ページ番号1006456 更新日 平成30年2月16日

Oil & Gas国内現場での四方山話~第2回 石油資源開発株式会社 北海道鉱業所:北の大地に明かりを灯して~

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レポートID 1006456
作成日 2012-01-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 技術探鉱開発
著者
著者直接入力 渡辺 康夫
年度 2012
Vol 46
No 1
ページ数
抽出データ 石油資源開発株式会社 国内事業本部北海道鉱業所地質部地質グループ長渡辺 康夫Oil & Gas国内現場での四方山話~ 第2回 石油資源開発株式会社 北海道鉱業所:北の大地に明かりを灯して~在を確認するに至るまでの出来事と開発に必要とされた技術を紹介したいと思います。変わった技術の一つとしては井戸を掘るためにクルミの殻なども使っています。1. 私たちの北海道鉱業所(1) 苫小牧での暮らし 苫小牧市は東西に40km、南北が24km、人口は17万4,000人。町の東と西に大きな港があり北海道を代表する港湾都市であり、製紙業に加えて自動車関連の工場および石油コンビナートが林立する工業都市でもあります。立地条件としては札幌から車で1時間半程度ですし、北の玄関口「新千歳空港」からは車で30分です。 私は単身赴任をしていますので羽田⇔新千歳間の移動時間とフライト数の多さで助かっていますが、出張者にしてみれば日帰りが十分可能な場所になるので、せっかく北海道まで来たのにと、ちょっと残念な出張になるのかもしれません。 冬場の朝晩は氷点下10℃以下になることも多いですが、太平洋に面していることもあり積雪量は少ない所です。(2) 鉱業所の人員について 現在の北海道鉱業所(表)の在勤者は約200名、うちプラント勤務者が100名です。その他に現在掘削作業を行っている作業場に約40名勤務しています(生産当番および掘削クルーは24時間体制)。 私の所属は地質部地質グループで、主に油・ガス井掘削井の地質調査を行っているセクションです。グループ員6名は入社2~5年目の若手で構成されていますので、平均年齢が25歳と鉱業所全体でも若者グループです。専門によって違いますが、探鉱系の社員は1年目は本社在勤で研修(主に地表 私が初めて北海道(当時の札幌鉱業所)に赴任したのは昭和61年11月で、市電から降りた際に滑って転びそうになったことを覚えています。東京からの異動だったので既に雪が積もっているというのも想定外で、寮の部屋に入ってまずは暖房がどうなっているのかと調べたものでした。それから二十数年が経過しましたが、現在4度目の北海道での勤務を行っています。この4度目の赴任後、平成21年10月に札幌市から現在の苫小牧市に鉱業所は移転しています。 今回の私の話は昭和63年に試掘を実施した「南勇SK-1号井」で成功を見てから、商業生産量に足るガスの存払ふゆうつはじめにプラントプラント北海道鉱業所北海道鉱業所手前右が北海道鉱業所、奥の2区画がプラント出所:石油資源開発株式会社写1苫小牧西港空撮75石油・天然ガスレビュー表北海道鉱業所の人員と勤務体制北海道鉱業所*第1&第2プラントプラント生産当番人数1106040勤務時間9:00~17:358:00~16:008:00~16:00~24:00~8:00勤務体制週休2日週休2日(日勤者)4方3交代9勤務3休*関連会社職員も含む出所:石油資源開発株式会社 エッセーCプを使って掘っているのにどうやって曲げて掘れるのかということです。坑底の偏距も大きなものになると、2,000m程度になるので地図上で見ると「こんな所まで穴が来ているんだね!」と驚かれるのかもしれません。 掘削の技術も向上していますので、地下5,000mまで掘削しても半径30~50mの円の中に掘り込むことが可能になってきています。しかし傾斜井も自由に曲げられるわけではありません。勇払地域の地下の地質は浅部では逸泥や崩壊を伴う砂礫層、中部は硬質ローワークス*1を使って引き起こします。クラウンブロック*2(頭の赤い部分)もこの時だけは見ることができます。私の経験でも立っている櫓の一番上まで行ったのは新入社員の時くらいです。2. 勇払油・ガス田開発の ポイント(1) 地上施設の問題 勇払油・ガス田は現在3地域に7カ所の坑井敷地エリアがあり25本の坑井が掘削されています。現在掘削している「明野SK-1D号井」の予定掘り止め深度をプラスすると、総掘削長は11万6,000mになります(一本あたりの平均は約4,500m)。これらの坑井のうち垂直に掘られたものは4坑で、残りの坑井は全て傾斜井です。現場で見学に来た人に説明していて最も驚かれるのは、硬くて太い鉄のパ調査)、2年目に鉱業所へ異動となり坑井地質係として現場勤務を約2年間(その間に国内の北海道、秋田、長岡の掘削現場のある鉱業所間で異動)行い本社へ戻ります。その後は国内あるいは海外のプロジェクトに参加するといったキャリアスタイルになっています。 私たちの北海道鉱業所は生産施設であるプラントと、井戸を掘削する坑井施設エリアに隣接しています。このような構えは他の鉱業所にはありません。席の後ろの窓からは高さ60mのぐらを見ることもできますし、掘削後に行う排泥作業(試ガス)も、炎の熱が伝わってくるのではないかと思うほど近い場所で見ることができました。鉱業所に勤務していても毎日、掘削作業所に行くわけではありませんが、窓から見えるので現場との一体感もまた他と違うものがあります。 このように現場の近くにいると、めったに見ることができない作業を目にすることもあります。その一つが櫓起こしです(写3)。坑井敷地が完成すると機材が搬入され、最初の大仕事です。櫓は組み立て後に積み上げていくタイプもありますが、現在北海道で使用している1625-DEは60mの櫓をド櫓やプラントプラント掘削リグ掘削リグ手前右が掘削リグ、奥側がプラント出所:石油資源開発株式会社出所:石油資源開発株式会社写2北海道鉱業所屋上より写3櫓起こし作業風景762012.1 Vol.46 No.1エッセーネ溶岩や火山岩礫を伴う厚い火砕岩、その下は石炭層を挟むために崩壊しやすい夾炭層、最下部は墓石に使われるほど硬質な花崗岩(御影石)と作業上は難敵ばかりです。 掘削コストを考えると垂直井を、掘削するのが一番なのですが、地上施設のコスト面からは一つの敷地から複数の坑井を掘削することが有利になります。 傾斜掘りを行う上でも敷地の位置が重要です。勇払のような貯留層の場合は解釈されている断層に直交する方向から掘りたいので構造極隆部とはある程度のオフセットが必要になります(詳細は次項(2)の有効な掘削方法で解説)。 しかし実際は地上で坑井敷地の場所を自由に選ぶことはできません。当社のプラントは工業専用地域内に位置しますが、坑井敷地のいくつかは苫小牧市の都市計画区分では準工業地域に該当する場所にあります。出所:石油資源開発株式会社図1勇払油・ガス田地下構造概念図そのような場所では原油やガスをためておく大型のタンクを設置することはできませんので、全て自噴線と呼ばれるパイプラインを使ってプラントまで送油・送ガスする必要があります。当然距離が離れたり複数の場所からになると、パイプのコストも大幅にアップしてしまいます。その他、勇払地域周辺(写4)にはゴルフ場やラムサール条約に登録されているウトナイ湖のような野生鳥獣の保護エリア、千歳空港のレーダーに絡む高層建築物の規制エリアなどがあるために、それらをクリアした地域でのみ作業を行うことができます。 近年の苫小牧市は東部地域の宅地化が進んでおり、坑井敷地エリアを広げたり、新たに設置することは難しくなってきました。既存の坑井敷地周辺も開発当時とはさま変わりしてしまい住宅地内で井戸を掘っているような状ウトナイ湖ウトナイ湖ゴルフ場ゴルフ場ガス層ガス層構造図水層水層高 低CCWWGG北部の緑色部:ゴルフ場、東部の湖:ウトナイ湖、中央部:準工業地域および居住地域、南部:港湾および工業専用地域出所:Google MapよりGWC:ガス水接触面出所:筆者作成(概念図)写4勇払地域図2粒子間孔隙の貯留層77石油・天然ガスレビューOil & Gas国内現場での四方山話 ~石油資源開発株式会社 北海道鉱業所 北の大地に明かりを灯して~オになってきています。(2) 有効な掘削法とは 石油・天然ガスを採収する坑井は一般的に背斜構造などの構造の高まりを掘削します。それにより生産開始によって上昇する端水面を考慮した油・ガスの回収を行なう事が出来ます(水押し型の場合)。勇払油・ガス田も同様に断層によって形成されたホルスト構造(地塁)*3の構造上位を掘削するのは変わりないのですが、最も重要な事はガスが入っている部分を狙って掘る必要があるというところです。 勇払の貯留岩は天然のフラクチャーが発達した岩石で、構造の極隆部を掘削してもその部分にフラクチャーが発達していなければガスの胚胎はありません。そのため、地震探鉱のデータを用いて構造解釈を行なう際に断層面の方位・傾斜および断層によって生じた地層の落差(ずれ)からフラクチャーの発達分布域を推定して坑井を掘削する必要があります。傾斜井は垂直井と比較するとコストや掘削作業のリスクという点では高くなりますが、良好な貯留層を掘り抜く為には解釈された断層に直交する方向に坑井を掘削することでその可能性をより高めています(図2、図3)。3. 開発に必要とされた   技術(1)掘削特殊技術(SBM) 当社は平成18年度に掘削した「あけぼのSK-4D」から掘削作業に油系泥水*4のSBM(Synthetic Base Mud)を採用しています。SBMとは、従来は水(塩水)に調泥剤と呼ばれる添加剤を加えて作液していた泥水(WBM:Water Base Mud)に対して、水の代わりに合成有機化合物をベースフルイド*5とした泥水です。油を掘るのに油を使って掘っているということです。 掘削に使用される泥水にはさまざまな役割がありますが、SBMはWBMと比較して数々の利点が挙げられます。そのうち一つとして坑内の潤滑性の改善、掘進率の向上があります。5,000mの掘削に約半年を要しますので、掘進率の向上はコスト削減に大きく貢献します。 三葉虫の化石?のように見える(写5)のは、PDC(Polycrystalline Diamond Compact)ビット*6(写6)を使用して掘削されたカッティング(掘りくず)で出所:石油資源開発株式会社断層断層写5カッティングス(幌内層泥岩)ガス層水層フラクチャー発達域フラクチャー発達域構造図78図3フラクチャータイプの貯留層写617-1/2”PDC ビット出所:石油資源開発株式会社高 低CCWWGG断層断層GWC:ガス水接触面出所:筆者作成(概念図)2012.1 Vol.46 No.1エッセー髞p水も容易に流すことはできません。導入当時は専用の洗浄剤の導入も検討しましたが、最終的には「しつこい油汚れもスッキリ落とす○○○」とCMでもおなじみな洗剤を使うことにしました。担当者は何度かスーパーマーケットに足を運んで油の落ち具合や匂い等も含めて検討したようです。その他、掘進中のマッド・ガス*7測定では重い成分のガス(ブタンやペンタン等)はSBMに溶け込んでしまうためガス組成の比率を求める際に問題が生じます。また物理検層ではSBM下で使用できない機器もあり、導入時にはさまざまな検討がなされています。 その後、6本の井戸が掘られています。われわれ地質屋には多少の問題はありますが、SBMを用いた掘削作業は当社の技術の一つとなっているのは間違いありません。(2) 井戸の成功の見極め 私たちが掘っている坑井は油ガス層に掘り込むといろいろな徴候が現れます。それらは一般的には掘削時に坑内を循環している泥水がカッティングスと一緒に地上に運び出すものです。油やガスは地下の岩石中に閉じ込められていますが、その深度にビットが到達すると岩石を砕き岩石の孔隙に含まれPDCのPDCの刃先刃先岩石岩石いう層そ内なす。図4のように PDCのカッターの部分が岩石を削り取る時にできた模様でそのように見えます。このような現象は泥岩の区間で多く見られます。以前は1mの掘進に30分要した区間が3~4分に改善されたので、10倍のパフォーマンスを発揮していることになほろります。同区間の地層名は幌というのですが、一昔前は「ほれないそう」と言われて井戸掘りを困らせていました。また、このように掘進率が良好な岩相では、傾斜掘りもやりやすい区間ということになります。 SBMの利点は他にもあります。しかし、われわれ地質屋にとっては多少の問題もあります。坑井地質係は地下から泥水によって運ばれてくる岩石を調べるのが主な仕事になるので、カッティングが油まみれになっているのは厄介です。SBMはほぼ油と同じ性状なので洗浄に手間がかかるからです。WBMの場合は水道水で洗浄してすぐに顕微鏡下で観察が可能ですが、SBMは最後の水での洗浄まで3度の洗浄が必要になり、その際に出図4出所:筆者作成(概念図)PDCビットによる岩石の切削出所出所:石油資源開発株式会社写9蛍光反応を示すカッティングス出所:石油資源開発株式会社出所:石油資源開発株式会社写7泥水循環により排出されるカッティングス写8地質調査ハウス79石油・天然ガスレビューOil & Gas国内現場での四方山話 ~石油資源開発株式会社 北海道鉱業所 北の大地に明かりを灯して~トいた油とガスも循環泥水の中に放出されます。それをガス・クロマトグラフによって測定して油あるいはガス層の存在を知ることができます。写9はUVランプ下で光る油層部分のカッティングスです。しかし勇払の深部ガス層では、このような変化をほとんど捉えることができません。その理由としては次のようなものがあります。a. 貯留層に掘り込んだ瞬間に逸泥するため、マッド・ガスがほとんど上昇しない。b. ガス(コンデンセート)層なので蛍光反応*8が弱い。c. フラクチャー型貯留層(写10)なので一般的な物理検層解析ができない。 掘削長(垂直深度)が増していくと、貯留層内がガスで満たされている場合は泥水の圧力(泥柱圧)と地層圧の差が大きくなります。よって良好な貯留層が垂直方向に連続すると逸泥*9という現象が起きます(図5)。フラクチャー型貯留層では特にこの徴候が顕著に現れます。そのため逸泥を抑えて掘進作業を継続するためにLCM*10(Lost Circulation Material)と呼ばれる逸泥防止剤を使用します。しかし逸泥を防止する行為は、同時にガスの坑内への流入口をふさいでしまうことになるため、これが産ガス時には障害になります。 冒頭にも書きましたが、クルミの殻を砕いたものがLCMの素材の一つです。クルミの殻でフラクチャーを簡易的に目詰まりさせるのです。逸泥量は多い井戸では総量2,000k?にもなりますので、作泥にかかるコスト(時間)と逸泥に伴う貯留層へのダメージはマイナスの要素です。しかし井戸の成功の見極めに限って言うと、逸泥は最も大きな指標になるので、逸泥の発生を心待ちにしながら心配しているわけです。 上記の徴候と掘削終了後に行われる物理検層*11データを用いてより詳細な仕上げ区間の選択を行います。検層の種目もさまざまありますが、勇払の貯留層では地層の比抵抗値および岩石の孔隙率を測定し、それらから水飽和率を求めても油・ガスの存在を知ることはできません。唯一、貯留層になっている場所のみ見極めることができます。 そのツールがFMI*12(Fullbore Formation Microimager)です(写11)。坑内ではアームが開いた状態になり各パッドが坑壁に密着して測定します。出所:石油資源開発株式会社写10礫岩(左)および花崗岩(右)フラクチャー発達部のコア出所:石油資源開発株式会社出所:筆者作成写11FMIの作動チェック、アーム開の状態図5圧力差による逸泥の発生802012.1 Vol.46 No.1エッセー}6の黒く筋の入っている個所が実際にフラクチャーの発達している所(ガスがたまっている隙間)です。そのフラクチャーのサイズ(開口幅)によってメガ、メジャー、マイナーと区分され、その検出数によって貯留層の評価を行っています。 同時にフラクチャーの発達する方位・傾斜の測定も行っていますので、次の掘削時の坑井デザインに大きく役立ちます(図7)。しかし、FMIは地層に電流を流し坑壁360度をイメージ化するツールなので、非伝導性の流体の中では使用することができません。 そのために、貯留層区間の掘進時はSBMからWBMに坑内流体を入れ替えておく必要があります。その他の問題としては、物理検層ツールの一般的なものは耐温が175℃で、貯留層の深度が深くなると坑底での地層温度も高くなりますので注意が必要です。 勇払フィールドの地温勾配は3℃/100mに満たないので、幸いこれらのツールを使用した測定が可能になっています。(3) 海外のオペレーションとの相違点 私はマレーシアとカンボジアで海外勤務を経験しました。マレーシアはクアラルンプールに、カンボジア(写12)はプノンペンとシンガポール出所:石油資源開発株式会社図6FMI画像:メガフラクチャー(黒い筋の部分)坑跡面ーャチクラフフラクチャーフラクチャーコアで観察されるフラクチャー展開すると0°360°フラクチャーがサインカーブで示されるFMI画像出所:筆者作成図7FMI画像によるフラクチャー部の測定イメージカンボジア沖で使用したドリルシップ出所:筆者撮影 Offshore Cambodia写12Drill Ship(CANMAR EXPLORER III)Canadian marine Drilling LTD. 81石油・天然ガスレビューOil & Gas国内現場での四方山話 ~石油資源開発株式会社 北海道鉱業所 北の大地に明かりを灯して~Iペレーションの拠点としていましたが、私は海上の掘削作業場勤務でしたので正直、国の違いによる仕事上での相違はあまり感じていませんでした。 海外ではオペレーション全体を考えると各種サービスコントラクターの選択肢も増えますし、国にもよりますが多くの石油開発会社が作業を行っている地域では、それらのサプライベースがあるので機材の不足や故障の対応等がとりやすくなります。 一方国内においては、石油開発という特異な作業のため仕事を依頼する業者も限られます。支社が日本国内にあるケースはまれで、代理店を介してサービスの提供を受けているのがほとんどです。機材の準備・確保に関しても納期の問題や故障時のバックアップ機材の必用性をどこまで考慮するかも重要です。コストを気にし過ぎて必要になってから探すのでは機材の見つかった場所が地球の裏側というケースもありますので、それでは掘削作業がストップしてしまうことになります。また、その国のお国柄かもしれませんが、到着の期日が二転三転したり、依頼したものと違うものが届くようなことも普通にあるのも事実です。 ここ北海道はある意味「海外」なので、機材の動復員に関しては作業の時間読みもより慎重になります。海を渡るためには飛行機やフェリーを使用しなければなりませんが、われわれが使用している機材の多くは飛行機では運べませんので選択肢は船になります。石油の坑井では鉄のパイプや重量物以外にも特殊な物もあります。火薬や放射線源(物理検層時)のような危険物の運搬にはフェリー運航も曜日や時間の指定があり、作業スケジュールを勘案して予約を取るのも困難な業務です。おわりに (1)試ガスの思い出 私の現場経験で、最も記憶に残っているのは勇払油・ガス田が成立する発端になった成功井「南勇払SK-1」の試ガス*13時の炎です。 「南勇払SK-1」の掘削は昭和63年に始まり、試ガス作業は平成元年の2月に行われました。当時の私たちにはフラクチャー型貯留層の知識も多くはなく、掘削時の徴候からは正直大きな期待は寄せていませんでした。それもあって、試ガスの当日も現場に作業を見に行くでもなく寮の食堂で仲間内で晩御飯を食べていました。その時、現場から電話があって「ものすごい火がついている、大成功だ!」と言うのです。とりあえず現場に行こうと車を走らせました。はやる気持ちはありましたが札幌からでしたので高速を使っても1時間はかかります。出掛けに、「ビデオカメラ持って行こう!」という同僚がいてワクワクしながら車を走らせました。千歳インターを過ぎてどれくらい走ったでしょうか、苫小牧の街の方角が明るいのです。しかも、その明るさはちょっと異様で、誰かが「うちの放散塔の火のせいじゃないの?」と言うと「そんなわけないだろう!」と冗談にとられてあっさり打ち消されてしまいました。 しかし、間もなくその明かりを放っているものが紛れもなく私たちの現場からだと確信されたのです。喜びというよりも正直驚きのほうが大きかったように覚えています。現場に到着すると作業場の皆が喜んでいて、それまでにも何度か試ガスは見たことがありましたが、まさに「大成功」と言うにふさわしい大きな炎でした。今どきであれば携帯やスマホで写真を撮ったり動画を撮ったりするのでしょうが、当時はホームビデオカメラの出始めのころでしたので、同僚が撮影した映像は非常に貴重なものになりました。当社にとっても大きな出来事でしたが、翌日からはTV局や新聞社も現場を訪れ、出所:石油資源開発株式会社写13試ガス作業風景822012.1 Vol.46 No.1エッセーO日の夜に撮影した映像が採用されてテレビ放送されたのでした。当然ですが、大喜びしていた私たちの映像はほとんどカットされていました。(2)未来に向けて 当社の北海道での探鉱活動は昭和31年の「平取SK-1」から始まり、現在までに道内全域(海域も含む)において約150坑の掘削が行われています。勇払のフィールドにおける試掘は昭和36年の「勇払SK-1」から始まり平成元年に産ガスに成功した「南勇払SK-1」以降に25本が同フィールドで掘削されています。それらのうち生産井として仕上げされた坑井から採取された天然ガスは各種処理、調整を行った後にパイプラインで都市ガスや産業用として供給されています。また、道内の遠隔地にはサテライト供給システムとして、LNGを製造しタンクローリーや鉄道にて輸送しています。 この度の東日本大震災後、必要とされているエネルギーも見直されてきていますが、現場サイドで働く私たちも日々の仕事がその力の一つになるように努力していきたいと思っています。出所:石油資源開発株式会社写14北海道鉱業所エントランスのガス塔<注・解説>* 1: ドローワークス:ドリリング・リグの巻き揚げ機構。ドリリング・ラインをドラムに巻き込んだり、巻き戻すことによって、ドリル・ストリングスやビットを揚降することができる。* 2: クラウンブロック:一連の大型の定滑車で、櫓の最上部に位置する。* 3:ホルスト構造:ほぼ平行に走る複数の断層によって区切られ、両側に対して相対的に隆起し凸状の地形を呈する地塊。* 4: 泥水:坑井内を循環する流体のことをいう。泥水の機能は、ビットの周辺から掘りくずを除去し、掘りくずを地上に上げる、ビットおよびドリル・ストリングを冷却し、潤滑性を与える等。* 5: SBMベースフルイド:合成炭化水素や合成有機化合物を使用し、塩水(ブライン)をエマルジョン化させ、ベースフルイドとブラインの割合を70:30~80:20に調整したもの。軽油、鉱物油に比べると引火点も高く、芳香族をほとんど含まないため生物分解特性や毒性試験などの環境基準をクリアした流体。* 6: PDCビット:ビットボディと一体となった鋭角的なカッティングストラクチャーに、直径1~5cm,厚さ0.5mmの人工ダイヤモンドを一定の形に燒結し,タングステンカーバイトの上に燒結ダイヤモンド層を接合したもの。* 7: マッド・ガス:地層に含まれるガス分が掘削泥水に溶け込んでいるものを指す。油・ガス層から多く溶け出すことから、それらの有力な指標となる。連続的にマッド・ガスの量を調べることと、断続的にガスの成分(ガスクロ分析によるC1~C5の成分)を分析測定することがある。* 8: 蛍光反応:炭化水素は蛍光の性質を持つことから、採取したコアやカッティングスに紫外線を当て、油ガスの存在を調べることができる。* 9: 逸泥:坑井内の泥水が、地層中の空洞、割れ目または粒子が粗く、浸透性の高い地層中に失われる現象をいい、坑内に送り込んだ泥水量の一部または全量が返ってこなくなった状態をいう。83石油・天然ガスレビューOil & Gas国内現場での四方山話 ~石油資源開発株式会社 北海道鉱業所 北の大地に明かりを灯して~? 10: LCM:逸泥層を閉塞するために泥水に混ぜて用いられるさまざまな物質。繊維状のもの、粒状のもの(クルミの殻、綿の実の殻等)、薄片状のものに大別できる。* 11: 物理検層:坑井内に測定器(ツール)を降ろし、坑井近傍の地層の物性値(比抵坑、密度、弾性波速度、孔隙率など)を深度に対して連続的に計測する技術のこと。*12: FMI(Schlumberger社):坑井内壁の地層の電気比抵抗を測定し3次元的に画像化して示すことができる。比抵抗の高い部分を白色、その低い部分を暗褐色とし、その間の変化を中間調表示で示している。*13: 試ガス(DST):ドリルパイプを用いて行う地層試験をいう。地層流体の確認、産出能力の把握、地層圧力・温度の測定等に関する調査を目的として行われる。執筆者紹介渡辺 康夫(わたなべ やすお)〈職歴〉1983年 石油資源開発㈱入社本社探鉱部より1986年に最初の北海道勤務で札幌に赴任。その後長岡、秋田、JPO新潟、本社間を転勤すること二十数回。その間、マレーシアとカンボジアでの海外勤務を経験。マレーシアの海洋掘削船上より生まれて初めて水槽に入っていないジンベイザメを見て感動する。平成22年より現在の北海道鉱業所 地質部地質グループ長として勤務。〈趣味〉料理。おいしいと思ったものは自分でもつくりたくなるのが信条。842012.1 Vol.46 No.1エッセー
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2012/01/20 [ 2012年01月号 ] 渡辺 康夫
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