbergerをいま買収しようとしたと仮定した場合には、その費用は世界の石油会社(民間、国営問わず)の多くにとって自己資本に匹敵するか、それを超過する規模となる(図22、場合によってはさらにプレミアムを積み上げる必要性もあろう)ことから、相当な負担となる恐れがある。したがって少なくともこのような買収を実施するには、特別な事情がない限り、原油価格が下落する等により、株式時価総額が落ち着くのを待ってからにならざるを得ない、ということになろう。 二つ目の問題は、ここにおいても大手国際石油会社と産油国等の国営石油会社が競合する可能性がある、十億ドル300250200150100500BPShellExxonMobilSchlum-berger(注)Rosneft、Gazprom、CNPC、Sinopecは2006年、その他は2007年出所:各社年報他Rosneft GazpromCNPCSinopec図20各社の総資産十億ドル140120100806040200200220032004200520062007 年出所:Schlumberger年報等より推定ということである。すでに中国海洋石油総公司(CNOOC)傘下の石油サービス会社である中海油田服務股?有限公司(COSL:ChinaOilfieldServicesLtd.)がノルウェーの石油サービス会社AwilcoOffshoreの買収を検討するといった報道(2008年5月)も出てきているなど、国営石油会社(ないしはその関係会社)も、欧米系の石油サービス会社には興味を持っていることを思わせる動きもある。したがって、例えば大手国際石油会社が有力な石油サービス会社を買収しようとした場合に、産油国国営石油会社との買収合戦になり、国営石油会社に当該会社を奪われてしまうか、もしくは買収できても高額な金額を支払わなければならず、その後の経営にも影響を及ぼしてしまう、といった可能性が考えられる。 さらに三つ目の問題は、より重要なものであろうが、石油サービス会社を買収しても、技術力の向上に寄与しない可能性がある、というものである。つまりサービス会社を買収できたまではいいが、その後買収したサービス会社の人材が流出してしまい、研究開発力、ないしは技術力を維持できない、というものである。研究開発は多分に研究員の才能と経験、もしくは研究チームの体制等によるところが大きいことから、この部分が機能しないということは、その後の技術力の向上、ないしは維持にとって致命傷となる恐れがある。これは純粋に石Baker HughesHalliburton十億ドル140120100806040200ExxonMobilBPShellSinopec(注)Rosneft、Gazprom、CNPC、Sinopecは2006年、その他は2007年出所:各社年報他GazpromRosneftCNPC図21Schlumberger株式時価総額図22世界主要石油会社の自己資本額11石油・天然ガスレビューAナリシスになって明らかになっている。このように文化の違う企業を買収し、さらにその特長を生かすためには、細心の注意を払うことが要求されるし、それに伴う困難に遭遇する可能性も高いものと言えよう。油サービス会社の買収、という例ではないが、ほぼ同類のものとして挙げられるのは、Chevronの例であろう。同社は2005年にスリムホール掘削技術を持つUnocalと合併したものの、Chevron側はUnocal技術者全員を維持する意向であったが、実際には多くの躇した旨、後Unocal社員がChevronに勤務することを躊ちゅうちょ7. おわりに このように、実際大手国際石油会社を取り巻く環境は厳しい。石油・天然ガス埋蔵量置換率(リプレースメントレシオ:RRR)も近年総じて低迷するようになってきている(図23)。 このようななか、前述のとおり大手国際石油会社は、研究開発費を増大させ、技術の差別化を図るなどの努力を行っているようであるが、実は彼らのなかにも、行動に差が出始めていると受け取れる現象が見られるようになってきている。 彼らのなかでも、目立って積極性を発揮しているように見受けられるのは、Shellである。同社の研究開発費は2007年には前年比で約1.5倍となるなど、大手国際石油会社のなかでは際立った増額となった(図13、P.7参照)。 一方、大手国際石油会社4社の探鉱井掘削数は、2000年以降減少傾向を示していたが、2007年は2002年の水準を上回る程度にまで増加している(図24)。他の石油会社を買収しなければ(そして原油価格高騰に伴う資産価値上昇の環境下、買収による埋蔵量獲得といった方策も活発とは言いがたい状況となっている)、探鉱井を掘削しないということは、すなわち油田を発見できないことになり、埋蔵量を増加させる原動力も得られない、ということになり、その意味では、探鉱井掘削は重要なわけであるが、ただ、すべての大手国際石油会社が探鉱井掘削活動を活発化させているわけではない。ここにおいて探鉱井掘削活動を大幅に増大させているのは、Shellである(図25、同社の年報によると「米国を除いた米州」および「(エジプトを含む)中東もしくは旧ソ連」での探鉱井掘削数が増加しているが、同社はブラジルやエジプトで掘削活動をしているといわれている)。 一方、Shellを除いた大手国際石油会社3社の探鉱井掘削活動は、依然としてそれほど活発化していないことが判明する(図26)。Shellはこの他にも、2008年2月に%14012010080604020石油ガス合計19971998199920002001200220032004200520062007年 (注)ExxonMobil、Chevron、Shell、BP、Total、ConocoPhillipsのRRR。資産買収による埋蔵量増加は除外してある。統計の継続性の観点から最近SECで指導されている年末価格の厳密な適用は考慮されていない。Shellは埋蔵量下方修正の問題で1999年以前は考慮していない。出所:各社年報他坑6005004003002001000米国米国外19971998199920002001200220032004200520062007年(注)ExxonMobil、Chevron、Shell、BPの4社出所:各社年報他図23大手国際石油会社の埋蔵量置換率(RRR)図24大手国際石油会社4社の純探鉱井掘削数2008.7 Vol.42 No.412ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察実施された米国アラスカ州沖合チャクチ(Chukchi)海(1980年代後半、同社は同地域で探鉱活動を実施し、天然ガスの存在を確認していたが、経済的な理由により撤退していた)での鉱区入札の際に、275鉱区と他社よりも圧倒的に多くの鉱区を21億2,000万ドルという額で落札している(表3)。同社はかつて、まだ深海探鉱・開発技術が十分確立されていない1990年代初めまでに、いずれ当該技術が確立されるとの見通しのもと、多数の米国メキシコ湾の深海鉱区を取得したが、これが後に開発可能となったことにより、Shellは当該地域においてMars、Rusa、Brutus等の油田を抱える有数の大生産者になった(表4)、ということもあることから、今回の一連の行動も、将来の生産量維持(ないしは増加)を見据えた戦略のもとに実施されている可能性があり、その点では今後の動向につき注目する必要があろう。 以上、大手国際石油会社を中心として、研究開発の潮流がこれらの会社の操業にどのような影響を与えてきたかを中心に見てきた。回収率や生産量の増大と探鉱・開発コストの低減をもたらす研究開発と技術力の向上は、今後も重要視されていくであろうし、もし大手国際石油会社に比べて規模で劣ることから、研究開発を通じた技術力の向上には限界がある、というのであれば、インディペンデントのように、事業対象地域等を絞り込むことによる経験の蓄積や意思決定の速さといった別の何かを武器にしていくことが、今後しばらくは続くものと予想される産油国による資源ナショナリズムとそれに伴う投資環境の悪化に対処していく重要な方策となっていくものと考えられる。また、それと同時に、技術というのはある日突然、大幅に進展し、探鉱・開発活動等に活用可能となる、といった性質も持っていることから、業界での研究開発や技術の動向には絶えず注意を払い、有用な技術については開発者にならないまでも、迅速に採用できるような姿勢(いわゆる“FastFollower”)でいることも肝要であろうと思われる。坑200150100500米国米国外19971998199920002001200220032004200520062007年坑5004003002001000米国米国外19971998199920002001200220032004200520062007年出所:各社年報他出所:各社年報他図25Shellの純探鉱井掘削数図26ExxonMobil、Chevron、BP 3社の純探鉱井掘削数表3米国アラスカにおける各社の落札結果取得鉱区数*サインボーナス額(合計)応札鉱区数*ShellConocoPhillipsRepsol YPFEniStatoilHydroIona(米)NACRA(NorthAmericanCivilRecoveriesArbitrate)*:複数企業で応札・落札した鉱区はそれぞれにカウント出所:JOGMEC、市原路子「米国:アラスカ極地の探鉱に再び乗り出すシェル」石油・天然ガス資源情報、2008年5月21.2億ドル5.1億ドル0.14億ドル0.09億ドル0.13億ドル61,000ドル400ドル2759893181611302145104753338113石油・天然ガスレビューAナリシス表4米国メキシコ湾における主な生産鉱区鉱区プロジェクト名 主な所有者水深(フィート)生産量(BOE)*MC 807 MC 809 MC 763 Mars Ursa Mars ShellShellShellVK 786 Petronius ChevronTexacoGC 202 Brutus ShellGB 215 Conger Amerada HessMC 127 Horn Mountain VK 915 EB 602 Marlin Nansen BPBPKerr-McGeeMC 899 Crosby ShellEB 643 EB 945 MC 687 GC 200 Boomvang Diana Mensa Troika MC 305 Aconcagua MC 85 King VK 956 Ram-Powell MC 765 Princess GB 426 Auger Kerr-McGeeExxonMobilShellBPTotalBPShellShellShellST 204 Unnamed El Paso*:2002年7月から2004年6月までの累計生産量出所:米国MMS2,9333,8002,9331,7533,3001,5005,4003,2363,6754,2593,6504,5005,2802,6797,1005,0003,2163,6002,86015793,999,26055,773,37834,864,75234,738,26534,180,99532,197,43932,165,64326,234,58823,926,94223,481,23922,375,26022,161,44421,502,13820,185,90019,513,42219,484,24219,423,17718,930,56217,401,75817,124,043【参考文献】1.米国エネルギー省エネルギー情報局(U.S.DepartmentofEnergy/EnergyInformationAdministration)(EIA)各種レポート類2.PetroleumFinanceCompany(PFC),“UpstreamCompetitiveService”における石油会社各社レポートおよび各種レポート3.米国特許庁ホームページ(U.S.PatentandTrademarkOffice)4.英国貿易産業省(U.K.DepartmentofTradeandIndustry),“TheR&DScoreboard”2007年版5.StanleyReed,2008年1月,“THESTEALTHOILGIANT:WhySchlumberger,longahiredguninoil-fieldservices,isbecomingamajorforceandscaringBigOil”,BusinessWeek6.PerryA.Fischer,2008年5月,“NOCsandIOCs:It’stoocomplicatedforsimpleanswers”,WorldOil2008年5月号7.三澤一文,2007年3月,「技術マネジメント入門」,日本経済新聞出版社8.ジョー・ティッド,ジョン・ベサント,キース・パビット,2004年10月,「イノベーションの経営学」,NTT出版9.大手国際石油会社および独立系石油会社、石油サービス会社等各社年報、有価証券報告書類および投資家向け等発表資料2008.7 Vol.42 No.414ホ油・天然ガス産業の研究開発の潮流に対する一考察10.岩間剛一,武石礼司,野神隆之,2006年5月,「座談会欧米メジャーの今後の経営戦略」,ペトロテック2006年5月号11.石油公団企画調査部,2000年6月,「欧米石油企業のアウトソーシング実施状況と効果」,石油・天然ガスレビュー2000年6月号12.石油公団企画調査部,2002年3月,「上流企業のサバイバル」,石油・天然ガスレビュー2002年3月号13.野神隆之,2006年9月,「資源ナショナリズム台頭で深海/非在来型石油・天然ガス開発加速~国際石油会社の上流投資の重点が大きくシフト~」,石油・天然ガスレビュー2006年9月号14.野神隆之,2007年7月,「世界LNG産業動向(LNG産業の過去・現在・未来」,石油・天然ガスレビュー2007年7月号15.市原路子,2008年5月「米国:アラスカ極地の探鉱に再び乗り出すシェル」,JOGMEC石油・天然ガス最新動向執筆者紹介野神 隆之(のがみ たかゆき)早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルベニア大学大学院修士課程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、現在JOGMEC調査部上席エコノミスト(石油・天然ガス市場および産業担当)。趣味は旅行(国内・国外を問わず)。15石油・天然ガスレビュー |
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