オイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり
| レポートID | 1006352 |
|---|---|
| 作成日 | 2008-11-20 01:00:00 +0900 |
| 更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
| 公開フラグ | 1 |
| 媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
| 分野 | 基礎情報 |
| 著者 | |
| 著者直接入力 | 会田 守志 |
| 年度 | 2008 |
| Vol | 42 |
| No | 6 |
| ページ数 | |
| 抽出データ | りょうばくだいまいしんしゅうん駕が斂れ 2007年に発生した米国サブプライム住宅ローン問題は、ほぼ1年後の2008年9月、ついにはウォールストリートの雄リーマンブラザーズを破綻に追いやり、米国金融危機が世界に襲い掛かった。米国経済の世界経済への影響力が依然絶大であり、世界経済の一体化を思い知らされた瞬間でもあった。そのふすると興味深い事象が観察される。第1に新興国の発展とそれに伴う一方で2007年の世界経済を俯資源、食糧への需要の増加が投機資金をも巻き込んで価格高騰を招いたこと。第2に2007年世界貿易における輸入額第1位の座を米国がEUに明け渡し、第3に通貨面でもユーロが米ドルの発行額を初めて上回った年ともなったこと。そして第4に本稿のメインテーマであるオイルマネーの急増と潮流の変化である。 国際資本移動において、欧州とりわけ英国から日本への証券投資は年々増加傾向にある一方、米国向けは2007年下期に激減しているのだ。それらはいずれも世界経済の多極化を鮮明にする事象として位置づけられよう。2007年、2008年の世界経済のうねりのなかにあって、背後にはイランを中心とする地政学的リスクを背負いながらも、オイルマネーを背景に中東のGCC諸国(湾岸協力会議加盟諸国:サウジアラビア、UAE、カタール、オマーン、バーレーン、クウェート)が新たな極としてその存在感を高めつつあり、それは言うまでもなくビジネスチャンスの拡大を意味するものである。 経済面では、GCC諸国の2007年の経常収支黒字額は約1,900億ドルで、中国の約3,607億ドル、日本の2,128億ドルに次ぐ規模となった*1。さらに2007年のGDPは8,035億ドルとなり、中東北アフリした*2。このように、GCCカ地域で見たGDPは1兆190億ドルに達し、ASEAN10カ国のそれを凌諸国は広く中東、アフリカ、ロシア、CIS、南アジア地域の輸入需要に焦点をあてた輸出ハブとして、そしてポスト中国・ベトナムの直接投資先として戦略的重要性が注目を浴びている。外交面でも2008年5月、カタール・ドーハにおいて危機的状況にあったレバノンにおける与野党の合意を促し、ヒズボラの挙国一致内閣を誕生させるのに大きな役割を果たしたことは記憶に新しい。 そもそもGCCは1981年、イラン革命の波及を阻止するといった政治的意図に基づき結成されたが、その後は経済連携に軸足を移していく。2003年には関税同盟、そして制度面の整備は途上にあるものの、2008年1月に市場統合が実施され域内の資本・労働の移動が自由化された。通貨統合については、収基準*3の達成問題がある他、各国の思惑も完全には一致していないようであるが、同年9月GCC中銀総裁会合および蔵相会議で、2010年にGCC中銀の前身となる機構(マネタリーカウンシル)を設立することで合意している(ただしオマーンは2010年以降、遅れて加盟)。GCC諸国が新たな地域統合のモデルとなり、その統一通貨は将来重要通貨の一翼を担うと見る向きも多い。大な資金を手元 GCC諸国経済勃興の背景には、オイルマネーがあることは周知のとおりである。莫進している。それにGCC諸国は「産業多角化」と「都市開発」をベースに脱石油を目指した国づくりに邁は端的に言ってオイルマネーを次世代のために「マネーとして価値を残すための資金運用」と「実体経済に変える投資」のリンケージによって織り成されていると言える。前者については、今回の世界的金融ん瞰かアナリシス日本政策金融公庫 国際協力銀行(JBIC)ドバイ駐在員事務所首席駐在員会田 守志オイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくりはじめに*1:経済産業省経済局調査室「主要経済指標」およびWorld Bank World Development Indicators Database参照。*2:国際通貨基金(IMF)World Economic Outlook参照。*3:通貨統合収斂基準とは公的債務残高がGDPの60%以内、財政赤字がGDPの3%以内、インフレ率が6カ国加重平均+2%以内(上限8.91%)、預金金利が最低3カ国平均+2%以内(上限4.4%)、外貨準備が輸入額の4カ月以上、を指す。なお、カタール、UAEのみのインフレ率がそれぞれ13.76%、11.1%で未達成。51石油・天然ガスレビューAナリシス危機の影響を見定めるにはまだ時間を要するが、後者については、新たな国づくりという目的を達成するためにGCC諸国はパートナーをさまざまな分野で求めている。そのパートナーとして、日本への熱い期待が寄せられている。そして、その期待を形成する心情として現場に身を置く自分が感じるのは、咤激励で日本に対する信頼とある種の尊敬、そして場合によっては自信を失いかけている日本への叱ある。 GCC諸国の国づくりの実態を現場の目線から追いかけながら、オイルマネーの潮流とその変化、および国づくりの現状を紹介し、日本の取り組む戦略について議論したい。しった第1節年時点の総残高を約1兆6,000億ドルとしている。2007年について各国の統計から推計したところでは、1年間で2,527億ドルが積み増されたことになる。(1)2002~2006年:オイルマネーの潮流 実際の資金フローの追跡は難しい。GCC諸国の2002年~2006年の5年間のオイルマネーの行方を追うと、直接の米国証券投資は1,782億ドル、欧州の銀行預金増が353億ドル、M&Aが448億ドル。ここまではデータで捕可能だが、残り2,831億ドルは捕捉できない(ミッシングオイルマネー*4)。米国財務省統計で見ると、同時期の米国債の保有残高に関しては、日本が2004年以捉そほく3,0002,5002,0001,5001,000500010億ドルOthersCaribBrazilOil ExportersUKChinaJapan20012002200320042005200620072008年5月出所:米国財務省統計図1米国債国別保有の残高推移ほう芽が 莫大なオイルマネーを最初にGCC諸国が手にしたのは、1973年代から1980年初頭にかけての第1次、第2次オイルブーム(日本ではオイルショック)のころである。この時期のオイルマネーの大半は欧米の金融機関への預金や米国債に投資されたり、自国民の不満解消のためのばらまき行政に用いられたりした。その後の原油価格下落に伴い財政赤字の原因になったとの批判的見方には大きな異論はなく、その反省がオイルマネーを国づくりに生かさねばという固い「意志」形成に直結しているといえるだろう。 ただし、現在のドバイの発展の萌はそのときに生まれている。ドバイ発展の基礎となったジュベル・アリ港(現在コンテナ取扱量世界7位)は1976年から建設が始められ、1985年にジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)を設立する基盤となった。当時JAFZを担当していたルブナ・カーシミ現外国大臣は、当時JAFZが成功すると考えていた人はほとんどいなかった、と当時を振り返る。ドバイ空港は1980年代に大幅な改修を行い、貨物ターミナルを建設。1985年にはエミレーツ航空を設立、アルミニウム精錬会社のドゥバル社は1975年の設立である。ドバイの先見性の証しであろう。 本題に入るが、今回のオイルマネーについては、大方の分析者に合わせて原油輸出収入から輸入を引いた額とすることとし、対象はGCC諸国に絞ることにする。 IIF(The Institute of International Finance , Inc.:国際金融機関)の試算によれば、2002年からの5年間のGCC諸国のオイルマネーは、累計5,423億ドル、2006*4:2006年、BIS(国際決済銀行)は、“missing oil money”と題するリポートを出し、過去5年のOPECのオイルマネーを資本受け入れ国側のデータと比較し、①オフショア取引がデータに含まれていない、②産油国間の投資が活発化している、③情報開示義務の曖昧(あいまい)なヘッジファンド等に流れている、ことから捕捉不能なオイルマネーが存在すると指摘している。2008.11 Vol.42 No.652ENA域内投資(600億ドル)アジア向け投資(600億ドル)オイルマネー(5,423億ドル)GCC原油収入(1.5兆ドル)輸入支払い等(1兆ドル)米国欧州英国億ドル(353金銀行預)米国証券投資(1,782億ドル)M&A(448億ドル)石油先物市場オフショアヘッジファンドカリブ捕捉可能な資金(2,592億ドル)捕捉不能な資金(2,831億ドル)出所:IIF他よりJBIC作成図2GCC諸国オイルマネーの径路(2002~2006年)オイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり降その残高を減少させているのに対し、中国、英国、産油国、カリブ諸国の残高が増えているのが分かる。全体の残高が2001年12月~2006年12月の間で102%の伸びとなっているのに対し、中国が405%、英国は106%、産油国は135%、カリブは162%と存在感を増している(図1)。中国の米国向け証券投資の増加の背景には1兆8,000億ドルに上る外貨準備があるが、英国、カリブはどうか。少なくとも英国についてはGCC諸国からの大量の預金流入を確認することができる。GCC諸国のオイルマネーの存在は英国を通じて、米国に流れていた。 カリブについても同様の推測が妥当であろう。ちなみに、日本は2001年12月~2006年12月の伸びが96%と全体の伸び率の平均より低く、ここ数年は残高そのものも減少に向かっているが、それでも、米国にとって最大の債権国であることに変わりはない。GCC諸国を含む中東マネーは、2001年に発生した9.11(米国同時多発テロ)以降、いったんは米国から引き揚げたと言われるが、その後もマクロで見れば、結局、中国や中東といった経常収支黒字国が米国の経常収支赤字をファイナンスしており、米国が低金利を維持し、景気底割れを凌いできた背景もここにある。 中国はともかく、なぜ、英国やカリブが増えたのか。考えられるのは、オイルマネーがまず欧州やオフショアしのセンターに入り、英国経由で米国の証券市場で運用されたこと。もう一つは、タックス・ヘイブン(租税回避地)であるカリブ諸国にあるヘッジファンド等を経由して米国に投資された可能性がある。一方、オイルマネーの域内還流も活発化している。IIFは、過去5年で中東・北アフリカ地域に600億ドルが投資されたと推計している。例えば、UAEの統計では同期間の直接投資流入は413億ドル。この中には、湾岸産油国からドバイの不動産等に投資された資金も相当あると見られる。(2)2007年後半、オイルマネーの潮流に変化 原油価格が目立って上昇を始めた2002年から2006年に区切って説明をしたのには理由がある。2007年中にその潮目に変化が見て取れるからである。2007年の平均油価は72.4ドル/バレルと史上最高値をつけたことから、GCC諸国だけで、1年間に直前5年間のオイルマネーの約半分にあたる2,527億ドルものオイルマネーを新たに生み出した。これにより、2007年末のGCC諸国のオイルマネーの残高は、その運用益も含めると約2兆ドル*5になる。 Bank of Englandの統計によれば、2007年末にはGCC諸国からの預け入れ金が1,846億ドルに達しており、2007年1年間で約457億ドルの預金が新たに英国に流れていることが分かる。また、米財務省データより、こ*5:今回の金融危機により、どの程度の影響が出たか判明するには時間を要する。53石油・天然ガスレビューフ年のGCC諸国からの米国証券投資は366億ドル、また、各種報道の足し上げからM&Aに利用された金額は684億ドルという数字を得ることができる。こうした総額1,507億ドルは捕捉可能なオイルマネーであり、残余の1,020億ドルは捕捉不能なミッシングオイルマネーである。 ここで、捕捉可能なオイルマネーの行方について若干の分析を加えると、直前5年間の英国銀行口座への資金流入は捕捉可能なオイルマネーの13.7%であったのに対し、2007年では30.3%、同様に米国証券投資は69%→24.3%、また、M&Aは17.3%→45.4%となっている。米国証券投資の額自体は、366億ドルと1年あたりの金額ベースでは、直前5年間の1年平均356億ドルとほぼ不変だが、全体に占める割合は大きく低下しており、増加した分のオイルマネーは、英国銀行口座への資金流入とM&Aに形を変えていることが分かる。 2007年の英国から米国への証券投資額(フロー)は、1年間で6,567億ドルと、全体の1兆8,637億ドルの約3分アナリシスの1を占め、依然ビッグプレーヤーである。しかし、6,567億ドルのうち、2007年上期だけでその投資額は5,944億ドルにも上る一方、下期は623億ドルにとどまった。2007年後半から英国経由の米国証券投資には大きなブレーキがかかったことが統計上からも明確になった。さらに、ユーロ圏で見た2006年の米国向け資本純輸出額は1,896億ドルであったが、2007年にはマイナス535億ドル、すなわち投資資金の引き揚げが起こっている*6。 同時期に、英国から日本への証券投資額がネットで2,093億ドル上昇。日本への証券投資額のネット増2,492億ドルの約8割は英国経由ということである。2007年上期には800億ドルであったものが、下期には1,293億ドルとなっており、約500億ドルもの増加が見られる点が注目に値する。9.15以降金融危機が表面化した2008年のデータについては、得られ次第十分な分析がなされることが期待される。第2節 第1節ではオイルマネーを国際的な資本移動に焦点をあてて潮流を追った。一方で、国づくりに直接、間接に寄与することを意図する戦略投資は当然国内投資が中心になるが、同時にM&A、海外直接投資に表れる。その観点から2007年から2008年にかけて急速にSWF(Sovereign Wealth Fund=富国ファンド)の存在感が注目され、その戦略性が話題を呼んでいる。国づくりという意志を持ち始めたオイルマネーがどこに向かっているのか。夢を実現するヴィークル(Vehicle)として活発に動き始めた広義のSWFについて最近の動きも含めて現状を紹介し、マネーの世界から実体経済を立ち上げていく動きをさまざまな角度から概観する。(1)GCC諸国からの対外直接投資、過去最高へ UNCTAD(国連貿易開発会議)が2008年9月25日に発表した世界各国の直接投資(FDI)*7に関する最新の報告書によると、2007年のGCC諸国からの直接投資額は410億ドルと過去最高額を記録した。そしてGCCからの直接投資額ではクウェートが142億ドルで最大、次いでサウジアラビアの131億ドルであった。そのなかでUAEに関しては、2006年の109億ドルから2007年の66億ドルへとその投資額を減らしている。統計には出てこないが、国内向けの投資を増加させていることが推測される。GCC諸国から最大の投資先は依然米国であるが、アジアとりわけ中国、インド向けの投資を伸ばしている。(2)産業多角化と若年失業問題 GCC諸国の空前の好景気は、人口の急増によって支えられている。GCC諸国の人口増加を考える際、3グループに大別して考える必要がある。第1にGCC諸国の国籍を持つ自国民、第2に欧米、日本人など先進国を中心とする外国人ビジネスマン、第3にインド、パキスタン、中国といった低所得国からの外国人出稼ぎ労働者である。 自国民の増加とはすなわち、若年層の増加に他ならな*6:米国商務省US International Transaction。*7:FDIとは外国企業の株式の取得において、株式所有比率が10%以上となるものを意味する。2008.11 Vol.42 No.654Iイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり75歳?75歳?60?74歳60?74歳45?59歳45?59歳マニゼーション(オマーン人化)といった従業員の自国民化を進めることに注力する他、産業の多角化を図っている。 ただし、産業多角化を進めるには自国の技術だけでは不十分であることから、外国企業を活用し産業多角化を進め自国民の雇用機会創出につなげたいというのが政府の考えであり、それがGCC諸国への直接投資の増加という形で表れている。30?44歳30?44歳15?29歳15?29歳0?14歳0?14歳ゅうはん疇ち(3)SWF夢を実現するヴィークル 数あるソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)のなかでも、中東のSWFの存在は群を抜いて大きい。GCC諸国のSWFの運用資産は、原油価格高騰とともに急速に拡大し約1兆7,000億ドルに達すると推計されている。第1節で述べたとおり、現在のオイルマネー残高も約2兆ドルと推計されていることから、そのほとんどをSWFが運用していることが分かる。 古くから活動を行っているクウェートのKIAは推計資産規模1,500億~2,500億ドル、アブダビのADIAの推計資産規模は8,750億ドルであり、70名のファンドマネージャーを抱え世界の株式、債券等に投資している。サウジアラビアの中央銀行SAMAは、3,200億ドルを運用するSWFとしての顔も持つ。こうしたソブリンステータスを持つSWFがポートフォリオ型の安全確実な投資を行うのに対し、ここ数年、戦略的な意志を持つSWFの動きが目立っており、UAEアブダビ首長国のムバダラ開発やドバイのSWF、カタールQPI、サウジアラビアのSABIC(基礎産業公社)、そしてサウジアラビアに新設されるSWF等が広い意味ではその範にあると見てよい。 ドバイのDP World社が英国の港湾会社P&Oを買収しようとした際に、同港湾会社が米国の港湾資産を持っていたため米国議会に反対されたことは記憶に新しいが(2007年)、同年にサウジアラビアのSABICはGEのプラスチック部門を丸ごと116億ドルで買収。アブダビのIPIC(国際石油投資公社)は、コスモ石油の株式20%を取得し、筆頭株主となった。 アブダビのムバダラは欧米のハイテク技術を持つ企業や研究機関への投資を進めている。特に、エネルギー、航空・宇宙、医療、インフラ分野に注力している。 ムバダラはカタールからのガスパイプラインプロジェクトを担うドルフィン・エナジーの株式51%を取得し、UAEへのガス供給を行っている。また、UAE以外の中02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00016,000千人出所:米国財務省統計図3GCC諸国における人口ピラミッド、、、、い。GCC諸国における人口ピラミッドは図3のとおりとなっており、30歳未満の人口が63.3%を占めている。 GCC諸国での過去10年間のGCC諸国自国民の増加率は、62%と高い。自国民の増加(=自国民若年層の増加)を背景に、失業率も9.2%と好景気の地域にしては高水準である。失業率算出の際の分母は総人口であるから外国人も含まれるが、分子はどうであろうか。GCC諸国も付きででの外国人のビザ(査証)発給は、雇用機会とひあり、退職時には国内転職を除き、雇用者が責任をもって雇用した外国人を出身国に帰国させる義務を負っている。このように外国人は失業しながら国内にとどまることができないシステムになっていることから、GCC諸国に居住する外国人の失業率はゼロ、すなわち、失業率の分子にあたる失業者はすべて自国民と言え、自国民に占める失業者の割合を推計すれば実に13.6%にもなることが分かる。 世襲制の絶対君主制をとるGCC諸国では、体制維持のため、自国民の満足を持続させることに政策の重きが置かれている。実際、ひと時代昔のサウジアラビアでは教育、医療、電気・水、通信などのさまざまな行政・公共サービスを無料ないしは安い料金で提供するという「ばらまき」によって自国民の体制への不満因子を取り除いていた。政府丸抱えで国民を食べさせていたわけだが、こうした政策が、1986年以降の原油価格低迷期には財政を圧迫する原因になった。 2002年以降油価が高騰し財政は黒字に転じるものの、自国民の若年齢化が進み、自国民の失業率が大きくなるなか、政府は本腰を入れて自国民の雇用機会の創出に取りかかっている。サウダイゼーション(サウジ人化)やオ55石油・天然ガスレビューAナリシス表1SWFによる近年の主な企業買収・提携等の事例年2002200520072008買収会社SABICムバダラ開発公社DP WorldSABICIstishmarDubai Aerospace EnterpriseADIAIPICDICTAQAQIAKIAADICムバダラ開発公社TAQA国サウジUAEUAEサウジUAEUAEUAEUAEUAEUAEカタールクウェートUAEUAEUAE被買収会社DSM(オランダの石油化学会社)フェラーリへの5%出資P&O(英国の港湾会社)GEのプラスチック部門Barney's NY(米国の衣料専門店)米カーライル保有の複数の航空機関連企業Citibankへの4.9%出資コスモ石油への20%出資Sonyへの出資(5%未満)Prime West Energy Trust of Calgary(カナダの石油会社)クレディ・スイスへの出資メリルリンチ・シティバンクへの出資NYクライスラービルを買収スイスのSRテクニクスへの出資シェル・エクソンモービル所有の北海石油鉱区の権益・関連施設を買収買収金額22.5億ユーロ1.14億ユーロ34億英ポンド116億米ドル9.4億米ドル19億米ドル75億米ドル7.8億米ドル15億米ドル51億米ドル30億米ドル50億米ドル8億米ドル13億米ドル不明出所:各種報道よりJBIC作成表2主なSWF一覧国名運用機関設立機関の目的、運用原資運用残高(推計)運用方針、投資先、利回り等(各種ヒアリング情報等より)アブダビAbu Dhabi Investment Authority (ADIA)1976年2002年1984年アブダビアブダビアブダビドバイMubadala Development CompanyInternational Petroleum Investment Company(IPIC)Abu Dhabi Investment Council(ADIC)Dubai International Capital(DIC)・将来的な石油収入減少に備えた余剰資金の運用・国営石油公社(ADNOC)が石油収入の55%を国庫納付。そのうち70%を政府がADIAに運用委託・政府歳入の赤字を補填・原油を財源とし、世界規模での戦略投資および提携を通し、アブダビ首長国に直結する経済発展と人材開発の推進・自国産原油から派生する石油産業のバリューチェーン構築が目的8,750億ドル125億ドル・中長期的な安定運用が原則だが、ポートフォリオにより積極的運用も・株:50~60%、債券:20~25%、不動産:5~8%、PE:5~8%、オルタナティブ:5~10%・ターゲット利回り:インデックス+1%・エネルギー、不動産、ハイテク関連、特に航空・宇宙や代替エネルギー分野に関心を持ち、同分野の株式取得非公開非公開・アジアを中心としたアブダビ首長国外の石油・石油化学分野に投資。主にアジアの石油精製会社に資本参加することで間接的にアブダビ原油の安定した供給先を確保・イスラム金融に特化したCrescent Bankの設立が発表されているが、それ以降の投資活動については非公開2006年・ADIAから分離独立し国内およびGCC域内への投資を主眼に設立。設立時にADIA保有の首長国内資産の一部を継承2004年 ・ドバイ政府拠出金の運用100億ドル・非上場株式中心の積極的運用サウジSaudi Arabia Monetary Agency 1952年クウェートKuwait Investment Authority(KIA)1953年・中央銀行で、かつ国家資産運用機関。・アラムコが、石油収入のうちロイヤルティー、税金(85%)、配当金を国庫納付。政府は財政黒字分をSAMAに運用委託・他の政府機関(年金基金、開発基金等)もSAMAに運用委託・将来の石油収入減少に備えた資金の運用・歳入の10%および財政黒字の一部を政府・歳入の大半は国営石油公社(KPC)からがKIAに運用委託の石油収入・中長期的な安定運用が特徴・対外証券:56%、国内証券:33%、外国預金等:7%・ドルペッグであるサウジ・リアルの通貨価値安定、ドル資産保全の観点から、米国債保有が多いとも・米欧アジア株式、債券、アラブ株式、不動産、ヘッジファンド等・過去10年の運用利回り実績:9.2%3,200億ドル1,500億~2,500億ドルカタールQatar Investment Authority(QIA)2006年・財政余剰資金の運用・歳入の大半は石油・ガス収入。QP、カタガス、ラスガスはロイヤルティー、配当として収入のほとんどを国庫納付400億ドル・世界各国の企業株式・中国、インド、マレーシア、シンガポールなどアジアでの投資も積極的出所:各種報道よりJBIC作成2008.11 Vol.42 No.656Iイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり東諸国での独立発電所および造水・発電プロジェクや地域冷房、廃水処理事業にも出資している。さらにムバダラの子会社であるアブダビ・フューチャー・エナジー・カンパニー(ADFEC)は、再生可能エネルギーの開発を促進する「マスダル・イニシアチブ」を推進しており、この分野でも世界エネルギー市場におけるアブダビのシェアを高めたい意向だ。資源保有国UAEが、将来の石油枯渇後の社会を見据え、持続可能エネルギーの活用に取り組んでいるという点で世界中から注目を集めている。 航空・宇宙分野では、2006年に航空機メーカーピアジオ・エアロの株式35%を取得。2008年7月には欧州航空防衛最大手EADSとの提携でエアバスの航空機パーツをUAEで製造することを決定。また同月、ロールスロイス社との間でエンジンメンテナンスを行うJVを設立している。医療分野では、最先端技術を持つ外国医療研究機関と提携し、アブダビへの病院の誘致を進めている。わが国に対しても同年2月、神戸の最先端医療機関へ100億円規模の投資を決めているが、これも、日本の医療技術を吸収して将来的に自国の医療技術の向上に貢献すると判断したためと言える。 豊富な資金力を持つときに、産業多角化に必要な経営資源を手にしようというGCC諸国の狙いがうかがえる(表1)。 こうしたSWFは、米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機以降、有力な資金の出し手としての役割が期待され、ADIAによるシティグループへの出資など、自己資本増強に迫られる欧米金融機関にも多くの資金を注入した。一方、2008年9月15日以降の米国金融危機に対する中東SWFの動きは9月末時点では極めて静かである。この点、昨年とは対照的である。なぜドバイがいち早く発展してきたのだろうか。石油資源が潤沢でないためドバイは、石油収入に頼らない経済運営を志向せざるを得ないことが他GCC諸国との決定的相違点であった。冒頭で触れたように、1970年代から明確な脱石油ビジョンを打ち立てて実施してきたものであって、ここ数年のことでは決してない。 そのビジョンは、「モノ」(物流センター)、「カネ」(金融センター)、「ヒト」(観光、医療、教育センター)、「情報」(メディアセンター)の四つがキーワードとして具現化されつつある。2008年10月現在、都市開発はとどまるところを知らない状況が続いているが、特に不動産ブームについては調整局面がいつ起こるかに関心が集まっているなど留意点も多いことを特記する。 中東地域に伝播するドバイモデルは、フリーゾーンをベースとしている。1985年に設立されたジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)では、外国企業の100%出資や外国人労働者雇用の自由を保障することにより外国企業の誘致に成功し、2008年8月現在で約6,000社が進出、中東最大の企業集積地となった。ドバイの成功事例を受け、サウジアラビアのKing Abdullah Economic City(1,200億ドル規模)、クウェートはSilk City(860億ドル規模)、などの経済特区の創設が相次いでいる。 また、長年にわたりバーレーンが域内の国際金融センターとしての地位を維持してきたものの、近年ドバイ国際金融センター(DIFC)がその地位を逆転させかねない状況となっている。他のGCC諸国ではカタール金融センター、そして域内最大国であるサウジアラビアもキング・アブドゥラ金融地区を創設し、金融業の育成を目指している。2010年を目標としてGCC通貨統合の調整が進むなか、砂漠の金融拠点競合が今後ますます加速されるだろう。(5)水・電力は国づくりに不可欠な社会基盤 産業多角化と都市開発を同時に進めるGCC諸国にとって、不可欠な社会基盤は水・電力である。GCC各国は2015年までに少なくとも2007年の約2倍の水・電力需要が生じる見通し*8であり、あらゆる手を尽くして確保する方向に向かっている。 第1の発電燃料はその効率性や環境への配慮から天然ガスである。しかし世界第3位の埋蔵量を持つカタールを除くすべてのGCC諸国で、その天然ガスが不足している。そのため、例えばUAEでは前述のとおり、ムバ(4)都市開発 ドバイモデル 都市国家の歴史を遡ると、紀元前4000年、古代エジプトで歴史上初の都市国家郡「ノモス」が誕生、やがてギリシャの都市国家「ポリス」を経て、ローマ帝国へ変遷していった。アラブ発で始まった都市開発の近隣諸国への伝という世界史が、いま再びUAEドバイを起点にして起こっている。現在、GCC諸国ではドバイをモデルとした巨額の都市開発プロジェクトが進行中である。 GCC諸国には似たような首長国や都市がありながら、播ぱさかのぼでん*8:UAEの国営通信社WAMによると、GCC諸国では電力需要が毎年8%ずつ増加しており、今後10年間で電力分野に1,200億ドルの投資が見込まれている。57石油・天然ガスレビューAナリシス長国で輸入石炭による発電が検討されているのである。 喫緊の発電用燃料の確保という差し迫った危機が産油国でありながら原子力と再生可能エネルギーの開発に注力するという事態となっているのだ。しん摯し(6)教育への進出 GCC諸国は石油依存から脱却した国づくりのため、教育に力を入れているのは周知のとおりである。既述のとおり、GCC諸国では30歳以下の若年層が人口の約3分の2を占めているため教育の重要度が高い。しかし、中等教育就学率が80%を超えているのはバーレーン、カタールのみでサウジアラビアはGCC諸国では最低の53%となっている*9。これまでのGCC諸国の教育では科学、数学、英語といった実学的科目よりも宗教教育に焦点が置かれていたため、自国民に技術や資格、能力が身につかず、就職後に役立つ教育は十分に進展してこなかった。 カタールでは、中東で国際的高等教育を受けられるようにする狙いで「Education City」と呼ばれる学園都市を建設し、積極的に国内とGCC諸国の学生を受け入れている。広大な高級キャンパスには2億5,000万ドルが費やされ、科学センターやジョージタウン大学、カーネギーメロン大学など欧米の著名大学を学科・学部単位で誘致している。安倍首相(当時)のカタール訪問時には、両国とも教育分野における2国間協力の重要性を強調し、カタール側は日本式教育を導入するにあたり、日本の真な協力を期待する旨表明した。このように、海外から著名教育機関を誘致する動きが他のGCC諸国でも広がっダラを親会社とするドルフィンパイプラインを通じてカタールから発電用のガスを輸入している。原油を燃料ではなく輸出品として、さらには高付加価値な石油化学製品などの原料として利用したいと考えるクウェート、サウジアラビア、UAEは、発電燃料としてのガスの供給をカタールに頼りたいところ。しかし、肝心のカタールでは、ガスを高付加価値製品として売るために、今後は新たにガスの輸出をしないとするモラトリアムをアッティーア副首相兼エネルギー工業大臣が宣言、2012年までは新規のプロジェクトは動き出しそうもない。 発電燃料の代替エネルギーとして期待されているのは、イランのガス、原子力エネルギー、再生可能エネルギーである。GCC諸国は、昨年12月にイランのアフマディネジャド大統領をGCCサミットに招待したり、メッカ巡礼に招待したりするなど、米国が反イラン政策を進めるのをにらんでイランとの関係には配慮を示している。 こうした背景には、イランのガスへの期待が見え隠れしている。また、原子力では、2008年1月のブッシュ米大統領訪問、仏サルコジ大統領訪問を経て、米国、フランスなどと原子力エネルギー利用に関する覚書を調印した(表3)。その他、太陽熱や太陽光による発電プロジェクトの計画も精力的に推進されており、2008年1月にアブダビで「世界エネルギーサミット」を開催。5月には太陽電池工場建設に史上最大となる20億ドルを拠出することも発表した。 また代替燃料関連では、今年に入り新たな動きがある。それは石炭火力発電。オマーンおよびUAEの複数の首表3原子力への取り組み国名UAEバーレーン仏米露その他・原子力開発協定に調印・仏のTotalとSuez energy、Arevaの3社が、UAEで初の原子力発電所の建設・運営を提案・民生用原子力開発の協力協定に調印・原子力開発協定について協議中【英国】民生用原子力開発の協力協定に調印【他】ドイツ、中国、日本、韓国が原子力開発協定について協議中・民生用原子力開発の協力協定調印サウジ・民生用原子力開発の協力 を表明・民生用原子力開発の協力協定調印・民生用原子力開発の協力協定に調印・発電・原子力に関する契約に署名・民生用原子力開発の協力協定調印予定カタール【日本】安倍首相(当時)のカタール訪問時、カタール側が日本への天然ガス輸出増加の見返りとして日本に民生用原子力開発の技術支援を要請出所:各種報道よりJBIC作成*9:UNESCO世界子供白書2006参照。*10:吉田悦章「イスラム金融入門」。2008.11 Vol.42 No.658トいる。このようにシャリア(イスラム法)に照らした適格性を重視するために独自のチェック機能が整備されつつある、と言える。 近年、イスラム金融は、主な基本スキームを組み合わせたり、発展させることにより新たな金融商品を生み出しているが、いずれもシャリアに抵触しないように編み出された商品である。 国によって解釈や自由度は違うものの、根本に実体を伴わない取引は「否」と定めたシャリアが存在するため、イスラム金融機関によるマネーゲームの展開は考えにくい。これまで世界金融の覇権を握ってきたコンベンショナルな金融が実体のない膨れ上がったマネーを動かすに至り、原油や鉱物資源、食糧の市場価格の変動を増幅し、実体経済に影響を及ぼしているが、イスラム金融の台頭はそのアンチテーゼであると言えよう。(8)オイルをソイルへ、食糧確保で一石三鳥 GCC諸国が海外農地の確保や食糧生産者への投資など食糧確保に乗り出した。2008年6月、UAEアブダビ首長国の政府系ファンドであるアブダビ開発ファンド(ADFD)がスーダンで7万エーカー(約283km2:秋田県大潟村の1.65倍)の農地を開発する大型プロジェクトへの出資を決定、人々の耳目を集めたが、それはほんの一例に過ぎない。オイルをソイル(土地)に転換する動きが注目されている。 UAEの食糧全体の輸入依存度は 85%。コメの輸入依存度は100%である。UAEのコメ輸入先はインド、パキスタンで全体の91%を占める。しかし、世界的食糧不足は生産国にさえ襲いかかり、食糧に絡むナショナリしようとしている。中国、インド、パキスタズムが蔓ン、他主要な穀物輸出国は昨年第4四半期以降続々と輸出規制に乗り出した。と価格の高騰は、UAE政府の危機意 食糧需給の逼識を高め、同時に企業家に新たな投資機会をもたらした。UAE政府およびドバイの民間投資会社Abraaj Capitalはパキスタンの農業セクターに対し 5億ドルの投資を実施、合計80万エーカーの農地を確保したと伝えられる。同社は長期にわたる安価な穀物を確保すべくUAE政府と協調しパキスタンへの投資を進める考えだ。また、パキスタンの酪農セクターおよび付加価値のある酪農製品に投資すると発表。一方パキスタン政府は、外国人が100%土地所有権を保持できる農業指定地区を設定し、迫ぱ延えひっまんんくせっさている。例えばUAEでは、ロンドンビジネススクール、ソルボンヌ大学といった欧米の教育機関が進出していることに加えわが国からも、立命館、慶應、灘高等が同様の動きを見せている。 こうした動きは、「事業」として収益が見込めるだけでたく磋琢なく、世界中から優秀な学生を呼び寄せることで切が期待できること、そしてそれらの教育機関で学んだ外国人が地域との関係を生かし、GCC経済に貢献すること、など教育の誘致に伴う利益は大きい。磨ま(7)イスラム金融 従来型金融へのアンチテーゼ イスラム金融の成長は著しい。近代イスラム金融機関としては、1975年にドバイでドバイ・イスラム銀行(DIB)が設立されたのが始まりとされるが、その後、今日までの約30年間でおよそ300機関以上が75カ国に広がっている。主にバーレーン、ドバイをハブとしたGCC諸国やマレーシアをハブとした東南アジアを中心に成長しているが、ヨーロッパ等へも広がっており、全イスラム金融資産は総額1兆ドルに達した*10。 この、イスラム金融の急速な成長の背景には、近年の原油高を背景としたオイルマネーの影響がある。オイルマネーの資産運用のみならず、原油高景気に沸く湾岸諸国でのプロジェクトの資金調達において、イスラム金融が活用され活躍の場を広げている。 GCC諸国のなかでも、サウジアラビアはプロジェクトへの資金調達にイスラム金融を取り入れることを政府の方針としている。資金調達側もイスラム金融を利用すると、場合によってはコンベンショナルな金融機関より低金利で資金調達が可能であったり、将来的にIPOを実施する際にシャリアコンプライアント*11であるいう理由で、潤沢な資金を持つ投資家が購入しやすいという利点がある。UAEでは2008年1月にNoor Islamic Bank、6月にはAl Hilal Islamic Bankというメガ・イスラム銀行が相次いで設立されている。 イスラム金融機関の会計・監査基準を国際的に標準化することを目的に、1991年にイスラム金融機関会計監査基準機構(Accounting and Auditing Organization for Islamic Financial Institution。以下、AAOIFI)がバーレーンに設立された。現在の会員数は中央銀行、イスラム金融機関、会計事務所等オブザーバー会員も含め40カ国155機関となっている。各国金融当局は、AAOIFIの基準に基づきイスラム金融に関するガイドラインを制定しオイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり*11:イスラム法(シャリア)にかなっていること。イスラム金融はシャリアにかなった金融取引で、特に金利という概念を用いない点に特徴がある。59石油・天然ガスレビュー008.11 Vol.42 No.660アナリシス万ドルの融資を供与してきた。2008年5月に策定された5カ年計画では、農業関連分野を重点課題の一つとしている。 アブダビ政府が今回行ったスーダンでの農業開発はいかなる目的を持ったものだったのであろうか。ADFDのオペレーションの実質的トップであるモハンマド・アル・スウエーディ(Acting Director General)に筆者がだしたところ、第1にスーダンでの雇用機会の創出、第2にアブダビにとっての食糧資源の確保、第3に事業として成功させ投資収益を得ることが狙いである、とのこと。 サウジアラビア、カタールなど他のGCC諸国も広く海外農業投資を計画・実施しており、GCC農業投資ファンドの設立も計画されている。潤沢な石油収入を得ながらも食糧安全保障に不安を抱えるGCC諸国にとって食糧確保は既に主要テーマになっており、今後こうした動きは活発化すると思われる。質た農機具の輸入関税の免税措置や、肥料購入時の助成金付与など、投資家へのインセンティブも併せて検討している。さらに、食糧輸出制限から農業セクターへの外国人投資家を対象外とする法律を制定するとし、投資受け入れに積極的な姿勢を示している。 またアラブ諸国はスーダンをアラブの食糧基地(Bread Basket)にしようと目論み、1976年、同国にアラブ農業投資開発機関(AAAID)を設立した。ただし、その後の需給緩和から依然として広大な土地が未利用のまま残されている。ADFDの投資は、このAAAIDとの協調投資である。同国で農地利用されているのは耕作可能な土地のわずかに16%と低く、ADFDからの投資は大歓迎で、無料の水、安価な土地、さらには免税措置を供与するとしている。 そもそもADFDは、貧困国のインフラ開発資金を支援するために設立された首長国政府の援助機関(1971年設立)である。これまで52カ国の発展途上国で62億5,000第3節 本節では、GCC諸国と日本の関係の戦略的重要性について振り返りつつ、GCC諸国の国づくりと日本企業の競争力強化を支援するJBICの活動について触れる。(1) GCC諸国の需要をつかめ:中東とアジアの2極を結ぶ双方向・重層的関係の構築 GCC諸国は確認されている石油埋蔵量の40%、天然ガス埋蔵量の20%を持つ世界的に重要な資源国グループである*12。2007年の日本の全輸入原油に占めるGCC諸国の割合は約7割と圧倒的である*13。輸入原油の量に加えてさらに重要なことは、原油の出自である。UAEのアブダビ首長国は主要産油国のなかでは唯一外資に油田の権益を開放する政策を堅持しており、わが国の自主開発原油の5割はアブダビからの輸入であることを再認識すべきである。 GCC諸国とわが国がエネルギー資源のみならず、多方面にわたる協力関係を築くことの重要性は異論を挟む余地のないところであるが、実態はどうであろうか。 GCC諸国の高い経済成長は購買力を高め、第2節で触まれた国づくりの政策と相俟って、大きなビジネスチャンスが生まれている。日本はGCC諸国向け輸出を、2002年の91億ドルから2007年の215億ドルへと大幅に拡大しているが、中国はこの間GCC諸国向けの輸出を5倍の277億ドルに伸ばしている。 日本企業のGCC諸国への進出は、アルラジメタノール、シャルク石油化学やラービク石油精製化学といったハイドロカーボン・プロジェクトのみならず、イエローハットやダイソーといった小売業などへと幅広い広がりを見せている。しかし、GCC諸国側の需要や期待からすればまだまだ緒についたばかりであり、その上、直接投資の規模では欧米とは比較にならない状況だ。 マクロ的な観点でいえば、原油高により日本の交易条件は悪化し、GCC諸国への所得移転が生じていると指摘されるが、それを還流させるべく、わが国からの輸出の増加と直接投資より得る将来の収益の拡大につなげることが必要であろう。このことはGCC諸国側の期待とも一致するはずである。 また、「イノベーション創造機構」が推進するGCC諸*12:BP統計2008参照。*13:経済産業省統計参照。Iイルマネーラッシュ、マネーから実体経済へ GCC諸国の国づくり国から日本への投資の促進は、GCC諸国の国づくりへのわが国の知的財産の活用につながり、双方にとって意義が深い。さらに、JBICによる「アジア・環境ファシリティ(FACE)」も日本とGCC諸国が共同で戦略分野への投資を行うという“ウイン・ウイン”の関係が期待されている。JBICは、政府の政策に呼応し、各国のニーズに応じた支援を実施し、エネルギー資源の安定確保とわが国企業の国際競争力確保に引き続き貢献する方針である。そのためには、それぞれの国づくりのニーズに合った協力が不可欠である。以下、紙面の関係で四つの事例を紹介したい。≪サウジアラビア≫ サウジアラビアでは、若年層の失業対策と過度な石油依存からの脱却を図るべく産業多角化を志向している同国政府の期待に応えようと、官民挙げて日本サウジアラビア産業協力タスクフォースを立ち上げ、協力体制が構築されている。官民挙げての協力という観点では、自動車整備研修所、プラスチック加工研修所が既に開校され、続いて電機・家電分野の研修所も計画中で、サウジアラビアの人材育成への貢献が進められている。JBICは、ハイドロカーボンプロジェクトやサウジアラビアへ進出する日本企業へのアドバイスやファイナンスを行いながら、同国の産業多角化を支援している。≪UAE≫ UAEは、原油の安定生産をベースにしつつ、マスダルイニシアティブを通じ、石油枯渇後の社会を見据えた持続可能エネルギーの活用に取り組んでいる。JBICは同国の原油の安定供給への協力策として、2007年12月に大規模なADNOC向けの融資を実施した他、社会基盤として不可欠な水・電力について日本企業が参画し競争力強化にもつながるプロジェクトを継続的に支援している。既述のムバダラとは覚書を締結し、とりわけ新エネルギー、代替エネルギーなど戦略的な分野での協力を模索中である。≪カタール≫ カタールが世界最大の可採埋蔵量を持つノースフィールドガス田を発見し、初めてLNGプロジェクトを推進するに際し、多数の日本企業が参画した。その後カタールはLNGとともに成長を遂げ、2011年までに7,700万トン/年を生産する計画であり、既に世界最大のLNG輸出国となったわけであるが、JBICはカタールLNGの黎明期から最近のQG3プロジェクトまで、サプライチェーンに対する全面的な支援を行ってきた。加えてカタール国営石油公社と包括的戦略パートナーシップに関する覚書を締結し、LNGのみならず多面的な協力関係を構築している。加えてUAE同様、社会基盤として不可欠な水・電力について日本企業が参画し競争力強化にもつながるプロジェクトを継続的に支援している。≪オマーン≫ JBICは2006年11月、オマーン政府と業務協力協定を締結し、同国のインフラ整備事業や日本企業が関与するプロジェクトについて、さまざまな金融ツールを活用して包括的・戦略的に協力することに合意した。JBICはソハール港の拡張と周辺地域での産業多角化を当初より支援してきたが、その成功を受け、同国政府は次の重要政策としてドゥクム港の整備総合開発を決定、JBICも支援を決定した。同国との関係強化と日本企業の活動支援を目指している。 一本一本の協力の絆びつけつつある。が折り重なり2国間関係を強く結きずな結びに代えて 2008年9月25日、財務省発表の貿易統計速報によれば、わが国は26年ぶりに貿易赤字を計上した。 石油価格の高騰で輸入額が増加したことが背景にあることは自明だが、輸出は米国、欧州向けが減少した分を中東(対前年度比16.8%増)、中国(同8.8%増)向け輸出の増加でカバーし前年比でほぼ横ばいを維持した。一方、直接投資に関しては、前述のUNCTADの統計では、各国からGCC諸国向け直接投資が合計430億ドルと過去最高を記録するなかで、日本からの直接投資はまだまだ限定的である。格付け会社ムーディーズは米国金融危機発生後、9月28日に早々とGCC諸国の格付けについて格下げの圧力はないと発表した。61石油・天然ガスレビューAナリシス しかし、世界経済が低迷しているいま、オイルマネーを背景に積極的に国づくりを推進するGCC諸国を輸出市場および直接投資先として冷静に評価し、戦略的なビジネス展開を行うべきである。わが国政府・機関も企業活動を一層支援し双方向、重層的なパートナーシップの構築へ知恵を絞っていくべき時と考える。 もちろん、GCC諸国にリスクがないわけではない。世界経済からのデリンケージなどあり得ないことであり、金融危機の影響は軽々には判断できない部分がある。不動産投資は明らかに過熱しており、高インフレ率はドルペッグの通貨システム下では大きなリスクである。GCC諸国の政治的な安定は高く評価されているし、地政学的なリスクは日本で感じるほど強いものではないというのは実感であるが、周辺国での有事はリスク要因としては想定のなかに入れておくべきであろう。執筆者紹介会田 守志(あいだ もりゆき) 本稿は、JBICドバイ駐在員事務所内で日々議論していたことを分担して取り纏めたものです。執筆に関与したメンバーは、JBIC切ってのアラビスト玉木直季(趣味は、釣りとアルファロメオ:写真右端)、鋭い切り口と笑顔が光る舘林明日香(趣味は、冒険旅行とビーチ:同中央左)、イスラームの本質に目覚め始め意欲満々の北澤暢子(趣味は、料理とショッピング:同中央右)です。そして小生(同左端)は日本人会ゴルフ部の幹事をするなどゴルフのプレーと観戦を楽しみとしています。ドバイは、いずれの趣味を楽しむにも最適な場所です。さて、現在はと言えば、原稿提出後に世界に蔓延した金融危機のGCC諸国への影響について、それぞれの持ち味を生かして情報収集中です。まと2008.11 Vol.42 No.662 |
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