ページ番号1006465 更新日 平成30年2月16日

拡大する北東アジアのエネルギーフロー

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レポートID 1006465
作成日 2012-03-19 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般探鉱開発
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2012
Vol 46
No 2
ページ数
抽出データ JOGMEC 石油調査部 本村 眞澄拡大する北東アジアのエネルギーフローはじめにつうたまた設せ 2年前、ESPO-1パイプラインが日量30万バレルで稼働を開始した際に、筆者は本誌に「ロシアから極東向けパイプラインが始動する」*1との一文を寄せた。その後、ESPO原油に関しては、所期の予想どおり、市場による高い評価が定着し、2013年にも予定されている輸出能力の日量70万バレルへの引き上げに期待が寄せられている。一方で、その1年後に稼働開始した日量30万バレルの大慶支線に関しては、操業こそは順調な立ち上がりであったものの、当初懸念した「ホールドアップ問題」*2が、中国側による代金の過小支払いという形で発生しており、ロシア側もこれに対抗する手段を持ち得ないでいる。中国側は、当初の計画どおりに日量60万バレルへの拡大を要求しているが、ロシア側はこれに応じる意向はない。ふされており、2013年にも稼働 東シベリア・太平洋(ESPO)石油パイプラインが既にナホトカまで敷開始の予定であるが、供給ソースとしては東シベリアの油田だけでは不足である。西シベリアの更に北部地域に接続する「北極パイプライン」が延伸されて、ガス田地帯のなかにあって開発が手付かずのまま残っていた中規模油田が生産に向かおうとしており、太平洋市場への輸出は更なる拡充が期待されている。更には、クラスノヤルスク地方北方に広がるエニセイ=カタンガ(Yenisei-Khatanga)堆積盆地が新規油田地帯として期待されており、「北極パイプライン」がまさにその輸送手段となる。 天然ガスに関しては、2011年はユーラシア大陸の東西の端において、新規天然ガス・パイプラインが稼働を開始し、ロシアにとっては記憶に残る年となった。同年9月6日にバルト海のノルドストリーム(Nord Stream)、その2日後には極東でのサハリン-ハバロフスク-ウラジオストク(Sakhalin-Khabarovsk-Vladivostok:SKV)パイプラインが開通し、プーチン首相はそれこそユーラシア大陸を股にかけて連続してセレモニーに臨んだ。 2016年には東シベリアのチャヤンダ(Chayanda)ガス田からウラジオストクまでのヤクーチャ・ハバロフスク・ウラジオストク(Yakutia-Khabarovsk-Vladivostok:YKV)ガス・パイプラインが敷設される。これにより新規市場の開拓のための幹線パイプライン建設はひととおり完成することになる。一方、ウラジオストクからは、更に北朝鮮を経由して韓国まで天然ガスパイプラインを延長する計画が1990年代からあったが、2011年に北朝鮮がこれを検討する姿勢を見せた。金正日の死去を受け、金正恩体制の見通しは必ずしも明らかではないが、金正日政策の継承が謳われており、この「朝鮮半島パイプライン」に関しても予定どおり検討を進めるとの報道がある。 このように北東アジアに関しては、石油のみならずガスの情勢も動きが急である。今後の見通しを検討する。1. 北東アジア向けの石油フロー(1) 東方向け石油パイプラインの発展 ソ連が西シベリアからイルクーツク州のアンガルスク(Angarsk)製油所まで石油パイプラインを伸長させたのは、1964年のことであった。しかしその後、ロシアがアジア市場を明確に意識し始めたのは、1990年代末から2000年代初めにかけてである。1998年に民間のYukos(当時)が中国向け石油パイプラインを構想し、これに対抗して国営パイプライン会社のTransneftが全行程国内のみというウラジオストク向け石油パイプライン計画を2000年に発表した。2004年にはプーチン大統13石油・天然ガスレビューアナリシスフ(当時)が大統領 教書のなかでアジア向けパイプライン構想を打ち出した。長い停滞から、新規パイプライン事業が立ち上がるまで40年が経過していた。 図1は、2000年と2010年のロシアの石油パイプライン分布と石油輸出能力の比較である。多言を要するまでもなく、太平洋市場への輸出能力が加わったことが大きな変化と言える。これは、サハリン大陸棚における生産開始と、コズミノ(Kozmino)ターミナルからのESPO原油の輸出開始によるものであるが、地域全体の能力だけで合計して日量約100万バレルあり、2013年には更に日量40万バレルが追加される。また、欧州市場向けを拡充するためにバルト海のプリモルスク(Primorsk)ターミナルからの輸出能力も2倍に拡大されている。(2) 日本でのESPO原油の輸入状況 図1、図2に見るように、2010年は、日本を含む極東での石油の輸送構造が大きく変化した年であった。変化したのは供給地である。ロシアから北東アジアへの石油の輸出が増えた。それも、これまでのサハリンに続いて、日本海の対岸にあるナホトカ(Nakhodka)という至近距離から供給され始めた。2009年の12月末に「東シベリア・太平洋」(East Siberia-Pacific Ocean:ESPO)パイプラインの第1期工事(ESPO-1)が完了し(図2)、「ESPO」という新ブランド名の原油がナホトカ港の南東部にあるKozminoターミナルから日量30万バレル、具体的には10万t(Aframax)級タンカーが月に13~14隻、月平均130万~140万tが出荷されるようになった(図3)。 大慶支線(Daqing Spur)に対しては2010年から工事が開始され、2011年1月1日から年間1,500万t、合計で3,000万tが分岐点のスコボロディノ(Skovorodino)まで送られ始めた。大慶支線の稼働開始に合わせてESPO-1の通油量は日量60万バレルに引き上げられた。 2010年のESPO原油の総輸出量は1,530万t。供給先の割合で見ると日本が30%で首位、次いで韓国(29%)、米国(16%)、タイ(11%)、中国(8%)、フィリピン(3%)、シンガポール(2%)、台湾(1%)*3であった。米国はハワイと西海岸向けで、アラスカ原油の輸出落ち込みを補っている。ESPO原油の市場は北太平洋全域に拡大している。 ただし、この勢いは2011年3月の東日本大震災の影そがれることになる。図3に見るように、響で大きく削ESPO原油の輸出量は月あたり130万tのレベルでほぼ安定しているが、日本向けは特に5月、6月に大きく落ち込んでいる。原油の入札は2~3カ月先の船積み分について行われる。震災の直後、プラント、石油火力発電所の停止などで日本の石油需要は大きく落ち込んでいた。その後も、需要減の状況は続いているが、後半は回復の兆しも見られる。2011年通年では、米国が27%で第1位、日本は14%であった。これには、日本全体が需ロシアからの原油積み出し能力71万b/d71万b/d145万b/d145万b/dBarentsSeaKaraSeaWestWestSiberiaSiberiaSurgutPurpeSamotlorButingeVentspilsPrimorskPrimorskBaltic PipelinehbaOdessaOdessaDruzBrestUzhgorodUzhgorodConstantaConstantaBurgasBurgas125万b/d125万b/dOmisaljOmisaljNovorossiyskSupsaSupsaCeyhanCeyhan171万b/d171万b/dBTCCPCSamaraSamaraAtyrauAtyrauBakuTengizTengizAtasuKumkolKenkiyakEastSiberiaWestWestSiberiaSiberiaSurgutRUSSIAOkhaOkhaSkovorodinoKomsomolsk-na-AmureKomsomolsk-na-AmureSamotlorSamotlorTaishetTaishetPavlodarPavlodarAngarskAngarskMONGOLIAJAPANKOREACHINAButingeVentspilsVentspilsPrimorskBarentsSeaKaraSeaSamaraSamaraAtyrauAtyrauTengizBaltic PipelineBresthbaDruzCPCSupsaSupsaBaku125万b/d125万b/dOdessaOdessaNovorossiysk171万b/d171万b/dCeyhan2000年2010年出所:JOGMEC作成図12000年と2010年のロシアの石油輸出能力EastSiberiaRUSSIAOkhaOkhaSkovorodinoESPOTaishet PavlodarPavlodarAngarskAngarskMONGOLIADaqingAlashankouCHINAKomsomolsk-na-AmureKomsomolsk-na-AmureNakhodka/KozminoJAPANKOREADalian100万b/d100万b/d142012.3 Vol.46 No.2アナリシス011年12月時点2011年12月時点オホーツク海サハリンデカストリ16万16万バレル/日バレル/日(2006.10)(2006.10)LNGLNG960万t/年960万t/年(2009.3)(2009.3)11万バレル/日11万バレル/日プリゴロドノエ(2008.12)(2008.12)2011年SKVコムソモルスク ・ナ・アムーレ始 開働稼YKVスコボロディノ2016年アルダンESPO-1ESPO-1000099年年22トムスク1964年タイシェットクラスノヤルスクコビクタユルブチェノ=タホモ油田クユンビン油田2016年タラカン油田(北極パイプライン)(北極パイプライン)バンコールバンコール油田ザポリャリエ年2016プルペ2011年サモトロールロシア東シベリア堆積盆地チャヤンダガス田ヤクーツクニジネバルトフスクベルフネチョン油田スルグート西シベリア堆積盆地バイカル湖アンガルスクイルクーツクモンゴルハバロフスクESPO-2ESPO-22013年30万30万バレル/日バレル/日(2011.1)(2011.1)大慶(2011,3Q)ウラジオストク05001,000km中国ナホトカコズミノ日本海30万バレル/日30万バレル/日(2009.12)(2009.12)日本東京ガス田既存石油パイプライン計画済み石油パイプライン既存ガスパイプライン計画済みガスパイプライン国境州境田市油出所:JOGMEC作成図2東シベリアの新規石油・ガスのソースと西シベリア北東部からの「北極パイプライン」、東シベリアからの「ESPO」と「YKV」パイプライン、サハリンからの「SKV」パイプライン5.455.456.436.43.15.15?6?66.156.156.76.7.25.25?6?65.65.6.38.38?5?55.085.085.085.08.33.33?4?4Shipment of ESPO CrudeShipment of ESPO Crude3.663.664.054.05.55.55?3?35.65.6.29.29?4?46.16.1??5.435.435.625.62.19.19?4?43.83.8.2.2?3?33.03.0.7.7?2?22.22.2.7.7?1?11.11.1.0.0?1?10.750.75??0.450.450.420.42.15.15?0?00.40.4.1.1?0?00.20.2-1.3-1.3-0.4-0.4-1.0-1.0-1.0-1.0($/bbl)$7.0Premium6.05.04.03.02.010.50.5DubaiDiscount-0.5-1-1.55000500400300200100600600400400400400300300Cargo to JapanCargo to Japan600400400100140170JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecJanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecJanFeb2010201120121,3501,4001,3001,3001,3001,3001,4001,4001,2001,100Shipment from KozminoShipment from KozminoShipment from KozminoShipment from Kozmino7001,4001,3001,2451,0001,000(Thousand t / month)出所:各種統計からJOGMEC作成図3ESPO原油の輸出状況15石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフローv減となる中で、中東産油国との長期契約が維持され、ESPO原油のようなスポットものが優先的に切られて行ったという事情もある。2012年は、日本は一転して輸入増になると思われる。 2013年初めには、Skovorodino-Kozmino間のパイプライン(ESPO-2)が完成し、鉄道輸送がなくなり、全区間がパイプライン輸送となる。これにより通油量は日量70万バレルとなる。(3) なぜロシア原油が歓迎されているのか? 通常、エネルギー供給においては、「経済性」「安定性」「柔軟性」の3要素が重要と言われている。ESPO原油はこのうち、「安定性」「柔軟性」において非常に優れており、これが市場で活発に受け入れられている理由である。 原油を日本までタンカーで運ぶのに、中東からは20日かかるのに対して、サハリンやナホトカからならほぼ3日で来る。途中の日本近海は安全な海である。ホルムズ海峡やマラッカ海峡のようなチョークポイントを通らないので、国際情勢や海賊のことは特段心配しなくてよい。大寒波が急に日本を襲って灯油の需要が増えた、といった短期の市場の変化があっても、すぐに原油が手当てできる。当然のことだが、近距離の供給地から輸入するということが安定的な供給にほかならないということを日本の石油企業も実感した。それだけ日本のエネルギー安全保障にとっては、立場が強化されたことになる。 近距離のソースであることにより、原油から製品までの日数を大幅に短縮でき、原油購入契約をしてから製品化までの在庫として抱えるコスト(Inventory Holding Cost)の削減につなげるという会計上のメリットもあり、企業にとっては歓迎できる状況である。 これに加え、中東産原油には厳しい「仕向け地条項」(Destination Clause)の規定があって購入者は転売が許されないのに対して、ロシア産原油にはこのような条件が付かないという事情が重なる。例えば原油手当ての遅れている石油会社が、在庫の積み上がった近隣の石油会社から原油を融通してもらうといった柔軟な対応も可能である。ロシア産原油は中東産原油に比較して「安定性」と「柔軟性」において優れている。 では、「経済性」はどうか?極東のロシア産原油は硫黄分が0.6%、API比重が35°と品質がよい。品質がよいということは、それだけ単価も高中東89%その他10%ロシア1%いということである。日本の製油所は、硫黄を2%程度含む中東の高硫黄原油の処理を前提に脱硫装置を装備しており、低硫黄の品質のよい原油を入れるのでは割高な原油を調達していることになる。製油所の能力がオーバースペックとなり、「経済性」ではマイナスになるということである。それでも石油会社がロシア産原油を輸入している理由は、「安定性」「柔軟性」のメリットが非常に大きく、多少の高値を上回る経営的な価値をもたらすからである。石油会社にとって「経済性」に優れた中東の原油に加えて、一定量をこのような「安定性」「柔軟性」に優れた原油も組み合わせてポートフォリオとすることは、経営上合理的な判断であると言える。(4) 日本の中東依存度は低下した ロシアが輸出先として、伝統的な欧州市場に加え、極東向けを増やしていることは、ロシア側の戦略でもあるが、同時に日本のエネルギー関係者の長年の努力がようやく実ってきたということでもある。サハリンの石油開発が始まったのは1974年。途中でソビエト連邦の崩壊などもあり、プロジェクトは幾度も危機にさらされてきたが、ロシア連邦となってサハリン-1とサハリン-2という新たな生産物分与(PS)契約を結び直して事業を再スタートさせ、生産開始にこぎ着けた。一方、「東シベリア・太平洋」(ESPO)パイプラインに対しても、日本は早くから強い支持を打ち出していた。 ロシアからの原油輸入は、2006年までは1%程度であった。これは、サハリン-2の沖合のピルトゥン=アストフ(Piltun-Astokhskoye)油田のヴィティアズ(Vityaz)プラットフォームから夏季限定で輸出していたものである。サハリン-1の原油が通年で輸出されるようになると、この比率は4%にまで上昇した。2010年、東シベリアのESPO原油の出荷が始まると、日本でも高い支持があり、ロシア原油は日本の輸入量の7%程度を占めるようになっその他9%ロシア4%その他7%ロシア7%その他9%ロシア4%中東87%中東86%中東87%2008年2010年2011年2006年出所:各種統計からJOGMEC作成図4ロシアから日本への原油輸出は最近急増し中東依存度は徐々に下がりつつある(2011年は例外か)162012.3 Vol.46 No.2アナリシスス。そして、それまで約90%と高まっていた中東依存度は、80%台の半ばまで下がってきた(図4)。原油における高すぎる中東依存は、長らく日本のエネルギー問題における主要な懸念事項であったが、ロシア産原油の輸入が活発化することにより、徐々に改善がみられるようになっている。(5) 中国側の石油代金の一部不払い問題 大慶支線の建設に関しては、ロシア側は当初から計画にあったにもかかわらず乗り気でなかった。この頃は、天然ガスの価格交渉でロシア側も中国側もお互いに相当のいら立ちがあったためである。 中国領の927kmは中国石油天然気集団公司(CNPC)が建設するもので問題はないが、ESPOパイプラインの分岐点であるSkovorodinoから中国領となるアムール河の渡河地点の莫河(Mohe)までの僅か64kmをTransneftが建設しないことには、大慶支線は成り立たない。この建設コストは数億ドルに過ぎないと言われているが、ロシア側は頑として着工の姿勢を見せなかった。 ESPO本線の建設工事開始から3年を経た2009年2月、中国開発銀行がRosneftに対して150億ドル、Transneftに対して100億ドルの低利融資を行い、Transneftが大慶支線を建設し、Rosneftが大慶支線を使って年間1,500万tの原油を20年間(合計3億t)供給することで合意した。いわゆる「石油のための融資」(Loans for Oil)である*4。これは、当時のロシア側にとって大変有利な取引であった。建設は2009年から始まり、2010年秋に完成、2011年1月1日から中国向けの原油供給が開始された。 ところが、大慶支線で2011年1月に供給された原油125万tの代金5億5,530万ドル(約61ドル/bbl)に対して、China Oil (CNPCの孫会社) は一方的に約7%(3,840万ドル)減額して送金した。これはタイシェット(Taishet)からアムール河国境の莫河までのパイプラインタリフがTaishetからKozminoまでと同等のRb1,815/t(約8.3ドル/bbl)という統一運賃であるのは不当である、という中国側の主張に基づくものである*5。中国側のロシアに対する意趣返しと見えなくもない。 これに対して、RosneftとTransneftが、ロンドンの仲裁廷に提訴の準備に入ったことから中国側は輸送タリフの引き下げ幅を3ドル/bblに縮め5%減とした。しかし、てん中国側がそれ以上の補填を行わないために、両者は今後も協議を続けることとなった*6。その後、2011年10月11日のプーチン首相の訪中の際もこの件が議論されたが、セーチン副首相が「市場の現状を反映した文明的な解決策が見出された。クレームも全て撤回された。近日中に露中双方は、契約を補足する協定、もしくは付属文書に調印し、その後に納入済みのロシア産石油に対する代金未払い問題は解決されることになるだろう」と述べただけで、実態は曖昧なまま残された*7。その後、本年2月28日、RosneftはCNPCに対して1.5ドル/bblの値引きとし、2011年1月以来のCNPC未納金1億3,400万ドルが支払われることになった(Kommersant、2012/2/28)。 冒頭に挙げた拙稿「ロシアから極東向けパイプラインが始動する」にも記したように、ロシア側は、中国1国へ供給するパイプラインが「ホールドアップ問題」を引き起こすのではないかと懸念し、これを回避するためにKozminoからの出荷を優先させて、その後にようやく大慶支線を建設した。しかし、供給開始とほぼ同時に、小規模ながらも代金支払いをめぐって改めて中国側からの「ホールドアップ問題」に直面することとなった。ロシアがこれに厳正に対処できないのは、現在交渉中の対中国天然ガス輸出価格をめぐって、ロシア側が必ずしも強い立場に立てない事情が控えているからと推測される。2. 「北極パイプライン」が展望する北極圏石油ポテンシャル(1) 極地に向かうロシアの石油開発 「北極パイプライン」とはマスコミが名付けた名称で、北緯65度にある北極圏への入り口に位置するプルペ(Purpe)ターミナルに接続する新規のバンコール-プルペ(Vankor-Purpe)およびザポリヤリエ-プルペ(Zapolyarie-Purpe)石油パイプラインの総称である。ESPOには、東シベリアの新規油田からもつなぎ込まれ、続々と生産開始しているが、一方で西シベリア北部の応援部隊からの原油も上乗せされてESPOの需要拡大に対応しようとしている。 クラスノヤルスク地方の北西部にあたるエニセイ河下流域は、Vankor油田をはじめとする新規の油田地帯となっている。これらは西シベリアと同様に、白亜系砂岩を貯留岩とする。従来の石油パイプラインは、北緯65度17石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフローフPurpeを北限としていたが、2009年にこのVankor油田からの原油をESPOパイプラインに送り込むためのVankor-Purpeパイプラインが建設され、更に他の新規油田につなぎ込むために、これを北方に延長する。 もう一つの計画は、Vankor油田の西方に点在するいくつかの油田をPurpeターミナルに接続するための、Zapolyarie-Purpe石油パイプラインである。ZapolyarieはZapolyarnoyeガス田の地上に存在する集落の名称で、2001年からこの巨大ガス田が稼働しており、地表設備を置きやすい環境であることから選ばれた。 これまでPurpeからは、西シベリアのスルグート(Surgut)に至るパイプラインが稼働していたが、PurpeからESPOパイプラインにショートカットで接続するためのプルペ-サモトロール(Purpe-Samotlor)石油パイプラインの建設が2010年から開始され、2011年10月から稼働を開始した。Samotlor油田からニジネバルトフスク(Nizhnevartovsk)までは、既存のパイプラインを活用し、ESPOに原油を送り込む。(2) Vankor油田開発とバンコール=プルペ(Vankor-Purpe)石油パイプライン 2009年7月、エネルギー省のクドリャショフ(Kudriashov)次官は、ヤマル半島とクラスノヤルスク地方北部に多くの石油埋蔵量が見込め、これらの油田開発の方針が決定されたと述べた。これはVankor油田開発で先行していたRosneftの動きを踏まえ、連邦政府レベルで追認したものである。図5に示した「北極」パイプラインは端緒に過ぎない。ここから更にヤマル半島、そしてクラスノヤルスク地方北方に広がるエニセイ=カタンガ(Yenisei-Khatanga)堆積盆地に、新規油田開発に並行して石油パイプラインが更に延伸していくものと思われる。ここは、従来、新規の探鉱が展開され得るフロンティア地域と見なされており、パイプライン計画を織り込んで探鉱活動が活発化している。Rosneftによる新規油田の発見も報じられている。以下に、最近の動きを追ってみる。① Vankor 油田の開発 Vankor油田は、ソビエト連邦時代の1988年に、クラスノヤルスク地方のツルハンスク(Turukhansk)地区で発見されたが、オビ河周辺の西シベリアの既往油田地帯から遠く離れていることから、パイプライン輸送インフラの建設の目途が立たず、折からのソビエト連邦崩壊という事情も重なり、開発段階へと直ちに進むことは困難であった。PurpePurpeSamotlorRUSSIASkovorodinoEastSiberiaESPOAngarskAngarsk DaqingOkhaOkhaKomsomolsk-na-AmureKomsomolsk-na-AmureNakhodka/KozminoJAPANKenkiyakTaishetPavlodarPavlodarKOREADalianMONGOLIAAlashankouCHINAArctic PipelineKaraSeaYeniseyKhatanga OmisaljOmisaljButingeVentspilsBarentsSeaBrestBrestPrimorskPrimorskWestWestSiberiaSiberiaSurgutBelinaltic PipuzhbaDreSamaraSamaraAtyrauAtyrauTengizTengizAtasuKumkolCPCBakuBTCUzhgorodUzhgorodConstantaConstantaOdessaOdessaBurgasBurgasNovorossiyskCeyhanCeyhanSupsaSupsa出所:JOGMEC作成図5ロシアの石油パイプライン・システムと「北極」パイプライン-フロンティア地域であるエニセイ=カタンガ堆積盆地が射程に入ってきている182012.3 Vol.46 No.2アナリシス@ロシア連邦成立後の1993年5月、Anglo Siberian Oil Company(英)、Yeniseigeofizika、Yeniseineftegazgeologia、Turukhansk資産基金の4者が合弁企業Yeniseineftを結成し、同年8月Vankor鉱区の探鉱開発ライセンスを受けた。1995年にはShellが参加し、2002年5月には、TotalFinaElf(当時)が52%の株式を取得しようとしたが、これには法的な障害があって実現しなかった。2003年に、今度はRosneftがロンドン証券取引所においてAnglo Siberian Oil Companyの株式の公開買い付け(TOB)を行い傘下に収めた。これにより、子会社となったYeniseineftの持つVankor油田のライセンスは、Rosneftの100%子会社であるVankorneftに移された。この頃、筆者はRosneftの地質技術者と話す機会があったが、Vankor油田は非常に有望でありこのTOBの結果には大いに満足しているとのことであった。2006年10月には、仲裁裁判所がTotalのクレームを退け、一切の権利関係の問題をクリアした。 その後はRosneftが単独で油田開発に取り組み、2009年7月7日には石油生産を開始した*8。プーチン首相を招いての式典は8月21日に行われたが、これはVankor油田への期待を示すものである。2003年から2009年にかけてのRosneftの開発投資はRb2,290億(68.7億ドル)、可採埋蔵量はABC1+2で5.52億t、2009年末時点でのPRMS確認および推定埋蔵量は5.08億tである。原油比重は30度API、硫黄分は0.2%と低い*9。② Vankor-Purpeパイプラインの建設 全長556kmのVankor-Purpe石油パイプラインは、Vankor油田の生産開始に合わせて、Rosneftが自ら幹線への自社用つなぎ込みラインとして建設したもので、Purpeにおいて既往のTransneftの西シベリア石油パイプライン・ターミナルに接続する。ラインは、西シベリアの石油生産地の中心であるSurgutのターミナルを経由して、東シベリアのアンガルスク(Angarsk)向けのパイプラインに入り、TaishetからESPOパイプラインに接続する。 このパイプラインのTransneftへの売却交渉は2009年10月1日に開始された。折からTransneftがこれに接続するPurpe-Samotlorパイプラインの建設を計画していたことから、Transneftとしては本件を推進したい立場であったが、この意向を織り込んだRosneft側の提示価格はかなり高価なもので、交渉は難航したと伝えられる*10。輸送能力は、第1段階で年間1,300万t(26万bbl/日)、最終的には3,300万t/年(66万bbl/日)を目指している。19石油・天然ガスレビュー Vankor-Purpeパイプラインでは永久凍土の湿地帯上を5本のラインの高架方式で石油を輸送する。高架方式を採ったのは、永久凍土でトレンチの掘削が困難であること、通常の方式のように埋設すれば周辺の永久凍土を融かして浮上する現象を引き起こす懸念があること、そして石油を流動できる温度に保つ必要がありヒーターを使用しているためである。アクセス兼監視道路が並走しており、パイプライン沿いの油田開発の資機材補給路にも使用される*11。(3) 展開を目指す新規の油田地帯(図6) Vankor油田の北にはSuzunskoye油田、南にはTagulskoye油田があり、ともにTNK-BPがライセンスを保有する。確認埋蔵量は合計で1億t(約7億バレル)と、一大産油地帯となる。そのほかVankor油田のすぐ南側にLodochnoye油ガス田(石油4,320万t <約3億バレル>、ガス698億m3)があり、2012年に入札に付される予定である。 これらのVankor油田をはじめとする新規油田の分布する地域は、西シベリアの北部にも当たるが、白亜系堆積物を主体とする点で十分な共通性を有するものの、Nadym-Pur-Taz地域(中央北部の主要ガス田地帯)の地Zapadno-Zapadno-MessoyakhinskoyeMessoyakhinskoyeVostochno-Vostochno- Messoyakhinskoye MessoyakhinskoyeSuzunskoyeSuzunskoyeTaimyrTaimyrVankorVankorCentral Central PumpPumpStation Station Oil Pump Oil Pump Station 1a Station 1a Krasno-Krasno-yarskyarskOil PumpOil PumpStation 1Station 1RusskoyeRusskoyeeepprruuPP--rrookknnaaVVYuzhno-Yuzhno-russkoyerusskoyeOil PumpOil PumpStation 2aStation 2aOil Pump Oil Pump Station 2Station 2Yamalo-nenetsYamalo-nenetsYamburgskoyeYamburgskoyeNakhodkinskoyeNakhodkinskoyeMain PumpMain PumpStation 1Station 1Severo-Severo-urengoyskoyeurengoyskoyeTazovskyTazovskyPyakyakhin-Pyakyakhin-SkoyeSkoyeVankorskoyeVankorskoyeLodochnoyeLodochnoyeTagulskoyeTagulskoyePestzovoyePestzovoyeOil Pump Oil Pump Station 2Station 2ZapolyarnoyeZapolyarnoyeUrengoiskoyeUrengoiskoyeOil Pump Oil Pump Station 3Station 3eepprruuPP--eeiirraayyllooppaaZZYumantiskoyeYumantiskoyeNovyi UrengoiNovyi Urengoi Oil Pump Oil Pump Station 4Station 4GubkinskoyeGubkinskoyeTarko-SaleTarko-SaleOil PumpOil PumpStation 3Station 3PurpePurpeOil Pump Oil Pump Station 4Station 4to Surgutto Surgutto Samotlorto Samotlor出所:各種情報よりJOGMEC作成04080160kmNew pump stationsNew pump stationsPump stations to be reconstructed Pump stations to be reconstructed for extension of Vankor-Purpe PL for extension of Vankor-Purpe PL Oil FieldOil FieldGas FieldGas Field図6Vankor-PurpeパイプラインとZapolyarie-Purpe パイプライン拡大する北東アジアのエネルギーフローhtokhmanovShtokhmanovYenisey-KhatangaYenisey-KhatangatroughtroughPrirazlomnoyePrirazlomnoyeBovanenkovBovanenkovBaikalovskoyeDiscoveryTiman PechoraTiman PechoraBasinBasinKrasnoleninskKrasnoleninsk(TNK-BP)(TNK-BP)South Khylchuyu(Lukoil)South Khylchuyu(Lukoil)KharyagaKharyagaUsinskoyeUsinskoyeMedvezheMedvezheVankor(Rosneft)Vankor(Rosneft)YamburgYamburgZapolyarnoe(Gazprom)Zapolyarnoe(Gazprom)UrengoyUrengoyKomsomol(Rosneft)Komsomol(Rosneft)Tyan(Surgut)Tyan(Surgut)Priob(Rosneft)Priob(Rosneft)FederovFederovKharampurKharampurYurubchenYurubchen(Rosneft)(Rosneft)Priob-SouthPriob-South(Gazprom Neft)(Gazprom Neft)SalymSalymSamotlor(TNK-BP)Samotlor(TNK-BP)Uvat(TNK-BP)Uvat(TNK-BP)Luginets(Rosneft)Luginets(Rosneft)West Siberia BasinWest Siberia Basin局隆部RomashkinoRomashkinoVolga-Ural BasinVolga-Ural Basin出所:JOGMEC作成図7西シベリア堆積盆地とYenisei-Khatanga舟状堆積盆地(trough)温勾配が2.5~3.5℃/100mであるのに対して、Vankor油田等のあるエニセイ河下流域では3.5~4.5℃/100mと主力油田地帯のオビ河流域と同等の高さとなり、石油鉱床が形成されやすいという違いがある。 更にその堆積の範囲は、東シベリア卓状地の北縁とTaimyr半島の間を、レナ河河口付近まで東方に延伸し、かねてよりYenisei-Khatanga Trough(舟状堆積盆地)と呼ばれてきた(図7)。この探鉱の歴史は古く、1930年頃に、東部のNordvikで石油が発見され、ローカルに使用されていたという。これは1952年の西シベリアでの天然ガス発見よりも20年以上先行している。堆積盆地内の局隆部を図7に示す。Vankor油田もこの局隆部上に形成されている。 2009年5月、RosneftはこのYenisei-Khatanga Troughの西端のBaikalovsky鉱区において、新規の石油・ガスコンデンセート田を発見した (図7)。埋蔵量は石油とコンデンセートが5,500万t(3.9億バレル)、ガスが990億m3(3.49Tcf)である。試掘井Baikalovsky N1では、深度2,000~2,700mの区間から炭化水素がフローし、その量はガス6万m3/日、石油・コンデンセート25m3/日であった*12。今後は、Yenisei-Khatanga Troughの主部へと探鉱が拡大されていくものと思われる。この地域は、東シベリアと並ぶ、ロシアにおけるフロンティア地域になると予想される。(4) プルペ=サモトロール(Purpe-Samotlor)石油パイプライン 2010年3月11日、Purpe-Samotlorパイプライン起工式がNizhnevartovskで行われ、セーチン副首相が出席した。このパイプラインの総延長は429km、当初輸送能力は2,500万t、2011年10月から稼働を開始した。これは当初よりTransneftがパイプラインの建設にあたった。総工費はRb470億(16億ドル)である。これは、Vankor-Purpeパイプライン(556km)につなぎ込まれる。時期は不明であるが輸送能力は最終的に5,000万tまで引き上げる計画であり、Vankor油田の生産能力2,500万tを考慮すると、その後のYenisei-Khatanga堆積盆地での新規鉱床を視野に入れているものと思われる*13。 従来は、Vankor油田の原油はPurpeからSurgutへ向かっていたが、Vankor油田の生産量が増加すると能力的に限界に近づくことになる。図2に見るとおり、Purpe-Samotlorパイプラインはこの流れを分散化するものである。SamotlorからNizhnevartovskまでは旧来のラインを使用するが、Samotlor油田は1980年には西シベリア最大の日量320万バレル(年間1億5,890万t)のピーク生産を記録した油田で、輸送能力には十分な余裕がある。Transneftは同パイプラインの輸送能力を2017年までに4,000万t/年に引き上げる。この費用はRb65(1.95億ドル)である*14。億(5) ザポリヤリエ=プルペ(Zapolyarie-Purpe)石油パイプライン計画い 2010年8月、ロシア政府の「燃料・エネルギー委員会」は、従来は天然ガス地帯として知られていたヤマロ=ネネツ自治管区における新規油田開発について、石油産出税の免税措置に加え、輸送インフラと社会インフラ建設の必要性について勧告を行った*15。石油に関しては、新規輸送インフラとしてZapolyarie-Purpeパイプラインが提唱された。これはガスが主体のヤマル半島の石油鉱床とESPOパイプラインをつなぐものである。第1段階の輸送能力は1,200万t/年を計画している*16。 ヤマロ=ネネツ自治管区のなかでも、超巨大ガス田集するNadym-Taz-Pur地域には、天然ガスパイプの蝟ラインのネットワークは非常に発達しているが、一部に点在する中部白亜系セノマン統砂岩を貯留岩とする油田や、既往巨大ガス田の深部を成す下部白亜系ネオコム統砂岩を貯留岩とする石油・コンデンセート層に関しては、石油パイプラインが存在しないために、これまで手付かずであった。 同年10月に入り、Transneft傘下のSibnefteprovodは、Zapolyarie-Purpeパイプラインのエンジニアリング調査と建設後の管理を行う会社“Zapolyarie”を設立した。Transneftは、2012年にZapolyarieの株式の追加発行を202012.3 Vol.46 No.2アナリシス茁cはその20km西方にあり2014年に生産開始の計画である。 油田のライセンスは、Slavneftが保有する。この会社は1994年8月に、ロシアとベラルーシ両政府によって設立されたものであるが、2003年の民営化によりTNK-BPとGazpromNeft(当時はSibneft)の50:50の保有となった。②下部白亜系の油層 西シベリア北部(Nadym-Taz-Pur地域)は、1965年のZapolyarnoyeガス田の発見を皮切りに続々と巨大ガス田が発見され、今日では世界で最大のガス田地帯となっている。これらの産ガス層は、既述の油田と同様に中部白亜系セノマン統砂岩であるが、図6のガス層の内側に緑のゾーンを描いている3ガス田(Urengoy、Severo-Urengoy、Zapolyarnoye)は、より下位の下部白亜系ネオコム統砂岩に石油とコンデンセートを多く含む層を有する。 2010年9月、Gazpromは、Zapolyarnoyeガスコンデンセート田のバランギニアン層(ネオコム統の一部)で試験生産を開始すると発表した*18。これは、Zapolyarie-Purpeパイプライン構想が動き出したことを受けての計画と思われる。バランギニアン層はより深部にあり、コンデンセートが賦存している。Zapolyarnoyeガス田本体のガス埋蔵量は3兆2,000億m3とロシアでも最大級で、2004年のピーク時生産量は1,000億m3であった。 Urengoyガス田では、ネオコム統のAchimov層の開発を対象に、2003年7月、GazpromとドイツのWintershallが50:50のJV Achimgazを設立した。これは、深度が3,500mあり高圧でかつタイトな同層の開発を目指すものである。Achimgazの事業は2006年に開始され、高角度の傾斜掘り、水圧破砕などの作業が行われている。 下部白亜系に石油・コンデンセート層が期待できることは、ヤマル半島のガス田群においても指摘されている。ヤマル半島で最も南に位置するNovoportovskoyeガス田では、ソ連時代には既に深部掘削が行われ油層が確認されていた。今後は、更に北に位置するBovanenkovガス田やKharasaveyガス田の深部においても、油層の発達が期待されている。 GazpromからGazpromNeftに移管される予定の鉱床のうちNovoportovskoyeガス田は2010年に移管され、2011~2012年に深部からの石油の生産をスタートさせる。生産量は2013年までに日量6,000~10,000バレルに達する見通しである*19。する計画で、25%+1株をTransneftが保有し、残りをTNK-BP、Lukoil、GazpromNeftに配分する。Zapolyarie-Purpeパイプラインの稼働開始後Transneftは、これらの石油・ガス企業からタリフを免除することでパイプラインを買い戻す計画である*17。10月28日にプーチン首相が署名した政府の指示書によると、Zapolyarie-Purpeパイプライン建設費用について、Transneftが50%を負担し、あとの50%を石油企業3社(TNK-BP、Lukoil、GazpromNeft)が負担することになっている。 RosneftはVankor-Purpe石油パイプライン沿いのVankor油田が2009年から稼働しており、TNK-BPはVankor-Purpe石油パイプライン沿いにTagulskoye油田, Suzunskoye油田、Zapolyarie-Purpe石油パイプライン沿いにRusskoye油田, Russkoye-Pechoenskoye油田のライセンスを保有している。Zapolyarnoyeガス田等の超巨大ガス田はGazpromが所有するが、深部の石油・コンデンセート層の開発がGazpromNeftに移管されることは大いに考えられる。Rosneftよりも、TNK-BPあるいはGazpromNeftにとってZapolyarie-Purpe石油パイプラインは大きな意義を有する。2012年に着工の予定である。(6)Nadym-Taz-Pur地域の新規の油田地帯 Zapolyarie-Purpeパイプライン沿いに油田が分布するが、これには①中部白亜系セノマン統砂岩を貯留岩とする独立した油田と、②既存超巨大ガスの深部にある下部白亜系のネオコム統砂岩を貯留岩とするもの、の2種類がある。①セノマン統砂岩を貯留岩とする油田 この地域のセノマン統砂岩を貯留岩とする油田としては、TNK-BPの保有するRusskoye油田、Slavneftの保有するMessoyakhskoye油田(東と西に分かれる)がある。 Russkoye油田は1968年に発見されたもので、当時のNadym-Taz-Pur地域における一連の巨大天然ガス田発見の成果の一部と思われる。しかし、1970年代に建設されたのは巨大ガス田からのパイプラインのみであり、中規模の油田は、輸送インフラのないまさに“Stranded な扱いを受けていた。貯留岩深度が700Oil”という稀~900mと浅いことから、原油はAPI20度前後の重質油となっているのが特徴である。同油田からは、Zapolyarieのポンプステーションにつなぎ込まれる。 Mesoyakhinskoye油田は、西油田が1982年、東油田が1989年に発見されたが、Russkoyeと同じ理由で開発に至らなかった。ルート上にある東油田は2013年、西有うけ21石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフロー. 極東天然ガス・パイプラインの現状(1) サハリン-ハバロフスク-ウラジオストク  (Sakhalin-Khabarovsk-Vladivostok:SKV)  パイプラインの現状 2011年9月8日、プーチン首相は2012年9月のAPEC会場となるウラジオストクのルスキー島で、サハリン-ハバロフスク-ウラジオストク間のSKV(Sakhalin-Khabarovsk-Vladivostok)パイプライン(図2)の竣工式に臨んだ。2日前には、ユーラシア大陸の西の端でNord Streamの竣工式に出席したばかりであり、ほぼ同時期にロシアの東西で大規模ガスパイプラインが完成したことになる。SKVパイプラインは2009年7月31日にハバロフスクで起工式が挙行されたもので、計画どおり約2年で完成した。 SKVパイプラインの輸送能力は当面年間60億m3と言われている。2011年にサハリン-1からハバロフスク地方と沿海地方にはガス19億?が輸送された。サハリン-1では随伴ガスが約80億m3生産され、うち、約60億m3が貯留層の圧力維持のために圧入されており、約20億m3がハバロフスクあるいはその先の地域まで供給されている。2012年には40億m3が供給される計画である*20。増量分のガスのソースに関しての報道はほとんどない。2012年の第3四半期には、サハリン-3Kirinsky鉱区のKirinskyガス田が海底生産システムにより生産開始の見込みで、このガスがSKVパイプラインで沿海地方まで送られると言われている。 ただし、現状ではこのパイプラインの運営においては問題が生じている。1月は2度にわたって、管内にハイドレートが形成され流通が阻害された。2月1日、極東連邦管区のイシャエフ大統領全権代表は、SKVパイプラインの稼働状況が極めて悪いと批判した。ウラジオストクの第2火力発電所が停止し、燃料を天然ガスから重油に転換する必要が生じている*21。(2) YKVパイプラインと中国向け天然ガス輸出の見通し 2012年に、Gazpromはヤクーチャ・ハバロフスク・ウラジオストク(Yakutia-Khabarovsk-Vladivostok:YKV)ガスパイプライン(図2)の建設を開始する計画である。サハ共和国(ヤクーチャ)のChayandaガス田からのガス生産量は最大250億m3/年となる計画であり、ヤクーチャの小規模鉱床からのガスも加わり、ウラジオストクまで供給される見通しである。このパイプラインの容量は年間300億m3と通常言われているが、最近のInterfaxの報道によれば、このパイプラインの容量は年間600億m3であるという*22。これは従来伝えられている輸送量のなかでは最も大規模である。誤報の可能性も含めて、留意する必要がある。 Chayanda ガス田は2010年から生産井の掘削が開始された。2014年には外縁部のリングオイルから生産が開始され、完成されたばかりのESPO-2によりKozminoから出荷される計画である。天然ガスの生産開始は、2016年または2017年と言われ、YKVパイプラインもそれに合わせて稼働が開始することになっている。 既述のとおり、ウラジオストク市を含む沿海地方の需要は最大でも60億m3であり、YKVパイプラインの建設は当然、ガスの輸出を前提としている。次章で韓国向けの「朝鮮半島パイプライン」に触れるが、韓国へのガス輸出量は年間100億m3である。一方、2006年3月に中国と合意した天然ガス輸出量は年間380億m3で、2007年に承認された「東方ガスプログラム」でも中国への輸出量はこれを踏襲して380億m3となっている。これらを合計すると、約600億m3という輸送容量が必要となってくる。 ただし、中国向けの天然ガスに関しては、露中間交渉に進展が見られない。 プーチン首相は2011年10月11日、中国を公式訪問し、温家宝首相と会談、翌12日には胡錦濤主席と会談した。懸案のガス価格では全く進展を見せなかったものの、同行したセーチン副首相によれば、中国のガス消費は2020年までにおよそ4,000億m3になると見られ、自国で供給できるのはそのうち半分程度であり、中国向けガス供給にGazpromが参入する余地はある、と交渉の先行きに楽観的な見通しを述べた*23。 Gazpromは欧州で天然ガス価格をめぐって、多くのユーザーからの値引き要求に直面し、特にドイツのE.On、RWE等からは仲裁廷に提訴されている。中国に対して価格で妥協すれば、それは直ちに欧州ユーザーとの交渉に影響を与える。当面は、ロシアは中国に譲歩できない状況が続く。 加えて、ガス価格のみでなくルートにも問題がある。中国側が東北地方における天然ガス供給を希望しているのに対して、ロシア側が中国側の望まない西ルート、すなわちロシアのアルタイ共和国から中国の新疆ウイグル自治区への供給を依然として主張している。このロシア側の主張は、中央アジアからのガスに対する牽222012.3 Vol.46 No.2アナリシスァと見られているが、トルクメニスタンに続いてウズベキスタン、カザフスタンのガスも中国へ供給されることになっており、ロシアの対応が成果を上げているとは言い難い。その後、中国の国際能源局とCNPCの関係者が、10月12~15日にかけてモスクワに行きGazpromと協議を行ったが、CNPCによると西ルートでのガス供給案が依然として交渉の新たな足かせになっているという。 Gazprom側は、アルタイ・ルートで供給できるガスソースを有さず、西シベリアにあるRosneftのKharampurガス田(図7参照)から新規パイプラインを敷設するという。このロシア側の主張のとおりであるとすると、極東におけるYKVパイプラインを一体何のために建設するのかその意図が不明となる。よって、公表されているさまざまな計画は額面どおり受け止めることはできず、虚々実々の駆け引きが展開されていると見るべきであろう。 一方、Gazpromは東ルートでの交渉を開始する可能性を示唆し始めた。中国は露韓ガスパイプラインプロジェクト(後述)への参加にも興味を示しており、遼寧省がパイプラインの経由地となる可能性もあるという*24。この点に関して、まだしばらくは両国の駆け引きが続くものと思われる。(3) サハリン-2のLNG第3トレーン問題 2011年の暮れも押し詰まった12月30日、Gazpromの天然ガス生産担当副社長のアナネンコフ(Ananenkov)が突然解任された。同副社長の主張は、外資導入や輸出振興よりも国内への安定供給を優先させる「民族派」とも言うべき立場で、いくつかのプロジェクトの方向性に関してもこのような立場から重大な関与があった。特に、サハリン-2のLNGに関しては、これまでの大きな成果を踏まえて、ホロシャービン州知事をはじめ多方面から第3トレーンの建設の要望が出されていた。しかし、現状のサハリン-2の埋蔵量では不足で、例えばサハリン-3からの天然ガスを応援で仰ぐ必要があった。これに対して、2011年11月、Gazpromは突然、第3トレーンの建設を見送ると公表した*25。 Ananenkovの解任から間もない2012年1月、サハリン-2の操業会社Sakhalin EnergyのAndrei Galayev社長が、同社事業におけるLNGプラントの第3トレーンに関しては、2012年内に最終決定が行われることが望ましいと語った。これは、オーストラリアの新規LNG事業の始動が迫っていることから、第3トレーンによる新規のLNGの契約を取るためには、2017~2018年の生産開始が最適であり、そのための意志決定は急ぐ必要があるとの考えによるものである。これはAnanenkov解任後、すぐに浮び上った政策変更である。プラットフォームの改修費や追加の圧縮ステーションの建設費を含む第3トレーンの建設費は50億~70億ドルと見積もられているという*26。(4)ウラジオストクLNGの概況 2012年1月に入って、Gazpromのミレル(Miller)社長は、東ルート・パイプライン経由の中国向けガス供給の見通しに係るコメントのなかで、現在、東方ガスプログラムにおける優先事業はLNG供給事業となっている、と語った。ウラジオストクでは処理能力年間1,000万t(ガス体で140億m3)のLNG計画も検討されている*27。これは、日本市場を意識した計画である。Gazpromは、パイプラインによるガス供給が最終目的地、通過国から強い影響を受けることから、市場を選択できるLNG事業の拡充を当面の目標としている。 このVladivostok LNG計画のFSが2011年末に完了し、Gazpromに送付された*28。この成果を踏まえ投資適格に係るスタディが開始された(IOD、2012/2/21)。4. 「朝鮮半島(Trans-Korean)パイプライン」と韓国ガス市場の動向ムキムョンが金南ナ永ヨン(恩ウ正ジ28日の葬儀の翌日、金正日中央追悼大会において、最Kim-Jong-un)高人民会議常任委員長の金を「党・軍・人民の最高指導者」と呼び、ここに金正恩の権力継承が公式に宣言された。しかし、懸案の朝鮮半島(Trans-Korean)パイプラインの議論に関しては、関係者の間では新政権の見極めが優先という扱いになった。キムン(1) 金正日死去後の北朝鮮の対応 2011年8月に金総書記(当時)がロシア極東を突如訪問し、メドヴェージェフ大統領との会談で北朝鮮経由韓国向けのガスパイプライン(以下「朝鮮半島(Trans-Korean)パイプライン」)に関して検討するとしたことは、大きな驚きをもって受け止められた。 同年12月17日に金正日が心筋梗塞で死去し、12月日イ正ジキムョンル23石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフロー4 2012年1月26日のInterfax紙は、北朝鮮の新リーダーはこのパイプライン事業の実現を約束しており、これを受けてロシアのエネルギー省は、パイプラインによる輸送ガス価格の件で、Gazpromとの交渉を進めるため、韓国を訪問する予定であると報じた*29。1月27日、韓国の聯合ニュースも在モスクワ外交筋の話として、このパイプラインに関して北朝鮮新指導部がこれまで通り進めて行くと述べたと伝えた*30。これにより、北朝鮮側もパイプラインに関する議論をこれまでどおり進めて行く方針であることが明らかになった。る手段となり得る。 北朝鮮はソ連時代に約100億ドルの債務があり、それはロシアに引き継がれている。ロシアにとってその回収は焦眉の急であるが、一方現状では北朝鮮に債務返済の見通しは全く立たない。ロシアとしては、北朝鮮に対して追加投資という何らかの「呼び水」を注入することによってのみ回収が可能であるが、それには一過性に終わらない乗数効果の高い事業への投資が必要である。今回の天然ガス・パイプライン計画は、考え得る恐らく数少ない投資案件であると思われる。リョンョン川チ③ これまでのロシアと北朝鮮の交渉の経緯 金正日総書記の訪露は2002年以来9年ぶりである。2011年に入り、6月末に訪露の計画があったとされるが、直前に韓国紙がそれを報じて情報が漏れ、ロシア側国境のハサン駅では赤絨毯を敷いて歓迎式典の用意までできていたが、保安面を重視した北朝鮮側の強い意向で急きょ取りやめになったと言われている。2004年4月22日、中国訪問を終えた金正日の特別列車が龍駅を通過した9時間後に同駅で爆発事故が起きたが、これをテロ未遂事件と見る向きが多い。このような事態を慎重に避けた可能性がある。 最近の両国の動きをまとめると以下のようである。 2011年5月、フラトコフFIS長官が訪朝し、金正日総書記とロシア-韓国間の鉄道連結、ガス・パイプライン、送電線に関して会談を行った*33。 次いで6月28日、モスクワでGazpromのMiller社長と北朝鮮の金駐露大使が会談し、露側が天然ガス・パイプラインの敷設計画を持ち出したが北朝鮮がこれを拒否し、首脳会談を前にして決裂したという。ただし、Gazprom側の発表では「両国を結ぶガス・パイプライン問題などエネルギー協力に関して協議した」となっており、真偽の程は不明である*34。 翌6月29日、金総書記が体調不良を理由に、ウラジオストク訪問を中止した。露側は議題に6カ国協議を挙げ、北朝鮮側は燃料・食料支援を主張し、物別れになったと報じられた*35。 しかしこの後、7月4~6日、GazpromのAnanenkov副社長(当時)が北朝鮮を訪問し、姜(Kang Sok-ju)副首相と会談した。会談内容は不明だが、Gazpromの訪朝であるだけに、天然ガスパイプラインが主題と見られる*36。 GazpromのAnanenkov副社長は8月5日、Kogas(韓国ガス公社)社長とウラジオストクで会談して概況を説明し*37、8月8日にはラブロフ外相が韓国の金(Kim 煥ハ星ソ才ジ英ヨュ柱ジ錫ソクカンキムンェキムンン(2) ロシアと北朝鮮の動き① 金正日総書記の2011年8月訪露 2011年8月20日、金正日総書記はロシア政府の招きにより鉄道で豆満江を渡り、沿海地方国境の町、ハサン経由でロシアに入った。21日にはアムール州のブレア水力発電所を視察し、次いで23日にウランウデに到着してバイカル湖を視察し、翌24日にロシアのメドベージェフ大統領と会談した。会談は、ウランウデ郊外の軍事施設において、午後2時からおよそ2時間にわたって、最初は一対一で行われ、次いで拡大会議に移った。メドベージェフ大統領は、東アジアで政治的・経済的な主要プロジェクトとなるロシア-朝鮮半島ガス・パイプラインの建設を提案し、金総書記はこのプロジェクトに関心を示したとされる。両首脳はロシアと韓国・北朝鮮のガス協力のパラメーターを決めるための特別委員会を設置することで合意した*31。 韓国向けの天然ガス・パイプラインは全長1,100km、そのうち北朝鮮領土内の区間は700km、供給量は100億m3/年、建設費用は20億~30億ドルになる見込みである。 ただし、今回の会合に関して共同声明はなく、北朝鮮側も一切の公式発表を行っていない。この合意もメドベージェフ大統領側の記者会見によって明らかになったものである。 ちなみに、北朝鮮の受け取る通関手数料は年間1億ドルと予測されている*32。② 両国の政治的な背景 ロシアの北朝鮮に対する態度変更の背景には、6カ国協議で中国に先行を許していたロシアの対北朝鮮外交を改変すべく、独自色を打ち出す方向へ政策転換があったものと思われる。また、対中国で天然ガス交渉が行き詰まっているロシアにとって、韓国のガス市場に対するアクセスと北朝鮮に対する経済協力の進展は中国を牽制す2012.3 Vol.46 No.2アナリシスN沢テ仁イもので、非核化の事前措置と見ることはできない」というものである。 韓国外交通商省関係者は、「歓迎するしないと言う前に具体化の行方を見なければならない」と述べ、露朝が合意した3カ国委員会に関しても「研究レベル」との認識を示した。企画財政省関係者は、「考慮しなければならない政治変数が多い。南北関係が冷却化したため計画に狂いが生じている」とあくまで慎重な姿勢である*42。パク元代表は、ロシアのガス・パイプ ハンナラ党の朴ライン事業に関して「南北の信頼につながるもの」と前向きに受け止めている*43。イク(Lee Myung-bak)大統領は、8月30日、北朝 李ヒョン統一相を解任し、鮮に対する強硬姿勢を主張する玄リュを後任に充てた。これは南北関係の前中国大使の柳改善を狙った人事と見られている。李大統領は、このパイプライン計画にかなり前向きと伝えられる。 9月5日、韓国外交通商省は、このパイプライン建設に関しては、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁の対象とはならないと暫定的に判断した。また、政府関係者によると昨年5月に発表した韓国による北朝鮮制裁措置の対象にもならないという*44。博バ明ミ恵ネ槿ク益ク佑ウョンンイ沢テ(3) これまでのロシアと韓国の天然ガス交渉① 1990年代までの交渉の経緯 韓国が、ロシア産のガスの確保に動き出したのは、(Roh Tae-woo)大統領(当時)が訪1990年12月、盧露した際、同行した鄭Jeong Ju-yeong)現代グループ名誉会長(当時)が、ヤクーチャからロシア極東-朝鮮半島東岸-釜山という天然ガス・パイプライン構想への意欲を表明したのが最初である。翌1991年、これはボストークプラン(Vostokplan)としてロシア側から公表された(図8)。この時、韓国の政権側は北朝鮮の通過に関して了解を与えていたと言われる*45。ただし、この案は平壌を通らないという問題がある。 一方、1996年4月からは、当時ロシアと中国のCNPCとで話し合われていたコビクタ(Kovykta)ガス田からのパイプライン建設計画について、韓国も参加しプロトコールに署名した。1999年2月に、ロシアと中国との間でFSに関する基本合意書が締結された。その後、2003年11月に公表されたFS結果において、大連からクイン黄海を通って、韓国の仁(Pyongtaek)に陸揚げする案となっており、北朝鮮を迂回する考えであった。 よってこの時点では、中国の参加するプロジェクトにおいては北朝鮮経由の計画は採用されなかったと見るべピョンから75km南の平ン(永ヨ周ジ愚ウ泰テ川チチョンョンノュSung-Hwan)交通商相と会談し、7月上旬の露朝協議の結果を受けて、パイプライン建設の見通しは良好で、北朝鮮側はこの計画に前向きであると伝えた。 KogasとGazpromは2003年の露韓協力協定以降、パイプラインのルート選定作業や液化・圧縮天然ガス(CNG)での供給スタディーを実施してきた。北朝鮮領土内にパイプラインを建設する案は、朝鮮戦争(1950~1953年)終結直後からあったが、北朝鮮による核開発や2010年以降の韓国への砲撃等により両国の関係はこれまで緊張状態にあり、実現性は遠のいたと見られていた。 韓国の朝鮮日報によれば、北朝鮮の朝鮮中央通信は2011年8月15日、メドヴェージェフ大統領が金正日総書記に送った光復66周年を祝う祝電のなかで「われわれはガス、エネルギー、鉄道建設などの分野でロシア、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国の3カ国による計画など、互いに関心を持つあらゆる方向で、朝鮮との協力を拡大する用意がある。この計画を実現することには大きな経済的意義があり、東アジア情勢の安定と朝鮮半島の非核化にもプラスに作用するだろう」と明言したと報道した*38。北朝鮮側の前向きな受け止め方がうかがわれる。 東亜日報によれば、前半は朝鮮日報と同じであるが、同祝電はこれに続いて、「ロシアはこれまで南北と、自国産の天然ガスを韓国へ輸出するためのガス管建設、シベリア横断鉄道(TSR)、韓半島縦断鉄道(TKR)の連結プロジェクト等について協議してきた。Kogas、 Gazprom、北朝鮮の原油工業省が事業の当事者として協議に参加している」と述べていると報じた*39。更に、中央日報は、朝鮮中央通信が「大韓民国」という正式国号をそのまま使用したことにも注目している*40。北朝鮮側の姿勢の変化である可能性が取りざたされている。④韓国の反応 韓国政府は、2010年3月26日の韓国哨戒艦「天安」の沈没事件があり、これを受けて同年5月以降は、南北間の交易、交流を原則中断する制裁を継続しており、南北協力を進める状況にない。更に、2010年11月23日の島砲撃事件は対北の不信感を決定的なものにした。 ロシア側の発表した露朝首脳会談結果に関して韓国政府からの正式なコメントは報じられていないが、24日、韓国政府関係者は「新しい内容はない」との見解を示した*41。これは、「条件なしでの6カ国協議再開は北朝鮮の従来の立場を繰り返したに過ぎず、核実験の暫定中断も6カ国協議で話し合う準備ができているとした坪ピ延ヨョンン25石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフローA 2001年以降の交渉経緯 これに並行して、2001年以降、北朝鮮経由のパイプラインで韓国まで天然ガスを供給する案が浮上してきた。当初は、際物的なものと見られていたが、2005年にGazpromの代表が北朝鮮を訪問するようになって、具体的な議論がなされているとの観測が広がり、2007年に承認された「東方ガス・プログラム」のパイプライン図においても、明確に計画線が引かれるようになり、計ちょく画が進捗 Paik(2008)*46によれば、北朝鮮を含む北東アジア諸国の天然ガスに関する交渉経緯は表1のとおりである。しているとの印象を与えた。③ ロシアと韓国による天然ガス輸入の協力協定締結  (2006年10月) 韓国とロシアは2006年10月17日、韓国において現在の需要の3分の1にあたる年間100億m3の天然ガスをロシアから輸入することになる協力協定に調印した*48。この協定により、韓国は2012年からサハリンまたはイルクーツクの鉱床からパイプラインにより輸入するというもの。ロシアはサハリンから韓国までの最短となるルートを望んでいるが、韓国側はこのルートは北朝鮮の領域を通過することになるため、地政学的リスクを恐れ、中国および黄海を経由し、イルクーツクへと延びるルートにしたい考えであった。Gazpromによれば、陸上パイプラインにかかるコストは約20億ドル、沖合ルートでは更にコストが増大する可能性があるとのこと。Gazpromによれば、Kogasはロシア極東におけるLNGの取引と液化、GTL、DME技術、共同探鉱・生産・他国でのガス販売マーケティングの基本的アプローチをまきであると思われる。すなわち、中国にとっての北朝鮮じは韓国における駐留米軍との直接対峙を避けるための「戦略空間」としての位置付けが最も重要である。韓国側も中露が同席する協議においては、極めて慎重な姿勢に終始している。この時期のKogasの基本的なスタンスは、う北朝鮮を迂回するというものであった。Soviet Union (Russia)ChinaJapanNorth KoreaSouth Korea1 2 3 4 5 6. Yakutsk 7. Pokrovsk 8. Neryungri 9. Svobodnyy10. Khabarovsk11. Komsomol’sk12. Okha13. Aniva14. Nakhodka15. Vladivostok16. Harbin17. Changchun18. Shenyang19. Beijing20. P’yongyang21. Wonsan22. Seoul23. Pusan24. Fukuoka25. Osaka26. Tokyo12121110144523232424131332626252567819219161718202222The Vostok Plan : Pipeline RouteGas PipelineGas FieldsCrude PipelineOil FieldsPlanned Crude PipelinePlanned Gas Pipeline出所:Hyundai Resources Development Co., Ltd.図81991年にソ連が発表したボストーク・プランに記された北朝鮮経由パイプライン(Paik、1995)による表1交渉経緯時期交渉経緯を訪問し、韓国と北朝鮮が北朝鮮通過パイプラインに関して予備的な会談。ン壌ヤピョン2001年9月 Kogas代表団が平出所:Paik(2008)262002年8月米国のFSI Energy社*47が、米共和党下院議員(Pennsylvania州選出)武器小委員会委員長のCurt Weldonのバックアップで、北朝鮮天然ガス研究組合(NGRS-DPRK)と、北東サハリンのガスを韓国までパイプラインで輸送する”Ko-Rus Line”プロジェクトで合意。これは民間主導のプロジェクト。北朝鮮当局は関心を有するも、韓国、米国両政府、そしてKogas、ExxonMobilは関心を有さず頓挫。(Roh Moo-Hyum)政権が“Gas for Peace” Formulaで、米政府が北朝鮮の核プログラムの放棄を条件に北政権の体制保障を行うことを前提に、朝鮮半島ガスパイプラインを打ち出した。これは、韓国の盧武鉉政権主導のプロジェクト。ただし、韓国通商産業エネルギー省(MOCIE)とKogasはガス輸送の安全保障の立場から反対。ョン鉉ヒ武ム盧ノ国連のMaurice Strong事務総長が金正日総書記と、国連が北朝鮮のエネルギー経済に関する長期スタディを実施することで合意。Gazpromが北朝鮮訪問、北朝鮮ガス・パイプラインに関して討議した模様。ただし、北朝鮮当局は、パイプラインの利益とコストが明確になるまでは表立った関心を示さず。2003年2004年2005年2012.3 Vol.46 No.2アナリシス棟Gス剛ガとの国境に近いVladivostok港を結ぶもので、当初70億m3/年とされる輸送能力は、最終的にはヤクーチャからのYKVガスパイプラインと合流して、最大470億m3/年まで拡張される可能性があるとされる。SKVパイプラインは2009年7月に着工され、2011年9月に完成した。なお、YKVパイプラインは、2016年ないし2017年に完成予定である。チュ 同年9月29日になってKogasの朱(Choo Kang-soo)社長は、韓国と北朝鮮の関係悪化によって北朝鮮経由のサハリン-韓国ガスパイプライン建設計画が無期限延長されると表明した。同社長によると、北朝鮮側が柔軟な姿勢を示さない限りパイプライン建設計画に関する協議は再開されない見通しで、パイプライン計画の代替案としてKogasはGazpromとLNGによる輸送を検討する計画であるとした*53。ここにはKoagsの基本的な考えが反映されているように見える。 2011年に入っても、8月にKogasがGazpromに対して、ウラジオストクにCNGプラントの建設を提案したと報道された*54。この案は、GazpromのAnanenkov副社長がかつて、Vladivostok LNGに替わるものとして支持した経緯がある。Kogasの北朝鮮経由パイプラインに対する姿勢は、一貫して慎重なものである。(4)韓国の天然ガス事情 ~韓国におけるLNG輸入~ 韓国は日本と同様に、炭化水素資源に恵まれず、天然ガスに関しても2004年に生産開始となった東海(Tonghe)ガス田からの若干の生産量の他は、ほとんどを輸入に頼っている。2010年にはLNGを3,300万t輸入し、日本に次ぐ世界で15%を占めるLNG輸入大国となっている。 ガス需要の内訳で見ると、日本では発電部門でのLNG需要が大きいのに対して、韓国では工業、商業、民生の都市ガス需要が、2010年時点で約半分となっている点が特徴である。これを可能にしているのが、4,000kmにわたってほぼ全国をカバーするLNG受入基地からの高圧幹線パイプラインで(図9)、これにより国内で広範な天然ガス需要を掘り起こしている。これは日本と大きく異なる点である。(5) 韓国の天然ガス需要 2011年8月に知識経済省はKogasが、ShellのPrelude LNGから全量に当たる364万tを2015~2018年の供給開始で20年間、そしてTotalからナイジェリア、ノルウェー、エジプトでの200万tのLNGを2014年から17年間購入する計画を発表した。これは、韓国のLNG需とめている。④ 李大統領の訪露(2008年9月) a)政府間合意 韓国の李大統領は、2008年9月28日から4日間ロシアを訪問し、29日午後にはメドヴェージェフ大統領との間で両国関係を「相互信頼の包括的パートナー」から「戦略的パートナー」に格上げすることで一致し、従来の経済を中心にした協力関係から、政治、外交、安全保障など全ての分野に拡大された。これを含めた10項目の露韓共同声明を発表した*49。 韓国の知識経済省(Ministry of Knowledge Economy, MKE)*50によれば、同日、両国のエネルギー分野におけるいくつかの覚書が交わされた*51。主なものは以下のとおりである。・KogasとGazpromとの間のパイプラインによる天然ガスの輸入に係る覚書(後述)・KNOCとカルミキア共和国との同共和国西部の油田探鉱に係るFSを共同で実施する仮協定・韓国電力公社(Kepco)、Korea Resources, LG Internationalのコンソーシアムとロシア国有ARMZ Uranium Holdingとのウラン探鉱に関する覚書 なお、KNOCが目指していた西カムチャツカのライセンスの更新に関しては折衝中で進展はなかった。 b) ロシアからの天然ガス・パイプラインに関する   Gazprom-Kogasの合意 上記のとおり、この時Kogasはパイプラインによる天然ガス輸入の覚書をGazpromと交わした。同覚書には、2015年から30年間、ガスを韓国に供給することが盛り込まれ、パイプライン輸送で100億m3/年、またはLNG輸送で750万t/年を見込んでいる。パイプライン輸送するガスはウラジオストクから北朝鮮を経由し韓国に輸送するルートを想定している。⑤ 2009年の露韓パイプライン共同スタディー(2009年  6月) 2009年6月23日、GazpromのMiller社長が韓国を訪問し、GazpromとKogasはロシアのSKVガスパイプラインの終着点から韓国向けのガス供給方法を検討するための協定を締結した*52。この協定は、2008年9月に締結された2015年から30年間にわたるロシアから韓国向けの100億m3/年のガス供給を定めた覚書に基づくものである。パイプラインはサハリン州のガス田から北朝鮮27石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフローvの17%に相当する*55。Kogasは、2013~2015年にインドネシア、マレーシア、ブルネイの既往LNG契約、合計で年間470万tが満了となり、それを補いかつ増量する契約をこれから結ぶことになる。 更に、2012年1月、量は確定していないがサハリン-2からのLNGの輸入量を拡大することでSakhalin Energyと合意した*56。 すなわち、Kogasはロシアからの北朝鮮経由パイプラインによるガス供給を計画には織り込んでおらず、仮に輸入することになってもその時期は相当遅れると見なしNorth Koreaソウルソウル仁川仁川(Inchon) (Inchon) 平沢平沢(Pyeongtaek)(Pyeongtaek)三陟三陟(Sam Chuck)(Sam Chuck)South Korea清州清州浦項浦項蔚山蔚山釜山釜山統營統營(Tongyeong)(Tongyeong)麗水麗水(Kwangyang)(Kwangyang)光陽光陽005050100km100km木浦木浦ガスパイプラインガスパイプライン(計画)受入基地受入基地(計画)出所:各種資料よりJOGMEC作成ている可能性がある。(6) 北朝鮮のエネルギー事情 北朝鮮の1次エネルギー供給は、石油換算で1985年3,566万tから2002年の1,954万tへと年率3.5%で低下し、この間、量的にほぼ半減した*57。石油は1次エネルギー全体の5.5%弱を占め、100%を中国からの輸入に頼っている。近年は年間50万tの水準である(表2)。エネルギーの不足から電力も不足気味で、夜間の衛星画像では朝鮮半島の北半のみが漆黒の闇となっており、その窮状が余すところなく捉えられている。この輸入は、1990年代半ばまで年間100万tのレベルであったが、その後1997年以降半減した。 輸入はほとんどが原油で、若干のガソリンと軽油がある。北朝鮮には2カ所の製油所があり、精製能力は日量7万1,000バレルであるが、現状の原油輸入量は日量1万バレルに過ぎず、能力の1/7という水準である。(7) 天然ガスの供給ソースをどこに求めるか これまでのロシア側発言でパイプラインの最も早い稼働開始時期は2017年となっており、これはYKVパイプラインの建設時期の直後である。現状、サハリン-3のガスはウラジオストクへ、次いでサハリン-2LNGの第3トレーンへ向かうと思われる。サハリン-1のガスに関しては依然交渉中である。量的に見て朝鮮半島向けにはサハリンからのガスよりもヤクーチャからのガスを調達するほうが容易である。(8) 北朝鮮経由の天然ガスに関する議論 本パイプライン計画の最大の懸念事項は、北朝鮮側がパイプラインを閉鎖する暴挙に出て、韓国に対する政治的武器として利用することである、とよく言われる。この議論を吟味してみる。図9韓国の天然ガスパイプライン網とLNG受入基地① パイプラインの閉鎖自体が政治的圧力になり得るか? 北朝鮮と韓国が、政治的な緊張状態に置かれた時、韓表2中国から北朝鮮への原油輸出量の推移年199920002001200220032004200520062007200820092010北朝鮮輸入量(万t)31.738.957.947.257.453.252.352.452.352.938.552.8出所:China OGPの各年のデータから282012.3 Vol.46 No.2アナリシス烽カ 2006年、2009年のウクライナのケースは、これまでも詳述したように、パイプライン通過国であるウクライナが、天然ガス価格の引き上げ(市場価格への移行)を拒否し、無契約状態のまま天然ガスを一方的に抜き取ったことからロシア側が供給停止をしたことに起因するもので、パイプライン通過国のリスクによるものである*61。 北朝鮮に関しては①、②に記した理由により、供給途絶の起こる可能性は想定する必要はないと考えるが、改めてロシアから韓国へのガスの供給途絶はあり得るであろうか? 資源は保有していること自体に価値があるのではなく、生産して流通ルートにのせ、販売して、代金を受け取って、初めて価値が生ずる。消費国が安定的な資源を求めると同様に、資源国も安定的な消費地を確保する必要がある。この意味で、天然ガス・パイプラインは互恵的、双務的な性質を有することになり、天然ガスの供給国と需要国との間は、双方が利益を受けると同時に一方的な動きや勝手な振る舞を牽制し合う関係になっていると言える。ロシア経済の専門家であるMarshall Goldmanは、これを「パイプラインにおける相互確証抑制(MAC:Mutual Assured Control)」と呼ぶことを提唱した*62。これは、軍事用語の相互確証破壊(MAD:Mutual Assured Destruction)*63を捩ったもので、パイプラインが引かれた以上は、消費国が生産国に対して買い取り義務があるのは天然ガス売買契約の「テイク・オア・ペイ条項」があることから当然であるが、生産国も消費国の生殺与奪の権利を握っているのではなく、天然ガスを売って収入を得るためには安定的な供給を志向するほかないという考えである。 あらゆるエネルギーというものは「燃料間競争」に晒されていることから、供給側が仮に恣的に供給ストップといったユニラテラルな行動に及んだ際には、消費国側は別途燃料を調達し、これまで建設された消費国へのパイプラインは信用を失い再び使用されることはないと予測される。これ故に、パイプラインをめぐっての関係国間の破滅的な闘争は自制的に回避されるというのが「相互確証抑制」の考え方である*64。 この「相互確証抑制」の考え方は、パイプラインに備わる本来的な性質の一つで、供給側がユニラテラルな立場を押し付ける道具とはなり得ず、双方向の利益を保障する手段と言えるものである。これは、パイプラインというものがエネルギーを利用した政治的な「武器」としてよりも、むしろ地域の「安定装置」として機能意いさらし国に対して天然ガス・パイプラインのバルブを閉めて送ガスを停止した場合、どのような効果が期待できるか? 消費国となる韓国は、2015年頃には3,500万tのLNGを輸入するが、これはガス体で470億m3となり、ロシアから100億m3のパイプライン・ガスを輸入しても総消費量の1/6に過ぎない。すなわち、北朝鮮が送ガスを停止しても、韓国はLNG輸入を十数パーセント増量すれば対応できる水準であり、スポットLNGの手当てで十分対応が可能である*58。一方、北朝鮮はパイプラインの通過国としての信認を失い、通過料収入を未来永劫失うこととなる。 また、ロシアの天然ガス輸出量は、連邦関税局によれば2010年の数字で1,527億m3であり*59、韓国への輸出が止められても、僅か1/15程度の減少でしかない。ロシアにとっても、北朝鮮の暴挙の影響は軽微ということになる。ウクライナがロシアに対して強い影響を持ち得たのは、ロシアのガス輸出の80%がウクライナを通過するためで、北朝鮮をウクライナと比較することはできない。 消費国にも供給国にも政治的な影響を与えることができず、自らは貴重な外貨獲得手段を放棄するという結末が十分に予想される事態を引き起こすことから、供給途絶は北朝鮮が合理的経済主体であるとすれば、あり得ない。② 北朝鮮による抜き取りのリスクは? 通過国によるガスの抜き取り(siphoning)は、世界各地で頻繁に起こっている。 北朝鮮は、パイプライン建設に出資する意思も経済力もなく、パイプラインは基本的には北朝鮮領内にあるGazprom資産となると予想される。このことは、ウクライナのようにNaftogaz Ukrainyがパイプラインを100%保有している場合と異なり、当然Gazpromが北朝鮮内に管理施設を設置し、天然ガスの流量と圧力を常時監視することになる。こうした状況下で抜き取りを敢行するのは容易でなく、リアルタイムで警告が発せられるであろう。③ ロシアによる韓国に対する「武器としてのパイプライン」の使用はあるか? パイプラインによる天然ガス供給においては、産ガス国側による供給途絶という「武器としてのパイプライン」の行使というものは例がなく、パイプラインとしての本来の機能からもあり得ないと筆者は主張してきた*60。29石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフロー・襲した方針の策定に着手したばかりと思われる。(9) 「朝鮮半島」天然ガス・パイプラインはLNGとの「デュアル供給システム」① 天然ガスの「デュアル供給システム」を指向する韓国 北朝鮮がパイプラインの通過を承認して、北東アジアの経済システムへの参加を決めたということも大きな政策転換であるが、「朝鮮半島」パイプライン合意の持つ最も重要な点は、韓国が天然ガスに関して、従来のLNG供給システムに加えて、天然ガス・パイプラインによる輸入を組み合わせた「天然ガス・デュアル供給システム」の実現に向かって動き出した点である。 これを実現するために、韓国は1980年代より、国内天然ガス・パイプライン網を整備し、発電用以上に民生・工業・商業用の都市ガス需要を呼び込むなど、条件整備を積み上げてきていた。② 韓国におけるパイプラインガスとLNGのバランスに関する議論きっう抗こ 韓国におけるLNG輸入は、1986年からであるが、韓国政府は1995年に初めてLNG主体のガスソースから、長距離天然ガス・パイプラインを将来的に主体とするする方針をこととし、2000年代には両者が量的に拮明確にした。1997年10月には、Kogasが韓国議会の貿易産業委員会に提出した文書において、2006年に最初のパイプラインガスによる供給を実現させるとしている*66。ここにおいて、LNGに比較してパイプラインガスがより安価であることが指摘されている。 日本がLNG基地を中心に扇型染み出しパイプラインシステムで全国的なパイプラインシステムを形成していないのに対して、韓国では国内幹線パイプラインを十全に整備して来たことも、このような政策を踏まえてのことである。③ 韓国がパイプラインガスとの「天然ガスのデュアル供給システム」を目指す理由 パイプラインガスを指向する理由は、まずは価格である。 図10は、2005年から2010年までの日本向けおよび韓国向けLNG価格と、ロシアの欧州向けパイプラインガスの価格推移を比較したものである。アジア圏ではJCC (Japan Crude Cocktail)連動、欧州では石油製品連動(Oil Product Indexation)のガス価格となっており、油価の変動を反映しているが、韓国向けLNGと30すると考える根拠となるものである。 Barnes et al.(2006)*65は、エネルギーにおけるジオポリティクスの議論において、それぞれの当事者の利益は重要であるが、協力関係から得られる共同の利得も同様に重要なものとなると、天然ガスパイプラインにおける「プラスサム」の面を強調している。エネルギーは通常は売買契約に基づいて供給されるものであるから、需要側、供給側双方にとって利益となるものであることは自明であると言える。④ パイプラインに関する政府間合意と実現性に関して パイプラインは本来、大規模な生産地と需要地があり、経済性が担保され、事業実施条件が整えば必然的に敷設されるものであるが、多国間(cross-border)パイプラインの建設にあたっては、経済性、事業の実現可能性に加え、多国間の政治的枠組みが必須の要件である。今回、政治的な枠組みが確認されたと言える。 ただし、パイプライン計画に対する政治の側からの支持は、計画を政策面で阻害しないというだけの消極的な意味でしかなく、国営のパイプライン企業が事業を行う場合を除き、政治にパイプライン計画を推進する力はないと見るべきである。例えば、カスピ海から地中海へ石油を運ぶBaku-Tbilisi-Ceyhanパイプラインは、1999年に政府間合意がなされたが、実際の工事開始は3年後の2002年である。この間、油価が低迷し、投資家の側はパイプライン建設を含む新規投資を大幅に控えた。油価が安定的に上昇する時期を迎えて初めて着工を決断した。政府間の合意はあくまで事業のバックアップであり、投資家の判断が全てのスケジュールを決定していたと言える。 ひるがえって、「朝鮮半島」パイプラインの早期の事業実現性に関しては、依然として疑問符が付く。衛星写真、航空写真等によるルート選定、渡河地点の選定、アクセス道路の確保等の具体的な検討はこれからである。筆者が昨年8月にKogasの専門家と議論した時も、事業実現までには相当の事項に関して詳細な詰めが必要で、どれ程の時間を要するかまだ分からないという。更に、38度線の非武装地帯で工事をするにあたって、南北両国軍との関係調整に関して問うたところ、とても検討できる段階ではないとのことであった。 過去の報道経緯から見て、Kogasは2008年頃はむしろLNGにウェイトを置いていた印象があり、必ずしも北朝鮮経由のパイプラインを推進してきた主体ではない。今回の政治的な合意を踏まえ、基本的にはそれを2012.3 Vol.46 No.2アナリシス/MMBtu日本LNG韓国LNGロシアパイプラインガス(対欧州)2005200620072008200920102011年1614121002468出所:OECD/IEA 2011等より作成。図10太平洋向けLNG価格とロシアのパイプラインガス価格の推移*67 欧州向けパイプラインガスでは総じて欧州向けパイプラインガスのほうが平均して約20%低い価格となっている。 太平洋圏におけるLNG価格が原油連動で高いことに比して、パイプラインガスが約20%安価に調達できる点、これに加えてロシア産ガスを30年の長期契約で調達でき供給の安定性を確保できる点、中長期的な市場形成でLNG価格を抑制する効果が期待できる点が「天然ガス・デュアル供給システム」の韓国にとってのメリットであると言える。まとめ・2009年暮れから輸出が開始された東シベリア・太平洋(ESPO)原油は、中質・低硫黄であり、中東原油とは異なりホルムズ海峡、マラッカ海峡等のチョークポイントを通過せず短距離で供給されること、仕向け地条項(Destination Clause)がなく取引に柔軟性があることから、ドバイ原油に対して最近ではバレルあたり6ドル近いプレミアムで取引されるなど、市場では高い評価を得ている。・日本の原油輸入に占めるESPO原油・サハリン原油の比率は、2010年に7%、2011年は震災の影響で4%まで低下したものの、2012年には相応に回復するものと思われる。・現状日量30万バレルで輸出されているESPO原油は、ESPO-2の完成でKozminoターミナルまでパイプラインがつながり、2013年には日量70万バレルまで拡大される。日本向けの輸出量も拡大するものと思われる。・ESPOパイプラインへの原油供給を拡大するために、西シベリア北東部のクラスノヤルスク地方で、Vankor-Purpe石油パイプラインから原油をESPOパイプラインに効率的に流すPurpe-Samotlorパイプラインが2011年10月に稼働開始となった。当初の通油能力は日量50万バレルとなり、最大日量50万バレルの生産量を目指すVankor油田の拡張およびその他の油田の稼働開始に備える。・更に、Zapolyarie-Purpe石油パイプラインが2012年に建設開始となる。当初能力は日量24万バレルである。これはヤマル半島近隣の油田の開発を促すパイプラインで2016年完成をめざす。・Vankor-Purpeパイプラインの延長先にはフロンティア地域のYenisei-Khatanga堆積盆地があり、新規の油田発見が報告されている。・天然ガスパイプラインに関しては、年間輸送能力が当面60億m3、主要区間の口径48”(1,220mm)のSakhalin-Khabarovsk-Vladivostok:SKVパイプラインが2011年9月に完成し、ウラジオストクへのガス供給が開始された。「朝鮮半島」パイプラインは、2011年8月に金正日総・書記とメドヴェージェフ大統領の間で検討することが合意され、後継の金正恩政権もこの方針を堅持する方針である。・韓国はこのパイプライン計画を念頭に、2008年にロシアと年間100億m3のガスを輸入することで合意している。・このパイプライン計画に対して北朝鮮側が大きな政策転換で応えた点も大きいが、韓国がこれまで輸入ガスの100%をLNGに依存していたのを、パイプラインガスを導入して天然ガスの受け入れ形態を「デュアル・システム」にしようとしていることが最も重要である。韓国はこれにより、約20%安価なガスが調達でき、なおかつLNGに対して価格の交渉力を保有できる。・パイプライン供給が途絶するのではとの懸念が発せ31石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフロー轤黷驍アとがあるが、北朝鮮がパイプラインに妨害工作を施すことは、自らの利益を放棄することとなり、経済合理的な観点からは選択肢とはなり得ない。一方、ロシアが韓国に対して供給停止をするのではとの懸念に関しては、ロシアが自国の天然ガス資源が他のエネルギー資源との間で「燃料間競争」に晒されていることを認識している限りはあり得ない。ここで重要なことは需要国側はLNG等の対抗手段を有していることから、供給国側が需要国側に対してパイプラインを一方的な「武器」として使用することは不可能だということである。これを、ミサイル防衛における「相互確証破壊」のアナロジーとして、パイプラインにおける「相互確証抑制」と呼ぶ研究者もいる。パイプラインは基本的に互恵的、双務的な機能を有しており、「武器」ではなく、地域の「安定装置」として機能してきた歴史がある。<注・解説>*1: 石油・天然ガスレビュー、2010年7月、Vol.44,No.4、p.17~36*2: ビジネスのある局面において片方が相手方に対して一方的に強い立場に立つという非対称な状況を指す。1国のみに供給するパイプラインにおいては、契約が不完備な状況にある時、需要側が供給側に対してより強い立場に立つことがある。*3: Izvestia, 2010/12/28、International Oil Daily(以下IOD), 2010/12/30*4: Vedomosti, 2009/2/18*5: Kommersant, 2011/3/18*6:IOD, 2011/8/05*7: Vedomosti, 2011/10/12*8: JP Morgan, 2009/7/08*9: IOD, 2009/8/21*10: IOD, 2009/10/06*11: Transneft website 参照http://www.rosneft.com/news/today/21082009.html*12: Interfax, 2009/5/27, Oil and Gas International, 2009/5/28*13: IOD, 2010/3/12*14: Prime-Tass, 2010/11/10*15: Interfax, 2010/8/10*16: Interfax, 2010/11/01*17: RusEnergy 10/20*18: Interfax, 2010/9/30*19: IOD , 2010/10/11*20: Interfax, 2012/1/24*21: 共同, 2012/2/02*22: Interfax, 2012/1/23*23: Interfax、2011/10/11*24: Interfax、2011/10/17*25: 拙稿、石油天然ガス資源情報(2012/1/16)「ロシア: ガスプロム・アナネンコフ副社長更迭と予想される今後の事業展開(短報)」 http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1201_out_j_ananenkov%2epdf&id=4575*26: Interfax, 2012/1/30*27: Interfax, 2012/1/23*28: PON, 2012/1/06*29: Interfax, 2012/1/26*30: 毎日新聞, 2012/1/28322012.3 Vol.46 No.2アナリシス?31: Interfax, 2011/8/24*32: 中央日報, 2011/8/16、ほかの報道では1.5億ドルという数字もある。*33: Reuters, 2011/7/05*34: 共同, 2011/6/29*35: 共同, 2011/6/29*36: 日経, 2011/7/07*37: The Moscow Times, 2011/8/15*38: 朝鮮日報, 2011/8/16*39: 東亜日報、2011/8/16*40:中央日報、2011/8/16*41: ソウル聯合ニュース、2011/8/25*42: 電気新聞2011/8/26*43: 中央日報2011/9/02*44: East & West Report, 2011/9/08*45: Keun-Wook Paik (1995), Gas and Oil in Northeast Asia, Policies, Projects and Prospects, The Royal Institute of International Affairs. p.231 *46: Paik, Keun-Wook(2008), 6 Natural Gas Expansion in Korea, in Stern, J. ed. , Natural Gas in Asia, second edition, Oxford Institute of Energy Studies*47: Pennsylvania州に設立。同社の設立者で社長のJohn B. Fetterは1972年にフルブライト留学生として高麗大学に在籍。韓国人脈あり。*48: IOD, 2006/10/18*49: 中央日報、2008/9/30*50: 2008年に通商産業エネルギー省(MOCIE)の組織改編によりエネルギー政策を承継*51: IOD, The Moscow Times, 朝鮮日報, 2008/9/30*52: IOD, 2009/6/24*53: RusEnergy, 2009/9/30*54: WGI, 2011/8/17*55: East & West Report, 2011/8/22*56:Interfax, 2012/1/26*57:張継偉(2005)「北朝鮮の経済とエネルギー需給動向」IEEJ: 2005年7月号*58:Interfax, 2011/8/24,*59: Interfax, 2011/2/08、ただしこの輸出量にはタリフやタービン運転用のtechnical gasは含まれない。*60: 拙稿、石油・天然ガス資源動向(2011年4月20日):ロシア:サハリン大陸棚石油ガス開発の展開と震災後の日本へのガス供給の可能性、http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1104_out_j_sakhalin%2dcontinental%2dshelf%2epdf&id=4361*61: 拙稿「繰り返されたロシア・ウクライナ天然ガス紛争」石油天然ガスレビュー、2009.3 Vol.43 No.2 http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=200903_001a%2epdf&id=2561。拙稿「ロシアは信頼に足らないエネルギー供給国か-政治的に脚色・報道された対ウクライナ・ガス紛争」石油天然ガスレビュー、2006.3 Vol.40 No.2、http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=200603_001a%2epdf&id=656*62: Goldman, Marshal I.(2008), Petrostate, 邦訳 マーシャル・I・ゴールドマン「石油国家ロシア」日本経済新聞社、367p.*63: 相互確証破壊とは、核兵器を保有して対立する陣営のどちらか一方が相手に対し戦略核兵器を使用した際に、もう一方の陣営がそれを確実に察知し報復を行うことにより、一方が核兵器を使えば最終的に双方が必ず破滅する、という状態を指し、報復として自分にも核弾頭が降ってくることを承知で核攻撃を命令できる国家首脳は存在しない状況となる(Wikipedia, 航空軍事用語辞典等による)33石油・天然ガスレビュー拡大する北東アジアのエネルギーフロー?64: Goldmanは同著書のなかで、ウクライナはこの「相互確証抑制」が機能しなかった例として挙げているが、同書執筆後の経緯を見ると、ヤスコビッチ政権への交代を経て、両国は露骨な闘争は自制する関係に推移しており、Barnes et al.(2006)の主張(*65)が説得力を持つと判断する。*65: Barnes, J., Hayes, M. H., Jaffe, A.M. and Victor D.G. (2006),, Introduction to the study, p.5 in Victor, D.G., Jaffe, A.M. and Hayes M.H. eds. Natural Gas and Geopolitics, From 1970 to 2040, Cambridge University Press*66: Paik(2008)前掲書*67: World Energy Prices & Taxes, 2nd Quarter 2011( OECD/IEA, 2011等による)執筆者紹介本村 眞澄(もとむら ますみ)[学歴] 1977年3月、東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了[職歴] 同年4月、石油開発公団(当時)入団。1998年6月、同公団計画第一部ロシア中央アジア室長。2001年10月、オクスフォード・エネルギー研究所客員研究員。2004年2月、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEG)石油開発支援本部石油調査部特別顧問主席研究員(ロシア担当)。[主な研究テーマ]ロシア・カスピ海諸国の石油・天然ガス開発と輸送問題、地球資源論[主な著書] 『ガイドブック 世界の大油田』(共著)技報堂出版、1984年 /『石油大国ロシアの復活』アジア経済研究所、2005年/『石油・ガスとロシア経済』(共著)北海道大学出版会、2008年[趣味] ブルーグラス、カントリー・アンド・ウェスタン342012.3 Vol.46 No.2アナリシス
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2012/03/19 [ 2012年03月号 ] 本村 真澄
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