強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い― グローバルE&P事業の最新トレンド ―
レポートID | 1006481 |
---|---|
作成日 | 2012-09-20 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 企業探鉱開発 |
著者 | |
著者直接入力 | 市原 路子 |
年度 | 2012 |
Vol | 46 |
No | 5 |
ページ数 | |
抽出データ | JOGMEC石油調査部市原 路子強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争いー グローバルE&P事業の最新トレンド ーはじめに 世界的なエネルギー需要の増大とともに、石油・ガスの上流産業は膨張を続けている。しかし、アルゼンチン政府による石油会社の国有化、中国政府系企業による海外企業の大型買収、ブラジルPetrobrasの権限強化など、資源の国家支配が強まる事例は後を絶たない。こうした背景には、原油価格(Brent価格)が史上初めて1バレルあたり年平均で100ドル(ガス価格換算:16.6ドル/百万btu)を超える高水準にあることが影響を及ぼしているという事実がある。原油高の恩恵を存分に受け、産油・ガス国が繁栄する。メジャー企業や上流企業の多くも過去最高益で潤う。上流開発投資にも世界的に勢いが見られる。 本稿では、初めに石油・ガス上流産業の活動状況を概観した後、資源の国家支配強化の現状を明らかにするとともに、その状況下におけるメジャーなどによる資源獲得上の戦略的展開を紹介していく。第2章でも取り上げるが、発見されている埋蔵量のほとんどはその国の政府に帰属する。外国企業は、資金、技術や知恵、資機材を供与することで資源を求め開発投資の機会創出に苦心している。1. 活発な油・ガス田開発1-1. 世界の投資状況 2012年の上流投資額はBarclays Capitalの調査によると6,000億ドル(48兆円)を初めて上回る高水準になると試算されている。これは、2011年比で10%の増額となる。地域別では、北米が前年比6.4%の増加に対して、北米以外の地域は二ケタ台の伸び率である。最も投資伸び率が高いのはアジア太平洋、続いて南米、アフリカ、中東も堅調な投資活動が予想されている。 メジャーの投資額(下流部門を含む)は、各社の状況に応じて増減が見られるが、2012年の伸び率は前年比10~23%増と控えめ傾向である(図1、表1)。国営石油会社は、過去3年の投資規模(下流部門を含む)も、Petrobrasを除き堅調な増加である(図2)。 北米のガス価格は低迷したものの、世界の原油価格は2011年、中東・北アフリカ情勢の不安定化により、年平均Brent価格100ドル(16.6ドル/百万btu)を超え過去最高水準であった。実質価格で見ても、第2次オイル51石油・天然ガスレビューショック時の水準を上回ったことから実体経済への影響が懸念される(図3)。億ドル5002009年2010年2011年ExxonMobilBPShellChevronTotal4003002001000出所:各社アニュアルレポート図1メジャーの投資規模アナリシス\12012年の投資計画額欧米メジャー企業の投資2012年投資計画(億ドル)うち 上流部門(億ドル)うち 探鉱費、試掘数370220160~17012坑(2012)15~25坑/年(2013~14)最大320投資額全体の80%探鉱費約40億ドル20~25坑(2012)327240285200探鉱費30億ドル探鉱費25億ドルExxonMobilBPShellChevronTotal出所:各社のアニュアルレポートと投資家向け資料等より作成1-2. 世界の掘削活動 上流産業への投資動向を裏付けるように、掘削状況は、金融危機で一時的な投資控えが見られたものの、南米地域、中東地域を中心に掘削リグ稼働数が持ち直し、再び上昇トレンドにある(図4)。5年前に比して掘削リグ稼働数は南米のブラジルで陸上、沖合ともに倍増しており、また、外資開放で増産が進むコロンビアでも、陸域部分での油ガス田掘削が大幅に増えている。外資企業の活動が厳しく制限されている中東地域においては、クウェート(陸域)、サウジアラビア沖合での掘削数およびエジプトの陸上部分でも掘削活億ドル50040030020010002009年2010年2011年Rosneft(露)Gazprom(露)Sinopec Corp.(中:Sinopec子会社)PetroChina(中:CNPC子会社)Petrobras(ブラジル)出所:各社アニュアルレポート図2国営石油会社の投資規模ドル/百万btu米国ガス価格(HH)日本LNG輸入価格英国ガス価格(NBP)米国原油価格(WTI)英国原油価格(Brent)25201510502000200220042006200820102012年出所:米国エネルギー省情報局、石油連盟資料等より作成動が活発化している(表2)。 陸・海別に変化を検証すると、この5年間で大幅に掘削数が増大したのは、欧州陸上とアフリカ海上。他方、全体的な上昇トレンドのなかで、目立った減少を示したのがアジア太平洋地域の海上と欧州の北海海域であった。欧州では、シェールガス・シェールオイルに着目した陸上掘削がポーランドやトルコなどで増えたが、北海では英領海域において5年前に比べて5割減でノルウェー領は微減である。アジア太平洋地域ではインドやインドネシアの各陸域は顕著に掘削活動が活発化しているが、インドネシア、ミャンマー、ベトナムおよび豪州の海上坑5004504003503002502001501005002000南米欧州アフリカ中東アジア太平洋南米南米中東中東中東アジア・太平洋アジア太平洋アジア太平洋欧州欧州欧州アフリカアフリカアフリカ200220042006200820102012年※エジプトは中東に含む。※ ロシア、中国陸上を除く。そのほかイラク、スーダン(2006年以降)、イラン(2006年以降)を除く。出所:Baker Hughes図3原油価格とガス価格の推移図4地域別の掘削リグ稼働数(北米以外)522012.9 Vol.46 No.5アナリシスn域欧州中東アフリカ中南米アジア太平洋表2稼働リグ数の5年前との比較変動(2007年前期と2012年前期との比較)B-A(変動量)(B-A)/A(変動率)A.2007年前半5カ月平均(平均値のため整数でない)B.2012年前半5カ月平均(平均値のため整数でない)ポーランドトルコノルウェー英国クウェートサウジアラビアサウジアラビアエジプトイエメンアンゴラナイジェリアアルゼンチンブラジルブラジルコロンビアベネズエラインドインドネシアインドネシアミャンマー陸上陸上沖沖陸上陸上沖陸上陸上沖沖陸上陸上沖陸上陸上陸上陸上沖陸上6.215.0-1.4-12.616.6-9.011.425.2-12.27.07.0-25.824.022.635.09.831.610.0-5.8-6.8310%326%-7%-47%130%-13%197%78%-86%292%135%-30%140%103%115%17%59%31%-32%-92%2.04.618.826.812.869.85.832.414.22.45.286.417.222.030.459.053.432.618.47.48.219.617.414.229.460.817.257.62.09.412.260.641.244.665.468.885.042.612.60.6顕著に増加したエリア顕著に減少したエリア※中国陸上、ロシア、イラク、イラン、スーダンは除く。出所:Baker Hughes表3地域別の海上リグの稼働率(1年前との比較)2012年8月現在2011年8月現在稼働率(%)稼働数/展開中のリグ数稼働率(%)稼働数/展開中のリグ数西アフリカ沖合東南アジア海上豪州沖合北海中東ペルシャ湾内米国メキシコ湾南米ブラジル沖合88.581.6100.090.678.877.890.054/6180/9812/1277/8578/9963/8172/80出所:Rigzone ホームページより http://www.rigzone.com/53石油・天然ガスレビュー78.972.280.088.671.771.884.745/5770/978/1070/7966/9256/7861/72強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-ュドル4003503002502001501005002009年2010年2011年北米南米欧州/CIS/アフリカ 中東/アジアその他※Schlumberger、Halliburton、Baker Hughes 3社の合計出所:各社のアニュアルレポート図5サービス会社の地域別売上高坑200150100500TotalShellExxonMobilChevronBP米国カナダ南米欧州アフリカアジア太平洋(露・中東含む)ロシア(BP分のみ)※探鉱井数は権益保有比率を掛け合わせた坑井数(ネットベース)※Chevronの関連会社分(カザフスタン+ベネズエラ)1探鉱井を含まず。※Totalの米国2.5坑にカナダ・南米分を含む。出所:各社の財務諸表(10-Kおよび20-F)より作成図6メジャーの地域別掘削探鉱井数(2011年)坑450400350300250200150100500ShellTotalChevronExxonMobilBP2005200620072008200920102011年※探鉱井数は権益保有比率を掛け合わせた坑井数(ネットベース)出所:各社の財務諸表(10-Kおよび20-F)より作成図7メジャーの掘削探鉱井の実績での掘削数は減少している。アフリカ沖合ではアンゴラ沖やナイジェリア沖を中心に掘削数が伸びている。 これらの掘削増加によりリグ数稼働率とも上昇している(表3)。リグ調達の需給が引き締まり、ジャッキアップリグなどリグリース料もなだらかな上昇トレンドにある。こうした好況ぶりは、掘削作業や油層評価作業等を請け負うサービス会社(Schlumberger、Halliburton、Baker Hughes)の売上高にも表れる。グローバルに展開する大手サービス会社3社ともに過去数年間は増益続きで、売上高ではシェール開発に沸く北米で急増し、そのほかの地域においても2年連続の増加である(図5)。1-3. スーパーメジャーの探鉱活動 スーパーメジャーの探鉱活動として、探鉱井(試掘井・評価井)の掘削状況は、非在来型油・ガス開発で活況な北米地域、ガス資源の発見が相次ぐ中東またはアジア太平洋地域に集中している。また、投資が活発である南米諸国では比較的少ない傾向が見られる(図6)。 近年は、Shellが大幅に増やした結果、スーパーメジャー5社の掘削数は増加トレンドである(図7、表4)。個別に見るとChevronによる探鉱井の数は2007年頃に比べて2011年は大幅減であり、TotalやBPもさほど増えていない。高収益を背景にして、2012年年初に発表された投資計画では、Shell、BPおよびTotalの3社は探鉱投資や試掘数を増やしていくことを明らかにしている。542012.9 Vol.46 No.5アナリシス\4探鉱井(評価井含む)の掘削数と成功率(埋蔵量:2011年末、探鉱井:2011年)確認埋蔵量(百万boe)可採年数探鉱井数(坑)*探鉱井の発見成功率**ExxonMobil24,93215.2年3669%BP17,50814.1年6985%Shell13,99211.2年26758%Chevron11,23611.5年2585%Total10,90413.3年17.950%*探鉱井数=発見井+空井戸 なお、探鉱井数は権益保有比率を掛け合わせた坑井数(ネットベース)**発見成功率=発見井/(発見井+空井戸)出所:各社の財務諸表(10-Kおよび20-F)より作成スーパーメジャーの試掘・開発ターゲットExxonMobil(米) ExxonMobilは、新たな探鉱活動地域(New Play Tests)として、黒海(ルーマニア、ロシア)、南米のガイアナ、アイルランド、タンザニアやマダガスカル(以上すべて大水深)、ベトナム沖合、さらにグリーンランド西岸やカナダBeaufort海の北極圏域を挙げている。これらのエリアを含めて地震探査や試掘作業を計画している。非在来型資源としては、北米で活発な投資を行っているのに加えて、中国、インドネシア、ドイツ、コロンビア、アルゼンチンにおいて開発評価作業を進める計画である。 メジャーのなかでは、企業規模に比して圧倒的に掘削数が少ない点において効率的な探鉱投資とも言える(図7、表4)。BP(英) BPは、2010年より「大水深」「巨大油・ガス田」「ガス」をターゲットエリアに選定しており、引き続き同路線を追求している。非在来型ガス・オイルへの参画が顕著な他メジャーに比べ、異なる戦略的展開が見受けられる。 具体的エリアとして、以下にまとめた。戦略的分野大水深具体的な操業地域米国メキシコ湾、北アフリカ(リビア、エジプト)、大西洋南部(ブラジル)、東南アジア(インドネシア)、豪州 など巨大油・ガス田Mad Dog(メキシコ湾)、Clair(北海)、Rumaila(イラク)、Tangguh(インドネシア)、Shah Deniz(カスピ海) などガスチェーントリニダード・トバゴのLNG ⇒欧州インドネシアのLNG ⇒中国インド洋⇒インド国内 など 同社は、2010年4月に起きたメキシコ湾での油流出事故を引き起こしたのを契機に、2011年末までに300億ドル規模の資産売却を行った。2013年末までに一段と資産整理することを表明しており、油・ガス生産量がさらに削減される見通し。他方で、インド、ブラジルや豪州南部の各大水深海域に探鉱エリアを広げ、今後数年間で探鉱投資を倍増させる方針を打ち出している。55石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-hell(英・蘭) アニュアルレポートによると、Shellは2011年にトルコ、カナダ、コロンビア、ニュージーランド、ロシア(極地)、ブルネイ、豪州、タンザニアなどで新規鉱区を取得した。豪州、南米の仏領ギアナ、アフリカのナイジェリアを含めて五つの新規発見に成功したと報告している。同社は探鉱井の掘削数が他社に比べて圧倒的に多いものの、その成功率はTotalに次いで低調。2012年に20~25本程(グロスベース)の試掘を計画し、豪州の北西部沖合(5カ所)、またメキシコ湾(5カ所)、仏領ギアナ(2本)の沖合掘削等で新たな発見を目指す。Chevron(米) Chevronは過去3年間(2009~2011年)において、北米、欧州、中国で非在来型ガス・オイルに新たに参画、中国(南シナ海)、リベリアや黒海などの大水深域フロンティア、メキシコ湾の大深度ガス等でも鉱区を取得した。ただし、豪州のLNG(Wheatstone、Gorgon)、メキシコ湾や西アフリカでの大型開発案件への投資が優先され、他社に比べて探鉱投資は控えめである。Total(仏) TotalもShellと同様に2011年に仏領ギアナで油を発見。それ以外に、ボリビア陸上やアゼルバイジャン(カスピ海)で新たな大発見があったと発表している。北海のノルウェー沖合や英国シェットランドでも油・ガスを発見。Totalは、2011年の試掘数40坑ほど(グロスベース)に対して2012~2013年は5割増しである。マダガスカルマダガスカルCSTオーストラリアオーストラリアSSニュージーランドニュージーランドS中国中国CESベトナムベトナムTブルネイブルネイインドネシアインドネシアETマレーシアマレーシアカザフスタンカザフスタンSアゼルアゼルバイジャンバイジャンETイラクイラクETカタールカタールSケニアケニアタンザニアタンザニアTTエジプトエジプトリビアリビアサウジサウジアラビアアラビアEEナイジェリアナイジェリアEガボンガボンコンゴコンゴアンゴラアンゴラTTTTアルジェリアアルジェリアモーリタニアモーリタニアTTCTTCSSコートジボワールコートジボワールECノルウェーノルウェーTEEESEアラスカアラスカカナダカナダアメリカアメリカSCESTグリーンランドグリーンランドECU.S. Gulf of MexicoU.S. Gulf of MexicoTイギリスイギリスEアイルランドアイルランドガイアナガイアナギアナ(仏領)ギアナ(仏領)ESTリベリアリベリアコロンビアコロンビアTESCTExxonMobil(非在来型を除く)ExxonMobil(非在来型を除く)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・主要な探鉱エリア・主要な探鉱エリア・・・・・・・・・ShellShell・・・・・・2012年 探鉱井の掘削予定地・・・・・・2012年 探鉱井の掘削予定地Chevron(非在来型を除く)Chevron(非在来型を除く)・・・・2012年 主要な探鉱掘削予定地・・・・2012年 主要な探鉱掘削予定地TotalTotal・・・・・・・・2012?2013年 主要な探鉱エリア2012?2013年 主要な探鉱エリア出所:各社発表の資料より作成TボリビアボリビアブラジルブラジルTSTアルゼンチンアルゼンチン図8メジャーの探鉱エリア/探鉱井掘削地域2. 増大する産油・ガス国の国営企業の存在感2-1. 民間石油会社にとって制約の大きい資源アクセス 世界的には全般的な投資拡大の傾向がうかがえる。しかしこれは、日本企業を含む民間の石油企業の好調を裏付けるものでは必ずしもない。次に紹介するように、既562012.9 Vol.46 No.5アナリシスホ油埋蔵量に占める割合① Full access ① Full access 15%15%例:米国、カナダ例:米国、カナダ 英国 英国② Equity access ② Equity access 1%1%例:コロンビア例:コロンビア インドネシア インドネシア④ No equity access ④ No equity access 47%47%例:イラン、イラク例:イラン、イラク サウジアラビア サウジアラビア③ Limited equity access ③ Limited equity access 37%37%例:中国、ロシア例:中国、ロシア アンゴラ アンゴラ①?④のカテゴリー分けの説明① Full access ① Full access ② Equity access② Equity access③ Limited equity access③ Limited equity access外資企業による資源アクセス権外資企業による資源アクセス権説 明説 明説 明可能(100%)可能(100%)国内外問わず全ての企業がアクセス可能であり、また国内企業に国内外問わず全ての企業がアクセス可能であり、また国内企業に対しての優遇措置はない。対しての優遇措置はない。当該国に国営石油会社が存在するものの、海外企業に対して特別な当該国に国営石油会社が存在するものの、海外企業に対して特別な差別を設けていない。差別を設けていない。当該国の国営石油会社に優先権がある、あるいは、国内事業者の当該国の国営石油会社に優先権がある、あるいは、国内事業者の保有比率が義務づけられており、海外企業の参加が制限されている。保有比率が義務づけられており、海外企業の参加が制限されている。④ No equity access④ No equity access不能(0%)不能(0%)当該国の国営石油会社のみに資源へのアクセス権がある。当該国の国営石油会社のみに資源へのアクセス権がある。出所:米国エネルギー省情報局レポート “Who are the major players supplying the world oil market?”図9民間企業による埋蔵量のアクセス制約(例:石油)に発見された埋蔵量のほとんどは企業が容易にアクセスできるものでなく、それらは産油・ガス国の政府や国営石油会社に帰属し、しかも彼らの権限は強い。傾向として大産油国ほど政府の支配権が強く、また先進国ほど広く外資に開放されている。 米国エネルギー省情報局がまとめた資源アクセスに関する類型に従うと、まず、第1分類として地下に賦存している石油・ガス埋蔵量に外資が100%アクセスできる国が挙げられる。世界的に見てもごく少数である。米国、カナダや英国などの先進国の大産油ガス国に限られる(図9の①)。これらの国には、現時点で、政府が経営する国営の石油会社が存在しない。かつては存在していた国もあるが既に完全に民営化されている。図9の円グラフに示されるように、世界の石油埋蔵量を100%とした場合、これに属する埋蔵量は全体の15%に過ぎない。 第2に、コロンビアやインドネシアなど国営石油会社が存在するとはいえ、1民間企業とほぼ同レベルの扱いあるいは権限しか有していない珍しい国である。②に該当する。賦存する埋蔵量は世界全体のごく一部である。 それ以外の圧倒的な部分は、程度の差こそあれ、当該国の政府あるいは国営会社が資源所有の上で特別な権利を有しており、外資受け入れを制約している。全体の5割を占める④のケースは、自国の国営石油会社だけに埋蔵量へのアクセス権が認められている国である。例えば、中東の大産油国であるサウジアラビアやイラン、中南米の大産油国メキシコがこれに該当する。近年、外資を導入したイラクも、基本解釈として、油・ガス田開発の作業を委託する請負サービス契約を外資と締結したわけであって、地下の石油埋蔵量や生産物に対しての権限は政府に帰属したままである。 次に③に属する国がある。これは外資を限定的に受け入れているとはいえ、厳しく参加を制限している資源保有国である。例えば、中国のように国営会社であるCNPC、Sinopec、CNOOCの3社に対し、国家は国内の油・ガス資源へのアクセス権や操業権について地域ごとにほぼ独占を認めている。ロシアでは、国内企業の参加比率を50%以上とすることを義務付けている。また、アンゴラやナイジェリアなど多くの開発途上国では、国内の外資導入鉱区において国営石油会社が一定の権益シェアを優先的に保有するように鉱業法で義務付けていたり、ノルウェーのように油が発見されて生産過程に入る段階で政府の一部保有を義務付けるケースなどがある。57石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-カ産規模10百万(boe/d)Saudi Aramco(サウジ) Saudi Aramco(サウジ) 世界の石油・ガス生産量(2010年)136百万boe/dGazprom(ロシア)Gazprom(ロシア)NIOC(イラン)NIOC(イラン)5百万4百万3百万CNPC(中国)CNPC(中国)ExxonMobilExxonMobil世界の生産量世界の生産量65%65%Pemex(メキシコ)Pemex(メキシコ)PDVSA(ベネズエラ)PDVSA(ベネズエラ)BPBPShellShellKPC(クウェート)KPC(クウェート)Sonatrach(アルジェリア)Sonatrach(アルジェリア)ChevronChevronPetrobras(ブラジル)Petrobras(ブラジル)IraqNOCs(イラク)IraqNOCs(イラク)Lukoil(ロシア)Lukoil(ロシア)Rosneft(ロシア)Rosneft(ロシア)Statoil(ノルウェー)Statoil(ノルウェー)NNPC(ナイジェリア)NNPC(ナイジェリア)LibyaNOC(リビア)LibyaNOC(リビア)ONGC(インド)Sinopec(中国)ONGC(インド)Sinopec(中国)Eni(伊)Eni(伊)ConocoPhillipsConocoPhillipsQP(カタール)QP(カタール)ADNOC(UAE) ADNOC(UAE) TotalTotalPetronas(マレーシア)Petronas(マレーシア)1百万Uzbekneftegas(ウズベキスタン)Uzbekneftegas(ウズベキスタン)Surgutneftegas(ロシア)Surgutneftegas(ロシア)民間企業が大半を占める民間企業が大半を占める*下線企業は一部民営化し、株式上場している国営企業 赤字は国営企業、黒字は民間企業を示す出所:各種資料より作成図10石油企業ピラミッド ③や④に該当するような国は大資源国ばかりであり、国家組織が国内の油・ガス資産を保有・管理しているため海外の石油会社に上流投資の機会が与えられていない。あるいは、与えられていたとしてもごく一部に限られる。既に見つかっている世界の石油埋蔵量のうち8割以上は、こうした国営石油会社の権限が強い地域に賦存している。2-2. 世界生産量の過半を占める国営企業 各国の国営企業が供給する油・ガス生産量は、どの程度を占めるのだろうか。まず、世界の3大国営石油会社であるサウジアラビアのSaudi Aramco、ロシアのGazpromとイランのNIOCの3社で世界の2割の生産量を供給している。次に続くのが中国の国営石油会社CNPCと民間最大のExxonMobilである。 図10に見るように、1百万boe/dを超える規模では、民間企業はスーパーメジャー5社と米国ConocoPhillips、イタリアEni、さらにロシア国内に特権を有するロシア3大国営石油会社3大国営石油会社19%19%国営石油会社国営石油会社(1?5百万boe/d規模)(1?5百万boe/d規模)30%30%その他その他35%35%民間企業民間企業(1?5百万boe/d)(1?5百万boe/d)16%16%出所:各種資料より作成図11世界の石油・ガス生産量のプレーヤー別生産シェア民間企業2社の計9社で、他方、国営企業は世界20社を数える。これら国営企業20社とロシアの民間企業2社を合わせると世界全体の生産量の5割を超える。582012.9 Vol.46 No.5アナリシス世界の生産量65%世界の生産量65%43210百万boe/dExxonMobilBPShellChevronTotalConocoPhillips200320042005200620072008200920102011年※ ConocoPhillips(米国)は2012年5月1日、精製・販売部門を切り離し上流専業会社に転身した。出所:各社の年次報告書より作成図13メジャーの石油・ガス生産量推移き取り原油分が減少している点が一因としてあるが、それ以上に新規案件からの生産が十分に増えていないことにも起因する(図13)。 国家関与の問題は埋蔵量よりも生産量に対しての影響が大きい。国営企業による生産が世界の6割であれば、当然ながら民間企業が4割程度と推定される。恐らくこの4割の多くは、既述の③と④のような特権的な立場にある国営石油会社と共同で生産操業を行っている、あるいは①に属する米国やカナダであっても、生産物を輸出する際にまず国家が関与している。米国とカナダは先に述べたように国営企業が存在せず、国内外の企業が100%生産するが、海外輸出する際に国内の安定供給が優先される仕組みである。要するに、北米では、世界の2割近くの2,200万boe/dが生産されているが、それを海外に輸出しようとした際に政府発行の輸出ライセンスが求められるという法体系を取り入れている。自国外自国内PetronasStatoilPetrobrasCNOOCSinopecCNPC0100200300400500万boe/d出所:各社のホームページより作成図12国外権益取得に動く国営企業とその自国外と自国内別生産量(2010年) 国営企業は、既述した図9の③~④に該当する特権的な立場にある国営石油会社となる。それにプラスアルファを考えると、国営企業系による油・ガス生産は世界の油・ガス生産量の6割前後を占めると推定される(図10、図11)。 1百万boe/d以下の企業になると、欧米系の純粋な民間企業が中心になりその数は無数にある。近年では、中国、ノルウェーやマレーシアなどの国営石油会社が特権的立場にありながら、国内の資源開発を基盤に海外での油・ガス田権益の獲得を積極的に展開している。国内だけでなく徐々に海外生産を増やしている。中国国営企業3社(CNPC、Sinopec、CNOOC)は、油・ガス田資産の買収を繰り返し、海外生産量を2005年末の50万boe/dから2010年で140万boe/d(図12)、2011年末に160万boe/dまでに増やしている。 他方、スーパーメジャー5社の生産量はこの10年でほとんど増えていない。大型合併以降の2003年時に比べて生産量が増えたのはChevronの微増のみで、その他は横ばいか減産である。背景には、原油価格が10年前に比べて大幅に上昇し、開発費用を回収するための引 3. 強まる資源の国家支配 前章では、誰が埋蔵量にアクセスできるのか、またその生産物は誰が所有しているのかという視点から量的な把握を試みた。その国営石油会社の存在は圧倒的で、国家の関与は避けがたいものがある。昨今でも数多くの事例が見られ、資源の国家支配は依然として弱まる気配はない。ことに、膨大な油・ガスが発見された場合、その国家管理を強めるような事例が見受けられる。59石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-Aルゼンチン 例えば最近では、2012年5月、アルゼンチンで政府が、前年に膨大なシェールガス・シェールオイルを発見した同国最大の事業者YPF(元国営企業)を、開発投資を怠ったとして突然国有化すると宣言した。1999年以降、YPFを子会社化していたRepsolは資産を一方的に接収され、埋蔵量全体の約半分、生産量全体の6割を失った(図14)。現在、Repsolは政府に賠償請求する訴えを世界銀行に付属する国際投資紛争解決センターに起こしているが、近隣諸国がアルゼンチン政府を擁護する動きもあり、南米を開発拠点とするRepsolにとっては身動きしにくい状況にある。いずれにしても資産の過半を失ったRepsolは、抜本的な資産ポートフォリオの見直しと財務改善に向けた資産整理に取り掛かった。アルゼンチン内で活動する他の民間企業に対しても、政府は監視態勢をより厳しくして十分な投資活動を求める改革に着手した。限を強める動きがある。同国では、豊富な油がプレソルト(岩塩層下部)で発見されたことで、国営石油会社であるPetrobrasの国内の油田開発における主導権を確固たるものに規定する法改正を行う。方針としては、政府が今後付与するプレソルトエリア(図15)の鉱区(および政府が戦略的地域と指定する地域)全域においては、Petrobrasがオペレーターシップを唯一握る操業主体となる。また、その鉱区権益の30%以上をPetrobrasの取り分とする。近く一連の改革法案が全て可決される見通しである。埋蔵量アルゼンチン政府にアルゼンチン政府に接収されたYPF分接収されたYPF分生産量Repsol埋蔵量Repsol埋蔵量12億boe12億boeYPFYPF46%46%10億boe10億boeRepsol生産量Repsol生産量28万boe/d28万boe/dYPFYPF63%63%50万boe/d50万boe/dブラジル1984年以前の発見油ガス田1985?2001年発見油ガス田2002?2005年発見油ガス田プレソルトでの発見油ガス田プレソルトで発見のあった主要鉱区Petrobrasに2010年に付与された鉱区日本企業参加鉱区岩塩分布エリアプレソルトエリア(Low12351/10)100Kmサンパウロリオデジャネイロ【Frade鉱区】【Frade鉱区】【BM-C-29鉱区】【BM-C-29鉱区】【Voador鉱区】【Voador鉱区】【Barracuda鉱区】【Barracuda鉱区】【BM-S-11鉱区】Iara【BM-S-11鉱区】IaraCernambi/IracemaCernambi/Iracema【BM-C-41鉱区】【BM-C-41鉱区】【BM-C-42鉱区】【BM-C-42鉱区】【BM-S-54鉱区】【BM-S-54鉱区】【Florim鉱区】【Florim鉱区】【BM-C-43鉱区】【BM-C-43鉱区】【BM-ES-23鉱区】【BM-ES-23鉱区】1トトンンササトト地地リリ盆盆ピピススエエ【Albacora Leste鉱区】【Albacora Leste鉱区】【Albacora鉱区】【Albacora鉱区】【Marlim Leste鉱区】【Marlim Leste鉱区】【Marlim鉱区】【Marlim鉱区】【Caratinga鉱区】【Caratinga鉱区】【BM-S-10鉱区】【BM-S-10鉱区】ParatiParatiMacnaimaMacnaima【Franco鉱区】【Franco鉱区】LibraLibra【Xerelete鉱区】【Xerelete鉱区】【BM-C-33鉱区】【BM-C-33鉱区】スス地地盆盆ポポンンカカ1CachaloteCachaloteJubarteJubarteBaleia AzulBaleia AzulCaxareuCaxareuPirambuPirambuBaleia AnaBaleia AnaBaleiaFrancaBaleiaFrancaArgonautaArgonautaOstraOstraNautilusNautilusAbaloneAbaloneItaipuItaipuBM-C-32BM-C-32BM-C-30BM-C-30WahooWahoo【Iara(Surround)鉱区】【Iara(Surround)鉱区】【Tupi NE鉱区】【Tupi NE鉱区】【BM-S-24鉱区】Jupiter 【BM-S-24鉱区】Jupiter Lula/TupiLula/Tupi【Tupi South鉱区】【Tupi South鉱区】【Peroba鉱区】【Peroba鉱区】【BM-S-9鉱区】Sapinhoa (Guara)【BM-S-9鉱区】Sapinhoa (Guara)【Guara South鉱区】【Guara South鉱区】IguacuIguacuサントス盆地サントス盆地【BM-S-52鉱区】Corcovado【BM-S-52鉱区】CorcovadoCariocaCarioca【BM-S-8鉱区】Bem-te-Vi【BM-S-8鉱区】Bem-te-ViAbare WestAbare West【BM-S-21鉱区】Caramba【BM-S-21鉱区】Caramba【BM-S-22鉱区】Azulao Guarani【BM-S-22鉱区】Azulao Guarani500m500m1,000m1,000m2,000m2,000m3,000m3,000mプレソルトエリア出所:JOGMEC作成図15プレソルトエリアにおけるPetrobrasの権限強化60ブラジル 2000年代半ばに膨大な油田群が大水深域で見つかったブラジルでも、国家権※なお、RepsolはYPF株式の51%を政府に接収され、残りの6.4%を現在保有。出所:Repsol(2012) アニュアルレポート図14Repsolの埋蔵量・生産量とYPFのシェア2012.9 Vol.46 No.5アナリシスxネズエラ 5年ほど前には、世界有数の石油埋蔵量国である南米のベネズエラで、政府がオリノコ重質油開発事業などにおいて既契約を改定し国営企業のPDVSAの権限が強化された。これにより、操業会社のうちExxonMobilとConocoPhillipsが契約の改定を拒み、同国から撤退した。埋蔵量生産量TNK-BP分TNK-BP分27%27%48億boe48億boeTNK-BP分TNK-BP分29%29%98万boe/d98万boe/dBP埋蔵量BP埋蔵量175億boe175億boeBP生産量BP生産量341万boe/d341万boe/d出所:BP(2012)のアニュアルレポートより図16BPの埋蔵量・生産量に占めるTNK-BPのシェアロシア 資源国とのジョイントべンチャー(JV)においても友好的な関係が難しい事例もある。現在進行中であるが、BPが2003年から50%の資本参加をしているTNK-BPの保有株について、ロシア側事業者の既存株主とロシア国営石油会社であるRosneftが相次いで株の買い取りに名乗り出ており、具体的にBPとの交渉を始めている。これまでの経緯からすれば、ロシア側株主との経営方針に関する話し合いがこじれた結果、BP側が縁を切ることを望んだのかもしれないが、BPにとってTNK-BPを失うということは保有する確認埋蔵量の3割弱、生産量全体の3割(約100万boe/d相当)を失うことを意味する(図16)。BPはRosneftとの新たな関係を企図した上で戦略的な行動に出たのかもしれないが、ロシア事業者との共同経営の難しさが浮き彫りとなった。2011年には、直接の理由は明らかでないがConocoPhillipsによる2004年からのロシア企業Lukoilとの資本提携も破棄された。欧州 シェールガス開発に沸くポーランドでも、現行、政府取分(Government Take)の比率は世界的に見て低率であるが、開発本格化を前に政府は最低保有比率(40%程度)を設定するとともに生産に関わる特別税を導入する等に向けて協議を開始した。また、①に分類される英国でも、2011年初頭に政府が国家歳入の改善のために突然課税率を引き上げ、石油会社を激怒させたという出来事は記憶に新しい。 こうした資源ナショナリズムや既締結契約の一方的な条件悪化は世界各地で見られ、企業はこうしたリスクと隣り合わせの事業運営を強いられている。これらは、往々にして今時のような原油高という良好な投資環境下において生じやすく、逆に、油価低迷時には条件緩和や外資導入策が採られやすい傾向が見られる(図17)。ドル/バレルFiscal IncentivesIncrease of Government Take(財務条件の緩和)(政府取り分の増加)160140120100806040200Jan-01Jan-02Jan-03Jan-04Jan-05Jan-06Jan-07Jan-08Jan-09Jan-10Jan-11出所: 米国内務省海洋エネルギー管理局スタディ “Comparative Assessment of the Federal Oil and Gas Fiscal System”より抜粋図17石油開発の投資促進策と原油価格の関係(米国内務省スタディより抜粋)61石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-S. 新規埋蔵量確保のための方策4-1. 新規埋蔵量獲得に向けてのアプローチ こうした状況下、資源に新たにアクセスしていく方法として、以下のような手段が考えられる。1) 資源アクセスの可能な地域において新しい油・ガス田を自ら発見する。 また、カスピ海の大深度(アゼルバイジャン:Total)ノルウェー領北海と北極海(Statoil、Total)南米フォークランド沖(Rockhopper)2) 誰かが見つけた油・ガス田にファームイン(鉱区権益陸域では中東のイラン(NIOC)およびイラククルド地区(Aspect、Afrenほか)南米のアルゼンチン陸上(YPF)ケニア・エチオピア陸上(Tullow)などであった。曲折が予想される。 既述のように、ブラジルは国営会社がコントロールし、アルゼンチンも最大手が国有化された。またイランにおいても国営会社が100%の支配権を有している。イラククルド地区はイラク中央政府との間で、またフォークランド諸島(英国)もアルゼンチン政府との間で、主導権争いに発展し開発まで紆 再三述べてきたように外資による資源アクセスの機会は限られているため、民間事業者らによる大規模な油・ガス田の発見は、技術や資金は要るが、治安リスクを回避しやすい大水深域に集中し、従来型(陸上・浅海)の油・である。それ以外にも、深度5,000mガス田の発見は僅を超すような大深度、または海象条件が厳しい北極海において油・ガスの大発見が相次いでいる。東アフリカや東地中海など開発インフラの未整備なフロンティアも含まれる。発見されても生産に至るまでにさらに数年、場合によっては10年以上もかかる。最低でも数十億ドル(メキシコ湾大水深など)、大水深ガス田のLNG開発の場合には開発に数百億ドル(数兆円)の巨額資金が必要となるので、開発を担う大手企業や資金提供者の参画が望まれる。余ようょう少しきんの一部買い取り)あるいは買収に動く。3) 特権的な立場にある政府もしくは国営会社と特別な関係を築いて鉱区取得を認めてもらう。 いずれかのアプローチを通じ、新たな埋蔵量を見つけていくことになる。以下に、油・ガス発見の最近の傾向と埋蔵量確保を目指す企業の動きを紹介していきたい。4-2. 大水深、大深度と北極圏 投資活動も活発なため、比較的発見のニュースは多い。2010年以降における大規模な発見域の主なところを列挙すると、ブラジルプレソルト(Petrobras)南米仏領ギアナ(Tullow-Shell)米国メキシコ湾(Chevron、ExxonMobil)モザンビーク沖・タンザニア沖(BG、Eni、Statoil)西アフリカ(Anadarko、Cobalt)東地中海[イスラエル、キプロス](Noble)豪州北西海域(Chevron、Apache)マレーシア(Petronas、KUFPEC)(以上、全て大水深海域)出所:各種資料よりJOGMEC作成図18最近の新たな油・ガス発見エリア622012.9 Vol.46 No.5アナリシスーたCobalt International Energy(米)である。東アフリカで大ガス田を発見したのは米系中堅のAnadarkoであった。 各地域において活躍する探鉱プレーヤーには特色がある。南米の場合、メジャー系企業は比較的小規模な操業に過ぎず、地場企業が主力である。アフリカや東南アジアにおいては、欧米メジャーが活動しているものの、中堅企業や特定地域のみで活動する探鉱事業者も数多い。図19は、新興地域における探鉱事業を展開している事業者のごく一部を拾い集めたものである。 海上掘削の場合、1本の試掘井にかかる費用も巨額になり、往々にして試掘前に他企業に鉱区をファームアウトして費用をシェアすることになる。近年、十分な開発能力のある大手の石油企業は、地元の探鉱事業者や中小事業者との間で恒常的な提携関係を結ぶ動きや発見後にオペレーターシップを譲り受けるための契約を交わすなどのケースが散見される。 例えば、Tullow Oilによる仏領ギアナの発見では、試掘前にShellがファームインして最大の権益保有者に入れ替わり、発見後にShellがそのオペレーターシップを譲り受けた。同じ頃にShellはこのTullow Oilとの間で5. 石油会社に求められる戦略的事業だいの一つは油・ガスを発見す 石油開発ビジネスの醍ることだとはよく言われることである。企業はそれによって資産の価値を高め、収益につなげる。しかし、自らの保有埋蔵量水準を維持していくためには自ら発見した油・ガス田資産だけでは十分でなく、他社が保有する鉱区や発見資産を戦略的に取得することによって埋蔵量の積み増しを確実に行うことにも腐心する。その実現のため、スーパーメジャーなどは探鉱事業者と組んだり、国家支配の強い国と多角的な関係をつくる動きが見受けられる。味み醐ご5-1. 探鉱事業者とのパートナーシップ 新規の油・ガスの発見は、大企業でなく探鉱専門の企業や中堅企業が成功するケースが最近目立つ。特に、アフリカや南米など未探鉱が多い地域では、さまざまな顔を持つ探鉱事業者が活躍している。ガーナ大水深のJubillee油田は当時プライベートエクイティファンドであったKosmos Energy(米)が発見し、仏領ギアナ沖合の油田の場合は中小インデペンデント系のTullow Oil(英)であった。また、アンゴラ大水深の最近の発見はUnocalやBPで経験を積んだベテラン技術者らが立ち上Eni、Total、BPEni、Total、BPRepsol、OccidentalRepsol、OccidentalApache、BG などApache、BG など北アフリカ西アフリカ東アフリカPTTEP(タイ国営)PTTEP(タイ国営)ChevronChevronPearl EnergyPearl EnergySalamander などSalamander などPNOC(フィリピン国営)PNOC(フィリピン国営)ShellShellNidoNidoPearl Energy などPearl Energy などPemex(メキシコ国営)Pemex(メキシコ国営)Ecopetrol(コロンビア国営)Ecopetrol(コロンビア国営)PetromineralesPetromineralesPaci?c RubialesPaci?c RubialesTalisman などTalisman などタイマレーシアフィリピンインドネシアPertamina(インドネシア国営)Pertamina(インドネシア国営)ConocoPhillipsConocoPhillipsExxonMobil、Total、EniExxonMobil、Total、EniBP、ChevronBP、ChevronAnadarko、HessAnadarko、HessTalisman、Murphy、INPEXTalisman、Murphy、INPEXMedco、Salamander などMedco、Salamander などメキシコPDVSA(ベネズエラ国営)PDVSA(ベネズエラ国営)ベネズエラコロンビアギアナ3国ExxonMobilExxonMobilTullow OilTullow OilOGX などOGX などペルーブラジルAddax(Sinopec)Addax(Sinopec)ShellShellTotal、Eni、ChevronTotal、Eni、ChevronRepsol、AnadarkoRepsol、AnadarkoTalismanTalismanTullow OilTullow OilKosmos(米)、Soco(英)Kosmos(米)、Soco(英)Oranto(ナイジェリア)Oranto(ナイジェリア)Maurel&Prom(仏)Maurel&Prom(仏)African Petroleum、African Petroleum、Cobalt などCobalt などPetronas(マレーシア国営)Petronas(マレーシア国営)Shell、ExxonMobilShell、ExxonMobilMurphy、HessMurphy、HessNew?eldNew?eldJX NipponJX NipponLundin(スウェーデン) などLundin(スウェーデン) などオーストラリアPluspetrolPluspetrolHunt Oil などHunt Oil などニュージーランドアルゼンチンメジャー系企業メジャー系企業Woodside Energy、SantosWoodside Energy、SantosBHP BillitonBHP BillitonBeach Energy などBeach Energy などYPF(アルゼンチン国営)YPF(アルゼンチン国営)メジャー系企業メジャー系企業Pan American Energy などPan American Energy などNZ Oil and Gas などNZ Oil and Gas などPetrobras(ブラジル国営)Petrobras(ブラジル国営)StatoilStatoilShell、BG、BPShell、BG、BPRepsol-SinopecRepsol-SinopecOGXOGXGALPGALPHRT などHRT などPetronasPetronasStatoil、CNOOCStatoil、CNOOCEni、ShellEni、ShellExxonMobilExxonMobilTotalTotalAnadarko、BGAnadarko、BGOphir、African OilOphir、African OilLundin(スウェーデン)Lundin(スウェーデン)Tullow Oil、OphirTullow Oil、OphirCaprikat(南ア) などCaprikat(南ア) など出所:各種資料よりJOGMEC作成図19探鉱事業を展開している主要事業者63石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-メキシココロンビアブラジルアルゼンチンペルーベネズエラギアナ3国オーストラリアニュージーランドフィリピンマレーシアインドネシアタイ北アフリカ西アフリカ東アフリカ\5探鉱事業者と大手石油会社のパートナーシップ事例石油会社(開発)探鉱主体の事業者提携時期共同操業エリアTotalShellCobalt International Energy(米)2009年4月・メキシコ湾大水深での共同操業協定を締結。Cobaltが保有する122鉱区、Totalが保有する80鉱区、共同で保有している12鉱区を共同事業化。Cobaltが主に探鉱段階、Totalは開発段階の事業主体となる。Tullow Oil(英)2012年1月・フロンティア探鉱におけるパートナーシップ協定を締結。出所:各種資料よりJOGMEC作成表6欧米企業とロシア企業の最近の提携ロシア側欧米企業内 容RosneftExxonMobilStatoilEni2011年8月30日・2012年4月16日①ロシア北極海・黒海大陸棚等での共同事業:Rosneftのカラ海のEPNZ(Vostochno-Prinovozemelsky)の3鉱区と黒海Tuapse鉱区にExxonMobilが参画。権益比率はRosneftが66.7%、ExxonMobilが33.3%。②西シベリアの開発が難しい鉱床での共同開発:Bazhenov層(Tight Oil)とPriob鉱床にExxonMobilが参画。③テキサス、メキシコ湾とカナダのExxonMobilの鉱区にRosneftが参加:テキサス西部Delaware 盆地におけるLaEscalera Ranch事業への参加メキシコ湾20 鉱区への参加カナダアルバータ州のCardiumへの参加④ExxonMobil が第三国で行っている事業にRosneftが参加⑤サンクトペテルブルクにリサーチセンター設立等2012年5月4日北極圏に関する戦略的協力協定の締結バレンツ海Perseevsky鉱区、オホーツク海のKashevarovsky、Lisyansky、Magadan-1鉱区2012年4月25日バレンツ海と黒海の三つの鉱区に係る戦略的協力協定の締結①バレンツ海のFyedynsky鉱区とTsentralno-Barentsyevsky(Central Barents)鉱区②黒海のZapadno-Chernomorsky(Western Chernomorsky またはShatsky Ridge)鉱区を開発するためのJV設立NovatekTotal2011年3月2日① ロシアYamalLNG開発へのTotal参画(20%)②TotalがNovatekの12%株式を取得 2014年までに株式保有比率19%に引き上げ参考:JOGMEC石油・天然ガス資源情報2012年7月 ロシア:ロスネフチを主軸に展開するプーチン新政権のエネルギー政策探鉱におけるパートナーシップを締結しており、共同で活動する地域を広げていく。フォークランドで油を発見した地元のRockhopper(英)も、Premier Oil(英)に主要権益(60%)をファームアウトし開発移行を目指す。また別件では、Marathon Oilが、ケニアに最近参画したファームインの例では、商業量の発見があった場合にオペレーターのAfrican Oilからオペレーターシップを譲り受けることで双方合意している。 大規模に参入を果たした事例としては、2009年、Totalはほとんど経験のない米国メキシコ湾に進出するにあたり、探鉱専門だったCobalt International Energyと手を組み、Cobaltが探査・試掘を行い、開発段階に移行した場合にTotalが事業主体となる連携態勢をつくり、双方が保有する200以上の鉱区を共同事業化したケースなどがある(表5)。5-2. 資源国とのパートナーシップ 大手企業であればあるほど、その年間の総生産量は増える。ExxonMobilであれば、年間16億バレル、ガス換642012.9 Vol.46 No.5アナリシスZで10TCFを生産している。同量の埋蔵量を毎年リプてんレース(補填)していかなければ、資産は目減りしていくことになる。 その意味で、メジャー企業は新たな資源の確保を効率よく進めるため、膨大な資源が眠っているロシアや中国などの大資源国との間で実質的な共同事業を追求するケースが増えている。例えば、Shellは中国のCNPC(子会社PetroChina)と戦略的に提携し、豪州のLNG開発を共同で推進する。ShellがLNGを開発し中国側がその大半を引き取る。それ以外にも、カナダやカタールの上流開発、中国国内の上流・下流部門でも共同で事業を進めるなど多方面で結びつきを深めている。国際企業に転身したい中国側と巨大市場に先陣を取りたいメジャーの思惑がここでは合致する。 ExxonMobilは、2011年にロシアのRosneftとの間で包括的な提携を結んだ。実際には、BPがRosneftに先に近づいたものの、結局、TNK-BP側との折り合いがつかず破談となり、ExxonMobilが後釜に選ばれたものである。提携の内容は、Rosneftが、ExxonMobilが操業する米国のシェールオイルやメキシコ湾大水深など高度な技術を要する開発事業に参画することと引き換えに、ExxonMobilがロシア北極海および黒海大水深のRosneft鉱区に参画するという相互参入の形である。加えて、共同で北極海開発に向けた研究センターをロシアに開設することも盛り込まれた。メジャー企業がロシアに技術を提供し、資源を手に入れる典型的な提携モデルである。同様に、Rosneftは他の欧米企業とも提携しTotalはロシア民間企業のNovatekとの間で2011年に資本提携を結んでいる(表6)。 BPは、ロシアだけでなく、インドやブラジルなど経済成長が目覚ましい新興国をターゲットとして同国のエネルギー分野に集中的に資本投下してインフラづくりにも関わっていく。エネルギー分野、特にガス供給事業は「規模の経済」が働きやすい自然独占の産業であるため、国主導や大規模事業者によるインフラ構築が不可欠であり、これを後方支援する。結び 近年の原油高によって資源国も石油会社も潤うが、資源国による国家支配が弱まる気配は一向にない。石油会社は過去最高益に浴するが、埋蔵量の安定的な確保のための厳しい競争にさらされている。 多くの企業は、油・ガス発見だけに注力するのではなく、ポテンシャルが高まったエリアにいかにタイミングよくファームインして足がかりとし、そのポジショニングをどう高めていくのかを考えている。また権益保有者ならば逆に、タイミングよくファームアウトしシェアダウン(一部権益売却)するのか、そして開発費の負担を減らし収益をいかに確実に生み出していくのかなど、地域戦略や最適なポートフォリオを念頭に機動的な判断を行っている。 2012年3月頃からの数カ月の間、有望海域の探鉱鉱区のファームイン(=ファームアウト)のニュースが連日のように伝えられた。2011年後半は大手企業の動きが鈍かっただけに大きな変化が感じられた。背景にはさまざまあろうが、1年ぶりに原油価格の下落局面に入った時でもあった。鉱区権益の取引価格もおおよそこれに連動する。アフリカでは、Marathon Oilがガボン沖大水深とケニア・エチオピア陸域にファームイン、BPがナミビア沖合にファームイン、Totalほかがケニア沖の鉱区取得で合意した。また、期待が高まる南米ギアナ3国(南米北東部)沖合には、Chevronがスリナム沖の鉱区にファームインし、Anadarkoがガイアナ沖の鉱区を取得したと同時にメキシコ湾大水深の開発権益をシェアダウンして資金調達を行った。 周知のように、資源が民間に開放されている北米や欧州地域においてシェールガス・シェールオイル開発(非在来型の油・ガス田)といった新しいビジネス機会が見つかった。他方で、探鉱フロンティアを追い求めて水深1,000mを超える大水深海域や5,000mを超える大深度において試掘合戦を繰り広げ、新たな開発ビジネスを画策している。 新たな油田やガス田がより深いところで、またより遠洋で見つかっている。それに甘んずることなくメジャー企業は閉ざされた資源大国にも歩み寄り、特別な関係づくりを企図している。本稿では、メジャーを軸とした石油会社の資源国家との関係を中心に現状を整理してきたが、総じて言えることは、昨今の原油高はかえって中小企業を含めた企業間での競争を加速しているように見えてならないということである。65石油・天然ガスレビュー強まる資源の国家支配、厳しさ増す石油企業の争い -グローバルE&P事業の最新トレンド-y参考文献】石油・天然ガス資源情報(JOGMECホームページ)2007年7月 ベネズエラ: PDVSA、全ての石油プロジェクトの過半を取得へ2009年5月 アンゴラ:資産スワップによる国際展開を図るSonangol(短報)2009年12月 活況を呈する西アフリカ深海2011年6月 ブラジル:プレソルトを始めとするフロンティアでの探鉱・開発進展2011年8月 プレソルトの探鉱・開発に賭けるPetrobras:新5カ年計画(2011~2015)2011年9月 英国の税制変更が石油・天然ガス上流産業にもたらす影響2011年12月 更なる増産に向け課題克服を目指すコロンビア2012年6月 中国国有石油企業の対外投資トレンド ~アフリカから北米・南米へ~2012年7月 ロシア:ロスネフチを主軸に展開するプーチン新政権のエネルギー政策石油・天然ガスレビュー2012年3月号 南米の石油地図は塗り替わるか?2012年7月号 中小独立系が塗り替えるサブサハラの産油ガス地図参照ホームページRigzone http://www.rigzone.com/サービス会社 Baker Hughes www.bakerhughes.com/米国内務省海洋エネルギー管理局 www.boem.gov/米国エネルギー省情報局 http://www.eia.gov/執筆者紹介市原 路子 (いちはら みちこ)JOGMEC石油調査部、北米・企業を担当。662012.9 Vol.46 No.5アナリシス |
地域1 | グローバル |
国1 | |
地域2 | |
国2 | |
地域3 | |
国3 | |
地域4 | |
国4 | |
地域5 | |
国5 | |
地域6 | |
国6 | |
地域7 | |
国7 | |
地域8 | |
国8 | |
地域9 | |
国9 | |
地域10 | |
国10 | 国・地域 | グローバル |
Global Disclaimer(免責事項)
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
PDFダウンロード7.1MB
本レポートはPDFファイルでのご提供となります。
上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。
アンケートの送信
送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。