ページ番号1006409 更新日 平成30年2月16日

米国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~

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レポートID 1006409
作成日 2010-07-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業基礎情報
著者
著者直接入力 髙木 雄次
年度 2010
Vol 44
No 4
ページ数
抽出データ アナリシス財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 副センター長 研究主幹早稲田大学日米研究機構 客員研究員髙木 雄次米国オバマ政権の中東戦略と日本の対応~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~はじめに 米国オバマ政権が発足してから既に1年半、今年11月の中間選挙を過ぎれば政権1期目の後半に突入し、再選を目指す動きが本格化する。期待が高いなか、国内外に多くの課題を抱えて発足した同政権の支持率は急落した。しかし、気候変動問題、医療保険制度改革、核のない世界を目指す核安全保障サミット開催、火星に人類を送り出す宇宙計画など歴代大統領が果たし得なかった新たな体制の構築に向けて歴史的な挑戦が続いている。いずれも、長期的な視点に立った未来志向の取り組み、未来への投資を狙ったもので戦略的な色彩が濃い。強くて豊かな米国を目指して夢を追う建国の精神は健在だ。一方で、足元を見れば、米国経済は回復傾向にはあるものの失業率は高止まり、住宅価格の本格回復は程遠く、財政赤字は拡大の一途で年金基金は予測より6年早く今年には赤字転落が予測されている。将来への不安は米国人にとっても深刻度を増してきた。目先の景気動向が、政権の支持率と大統領再選の鍵を握っている。 米国の世界経済における存在感が減退するなかで、中国が経済力を高め大きなプレーヤーとして浮上し発言力を強めている。中国の主張は、世界人口68億人の半分以上を占める新興国、発展途上国を代表する立場で国際社会の重しとなっている。その中国は、一方で国家を挙げた資源外交に勢いを増している。その舞台は中東、アフリカなど広範囲に及ぶ。中国はインフラ建設と豊富な外貨準備を武器に石油、天然ガス、ウラン鉱石、希少金属に至る多様な資源を大量に獲得する資源戦略を国益志向で強めている。中国本土から大規模な労働力を投入し製油所、発電所、鉄道・道路など基幹インフラの建設を通じて、資源国の富を搾取するという新しい形の植民地支配的なアプローチに批判も多い。 世界情勢が変化するなかで、オバマ政権は中東における戦略性を強め、米国は中東との相互依存と補完の関係に加えて積極的な関与を深めている。本稿は、中東湾岸のGCC*1諸国と米国のビジネス関係の変化を分析し、日本のこれからの中東ビジネスについて論考する。まず転換期を迎えた米国と中東の関係、第2にオバマ政権が中東で直面する経済関係における政策的課題、第3は米国と中東GCCのビジネス関係、最後に日本の対応という観点から、変容しながらも潜在力の大きい中東市場におけるこれからの新しいビジネスを考えるという四つの視点で構成する。1. 転換期を迎えた米国と中東の関係 世界のユダヤ人の人口は約1,300万人、その構成は米国在住とイスラエル在住で2分する。米国におけるユダヤ人の人口構成はわずか2%だが、ユダヤ社会の存在は大きな影響力を持つ。政権の閣僚、企業の幹部、ウォール・ストリートに代表される金融界、あるいは、報道メディア、医者、弁護士、大学教授、さらにはハリウッドひょうう榜ぼ(1)米国のイスラエル重視と中東アラブへの関与 米国は中東に関与を強めてきた。特にイラン革命(1979年)以降、その傾向は強い。中東で不人気だったブッシュする中東民主前政権の中東政策は、テロとの戦いを標化構想に代表されたが、本音は米国寄りの親米政権を根づかせることにあった。57石油・天然ガスレビュー010.7 Vol.44 No.458アナリシス間で減少を続け輸入依存が拡大、1970年に23%だった輸入比率は1990年に47%、現在は65%の水準に達している。エネルギー資源の自立は米国の安全保障に不可欠な要素である。GCC諸国の原油と天然ガスに関する世界における影響力は、原油埋蔵量が世界の40%、生産量は23%、天然ガスについては埋蔵量が23%、生産量は8%という世界シェアを占める。生産量に対して埋蔵量の比率が高いことから、将来的な影響力はさらに強まっていくことが明白だ。つな(2)新しい視点を持ち込んだオバマ大統領の中東戦略 ブッシュ前政権では中東地域に反米感情が高まったが、オバマ政権の外交政策の基本は対話と協調である。選挙キャンペーンの根幹にあったのは「米国は一つ」といまとまることが米う理念だった。さまざまな国民が一つに纏国のアイデンティティーである、と訴えて多くの共感が得られた。こういった多様性の統合と協調を国際舞台でも重視する政策によって、対話を重視して国際的なコンセンサスをつくり上げていくという方向性が明確である。米国は中東に開放政策を求め、一方で、中東は米国に対して対等で相互尊重の姿勢を求めるという構図が基本だ。オバマ政権は相手の立場に立って話を聞く対話のスタンスへと変化し、戦う姿勢から一緒に仕事をしようという明確な方向転換を打ち出した。こういった外交姿がったことは中東の目線勢がノーベル平和賞受賞にも繋から見ても画期的と言える。 オバマ大統領は中東に対して新しい視点を持ち込み、転換期を迎えた。就任前からイスラム世界での信頼回復を目指したオバマ大統領は、政権発足以来その公約をさまざまな形で具体化し、中東地域での期待が膨らんだ。大統領就任演説では、「イスラム世界と相互信頼・尊敬に基づく新たな協力関係の構築に努める」と強調した。大統領執務室に入って最初の国際電話はパレスチナ自治政府、イスラエル、エジプト、ヨルダンの中東首脳に向けたもので、中東和平に初期の段階から関与する米国の姿勢を鮮明に打ち出した。最初の単独テレビ会見は中東の衛星テレビ局アルアラビーヤで、「米国はイスラム世界の敵ではない」と明言した。母親がレバノン人のジョージ・ミッチェル元民主党上院・院内総務を中東特使に任命して直ちに中東派遣を実現し、その後、クリントン国務長官を派遣しオバマ政権が中東和平とパレスチナ支援に本気で取り組む姿勢を国内外に示し、政権発足当初から公約の実現に向けてさ2008年の映画界に及ぶ広い範囲でユダヤ系が占める割合は大きく、世論形成においても米国の中東政策の柱はイスラエル中心主義と言える。2008年の大統領選ではユダヤ系米国人の77%がオバマ大統領に投票し、最近の世論調査でも64%が大統領を支持している。2国間の自由貿易協定(FTA)についても、米国は既に17カ国と締結しているが、最初に締結した相手国はイスラエルでありさかのぼ1985年に遡る。誰が大統領であれ、米国のイスラエルとの関係は歴史的に強いつながりがあり、イスラエルに対するコミットメント、イスラエル重視の政策は揺るぎない国内政治の基軸となってきた。 一方で、米国と中東アラブ諸国との相互依存の関係が強いことも注目すべきことだ。例えば、米国の兵器輸出の3大市場は長期にわたってイスラエル、エジプト、サウジアラビアのいずれも中東諸国、経済援助でもイスラエル、エジプト、ヨルダンの中東に集中してきた。また、中東における米軍のプレゼンスも大きな役割を果たしている。米軍はバーレーンに中東艦隊の司令部、カタールとクウェートには空軍基地を置き、ドバイ港には米海軍の艦艇が補給目的で寄港している。米国による安全保障は、湾岸アラブ諸国にとって、域外からの脅威に備え、域内の紛争を抑止する機能もある。サウジアラビアを除けば、小さな国土、少ない人口、後れた社会基盤にネックがあったことから、独自に安全保障を確立するよりも域外の大国に依存することが内外の脅威に対する抑止力になるという合理性があった。 米国が中東に関与を強めてきた背景にはもう一つ、輸入エネルギーへの高い依存がある。米国の石油消費、国産原油、輸入の構造(図1)は、国内産油量が過去40年1949-2008年推移消費輸入国産原油1950196019701980199020002520151050100万バレル/日出所:EIA Annual Review 2008図1米国の石油消費、国産原油、輸入の推移ト国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~まざまな手を打ちながら今に至っている。 大統領自身も、既にトルコ、イラク、サウジアラビア、エジプトの4カ国を訪問しており中東への関心は歴代大統領のなかでも高い。昨年6月にはエジプトのカイロ大学で感動的な演説を行った。世界のイスラム教徒に向けて、オバマ大統領はイスラム社会との亀裂を修復し、相互尊重に基づいた新しい関係をつくって新たな始まりを求めるという考えを打ち出した。就任当初から、華々しい中東イニシアチブを打ち出したオバマ大統領だが、その後は期待が高まった中東和平プロセスでも大きな進展が見られず、オバマと中東の蜜月の終わりとする悲観的な見方も出始めたものの、粘り強い交渉は続けられている。歴代の米大統領が政権末期に近い段階で中東和平を政治課題として取り上げる傾向が強かったこととの対比で見れば、政権発足当初から中東への関与を強く打ち出したこれらの姿勢は、中東を重視するオバマ大統領の明確なメッセージと言える。(3) 米国とGCCは同盟関係とビジネス・パートナーが基本的枠組み これらを踏まえ、米国とGCC諸国との関係を考えると、GCC加盟6カ国は米国の中東外交において二つの役割を担ってきた。一つは非NATO同盟国としての役割、もう一つは米国にとって中東ビジネスのパートナーという二つの役割である。現在もこの同盟関係とビジネス・パートナーという基本的な枠組みは変わらない。ワシントンからすれば、GCC諸国を抱え込むことが、米国の対中東ビジネスを推進する上で強みとなっている。オバマ政権にとって、中東イニシアチブを成功させるためにも外交・経済の両面におけるGCC諸国の協力は不可欠で、GCC諸国との同盟関係を強化する重要性が増している。一方で、巨額の財政赤字を抱えながら大規模な景気刺激策を実行するにあたって、米国はGCC諸国に対して米国債購入の維持拡大を求めるという立場にあり、GCC諸国の資金力に対する期待も大きい。本論はそのGCC諸国に焦点を絞って述べる。2. オバマ政権が中東で直面する経済関係における政策的課題有利な立場にある。 2006年、サウジアラビアのアブドラ国王は就任後最初の外国訪問地として中国を選び、その公式訪問では石油部門の協力を主要議題として、「石油、天然ガス、鉱物資源の分野における協力議定書」に署名した。また中国は国際的な制裁と政治的な配慮から欧米の企業が進出できない国に投資をすることで、中東におけるエネルギー利権に挑戦する動きを見せている。例えば、米国が制裁国とするスーダンやイランに積極的に進出している。これは、中国がイラン・アザデガン油田の権益を7割取得するといった動き*2にも象徴される。中東のエネルギー資源を長期的に確保することを目的とする中国のエナジー・ディプロマシーは、米国の石油利権を脅かし、ひいては米国とその同盟国に及ぼす経済的な影響は避けられない。(2)米国の中東市場における貿易シェアの低下 経済成長に伴って中東の貿易規模は急拡大した。その過程で中国のシェアが拡大し、2007年には中国が初めし米国のシェアは低下(図2)した。中東のて米国を凌貿易市場が拡大する流れのなかで、米国はまた欧州、ア駕がりょう 中東におけるオバマ政権の政策的課題は三つに集約される。第1はエネルギー利権をめぐる中国と米国の競争激化、第2は貿易における米国の中東市場でのシェアの低下、第3はGCC諸国の金融・経済力上昇に伴う米国とGCC諸国の関係強化、という三つの視点である。(1)エネルギー利権をめぐる中国と米国の競争激化 1979年のイラン革命まで米国は同盟国のサウジアラビアとイランに依存する政策を採って、石油の輸送ルートを防御するためペルシャ湾に強い海軍力を置いてきたが、湾岸戦争(1991年)以降は米軍の駐留によって直接関与する形態へと大きく変化した。GCC諸国は、米国の安全保障に依存し、米国はGCC諸国の石油産業に関与するという明確な方針を長く貫いてきた。しかし今や、米国の石油企業の優位性は、中国企業の進出によって脅かされる状況に至っている。中国はSinopec(中国石油化工集団公司)、CNPC(中国石油天然気集団公司)、CNOOC(中国海洋石油総公司)の3社が中東地域で欧米企業と競合しビジネス機会を脅かす存在になっている。資源外交を前面に打ち出し国家の力を背後に動く中国の石油会社は、長期的な戦略に立っていて欧米企業よりも59石油・天然ガスレビューAナリシスん填てASEANの6億人には及ばないものの、人口増加率で見れば3%近い水準で増加しており市場の拡大傾向が鮮明だ。特に、GCCだけに限ると、人口は3,800万人と小規模だが、1人あたりのGDPや生活水準は極めて高いという特徴がある。GCCが経済力を高めた結果、過去20年間で中東地域の経済・金融の中心はイランやエジプトなどの大規模人口圏から強い経済力を持つGCC諸国にほ移った。このGCCに対して、米国は財政赤字を補する目的から米国債の購入を求め、GCCも米ドル建て資産の投資によって米国経済に大きな利害を持つという関係が顕在化している。 GCC諸国の石油輸出収入は、IMFによれば2008年には歴史的な原油価格の高騰もあって5,700億ドルを記録し、2005年から2008年までの4年間で1兆5,000億ドルに達し、累積財政黒字も6,000億ドル近くに拡大した。2009年は油価の下落で3,500億ドルに減少したが、今後5年間で余剰資金は6,000億ドルから1兆ドルにまで拡大すると予想されている。豊富な余剰資金は米ドルを主体に運用されており、海外資産の多くを米ドルで保有するGCC諸国にとって、大きな財政赤字を抱える米国のドル価値下落は大きな不安材料となっている。 米国債の重要な顧客であるGCCに対して、オバマ政権は米ドルの強化策に取り組む姿勢を示す必要がある。一方で、GCC自身も金融危機の影響を受けて自国経済に大規模な資本投入が必要であり、その結果GCCから米国への資本流出が減少すれば、米国の資金調達は困難に直面する。米国のGCCに対する関心は、引き続きエネルギー資源が中心ではあるが、GCC諸国の金融・経済力の上昇という側面も新たな政策課題の大きな要素として浮上してきた。30%25%20%15%10%5%0%1981米国中国1983198519871989199119931995199719992001200320052007年出所:IMF貿易統計図2中東の輸入に占める米国と中国のシェアジアとの競争に直面している。1990年代に、米国がオスロ和平プロセスに関与した時、アラブ諸国の米国に対する好イメージで米国の中東での市場シェアは安定したが、2001年の9・11テロ以降、中東和平交渉が暗礁に乗り上げるや米国の市場シェアが低下したように、和平交渉の前進は米国の輸出産業にプラスの効果が見込まれる。中東の貿易をめぐる国際競争は今後10年間でさらに激化が予想される。米国が中東市場で成功するかどうかは、米国の中東政策における外交と軍事の両面に懸かっている。(3) GCCの金融・経済力上昇に伴う米国・GCCの新しい関係 2006年には、中東・北アフリカ地域(MENA)の22カ国全体でGDPが1兆ドルを超えた。そのうち、GCC6カ国だけで8,000億ドルに達し、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に迫っている。また、中東の人口は3. 米国と中東GCC諸国のビジネス関係(1)中東マネーをめぐる米国との関係 ① GCCは「米国株式会社」の株主 米国から見た中東ビジネスに対する魅力は、エネルギー資源に加えて豊富な資金力と急成長する市場にある。その一方で、中東は資本不足に陥った米国企業への資金供給の担い手になってきた。米国の中東に対する関与は、従来は地政学的な戦略に基づいた安全保障の提供という一元的な関係にあったが、今はこの関係に加えて米国はGCCの資金供与を受け入れるニーズ、GCCは投2010.7 Vol.44 No.460ん瞰かふ 米国とGCC諸国の関係は、全体を俯してみれば、軍事的な安全保障に始まり、エネルギーから金融に及ぶ産業分野、さらに教育、医療、文化、消費ブランドのソフトパワーまで幅広く浸透しており、米国は中東とのリンケージを重層的に拡大していく傾向が顕著だ。ここでは特に中東マネーをめぐる米国との関係、米国企業の中東進出と産業連携、米国の大学やブランドなどに代表される米国のソフトパワーという三つの切り口から考えてみたい。ト国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~資を通じて「米国株式会社(America Inc.)」の株主という新しい構図が加わってきた。米国債の保有残高は50%が外国保有で、その主体はアジアと中東という構造にある。米国の胴元の一つ、GCCは金融面では米国と一体の関係にあり、米国財務省は米国債保有国の意向に耳を傾ける必要がある。中東産油国は米国債の購入が過去数年で拡大し、米国債保有残高は中国、日本、中東産油国がトップ3となっている。さらに、GCCは、自国通貨が米ドルにリンクする米ドル・ペッグ制を採っていることから国内経済が米国経済に連動し、また世界最大の石油消費国である米国の石油需要に振り回される状況になっている。金融危機のなかで米国とGCC諸国との相互依存度が強まり、オバマ政権にとってはGCCとの経済外交の重要性が増してきた。 ② GCCの「オイルマネー」と中国の「人民マネー」に頼る米国 オバマ政権は景気対策のために史上最大規模の財政出動を打ち出した。急増する財政赤字を補填するにあたって、GCC諸国の「オイルマネー」は、中国の「人民マネー」と並んで頼りになる存在になった。世界の政府系ファンド(SWF)はその情報開示において透明性に欠けるところがあるが、中東には36ものSWFが存在すると言われるほど集中する傾向がある。GCC6カ国合計のSWFの規模は、リーマンショック以降の金融市場の混迷で相当の表1GCC SWF資金の米ドル運用構成国資産高(億ドル)米ドル保有高(億ドル)米ドル保有比率サウジアラビアSAMA年金合計アブダビADIAMubadalaドバイクウェートカタールオマーンUAEクウェートオマーンカタールバーレーンノルウェーロシアSWF外貨準備合計対比2,9005503,4506,5001203002,50060010058020090703014,5404,4004,8002,3203902,7103,250501401,000240505501808060278,3371,3402,40080%71%79%50%42%47%40%40%50%95%90%89%86%90%57%30%50%出所:Brad Setser, RGE Monitor(2007年末現在)61石油・天然ガスレビュー目減りがあったとはいえ、現在でも約1兆2,000億ドルでGDPの規模を上回る存在となっている。このSWFの対外投資額の37%が米国に投入された。SWFの米ドル運用構成(表1)を見ると、GCC諸国は海外資産の57%を米ドルで運用しており、その米ドル運用比率はノルウェーやロシアのSWFよりも高いのが実態である。 米国はGCCからの資金調達を必要とし、GCCのSWF資金は米資本市場に流出し続け、2003年から2008年までの過去5年間で約4,500億ドルを米国に投入する結果(図3)になっている。GCCの資金の仕向け地は依然として米国が主流だが、GCCと米国の貿易関係はこれに比べて見劣りする。例えば、GCCの石油、天然ガスの輸出はその2/3がアジア向けで、アジア各国はGCCからの原油輸入に大きく依存する構造にある。さらに、欧州もGCCの輸入の1/3を占めるほどの関係にあるが、米国とGCCの貿易関係は輸出入ともに10%程度で、アジアや欧州との対比で見ると大きく下回っている。量的なとらえ方では米国は見劣りするのが実情だが、特定項目において米国は欧州やアジアとの対比で見ると差別化が鮮明だ。その詳細については後述する。その他MENA1,200億ドルアジア1,200億ドル米国4,500億ドル欧州2,000億ドル出所:SAMBA図3GCC資金の仕向け国 ③ オイルマネーによる企業買収の勢い GCCの米国への投資案件(表2)は、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)がGEのプラスチック部門を116億ドルで買収し、アブダビ投資庁(ADIA)が米銀大手の シティグループに4.9%出資し、アブダビ投資評議会(ADIC)がクライスラー・ビルを買収するといった事例を含め多数の案件が成立した。しかし、リーマンショック以降は不安定な金融情勢と世界的な不況を反映してM&A案件は停滞している。GCCのSWFは、相対的に株式投資の比率が高く推定で60%相当を占めている。\2GCCによる出資・買収の事例買収した会社ムバダラ開発公社DP WorldDubai Investments GroupIstithmarIstithmarIstithmarSABIC(サウジ基礎産業公社)IstithmarDubai Aerospace Enterpriseドバイ・ワールドADIA(アブダビ投資庁)IPIC(国際石油投資公社)ムバダラ開発公社DIC(ドバイ・インターナショナル・キャピタル)国UAE アブダビUAE ドバイUAE ドバイUAE ドバイUAE ドバイUAE ドバイサウジアラビアUAE ドバイUAE ドバイUAE ドバイUAE アブダビUAE アブダビUAE アブダビ買収/出資を受けた会社イタリア自動車会社フェラーリに5%出資P&O 英国の港湾会社米国NY エセックス・ホテル米国NY 280パークアベニュー・ビル米国ローマンズ小売業者米国タイムワーナーに2.39%出資GEプラスチック(GEのプラスチック部門)ニューヨーク・バーニーズ(米国の百貨店)米国カーライル保有の複数の航空機関連企業米国MGMミラージュ(カジノ大手)に9.5%出資米国シティ・グループに4.9%出資コスモ石油に20%出資米国カーライル・グループの株式7.5%購入UAE ドバイソニーに約3%の出資年2005200620072008ムバダラ開発公社UAE アブダビNational Industrialization Company サウジアラビアQIA(カタール投資庁)KIA(クウェート投資庁)ADIC(アブダビ投資評議会)Nakheel HotelsカタールクウェートUAE アブダビUAE ドバイムバダラ開発公社IPIC(国際石油投資公社)Aabar Investments2009Aabar InvestmentsAabar InvestmentsQatar Holding出所:各種報道から作成 UAEアブダビUAEアブダビUAEアブダビUAEアブダビUAEアブダビカタール米国の半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイスに8.1%出資米国ライオンデール・ケミカルクレディ・スイスに出資メリルリンチ、シティ・グループに出資ニューヨーク・クライスラービルの所有権75%を買収米国フォンテンブロー・マイアミビーチ・リゾート米国の半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイスへの出資を8.1%から19.3%に引き上げノヴァ・ケミカルズ(米国、カナダで化学品を生産)自動車大手ダイムラーに9.1%出資、筆頭株主に米国電気自動車ベンチャーTesla Motorsにダイムラーと共同で10%出資英国の宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックに32%出資自動車大手フォルクスワーゲンに17%出資、第3位株主にアナリシス買収/出資金額1.14億ユーロ34億英ポンド4.4億米ドル12億米ドル3億米ドル20億米ドル116億米ドル9.4億米ドル19億米ドル50億米ドル75億米ドル7.8億米ドル13.5億米ドル15億米ドル6.22億米ドル12億米ドル30億米ドル50億米ドル8億米ドル3.75億米ドル3.14億米ドル23億米ドル19億ユーロ5,000万米ドル2.8億米ドル不明 米国では、資本不足を補うために電力、エネルギー、銀行、運輸、通信といった戦略的な産業部門の企業買収や投資が行われた過程で国内世論が敏感に反応した。米国企業の買収劇では、米国の石油企業Unocal買収にあたり中国CNOOCの買収提示価格が米国のChevronを上回りながら米国議会が反対した事例、あるいはドバイ・ポート・ワールドが英国老舗の海運会社P&Oの買収に際し、米国内の港湾施設の買収が頓挫した事例などは、GCCにも大きな関心事となった。つまり、GCCにとって米国は投資対象国として安全な国ではないとする懸念に加えて、米国が貿易や投資において保護主義的な動きを示すことに警戒を強めた。GCC国内に米軍が常駐し米国艦隊が寄港するという同盟関係にありながら、米国の保護主義的な動きはGCCの期待に反するという不満でもあった。 9・11テロ後の米国港湾オペレーターとしてドバイは信頼できるか、とドバイ・ポート・ワールドの米国内の港湾施設買収に対する反対運動の先頭を切ったのは、ニューヨーク州選出のシューマー上院議員だった。その後、シューマー議員はADIAによるシティグループへの出資を契機に、ニューヨークの雇用維持とシティグループの競争力向上に貢献すると発言し、様変わりの様相となった。金融危機を通じて中東政府系ファンドに対するトーンもワシントンでは柔軟な空気に変わった。GCCは経常収支が悪化するにもかかわらず、引き続き米国の資本市場に参入の意向を持っており、米国向け投資の挫2010.7 Vol.44 No.462ト国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~表3GCCと米国のエネルギーJ/V事例当該国GCC企業サウジアラビアSaudi AramcoSaudi Basic Industries Corp.Saudi AramcoSaudi AramcoInternational Petroleum Investment CompanyAbu Dhabi Company for Onshore Oil OperationsAbu Dhabi National Energy Company(TAQA)Abu Dhabi National Oil Company(ADNOC)UAE米企業Exxon MobilExxon Mobil ChemicalExxon MobilConocoPhillipsConocoPhillipsExxon MobilExxon MobilConocoPhillipsAbu Dhabi National Oil Company(Upper Zakum Oil field)Exxon MobilMubadala Development Co.ConocoPhillipsKuwait Foreign Petroleum Exploration Company (Kufpec)ConocoPhillipsクウェートKuwait Petroleum CorporationKuwait Petroleum CorporationカタールQatar PetroleumQatar Petroleum出所:Gulf Research CenterExxon MobilChevronExxon MobilConocoPhillips立地ChinaSaudi ArabiaSaudi ArabiaSaudi ArabiaSouth KoreaUAENorth Sea, UKUAEUAEKazakhstanIndonesiaKuwaitKuwaitQatarQatar2007年実績2003年実績折という事態の再現が起こらないよう期待する立場にある。(2)米国企業の中東進出と産業連携 ① エネルギー、ハイテク製品、農業分野で米国優位 1970年代から1980年代にかけて、資源ナショナリズムに基づく中東産油国の資源国有化政策により石油メジャーはサウジアラビア等の産油利権を失った。しかし、このような環境の激変後も、エネルギー分野における米国の優位は、石油メジャーの中東での長い歴史を背景として歴然であり、米国はGCCの国営企業と共同で多くの事業を推進(表3)してきた。エネルギー分野では、上流部門に加えて精製、石油化学、さらに再生可能エネル野が拡大する傾向が鮮明な流れとギーの分野にまで裾なっている。さらに米国は中東産油国で需要の高い石油関連技術やサービスの提供者となっている。 エネルギー分野の他、米国は航空機、最新式コンピューター、電子機器、高性能兵器などハイテク製品の分野で技術的優位にある。米国のGCC向け輸出の10大分野(図4)を見ると、米国の輸出品目は航空宇宙、自動車、農業・建設機械、エンジン・タービン、一般機械が上位5品目を占めている。さらに、食料不足の中東に対して米国の農産物輸出は農業国として今後の優位性すそ63石油・天然ガスレビュー航空宇宙自動車農業・建設機械エンジン・タービン一般機械航行制御機器電気機器金属製品基礎化学品通信装置01020304050億ドル出所:米国際貿易委員会調べ図4米国の対GCC輸出10大分野が期待される。米国企業の強みはエネルギー分野に加えて、技術力、高品質な商品力、農産物の輸出供給力と言える。米国は貿易相手国としてGCC諸国でのシェアは低下しているが、米国企業は石油、石油化学、重工業分野の戦略的な産業セグメントにおいてGCCを優先国と位置づけている。合弁事業を通じた重化学工業のノウハウ移転によって、産業の多角化に貢献する事例が見られる。@② オバマ政権のグリーン・ニューディール政策と中東産油国 GCC諸国を中心に中東産油国が再生可能エネルギーに取り組み始めた動きも画期的だ。サウジアラビアのナイミ石油鉱物資源相は太陽光発電を国内エネルギー政策の柱にすると発表し、「サウジは世界最大のソーラー・エネルギーの輸出国になることを目指している」という野心的な目標を掲げた。アラブ首長国連邦は、世界で初めてすべてのエネルギーを太陽光や風力で賄って二酸化炭素排出ゼロのクリーンな都市を建設するマスダールシティーや原子力発電所建設の計画を進め、再生可能エネルギーの国際本部をアブダビに誘致した。次世代エネルギーや先端技術の拠点を目指して産業の多角化を図ろうとするもので、産油国であり続けると同時に、環境意識を高める戦略だ。 産油国と消費国は今や再生可能エネルギー開発においても利害が一致している。オバマ政権が推進するグリーン・ニューディール政策は、中東の将来的なエネルギー政策と競合することなく共同で取り組むことができる分野でもある。中東GCC諸国は世界最大の産油国であり輸出国でありながら近年はエネルギー不足が顕著になっている。人口増加と経済成長、工業化と都市化の進展による急激なエネルギー需要の増加が背景にある。産油国も今や消費国という側面を持つ存在に変わった。 2010年の原油需要の伸びはサウジが中国に次いで大きく、サウジ国王が国民に節電や節水を呼びかける異例の声明を出すなど、電力や水不足への対応は待ったなしの状況にあり、発電・造水事業は目白押しとなっている。GCC諸国のエネルギー需要の増加は驚くほどの勢いにあって、IEAの発表によれば、今後2030年までの需要増加では中国、中東、インドの順に大きな伸びが予測(図5)されている。豪州欧州北米アフリカ東欧圏南米その他アジアインド中東中国-20246810100万b/d出所:IEA World Energy Outlook 2008図5石油需要の地域別増減2007~2030年予測アナリシス ③ 米国MITやGEと連携するマスダール計画 UAEのアブダビ未来エネルギー公社が進める二酸化炭素排出ゼロのマスダール都市計画でも、米国企業はアブダビ政府と連携する体制をつくり将来に向けて一緒に問題を解決しようとする流れができている。この計画推進にあたっては、米国を代表する理工系大学のマサチューセツ工科大学(MIT)が科学技術の面で支援し、同時に米国を代表する複合企業のGEがアンカーパートナーを務めるという役割で協力関係を構築している。 また、GEがアブダビの政府系企業で、代替エネルギー開発を手がけるムバダラ開発公社と戦略的な提携関係を結んだことも注目される。両社の提携分野(表4)は多岐にわたっており、その一つに、クリーンエネルギーの研究開発でGEとムバダラの間にグローバルな連携推進についての合意がある。GEは中東の長期的な成長を見越し、新しい合弁事業や投資ファンドの共同出資を視野に入れる一方、ムバダラはGEの株式を取得し長期的な視野からGEの株主として連携を深める関係にまで発展している。連携合意のなかには、アブダビにクリーンエネルギーの技術センターを設立し、新エネルギー、水、環境の技術開発に取り組む技術者100名を勤務させる計画表4GEとムバダラのビジネス提携法人金融、クリーン・エネルギーの研究開発、航空、社員教育など広範なイニシアチブを対象に複合的な提携を行う枠組み合意。法人金融アブダビに法人金融会社を合弁で設立。新会社は最高水準の資金力、リスク管理能力を持ち、両社は今後3年間で合弁会社にそれぞれ計40億ドルを出資。合弁会社はGEの金融サービスから生まれる投資機会に集中する予定。目標資産は400億ドル。クリーン・エネルギーと水の研究開発マスダール・シティーにクリーン・エネルギー技術センターを設立。GEのグローバルな研究ネットワークの延長として、新エネルギー、水など環境関連の技術開発に取り組む技術者が最大100名勤務予定。投資ファンドクリーン・テク・ファンドに最大5,000億ドルを出資の計画。クリーン・テクノロジー分野への投資が主目的。ムバダラはGEが新たに立ち上げるGEインダストリアル・インベストメント・パートナーズに最大2億ドル投資する計画。航空、石油・ガスGEとムバダラ傘下のアブダビ・エアクラフト・テクノロジーズはGE製航空機エンジンをサポートするため事業を強化。合弁企業ガルフ・タービン・サービスの事業範囲を拡大、石油・ガス分野におけるフィールド・サービスと補修も対象。人材教育マスダールに設立する技術センターで新しい社員教育プログラムを導入の計画。GEのクロトンビル研修所のカリキュラム、コース、教官を依属。出所:GEコーポレート・コミュニケーション本部2010.7 Vol.44 No.464@オバマ政権は、サウジアラビア、カタール、バーレーンとも原子力協定の交渉を進めている。中東の原子力ビジネスでロシア、フランスの原子力大国に後れを取っている米国が、巻き返しを図る側面もあるが、各国がGCCの原子力産業への参入(表5)を狙って競争はますます激化している。表6DIFCに登録の主要な米国企業企業名International Finance CorporationMerrill LynchBloombergDun & BradstreetMorgan StanleyPhilip MorrisAIGGoldman SachsCitigroupKPMGPrudentialJPMorganDeloitteMoody'sErnst & YoungGE CapitalCoca-ColaStandard & Poor's出所:DIFCホームページや環境にやさしい製品の開発とマーケティングを行う計画も含まれている。こういった視点からも、GEはアブダビが目指すクリーンエネルギー構想を多方面から支援する体制をつくっている。 ④ 米国のGCC域内における原子力ビジネス 原子力ビジネスでも米国はGCC諸国への参入機会をかがっている。2009年1月、ブッシュ前政権が退陣直前にUAEと民生用原子力開発の協力協定を締結し、引き続きオバマ大統領は5月にこの協定を承認、GCC諸国による最初の原子力協定が成立した。UAEは2017年に稼働開始の予定でアブダビに4基の原子力発電所を総額約400億ドルで建設する。UAE政府は、国内でのウラン濃縮の禁止と使用済み燃料の再処理の禁止を含む原子力の平和利用に関する規定を公布し、核燃料サイクルの放棄と原発燃料の輸入を明確化することによって、核技術ふっょくの軍事転用の懸念を払し、原発の安全性と透明性を確保し原発建設の体制を整備した。発注は入札による4基の総取り方式で、日立・GEの日米連合、フランス・アレバ中心のフランス企業連合、韓国電力が中心の韓国企建設社長を務めた経験を持業連合の競争となった。現に、積極的な売つ李明博韓国大統領のトップ外交を梃り込みを図った韓国が原子力発電ではこの4カ国のうち最も後発ながら受注する結果となった。価格競争力と同時に、原発にかかわる運転技術、人材育成などを含む運営支援など多様な要素を織り込んだ戦術的なアプローチが奏功したと推測されている。拭し窺うイ代ダ子こてヒュン米国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~表5GCCの原子力への取り組み国名米国原子力協定署名(2009年1月)アラブ首長国連邦(UAE)フランスロシアその他原子力開発協定について協議中・ 原子力と軍事関連の協力協定署名(2008年1月)・ Total、Suez、Arevaの3社がUAEで初となる原子力発電所の建設・運営を提案済み【英国】原子力協力に関する覚書署名(2008年5月)【日本】原子力開発の協力文書に署名(2009年1月)【ドイツ・中国・韓国】原子力開発協定について協議中サウジアラビア原子力協力に関する覚書署名(2008年5月)原子力の平和利用について協力提案(2008年1月)原子力開発の協力を表明、原子力協力協定署名(2007年2月)原子力開発の協力協定について協議中原子力利用と再生エネルギー開発の枠組み協力協定を締結(2008年1月)カタール【日本】安倍首相(当時)のカタール訪問時、カタールが日本への天然ガス輸出増加の見返りとして、日本に原子力開発の技術支援を要請(2007年4月)バーレーン原子力協力に関する覚書署名(2008年3月)出所:各種報道から作成65石油・天然ガスレビューAナリシスるGCC国籍の学生は3万人と言われるが、そのうちサウジ人留学生は1万8,000人規模に上る。これは両国にとって価値ある投資だという評価になっている。中東の政策決定者やビジネスの中核を担う人材が米国の大学で教育を受けてきた実績は、まさに米国が誇るソフトパワーと言える。 その観点から、中東の将来を担う人材に対するビザの発給は重要な事項ではあるが、9・11テロの影響を受けて米国への留学生は一時期減少した。GCC諸国の留学生動向(表7)を見ると、統計のある2004年から2005年はGCC全体で11.6%の減少となったものの近年はまた回復傾向に戻っている。米国留学はGCC諸国から見て引き続き高い価値と魅力の源泉となっており、中東戦略を占う上で留学生の受け入れは米国の潜在的な底力を示すものでもある。 ② 米国大学との連携、米国ブランドの浸透 米国への留学生に加えてGCC諸国は米国の大学との連携によって知識を吸収することにも熱心である。例えば、アブダビが再生可能エネルギー開発にイニシアチブを取るマスダール計画については既に触れたが、その計画において米国マサチューセツ工科大学がパートナーであり、またニューヨーク大学(NYU)はすべての学部をアブダビに設ける計画を進めている。また、米国の代表的なライフスタイル・ブランドは中東湾岸地域に広く浸みのブランド(図6) は数多い。GCC諸透しており馴国では米国の商品ブランドを好む傾向が極めて顕著で、たとえばコーヒーのスターバックスやマクドナルドなど染じなR図6米国のライフスタイル・ブランドの浸透2010.7 Vol.44 No.466 ⑤ 米国企業の中東進出 米国企業がドバイを世界戦略の拠点とする動きも見られる。石油サービス大手のハリバートン社は、2007年にデーブ・レザーCEOが東半球での事業拡大に向けて本社機能をテキサス州からドバイに移転する計画を発表した。ハリバートン社は1995年から2000年までチェイニー元副大統領がCEOを務め、2003年の米軍によるイラク侵攻の際、米軍支援事業を24億ドルで独占受注したという経緯がある企業である。本社移転の計画は、湾岸諸国や近隣地域の国営石油会社との関係を深め石油ビジネスの強化を図るのが目的としているが、これに対して、米国では民主党議員からドバイへの本社移転の計画は法人税の納税義務の回避をもくろんだもので強欲企業の最悪の例だと非難する声が相次いだ。現在は、ドバイに「第2本部」を置いてロープロファイルに徹している模様である。 こういった米国企業の動きは、他にもマクダーモットやCB&I(Chicago Bridge & Iron)が資材の調達拠点をドバイに置いて活動する動きを見せているように、ドバイは調達と物流の拠点、あるいは中東の統括拠点としての役割が米国企業のなかで定着した。ジャベル・アリ・フリーゾーンのほか、ドバイ国際金融センター(DIFC)には多くの米国企業が中東拠点を置いて活動(表6)している。 その結果、現在ドバイに拠点を置いて活動する米国企業は1,118社に上っている。(3)米国の大学、ブランドに代表されるソフトパワー ① 米国留学による人材育成 米国は同盟国としてサウジアラビアとの関係を格別に重視し、米国とサウジの間では交換留学制度が両国政府の努力で記録を更新している。米国の大学に留学してい表7GCCの米国への留学生動向米国大学に留学中のGCC国籍学生うち、サウジ人30,000人18,000人GCCの在米留学生の減少率 2004~2005年サウジアラビアUAEオマーンクウェート13.80%7.20%20.00%6.80%2006年以降、サウジ/米国の関係改善によって、留学生は通常ベースに戻った。出所:Gulf Research Centerト国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~の米国の象徴的な消費ブランドについては、国民1人あたりの浸透密度という観点で見れば、ドバイが世界最高水準にあると推測されている程である。表8米国大学のGCC進出状況国大学Georgetown University School of Foreign Service in QatarCarnegie Mellon University in QatarWeill Cornell Medical College in QatarVirginia Commonwealth UniversityTexas A&M University at QatarAmerican University of DubaiAmerican University of SharjahTroy University, ITS Sharjah CampusGeorge Mason University - Ras Al Khaimah, U.A.E.NYU Abu Dhabiクウェート American University of Kuwaitバーレーン New York Institute of Technology Bahrain出所:Gulf Research Center ③ 教育、医療、文化交流において米国の中カタール東進出が新たな傾向UAE 教育、医療やヘルスケア、文化交流においても米国の中東進出が新たな傾向として際立っている。教育では、米国大学のGCC諸国への進出(表8) が勢いを増している。ジョージタウン大学、カーネギーメロン大学、テキサスA&M大学を含め米国の有力大学が既にカタールに進出しているほか、GCC諸国は競って米国大学の誘致を進めている。米国の医療機関では、全米一の規模と設備で名高いクリーブランド・クリニックが初めての世界進出をアブダビで実現し2012年の稼働を目指しているほか、ニューヨーク大学病院もアブダビへの進出計画を進めている。ハーバード・メディカル・スクールが初の海外進出をドバイで、ボストン大学もデンタル・クリニックがドバイに、いずれもドバイ・ヘルスケア・シティーのフリーゾーンに進出を果たした。文化交流では、アブダビがフランスのルーブル美術館を誘致して話題になったが、ニューヨークのグッゲンハイム美術館のアブダビ誘致も実現した。4. 日本の対応:中東ビジネスへの新しい挑戦 米国の中東ビジネスが質的に変化し重層化するなか、日本は中東との関係でエネルギーと貿易に依存する構造が根強く、中東が期待する日本の技術や科学の分野では連携が薄いというのが米国の見方となっている。インフラ開発の次の狙いは科学と文化のセンター機能を目指すという願望が強い。その観点から日本は幅広くライフスタイル分野にも関与することが重要だとする指摘は多い。この分野に欠かせないのは購買力、市場力であるが、GCC諸国では年率3%以上のペースで人口が増加し、また資源価格の高止まりを背景に世界の富の移転が中東にシフトし、多くの富裕層が出現するとともに将来を支える若年層人口が拡大している。日本はこれまでに関与してきた産業分野に加えて、科学、技術、環境、文化、芸術などの分野にも参入する機会がめぐってきたと言える。 GCC各国の成長期待分野(表9)は多様で、従来型の重化学産業の分野にとどまらずGCC各国の成長分野は広くソフト産業にも及んでいる。今年5月に発表された67石油・天然ガスレビュー世界競争力ランキングでは、カタールが昨年は14位、今年も15位で中東地域のなかで最も高い競争力を持つが、GCC6カ国はいずれも上位50位内に位置している。将来にわたって、多角的な発展が期待できる経済環境にあるのがGCC諸国の新しい特徴となっている。日本ブランドの消費財、食文化、生活文化の浸透度は欧米ブランドとの対比においてまだ出後れてはいるが、中東から表9GCC各国の成長期待分野教育、エネルギー、健康、生命科学、運輸サウジアラビアアラブ首長国連邦 金融サービス、航空、IT、医療、環境、建築カタールバーレーンクウェートオマーン農業、旅行、教育、医療金融サービス、旅行、IT通信、貿易サービス旅行、メディア旅行、漁業出所:英エコノミスト・インテリジェンス・ユニット調べ黷ェ強いことあこが見て日本の文化、ブランド、食に対する憧を考えると、この分野を伸ばす余地は大きい。 中東は旺盛なインフラ需要が拡大持続すると同時にソフト産業の分野でも新しい可能性が進展する勢いにある。その一方で国際競争が激化し、官民連携による中東ビジネス戦略の重要度も増している。中東現地の政府機関においても、日本側と戦略を共有して協力関係をつくりたいという意欲は強い。中東ビジネスの潮流変化がどのように起こっているか、そのなかで何が日本に期待されているか、重点取り組み分野として何が具体的な案件かというアングルで日本の取るべき対応を考えてみたい。(1) 日本企業が優位性を発揮するビジネス:資源新興国の中東 日本の視点で見た時の中東地域へのとらえかたとしては、日本の優位性や日本らしさの発揮、官民連携の強化、中東地域大プロジェクトへの取り組み、オペレーションとメンテナンス(O&M)を含む持続的システム型のビジネスモデルの構築、競争が激化する海外勢への対応などがポイントとなる。UAEの原子力発電所を一括受注した韓国の事例は中東のビジネスモデルの変容ぶりを示唆している。ライバル国・企業との競争、先駆的な取り組みのケース、日本企業のネットワークづくりを考える上で、参考にすべき要素は多い。中東ではビジネスの意思決定者が国家のトップあるいはそれに準じる任にあることから、売り手側も国の代表クラスが商談にリーダーシップを発揮する必要がある。韓国の事例では、当該事業において民間企業だけでは負いきれない大型リスクを国家が側面的に支援する体制をつくることで、国を挙げて事業にコミットしたという点で先駆的だ。 わが国では新興国の経済発展に貢献する一環として、各地域で勢いを増しているインフラ事業を官民が一体となって企業連合を組成して受注を目指す動きが加速している。アジア市場に加え、中東地域についても一大経済圏としてとらえて広範囲にわたるインフラ案件の受注獲得に向けて取り組む機運である。アジアとの対比において中東地域の重要性はエネルギー資源が豊富な資源新興国である点に集約される。わが国のエネルギー需要に対する最大供給源となっている中東地域は、資源外交の死活を握る最重要な相手国である。中東への協力支援、幅広い産業協力や経済発展に向けた協力はわが国の安定的なエネルギー資源確保のために必要不可欠という前提がある。 そのうち、中東が日本に求める協力の軸は技術と人材アナリシスである。技術と人材というわが国の優位性を相手国ニーズに合致させるビジネスモデルをつくることは、中東と日本が相互の強みを補完して重層的で持続的な関係の強つながる。中東各国に共通する日本に対する見方は、化に繋これまでの実績、品質、技術、人材への高い評価と同時に決断のスピード、価格競争力、韓国や中国をはじめとする競争相手の躍進との対比における日本の劣勢傾向である。同時に、確実な契約履行、高い職業倫理に裏づけられた労働意識、高い教育水準と人材、先端技術力の優位、日本独自の文化などの観点から引き続き日本への期待は高い。期待される分野は人材教育、技術移転、環境関連、新産業育成など各国が共通して産業の多角化を通じて将来の雇用創出を目指す国策に沿ったものである。(2)日本企業のこれからの中東ビジネスモデル 日本企業が中東地域の経済発展に貢献し、かつビジネスとして取り組む重点分野は、エネルギー・サプライチェーン産業、水ビジネス、ビジネスとしての教育・人材育成産業の3分野に集約される。これらは個別の事業として独立するものではなく、互いに補完し合うことで相乗効果も期待できるものであり、一体としてとらえる必要がある。わが国としては、石油と天然ガスに代表される資源開発やプラント輸出など長年にわたって中東地域で実績を積み上げてきた伝統的な分野を進化させ、さらに新しい視点でビジネスモデルを切り開くためにも注力すべき分野である。中東地域でわが国が重層的な関係を構築して資源外交や従来のビジネス関係をより高度化して、重点的に取り組むことで諸外国との対比でわが国の中東地域におけるプレゼンスの向上を図り、付加価値の向上を目指すことに資する分野である。 ① エネルギー・サプライチェーン産業 中東の魅力は豊富なエネルギー資源と資金力にある一方、新しい産業を育成し多角化することで将来の雇用を確保することが各国の急務となっている。エネルギーのサプライチェーン関連分野において日本企業が貢献し得る余地は大きい。この分野では石油・天然ガスの派生産業である石油化学、プラスチック、アルミなどの製造業を含め、地域に豊富でありながら未開発の太陽光や太陽熱などの再生可能エネルギー利用の発電事業も含む。中東の豊富で安価なエネルギーと日本企業の高い技術力を融合させ、人材育成までを一括して産業として拡大させる過程でエネルギー・サプライチェーンを構築することを目指す。アジアと中東との違いは資源の有無であり、エネルギー・サプライチェーン産業には即効性がある。2010.7 Vol.44 No.468ト国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~日本・サウジ合同プロジェクトのシンボルは住友化学のラービグにおける石油精製・石油化学事業である。サウジアラビアの石油化学下流部門、プラスチック・包材分野を強化し支援するにあたっては、日の丸のプレゼンスを活用し、今ある1を2や3に高めていく考え方が現実的と言える。 ② 水ビジネス 中東地域は水資源に恵まれず食糧・食品を輸入に大きく依存する体質が特徴でもある。食糧と水の確保という安全保障の観点から造水事業の拡張と海外農地買収を目指す動きが活発化している。一方で、人口の急拡大、経済の多角化、工業化、都市化の現象によって産業と生活に要する水の供給は浄水、下水の整備と排水処理に対するニーズが高まり、さらには海水淡水化の拡大に伴って環境問題に波及している。日本企業と自治体が持つ水関連の技術と運営ノウハウは中東地域のニーズに合致し、ビジネスとして拡大できる分野となっている。 淡水化ビジネスでは欧州企業が先行しているが、石油を使うことによる二酸化炭素(CO2)の発生や淡水化で発生した副産物を海洋投棄することで生じる環境汚染の問題がある。日本の得意とする総合的な環境技術を駆使することによってバランスの取れた水作りを進め、海洋汚染、気候変動への対処、水を使った農業技術などにも応用できる。さらに工業用水について現在は個々のプラントのレベルで設計されているが、これを工業団地全体で考え、排水を再生して工業用水レベルに戻すプロジェクトも考えられる。環境、気候に配慮し、水の循環リサイクルによる都市づくりにも結びつく事業だが、法規制や制度改正などが必要なため、民間だけでなく官民一体となって総合的な提案・売り込みをしていくことが必要である。 ③ ビジネスとしての人材育成・教育産業 中東地域では人口が急増するなか、若年層世代が急速に膨張し将来の失業問題への対策が特に湾岸各国で最重要な課題となっている。産業を育成し雇用を促進するためには労働力となる人材の育成が不可欠で、教育は中東地域において有力なビジネス領域となっている。サウジアラビアでは教育を最重要に掲げ国家予算の26%を投入しているほか科学技術大学院を軸に学園都市構想が推進されている。カタール、アブダビ、ドバイにおける海外大学のラッシュは既に述べたとおりである。日本の精神文化に対して高い敬意を払う中東諸国から見て、欧米とは異なる日本らしい教育システム、特に職業訓練を含む労働力育成に繋がる人材開発によるビジネスモデルは期待が高い。人材育成プロジェクトについては、中東地域で継続的なビジネスを行っている企業を除けば民間企業だけでは対応に限界があり、官民の協力が不可欠となる。製造業の基礎となる教育、品質管理などは長い目で見ると重要度が高い。日本企業にとっては、高齢化を迎えた製造現場における労働力を多角的に活用する観点から、あるいは少子化で需要減少に直面する教育業界の新規需要創出の観点から、人材開発にかかわる産業ニーズが高い中東地域を新たな開拓市場とする機会でもある。(3) 中東からの期待:日本企業による中東ビジネスの新しい形 さらに中東現地政府からの期待分野として、製造業の育成、中小企業の育成とソフト産業分野の中東進出、アジア・アフリカなど第3国市場への進出・共同取り組みが挙げられるほか、中東地域大のプロジェクト参入、さらに、O&Mを含むシステムで稼ぐインフラプロジェクトが日本企業の取り組みに欠かせない分野である。 ① 製造業の育成 中東地域には、サウジアラビアに代表されるサウダイゼーション(労働力のサウジ人化政策)のように、現地の自国民労働力を就労させる労働集約型の産業を育成したいという強いニーズがある。アブダビではユーラシア大陸の人・モノの移動が西から東にパラダイムシフトする世界的なトレンドを先取りして新しい産業の中心地を目指す動きがある。カタールは科学技術を国家の成長戦略に取り込みたいというスタンスである。各国各様とはいえ、製造業の育成が中東に欠かせない産業政策となっている。モノづくり大国でありメードインジャパン製品の品質評価が際立つ中東で、日本企業の製造業育成に対する支援には現地からの期待が高い。 ② 中小企業の育成とソフト産業分野の中東進出 中東諸国は、産業の裾野を拡大し雇用機会を拡大するとともに、中東地域における商人マインドを鼓舞して政府系企業に依存しないで成り立つ中小企業の育成を国策としてとらえている。そのなかで、中小企業主体のビジネスを立ち上げることに日本企業の持つ技術と経験を中東地域で発揮してほしいとするラブコールがある。無税の体系と輸入関税がかからない制度に加えて、アジアと欧州アフリカ市場に繋がる巨大なマーケットを背後に持つ立地条件や資金や原材料の供給力などを中東への進出利点ととらえ、日本の中小企業が持つ成功体験を中東で69石油・天然ガスレビューAナリシス上を目指している。例えば、2017年の稼働を目標に250億ドルをかけてGCC6カ国を連結する全長2,000kmの高速鉄道網の建設プロジェクトは既にGCC首脳によって承認されている。2009年7月には、サウジアラビア、カタール、バーレーン、クウェートの4カ国が送電線グリッドを完成させている。いずれのプロジェクトも巨額で政府主導の色彩が濃い。こういった動きを先取りする形で今後はさらに提案型の地域大プロジェクトが動き出す流れもある。諸外国のなかには大型経済ミッションを派遣し、さらには軍事協定や貿易協定などに絡めたトップ外交による政治的な行動も見られる。わが国にとっても地域大プロジェクトは経済波及効果が大きく日の丸プロジェクトに結びつく事業であるだけに注力が必要な分野だ。個々の企業が単独で中東に進出するのは厳しく、企業連合によるプロジェクトの構築、経済団体ミッションの派遣など官民が一体となったアプローチが必須である。 ⑤ O&Mを含むシステムで稼ぐインフラプロジェクト 日本企業がこれまでの実績を基に、今後O&Mを含めシステムで稼ぐインフラ関連分野への参入や取り組みは、各国に共通する持続的なビジネスモデルとして重要度を増している。中東地域のインフラ需要は引き続き旺盛であり、日本企業が中東地域でインフラ分野において貢献するためには持続型ビジネスモデルとしてO&Mを含むメンテナンスへの対応、韓国なども含む外国勢との連合形成、現地資本との合弁、グランドデザインから施行までのプロセスへの参画、日本の強みである技術力の発揮、官民連携の強化など多様なアプローチが、今後の競争力の維持・向上に不可欠と言える。も開花させてほしいとする期待である。ソフト産業は、ビジネスとして成功させることが難しいという指摘がある一方で、現地における社会的な影響が大きく、それが目に見えない形でビジネスにも大きく寄与する波及効果もある。官民一体で取り組むことで効果が倍増する分野でもある。 ③ アジア・アフリカなど第3国市場への進出・共同取り組み勢せ 中東産油国の持続的な石油輸出収入をもとに巨額のオイルマネーが蓄積され、政府系SWFをはじめ中東産油すうい国のオイルマネー運用の勢いと多角化の趨が止まらない。オイルマネーをわが国に還流させると同時にわが国の知見と中東の豊富な資金を融合させる仕組みの構築をアジアやアフリカなど第3国市場で展開することも期待の一つにある。この分野では、既に実績と経験を積んだ産油国ではあるが、わが国にとっては軽視できないビジネス領域と考えられる。一方で、中東には一般の金融機関のほか、地域に特有なイスラム金融、アラブ・ファンドもある。こうした中東独特の金融システムは、日本ではこれまで馴染みが薄いがビジネスチャンスを探っていく必要がある。さらに、農業分野においても中東産油国が進めるアジアやアフリカにおける農地買収の動きがあるが、日本の技術を取り入れて共同で取り組むことができないか、難題ではあるが検討の余地はある。 ④ 中東地域大のプロジェクト参入 中東湾岸諸国が地域大のプロジェクトを志向する動きが顕著となっている。経済統合を目指す動きと軌を一にしたもので、既に送電網、鉄道、道路などの基幹インフラを連結させる目的で、地域内の経済活性化と効率の向おわりに 本稿では、米国と中東の両地域にまたがる勤務経験に基づき、米国とGCC湾岸諸国のビジネスとこれからの日本の対応を中心に述べてきた。米国にとって中東問題を複雑にしている要素はイスラエル、イスラム、イランという三つの「イ」に象徴され、この三つの「イ」をバランスよく解決する、あるいは妥協することは容易でない厳しい現実がある。また、経済面においてこれから米国と中東が解決を迫られるポイントは、米ドル建ての石油取引、米ドルにリンクするドル・ペッグ制度の為替制度、中東産油国が保有する米国債のドル価値の減少など、いずれも米ドルそのものの価値にかかわる。これは世界の基軸通貨としての米ドルが今後、どうなるかという世界経済に直接関連する問題だが、米ドル通貨に中東が深く関与している現実がある。そういった意味でも政治、経済の両面で、米国と中東は切っても切れない関係にある。 一方で、中東地域が完全に安定すれば、米国の安全保2010.7 Vol.44 No.470?撃ニの関係は既に述べたとおりである。 日本の主要な企業は中東に対する心理的な壁が厚い一方で、中東地域の潜在力とビジネスチャンスを戦略的に重視して成功を収めている企業も多い。そこには、中東における人的関係の堅固さ、中東のニーズと日本の競争力がうまく合致したという共通項がある。中東に対する距離的ギャップと戦略的な重視度が中東ビジネスでの差異となっている。中東進出の成否の決め手は、中東に対する戦略意思、現地における多様な人脈の構築、現地密着による信頼関係の確立、有力な現地パートナーの選別とその活用が不可欠である。 企業にとっても中東固有のカントリーリスク、市場リスクの分析・判断はミニマム条件となる。政府の支援、官民連携の強化、中東地域の多様な情報の共有化、中東に関するシンクタンク機能の拡充、広報・メディアを通じた中東に関する啓蒙なども有効と言える。潜在力を秘めたこれからの中東市場を新しい視点でビジネスチャンスとしてとらえる好機である。弱じ障に支えられている中東において、米国の軍事的な影響力が低減し兵器輸出も減少する。資源大国である中東に対する軍事的、経済的な関与の後退は米国にとっても死活問題となる。米国にとって中東問題は多様な観点から、いつまでも深くて重い問題であり続ける。 日本と中東を考える時、中東地域がわが国にとって特筆できるほど重要な市場となっていない最大の要素は、日本人の中東地域に対する距離感の大きさである。中東に対する認識度合いが欧米や他のアジア諸国との対比で見劣りするのが現状だ。その背景には、歴史的なかかわりが希薄であることに加え、近年は中国や韓国などが国益志向を鮮明に打ち出し頻繁な首脳外交を通じて成果をぜいゃくであ上げている実態との対比で見ると、人的関係が脆ることなどが挙げられる。日本から見て中東はいまだ遠い存在である。 これに対し、欧州は歴史的なつながりから中東に対して物理的、心理的にも距離が近い。日本のアジア重視に対比して、欧州は中東重視のスタンスが明確だ。米国の米国オバマ政権の中東戦略と日本の対応 ~潜在力を秘めたこれからの中東ビジネス~<注・解説>*1: Gulf Cooperation Council、湾岸協力会議。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、オマーン、バーレーンの6カ国で構成。1981年設立、本部はサウジアラビア・リヤド。*2: http://www.chinadaily.com.cn/bizchina/2009-08/01/content_8502784.htm執筆者紹介髙木 雄次 (たかぎ ゆうじ)< 学 歴 > 1973年、一橋大学卒業。1975年、テヘラン大学留学。1988年、ハーバード・ビジネス・スクールPMD修了。< 職 歴 > 1973年、三井物産入社。エネルギー部門に長く、米国三井物産石油部長。その後、米国ワシントンDC事務所長、広報部長、中東三井物産社長、三井物産理事などを経て2008年より現職。三井物産では米国に14年、中東に4年の勤務経験を持つ。米国では1980年代、90年代、2000年代それぞれの時代を経験。中東では70年代、王制時代のイランと経済開発ブームに沸いたドバイに2006年まで勤務、古い中東と新しい中東を経験。早稲田大学日米研究機構客員研究員も兼務。<著書・論文> 「気候変動とエネルギー安全保障」(東洋経済新報社10年3月)/「オバマ政権のグリーンニューディール」(海外投融資・特別講座09年7月)/「中東外交とエネルギー政策が変わる:オバマ大統領の挑戦」(日本アラブ協会09年3月)/「米国と中東:関与と相互依存の地政学」(中東研究センター動向分析・巻頭論文08年10月)71石油・天然ガスレビュー
地域1 北米
国1
地域2 中東
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地域7
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国・地域 北米中東
2010/07/20 [ 2010年07月号 ] 髙木 雄次
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