カダフィ政権崩壊後初の国際展示会ー JOGMECの出展とリビアの原油生産回復 ー
レポートID | 1006475 |
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作成日 | 2012-07-20 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 基礎情報探鉱開発 |
著者 | |
著者直接入力 | 西村 昇平 |
年度 | 2012 |
Vol | 46 |
No | 4 |
ページ数 | |
抽出データ | JOGMEC 石油調査部西村 昇平カダフィ政権崩壊後初の国際展示会ー JOGMECの出展とリビアの原油生産回復 ー1. JOGMECのOil& Gas Libya 2012への出展 JOGMECは、2012年4月23日からリビアのトリポリで、カダフィ政権崩壊後初めて開催された同国での石油・天然ガス分野に特化した国際展示会(Oil & Gas Libya 2012)に出展した。当展示会で、JOGMECが推進する環境への負荷を最小限にしながら、油ガス田の生産を最適化する環境調和型油ガス田開発のモデル事業を提唱した。油ガス田の生産に必要な電力は未利用の太陽熱等により発電し、生産に伴って排出される水(随伴水)やガス(随伴ガス)等は、有害物質の除去や有価物質の回収・再利用を効果的に取り入れつつ、油ガス田の開発促進に役立てるというモデルである。 リビアにおける環境調和型油ガス田開発のモデル等を実現するために、JOGMECは、リビア国営石油会社National Oil Corporation(NOC)と2006年11月、石油・天然ガス分野での相互協力を目的とした包括協定書(MOU)を締結し、そこに盛り込まれた共同技術研究のテーマとして、200 7年度および2008年度にはリビアのモデル地域で「リビアNOCとの共同研究〈随伴水処理調査〉」を既に実施している。 また、2010年度にはリビア国内の複数の油田を対象に「リビアNOCとの共同研究〈NORM(自然起源放射性物質)調査〉」を実施した。今後は、環境出所:筆者撮影53石油・天然ガスレビュー写1Oil & Gas Libya 2012でのJOGMECブース エッセーノおける透明性を確保しつつ、外国石油会社との相互利益を実現していきたい。 現在、リビア国内では石油製品の供給が十分でない状況であり、当座は製油所の修復等下流部門に注力する必要があると考えている。また、国内の環境問題となっているゼロ・フレアーを達成することも重要な課題である。この機会を捉え、われわれは、外国石油会社から経験や知見を得たいと考えている。 先の戦乱により、被害を受けていた原油生産設備の85%が回復している。原油生産に関しても順調に回復しており、現在は約150万B/Dの水準(戦乱前は160万B/Dの水準)に達している。今年中旬には、戦乱前の水準に回復できると考えている*1。(2) ヌーリ・ベルイエン国営石油会社総裁の発言(2012年4月23日) 前政権崩壊時は、リビアからの原油生産量は極めて低下していたが、2011年9月にサリール、メスラ油田での生産を開始して以降、同年末には100万B/Dの水準まで回復することできた。今年中には戦乱前の水準まで回復すると確信している。今後、リビアがさらに増産していくために沖合での油ガス田開発に注力する必要がある。沖合での事業に関しては、われわれのパートナーであるTotal、Eni等の参加が必要不可欠である。現在サリール、トブルク、ザウィアの製油所が十分機能していないので、それらの復旧を急ぐ必要がある。来月までには再稼働できればと考えている。 今年中には160万B/Dの生産を達成し、2013年には195万B/D、2014年には200万B/Dまで原油生産を増産したいと考えている。一部油田では、原油の生産量よりも大量の随伴水が出てきており、それらの処理への対応が重要な課題となっている。環境の観点54調和型油ガス田開発に関連する各技術のうち、リビアの特定油田における原油増進回収に適用できる可能性がある燃焼排ガスからの二酸化炭素(CO2)分離回収技術と太陽熱利用技術について、実現可能性を評価するためにスタディを実施したいと考えている。 同展示会と並行して開催された国際会議に出席した際、現暫定政府で石油行政を牽するベン・イェーザ石油大臣、ヌーリ・ベルイエン国営石油会社総裁らが、リビアでの原油生産の状況、今後の方針等、注目すべき発言を行った。その要旨の一部を紹介したい。引いけんん(1) ベン・イェーザ石油大臣の発言(2012年4月23日) 新しいリビアへの来訪を歓迎する。今回のOil & Gas Libya開催は4回目(カダフィ政権崩壊後では初めて)となり、リビアでの石油開発をさらに高い基準で実施することを目的とするものである。また、今後はリビア石油開発出所:JOGMEC撮影写2ベルアィンNOC総裁のJOGMECブース来訪2012.7 Vol.46 No.4エッセーヘ2,250MMSCF/D(随伴ガス:720、非随伴ガス:1,530)の生産を達成し、2013年には3,350MMSCF/D(随伴ガス:980、非随伴ガス:2,370)、2016年には4,100MMSCF/D(随伴ガス:1,560、非随伴ガス:2,540)まで増産したい。 (会場からの新たな入札ラウンドで新規事業を実施しないかという質問に対し)現在、わが国は暫定政権下にあり、正当政府が発足するまでF/Sと共同研究の実施を除いては、外国石油会社と新規権益の契約、権益移行等に関して決断を下すことはできないと考えている*2。 これらベン・イェーザ石油大臣、ベルイエンNOC総裁の発言では、いずれも随伴水の適切な処理、ゼロ・ガスフレアーの達成、EORによる回収率向上の必要性を指摘しており、JOGMECの環境調和型油ガス田開発を考慮したCO2によるEORやCCS等の出展内容がリビア側のニーズを捉えるものであったことを読み取ることができる。 また、ベルイエンNOC総裁が当方ブースに立ち寄った際、同日会議の席で総裁が重要性を指摘した随伴水処理、ゼロ・ガスフレアー、EORによる回収率向上に関し、当方よりJOGMECの展示ではリビアが課題としている三つの対策を提案しており、さらに、われわれの提案では環境調和型の開発モデルで実現可能である旨説明している。当方の説明に対し、同総裁からは今次展示会への出展に心から御礼申し上げたいという言葉とともに、当方の環境調和型油ガス田開発モデルが今後リビアでうまくいくことを祈る旨の発言があった。 今般の展示会での出展状況に関して、JOGMECは会場入り口正面、かつリビア国営石油会社のブースに隣接する最良の場所を確保し出展したことも出所:JOGMEC撮影写3JOGMECブースを訪問するリビア人ビジネスマン出所:JOGMEC撮影写4JOGMECブースを訪問するリビア人女性技術者から、随伴水の処理問題を解決し、ゼロ・フレアーを達成することは、今後2、3年間の最も重要な課題である。さらに、リビアの油田はピュア・フィールド(まだEORを実施していない)であり、EOR(原油増進回収法)の高いポテンシャルが存在していることからEOR事業を推進していく必要がある。 天然ガス生産に関しては、今年中に55石油・天然ガスレビューカダフィ政権崩壊後初の国際展示会 -JOGMECの出展とリビアの原油生産回復-怩a/D180160140120100806040200リビア東部でリビア東部で反体制デモが発生反体制デモが発生多国籍軍による多国籍軍による軍事介入開始軍事介入開始戦前の生産レベルに回復戦前の生産レベルに回復カダフィ大佐殺害カダフィ大佐殺害首都トリポリ陥落首都トリポリ陥落生産量※月平均(報道ベース)2010年11月12月2011年1月出所:各種報道より筆者作成2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月2月3月4月5月12月2012年1月図リビアの原油生産量の推移あって、初日よりブースは盛況となった。出展規模が大きかったことも手伝い、JOGMECブースは今回の展示会のなかで最もプレゼンスが高かった。 その他の国・企業からの出展に関しては、トルコ、インド企業の出展数が特に多かった。当方の出展規模には及ばないものの欧州のTotal、Wintershall、Repsol YPF、Statoil、TPAO等が出展していた。気になる点としては、リビアでの石油開発に参加しているロシア、中国からの出展、参加者がほとんど確認できす、両国企業のプレゼンスが極めて低かったことが印象的に残った。その背景として、両国企業がカダフィ前政権と関係が強く、多国籍軍による前政権への攻撃を事実上容認する安保理決議にも両国が後ろ向きであったこともあり、現政権を主に担っているNTC(国民暫定評議会)との関係が必ずしもうまくいっていない事情が推察される。 出張時のトリポリの治安に関しては、わが国外務省が当該地域への渡航情報を「退避勧告」から「渡航延期勧告」に修正している状況でもあり、当展示会開催期間中、展示、国際会議への対応のため当方関係者計8名が現地に出張した。出張期間中、トリポリ市内の治安は安定しており、当展示会の開催と同時期に、米国務省高官を団長とする米官民のビジネスミッション(30人程度の規模)も来訪しており、その一行が市内中心地レストランの屋外でレセプション・夕食会を行う光景が確認された。端的に現地の治安状況を説明することは難しいが、米政府・企業関係者が、特別な警備措置の取られていないレストランで、夜間にこのようなレセプションを開催できるところまで治安が回復してきていたと言えるのではないか。今後さらなる現地治安の改善が期待されるが、暫定政府は国内治安安定化に向け、民兵の武装解除、民兵組織の治安関連機関への取り込み(編入)を行っており、まずは、その成功が治安回復への鍵となるのではないか。2. 原油生産回復 リビアの原油生産は、戦乱時、一時停止状態に陥っていたが、2012年6月、リビアNOCは原油生産量が戦前の160万B/Dまで回復したと発表した。この回復のペースは、IEAの予測を上回るペースである。IEAの予測を上回るペースでリビアが生産量を回復している要因としては、リビア国内の治安状況が当初の想定よりも比較的良好で、外国人技術者がリビア国内に戻りつつある点、完全復旧にはまだ時間がかかると見られるものの、関連インフラに対する被害が予想よりも少なかった点などが挙げられる。 さらに、現地での治安状況は流動的であるものの、当初の予想よりも安定している点やイラクで見られた前政権562012.7 Vol.46 No.4エッセー黷轤O頭にビジネスの提案内容を検討することが可能である。また、NOC 総裁は2014年までに200万B/Dまで増産したいとしているが、これを達成するためには、既存油田でのEOR、海上鉱区での開発事業の実施が必要不可欠である。 カダフィ政権時代に締結された外国石油会社との石油・ガス権益の契約に関しては、NTCはその契約を尊重するとしている。但し、ベン・イェーザ石油大臣はShellの保有する権益に関しそれを尊重すると公言しているものの、キーブ暫定首相はカダフィ政権が外国石油会社と締結した契約を再検討(review)するともしていることから、NTC内でも石油・ガス権益の契約をどう扱うかに関しては、一枚岩ではなく、方針が曖昧な部分がみられる。 また、今後制定される憲法条文のなかで同国の地下資源に関して、どのような概念で記載するか注目される。昨今の資源ナショナリズムの高揚もあり、産油国の外国石油会社との契約条件は、次第に悪くなってきており、憲法の文言次第では、リビアがこれまで締結していた石油開発契約に変化が起こる可能性は否定できない。これまでリビアには成文憲法が存在しておらず、カダフィ大佐の提唱した『緑の書』を基にした概念に則のっとった人民主権確立宣言およびイスラム法が主要な法の源とされていた。リビアでは7月に予定されている選挙で制憲議会の議員が選出され、憲法が起草、制定されることになる。 その他の気になる点としては、ロシア、中国の油ガス田権益に関し、両国が主にカダフィ政権の非人道的行為を非難し多国籍軍によるリビアへの事実上の軍事介入を容認する国連安保理決議に関し反対的立場であったことかフラ事業の契約等は現段階で締結できず、今年7月に予定されている制憲議会選挙後、新憲法が制定され、その後に正当政府が樹立されてから可能になるとのことである。今後、どのようなタイミングでこのような判断が可能になるのか分らないが、制憲議会発足後が注目される。の政治プロセスの進捗ちしんょく 今のところ、暫定政府下において新たな石油政策は示されていないが、前述のとおりNOC総裁は2014年には200万B/Dまで原油生産を増産したいと考えている旨発言している。そして、随伴水の処理、ゼロ・フレアーの達成、EORの実施は、リビア石油分野の今後2、3年間で最も重要な課題であるとしている。正当政府樹立後に新たな石油政策が示されることになると思われるが、これら環境問題への対応、EOR実施の必要性は、石油省や国営石油会社人事に変化が起こっても、リビアの石油分野でのベーシック・ニーズである点は変わらないので、こでの一部裨勢力の行政機関からの追放措置(バース党員の公職追放)が限定的であったことから、前政権を支えていた優秀なテクノクラートの国外流出は少なく、依然として多くの者が国内にとどまり、ある程度行政機能が維持されていることも、要因の一つではないかと考えられる。但し、最近は政府関係機関に対する給与の賃上げや雇用創出を要求するデモ等が度々発生しており、まだ先行きが見えない部分もある。き益えひ 今後、リビアにおいて上流ビジネスを展開していく上で現暫定政権にどの程度のキャパシティがあるか気になるところであるが、上記国際会議でのベルイエン国営石油会社総裁発言によると、正当政府が発足するまでF/S、共同研究の実施を除いては、外国石油会社と新規権益の契約、権益移行等に関して決断を下すことはできないと現政府は判断していると発言している。新規の油ガス田権益の契約や大規模イン57石油・天然ガスレビュー出所:筆者撮影写5コリンシアホテルから望む地中海カダフィ政権崩壊後初の国際展示会 -JOGMECの出展とリビアの原油生産回復-轣A当該権益を今後のリビアがどのように取り扱うかも注目される。NTC内にはイタリア、フランス、英国など西側諸国の権益に関しては問題がないが、ロシア、中国の権益に関しては政治的な問題が出てくる可能性がある旨の意見が存在しているようである。 現段階でリビアの石油行政におけるキーパーソンは、暫定政府発足に際し副首相として就任したオマル・カリーム氏(AGOCO〈Arabian Gulf Oil Company〉出身、親日家、早稲田大学で機械工学の博士号を取得。元Eniリビア幹部)、石油大臣に就任しているベン・イェーザ氏(元Eni取締役、元NOC 探査・生産部長)、新国営石油公社(NOC)総裁兼OPEC代表に就任しているヌーリ・ベルイエン氏(元AGOCO 生産・操業局長)である。このように暫定政府体制での石油行政の人事には、石油ビジネスを熟知し、東部ベンガジを拠点とするAGOCOの勢力や伊石油会社のEniと関係の深いテクノクラートに近い人物が関与していることが分かる。正当政府発足後にこれら人物がどのような役割を果たすかは未知であるが、一部の者が引き続き政府要職に就任する可能性はあり、今後も彼らの動向を注視する必要がある。レファント油田権益の半分をGazpromが取得するとの報道もカダフィ政権崩壊後取りざたされており、今後の同権益の行方が注目される。場合によっては、このような動きが比較的早い段階で政府のキャパシティを確認できるメルクマールの一つになるのかもしれない。まとめ 憲法が未制定であることや暫定政府によって政府が運営されている現段階で、石油権益に関して議論することは時期尚早であるのかもしれない。しかし、今後つくられる政府が、IOCのファームイン、ファームアウトを法的な側面も含め公式に対応できるようになると、国内でのビジネスのスピードは加速される可能性がある。そして、これらはさらなる新ビジネスの展開を期待できるメルクマール(指標)ともなる。以前より話のあったEniの持つエ いずれにせよ、正当政府が発足し、新政府が新たな石油権益の契約を締結したり、大型インフラ建設事業の実施が可能になるまでには、一定の時間がかかる可能性がある。当座は、ビジネスの波に乗り遅れないように新規ビジネスの事前準備をしつつ、7月7日に予定されている制憲議会選挙、その後の新憲法制定までの政治プロセス、リビア石油行政キーパーソンの発言、外国石油会社(IOC)のファームイン、ファームアウトに関する情報を注視していく必要がある。<注・解説>* 1: 2012年4月時点* 2: カダフィ政権時より、リビアには憲法が存在しておらず、今年7月に制憲議会選挙が予定されている。同選挙後、新憲法が草案され、その後、議会承認、国民投票等のプロセスを経て正当政府が樹立される見込みである。執筆者紹介西村 昇平(にしむら しょうへい)2010年5月よりJOGMEC石油調査部調査課(中東・北アフリカ担当)主任研究員2008年12月~2010年3月、在イラク日本大使館経済・経済協力班 二等書記官この他、JBIC、JICAで日本政府によるイラク復興支援事業を担当。2002年3月~2004年3月にも在イラク日本大使館および在ヨルダン日本大使館イラク班に在勤。582012.7 Vol.46 No.4エッセー |
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