ページ番号1006399 更新日 平成30年2月16日

油・ガス層シミュレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチング

レポート属性
レポートID 1006399
作成日 2010-03-19 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 倉本 大輔
年度 2010
Vol 44
No 2
ページ数
抽出データ アナリシスJOGMEC 技術調査部倉本 大輔油・ガス層シミュレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチングはじめに 油層シミュレーションは、開発計画の策定および最適化、油・ガス層の生産管理において、静的データ(物理検層、地震探査)と動的データ(坑井試験、生産履歴)を統合することにより精緻なシミュレーションモデルを構築し、可採埋蔵量評価と生産予測を行うためのツールとして活用されている。しかし、モデルから得られた結果は地下の地質・流体特性に起因するさまざまな不確実性を内包するため、近年では確率論的な評価手法によって不確実性の定量化が検討されており、弊資源機構(JOGMEC)においても、これまで確率論的な不確実性評価に関する調査を実施してきたところである。しかし、近年のコンピューター処理速度の向上や周辺技術の発展により、ヒストリーマッチング等を含めた不確実性評価の手法に進歩が見られるため、その取りまとめを行うことにした。1.不確実性評価手法シミュレーションを実行する必要があり、客観性を持ったモデルによって不確実性要素が網羅されていることが出所:GCA社作成図1Reservoir Modeling Workflow しんょく捗ち 油層シミュレーションモデルを活用した評価は、プロジェクトの開発移行や生産開始後の開発・生産計画の最適化等を目的に実施され、一般的な油層のモデル化、生産予測は図1の流れで行われる。この時、可採埋蔵量や生産予測に関する不確実性評価はプロジェクトの進段階によって求められる精度や投資可能な時間的・人的コストが異なる。開発移行時の場合、試探掘井の掘削密度が低いことが多いために地下の構造形態や坑井間の情報に乏しく、地質的にも不確実性が残されている場合が多い。また、油ガス田内部の流体挙動を把握できるデータが少なく、動的な再現性において不確実性が大きい。このため、多様な流体挙動に関するパラメーターとモデルを想定するだけでなく、地質的なコンセプト(例:構造形態)を複数用意することでできる限り多くの状況を考慮することが重要となる。 生産開始後の場合、既存のシミュレーションモデルに実際の生産履歴を再現させるためのモデル調整(ヒストリーマッチング)が必要になる。これは流体挙動に関するモデルの修正だけでなく、構造形態など地質モデルの更新につながる場合もあるため、時間的・人的コストを多大に消費する。どちらの場合においても、多くの油層61石油・天然ガスレビューAナリシス重要になる。これらの条件を満たすために、StochasticModeling(確率論的モデリング)やResponseSurfaceMethod(応答曲面法)といった手法を用いた評価のワークフローが考案されている。ここからは、不確実性評価の骨子となる手法について紹介する。①多数のRealizationモデルを構築し、原始埋蔵量の確率分布を作成 ここでは、孔隙率や浸透率の性状に関するRealizationだけでなく、構造形態や堆積環境等のシナリオも含めて原始埋蔵量分布を作成する。1.1. Stochastic Modeling(確率論的モデリング) 近年の不確実性評価では、油層モデルに客観性を持たせることを目的としたStochasticModelingが主流になっている。取り扱うことができるシミュレーションの規模が拡大した現在においても、1本の坑井から得られる情報はその周辺部分に限定されているため、坑井間の性状については実際の坑井情報を基にした予測が行われる。この予測に客観性を与えるために地質推計学を利用した手法(GeostatisticalMethod)を用いている。GeostatisticalMethodは既存坑井の情報を基に発生確率の等しい油層モデル(Realization)を客観的に複数作成できることが知られている。 GeostatisticalMethodは多くの手法が開発されているが、大別すると複数の坑井データとその間隔から、坑井間を補間するPixel-basedとチャネル等の地質的なコンセプトを取り込むObject-basedの2種類に分類されている。どちらを採用するにせよ複数のRealizationを持つモデルを作成し、最も発生すると判断できるモデルを採用することで油層シミュレーションに使用する。比較的情報が少なく構造形態や坑井間を再現したモデルに幾つかの地質的な選択肢(シナリオ)が認められる場合には、それぞれのシナリオが独立したものとしてとらえ、発生確率を設定する(デシジョンツリー)。 この場合、各シナリオでRealizationを考慮したモデルを構築する。シナリオには貯留岩の堆積環境や貯留岩の供給された方角および連続性、構造解釈といった根本的な事項が選択され、これらが不確実性の主因となる場合が多い。そのため、シナリオの発生確率やそれぞれのシナリオにおけるRealizationを深く考察することが必要である。また、シナリオの発生確率は知見に委ねられる部分が大きいため設定方法には課題が残っている。 これらの手法を用いて作成された複数のRealizationを持つモデルを基に油層シミュレーションを行い、不確実性評価を実施することが理想ではあるが、これは、シミュレーションの実行回数が膨大になり現実的には不可能である。油層シミュレーション用のRealizationの選択方法には幾つか手法が存在するが、一例として以下に手順を挙げる。② ①の原始埋蔵量分布から任意の確率のモデルを選択 原始埋蔵量分布の全域に広がるようにP0からP100まで5%間隔に抽出することで21モデル、代表的な基準値であるP90-P50-P10近傍でそれぞれ10程度のモデルを抽出し、合計で51モデルを選択する。③油層シミュレーションを行い、暫定的な可採埋蔵量の確率分布を作成 ここでは、流体性状・開発計画等の地質モデルに影響のない要素はすべて同じ条件にした上で②で選択した油層モデルを基にシミュレーションを行い、動的な要素の不確実性評価に使用する油層モデルを決定するための暫定的な可採埋蔵量分布を算定する。④ 油層モデルの選択 各モデルの原始埋蔵量と可採埋蔵量を図2のようにグラフに落とし、原始、および可採埋蔵量分布から得られたP10・P50・P90を組み合わせてモデルを選択する。 例として挙げた図2の下段では、赤のシンボル近傍のモデルが動的な要素の不確実性評価に使用された。以上のような手順で抽出された五つのRealizationを基にして後述のResponseSurfaceModelingとExperimentalDesignを利用した油層シミュレーションを行う。1.2. Response Surface Method(応答曲面法) 油層シミュレーションによる評価では、モデルに含まれる多くの不確実性要素を評価するために各要素を変動させることで、それぞれの要素がどの程度、回収率や可採埋蔵量、生産予測等に影響を与えるかを考察すること(感度分析)が目的となる。ResponseSurfaceMethod(以下、RSM)は、上記の感度分析によるシミュレーション結果とさまざまな不確実性要素を相関式として単純化する手法である。この単純化モデルにより、各要素に設定した範囲内で変化させた結果を、シミュレーションを用いることなく相関式で予測することが可能になる。この相関式に採用された各要素に対して確率分布を与えてモンテカルロシミュレーションを行うことで評価結果として可採埋蔵量等の分布を得ることができる。2010.3 Vol.44 No.262bsolute permeabilityHorizontal barriers in upperFaults transmissivity Skin of injectorRelative permeabilityHorizontal barriers in lowerInjectivity indexSolution GOR024681210Time (Years)1416182022KabsKrBarUBarLFltIIPfIISkRs180160140120100806040200?20?40Main E?ect on Recovery(MMBbl).91 00.80.70.60.50.40.30.20.101401201008060402001,3001,2001,1001,000900800700600油・ガス層シュミレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチングAll simulationsSelected for further simulations出所:SPE65205を基にGCA社作成出所:SPE65205を基にGCA社作成図2Realizationの選択図3要素の選択方法の例 通常、各要素を一つずつ変動させることで感度分析を行うことが多い(OneFactorAtATime、以下、OFAAT)。近年のコンピューターの処理能力向上を受けて1回のシミュレーション時間は短縮されたが、さまざまな不確実性要素を想定する場合や、より精緻な油層モデルを構築する場合があるため、シミュレーションに費やす時間には大幅な短縮は見られず、現実的な評価作業にはそぐわないことが多い。そのため、医学・農学の分野で発展してきた実験計画法(ExperimentalDesign、以下、ED)を応用し、シミュレーション回数を減少させて効率的に感度分析を実施することが模索されている。 一般的にEDを応用したRSMによる評価は以下のような手順で実施される。① 不確実性要素の抽出② シミュレーションモデルの単純化 ①と②においてEDを適用する意義は、ScreeningDesignに分類されるものを利用することでシミュレーション回数の効率化を図ることにある。不確実性要素数をNとし、各要素について2水準(上限値と下限値)を設定したと仮定すると、OFAATでは基本ケースを含めて『2N+1』回のシミュレーションが必要になる。これに対し、ScreeningDesignとしてPlackett-Burman法やFractionalFactorial法を適用することで、シミュレーション回数を減少させて不確実性要素を選択することができる。この時点では、要素同士の相互作用については考慮しない場合が多く、単純化モデルは1次の多項式(y=β0+β1・x1+β2・x2+…+βp・xp+ε)が採用される。また、要素を選択する際、影響度の高い要素は評価者が評価したい項目(例えば回収率・可採埋蔵量・水付き時期・ピーク生産年数など)によって異なり、回収率や可採埋蔵量については生産期間によっても異なる。そのため各要素の影響度比較に加え、感度分析に時間的な変化を取り込んだチャート(例:図3)を作成することで影響度の高い要素を選択する。③ 選択された要素による単純化モデルの最適化と調整 ここではEDとしてModelingDesignに分類されるも63石油・天然ガスレビューAナリシス分野の技術者の地下の地質・流体特性についての知見が必須である。 1.1.と1.2.を通して不確実性要素の確率論的な評価を実施するための手法と手順について簡単に紹介した。次項ではヒストリーマッチングと不確実性評価について述べる。11x12+…+βppx2のが適用され、不確実性要素が持つと思われる範囲で可能な限り油層シミュレーションと単純化モデルの結果を一致させること(最適化)が目的となる。また、単純化モデルも2次の多項式(y=β0+β1・x1+…+βp・xp+p+β12x1x2+…+βp-1,pxp-1xp+ε)βを採用することで、要素同士の相互作用を検証することになる。図4に3要素、2水準の場合のModelingDesignを適用した例を示す。 図4の上段を、既にScreeningDesignによって影響度の高い要素は2個に絞られた段階としている。x2の要素は影響度が低いため、x1およびx3の要素が取り得る値の範囲を示す灰色に塗られた面において単純化モデルの最適化を行う。図4の中段では、最適化を検証するためのシミュレーション入力値の候補を決定する。2次の多項式を用いて単純化している場合、最適化のためにはシミュレーションが既に行われている点同士の中間点が追加シミュレーションの候補となる(Candidatepoints)。これらの候補を基に実際のシミュレーションを行う点(Selectedpoints)を選択し、単純化モデルの最適化を行う。ここまでの流れで利用するのがModelingDesignである。図4の下段は単純化モデルの精度を検証するためにシミュレーションを実施した点を示している。この最適化と精度の検証は繰り返し行うことが求められる。④ 単純化モデルを利用したモンテカルロシミュレー ション ここでは、モンテカルロシミュレーションを行う際に、各要素に対する確率分布設定が必要となる。分布形状や分布の幅は対象構造の情報を基に経験的に判断される部分が大きい。分布形状には一般的に、正規分布・対数正規分布・三角分布・一様分布などが使用される。各要素の取り得る幅は評価結果に大きく影響を与えるため、各出所:GCA社作成図4Modeling Designの一例2.ヒストリーマッチング2.1. ヒストリーマッチングと不確実性評価 前項では、シナリオやRealizationを考慮して複数の地質および油層モデルを構築し、それぞれのモデルで多数の要素を効率的に変動させる手法について述べた。この項では不確実性評価を行う際に生産履歴が存在する場合、ヒストリーマッチングが不確実性評価の流れにどのように関連するかを述べる。 ヒストリーマッチングは、実際のフィールドで得られた生産履歴(各流体の生産量、坑底圧力等)にシミュレーションによって得られる生産予測を一致させ、油層挙動を把握することが目的である。作業ワークフローは既出の図1と組み合わせて示せば図5のようになる。 この作業では、すべての生産履歴に予測を一致させることが難しいため、プロジェクトの将来に重要な意味を2010.3 Vol.44 No.264禔Eガス層シュミレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチングReservoir ModelingWorkflowHistory MatchingWorkflow出所:GCA社作成図5Reservoir Modeling Workflow with History Matching持つ履歴のみを一致させることが多い。また、従来のマッチング作業はパラメーターを順次変動させ、シミュレーションを試行錯誤しながら繰り返すため、非常に時間が掛かる作業である。前項で述べたように近年の不確実性評価手法では複数のモデルを用いた油層シミュレーションを必要とするため、すべてのモデルにヒストリーマッチング作業を行うことは実際的に困難となる。このマッチング作業を効率化・自動化させる試み(AssistedHistoryMatching,以下、AHM)は10年以上前から行われており、なかでも近年開発された手法については実際の評価でも使用できるようになり始めたことから支持を得ている。ただし、従来の手法を利用している技術者は依然として多い。 前項の不確実性評価と比較して、ヒストリーマッチングを含めた不確実性評価においては幾つか問題が発生する。一つは、従来の手法のように要素を一つずつ変動させる感度分析やRSMを利用した評価を行う場合、モデルに与える影響が大きい要素は不確実性要素でもあるため、マッチングさせた要素を再度、不確実性評価のために変動させるとマッチングそのものが無意味になることが挙げられる。二つ目に、複数のモデルでマッチングが成功した場合でも、すべてのマッチングモデルを網羅できているか確認する手段がないことが挙げられる。以下にAHMの手法で現在の主流となっているものを紹介する。2.2. Assisted History Matching 現在、商用ソフトウェア等が開発され主流となっているのは以下の手法である。① Gradient-Based Method Gradient-BasedMethodは1990年代に利用が試みられた手法で、生産履歴とシミュレーション結果の差を基にObjectiveFunction(以下、目的関数)を作成し、これを最小化することでヒストリーマッチングの解を検索する手法である。目的関数の数値の最小化という作業自体は、後述するRSMやGeneticAlgorithmでも存在するため、現在では単体ではなく他の手法と組み合わせることでシミュレーションモデルや代替モデルの微調整に利用されることが多い。初期の手法では浸透率や孔隙率の係数を合わせることが多かったが、現在ではマッチングさせたいパラメーターによって計算方法を変更することで粘性や流体の界面深度(例えば油水界面)等の他の要素にも適用できるようになっている。この手法の欠点としてパラメーターを一つずつ修正していく方法であるため、手間がかかることが挙げられ、マッチングパラメーターが多いほど時間を要することになる。この手法を利用している商用ソフトウェアとしてSchlumberger社の65石油・天然ガスレビューIMOPTとIFP(InstitutFrancaisduPetrole)のCONDORが挙げられる。② RSM 1.2.で述べたようにRSMはシミュレーションモデルを数式で単純化する手法である。この手法は生産履歴が存在しない場合と同様、EDとともに利用されることが多い。また、考察すべき不確実性要素が存在する領域がヒストリーマッチングによって狭まるため、単純化されたモデルがその領域でシミュレーションモデルを正確に再現できるかが重要になる。不確実性評価の基本的な流れは生産履歴が存在しない場合とほぼ同様であり、シミュレーションへの影響度を考慮した要素の選択手法に差異はない。しかし、ヒストリーマッチングのために生産履歴が存在するそれぞれの時系列で、RSMを利用し生産履歴の単純化モデルを、もしくは生産履歴とシミュレーション結果の差異から求められる目的関数の単純化モデルを構築することが異なる点である。 単純化モデルの最適化において、単純化されたモデルが不確実性要素の領域でシミュレーションモデルを再現しない場合には、不確実性要素の追加や要素が変動すると想定した範囲の拡大を行う。複数の良好なマッチング結果が得られた場合、マッチング結果の分布が重要になる。abアナリシス 例として図6のような場合を想定する。図6aのようにマッチング結果がある範囲に集中して得られると、その不確実性要素の範囲を狭めることで生産予測の不確実性を低下させても問題は発生しない。ただし、図6bのようにマッチング結果が偏在して得られた場合には、範囲を狭めることで本来考慮すべき生産予測が欠落する可能性がある。 この手法の利点はさまざまなシミュレーターに対応できること、主流となっている複数CPUを持つコンピューター環境に対応することで計算の高速化が図れることが挙げられる。また、Gradient-BasedMethodと異なり、さまざまな要素を同時に複数選択して単純化するためパラメーター同士の相関も導くことが可能である。この手法の欠点としては、簡易的にシミュレーション結果を再現することを目的として単純化されたモデルはシミュレーションモデルそのものではなく、単純化モデルの精度に寄与する部分が大きくなってしまうことが挙げられる。このEDとRSMの組み合わせによる手法は現在、AHMのなかで一般的なものの一つとなっており、商用ソフトウェアとしてRoxar社のEnABLEが利用されている。Shell、Chevron、Total、Statoilなどの石油会社からは、この手法を改良した手法が公表されている。ただし、RSMに求める精度や最適化の度合い等から試験的な手法として扱われており、各社ともこの手法を自社の評価ワークフローとして正式に採用しているわけではない。③ Genetic Algorithm GeneticAlgorithm(GA)は遺伝子アルゴリズムの概念を疑似的に模した手法で、さまざまな手順でモデルを淘汰する方法が開発されている。基本的な流れとしては図7で表される。 ヒストリーマッチングにおいては、それぞれの不確実出所:GCA社作成出所:GCA社作成図6Reducing Uncertainty Range図7Genetic Algorithm2010.3 Vol.44 No.266禔Eガス層シュミレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチング性要素を組み合わせることで構築した油層モデルを初期(Parent)モデルとし、このParentモデルを基にChildモデルを作成する。Childモデルは①単純なParentの複製モデル、②Parentを組み合わせたモデル、③Parentの性状等を無作為に変動させたモデルに分類される。③を作成することでヒストリーマッチングの解が初期モデルに拘束されることがないように調整している。これらの内容で作成された多数のChildモデルに対してヒストリーマッチングを実施し、生産履歴とシミュレーション結果の差異から求められる目的関数を用いて、そのモデルのマッチング精度を検証する。 このマッチング精度はChildモデルの多様性を保持するため厳密にする必要はない。ここまでの作業を反復することでマッチング精度向上への適合度が高い「Childモデル」だけが残り目的関数が順次小さくなり、各モデルで目的関数が均一化されると反復終了となる。終了時に残った複数のモデルが生産予測に用いられる。242220181614121591317212529出所:SPE100193図8目的関数の変化 この手法の利点として、目的関数でヒストリーマッチングの精度を検査するが、その最小化が目標ではないため、対象とする不確実性要素やシミュレーションソフトウェア等に融通が利くことが挙げられる。また、不確実性要素の取り得る広い範囲を検索することが可能で、RSM同様に複数CPUを持つ環境に対応することで計算の高速化が図れることも挙げられる。他方、欠点として、この手法は言い換えれば総あたり方式による不確実性要素の検索であるため、非常にシミュレーション時間が掛かることが挙げられる。また、Childモデルの多様性を保持して得られるChildモデルが似通ったものになるこ67石油・天然ガスレビューとを避けるために、マッチング精度にある程度の幅を持たせる。そのため、反復終了後の各モデルに対して調整を加えることが必要になる。GAを利用する商用ソフトウェアはSPTGroupのMEPOやLandmark社のDecisionSpaceDMSが挙げられる。2.3. その他のAssisted History Matching手法 ここでは、2.2.で紹介した手法以外で、今後の発展が期待され研究が進められている手法について紹介する。① Streamline-Based Method Streamlineを利用した油層シミュレーションは、水攻法等の油層内における流体の掃攻を取り扱う場合に適している。幾つか物理的性質(非圧縮性流体等)を仮定した上ではあるが、一般的なシミュレーションソフトウェアよりも計算速度の面で優れていることが知られている。また、計算された圧力分布から油層のどの位置をStreamlineが通過するか予測できるため、流体挙動を可視化しやすいことも特徴として挙げられる。これらの特徴を利用した手法が米国のスタンフォード大学とStreamSimTechnology社で共同研究されている。この研究では、生産履歴を油層モデルに反映させる方法として、生産井・圧入井を結ぶStreamlineを示すことで、どの坑井がどの領域に影響を与えているか確認し、各領域の孔隙率や浸透率の補正係数を判別している。この補正係数は単純にモデルに適用されるわけではなく、GeostatisticalMethodのパラメーターとして利用することで地質的な整合性を保持することが可能となっている。ただ、この手法では、シミュレーションモデルがある程度詳細なグリッドで表現されていないと良いマッチング結果が得られない。また、シミュレーションとモデル調整を繰り返すなかでStreamlineが通過する位置が変化する可能性もあるため、通過領域の設定が困難になる場合もある。② Ensemble Kalman Filter EnsembleKalmanFilter(EnKF)は、シミュレーションモデルに含まれる不確実性要素を、時系列にそって発生する観測値に基づいて適切な数値に順次修正していくデータ同化手法の1つである。EnKFは気象予測等に利用されていた手法で、油層シミュレーションには最近になって導入が検討されている。気象予測も生産予測もシミュレーションモデルを継続的に更新していくなど類似点もあるが、EnKFがどの程度油層シミュレーションにL用であるかは研究が続けられている。 油層シミュレーションにおけるEnKFの手順は次のようになっている。・不確実性要素やRealizationの異なる初期油層モデルを複数構築最初の生産履歴までシミュレーションを実施生産履歴に合わせたシミュレーションモデルの更新最後の生産履歴まで順次シミュレーションとモデル更新を反復・・・ このようにEnKFを利用したヒストリーマッチングには、シミュレーションの途中でモデルの内容を繰り返し変更するため従来の手法と根本的に異なる点がある。実際に使用する場合、生産履歴の最後に変更したモデルを利用して履歴全体の整合性を検証することは必須となる。また、最初に用意するモデルの数で評価できる不確アナリシス実性要素の数が決定されるため、実際の作業ですべての要素を網羅することは難しい。出所:GCA社作成図9EnKFの概念3.主要石油会社の動向 不確実性評価とヒストリーマッチングに関して、北米および欧州の主要石油会社、コンサルタント、大学にインタビュー調査を実施した。その結果、メジャー、独立系石油会社では14社から回答を得た。が、評価手法を適切に使用するためのトレーニング実施が必要であること、評価用ソフトウェア/ハードウェアのリソース確保という点では、手間と経済的コストがかかることを難点として挙げている。3.1. 不確実性評価 多くのメジャーや規模の大きな独立系石油開発会社はモンテカルロシミュレーションやRSMとEDを利用した確率論的な不確実性評価を採用しているが、各社ともその内容はさまざまで、評価ワークフローが確立されているわけではない。また、評価者の経験や手法に関する熟練度によって評価結果の精度や必要な時間に差が出てくるため、各社とも評価法の熟練度向上や不確実性要素の確率分布設定に腐心している。 各社の不確実性評価は主に未開発プロジェクトに対して実施されているが、すべてのプロジェクトで実施しているわけではなく、メジャーでも50%前後のプロジェクトでの適用にとどまっている。また、開発コンセプトの選定や開発計画の策定時に不確実性評価を適用する場合が最も多いが、評価手法の技術的な問題点として開発計画を変動要因として評価に組み込むという理由から、作業の試行錯誤が続いている。 多くの会社は不確実性評価を実施することで油層挙動やプロジェクトリスクの把握に役立てたと述べている3.2. ヒストリーマッチング AHMの運用は会社の規模によって異なる傾向が出ている。インタビュー調査を実施した独立系石油会社のうちでも、比較的規模の小さい3社はAHMを運用しておらず、メジャーを含む規模の大きな8社では商用ソフトウェアを利用しAHMを運用している。メジャーの上位3社はRSMとGAのいずれかを採用したAHM用のソフトウェアを利用している。各社ともAHMを生産開始後の比較的不確実性の高い時期に適用しているが、プロジェクト全体の30%程度、多くとも50%程度であり、他のプロジェクトは従来の手法を用いた生産予測のみを実施している。 各社ともAHMは、不確実性評価のために複数のマッチングモデルを得るだけではなく、評価の高速化と、より精度の高いマッチングモデルを構築するために使用している。また、AHMはこの10年間で明らかに改良されたが、マッチング作業にはいまだに時間が掛かる。そのため、従来のマッチング手法を用いて油層挙動を迅速かつ的確に理解することも重要であるととらえている。2010.3 Vol.44 No.268禔Eガス層シュミレーションにおける不確実性評価とヒストリーマッチング4.今後の検討課題 本稿は、平成20年度までに実施した不確実性評価・ヒストリーマッチングに関する報告を中心に取りまとめたものである。同報告書と関連文献から不確実性評価の現状と課題が確認された。 未開発油田に関する確率論的な不確実性評価は、GeostatisticalMethodによるRealizationの取り扱いやRSMにおけるEDの運用方法に差異が見られ、完全には確立されていないが、海外のメジャーでも根本的な運用方法に大きな違いは認められない。また、要素の選択基準や確率分布の設定基準には評価者の経験により設定しなければならない部分が残されており、評価の客観性を確保するためにも地質・物理探査等の他分野の技術者との議論は不可欠であることも忘れてはならない。今後は地下の静的・動的な要素の整合性をより高める評価手法だけではなく、最終的には地上設備まで含めた評価を行うことが期待されている。 既生産油田に関する確率論的な不確実性評価については、未生産油田の評価の流れを基にAHM手法を導入した開発が進んでいる。現在は、精度や利便性の面で実用に耐える商用ソフトウェアが現れたこともあり、RSMおよびGAを利用した手法が主流となっている。また、AHMの適用によって作業の自動化が進んでも、従来のマッチング手法によって流体挙動を把握する作業は依然として必要であると思われる。今後、別のAHM手法も含めて適用例は増加し、マッチング要素の選択や求めるマッチング精度にある程度の基準が確立できることを期待したい。 今回実施したAHMを含めた不確実性評価手法の調査結果は、従来の評価手法の確認と今後のJOGMECの石油開発プロジェクトの技術面からの評価手法の方向性を検討する上で非常に興味深いものであった。今後も継続的に不確実性評価手法、AHMの手法について動向を把握し、評価手法改良の一助としていきたい。【参考文献】1.JohnW.Barker(Gaffney,Cline&Associates2009):PracticalReservoirSimulation:HistoryMatchingandUncertaintyEvaluation2. 難波隆夫,田中弘樹,加藤隆明:確率論的な可採埋蔵量評価及び生産予測の現状と課題,石油・天然ガスレビュー,2002.11,12-193. 牧嶋憲,川井健史,高山邦明:実験計画法を用いた貯留層の不確実性評価,石油技術協会誌,第72巻第6号,2007.11,570-5764. B.Corre,P.Thore,V.deFeraudyandG.Vincent:IntegratedUncertaintyAssessmentForProjectEvaluationandRiskAnalysis,SPE652055. B.Yeten,A.Castellini,B.Guyaguler,andW.H.Chen:AComparisonStudyonExperimentalDesignandResponseSurfaceMethodologies,SPE933476. B.Griess,A.DiabandR.Schulze-Riegert:ApplicationofGlobalOptimizationTechniquesforModelValidationandPredictionScenariosofaNorthAfricanOilField,SPE100193執筆者紹介倉本 大輔(くらもと だいすけ)〈学 歴〉2005年、早稲田大学大学院理工学研究科環境資源および材料理工学専攻(修士課程)修了〈職 歴〉2005年、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構入構。入機構後、約8カ月間の帝国石油株式会社(現・国際石油開発帝石株式会社)での研修を経て、開発技術課に配属。開発技術課では探鉱出資・債務保証事業の技術評価・プロジェクト管理業務の他、技術動向調査事業として最新技術の情報収集に従事。〈趣 味〉読書と酒、時々ゴルフ。69石油・天然ガスレビュー
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2010/03/19 [ 2010年03月号 ] 倉本 大輔
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