ページ番号1006407 更新日 平成30年2月16日

石油・天然ガス市場概況 ― 今後を展望するためのヒント ―

レポート属性
レポートID 1006407
作成日 2010-05-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 基礎情報市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2010
Vol 44
No 3
ページ数
抽出データ アナリシスJOGMEC調査部 野神 隆之石油・天然ガス市場概況― 今後を展望するためのヒント ―はじめに 筆者は毎月中旬に、石油及び天然ガス市場に関するレポートを作成し、「石油・天然ガス資源情報」としてJOGMECホームページに掲載している(原則毎月第三月曜日-月曜日が休日の場合には翌日-に掲載)。もちろんこれは、我が国にとって重要なエネルギー源である石油・天然ガスに関する市場の状況がどのように推移しているか、といったことを読者のみなさんに広く知って頂くことを念頭においているわけであるが、他方筆者自身が過去の市場の状況(原油価格の上下変動要因やその背景等)を振り返る際の資料も兼ねていることから、どうしても記述が細かくなり、従って市場の概要を知ることが第一の読者にとっては若干読みにくいものとなっている面もある。また、当該レポートは2004年4月より毎月発行されており(正直申し上げて、当初は、原油価格の上昇傾向が収まり、報告内容や分析事項が少なくなれば、必ずしも毎月発行するつもりではなかったが、その後原油及び天然ガス価格は何年もかけて大きく変動することとなったことから、結果的には今日に至るまで当該レポートを毎月発行するに至っている)、特に過去の原油市場等における背景と今後を展望する際の注意点について把握するには、このレポート類はいささか大部になりすぎてしまった感がある。そこで、毎月発行される、筆者作成の「石油・天然ガス市場月報」を過去に遡って読み返さなくても、最近の石油・天然ガス市場について比較的短時間で把握できるように、その概要をまとめたのが本稿である。また、事態の推移との兼ね合いから、必ずしも「石油・天然ガス市場月報」に盛り込むことのできなかった事項についても、その内容について本稿で併せて触れることとしたい。なお、「石油・天然ガスレビュー」の性格上ごく最近の原油及び天然ガス価格の動きとその背景や極めて短期的な展望については、原則割愛させて頂いたので御了承願いたい。さかのぼ1. 石油市場の状況通常取引時間前の時間外取引では1バレル当たり87ドルに到達する場面も見られている。 ただ、原油価格が上昇し始めた2004年以降、実は深刻な需給逼は発生していない。米国及びOECD諸国における原油や、ガソリン及び留出油(主に軽油と暖房油)といった石油製品の在庫は、概ね、平年幅の中央部付近にあった(これは即ち需給状態としても中庸)か、もしくは時として平年幅上限付近ないしは上限を超過(これは需給状態としてはかなり緩和していることを示す)している状態であった(図2~図7参照)。実際1995年以降のOECD諸国の石油在庫日数(月末の在庫量をその後3カ月間の1日当たり需要で除したもの)と原油価格の関係を示すと、1995~2003年までは両者は緊密に相迫ぱすなわひっくん 原油価格は、2004年から2008年央にかけて変動しつつも未曾有の上昇となり、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエット、米国テキサス州西部を中心として生産される原油で、世界の指標原油の一つ)は2008年7月11日の時間外取引で1バレル当たり147.27ドルの史上最高値を記録した。その後サブプライム問題の顕在化やリーマン・ブラザーズ破に伴う世界経済減速により、同年12月19日の取引時間中には一時1バレル当たり32.40ドルとなるなど半年足らずの間に原油価格はほぼ5分の1程度にまで低下した(図1参照)。しかし、その後原油価格は再び上昇、2009年8月下旬以降WTIで1バレル当たり概ね69~84ドル程度で推移したが、2010年4月初めには、その範囲を突破し、4月6日朝の綻たおおむは1石油・天然ガスレビューhル/バレルWTIBrentアナリシス1234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234200320042005200620072008567891011121220093420101501401301201101009080706050403020出所:NYMEXデータ等を基に作成図1原油価格の推移(2003~2009年)関し、その回帰線は右下がりとなっていた(つまり、在庫日数が増加(=需給が緩和)すれば、原油価格が下落し、在庫日数が減少(=需給が逼迫)すれば、原油価格が上昇する、といういわゆる「需要と供給の法則」に準拠するものであった)(図8参照)。しかしながら2004年以降その関係が壊れ、例えば、2008年6月末の原油価格は1バレル当たり140ドルであったが、在庫等から説明できる原油価格はそのはるか下の水準といった状態であり、ここに需給関係では説明できない部分が発生した。その後2008年後半には原油価格が下落し一時需給バランス(=在庫)で説明できる水準にまで原油価格は接近したが、2009年途中からは再び在庫日数は増加する(従って需給は緩和方向に向かう)一方で、原油価格も上昇するといった、2008年央までと類似した状況が出現しており、2010年4月末現在も原油価格と需給バランスは乖離したままの状況にある。 ではなぜ、このような原油価格と需給関係の乖離が発生するのか。要因として考えられるのが、市場での需給逼迫懸念の増大等を材料として投機や投資資金が流入したことにより、原油価格の上昇がもたらされた、といったものであろう。逼迫懸念としては、まず2004年に米240 220 200 180 160 百万バレル200320042005200620072008200920101998?2002年実績幅2003?2010年出所:米国エネルギー省データを基に作成図3米国ガソリン在庫推移(2003~2010年)390370350330310290270250百万バレル200320042005200620072008200920101998?2002年実績幅2003?2010年18016014012010080百万バレル20032004200520061998?2002年実績幅200720082003?2010年20092010出所:米国エネルギー省データを基に作成出所:米国エネルギー省データを基に作成図2米国原油在庫推移(2003~2010年)図4米国留出油在庫の推移(2003~2010年)2010.5 Vol.44 No.32ホ油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -10.5 10.0 9.5 9.0 8.5 8.0 億バレル20052006200720082009201026252423222120億バレル2005200620072008200920101995?2004年実績幅2005?2010年1995?2004年実績幅2005?2010年出所:IEAデータ他より推定出所:IEAデータ他より推定図5OECD原油在庫推移(2005~2010年)図7OECD石油在庫(原油+石油製品)推移(2005~2010年)ドル/バレル米ドル下落に軽質低硫黄原油プレミアムを加えた場合160140120100806040200452010年3月2010年3月米ドル下落による調整を行った場合501995?2003年2007年552004年2008年6065日2005年2009年2006年2010年 *:月末在庫量÷翌3カ月間の石油需要出所:IEAデータ他より推定図8OECD石油在庫日数*と原油価格(WTI)価格上昇予想が実際の市場での原油購入を促進する、というような場面も散見された。 これらについて、現在利用可能なデータはどのようなことを示唆しているであろうか。2009年10月19日に米国商品先物取引委員会(CFTC)は、2006年6月13日まで遡って先物市場取引に関する詳細情報を発表した。この情報では、当業者を「生産者/(石油)取引業者/精製業者/(石油)消費者」(Producer/Merchant/Processor/User)と「スワップ・ディーラー」(Swap Dealer:インデックスファンド等の販売により得た資金を先物市場に投入し利を稼ぐことのある業者で、石油関連施設を保有していることから当業者と区分される)に区分した他、「非当業者」も「資金運用者」(Money Manager、CTA(Commodity Trading Advisor:商品取引顧問業者)とCPO(Commodity Pool Operator:商品ファンド)等)及び「その他の(非当)業者」(Other Reportable)に区分している。 これをもとに、2007年8月21日から2008年12月末までの、原油価格上昇がより急激になり史上最高値を更新した後急落した時の状況を見てみると、スワップ・ディーラーの原油先物契約購入は増加していないどころ鞘ざりや1615141312億バレル2005200620072008200920101995?2004年実績幅2005?2010年出所:IEAデータ他より推定図6OECD石油製品在庫推移(2005~2010年)ただ国や中国で石油需要が急増(但し、その後2008年に至るまで、これらの国々の需要伸び率はよくて平年並み程度の水準にとどまった)、この時のイメージを以降も市場が引きずったことや、イラク、イラン、ナイジェリア等の政情不安に伴う石油供給途絶に対する不安感が挙げられる。次に米国の石油生産及び精製の一大中心地である同国メキシコ湾への秋場のハリケーン等暴風雨の来襲に関する予報と実際の発生及びメキシコ湾への進入、そしてその後の冬場の暖房シーズンにおける石油(特に暖房油)需給逼迫に対する市場の懸念の増大といったこともあった。また、OPECの余剰生産能力が低下してきた(といっても2008年時点でも2003年並みには余剰生産能力は確保されており、他方2008年の年平均原油価格は1バレル当たり100ドル程度、2003年は30ドル程度であった)ことにより、政情不安等に伴う供給途絶への対応が危うくなるという危機感もあった。他方、需給逼迫懸念とは別に、特に2007年後半から2008年前半にかけては、米国での経済浮揚のための金融緩和策に伴う米ドル下落を、原油市場参加者がインフレ到来懸念の高まりとみなし、インフレに耐性があると思われる原油を含む商品購入が活発化したことや、予測機関による原油3石油・天然ガスレビューAナリシスか若干減少すらしている(図9参照)。しかしながら、販売する側が売り惜しみをする等で購入契約数が増大しない一方、購入意欲は旺盛なことにより、価格だけが上昇していくといった事態が発生していた可能性は考えられもっることから、これを以て、スワップ・ディーラーによる原油先物市場への投資は原油価格の上昇とは無関係である、と結論付けるのは早計であろう。また、契約数量は必ずしも増加を示さなかったものの、価格の上昇に従って投資金額は増加しており、この面では、やはり投資資金が流入したことが示唆される(図10参照)。 他方、資金運用者について原油先物契約購入の状況を見てみると、2007年8月からの契約数増大に合わせて原油価格が上昇している場合もある(図11参照)が、その後契約購入数が減少したものの原油価格の下落は抑制され、2008年3月頃まで購入数が概ね安定した局面では原油価格も同じく一定の範囲内で上下変動を繰り返していた。しかしながら、以降は原油価格が上昇する一方で資金運用者の原油先物契約購入数は停滞もしくは減少を始めており、この部分では両者の動きが相反する結果となっている。ただ、これもスワップ・ディーラーの場合と同様、価格が上昇している局面でもあり、流入する資金規模は大きくなっていると考えられる。また、2008年7月以降の原油価格の下落局面においては、再び資金運用者の投資行動と一致するようになっている。 2009年の原油価格上昇の主な要因としては、もともと超低金利下で資金供給が豊富になった一方で、必ずしもそれらが全て実質的な融資に向かったというわけでもなく、そのような資金が商品市場等へ流入したものと推測される。実体経済は雇用を含めもたついていたものの、予想よりも悪くない経済指標等による株式相場上昇に伴う経済・石油需要回復期待の増大(図12参照)や、引き続き米国で金融緩和政策が実施されていたことによる米ドル下落とインフレ懸念の増大(但しこれは2009年半ば以降「材料として都合のいい時のみ」材料視され、必ずしも常時価格に織り込まれたわけではなかった)(図13参照)、加えてイラン等の地政学的要因に伴う石油供給途絶懸念、さらには冬場の暖房需要の盛り上がりといったことが材料となったものと考えられる百万バレルドル/バレル600 500 400 300 200 89101112123456789101112月スワップ・ディーラー購入量(左軸)原油価格(WTI、右軸)150 130 110 90 70 50 30 百万バレル600 ドル/バレル500 400 300 200 89101112123456789101112月資金運用者購入量(左軸)原油価格(WTI、右軸)150 130 110 90 70 50 30 出所:CFTCデータを基に作成出所:CFTCデータを基に作成図9スワップ・ディーラーのNYMEX原油先物契約購入量図11資金運用者の原油先物購入量の増減10億ドル10億ドル農産物家畜原油エネルギー工業用金属金0ドル/バレル908580757065605550457,5008,0008,5009,0009,50010,00010,50011,000ポイント出所:OPEC出所:NYMEX他データを基に作成図10主要インデックスファンドによる商品投資額(S&P GSCI 及び DJ-AIG)図12米国株式相場(ダウ工業株30種平均、横軸)と原油価格(WTI、縦軸)2010.5 Vol.44 No.34ホ油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -が、それらの材料は互いに関連しており、ここに文章で記したよりはずっと複雑な状況であった(主なものは図14参照)。 他方2009年の原油価格の上昇局面において、CFTCのデータを利用して分析すると、2008年12月下旬から2009年1月初旬にかけて原油価格が一時1バレル当たり50ドルに到達した局面においては、資金運用者が先物契約を購入、また以降5月中旬にかけ、原油価格が1バレル当たり60ドル弱の水準にまで上昇した段階までは、資金運用者の先物契約購入は鈍化したが、他方、スワップ・ディーラーによる購入が増加した。その後はスワップ・ディーラーと資金運用者による先物契約購入が強まったり弱まったりしつつも、しばしば互いにその影響を打ち消し合う格好となり、原油価格は5月中旬から7月末までは1バレル当たり58~73ドル程度、さらに8月初め~10月中旬は1バレル当たり65~75ドル程度の比較的限られた範囲で上下変動を繰り返し原油価格(ドル/バレル)15014013012011010090807060504030たが、10月に入ってからは資金運用者による先物契約購入が強まり、原油価格も1バレル当たり80ドルに向かったことが示唆される。このように2009年においては、いわゆる金融業界からの市場参加者による先物契約購入は原油相場の動きと概ね一致している(図15参照)。金融緩和金融緩和感景気回復期待信用拡大(企業業績改善による株式相場上昇を見越した米ドル売り)企業業績・経済指標改善米ドル下落投資家のリスク許容度拡大景況感改善景況感改善株式相場上昇インフレ懸念エネルギー関連企業株価上昇製品・原油価格差縮小需給逼迫懸念原油価格上昇原油価格上昇予想経済・石油需要回復期待経済・石油需要回復期待・予想原油価格上昇予想石油需要・価格予想上方修正精製利幅低下製油所での生産減少在庫減少、減少予想出所:筆者作成図142009年の石油市場を巡るダイナミクス百万バレル百万バレル6005505004504004504003503002502001.21.251.31.351.41.5為替レート(ドル/ユーロ)1.451.551.61.6535012125439スワップ・ディーラー(左軸)67810112113資金運用者(右軸)2 4月?2008/5/59/15?11/285/6?7/1412/1?2/127/15?8/42/13?5/298/5?8/226/1?8/25?9/12出所:NYMEX他データを基に作成出所:CFTCデータを基に作成図13為替レートと原油価格(WTI)(2007年9月~)図152008~2010年のスワップ・ディーラーと資金運用者の原油先物購入量2. 天然ガス市場の状況 他方米国の天然ガス価格については、原油価格と緩く連動しつつも、それ自身の事情で変動している部分もあった(図16参照)。例えば、2005年後半にはハリケーン「カトリーナ」と「リタ」が米国メキシコ湾に来襲し、石油や天然ガスの生産関連施設や製油所に被害を及ぼしたが、石油については、IEA諸国からの備蓄放出により市場への影響は限定的であった。その一方で、天然ガスについてはそもそも世界的に自由に天然ガスが移動できる市場にはなっていなかったことから、冬場の暖房用燃料需要期を控えて価格が上昇、例えば、2005年12月13日のWTIは、1バレル当たり60ドル程度であったが、同日の天然ガス価格(ヘンリー・ハブ渡し)は、100万Btu当たり15ドル(原油換算で1バレル当たり約90ドル)となるなど、原油価格を上回って上昇する場面も見られた。5石油・天然ガスレビューAナリシスドル/百万Btu(天然ガス換算)原油(WTI)天然ガス(ヘンリー・ハブ渡し)25 20 15 10 ドル/バレル(原油換算)5 0 812345910111220057682006910111212345691011121234578200776820089101112123459101112176820092342010出所:NYMEX他データを基に作成図16米国天然ガス価格の推移(2005~2010年)150 120 90 60 30 0  ただ、それ以外は、原油価格の上昇に引きずられて天然ガス価格が上昇する、といった局面も見られたものの、総じて原油価格の方が天然ガス価格を上回っていた。実際には原油も天然ガスも足元の需給は緩和状態であったが、原油については、今後経済回復とともに中国等の非OECD諸国を中心として需要が堅調に増加していく一方で、2008年後半の原油価格下落による投資不足で将来的には供給が需要に追い付かないと市場が見込んでいることが価格を引き上げている面があった。その反面、天然ガスについては、中国等非OECD諸国での需要増加はある程度は想定されているものの、天然ガスの主要消費部門の一つである発電部門においては中国等では石炭と競合するという事情もあり、世界の天然ガス需給に関する将来見通しが市場関係者の間でも明確に描けていないことで、天然ガス価格予想をなかなか引き上げられない、ということがあるようである。また、最近では液化天然ガス(LNG)による天然ガス貿易もある程度進展してきており、取引の流動性も増加しているものの、市場では、依然として天然ガス貿易の主要部分はパイプラインによるものであり、例えば中国では現時点ではLNG受入能力が限定的であることから、原油に比べて世界的流動性が低いといった認識が強いものと考えられ、これらの要因もあり米国内や欧州域内といった各地域内市場での事情がより相場に反映されやすい状況になっていることが背景にあるものと見られる。 2009年においては欧米の天然ガス価格は下落傾向となっており、原油価格との乖離の度合いも大きくなった。特に世界的な景気後退に伴う産業向けを中心とした天然ガス需要の減退と、米国国内でのシェールガスを中心と5958575655545352日量十億立方フィート13252009年8月11日発表46897102009年12月8日発表111122010年4月6日発表23月(注)点線部分は見通し出所:米国エネルギー省発表データを基に試算図17米国国内天然ガス生産と見通しの推移(2009~2010年)4.03.53.02.52.01.51.0兆立方フィート123765482004?2008年実績幅事実上の貯蔵能力91031121122009?2010年2004?2008年平均値4月出所:米国エネルギー省データを基に試算図18米国天然ガス貯蔵量(2009~2010年)した堅調な天然ガス生産(図17参照)もあり、米国の天然ガス地下貯蔵量が一時貯蔵能力限界にまで接近する(図18参照)とともに価格が100万Btu当たり2.50ドル2010.5 Vol.44 No.36ホ油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -では平年幅の上限近くにまで回復した。それとともに、価格も100万Btu当たり4ドル前後にまで下落し、再び原油と天然ガス価格の差が拡大してきている。兆cf3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 10111220071234576820089101112123456910111217820093月22010貯蔵量貯蔵能力出所:Gas Infrastructure Europeデータを基に作成図19 欧州天然ガス貯蔵量(2007~2010年)を割り込む場面も見られた。また欧州でも天然ガス需要が低迷したことから、特にロシアからの天然ガス輸入量が低下した(2009年の欧州OECD諸国のロシアからの天然ガス輸入量は前年比で約10%の減少となった)ものの、英国ではLNG受入基地が完成しカタールからLNGの受け入れを開始した(英国では、2008年には皆無だったカタールからのLNG輸入が2009年には日量6億3,000万立方フィートに急増したこともあり、全体としても同国のLNG輸入は前年比12倍の日量9億7,000万立方フィートに上った)ことから、欧州全体としても天然ガスの在庫が貯蔵能力限界近くまで増加(図19参照)し、それが、価格に下方圧力を加える格好となった。なお、2009~2010年の冬場に厳しい寒波が欧米を襲ったことから、天然ガス価格が、例えば米国では100万Btu当たり6ドル超の水準にまで上昇、一時原油価格との差を縮めたものの、2月後半あたりから米国では平年を大幅に上回る気温がしばしば訪れることになったため、一時平年並みの水準にまで減少した天然ガス地下貯蔵量は、4月時点3. 今後を展望するうえで -石油市場-あ対的に引き締まったものとなった。IEAの世界石油需要予測の上方修正は、1月26日に国際通貨基金(IMF)が2010年の世界経済成長率見通しをそれまでの3.1%から3.9%へと引き上げた旨発表したことが一因であったが、その結果IEAの2010年の世界石油需要予測はそのような予測を実施する機関の中では、かなり強気な予測を行うものの一つとなっている(図20参照)。世界経済では依然として下振れリスクが存在している(後述)が、それでも敢えてIEAの予測(2011年はEIAの予測)を使用し、なおかつOPEC産油国が現状の原油生産量を維持するという前提で、2010~2011年の石油需給バランスを展望してみると、OECD石油在庫日数には下落傾向が現れるが、それでも平年並みとされる50~55日の在庫水準に接近するのは2011年半ば以降まで待たなければならないことが判明する(図21参照)。 しかしながら、実際世界経済の回復がこのまま順調に進み、石油需要が堅調に増加するかどうかについて、不透明な部分がむしろ増大してきているように見受けられる。まず、欧州であるが、ギリシャに加えて、ポルトガル、スペイン、イタリアといった国々においてほぼ同時に債務問題が顕在化しており、EUがそれらを一手に解じゅんゅ守し(1)石油市場シナリオ 市場関係者の間では、2010年は世界経済が回復軌道に乗り始めることで、中国等、非OECD諸国を中心として石油需要が堅調に推移する結果、原油価格も2010年後半には上昇し始め、2011年には1バレル当たり100ドルに到達する、といった声も聞かれる。ただ、足元のOECD石油在庫は平年幅の上限近辺に位置している他、引き続き在庫日数も2010年3月末時点で61日程度と推定される。OPECは2008年12月17日の臨時総会で決定した日量420万バレルの減産を2009年1月1日より実施しているものの、最近ではその遵率は60%弱となっている反面、余剰生産能力は日量600万バレル超と2002年以来の高水準であるであるなど、現在の原油価格を需給ファンダメンタルズ上支持するものはなかなか見当たらない。 国際エネルギー機関(IEA)は、2010年に入ってOPEC産油国のNGL(Natural Gas Liquid:天然ガス液)の供給見通しを引き下げた一方で、石油需要を上方修正しており、この結果2010年4月現在、同年の石油需要が、2009年比日量167万バレルの増加となっている。この結果IEAの2010年の石油需給像は以前のものよりも相7石油・天然ガスレビュー?ナきるかどうか不確かなうえ、仮に支援を実施したとしても、財政支出削減等から経済回復を抑制してしまう結果、石油需要にも影響が及ぶ可能性がある。この他、ユーロが下落するのとは逆に米ドルが上昇し、インフレ懸念が後退することにより原油を含む商品の代替投資としての魅力も減退し、それが原油価格に下方圧力を加えることも想定される。また、中国は景気刺激策により2010年第1四半期には11.9%の経済成長率を達成しているが、他方ここ最近同国では不動産価格が急上昇するなどの副作用が発生しており、中国金融当局は2010年1月12日と2月12日に相次いで銀行の預金準備率の引き上げを発表するなど経済冷却を目的とした政策の実施も見受けられることから、今後この面で同国の石油需要が際限なく急増するといったことには歯止めがかかる可能性も考えられる。また、中国は外需依存の高い日本以上に、国内総生産(GDP)に占める輸出の割合が高い(図22参照)ことから、欧米の経済が健全化しそれら諸国が中国製品を活発に購入しないと、自律的な経済発展2.52.01.51.00.50.0日量百万バレルIEAEIAOPECABCDEF(注)黄緑線は平均値、A~Fはコンサルタント等出所:各機関資料より作成図20 世界石油需要の伸び予測(2010年)アナリシスは望みにくいといった事情もあり、この点も石油需要の増加にとっては不安定要素である。 以上のように考えると、IEAの2010年世界石油需要すべ見通しはこのような不透明要因が全て解決され、世界経済が順調な回復軌道に乗った場合に実現することになろう。もし、前述のような問題で、世界経済の順調な回復が阻害され、仮に同年の石油需要増加が日量147万バレル(図20における石油需給予測機関9社の平均値)となった場合、石油在庫の減少速度はさらに鈍化することになると思われる。このように、原油価格においては、今後も下振れを引き起こすリスクが存在しているので注意が必要である。 但し、4月2日には、米国労働省から3年ぶりに16万2,000人もの大幅な同国非農業部門雇用者数の増加が示されたこともあり、2010年の夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期と合わせ、原油先物市場参加者の将来の世界経済回復や石油需要増加に対する期待感が一層強まるようだと、一時的にせよ価格が上昇に向かってしまうといった展開になることも否定できない。 さて、さらに先を展望する場合はどのように考えればいいだろうか。 IMFは2010年4月21日に世界経済見通しを発表し、2011~2014年の経済成長率の予測他を4.3~4.6%程度とさらに上方修正し、経済が中期的にも順調に回復していくと予想している。他方2009年6月30日及び同年12月11~12日に鉱区入札が実施されたイラクでは、今後大手国際石油会社等が石油開発事業を推進していくことになる。イラクの今後の原油生産量見通しについては、予測機関によって相当程度のばらつきが見られる(図23参照)が、イラク政府が見込んでいるような、2016年に日量1,200万バレルの原油生産量達成は楽観日62 60 58 56 54 実績シナリオ101112120082345786200991011121234591011121234867201089月6752011  *:月末の在庫量を直後3カ月間の1日当たり需要で除したもの。(注) OPEC産油国が2010年3月の原油生産量を以降も継続したものと仮定、但しイラクについては2010年3月は荒天により一時的に生産量が低下していることから、2010年2月の生産量を使用。出所:IEA、EIAデータ等を基に試算%40中国日本30201002000200120022003200420052006200720082009年(注)一部推定出所:IMF他データを基に作成図21OECD石油在庫日数*シナリオ(2008~2011年)図22国内総生産(GDP)に占める財貨輸出の割合(2000~2009年)2010.5 Vol.44 No.38ノ回復するとした場合でも相当程度の余剰生産能力が発生することからすると、少なくとも中期的には世界石油需給が逼迫する可能性は現時点ではそれほど高くないものと思われる。(2)原油等先物取引についての規制を巡る動き 2008年の原油価格高騰による経済への悪影響から、米国等では、原油先物取引に対する投機等の規制について議論されるようになってきている。このような規制は、原油市場等にどのような影響を及ぼすと考えられるのか、ここで触れることとしたい。つげん月げ玉ぎ①持ち高制限 2010年1月14日、米国商品先物取引委員会(CFTC)は、原油、ガソリン、暖房油、天然ガスのエネルギー4種類たてょくの先物市場において、契約の持ち高(建:未決済残高)を制限する案を提示し、3カ月間意見を募集する旨発表した(本案が正式に公示されたのは2010年1月26日であるので期限は4月26日となっている)。先物市場における持ち高制限は、例えばニューヨーク商業取引所(NYMEX)では既に行われて(原油では全限で2万枚、1限月当たり1万枚、期近限月取引最終3日間は3,000枚、なお1枚は1,000バレル)いたが、その規制の拘束力が緩く、仮に超過してもNYMEXが持ち高を調査し、場合によってはトレーダーに対して当該取引を解除するよう要請する可能性はあるものの、それ以上厳しい罰則を科せられることは原則としてなかった。しかしながら、2008年の原油価格高騰の米国経済に対する影響について、オバマ政権でエネルギー先物市場等への規制強化の機運が高まったことから、CFTCは持ち高制限を導入すべく案を作成したわけである。オバマ大統領の指名により、2009年5月26日、CFTC委員長に就任したゲンスラー(Gensler)氏は、当初当該規定の制定に積極的な姿勢を示し、できれば例外規定のない持ち高制限の制定に意欲を示していた。たが、実際1月に発表された案には、後述の通り例外規定が盛り込まれた他、当該案の発表に際しても、CFTC委員5人中4人は、それに賛成したものの、ゲンスラーを除く他の委員からは懸念が表明される状況であった。 具体的な算出方法は、現物決済型(Physical Delivery)先物契約と現金決済型(Cash-Settled)先物契約の合計につき、適用の始まる年度開始日(3月1日)の直近の1暦年の先物取引とオプション取引の合計の平均建玉に対し、最初の2万5,000枚までは、1社につきその10%を持ち高の上限とし、2万5,000枚を超過する分については、的過ぎるとして、ここでは、2014年に日量350万バレルの生産能力を達成(2009年から日量約100万バレル程度の能力増強)するものとしてかなり保守的に仮定する。この場合2014年の余剰生産能力は日量350万バレル強、世界石油需要に占める余剰生産能力の割合は4%程度と、2003年の余剰生産能力を量的にも比率的にも上回ることになる(図24参照)。 他方、現在ギリシャのような一部欧州諸国、そして米国等での財政赤字問題の処理から、政府支出は早晩削減されなければならず、それが相当期間経済成長にとって制約となる可能性がある他、このような欧米等での経済回復のもたつきが、輸出に依存する中国等アジア諸国にも及ぶ可能性もあることを考慮し、2011~2014年の世界経済成長率を3.5%程度になると仮定すれば、2014年時点でのOPEC余剰生産能力は日量約500万バレル弱、世界石油需要に占める余剰生産能力の比率は5.5%程度と、2000年の水準にほぼ肩を並べる。世界経済が順調2010IEA2011A2012B20132014C (基準ケース)20152016年D(低成長ケース)024682009(注)A~Dはコンサルタント等出所:各種資料を基に作成図23イラク原油生産能力見通し(2009~2016年)日量百万バレル141210日量百万バレル%0123456712345678141312能力量(3.5%)能力比率(3.5%)000102030405能力量実績能力比率(実績)0908070610能力量(経済成長持続)能力比率(経済成長維持)11出所:IEA他各種資料を基に試算図24中期OPEC余剰生産能力展望(量:左軸、比率:右軸)(2000~2014年)9石油・天然ガスレビュー石油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -Aナリシスその2.5%を上限とする、というものである。例えば、2008年1月1日から12月31日の平均NYMEX原油先物建玉は384万5,772枚(現物決済型288万1,901枚+現金決済型96万3,871枚)となるので、2009年3月1日から2010年2月28日まで適用される持ち高上限は(「仮に適用されれば」という話であるが)9万8,100枚(十枚の位は四捨五入)、ということになる(表1参照)。またCFTCでは、2010年3月1日から2011年2月28日まで適用される持ち高の上限を明らかにしているが、それによると原油先物契約の上限は、9万8,200枚となっている。なお、前述の通り適用年度は3月1日から翌年2月末日ということとなり、適用される持ち高上限は、CFTCのホームページに掲載されるとしている。各限月の上限は、全限月合計の持ち高上限の3分の2とされている。また、NYMEXでの規定と違い、本規定では売り側と買い側は契約を相殺することはできず、どちらかの契約で制限を超過した場合には規定違反となるとされる。 現物決済型市場と現金決済型市場にさらに区分した場合においても、それぞれの市場において持ち高制限が設定され、両者を合計した場合に適用される持ち高制限か、個別の市場の基準となる持ち高適用の始まる年度開始日(3月1日)の直近の1暦年の先物取引とオプション取引の合計の平均建玉の30%かの、どちらか低い方が上限値(個々の限月についてはその3分の2)として適用される。 当該持ち高制限には、適用の例外規定が設けられている。一つは、航空会社等商品の現物売買を想定したり貯蔵したりする善意(bona fide)の取引を行うトレーダー等の市場参加者であり、これは、彼らが先物市場で必要であると証明できる水準まで取引が認められる。もう一つは、善意(bona fide)のリスク回避行為のためのトレーダーを相手として取引を行うスワップ・ディーラーで、全限月及び各限月の上限を、例外を適用されない場合の2倍に拡大することが可能である。なお、両者ともCFTCに例外規定適用のための申請を行わなければならず、また、CFTCによる例外規定適用維持の適格性確認のため定期的な報告を行わなければならない。 ただ、今般の発表に際し、持ち高制限がかなり緩い水準で決められているとの評価が市場関係者から出されている。例えばCFTCの統計(2008年1月1日から2009年12月31日の各週火曜日時点で集計された数値)を基にすると、原油先物市場において提案されている持ち高の上限を超過する業者は3社にとどまる。このようなことから、市場では、当初予想ほど持ち高制限が厳しくなかったことを反映して、この発表の後において原油価格が一時上昇する、といった場面も見られている。また、以降も原油先物市場において持ち高制限に関する議論が原油価格に織り込まれる場面はほとんど見られない。ただ、それでも、市場関係者の一部では、米国市場での自由な活動を束縛し、規制の厳しくない国外での先物取引表1CFTCから提案されている先物市場における持ち高制限(全限月)エネルギーの種類取引所現物決済/現金決済年度(適用されたと仮定した場合の年度)2005/3~2006/22006/3~2007/22007/3~2008/22008/3~2009/22009/3~2010/2軽質低硫黄原油(WTI)NYMEXニューヨーク港渡しガソリンNYMEXニューヨーク港渡し軽油NYMEXヘンリーハブ渡し天然ガスNYMEXICE*現物現金現物現金現物現金現物現金現金全体全体全体全体28,70010,80028,7006,0006,0007,3005,0007,30022,90022,90022,90036,70014,00036,7006,3006,3007,4005,0007,40040,20040,20040,20050,10050,10050,1006,0005,0006,0007,5005,0007,50076,50076,50076,50074,70074,70074,7007,5005,0007,5008,7008,7008,700121,000121,000121,000121,00098,10098,10098,1009,0008,8009,00010,10010,10010,100132,700132,700132,700132,700*ICEは2007年10月よりCFTCへのデータ提出を開始出所:CFTC(Open Meeting on Proposed Energy Speculative Position Limits Rule、January 14, 2009)2010.5 Vol.44 No.310フ規定も盛り込まれている。 他方米国議会上院でも、2010年3月16日に、銀行・住宅・都市問題委員会(Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs)委員長であるChristopher Dodd議員(民主党、コネチカット州選出)が、下院を通過したものと同様の金融規制法案を提出し、3月22日には同委員会を13対10の投票で通過しており、Dodd氏は、7月4日を最終法案策定の期日と考えていると伝えられる。 ただ、清算機関を経由する際に発生する委託証拠金支払い等について市場参加者の中にはその負担に消極的な見方もあり、本案が当初の目的を達成するような形で制定されるかどうかについてはなお不透明な部分もある。 このようなOTC規制は、欧州でも検討されており、2009年10月には欧州委員会(EC:European Commission)で骨格の当初案が提示されている。それによると、標準化されたOTCディリバティブには清算機関を経由させる義務を課する他、標準化されていないOTCディリバティブにはより高額の委託証拠金支払いを課したり、全ての取引が中央データ収集センターへ報告されければならなかったりするとされている。ECは、早ければ2012年には規制改革を実施する旨明らかにしているが、欧州でも、最終消費者等から、投機に参加していない市場参加者に対して委託証拠金の支払いを義務付けることに伴う負担を理由として、本件に反対する声も聞かれる。(3)新しい原油指標の登場 -ASCI(アスキー)- 他方、石油市場においては先物取引とは別に現物取引についても新しい原油指標の登場という新たな展開がみられている。この点についても若干述べることとしたい。 従来サウジアラビア等の中東産油国の多くは、米国に輸出する原油の価格(長期契約価格)について、WTIを基準としてそこから上乗せしたり値引きしたりしていた。しかしながらWTIは低硫黄原油である一方、サウジアラビア等で生産される原油には高硫黄なものが多く、従ってそれらの原油の価格決定が不透明になっているとの指摘が以前からなされていた他、WTIの主要引き渡し地点であるオクラホマ州クッシング(Cushing)において、原油が当該地域に流入するパイプラインに比して流出するパイプラインの能力が小さかったこともあり、貯蔵量が増加しやすい場合があるといったことから、WTIがこのような局所的な需給を反映し、その価格が他の油種に比べて低下する、といった事態になり、それを基準としているサウジアラビア等の原油価格にも影響いあい(OTC:Over the Counter)取引へと市場参加所や相者が逃避するとして、CFTCによる当該提案に対する反対意見が表明されている。例えば金融機関等が加盟する「先物業協会」(FIA:Futures Industry Association)は、2010年3月18日に、CFTCの提案は、米国での取引市場における価格形成と効率的なリスク回避行為(ヘッジング)上必要な流動性を低下させるとともに、CFTCの監視の行き届かないような、不透明な、もしくは米国外での取引を、より助長させるとして、当該提案を廃棄するようにとの意見をCFTC宛に提出している。CFTCは、意見収集期限である2010年4月26日以降、収集された意見を反映する作業を実施したうえ、規制を発効させるかどうかを決定する意向と伝えられるが、このような反う対意見が提出されていることから、制定までにはなお紆対たょくつを経る可能性がある。折せ曲き余よ②相対取引(OTC)規制 CFTCによる原油等エネルギー先物市場における持ち高制限の動きとは別に、米国では議会を中心としてOTC取引規制に関する議論が進行中である。これには原油先物取引に限らない多額(604兆6,000億ドルと言われている)の投資資金が、取引の不透明なOTCでの金融派生商品(ディリバティブ)市場に投入されることにより、当局の監視が行き届かず、発覚した時に壊滅的な影響を金融業界のみならず経済に及ぼす場合がある、といった懸念が背景にある。基本的な思想は、OTCで取引されているディリバティブについて清算機関(Clearing House)を経由するよう義務付けることにより、当局が取引状況を把握できるようにする、というものである。 既に2009年12月11日には米国下院本会議において「2009年金融改革及び消費者保護法」(Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2009)が223対202で可決されている。この法律によると、OTCで取引される標準化されたディリバティブは清算機関か、可能であればそれと同等の機関を経由させなければならないが、参加機関はその場合決済義務不履行時のために備えて委託証拠金(Margin)を払い込む必要がある。顧客に合わせて構築された、いわゆる標準化されていないOTCディリバティブや航空会社等最終消費者との取引に絡むOTCディリバティブは清算機関を経由する義務は免れるものの、取引データ収集センター(Swap Repository)もしくは規制当局(CFTC)に報告する義務は発生する。また、規制されたディリバティブが米国外に逃避しないように、米国外の規制機関とも協調する旨11石油・天然ガスレビュー石油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -Aナリシスを及ぼし、その結果上乗せする金額を高めに設定しなければならなくなることが、価格決定における不透明性をなお一層高めることになっていた。 このようなこともあり、2009年10月28日にサウジアラビアは、米国向け原油輸出について基準油種を2010年1月1日よりWTIからASCI(Argus Sour Crude Index:通称アスキー)へと変更する旨発表した。ASCIは、2009年5月にArgus Media社が導入したもので、米国メキシコ湾で生産される高硫黄原油であるMars(2009年第3四半期現在のAPI比重28.9度、硫黄分1.93%)、Poseidon(同API比重30.9度、硫黄分1.72%)、Southern Green Canyon(SGC:同API比重28.7度、硫黄分2.36%)の3種類の原油スポット価格をそれぞれの生産量により加重平均したものである。当該原油の生産量は、2009年第3四半期には日量80万バレル程度となっており、またスポット取引量も1日当たり60万バレルを超過するなど、他の指標原油の取引と遜色ない水準となっている。 中東産油国では、クウェートやイラクのようにサウジアラビアに追随する動きも出てきている。ただ、このようにWTIの価格は、時として他の原油のそれから乖離するものの、通常は概ね連動しており、またNYMEXでも先物指標として長期間定着していることから、WTIが世界的な原油指標としての座を降りる、ということは少なくとも当面はなさそうである。4. 今後を展望するうえで -天然ガス市場- 世界天然ガス市場について今後を展望するにはどのようなことに注意する必要があるか、ということについて、ここでは特に2010~2011年の基本的シナリオを提示しつつ議論を進めてみることとしたい。 前提としては次の通りとする。アジア諸国(日本、韓国、台湾)でのLNGに対する需要は、経済成長見通しを考慮し、2010~2011年は6~8%程度の増加とする。まずこれらの諸国で余剰となる(但し中国、インド、南米等で吸収される場合もある)LNGを考える。2009~2010年に操業開始となる予定の天然ガス液化施設建設プロジェクト(表2、表3、表4参照)については現時点で想定される操業開始時期から少し遅れてLNG生産が開始されるものとする。アジアで吸収しきれないLNG供給は、まず欧州に向かうものとする。欧州の天然ガス需要は、2010~11年については年率2~4%程度増加するが、その増加分は、全てLNGにより賄われるものとする。欧州で余剰となったLNGは米国に向かうものとする。 このような前提を基に、2010~2011年の米国の天然ガス地下貯蔵量がどうなるかについて検討してみると、同国ではシェールガスをはじめとして国内での天然ガス生産が低下するとはいえ、その度合いが緩慢に推移すると見られることもあり(図25参照)いずれの年も2009年のように天然ガス貯蔵限界にまで到達する(場合表22009年に操業を開始した主な天然ガス液化施設液化能力(万トン/年)液化能力(日量10億立方フィート)ロシアインドネシアイエメンカタールサハリンⅡ(第1トレーン)サハリンⅡ(第2トレーン)Tangguh(第1トレーン)Tangguh(第2トレーン)Yemen LNG(第1トレーン)Qatargas 2(第1トレーン)Qatargas 2(第2トレーン)RasGas 3(第6トレーン)出所:各種資料より作成4804803803803357807807800.60.60.50.50.41.01.01.02010.5 Vol.44 No.312ホ油・天然ガス市場概況 - 今後を展望するためのヒント -表32010年に操業を開始する天然ガス液化施設液化能力(万トン/年)液化能力(日量10億立方フィート)イエメンカタールペルーYemen LNG(第2トレーン)RasGas 3(第7トレーン)Qatargas 3Qatargas 4Peru LNG出所:各種資料より作成3357807807804450.41.01.01.00.6表42011年に操業を開始する予定の主な天然ガス液化施設豪州Pluto LNG (第1トレーン)4300.6液化能力(万トン/年)液化能力(日量10億立方フィート)出所:各種資料より作成によっては超過する)ほど、地下貯蔵量がかなり豊富な水準を達成できることになる。なお、中国、インド、南米では、LNG受入能力いっぱいにLNGを受け入れることになっているが、例えばインドでは東海岸沖合に巨大ガス田が発見され開発・生産されつつあることから、その意味ではこのシナリオは若干保守的な前提となっている。また、欧州でも天然ガス需要の増加量を全てLNGで賄うという想定になっているが、実際にはロシア等からの天然ガス輸入は2009年並み、つまり2008年から10%減少したままとなっていることから、このような設定も保守的であろう。このようなことを考慮すると、少なくとも2010~2011年は世界天然ガスの需給が緩和気味となる可能性が高いことが考えられる。 このシナリオにおいては、今後の世界各国の経済成長の状況、2010~2011年の冬の寒さの厳しさ、地政学的要因、米国メキシコ湾へのハリケーンの来襲と同地域における天然ガス生産の停止、北海等での天然ガス生産の推移等の不透明要因が存在し、これらの諸条件によって今後の世界天然ガス市場は影響を受ける可能性があることに留意する必要がある。 さて、このままいけば、2010年には世界天然ガス市場が相当程度緩和することが予想されるが、その先はどうであろうか。実は2009~2010年にかけては、新規天然ガス液化プロジェクトの操業開始予定が相次いでいるが、2011年以降は、操業開始の目途が立っているプ13石油・天然ガスレビュー595857565554日量10億立方フィート123456789101112123456789101112月(注)実践部分は実績出所:米国エネルギー省データ(2010年4月6日発表)を基に作成図25米国国内天然ガス生産見通し(2010~2011年)54321兆立方フィート124568712910111283過去5年実績幅(2011年は2010年と同様)2009?2010年実績37456事実上の貯蔵能力9101112123456789101112月シナリオ5年平均出所:米国エネルギー省データ他を基に試算図26米国天然ガス貯蔵量シナリオ(2009~2011年)AナリシスロジェクトのLNG生産能力は急速に減少していく。また目途が立っていないプロジェクトも複数見られるものの、天然ガス価格が下落している一方で、液化基地建設等のコストはそれほど下落していないと伝えられており、一部のプロジェクトは見直しや遅延の影響を受けることが考えられる。他方景気後退も永遠に続くわけではなく、いずれ世界経済は回復局面に入り、それに伴って相対的に環境にも優しい天然ガスの需要は増加に転じていくであろう。これらを合わせて検討すると、2015年の世界LNG供給能力は需要を若干上回る程度にとどまり、メンテナンス等による操業停止などを考慮すれば、決して余裕のある状況とは言えないといった場合も、依然として想定される。従って短期的には天然ガス市場は緩和状態であるが、だからといって中長期的にも万全というわけでもないのである。おわりに 前述の通り、米国を中心として原油先物市場等への規制の議論が進行しているが、例えば持ち高制限といった規制に関しては既に現時点で例外規定が設定されている他、そもそもこのような規制自体に反対する動きもあり、また、OTC規制に関しても例外規定が盛り込まれるなど、とりあえずはその効果が必ずしも当局の責任者が企図した通りにはならない可能性がある。また、このような規制につき効果をもたらしめるように努力すれば、それで市場が完全に合理的に機能するという訳でもなさそうである。まず、原油を含めた商品先物市場には、株式市場のように、いわゆる「インサイダー取引」規制が制定されていない。従ってこの点についても、株式市場並みに法制を整備していく(これは「エディー・マーフィーの規則」("Eddie Murphy Rule“)とも呼ばれるものであり、米国映画「大逆転」(”Trading Place”:1983年公開)でエディー・マーフィー扮するバレンタインがオレンジ市場に関するインサイダー情報を利用して相場でひと波乱起こす物語に因んだものである)ことが必要となっていふんちなくであろう。以上のような状況もあり、規制が原油先物市場に対して適切な効果を発揮するようになるには少なくともまだかなりの時間を要する可能性がある。他方石油市場関係者の間では、市場の透明性についての議論がなされているものの、もちろん未来まで完全に透明になるというわけでもないことから、透明性を高められる方が望ましいわけであるが、これで価格の乱高下が根本から退治できるか、というと必ずしもそうはならないものと思われる。今や投資家にとって原油を含めた商品は、株式、債券等と並んで主要投資先として確立された感があり、規制制定の遅れや市場透明性の限界等もあり、安定した原油・天然ガス市場到達までの道のりはまだ長そうである。従って当面相場は乱高下する可能性があるものとして、これらの市場とうまく付き合っていかなければならないものと考えられる。本稿(そしてJOGMECホームページに掲載される筆者作成の原油等市場レポート)がその付き合い方について、少しでも読者の手助けができれば幸いである。執筆者紹介野神 隆之(のがみ たかゆき)早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルバニア大学大学院修士課程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、現在JOGMEC調査部上席エコノミスト(石油・天然ガス市場および産業担当)。趣味は旅行(国内・国外を問わず)。2010.5 Vol.44 No.314
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2010/05/20 [ 2010年05月号 ] 野神 隆之
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