ページ番号1006404 更新日 平成30年2月16日

国際政治・経済情勢の読み取り方(3) ― 石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として ―

レポート属性
レポートID 1006404
作成日 2010-05-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般基礎情報
著者
著者直接入力 小松 啓一郎
年度 2010
Vol 44
No 3
ページ数
抽出データ アナリシスKomatsu Research & Advisory小松 啓一郎国際政治・経済情勢の読み取り方(3)― 石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として ―はじめにニジェールニジェールアブジャ図1中央アフリカ中央アフリカカメルーンカメルーンラゴス大西洋ベナンベナンナイジェリアナイジェリア出所:JOGMECナイジェリアの位置 今回は本シリーズの第3稿として、引き続き、最新の国際政治・経済情勢の動向を観察するとともに、前稿まで具体的事例として取り上げてきたナイジェリア情勢のその後の動きも見てみたい。 本稿の執筆は2010年3月末時点であるが、それに2カ月ほど先立つ前稿執筆時点(同年1月末)以降、国際金融情勢の流れに極端な変化は見られない。つまり、2008年9月15日の米系証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)倒産とその直後のメリル・リンチ(Merrill Lynch)、AIG等の米主要金融機関の連続破綻(以下、「リーマン・ショック」と表示)、それに続くアイスランド金融危機に始まり、2009年11月下旬からのドバイ金融危機を経て本格化したソブリン債、サブ・ソブリン債への国際的信用不安は、さらにギリシャやポルトガル等、欧州各国が発行する国債の格付け危機にまで発展しているが、なおも抜本的な改善への見通しは立っていないのが実情である。 これと関連して問題化しつつある日英両国の国債についても、将来の格付け引き下げ不安が強まっていることに変わりはない。この問題は両国の国民経済をさらなる危機に陥れる要因となり得るため、非常に注意を要する。 さらに、前稿でも触れたアフガニスタン情勢やイラク情勢についても治安が深刻であることに変わりはない。前稿の執筆以降、アフガン南部では米軍中心の国際部隊が過去最大級の軍事作戦を開始した。また、イラクでは総選挙が実施された。しかし、一部のメディアが報じる希望的観測にもかかわらず、両国では、今後の治安悪化を防止できる兆候や根拠は見えていない。イスラエル・イラン情勢も緊張度が高まる一方と予想される。 他方、ナイジェリア情勢については、前稿執筆以降にかなり変化が起きている。 毎回のことながら、本シリーズでは英国に拠点を置く筆者の立場から、国際情勢認識等に関し、かなり厳しい見通しにも触れざるを得ない。しかし、これはむやみに「悲観論」や「ネガティブ」な言辞に終始するのが目的ではない。むしろ、一般的に見落としがちな事実についても正確な把握を試み、常に資源不足に直面している日本産業界の先行きに横たわる課題について問題提起に努め、それらの「厳しい見通し」が現実のものとならないよう、効果的な対策・対応方法について広く議論を起こしていきたいというのが趣旨である。 これも毎度のことながら紙数に限りがあるため、前稿までに詳述した事項に関しては、是非ともそれら2稿を御参照願いたい*1。 なお、本稿においても、筆者によるインタビューの受け手の一部については、その個人名または組織名の報告許可を得ていない。これは、いわゆる「チャタム・ハウス・ルール」(Chatham House Rule)により、情報・見解の提供者の個人名または組織名を明らかにしてはならない条件が含まれているからで51石油・天然ガスレビュー?る。本稿でも、敢えてそれらの記述を避けざるを得なかった点に御留意頂きたい*2。 また、本稿中の統計表やグラフ、地図等の出所欄に表記されているKomatsu Research & Advisory(KRA)は、筆者が代表を務める政治・経済研究オフィス(在英)である。アナリシス1. 前稿執筆後のアイスランド リーマン・ショック直後に真っ先に「国家破産」とも言える状況に陥ったアイスランドではその後の2009年3月6日、経営破綻したオンライン銀行の「アイスセーブ」(Icesave)に預金していた英国とオランダの預金者に対し、総額約50億米ドル(1米ドル=約90円のレート換算で4,500億円前後)の債務を返済する法案の可否をめぐって国民投票が実施された。そもそも、このような法案を国民投票にかければ否決となるのは分かり切ったことであったが、果たして反対票が94%にも上って否決となった。この「否決」は事前の世論調査等でも明確に予想されていたことから、同国内外で驚きなく受け止められた。 それに先立ち、英国とオランダは既に同法案の内容よりもアイスランド側にとって有利な条件を提示していたが、それでも交渉は国民投票実施前に決裂していた。アイスランドのステイングリムル・シグフスソン(Steingrimur J. Sigfusson)財務相は国民投票の否決を受け、「新たな合意を可能な限り迅速に行うことが重要」とし、交渉が長引けば、英・蘭両国で本年(2010年)半ばまでに実施予定の議会選挙という障害に直面し、進展が妨げられる可能性があると指摘した。また、オッスル・スカルプヘージンソン(Ossur Skarphedinsson)外相は、「問題解決に向けた協議が向こう数日内に再開されることを望んでおり、英国の[アリスター・ダーリング(Alistair M.Darling)]財務相が非常に建設的な発言を行ったことに勇気づけられた」と発言した*3。 実際、英・蘭ともに交渉再開の意思を表明しており、ダーリング英財務相は「我々にとって基本的な点は資金を回収することであるが、取引条件などに関しては柔軟に対応する準備がある」*4とし、蘭財務省も「英・蘭は交渉を再開する用意がある」と表明している。しかしながら、水面下の非公式交渉はともかく、公式の交渉は再開されていない(2010年3月末時点)。 他方、リーマン・ショック発生前のアイスランド国内ではEU加盟に反対する世論が強いとされていたが、同ショック後には加盟を求める声が増えたとされる。 蘭外相はこの問題との絡みで「オランダはアイスランドの加盟交渉を阻止しない」としつつも、「加盟前に債務問題を解決する必要がある」とも発言し、「何としても資金を回収しなければならない」と述べた*5。また、デイビッド・ミリバンド(David W. Miliband)英外相も、アイスランドのEU加盟交渉への支援を表明するとともに、全額返済に向けて前向き、というアイスランド政府のコメントを歓迎する声明を出している*6。 このように、今後のアイスランドのEU加盟に向けた動きに対し、英・蘭両国は少なくとも妨害しないとの立場を表明してはいるが、アイスランド側が近未来において両国への大規模債務を全額返済できるとは考えられないため、これが「加盟条件」となれば、その「解決」の意味によってはEU加盟の実現性が遠のく。 本稿執筆時点(2010年3月末)で見れば、国際通貨基金(IMF=International Monetary Fund)と北欧諸国がアイスランドに対し、約45億ドルの金融支援を約束しており、金融危機発生当時に同国で導入された資本規制の解除に漕ぎ着けられる可能性は残っている。しかし、資本規制が続く限りは同国への投資が低迷する公算も大きい。金融支援の一部は既に実行されたが、IMF側は預金返済問題の行方を見極めたいとして、残りの融資実行を見合わせている(同年3月末)。 英・蘭両国政府は既に提示済みの返済条件を拒否するアイスランド政府に対して強い不満を示しているが、数週間以内に事態が進展しなければアイスランド経済の苦境も一段と深まる懸念があるとされる。アイスランドの政府高官の一部は、預金返済問題の解決が数カ月遅れた場合、本年(2010年)の国内経済のマイナス成長幅が従来予想(▲3.4%)の約2倍にも達する恐れがある、との見解を示している。 このような状況下、アイスランド国債の格付けについても、既に主要格付け機関が等級を「投機的」に引き下げており、本年半ばまでの決着の可能性が低下したと見な2010.5 Vol.44 No.352総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-されれば、さらなる格下げが行われる可能性も高いと見られている。 今後の再開が期待されるアイスランド、英、蘭の3カ国政府間交渉が最終的に決裂する可能性は低いとされるが、仮にそのような事態に陥れば、アイスランド側は資本市場へのアクセスや金融支援を断たれ、経済の立て直しが不可能になる。2011年の後半には他の債務も返済期限を迎えるため、デフォルト(債務不履行)の可能性も浮上すると見られている。アイスランド中央銀行の副総裁は、「2011年に期限を迎える債務は返済できるが、外貨準備が大幅に減少する可能性がある」と指摘している*7。2. その後のドバイはどうなったか 前稿でも触れたとおり、昨年(2009年)11月25日、アラブ首長国連邦(UAE=United Arab Emirates)の構成国の一つ、ドバイ首長国の政府系持ち株会社ドバイ・ワールド(Dubai World)がその債権者に対し、傘下の不動産開発会社ナキール(Nakheel)(日本語では「ナヒール」とも表記)と、同じく不動産会社リミットレス(Limitless)の債務260億米ドル(約2兆3,400億円相当)の返済期限の延期を要請すると発表した。しかも、その債務の中には、ドバイ・ワールドの12億米ドル(2010年3月に期限到来)やナキールの35億米ドル(2009年12月中旬に期限到来)等、非常に期限の差し迫っている債務も含まれていた。このため、国際市場には一気に信用不安が広がった。 そもそも、リーマン・ショック発生直前まで続いていたエネルギー価格および食料価格の急騰期には、湾岸諸国を含む中東市場に国際投機資金が集中し、その中心の一つになっていたドバイは世界の「カネ余り」現象の象徴のように見られていた。そのような状況下、ドバイ・ワールドは「ドバイ政府100%出資」であったため、債務返済期限の延期要請発表まではデフォルトを懸念する見方など全く聞かれなかった。また、ナキールは世界的に有名な椰子の木の形を模した地形で知られる人工島「パーム・アイランド」(Palm Island)や、「世界最大の人工島」ともされるリゾート開発計画「ドバイ・ウォーターフロン写153石油・天然ガスレビュー出所:ペルシャ湾上空にて筆者撮影、2008年11月6日パーム・アイランド(椰子の木の形を模した地形で知られる人工島)ト」(Dubai Waterfront)、300以上の人工島で世界地図をかたどるプロジェクト「ザ・ワールド」(The World)、太陽系をかたどった人工島建設計画「ザ・ユニバース」(The Universe)等の開発会社として大々的に投資家を集めてきた。国際市場に衝撃が走ったのは当然であった。 さらに、債務返済延期要請の発表から5日後に当たる11月30日、ドバイ首長国政府の高官が「ドバイ・ワールドを政府の一部と考えるのは誤りだ」と突き放し、ドバイ・ワールドの債務も「政府債務ではない」と強調した。その上、「政府はドバイ・ワールドの債務を保証しない」とまで発言したが、これら一連の発言も国際金融危機の深刻化に拍車をかけた。もっとも、ドバイの国外から見れば、2009年11月下旬に正式に明るみに出たドバイ・ワールドの経営危機とは、いかにも「突然、始まった」かのようノ見えたものの、ドバイ側の関係者の間では、同年1月以降の危機の内容は変わっておらず、「11月下旬になってから表に出てきただけ」と言うほかないともいう。実際、ドバイ側が2008年9月に発生したリーマン・ショックの余波をまともに受け始めたのは同ショック直後ではなかったものの、翌2009年の1月頃からだったという。 筆者がドバイ側の関係者から聞かされているところでは、ドバイ首長国政府がアブダビ首長国政府に支援を求めて以来、その具体的な救済策をめぐって、アブダビとドバイの間で厳しいやり取りがあり、政治的な駆け引きが続いたという。これは、問題の本質がドバイ・ワールドの経営危機と言うよりも、ドバイ全体の借金漬けの国家経営にあるからだともいう。 同関係者の見解には興味深いところがあるため、本シリーズのテーマが国際政治・経済情勢の読み取り方であることも考慮して、敢えて読者と共有しておきたい。その内容は、大体、次のとおり。(1) 産油国として有名なアブダビとは異なり、ドバイにはもともと地下資源が非常に少なく、水・食料のまともなストック(集積)も無く、基本インフラも無かった。(2) にもかかわらず、これほどの実績を挙げたことは奇跡だと言うほかない。(3) このような成果が生まれたのは、ドバイ首長等による独創的なアイデアと大胆な決断力により、中東に世界中のカネを滞留させることに成功してきたからだと言っていい。(4) 「ドバイ」の本質とは、本当は何も無い国に「ペーパー」(=新聞メディア)という武器を持ち込んで「ドバイは凄い」という国際的イメージ作戦を成功させ、その結果として世界の注目を浴びることに成功し、「カネの巡り」を呼び込むことにも成功したということになる。(5) しかも、ドバイ国内にはインフラ以外に投資すべき対象はほとんど無いから、あくまでも「国際流動資金のハブ」としてカネを「通過」させ、それを回すことで、国まで回す、という「無から有を作る」戦略だと言っていい。(6) これは、いわば「ペーパー」と「カネの回転」という二つの要素だけで、ドバイという国家をここまで発展させてきた戦略的成功物語である。(7) 近年の国際資本の流れを見れば、ドバイを中心とする中東への資本の流れを語らずして、国際マーケットを語ることはできないところにまで来ている。アナリシス(8) これは、中世のサラセン帝国崩壊以来、数世紀間にわたって深く落ち込んでいた「アラブと中東」を今一度「国際舞台に登場させた」という意味で歴史的な功績である。(9) しかし、その裏返しとして、「流動資金のハブ」という国家戦略そのものが「リーマン・ショック」という未曾有の国際金融危機の到来によって弱点を晒け出す原因の一つにもなってしまった。(10) そのような状況下、ドバイ側にしてみれば、支援能力を充分に持っているはずの「産油国アブダビ」が支援の度に大きな「見返り」を求めてくることが非常に負担である。(11) しかも、その割にはアブダビからの支援が常に「必要な規模よりも小さく、必要な時機を逸している」(too little, too late)と映ることが少なくない。(12) しかし、UAEの副大統領兼首相でもあるドバイ首長はアイデアに溢れる人材であり、これで参るような指導者ではないと信じられている。このため、今後の一手一手が注目される。 同じ情報源によれば、数世紀振りにアラブ世界を国際出所:ドバイにて筆者撮影、2009年3月28日写2シェイク・ムハンマド(Sheikh Mohammed)ドバイ首長兼UAE副大統領兼UAE首相(中央)2010.5 Vol.44 No.354総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-舞台に戻したドバイの功績については、周辺の湾岸諸国から絶賛される一方、「目立ち過ぎ」との反発も買ってきたという。アラブ世界での「力のバランス」(balance of power)を考えれば、突出してきたドバイの地位が今回の危機で「適正なレベル」にまで低下するのを心密かに望む向きも少なくないという。 これは、1960年代に「奇跡の高度成長」を遂げた日本経済の成功を評価し始めた欧米諸国が、その一方で警戒心を隠すこと無く、幾多の貿易摩擦に至った当時の国際社会の心理現象を彷彿とさせる。実際、1980年代後半からの「バブル経済」時代、世界全体の株式取引高の約6割を東京市場が単独で占めるようになると、欧米諸国側は国際決済銀行(BIS=Bank for International Settlements)を通す形で日本の金融機関への締め付けになる「BIS基準」で圧力を掛けてきたが、これは結局、「バブル」崩壊の重要なきっかけの一つになった。 このように、個人であれ、国家であれ、「出る杭は打たれる」という社会現象は、日本だけに特有なものとは限らず、程度の差こそあれ、国際社会全体に広く当て嵌まる普遍的現象のようである。 他方、個人が一人だけで生きられないように、日本も、ドバイも、他国の協力無しに生存することはできない。その反面、欧米諸国も日本経済を完全に潰してしまっては自らの経済も立ち行かなくなることを知っていた。同様に、アブダビを含む他の湾岸諸国側も、ドバイを完全に潰してしまっては自らの経済・社会が行き詰まることを知っている。そして、ドバイのリーダーもそのことを意識して国家戦略に取り組んでいる。 ここに国際社会の厳しい現実が横たわっている。2009年11月に突如として発表されたドバイ・ワールドの債務返済期限延期要請の背景にも、単なる経済問題だけでなく、このような政治的ファクターがあった。3. アブダビはどう動くか 英系エネルギー大手BPの統計によれば、UAE全体の1日当たり原油産出量(バレル)は、297万B/D(2006年)→292万B/D(2007年)→298万B/D(2008年)となっている*8。そのUAEを構成する7つの首長国の中で原油産出国はアブダビとドバイのみとされ、特にアブダビ側が260万バレル以上で9割前後を占めていると見られる。これに対し、ドバイ側の産出量は、かつての40万バレルの水準から10万バレル以下にまで低下してきているとも推測される。 7つの首長国はそれぞれ独自の予算を組んでいるが、UAEの連邦国家予算の原資の8割はアブダビが拠出、1割をドバイ側が拠出、残りの1割は連邦政府の税収とされる。それ以外の5つの首長国の負担は無いため、事実上、アブダビが他の首長国の財政を支えていることになる。 UAEの連邦大統領はアブダビの首長でもあり、「連邦政府」とは言っても「アブダビ王族」そのものと見るべきだ、ともされる。このような状況下、危機に陥ったドバイにとってはアブダビからの支援が不可欠と言っていい。 アブダビ側は、ドバイ・ワールドによる債務返済期限延期要請の発表より前の時点で既にUAE中央銀行を通してドバイ首長国の国債100億米ドル(約9,000億円相当)を引き受けていた。また、その後も50億米ドル(約4,500億円相当)の引き受けを発表したが、この段階で新たに100億米ドルの引き受けを見込んでいたドバイ側の目には、それが50億米ドルのみに留まったこと自体もまた「必要な規模よりも小さく、必要な時機を逸している」(too little, too late)と映り、ドバイ・ワールドの債務期限延期要請発表に繋がったともされる。 この延期要請発表後、ドバイ首長国政府はアブダビ首長国から新たに100億米ドル(約9,000億円相当)の融資(2009年12月14日付発表)を受け、ナキールが発行したイスラム債41億米ドル(約3,690億円相当)の債務不履行は回避した。しかし、ドバイ・ワールド側はその後も債権者との間で220億米ドル(約1兆9,800億円相当)にも及ぶ債務のリ・スケジュール(返済期限延長)について協議を続けている。 また、ドバイ首長国政府側も、英系銀行のスタンダード・チャータード(Standard Chartered)、HSBC、ロイズ(Lloyds TSB)等の他、地元UAE系エミレーツNBD(Emirates NBD)や、アブダビ系商業銀行、日系銀行等からなる非公式の債権者協議会でドバイ・ワールドの債務再編について協議を続けている。2010年2月22日、ドバイ政府側が政府系持ち株会社ドバイ・ワールドの債務再編に当たって自ら優先債権者の立場を要求しないと決定したため、ドバイ・ワールドの債務再編をめぐる債権者との協議では主な障害がなくなったともされる。55石油・天然ガスレビューAナリシス4. ドバイから英国に飛び火する金融危機 前稿でも触れたように、国際金融市場では英系各行の他、欧州大陸系や米系も含む各国金融機関の「ドバイ・ワールド」へのエクスポージャー(=リスクに晒されている金融資産額)の規模が心配されている。その中でも、特に大きなエクスポージャーを抱えているのは、やはり英系の各行であり、総額は約50億米ドル(4,500億円前後)ともされる。 エクスポージャーが最大とされるのは、スコットランド・ポンド紙幣を発行している3行の一つ、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS=The Royal Bank of Scotland)であり、そのリスク額は10億米ドル~20億米ドル(約900億円~約1,800億円相当)にも達するとされる。しかも、RBSは今回の世界同時不況下で公的資金の注入を繰り返し受け、実質的に国有化されている銀行である。 その上、ドバイ・ワールドの返済期限延期要請の発表直前に当たる2009年11月3日にも、英財務省から新たに255億ポンド(当時の1ポンド=150円のレート換算で約3兆8,250億円相当)もの公的資金の追加注入を受けることが発表されたばかりであった。「ドバイ懸念」はたちまち物議を醸し、「政治問題化」すらしかねない状況となった。 また、ドバイ危機発生時点では、ロンドン証券取引所(LSE=London Stock Exchange)に対し、ドバイ証券取引所が22%も出資しており、ドバイ・ワールド傘下の港湾事業会社DPワールド(Dubai Ports World)も、英系海運会社大手のP&Oを買収する等、英国とドバイのビジネス上の結びつきも強まっていた。 このような状況下、本年(2010年)3月12日には英大手銀行がドバイ・ワールドの負債に絡む多額の損失を回避できる公算が大きいとの楽観的な観測も広がった。ところが、それから僅か10日後の22日には、全額返済と引き換えに返済期間が8年間延期されるとの情報も流れ、それを嫌気した為替市場で英国通貨ポンドの相場が下落することになった。このように、高いリスクを抱える英国の為替・株式市場は一喜一憂する反応となっている。5. ドバイ政府提示の債務再編計画案 このような状況下、UAEのシェイク・ハムダン(Sheikh Hamdan)財務相は3月9日、260億米ドル(約2兆3,400億円相当)にも上っているドバイ・ワールドの債務リストラ策をUAE側が支援し、近いうちに問題が解決されるであろう、との見方を示した。同財務相は、「もちろん、必要とあれば、ドバイを支援する。ドバイはUAEの一部だ」と発言し、ドバイ側が未だUAE政府に対し支援を求めてはいないものの、「UAEは一体であり、問題は近いうちに解決する」とコメントしている。これらの経緯から、債権者の間でも、アブダビが近い将来にまた救済に乗り出すとの期待も広がり始めた。 続く3月25日、ドバイ首長国政府がドバイ・ワールドとナキールの債務再編計画を発表し、各方面で注目された。この再編計画は、ドバイ政府が95億米ドル(約8,550億円相当)を資金調達し、ドバイ・ワールドとナキールへの資金注入や債務の株式転換を進めることが骨子となっている。その内容は既に日本でも広く報道されているが、要旨をまとめれば、大体、次のとおり。(1) ドバイ首長国政府が資金調達する95億米ドルの内訳は、アブダビ首長国政府から昨年(2009年)12月に資金提供を受けた100億米ドルの残り57億ドルと内部調達38億ドル(ただし詳細は未開示)。(2) 今回は、アブダビ首長国からの新たな支援は無し。(3) ドバイ政府は、ドバイ・ワールドに対し、政府系企業向け支援基金ドバイ・ファイナンシャル・サポート・ファンド(DFSF=Dubai Financial Support Fund)を通じて15億米ドル(約1,350億円相当)を注入。(4) DFSFを除く債権者が保有するドバイ・ワールドの債務総額は、昨年(2009年)12月末時点で142億米ドル(約1兆2,780億円相当)だったと発表。(5) その上で、ドバイ・ワールド側は償還期間5年と償還期間8年の社債発行で実質的に償還期限を延期し、債権者に対して元本額面の全額を返済。(6) ドバイ政府は、ナキールに対し、DFSFを通じて資金80億米ドル(約7,200億円相当)を注入。(7) この提案に対する充分な支援が得られると想定すれば、2010年と2011年に満期を迎えるナキールのイスラム債は全額償還可能。2010.5 Vol.44 No.356総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-(8) なお、リミットレスについては、債権者グループからの要請により、この債務再編計画には含まれず、同社が債権者側と独自に交渉。 他方、ドバイ最高財政委員会(SFC=Supreme Fiscal Committee)の担当者によれば、ドバイ・ワールドの新発債の利率は未定であり、新発債には政府保証は付かないが、発表済みの政府支援で充分に返済が可能な見込みという。さらに、資産を売却する必要性にも迫られておらず、「適切な時期に適正な価格で」売却する方針ともいう。 ナキールに関してはDFSFを通じて注入される資金80億米ドルのかなりの部分を短期的なプロジェクトの完成に充てるとし、取引先の債権者には現金と市場で取引可能な有価証券での支払いを提示している。具体的には、債務額が50万AED=UAEディルハム(対米ドルペッグ制、約13万6,000米ドル)までなら現金返済とし、それ以上の債務については40%を現金で支払い、残りは取引可能な有価証券での支払いを提示している。 債権者側や市場からの反応としては、まずIMFが同計画発表当日の3月25日付声明の中で、「債務再編プロセスのさらなる一歩だ」と歓迎の立場を表明した上で、「すべての利害関係者にとって公正かつ衡平な解決策を見いだすという当局の意志を支持する」と強調し、「満足いく結果に終われば、ドバイ首長国とUAEの信用状況や投資環境、経済活動の改善に道を開く」とした*9。これに続き、90行余りの金融機関を代表してドバイ・ワールドと交渉している7行(HSBC、RBS、ロイズ、スタンダード・チャータード、三菱東京UFJ、エミレーツNBD、アブダビ商業銀行)の一部も、3月30日までに「前向きな良い方法であり、歓迎する」と表明した*10。言うまでもなく、再編計画には債権者の合意が条件となるが、本稿執筆時点(2010年3月31日)では、債権者側の承認を得られる見通しとされている。 このような状況下、筆者もたまたま別件で3月25日夜からドバイ入りしていたが、UAE国内のオブザーバーからは、「債務期限延期要請直後の昨年(2009年)暮れの状況と現在の状況は全く異なる。これで問題は解決に向かい、危機は去ることになった」とのコメントを聞かされた*11。株式市場でもこの返済案を好感して株価が上昇した。 ただし、この危機の解決プロセスにもさらなる紆余曲折を懸念する見方がある。 例えば、米系の金融・経済情報配信サービス会社、ブルームバーグ(Bloomberg)は3月26日、再編案発表後に広がった楽観的ムードに関し、ドバイ・ワールドの債務を「2018年までに返済する提案が市場で歓迎されたことで、ドバイをめぐる問題は[あたかも]トンネルの出口に光が見えている状況のようだ」としつつ、実際にはなおもドバイがアブダビ首長国からの支援を必要としていると警告した。同筋は、「ドバイ[政府]と政府系企業が[実に]1,090億米ドル[約9兆8,100億円相当]の債務を抱え出所:アブダビ市内にて筆者撮影、2007年11月1日写3ドバイ金融危機救済への動きに注目が集まる産油国アブダビ(左端はUAEの国旗)57石油・天然ガスレビュー髓?ナ、それ以外の資金調達手段の活用は一段と厳しくなる見通し」との見方を示している*12。 また、JPモルガンのアナリスト、ザファール・ナジム(Zafar Nazim)氏は3月25日付で、「ドバイ・ワールドの債権者である銀行への返済で、政府保証に関する言及はない。ドバイ政府は、ドバイ・ワールドの債権者と資本コミットメントを支えるのに現金15億ドルだけを投じるつもりだ」として、債権者グループは「基本的に資産売却と配当に依存することになる」ため、ドバイ・ワールドの債務再編計画が債権者側の「銀行団には悪い内容の公算」があるとも指摘している*13。 昨年(2009年)11月25日にドバイ・ワールドが債務期限延期の要請を発表した時点では、ドバイ首長国政府やその傘下企業がどの程度の規模の債務を負っているのか、という問題も含め、状況が非常に不明瞭であった。それから4カ月後に提案された3月25日付返済提案では、現状については、かなり明らかにされた部分もあるため、市場やメディアで評価されている。 しかし、例えば、ドバイ首長国政府が調達する95億米ドルのうち、「内部調達」とされる38億ドルの詳細は未開示となっている。この点を巡り、「ドバイ首長が数週間前にインドに出向いてから間もなく返済計画が発表された」として、インド側が資金を提供するのではないアナリシスか、と推測する声も聞かされた。このように、依然、推測や憶測が飛び交う状態も続いている。債権者側と市場からの支持が得られれば完済にもっていける、と前提する以前に政府側が調達する資金源そのものが明らかになっていないと言える。 さらに、筆者自身がビジネス界から聞かされたところでは、「債務者でありながら僅か10行前後しかない短文で巨額の債務の期限延期を一方的に発表した昨年11月のドバイのビジネス・マナーは、あまりにもひどい。あのような高飛車な姿勢は、国際市場で大きな怒りと不信を買っており、今回の返済提案をもって投資家の参入意欲が回復し、危機も去る、などと見るのは、いかにも甘い」との指摘もあった*14。 結局、スイス系大手投資銀行UBSの中東調査責任者、サウド・マスド(Saud Masud)氏が指摘するように、信用回復は「何カ月も何年もかかる長期のプロセスになるのではないか」*15という厳しい見方が妥当(現実的)かもしれない。 ドバイ側のリーダーのこれからの手腕が新たに試されるところである。また、当然ながら、アブダビ側が今後、どこまで支援に乗り出していくかにも国際的な注目が集まっている。6. ギリシャ 前稿でも述べたとおり、米国発のリーマン・ショックをきっかけに、アイスランド財政危機、ドバイ財政危機、と続き、さらにその両国への債権焦げ付きの危機に直面する英国金融危機と続く中、国際金融市場ではいよいよ各国の政府や政府系機関が発行するソブリン債、サブ・ソブリン債への信用不安が広がることになり、昨年(2009年)中にはギリシャ国債の度重なる格下げもあった。同年12月にはフィッチ(Fitch Ratings)の「Aマイナス→BBBプラス」、S&P(Standard & Poor's)の「Aマイナス→BBBプラス」とギリシャ国債をそれぞれ「非投資適格」のレベルに引き下げる動きが起きたのである。ムーディーズ(Moody's)も「A1」から「A2」への引き下げ(見通し「ネガティブ」)となったが、それでも、かろうじて投資適格水準に残している(本稿執筆時点の2010年3月末現在)。このような格下げに向かう傾向は今後も続く恐れが強い。 欧州中央銀行(ECB=European Central Bank)がリーマン・ショック発生直後の2008年10月に危機対応策の一つとして実施した資金オペレーションの適格担保の最低水準の引き下げ措置「Aマイナス→BBBマイナス」は、2010年末で解除の見込みとなっていた。しかし、この措置が予定どおりに解除されれば、仮にムーディーズもギリシャの格付けを「BBB」水準に引き下げた場合には、来年(2011年)から銀行がECBの資金供給オペレーションにギリシャ国債を担保として使えなくなる問題が心配された。 ECBのジャン=クロード・トリシェ(Jean-Claude Trichet)総裁は当初、それでも「特定国のために適格担保のルール変更はしない」と明言していたが、ギリシャ危機の深刻さやユーロ通貨への悪影響を懸念する声が強まる中、後になってから言葉を変えるに至った。そして、後述のギリシャ緊急時支援策(セーフティーネット)の32010.5 Vol.44 No.358総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-月25日付「ユーロ圏首脳合意」では、適格担保最低水準引き下げ措置の2011年までの延長という譲歩を余儀無くされた。 このような状況下、ギリシャ政府が本年(2010年)1月15日に「3カ年財政健全化計画」を発表した。それによれば、2008年の財政赤字については、前政権が発表した5.0%から7.7%に上方修正し、2009年の財政赤字の対GDP比も前政権が発表した数字の約2倍に当たる12.7%に上方修正した上で、その数字を2010年に8.7%に引き下げ、さらに2012年には2.8%に引き下げる方針となっている。ギリシャに対しては、財政赤字や政府債務残高の問題もさることながら、統計の信頼性の欠如や、EUの財政ルール遵守の姿勢の欠如といった構造的問題も懸念されており、他のユーロ加盟国からの反発を招いていることも忘れてはならない。 続く3月4日、ギリシャ政府はさらに総額48億ユーロ(対GDP比2%相当)の新たな緊縮財政措置を発表した。EU側もこの財政再建策を全面的に支持し、「必要な場合は協調行動を取ることで一致」したため、市場は落ち着きを取り戻した。 ただし、EUによる支援の積極推進派のフランス、イタリア等に対し、資金提供の中心になると目されるドイツは具体的な支援表明に反対したがる傾向にある。また、アンゲラ・D・メルケル(Angela D. Merkel)独政権は5月9日の地方選挙で厳しい闘いが予想されているため、ギリシャ支援をめぐる世論の激しい反発に直面している。 ドイツの政治家からは、「ギリシャは援助に頼る前に島を売れ」と発言した旨、報道されたり(実際には「島や史的建造物や美術品を売れば良い」と発言)、「ギリシャ人は、ドイツ人のように早朝に起きだし、一日中働くべきだ」とするギリシャ首相宛公開書簡が大衆紙に掲載されたりと、ドイツ国民の間でも対ギリシャ支援構想への反発が強い(3月4日付Guardian記事)。実際、ギリシャ政府の財政再建努力の一環である新たな緊縮財政措置や新課税、税率引き上げ等に反発したデモやストが発生すると、ドイツ側では「ストで働かないギリシャ人に自分たちが働いた血税を回さなければならないのか」といった反発が強まる。 ギリシャ国民の間には、これは前政権下で大手の金融機関や外資系ファンドが引き起こした問題だとし、自分たちまでが緊縮財政や新課税で責任を取らされるのは心外だ、との思いもあるとされる。しかし、自分たちの血税をギリシャ人という外国人に取られるのは心外だとのドイツ国民の思いを納得させるのも簡単ではない。同じユーロ圏内とは言っても、「一つの国、一つの国民」になれるわけではない。 ドイツ政府は、ギリシャが財政緊縮化に成功すると確信しているとしながらも、IMFによる対ギリシャ支援の可能性は排除しないと発言したほか、ドイツ財務大臣が欧州通貨基金(EMF=European Monetary Fund)構想を提唱したりしたが、EMF構想に関する各方面からの反応は鈍かった。また格付け会社1社の判断に欧州の将来が懸かるような状況に対し、ECB理事会メンバーのオーストリア中央銀総裁は「容認できない状況」*16と批判。ECBが加盟国の格付けを独自に行うべきとの提案も出ている。 このような状況下、日本でも既に報道されたように、3月25日にはユーロ圏首脳が緊急時のギリシャ支援策(セーフティーネット)で合意した。これは、ユーロ圏諸国による二国間融資とIMF支援の二本柱からなるものであり、ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)仏大統領によれば、支援額の3分の1はIMFから出ることになり、3分の2はユーロ圏の負担になるとのことである。また、融資資金はユーロ圏16カ国がECBへの出資比率に応じて拠出することになる。このため、ドイツの場合は実に28%となる。 しかし、この支援策は「市場からの調達が不十分な場合」に発動する「最終手段」とされており、融資には「厳しい条件」が課される上、融資実行には全加盟国の同意が必要になる。さらに、融資金利はリスク・プレミアムを加味した水準とされ、金利に補助金的要素は付与しないこととされた。 これは支援策実施に際して負担額の大きいドイツ側の示した条件をほぼ全面的に受け入れた形で決着したものとされ、特にフランス側がドイツを説得するため譲歩したとされる*17。実際、市場では財政的に脆弱なユーロ圏諸国向けのセーフティーネット構築はドイツの反対によって実現不可能になるとの見方が広まっていた。にもかかわらず、3月25日にこのような合意が成り立っただけでも、一つのステップであろう。しかし支援策については今後も紆余曲折が予想される。 他方、最近の欧州では、「製造業の輸出大国」、「貯蓄が投資を大きく上回る黒字国」、「多額の貿易黒字国」が特徴とされてきた中国とドイツに対し、グローバル経済のバランスを崩している、との批判が強まっており、チャーマニー(Chermany)などと揶揄されるようになっている。 これらの特徴が今後も続くとは限らないが、中独両国がチャーマニーと呼ばれるような風潮を背景に、フランスのクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)経済財務雇用相はドイツに対し、その輸出依存度を引き下げ、59石油・天然ガスレビューAナリシス国内消費刺激策を取るよう「提案」したが、ドイツのヴォルフガング・ショイブレ(Wolfgang Schaeuble)財務相は、そのような提案など「[強力な]サッカーチームのバイエルン・ミュンヘンに下手なプレーを求めるようなものだ」と応酬した。そして、ドイツ政府としては、他のユーロ圏諸国に対し、経済競争力を高め、輸出を増やすため、ドイツを手本に労働コストと福祉コストを削減するよう勧めた*18。 EMF構想を打ち出したドイツ提案の趣旨も、過剰な財政赤字を出している国々への緊急支援を厳しい罰則と組み合わせることや、ユーロ圏内の行状の悪い国から議決権を一時的に剥奪すること、ユーロ通貨導入国がEUの枠組みの中に留まりながら通貨同盟を離脱できるようにすることだとの解釈もある*19。 このため、今度は「ドイツが過去の束縛から解放され、発言力を高めることにますます意欲的になっている ・・・・・ EUの政治は現在、根本的な変化を遂げている」との英系RBSアナリスト、ティモシー・アッシュ(Timothy Ash)氏の発言を挙げるまでもなく、第二次世界大戦の敗戦国ドイツの影響力拡大への警戒感も生じてきた*20。また、EU27カ国全体の財政規律等の決定がユーロ通貨圏16カ国首脳会議で協議されることに英国やポーランドが不満を抱いているとの指摘もある*21。 ただし、ドイツがこれまでよりも自己主張を強めているとの見方に関しては、例えば、英FT(Financial Times)紙のフィリップ・スティーブンズ(Philip Stephens)氏の場合、ドイツの「戦後世代」の罪悪感からの解放という見解では一致するものの、そのドイツがEUへの発言力強化を目指していると見るよりも、むしろ、強いEUへの意欲を失って経済・外交面で国益を優先し、かつ内向きになっている、と正反対の見方を示している*22。 他方、IMFの関与という譲歩を余儀なくされたECB側では、支援策発動の場合、IMFの関与(金融面の助言が含まれることが多い)に対し、「ECBの独立性」をどう守るかが大きな課題となる。市場では、欧州の経済運営でECBの力に限界があることが浮き彫りになったとの見方も出ている*23。特に、財政規律の強制力がないことが問題とされる*24。 このような情勢下、既述のように、S&Pはギリシャのソブリン債格付けを「BBBプラス」、見通しを「ネガティブ」に引き下げているが「ユーロ圏首脳による救済合意は、ギリシャの格付けに影響しない」との見方を示した*25。これは、ユーロ圏のセーフティーネット合意があっても、ギリシャの財政赤字危機が緩和されるとは見ていないことを意味していた。 これらの動きの中、EUは経済監視に関する欧州理事会の役割強化について合意した。それを受け、EU大統領が経済・財政リスク監視改善に向けた作業部会を設置し、年内に対策を提出することになっている。 いずれにしても、ギリシャ国債危機がさらに悪化すれば、単にユーロ圏のみならず、欧州経済全体や世界経済全体への甚大な被害に発展しかねないため、今後の情勢推移によってはIMFも含む大規模支援策の実施に至る可能性もある。7. 日本の国債の格付けは大丈夫か 本年(2010年)1月25日、米国の格付け会社S&Pが日本の外貨建・自国通貨建の長期国債格付け「AA」の見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更し、格付け変更が2年以内に行われる可能性を示唆するに至った。日本の国債の格下げや見通しの見直しは、2002年4月のS&Pによる格下げ、同年11月のフィッチによる格下げ(共に「AAマイナス」に格下げ)以来7年ぶりのことになる。 その後、英系メディアによる報道を見ても、英国を含む先進国のソブリン危機についての記事の中では、日本の公的債務残高の飛び抜けた高さに触れるようになっており、「国内保有比率が高い」という日本の特徴や、債務残高の割に「財政赤字比率はそれほど高くない」といった解説を加える記事も散見される*26。 また、3月4日付FT紙のサイトには、「OECD諸国の財政状況ワースト・ランキング(Scorecard of OECD countries most vulnerable to funding problems)」の中で、ギリシャ、アイルランド、スペインに次ぎ、英国と日本が同点4位にランクされているクレディ・スイス(Credit Suisse)のレポートが引用された。これは実にワースト6以下とされたポルトガルやフランスよりも深刻という位置付けになっている*27。 このように、日英両国のソブリン債をめぐっても近い将来の信用不安を煽るかのような記事やその孫引きの記事が、既に国際金融市場に出回り始めている。2010.5 Vol.44 No.360総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-8. 英国の国債はどうなるか 昨年(2009年)5月、S&Pが英国国債の「AAA」格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に見直した。以後、格付け機関からは度重なる警告が発せられ、英総選挙に向けての最大の争点になっている。保守党の「脅し文句」とされてきたのは、「早急に財政赤字削減に取り組まなければトリプルAが危ない」との警告である。 しかしながら、選挙戦を睨む与野党は共に踏み込んだ財政再建策を示せずにきた。本稿執筆時点(2010年3月末)では、選挙結果は僅差になるとの観測が主流であり、選挙後に思い切った財政再建措置を取ることが政治的に難しくなるとの思惑から、為替・国債市場ともに不安定な動きが続いている。英国債をめぐる格付け会社の最近の主な動きは、大体、次のとおり。(1) 2009年5月21日、S&Pは英国債「AAA」の見通しを「安定的」から「ネガティブ」へ引き下げ。「英国の政府債務がGDP比で100%近くに増大する可能性がある」とのコメント。(2) 2010年3月2日、フィッチが「英国はトリプルA格付けの国々の中で最も金融危機の影響を受けている国と見られ、政府は2010年までに見込まれている水準よりも大幅な財政赤字削減を行う必要がある」と指摘し、「2014年までに赤字を対GDP比3%まで削減するというような方向に向かうべきだ」とコメント。(ちなみに政府案では5~6%程度)。また、「英国はAAA格付けの国の中で恐らく最も脆弱」とも強調。(3) 2010年3月8日、フィッチは「英国債格付けプロファイルは悪化しているが、依然としてトリプルAの範囲内(見通し「安定的」に据え置き)」とコメント。政府の財政再建策では不足と再度警告。(4) 2010年3月15日、ムーディーズは「英国のすべての主要政党が財政を立て直す必要性を受け入れていることは、英国のトリプルAの格付けが当面は安泰であることを意味している」と、むしろポジティブにコメント。 図2は、主要国の公的債務残高と財政赤字の対GDP比の2011年予想値をOECD資料に基づいてまとめたものであるが、日英両国61石油・天然ガスレビューの財政赤字拡大問題も、国債発行による赤字埋め合わせ手段も、既に限界に来ていることが明白である。しかし、両国の違いは、英国の全主要政党がこの問題を最優先課題の一つと認識しているのに対し、日本国内では未だ安易な国債発行が大規模に行われつつあることではなかろうか。 しかし、いくら政府と国民が「日本の国内保有比率は他国と違って高い」などと説明してみても、格付け会社がそれを考慮してくれるという保証は無い。実際にその種の危機が到来し得るか否かについては、専門家の間でも見解が錯綜している。しかし、格付け動向も含む様々なファクターから、今後の市場で日本国債のパニック売りのような動きが起これば、瞬く間に大規模なダメージが拡大する。 そのようなことにでもなれば、日本政府としても新発国債が売れにくくなり、財政赤字の補填はこれまでほど容易ではなくなる。また、既発国債の市場価格が低下し、その保有者である国民の資産も目減りする。公的年金制度の財政的破綻が確実視されるようになってきた現在、年金運用等で株式よりも「安全」と見なされてきた国債に依存する国民が増えているだけに、これは大変な経済的混乱を招きかねない。この問題の一刻も早い解決が求められる。公的債務残高(%)250日本日本アイスランドアイスランドイタリアイタリアベルギーベルギーオランダオランダデンマークデンマークスウェーデンスウェーデンスイススイスオーストラリアオーストラリアユーロ圏平均ユーロ圏平均米国米国ギリシャギリシャポルトガルポルトガルフランスフランススペインスペインドイツドイツフィンランドフィンランド英国英国アイルランドアイルランド20015010050-4-20264財政赤字(%)81012014出所: OECD予想値(Economic Outlook, November 2009)に基づいてKRA作成図2主要国の公的債務残高と財政赤字の対GDP比(2011年予想)Aナリシス9. アフガニスタンで米軍中心の大規模軍事作戦開始 前稿執筆後のアフガン情勢で新たに触れるべき動きは、2月13日に米軍やアフガニスタン国軍等の混成部隊がアフガン南部ヘルマンド(Helmand)州のマルジャ(Marja)地区とナダリ(Nad Ali)地区で反政府武装勢力タリバン(the Taliban)への大規模掃討作戦「モシュタラク」(Operation Moshtarak)を開始したことである。(2001年の米軍によるアフガン攻撃開始以来最大とされる1万5,000人規模の兵力を投入)。メディアは2月27日、国際部隊がこのマルジャ地区をほぼ制圧したと報じた*28。駐アフガン国際治安支援部隊(ISAF=International Security Assistance Force)によれば、ナダリ地区でも作戦は順調に進んでいる。ただし、「タリバンは地区[マルジャ]西部で抵抗を続けているほか、地元住民に紛れ込んで散発的に部隊を攻撃する可能性があり、完全制圧ではない」とも報道された*29。 その最中の2月26日、米軍が年内(8月初めを目標)に南部カンダハル(Kandahar)制圧を目指す新たな軍事作戦の展開方針を決定した旨、報道された。カンダハルは首都カブールに次ぐアフガン第2の都市であり、旧タリバン政権の「事実上の首都」ともされる。現在は反政府武装勢力となっているタリバンの「牙城」ともされることから、ISAFでは「安定化に向けた鍵を握る都市」と位置付けられているという。さらに、カンダハル制圧後は、タリバンの排除(clearing)の段階から「統治機構の確保と移譲」(secure and deliver government)の段階に入るが、その段階は少なくとも10月中旬まで続く見込みと報道されている*30。 米軍制服組トップのマイク・マレン(Mike Mullen)統合参謀本部議長は、タリバン支配下にあったマルジャ地区にアフガン政府の旗を立て、政府機能を回復したと表明し、「(作戦は)順調で、正しい方向に進んでいる」と強調した*31。このように見れば、同作戦があたかも順調に進み、その先の作戦見通しも分かりやすい印象を受ける。 しかし、実際にはこの作戦「モシュタラク」も相変わらず非常に非現実的である。まず第一に、アフガン南部へルマンド州はタリバン軍の「牙城」と喧伝されてきた割には、2週間以上の進軍中にごく一部の地域を除いてタリバン軍との戦闘はほとんど発生していない。確かに、同作戦開始以前の2010年1月中の国際部隊側の死者数計45人に対し、作戦が開始された2月中の死者数が55人、続く3月は40人とされ*32、特に作戦開始後の死者数は本稿執筆時点(3月末)までに少なくとも73人に達している。 しかし、この犠牲の多くはタリバン軍の残して行った手製の仕掛け爆弾や路肩爆弾、地雷等による死であって、タリバン軍との戦闘中の死ではない。現在のタリバンはかつてのような「政府軍」ではなく、ゲリラであるから、例によって圧倒的な火力を持つ国際部隊と敢えて対峙することなく、煙のように姿を消してしまったのであった。その様子を「撤退して行った」と表現する向きもあるが、実際には付近の住民の中に紛れ込んで「現地に残留」しているという。 そもそも、2001年10月の米軍による対アフガン大規模空爆で首都カブールから撤退したタリバン軍が一時的にカンダハルに集結したことはあったが、同年末までには米軍がそのカンダハルを陥落させ、「制圧」したはずであった。にもかかわらず、今になって再びカンダハルを攻撃しなければならない羽目に陥っているのは、いったいどういうことなのであろうか。 しかも、国際部隊とアフガン国軍がアフガン南部で大作戦「モシュタラク」を継続している最中の2月26日、北方の首都カブール市内の政府庁舎、国連関係事務所、銀行、スーパー・マーケット等が集中する地区で早朝からタリバンと思われる武装勢力による大規模な爆弾攻撃が2度も発生し、多数の死傷者が出ている。これは、1月18日にカブール市内の大統領府や各省庁、商業施設等へのタリバン武装勢力らしき戦闘グループの攻撃があったのに続く大攻勢であった。しかし、いずれの攻撃でも、ゲリラ側の作戦の全容が分からないままに戦闘終息となっている。 前稿でもまとめたように、「タリバン」と一口に言っても、現在では厳しい宗教戒律で統制された旧タリバン(=元祖タリバン)勢力のみならず、「新タリバン」と呼ばれる様々な犯罪集団や、アフガン南部のパシュトゥーン族系部族各派をベースに事実上の独立体に近い立場を主張する「南タリバン」に至るまで存在しているのが現状である。タリバン勢力自体はパシュトゥーン族中心の勢力であるが、北部のタジク族系やウズベク族系等の諸民族の中にも反タリバン勢力のみならず、季節的に親タリバンに豹変する農民・遊牧民集団(タリバン部隊がその地方を季節的に訪問するため)も存在する。したがって、それらの大規模テロ攻撃と呼ばれるゲリラ側の作戦ごとに「タリバン報道官」等による犯行声明なるものが発せられ2010.5 Vol.44 No.362総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-ても、実際にはどんなグループが攻撃してきたのかを知ることは不可能である。本来のタリバン(元祖タリバン)の場合、そもそも「報道官」なるものは存在しないという。人質事件等が発生した際には、自称「報道官」が現れ、タリバン側との連絡役を申し出て「サービス料」を請求したがる人々もいるため、さらに混乱が増す場合も少なくないとされる。このことによって、報道機関も振り回される。 要するに、米軍やISAF部隊が首都カブールの治安確保に集中していれば、アフガン南部がタリバン系諸勢力や犯罪集団の手に落ち、米軍等が南部で軍事作戦を開始・継続すれば、今度は首都カブールの方が断続的に攻撃される。まるで、「モグラ叩き」のような事態を繰り返しているに過ぎない。リーマン・ショック以降の深刻な経済的打撃と厭戦ムードの高まっている米国では、オバマ政権も来年(2011年)にはアフガン撤退の意向を示しおり、抜本的な事態改善への時間は非常に限られてきている。10. イラク国民議会選挙動向 前稿執筆後のイラク情勢で触れておかなければならないのは、国民議会選挙が実施されたことである。イラク国民議会の議員定数は325であり、任期は4年間となっている。この条件下で実に80以上もの政党、会派から約6,200人の候補者が出馬した。 しかし、クリストファー・ヒル(Christopher Hill)駐イラク米大使が同選挙を民主化への前進と強調した旨、報道されたにもかかわらず、早速、致命的とも言える物議が醸される結果になった*33。シーア派(Shiite)の例のアフマド・チャラビ(Ahmad Chalabi)氏が委員長を務める「責任追及・正義委員会」(Justice and Accountability Committee)が本年(2010年)3月の選挙を控えた1月、サダム・フセイン元大統領下の政権党であったバース(Baa'th)党との関係を理由にスンニ派(Sunni)の政治家等511人の立候補を禁止してしまったからである。 さすがに、イラク駐留米軍のレイモンド・オディエルノ(Raymond Odierno)司令官はチャラビ元副首相について「明らかにイランの影響を受けている」と非難した*34。結局、この511人の立候補者のうち、28人が復職しているが、巻き込まれた政党の多くは自党出身の他の候補も取り下げる措置や、新候補を立てる措置で対応する方向になった。これに対し、「責任追及・正義委員会」はスンニ派を標的とした立候補禁止措置ではないとの立場を取り、リストの3分の2がシーア派であるとしている*35。 しかし、イランと対立する米国側のオディエルノ司令官が今になってチャラビ氏を「イランの影響下の人物」と批判してみても、もともとブッシュ・ジュニア(George W. Bush)前米政権がその対イラク開戦に当たって、チャラビ氏からの情報に頼り切りとなり、同氏に対して絶大な見返り援助まで与えていた事実も今では広く知られている。開戦の理由づけとして「サダム・フセイン政権下のイラク国内には大量破壊兵器がある」との「情報」をあたかも根拠があるかのように米政権中枢に伝えていたのがチャラビ氏であり、当時のポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)米国防副長官等から絶大な信頼を受ける立場にあった。 「大量破壊兵器は存在しない」との報告が大半を占めていた米情報機関の真相追究への真摯な努力よりも、「亡命イラク人」としてのチャラビ氏の話を「質の高い情報」と解釈したブッシュ・ジュニア政権が開戦に踏み切ってしまった経緯が国際社会の悲劇的な運命を決める重要な原因の一つだったという冷厳な事実を認識することも、日本の政界や産業界にとって重要である。 他方、選挙予想としては、いずれの政党も過半数には届かないとは見られていたものの、シーア派のマリキ首相率いる「法治国家連合(State of Law Coalition)」やアヤド・アラウィ(Ayad Allawi/Iyad Allawi)元首相派らが参加する世俗会派「イラク国民運動(Iraqi National Movement)」等が多数の議席を獲得すると考えられていた。 実際の投票結果は「優勢」が伝えられていたマリキ首相側の勝利とはならず、同首相による再集計要請も独立選挙管理委員会から却下された。 他方、4年前に米国の操り人形(U.S.-backed puppet)と称されていたアラウィ元首相派の得票数も「勝利」、「政界への再帰」と騒がれたものの、実際には議席数の差が僅か2議席となっている(総数325議席のうち、アラウィ元首相派が91議席、マリキ首相派が89議席)。このことから、今後の政局の混迷が予想されている。 しかも、この僅差という選挙結果発表後、当選したばかりの政治家のうち4人に関し、例の「責任追及・正義委員会」が「バース党と関係していることを発見した」と新た63石油・天然ガスレビューAナリシス表1イラク国内での主な大規模テロ事件:日本で報道された記事のみから抽出(2010年2月1日~3月16日)日付2010年2月1日2月3日2月5日事件発生地域イラクの首都バグダッド北東部イスラム教シーア派の聖地イラク中部カルバライスラム教シーア派の聖地イラク中部カルバラ犠牲者数死亡:少なくとも54人死亡:少なくとも20人負傷:110人死亡:少なくとも27人負傷:70人以上2月18日イラク中西部アンバル州の州都ラマディ死亡:警官4人を含む少なくとも10人負傷:15人3月3日イラク中部バアクーバ死亡:少なくとも33人負傷:55人3月4日イラクの首都バグダッド死亡:警官ら17人負傷:32人報道内容要旨イスラム教シーア派聖地の中部カルバラに向かっていた巡礼者を標的にした自爆テロ。自爆犯は女性という。シーア派巡礼者を狙った爆弾テロ。スンニ派武装勢力による犯行とみられる。バイクの後ろの荷台に爆弾が隠されていたという。シーア派の巡礼者を狙ったテロ。爆弾を積んだ2台の車による自爆テロだったとされているほか、迫撃砲が撃ち込まれたとの情報もある。この日は、シーア派の3代イマーム(指導者)であるフセインを追悼する宗教行事「アルバイーン」の最終日で、数十万人にのぼる巡礼者がカルバラに集まっていた。現場は州庁舎ビル近くの検問所で、爆弾を積んだ車が爆発し、周囲の車などを吹き飛ばしたという。警察署や病院を狙った連続爆弾テロ。警察当局者によると、2カ所の警察署付近で爆弾を積んだ車が相次いで爆発。負傷者が運ばれた病院でも警官の制服を着た男が自爆した。病院を訪れた警察幹部を狙ったとみられる。連邦議会選の事前投票中の警察官や兵士らを狙った自爆テロやロケット攻撃が計3カ所で相次いだ。最初の攻撃では投票所から約500mのところにロケット弾が着弾して7人が死亡。また、別の2カ所の投票所で自爆テロがあり、投票のため並んでいた警官ら計10人が死亡した。内務省筋によると、首都バグダッドのビルで相次いで爆発が発生。最初の爆発では少なくとも住民4人が死亡し、8人が負傷した。さらに、別のビルで起きた2件目の爆発でも8人が死亡したという。選挙妨害を狙った迫撃砲やロケット弾、爆弾によるテロ攻撃が全国で60件近く発生。自動車爆弾による自爆テロ発生時は通勤時間帯で、現場は通行人らでにぎわっていたという。出所:ロンドン市内の英議会前にて筆者撮影、2009年3月5日写4対イラク戦争および対アフガン戦争に抗議する英国市民キャンペーン2010.5 Vol.44 No.3643月6日3月7日午前中部のシーア派聖地ナジャフ首都バグダッド死亡:巡礼のイラン人4人負傷:イラク人ら50人以上 自動車爆弾テロ死亡:少なくとも12人負傷:8人3月8日3月15日朝イラク各地イラク中部ファルージャ中心部死亡:38人死亡:4人負傷:29人出所:日系の各メディア記事からKRAが作成に主張し始めた。同委員会の幹部によれば、その4人のうち、1人はマリキ派であり、もう一人はクルド族系であるという*36。 他方、第2党となった「法治国家連合」を率いるマリキ首相は3月28日、テレビのインタビューに応じ、選挙監視に当たった国連のアド・メルケルト(Ad Melkert)事務総長特別代表が同首相らの再集計要求に耳を傾けようとしないと国連批判を展開した*37。同首相は「独立選挙管理委員会に再集計を求めたが、彼らは拒否した。国連は、この選管よりも強硬に私の要求に反対している」と主張し、「国連は国民の要求に対してもっと熱心であるべきだ」とも強調した*38。 このような状況下、前稿でも指摘したとおり、テロ等の頻発も含む治安悪化の中で、イラク市民の死傷者数も急総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-増している。前稿執筆後の死傷者数を見るため、イラク国外でも報道された事件のみを抽出したのが表1である。 首都バグダッドを含む主要都市の一般市民が依然、身に危険を感じている傍ら、外国の要人は言うに及ばず、一般の外国人訪問者もバグダッドの街中や普通の通りを自由に歩くことができない劣悪な治安状態に変化は無い。また、本年(2010年)1月頃にはこのような治安悪化傾向も「来る投票日に向けての妨害テロ」とする見方が散見されたが、実際には投票後も治安悪化が続いている。 米国側はアフガン戦線のケースと同様、基本的に来年(2011年)中には撤退する意向を示している。結局、アフガニスタンでも、イラクでも、事態が「改善」したり、「復興」したりするような見通しは立っていない。米国を中心とする各国にしてみれば、この両国のために既に多くの死傷者を出しており、「必要以上のことをしてきた」との思いが強い*39。11. イラン核開発問題 日本では昨年(2009年)8月30日の衆議院選挙の結果として「戦後初」とされる「選挙による政権交代」が実現し、民主党中心の新連立政権が誕生した。その後の外交政策面においては、在沖縄米軍基地移設問題等をめぐって「日米関係の危機」が喧伝されるようになった。日本国内で聞かれる声の中には、もはや「危機的状況」ではなく、「危機そのもの」だ、との極論もある。 しかし、英国在住の筆者もまた様々な事情から、米国や英国の政府高官や産業界、文化人等々と接する機会に恵まれており、不思議なことに日本国内で言う「日米関係の危機」とは程遠い印象を受けている。 ここで、多くの読者には驚くべき事実に触れておきたい。筆者は英国BBC放送による生インタビューも繰り返し受けてきたが、そこでは日米間の「危機」などという話題は出たこともない。米ホワイト・ハウス内でも多くの政府高官が「普天間」や「シュワブ陸上部」等の言葉すら知らない。沖縄の米軍基地移設問題と言ってみても、その存在を認識している高官に出会える機会もあまり多くはない。これは米国防総省や国務省(外務省に相当)でもほぼ同様である。 日本のみならず、米国でも前共和党政権から現民主党政権への劇的な政権交代が起こり、オバマ新政権が誕生している。それ以来、日本と同様に米国も大きく変わりつつある。 そもそも、在沖縄米軍基地移設問題とは、自民党下の歴代政権が米国のブッシュ・ジュニア前政権終焉までの時代に交渉してきた案件であり、この両国で共にプレーヤーが大幅に入れ替わった結果、米政権中枢部も含む両国の関心事が変わってきている。 オバマ政権の関係者でありながら、未だに「普天間」等をめぐる過去の交渉経緯・内容に強くこだわる相手になり得るのはと言えば、安全保障問題を取り扱う国防総省の中でも、特に日本や極東地域を担当する部局であり、国務省(外務省に該当)でも同様の地域を担当する部局の関係者となるに限られているように見える。また、在沖縄米軍関係の予算編成に関わる人々が連邦予算編成スケジュールに沿って「季節的」に「圧力」をかけてくることもあり得る。 他方、旧ブッシュ・ジュニア政権の関係者の中でも、この問題に関心を寄せているのは、「日本通」として、対日交渉や沖縄問題に多かれ少なかれ関わってきた人々に限られているように見える。また、旧政権時代に「ネオ・コン」(新保守主義)と呼ばれた右派系の人脈に近い筋が依然、この問題について様々な関わりを保とうとしている印象が明白である。 しかし、前稿までに詳しく指摘してきたとおり、リーマン・ショック以降に米国経済が受けている被害は非常に深刻であり、オバマ新政権下での新課題は大きく変わってきた。現政権にとっては、沖縄問題ではなく、イラン問題が外交面でのトップ課題に上がっている。 米国側の高官の一人は筆者に対し、大体、次のように語った*40。(1) 在沖縄米軍基地移設問題が日本国民と沖縄県民にとって非常に重要な課題であることは理解できる。(2) しかし、これは国際的安全保障問題と言うよりも、むしろ、日本国内の政治問題と化しているのではなかろうか。(3) 実際、来たる7月の参議院選挙に向けて「沖縄問題」が与野党間の大きな争点になり、メディアでもこの65石油・天然ガスレビュー竭閧ェあたかも日米間に横たわる最大課題であるかのように取り扱われているとも聞く。(4) しかし、語弊を恐れずに言えば、これはある意味で局所拡大でもある。(5) と言うのも、日米間には目下、「沖縄基地」問題よりも遥かに緊急性に迫られたテーマが幾つも認められるからである。(6) オバマ政権では、国内政策面で医療保険制度問題に続いて、高失業率問題の解決等が重要課題となっているが、対外政策面ではアフガン問題やイラク問題に続いて、「イラン問題」が今後の最重要外交課題になりつつある。(7) 確かに、アフガン戦線では米軍中心の大規模軍事作戦「モシュタラク」が開始されたが、来年(2011年)半ばにはアフガンから撤退したい意向も明示しており、本音としては「もはや戦争はしたくない」(no more war)ということに尽きる。(8) 米国はこのような状況下でイランの核武装化阻止を目指している。(9) 他方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)政権は極右政党との連立を組んでおり、対イラン軍事行動を起こしても、不思議ではない。(10) イスラエルとイランが軍事衝突に入れば、ペルシャ湾を通るサウジアラビアの原油輸送ルート等、中東の主要なエネルギー供給路が大きな危険に晒される。(11) また、ドバイを含む湾岸諸国の「金融のハブ」も、さらなる大打撃を受けることになる。(12) これは、既に「1929年の世界恐慌以降で最も深刻」とされてきたリーマン・ショックから続く世界的大不況の中、ますます大きな経済危機に繋がる一大要因となる。一部の金融部門における「バブル経済」的な傾向の復活で株価が少々上昇したにしても、アナリシスそれをもってリーマン・ショック後の危機を脱した、という楽観論はオバマ政権中枢部の認識ではない。必要以上の悲観論で産業界の投資意欲を挫くことは避けなければならないが、依然、世界各国で失業率が高いという事実を見ただけでも、まだ困難が続くことが示されている。(13) 今後の日米間の課題とは、経済大国同士の同盟関係にある両国が如何にして一致団結し、この政治、経済両面での危機の回避または解決を目指すことができるか、だと言っていい。(14) あの2001年9月発生の「9.11米国中枢同時多発テロ」以来、米国はテロリストの手に大量破壊兵器が渡ることを防ぐべく、強く決意しており、核不拡散政策を通じて全世界の安全保障にコミットしていかなければならないとの認識を抱いている。(15) したがって、これほど重要な日米間の協力課題が存在している時期に「普天間問題」で「日米関係の危機到来」などと喧伝して混乱を引き起こすようなことはすべきでない。 筆者としては、これ以上書くわけにはいかないが、このようなオバマ政権の危機感を正確に知る日本人は未だ少ないと実感している。ただし、米国とは異なり、日本は石油輸入量の実に10%~20%をイランに頼っており、イラン側にとっても重要な「クライアント」になっている。当然、米国よりも日本のほうがイランと対話できる関係にある。 このような日米間の共通点と相違点を如何にして上手に組み合わせ、同盟国同士として国際的な紛争防止に貢献していくかが今後の最重要課題になっていくものと思われる。日本の政府も、与野党も、メディアや国民も、米国のこの危機感にどのように対応すべきか、真剣に考えなければならない時が来ている。12. その後のナイジェリア政治情勢の展開 前稿執筆時点でナイジェリア国内に見られた政治的緊張は、サウジアラビアのジェッダ(Jeddah)に入院中だったウマル・ムサ・ヤラドゥア(Umaru Musa Yar'Adua)大統領の療養長期化で国家元首による意思決定の不在期間が長引いていることに原因があった。ナイジェリアの現行憲法下では、大統領が療養で長期不在を余儀なくされる場合には、大統領自身が副大統領に権限を委譲し、健康回復後にその権限を副大統領から回復するよう規定されている。 他の類似の事例としては、ドイツで入院したエジプト2010.5 Vol.44 No.366総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-出所:筆者撮影、2010年2月13日写5ヤラドゥア大統領入院当時のサウジアラビア国内ジェッダ続き、それを長期にわたって放置しておくのは危険だとの国論が大勢を占めるようになった。 結果的には、2月9日に議会側がジョナサン副大統領を大統領代行(Acting President)に昇格させる決議を通過させ、副大統領自身もそれを受託したことで、事実上、副大統領が国家元首としての権限を行使する新体制が整うことになった。そして、ジョナサン大統領代行による最初の権限行使が3月17日の内閣解散で始まった。ただし、ヤラドゥア大統領も依然、国家の最高位を「象徴」する立場に残っていることに変わりない。 その直前までの政権中枢部の状況については、ジョナのモハメッド・ホスニ・ムバラク(Mohammad Hosni Mubarak)大統領が入院直前に大統領権限を委譲したケースがある。ナイジェリアのケースでも、理想的には、昨年(2009年)11月にヤラドゥア大統領自身がサウジアラビアで入院する前に権限委譲の手続きを済ませておけば、後の政治的混乱は避けられたともされる。 この点に関し、筆者自身がナイジェリアの政府高官や産業界、文化人等々から聞いてきたところでは、入院直前のヤラドゥア大統領がどのような状況に置かれていたかについて明確に語れる人物は未だ見当たらない。大統領本人および担当医師団以外に正確な事情を知る人物はほとんどいないものと思われる。いずれにせよ、大統領自身が委譲手続きをしなかったことは事実とされる。 しかし、同大統領とグッドラック・ジョナサン(Goodluck Jonathan)副大統領の双方を個人的によく知る複数の関係筋によれば、両者の関係は良好かつ緊密だったとのことである。このため、大統領側が副大統領に権限を委譲しなかった理由についても、一部に聞かれる憶測はともかく、病状に関わる原因以外には考えられないと見る向きが圧倒的に多い。 そのヤラドゥア大統領が2月24日頃にサウジアラビアから帰国したことは確実である。しかし、通常の執務には未だ戻っていない。このため、ナイジェリア内外の様々なグループや個人が元首不在の状況を悪用しかねない状況が67石油・天然ガスレビュー出所:筆者撮影、2009年11月22日写6早朝のアブジャ市中心部Aナリシスサン副大統領も個人的によく知るハッサン・トゥクール(Ambassador Hassan A. Tukur)ヤラドゥア大統領付上級特別補佐官)が解散当日(3月17日)、次のように伝えている(写7)。「閣内には親ジョナサン派もいたし、そうでないグループもいた。また、親ヤラドゥア派もいたし、そうでないグループもいた。そのような中で、ジョナサン副大統領が大統領代行として動くべきか否かについては意見が二極化していた(they were polarized)」*41。 これに対し、厳格な法解釈を求める一部の憲法学者等は今回の政治的な扱いを「憲法違反(unconstitutional)」と指摘しており、法的措置を求める動きも起きている。しかしながら、既述のとおり、国家元首の長期不在は危険だ、との認識は広く受け入れられており、今回の現実主義的な扱いを批判するような声は大きくなっていないとされる(2010年3月末時点)。ヤラドゥア大統領の側近の多くもこれを受け入れる一方、南部で治安問題が深刻なナイジャー・デルタ(Niger Delta)地域に勢力を張る反政府ゲリラ各派でさえも国家元首不在という事態に反発していたことから、この点に関してはむしろ賛同の立場にあるとも見られている。 しかも、厳密な意味での法解釈上の疑問と、元首不在という社会的脅威の狭間で、「現実主義」的な政治決断を選択する事例は、ナイジェリアに限ったことではない。日本でも、たとえば、大規模な人員を擁し、最新型の戦闘機や戦車を求める自衛隊をあくまで「軍隊ではない」と法解釈してきた日本政府の立場も、その典型例の一つである。第二次世界大戦中に数百万人もの軍人および一般市民の生命を失い、2度にもわたる核兵器の被害を受けた日本国民が「二度と戦争はしない」と固く誓った現行憲出所: アブジャ市内の大統領特別補佐官執務室にて筆者撮影、2009年11月19日写7ハッサン・トゥクール大統領上級特別補佐官(Ambassador Hassan A. Tukur, Senior Special Assistant To Mr President)法・第9条の規定と、「実際に存在する脅威」と広く認識されてきた外国からの軍事的脅威に対抗する国防という問題の狭間で自衛隊を創設し、それを「憲法上で禁止されている軍隊ではない」と法解釈することで、現実的な国家安全保障を図ってきた日本の「現実主義」に基づく経験もある。13. 新石油産業改革法案(PIB法案)のその後 このような状況下、新石油産業改革法案(PIB法案=Petroleum Industry Bill)や「ガス・マスター・プラン」(GMP=Gas Master Plan)に関する基本的政策方針については、同じ与党PDP(People's Democratic Party)のヤラドゥア大統領とジョナサン大統領代行との間に差異はない。実際、PIB法案は既に政権側から議会に提出されており、そこでも議論が重ねられてきた。とは言え、議会側では、改革法案による影響を最も受けるのは、むしろナイジェリア国民であって、外資系石油企業のみではない、との判断に達し、議会内での議論だけで同法案を通すことは適切でないとされるに至った。目下、同法案については、一般国民や外資系資源開発企業の他、必ずしも石油業界に関わりのない組織・団体、個人に至るまで、その国籍を問わず「利害関係者」として広く意見を求める扱いとなった。議会側はその結果を踏まえて結論を出す方向となり、当初に見込まれていた日程よりは遅れている。今回の内閣解散直前の時点では、同法案の発案者とされるリルワヌ・ルクマン(Rilwanu Lukman)大臣が「次期選挙前の法案通過を望む」と発言している*42。2010.5 Vol.44 No.368総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-14. 次期大統領選挙 他方、筆者は2008年9月、アフリカ大陸東岸沖の人口約2,000万人の資源大国、マダガスカルの大統領共和国特別顧問に就任し、同国の国際貿易・投資促進活動等を通して国民経済の立ち上げに寄与する任務を担ったはずであった。ところが、その翌2009年からは同国史上初とされるクーデターを目の当たりにする結果になった。同国は他の途上国に比べて安定的な社会を維持し、過去数年間にわたる高度経済成長も達成し、「クーデター歴無し」を誇っていたため、国際社会で主流とされた状 2011年に予定されている次期大統領選挙の日程に関しても動きがある。通常は4月に連邦議会選、州知事選・州議会選、大統領選を実施し、5月29日前後に新政権移行となる。しかし、2011年に関しては、様々な報道が流れているものの、実質的には一連の選挙を1月に実施する方向でほぼ固まっていると聞く。他方、筆者が聞いているところでは、新政権への移行はこれまで通り、5月に予定されている。もちろん、これらの日程も今後、ドラマチックな状況変化が起きない場合の予定であり、絶対的な日程ではない(2010年3月時点)。 このように、次回の大統領選では投票結果の判明から新政権への移行までに約4カ月間のオーバーラップ期間が設けられるように考慮されているが、これは過去の経験から見て、1カ月間程度の移行期間では、閣僚を含む政治家サイドの高官(political appointment)等の新旧交代に伴う準備期間が足りな過ぎるとの声を反映したものだという。つまり、前政権からの引き継ぎ期間をこれまでの「1カ月間」ではなく「4カ月間」にわたって用意するという考え方である。日本国内でも政権交代後の新政権による「不慣れ」は政策的失敗の言い訳として許されないのと同様、ナイジェリアでも次々に起こる国難に対し、「不慣れ」では通用しないということである。 前稿で指摘したとおり、ナイジェリア国内では1960年10月1日の独立後、大半の期間にわたってイスラム教徒中心の北部がキリスト教徒中心の南部に対し政治的優位を保ってきたとされる。しかし、前稿でも述べたとおり、過去16回も起きたとされるクーデターは、南部出身のオルシェグン・オバサンジョ(Olusegun Obasanjo)元大統領が民主主義を本格的に定着させて以来、「クーデター・ビジネス」の時代ではなくなったとも言われる。 メディアの一部にはヤラドゥア大統領不在期間の長期化でクーデターの再発懸念に触れる論調も見られるが、現在のところ、「憶測(speculation)に過ぎない」との強い指摘もある。69石油・天然ガスレビュー出所: マダガスカルの首都アンタナナリボにて筆者撮影、2009年1月26日午後写8マダガスカルのクーデター派による暴動で炎上するスーパー・マーケット(放火犯らしき25人が死亡か)出所:マダガスカルの首都アンタナナリボにて筆者撮影、2009年1月26日午後写9マダガスカルのクーデター派による攻撃で炎上する政府系放送局Aナリシス況認識でも有望な将来見通しで一致していたが、それでもクーデターというものが発生し得ることも改めて実感された。今日では筆者の任務も「貿易・投資促進」から「高度に外交的なもの」に変わり、現在でも米国ホワイトハウスをはじめとする各国政府中枢部への説明や民主体制復興・治安回復への外交的支援・協力の要請等で苦労をしているところである。 もちろん、マダガスカルの事情とナイジェリアの事情は異なる。しかし、一般論として、経済的基盤の脆弱な途上国においては予測不能な社会現象も起こり得ることを常に考慮に入れておかなければならない。先進国においても、例えば、2008年9月15日のリーマン・ショックをきっかけに本格化した国際金融危機の中、アイスランドでは暴力的なデモが頻発して政権崩壊に至った。このように、「クーデター」とまでは言えないまでも深刻な治安悪化は起き得る。それだけに、政治面や経済開発面でそのような事態を防ぐべく、努力を惜しまないことはますます重要な課題となっている。いずれにせよ、国際出所: マダガスカルの首都アンタナナリボにて筆者撮影、2009年1月27日未明写10マダガスカルのクーデター下、銃声鳴り響く中で炎上する倉庫(死者数は10人前後か)的な事業展開に際しては、相手国でクーデター発生等の決定的な治安悪化の可能性を全面否定するような楽観論に振り回されるのは危険かもしれない。15. その後のナイジェリアの治安状況 ナイジェリアに関しては、現行憲法に規定されていない不文律として、南部と北部から交互に大統領を出すルールが生まれたとされる。オバサンジョ元大統領が任期を終え、北部出身のヤラドゥア大統領が後継者となったため、このルールはその時点で踏襲されたと言っていい。これに対し、ジョナサン大統領代行は南部出身である。このため、ナイジェリア国外を中心に同ルールがどうなるかについて様々な憶測も飛んでいる。しかし、この不文律はあくまでも与党PDPの「党内ルール」ともされており、国外で考えられているほど厳格な原則になっているわけでもないという見方もある。 本稿でも既に少し触れたナイジャー・デルタ(「ニジェール・デルタ」ともいう)地域の治安状況については、「60日間アムネスティ・プログラム」開始(2009年夏)以降の一定の安定化効果が見えていると言っていい。もちろん、治安が完全に回復したわけではない。2カ月前の前稿執筆後、3月15日には同地域内のデルタ州ワリ(Warri)において2つの爆弾事件が連続発生し、死傷者が出たと報道されている。 これは「石油戦争」(oil war)と通称される2006年頃からの紛争激化傾向の中、市街地の中心部における大規模爆破攻撃としては2回目(second major bomb attack)とされるだけでなく、同アムネスティ・プログラム開始後の事件発生となったため、関係者にとって衝撃的であった。しかし、反政府勢力側はかねて政府に対し「元首不在」問題の解決を要求してプレッシャーをかけ、「攻撃再開」を警告していた。これらの事情から、ジョナサン大統領代行の行動開始によって反政府勢力側の不満が和らぐとの見方も出ており、紛争の急拡大のきっかけにはならないとの見方も広がっている(本稿執筆の2010年3月末時点)。ただし、「反政府勢力」と言っても、多様なグループが存在しており、一枚岩ではない。このこ2010.5 Vol.44 No.370総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-とから、全派が満足しているとは限らないと懸念する向きもある。 ナイジェリア中部のプラトー(Plateau)州の州都ジョス(Jos)周辺で発生した衝突事件についても前稿で触れたが、同地域の紛争はその後も繰り返されている。前稿執筆時点では、その1年余り前の2008年11月発生の大規模紛争の余波として、本年(2010年)1月17日に同地域で再発した紛争について報告し、イスラム教徒を中心に「死者100人以上」とも報道される悲劇に至ったことについて触れた。その後も3月に入ってから7日や17日に大規模な襲撃事件が発生し、今度はキリスト教徒(original Christians)側に「100人以上」とも報道される多数の死者が出たとされる。今回は1月発生の襲撃事件で犠牲者の多かったイスラム教徒側による「報復攻撃」との見方もある。 前稿でも述べたとおり、同地域では近代に入ってから移住してきた北部出身のイスラム系住民が産業・経済活動のほぼ100%を握っているともされる反面、土地の多くは原住のキリスト教系住民が所有していることから、ジョス周辺特有の社会構造的な紛争要因が存在しているとされる。そのため、これはイスラエル・パレスチナ紛争と同様に「誰にも解決方法が分からない」(nobody knows the solution)とも言われるような難しい問題と見られる。 ただし、ジョス特有の社会構造に起因する紛争とされるだけに、ナイジェリア国内では今回のジョス危機が他の地域へ拡大する可能性を懸念する声は少ない。むしろ、この悲劇があたかもナイジェリア全土の社会状況を代表しているかのような誇張イメージが報道されれば国際的な誤解を生むのではないか、とのナイジェリア側の懸念の声もある。 このような状況下、リビアの最高指導者カダフィ議長が3月半ばに「ナイジェリアをインドとパキスタンのように、南北二つの国家に分けなければ、宗派紛争を解決できない」と発言した旨、報道された。その後、この発言が両国間の外交問題にまで発展し始めた。 前稿でも触れたとおり、ナイジェリア国内には政治、宗教、民族、文化、社会、経済のさまざまな側面で北部(イスラム教徒中心)と南部(キリスト教徒中心)の区分があり、さらに南部の中でも、西部と東部の区分があるとされる。同国内には武装勢力の動きのほか、地下資源争を含む歴史的な南北覇権争いもあった。これらの「南北区分」の概念は外国人のみが抱くものではなく、ナイジェリア国内でも意識されているが、その南北の境界線はシンボリックな概念であって、行政区画として規定(線引き)されているわけではない。このような状況下、今回の「カダフィ発言」に対するナイジェリア側の反発の一つは、現状認識が単純過ぎるというものである。 ナイジェリア北部に拠点を置くというイスラム過激派や、北隣の国ニジェールとの国境を行き来する一部の遊牧系集団等が引き起こしているとされる国軍との一連の軍事衝突事件も含め、中部ジョスや南部ナイジャー・デルタ等々の紛争の原因や背景は、それぞれ異なると認識する必要性もある。ナイジェリアは単に大人口や豊富な地下資源を擁する国家なのではなく、その民族・部族、宗教・宗派、言語、歴史、社会・文化等々のあらゆる側面で数百もの独自グループに分かれた多民族国家となっている。 英国から独立したナイジェリアは多種多様なグループを一つの国家にまとめるため、旧宗主国の英国型の議院内閣制よりも、大統領に強力な権限を集中させて国家統一を図る米国型大統領制の採用のほうが現実的だとの判断から、現行の連邦大統領制を選択してきたという。しかし、現在の状況は大統領制でまとめられるほど単純ではないとの声も出てきているという。実際、連邦レベルや州レベル、市町村レベル等々で膨大な行政組織を抱える同国では、対GDP比に見る行政コストが非常に高いのも特徴の一つになっている。このことから、英国型の議院内閣制への移行を図ることで状況の改善を期待する声まで聞かれるほどになっているという。 しかし、その英国のほうでは労働党のトニー・ブレア(Tony Blair)前政権が議院内閣制の枠内に留まりつつも、「米国型大統領制」に近い首相主導体制を目指し、多数の首相顧問等を採用した例がある。しかし、選挙を通さずに採用された顧問集団が選挙で選ばれた議員中心の内閣に対抗する「もう一つの内閣」として影響力を行使する弊害を生んだとして厳しく批判されるようになった。これは「スピン・ドクター問題」として知られるようになっている。その後継政権を率いることになったゴードン・ブラウン(Gordon Brown)政権はこの批判を受けて首相府を改編したが、この例を見ても、大統領制か、議院内閣制か、という選択は、それぞれの国情によって難しい課題になることは間違いない。71石油・天然ガスレビュー6. ナイジェリアの鉱物資源についての補足アナリシスに具体的な埋蔵量が明示されていないケースもあり、今後は確認埋蔵量が増えていくものと思われる。いずれにせよ、産業用採掘計画は未だ充分に進んでおらず、今後の開発機会は大きいものと考えられる。 本シリーズの第1回目では、ナイジェリア内外の産業界が原油および天然ガスの開発に早くから取り組んできたため、同国内に存在するはずの鉱物資源に関しては充分に関心が向いていなかったとの見方があることについて報告した。しかし、その際にも触れたとおり、ガーナやトーゴをはじめ、西アフリカのサブ・サハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域に東西に伸びる豊富な「鉱物資源ベルト地帯」がナイジェリアにも及んでいる可能性が非常に高い。 同国内の石油および天然ガスの確認埋蔵量や、農業分野、インフラ分野での潜在的ビジネス機会等については、本シリーズの第1回目および第2回目で掲示したが、第3回目の本稿では、もう少し鉱物資源に関しても触れておきたい。 2009年6月時点で既に発見されている鉱物資源は少なくとも50種類とされ、ナイジェリア全土で500カ所以上に分布しているとの資料も存在する(図3参照)。 ナイジェリア政府はそのうちの7種類を「戦略的鉱物資源」としてリスト・アップしている(表2参照)。鉱物資源探査が未だ充分でない中、図4でも金(gold)のよう出所: 在英ナイジェリア大使館提供資料Diezani Alison-Madueke, “Investment Opportunities in Nigeria’s Minerals Sector”Ministry of Mines and Steel Development, Abuja, Nigeria, Honourable Minister of Mines and Steel Development, Honorary International Investor Council. June 25-26, 2009.図3これまでに知られているナイジェリア鉱物資源分布表2ナイジェリアの戦略的鉱物資源戦略的鉱物資源推定埋蔵量金(Gold)Several prospects identified瀝青/タールサンド(Bitumen/Tarsand)27 billion barrels of oil equivalent石炭 (Coal)鉄鉱石(Iron Ore)石灰石 (Limestone)重晶石 (Barytes)2.7 billion tonnes3 billion tonnes2.23 trillion tonnes14 million tonnes鉛/亜鉛硫化物(Lead/Zinc Sulphides)1 million tonnes1234567出所: 在英ナイジェリア大使館提供資料Diezani Alison-Madueke, “Investment Opportunities in Nigeria's Minerals Sector”Ministry of Mines and Steel Development, Abuja, Nigeria, Honourable Minister of Mines and Steel Development, Honorary International Investor Council. June 25-26, 2009. に基づいてKRA作成2010.5 Vol.44 No.372総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-出所: Ministry of Mines and Steel Development(MMSD)“Gold Deposits Exploration opportunities in Nigeria”図4ナイジェリアの金鉱脈分布17. 日本はアフリカにどのように関わるべきか 本シリーズでは、これまで国際政治・経済情勢の読み取り方をめぐり、急激に変化しつつある現下の動向を読者と共に追う立場で分析し、資源大国ナイジェリアを具体的分析事例として取り上げてきた。 ここでは、改めて国際社会における日本産業界の位置や、海外から寄せられる期待について振り返ってみたい。 日本近隣の東南アジアや太平洋地域には第二次世界大戦直後まで英国、フランス、オランダ、ポルトガル等の植民地(colonies)が広範に存在していた。また、フィリピンはスペイン領時代や米国領時代を経験してきた。しかし、これらの欧米諸国が東南アジア・太平洋地域に100年単位という長きにわたって留まっていたにもかかわらず、この地域では今日見られるような目覚ましい経済的発展が起こることはなかった。 他方、敗戦の「焼け野が原」から再起した日本は、1950年代後半から1960年代にかけて欧米先進国へのキャッチ・アップを続け、年間実質GDP成長率が10年間連続で10%を上回る「奇跡の高度成長」を遂げた。そして、その結果、1967年にはGDPベースで世界第二位という経済大国にまで成長した。日本のキャッチ・アップ時代は1970年代半ばまでに終焉し、その後は逆に東南アジア・太平洋地域諸国から「追われる立場」に転換したというのが一般的な認識だと思われる。しかし、視点を変えれば、この歴史的過程には別の側面があることも見えてくる。 アジア・太平洋地域には第二次大戦後に多数の新独立国が誕生し、さらに1950年代からは日本の急成長にともなって同地域への日系企業の進出ペースが加速化し始めた。新興国として国民経済の立ち上げに情熱を注ぐ途上国側と日系企業群の新たな組み合わせが生じた時期は、東南アジア・太平洋諸国の目覚ましい経済発展の開始時期と見事に一致している。この地域はそれまでアフリカ諸国とほぼ同レベルの経済水準に留まっていたが、1970年代に入った頃から衝撃的なまでにアフリカ諸国を引き離していった(図5参照)。 もちろん、各国別で見れば、1990年代前半からのボツワナのように、同時期の東南アジア諸国と比較しても「遜色ない」とされるだけの経済的安定・発展を実現してきたアフリカ市場もある。しかし、自国の豊富な地下資源と戦略的経済政策を巧みに組み合わせて成功しているアフリカ諸国は依然、非常に少ないと認めざるを得ない。 2007年10月25日に英国オックスフォード大学クイーン・エリザベス・ハウス(Queen Elizabeth House=国際開発学部)で開催されたセミナーでは、IDE-JETRO*4373石油・天然ガスレビューフ平塚大祐・開発研究センター長が講演したが、その質疑応答の際、英国側およびアフリカ諸国側の参加者からはこれらの事実にも注目が集まり、日本産業界と東南アジア諸国の組み合わせによって起きた経済成長モデEast Asia & Paci?c785(2) これは輸送面で高コストとなるのみならず、様々なアナリシスルは、将来、日本産業界とアフリカ諸国の組み合わせによって再現し得るかどうか、というテーマが新たな関心事として示された。 同センター長のその場での回答は、大体、次のとおりであった。(1) 日本と東南アジアの距離に比べ、日本とアフリカの距離は非常に長大である。意味で日系企業の進出を困難にする要因となる。(3) ただし、状況の変化次第では「晴れ間」もあり得る。(4) その「晴れ間」はアフリカ諸国間の地域市場統合の進展によって見えてくるものと考えられる。(5) アフリカ地域市場周辺での地元購買力が拡大すれば、日系企業が必ずしもアフリカと日本の距離を心配する必要が無くなり、現地市場をそのまま対象マーケットとして貿易・投資に乗り出すことができる。(6) 「現地マーケット」の周辺にしても、必ずしもアフリカ市場のみに限る必要はなく、中東市場からEU市場まで含めて考えることも可能であろう。 筆者はこれらの論点についてもナイジェリアの政府高官や産業界に至る様々な人材と話し合ってみた。上記の平塚センター長による重要な提案に加え、筆者は次の諸点について強調したいと考えている。Low incomeSub-Saharan Africa20812420001996199219881984198019761972196819641960出所: Benno Ndulu et al, Challenges of African Growth: opportunities, constraints and strategic directions, The World Bank, 2007, p.5.図5Comparative per Capita Income Growth Paths: Sub-Saharan Africa vs. Other Regions9008007006005004003002001000GDP per capita index.1960=100出所: 筆者撮影、2009年11月22日写11アブジャ郊外の朝2010.5 Vol.44 No.374総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-(1) 石油・天然ガスであれ、鉱物資源であれ、農業資源であれ、あらゆる資源が極度に不足する日本は目下、「資源エネルギー外交」を国策の中心的課題の一つに据えており、中東のみならず、中南米やアフリカへの進出も目指さなければならない立場に置かれている(本シリーズの第1回目で指摘済み)。(2) 特に2001年の「9.11米国中枢同時多発テロ」発生以降の中東情勢の不安定化が深刻である事実を考慮すれば、他の地域への進出も日を追って重要となっている。(3) しかし、中南米やアフリカにおいては「距離」という要因が大きいことから、日系企業側も収益見通しの正当化のために進出先マーケットの購買力の発展に期待を寄せざるを得ない地理的・産業構造的な事情に直面している。(4) このことは、自国経済の発展を目指す途上国側のニーズとも重なっている。(5) そのため、日本産業界とこれらの地域市場の組み合(6) 日本産業界からは鉱山会社やエネルギー関連企業、食品メーカー等々による投資事業に加え、卸分野から小売り分野まで幅広くまとめるコンソーシアムの編成が得意な大手商社の進出等が有効かつ不可欠と考えられる。(7) これらの構想に大企業が含まれる必要性があるのは当然であるが、コンソーシアム内の事業の進展状況に合わせ、その外側の関連事業に関わる多様な専門的スキル、ノウ・ハウ、企業家精神(entrepreneurship)の豊かな中小企業の活力ある進出も必要となる。(8) 日本政府は2008年5月の第4回・東京国際アフリカ開発会議(TICAD IV=The Fourth Tokyo International Conference on African Development)において、向こう5年以内に対アフリカODAの倍増方針についてコミットしたが、公的資金によるODAは、民間企業による現地進出の呼び水として重要な役割を担う。わせは双方の共通利益を生み出し得る。(9) 他方、民間企業の投資資金の絶対規模は公的資金に出所: ロンドンで開催されたナイジェリア経済産業振興セミナーにて筆者撮影、2006年3月30日写122020年目標の「ナイジェリアを世界で最も住みやすい国の一つ」にする誓い75石油・天然ガスレビュー謔餔DAを遥かに上回る規模になると期待されるため、ODAのみでは不充分であり、民間企業の進出にまで繋げていく必要がある。 1995年~1996年当時、筆者は世界銀行サブ・サハラ開発局のFDI促進コンサルタントとして、マダガスカルおよびモーリシャスでの産業振興プロジェクトに従事していた。同プロジェクトでは、日系の中小企業・零細企業を中心に43社からなる計5回の現地派遣ミッションを組み、筆者自身もそのたびに現地に同行した。また、他のアジア3カ国(韓国、マレーシア、インドネシア)から計15社のミッションを現地に勧誘・同行したが、1社当たり1週間~2週間のみという短い現地滞在期間であったにもかかわらず、多数の技術提携や輸出入取引が成立するという中小企業の活力に感銘を受けた経験がある。さらに、それらミッションの成果の中には、地方自治体同士の姉妹都市合意までが含まれていた。 筆者はその10年余り後に当たる2008年、大企業・中アナリシス堅企業を中心する計70人規模の「TICAD IVフォロー・アップ・ミッション」をマダガスカル側で出迎える機会にも恵まれた。 これらの現場体験からも、日本の公的機関と大企業、中小企業、零細企業までの複合的・重層的な組み合わせによる幅広いビジネス戦略プログラムの意義や重要性を強く実感させられてきた。 そのような産業協力が多く実現できれば、日本に対する途上国側の信頼感をさらに深めることが可能になる。また、現地を日本産業界の求める資源の安定的供給地として期待できるようになると同時に、現地そのものが購買力の拡大する市場として期待することができるようにもなると確信する。今シリーズの分析で見てきたように、国際社会でも、日本国内でも、政治・経済分野のあらゆる側面で激変が起きつつあり、今後の困難も予想される状況ではあるが、日本産業界がさらにチャレンジ精神を発揮し、持続的発展を実現するよう、切に望んで止まない。<註・解説>*1:JOGMEC、『石油・天然ガス・レビュー』2010.1 Vol.44 No.1に掲載の拙稿:   http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201001_055a%2epdf&id=3490   JOGMEC、『石油・天然ガス・レビュー』2010.3 Vol.44 No.2に掲載の拙稿:   http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201003_033a%2epdf&id=3526*2:「チャタム・ハウス・ルール」とは、日本国内で馴染みの「オフレコ」(off the record)とは異なり、発言者名等の情報ソースを明らかにしない限り、その発言者や情報提供者から得た内容を引用・紹介することが許され、または、敢えて情報ソースを明らかにする場合には内容を明らかにしてはならない、とするルールである。これは世界的に知られているルールであり、英国王立国際問題研究所(RIIA=The Royal Institute of International Affairs)の現所在地チャタム・ハウス(ロンドン市内)に因んで名付けられたものだとされている。*3:ロイター「英蘭預金者に対する返済問題、近く協議再開されると期待=アイスランド外相」、 2010年3月9日。   http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnJS864033920100309  (アクセス日:2010年3月25日)*4:前掲。*5:前掲。*6:David Miliband, ‘Iceland referendum’, FCO, 9 March 2010:   http://blogs.fco.gov.uk/roller/miliband/entry/iceland_referendum (Accessed 25 March 2010).*7:ロイター、「〔シナリオ〕アイスランド預金返済問題、時間との戦いに」、2010年3月8日。   http://jp.reuters.com/article/marketEyeNews/idJPnTK863910520100308 (アクセス日:2010年3月25日)2010.5 Vol.44 No.376総ロ政治・経済情勢の読み取り方(3) -石油・天然ガス大国ナイジェリアを事例として-*8:BP, ‘Statistical Review of World Energy’, June 2009:   http://www.bp.com/liveassets/bp_internet/globalbp/globalbp_uk_english/reports_and_publications/statistical_energy_review_2008/STAGING/local_assets/2009_downloads/statistical_review_of_world_energy_full_report_2009.pdf (Accessed 30 March 2010).*9:ブルームバーグ、「IMF:ドバイ政府による支援を歓迎-ドバイ・ワールド債務問題で」、2010年3月25日:   http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=aps0Fs517ZiM (アクセス日:2010年3月30日)。*10:ブルームバーグ、「ドバイ・ワールドの債務再編提案は「合理的」-HSBCのガリバー氏」、2010年3月30日:   http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=ak6F7OfeCf2E (アクセス日:2010年3月30日)。*11:アブダビ系投資銀行役員へのインタビュー、2010年3月28日。*12:ブルームバーグ、「ドバイ、債権者の信用回復に数年かかる恐れ?市場が返済案好感でも」、2010年3月26日:   http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90970900&sid=anpWKX4i2On4 (アクセス日:2010年3月30日)。*13:ブルームバーグ、「ドバイ・ワールド債務再編、銀行団には悪い内容の公算?JPモルガン」、2010年3月28日:   http://bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90970900&sid=ai7toHUUJSIo (アクセス日:2010年3月30日)。*14:在ドバイ日系商社役員へのインタビュー、2010年3月28日。*15:既掲、ブルームバーグ、2010年3月26日。*16:ロイター、「EU財務相、ユーロ圏独自の格付け制度創設をECBに要請=独紙」、2010年3月 4日:   http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-14175820100304 (アクセス日:2010年3月25日)。*17:ロイター、「ユーロ圏首脳会議、経済政策でドイツ色強まる可能性示唆」、2010年3月29日:   http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14558920100329 (アクセス日:2010年3月29日)。*18:前掲。*19:Martin Wolf, ‘China and Germany unite to weaken the world economy’, FT, 17 March 2010:   http://www.ft.com/cms/s/0/3bcc011c-3164-11df-9741-00144feabdc0.html  (Accessed 15 March 2010).*20:ロイター、「ユーロ圏首脳会議、経済政策でドイツ色強まる可能性示唆」、2010年3月29日:   http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14558920100329 (アクセス日:2010年3月30日)。*21:前掲。*22:Philip Stephens, ‘Merkel’s myopia reopens Europe’s German question’, FT 25 March 2010:   http://www.ft.com/cms/s/0/6bbc71d8-3847-11df-8420-00144feabdc0.html (Accessed 29 March 2010).*23:ロイター、「[ECBフォーカス]ギリシャ支援策、ECBの限界が浮き彫りに」、2010年3月29日。   http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK865849120100329 (アクセス日:2010年3月30日)。*24:The Financial Times (FT),‘Eur’ in trouble’ (LEX column), 26 March 2010.*25:ロイター、「ユーロ圏首脳による救済合意、ギリシャ格付けに影響なし=S&P」、2010年3月27日:   http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-14541820100327 (アクセス日:2010年3月30日)。*26:たとえば最近では Peter Tasker, ‘Why Japan’s heavy debt burden need not spell crisis’, FT, 16 March 2010:   http://www.ft.com/cms/s/0/a408c27a-309b-11df-a24b-00144feabdc0.html (Accessed 29 March 2010).*27:FT, ‘A sovereign vulnerability scorecard’ , 4 Mar 2010:   http://ftalphaville.ft.com/blog/2010/03/04/164181/a-sovereign-vulnerability-scorecard/ (Accessed 29 March 2010).*28:共同通信、「タリバン拠点ほぼ制圧 アフガン南部地区、開始から2週間」、2010年2月27日:   http://sankei.jp.msn.com/world/asia/100227/asi1002272229001-n1.htm (アクセス日:2010年2月27日)。*29:前掲。*30:共同通信、「米軍がタリバン牙城に作戦展開へ アフガン戦」、2010年2月27日:   http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010022701000263.html (アクセス日:2010年2月27日)。*31:前掲。77石油・天然ガスレビューAナリシス*32:「対テロ戦争」の開始以降のイラク、アフガン両戦線における米軍中心の国際部隊の死者数は、各公的機関等による公式報告に基づいて Iraq Coalition Casualty Count が集計したもの。*33:しかし、CNNによるインタビューでは、ヒル米大使も慎重に言葉を選んでおり、同選挙の実施経緯に問題があったことも認識していたと思われる。その意味では、イラクで選挙が実施されるたびに「民主主義への転機」を実際以上に楽観的に描く傾向の強い米主要メディアの論調がここでも現れているようにも見受けられる。   CNN, ‘U.S. ambassador: Iraq elections a turning point for democracy’, 29 March 2010:   http://edition.cnn.com/2010/WORLD/meast/03/28/iraq.elections.ambassador/index.html (Accessed 30 March 2010).*34:毎日新聞、「クローズアップ2010:イラク総選挙 マリキ首相『他会派排除せず』 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>」、2010年3月8日:   http://mainichi.jp/select/world/news/20100308ddm003030091000c.html (アクセス日:2010年3月29日)。*35:AFP, ‘Shadow of Saddam hangs over Iraq polls’, 4 March 2010:   http://news.yahoo.com/s/afp/20100305/wl_mideast_afp/iraqvotebaath (Accessed 29 March 2010).*36:AP, ‘Iraqi panel wants to bar 4 elected on winning list’, 29 March 2010:   http://m.apnews.com/ap/db_15657/contentdetail.htm?contentguid=ugPLz0gu (Accessed 29 March 2010).*37:時事通信、「敗北の首相が国連批判=『再集計要求聞いてくれない』-イラク」、2010年3月29日:   http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010032900038 (アクセス日:2010年3月29日)。*38:前掲。*39:元ホワイト・ハウス国家安全保障会議(NSC=National Security Council)高官へのインタビュー、2010年3月24日。*40:前掲。*41:The New York Times, ‘Acting Leader of Nigeria Dissolves His Cabinet’, 17 March 2010:   http://www.nytimes.com/2010/03/18/world/africa/18nigeria.html (Accessed 29 March 2010).*42:Reuters, ‘Nigeria committed to oil sector overhaul ?Jonathan’, 22 Feb 2010:   http://www.reuters.com/article/idUSLDE61L2FG20100222 (Accessed 19 March 2010).*43: IDE (Institute of Developing Economies)=アジア経済研究所は、JETRO(Japan External Trade Organisation)=日本貿易振興機構 (当時は「日本貿易振興会」)と1998年7月1日に統合。執筆者紹介小松 啓一郎(こまつ けいいちろう)〈学 歴〉 1990年、英国オックスフォード大学・政治経済学部に学士入学。1991年、同大学大学院進級。同大学東洋学研究所にて「日本経済」担当非常勤講師。1994年12月、同大学大学院にてD.Phil.(博士号)取得(政治学・国際関係論)。〈職 歴〉 1979年、商工中金に入行。中小企業向け金融業務(東京)および為替トレーダー(ニューヨーク)等。1995年、世界銀行・海外民間投資促進コンサルタント(サブ・サハラ・アフリカ地域開発局)としてマダガスカルおよびモーリシャスの開発に従事。1996年、英国通商産業省・上級貿易アドバイザー(初代)に就任(ジェトロ長期専門家)。新設官庁・英国海外貿易総省(現UKTI)設立業務等にも従事。1999年、英国海外貿易総省・上級貿易アドバイザー(初代)。2001年、エジプト政府支援のため産業振興調査に従事(ジェトロ短期専門家)。以降、業務委託ベースで全世界を対象とする調査・報告(新規ビジネス機会およびカントリー・リスクの情報収集・分析)に従事。2005年、在英Komatsu Research & Advisory設立(日系、欧米系、途上国企業等へのアドバイザリー業務)。NGO「地球環境平和財団」(本部・東京)の欧州代表(ボランティア・ベース)も務め、2003年以降はUNEP(国連環境計画、本部・ナイロビ)との共同プロジェクト「地球の森プロジェクト」の立ち上げから参加。米国カータス社(旧センダント・インターカルチュアル社)、プルーデンシャル社、ベルリッツ社、英国IOR社にて異文化間ビジネス研修教官等を兼務。2008年、マダガスカル共和国大統領・特別顧問に就任。〈その他〉 英国王立国際問題研究所会員、英国国際戦略研究所会員、成城大学経済研究所研究員、オックスフォード大学国際問題研究センター会員、ケンブリッジ大学日英協会会員。〈近 況〉在英ポリティカル・アナリスト兼エコノミストとしてBBCニュースに頻繁出演。 2010.5 Vol.44 No.378
地域1 アフリカ
国1 ナイジェリア
地域2 グローバル
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 アフリカ,ナイジェリアグローバル
2010/05/20 [ 2010年05月号 ] 小松 啓一郎
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