開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクト ―世界最大のLNG輸出国への道を歩む豪州―
レポートID | 1006464 |
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作成日 | 2012-03-19 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 探鉱開発非在来型 |
著者 | |
著者直接入力 | 坂本 茂樹 丸山 裕章 Lainie Kelly |
年度 | 2012 |
Vol | 46 |
No | 2 |
ページ数 | |
抽出データ | JOGMEC石油調査部坂本 茂樹JOGMECシドニー事務所丸山 裕章開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクト― 世界最大のLNG輸出国への道を歩む豪州 ―はじめに 豪州では、2011~2012年初頭にかけて新規LNGプロジェクトの最終投資決定(FID:Final Investment Decision)が相次いだ。対象事業は、西豪州沖合ガス田のLNG事業と、東部クイーンズランド州でCBM(炭層メタンガス)を原料とするLNG事業である。 2011年11月、本稿筆者のJOGMEC職員3名(本部石油調査部、シドニー事務所)は、クイーンズランド州政府および同州政府駐日事務所のご協力をいただき、同州のCBM生産地域とグラッドストーン港の液化サイト等の現地を訪問する機会を得た。 LNG事業はFIDが実施されると事業の進展は速い。クイーンズランド州の現地では、事業が着々と進展している様がまざまざと感じられる。BGグループのCBM生産を受け持つQGC(Queensland Gas Company)、FID実施前であるが、Shell/PetroChinaコンソーシアムのCBM生産を担当するArrow Energy(2010年にShell/PetroChinaによって買収)は、従業員を倍増させ、LNG基地への供給に向けたCBM増産態勢が取られている。グラッドストーン空港でヘリコプターに乗り込む出所:筆者撮影写1出所:筆者撮影出所:筆者撮影写2グラッドストーン港と石炭出荷設備写3グラッドストーン港カーティス島南部に建設中のLNG液化サイト35石油・天然ガスレビューアナリシスOGMECシドニー事務所Lainie Kelly 液化基地はすべて州都ブリスベンから北方約500kmに位置するグラッドストーン港に建設される。グラッドストーンの空港でヘリコプターに乗る。上空から眺める液化基地サイトは、LNG事業進展の速さがさらに強く見て取れる。FIDを実施した3プロジェクト(QCLNG、GLNG、APLNG)の液化サイトは(湾内北方に位置するカーティス島南部)、既に森林の伐採と整地が終了して、港湾整備、タンク基楚、液化設の一部、作業労働者宿舎等の建設途上にある。本来は人口10万人程度の小規模な産業都市グラッドストーン市は、人口が急速に増えて物資輸送量が増加し、慌ただしい様相を呈している。 本稿では、このように世界で初めてのCBM-LNGプロジェクトが進展するクイーンズランド州LNG事業の現況を報告、事業関係者が豪州LNG産業の抱える課題にどのように取り組んでいるかを概観し、最後に世界LNG産業に占める豪州の位置づけを考える。1. 主要なCBM-LNGプロジェクトの概要 クイーンズランド州で進展中の主要なCBM-LNG案件は、表1に示した4プロジェクトである(QCLNG、GLNG、APLNG、Shell Curtis LNG)。2011年3月の東京電力福島第1原子力発電所事故後のLNG産業の環境変化と相前後して、同年9月までに3プロジェクト(QCLNG、GLNG、APLNG)のFIDが行われた。すべてのプロジェクトが、豪州CBM生産者と国際LNG事業者による共同事業であり、拡張計画を持つ大型案件(2~4トレイン、液化能力780万~1,600万トン/年)である。原料ガスのCBMはクイーンズランド州Surat、Bowenベースン等に広がる各ガス生産者鉱区内で生産され、個々のプロジェクトが建設するガスパイプラインで液化基地サイトのグラッドストーン港カーティス島に輸送される。以下に、この主要4事業を概説する(図1、表1)。(1) QCLNG(Queensland Curtis LNG)(事業者:BGグループ、CNOOC、東京ガス) BGと豪州CBM生産者QGC(Queensland Gas Company)は2008年2月にCBM-LNG計画を公表した。BGは同年段階的にQGCを買収して、グループ内企業とした。BGが続けて試みた豪州CBM生産者Origin買収には失敗したが(2009年)、順調に事業計画化を進めた。QCLNGは豪州CBM-LNG事業者のなかでは先行し液化基地向けパイプライン(計画中)Shell(Arrow)BGBGOrigin EnergyOrigin EnergySantosSantosAUSTRALIAAUSTRALIA出所:JOGMECて2009~2010年にかけてCNOOC、東京ガス、中部電力とLNG売買契約を締結し、2010年10月末に850万トン/年(2トレイン)の事業規模でFIDを発表した。第3トレイン建設の計画もある。 BGは2010年10月末のFID後、直ちにガス田開発・液化設備建設に係る作業を発注した。ガス田開発設備はWorley Parsonsに、液化設備EPC契約はBechtel Oil and Gasに発注した。CBM生産地域からグラッドストーン港液化基地へは、総延長730kmのパイプラインを建設する。Shell Curtis LNG400万t × 4(最大)Shell, PetroChina(Arrow)GladstoneGladstoneFAIRVIEWSPRINGGULLYUNDULLANOSEG LNG780万t( 2トレイン)Santos,PETRONAS,Total,KogasAustralia Paci?c LNG450万t (+450万t)Origin,ConocoPhillipsQueensland Curtis LNG850万t (2トレイン) (+400万t)BG図1クイーンズランド州の主要なCBM-LNGプロジェクト362012.3 Vol.46 No.2アナリシス\1豪州クイーンズランド州の主要なCBM-LNG案件概要LNG事業名① GLNG② Queensland Curtis LNG③Australian Pacific LNG④Shell Curtis LNG事業者事業タイミングLNG構想発表SantosPetronasTotal2007年7月最終投資決定2011年1月BGグループ(QGC、Pure Energy買収)Origin EnergyConocoPhillipsSinopecShellPetroChina2008年2月2010年10月2009年2008年9月2011年7月(第1トレイン)2012年3~4月(第2トレイン)2013年(予定)2015年(第1トレイン)2016年(第2トレイン)2017年LNG生産開始2015年2014年事業スキーム上流(CBM生産)Santos 30%Petronas 27.5%Total 27.5%Kogas 15%中流(液化)LNG販売者PetronasBG 93.75%CNOOC 5%東京ガス 1.25%Origin Energy 37.5%ConocoPhillips 37.5%Sinopec 25%ShellPetroChinaCNOOC:第1トレイン10%東京ガス:第2トレイン2.5%BGConocoPhillipsShell(?)液化設備液化基地サイトGladstone港Curtis IslandGladstone港Curtis IslandGladstone港Curtis IslandGladstone港Curtis Island液化設備能力(当初) 780万トン/年(2トレイン)(最大1,170万トン)Optimized Cascade液化方式CBM上流資産850万トン/年(2トレイン)(最大1,275万トン)Optimized Cascade450万トン/年(1トレイン)(最大1,800万トン)Optimized Cascade800万トン/年(2トレイン)(最大1,600万トン)未定CBM埋蔵量*2P(2011年12月)(2011年1月、FID時)5,268 PJ / 4.9 Tcf(2010年10月、FID時)8,480 PJ / 8 Tcf(2011年7月、FID時)11,755 PJ / 11Tcf7,733 PJ / 7.3 Tcf主要なCBM資産Surat堆積盆地Bowen堆積盆地Surat堆積盆地Surat堆積盆地Bowen堆積盆地Surat堆積盆地Bowen堆積盆地LNG販売契約(販売先)Petronas 350万tKogas 350万t(20年)備考投資額US$160億(2011年1月)CNOOC 360万t(20年)東京ガス 120万t(20年)・2010/3 HOA・・ 中部電力/BGポートフォリ BGシンガポール(200万t)オ契約40.7万t×21年(2011/5)投資額US$150億Sinopec 760万t(20年)関西電力 100万t(20年)PetroChina(?)投資額US$200億(2トレイン)2010年7月Arrowの豪州CBM資産買収完了*1 Bcf=106 PJ出所:各種情報・報道/埋蔵量:Energy Quest社 2011年11月 QCLNGがLNGマーケティングで他のCBM-LNG案件に大きく先行していることは既述した。例えば、CNOOC(360万トン/年)、東京ガス(120万トン/年)向け売買契約を締結したほか、シンガポール、チリQuintero LNG基地向け独占納入権を獲得している。またBGは2010年10月28日、中部電力向けに自社ポートフォリオからLNGを供給する基本合意書を締結した(最大840万トン/20年間、2014年~)。BGは、CBM-LNG事業者の先行企業として、低カロリーLNGの販売が難しいとされる日本の買い主との契約も獲得した。要因の第1は、東アジア買い主のLNG調達先多様化のニーズに応えたことである。第2は、事例のないCBM-LNGの供給不安定性への懸念を払しょくするために、BGが持37石油・天然ガスレビューLNG IndustryLNG IndustryAPLNGAPLNGQCLNGQCLNGArrowGLNGArrowGLNG出所:グラッドストーン港湾当局図2グラッドストーン港カーティス島南岸に位置する各プロジェクト液化サイト開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクトxれたが、2011年4月にSinopecと430万トンのLNG売買契約を締結して、7月に第1トレインFIDを実施した(450万トン)。またさらに2012年1月下旬、SinopecはAPLNGからLNG330万トン/年(2016~2035年の20年間)を追加購入する拘束力のある売買契約に調印した。関西電力が2011年11月にAPLNGと締結したLNG100万トン/年を購入する拘束力のある売買締約HOA(FIDを条件とする)と合わせて、APLNGは860万めトン/年の売買契約に目がついたことになる。これでSinopecがAPLNGから購入する760万トン全量に関してSPAが締結され、APLNG第2トレインのFIDに大きく近づいた。APLNG第2トレインのFID時期は2012年第1四半期内と見られている。 SinopecはSPA締結と同時に、APLNG株式10%を11億ドルで追加購入する契約を締結した。APLNG権益に占めるSinopec比率は、15%から25%へと拡大し、ConocoPhillipsとOrigin権益は、それぞれ37.5%となる。処ど出所:APLNG 2011年12月GLD国際ガス・シンポジウム図3APLNG完成予想図つ複数のLNG供給源から「LNGポートフォリオ供給」を提案できる優位性があったことによると考えられる。(2) GLNG(事業者: Santos、Petronas、Total、Kogas) GLNG計画の表明はCBM-LNG案件のうち最も早い。2007年7月にSantosが事業化を表明し、2008年にPetronasが参入した。しかしLNGマーケティングではBGグループのQCLNGに遅れを取っており、当初の販売先はPetronas向け200万トン(+オプション100万トン)にとどまっていた。 2010年9月、TotalのGLNG参入が公表された。GLNG権益20%を取得し(Santosから15%、Petronasから5%)、LNG150万トンの20年間購入も予定された(後にKogasとLNG購入HOA締結に伴って解消)。TotalのGLNG権益取得に際する投資額は7億5,000万ドルとされる。 PetronasおよびKogas向けLNG販売が定まったことで(合計700万トン/年)、2011年1月にFIDを実施した。(3) Australia Pacific LNG(以下APLNG、事業者:ConocoPhillips、Origin Energy、Sinopec) APLNGは2008年9月に計画が表明された。Origin Energyは豪州で最大のCBM資源量を保有しており、ConocoPhillipsはアラスカ、カタール、豪州ダーウィンLNGで液化事業経験を持つ国際LNG事業者である。ただし近年ConocoPhillipsの財務体質悪化が懸念材料のひとつだった。 APLNGは2010年11月上旬にクイーンズランド州政府の環境影響調査承認を得た。LNGマーケティングは出所:Santos社出所:APLNG 2011年12月GLD国際ガス・シンポジウム写4GLNG液化サイトの設備建設状況(2011年8月)写5APLNG液化サイト設備建設状況382012.3 Vol.46 No.2アナリシスi4) Shell Curtis LNG(事業者:Shell、PetroChina、CBM生産者:Arrow Energy) 2010年4月、ShellとPetroChinaが共同でArrow Energyの豪州CBM資産を買収する計画が表明され、2010年6月にArrow資産買収は完了した。これによって、それまで独自にLNG事業計画を進めてきたArrowは、Shell/PetroChina傘下のCBM生産者になった。 ShellはそれまでのArrow Energy豪州CBM資産に30%出資する間接投資方式を大きく変更して、Arrow Energyの豪州CBM全量を自社LNG案件に投入することになった。 Shell案件は、先行する3LNG案件よりFIDが遅れているが、CBM生産を担当するArrowは着々と増産態勢を整えつつあり、2013年頃にFIDを実施すると見られる。Shellは世界的に著名で経験あるLNG事業者であり、パートナーのPetroChinaはガス市場規模拡大期待の高い中国で最大の石油ガス企業である。LNG販路は中国市場中心になると考えられる。 クイーンズランド州の主要なCBM-LNG案件はこれら4件であり、ほかにも複数のLNG計画がある。しかしこれからマーケティングとFIDを計画する案件は、労働力不足等の国内事情、および海外の新LNG供給地域との競合から、厳しい事業環境が想定される。2. CBM-LNGプロジェクトが抱える課題とその対策 豪州のCBM-LNG事業は、幾つかの技術的、コマーシャル面での課題を抱えている。本章で主要な課題とその対策を概観する。(1)ガス生産段階の随伴水の処理①大量の随伴地下水の産出 CBM開発は、クイーンズランド州の内陸部のSurat、Bowen堆積盆などで中心的に進められている。 CBMのメタンガスは、石炭層中の石炭の表面に地下水静圧により付着している。メタンガスが地表面に有効に産出してくるには、地下水静圧力が低くなることが条件である。このためCBMガス生産は、当初は地下水が随伴水として大量に産出される。図4はCBM生産井の随伴水とガス生産の時間的推移のイメージである。 実際どの位の量の随伴水が産出されるかについては、石炭層の深さ、開発地域により異なると言われている。またCBMガスをどの程度生産するかにも大きく依存する。図5は主な堆積盆での2010~2011年度のCBM生産量である。 連邦政府の“National Water Commission”(国家水処理委員会)は、「豪州のCBM産業界は向こう25年間に約7,500ギガリットル(GL)*1、あるいは年間300GL、の随伴水を処理する必要がある」と推定している。 Surat堆積盆の一角に位置するダルビ市近郊で、現在CBMを産出し、地元のガス火力電力用に供給しているArrow Energy社によれば、この産出される随伴水の量は、豪州全体で2011年は年間約20GLと推定している。同社の推定では今後四つ*2のCBM-LNGプロジェクトがSydney5.7Narrabri0.5Bowen119単位:PJSurat106出所:QGC社講演資料より出所:Energy Quest社、JOGMEC作成図4随伴水及びガスの生産推移イメージ図52010~2011年度CBM生産量39石油・天然ガスレビュー開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクト{格的にCBM開発を始めると、年間150GLの随伴水が産出されるとも推定している。 従来は、CBM生産に先立って生産される随伴水は巨大な貯水池に貯められて、自然蒸発されていた。しかし政府は随伴水の自然蒸発に伴う環境への影響を回避するため、法令で2011年から自然蒸発を禁止した。従って、CBM事業者は現在、随伴水処理過程を導入している。今回(2011年11月)訪問したArrow社のCBM生産地域には、JOGMECチームが2008年に訪問した時と同様に、複数の巨大な随伴水の貯水池が並んでいる。しかし、現在はその用途が異なっている。以前は、すべての貯水池が随伴水の自然蒸発用であった。現在、事業者は3種類の貯水池を保有している。貯水池の種類は、①生産した随伴水を最初一時的に貯める貯水池、②処理済後の塩分濃度の下がった再利用(または放水)用随伴水の貯水池、そして、③処理後に塩分濃度が上昇し、利用不可の随伴水の貯水池である。 現在、塩分の85%を除去して随伴水の再利用(自然放水)を行っているが、恐らくコストの理由で完全に塩分を除去する処理は行っていない。処理後の塩分濃度の高まった随伴水の対処は今後の課題である。 豪州のコンサルタント会社であるRPS Australia East社は、随伴水の量をSurat堆積盆では192メガリットル(ML)/ペタジュール(PJ)、Bowen堆積盆は50ML/PJ、Sydney堆積盆では1.2ML/PJの割合と想定している。推定される各堆積盆からのCBM推定生産量から、同社は図6に示すように各堆積盆からの随伴水の推定量は、Surat堆積盆では約5,290GL、Bowen堆積盆では2,360GLになるとしている。 いずれにしても膨大な量の随伴水の処理が必要である。②随伴水に含まれる成分等について QGCが公表した同社のCBM開発に伴う随伴水に含まれる成分と豪州の飲料水の基準値の比較は表2のようになる。これによると、ナトリムや塩化物については、海水中の平均値よりは10~20分の1程度である。しかし豪州の飲料水基準値よりは2~6倍と大きく、処理が必要である。 実際、2011年11月に筆者らが訪問したArrow Energy社の随伴水の貯蔵池(処理を行う前に一時的に貯留している池。写6、写7)の水をなめてみたが、薄い単位:GLNSW46.9Bowen2,360Surat5,290出所:JOGMEC作成出所:JOGMEC撮影図6RPS社推定の主要堆積盆の随伴水量写6CBM生産井とガス・随伴水セパレーター表2随伴地下水の成分例と豪州の飲料水基準値(ADWG)単位濃度:ppm(百万分の1/リットル)総溶解物質(TDS)pHナトリウム塩化物フッ化物処理前のCBM随伴水成分例1,500~10,0007.5~8.5500~1,200500~1,0000.5~4出所:QGC Fact Sheetより処理後のCBM随伴水の成分値3007.225300.1ADWG の基準値5006.5~8.51802501.5参考:平気的真水の成分値参考:平均的海水の成分値10~1,1006.5~825300.235,0008~8.410,00019,0000.2402012.3 Vol.46 No.2アナリシスBM随伴水前処理工程(沈殿、フィルタリング等 で大きな不純物除去)①以外の水塩水の高濃度装置(Brine Concentration)重金属等は廃棄物処理あるいはその他引き出し物も有効利用ROで除去された水ROで除去された水①逆浸透膜処理工程へ①逆浸透膜処理工程へRO:逆浸透膜処理装置塩結晶装置塩化ナトリウムまたは苛性ソーダを結晶化処理後の水は灌漑、掘削再圧入用などに利用塩;市場へ出所:JOGMEC撮影出所:JOGMEC作成写7随伴水の一時貯留ため池(Arrow Energy社所有でダルビ市郊外のガス発電用のCBM開発に伴う随伴水)図7随伴水処理工程概念図か性ソーダなどとして回収する施設が設置される。④塩あるいは塩水(Brine)の処理について 図7の工程のうち、塩分濃度の高くなった水は更に塩分の結晶化装置により、塩化ナトリウムあるいは工業用の苛 クイーンズランド政府は、塩分および塩水の処理については、工業用塩として生産し、工業用の原材料などとして再活用することを推奨している。これは塩や塩水の長期保存は、農業用地や水系の塩害、塩水池は洪水による流出や地下への浸透などで農業用地などの塩害を懸念しているためである。 Arrow Energy社は、塩水の処理について、随伴水1GLあたり、5~8トンの工業用塩を生産できると推定している。国家水処理委員会が推定する25年間、7,500GLの随伴水からは約37.5百万~60.0百万トンの工業用塩が生産できる計算になる。 QCLNGプロジェクトにおいても、塩水の処理と廃棄物の処理にも重点を置いている。同プロジェクトを主導するQGC社は、生産される工業用塩分から食卓塩、重炭酸ナトリム、苛性ソーダに加工することを検討している。また塩水の掘削井への再圧入も検討しているが当局の承認が必要である。 実際QGC社はダルビー市郊外のSurat堆積盆で随伴水処理施設の建設を進めている。写8は塩の結晶化装置と思われる。(2)高まる環境問題への対処:帯水層・河川等への影響 CBM開発に伴う環境問題がいくつか懸念されている。懸念されているのは地下水への影響や私有地へのアクセスに係る点で、以下は、その具体的なポイントである。 ①地下水と地下水帯への影響:水圧破砕法によるフラ塩味という印象だった。飲むことはできるが、日常的な飲料水にはもちろん向いていないと感じた。ただ、牧畜牛などの家畜にはそのまま飲料としても供給できるとは言われている。かんい漑が③随伴水の処理について 随伴水は、クイーンズランド州では後述するように地下水の有効利用の観点から適切に処理するように法的にも要求される。 処理工程の概念図を図7に示す。処理工程は大きく三つの段階に分けられる。前処理工程、逆浸透膜等による純水化、塩分結晶化処理工程である。 随伴水には、岩石屑なども含まれていることから、これら大きな不純物は沈殿槽(あるいはタンク)により前処理工程で除去される。 前処理の終わった水は、特殊イオン膜などでフィルタリングろ過され、更に逆浸透膜装置などを通して、ろ過される。含まれる各種成分値を豪州の飲料水の基準値まで下げる処理が施される。 処理された水は、CBM生産の際に再圧入(水圧破砕法用水用、放牧用の水として利用)、野菜、穀物等の灌牛などの飲料水用として既存の灌漑用水の一部として提供されたり、あるいは地域コミュニティーの飲料水として供給されるなど有効利用される。 例えばSantos社は既に処理後の水については、ある土地保有者との間で灌漑用水として供給する契約を取り交わしている例があるとしている。またQGC社は地元の水供給会社との間で家庭用の上流水としての供給契約も行っていると言われている。41石油・天然ガスレビュー開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクトo所:JOGMEC撮影写8建設中のQGC社の随伴水処理、塩分処理施設(ダルビー市近郊)クチャリングの際に用いられる化学物資の成分の一部が石炭層に残りそれが生活用水等へ混入するのではないかとの懸念がある。また生活用水や灌漑用水がCBM開発に伴う随伴水の生産によって、これまで供給されていたものが急に途絶するのではないか、との懸念も考えられる。 ②農業用地、私有地などへのアクセスについて:牧草地、農業用地など私有地への掘削リグなどの大型機械の搬入用道路の開削や、掘削、生産に伴う一定面積の長期間の占有など。 これに対し、クイーンズランド州政府は、環境保護、私有地へのアクセスについて規定し、開発事業を進めるよう要求している。①地下水と地下水帯への影響についてa.法規制について クイーンズランド政府は、CBM開発に伴う地下水の環境への影響を最小限にするための各種政策を実行中である。同州でのCBM開発には同州の“Petroleum and Gas (Production and Safety) Act 2004”,“Petroleum act 1923”および“Environmental Protection Act 1994”(環境保護法1994年)により規定されている。環境影響評価書の事前提出、承認などが必要である。 また、実際の事業に伴う随伴水の処理などは、同州の“Coal Seam Gas Management Policy”(CSG実施要領)に従って実施される。この要領に基づき“Queensland Water Committee”が第三機関として組織され各種問題点の整理、対応策などについて議論を行っている。 2010年6月に公表された“クイーンズランド州CSG水問題に係る対応方針”(Queensland Coal Seam gas Water management Policy)(クイーンズランド州環境資源局所管)によれば、CBMの随伴水は、適切な処理、次善の策による処理、そして有益かつ再利用を目途とした処理、を基本方針して、開発事業社にはこれらの対応を記した環境影響評価書作成を事前に要求している。 具体的には次のような要求である。・ 適切な処理とは、有害な事象が起きない水を圧入す ること、水の再利用を行うこと、農業、工業者とはある基準を合意すること、など。 ・ 次善の策による処理とは、蒸発池、圧入、河川や土地への廃棄。 ・ CBM随伴水の有効再利用とは、農業と飲料水への利用、石炭の浄化用水、粉塵の抑制のための散水用、工業用水、灌漑用水と家畜の飲料水への利用 この方針については現在見直しが行われていて、2012年3月までには新方針が出されるが、主な修正点は、例えば水圧破砕法などに利用する場合は、飲料水と同じ基準まで処理した水のみが利用できる、また再圧入の際には既存の生活水や地下水帯の減少や入れ替えを伴うようなことがないように留意すること、処理水の水質の最低基準値の制定などが盛り込まれると言われている。 なお、2010年の環境保護法の改正により、CBM随伴水の蒸発用ため池は、禁止の方針が出ている。今後はCBM随伴水の水分蒸発のみを意図したため池の利用は継続使用ができない。既存の蒸発用ため池は他の用途への変更や廃棄が要求されるている。422012.3 Vol.46 No.2アナリシス.地下水と地下水帯への影響 水圧破砕法(Hydraulic Fracturing)を実施する場合には、そこに使用される化学物質が生活用水や灌漑用に使用する地下水を汚染、健康被害が出るのでは、と懸念されている。クイーンズランド政府の環境資源局、豪州石油探鉱生産協会(APPEA)、CBM開発事業社らは、これらの懸念に対し、ホームページ等で以下のような事実関係を説明し、影響がないことへの理解を求めている。・ フラクチャリングの実施割合について;2000年以降、 CBM開発(生産井)でフラクチャリングを行った割合は5%である。この割合は今後は増加し、30~40%になると予想。一般的にフラクチャリングは透水性の低い層、水平坑の掘削ができない場所のみに適用される。・ 仮にフラクチャリングを行う場合の影響について; 使用される溶剤は、水、砂、各種化学物質(シリカジェおおむね水分・砂がルなど)である。溶剤の構成割合は、概約99%、化学物質が1%である。 図8はAPPEAのホームページにこの化学物質の例が示されている。クイーンズランド州では発がん性物質であるベンゼン、トルエンなどのBTEX物質は、既に使用禁止になっている。 ・ CBM開発の石炭層と地下水帯の位置関係等について;図9に示すように、開発対象になる石炭層は平均して200mから1,200mの深さに位置する。一方、生活用水や灌漑用水として利用する地下水帯は概ね深さ100~200mより浅いところにあると考えられる。またこの水位帯とCBM石炭層間には通常、不透水帯があると言われている。 CBM生産井も生産が開始されるまでに坑井仕上げを行う。生活用地下水帯を通過する部分は鋼鉄製のケーシング管で坑壁保護を行うことから生活地下水帯とCBM生産管(この時点では随伴水とガスが一緒)の流れは分離隔離されている。・ 地下水帯の水資等のモニタリングについて;クイー ンズランド州では、CBM事業者に対し、土地所有者、地域コミュニティーが地下水帯の汚染などを懸念し、地下水の水位情報や水質情報などのモニタリングを行うよう要求した場合は、これを実施するように指導している。またクイーンズランド州政府も環境保護法に基づき独立して、およそ300カ所で地下水の水質モニタリングを行いその結果を州政府のホーページに公表している。同州政府によれば2011年10月時点で245カ所のモニタリングを行っているが、CBM開発に伴う水質悪化等の事実は報告されていない、としている。 Santos社が公表した水質監視システムのイメージが図10、図11である。図10は、同社がCBM開発に伴う水質等監視用の井戸の観測井の位置情報画面。知りたい情報(地下水位など)を選択することができる。図11は選択された情報の表示例で、この画面では地下水の水位がほぼ一定であることが表示されている。waterGasTypicalwaterboreLandholderwater supplyWalloon coal measuresapproximately 300m to 600mbelow ground surfaceDewateringpump drive unitGas ?ow up annulusSteel casingCement casingwater pumped up tubingBlank steel casingSlotted steel casingDewatering pump出所:APPEAのホームページより出所:Arrow Energy社図8CBMに使われる溶剤の事例図9CBM開発(イメージ)43石油・天然ガスレビュー開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクト.河川等へ影響について 随伴水をそのまま河川、湖沼等に放流することは塩分、重金属等の混入が河川水等への環境懸念の観点からリスクがあると考えられている。 クイーンズランド政府では、随伴水は最大限の再利用、有効活用を原則としている。しかしCBM開発が広域(数百平方キロメートル)にわたることなどから、数カ所の大規模処理施設に全て集水し、完全に処理することは無理であることも承知している。 このためクイーンズランド州政府は、河川等への随伴水の放流については総溶解物質濃度(TDS)の基準値として250ppm(ミリグラム/リットル)以下であることを確認できることなどを条件とし、やむを得ない正当な理由等がある場合には、河川等への放流許可を得た上で行うことができるとしている。出所:Santos社図10モニタリング位置、情報選択画面出所:Santos社図11地下水位情報表示画面例 この場合は、これらの溶解物質の処理には、例えば水処理ユニットを大型トラックに積載した移動式の処理施設などが活用される。 なお、クイーンズランド政府は、2011年1月に起きたクイーンズランド川の洪水の際には、緊急避難的な措置として、1カ月間にわたり上流での随伴水の放流を認めた例はある。d.人口密集地近傍での探鉱開発の禁止 2011年8月、クイーンズランド州政府は新規のCBM探鉱事業について、1,000人以上の人口密集地の中心部から2km以内は、探鉱事業を認めない方針を打ち出した。②農業用地、私有地などへのアクセスについて CBM開発に伴い掘削リグの移動、設置や探鉱、生産井の設置などは農業用地、牧草地あるいは森林地帯などで行われる。 Surat堆積盆は“Western Downs”と呼ばれるチンチラ市やダルビ市などを含む郡内に存在している。この地域では古くから石炭、牧畜、飼料栽培、野菜生産などの農業産業に加え、最近では太陽電池産業やCBM開発産業などが加わりつつある地域である。地下にある石炭層の地上面は野菜、飼料栽培や牧草地になっていることが多い。 このため農業用地などで私有地でのCBM開発は、事前に所有者との間で開発に係る同意、土地へのアクセス方法、リグ等の使用場所、使用期間、作業に伴う廃棄物の処理方法や補償費用などを規定した開発同意を得る必要がある。 クイーンズランド州では“Petroleum and Gas (Production and Safety) Act 2004”および“Petroleum Act 1923”によりこれらが規定されている。また2010年10月には土地へのアクセスに係る法律が施行された。この新法の重要なポイントは、土地所有者と開発の同意を行うと同時に補償金を支払うことになる。表3は、Arrow社が公表した土地所有者への補償費用の例である。表3CBM開発井の補償金の例示(単位;豪ドル)井戸1本あたり調査段階探鉱段階生産段階事前支払い事業中南部の生産井北部地域の生産井1,000~3,8001,000~5,700500約3,000500約3,000年間500~2,500 年間500~2,500出所: 2011年8月。Murray Darling堆積盆評価委員会へのSantos社提出資料より442012.3 Vol.46 No.2アナリシスBその他;TheGreatArtesianBasinの地下水影響調査について CBM開発が行われるSurat、Bowenの各堆積盆(主としてクイーンズランド州)、NWS州北部およびCooper堆積盆(主として南オーストラリア州)の一帯約176万km2には、大量の地下水があると推測されている。図12、図13に示すこの地域はThe Great Artesian Basinと呼ばれている。この地域では太平洋等からの湿った空気が豪州東部の海岸沿いの山脈等で雨水となり、この雨水が長い年月を経て内陸部へ移動し地下水として蓄えられたものと考えられている。この地下水出所:QLD政府図12The Great Artesian Basin断面図は内陸部の農業や牧畜などの灌漑用水に古くから利用されている。 Surat堆積盆などでのCBM開発に伴い、この地下水帯がどのような影響を受けるか調べる必要性があるのでは、との環境保護団体等の意向を受け、連邦政府は第三者機関に委託し調査を行うことを約束している。この調査結果は2012年6月頃に公表される見通し。 ただしクイーンズランド州政府はこの調査結果とは別に州政府が責任をもって環境調査などを行い、CBM開発を進めていく方針。また、これからCBM開発を本格的に進めるか否か方向性を検討中のNSW州政府は、この調査結果も州の方針決定の際には考慮に入れる考えを持っている。④まとめ 高まる環境問題への対処について、CBM開発事業者は開発に係る全ての事項について、法に照らして事業展開すると同時に、土地所有者や地元コミュニティーなどには透明性をもって、事業における環境負荷に係る情報開示、説明義務が課せられていると言える。 筆者らが2011年11月に訪問したクイーンズランド州ダルビ市のインフォメーションセンターには、街の諸情報を展示した一角に、コールシームガス生産のプロセス図やCBM産業ほかのFactシートを挟んだ冊子があった。この冊子のなかにもCBM開発の地下の様子を模して説明したシートが挿入されていた(写9)。 産業界の内部で起きていることはこのような街中でも情報公開され、地元住民等との共存の上にCBM開発が行われている。出所:QLD政府出所:筆者撮影図13The Great Artesian Basin位置写9ダルビ市情報センターに置かれたCBM説明シート等45石油・天然ガスレビュー開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクトi3)労働力・資機材不足への対応 豪州の新規LNG案件は、一般に高コストと言われる。液化能力ポテンシャルの大きさからしばしば比較対照されるカタールLNGプロジェクトと比べ、ガス生産、液化設備建設コスト、人件費のいずれの項目においても、豪州案件のコストのほうが高い。LNG向けCBM生産はまだ実績がないため生産コストは定かではないが、クイーンズランド州CBM-LNG案件も西豪州深海ガス田開発に準じて高コストと見られている。更に、西豪州沖合ガス田案件のなかには豊富な液分含有率によってプロジェクト採算を向上できる優位性があるのに対して、成分がほぼメタン100%のCBM案件は液分生産による収益向上を享受できない収益構造にある。 これまで懸念されていた豪州新規LNG案件が抱える難点は、労働力移入を制限する豪州では、計画される多くの新規案件が同時に液化設備建設を開始する際、必要とする労働力が確保できずにプロジェクト遅延が発生することであった。新規LNG案件中、先行して2007年にFIDを実施したPluto第1トレインが、ストライキなど複数の要因によって数回にわたって工期の遅延が発生したことから、Pluto第1トレインに続くLNG案件も同様の事態に直面することが懸念されていた。 この労働力不足を回避するため、さまざまな対策が採られた。豪州のLNG事業者は、可能な限り海外でモジュールを建設して液化サイトに搬入し、極力国内での建設作業削減を図っている。また2年ごとに液化トレインを建設するなど、社内で計画的・段階的な設備建設作業を行って、必要とされる労働力を長期確保する努力を重ねた。政府側も、技術労働者の育成制度拡充、外国からの労働力受け入れ拡大にある程度の便宜を図るなど、側面支援を行った。 そして、2011年までにFIDを実施した多くの豪州新規LNG案件の液化設備建設が既に開始され、複数案件の同時期の液化設備建設が今や現実のものとなった。しかし、西豪州のChevronによるGorgon、Wheatstone LNG事業、クイーンズランド州のCBM-LNG 3事業の液化設備建設、ガス田開発に際して、大きな不具合は報告されていない。 その理由として、一つは海外でのモジュール建設による設備の持ち込み等の対策が奏功したと考えられる。クイーンズランド州のCBM-LNGでは、現在開発作業中の3事業ともにBechtelが液化設備建設を受注した。Bechtelは各事業者と協議の上、最も効率的な方法で建設作業を進めている。液化設備を建設するグラッドストーン市に事務所を置く3プロジェクトにヒアリングした際、当初計画の85~90%程度の必要労働力を何とか確保でき、大きな支障を来さずに建設作業が実施できている、ということであった。こうした努力の成果として、これまでのところ開発作業は順調に進展している。 しかし、今後もすべての案件が問題なく事業を推進できるということではない。豪州のエネルギー産業の必要労働力は、FIDを実施した新規LNG開発作業最盛期の2013~2015年にピークを迎えると見られる。その頃までに、労働力需要は一段と高まり、不足感が高まる可能性がある。また先行してFIDを実施できた案件は、先んじて労働力確保が可能であり、相対的に有利な立場にある。これからLNG販売先を確保してFIDを計画する後発案件は、労働力確保も後手に回り、相対的に不利な立場にある。今後の動静は予断を許さない。(4)資源開発と地域社会開発の並存 世界的に、資源開発と地域社会・生活環境保護を巡る議論が活発化している。北米ではシェールガス・オイル開発に際する水圧破砕法使用が生活環境、特に地下の帯水層汚染を引き起こす可能性が懸念され、それを検証する調査が実施された。欧州ではフランスなど複数の国で水圧破砕法禁止が決議され、シェールガス開発が事実上不可能となっている。 豪州経済は資源開発と資源輸出、および農産物輸出から成り立っているため、一般には資源開発の必要性が理解されている。しかし、一方で環境保護に対する意識が強い土地柄でもある。近年西豪州沖合ガス田開発のLNGプロジェクトでは、先住民地権者の権利保護・文化遺跡保護の要請もあって、液化サイト決定が非常に難しい。 東部クイーンズランド州はニューサウスウェールズ州と並ぶ石炭産出地であり、1990年代からCBM生産が実施されている。CBMを含む資源開発は社会に収益をもたらす原資と認識されており、一般的には地域社会とのなじみが深い。しかし、輸出事業のCBM-LNGが考案されてCBM生産量の飛躍的拡大が計画されている今、資源開発の事業環境も変わりつつある。①ニューサウスウェールズ州でのCBM等ガス開発 クイーンズランド州の南方に位置するニューサウスウェールズ州は豪州最大の人口を擁し、経済・産業の中心地である。中部海岸のハンター地域は有力な石炭産出地域であり、州内第2の都市ニューカッスル港から石炭が輸出されている。石炭生産地域のニューサウスウェールズ州は、クイーンズランド州と同様にCBM資源ポテ462012.3 Vol.46 No.2アナリシスo所:Wikipediaより写10ハンターバレーのブドウ園ンシャルが高く、生産増加が期待されている。しかし現時点で豪州CBMのほとんどはクイーンズランド州で産出されており、ニューサウスウェールズ州のCBM生産量はわずかにすぎない。ニューサウスウェールズ州のCBM事業環境はクイーンズランド州と大きく異なっている。 2011年8月、ニューサウスウェールズ州議会はCBM開発が環境に及ぼす影響に対する公開調査実施を決定し、2012年4月に最終報告を行うとした。また農業地域の帯水層汚染懸念の理由から、シェール層掘削に用いる水圧破砕法を2012年4月まで禁止している。 クイーンズランド州内陸は乾燥地帯が広がっているのに対して、ニューサウスウェールズ州は気候温暖で適度な降水量に恵まれた、豊かな農業地帯である。有名な石炭産出地域のハンターバレーは農業地帯でもあって、豪州で有名なワイン生産地の一つであり、酪農も盛んである。 航空写真を見ると、同地域では産炭地域と農業地域が隣り合っている。エネルギー専門家によると、豊かな農民は、古くからの産炭地域の石炭生産に苦情を呈することはないが、資源開発業者が農業地域に立ち入って表土を荒らすことには警戒感を抱いている。つまり、既存鉱業地域を越えて鉱業活動範囲を拡大することには強く反対している。また農業用水に不可欠の地層水汚染を強く懸念している。同州の海岸地滞には、シドニー、ニューカッスルのような大都市があるため、住環境悪化に対する懸念も強い。ガス生産者のSantosは、ニューサウスウェールズ州でのガス開発を計画していたが、環境保護グループ・農民団体の開発反対を容れて、同州でのCBM掘削活動を延期している。このように、ニューサウスウェールズ州でのガス開発事業環境は難しい局面にある。NORTHERNNORTHERNTERRITORYTERRITORYQUEENSLANDQUEENSLANDWESTERNWESTERNAUSTRALIAAUSTRALIASOUTHSOUTHAUSTRALIAAUSTRALIANEW SOUTHNEW SOUTHWALESWALESハンター地域ニューキャッスルニューキャッスルVICTORIAVICTORIACANBERRACANBERRA出所:QLD政府出所:筆者撮影図14豪州クイーンズランド州とニューサウスウェールズ州の位置関係写11Western Downs 地域政府関係者との意見交換会47石油・天然ガスレビュー開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクトAクイーンズランド州のCBM事業環境:州内WesternDowns地域政府を訪問 クイーンズランド州のガス開発事業環境は、ニューサウスウェールズ州と比べると違いが大きい。州経済に占める資源開発比率が高く、州政府はCBM産業を積極的に支援している。気候や農業環境にも理由がありそうだ。クイーンズランド州の海岸地域は適度の降水があって小麦など穀物栽培が行われ、牧畜も盛んである。しかし内陸に向かうと、徐々に乾燥地域へと気候が変化していき、農作物もトウモロコシ、飼料作物など低価格の種類へと変わっていく。ニューサウスウェールズ州のように豊かな穀倉地帯が広がっているわけではない。Arrow社のTipton West地域は比較的降水量に恵まれた地域にあり、CBM生産地域は牧草地や飼料作物地域と隣接している。しかし更に内陸にあるSantos社Fairview地域は典型的な乾燥地帯にあって、周辺は荒れ地か、粗放な放牧地である。粗放な農地とはいえ、農民はなお鉱業事業者が農地に立ち入るのを歓迎しないが、その抵抗感の度合いはニューサウスウェールズ州の豊かな農業地域に比べると低い。地域社会が資源開発によって潤うのであれば、不利益は十分に相殺される。 今回のクイーンズランド州訪問で、州内の主要なCBM生産地域を擁するWestern Downs 地域政府の地域開発責任者と意見交換する機会を得た。 CBM-LNG事業の成立に伴ってCBM生産地域では大規模増産態勢が取られ、地域伝統社会が大きく変化している。地方政府の地域開発責任者の懸念は、人口や交通量の急増による社会変化に、どのように対処していくかである。人口増加に住宅建設が追い付かない、車輛の交通量増加は町を騒々しく雑然とさせる。こうした急激な社会変化に対して、以前からの住民の戸惑いは当然発生出所:筆者撮影写12豪州の街並みを彩るジャカランタする。社会インフラ整備にどのように速やかに対処するかが課題である。 一方で、CBM事業者は納税、寄付行為等の社会貢献を通じて地域社会に経済的な恩恵をもたらす。地域政府の総意は、地域社会の変化に伴うインフラ整備などの課題は多いものの、資源開発(CBM産業)と地域社会開発との共存を図ること、と受け取れる。掘削作業に伴う滞水層汚染の懸念も課題の一つではあるが、技術的解決を待つ問題であり、致命的な障害とは認識されていない。農業関係者は会議に参加していなかったため、農業との共存の課題は大きな論点にはならなかった。クイーンズランド州内陸の乾燥地域に位置するこの地域社会での農業生産にはおのずと限界があり、農業関係者の争点はニューサウスウェールズ州の豊かな農業地域とは異なると考えられる。3. 世界のLNG供給における豪州プロジェクトの位置づけ(1)原発事故後のLNG事業環境変化 2011年3月の福島原発事故後の日本の代替エネルギー需要発生を契機として、世界LNG需給の見方が大きく変わった。日本で原子力に代わる代替エネルギー需要の発生により、計画段階にあったLNG案件のFIDが実施され、また、世界で新たなLNGプロジェクト候補・生産地域が成立しつつある。 2011~2012年初にかけてFIDを実施したLNG案件のほとんどが豪州案件である。本稿で取り上げたGLNG(Santos等コンソーシアム)とAPLNG(ConocoPhillips/Origin)第1トレインもこれらのFID実施案件に含まれる。これからFIDを予定する大手CBM-LNG案件は、APLNG第2トレイン、およびShell/PetroChinaのCBM-LNG案件である。APLNGはSinopecとの売買契約量追加によって2トレイン分の販売先がほぼ確保されたために2012年第1四半期にFID、Shell/PetroChina案件は482012.3 Vol.46 No.2アナリシス013年頃にFID実施と見られている。 FID実施済の豪州LNG案件(西豪州およびクイーンズランド州)が操業開始するのは2014~2017年である。2010年代後半、豪州はLNG供給力を大きく拡大させ、カタールに代わる世界最大のLNG輸出国になる。2010年代後半~2020年代初めの東アジアのLNG需要増加量を満たすのは、主に豪州新規LNGである。 もう一つのトレンドは、中長期のLNG需要増加を見据えて、新たなLNGプロジェクト・生産地域が登場しつつあることである(北米、東アフリカ)。なかでも、米国メキシコ湾のLNG輸出案件、東アフリカ・モザンビーク案件が実現に近いと考えられる。30,00025,00020,00015,00010,0005,0000万トン/年オマーンオマーンイエメンイエメンUAEUAEカタールカタールロシアロシアPNGPNG豪州豪州ブルネイブルネイマレーシアマレーシアインドネシアインドネシア201020112012201320142015201620172018年出所:各種情報・報道より図15アジア太平洋・中東の液化設備推移(2)新たに登場するLNG供給地域と豪州LNGとの競合 2011年以降、米国LNG輸出プロジェクトの進展が目覚ましい。主要な案件はメキシコ湾岸のLNG受入基地を液化基地に転用する案件であるが、LNG輸出申請が次々とエネルギー省に寄せられており、2012年2月初旬段階で申請件数は9件に達している。 とりわけ米国南部に本拠を置くガス・トレーダーCheniere Energyの動きが目覚ましい。既に米国エネルギー省から輸出認可を受け、2012年3~4月に第1フェーズ(900万トン)のFID実施と見られている。 米国は世界最大のガス市場であり、ガス消費者は現在の安価なガス供給を享受している。LNG輸出計画の進展に伴って、ガス消費者・産業界がLNG輸出の国内ガス需給・価格への影響の懸念表明が目立ってきた。また米国政府のスタンスは「国内ガス市場に影響を与えない範囲でLNG輸出を認める」である。したがって、申請さ49石油・天然ガスレビューれている輸出計画がすべて実現するとは考え難い。現時点での関係者の見解には幅があるが、Cheniereと550万トンの売買契約を締結したBGグループは、「2020年の米国LNG輸出量は4,500万トンに達する」と、強気の見通しを表明している(2012年2月)。米国LNG輸出が世界LNG需給に与える影響は大きい。 カナダ西海岸のブリティッシュ・コロンビア州でもシェールガス開発を前提にした複数のLNG輸出計画が練られている。カナダ案件は、新規にガス田開発と港湾・液化設備建設を行うため、事前の所要期間が長くまた事業コストも高いと推定される。しかしカナダは国内ガス市場規模が小さく、液化設備・輸出基地は太平洋岸に建設されるため、想定市場は東アジアである。LNG事業環境に豪州と類似する点が多い。 新たなLNG輸出地域の出現は北米だけではない。近年の探鉱ホット・スポットと見なされる東アフリカでは複数の油ガス田の発見が続いており、特にモザンビーク、タンザニアに大規模ガス田発見が多い。これらの国は国内ガス需要規模が小さいため、輸出用LNG事業が計画されており、地理的に東アジア、欧州の双方に供給可能な優位な点を持つ。 数多い豪州の新規LNG案件が上がった2000年代には、北米や東アフリカのLNG輸出は想定されていなかった。クイーンズランド州のCBM-LNG案件を含め、豪州のこれからFIDを実施しようとするLNG案件は、マーケティングに際して北米、東アフリカ案件と競合することになる。既述のように、豪州の後発LNG案件はコストが高く、労働力確保など事業環境もより厳しい。新たに登場する北米、東アフリカのLNG案件との競争には厳しい局面が想定される。 2012年1月中旬に行われたINPEX社Ichthys LNG契約調印セレモニーに出席した豪州連邦政府ファーガソン・エネルギー相は、今後の豪州陸域LNG液化プロジェクト成立数の見通しを聞かれて「せいぜい2件だろう」と返答した。将来の豪州LNG事業環境の厳しさが暗示されていよう。(3)豪州LNG事業の展望 豪州LNG産業は、2011~2012年にかけて多くのFIDが実施され、ガス田開発、設備建設が本格化しつつしのぐ液化設備ある。豪州は2010年代後半にカタールを凌を保有し、世界で最も存在感のあるLNG輸出国になる。その地位は、北米、東アフリカなど新規LNG輸出地域登場後も揺らぐものではない。しかし個々の案件、特にこれからFID実施を計画する案件は、豪州特有の高コ開発作業が進展する豪州クイーンズランド州のCBM-LNGプロジェクトXト体質、新規LNG輸出地域との競合から、厳しい事業環境が予想される。 ガス・LNG産業は新たな事業環境の登場に伴って、刻一刻と変化している。現在のトレンドがそのまま中長期にわたって維持されるわけではない。引き続き、世界最大のLNG消費国の日本から、世界最大のLNG供給国になろうとする豪州のガス・LNG産業の動向を注視していきたい。おわりに 本稿は、2011年11月に訪問した豪州クイーンズランド州CBM-LNG事業の現況を報告するとともに、昨今のLNG産業をめぐる事業環境の変化を記しました。改めて、FID実施後に開発作業を進める豪州CBM-LNG事業の力強さを感じます。 末筆ながら、このたびJOGMEC職員訪問を受け入れていただいたクイーンズランド州政府雇用・経済・開発・改革部、グラッドストーン港湾当局、CBM-LNG事業(GLNG、QCLNG、APLNG、Arrow)の皆様、クイーンズランド州Western Downs地域政府の皆様のご協力にお礼申し上げます。 また本訪問の実現に対して、多大なご支援をいただいたクイーンズランド州政府駐日事務所の皆様に心よりお礼申し上げます。<注・解説>*1: 1ギガリットルは10億リットルで、10の9乗リットルに相当。東京ドームは1.24ギガリットルなので、7,500ギガリットルは東京ドーム約6,048杯分に相当する。*2: QCLNG、GLNG、APLNGの三つに加え、今後FIDが期待されるArrow社主導のCBM-LNG事業の計四つ。執筆者紹介坂本 茂樹(さかもと しげき)長野県生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。当時のテーマは低開発経済の開発論。日本石油(株)(現JX日鉱日石エネルギー(株))入社。1991年から日本石油開発(株)で海外の石油ガス上流資産管理・新規案件発2004年10月から現職(JOGMEC 石油企画調査部 上席研究員)。主要担務は、アジア太平洋地掘業務に従事。域の石油ガス開発状況・プロジェクト調査、世界ガス・LNG事業状況調査。エリア・スタディーに興味を持っている(主に旧大陸)。2010年2月から、2012年世界ガス会議(マレーシア・クアラルンプール開催)の準備を行う世界ガス協会ガス市場委員会の東アジア・グループリーダーとしての任務を開始した。余暇は、週末の競技ボート練習、読書(歴史物・中国武侠小説)。丸山 裕章(まるやま ひろあき)1980年、横浜国立大学卒業。大学卒業と同時に石油公団(当時)入団。備蓄業務部技術課長、石油天然ガス開発技術企画部研修チームリーダー、備蓄企画部国際課長等を経て、2009年8月よりシドニー事務所勤務。趣味は、日本では職場の同僚と軟式野球で時々汗をかくこと。シドニーでは当面日本製カローラでシドニー郊外ドライブとデジカメでの風景撮影。フラットがシドニー事務所から徒歩10分と近く、運動不足になりがち。休日はドライブも兼ねシドニ-の自然公園などに整備された遊歩道や市内散歩に励む。Lainie Kelly (レイニー ケリー)オーストラリア・シドニー生まれ。University of Sydney, Bachelor of Arts(シドニー大学、文学部)。JETRO シドニー、調査員を経て、2005年7月よりJOGMECシドニー調査員(石油・天然ガス部門)となり、現在に至る。古代史に関心を寄せており、週末は、水泳とサイクリングに励んでいる。502012.3 Vol.46 No.2アナリシス |
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