ページ番号1006466 更新日 平成30年2月16日

中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察

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レポートID 1006466
作成日 2012-03-19 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2012
Vol 46
No 2
ページ数
抽出データ JOGMEC 石油調査部野神 隆之中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察はじめに 2011~2012年において、原油価格を変動させた主要因の一つに、特に地政学的リスクの顕在化というものがあった(因みにこれは執筆時点でなお一部が進行中である)。もっとも地政学的リスク要因は、例えばイランのウラン濃縮活動をめぐる西側諸国との対立というものは従来から存在し、また、ナイジェリア等での原油輸出停止も毎年しばしば発生しているという意味では、このような要因に伴う市場の懸念は以前からなかったわけではない。ただ、2011~2012年は中東・北アフリカ諸国、つまり、エジプトやリビアといった諸国で政情不安が高まり、リビアでは実際に自国の石油生産がほぼ皆無となった時期も見られた他、イランについても、欧米でイランに対する制裁の強化や同国からの原油の輸入禁止措置を決定するなど、例年になく西側諸国等との対立が深刻化している。このような要因は原油相場を上昇させたり、下支えさせたりしたわけだが、その背景にはどのようなメカニズムが存在しているのか、そしてそのような地政学的リスク要因等に伴う2011~2012年の原油相場の変動は石油市場および産業にどのような影響を及ぼしているのか、本稿ではこの点につき筆者の見解を記すことにしたい。 筆者は毎月中旬に、石油と天然ガス市場に関するレポートを作成し、JOGMECの「石油・天然ガス資源情報」としてホームページに掲載している(最新号は原則毎月第3月曜日。月曜日が休日の場合には翌日に掲載)が、ここに記載した内容については部分的には触れているものの、包括的に取りまとめられていないうえ、石油市場や産業への影響については、これまで必ずしも体系的に述べてきているわけではなかったことから、このレビューにおいて、改めてこれらの点につき議論を行うものである。出所:筆者作成WTI(NYMEX)ブレンド(ICE)ドル/バレル9080702月1001011121113012011023674589図1原油価格(2011~2012年)1. 中東・北アフリカ諸国の世界石油市場における位置づけ 世界石油市場において、中東・北アフリカ情勢が重要視される理由はいくつか挙げられる。まず、当該地域に世界石油埋蔵量の過半が集中していることである。また埋蔵量ほどではないが、生産量も世界全体の30%強を占める。そして、生産余力も大きい。非OPEC産油国は、原則として投資した資金をできるだけ早期に回収しようと努力することから、油田での生産開始以降生産能力の水準で生産を行うため、事実上余剰生産能力は存在しないと考えられる。他方OPEC産油国は世界石油市場において需要に見合った適切な供給を行うことを目的として1石油・天然ガスレビューアナリシス「るため、原油生産枠(ないし上限)を設定して自己規制を行っていることから、しばしば生産能力を下回る水準で生産を行う結果、ここに余剰生産能力が発生する。 そして、万一世界のどこかの産油国で石油供給途絶が発生した場合、この余剰生産能力を使用して穴埋めすることになる。中東・北アフリカの産油国はOPEC加盟国である場合も多く、相当量の輸出を行うのみならず、余剰生産能力も保有している国が多い。特にサウジアラビアは2010年時点で日量664万バレルの輸出を行う他、2011年12月時点では日量215万バレルの余剰生産能力を保有している(後述)ので、石油市場においても特に重要な位置づけとなっている。ただ、そのような豊富な石油資源に恵まれている中東・北アフリカ地域は宗教、そしてその宗派、民族等が異なることから、政治的には不安定であると市場では認識されており、それはとりもなおさずこの地域から供給される石油が政治的闘争上の武器としても使用されるとの市場での懸念を生みやすい、ということに他ならない。2. 中東・北アフリカ政情不安に対する石油市場の蜂起の高まり このような要因から中東・北アフリカ情勢は以前からしばしば石油市場を振り回してきた。ただ、2011年初にチュニジアより発生し、その後中東・北アフリカ諸国に拡大した、事実上の一党独裁体制に対する民衆の蜂起と政権交代に対する運動の高まりは、どの国もそれまで余り経験した事態ではなかったため、石油市場においても各国の政治状況と石油供給に関しての先行きの不透明性の増大から、原油相場に大きな影響を与えることとなった。 事の発端は、2011年1月14日にチュニジアで発生した大統領退陣要求デモの各地への波及であった。ただ、この国は小規模な産油国であった(2010年の同国の石油生産量は日量8万バレルであった)こともあり、この時点で石油市場への影響は殆どなく、もしチュニジアにおいて大統領が退陣して、それでこの流れが他の近隣諸国に波及することなく終結する、ということであれば、石ほとん地中海Sidi kerirSidi kerirスエズ運河スエズ運河カイロカイロSumed パイプラインSumed パイプラインエジプトエジプト出所:筆者作成Ain SukhnaAin Sukhna紅海図2スエズ運河とSumedパイプライン油市場は平穏なままであったであろう。ただ、この動きが1月下旬にエジプトに波及して以降、石油市場の懸念は高まることになり、また原油相場等への影響も大きなものとなった。 実はエジプトは、自国の石油生産量が日量74万バレル(2010年)とオマーン(日量86万バレル)を若干下回る程度の産油国である。一方、石油消費量が日量73万バレルあり、輸出余力は実質的には殆ど存在しないので、産油国としての世界石油市場に占める重要性は小さい。ただ、エジプトの政情不安は別の2点で石油市場を揺るがすことになった。1点目は、エジプトには、紅海と地中海を結ぶスエズ運河(原油および石油輸送量は北行き日量115万バレル、南行き日量81万バレル(2010年1月~11月)と紅海から地中海へと原油を輸送するSUMEDパイプライン(輸送量日量115万バレル(2010年1月~11月))がある(図2)など、同国は石油輸送上の要所となっており、これらがもし政情不安の深刻化により閉鎖された場合、タンカーは南アフリカの喜望峰を経由しなければならなくなり、この分だけ余計な日数を要する(欧州までは約6,000マイル(約9,600km)の追加的航行距離が発生し約2週間程度長い期間が必要となる)。特に運河等閉鎖直後には、その分だけ原油および石油製品の到着が遅延することになるので、エジプトから地理的に近い地中海等欧州では石油供給不足との懸念が高まり、それが欧州の代表的原油である北海ブレントの価格に織り込まれた格好となった(ただ、実は、同国での政情不安時においても、スエズ運河やSUMEDパイプライン(軍が監視体制を強化したと伝えられる)での操業は平常どおりとなっており、実際に途絶が発生したわけではなかった。また、2011年2月11日にはムバラク22012.3 Vol.46 No.2アナリシス唐ヘ全人口の80%を占めるイスラム教徒のうちスンニ派が30%、シーア派が70%を占める一方、スンニ派による支配が行われているが、サウジアラビアはスンニ派が85%、シーア派が15%を占め、スンニ派による支配となっているなど宗派構成と政治的支配構造が異なっている。したがって、シーア派住民が蜂起したバーレーンでの政情不安が即サウジアラビアに波及し大規模な政情不安が発生するかというと、絶対的な意味ではその確率は低いと市場では見られた。しかしながらチュニジアやエジプトといった諸国は1人あたりGDPがサウジアラビアを大幅に下回っていたことから住民の政権に対する不満が高まりやすいと市場が見ていたのに対し、バーレーンは1人あたりGDPがサウジアラビアを上回ることで、1人あたりGDPが高水準だからといって住民の不満が高まらないという理由は成り立たなくなったこと、また、サウジアラビアにおけるシーア派は油田地帯である東部海岸沿いに集中して居住していることから、サウジアラビアでの政情不安の確率も相対的には上昇してきた、との懸念が市場で増大、それらが原油価格に織り込まれる結果となった。ドル30,00025,00020,00015,00010,0005,0000ンメエイアリシンダルヨトプジエアリェアジニュチジルアンライアビラアンーレーバアジウビリサ出所:IMFによる推定データを基に作成大統領が退陣する旨発表があったことで、この面では両輸送施設における操業停止の可能性に対する懸念は低下した)。 2点目は、エジプトの政情不安をもたらす原因となった、いわゆる独裁政権に対する民衆の不満が、他の中東や北アフリカ諸国に波及し、その結果、当該地域の産油国での石油供給に支障を来するのではないか、という懸念が市場で発生したことである。前述のとおりエジプトの政情不安はチュニジアでの大統領追放に触発されたものであるが、それまで問題を抱えつつも比較的安定的な政権運営を行っていたと見られた北アフリカの主要国であるエジプトが突然深刻な政情不安に陥ることについては、多くの市場関係者は予想していなかった。したがって、例えば、中東湾岸主要産油国(サウジアラビア、クウェート、UAE)などは、他の中東・北アフリカ諸国と比較して1人あたり国内総生産(GDP)が圧倒的に高く(図3)、民衆が既存の独裁政権運営についての不満を爆発させる可能性は極めて低い、とはいうものの、そのように安定的に見えても突然状況が変化する、といった可能性もありえないわけではない、という不安感が市場で高まってしまった。 後にも触れるがサウジアラビア、クウェート、UAEをあわせた余剰生産能力は日産253万バレルである。加えて、この中東湾岸諸国3カ国の原油生産量は日量1,435万バレル(2011年)となり、世界全体の石油需要の約15%を占めることから、これらの諸国等において、政情不安が深刻化した場合、供給が途絶するだけでなく、それを埋め合わせする余剰生産能力も併せて利用不可能となる恐れがあることが、市場の懸念を増大させることになった。そして、エジプトでの政情不安が、ヨルダン、イエメン、シリア、オマーンのみならず、バーレーンにしたことも、市場の不安感を高める結果となってし播ぱ伝でんまった。 バーレーン自体は大産油国ではなく、また、バーレー図3中東・北アフリカ各国の1人あたりGDP(2010年名目)3.リビアをめぐる情勢 さらに、2011年2月20日にリビア東部の都市ベンガジ(Benghazi)において、カダフィ大佐の支配終結を求める反体制派と治安部隊との衝突が激化、反体制派が同市の大部分を掌握した他、首都トリポリでも両者による衝突が発生したうえ、同国で日量10万バレルの石油生産を行う独石油会社Wintershall(独化学会社BASFの子会社)が政情不安に伴い生産を停止させる方針である旨報じられるなど、同国をめぐる混乱の度合いが強まり、また、2月22日には退陣を求める反体制派に対してカダフィ大佐がそれを拒否、反体制派の弾圧を継続する3石油・天然ガスレビュー中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察uを持たないところは、サウジアラビア等からの重質高硫黄原油を全面的に受け入れることは困難であった。実際欧州でリビア原油を大量に輸入していたイタリア、ドイツ、スペインの各国はリビアからの原油輸入の減少をサウジアラビアの原油で補い切った形跡は見られない(図3)。そして、それは、リビアでの政情不安激化以降は総じて軽質低硫黄原油(例えばブレント)と中質ないしは重質高硫黄原油との価格差が総じて拡大する傾向を示したことによっても示されている。実際欧州では、このように原油で調達できなかった分を米国、ロシア、インド、シンガポールからの石油製品輸入で補っていた格好になっていた。 その後リビアについては、2011年8月には原油生産量がほぼゼロとなり(図4)、また8月21日には首都トリポリが国民評議会派によってほぼ制圧されたものの、どれくらいの原油生産量がどれくらいの期間で回復するかについては、市場関係者の間で見解が分かれる状態となっていた。9月10日には同国のアリー・タルフーニ(Ali Tarhouni)暫定石油・財務大臣が同国の石油生産は今後3~4日以内に再開し1年以内に内戦前の水準に戻ると発言したと伝えられたが、内戦前の生産水準に回復するまでには2~3年を要するとの見方も市場にはあるなど、同国の原油生産回復に対する展望は不安定であったことから、リビアの内戦終了による原油価格への下方圧力は比較的ゆるやかなものであった(ただ、実際にはリビアは当初の市場の予想を上回る勢いで原油生産を回復しつつある。終戦当初IEAは2011年末に日量40万バレルの原油生産となると予想していたが、既に2011年12月時点では同国の原油生産量は日量80万バレルに到達していると伝えられる)。日量万バレル160 140 120 100 80 60 40 20 0 123456789101112月方針である旨表明した一方で、同国の複数の外交官が辞表を提出するなど、政権内部にも混乱が及び始めたことから、リビアからの石油供給途絶懸念が増大するなどしたことが、原油相場に大きな影響を与え、例えばリビアでの政情不安激化直後の2月22日の米国原油先物市場(なお前日の21日は米国市場はプレジデント・デーに伴う休日で先物市場は休場となっていた)では、WTIが前週末終値比で 1バレルあたり7.37ドル上昇し93.57ドルとなるなど、相当程度の変動が見られた。 そして、2011年3月17日夕方国連安全保障理事会でリビア上空に飛行禁止区域を設定する等の決議案が賛成多数で可決された後、4月7日には、その前の数日間、リビア東部にあるSarir油田を含む複数の油田関連施設が攻撃され被害を受けた、との情報が流れ、同国での石油生産低迷がさらに一層長期化するとの懸念が市場で増大したことが、原油相場を揺さぶる結果となった。 リビアで生産される原油は主に欧州に輸出されていたので、同国での原油生産の停止は、特にブレント価格に上方圧力を加えることになった。さらに、リビアでの原油生産停止により不足した供給は、余剰生産能力を持つサウジアラビア等の中東湾岸OPEC産油国によりなされるわけだが、これら産油国での余剰生産能力により生産される原油は重質高硫黄原油(硫黄含有分が高く、かつ比重が重いので、製油所でガソリンや軽油(そして最近ではこれらの製品の需要が高まる傾向にある)を多く生分からガソリン等を生産できる分解装置産するには残や硫黄分を除去するための脱硫装置が必要となる。もちろんそれら装置を設置するためには追加投資を行わなければならない)である一方、リビアで生産される原油は主に軽質低硫黄のものであることから、リビアからの供給が停止した欧州の製油所のなかで、分解装置や脱硫装渣さざん日量万バレルリビアサウジアラビア500-50-100-15012345678910月出所:IEAデータを基に作成出所:IEAデータを基に作成図4欧州のリビアおよびサウジアラビアからの原油輸入の前年同月比増減(2011年)図5リビアの原油生産量(2011年)42012.3 Vol.46 No.2アナリシス.イランのウラン濃縮活動をめぐる西側諸国との対立激化もっ 一方内戦が終了したリビアに代わって市場の心理をとらえた地政学的リスク要因はイランである。2011年11月8日に加盟国に配布された国際原子力機関(IAEA)によるイランのウラン濃縮プログラムに関する四半期報告で、イランが核兵器製造段階へと接近しつつある旨報告されたことから、欧米諸国の態度が硬化、イランと西側諸国との対立が深刻化し、それが原油相場に影響を及ぼす結果となった。 2011年12月31日にオバマ大統領は米国議会が12月15日に承認した2012会計年度国防授権法案に署名し、同法案は法律として発効した。これによれば同法発効から180日経過(つまり6月28日)以降、イランからの石油購入に関連した取引を行う外国金融機関に対して制裁ただを科する権限を大統領が有することになる。但し当該銀行が「相当程度」イランからの石油購入に関する取引を減少させたと大統領が判断すれば当該銀行に対する制裁適用を除外することができる他、米国の国家安全保障上の利害から必要と大統領が認めた場合には適用を放棄することができると同法には定められている。なお、何を以て「相当程度」イランからの原油購入に関する取引が減少していると認められるかについては、法律には定められておらず、大統領の判断を待つことになる。 米国はオバマ政権の関係者を他の各国政府に派遣してイランからの原油の購入を控えるよう協議している。ただ、このなかには中国のように反対を表明する(1月11日に中国外務省の劉為民報道局参事官は、国際法を超越する形で一国家の法律を他国家に事実上適用するよう要望することは非合理的である旨明らかにしている)ところもある。他方、EUにおいても、別途イランからの原油の禁輸につき協議が行われた結果、1月23日開催のEU外相会議においては、イランとの新規の石油売買契約については即時禁止となったが、既存の契約については7月1日までに終了させる旨決定された。このようにイランと西側諸国との対立は深刻化する方向に向かっていることから、この面が少なくとも原油相場の下落を抑制する状況となっている。イランからの原油の輸出量は日量220万バレル(2011年1~6月)である。ただ、これらが全量停止した場合でも、サウジアラビア、クウェート、イラク、カタール、UAEにおける余剰原油生産能力(合計日量314バレル(2011年12月現在))で対応は可能である(但し欧州やアジアの石油消費国と中東産油国では距離的に大きく離れていることから、代替調達先確保と輸送のためにある程度の猶予期間を設けることが必要になろう)(図6)。ただ、そのような場合市場参加者から見れば一時的にせよ市場で利用可能な余剰生産能力が減少することから、他にもナイジェリア等の地政学的リスク要因の存在する状況では、石油供給途絶懸念が高まりやすくなり、結果として原油相場が支持されている。 また、米国でのイランに対する事実上の制裁強化に関す法律の成立に先立つ2011年12月27日には、イラン国営通信社IRNAが、ラヒミ・イラン第一副大統領の発言として同国の原油輸出に対する制裁が実施された場合イランはホルムズ海峡を封鎖することにより当該海峡での石油輸送を阻止する旨の警告を伝えており、欧米等でのイラン原油輸入制限の動きで、イラン側の感情が刺激されることにより同国が当該海峡封鎖を実施するかもしれない、といった市場の懸念も以前に比べて高まった。 ホルムズ海峡が封鎖された場合には、サウジアラビア、クウェート、イラク、カタール、UAEといった中東湾岸の余剰生産能力を持つOPEC産油国で追加生産が期待できなくなるが、これらの諸国でOPEC産油国の余剰生産能力全体(2011年11月現在で日量395万バレル)のうちの約4分の3(イランを含めれば約80%)を占めるため、湾岸OPEC産油国からの余剰生産能力が利用不可能となった場合に代替できるような、残された余剰生産能力は日量60万バレルと限定的であるばかりか、湾岸OPEC産油国からの石油輸出(原油で日量1,265万バレル、イランを含めると1,490万バレル(2010年)、またこの他に湾岸OPEC産油国(イラン含む)からの石油製品の輸出が日量247万バレル(同)ある)のうちサウジアラビアイラン 6その他OPEC60イラク53サウジアラビア215カタール 8クウェート 22UAE 16出所:IEAデータを基に作成単位:日量万バレル図6OPEC産油国の余剰原油生産能力(2011年12月現在)5石油・天然ガスレビュー中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察エ油パイプライン原油パイプライン(建設中)イラククウェートクウェートイランホルムズ海峡ホルムズ海峡ペルシャ湾サウジアラビアラス・タヌララス・タヌラ(Ras Tanura)(Ras Tanura)バーレーンカタールフジャイラフジャイラ(Fujairah)(Fujairah)ハブシャンハブシャン(Habshan)(Habshan)UAEペトロライン(Petroline)(東西パイプライン : East-West Pipeline)総輸送能力 : 日量500万バレル(余剰輸送能力 : 日量300万バレル)アブダビ原油パイプライン(ADCOP : Abu Dhabi Crude Oil Pipeline)総輸送能力 : 日量150?180万バレルエジプトヤンブーヤンブー(Yanbu)(Yanbu)紅 海スーダン0200400600800kmオマーン出所:各種資料より筆者作成図7ホルムズ海峡の代替原油輸送ルートうのパイプライン~紅海へと輸送されている原油(推定日量200万バレル)を除いた1,550万バレル弱の輸出も影響を受ける。回するパイプラインでの余剰輸送能 ホルムズ海峡を迂力としては既存のものはサウジアラビアのペトロライン(Petroline (東西(East-West)パイプラインともいう):サウジアラビア東部と紅海沿岸港ヤンブー(Yanbu)を結ぶパイプライン、総輸送能力は日量500万バレル程度と言われている)において日量300万バレル(図7)、また、この他にUAEがアブダビからホルムズ海峡の外に位置するフジャイラまでパイプラインを建設しつつあり、これが2012年11月に完成する予定で(2012年4月に操業開始予定であったが建設上の問題で完成が延期されたと伝えられる)、このパイプラインの能力は日量150万バレル(2012年1月9日には同国のハミリ(Hamili)エネルギー大臣が日量180万バレルにまで輸送能力を増強できる旨明らかにしている)であるが、その両者を合計しても、当該海峡封鎖によって支障を来す可能性がある石油輸出量には遠く及ばないことになる。このような面からも市場での石油供給途絶懸念が煽られることになり原油相場を高止まりさせることとなった。5. 2011年の地政学的リスク顕在化が原油市場等に与えた影響 ここまで、2011年において発生した中東・北アフリカ地域における地政学的リスクの顕在化が原油相場にどのように影響したか、ということについて述べてきた。いずれも、当事者となる産油国の生産や輸出に影響を及ぼすのみならず、それが周辺諸国に波及する恐れもあり、なおかつ石油輸送上の重要地点が脅威に晒されることから、原油市場関係者の懸念が高じることにより、原油相場に上方圧力を加えやすくなる、というものであった。 さて、2011年の地政学的リスク要因の顕在化はその他の要因とともにさらに石油市場および産業より深部にも影響を与えている。この面について見ていきたい。なさらお、本件について論じる前に、もう1点ほど、2011年の原油市場における特徴的現象について触れることとしたい。 それは、WTIとブレントの価格差の拡大である。これについては、NYMEXのWTI原油の引き渡し地点であるオクラホマ州クッシング(Cushing)において、2011年2月8日にカナダのパイプライン会社であるTransCanadaがネブラスカ州スティール・シティ(Steele City)からクッシングまでのパイプラインの操業を開始したことから、その前後以降、カナダからさらなる原油がクッシングを目指して流入し、その結果よりクッシン62012.3 Vol.46 No.2アナリシスヨと原油を逆方向に輸送することになったこともあり、一時は1バレルあたり28ドル近くまで拡大したブレントとWTIの価格差は2012年初時点では10ドル程度となっている(ただ、一方で、2011年11月以降は、イランのウラン濃縮問題に絡むイランと西側諸国との対立の深刻化の流れから、イランから原油を輸入しており、かつ市場の近い欧州の代表油種であるブレントの価格が支持される状態となっている)。 他方、2011年は石油製品市場は必ずしも全世界的に堅調であったというわけではない。留出油需要については米国や南米等で一時堅調になっていた模様ではあるものの、欧州においては前年割れがしばしば発生していた他米国でも速報値ベースではあるが2011年末には失速してきた感があり、また日本においても東日本大震災後の復興による留出油需要は大きく伸びた、というわけではない。他方ガソリン需要は米国では2011年3月以来前年割れが続いている他、欧州や日本においても不振である。ただ、だからといって石油需給が緩和しているのかというと、必ずしもそうとも言えない状況が発生していた。これを説明するために、ここでは、石油在庫を主要各製品に分解して説明することとしたい。 まずガソリンであるが、ガソリンは米国を含めた北米、欧州、およびアジア太平洋のOECD諸国においては需要が不振であり、2011年は前年割れが継続している状態にある(図8)。また、このようなことから、在庫もこの時期としては比較的多い状態にある(図9)。このため、これらの高水準の在庫がガソリンの価格を抑制する格好となった(また、ナフサについても、ガソリン需要が不振であることに加え中国等での石油化学産業向け需要も弱いことから、需給についてはむしろ緩和感が発生した)。 他方、北米においても原油価格はWTIの価格の影響北米欧州アジア太平洋12345678910月%024-2-4-6-8-10出所:IEAデータを基に作成図8OECD諸国のガソリン需要増加率(2011年、前年同月比)グでの原油在庫が高水準(つまりWTIの引き渡し地点であるクッシングでの石油需給緩和状態)を維持する状態が顕著になるとの市場の観測が増大したことが、WTI価格に対して継続的に押し下げの圧力を加える結果となった面が大きい。 もっとも、この現象はブレント側にも要因が見られる。リビアでは2011年2月20日にカダフィ政権派と反政権派との衝突が激化するとともに事実上の内戦状態に突入したことで、同国の軽質低硫黄原油を中心とする原油の輸出先である欧州において当該輸出が途絶するのではないかとの市場の懸念が増大した。ただこれは、ブレントとWTIの価格差にそれなりの影響を与えたと考えられるものの、例えば2011年2~4月においては、リビアでの内戦状況等において新たな展開が発生した時にはWTIとブレントの価格差が拡大する場合もあったが、その後は再び縮小するなど、リビアの要因だけでは、ブレントとWTIとの価格差拡大に対する影響力としては不安定であった。 しかしながら、その後リビアからの原油輸出停止状態が続くとともに、ブレントと同じ英領北海で生産される原油という理由からブレント原油価格に影響を与えるForties Blend(API比重44.1度、硫黄分0.19%の軽質低硫黄原油で、生産量は日量60万バレル程度と言われている)を構成する原油を供給するBuzzard油田(生産量日量20万バレル)において資機材の不具合により原油生産が半減したことから、6月に入ってForties Blendの出荷数量の低下が目立ってきた(Forties Blendについては、10月分の出荷についても依然2~8日程度の遅延や出荷取り消しが発生するなど混乱した)。 このため、市場関係者の間で北海地域からの原油供給低下に伴う石油需給の引き締まり感が増大した。さらにこのような状況を材料として、市場では両者の価格差拡大を見込みつつ原油相場全体を変動させるリスクを回避した取引(つまりWTI先物契約を売却する一方でブレント先物契約を購入)が発生したことにより、それが実際に両者の価格差拡大に寄与していると見る向きもある。 2011年8月下旬以降は、リビアで内戦が事実上終結状態となっており、内戦前に同国で活動していた外国石油会社の一部もリビアでの操業再開作業を進めていると伝えられる。同国での原油生産は当初の推定よりも早く回復してきており、他方、Buzzard油田の生産状況も回復してきたと伝えられることから、この面ではブレント原油に対する押し上げ圧力は低減してきている一方で、従来ヒューストンからクッシングへと原油を輸送していたSeawayパイプラインがクッシングからヒューストン7石油・天然ガスレビュー中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察ュ迫ぱ出油在庫はなお一層減少したことにより、これを含めた中間留分の在庫は、2011年10月末時点では、この時期としてもかなりな低水準となった(図13参照、但し、2009および2010年よりは相当程度減少しているが、実は2008年以前の水準に比べればまだ多い)ことから、ひっ懸念が冬場の暖房油需要期を前にして市場では需給逼発生、欧州の留出油価格が米国のそれに比べて上昇することになった。 他方、欧州に石油製品を輸出していたシンガポールでは9月28日にShellのプラウブコム(Pulau Bukom)製油所(精製能力日量50万バレルでShellの保有する製油所としては世界最大の原油処理能力を有する)が火災で操業を停止、10月2日には当該製油所からの石油製品の出荷に対して不可抗力条項を適用する旨同社が発表した(10月10日には部分的に操業を再開する作業に入ったことが明らかになっているが、火災前の操業状態になるのは2011年末になるとShell側は見込んでいると伝えらを受ける中西部やカナダといった一部地域を除き、大手の地域はブレントの影響を受けやすいが、2011年はリビアでの内戦に伴う軽質低硫黄原油(主に欧州向け)の輸出停止、ナイジェリアからの輸出停止、北海Forties油田群での不安定な原油生産等を反映してブレントの価格は高水準で推移した。この結果ガソリンと原油の価格差が縮小し精製利幅が確保できなくなった(図10)。欧州においては軽油および暖房油といったいわゆる留出油についても2011年の需要はガソリンほどではないにせよ低下している(図11)ことから、特に欧州においては製油所において精製利幅が伸び悩んだこともあり、製油所の稼働が3月以降9月までほぼ継続して前年割れするほどの状態であった(図12)。そして製油所の稼働が低下したことに伴い製油所も必要以上の原油在庫の保有に消極的となり、その結果原油在庫が低下するとともに、留出油の生産と在庫も減少気味となった。 そして、欧州では秋場のメンテナンス時期に突入、留812345678910月%02468-2-4-6OECD全体北米欧州アジア太平洋日50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 200020012002200320042005200620072008200920102011年※:在庫日数=月末在庫量÷直後3カ月間の1日あたり需要出所:IEAデータ他を基に推定出所:IEAデータを基に作成図9OECD諸国の各年10月のガソリン在庫日数推移図11欧州OECD諸国の留出油需要増加率(2011年、前年同月比)日量百万バレル1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 123456789101112月234567891011月ドル/バレル2520151005-5-101出所:NYMEX、ICEデータを基に作成出所:IEAデータ他より推定図10米国ガソリン先物価格とブレント先物価格の差(2011年)図12欧州OECD諸国の原油処理量増減(2011年、前年同月比)2012.3 Vol.46 No.2アナリシス黷トいる)ことに加え、中国でも冬場を控えて電力向けの軽油に関して品薄感が出てきた。これは、中国政府が電力料金を抑制したことにより、利幅が確保できない発電所が稼働を低下させていた結果、冬場に電力不足の可能性が増大したことから、工場等での自家発電向け軽油の需要が増加する恐れが出てきたうえ、中国では従来から原油相場上昇に対して政府が石油製品の小売販売価格を規制してきたこともあり、製油所でも精製利幅の確保が困難であったことから稼働が低下していたことにより軽油等の在庫が堅調に積み上がっていたわけではなかったことに加え、秋場の製油所メンテナンス作業が当初予想よりも大規模なものとなったことから供給が伸び悩んだことが一因と言われる。 このようなことから、予想される冬場の自国の軽油不足に対処するために11月初めに中国の石油会社が軽油の輸入を行い始めたことから、アジア市場でも軽油需給が引き締まり始め、シンガポールでの中間留分の在庫が低下した他、アジア太平洋のOECD諸国においても留日42 40 38 36 34 32 30 200020012002200320042005200620072008200920102011年※:在庫日数=月末在庫量÷直後3カ月間の1日あたりの需要出所:IEAデータ他を基に推定図13欧州 OECD諸国の各年10月の留出油在庫日数推移日28 27 26 25 24 23 22 21 200020012002200320042005200620072008200920102011年出油を含めた中間留分の在庫が低下するなどの影響が生じ始めた(図14)。その結果、アジアと欧州での留出油価格差の拡大が限定的なものとなったことが、アジア等から欧州向けの留出油の流れを抑制する格好にもなった。 米国では夏場のドライブシーズン到来から製油所でのガソリン生産増加とともに、留出油の生産と在庫も増加したが、秋場のガソリン不需要期に入るとともに製油所のメンテナンスシーズンに突入したこともあり、石油製品の生産が伸び悩んだ。他方米国では、2011年央に比べて経済が安定してきていることによる物流部門等向けの軽油需要が比較的堅調であったことに加え、中西部では、秋場の穀物収穫作業に伴う農機具稼働や、ノース・ダコタ州におけるシェール・オイル開発事業向けの軽油需要が発生したうえ、欧米間での当該製品価格差拡大が見られたことから欧州への留出油輸出も活発化した模様であり、同国を含む北米での留出油在庫も減少、2011年10月末時点においては、この時期としては、欧州同様2009年および2010年と比較して相当程度低い水準となっている(図15)(但しこれも欧州同様2008年依然と比較すると、必ずしもそれほど低いというわけではない)。 このように、特に2011年後半はガソリンの需要が弱かったことが当該製品価格を抑制した一方で、原油相場が高止まったことから、製油所での精製稼働が低迷し、そこに種々の要因が加わった結果、留出油の在庫が世界的に減少し、冬場の北半球での暖房シーズン突入を前にして市場での需給逼迫感が強まる、といった状態で混乱を見せた。日40 38 36 34 32 30 28 26 200020012002200320042005200620072008200920102011年※:在庫日数=月末在庫量÷直後3カ月間の1日あたりの需要出所:IEAデータ他を基に推定※:在庫日数=月末在庫量÷直後3カ月間の1日あたりの需要出所:IEAデータ他を基に推定図14アジア太平洋OECD諸国の各年10月の留出油在庫日数推移図15北米OECD諸国の各年10月の留出油在庫日数推移9石油・天然ガスレビュー中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察. 世界精製産業の動きが原油価格に影響を及ぼす 低迷する製品需要と製品価格、そして高止まる原油価格、その結果は以上見てきたように、精製利幅に伴う製油所の稼働の低下である。さらに、最近では事態はそれではすまなくなってきている。欧米等先進国では精製利幅が確保できないことから、製油所が操業を停止したり、また売却等を行うことを通じて撤退したりするところが出てきている(表)。このなかにはSunocoのような、下流専業の企業ですら、製油所の操業から撤退する意向を示している一方で、欧州ではスイスの独立系精製会社であったPetroplusが破たんする、といった例が見られる他、ConocoPhillips、Marathon等の企業は精製・販売部門を分社化、Hessは米国ヴァージン諸島で操業していたベネズエラ国営石油会社PDVSAとの共同事業であるHovensaのSt. Croix製油所(精製能力日量50万バレルだが、最近では日量35万バレル程度で操業していたとされる)の操業を停止、Murphyも精製・販売部門を売却しつつある。 他方、ConocoPhillipsを除く大手国際石油会社も、欧州を中心として製油所の売却や石油貯蔵基地等への転換を検討している。そしてその大部分は収益性の良好な上流部門に集中していくものと見られる(もっとも大手国際石油会社は上流部門の規模の大きさゆえに-1.5-1.00.50.0-0.52.52.01.51.0日量百万バレル3.0ある程度石油販売先を確保しておく必要があることから精製・販売部門からの完全撤退や分社化には否定的であるとされる)。 これにより世界的に精製部門における需給が引き締まり製品価格が上昇するかというと、そういうわけではないかもしれない。中国やインド等では、今後も精製能力の拡大が旺盛に行われていくと見られる(図16)。その製油所は大規模かつ最新鋭のものであり、軽質製品の生産(但し量的にはどちからかというとガソリン)に優れ世OECD旧ソ連中国その他アジア中東アフリカその他南米需要増加20092010201120122013201420152016年2008出所:IEAおよびBP統計データを基に推定図16世界の原油精製能力増加実績と見通し表最近の先進国の主な製油所の停止例発表日会社名製油所名場所精製能力(日量万バレル)閉鎖(予定)時期備考2011年9月27日 ConocoPhillipsTrainer2011年12月1日SunocoMarcus Hook2011年 9月 6日SunocoPhiladelphia2012年1月19日HovensaSt Croix2011年3月31日2012年1月20日PetroplusPetroplusReichstettCressier米国ペンシルベニア州米国ペンシルベニア州米国ペンシルベニア州米国領ヴァージン諸島フランススイス2012年1月20日PetroplusAntowarpベルギー2012年1月20日PetroplusPetit Couronneフランス19183450871116出所:各種資料を基に筆者作成売却先を模索中、6カ月以内に買い手が見つからなければ設備廃棄当初の2012年7月の閉鎖予定を前倒し発表後操業停止2011年12月1日2012年2012年7月以前(予定)売却先を模索中2月半ば(予定)貯蔵施設へ転換貯蔵施設へ転換2011年4月資金調達上の問題で停止中資金調達上の問題に絡む労働争議で事実上停止中資金調達上の問題に絡む労働争議で事実上停止中102012.3 Vol.46 No.2アナリシス癘タすることにより在庫が減少、その結果軽油先物価格が上昇するのであるが、それ以上に先行き精製利幅の拡大から製油所での原油購入意欲増大を見越した原油先物契約の購入活発化により、原油相場が製品相場以上に上昇するので、製油所にとっては精製利幅の拡大の機会といった恩恵にあずかれるわけではない状況が出現することも想定される。 このように、今後世界の石油市場においては原油生産と石油消費のみならず、その間に存在する精製産業の動向も考慮しつつ、原油や石油製品需給と価格に注意していくことが肝要であろう。その他軽 油ジェット燃料/灯油ガソリンナフサエタン/LPG重 油量百万バレル01234567日-1出所:OPEC World Oil Outlook 2011データを基に作成図172010~2015年の世界石油製品需要増加内訳界的に見ても競争力の強いものになる。このようなことから、引き続き欧米および日本の精製部門は、米国メキシコ湾岸における製油所のようにさらに高度化や精製能力の増強を実施することにより競争力を強化するといった動きも一部に見られるものの、特に高度化の程度が低く老朽化した中小規模の製油所を中心に、今後も精製能力の削減がさらに進むと考えられる。したがって石油市場は将来的には、アジア等の発展途上国が精製部門の中心を担い、欧米等の先進国はそのような諸国から価格の安い石油製品を購入して販売する、といった状況に移行する、といった展開になると思われる。 その意味では「消費地精製主義」が崩れていく可能性も指摘できる。ただ、アジアと欧米では石油を輸送するにも1カ月以上を要することから、特に世界の精製産業の移行期では、例えば欧米での製油所が経済的理由等により突然操業停止を発表することに伴う状況に市場や産業における他の参加者が迅速に対応できず、その結果製油所メンテナンス時期を中心として、消費地での在庫が予想以上に減少する結果、製品価格や原油価格が大きく変動するといった影響が発生する恐れがあるので、注意する必要があろう。また、今後は発展途上国の経済発展に伴うトラック輸送等物流活動の活発化などに伴い軽油の需要が増加すると見られている(図17)一方で、それに対してガソリン需要の増加は後れを取ることから、ガソリンの需給が緩和する反面、軽油の需給が相対的に引き締まることが予想される。そのため、前述のとおり春場や秋場の製油所メンテナンスシーズン等で、軽油生産が【主な参考文献】1. 米国エネルギー省エネルギー情報局(U.S. Department of Energy/Energy Information Administration)(EIA)各種レポート類2. 国際エネルギー機関(International Energy Agency)(IEA)オイル・マーケット・レポート及び世界エネルギー展望3. 石油輸出国機構(Organization of Petroleum Exporting Countries)(OPEC)月刊オイル・マーケット・レポート及び世界石油展望4. 野神隆之, 2011年11月,「中東・北アフリカ情勢と石油問題」国際問題2011年11月号(No. 606), 日本国際問題研究所5. 野神隆之, 2011年11月, 「欧州債務問題解決期待と予想を上回る良好な米国経済指標などで、1バレル当たり100ドルに到達する原油価格」, JOGMEC石油・天然ガス最新動向6. 野神隆之, 2012年1月, 「事前予想よりも良好な米国等経済指標と地政学的リスク要因が原油価格を押し上げ」, JOGMEC石油・天然ガス最新動向11石油・天然ガスレビュー中東・北アフリカ情勢が世界石油市場、産業に及ぼす影響に関わる一考察キ筆者紹介野神 隆之(のがみ たかゆき)早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルバニア大学大学院修士課程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、現在JOGMEC石油調査部上席エコノミスト(石油・天然ガス市場および産業担当)。趣味は旅行(国内・国外を問わず)。122012.3 Vol.46 No.2アナリシス
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2012/03/19 [ 2012年03月号 ] 野神 隆之
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