ページ番号1006394 更新日 平成30年2月16日

国際政治・経済情勢の読み取り方(1)― 石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として ―

レポート属性
レポートID 1006394
作成日 2010-01-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般基礎情報
著者
著者直接入力 小松 啓一郎
年度 2010
Vol 44
No 1
ページ数
抽出データ アナリシスKomatsu Research & Advisory小松 啓一郎国際政治・経済情勢の読み取り方(1)― 石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として ―はじめに 本稿は3回にわたるシリーズの第1回目として、2009年11月末時点で執筆したものである。資源不足を常に意識せざるを得ない日本産業界の立場から、激変する昨今の国際情勢の読み取り方について考察していくことが本稿の狙いである。 筆者が訪問したばかりのアフリカの資源大国、ナイジェリアの事情を直近の具体的事例として取り上げつつ、新環境下での国際ビジネスのあり方について読者とともに考察していきたい。 以下、英国に拠点を置く筆者の立場から、国際情勢認識等に関しては、かなり厳しい見通しについても述べざるを得ないが、それはいたずらに「悲観論」や「ネガティブ」な言辞に終始するのが目的ではない。むしろ、一般的に見落としがちな事実についても冷静かつ正確な把握を試み、産業界の先行きに横たわる課題について問題を提起し、「厳しい見通し」が現実のものとならないよう、効果的な対策・対応方法について広く議論を起こしたいというのが趣旨である。 国際市場動向であれ、日本やナイジェリアをめぐる内外情勢であれ、本稿が実際に掲載される2カ月後(2010年1月)までにはさらなる急変もあり得る。それもまた続編で取り上げつつ、臨場感をもって観察していきたい。 ただし、筆者によるインタビューの受け手の個人名については報告許可を得ていないため、本稿でも、あえて本名の記述を避けざるを得なかったことにご留意頂きたい。これは、いわゆる「チャタム・ハウス・ルール」(Chatham House rule)により、情報・見解の提供者の個人名または組織名を明らかにしてはならない条件が含まれていたからである*1。ナイジェリア位置出所:JOGMECベナンベナンナイジェリアナイジェリアラゴス大西洋中央アフリカ中央アフリカカメルーンカメルーンニジェールニジェールアブジャ図1【 問題提起 】 目下、アフリカにおける日本のプレゼンスは欧米先進国や新興のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)等に比べ、貧弱だと認めざるを得ない。もちろん、日本の産業界にとっては米国という巨大な先進国市場や、中国・東南アジアという新興国市場が急発展しているだけに、まだまだ地理的・文化的に「アフリカは遠い」というのが実感なのかもしれない。 しかし、国際市場でのグローバル化が急進展し、競争が激化する昨今の環境下では、日本の産業界がアフリカという次世代の巨大潜在市場で貴重なビジネス機会を失いかねないことは事実である。また、資源不足の日本が中・長期的に直面するはずの経済的困難の突破口となるアフリカでの足掛かりを失ってしまう危険もある。55石油・天然ガスレビュー闊オい方」というミクロ面で見た場合、金融機関による個別融資の開始時点での与信の「甘さ」が後の不良債権残高拡大原因の一つになってしまった。「バブル」経済時代に金融機関側の与信のあり方が緩んでしまい、その後の経済不振の深化とともに不良債権が拡大してしまった。このため、景気が回復しさえすれば不良債権の一部も「健全化」し、ダメージの規模が縮小するのではないかとの期待感もあった。しかし、官民の不況対策はさまざまな要因で効果を上げられず、問題の長期化という「期待はずれ」の困難にぶつかった面もある*2。 これに対し、今回のサブ・プライム・ローン問題では、与信が「甘い」というよりも、融資先である低所得者の返済能力の不足または欠如が明らかなケースであっても、それを「問題視せず」に融資の実行を続けたところに根本原因があった。 融資先に対する債権そのものを証券化し、「セキュリタイゼーション」と呼ばれる証券化取引の一環として、それらの債権を他の市場参加者に売りさばくことが目的の融資案件が横行するようになった。このため、金融機関側には、融資先の返済能力など「気にしなくてもいい」との安易な姿勢が生まれていた。 他方、当初の融資実行機関から、いわば「返済請求権」という形の証券化商品を買い取っていた市場参加者のほうでも、それらをさらに次の市場参加者に売り抜くことが目的であった。したがって、マーケット全体にわたって、融資を受けた低所得者側の返済能力など、問題視しない風潮が生まれた。 「セキュリタイゼーション」という証券化取引形態そのものに問題があるわけではない。しかし、それがサブ・プライム・ローンと組み合わされてしまったところに問題拡大の原因があった。返済能力の欠如した低所得者向け融資案件が証券化商品としてバブル的な「プレミアム」が付くことになり、それらが短期間に繰り返し市場売買された結果として高騰した。このため、いつの日か「バブル」がはじけて確実に破綻せざるを得ないという仕組みを壮大な規模でつくってしまったのだった。 金融機関が不良債権化の可能性を全く問題視せず、融資する相手よりも「融資案件」という名の証券化商品の購入先を探すことに専念するという形で「別の方向」を向いていたことに重大な誤りがあった。しかも、米FRBの前議長までがそれを「誤り」と指摘するどころか、かえって「規制緩和という金融改革の成果」「夢の新金融技術」「金融イノベーション」などと正当化してあおり立てたこ2010.1 Vol.44 No.156引いん アフリカやナイジェリアに詳しく触れる前に、まず、これらの地域を取り巻く「国際市場のなかの日本」という観点から全体の文脈を概観してみたい。日本にとって、なぜ、アフリカやナイジェリアが重要な対象市場なのか、明確に浮かび上がってくるからである。 周知のように、2008年秋以降に本格化した国際的大不況の引き金の一つとして注目されてきたのは、いわゆる「サブ・プライム・ローン問題」である。ブッシュ・ジュんけんニア(George W. Bush)前政権下の米景気の主要な牽車の一つが不動産ブームであり、その重要な下支えとなっていた「サブ・プライム・ローン」と呼ばれる低所得は者層向け住宅金融がついに破したことにより、「第二次世界大戦後の米国では初めて」という不動産価格の下落につながってしまったとされる。 2009年第1四半期の先進国の対前期比実質経済成長率は軒並み大幅なマイナスを記録したが、そのあまりの落ち込みの結果、第2四半期には米国、日本、欧州(ユーロ圏)ともさすがに対前期比ではプラスに転じた。しかし、対前年同期比ベースで見れば、第2四半期も依然、マイナスであったし、その後も名目成長率はマイナスのままである。また、主要株式市場での平均株価は2009年中に明確に回復傾向を見せたものの、米、日、欧とも失業率は過去最高に近い水準を推移し、デフレ傾向も続いてきた。 このことが意味するのは、世界同時不況の到来で生産ラインの稼働率を大幅に落とした主要メーカーを中心に在庫調整等のリストラ効果が現れ、財務諸表上のバランスがそれなりに回復したことで株式市場が好感し、株価が上昇したということである。しかし、その反面では稼働率低下で大量のレイ・オフや失業も発生し、消費側の購買力縮小や低価格競争が進みつつあり、中・長期的な企業収益低下にもつながる懸念が高いということでもある。したがって、一時的な株価回復があっても、各国のデフレ傾向が続くならば、主要企業が更なる稼働率引き下げに追い込まれる結果になり、市場縮小への悪循環に陥っていく危険性も高い。現時点で「底を打った」と楽観視するのは明らかに時期尚早である。 他方、1990年代初頭の「バブル」経済崩壊後の日本でも、金融部門での不良債権問題に端を発する長期的経済不振が問題になっていた。しかし、この二つには、共通点とともに、大きな相違点がある。 1990年代の日本の不良債権問題では、「経済政策」というマクロ面での論議は別として「個々の融資案件の取綻た1. 背景事情としての世界同時不況問題の行方アナリシス嘯ニ比較してみても、サブ・プライム・ローン問題に象徴される危機の規模がとてつもなく大きいことが分かる。 このような状況下、2008年秋まで異常な高騰が続いていた石油・天然ガス等のエネルギー価格や産業用金属等の地下資源価格も、この金融危機到来以降は大幅に低下した。これによって、欧米系メジャー等の供給側が打撃を受ける一方、消費側のダメージは軽減したという面もある。 しかし、中国とインドの両新興国の合計人口だけでも約20億人という巨大な潜在市場で本格的に車や携帯電話が普及していけば、明らかに地下資源の需要も急拡大する。 にもかかわらず、今後は供給側の採掘コストの上昇がひっ避けられないため、需給関係は逼することになる。というのも、石油・天然ガス採掘は逐次、海底採掘に移行していかざるを得ず、さらには浅瀬の油田から深海での採掘に移行せざるを得なくなっていくため、供給側の採掘コストの上昇は不可避となるからである。 エネルギー・金属分野では今後の需給バランスが逼迫し始めるため、価格の再上昇を見ざるを得ない。食料と水についても、世界の総人口が増加する一方で地球環境変化等の諸要因も重なるため、供給不足の深刻化は避け難いと見られる。このようにエネルギー、金属、食料、水のような生命維持に必要な「ライフ・ライン」の需給逼なインフレ圧力となりかね迫と価格高騰は結果的に執ず、昨今の未曾有の世界同時不況下では、不況とインフレが同時進行するという大規模スタグフレーションさえ地球規模で発生しかねない*3。迫ぱ拗よしつくうとから、事態の深刻さにさらに拍車が掛かってしまった。 このような誤った売買が国際市場の全方面に拡散してしまったため、今となっては、サブ・プライム・ローンの総残高を正確につかむことは技術的にほとんど不可能となっている。また、「サブ・プライム・ローン」という言葉の定義自体も英米間で異なっている。 しかし、さまざまな計算結果から、総残高については「最大で65兆米ドル」(当時の相場で約6,500兆円相当)レベルとの説もある。専門家の間では、少なく見積もっても「20兆米ドル(同2,000兆円相当)以下と見るのはナイーブ(naive)に過ぎる」と見る向きも多い。しかも、1990年代の日本の不良債権問題とは異なり、この取引行為の内容自体が明らかに詐欺まがいであるため、景気回復があってもなくても、その焦げ付き規模の「縮小」は起こり得ないと言っていい。 その上、低所得者向け金融問題ばかりが強調されるなか、実際には「ホーム・エクイティ・ライン・オブ・クレジット」(HELOC)と呼ばれる融資形態の証券化商品のように、「高所得者層向け」ないし「中流階層向け」の融資案件でも「サブ・プライム・ローン」と類似した形態の証券化取引が行われてきた。つまり、融資先の返済能力など「問題視しない」取引が富裕層・中流層を対象とする分野でも実行されてきたという事実を忘れてはならない。 一方、2009年秋時点での日本の国家予算論議に目を向けてみれば、新旧両内閣で44兆円規模と想定されていた2010年度の日本の税収規模が景況悪化によって38兆円規模にまで縮小するとの見通しになっている。「世されてきた経済大国・日本のこれらの数界第2位」と喧伝でけんん2. 背景事情としての国際政治環境の激変国際政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-ブッシュ・ジュニア前政権を支えていた右派、「ネオ・コン」(新保守主義)グループも影響力を失って去って行った。英国でも、ブッシュ・ジュニア前大統領の「対テロ戦争」に親しく協力してきたトニー・ブレア(Tony Blair)前首相からゴードン・ブラウン(Gordon Brown)現首相まで既に10年間以上も続いてきた労働党政権が2010年6月の任期切れを目前にして支持率の伸び悩みに直面しており、このままでは野党・保守党への政権交代と、その後の大幅な政策的転換も不可避と予想されている(本稿執筆中の2009年11月末現在)。 ワシントンDC側でバラク・オバマ(Barack Obama)んかじしゅう焉え 2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻劇やそれに続くメリル・リンチ、AIG等の連続破綻(以下、「リーマン・ショック」と表示)は、いよいよ「米国発」の国際金融危機を本格化させるきっかけとなった。この危機はさらにGMやクライスラー等の製造業分野での経営危機の深刻化に見られるとおり、他の産業分野にも広範な波及効果をもたらし、最大級の世界経済危機を招いた。 米国ではブッシュ・ジュニア前大統領の下で連続2期し、それに代わっ(計8年間)にわたった共和党政権が終て当時の野党・民主党側から史上初のアフリカ系大統領が誕生するに至り、歴史的な政策的転換に舵を切った。57石油・天然ガスレビューAナリシス変更」や「変革」を求める声が急速に強まってきたと言っていい。 本稿の執筆中(2009年11月末現在)も、英国ではブラウン首相の決断で自国の対イラク軍事侵攻に至る経緯を再調査する独立調査委員会が本格的に公開証人喚問を開始し、当時の英外務省高官等が「イラクに大量破壊兵器の使用能力がないという報告は侵攻前から届いていた」などと発言する等、明らかにブレア前政権に不利な状況となりつつある(2010年にはブレア前首相本人も証人として呼び出される予定)。 このような推移の下、米FRBの現議長による「100年に一度の大不況」という発言を聞くまでもなく、統計数値で見る限り、あの「1929年世界恐慌」を上回るグローバル経済危機が到来している。これまでの先進国サミット首脳会議G8(G7+ロシア)に加え、リーマン・ショック後は途上国の一部も含む国家元首級のG20が始動したが、これも歴史的転換点を迎えた事実を示す象徴的な出来事である。フランス政府筋やIMFの専門家筋からも、現行のドル基軸通貨制度そのものへの疑念と国際通貨制度の根本的改革論までが繰り返し出されるほど「変革」への希求が強まっている。 もちろん、これらの「改革論」がすべて正しいとは限らない。かつてブッシュ政権やブレア政権、小泉政権等々による改革論が高い支持を得ていた時期もあったが、その後にこれらを「極論」と見なす新潮流が生まれたのだとすれば、その新潮流の中に別の意味での「極論」が含まれている可能性についても懸念すべきかもしれない。ブッシュ前政権時代には米国内で「9.11テロの再発」はなかったが、それだけにオバマ新政権が負っている政治的リスクの一つは、万が一、類似の事件が発生した場合のことだとされており、そのような事態にでもなれば国際情勢が再び一変する可能性もある。靡び新民主党政権が始動してからわずか7カ月後、日本で実施された総選挙(8月30日投開票)でも劇的な与野党逆転劇となった。自民党側の連立政権がついに下野し、民主党中心の連立政権が誕生する結果となったが、それは「変革への投票」(vote for change)とも評された。ロンドンに拠点を置く筆者自身も選挙当日には英国BBC放送のニュース番組で繰り返しインタビューを受けたが、そのような場でつくづく実感させられたのは、海外のオブザーバーの間でも、「良きにつけ、悪しきにつけ、日本の社会と産業に大きな変化が起こるのではないか」と受けとめる向きが多かったということである。実際、小泉純一郎元首相下で強力に推進された郵政民営化プロセスも、民主党中心の新政権成立後には「見直し」や「凍結」の方向に向かい始めた。 国際間の貿易・投資促進という任務に従事してきた筆者の視点から見れば、これら一連の変化はブッシュ前大ふう統領、ブレア前首相、小泉元首相等の時代に一世を風した「市場競争至上主義」や「対テロ戦争」という経済面・安全保障面での一連の政策や価値観に対し、大幅な見直し、反省、改革を求める国際的な要請が生まれた結果だったと言っていい。 もちろん、これらの指導者たちも、それ以前の世の中のあり方に対し、抜本的な「変革」や「改革」を高く掲げて登場したはずであった。しかし、2007年半ば頃までには既に意識され始めたサブ・プライム・ローン問題等がその2年後のリーマン・ショックで致命的打撃を受けた例に象徴されるように、ひたすら規制緩和・撤廃を目指した当時の指導者たちの市場メカニズム至上主義の欠陥も明確になった。さらに、アフガニスタンやイラク等の「対テロ戦争」の前線で長期的混乱等も目立つ結果になった。 結局、これら指導者の考え方はイデオロギー的に「極端」だとの見方が主流となり、「チェンジ」を旗印に掲げたオバマ大統領候補の勝利に見られるように、「抜本的3. なぜアフリカの資源にも注目すべきなのか いずれにしても、政治、経済両面でのグローバル化が急進展するなか、国際的な新潮流は先進国のみならず、途上国にも及んでいる。しかも、それは中国や東南アジア、中東、中南米等に増えつつある「中進国」のみならず、さらに後発のサブ・サハラ(サハラ砂漠以南)地域のアフリカ諸国にもあて嵌る。はま もともと、極端に地下資源に乏しい日本の中東依存度は非常に高かったが、1973年の第一次石油危機以降はインドネシアやベネズエラ等、石油輸入先の多様化を図った。その結果、一時的には中東依存度も低下しつつあった。しかし、新たな輸入先と日本の間の輸送コストの問題や原油の質の問題等々の諸要因から、中東依存度2010.1 Vol.44 No.158「得なかった。事情や、複雑な民族対立等々が目立つなか、旧支配勢力タリバンへの攻撃を開始した米国中心の駐アフガン多国籍軍も、それから8年後の2009年には既に10万人規模の派兵に至っている事実を見逃してはならない。それでも「出口戦略」は一向に見えていない。民主党新政権下の日本政府が国民の税金を財源に最大で50億米ドル(4,500億円前後)もの膨大な「アフガン民生支援」をコミットしてみたところで、残念ながら、それに見合うだけの「成果」が上がる見込みは立たないというのが客観的事実である。 さらに、パキスタンも東隣のインドとの度重なる軍事紛争を経験してきただけでなく、未だ「出口」の見えないカシミール紛争の困難さにも直面している。また、国内の各勢力間バランスの不安定さ等も抱えているだけに、同国の将来不安も無視することはできない。 これらの地域的諸要因を考えれば、筆者の目には、中央アジアからアフガニスタン、パキスタンへの「安定的」な資源輸送ルートの運営など真面目に「可能」と考えた1990年代後半の「日本人専門家」等のセンスには信じ難い思いを拭 また、アフガン方面での対ソ軍事紛争とほぼ同時期には、中東方面でもイラン・イラク戦争が勃発し、10年間も激戦が続く結果になった。両国の国境付近では三井物産系イラン・ジャパン石油化学(IJPC)の事業が挫折した記憶もそう古くない。さらに、イラク軍による対クウェート軍事侵攻(1990年)があり、米軍中心の多国籍軍が反撃して湾岸戦争(1991年)となった。するサダム・フセイン 「アラブ社会主義」を標(Saddam Hussein)大統領下のバース(Ba'ath)党政権当時の強圧的統治の下では一時的に隠れていたものの、イラク国内に存在する各種の民族・宗教・宗派間の複雑な事情を考えれば、2003年の開戦直前に米国のブッシュ・ジュニア大統領やドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)国防長官等が主張していた「数週間以内の軍事勝利と復興開始」や「直近未来の欧米型民主主義の確立」など、あり得ないことは明白であった。 米英軍による対イラク侵攻開始に先立つこと半年の2002年9月11日、筆者は英国オックスフォード大学の国際関係論の専門家、ウィルフリッド・ナップ(Wilfrid Knapp)名誉教授から「イラク軍事侵攻後の情勢見通し」を聞かされた。その後に実際に起こったことを見れば、この「見通し」があまりにも正確だったことに今も感銘を受けている。その日、「そうなるのは明らかだ」(It is obvious)と語った同名誉教授に対し、筆者は「対イラク侵攻の結果がそれほどネガティブだということが明白ならば、なぜ、ブッシュ・ジュニア政権は本気で侵攻作戦をひょうう榜ぼぬぐ万バレル/日90.990.9(1968年)(1968年)中東地域非中東地域600500400300200100中東依存度(右軸)90.290.2(2005年)(2005年)%95908580757067.467.4(1987年)(1987年)196519701975198019851990199520000196065年2005出所: 資源エネルギー庁、エネルギー白書2007年版、2007年8月図2原油の輸入量と中東依存度の推移は再び上昇してしまった。 周知のように、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート等の原油やカタールの天然ガスに加え、イラクの原油も「サウジに次ぐ埋蔵量」とされてきただけに、米英軍中心の多国籍部隊による対イラク軍事侵攻作戦の「成功後の開発」には大きな期待が寄せられていた。また、1990年代前半に旧ソ連から独立したばかりのカザフスタンやトルクメニスタン等の中央アジア諸国の地下資源も注目されるようになった。特に、カザフスタンの原油については、アフガニスタンからパキスタンを通過してインド洋に出る輸送ルートの可能性にまで注目が集まった。 しかし、主に米国や日本で構想されていたこれらのプランは、当該諸国の政情不安や安全保障問題について驚くほど理解を欠いたものと言う他なかった。筆者自身は、たとえば、1970年代末にアフガン西部の現地当局との間でエネルギー開発事業契約を結んだ経験のある英国人経営者から、「契約直後に1万4,000人の旧ソ連軍が侵攻してきてすべてがご破算になった」との具体的な失敗談も聞いていたし、農業指導の任務を担って派遣されていた英国人技師からも、アフガン国内の伝統的部族社会の根強さや民族関係の複雑さ等の情報を聞いていた。 また、旧ソ連軍も最終的には10年間に約10万人(5個師団)もの大兵力をアフガン領内に投入し、あれだけ仮借ない無差別攻撃を続けたにもかかわらず、1万5,000人前後の戦死者と約3万7,000人の負傷兵、250機前後の航空機を失ったとされ、「現地制圧には少なくとも40万人の兵力が必要」との結論に達したことから、「作戦の不可能を悟って、撤退に踏み切った」との経緯があったという*4。 旧ソ連軍撤退後のイスラム勢力同士の際限もない内戦59石油・天然ガスレビュー国際政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-Aナリシス検討しているのだろうか」と質問してみた。これに対して、「(そちらの方がむしろ)分からない」(I do not know)と回答した同名誉教授の言葉は今も忘れられない。 イラクでは既に米軍が都市部での街路パトロール活動を停止し、軍事基地にこもるようになったため、米軍死傷者数こそ減少しているものの、首都バグダッドを含む各地で相変わらず大規模な爆弾テロ事件等が発生している。その度に数十人から数百人もの市民の死傷者数が発表されており、一般外国人が安心して市街を歩けるような治安情勢には程遠い。テロ実行グループに関しても、当初に想定されていたイスラム過激派だけでなく、反イスラム勢力であるはずの「旧バース党」の勢力や犯罪集団等まで多様となっている。 これらの「明白」な将来展開を見通すことができず、事を起こしてしまってから自他双方の国民の怒りをかい、政権交代の憂き目を見るというのは「国民の生命・財産を守る」べき国家任務の失敗としてあまりにも重大であると言う他ない。国家であれ、企業であれ、第一義的にこのような過ちを避けるのが本来の責務のはずである。 2006年7月、日本貿易振興機構(JETRO)から拙著『複眼思考:忍び寄る国際経済危機』の出版機会が与えられた*5が、1990年代の日本での長期的経済停滞を経験し、2000年春の「米国ITブーム」の崩壊、2001年の「9.11米国中枢同時多発テロ」直後の世界的景気後退局面等からようやく回復して上昇気流に乗り始めたばかりの日本産業界では久々に強気ムードが横行しており、なかなか「次の危機」の深刻さにまで目を向ける向きは見当たらなかった。拙著の中では、当時のエネルギー価格急騰や貴金属価格急騰の異常さも一種の「バブル現象」だと警告したが、筆者自身もこれほど早く「次の危機」が到来したことにさすがに驚かされている。 今後の情勢推移の見通しとしては、米英系の民間軍事会社のような特殊な企業を除けば、直近未来のビジネスを可能にするほどイラク情勢が「安定化」する見通しは立っていない。アフガン戦線でも多国籍軍が軍事的に「勝利」する見通しは立っていない。米国のオバマ政権はとりあえず3万人前後を上限とする兵力増派に踏み切らざるを得ないが、到底、「40万人の兵力」を投入することはできない。 目下、進展しつつある世界的大不況に関しても、「V字型回復」まであり得るかのように語る向きもあるが、客観的に見れば、これもあり得ない。むしろ、懸念すべきなのは、「2番底」どころか、「3番底」や「4番底」の可能性かもしれない。4. 国際的な危機対応の必要性 当然、このような暗い事態を未然に防ぐには、各国政府や個々の企業もあらゆる工夫と努力を求められる。日本国内では依然、それほどの危機感を抱くムードは醸成されていないだろうが、海外に出れば、それが現実だとの認識を抱かされる向きも少なくないであろう。繰り返しになるが、本稿の目的はネガティブな見通しで社会不安をあおることではない。 むしろ、今後のリスクを見通しつつ、その未然防止の対策を立てることによって、将来の経済社会の繁栄を維持・発展させるべく議論を起こすことが目的である。ましてや、現実の厳しさを無視して「V字型回復」があり得るかのような根拠のない楽観論でミスリードすることがあってはならない。 たとえ、イラクがサウジに次ぐ資源大国であろうとも、このような国際的政治・経済危機のなかでは、むしろ、イラクの不安定さが周囲にネガティブな波及効果を及ぼし、中東全域の不安定化や南アジア・中央アジア方面の不安定化につながる危険も一つの可能性として視野に入れておかなければならない。 イスラム国家の間でも、唯一のシーア派国家とされるイランは事実上、シーア派の多い隣国イラクの安定化に有効な手を打っているが、そのイランと鋭く対立するイスラエルが軍事行動に出ることになれば、イランのみならず、イラク情勢も大混乱に陥らざるを得ない。これには米国も巻き込まれざるを得ないが、近未来にそのような自体が発生すれば、東はパキスタン・インド方面から西はレバノンやイスラエル、パレスチナ等まで含む大騒乱が勃発する可能性も低くはない。場合によっては、それがサウジをはじめとする湾岸の王制国家の不安定化や北アフリカのアラブ・イスラム系諸国をも巻き込んだ紛争やテロ合戦に発展する可能性もある。 欧米諸国や日本等の先進国も中東資源地帯の安定化に緊急かつ真剣な努力を惜しんでいてはならない。2010.1 Vol.44 No.160総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-5. アフリカにおける地下資源大国事情 充分な危機意識を抱きかねている日本国内のムードではあるが、政府も、個々の企業も、積極果敢に手を打っていく必要に迫られている事実を考えれば、中東以外の地下資源大国への本格的進出プランの立案・実施を急がなければならない状況にきていると言っていい。 その観点から注目されるのは、中南米とともに、これからのアフリカである。マグレブ地域と呼ばれるアフリカ北部のアルジェリアやリビア等で石油・天然ガス等の大規模埋蔵量が知られている一方、サブ・サハラ地域においては大陸中央部の大国、コンゴ民主共和国(旧ザイール)に豊富な工業用金属資源が存在することも国際的に広く知られている。 西アフリカでは、2007年夏にガーナ沖で大規模なオフショアの石油・天然ガスが発見され、ブームを起こしつつある。その東南方面にあたるガボンや赤道ギニアを東端としてサントメ・プリンシペ、ナイジェリア、ガーナ、さらに西方の海底に至るまでの地下資源鉱脈が期待されており、世界の注目が集まりつつある。 他方、アフリカ大陸東岸でも、マダガスカルの北西海域からコモロ連邦沖、セイシェル海域の南端、その北西にあたるタンザニア沖、さらにはケニアのモンバサ周辺に至るまでのオフショア中心の油田・天然ガス田開発の可能性も注目されつつある。米系メジャーのエクソン・モービル等のようにかなりのリスクを冒してでも探鉱事業(掘削)を進めつつある企業も出てきた。 これらは、中東の油田・天然ガス田のような浅瀬のオフショアだけでなく、より深海での開発を可能にする技術革新の結果として注目され始めた地域である。筆者がインタビューした欧米系メジャーのなかには、「西岸に続いて東岸での巨大鉱脈の存在も証明されれば、アフリカ大陸に対する世界の目が変わる」とまで語る首脳もいた。とはいえ、これらの地域における欧米系や中国系、ロシア系等々の積極果敢なビジネス活動に対し、日系企業のかかわり方の低調さが目立つことは既述のとおりである。グローバル社会での競争上の立ち遅れは重大な結果を生む。6. ナイジェリアへ 西アフリカに位置するナイジェリアは、アフリカにおいて屈指の石油・天然ガス埋蔵国であり、日本にとっての重要性もエネルギー資源開発の観点から高まっていると言える。しかし、治安、政治、経済、ビジネス慣習の違い等の側面で各種の問題も指摘されており、日本企業にとっては、今なお入りにくい環境ともされている。本稿では、事例研究の一つとして、ナイジェリアを対象とした政治、経済、エネルギー情勢、ビジネス推進上の注意点等について観察してみたい。 ナイジェリアはサブ・サハラ・アフリカ全体の約20%とも推定される1億4,000万人もの人口を持つ(2007年)とされ、92万3,000km2以上という国土を有する。これは、日本の約2倍半もの国土面積にあたる。また、約250もの言語・民族・部族を持つ資源大国であり、1日あたり3,200万?ものガソリンが消費されており、1日あたり20億scf (standard cubic feet)もの随伴ガスのフレアが未だに続いている*6ほどの大潜在市場である。 1980年代前半から半ばにかけての時期に現地駐在経験を持つ日系ビジネスマンの1人によれば、当時は同国内でもさまざまな日系企業が活動しており、在ナイジェリア日本国大使館でのイベントにも200人もの日本人が集まった。しかし、その後は治安問題や法整備の遅れ、政権交代による政策的継続性の欠如等で引き上げが相次ぎ、現在ではJICAやJETROという公的機関の他にはわずか10社余りの日系企業しか拠点を置いていないとされる(2009年10月時点)。 既述のように、今後は国際金融・経済情勢の不確実性や資源獲得競争の厳しさが増すと予想されるなかで果敢な進出を目指さなければならない日系企業の立場としては、資源大国ナイジェリアの資金・物資の流通が成功していない事情をネガティブな障害と見なすか、あるいは、ポジティブに開発協力や技術協力も含めたビジネス機会と解釈するか、重要な課題に直面することになる。 実際、世界で第9位の原油埋蔵量と第7位の天然ガス埋蔵量を誇るとされるナイジェリア*7であっても、その国内のガソリン消費のほぼすべて(almost 100%)を輸入に頼っており、依然、ガソリン補助金が必要とさ61石油・天然ガスレビューAナリシス1. 都市部へ移民した者を除き、皆(everyone)、土地を持っており、土地には価値がある。土地を家畜と交換する等、地方(rural areas)では土地を資産に変える余力手段がある。2. 地方の人々は、先進国の視点から見れば貧しく見えるかもしれないが、彼らは家畜も土地も経済的資金源となる木も所有しており、貧しいわけではない(not poor)。3. 都市へと移動する人々のなかには、特にあてもなく移動する人々もいるが、大半は親族等の元へ集まるため、土地等の資産はなくても、資金を借りたりすることができる。4. ただし、都市部の親族等の金銭的能力を上回る人口の都市流入は失業率上昇と貧困の拡大につながりやすい面がある。5. 他方、部族長・長老(local chief)がそのコミュニティーの信用を得て土地の多くを保有している(owns in trust of the community)ことはある。そこで、家族や友人を優先して分配するということもある。しかし、人々は皆、土地を保有しており、資金に変えることに対する制限はない。 このような実態に基づき、内外の企業が人々の持つ「資産」や「貧富」の概念をどのように定義・解釈し、いかにビジネス機会を見出すかという観点もあり得る。これは国際的なルールに基づいて活躍する大企業より産業としてビジネス機会を探す中小企業にとっも、隙間ますきれている現実もある。これは、製油所(refineries)が停止したり(down)、充分に稼働していないケースが多いことや、パイプラインのルート上に存在する各民族・部族単位の伝統的コミュニティー間の社会的非連続性や紛争激化が「パイプライン攻撃」を引き起こす等の事情もあるからだという*8。 また、外資系企業の立場から、同国内でいかにビジネスを立ち上げるかという問題意識も重要であるが、ナイジェリア系中小企業の育成も含めた現地国民経済の立ち上げをどのように推進するかも重要な課題である。貧困な一般国民の生活水準の向上は、結果的に外資にとっても安定したビジネス機会の拡大につながることは言うまでもない。 2006年12月、筆者は在英ナイジェリア人ビジネス界の有力メンバーや、英系のナイジェリア担当監査法人、金融部門担当法律事務所等の法曹界、在英投資銀行等へのインタビューを含む調査を実施した。その際、各方面から「ナイジェリア人貧困層も実際には貧困ではない」(The poor people are not poor in Nigeria)との見解を聞かされた。それから3年後にあたる今回のナイジェリア訪問時(2009年11月下旬)にも、同国大統領府高官からは同じことを聞かされた。統計によっては8割前後もの国民が1日1米ドル以下で生活しているとも言われるナイジェリアで、この種のコメントは何を意味するのだろうか。筆者が聞かされたことをまとめれば、次のようになる。出所: アブジャにて筆者撮影、2009年11月22日写1客を待つ露店商人2010.1 Vol.44 No.162総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-ての課題かもしれない。それら中小企業の成功例が増えれば、地域コミュニティー単位の成功例も生まれるかもしれない。それは、与えられた環境条件をどのように理解し、いかにポジティブに解釈するかというビジネス・マインドの問題でもある。 とはいえ、外資系企業が国際基準に基づいてビジネスを起こそうとする場合、現地人同士で法的登記を伴わない慣習的不動産売買が行われていても、それら外資が現地で懸念なく不動産売買または担保価値判断等に基づく商取引にかかわることができるか否かは別問題である。このことがナイジェリア国民経済の発展阻害要因になると判断したオルシェグン・オバサンジョ(Olusegun Obasanjo)前政権下では、その金融改革とも関連して土地登記の促進政策も推進された。このため、ウマル・ムサ・ヤラドゥア(Umaru Musa Yar’Adua)新政権下では、この問題について「既に解決した」と語るオブサーバーもいる。 しかし、首都アブジャや最大都市ラゴス等の都市周辺部はともかく、多数のコミュニティーに分かれている地方の後発地域でどこまで法的登記制度が普及・機能しているかは未だ疑問である。後述するようにヤラドゥア新政権下でもさまざまな意味で土地改革(land reform)は重要な課題として残されている(「7ポイント・アジェンダ」の1項目にリスト・アップ)。 このような状況下、法的な土地登記に基づく不動産売買が定着していない地域では、先進国市場での基準をもって「貧困層」の拡大・縮小を判断することはできない。オバサンジョ前政権時代には、政府側が土地利用法(Land Use Act)を通して、合法的に住民の土地を接収することができたが、そこには資産評価をめぐって過渡期的な問題も生じた。具体的には、政府側がその接収対象地の「市場価値」より低い補償額しか払わない等の問題が発生する等、摩擦も生み出していた。いずれにしても、これはナイジェリアに限らず、日系企業を含む外資が途上国で事業を立ち上げ、継続する際の留意事項の一つである。7. 直近のナイジェリア政治・経済事情 今、ナイジェリアは変わろうとしている。 2009年11月下旬、同国訪問中の筆者はこのことを強く実感させられた。冒頭で述べたことにも関係するが、産油国として知られるナイジェリアでも、ブッシュ・ジュニア、ブレア、小泉という各政権がピークに達していた同時期に、オバサンジョ前大統領が大改革を推進していた。当時のオバサンジョ大統領はアフリカのうちでもカリスマ的な指導者の1人に成長し、日本でもその親日的な外交方針に大きな期待が寄せられていた。それを与党内で引き継いだヤラドゥア現大統領下でも、さらなる変革の方針が志向されている。 しかし、後継のヤラドゥア新政権による変革の内容を見れば、オバサンジョ前政権当時の路線をそのまま推し進めているとまで単純に決め付けることはできない。オバサンジョ前政権時代の路線に対する厳しい批判とも言える新政策も含まれているからである。ヤラドゥア新政権下で新たに会計監査(audit)が開始されることになり、結果的にオバサンジョ前政権時代に計画された発電分野の民間払い下げプランの見直し(停止)や、石油上流権益のキャンセル等も起きている。 ヤラドゥア大統領はオバサンジョ前大統領と同じ与党63石油・天然ガスレビュー(PDP=People's Democratic Party)出身であり、前大統領によって指名された新党首ではあったが、前政権下で行われた政策への見直し過程には激しいものがある。 ヤラドゥア政権によるさまざまな改革方針や、オバサンジョ前政権下での各種の政策の見直しも、2020年ま出所: ロンドンにて筆者撮影、2008年7月17日写2講演準備中のヤラドゥア現大統領(演壇上)ナに世界のトップ20位以内に入る経済大国化を目指す、との長期的な国是を達成するためだとされる。ヤラドゥア大統領は同国北部カツィナ(Katsina)州の後発地域の出身であるが、学究肌で物静かな性格と見なされていた。それだけに芯の強い改革路線の維持には驚かされた向きも多い。 しかし、短期的に見れば、ヤラドゥア新政権の成立から既に2年以上が経過しているにもかかわらず、まだ目に見えるような成果を出していないとの不満も高まっている。このため、ナイジェリア国内では「ヤラドゥア下ろし」の動きも目立っているという。 ナイジェリアでは、大統領職は「1期4年」とされており、「2期」(計8年)までしか在任できない。2007年の大統領選挙で成立したヤラドゥア新政権も、2011年の再選を目指すためには、2010年に一気に「次期大統領選ムード」に向かわざるを得ない。 他方、筆者の印象に残ったのは、同国訪問中に面会した政府高官等が自ら目指す政策的方向について熱心に語る傍ら、過去長期間にわたってナイジェリアに貼られてきたネガティブなレッテルの多くも「事実」として認めたことである。8. 「 7ポイント・アジェンダ 」 周知のように、ヤラドゥア政権下の主要政策テーマは「7ポイント・アジェンダ」である。そして、注目の的になっているのは、主要産業としての石油・天然ガス分野における石油産業改革法案(PIB法案=Draft Petroleum Industry Bill)の議会通過が実現するか否かである。まず、同アジェンダに挙げられている主要7項目と追加2項目は、表1のとおりである*9。 既述のように、マクロ的な経済政策としては、2020年までに世界トップ20位以内の経済大国化を目指すとの長期的目標が掲げられており、その実現のための短・中期的政策の立案・実施を行うものとされている。狙いとしては、現在のような石油・天然ガス分野に偏った単品的産業構造から、バランスのとれた産業構造多様化を目指すというものである。 現状では、ナイジェリアの年間海外所得の約85%が石油産業分野であるにもかかわらず、同国の総人口のうち、この産業分野に携わっている人口はわずか4%前後という極端な単品的産業構造になっているという*10。アナリシス 筆者側からは、今回の訪問目的について、「日本産業界のビジネス機会をポジティブな観点からサーチ(Search)するため」と説明したが、先方からは例外なく、「わが国のポジティブな側面だけを宣伝しても外国の投資家は信用しない。ネガティブな事実も説明した上で、ともに解決方法を見つける姿勢でなければ、現実的な貿易・投資・産業振興策の効果は上がらない」との回答が返ってきた。 筆者は国際貿易・投資促進事業に携わるなか、アフリカ各国に出かける機会も多いが、その経験から見ても、このこと自体が、既にポジティプなファクターだと痛感している。実際、投資案件の検討過程では、対象マーケットにおけるリスクの内容を知ればこそ、それらリスクの回避戦略を立案することができ、結果的に現実的かつ効果的な投資の実行が可能になる。そのためにも、現地国側の率直な協力が不可欠であり、たとえネガティブな問題があっても、その存在を認めることから次の行動が始まると言える。表17ポイント・アジェンダ主要7項目1.発電とエネルギー(Power and Energy) 2.食糧安全保障と農業(Food Security and Agriculture)3.富の創出と雇用(Wealth Creation and Employment)4.大規模輸送網開発(Mass Transportation)5.土地改革(Land Reform)6.治安安定化(Security)7.良質で実質的な教育制度の普及(Qualitative and Functional Education)追加2項目1.ナイジャー・デルタ(ニジェール・デルタとも言う)の開発と安定化(Niger Delta)2.社会的弱者の支援(Disadvantaged Groups)出所: Lagos Chamber of Commerce2010.1 Vol.44 No.164o所: 筆者撮影、2009年11月20日写3首都アブジャの交通渋滞で混乱する道路風景(1) 金融改革の結果として、オバサンジョ政権下で金融機関のM&Asも進展し、89行から25行に絞られた。(2) ナイジェリア側からの要請により、国際格付け機関「フィッチ」(Fitch)が、ナイジェリアの銀行のうち、数行を格付けしている。(3) 対外債務の一部の返済完了と帳消しにより、債務ゼロの状態となった。(4) 当時のナイジェリア通貨ナイラの相場が上昇し、近年で最も安定した状態が生まれた。 しかし、それから3年後の2009年11月、現ヤラドゥア政権の大統領府では「このような厳しい金融改革とリーマン・ショックが重なった結果として、目下、市場縮小を招いていると認めざるを得ないのが実情」との説明もあった*13。漑が 人材開発という点では、国連の「ミレニアム開発目標」(MDG=Millennium Development Goals)で推進中の初等教育(primary education)の普及・強化や、大学レベルの教育および科学技術分野での高等教育制度の充実を目指しており、特に後者ではパートナーシップ手法による投資も期待されている。さらに、産業レベルでもR&D(Research and Development)等への投資が求められている。 農業分野においては、現在の広範な自給自足経済から輸出産業にまで持っていくことが目標とされている。具体的には、果物等の輸出産業化が考えられているが、そのためにも付加価値の高い農産品の生産・サービス向上を目指す。 基本的なインフラ整備の必要性という側面では、道路かんいや住宅の整備・供給、農業地域における灌設備の構築・拡充、鉄道・新港湾開発等の長距離輸送手段の構築・改修等が特に必要とされている。この分野では、官民連携によるPPP(Public Private Partnership)のようなパートナーシップ手法による開発も期待されている。 金融分野においては、オバサンジョ前政権時代からの急速な改革政策によって、一種の「安定」が得られたとも言われる。また、連邦政府は「債務削減に膨大な資金を投入してきた」*11としており、2005年のグレンイーグルス(英国スコットランドGleneagles)におけるG8サミット合意に基づく大規模な債務帳消し等もあって、長年の巨大債務問題はいったんは解消した。この期間には、「100行近くも存在した銀行が吸収・合併等により20行前後にまとまった結果、信用度が増した」*12ともされる。 筆者による2006年12月の調査時点では、当時の金融改革政策が高く評価されていた。それをまとめてみれば、次のとおりである。国際政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-9. エネルギー・電力以外の分野での政策方針10. 電力の事情と政策 ナイジェリアの電力不足は非常に深刻である。電力の供給面に関しては、同国連邦政府によって2011年までに、1万MW(メガワット)の供給が目標とされている。しかし、2009年11月の実質発電量は、3,000MW~4,000MWの出力しか有しておらず、同年末までに、6,000MWが目標とされているため、まずはその達成の可否が注目されている。同年11月現在の出力量と年末までに達成すべき目標出力量には開きがあるようにも見えるが、新たな大規模インフラ設備の構築が必要というよりも、既存設備(installed capacity)の稼働率が低過ぎることが11月時点での問題点だという。このため、必ずしも年末までの目標達成が不可能というわけでもない65石油・天然ガスレビューAナリシスとされる。 他方、近隣のガーナも含め、アフリカ各国で発生している電力不足問題に絡んでは、当座の困難緩和のため自家発電設備(IPP=Independent Power Producer)の導入を検討する企業も少なくない。しかし、最近になってナイジェリアでIPP事業を検討した企業によれば、「電力省が赤字であることが分かったため、あきらめざるを得なくなった」とのことであった。事業に資金を投入してもその回収ができないとの分析だったという。 ナイジェリアでは数日間にわたる停電を頻繁に覚悟しなければならない地方もあるという。近隣のガーナ等でも同様であるが、電力供給が一定時間以上停止すれば、冷蔵庫等も機能しない。暑い国で冷蔵庫が機能しなければ、食料が瞬く間に傷むため、個人レベルでの日常的フラストレーションも非常に大きくなる(全く電力の無い地方での生活事情は異なる)。断続的停電による産業上のダメージは言うに及ばない。11. 石油分野での政策(PIB法案等) 石油分野においては、既述のPIB法案が議会を通るかどうかが目下、最大の焦点となっている。PIB法案の構想は、元OPEC(石油輸出国機構)議長のリルワヌ・ルクマン(Rilwanu Lukman)博士が1999年から2000年頃に既に石油法(Petroleum Law)の抜本的改正を主張していたものが下地になっている。しかし、ブッシュ・ジュニア前米政権による2003年3月の対イラク軍事侵攻後こそ原油価格も高騰したが、それより前の低価格時代に当時のオバサンジョ大統領がこのアイディアを採用しなかった経緯がある。 その後、今回の時代的転換によってブッシュ・ジュニア大統領もオバサンジョ大統領も政権の座を去り、ヤラドゥア新政権下でエネルギー大臣への就任を要請された同博士は、その就任の条件として法整備も含む石油・天然ガス産業改革の実施を約束させたとも言われる。 同博士は1980年代から鉱山・電力・鉄鋼相、石油相、外相等を歴任した経歴も持つため、今回のPIB法案に基づく改革のリーダーシップが期待された。2007年の新く兼任していたエネルギー大臣政権発足後、大統領が暫のポストは、2008年12月の内閣改造時に石油大臣という新ポストに再編され、ルクマン博士が就任した。 この改造前には、エネルギー大臣の下に石油管轄、天然ガス管轄、電力管轄の3閣外大臣(ナイジェリアでは「国務大臣」と呼んでいる)が配置されていた。しかし、この改造では、それぞれの役割分担の効率化を目的として石油大臣と電力大臣の新ポストが創設されると同時に、石油大臣が天然ガスも兼轄することになった。このため、従来の天然ガス閣外大臣のポストは廃止された。 その後、ルクマン石油相および石油省の政策推進能力が疑問視されるようになり、大統領の決断で同石油相のしばら管轄をPIB法案とナイジェリア石油公社(NNPC=Nigerian National Petroleum Corporation)の改編に限定すると同時に、現在の石油管轄閣外大臣の任務に天然ガスと電力インフラ開発が含まれることとなった。このように、PIB法案をめぐる課題は2010年に入ってからの展開次第では政府の構造そのものや閣僚人事にも大きな影響を及ぼす可能性を含んでいる。 いずれにしても、ルクマン大臣の役割は、15本~20本とも言われる石油関連の現行法の相関関係を整備し、将来は機能別に分かれた複数の新組織の樹立構想の策定にあるとされてきた。 PIB法案の要旨は、表2のとおりである。 “Oil and Gas Sector Reforms Implementation Committee Final Report”(2008年7月)*14によれば、NNPCは「純商業的に活動できる組織として改編する」(commercialisation)と表現されている。日本ではこの表現を「民営化」と見なす解釈もあるが、実際には「政府100%保有」の「法人化」と解釈される。 他方、同レポートよりも後に発表された“The Draft Petroleum Industry Bill 2009”*15によれば、「NNPCは民営化されない(NNPC would not be privatised)」と明記されている。これに対し、同国大統領府の高官の1人*16は、一部の株を民間に売却するという意味での「民営化」(privatisation)も「あり得る」と説明した。PIB法が成立した場合には、株の一部を売却することによって、ブラジルのペトロブラス(Petrobras)のように、政府側が議決権の過半数を維持する形での民営化となる可能性もあるとの説明であった。筆者自身も、PIB法によってNNPCが民営化するか否かについてはまだ明確な情報をつかんでいない。2010.1 Vol.44 No.166総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-表2PIB(Petroleum Industrial Bill)法案の要旨(現在、国会で審議中)1.ナイジェリアの石油・天然ガス産業が、効果的かつ機能的な組織・集団となるよう再編し、国際競争力の強化を目指す。2.現行の20本近い石油関連法を一本化し、透明性と相互関連性を高める。3.上記1.に伴い、ナイジェリアでの石油・天然ガスに携わる各事業者が同条件下で競争できるようにする。4.上流、中流、下流に係る石油・天然ガス関連事業管掌のナイジェリア行政窓口を明確化し、さらに各種事業の推進過程での申請手順や許可基準等を明確にする(汚職撲滅が目的)。5.石油・天然ガス事業からのナイジェリア政府への収益増加を図るべく、ロイヤルティーと税制を改めて制定する。6.ナイジェリア系産業を育成するため、同国系企業や現地人の活用を一部義務化し、優遇措置を設定する。7.資源開発促進のため、未開発の鉱区をその権利者から没収し、新たに権利者を選定する。8.ナイジェリア石油公社(NNPC=Nigerian National Petroleum Corporation)も改革する。改革後の新組織についてはナイジェリア政府100%の国営石油会社として政府コントロール下に残すが、資金面ではナイジェリア政府予算に頼らずに独自で調達できる組織に改編し、民間側の他事業者と同様にロイヤルティーと納税義務を課す。9.下流分野の規制緩和。現行の石油製品への政府補助金を撤廃し、ナイジェリアでの下流分野が中・長期的に安定したマーケットになるよう育成する。出所: 現地企業の内部資料を基にKRAで作成 しかし、“The Draft Petroleum Industry Bill 2009”の趣旨としては、独自の資金調達ができない現行のNNPCを改編し、新組織では市場から独自の資金調達を行うことにより、連邦政府予算(Cash Call 2008年/09年実績で50億米ドル)の負担を大幅に軽減するが、他方では政府が所有する完全な国有企業として残し、あくまでも政府のコントロールを維持すると説明されている。 しかし、このPIB法案に対しては、根強い抵抗もある。というのも、PIB法案にはナイジェリア系産業の育成のため、ナイジェリア系企業およびナイジェリア人の雇用の一部義務化の規定が含まれている他、ナイジェリア人技術者のトレーニング・プログラムや非熟練労働者の熟練化プログラムの義務化、課税方法の変更による収益の取り分の見直し等の規定も含まれているため、同国における油田開発の初期段階から携わってきた英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェルや米系エクソン・モービルの他、その後に参入した仏系トタール等が反PIB法案ロビイの中心的グループとして強く反対している。既存の外資系石油企業(IOCs=International Oil Companies)にとっては既得権益の縮小となる等、「不利な結果を生む」と見られているためである。 実際、この法案の背景にはナイジェリア政府側の不満として「既存の取引条件下では自国の地下資源から生じる富が理不尽に欧米系外資企業に持ち去られており、自国民に配分できる利益が小さ過ぎる」との認識がある。 もちろん、同国大統領府の高官はPIB法案の趣旨について、「地元ナイジェリア系の一般企業による石油・天然ガス産業への新規参入を促進するためだけでなく、日本、中国、インド等の他、欧米諸国側からの新規参入も促進するためだ」と説明しており、「既存の石油メジャー以外のすべての新規参入者も歓迎する」と強調している*17。 それでも、既存の欧米系メジャーの上流権益のうち、事業期限が到来しつつある鉱区(例:23鉱区=JVx18 + PSCx5)に関して、メジャー側から見れば、少なくとも短・中期的には権益縮小につながるとの懸念があるため、PIB法案には執拗に反対している。言うまでもなく、ナイジェリアの国民経済が本当にトップ20に入るほど発展することになり、貧困解消による治安問題の改善が可能になるのであれば、既存石油メジャーにとっても長期的利益になるはず、というのが「正論」なのであろうが、そのような目標達成の実現性に懐疑的な向きも少なくない。また、10年間以上の長期的な利益よりも、とかく年度決算の範囲内で動かざるを得ない企業関係者にとっては、短・中期的懸念事項のほうに関心を向けざるを得ない現実もある。さらに、石油産業そのものの構造的性格から見ても、PIB法案で期待するような新規投資家を求める考え方は「安易に過ぎる」との懐疑的な見解もある。 ナイジェリアの国家エネルギー委員会(NEC=National Energy Council)の高官によれば、同国議会におけるPIB法案関連の審議ステップは3段階に分かれており、「既に最終段階に来ている」とのことであった。具体的には、2010年3月までに法案が成立することを期待しているとのことであった。また、新法案成立後の実施移行期間については、PIB法案に規定されているわけではないものの、その効果を見るには、12カ月~18カ月間を想定しているという*18。 しかし、同法案が実際に可決されるかどうかは予断を許さない。本稿が掲載されるのは2010年に入ってからのことであるが、その時点でも、PIB法案の行方はまだ判明していないものと思われる。引き続き注視していきたい。67石油・天然ガスレビュー2. 天然ガス分野での政策方針(GMP等)アナリシス 天然ガス開発分野では、GMP(ガス・マスター・プラン)の推進が注目されている*19。その主要点は、表3のとおり。 これは、ナイジェリアでの一般生活水準の向上と産業振興を目的に、国内での利用・消費を重視するシステム(local priority system for the local advantage)の構築を目指し、外資系企業もその全量を同国からの輸出に回すことができないようにする構想である。天然ガス分野でも、新規参入企業に平等な参入機会を提供する等の促進策が取られることになる。また、国内での利用・消費の目的には電力開発促進策の他、肥料の生産・分配事業等農業支援策も含まれる。これらの政策を効果的に推進するためにNNPCや外資のIOCsも含めた組織を立ち上げ、これまで協議を繰り返している。 なお、ナイジェリアにおける天然ガスの埋蔵量も巨大(huge)とされる(表4参照)。表4に示されている数字は、現地事情に詳しい産業界筋によってまとめられたものである。しかし、他の多くの途上国と同様にナイジェリアでも経済統計の数値は非常に不正確であり、そのままあてにすることはできないとのことであった。本稿でも後述するが、これは同国の人口統計等、基本的な数値に至るまで、すべてにあて嵌る事情である。 なお、同国では国産ガス価格の自由化を目指すとともに、随伴ガスのフレアの抑制(随伴ガス回収)を目指しており、再三のフレア停止期限設定等の努力にもかかわらず、それに対応する設備投資資金不足等を理由に外資系石油メジャー中心の抵抗もあるため、2009年11月時点でもなお、1日あたり20億scf*20ものフレアが続いている。表3ガス・マスター・プラン“GMP”骨子1.分野に分かれる)GMPの三つの主要点(1) ガス価格政策(電力、国内向け戦略産業、輸出の3(2)ガス生産者への国内需要家向けガス供給の義務化(3) ガス関連インフラの青写真。具体的にはパイプラインと中央処理施設(CPF)3カ所に関するもの。2.今までは限られた事業者がLNGの輸出目的でガスを利用してきたが、GMPでは、その偏重を解消することが目的。GMPにより、国内産業(主に電力、肥料等)向けにもガスが分配され、さらに新たな事業者にも平等な参入機会を提供する。3.NNPCやIOCsで構成されるガス価格統制組織を立ち上げ、上記(1)、(2)を効果的に実行する。出所:現地企業の内部資料を基にKRAで作成表4ガス埋蔵量 187TCF (trillion cubic feet)世界7位とするガスの有効利用量は、約197mmscf/d。1.1999年、NLNG(NNPCとIOCsの合弁会社)のTrain1&2のオペレーションがスタート。当時、随伴ガスを中心2.2002年には、NLNGのTrain3がコミッショニング。3.2004年のガスの有効利用量は、573mmscf/dに増加。4.2008年には、NLNGのTrain6がコミッショニング。しかし、NLNG向けの原料ガス供給が不足しており、フル5.NLGN Train7、Brass LNG、OK LNG(LNG JapanがSI)が計画されたが、当初予定より大幅に遅れて、未だに6.現在、ガスの年間生産量は約2,000Bscf。この40%は未だにフレアしている。7.2010年までに、1,700mmscf/dのガスの有効利用を目標としている。FIDに至ってない。稼働には至らず。出所: 現地企業の内部資料を基にKRAで作成13. 石油分野の現状を生んだ歴史的経緯 これまでは欧米系メジャーが石油等の地下資源開発をほぼ独占してきたとの反省(あるいは不満)がナイジェリア政府側の基本認識になっているが、このような状況が生まれた歴史的経緯については、表5を参照。2010.1 Vol.44 No.168総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-表5ナイジェリアの石油開発の歴史(原油埋蔵量360億bbl、世界9位)1.約半世紀に及ぶ探鉱の末、1956年、Shellによってナイジェリアで初めて原油が発見され、1958年から生産開始。2.1960年代に入り、Chevron、Agip等が次々にナイジェリアに進出、原油を発見。3.1970年代、原油の生産は200万bpdに達した。4.1971年、OPEC加盟。1977年、NNPC設立。5.1980年代は経済不況により一時的に原油生産量は低下したが、2000年代に入り、再び原油生産量は回復・増加し、2004年に250万bpdに達した。6.その後、治安が悪化。武装集団による原油生産施設への攻撃が繰り返され、2009年第2四半期には、原油生産量が130万bpd程度まで落ち込んだ時期もあった。7.ヤラドゥア政権が進めるアムネスティ・プログラム(2009年10月4日期限)の効果もあり、原油生産量は200万bpd程度まで回復。8.ナイジェリア政府としては、2010年までに400万bpdの原油生産を目指している。出所: 現地企業の内部資料を基にKRAで作成14. 調査・開発が遅れた金属資源 同じ地下資源でも、金属資源についてはかなり事情が異なっている。筆者としては、近隣のガーナでココアを抜いて最大輸出品目となった金の他、大規模なアルミ製造工場を支えるボーキサイトの鉱脈もあるだけでなく、その東隣のトーゴとの国境周辺の山岳地帯にも類似の金属資源が見られることから考えて、西アフリカで東西に伸びる「地下資源のベルト地帯」の一角として、ナイジェリアにもかなりの金属資源が存在しているのではないかと期待していた。 しかし、実態としては、金属資源の埋蔵量等に関するデータは非常に限られているとのことであった。その理由については、2007年にようやくオフショアの石油・天然ガス資源が発見されたガーナとは異なり、はるかに早い時期から石油・天然ガスの開発が始まっていたナイジェリアでは、内外の産業界の関心が圧倒的に石油・天然ガス分野に集中してきたからだとの見方もある。15. 農業の実情と産業界の新規参入の可否等をめぐる議論 農業生産活動に関しては、目下、各地に存在する多様な部族単位や村落単位(community based)で小規模(small scale)なものが圧倒的であり、その生産量と質は貧困(poor)とされている。最大のテーマは、これをいかにして商業ベースの農業として発展させ、輸出産業にまでもっていくかである。 しかし、その実態はさらに困難であり、「村落コミュニティー・ベースで小規模というよりも、小作人が多く、小作料(上納金)が高い」というのが本質的問題だとされる。このため、農地での労働人員が小作料逃れの目的で国有地に入り、勝手にサトウキビを栽培しているというような社会問題も発生している。 このような状況下、政府側では5項目の戦略的農業支援策を検討している。1.技術革新と知的人材の開発2.灌漑施設の建設・拡充3.道路等の運搬施設の建設・拡充69石油・天然ガスレビューAナリシス4.肥料の改善および分配5.生産物貯蔵施設の建設・拡充 技術革新の分野では、中国製トラクター等の導入が期待されているが、「これは購入価格が安価だから」とのことであった。 外資系企業等による投資対象として現地側が期待しているのは、サイロや冷凍庫・冷蔵庫等の食料貯蔵施設や食料の輸出関連設備・サービス等とのことであった。特に、果物・野菜類や肉類の空輸拡大ビジネスが必要とされている旨、連邦政府側の農業政策担当アドバイザーから説明があった*21。 肥料問題は最も重要な課題となっている。連邦政府は肥料の輸入に膨大な予算を投入しているが、行政部門の非効率性と贈収賄問題が大きな障害となっており、それらへの効果的な改善対策で成果を上げることによって生産性を上げる必要性が強く認識されている*22。 一方、インフラの貧困さから、農業生産物の約70%が腐敗し、捨てられているという。このため、高速道路や加工センター等のインフラ整備、クラスターの中心部での畜産センターの整備等が不可欠とされる。なお、国有地に関しては、当局側からリースされる構想であり、売却されるわけではない。 他方、政府側の政策としても、企業側のビジネス戦略としても、対象農業地域での村落コミュニティー・ベースでの交流が個々の小規模農業者とのコミュニケーション以上に重要だともされる。これは特に食糧安全保障の観点から強調されている点である。 農業分野においては、各種の調査結果に基づく現地の気候関連データが比較的豊富であり、連邦政府も、事業の開始や維持、手続きの手助け(assistance)の他、一定期間の課税猶予(tax holidays)等の優遇策も用意しているとのことである。連邦政府が農業分野で解決したい課題は、次のとおり。1. 目下、ナイジェリアの食糧自給率は非常に低い。たとえば、コメ消費の約90%が輸入となっている。2. 魚、鶏肉、塩等々の輸入依存度も非常に高く、国民のタンパク源の輸入依存度が高過ぎる。3. 地方の農村人口の約60%が自給不可能な状況に置かれている。4. 生産物の密輸の横行により、それら自給に窮する人口の生活水準向上の障害にもなっている*23。5. 産業データに関しては、古過ぎるか(out of date)、事実に基づかないもの(not by fact)が多い。6. したがって、最近のデータが必要であり、それらは経時的傾向を把握できるように作成されなければならない。7. データの改善には、少なくとも12カ月を要するとの見方もある。 このように、ナイジェリアの農業近代化の必要性は強く認識されているが、日系企業を含む外資が参入する場合には、よほどの工夫が必要となる。というのも、ナイジェリアの現状で直ちに農業増産を目指すのは非現実的だと考えられるからである。しかし、ナイジェリアに限らず、アフリカ全体の農業の実情を見わたした場合、肥料を使う農業生産者はまだ5%~7%に過ぎないとの見方もある。農地における化学薬品の使用が少ないのも、それらを購入する資金的余力がないから、というのが実情である。 このため、欧州等の近隣マーケットに輸出を開始している農業生産者の多くは、自らの食料品を「オーガニック」(無農薬生産物)と主張している。しかし、生産現場を見れば、先進国でイメージするような衛生面での安全性が確保されているとは限らない。したがって、農地における技術改良と優れた肥料の供給が必要なことは明らかであり、日系企業等がそれらを現地に供給することには大きな意義がある。 具体的には、信頼できる現地系ディストリビューターに商品を提供することがコツだとの見方もある。実際、農地での現場事業に投資することは非常に困難だと見るべきであろう。というのは、現地の気候等の環境条件や長年の伝統に基づく生活の知恵も含んだ農業生産活動については、何と言っても、現地人のほうが詳しいからである。したがって、いかにして信頼できる現地系ディストリビューターを見つけ得るかに掛かってくる。ここで「よほどの工夫が必要」と表現したのは、そのような意味である。 ナイジェリアにおいては、既に三つの肥料会社が存在するという。そのような状況下、肥料工場の経営もビジネス機会になるとの現地側の説明もあった。2010.1 Vol.44 No.170総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-16. 統計データの信頼性の欠如に関する注意 本稿では、日系企業がナイジェリアを投資先とする場合の注意点として、特に経済データの信頼性の不足、ヤラドゥア政権の安定性に対する懸念、治安問題について触れておきたい。産業統計データの不正確性については、ナイジェリア特有の問題というよりも、中国を含む途上国全体に共通する難点である。 中国でも統計の信頼性が大幅に向上してきたとはいえ、問題は依然、深刻である。たとえば、2000年の国勢調査でも、人口1,000万人規模の都市のデータがそっくりそのまま落ちていたことが判明し、データ作成のやり直しが必要になったほどであった。年間経済成長率に関しても、中国の全地域が北京の中央政府に報告するというよりも、中央政府側が「報告すべき地方行政単位」を選定する、という情報もある。つまり、中国の国民経済全体の成長率として公表されている数字が正確だとの前提に基づいて事業を起こすことは危険である。 中東諸国でも一般的に言えることとして、各国・地域それぞれの人口が増加しているのか、減少しているのかは、実際のところ「不明」だというケースも少なくない。昨今の国際社会の問題として「人口爆発」が挙げられているなか、これは由々しき事態だと言わざるを得ない。このような統計数値の信頼性の低さは、ナイジェリアにおいても例外ではない。 日系企業の現地駐在ビジネスマンにデータの信頼性について見解を求めたところ、次のような話があった。現実を端的に象徴しているので、ここに記録しておきたい。1. ナイジェリアには、そもそも戸籍制度というものがない。2. 数年前に人口調査が行われたが、その方法は一時的に外出禁止令を出し、調査員が各家庭を訪問してチェックする形であった。しかし、数百の言語・民族・部族と1億4,000万人規模ともされる大人口のなかで、このような方法が正確な統計数値の把握に役立つかどうかは極めて疑問である。3. パスポートに記載される年齢は、各自の自己申告ベースとなっている。4. 同国の2008年の自動車輸入台数は、通関局ベースで約3万台と公表されているが、現地に駐在する各社ビジネスマンの間で集めた数字では、「どう見ても、8万台に達している」。日本のメーカーはFOB(Free on Board)ベースでナイジェリア向けに輸出しているだけであるが、同国で発表される公的な数値よりはるかに正確なものを作成している。17. ヤラドゥア政権の安定性をめぐる諸要因 ヤラドゥア政権の安定性については依然、贈収賄等の腐敗問題、治安悪化問題、ヤラドゥア大統領本人の健康不安が挙げられる。ヤラドゥア本人が腐敗しているとの批判はあまり聞かれない。しかし、たとえ本人の言動はクリーンであっても、その家族が「いろいろな商売をしている」との批判も出ている。さらに、大統領本人の健康不安も長く付きまとっており、米国等の海外筋からも、「いつの時点で倒れても驚いてはならない」との懸念の声を聞いて久しい。 健康不安説を抱える同大統領の国家的指導力については、治安面でも大きな不安要因となっている。膨大な石油産出地域である南部のナイジャー・デルタ(ニジェール・デルタとも言う)での内戦に近い紛争や、北部で拡大した部族勢力やイスラム過激派と見なされる反政府勢力との軍事紛争等々が不安材料となっている。また、贈収賄等の腐敗だけでなく、大小のさまざまな詐欺事件の横行等も依然、大きなリスク要因とされている。 オバサンジョ前政権からヤラドゥア新政権に移行する大統領選挙(2007年4月実施)では、一部の投票所での混乱や騒乱等も発生し、その投票プロセス等をめぐってブッシュ・ジュニア米政権をはじめとする国際的批判も出た。そのため、「再選挙」の実施に踏み切らなければヤラドゥア新大統領の国家元首としての正当性や指導力が弱まるとの懸念の声もあったが、そのような「再選挙」は実施されなかった。当時の大統領選の効力をめぐる「無効訴訟」もあったが、2008年12月には最高裁で「不正はなく、大統領選は有効」との判決が下されている。71石油・天然ガスレビューAナリシス18. 南部のナイジャー・デルタ治安問題 同国南部の大油田地帯ナイジャー・デルタについては、欧米系外資企業の現地社員等の「約6割」が武装勢力による「拉致被害の経験者」と報道されたこともあるほど治安悪化問題が懸念事案となっている(ただし統計的な実態を正確につかむことは例によって不可能)。英国BBC放送が繰り返し特集を組んできたドキュメンタリーによれば、オバサンジョ前政権下で同地域の治安を担当すべき国軍部隊までが腐敗しており、武装勢力が数時間にわたって付近住民を襲撃し、略奪・殺傷行為を続けていても一向に出動せず、武装勢力の去った後に入ってきた国軍のほうもまた略奪まがいの行為に及んだとの証言も聞かれたという。 武装勢力側にも異なる主張を標榜する各派が存在し、その一部は政治的に「独立」を主張しているとされる。しかし、実際には大油田地帯の住民側に、「資源から上がるはずの富が一方的に外資に流れる傍ら、地方州政府から地元住民にはほとんど還元されていない」との不満があり、そのことがゲリラ行為や犯罪行為の底流にあるとされてきた。 この地域の問題をめぐっては、オバサンジョ前政権時代から解決へのさまざまな試みが繰り返されてきたが、ヤラドゥア現政権下における2009年の一連の努力については、表6のとおりである*24。 「60日間アムネスティ・プログラム」(60-day amnesty programme)と呼ばれる合意事項の要旨は、同地域で活動する武装勢力および犯罪集団等に対し、武装解除とプログラム参加を受け入れさせるのと引き換えに、それら武装勢力・犯罪集団のメンバーの起訴を免除することである。また同プログラムには、武装勢力や犯罪者に対し、再教育、社会的リハビリ、職業訓練、仕事やローンの提供等を通じて経済開発も進めることが含まれている。 2009年11月下旬、同国大統領府の高官が筆者に語ったところでは、問題解決への重要な手段の一つとして、内外企業による同地域での交通インフラへの投資が重要と強調した。さらに、発電、送電、配電の拡充も重要とのことであった。 また、同国NECの高官は、同アムネスティ・プログラムの要旨について、武装勢力の暴力行為を停止させ、その代わりに政治的プレゼンスを認める方針だとのことであった。新設のナイジャー・デルタ省(Ministry of Niger Delta)による同地域の統一的インフラ開発計画(integrated infrastructure plan)を含むマスター・プラン(Niger Delta Master Plan)の話も出た。 他方、連邦政府関係者の一部がこの合意の実施によって同地域の最大リスクであった治安問題は「ほぼ解決に向かう」と語ったのに対し、同NEC高官がナイジャー・デルタ問題の解決の最大障害要因として贈収賄の横行等、腐敗問題について強調したのは印象的であった。その具体的な説明によれば、中央政府ならびに地方政府、各種公的機関の他、石油企業等による純然たる贈収賄問題(purely corruption)が存在しており、その解決の可否表6ヤラドゥア現政権下における2009年の一連の努力2009年8月6日~10月4日【60日間アムネスティ・プログラム】武装勢力や犯罪集団がその武装を解除してプログラムに参加するよう合意させるのと引き換えに、これらの武装勢力や犯罪集団のメンバーの起訴を免除する。プログラムの目的:武装勢力や犯罪者の武装解除、再教育、社会的リハビリ等。連邦政府エージェンシーが元武装勢力に仕事を提供し、職業訓練を行い、ローンの提供を行うことで、ナイジャー・デルタの経済開発を加速する。目 標:ナイジャー・デルタの6州から最大1万人の武装勢力(militants)を更生させる。成 果:既に6,000人以上の武装勢力が武器回収センターに銃器等を引き渡した。2009年10月5日以降【ポスト・アムネスティ・パッケージ】ヤラドゥア大統領率いる連邦エグゼクティブ委員会(FEC=Federal Executive Council)がナイジャー・デルタ開発委員会(NDDC=Niger Delta Development Commission)のカバーする9州で44件のプロジェクトを実施するため、1,791億3,000万ナイラ(当該時期の換算レート$1=約150ナイラで11億9,420万米ドル前後に相当)の予算承認。プロジェクト: 建設事業の推進(橋、道路、排水溝、病院)、病院内設備(各種の医療器具も含む)等の確保、その他の優先事業として、飲料水、教育施設、環境影響評価プログラム等が含まれる。2009年11月4日議会に対して補正予算案(supplementary appropriation bill)を申請。申請額は、3,528億5,000万ナイラ(同上レート換算で約23億5,233万米ドル前後に相当)。出所: allAfrica.com、英ガーディアン紙、英ロイター、米ブルームバーグの報道内容に基づき、KRAが作成2010.1 Vol.44 No.172総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-「関係者が腐敗していないことが絶対条件だ」という当然の事実について、同高官が率直に言及したのであった。このように、正確な問題意識を抱き、それをストレートに認めて語ることができるのは大きな希望である。渡航の是非を検討してください。がナイジャー・デルタ治安問題の解消の鍵になるという。このため、ナイジェリア連邦政府は贈収賄等の犯罪行為に対し、非常に厳しい(tough)立場を維持しなければならないとのことであった*25。 また、同地域の住民の貧困(poverty)が根本的紛争原因となっているため、既述のPIB法案には石油収益の10%を地元コミュニティーの利益のために支払わなければならないとの規定が含まれている(ただし住民側の要求は13%)。これは、石油資源による富をできるだけ地元コミュニティーに委ねることで紛争解決を目指す努力の一環であるとのことであった。ナイジェリア国内には、堆積盆地(basins)が合計8カ所も存在するが、ナイジャー・デルタを除き、まだ7カ所の堆積盆地が手付かずで残されている。そのなかには1,000億バレル(含Bitumen、TarSand等)の重質油の存在がある*26。 いずれにせよ、2008年にはNDDCの高官が8億ナイラ(当時の$1=約130ナイラ換算で約610万米ドル)相当の贈収賄容疑で有罪判決を受ける等の事件も起きている*27。それだけに、翌2009年のアムネスティ・プログラムが有効に機能するためには図3渡航の延期をお勧めします。渡航の是非を検討してください。退避を勧告します。渡航は延期してください。退避を勧告します。渡航は延期してください。渡航の延期をお勧めします。渡航の是非を検討してください。十分注意してください。出所: 外務省 海外安全ホームページ http://www.anzen.mofa.go.jp/attached2/2009T196_1.gif (アクセス日:2009年11月28日)ナイジェリアに対する渡航情報(危険情報)の掲示19. 北部での紛争 北部のバウチ(Bauchi)州、ヨベ(Yobe)州、ボルノ(Borno)州およびカノ(Kano)州*28を中心に拡大した紛争に関しては、イスラム原理主義的な過激派の武装勢力による反政府活動が主な要因になっているとの見方もある。これらの武装勢力を指す「ナイジェリアのタリバン」との言葉も生まれている。 この勢力に対し、ナイジェリア国軍が制圧作戦を試みた結果、2009年には大規模な軍事衝突も発生した。しかし、武装勢力に参加しているのは失業者の続出する地元青年が多いとされており、やはり貧困問題を解決しなければ事態からの脱却は難しいとの分析もある。 他方、これら武装勢力は北の隣国ニジェールとの間を移動する部族単位の勢力だとの見方もある。このため、外交上の理由等でニジェール領内には入れないナイジェリア国軍の作戦効果は極めて「限定的」との見方もある。この地域での紛争については詳しい実情をつかむのが非常に困難であるが、いずれにしても貧困対策が重要であることに変わりはない。73石油・天然ガスレビュー0. 最近の主要な日・ナ両国協力活動動向等アナリシス 2008年5月、横浜で「第4回・東京国際アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ=The Fourth Tokyo International Conference on African Development)」が開催され、当時の福田康夫首相の主導下で北京におけるアフリカ会議(2006年)をはるかに上回る盛況を見た。その4カ月後の同年9月、TICADフォロー・アップ・ミッション(公式には「アフリカ貿易投資促進合同ミッション」)として、日本から政・官・財合同の三つの大規模ミッションがサブ・サハラ・アフリカの東部、南部、中・西部へ派遣された。アフリカ中・西部に派遣された大規模ミッションの目玉としては、双日株式会社が日・ナ両国間の資源パートナーシップを目指し、ガス・マスター・プラン(GMP)の一角を成す最重要天然ガス・パイプライン・プロジェクトの推進についてナイジェリア政府との間で合意(MOU)し、これを発表している。出所:筆者撮影、2009年11月21日写4日本の建築家・丹下健三氏が都市計画に携わった首都アブジャの風景まとめ1. ナイジェリア国内でビジネス活動を行う場合、一般なる。的に次のようなリスクが想定される。(4) その努力の継続に要する原資を確保するため、(1) 現地への訪問者または現地に駐在する関係者が拉致保険の保険料は非常に高い。拉致されるリスク。(2)経済要因から生じるリスク。(3)政治要因から生じるリスク。2. 拉致リスクへの対応としては、米国や英国等の保険会社、コンサルタント会社、民間軍事会社等々で取り扱っている拉致保険に加入する手段がある。(1) これらの拉致保険取り扱い企業の被害者救出率は、大手の場合、非常に高いと言っていい。(2) これらの企業も、表向きは「事件発生後」に救出活動を開始して「成功」してきたことになっているが、各国の軍・警察の実績をはるかに上回るだけの結果を出しており、平素からさまざまな独自ネットワークの構築努力をしていると考えるのが妥当だとされる。(3) 言うまでもなく、目まぐるしく変わる現地情勢下で、これらの企業がその独自ネットワークを効果的にフォローするには大量の資金が必要と(5) ただし、拉致事件が発生した場合の身代金問題については微妙な側面もある。例えば、英国政府は保険会社に対し、身代金の支払いを阻止すべく圧力を掛けているとされ、デイビッド・ミリバンド(David Miliband)英外相も、「法的には規定されていないが、身代金の支払いはすべきでない」と強調している。(6) しかし、途上国への進出を目指すビジネス界にとっては、プロジェクト関係者の身の安全を守る対策が非常に重要なことは言うまでもない。(7) また、拉致保険取り扱い企業がどのような手段を講じていても、その顧客が関知する必要はない。(8) 結論として、拉致保険は高コストではあるものの、かなり有効である。3. 経済面でのリスクに関しては、ナイジェリア国内の経済環境に起因するリスクと、企業のプロジェクト2010.1 Vol.44 No.174総ロ政治・経済情勢の読み取り方(1) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-そのものに起因するリスクの二つの側面がある。(1) 経済環境に関しては、本稿でも既にその概略をまとめた。(2) 企業レベルで立案するプロジェクトそのものに起因するリスクには、信用リスクを含めてさまざまなものがあるが、それは各企業内での分析事項に属する面が大きいため、本稿のテーマ外とする。4. 政治的要因に起因するリスクについては目下、さまざまな不確定・不安定な要因が存在するが、次の点に留意する必要がある。(1) 言うまでもなく、拉致保険の取り扱い企業が用意するナイジェリアの国家および各地域内の政治要因リスク分析等に過大な期待をかけることは問題である。(2) というのも、拉致保険取り扱い企業は現地での拉致危険度が高いことを最大限に強調するものの、その反面、対象地域の国家全体の不安定性や地域の不安定性については楽観的な報告をするのが一般的だからである。(3) 当然ながら、被保険者を顧客として集めるためには、現地で拉致事件に巻き込まれる確率が高いことを強調する必要がある。その反面、対象となる国・地域の政治的安定性を強調しなければ、そもそも現地への進出を検討していた顧客がそこでのプロジェクト自体を断念してしまいかねず、保険ビジネスに進展しないからである。5. 政治要因リスクへの対応策としては、現地における政治・経済情報網の確立・強化が重要である。6. 言うまでもなく、ナイジェリアの国家意思決定にかかわる政府高官や産業界に影響力を持つビジネス・リーダーとの接触の他、必要に応じて与党内の反大統領派、野党に属する政治家、反政府運動のリーダー等々との接触も試みることによって、立体的・総合的な情報の収集・分析に努めることも重要である。<註・解説>*1: 「チャタム・ハウス・ルール」とは、日本国内で馴染みの「オフレコ」(off the record)とは異なり、発言者名等の情報ソースを明らかにしない限り、その発言者や情報提供者から得た内容を引用・紹介することは許され、または、敢えて情報ソースを明らかにする場合には内容を明らかにしてはならない、とするルールである。これは世界的に知られているルールであり、英国王立国際問題研究所(RIIA=The Royal Institute of International Affairs)の現所在地チャタム・ハウス(ロンドン市内)に因んで名付けられたものだとされている。*2: 当時の日本の不良債権問題と経済不振の詳細(マクロ面も含む)については、たとえば、次の拙著を参照:小松啓一郎『複眼思考:忍び寄る国際経済危機~英国からの検証~』、JETRO、東京、2006年。*3: 詳しくは、たとえば次の拙稿を参照:「情報Abschliesung(鎖国)の危うさ~複眼なき戦略のゆくえ:Vol. 20 国際金融危機事情」、『月刊時評 2009年2月号』、時評社、東京、2009年。*4: 元ホワイト・ハウス国家安全保障会議(NSC=National Security Council)高官へのインタビュー、2009年11月23日。*5: 既掲(小松啓一郎『複眼思考:忍び寄る国際経済危機~英国からの検証~』)。*6: ナイジェリア石油省高官へのインタビュー、2009年11月20日。*7 : ただし、ナイジェリアの原油埋蔵量と天然ガス埋蔵量については、正式に誰かが調査しているわけではないとも されている。したがって、本稿ではナイジェリアに拠点を置く関連企業の内部調査資料に基づき、原油第9位、天然ガス第7位としている。また、BP統計(2008年)では原油埋蔵量第10位、天然ガス埋蔵量第8位となっている。http://www.bp.com/productlanding.do?categoryId=6929&contentId=7044622*8: 前掲。*9: Lagos Chamber of Commerce “YAR’ADUA’S SEVEN PLUS TWO POINT AGENDA TO TRANSFORM NIGERIA”, 1August 2007. http://www.lagoschamber.com/Biz_Econ/Seven%20point%20Agenda/Seven%20Point%20Agenda.pdf (Accessed 28 November 2009)*10: ナイジェリア連邦政府の大統領府高官へのインタビュー、2009年11月19日。*11: 前掲。75石油・天然ガスレビューAナリシス*12: 前掲。*13: 前掲。*14: Oil and Gas Sector Reforms Implementation Committee, “Final Report”, July 2008.*15: NNPC, “The Draft Petroleum Industry Bill 2009”, July 2009.*16: Ibid.*17: Ibid.*18: NEC高官へのインタビュー、2009年11月19日。*19: Nigerian Gas Master Planについては同サイトで更新中 http://www.ngmproadshow.com/ (Accessed 29 November 2009).*20: 既掲(ナイジェリア石油省高官へのインタビュー、2009年11月20日)。*21: 農業政策アドバイザーとして農業政策立案を受託中のPwC(PricewaterhouseCoopers Limited)担当者へのインタビュー、2009年11月19日。*22: 前掲。*23: 前掲。*24: アムネスティはその性格上、実質的解決を優先する目的で法的根拠を曖昧にせざるを得ない面がある等、合意 内容の詳細を正確につかむことは事実上、不可能と考えるのが妥当。ただし、報道内容等については、たとえば、 次の資料を参照。Guardian“Nigeria begins amnesty for Niger Delta militants”, 6 August 2009. http://www.guardian.co.uk/world/2009/aug/06/niger-delta-militants-amnesty-launched(Accessed 29 November 2009)、 Bloomberg “Nigeria Commences Post-Amnesty Program After Deadline Passes”, 5 October 2009. http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601116&sid=axvwbY0Qicnc(Accessed 29 November 2009)、 Reuters“Nigerian rebel leaders give up arms in amnesty deal”, 3 October 2009. http://www.reuters.com/article/latestCrisis/idUSL3428248(Accessed 29 November 2009)、allAfrica “Nigeria: FG And Post Amnesty Projects”, 17 November 2009. http://allafrica.com/stories/200911180638.html(Accessed 29 November 2009)*25: 既掲 (NEC高官へのインタビュー、2009年11月19日)。*26: 前掲。*27: BBC“Doubts over Niger Delta ministry”, 11 September 2008. http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/africa/7609904.stm(Accessed 29 November 2009)*28: 外務省「ナイジェリア:北部4州における治安部隊とイスラム過激派の衝突に伴う注意喚起」、2009年7月28日。http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info.asp?num=2009C249(アクセス日:2009年11月29日)。執筆者紹介小松 啓一郎(こまつ けいいちろう)〈学 歴〉 1990年、英国オックスフォード大学・政治経済学部に学士入学。1991年、同大学大学院進級。同大学東洋学研究所にて「日本経済」担当非常勤講師。1994年12月、同大学大学院にてD.Phil.(博士号)取得(政治学・国際関係論)。〈職 歴〉 1979年、商工中金に入行。中小企業向け金融業務(東京)および為替トレーダー(ニューヨーク)等。1995年、世界銀行・海外民間投資促進コンサルタント(サブ・サハラ・アフリカ地域開発局)としてマダガスカルおよびモーリシャスの開発に従事。1996年、英国通商産業省・上級貿易アドバイザー(初代)に就任(ジェトロ長期専門家)。新設官庁・英国海外貿易総省(現UKTI)設立業務等にも従事。1999年、英国海外貿易総省・上級貿易アドバイザー(初代)。2000年、エジプト政府支援のため産業振興調査に従事(ジェトロ短期専門家)。以降、業務委託ベースで全世界を対象とする調査・報告(新規ビジネス機会およびカントリー・リスクの情報収集・分析)に従事。2005年、在英Komatsu Research & Advisory設立(日系、欧米系、途上国企業等へのアドバイザリー業務)。NGO「地球環境平和財団」(本部・東京)の欧州代表(ボランティア・ベース)も務め、2003年以降はUNEP(国連環境計画、本部・ナイロビ)との共同プロジェクト「地球の森プロジェクト」の立ち上げから参加。米国カータス社(旧センダント・インターカルチュアル社)、プルーデンシャル社、ベルリッツ社、英国IOR社にて異文化間ビジネス研修教官等を兼務。2008年、マダガスカル共和国大統領・特別顧問に就任。〈その他〉 英国王立国際問題研究所会員、英国国際戦略研究所会員、成城大学経済研究所研究員、オックスフォード大学国際問題研究センター会員、ケンブリッジ大学日英協会会員。〈近 況〉在英ポリティカル・アナリスト兼エコノミストとしてBBCニュースに頻繁出演。 2010.1 Vol.44 No.176
地域1 アフリカ
国1 ナイジェリア
地域2 グローバル
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,ナイジェリアグローバル
2010/01/20 [ 2010年01月号 ] 小松 啓一郎
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

本レポートはPDFファイルでのご提供となります。

上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。