ページ番号1006470 更新日 平成30年3月5日

JOGMEC 国際セミナー

レポート属性
レポートID 1006470
作成日 2012-05-18 01:00:00 +0900
更新日 2018-03-05 19:32:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 天然ガス・LNG非在来型
著者
著者直接入力 市原 路子
年度 2012
Vol 46
No 3
ページ数
抽出データ JOGMEC石油調査部市原 路子(編者)JOGMEC国際セミナー―シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・ 天然ガス市場の新秩序―はじめに 2012年以降の世界のエネルギー情勢はどのように展開するのか ――2012年2月7日、JOGMECは米国および英国から著名な専門家を招へいし国際セミナー「シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序」を開催しました。本稿はその概要についての報告です。 国際セミナーでは、コンサルタントで米国の石油産業・政策等に精通するルシアン・パリアレシ氏と元米国エネルギー省情報局局長、ガイ・カルーソ氏に、それぞれ北米のシェールガス・シェールオイル開発と北米からのLNG輸出の最新動向についての講演を、英国からは中東諸国に詳しいコンサルタントのレオニダス・ドローラス氏より、サウジアラビアにとって必要な原油価格水準について“アラブの春”後の動きを踏まえて講演をいただきました。また、JOGMECからは石油・ガス市場および産業を担当する上席エコノミストの野神隆之が、石油・ガス市場を見通す上での重要ポイントを報告し、これら4名の専門家からの講演後、まとめて質疑応答が行われました。当日のセミナーには各界から200名を超す多数の出席をいただき、活発な質疑応答もなされ、シェールガス並びにアラブの春に対する関心の高さを改めて感じた次第です。出所:JOGMEC写1会場の様子 各氏の発表の要旨は以下のとおりです。≪パリアレシ氏≫ 米国では、シェールガス開発だけでなくリキッド分の多いシェール層の開発が活発化しており、まさに石油のルネサンスが起きようとしています。また、上流産業の変革は下流ビジネスの変革にもいずれつながると、示唆。例えば、精製事業の経済性向上、石油製品の輸出能力の拡大等につながっていく可能性を挙げています。≪カルーソ氏≫ 現在、技術的なブレークスルーによってもたらされた米国の新潮流は、米国だけでなく世界規模でもグッドニュースであると総括しました。エネルギーセキュリティの観点からも環境面からも明るいニュースと強調しています。シェールガス増大に伴うLNG輸出に関しては、国内産業界において価格上昇の懸念が高まり、今年の議会最大のイシュ-と予測しています。しかし関係者の多くは、価格の上昇幅はごく僅かであるとの見方も紹介し、内情を解説しています。17石油・天然ガスレビューアナリシス痺hローラス氏≫ 歳入の90%を石油収入に依存するサウジアラビアにとって、同国の歳出予算額から逆算すると、歳入予算確保に必要な原油価格の水準は95ドル/バレルと試算しました。サウジにとって2009年で64ドルだった「必要水準」が2011年末に95ドルまで上昇し、悪循環化していると説明。またアラブの春を受け、イスラムの“覚醒”が政府内に恐怖感を生み、役員や軍人の突然の待遇改善など国民の幸福感を担保しようとしている政府内の動きも明らかにしました。≪野神氏≫ 北米でのシェールガスの出現でガス需給の将来が塗り替わったが、世界規模でのシェールガスの発展は地質調査や制度の不十分さから、本格化は2020年以降と予測しました。また、世界LNG市場は寡占化が進んでおり米国でのシェールガス増産に伴いLNGの輸出が開始されたとしても、当面アジア太平洋地域では価格競争が発生する可能性は低いと指摘しました。他方、原油価格100ドル/バレルであれば、タイトオイルは堅調に伸びる一方、高原油価格が需要に影響を与えることから将来的には需給が緩和され、その結果現在の高水準の原油価格の持続は難しいのではないかと考察しています。1.パリアレシ氏講演 演題「北米における石油ルネサンスの波」 本日は、米国のシェールガス開発とともに、テクノロジーの進化によって石油開発でもルネサンスが起きているというお話です。石油の大増産が起きるかどうかだけでなく、その増産により米国の下流事業や、また時間をかけて世界中にどんな影響を与えるかを考えていきたいと思います。(1)北米のポテンシャル 業界や専門家から成る独立した専門機関、ナショナル・ペトロリアム・カウンセル(NPC)によると、積極的な開発プログラムを推進し技術開発が進展すれば、非在来型の石油資源は豊富に賦存しているので2035年までに1,000万b/d~1,200万b/dまで増産できるとの見方で(図1)。す カナダにも膨大な埋蔵量が存在しています。そのほとんどはオイルサンドで開発し米国に供給しています。カナダのNEB(国家エネルギー委員会)の見通しによると、同国は2035年までに600万b/dまで石油生産が増大す出所:JOGMEC出所:Historical data from EIA and National Energy Board of Canada写2パリアレシ氏図1北米の生産ポテンシャル182012.5 Vol.46 No.3アナリシス017/12/12017/1/12016/2/12015/3/12014/4/12013/5/12012/6/12011/7/12010/8/12009/9/12008/10/12007/11/12006/12/12006/1/12005/2/12004/3/12003/4/12002/5/12001/6/12000/7/11999/8/11998/9/11997/10/11996/11/11995/12/11995/1/10出所:EPRINC図3非在来型石油の生産量(1995~2017年)(3)上流から下流へ 上流産業での変化というのはルネサンスが下流部門でも起こることを意味しています。要するに、石油製品が輸出産業に発展する可能性を秘めているとも言えます。 精製事業に利益をもたらす三つの要素とは、一つには、million barrels per dayEagle Ford LiquidDaily AverageBakken/Three ForksLiquid Daily AverageNiobrara/CodellLiquids Daily AveragePermian Basin LiquidsDaily Average5.04.54.03.53.02.52.01.51.00.5るという大胆な予測を出しています。オイルサンドは深い層からの油が回収できるSAGD法という生産手法が期待されています。今後も米国がカナダからの輸入を増やすにはパイプラインの敷許可が必要であり、賄えなければトラックや鉄道で輸送していくことになります。設せふつ(2)米国のシェール開発と石油増産 またシェールオイルについては、シェール層が米国各地に分布しており、そのほとんどが私有地に存在しています(図2)。そのため、政府から鉱区付与を受ける必要がなく、民間でのリースにより権益が得られるためシェール開発が進展しています。歴史的には、メキシコ湾沿いで生産し内陸部に運んで精製してきましたが、現在は、逆の流れで、カナダ側や米国北部において石油の生産が伸びています。そのために南部向けの輸送インフラが必要であり、南部の産業センターに輸送しなければなりません。 米国ではリキッド分の多い非在来型資源としてBakken Shale、 Niobrara Shale、Eagle Ford ShaleとPermian Basinの四つが挙げられます。これらのシェールオイルの生産により、減退していた石油生産が反転し始めました。現在、国内生産の10%をシェールオイルが占めています。技術改善等によって150万b/dが、2017年ごろには300万~400万b/d(Permian Basinを含め)まで増産する可能性があります(図3)。19石油・天然ガスレビュー出所:EPRINC Additions図2米国シェールオイルプレイJOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-ov-11Sep-11Jul-11May-11Mar-11Jan-11Nov-10Sep-10Jul-10May-10Mar-10Jan-10Nov-09Sep-09Jul-09May-09Mar-09Jan-09Nov-08Sep-08Jul-08May-08Mar-08Jan-08Nov-07Sep-07Jul-07May-07Mar-07Jan-07Barrels Per DayNorth DakotaEastern MontanaSouth DakotaTOTAL600,000500,000400,000300,000200,000100,0000North Dakota Now Accounts for 8% of US Production!!!! 出所:EPRINC図4BakkenShaleのあるWillistonBasinの生産量出所:North Dakota Pipeline Authority図5NorthDakotaの生産原油の輸送手段mcf/d700,000600,000500,000400,000300,000200,00000,00001Barrels Per DayLIQGAS70,00060,00050,00040,00030,00020,00010,00001999/12/12002/10/11992/11/12009/11/11991/6/11990/1/11998/7/11995/9/11994/4/12001/5/11997/2/12007/1/12005/8/12004/3/12008/6/12011/4/1出所:HPDI図6Niobraraの生産量20メキシコ湾沿岸部では原油つまり原料コストが安価であること、二つ目に販売先がポテンシャルの高いラテンアメリカに容易にアクセスができること、三つ目に、油種が北米の製油所に合致したものであることが挙げられます。ただしこれで多くの製油所で付加価値をつけて即座に輸出できるようになるわけではなく、最近では国内北東部を中心に70万b/dの精製能力が閉鎖されています。北東部だけでなくHessがベネズエラPDVSAと操業するバージン諸島の重質原油用の製油所も閉鎖されました。 しかし、興味深いことに、ガスについて米国エネルギー省情報局でもLNGの輸入見通しが大きく外れ、また企業でさえも予想が外れました。多くの企業が輸入を見込んで基地を建設したものの、その稼働率は現在8%以下と低調です。このようにガス市場でパラダイムシフトが起きました。同様に石油にも起きるかどうかまだ分からないが、大変興味深い示唆を与えていると思います。(4)主なシェールオイル さて、次に個々のフィールドについて見ていきたいと思います 最も生産が行われているのが北部のBakken Shale。ここに石油があることは昔から分かっていたが、どう取り出せばよいのかが分からなかった。稼働リグの数がBakkenのあるノースダコタ州で伸びています。重要なことは、石油を見つけるのと併せてガスも見つかるということです。Bakkenで油を生産してもガスも併せて生産されます。ガス価格があまり高くなくても併せてプロパン、エタンなどが高値で売れるので儲かることになります。 シェールの資源としての特徴は、ガスや油の移動が油層内でほとんど起きないことです。浸透性のほとんどない地層に油・ガスがそれぞれ存在し、埋蔵量がそこに膨大に存在するということです。Bakkenでも埋蔵量は当初1億5,000万バレル程度と推定されていたのが、現在では110億バレルあるとされ、ある企業は200億バレルが存在すると主張しています。当地の事業者Brighamによりますと、開発技術がここ2、3年で急速に改善しています。水平掘り区間をより長く、また、水圧の破砕ステージ(段階)数を増やすよう改良して生産量を増やしています。多段階の水圧破砕を20~32のステージに増やし、単位あたりの掘削コストを削減しています。40ステージに増やしているところもあります。それによって生産プロファイル(生産量)が改善します。 この急速な変化は、「サイエンス」ではなく「アート(技2012.5 Vol.46 No.3アナリシスillion barrels per day250,000Barrels Per DayLIQGAS200,000150,000100,00050,000mcf/d600,000500,000400,000300,000200,000100,00002011/9/12010/11/12010/1/12009/3/12008/5/12007/7/12006/9/12005/11/12005/1/12004/3/12003/5/12002/7/12001/9/12000/11/12000/1/11999/3/11998/5/11997/7/11996/9/11995/11/11995/1/11994/3/11993/5/11992/7/11991/9/11990/11/11990/1/11989/3/11988/5/11987/7/11986/9/11985/11/11985/1/10出所:EPRINC図8PermianBasin主要生産地域の生産量 伝統的な生産地Permian BasinはSpraberryとWolfboneの二つのエリアが中心です(図7)。あらゆる予測を上回る成果がここでは得られています。この地域は埋蔵量が豊富で90年間も生産が行われてきた地域ですが、再び開発が活発化しています。現在、20万b/dまで増産しています(図8)。 また、新たに期待が高まっているのがオハイオ州のUtica Shaleです。前出のフィールド以上に生産するのではないかと期待されており、先般Chesapeakeが試掘結果を発表したところです。術ノウハウ)」の世界で起こっていることだと言ってよいと思います。既に収益分岐点は50ドル/バレルを下回っています。掘削コストは1井あたり700万~1,000万ドルであり、収益が十分に得られている状況です。 BakkenのあるWilliston盆地は、2009年ごろ25万b/dでしたが、現在は50万b/dの生産が行われています(図4)。予想では80万b/d、高いケースでは90万b/dと予想しているところもあります。 次に、販売価格です。Bakkenで生産される油自体はBrent原油より価値があります。硫黄分も少なく軽質油で精製しやすい油種であります。しかしBrent価格に比較すると25ドルも割安で取引されています。それは周辺にパイプラインがないので鉄道輸送やトラックで長距離を輸送しているからです。現在、全生産の18%が鉄道輸送によります(図5)。内陸部の小さな製油所でも精製事業に収益が出てくるわけです。 コロラド州やワイオミング州に広がるNiobrara Shaleについては、短期間で急速に事態が改善しています。2007年に2万b/dでしたが現在6万b/dまで生産が増えています(図6)。 Eagle Ford Shaleは、世界で最も掘削が活発なテキサス州にあり、180平方マイル以上の規模で広がっています。油は硫黄比率が低く、API比重45~65°で超軽質油です。現在の生産量は20万b/d程度。また南部側はメキシコ側にもつながっており、将来的には開発の可能性があると見ています。21石油・天然ガスレビュー出所:EPRINC図7PermianBasinJOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-.カルーソ氏講演 演題「米国からのLNG輸出の見通しと世界へのインパクト」(1)グッドニュース 技術的なブレークスルーによってもたらされた新潮流は、米国だけでなく世界にとってもグッドニュースです。また、IEAをはじめとしてエネルギーセキュリティを考える上でもグッドニュースです。さらにガス利用が拡大すれば環境上の恩恵も望めます。 他方、国内では2012年11月に大統領選挙を控え、シェール開発で活気づくオハイオ州やペンシルベニア州が、オバマ政権が真剣に取り組んでこなかった福祉、財政問題、雇用確保問題の政策面において鍵を握っていると言えます。(2)シェールガス エネルギー省情報局(EIA)の長期見通しでは、1次エネルギーのなかでその比率が伸びるのは政策的な後押しがある再生エネルギーとバイオ燃料です(図9)。他方、天然ガスは経済性が劇的に改善されたことでその期待が高まった唯一のエネルギー資源です。 シェール層の分布から見て大変興味深いことは、伝統的な産油州だけでなく全国30州に広がっていることです。自分がEIA局長に就任したころシェールガスの生産量は米国全体の2%でしたが、今ではすっかり様相が変わりました。また百万btuあたり4~5ドルだった開発コストが現在では2.5ドルまで下落しています。資源量も十分にあり、将来的には輸出も可能になるでしょう。オバマ大統領は原発推進で10~12基の新設を期待しましたが、ガスの魅力が格段に上昇し、今では5~6基に変更しています。(3)LNG輸出の可能性 2008年ごろ、ガス価格見通しは2035年に百万btuあたり7~8ドルと予測していましたが、だいぶ下方修正されて短期的には5ドル以上にはならないだろうと見ています。またEIAの見通しでは2016年に米国からLNG輸出が始まり、2021年にガスの純輸出国に転じると予想しています(図10)。LNG輸出は9件が提案されていますが、Sabine Pass基地はFTA締結国向けの輸出権だけでなく非FTA国向けの輸出許可も得ています。それ出所:JOGMEC写3カルーソ氏Shares of total U.S. energy2010ProjectionsU.S.dry gastrillion cubic feet per yearU.S.primary energy consumptionquadrillion Btu per yearHistory12010080604020200520102015202020252025203020302035年2035年Net importsNet imports2000199519905 0History2010ProjectionsConsumptionConsumptionDomestic supplyDomestic supply302520151001980198519901995200020052010201520202025202520302035年2035年2030出所:EIA - Annual Energy Outlook 2012 Early Release出所:EIA - Annual Energy Outlook 2012 Early Release図9米国の1次エネルギー消費見通し図10ガスの需給見通し222012.5 Vol.46 No.3アナリシスネ外の提案は非FTA締結国向け輸出権についてエネルギー省が現在、審査中です(図11)。この問題の関心はどんな価格でどれだけが輸出されるかです。 LNG輸出に関しての国内議論の中心は、産業界、電力業界を含め消費者が国内のガス価格に影響を及ぼすのではないかという懸念です。EIAが輸出シナリオを設定して国内ガス価格への影響を分析しました。一つのシナリオは、2020年には現在の生産量の20%を輸出するというアグレッシブな輸出量が想定されています。この報告書によると、輸出規模によって価格が将来20%上昇することもあれば、ハイエストケースでは価格が50%上昇することがあるとも予想しています(図12)。しかし関係者の大多数の見方というのは上昇の範囲は極めて低いということで上昇幅5%程度、あるいは上昇しても20%程度、つまり1.5ドル程度との認識です。ただ、輸出が始まれば価格がいずれ上昇すると見ています。(4)まとめ:世界的な視点と米国内の視点 ガス資源は世界的に広がっています(図13)。また、非在来型のシェールガスは米国だけでなく、世界を見渡すと多くの国・地域にも存在しています。その影響度合いはまだ初期段階で分かりませんが、中国、アルゼンチン、ポーランドにあり、既に一部で調査が始まっています。 世界的な視野に立てば、世界の6割のLNG供給をアジア市場で占めています出所: Office of Oil and Gas Global Security and Supply,Office of Fossil Energy,U.S. Department of Energy図11各LNG輸出計画の輸出権取得状況年年年年出所: U.S. Energy Information Administration's (EIA) National Energy Modeling System (NEMS) 図12LNG輸出によるガス価格上昇の試算23石油・天然ガスレビューJOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-.65.83.00.8Europeが、これは北米にとって重要ではありません。重要なイシューは、ガス価格が急落し石油価格とのギャップが拡大していることです。石化業界では、LNG輸出によるガス価格への影響を心配しています。せっかく設備投資してもガス価格が上昇してしまえば、事業の経済性が将来悪くなるので心配なのです。 日本にとってみれば、北米からのLNGが、現在の日本の契約先である豪州のLNGと競合し供給されます。パナマ運河が将来拡張され、LNG船が通行可能となり輸送代が3ドルから半分で済むことにもなります。 しかし、よい面もあればその反対の面にも注意を要します。開発時においてテクニカルな面での制約があり慎重であるべきです。環境を含めた操業規制等強化も考えられます。特に、州政府の監督が強まるでしょう。BPのような事故は誰も見たくないものです。151050NorthAmerica*1,000 TCF20UnconventionalRussia/Caspian2.6Middle East1.3Africa1.4Asia PacificConventionalLatin AmericaWorld?World: ~175 years coverage at 2008 Demand?Large unconventional gains anticipated*CERA’s estimate for North America resource recently increased to 3,000 TCF 出所:EIA, USGS, NPC; Excludes volumes already produced図13世界のガス資源量(在来型+非在来型)3.ドローラス氏講演 演題「サウジアラビアが必要とする原油価格水準は?」(1)95ドル/バレル サウジアラビア(以下「サウジ」)のターゲット価格は以前にも増して重要なテーマとなっています。なぜなら、石油価格は投資を行う上での経済評価の大前提であるからです。価格次第で投資がダメになってしまいます。これはエネルギービジネスに携わる全ての人にとって関心があるテーマでしょう。 年度内の支出から推定できるサウジのターゲット価格出所:JOGMEC写4ドローラス氏は現在95ドルです。サウジは、250万b/dの余剰キャパシティを保有し、世界の65%を占有しています。クウェート、カタールやUAEは多少の余剰能力を保有しています。 しかし、昨年のリビア危機ではサウジはこれを利用しませんでした。2011年1~4月まで140万b/dの生産が減少してクウェートとUAEが多少生産を引き上げましたが、サウジは増産せず、ネット(正味)では大幅に減産でした。このためブレント価格は97ドル/バレルから125ドル/バレル(1~4月)に上昇しました。サウジは原油価格と歳入が99%相関関係にあり、価格上昇で今回も歳入が増大しました。(2)財政支出の増大 サウジは1980年代、1990年代と長い間財政が赤字でしたが、2003年以降、原油価格が上昇したことで財政は回復し、大幅な黒字でした。2009年は一時赤字でしたが、すぐに2010年に黒字に戻しました。2011年は当初、赤字予算でありましたが予想外にもリビアの減産で価格が上昇し大幅な黒字となりました。2012年も前年に満たないが黒字が予想されます(図14)。 2011年の歳出予算規模は1,550億ドルほどでしたが、実際の歳出額は2,144億ドルに膨れ上がったと推定して242012.5 Vol.46 No.3アナリシスx、増加すると見ています。最大の支出は国防費で、教育費と社会福祉費がそれに続きます。 アラブの春による“覚醒”によって、サウジ政府は国内の不安定化を極度に恐れたと見られます。政府は教育・人件費、社会的厚生への支出を大幅に引き上げています。昨年、突然役人の給料を15%も引き上げましたし、軍人の給料も大幅に引き上げました。こうやって国民の幸福感を保とうとしています。先日、Shellが高収益に満足げでしたが、石油会社は巨額の収益を上げています。しかしその裏には、サウジが国民の幸福を担保しようとしていることが深く関係しているのです。 また、推定によると、サウジはGDPの32%を国防費います。2012年は歳出予算規模1,840億ドルに対し歳入予算1,870億ドルと30億ドルほどの黒字を見込んでいますが、実際の歳出規模は2,470億ドルほどになり、同歳入規模2,750億ドルとの間に約280億ドルの黒字が想定されます(図15)。 国防費等の支出内訳についてサウジは一切公表していないので、推定するしかありません。入手できる事実を基に分析しました(図16)。支出額は2012年に約15%The OPEC basket priceThe OPEC basket price年2012201020082006200420022000199819961994199219901988198619841982198019781976160140120100806040200-20-40出所:SAMA, OPEC and CGES出所:SAMA, OPEC, MEES and CGES図14サウジの財政収支図15サウジの歳入と歳出CGES 2011shares%32.02012 budgetshares%31.0CGES 2012shares%32.0DefenceEducation,manpower dev.Health and social affairs24.615.825.017.0Municipal servicesTransport & CommunicationsInfra., Indust., Water, Agricul.Oil and Gas IndustryDebt Interest6.08.29.52.51.46.08.19.42.41.127.216.65.47.18.72.20.8100.0100.0100.0出所: SAMA, OPEC, MEES and CGES図16サウジの支出内訳(推定)25石油・天然ガスレビューJOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-6に割り当てています。世界的には12%が平均的なところですから、これほど国防費の比率が高い国は北朝鮮以外に存在しません。サウジは軍人を数多く抱え最新の戦闘機を購入するために軍事費がかさむのも特徴です。(3)価格上昇の悪循環 サウジは価格上昇サイクルの悪循環に陥っています。2009年に64ドル程度だった必要価格が年々、徐々に上昇しています。2011年においてもこの悪循環は改善せず、年初の必要価格は90ドル/バレルだったのが、湾岸諸国の情勢不安定化で政府支出が膨らみ、必要価格は95ドルになりました(図17)。 日本にとってみれば価格を低く抑えて生産量を増やしてもらったほうがよいでしょうが、サウジにとってみればOPECとの関係において問題を抱えます。他のメンバー国と同様に増産の歩幅を合わせなくてはならないから、大幅な増産は難しいわけです。 昨年は、リビアの生産減によってOPEC必要量が増加し、現在は、欧州の厳冬による暖房油の急増、スーダン出所:CGES図17原油価格上昇の悪循環(2011)での生産停止、ナイジェリアでの生産減少があり100ドル/バレル以上の水準が続いています。したがって、これはサウジにとっては十分なレベルであると言えるでしょう。4.野神氏講演 演題「今後の石油・天然ガス市場を展望する上での重要なポイント」しんょく捗ちレポートでは、2021年には米国は純輸出国に転じるとの見通しに変わりました。2016年にはメキシコ湾岸からLNG輸出が開始される見込みです。 しかし、シェールガスの世界展開については、地質調査、法制、税制の整備が前提であり、時間がかかるでしょう。ポーランドの地質調査の結果も現時点ではあまり芳しくない。豪州ではCBM開発が一部で進していますが、世界的な非在来型ガス開発・生産の本格化は2020年以降になると見られます。ただし、米国ではシェールガスに先導され非在来型ガス開発・生産が急進展しましたので他国についても個別に注視していくことが重要です。 前述の通り2015年以降にCBMやシェールガスを含む天然ガスによるLNG輸出が出てきます。しかし、アジア市場でのLNG価格競争の発生には時間がかかると見ています。これは天然ガスの液化能力の保有者が限られているためです。現在、産ガス国の政府で40%(うちカタール14%)、メジャー企業(6社)で27%、また欧州事業者が8%で、これらによってLNGの75%が市場(1)ガス市場 米国天然ガスの純輸入見通しは近年、大きく変わりました。それまでの、LNG輸入が年々増加するとの見通しがシェールガス革命により下方修正され、最新のEIA出所:JOGMEC写5野神氏2012.5 Vol.46 No.3アナリシス86420%1?2?4?6?8原油価格(2010年価格、但し11年は名目、左軸)石油需要増加率(右軸)出所:BP統計データを基に推定18図19原油価格と石油需要増加率Bio-dieselEtha-nolタイトオイルタイトオイルタイトオイルタイトオイルタイトオイルタイトオイルCTLBTLOilshalesGTLHeavy oilBitumenOther EORCO2 EORArcticAll deepwaterAlreadyproducedMENAconv.oilOtherconv.oilResources to Reserves ? Production Cost1 Curve(not including a carbon tax)01000200040003000Available oil billion barrels500060007000800090001501401301201101009080706050403020100Production cost(2008 USD/bbl)出所: An updated version of the IEA's 2005 publication Resources to Reserves:Oil & Gas Technologies for the Energy Markets of the future to be published later this year図20100ドル/バレルの原油価格と供給19651965 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05 07 09 112001図18天然ガス液化能力の保有者内訳100ドルの原油-需要面からのアプローチ40%産ガス国政府・国営企業(うちカタール14%)大手国際石油会社欧州系企業日本企業豪州系会社米加独立系石油会社その他9%3%4%9%8%27%出所:各種資料を基に推定に供給されているという寡占状態(図18)にあります。したがって少なくとも短・中期的にはここに価格破壊者が入ってこない限り、現在の価格システムの変革は起こりにくいと思われます。Sabine Pass基地のようにHenry Hub価格が契約価格に採用されるケースも出ていますが、これはこのLNGがいわゆる米国本土での初めてシェールガスを含む天然ガス供給によるものであるということでリスクを伴っており、買い手が不安視していることを反映していると見られます。そして、このよはんゅうに入るためアジア太平洋地うな例はむしろ例外的な範域においてHenry Hub価格リンクの契約が主流になるには時間がかかるだろうと考えています。疇ちドル/バレル130120110100908070605040302010 (2)石油市場 原油価格に話を移しますと、ドローラス氏からはサウジの目標価格は95ドル/バレルが必要だとの説明がありました。関係者の話からも、例えばサウジの石油大臣もわれわれの希望は100ドル/バレルで安定させること、と発言していますし、バドリOPEC事務局長は1バレル当たり100ドルが生産国と消費国にとって適正な価格帯であると述べています。 しかし価格100ドル/バレルという石油価格をどう考えるべきなのか。これを、実質価格ベースで見ますと1980年代初頭および2008年の高騰時に匹敵します。1980年代には需要に悪影響を与えましたし、2008年の高騰期にも需要減が見られました。したがって今回も需要へのダメージが懸念されるわけです(図19)。 他方100ドル/バレルであれば、十分にタイトオイル(シェールオイル)プロジェクト等の経済性が確保されるので生産は今後上振れすることが期待できます(図20)。既にIEA(国際エネルギー機関)の見通しなどを見ても上方修正が見られます。市場関係者のなかには2020~2030年に300万~400万b/dのタイトオイルが生産されると指摘する向きもあります。 EIAでも、タイトオイルの増産で米国の石油純輸入量は徐々に減少していくという予想を発表していましたが、仮に2030年に400万b/dのタイトオイルの増産が達成できるのであれば、さらに石油輸入量が減少し、米国のみならず世界市場へも影響を及ぼすこととなります。このタイトオイルを盛り込むと、非OPEC生産が伸びて、OPECの市場占有率は僅かながらですが減少すると考えられます(図21)。また、将来的にOPECの生産余力も増加していくとも考えられます。(3)まとめ27石油・天然ガスレビューJOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-@天然ガス価格は、米国で2000年代半ばに上昇し、それを受けてシェールガス開発が進展し、かえってガス価格が低下しました。石油については、サウジ等が高価格を志向している一方で、輸送部門では代替がききにくいことから短期的には100ドル/バレルは維持可能ではないかと思われます。しかし世界石油需給においては変化の予兆(例えばタイトオイル増産)が現れており、かつ石油は天然ガスに比べて流動性が高いために、展開が速い特徴がありますので、タイトオイル増産は石油市場に対してより劇的な影響をもたらす可能性を秘めているのではないでしょうか。2012年2012年(2030年タイトオイル400万b/d)%42 41 40 39 200910111213141516171819202122232425262728292030年出所:米国エネルギー省データを基に推定図21OPECの市場占有率の展望5.質疑応答【質問①】 米国のシェールガス開発につき賛成・反対を主張する議員を教えてほしい。《回答》・賛成派は産油ガス州の議員(テキサス、ルイジアナ、オクラホマ等)。LNG輸出にも地元州は賛成しています。他方、非産油州のマサチューセッツ州議員(Markey氏)など数人が懐疑的です。環境問題(水利用、水処理)に懸念を示しています。しかし、シェールガス開発州は30州に広がっており、開発により雇用創出や州への収益増などにつながれば賛成派が増え、反対派は徐々に排除されるでしょう。(カルーソ)・シェールガス開発に関して連邦政府の議会レベルでは法案提出の動きもないのであくまでも州ベースの動きにとどまると考えます。(パリアレシ)【質問②】 ガス安で原油高であればGTL事業のポテンシャルは高まるが、その点どのように考えますか?《回答》・言えることは、ShellとSasolが行ったカタールの2案件はコストの大幅超過で工期が長期化しました。この経験が悪い影響を与えています。十分な投資ポテンシャルがあろうが、経験が悪く相当慎重になっています。(カルーソ)・技術的リスクと価格リスクがあります。技術リスクはメジャーや潜在的な事業者が経験を蓄積しつつあるのでそれほど心配する必要はありませんが、コスト管理につ出所:JOGMEC写6質疑応答の様子282012.5 Vol.46 No.3アナリシス「てはもっと経験が必要でしょう。また、二つ目の価格リスクに関しては将来的にガス価格が上昇してしまう、あるいは石油が下落してしまうリスクがあり、現実的には相当ゆっくりと具体化するでしょう。(パリアレシ)【質問③】 米国のLNG輸出の認可に関してどう見ていますか?《回答》・この輸出権の認可はエネルギー省ガス規制局だけでなく、FERC(連邦エネルギー規制委員会)からの認可も必要です。これは基地建設に関わるエンジニアリング上の要件で、より厳しい審査です。(パリアレシ)・法律上の解釈では、FTA締結国向け輸出権は議論の余地なく自動的に認められますが、LNG輸入国が多い非FTA締結国向けになると輸出権の発効は現時点で、Sabine Pass基地のみ。判断の基準は公共の利益で、今のところ、この最優先クライテリア(基準)は「国内のガス価格」です。しかしその問題は、価格上昇の幅が1ドルか、2ドルか3ドルか、どのあたりなのか、それは政治的な判断によってしまう。今年の議会でも議論の的でしょう。(カルーソ)・日米関係は非FTA締結国の関係すが、これまでのユニークな関係を維持しており、多方面で密接な協力関係にあります。LNGを日本に輸出しないという政治的な考えにはならないと思います。(パリアレシ)【質問④】 シェールガス増産に伴うNGL関連、つまり石化事業やLPG市場への影響を教えてほしい。《回答》・北東部にDow Chemical他2件がエチレンプラントの建設計画を提案しています。将来的にはNGLの輸出はあり得るでしょう。(カルーソ)【質問⑤】 米国ではガソリン需要が伸び悩んでいますが、これは構造的な変化なのか、あるいは特殊要因が何かありますか。《回答》・今回はLNG輸出に話を絞ったため指摘しませんでしたが、需要サイドも変革の時。構造的な変化が起きていると認識しています。米国のガソリン需要は2005年にピークアウトしたと考えられています。EIAの見通しで29石油・天然ガスレビューは、1ガロンあたり3.5ドルのガソリン価格で経済が低成長することを前提にしています。また、オバマ政権の燃費基準が適用されれば今後10年くらいで日本水準に追いつくのではないでしょうか。(カルーソ)・米国は長年、原油の純輸入国であり今後もそうでしょうが、将来的には石油製品の純輸出国になると思います。(パリアレシ)・需要に影響を与えるガソリン価格の高止まりの背景には、ニューヨーク港での価格が基準になっている点が挙げられます。ここではWTI価格より高いBrent価格の影響を受けやすい上、製油所が相次いで閉鎖したことで、将来に対するガソリン供給不安も発生しているといった事情もあり、それらが価格に織り込まれる格好となっております。(野神)【質問⑥】 イラクの生産増大はどうなりますか?《回答》・イラクの増産は思ったほど順調に伸びているわけではありません。しかし増産計画があり、クルド地域でも原油が増えています。しかし、輸出インフラ拡張が南部のバスラ港に限られているので、想定以上に増産に時間がかかるでしょう。現在、280万b/dのところ5、6年をかけて生産量が450万b/dを上回ってくると思われますので、OPECが生産枠外での増産を問題視するにしてもまだ先のことになります。(ドローラス)出所:JOGMEC写7質疑応答中の会場JOGMEC国際セミナー -シェールガスとアラブの春がもたらす世界石油・天然ガス市場の新秩序-ュ表者紹介Lucian Pugliaresi(ルシアン パリアレシ)President, Energy Policy Research Foundation (在ワシントン)レーガン政権下でホワイトハウス国家安全保障委員会で国際問題を担当した。FSU、中東に対する米国の事情に精通し、議会、政府関係者、エネルギー関連企業首脳等幅広い人脈を有している。Guy F.Caruso(ガイ カルーソ)元米国エネルギー省エネルギー情報局局長Senior Advisor,Center for Strategic and International Studies(〈CSIS〉在ワシントン)CSISは、Henry Kissinger、Brent Scowcroft、James R. Schlesinger等の米政府要人が名を連ねる米国では著名な研究機関。Dr.Leonidas P.Drollas(レオニダス ドローラス)Director and Chief Economist, Centre for Global Energy Studies(〈CGES〉在ロンドン)CGES(当機構リテインコンサルタント)の主要メンバーで世界有数の市場専門家である。野神 隆之JOGMEC 石油調査部 上席エコノミスト通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、現職。302012.5 Vol.46 No.3アナリシス
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2012/05/18 [ 2012年05月号 ] 市原 路子
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