ページ番号1006564 更新日 平成30年2月16日

オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向

レポート属性
レポートID 1006564
作成日 2015-05-22 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般探鉱開発
著者
著者直接入力 加納 寛之 小林 宏章 北村 龍太
年度 2015
Vol 49
No 3
ページ数
抽出データ JOGMECK YMCクレイトン・ユッツ法律事務所加納 寛之東京海上日動火災保険株式会社 メルボルン首席駐在員小林 宏章オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向はじめに オーストラリアでは北西大陸棚を中心に、大型LNGプロジェクトを含む多くの海洋開発プロジェクトが進行中である。そのなかには世界で初めての試みとなる、洋上におけるLNGプラントの操業プロジェクト「Prelude」も含まれており、注目を集めている。また隣国ニュージーランドにおいては、Shell、Chevron、Statoilといったメジャー企業が参画して大水深エリアでの探鉱作業が活発化している。 一方、2009年には、原油生産プロジェクトとして開発作業中であったMontaraプラットフォームにおいて、原油流出事故が発生している。翌2010年に米国メキシコ湾で発生した原油流出事故のわずか8カ月前の出来事であり、連続して発生した海洋開発プロジェクトにおける事故は、以後の法制度、安全管理などさまざまな見直しが行われるきっかけとなっている。 本稿では、ますます活発化するオーストラリア、ニュージーランドにおける海洋探鉱・開発の現況と、Montaraの事故が及ぼした影響を概説する。1. 海洋石油ガス上流開発の最新動向またが(1)オーストラリア海洋開発の歴史、近年の動向 オーストラリアでは、これまでに発見されている石油と在来型天然ガスの大半は海域に賦存している。陸域の生産フィールドとしては、南オーストラリア州とクイーンズランド州に跨るCooper Basinで古くより在来型石油ガスが生産されているのに加えて、近年複数のLNGプロジェクトが立ち上がっているクイーンズランド州Bowen Basin、Surat Basinの石炭層ガス (CSG: Coal Seam Gas)フィールドなどに限られる。 まず、海域フィールドとしてオーストラリアでは歴史の古いビクトリア州沖合Bass Straitプロジェクトと、西オーストラリア州沖合North West Shelfプロジェクトについて紹介する。①Bass Strait ビクトリア州とタスマニア島に挟まれたBass海峡のGippsland Basinは、オーストラリア海洋開発において歴史的に最も古い。海洋での本格的な石油掘削は、同Basinで初めて行われたと言われている。 当該エリアの水深は40~100m程度で、着底式のジャッキアップリグを用いて掘削を行うことができる海域である。Esso Australia (ExxonMobilの豪州法人)とBHP (現BHP Billiton)のジョイントベンチャー (以下、JV)によって、継続して探鉱が進められてきたが、JVはまず1965年にBarracoutaガスフィールドを発見。その2年後にはKingfishオイルフィールドを発見しており、同オイルフィールドは現在でも国内で最大のオイルフィールドである。 1969年よりBarracoutaからのガス生産が始まり、その翌年から石油生産も開始されている。開発ではジャケットタイプの固定式プラットフォームが用いられ、これまでにEsso/BHPによるものだけでも23基のプラットフォームが建造されている。 大小合わせて30を超えるフィールドが発見されたが、1石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 12015/05/13 9:25:50アナリシスOGMECK YMCり、1991年に当時の世界記録となる偏距5,009mを記録したNorth Rankin A21坑井が掘削された。 その後、North Rankinガスフィールドに隣接するPerseusガスフィールドの開発のために、1998年にNorth Rankin Aプラットフォームに搭載された掘削設備の増強が行われた。これを受け、9-5/8”チュービングにより生産を行う大坑径生産井が掘削されている。 ガス生産能力の向上などを目的として、North Rankin Aプラットフォームに隣接してNorth Rankin Bプラットフォームが設置され、2013年に操業を開始している。④Laminaria/CoralliaJOGMECシドニー事務所北村 龍太そのうちこれまで25フィールドから石油・ガスの生産が行われている。原油はピーク時の1985年にはフィールド合計日量48万bblを超える生産が記録されているが、2013年では同5万bbl程度となっている。国内に供給されるガスは1980年代以降は現在まで同5億~7億cfの間で推移しながら安定した生産を続けている(図2)。②North West Shelf 同国の海洋石油ガス開発でこれに続いたのは、西オーストラリア州北西部沖合Carnarvon Basinで、現在も順調にLNG生産を続けるNorth West Shelf (以下、NWS)プロジェクトである。1967年より同海域で探鉱を開始したBurmar Oil (現Woodside)率いるJVは、1971年 にNorth Rankinガスフィールド、Goodwynガスフィールドを相次いで発見した。これらのフィールドが位置するエリアの水深は約120mで、それぞれの探鉱井は浮遊式であるセミサブリグによって掘削されている。 開発ではジャケットタイプの固定式プラットフォーム4基が使用されている。大部分の開発井はプラットフォームより掘削されるが、一部の開発井は海底仕上げ坑井となってプラットフォームまでつなぎ込まれる。ガスを主体とする生産流体は、それぞれのプラットフォームで処理された後、メインのプラットフォームであるNorth Rankin Aプラットフォームに集約され、約140km離れたカラサにある陸上LNGプラントまでパイプラインで輸送されている。 North Rankin Aプラットフォームは、2000年代前半に注目を集めた大偏距掘削(ERD:Extended Reach Drilling)坑井を掘削したことでも有名である。 1982年に設置された同プラットフォームよ出所:BHP BillitonProposed PipelinesNon-GBJV PipelinesC+CGasNGLEthaneWAG Pipeline⑦Pluto②North West Shelf⑥Stybarrow③Wandoo⑤Enfield/Vincent①Bass Strait出所:JOGMECシドニー事務所作成図1 各フィールド位置図図2Bass Straitプロジェクトイメージ2アナリシス_加納小林北村.indd 22015/05/13 9:25:512015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMCBonaparte Basinで、 1994年にWoodsideがLaminariaオイルフィールドを発見。同一鉱区内で1996年に発見されたCorallinaオイルフィールドとともに一体開発を行い、1999年より生産を開始している。水深約400mの大水深に分類される海域で、オーストラリアにおける大規模大水深フィールドの先駆け的存在である。 海底仕上げ坑井とFPSOの組み合わせで開発が行われ、生産開始翌年の2000年には日量約15万bblを記録。Bプラットフォームは重量6万5,000トン、高さ274m、2014年現在、世界最大の海洋プラットフォームとなっている(写1)。 また、ガス生産がメインの同エリアであるが、商業規模のオイルフィールドとしては1989年にWanaeaフィールドが発見され、周辺のCossack、Lambert、Hermesの各フィールドと一体で開発が進められている。いずれも80~130m程度の浅海域だが、海底仕上げの生産井を掘削し、Wanaea、Cossackの両 フィールドの間に係留されているFPSO (Floating Production Storage and Offloading)につなぎ込んで生産を行っている。生産量は、ピーク時の2002年には日量11万bblを超えたが、近年は減退が進み同3万bbl前後で推移している。出所:Woodside写1North Rankinコンプレックス ここに紹介した2プロジェクトは、いずれもオーストラリアの海洋石油ガス開発において、長い歴史を有しているとともに、現在でも主力プロジェクトの一つである。 次にこれらの他に、これまでに生産を開始している主な海洋石油ガスプロジェクトを紹介する。③Wandoo 1991年にAmpolex (後にMobil〈当時〉)により買収)によって、Carnarvon Basinで発見された。水深50m程度の浅海域であり、貯留層深度が約600mと浅いことも特徴的である。 発見の2年後の1993年より試験生産が始まり、本格生産は生産プラットフォームの建設後1997年より開始されている。同年にピークとなる日量約3万bblを記録した後減退が続き、2013年現在の生産量は同7,000bblとなっている。現在のオペレータはカナダ企業のVermilion Energy。 生産能力維持のために近年、坑井改修、追加掘削が行われ、2013年にはこの貯留層深度としては非常に長い3,400mの水平坑が掘削されたとのこと。④Laminaria/Corallina インドネシア、東ティモール、オーストラリア3カ国の国境付近に位置する海域の出所:Woodside写2FPSO “Northern Endeavour”3石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 32015/05/13 9:25:52オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMC生産開始以降フローライン、海底ウェルヘッド、ライザーなどからの生産流体のリークが複数回発見されたが、そのつど補修作業を行い、2013年現在日量約5,000bblで生産を継続している。また使用されているFPSO“Northern Endeavour”(写2)は、貯油能力140万bblを有し、オーストラリア国内最大級のものとなっている。⑤Enfield/Vincent Carnarvon Basinの同一鉱区でWoodsideが1999年に連続して発見したEnfield、Vincentの両オイルフィールドは、いずれも水深300mを超える大水深海域に位置する。同一鉱区内に位置するため一体開発の選択肢はもちろんあったと考えられるが、Vincentフィールドの隣接鉱区への広がりの可能性もあったことから、まずはEnfieldフィールドのみを単体で海底仕上げ坑井とFPSO “Nganhurra”(写3)の組み合わせで開発を行い、その後Vincentフィールドの開発には新たなFPSOを設置することとなった。同エリアはサイクロン(インド洋に発生する熱帯性低気圧)の通り道でもあり、荒天時にはFPSOは切り離され待避ができる設計となっている。 2013年にはVincentフィールドのFPSOがメンテナンスのためにその大半で操業を停止した。このため、同年の生産量は両フィールド合わせて日量1万bblレベルに落ち込んだが、現在では操業を再開、順調に生産を行うと同3万bblを超える生産量が見込まれる。なお両フィールドが位置する鉱区には、Enfieldフィールドの開発移行が決定された2004年から三井物産が参画している。⑥Stybarrow Enfield、Vincentフィールドが位置する鉱区に隣接する鉱区で2003年にBHP Bilitonが発見。水深は800mを超え、オーストラリアのオイルフィールドとしては2014年現在、最大水深の生産プロジェクトである。近隣フィールドと同様、海底仕上げ坑井とFPSOの組み合わせで開発されている。 同フィールドが位置するExmouth Basinの特徴として、比較的フィールド寿命が短いとされている。同フィールドも2007年の生産開始直後にFPSOの処理能力の上限である日量8万bblを達成するも、その半年後には既に減退が始まったとアナウンスされている。2008年の平均生産量は同約7万bblであったが、翌2009年には同約3万bblに半減、2013年には1万bblを下回ったと見られている。⑦Pluto NWSプロジェクトのオペレータであるWoodsideが東京ガス、関西電力の日系ユーティリティ2社とともに立ち上げたLNGプロジェクトで、カラサにおいてNWS LNGプラントに隣接してLNGプラントを構えている。LNG原料となるガスフィールドは、2005年4出所:Woodside写3FPSO “Nganhurra”出所:Woodside写4Plutoプラットフォームアナリシス_加納小林北村.indd 42015/05/13 9:25:532015.5 Vol.49 No.3アナリシスノCarnarvon Basinで発見されたPlutoフィールド、および2006年発見の隣接するXenaフィールドであるが、2014年現在、生産はPlutoフィールドからのみで、Xenaフィールドからの生産開始は2015年中と見込まれている。 Plutoフィールドの一部は1,000mを超える大水深エリアで、2014年現在オーストラリアの全ての生産プロジェクトのなかで、最大水深のフィールドである。海底仕上げ坑井からの生産流体は、いったん水深85mの海域に設置された無人プラットフォーム(写4)に送られる。プラットフォームで簡易処理された生産流体は全長約180kmのパイプラインで陸上LNGプラントまで送られ、液化の後、出荷される。2007年に最終投資決定 (FID)が行われた時点では2011年の生産開始が予定されていたが、天候不順に加え、海洋設備、陸上施設の不具合などにより遅れが生じ、ほぼ1年遅れの2012年4月よりLNG生産が開始されている。 これらの生産中のプロジェクトに加えて、西オーストラリア州沖合では2014年現在、四つのLNGプロジェクトの開発作業が進行している。Chevronがオペレータを務めるGorgon、Wheatstone、Shellがオペレータを務めるPrelude、INPEX(国際石油開発帝石)がオペレータを務めるIchthysである。それぞれのプロジェクトについて、海洋開発における特徴を簡潔に表すと右上のとおりである。JOGMECK YMCGorgon: オーストラリア最大となる海底生 産システムWheatstone: 同じく最大となる固定式生産プIchthys: Prelude: ラットフォーム世界最大となる半潜水式生産プ ラットフォームと南半球最長となる海底パイプライン 世界最大の浮遊施設となるFLNG (Floating LNG)はいたい PreludeのFLNGは世界初の試みでもあることから注目度も高く、トピックスとして詳細を後述する。 さて、これまで紹介したプロジェクトは全てビクトリア州Gippsland Basin、および西オーストラリア州北西部沖合 (Carnarvon Basin、Browse Basin)にあり、今後もこれらのエリアが中心であることは間違いないと考えられる。一方、これらのほか、近年注目度が増しているエリアとして、南オーストラリア州南部沖合を紹介する。 南オーストラリア州南部のGreat Australian Bightと呼ばれる湾内において、現在計9件の探鉱ライセンスが設定されている。うち6件は2011年に、残りの3件は2013年にライセンスが付与されたもので、いずれも比較的新しい。Bight Basinと呼ばれる同エリアは以前よ胎の可能性が指摘されてきたエリアだが、り石油ガス胚厳しい海象条件に加え、有望エリアは急激に水深が深くなることなどから、これまで探鉱がそれほど進んでおらず、9坑の試掘井が掘削されたにとどまり、いずれも商業規模の発見は報告されていない(図3)。 9件の探鉱ライセンスはいずれも、毎年連邦政府によって実施されている公開鉱区入札によって付与されたもので、2011年の4件はBP(後にStatoilが参画)、残り2件はBight Petroleum、2013年の2件はChevron、残り1件はMurphy/Santos連合がそれぞれ権益を保有している。 BP/Statoilが権益を保有する4鉱区については当初、ライセンス取得3年目に当たる2013出所:Bight Petroleum図35石油・天然ガスレビューGreat Australian Bight探鉱経緯アナリシス_加納小林北村.indd 52015/05/13 9:25:53オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMC1979年より開始され、1993年には生産能力増強のために無人プラットフォームMaui Bが設置された。生産流体はプラットフォーム上でガスとコンデンセートに分離され、それぞれ別々のパイプラインで35km離れた陸上プラントへ送られる。陸上プラントでさらに処理された後、ガスは全量国内供給に回り、コンデンセートは一部は国内製油所へ送られる他、オーストラリアなどへも輸出されている。ガス生産は2002年以降減退が続くが、追加坑井の掘削などにより、近年では日量約9,000万cfで安定している。 また、1993年のガス開発井掘削中に、深部層で商業量の原油の賦存が確認されたため、1996年よりFPSOを傭船して原油生産も行われた。最大日量3万5,000bblの生産量があり、2006年にFPSOをリリースするまでの約10年の間に計約4,200万bblを生産した。ようせん②Pohokura 2000年に当時のオペレータFletcher Challenge Energy (その後Shellにより買収)により発見された。最初に試掘が行われたポイントは離岸距離にして5km、水深40m程度の浅海域に位置する。当時国内ガスの大半を供給していたMauiフィールドの減退が顕著となった年内に試掘井各1坑を掘削する計画だったが、現在ではその期限が2017年央まで延長され、それまでの間に掘削を行う計画に変更されている。掘削コントラクターDiamond Offshoreは2014年現在、韓国の造船所で大水深対応のセミサブリグを建造中であり、BPはその新造リグを当該鉱区での試掘井掘削に使用すると見られている。リグは2015年後半の完成予定で、順調にいけば試掘井掘削は2016年から始まると見られている。また2013年に2ライセンスを取得しているChevronも、ほぼ同時期に両鉱区で2坑ずつの試掘井の掘削を行う予定である。BPによると、Bight Basinは同社にとって世界的にも5本の指に入る有望なエリアであり、メキシコ湾やナイジェリアのニジェールデルタに匹敵するポテンシャルが期待されているとのことで、今後の探鉱に注目が集まっている。(2) ニュージーランド海洋開発の歴史、近年の動向 ニュージーランドでは、北島中西部沿岸から沖合に跨るTaranaki Basinが同国唯一の石油ガス生産エリアである(図4)。同Basinではまず最初に1959年に陸域でKapuniガスフィールドが発見され、その10年後の1969年に初の海洋フィールドとしてMauiガスフィールドが発見されている。 まずは同国最大のフィールドであるMaui、および2014年現在同国最大の生産量を誇るPohokuraガスフィールドについて紹介する。①Maui 1969年にShell、BP、Todd Petroleumの3社合弁による操業会社SBPTが発見。記録によると、試掘井Maui-1はニュージーランドで初の本格的な海洋掘削で、その試掘で当時世界最大級(可採埋蔵量:約3.8Tcf)となる発見がなされた。 開発では、最初にガス生産を行うために、掘削装置を備えたジャケットタイプの生産プラットフォームMaui Aが設置された。水深は100m程度の浅海域だが海象条件が非常に厳しいため、プラットフォームの設計ではそれまでに存在しなかった新たなデザインを採用することにより困難を克服したとの記録も残されている。ガスとコンデンセートの生産は出所:NZ Petroleum & Minerals図4Taranakiエリアフィールドイメージ6アナリシス_加納小林北村.indd 62015/05/13 9:25:542015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC2002年以降、同フィールドの開発検討が加速することとなった。 フィールド南西部に無人式のウェルヘッドプラットフォームを建造し、そこから5坑の生産井が掘削された。生産流体はプラットフォーム上で集約され、全長約7kmの海底パイプラインで陸上プラントに送られ、処理された後国内供給ラインに送られている。2006年より生産が開始されているが、当初はプラント近隣から掘削された陸上高傾斜生産井からの生産であった。フィールド自体は海洋に位置しているが、陸域に至近なので、陸上からのアクセスも可能で3坑の陸上生産井が掘削されている。 またコンデンセート分の産出が多いのも特徴であり、液体分の早期回収を行うために、一部余剰ガスについては圧入井を通して地下への再圧入も行っている。掘削に当たっては、Anadarkoが2010年に起きたメキシコ湾でのBPの原油流出事故に権益保有者として関わっていたことから、環境団体などからの反発に遭ったことも事実である。 深海探鉱において、Anadarko率いるグループに続くのが、長らく同国で最大の生産者であるShellが率いるグループである。Anadarkoが上記の2坑目の試掘を行った鉱区の南西に隣接する南島南東部沖合Great South Basinで、Shellは2012年よりOMV、Mitsui E&P Australia (三井物産の豪州法人)、PTTEP (2013年に撤退)が保有していた鉱区に参入し、その後OMVよりオペレータを引き継いでいる。2017年でライセンス期限を迎える同鉱区で2016年に1坑の試掘を行う予定で その他、Tui、Maariなど、小規模ではあるが原油を中心に生産を行っている海洋フィールドにおいてはFPSOを用いて生産を行っている。また陸上に比較的近いKupeフィールドの生産流体は、約30kmの海底パイプラインを通して陸上プラントまで送られ、処理を行った後、国内供給ラインに送られている。 これまでニュージーランドでは陸域および浅海域での探鉱が中心であったが、加えて近年では大水深海域における探鉱も徐々に進んでいる(図5)。 2014年2月にはTaranaki Basinの北西部深海エリアで、水深約1,500mの地点で試掘井Romney-1が掘削された。それに続き、南島南東部沖合Canterbury Basinの水深約1,100mの地点で、同じ大水深対応掘削リグを用いて試掘井Caravel-1の掘削が行われている。いずれもAnadarko、Origin Energyを中心とするJVが権益を保有する鉱区だったが、前者は「Water Bearing」、後者は「Gas Shows」とされており、いずれも商業規模の発見は報告されていない。なおこれらの7石油・天然ガスレビューStatoilAnararkoWoodsideAnararkoShellShellWoodsideAnararkoChevron出所:NZ Petroleum & Minerals資料を基にJOGMECシドニー事務所で加工図5 ニュージーランド深海エリアにおける主な新規探鉱ライセンスアナリシス_加納小林北村.indd 72015/05/13 9:25:54オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向?ることが2014年に発表されており、現在準備中であると思われる。 それらに加え、近年深海エリアを中心に新規探鉱ライセンスの付与が相次いでいる。2012年の公開入札では、Anadarkoが単独で北島南端部沖合のPegasus Basinに2鉱区、Shell、OMV、Mitsui連合はGreat South Basinで1鉱区の探鉱ライセンスをそれぞれ取得している。 翌2013年の公開入札では、Woodsideとニュージーランド企業であるNew Zealand Oil & Gasが共同で、Great South BasinのShell保有鉱区に隣接する1鉱区とTaranaki BasinのAnadarko保有鉱区に隣接する深海エリアの1鉱区で、それぞれ探鉱ライセンスを取得。一方、北島北西部沖合のReinga BasinのフロンティアエリアではStatoilが1鉱区の探鉱ライセンスを取得し、Woodside、Statoil両社のニュージーランド新規参入が大きな話題となった。 さらに2014年12月に結果が発表された同年の公開入札では、Chevronの新規参入が発表された。Anadarkoが2012年に取得したPegasus Basinの鉱区に隣接したエリアで、Statoilと共同で3鉱区の探鉱ライセンスを取得(オペレータはChevron)している。いずれも当面は新規地震探鉱データ取得と解釈などの作業が中心となっており、まずはそれらの結果が注目される。(3) オーストラリア、ニュージーランドの海洋開発に係るトピックス①Floating LNG(FLNG) 現在Shellがオペレータとして西オーストラリア州沖合で開発を主導しているPreludeプロジェクトで、世界で初めて2011年にその導入が決断された技術がFLNGである。現在韓国の造船所で同プロジェクト用のFLNG船の建造が順調に進んでおり、2017年からの操業開始を目指している。完成すると全長488m、幅74mの世界最大の洋上浮遊構造物となる(図6)。 このShellの決断を皮切りに、Petronasが自国マレーシア海洋ガス田開発の二つのプロジェクトでFLNGの採用を決めた他、コロンビアの陸上ガスの輸出手段としても採用され、Preludeを含めて現在四つのFLNG船の設計・建造が進められていることになる。 Preludeの年産360万トンと比較して、Petronasにとって1基目となる同国サラワク州沖向けPFLNG-1は年産100万トン、コロンビアで使用されるExmar所有のものは年出所:ShellJOGMECK YMC産50万トンとかなり小型であるため、完成はいずれもPreludeよりも先になると見込まれている。直近の情報では、Exmar FLNGは今年の後半、PFLNG-1も今年末までの完成が見込まれており、世界で初めてのFLNGによるオペレーションが開始されることとなる。 FLNGのコンセプト自体は1970年代より存在していたが、安全面、操業面で克服すべき技術的課題への対応に長い年月を費やすこととなった。主な技術課題としては、常時、海上で動揺する環境下での効率的な液化技術および安全な出荷技術、さらには貯蔵タンクにおけるスロッシング (船体運動と貨液運動が同調した際に生じる激しい流体運動) 対策などが挙げられる。いずれも陸上LNGプラント、LNGタンカー、原油生産用のFPSOなどで既に適用されていた要素技術を流用し、適宜改良を施すことにより、FLNGの実現にこぎ着けたものである。FLNGの登場により、これまで採算が取れないと考えられてきたリモートエリアに位置する中小規模ガスフィールドの開発が促進されることが期待される。 またExmar FLNGのように、パイプラインガスを海上で液化するケースへの適用検討についても北米を中心に議論が進んでいると言われている。米国テキサス州Lavaca BayでExcelerate Energyが検討している岸壁設置型のFLNG (同プロジェクトでは岸壁上に前処理施設を別途設置することからFLSO〈Floating Liquefied Storage and Offloading〉と呼ぶ、図7)は年産400万トン級の規模を想定、順調に許認可を取得した場合2016年の建造開始を予定しているとされる。 オーストラリアにおけるFLNGに関してはPrelude同様、海洋ガスフィールド開発での適用がより現実的であり、これまで多くの海洋プロジェクトでその適用が検討図6Prelude FLNGイメージ8アナリシス_加納小林北村.indd 82015/05/13 9:25:542015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC図7Lavaca Bay LNGイメージSunriseBonaparteBrowsePrelude出所:Lavaca Bay LNGされてきている(図8)。とりわけ検討が進んでいると見られるのは、2013年9月に従来の陸上プラントコンセプトを撤回してFLNGを選択したBrowseプロジェクトである。オペレータはWoodsideだが、パートナーのShellの強力なサポートを受け、PreludeタイプFLNGを基本に検討を進めているとされる。ただし当初の予定では2014年末までに詳細設計 (FEED)を開始するとされていたが、昨今の油価低迷の影響などによりFEED開始は2015年央頃まで延期することが発表されている。 その他、ExxonMobilが主導するScarboroughプロジェクトは2013年11月に、FLNGを適用した開発に対して連邦政府からの環境許認可を得ていることが発表されている。その際には2013年中のFEED開始が想定されていたが、実際にはその後もパートナーであるBHP Billitonとの間で開発方式に関する協議が続いていたようで、2014年9月にBHP Billitonとの間でFLNG適用の合意が得られたことが発表されている。しかしタイミング的には油価低迷の影響は無視できず、当面、大きな動きはなさそうである。 また、GDF SuezがオペレータとしてSantosとともに進めているBonaparteプロジェクトでは、以前よりFLNGをメインに検討を行ってきていたが、2014年6月に既存陸上プラントへのガス供給を含めた代替案を検討することが発表され、FLNGコンセプトは事実上撤回されている。時期的には油価下落の起こる前のタイミングであり、油価の変動が直接的な原因ではないと考えられる。 また同じく、古くからFLNG採用を検討しているプロジェクトとして、Woodsideがオペレータを務めるSunriseプロジェクトがある。こちらもShellがパートナーとして参画しており、PreludeタイプFLNGの適用が見込まれ、いったん動き始めれば足は速いと見られている。しかし、こちらは地理的に東ティモールとの共同開発エリアに一部が跨っており、現在東ティモール政府がその境界線の引き直しを求める動きを見せていることから、Scarborough出所:JOGMECシドニー事務所作成図8 オーストラリア周辺のFLNG候補プロジェクトこの問題が落着するまでプロジェクトそのものの進捗は望めない状況である。②長距離海洋パイプライン 現在開発作業が進んでいるIchthysプロジェクトでは、西オーストラリア州沖合のフィールドから陸上LNGプラント建設地である北部準州Darwinまで889kmの海洋パイプラインを敷設して、ガスを中心とする生産流体を陸上に送ることとなる(図9)。このパイプラインは完成すると南半球で最も長い海洋パイプラインとなる。 オーストラリアではこれまでにも、東ティモールとの共同開発エリアに位置するBayu-UndanフィールドからこちらもDarwinまで、502kmの海洋パイプラインが敷設され2006年から操業を続けている。その他のLNGプロジェクトにおいても、海洋フィールドから生産された9石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 92015/05/13 9:25:55オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMCガスは海洋パイプラインを通して陸上LNGプラントに送られるため、LNGプロジェクトにおいて海洋パイプラインは必須であった。 この状況に変化をもたらしたのが上述のFLNGである。Browse、Scarborough両プロジェクトについてはFLNGが有力視されていることからパイプラインを敷設しない方向に進むと見られる。一方、Bonaparteプロジェクトのようにパイプラインを敷設して既存LNGプラントへのガス供給という選択肢を検討し直す例もあり、どちらがより有効なオプションかは一概には言えない。開発にかかるコストに加えて、スケジュール、操業上のリスクなどを総合的に比較検討して決定されるものと考えられる。 SunriseプロジェクトではFLNGの他に、東ティモール政府が望む同国陸上プラントの建設という選択肢についても引き続き検討しているとされている。同プロジェクトのフィールドは東ティモールまで直線距離で150km程度であるが、その途中に水深3,000mを超える海溝を縦断する必要があり、技術的リスクが高いと言われ、今後の判断が注目される。 なお長距離パイプラインの観点で北半球に目を向けると、ロシアからドイツまでガス輸送用にバルト海に敷設され2011年より稼働を開始しているNord Streamが、全長1,224kmで2014年現在世界最長となっている。ちなみに単一のフィールドからのガス輸送用という意味では、ノルウェー沖合のOrmen Langeフィールドから同国沿岸Nyhamnaターミナルを経由して、英国中部東岸のEasingtonまでガスを輸送するLangeledパイプラインが、全長1,166kmとなっている。出所:国際石油開発帝石株式会社図9Ichthysガス輸送パイプラインイメージ③メタンハイドレート ニュージーランドでは日本、米国、インドなどに続き、資源としてのメタンハイドレートに対する関心が高まっている。古くは1990年代前半より政府系研究機関を中心に、ハイドレートに関する基礎研究は行われてきている。本格的なメタンハイドレートの資源量評価に関する出所:GNS Science図10ニュージーランド・メタンハイドレート有望エリア10アナリシス_加納小林北村.indd 102015/05/13 9:25:552015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC研究「Gas Hydrate Resources」は、政府系研究機関であるGNS Scienceが主導、University of Aucklandなどの大学および他の政府系機関NIWA(National Institute of Water and Atmospheric Research)などと共同で、2010年より開始されている。 ニュージーランドの北島から南島北部の東岸に広がるHikurangi Marginと呼ばれるエリアが同国で最も資源としてのメタンハイドレートの賦存が期待されているエリアである(図10)。2003年に発表された研究結果によると、同エリアのメタンハイドレート推定資源量は約810Tcfで、そのうち 約20Tcfは経済的に開発を行うことができると見込まれるという。またそれ以外の有望エリアとしては、Taranaki Basinの北部深海エリアなども挙げられている。 2011年、2014年にはドイツの研究機関などと共同で、メタンハイドレート資源量評価のための地震探鉱データの取得を行っている。現在これらの取得データの解析を行っているとされ、その結果によって有望なエリアを抽出できた場合には、調査井の掘削も視野に入れていくようである。加えて2015年3月に発表された公開鉱区入札では、Hikurangi Marginが位置するPegasus Basinに限ってハイドレート探鉱を行うためのライセンス申請が可能となっている。今後、企業による探鉱も行われる可能性がある。2. Montara原油流出事故を受けたオーストラリアの海洋環境規制と近時の動向る抑圧用の坑井によって暴噴坑井にアクセスし、暴噴の制御に成功するまでの約75日間にわたって、1日あたり400~1,500bblの原油が流出したとされている。 暴噴が発生した原因としては、Macondo同様、貯留層区間におけるセメンチング作業の不備、およびそれに起因した不十分な圧力バリア状況であったにもかかわらず、十分なモニタリングを怠っていたことが重なったためと考えられている。いずれの事故も状況としては、どの現場においても類似の状況が発生する可能性はあり、その結果が与える重大性を目の当たりにして、改めて技術者(1)Montara原油流出事故概要 2010年4月、メキシコ湾でBPがオペレータとして掘削したMacondo試掘井で原油流出事故が発生し、世界的に耳目を集めたことをご記憶の方は多いと思われる。しかし、その8カ月前の2009年8月にオーストラリア北西部沖合で同様の原油流出事故が発生していたことをご存じの方は、それほど多くないかもしれない。 1988年にBHP (現BHP Billiton)によって発見されたMontaraオイルフィールド(図11)は、2008年よりタイ国営石油PTTの開発部門の豪州法人PTTEP Australasiaがオペレータを引き継ぎ開発作業が進められていたが、その作業中に原油流出事故が発生した。 事故報告書によると、ウェルヘッドプラットフォーム上にジャッキアップリグを配置し、生産井の掘削作業を行っていた最中に、1本の生産井から地層流体が噴出。坑井上にBOP(Blowout Preventer:暴噴防止装置)を設置する前の状態であったため制御がなく、暴噴状態となり全作業する術員は緊急脱出し、以後原油が噴出し続ける事態となった。 不幸中の幸いで人的被害はなかったものの、ウェルヘッドプラットフォームが損傷するとともにジャッキアップリグは倒壊。リリーフウェルと呼ばれすべ出所:Australian Maritime Safety Authority図11Montara事故位置図11石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 112015/05/13 9:25:55オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMCとしての基本の重要性が認識されたと言えるであろう。 両事故の被害の甚大さの影響もあり、オーストラリアでも海洋開発に関する環境規制などが近年強化されている。オーストラリアの海洋環境管理機関・海洋環境保護法制、近時の法改正について次節以降で概説する。 なお、海洋石油ガス開発事業を進める上では、原油タンカー・LNG船・海洋ドリリングリグの運航も関係してくるため、オーストラリア海域における船舶運航に関わる海洋汚染の防止について、その枠組みを理解しておくことも重要である。そこで、本稿の付録に、船舶運航に関わる海洋汚染予防および海洋汚染事故に関する主要な国際条約とオーストラリアにおける規制態様について紹介しておく。(2) オーストラリアの海洋環境管理機関と環境保護法制① 国家海洋石油安全環境管理庁(National Offshore Petroleum Safety and Environmental Management Authority:NOPSEMA) NOPSEMAは、Montara報告書(Montara事故を受けて設置された独立調査委員会が、2010年に連邦政府に対して提出した調査報告書)による勧告に従い、2012年1月に設立された、豪州海洋の石油とガス採掘に関する健康安全規制および環境規制を一元的に行う国家機関である。 従来、海洋施設上の労働安全問題については国家海洋石油安全庁(National Offshore Petroleum Safety Authority:NOPSA)が担当していたが、環境に関する規制権限は別の省庁が有しているなど、洋上資源開発に関する監督権限は複数の機関に分散している状況であった。しかし、Montara報告書の勧告により、NOPSAの組織が改変され、豪州の海洋の石油とガス採掘に関する健康安全規制および環境規制を一元的に行う国家機関として、2012年1月にNOPSEMAが設立された(図12)。②海洋石油・温暖化ガス貯蔵法(「OPGGS法」) 海洋における石油開発活動規制に関しては、州・準州政府は領海のベースラインから3海里(5,556m)内の水域(「沿岸水域」)について、連邦政府は沿岸水域を越えた海洋エリアについて、それぞれ責任を負っている。2006年海洋石油・温暖化ガス貯蔵法(Offshore Petroleum and Greenhouse Gas Storage Act 2006:「OPGGS法」)は、沿岸水域を越えて行われる海洋石油開発活動の規制に関する基本的な法律である。同法は、安全、石油資源管理および環境管理等、広範な事項をカバーしているが、そのなかには、石油探査許可、石油保有リース、石油生産ライセンス、インフラ・ライセンス、パイプライン・ライセンス、石油特別探査許可および石油アクセス権等の権益付与に関する規定も含まれている。 石油開発活動を行うためには有効な権益が必要であるが、これらの権益は、連邦政府と州・準州政府によるジョイント・オーソリティー(Joint Authority)のアレンジを通じて調整、付与されており、また海洋石油探査対象地に関する入札もこのジョイント・オーソリティーによって管理、実施されている。出所:NOPSEMA図12NOPTA→NOPSEMA業務概要イメージ12アナリシス_加納小林北村.indd 122015/05/13 9:25:552015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMCけんいんAMSA)により運営されている。 海洋環境保護の目的で国家計画とともに運営されているのが、国家海洋緊急対応合意(National Maritime Emergency Response Arrangements:NMERA)である。NMERAは、豪州の海岸地帯周辺の海洋緊急牽引機能について最小限の継続的対策を確保することにより、予防的措置を強化している。また、海洋での重大事故対応に関する決定権者の任命など、緊急対応管理に関する枠組みの強化も行っている。 国家計画に基づき、豪州海洋油流出センター(Australian Marine Oil Spill Centre:AMOSC)が、オーストラリアでの大規模な油流出に対応するための装置の備蓄を24時間態勢で行っている。④環境保護・生物多様性保全法(「EPBC法」) 1999年環境保護・生物多様性保全法(Environment Protection and Biodiversity Convention Act 1999:「EPBC法」)は、条約等に基づくオーストラリアの環境に関する国際的な義務を実施するために制定され、州・準州の環境保護法制を補足するものである。同法は、連邦での海洋環境に関する活動の承認要件と承認手続き、環境に重大な影響を与えた者に対する民事制裁(自然人に対しては5,000ペナルティーユニット〈約85万豪ドル=約7,900万円〉、法人に対しては5万ペナルティーユニット〈約850万豪ドル=約7億9,000万円〉)等について定めている。 なお、EPBC法に基づく環境関連の承認手続きは2014年に合理化され、連邦政府の海域で行われる石油と温暖化ガスに関する活動のうち、OPGGS法に基づきNOPSEMAが管理するものについては、EPBC法に基づく承認が与えられたものとみなされることとなった。この承認の対象となる活動には、石油探査、石油回収事業、インフラ設備の建築および再建、パイプラインの建築と再建並びに稼働などが含まれる。 もっとも、上記の合理化されたEPBC法上の承認手続きには数々の適用除外項目がある点には注意を要する。たとえば、連邦所有地の環境に重大な影響を与える、またはその可能性がある活動、グレートバリアリーフ・マリンパークとされる海域または海底で行われる活動、南極地方で行われる活動、温暖化ガスの注入や貯蔵などがこれにあたる。⑤オーストラリアの各州と準州における規制 オーストラリアの各州と準州も、大気、水系および土地の汚染について、それぞれ環境関連法規を制定している。これらの法令に違反した場合の罰則の適用は、原則 また、OPGGS法を受けて2009年海洋石油・温暖化ガス貯蔵(環境)規則(Offshore Petroleum and Greenhouse Gas Storage Regulation 2009)が定められている。同規則の目的は、海洋地域における石油開発活動が、後述するEPBC法に従って環境的に持続可能な態様で行われること、環境への影響とリスクを可能な限り小さくした方法で行われること、環境への影響とリスクが基準を満たした方法で行われることを確保することである。 同規則は、海洋での石油開発活動の承認につき、以下の重要な事項を定めている。 ・ 海洋でのプロジェクトを行う場合には、NOPSEMAに海洋プロジェクト提案書(offshore project proposal)を提出しなければならない。 ・ 石油開発活動を行うためには、環境計画(environment plan)をNOPSEMAに提出し、NOPSEMAから承認を得る必要がある。承認済みの環境計画なしに石油開発活動を行った場合は法令違反となる。 ・ 環境計画は、まず海洋での活動に関する海洋プロジェクト提案書(offshore project proposal)についてNOPSEMAの承認を得てからでなければ提出することができない。じゅんゅ守し ・ NOPSEMAが相当程度満足するほどに権益保有者しが石油開発活動に関するOPGGS法の規定を遵ており、かつ当該遵守の態様がNOPSEMAの基準を満たしていない限り、環境計画は承認されない。 OPGGS法と同規則は、オーストラリアの海洋石油・天然ガス探査活動に関する規制の枠組みをさらに強化し、Montara報告書の勧告を実施するため、2013年に改正されている。改正内容については、次節で説明する。③ 油その他の有害危険物質による海洋汚染撲滅のための国家計画 油その他の有害危険物質による海洋汚染撲滅のための国家計画(The National Plan to Combat Pollution of the Sea by Oil and other Noxious and Hazardous Substances: 「国家計画」)は、海洋汚染事故に効果的に対処するための緊急時対応計画であり、1973年から運用されている。国家計画の目的は、豪州の海洋と海岸地帯の自然および人工環境を、油その他の有毒または危険な物質の流出による悪影響から保護することである。国家計画は、政府機関と油流出に関連する産業界の責任の分担を明確化するものとなっており、オーストラリア海洋安全機関(Australia Maritime Safety Authority:13石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 132015/05/13 9:25:55オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMC施行済み)。これによれば、所定の石油・天然ガス権益に基づき海洋事業活動を行う者は、その権益の有効期間中、当該活動から生じる費用、経費と債務の支払いを確保するために十分な財務的支払い能力証明を維持しなければならない。2013年改正以前は、保有権益の種類に応じて権益保有者の義務も異なり、たとえば、石油特別探査許可および石油アクセス権の場合は連邦大臣が特に要求した場合にのみ保証義務を負うこととされていたが、本改正により義務の範囲が拡大されている。③財務的支払い能力証明の額 NOPSEMAは、石油・天然ガス権益に関する財務的支払い能力証明についてのガイドラインを公開している。財務的支払い能力証明は、海洋事業活動から生じるさまざまな費用(暴噴制御費用、油回収費用等)、経費と債務の支払いを確保するために十分な額である必要があるが、ガイドラインによれば、海洋油濁事故から生じる可能性のある費用、経費および債務の最大想定額をベースとして金銭保証の額を見積もる必要がある。 上記に関しては、オーストラリア石油生産探査者連合(Australian Petroleum Production & Exploration Association:APPEA)が、費用、経費、債務の計算方法を作成しており、海洋事業活動から生じる可能性のある事故の特徴とこれによる影響の見込みに基づき費用の幅が設定されている(図13)。権益保有者は、APPEAの計算方法を適用するか、自らの計算方法により金額の計算を行うか、裁量により選択することができる。Impact/cost score due to total spill volumeVolume of hydrocarbon released ? 10,000 m3 (63,000 bbl)Volume of hydrocarbon released>10,000 m3 (63,000 bbl)Limited response allowance-1 points0pointsSpill volume score: __________________Impact/cost scoredue to potential shoreline impactNo shoreline impactV ? 500 m3 (6250 bbl)500 m3 < V ? 2500 m3(6250 < V ? 15725 bbl)2500 m3< V ? 5000 m3(15725 bbl < V ? 31500 bbl)V ?5000 m3(V ?31500 bbl)No significant impact0 pointsLow impactMedium impactHigh impactVery high impact1 point2 points3 points4pointsPotential shoreline impact score: __________________Total score: __________________Total score(cost band)Indicative cost of operational response01234567$10 million$75 million$125 million$200 million$250 million$300 million$350 million$500 millionCost band (0-7): __________________として、違反による環境への影響の大きさや範囲、財産に対する現実的、または潜在的な損害の有無、故意の有無により異なる。故意または無謀な行為により環境に対し深刻な損害を生じさせる汚染や投棄を行った場合、最も重い罰則が適用される。ビクトリア州を除く全ての州、準州は、環境汚染と廃棄物処理違反について、懲役刑を定めている。また、取り締まり官は、違反に対し、通知、命令または指図、起訴等の措置を取ることができる。(3) オーストラリア海洋石油温暖化ガス貯蔵法(OPGGS法)の改正 前述のとおり、OPGGS法は、Montara報告書の勧告に従い、オーストラリアの海洋石油・天然ガス探査活動に関する規制の枠組みをさらに強化するため、2013年に改正された。同改正の内容は多岐にわたるが、同法および規則の遵守につき責任を負う主体が事業者(Operator)から権益保有者(Titleholder)に変更されており、また、財務的支払い能力証明(Financial Assurance)の強化がなされた点が、石油ガス開発事業活者にとっては特に重要である。以下でOPGGS法の2013年改正の内容を説明する。①NOPSEMAの権限の拡大 2013年改正により、NOPSEMAによる監視と調査の実施に関する規定が設けられ、NOPSEMAの監督権限が明らかにされた。また、石油・天然ガス事業が環境に対して与える脅威を排除するために必要であると考える場合、NOPSEMAの検査官は、石油・天然ガスの権益保有者に対し、環境改善通知、環境禁止通知を出すことができる。さらに、石油流出が起こった場合、権益保有者は流出防止や除去等の義務を負うが、権益保有者がこれらの義務を果たさない場合には、NOPSEMAまたは連邦大臣が権益保有者に代わってこれらの措置を講じ、これに要した費用を権益保有者に対して請求することができる(汚染者支払いの原則〈polluter pays principle〉)。Method A: using initial well estimateEstimate the cost of well controlMethod B: time and cost basedCost of well control:C = (2 x AFE) + ZCostof well control:C = (R x T) + ZTime to achieve well killB.Cost of operational responseInitial well estimate based on AFEUse of capping device?(YES/NO)Use of capping device?(YES/NO)orItemA.ItemFull spread rig rateDescriptionDescription__________________________AFE = $_____________________million__________________________C = $_______________________millionCapping device costsZ = $_______________________million (default $50 million)R = $_______________________million/day (default $1 million/day)T = ________________________days (default 80 days)Capping device costsZ = $_______________________million (default $50 million)C = $_______________________millionIndicative cost of well control: $__________________Impact/cost score due to hydrocarbon type(cid:0) gas(cid:0) other chemicals and wastes(cid:0)(cid:0)condensatemarine diesel(cid:0)(cid:0)light/medium crude(ρ<920 kg/m3)fuel oil(cid:0)heavy crude(ρ >920 kg/m3)No significant impact0 pointsLow impact1 pointMedium impact2 pointsHigh impact3 points② 財務的支払い能力証明の強化 2013年改正では、権益保有者に対する財務的支払い能力証明義務が強化された(2014年に出所:APPEAHydrocarbon score: __________________Indicative cost of operational response: $__________________図13APPEA財務資力証明計算表イメージ14アナリシス_加納小林北村.indd 142015/05/13 9:25:562015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC(4)海洋油濁事故発生時の費用に対応する保険 海洋油濁事故は、メキシコ湾Macondo暴噴事故、ティモール海Montara暴噴事故によってクローズアップされているとおり、坑井の暴噴が最も深刻な油濁事故を引き起こす可能性が高く、海洋坑井からの暴噴油濁事故を想定した場合、財務支払い能力証明で求められる暴噴制御費用、油回収費用に対応する保険は暴噴制御費用保険となる。 暴噴制御費用保険は権益保有者によって手配されるのが一般的で、暴噴制御費用、油回収費用等をカバーするが、暴噴制御費用保険と財務支払い能力証明で要求される項目には若干のずれがあり、注意が必要である。てん補ぽ①暴噴制御費用保険の概要 暴噴制御費用保険は、権益保有者である石油ガス開発会社が坑井に暴噴が発生したことに起因して負担する各種追加費用を対象とした保険で、セクションA-暴噴制御費用(Cost of Control)、セクションB-再掘削費用(Re-drilling Expense)、セクションC-油濁賠償・清掃費用(Seepage & Pollution, Clean-up Contamination)の3セクションから構成される。セクションA-暴噴制御費用は、坑井が暴噴によって制御不能の状態に陥り、その制御回す復のために石油ガス開発事業者が支出した費用を?るもので、救助井の掘削費用などが対象となる。セクショRESET FORMRESET FORMB. holders Petroleum Titles GuidelineSelectSelectSelectSelectEXECUTED by: Criminal Code Act 1995 is in and will maintain compliance with the 1.SignatureNameAt [insert place]On [insert date]2.SignatureNameAt [insert place] On [insert date]Reference: N-04750-FM1519Revision: 0Revision Date: 4 December 2014Page 4 of 6Reference: N-04750-FM1519At [insert place] On [insert date]④ 財務的支払い能力証明の内容 財務的支払い能力証明には、保険をはじめとして、自家保険、保証金等、さまざまな手段が含まれる。また、権益保有者は、NOPSEMAに対し、権益の有効期間中に行う海洋事業活動について十分な財務的支払い能力証明を維持していること、あるいは今後維持することを宣言しなければならない。一つの環境計画が複数の権益に関連する場合、当該環境計画に関する財務的支払い能力証明を提出することにより、複数の権益をカバーすることができる。この場合の財務的支払い能力証明は、権益保有者の行う事業活動から生じる全ての費用、経費および債務について、最大限の想定額をカバーしている必要がある(図14)。 さらに、2015年1月1日から、財務的支払い能力証明に関する新たな改正法が施行された。上記のとおり、権益保有者は、事業活動の開始前に環境計画の承認をNOPSEMAから得る必要があるが、2015年1月1日以降に権益保有者が環境計画または修正環境計画(revised environment plan)を提出する場合、当該権益保有者が財務的支払い能力証明を維持している旨の宣言書をNOPSEMAに提出して証明しない限り、同計画は承認されないこととなった。すなわち、2015年改正により、財務的支払い能力証明を確保することが、環境計画承認の前提条件とされている。 財務的支払い能力証明の維持義務は、権益が有効な間継続し、定期的なレビューに服する。もし権益保有者がこれに従わない場合は、環境計画が却下され、権益が取り消される可能性もある。 なお、財務的支払い能力証明を確保しているからといって、これにより海洋汚染事故に関する権益保有者の責任が制限されたり免除されたりするものではない点も、留意されたい。Titleholder Business Address:1. Titleholder detailsTitleholder Name: Address line 1Address line 2Address line 3Address line 4Enter textEnter textReferenceEnter textTelephone:Email:2:2 Revision: 0Revision Date: 4 December 2014Page 2 of 6出所:NOPSEMA図14NOPSEMA財務資力証明デクラレーションイメージ15石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 152015/05/13 9:25:56オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMCンB-再掘削費用は、坑井が損傷した結果、使用不能となった場合に坑井の修繕のために支出する費用または暴噴が発生した深度まで再度新しい坑井を掘削するために要する費用を?補するものである。そして坑井からの油濁に対応するのがセクションCで、坑井からの油またはガスの流出に起因して第三者の身体、財物に損害を与えた結果、石油ガス開発会社が負う法律上の賠償費用および汚染物質の清掃、除去、廃棄費用を?補する。沿岸部の観光業界や漁業業界に被害を与えた場合、賠償費用・弁護士費用、油の回収費用などが支払われる。②保険による財務支払い能力証明 NOPSEMAが要求する財務的支払い能力証明については、保険の活用も選択肢の一つとなっている。最悪のシナリオが暴噴制御費用保険の?補限度額の範囲内にある場合には、暴噴制御費用保険のカバーを根拠にデクラレーション(declaration)に署名することも考えられる。 財務的支払い能力を証明する上での、石油ガス開発事業権益保有者に課されている義務については、OPGGS法Section 572C(2)に記載されている(図15)が、環境モニタリングコスト等、暴噴制御費用保険の一般的なカバーでは対象外となっているものもあり、権益保有者がリスクを見極めて対応を検討する必要がある。Section 572C Escape of petroleum ?Titleholders duty (2) The registered holder of the title must, in an o?shore area, in accordance with the environment plan for the petroleum activity:(a) as soon as possible after becoming aware of the escape of petroleum, take all reasonably practicable steps to eliminate or control it; and(b) clean up the escaped petroleum and remediate any resulting damage to the environment; and (c) carry out environmental monitoring of the impact of the escape on the environment.出所:NOPSEMA図15Section572C条文むすび 前半ではオーストラリア、ニュージーランドの海洋開発の経緯、および最新動向について概説した。 オーストラリアにおいてガス輸出は、石炭、鉄鉱石と並び同国経済を支える屋台骨であり、現在の主力生産地である北西大陸棚における探鉱開発に加え、新たな南部沖合探鉱など引き続き注目度は高い。 ニュージーランドでは、発電において再生可能エネルギーが主体であるというお国柄もあり、深海探鉱に対する環境団体などからの反発があるのも事実である。一方でメタンハイドレートなどへの注目も高まっており、オーストラリア同様今後の深海探鉱には注目する必要があると感じる。 本稿後半では、Montara油濁事故を受けた後のオーストラリアにおける環境規制の変更を中心に概説した。 オーストラリアにおける海洋環境規制は多岐にわたっている。近年では海洋石油ガス開発が活発になったこともあり、特に、Montara油濁事故後、海洋汚染規制の枠組みが強化され、汚染責任の内容は海洋事業に関与する者にとって極めて重いものとなっている。Montara油濁事故により領海内に被害が発生したとインドネシア政府が主張し、国際条約による枠組みの必要性が提起される契機ともなった オーストラリアで石油ガス開発事業に権益を取得してこれに関与する者は、新しい規制の枠組みを十分に理解することが重要であり、とりわけ財務的支払い能力証明の維持・確保については、法定の要件を確実に遵守することが求められる。16アナリシス_加納小林北村.indd 162015/05/13 9:25:562015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC付録:船舶運航に関わる海洋油濁の国際条約とオーストラリアの態様①海洋油濁の防止に関する条約 1967年、12万トンの原油を積載した当時最大級のタンカーであるトリー・キャニオン号の座礁により原油流出事故が発生し、英仏の海域に甚大な被害が発生した。この事件を契機として、IMO(International Maritime Organization:国連の「国際海事機関」)により海洋汚染の防止に関するさまざまな条約が制定された。主要な条約に、1969年油による汚染を伴う事故の場合における公海上の措置に関する国際条約(Convention Relating to Intervention on the High Seas in Cases of Oil Pollution Casualties)、1972年廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matters)、1973年海洋汚染防止条約(International Convention for the Prevention of Pollution from Ships: 「MARPOL条約」)、1990年油による汚染に係る準備、対応および協力に関する国際条約(International Convention on Oil Pollution Preparedness, Response and Cooperation: 「OPRC条約」)などがある。≪オーストラリアにおける規制態様≫ オーストラリアは、連邦と州レベルで上記のような多様な条約を実施するための法令を制定している。たとえば、MARPOL条約は、船舶の航行や事故から生じる海洋汚染の防止および汚染の最小化等を目的としており、石油等の規制物質の投棄・排出の禁止、通報義務やその手続き等について規定しているが、オーストラリアは、MARPOL条約を実施するため、1983年海洋保護(船舶汚染防止)法(Protection of the Sea〈Prevention of Pollution from Ships〉Act 1983:「PSPPS法」)、2012年航海法(Navigation Act 2012)などの連邦法とそれらの関連規則を制定している。 PSPPS法は、石油と特定の物質の排出を禁止している。2011年の改正により、船長と船舶所有者に加え、傭船主(charterer)に対しても責任が拡大され、さらに、油濁についての罰金も大幅に増額された。これによれば、自然人に対する罰金の上限は3,400万豪ドル(約31億円)、法人に対する罰金の上限は1,700万豪ドル(約16億円)である。 また、豪州首都特別地域を除き、州と準州もそれぞれ船舶による海洋汚染に関する法令を定めている。海洋内の汚染および投棄に対する罰金は、州により異なるが、最も高額な罰金を科しているのはクイーンズランド州で、自然人につき56万9,250豪ドル(約5,300万円)、法人につき1,138万5,000豪ドル(約11億円)である。また、ビクトリア州、タスマニア州および北部準州のように懲役刑を定めている州も存在する。②タンカー油濁に関する国際条約 油濁事故の賠償責任については、行為者の故意または過失の存在を前提とする不法行為責任の一般原則によることは適切でない。したがって、船舶が航海中に第三者に損害を与えた場合、船主(登録上の所有者)がその責任を負うことが原則となる。一方、海運業の保護の観点からは、船主に過剰な負担を求めることは望ましくないとの立場から、後述するCLC条約およびFC条約を中心とした油濁法制が定められ、油濁事故に関する責任追及の要請と海運業保護の要請とのバランスが取られている。(a)油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(CLC条約) トリー・キャニオン号事故(1967年3月、英国南西部海域で同号が座礁、未曽有の油濁事故となった)を受けて、海洋事故によるタンカーからの流出油による損害に対する責任の範囲を明確にし、汚染損害被害者に対する適切な補償を可能にするため、1969年、IMOは油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(International Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage: 「CLC条約」)を採択した(その後、1992年議定書〈1992 Protocol〉の制定により改正されている)。CLC条約は、締約国の領海を含む領域において発生したタンカーの貨物である原油、燃料油や重油等の油の流出に関し、船主の厳格責任、責任限度額および強制保険制度について定めている。ここでいう汚染損害には、環境に対する損害(防除措置費用)のみならず、予防措置費用、環境破壊による利益の喪失も含まれる。 CLC条約では、流出油による損害賠償について、船主の厳格責任と責任限度額を定めた。厳格責任は無過失責任に近い責任であり、ひとたび事故が起こった場合、船主の責任が免除される範囲は非常に限定されている。その一方で、船主の賠償額については、当該損害が船主の「故意」または「損害のおそれがあることを認識しながら行った無謀な行為」に起因するものである場合を除き、船のトン数に応じた一定額に制限される。17石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 172015/05/13 9:25:57オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMC CLC条約は、2,000総トンを超える持続性の油を貨物として輸送するタンカーの船主に対し、賠償責任を担保するための保険への加入を義務付けている。これにより、汚染損害の被害者は、直接保険会社に対して汚染損害に関するクレームを付けることができる。1992年議定書により、CLC条約の適用範囲が拡大され、締結国の排他的経済水域(EEZ)または同等の地域内で発生した汚染損害についてもCLC条約の対象となった。CLC条約による損害賠償請求権は、汚染損害が発生してから3年以内に請求しないと消滅する。また、損害の原因となる事故発生から6年を経過すると請求することができなくなる。≪オーストラリアにおける規制態様≫ オーストラリアは、CLC条約実施のための連邦法として、1981年海洋保護(民事責任)法(「PSCLA法」)およびこれに関連する法律・規則を制定している。PSCLA法による規制として、以下のようなものがある。 ・ 損害賠償保険の証書携帯義務   2000年PSCLA法改正法は、400総トン以上の油を貨物またはバンカー油として運ぶ全ての船に対し、オーストラリア入出港時に、LLMC条約(後述)に基づく責任額を上限とした保険証書を携帯することを義務付けている。 ・ 海洋ドリリングリグに対する財務的支払い能力証明義務   2006年海洋石油・温暖化ガス貯蔵法(OPGGS法)571条の規定に従い、海洋ドリリングリグには、保険等で財務的支払い能力証明を確保する必要がある。 なお、CLC条約を実施するための州と準州レベルでの法令は存在しない。(b)国際油濁補償基金条約(「FC条約」) CLC条約による船主の責任限度額だけでは汚染損害の被害者への補償が不十分となることから、CLC条約を補完する制度として、1971年に国際油濁補償基金条約(International Convention on the Establishment of an International Fund for Compensation for Oil Pollution Damage: 「FC条約」)が採択された(その後、1992年議定書により改正されている)。CLC条約に基づく船主の責任制限により十分かつ適正な補償が得られない場合、被害者は、FC条約により、国際油濁補償基金から賠償を受けることができる。国際油濁補償基金は、荷主である油タンカーからの油の受け取り人(大部分は石油会社)により拠出されていることから、CLC条約とFC条約により、油濁事故による汚染損害の賠償については、一定の限度額までは船主(および保険)が民事責任を負い、損害がこれにより補償しきれない場合には、さらに一定の限度額まで荷主が拠出する国際油濁補償基金が補償する仕組みとなっている。 しかし、その後も1999年にフランス沖で発生したエリカ号事件、2002年にスペインのガリシア沖で発生したプレスティージ号事件の汚染損害により補償額の不十分性が認識されたため、2000年にFC基金が増額されるとともに、2003年には国際油濁補償追加基金(「追加基金」)が採択された。この結果、CLC条約とFC条約による補償限度額は7億5,000万SDR(IMFの特別引き出し権で、約1,180億円=2015年1月時点)へと引き上げられた。≪オーストラリアにおける規制態様≫ 豪州は、FC条約実施のため、連邦法として1993年海洋保護(油濁補償基金)法(Protection of the Sea〈Oil Pollution Compensation Fund〉Act 1993)およびこれに関連する法律・規則を制定している。また、追加基金を施行するため、2008年には同法が改正され、油タンカーからの流出による油濁損害に対する補償額が増額されることとなり、その結果、最高額は2億300万SDRから7億5,000万SDRへと大幅に引き上げられた。 なお、FC条約実施のための州と準州レベルでの法令は存在しない。③一般船舶油濁に関する国際条約 上記のとおり、油タンカーの貨物である原油や重油等による油濁事故に対しては、CLC条約とFC条約による補償体制が確立されている。これに対し、従来、油タンカー以外の一般船舶の燃料油流出による油濁事故等については、LLMC条約(後述)の枠組みにより対処しているのみであった。そこで、LLMC条約に加え、一般船舶からの燃料油による汚染等に関しても船主の責任を厳格化し、迅速かつ適切な損害賠償を確実なものにするため、2001年、IMOは「燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(International Convention on Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage: 「バンカー条約」)」を採択した。(a)1976年海事債権についての責任の制限に関する条約(「LLMC条約」) 1976年海事債権についての責任の制限に関する条約(Convention on Limitation of Liability for Maritime Claims 1976: 「LLMC条約」)は、一般船舶から生じた損害について、船主の賠償責任を船舶のトン数に応じた一定額に制限している。LLMC条約は、死亡または傷害および財産損害に対して適用されるが、CLC条約、FCアナリシス_加納小林北村.indd 182015/05/13 9:25:57182015.5 Vol.49 No.3アナリシスOGMECK YMC条約およびバンカー条約といった他の条約の効力が及ぶ責任に対しては適用がない。 なお、LLMC条約に関する1996年議定書(1992 Protocol)に対する改正法が2015年7月から施行される予定であり、これにより、船主の責任限度額は以下のとおり大幅に増額される見込みである。(b)2001年燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(「バンカー条約」) バンカー条約は、一般船舶からの燃料油の流出または排出による汚染損害に関する賠償について定めており、CLC条約の対象船舶の事故から生じる汚染損害には適用されない。バンカー条約は、締約国の領海と排他的経済地域(EEZ)内で生じた損害に適用され、船主の厳格責任と責任制限、強制保険制度を定めている点において、CLC条約と類似した内容となっている。 バンカー条約における責任主体は、船主(ここでは登録船主、裸傭船者、船舶管理人、運航者を含むものと定義されている)であり、これらの者は汚染損害につき厳格責任を負う。他方、船主は、責任制限法規に基づき責任額が制限される(バンカー条約自体は責任限度額を定めていない)。なお、バンカー条約による補償は、上記のタンカー油濁に関する法制とは異なり、船主の責任限度額を超えた損害に対する追加的な補償措置を有していない。また、2隻以上の船舶による事故の場合など、厳格責任を負う船主のほかに不法行為責任を負う者が存在する場合、これらの者が連帯して責任を負うこととされている。 バンカー条約は、1,000総トンを超える船舶について、責任制限法規による限度額に対応する金額の責任保険の加入を義務付けており、これにより船主の損害賠償責任額が担保されている。≪オーストラリアにおける規制態様≫ オーストラリアは、バンカー条約実施のため、連邦法として2008年海洋保護(バンカー油濁汚染損害民事責任)法(Protection of the Sea〈Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage〉Act 2008: 「バンカー法」)を制定している。同法は、船主の厳格責任、責任制限及び2隻以上の船舶による事故の場合の連帯責任等につき規定している。 バンカー法によれば、オーストラリアの船舶は、航海中、責任限度額に対応する責任保険契約に関する保険証書を携帯しなければならず、これに違反した場合、登録船主または船長に対し、自然人につき8万5,000豪ドル、法人につき42万5,000豪ドルの罰金が科せられる。オーストラリア入出港時に保険証書を携帯していなかった場合にも法令違反となる。 なお、バンカー条約実施のための州と準州レベルでの法令は存在しない。【参考文献】1. Wood Mackenzie Country Overview “Australia upstream summary, June 2014”, “New Zealand upstream summary, December 2013”Wood Mackenzie Asset Report “Bass Strait, June 2014”, “North West Shelf, October 2014”, “Wandoo, January 2014”, “Laminaria/Corallina, June 2014”, “Enfield Area, March 2014”, “Pluto LNG, February 2014”, “Maui, December 2014”, “Pohokura, February 2014”石油技術協会誌76巻(2011年)5号「豪州ティモール海モンタラ暴噴事故について」(志村正臣) Gard News 211 August/October 2013「オーストラリア、海洋施設に対する汚染責任の枠組みを強化」石油開発時報171号(2011年11月)「石油開発事業におけるリスクと保険-その3-石油開発における責任分担と 保険」(近藤洋) 石油開発時報174号(2012年8月)「石油開発事業におけるリスクと保険-暴噴制御費用保険-」(金子絢子・近藤洋)新世代法政策学研究18号(2012年11月)「洋上資源開発における海洋環境の保全-Montara油井事故と Deepwater Horizon号事故を教訓とした立法提案」(小塚荘一郎・梅村悠)ExxonMobil Australia, Woodside, BP Australia, Chevron Australia, Bight Petroleum, Shell Australia, GDF Suez, INPEX, ConocoPhillips Australia, Nord Stream, Statoil, GNS Science 各ホームページ、ニュースリリース2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 19石油・天然ガスレビューアナリシス_加納小林北村.indd 192015/05/13 9:25:57オーストラリア・ニュージーランド海洋開発最新動向と、オーストラリアの海洋環境規制/近時の動向OGMECK YMC執筆者紹介加納 寛之(かのう ひろゆき)(オーストラリアの海洋環境の管理機関、海洋環境保護法制、海洋石油・温暖化ガス貯蔵法の改正、付録「船舶運航に関わる海洋油濁の国際条約とオーストラリアの態様」 を担当)学  歴:1991年 早稲田大学法学部卒業1995年 早稲田大学大学院法学研究科修了2002年 米国コロンビア大学ロースクール修士課程2004年 豪州クィーンズランド工科大学ロースクール資  格:1998年 日本国弁護士2003年 米国(ニューヨーク州)弁護士2005年 豪州(クィーンズランド州)弁護士2008年 豪州(連邦)弁護士職  歴:1998年 アンダーソン・毛利法律事務所(クロスボーダーM&A案件を担当)2002年 クレイトン・ユッツ法律事務所(主として資源エネルギー分野のM&A案件を担当)2008年 クレイトン・ユッツ法律事務所(日本人初パートナー就任)趣  味:ゴルフ、キャンプ、釣り著書等:「Product Liability in Asia Pacific Third Edition」(2009) "Chapter 9 (Japan)" The Federation Press「Corporate Governance Jurisdictional Comparisons First Edition」(2013) "Australia" Thomson Reuters「オーストラリアの投資規制の概況」(月刊ジュリスト、2014年4月号)有斐閣「豪州労働法制の現状と政権交代の影響」(月刊ジュリスト、2014年5月号)有斐閣「オーストラリアの環境法制の枠組みと最近の動向」(月刊ジュリスト、2014年6月号)有斐閣「豪州ビジネス法最前線」(隔週水曜日掲載、2009年~)NNA「オーストラリア会社法概説」(2014年8月)信山社その他、数多くのセミナーや講演等を行っている。小林 宏章(こばやし ひろあき)(海洋油濁事故発生時の費用に対応する保険 を担当)所  属:東京海上日動火災保険株式会社 メルボルン首席駐在員学  歴:1997年 慶応義塾大学法学部政治学科卒業2010年 早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了職  歴:1997年 東京海上火災保険株式会社入社2000年  船舶営業部営業推進石油開発チームで石油ガス開発保険を担当する。North West Shelf操業保険手配も担当。2003年 東京海上日動火災保険株式会社 上海・北京駐在2007年  船舶営業部営業3課で再び石油ガス開発保険に従事する。Bayu Undan /Darwin、BMG操業保険、Pluto、Gorgon、Wheatstone、Ichthys建設工事保険手配等各種オーストラリア案件も担当。2012年 メルボルン駐在。西豪州・北部準州の各石油ガス開発保険手配にも携わっている。趣  味:サッカー、ゴルフ、お酒近  況: 2013年9月、シドニーで開催の「世界保険法学会・Marine Insurance Working Group」で『Offshore Energy Insurance ? Risks in Australia ? From an underwriter’s perspective』を発表し、FLNG保険手配の留意点やMontara油濁事故からの教訓について紹介。北村 龍太(きたむら りゅうた)(海洋石油ガス上流開発の最新動向 を担当)愛媛県松山市出身。東京大学工学部地球システム工学科卒業。1995年石油資源開発株式会社に入社後、国内外の掘削現場で掘削エンジニアとして、石油・天然ガス坑井の掘削・仕上げ作業に従事。2007年JOGMEC入構、技術部開発技術課を経て2012年8月よりシドニー事務所駐在。南半球3度目の夏、人生で初めてテントからオフィスに出勤するという経験をし、少しはオージーに近づけたかと実感(勘違い?)する今日この頃。アナリシス_加納小林北村.indd 202015/05/13 9:25:57202015.5 Vol.49 No.3アナリシス
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2015/05/22 [ 2015年05月号 ] 加納 寛之 小林 宏章 北村 龍太
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