ページ番号1006423 更新日 平成30年2月16日

その後の資源ナショナリズム

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レポートID 1006423
作成日 2010-11-19 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般基礎情報
著者
著者直接入力 石井 彰
年度 2010
Vol 44
No 6
ページ数
抽出データ 那なん 資源ナショナリズムとは、経済合理性によってではなく、ナショナリズムの論理によって資源開発や資源政策を行おうとする動きであると言えよう。現象的には、資源国が高度な技術とマネジメント力を持つ外資を排除して、その能力が不十分な自国の国営企業で代替しようとしたり、資源輸出を制限して強制的に国内で利用させようとしたり、あるいは外資との契約条件を政府が一方的に変更して国庫収入を短期的に最大化しようとすること(政府による不法行為)、などである。長期的には、これらの政策はせつ資源国自身の経済的利益にはならないが、長期的な経済ロジックよりも刹的な政治ロジックが優先しまんてしまう現象である。また、これが世界的に蔓することになれば、世界全体の資源開発投資が滞ったり、国際資源市場の柔軟性や流動性、すなわち市場メカニズムが損なわれて世界の順当な経済発展にとって障害となり、資源輸入国は大きな打撃を受ける可能性が高い。また、民間資源会社は投資対象が大きく制限されることによって、あるいは政府による資産の接収や収益の収奪によって大きな打撃を受けることになる。 筆者は、2007年に石油に関する資源ナショナリズムの再興について、二つの相互に関係する論考を世に問うた(「21世紀型石油危機の発生と資源ナショナリズムの再興」JOGMEC石油・天然ガスレビュー、2007年1月号<執筆は2006年11月>。『石油もう一つの危機』日経BP社、2007年7月)。 歴史的には、資源ナショナリズムは、1970年代に石油価格の高騰にシンクロナイズする形でいったんは興隆を極め、その後1986年の石油価格暴落後、1990年代半ばに至って沈静化した。  しかし、石油価格暴落から資源ナショナリズムの沈静化まで、10年近くもかかっている。 その、一度は「寝た子」が、バブル的様相が強まった2005年から2008年にかけての石油価格の再高騰トレンドの副作用として、再びたたき起こされてしまった。本稿では、以前の分析が、その後の展開で妥当したのか、していないのか、今後どのように展開しそうなのか等について考察したい。延えアナリシスJOGMEC 石油企画調査部特命審議役石井 彰その後の資源ナショナリズムはじめに1.資源ナショナリズムの特徴 上記の論考で、筆者は資源ナショナリズムには、次の五つの特徴があると指摘した。(1)おおむね資源価格の正の関数である すなわち、価格が上昇すればそれに応じて供給も増えるという初等経済学の教科書の教えとは反対に、資源価格が上昇すると、資源国政府、ないし国営資源会社は、生産1単位あたりで大きな国庫収入を得られるようになるので、むしろ生産量を抑制して長期的な資源温存と政治的・社会的安定を志向するようになる。その理由は、政府も国営企業も政治的存在であって営利企業ではないからである。その過程で、高度な技術とマネジメント力で効率よく、すなわち低いコストで石油などの資源の開発生産を行ってきたメジャーズなどの外資を追い出し、効率が悪くても(つまり、単位あたりコストが高く、単位あたり税収が相対的に少なくなるが)、国家的・民族的プライドを満足させたり、あるいは直ちに雇用を増加させ、また長期的に技術者や専門家の育成につながると考えて自らの国営企業で代替しようとする傾向が強い。図1、図2は時系列でその経緯を示している。(2)資源国と消費国がナショナリズムの正のフィードバック(悪循環)をなす 資源価格の上昇に伴っていち早く資源国で資源ナショ1石油・天然ガスレビューAナリシスナリズムが高揚すると、消費国政府も危機感から、それに反応して市場介入を強め出し、国内資源や民族系民間資源会社に対する外資アクセスを制限しようとしたり、外交的手段で資源を確保しようとするが、これがさらに資源国政府を刺激して資源ナショナリズムを強めるという悪循環を生む。(例えば、2005年の中国国営石油企業CNOOCによる米Unocal社買収に関する米国議会の介入に刺激を受けて、直後に同様の反応をしたロシア、さらにそれに刺激されて他の資源国が連鎖反応した等)このエコーの無限連鎖のような資源国と消費国の資源事業に対する政治介入拡大競争の結果、国際資源市場の市場メカニズムが働きにくくなっていく。後に述べるように、1501401301201101009080706050403020ドル/バレルWTIBrentDubaiナイジェリアエクアドルブラジルベネズエラロシアベネズエラカザフスタンロシアインドネシア12345910111218672003234591011121867200423459101112167820052345910111216782006234591011121678200723459101112186720082345678200991011121923674582010年黒字が主な資源ナショナリズム発現のイベント、赤字が同反転のイベント図1原油価格の推移(2003~2010年9月)開放済み未開放1986年開放済み未開放開放後退2006年1985年(1986年の油価暴落直前)石油価格はバレル35ドル(現在価値では約90ドル弱)2006年の石油価格はバレル約60ドル開放済み未開放1997年開放済み未開放開放後退開放再開2010年1997年の石油価格はバレル約20ドル(現在価値では約25ドル程度)2010年央の石油価格はバレル約70ドル出所:JOGMEC図2資源ナショナリズムのサイクル2010.11Vol.44No.62サの後の資源ナショナリズムこれは資源国の資源ナショナリズムと輸入国の資源重商主義の連鎖反応であり、国際資源市場の柔軟性・流動性の低下への政治的ロック・イン(固定化)メカニズムが発生する。国際資源市場の機能が低下すると、資源国・消費国双方の政治介入主義がますます興隆する悪循環となる。(3)民主化と産業化が資源ナショナリズムの基盤である 資源価格上昇による資源ナショナリズム高揚には、資源国間でかなりの温度差が生じる。それは、ある程度までは民主化の度合が高いほど、また社会の産業化度が高いほど、ナショナリズムが強くなる傾向である。その理由は、ここで詳しく論じる紙数はないが、元来、一般的にナショナリズムには、そういう性格が備わっているということであり、これは政治学、歴史学や人類学等の関連学界の通説である。 逆に、資源ナショナリズムがそれ程高揚しない国には、独裁的政府の下に工業化が進んでおらず、かつ人口が石油収入に比して少ない、という共通の特徴がある。 ただし、資源量・埋蔵量的に既に危機的状況下(枯渇化)にある国はこの限りではない。例えば、21世紀に入って埋蔵量が枯渇化して外貨収入が激減したコロンビアは、起死回生策として外資導入策を抜本強化した結果、ここ1~2年で、埋蔵量と生産量が大きく復活しつつある。資源的に「尻に火が付いて」いれば、資源ナショナリズムという、経済非合理性にかまけている余裕はなくなる。(4)非対称的な時間的ヒステリシスがある いったん、資源価格が高騰し始めれば、たちまち資源ナショナリズムが高揚するが、その後、逆に資源価格が下落しても、それにつれて再び資源ナショナリズムが沈静化するのには長い時間がかかる。つまり両事象には非対称性がある(ヒステリシス)。その理由は今述べたように、一般に、資源ナショナリズムには幅広い民衆的な基盤・支持があるからであり、少数の為政者による経済合理的判断だけでは反転困難だからである。民衆は、価格高騰に素早く反応してナショナリズム的熱狂に感染し、あずかその刹那的なおこぼれに与ろうとするが、その後に価格が下落した際に、経済合理性で動く現実とロジックを納得し、学習するに至るには、かなりの時間がかかる(現実に合わせて、プライドを捨てるには時間がかかる)。 1970~1990年代での経験によれば、価格上昇後の資源ナショナリズム高揚までには、数カ月から数年程度しか要しなかったが、1986年の価格下落後、資源ナショナリズムの明確な沈静化には10年程度もかかった。コロンビア民主制民主制西豪州インドネシアロシアアルジェリアメキシコエクアドルベネズエラボリビア独裁制独裁制:産業化進展青字:従来と変化なし:2010年までの変化資源ナショナリズム資源ナショナリズムナイジェリアクウェートイランモーリタニアチャドサウジアラビアカザフスタンオマーンアブダビカタールリビアスーダン外資導入促進外資導入促進各国の位置は筆者の判断による出所:JOGMEC図32006年当時の民主化と資源ナショナリズムの相関図3石油・天然ガスレビュー010.11Vol.44No.64アナリシスん その結果、石油価格上昇に対応した柔軟な投資増、ないし供給増といった市場メカニズムが阻害され、世界的にはいわゆるBackward-BendingSupplyCurveが成立し、価格が上昇すると供給量は逆に減退するように、政がい性が高くなる(図4)。こ治的にロック・インされる蓋のため、バブルによる石油価格高騰が、長期にわたり供給面の制約要因増大を政治的にロック・インし、国際石油市場の柔軟性・流動性が低下する傾向が高まる危険がある。それが現実となった場合に、消費国側のネガティブな不可逆反応を呼び起こし、「石油時代の終わりの始まり」のきっかけになりかねないと指摘した。このように、石油は価格高騰を契機として、経済原理と政治との一体不可分性が高まる傾向があり、これが教科書的な経済理論と最も異なるところなのである。然ぜ価格$50/バレル?0生産量D.Teece:TexasUniv.,:1980年代初めの理論図4Backward-BendingSupplyCurveが妥当か?(5)高度な技術を要する事業分野、すなわち深海開発、非在来型資源開発、天然ガス(特にLNG)開発には、資源ナショナリズムは及びにくい 当然のことながら、ナショナリズムが高揚しようにも、資源国の国営企業や民族系企業では手も足も出ないような高度な資源開発事業は、比較的安泰である。したがって、石油メジャーズ等は何年も前から資源国の政治的介入に抵抗力がある深海開発、非在来型資源開発(重質油/オイルサンドやシェールガス、CBM等)、LNGを戦略的な投資重点としてきている。 以上が、指摘した5点である。 その後、筆者は2008年に出版した『台頭する国営石油会社』(エネルギーフォーラム社)の中で、1990年代以来のSchlumbergerやHalliburton等の上流技術サービス産業の大幅な技術力向上とサービス範囲の拡大によって(これは、BPはじめメジャーズが、アウトソーシングによるコスト・カット経営の一環として、意図的に誘導した経緯がある)、資源ナショナリズムを招来し、これを不可逆トレンド的、構造的に支えるようになるとも指摘した。すなわち、過去1世紀にもわたる石油メジャーズによる高度な上流開発技術の独占が崩れ、欧米の上流技術サービス会社が最先端技術をメジャーズであろうが国営会社であろうが、誰でも相応の高額なfeeを支払ってくれる資源会社に、いつでも幾らでも提供するビジネスモデルが興隆してきた。このため、資源国が外資を排除して自分たちの国営会社に代替させると、資源価格が下落しても、資源ナショナリズムの時間的ヒステリシスはより一層強化され、不可逆的な構造的変化となる傾向が強まってきた。2.その後4年間の展開格との大幅乖が続き、価格「ミニバブル」の状態が1年以上も継続していることになる。この原因はまず、今世紀に入ってから長期化した世界的な金融緩和による金余り現象がリーマン・ショック後の世界的な大規模不況対策で、さらに一層の金融緩和が進んだこともあり、依然として石油先物市場に投機・投資資金として流入し続けていることである。また、再興した資源ナショナリズムに裏打ちされたOPECによる減産調整が、過去30年間で最も強力に行われていることも原因であろう。それを反映して、OPECの余剰生産能力は、この2年ほど日量離りかい 石油価格バブルはその後さらに上昇を続け、2008年7月に1バレル$147のピークを付け、リーマン・ショックの数カ月前から下落し始め、リーマン・ショック後の2008年末から2009年初めにかけて$30/バレル台まで暴落、しばらくして、昨年夏ごろより再び「半値戻し」の状況になって現在に至っている。 しかし、価格とは裏腹に需給実態は2005年当時から状況は発生しておらず、緩和が続いており、一度も逼リーマン・ショック後の世界不況によってさらに大幅緩和したまま現在に至っている。このため、需給実態と価迫ぱひっくサの後の資源ナショナリズム600万~800万バレル前後で世界の需要量の1割弱という、歴史的に見ても非常に高い水準を維持する一方、原油・製品の在庫も記録的高水準を続けている。 2005~2008年にかけての石油価格バブルと、その後のここ1年以上のミニバブル継続によって、先進諸国ではかなり明瞭に「石油時代の終わりの始まり」のステージに入ったように見える。需要は大きく減退して復活の兆しは見えず、自動車の燃費規制強化を中心とする各国の種々の政策的措置で、将来的にさらに需要が大きく減退することは不可逆的なトレンドとなってしまったようだ。中国・インド等の旺盛な石油需要増をもってしても、世界の石油需要増トレンドの先が見えなくなってきているし、石油の将来に明らかに影が差すようになってきた。もちろん、このような構造的と呼ぶべき大きな変化は、単に価格高騰や資源ナショナリズム高揚の結果のみならず、地球温暖化対策の第1のターゲットとして、各国政府が石油需要削減に狙いを定めてきたことも大きな要因である。3.資源国における資源ナショナリズムの部分的退潮いま下落後には、これがほとんど見られなくなった。ただし、この間に、労働党から保守党に政権が交代していることも要因と考えられる。 もっとも、一昨年夏以降の価格下落はピークの約半分と中途半端であり、現時点(2010年9月現在:WTIで$70/バレル台)で、2003年比で石油の実質価格は2倍弱程度(2003年の価格は$30/バレル程度であるのに対し、$70台の現行価格は2003年ドル価値で$50/バレル台)である。このため、この2大国以外では、資源ナショナだあまり目立った動きはない。リズムの反転・退潮は未ただ、逆に言えば、資源ナショナリズムが亢進する動きも、若干の例外(エクアドル)を除けば、見当たらなくなって、ブラジル、カザフスタン、アルジェリアなどでは一進一退を繰り返している。 過去数年間で巨大な油田が相次いで発見されたブラジルの深海では、かなり穏健な方法・程度ではあるが再び国営石油会社を優遇し、外資を排除する動きが顕在化している。カザフスタンでも、外資に権益を与えて開発・生産を行わせてきた巨大ガス田(カラチャガナク・ガス田)に関し、一部ささいな契約・法律違反等を理由に、権益の一部を強引に国営石油会社に移転させようとしている。 インドネシア、東チモール等では、国内需要増大や雇用問題から、市場原理に基づかない(経済合理性のない)輸出制限や外資に対する行動制限圧力が依然として高いままであるが、それがここ1,2年で特に悪化している事実もない。 また、歴史的に見て資源ナショナリズムの本家本元のメキシコでは、長らく多くの専門家が予想していたように、これまでの主力生産油田のカンタレル油田の生産能 2008年夏までの価格高騰に伴い、財政を放漫化してしまった石油輸出国の経済・財政は、その後の価格下落によって大きな打撃を受けた。ロシアなど資源国は、2004年以降の石油価格上昇トレンドには、需給逼迫要臭さを感じていたため、当初は、単に価因ではない胡格上昇による棚ぼた利益を、別途石油基金をつくって長期的安定的に使用する施策を考えていた。しかし実際に高騰し続けると、やはり刹那的な誘惑には逆らえず、次第に安易に財政支出を膨らませて、いわゆる「石油の呪い」の罠にはまっていった。とりわけ、2005年以降の資源ナショナリズム高揚の急先鋒となっていた2大産油国、ベネズエラとロシアは、石油価格の急落後に、急激に悪化した財政事情に直面し、背に腹は代えられずに資源ナショナリズム政策を心持ち反転させ始めた。 例えば、ベネズエラはオリノコの超重質油開発についていったんはメジャーズ等の外資を追い出した後、価格下落後に再び外資導入策に転換した。また、トリニダード・トバゴとの排他的経済水域の境界線上にあるガス田に関して、同国との共同開発を突っぱね、独自のLNG開発を志向したものの、2010年8月には一転して共同開発に合意した。 ロシアも、戦略的に重要な埋蔵地域への外資導入の抑制を法制化したが、価格下落後にヤマル半島LNG構想を切っただけでなく、他の重要埋蔵に関し外資導入へ舵地域への外資導入抑制を見直すことを検討し始めた。国営化したRosneft等の大手石油会社の株式を、再び株式市場で売り出し、外資にも売却可能とした。 また、西豪州の州政府は、価格高騰時には州内への生産ガスの15%の優先供給義務を声高に叫んで、新規のLNG事業の投資家に対して圧力を加えていたが、価格散さかじうん5石油・天然ガスレビュー010.11Vol.44No.66アナリシス力減退が本格化し、石油生産量と輸出量が急落しつつある。これに対して、先進的な深海開発技術の外資導入によって、これまで全く未探鉱であるメキシコ湾深海の有望海域の石油資源をアンロック(開放)する必要性が、これも長らく業界では指摘されてきた。しかし、案の定と言うべきか、伝統的な資源ナショナリズムの壁で遅々として進まず、遠からぬ将来に輸入国になりかねない瀬戸際まで追い込まれつつある。中途半端に高止まりした石油価格によって、いわば逆「ゆでガエル」状態になっており、再び石油価格が大幅下落して尻に火がつかない限り、憲法で定められた資源ナショナリズムからの決別の可能性は低いのではないかと考えられる。 一方、既に述べたことだが、21世紀に入って輸入国への転落の危機に直面したコロンビアは、その後外資導入策を強化して大成功しつつある。この事実からしても、資源ナショナリズムがいかに非合理的な経済政策であるかを如実に逆証明している。4.逆に輸入国の「資源ナショナリズム!?」は亢進ん進しド、また投資対象国の広がりなど、どの点で見ても、過まいし始め、多くの場合に、激なまでの自主開発投資に邁その手法は中国政府の外交政策と一体になったものであった。(図5)しかも、2009年夏以降に、さらに加速度がついているように見える。 これらの案件は、企業戦略として国営石油会社が主導し政府が外交支援したものなのか、逆に政府が政治的判断で主導し、国営石油会社が従ったものなのか、その判断を見極めるのは外部からは困難である(現に、国営石油会社に直接質しても判然としない)。また個別投資案件ごとにその色彩は異なるようにも見えるが、政治的発想からの政府主導的様相も少なからずあるようにも見える。と言うよりも、少なからぬ案件が企業戦略と政治的思惑が混然一体としているように見える。 そうだとすれば、その政治的発想とは、過去5年程のロシアのステート・キャピタリズム的な経済利益中心的な発想(権力者の仲間うちの利益の最大化、すなわちクローニー資本主義の様相も強かった)ではなく、主として地政学的発想と考えられる。産油国での上流権益取得によって資源を物量的に押さえ、直接生産物を中国に調達・輸入するという、いわば軍事的なロジスティクス(物資動員作戦)のような発想があるように見える。しかも、その地理的な展開を見ると、「軍事的な発想=物資動員計画的な発想による経済活動」にとどまらず、純粋に軍事的な配慮を反映している可能性もある。 例えば、大規模な輸入パイプライン建設に関して、いわば事実上同盟国のミヤンマーからの石油・ガスパイプライン(中東からの輸入石油を米海軍の支配するマラッ回することが建設目的の一つとされてカ海峡周辺から迂いる)や、直接的な軍事脅威ではないトルクメニスタンただしう 最近の資源国の動きは以上のとおり、中途半端な石油価格下落に応じた形で、若干の資源ナショナリズム退潮の動きはあるが、未だ大きなものにはなっておらず、いわばこう着状態にある。しかし、輸入国のカッコつきの「資源ナショナリズム」は、中国を中心に依然として大きく亢進しつつある。むしろ資源国のそれよりも次第に大きな問題となりつつあるようにも見える。とはいえ、中国が国内石油・ガス資源開発への外資導入を、積極的に制限してきているというわけではない。特に、シェールガス等の非在来型天然ガスの探鉱開発には、積極的に外資導入を図っている。今や日本を抜いて世界第2の石油輸入国となった中国の「資源ナショナリズム」は、国内資源に関するものというよりは、国外資源にかかわるものである。 1970年代以降の欧米消費国の石油調達は、基本的に国際石油市場、ないしビジネス・ベースに準拠してきた。1960年代以降、メジャーズや資源国の国営石油会社に対して、一部の先進消費国では、その民族系や国営系石油会社の国際競争力を維持向上させるために、一定程度の政府支援はあったが、それも1990年代にはほとんど姿を消してしまった。その理由は、強力な民族系石油企業の育成に成功して本来の目的を達した(仏、伊、西)ためや、イデオロギーとしての市場主義の蔓延、EU市場統一に伴う域内競争政策の高揚によってである。欧米先進諸国では、民族系石油会社による開発輸入投資=自主開発は、あくまで純粋なビジネス判断で行われるようになり、政府の外交政策とはほとんど無関係になった。 ところが、21世紀に入ったころから、大石油輸入国として台頭してきた中国は、CNPC(PetroChina)等の国営石油企業3社によって、案件数、投資金額、そのスピーIなアクセス権の獲得による資源の物量的確保・調達である。ただし、これは資源国との契約に基づく権利に過ぎず、軍事的に制圧しているわけではないので、資源国のなりふり構わぬ契約違反や戦乱等の物理的障害にはほとんど無力である。また、同様に安定的な物量的調達は、手間暇のあまりかからない国際石油市場での長期購入契約でも可能である。第2次大戦後においては、これまでのところ国際石油市場では、これに大きな障害は出ていない(1970年代の2度にわたる石油危機時でも、おおむね量的調達は可能であって、問題の本質は価格の暴騰にあった。) したがって、前者と後者を全体としてどの程度の割合で混合すべきか(ポートフォリオ)、言い換えると、どの程度リスク分散すべきかは、総合的、かつ合理的に判断する必要がある。 第2には、目まぐるしく変動し、暴騰を繰り返す石油の国際市況価格にかかわりなく、権益原油(エクイティー)として安定した投資のコスト・ベースで調達・輸入ができることである。同じことの逆の面からの言い方になるが、通常は、上流事業からは生産から最終消費までのエネルギー・サプライチェーン全体のなかで最も大きな投資収益率が期待できるということだ。結果として、国際市場からの調達よりも、長期的な実質調達コストは大幅に有利で、かつ安定する。近年は、この第2の効用が第1の効用よりもずっと大きい。ミャンマー中国タイインドネシアカナダCNPC/ PetroChinaベネズエラエクアドルペルーやカザフスタンからのガス・石油パイプライン建設は、その世界的に例のないほどの長大さや、山岳での工事困難性(ミャンマー)にもかかわらず、驚くほど速やかに実現されたのに対し、中国にとって潜在的な軍事的脅威と考えられているロシアやモンゴルが絡んだパイプライン案件は、その圧倒的近さと建設難度の容易性にもかかわしんょくらず、進は極めて遅いか、とりあえず計画中止になっていることからもそれがうかがえる。 また、特に2009年夏以降は、政府の大号令によって、世界最高水準に膨れ上がった保有外貨の有効活用のために、外貨を現物に置き換える方策として、国営企業による対外資源開発投資、外国資源企業の買収が強力に推し進められている様相も強い。以前は、世界一に積み上がった保有外貨のかなりの部分がドル建ての米国国債だったが、リーマン・ショック後に、中国政府は将来的な米国国債の暴落やドル暴落のリスク増大を恐れて、これらのペーパーマネーと違い、金利は全くつかないが、一夜にして唯の紙切れになる心配のない資源権益や外資買収にリスク分散している可能性が高い。元来、中国人は、歴の革命・戦乱や王朝交代を経験してきている史的に数ので、ペーパーマネー(証券)を信用せず、貴金属や美術品・不動産など現物保有への志向が非常に強いと指摘する向きもある。 一般論として、外国における資源の自主開発には、二つの側面がある。第1には、資源そのものに対する直接捗ち多たあまその後の資源ナショナリズムロシアモンゴルカザフスタンウズベキスタントルクメニスタンアゼルバイジャンイランイラクシリアモーリタニアアルジェリアチュニジアニジェールリビア赤道ギニアチャドスーダンオマーン出所:JOGMEC7石油・天然ガスレビューは生産中図5CNPCの現在の上流利権展開Aナリシスかさは、金銀の保有量ではなく、むしろ輸入品も含めた消費水準の高さにあるので、各国がこのような政策を追求し出すと、世界全体がゼロサム・ゲームとなり、ほとんどどの国も豊かさを実現できないために、今の経済学では典型的な誤った経済理論とされている。エネルギー重商主義とは、かつての重商主義が金銀の獲得・蓄積を最優先し、手段と目的が主客転倒してしまったように、エネルギー資源の獲得・確保自体を自己目的化した、経済合理的ではない政策ということになる。 中国の真意はともかく、このような消費国による政治的(軍事的)な発想、動機に基づくようにも見える資源囲い込み策、換言すれば資源ナショナリズムやエネルギー重商主義(のように見える行動)が連鎖反応的に蔓延していくと、将来的には国際石油市場の流動性、調達容易性が大きく損なわれ、7大メジャーと米英ソの政府が完全に牛耳っていた第2次世界大戦前における国際石油市場ぜいゃくのような、政治介入に著しく脆で市場流動性に乏しい状況に復古していく可能性も考えられる。これは、中国の怒涛の資源囲い込みの真の動機が、純粋に経済的なものであろうが、はたまた軍事的なものであろうが、双方が混然他一体となったものであろうが、他国にとっては大差がない。資源の囲い込みが過度になされるということそのものが、問題となる。 翻って、1970年代以来の資源国による資源ナショナリズム高揚は、10年間程度の資源価格の暴騰を招来したが、国際石油市場での消費国の量的調達には大きなマイナスの影響を与えなかった。しかし、最近の中国などによる資源囲い込み行動が、このままさらに激しくなっていくと、将来的に純粋に軍事的な安全保障問題のパラドクス、すなわち軍拡競争のパラドクスと極めてよく似た様相を呈することになる。消費国全体が、政治的な資源囲い込みのいわば「軍拡競争」という不毛で危険な状況に否応なく追い込まれていく可能性を秘めている。この場合、1国だけが(例えば日本が)資源的に「軽武装」のままでいることが非常に危険となる。弱じ止まったが、大きく反転して沈静化するところまではいっていない。しかし、石油価格高騰の過程で強化された消費国、なかんずく中国の資源ナショナリズム「のように見える」、あるいはエネルギー重商主義「のように見2010.11Vol.44No.68しかし、この第2の効用・メリットを享受するには、資源国との上流権益の契約条件(財務条件)が良好で、法的な安定性(契約の不可侵性)が保証されていなければ意ど味をなさない。この点で、怒のような過激なまでの中国国営石油企業による自主開発投資に対しては、資源国から足元を見られているのではないかと、国際石油業界は、その投資戦略の経済合理性に疑問符を呈している。 また、中国は資源国における上流権益取得、すなわち自主開発にとどまらず、政府が当該国政府に対して直接ソフトローンを貸し付け、返済代金として原油(ガス)を長期にわたって調達するという、ローン・フォー・オイル(ガス)も、ここ数年間で、ベネズエラやブラジル、ロシア、トルクメニスタン等と矢継ぎ早に締結している。これも経済合理性の観点からは、その効用・意義に疑問が残る。ただし、怒涛の自主開発もローン・フォー・オイル(ガス)も、純粋に利潤獲得動機や経済安全保障的な観点のみではなく、地政学的・軍事的観点も加味して考えれば、中国にとっては十分に合理的なものなのかもしれない。 このように、真の動機は不明ながら、一見して合理的な経済活動、つまり健全・穏当なリスク分散、調達手段のポートフォリオ形成にとどまらず、大規模な軍事的物資動員作戦(物動計画)のようにも見える中国の積極的な資源確保行動は、韓国のような周辺消費国にも同様な行動の連鎖反応を惹 このような消費国の連鎖反応を、例えば、ケンブリッジ・エネルギー研究所(CERA)の、かの有名なダニエル・ヤーギン氏は、「エネルギー重商主義」と呼んでいる。重商主義とは、18世紀以前に仏・英等の西欧諸国で流行した、「国の豊かさは、それが保有している金・銀等の量による」という考え方を基に、できるだけ金銀等のハード・カレンシーを蓄積するために、徹底的に自国の輸出振興を図って他国から金銀を獲得し、逆に金銀が流出する輸入を制限する政策を採る。しかし、金銀などの流通量は、少なくとも短期的には一定であり、かつ実際の豊しつつある。涛と起きうじゃっ 筆者の、過去の分析に基づく価格バブル崩壊後の資源国の資源ナショナリズムの展開見込みは、これまでのところおおむね正しかった。つまり、石油価格高騰トレンによって、取りあえず事態悪化のスパイラルはドの終焉えしゅうん5.結論サの後の資源ナショナリズムえる」、怒涛のような資源の囲い込み行動は、その本当の動機は不明瞭ながら、価格下落後もますます盛んになっていて衰える兆しはない。さらに、これが他の消費各国に飛び火しつつあり、将来において国際石油市場の流動性・柔軟性の低下を招き、極端な場合は「資源のブロック経済化」「資源の近隣窮乏化」が現実化する可能性が出てきている。そうなればなるほど、世界全体の輸入国にとって、石油調達の困難性が増し、また危機的状況を惹起しやすくなる。結果として、世界の石油離れが強化される悪循環が懸念される。6.補論:石油離れがもたらすものあらが 本稿の読者は、石油・天然ガス産業の従事者が多いと思うので、「世界の石油離れが強化される悪循環が懸念される」の一節に共感を抱かれるだろうが、例えば低炭素社会を目指す環境保護論者の方はそうは思わず、むしろ好ましいことと思われるかもしれない。なぜ、石油離れについて悪循環と表現したのか、ここでご説明しよう。いよう 低炭素社会の実現は、今や世界でも日本でも抗のないコンセンサスである。しかし、あくまで低炭素であってゼロ炭素ではない。一部の環境論者は、太陽光発電など再生可能エネルギーで長期的にはすべてのエネルギー需要を賄えると思っているようだが、そう考えるエネルギー専門家はたぶん皆無である。仮に原子力も同時に大幅増強しても、化石燃料をゼロ近くにするのはまず不可能である。なぜならエネルギーの産出/投入比率、換言すれば人類全体にとってのライフサイクル・コスト(環境負荷コストを除く)、ないしエネルギー密度・効率が化石燃料とそれ以外ではけた違いだからである。 一般に行われているエネルギー源別のコスト比較は、需要家にとってのコストを比べているに過ぎず、資源国や消費国の巨額税収にもなっている莫大な余剰収益分がカウントされていないことに気がつかなければならない。石油の産出/投入比率は平均100倍前後もあり、その余剰収益総額は、日本や中国のGDPに匹敵する。天然ガスはそれより小さいが大差はない。ばく これら化石エネルギーに対し、再生可能エネルギーの産出/投入比率はせいぜい10倍台であり、余剰収益は現段階でゼロないしマイナスである。だから、化石燃料をゼロにすれば、地球上に68億人を擁する現代文明は間違いなく崩壊する。嫌でも21世紀は、化石エネルギーと原子力エネルギーに依存し続けなければならないであろう。 代表的な化石エネルギーである石炭、石油、天然ガスを、石炭の燃焼時の二酸化炭素排出量を100として比較すると、石油は80、天然ガスは55となる。資源ナショナリズムとそれが引き起こした、または利用する石油市場の投機的動きによる油価の高騰は石油離れを生み出すが、同時に、より二酸化炭素排出量の少ない天然ガスや、価格の安い石炭へのシフトも生じさせている。二酸化炭素排出量の少ない天然ガスへの依存度は近年、利用可能性が明瞭となったシェールガス等の非在来型ガス資源によって天然ガスの可採埋蔵量が著しく増加したこともあって、高まっていくであろうと思われる。しかし、今後も多くの新規油田の開発により予想される可採埋増量の増加と対比して、石油消費量の速過ぎる減少は、決して人類全体の福祉にとって好ましいこととは言えないのである。執筆者紹介石井 彰(いしい あきら)1974年、上智大学卒業。日本経済新聞記者を経て石油公団(当時)入団。その後、米国ハーバード大学国際問題研究所客員研究員、同公団パリ事務所長等を経て、1992年より石油・天然ガスの国際動向調査に専門的に従事。趣味は山歩き、スキー、スキューバダイビング、テニス、音楽(クラッシックとジャズ)、グルメ(酒はだめ)、読書。最近の悩みは、仕事と趣味の読書で慢性的な眼精疲労状態にあること。9石油・天然ガスレビュー
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2010/11/19 [ 2010年11月号 ] 石井 彰
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