ページ番号1006573 更新日 平成30年2月16日

原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察

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レポートID 1006573
作成日 2015-11-20 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 基礎情報市場
著者 野神 隆之
著者直接入力
年度 2015
Vol 49
No 6
ページ数
抽出データ JOGMEC調査部野神 隆之原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察はじめに 原油価格は、WTIで2014年後半の1バレルあたり100ドル前後から2015年の40ドル割れの水準へと、50%超下落した(図1)。こうした低価格は2009年前半、つまり金融危機時以来のものだが、それ以前にこのような価格が見られたのは2004年半ばであった(図2)。その意味で、現在の原油価格は近年まれにみる低水準であるということができる。それではなぜ、原油価格は劇的とも言える下落を見せることになったのであろうか。ここでは、その背景を述べることとしたい。ドル/バレルWTIBrent130120110100908070605040302009出所:NYMEX、ICEデータを基に作成201020112012201320142015年図1原油価格の推移①ドル/バレルWTIBrent150140130120110100908070605040302020032007出所:NYMEX、ICEデータを基に作成20042005200620082009201020112012201320142015年図2原油価格の推移②55石油・天然ガスレビューアナリシス@さらに、近年世界の石油需給が引き締まっているのか、それとも緩和しているのか、ということについて把握しておくことは原油価格を考える上で、もちろん重要なことなのだが、それに加え、最近ではもう少しミクロ的な観点で、石油市場に変化が見られる部分がある。今後これらの要素が、世界石油市場に影響を与えることも想定される。現在の石油市場で見られる特徴的な事象についても併せて考察を試みたい。なお、言及する原油価格については、基本的にはWTI原油とするが、分析上望ましいと判断される場合には適宜Brent原油価格を適用するので、ご了承頂きたい(一時WTI原油はBrent原油に比べて1バレルあたり27ドル程度割安となる場面も見られたが、現在では概して5ドル程度割安な水準にまで縮小している。これについては、誤解を招かないよう明示する)。1. 原油価格下落の背景 2008年7月11日に1バレルあたり147.27ドルに達した原油価格は、その後半年足らずの同年12月19日には32.40ドルと約5分の1近くの水準まで下落した。ただ、2009年に入り原油価格は回復、2011年には100ドルを回復し、しばらくの間維持する格好となった。この背景としては、株式相場の上昇とともに将来の景気回復に向けた石油需要増加ペース加速に対する期待の増大、かつ、2003年前後から市場関係者のテーマとなっていた、非OPEC産油国の石油供給の頭打ち、そしてOPEC産油国の市場シェア上昇と価格支配力増大の可能性への不安感、加えて、リビアやイランをはじめとする産油国における政情不安とこれらの国からの石油供給途絶懸念が原油相場を支持していたのである。 また、実は米国でのシェールオイル生産は2010年前後の時点では増加基調にあったが、2011年に発表されたIEAのWorld Energy Outlookでは、2020年前後に日量100万バレル台半ばでピークを打ち、その後減退に転ずる、という見解が示されたこともあった。このため2012年中は、市場関係者の間でも、米国でのシェールオイル増産が一時的なものなのか、継続的なものなのか、判断がつかなかったようであった。そのようなこともあり、原油相場は引き続き株式相場と連動する格好となった。しかし、2013年に入ると、状況に変化が訪れる。米国のシェールオイル増産は一過性の現象ではないということが明らかになってきたのである。 シェールオイルは2012年に日量219万バレル、2013年同315万バレル、そして2014年には同433万バレルと、IEAの予測を大幅に前倒しした上で、なおかつ大幅に上振れしたのである(図3)。このため、それまでの株式相場と原油相場との相関で見れば、原油価格はBrent原油で1バレルあたり180ドル程度にまで達してもおかしくないところ、110ドル前後の水準で推移することになった。つまり原油価格は下落傾向を示すわけではなかったとはいえ、かといって上昇傾向を示すものでもなくなった。そして、ここにおいて、原油価格上昇の抑制要因として作用したものの一つが、米国でのシェールオイルの増産で201120122014年201356万バレル/日450400350300250200150100500出所:米国エネルギー省(DOE)/エネルギー情報局(EIA)データを基に推定20092010200020012002200320042005200620072008図3米国シェールオイル生産の推移2015.11 Vol.49 No.6アナリシス?ったと考えられる。 ただ、この時期は、地政学的リスク要因に伴う石油供給懸念は市場では後退していたわけではなく、これが原油相場を下支えする格好となっていた。イランでは保守穏健派のロウハニ大統領が就任したのが2013年8月3日であり、また、リビアでは2013年7月後半以降原油を輸出するためのターミナルで、警備兵が雇用や給与に関して抗議行動を起こしたこと等により、原油の生産水準が2012年の日量150万バレル程度から、同40万バレル程度ないしそれ以下の水準に低下した。これは同国の石油供給の大半が実際に途絶したことを意味した。 イランでは、2013年11月24日には同国のウラン濃縮問題をめぐり、国連安全保障理事会常任理事国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)にドイツを加えた6カ国との間で第1段階の合意に到達し、同国からの原油生産増加の展望は開け始めた。このように、イランについては、地政学的リスク要因に伴う石油供給懸念は払拭される兆しが見え始めた。しかしこれは、あくまで「第1段階」である。これまで何年にもわたって、イランと西側諸国は対立してきたが、それが、ごく短期間に終息するといった展開は、サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国やイスラエルなど、イランに対抗する勢力を考えても、市場関係者は確信を持てなかった。 そして、本当にイランと西側諸国等が最終合意に到達するということに関して、少なくとも確信を持てるようになって初めて、原油価格下落展望が開けるようになり、それに従って実際に原油先物契約等の売却を進める、原油価格が下落し始める、というわけであったことから、この時点では少なくともそのような状況になっていなかったこともあり、原油相場にさらなる下方圧力が加わることはなかった。 むしろ、ウクライナと欧州連合(EU)の間での関係強化のための連合協定に関してウクライナのヤヌコビッチ大統領(親ロシア派と目される)が当該協定締結を凍結したことに抗議して、2013年11月24日に親EU派が大規模なデモを展開(規模としては2004年のオレンジ革命以来最大のものとされる)。以降も同国においては、親EU派と親ロシア派との対立が激化し、度重なるデモの実施や警官隊との衝突が頻発するようになった。2014年2月22日夕方(現地時間)には、最高議会(国会)がヤヌコビッチ大統領を解任。その前日の21日夜には同大統領は首都キエフ(親EU派勢力が強い中部)から、親ロシア派勢力の強い東部の都市(ハリコフとされる)へと脱出した。このように、同国では、親EU派勢力と親ロシア派勢力との間で事実上の分裂状態に陥った。親ロシア派勢力の強い南部のクリミア半島では、このような動きに反発、中心都市であるセバストポリでは市庁舎が親ロシア派勢力により占拠された。 3月1日には、ロシアがクリミア半島に軍事介入することを決定(セバストポリは、ロシアが黒海艦隊が基地として使用するなど、同国の軍事上の要衝となっている)。同16日にはクリミア自治共和国で同共和国のロシアへの編入の是非を問う国民投票が実施され、9割超の賛成で編入が承認された。これを受け同18日にはロシアのプーチン大統領が同自治共和国のロシアへの編入の条約に調印した。さらに、このような親ロシア派勢力のウクライナからの独立の動きは、東部のドネツク州やルガンスク州等の他の州にも波及。ウクライナ政府との衝突も発生するようになった。これに対し欧米諸国は、緊張したウクライナ情勢に適切な方策を講じていないとして、ロシアに制裁を課すことを決定した(EUは7月31日、米国は8月6日)。 このような一連の動きのなかで、石油市場関係者は、ウクライナ問題に絡むロシアと西側諸国との対立の激化から、ロシアからの石油輸出が停止する、あるいは西側諸国による石油輸入が禁止される、といった懸念を持ち始めた。他方、イラクにおいては、6月11日にイスラム国が北部モスルを掌握した上、バグダッドに向け進撃を開始。このため、イラクの油田が攻撃されることにより、原油供給に支障を来たすとの不安感が市場に広がった。こうした地政学的リスク要因により、2014年前半は、原油価格が支持される格好となった。これらの背景により、米国でのシェールオイルは増産基調にあることなどの要因が原油相場に下方圧力を加えことにより、株式相場と連動しての原油価格の上昇基調に歯止めがかかったものの、といって下落するまでには至らなかったわけである。 しかし、2014年後半になって状況が変化してきた。まず、世界経済と石油需要が当初見込みほど伸びていない、という認識が市場で広がり始めた。欧州ではウクライナ問題により対ロシア経済制裁を実施したものの、従来欧州の一部の国はロシアと緊密な経済関係にあった。このため、対ロシア経済制裁の実施に伴い、貿易関係を通じて欧州の経済にも悪影響を及ぼすようになった。また、中国においても、不動産部門の根強い不振から、経済の減速が続いた。これらが、石油需要に影響を与えた結果、2014年の世界石油需要は前年比で日量82万バレルの増加にとどまった。一方で、この年の米国の石油供給量は日量169万バレルの増加となった。 つまり、この年は、世界石油需要の伸びが米国1国の供給増で賄われてなお余りあるという状態になり、それ57石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察剥曹ニイランの対立の激化から一時はホルムズ海峡封鎖と石油供給途絶(そして米国によるイランに対する攻撃の実施)の可能性まで取りざたされた。しかし、ロウハニ大統領の就任以来、対立から対話の路線に転換。同年11月24日には前述のとおり第1段階の合意が西側諸国等との間で締結されたが、2014年1月20日にはその合意内容の履行を開始。同日欧米諸国は制裁措置の実施を一部停止したり、一部停止のための手続きを開始したりするなど、制裁緩和の方向に向かい始めた。さらなる制裁に伴うイランからの原油供給減少やイランによるホルムズ海峡封鎖に伴う石油供給途絶に対する不安感は市場関係者から遠のいていくとともに、この面での原油相場に対する上方圧力も軽減していった。以上のように2014年後半は総じて地政学的リスク要因に伴う石油供給途絶懸念は和らいでいき、少なくともこの面では原油相場上昇を抑制するようになった他、状況次第では下方圧力を加え始めた。 また、金融面も原油相場に下方圧力を加えることになった。米国連邦準備制度理事会(FRB)は、2014年10月28~29日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)において量的緩和策第3弾(QE3)を10月で終了する旨決定したが、既に同年半ばから、量的緩和策終了と金利引き上げ観測が市場で広がり始めたことから、米ドル相場の上昇につれて緩和マネーが商品市場から流出、この面でも原油相場に下方圧力が加わるようになった。 需給面での緩和感の強まり、地政学的リスク要因に伴う石油供給途絶懸念の後退、米国での量的緩和策終了と米ドル相場上昇および、緩和マネーの商品市場からの流出により、原油相場は下落基調となった。こういった場合、通常なら、OPEC産油国が少なくとも需給を調整すべく、自らの原油生産量を削減する、というのが従来の流れであった。しかし、実際には2014年11月27日に開催されたOPEC総会では加盟12カ国で合計日量3,000万バレルの原油生産上限は据え置き(ただしこの時点でOPEC産油国は日量3,037万バレルと上限を超過する状態であった)、事実上の減産見送りとなった。 これが仮に、リーマンショック時のような、一時的な需要側の事情による需給緩和であり、非OPEC産油国の増産余地が乏しいという状態であれば、OPEC産油国(これまでの経緯を見ると、OPEC産油国が減産を実施しなければならなくなった場合、その負担の大部分を負うのはサウジアラビア〈そして多少の負担を負うのがクウェートやUAEなどの湾岸協力会議加盟産油国〉であり、その他のOPEC産油国は、湾岸OPEC産油国の減産に「ただ乗り」する格好となっていた)が減産することで、58が年後半に明らかになってきたため、世界の石油需給緩和感が市場に広がった。このことから、原油相場に下方圧力が加わったのである(また、例年7~10月は、夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期は終了(もしくは終了に向かう)との認識が市場で広がる一方、冬場の暖房需要期を意識するにはまだ早く、季節的な需給の緩和感が市場で醸成されることにより、原油相場には下方圧力が加わりやすくなる)。 加えて、当時は、地政学的リスク要因面で見ても、リビアは相変わらず原油生産量が日量40万バレル前後で推移していたものの、さらに同国からの原油生産が減少するとしても日量40万バレル程度でしかない、という見方が市場で発生した。他方、ウクライナ東部情勢をめぐるロシアからの石油供給に関する問題は、ロシアと欧州の間での石油貿易上の相互依存が極めて強いがために、仮に一方が石油の流れを遮断すれば、相手に影響を与えるのは当然として、遮断した側にも影響が及ぶことになる。このため、ロシアが安易に対欧州等向け石油輸出の削減を行うことは困難である(この場合もちろん欧州は混乱することになろうが、ロシアも石油収入の大幅な減少に見舞われることになる)。逆に欧州も安易にロシアから石油輸入を禁止することも困難である(この場合ロシアに影響を与えるのは必定だが、欧州でも石油供給不足感から価格が急騰、消費者からの反発を招くことになり、政権基盤が不安定となる可能性がある)。これらを考慮して、両者とも石油の輸出入の禁止を実施するしたのだが、実際、現在に至るまで、ロシアことに躊から欧州へは石油が滞りなく流通している。 また、イラクについては、イスラム国はバグダッド付近にまで進撃はしたものの、油田地帯であるバスラ地域までは到達できていない。同国ではバグダッドより北方、あるいは西方においては、イスラム教スンニ派部族の勢力が強く、同じ宗派を母体とするイスラム国は、イスラム教シーア派が主導権を握る中央政府の政策に不満を持つスンニ派勢力の支援を得たことで、モスルからバグダッドに向け進撃できていた側面がある。しかし、同国南部では、シーア派部族の勢力が強く、イスラム国はこの地域には容易に侵入できない状況にあった。他方、2009年以降、イラクが推進した油田開発事業における外資導入政策により、石油開発活動が活発化。これはイスラム国による進撃を免れたことにより、生産量に影響がなかったどころか、むしろ生産量は増加基調となった。 さらに、イランについては、2012年時点では、欧米諸国による制裁実施に伴い、同国の原油生産量は日量100万バレル程度減少した。また、制裁を実施する欧米躇ちちゅうょ2015.11 Vol.49 No.6アナリシス汲マ衡させるとともに価格上昇を期待し、あとは需要の回復を待つといった戦略もあり得たであろう。だが、2014年の場合は環境が異なった。需要の鈍化という要素もなかったわけではないが、それ以上に非OPEC産油国、特に米国での生産が大幅に増加、また、それが継続する可能性があった、という事情もあった。こうした情勢から、OPEC産油国(サウジアラビア)が減産することで、需給が均衡して原油価格が維持されるとの観測が市場で広がることにより(例えば米国でのシェールオイル生産が増加するとともに、想定どおりに石油需給の引き締まりが見られないことから)かえって原油相場が上昇しなくなる。また、それでもOPEC産油国は減産により原油価格を引き上げようと試みることにより、一時的に価格上昇の兆しは見えるものの、かえって、米国でのシェールオイル増産の勢いを抑制することができなくなる。このため、やはり短期間で原油価格は元の低水準に戻ってしまう、ということの繰り返しとなる。その過程で、OPEC産油国、特にサウジアラビアにとっては、原油価格は持続的に上昇しない上、生産量も減少することから、原油収入確保上、ダブルパンチを受け、壊滅的な影響を被ることになる。これは、1980年代前半に実際に同国が経験したことである。 1970年代の2度の石油危機を経て、原油価格は1972年の1バレルあたり2ドル台から1980年には30ドル台半ば程度と高騰したが、それに従い、世界の石油需要は1979年の日量6,386万バレルから1985年には同5,924万バレルへと同462万バレル減少、他方で、非OPEC産油国の石油生産量は米国、メキシコ、英国、ノルウェー等での増産もあり、1979年の同3,605万バレルから1985年には同4,159万バレルへと増加した。これらを受け、世界石油需給緩和感が市場で発生するとともに、1980年以降原油価格は下落基調となった。そこでOPEC産油国は生産枠を設けて減産を実施し始めたが、実際にはサウジアラビアがあらかた減産を負担した(当時サウジアラビアは「生産調整者」〈スウィング・プロデューサー〉と言われた)のだが、その結果、同国の原油生産量は1981年には日量1,000万バレルを超過する状態(推定)にあったが、1985年には、同200万バレル強の水準にまで低下した。この時同国は原油価格を維持すべく減産に努めたものの、結果としては、下落したため、同国の石油収入は激減することになった。 サウジアラビアとしては、非OPEC産油国に増産余地がないのであれば、OPEC産油国として減産する方針を認めたかもしれないが、2014年のように米国シェールオイルに増産の余地があるなら、他のOPEC産油国や主要非OPEC産油国(といっても米国が国策として減産する、ということは非現実的であるので、この場合はロシアということになろう)が、足元の生産量からどの程度の量を減産するか、ということについて具体的な数字を挙げるなど、真剣に減産に協力する姿勢を見せない限りは、OPEC全体としての減産には消極的になったものと考えられる。結局、サウジアラビアを除くOPEC産油国やロシアからは、真剣な減産への姿勢は表明されることはなかったと見られ、OPEC総会では、従来のOPEC産油国の生産上限(日量3,000万バレル)を据え置きとする、つまり事実上の減産を見送りとする旨決定された。 これにより、サウジアラビアは、原油価格が上昇しないのは致し方なしとして、生産、そして販売量をできるだけ増加させることにより、石油収入の減少分を可能な限りカバーしようと試みたと思われる。実際、OPEC総会以降、原油価格はさらに下落(2014年11月26日のWTIの終値は1バレルあたり70ドル台半ばであったが、12月半ばには50ドル台半ば、さらに2015年1月には40ドル台前半にまで下落)した。とはいえ、同国は自国の原油生産量を増加させるなどしており、上記方針の実施を垣間見ることができる。ただ、いずれにしても、OPEC総会での減産調整は失敗し、原油価格の下落基調は続くことになった。 一方、米国では原油価格が下落するにつれ、開発・生産コストが相対的に高いとされるシェールオイルの開発・生産事業に影響が発生、掘削リグ稼働数が減少し、シェールオイルの生産水準も低下するのではないかとの懸念が市場で生じた。実際、米国の石油水平坑井掘削リグ(主にシェールオイルを開発するために利用されるリグ)稼働数は、2014年10月24日の週には1,262基の直近でのピークに達した後、しばらくの間は若干の低下にとどまっていたが、2015年1月30日の週には前週比で70基を超過するリグが稼働を停止した(図4)。これに加え、4月以降は夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期(例年5月第4月曜日〈戦没将兵追悼記念日:メモリアル・デー〉を含めた連休から9月第1月曜日〈労働祭:レイバー・デー〉を含めた連休まで)の到来を控え、製油所の稼働率が上昇、原油精製処理量が増加する(図5)とともに原油在庫が減少し始めた(図6)。ここから、季節的な石油需給の引き締まり感が市場で意識されるようになった。これにより、原油相場は5月にはWTIで1バレルあたり60ドル超へと上昇する場面が見られた。しかし、60ドルを超過した時点で、その価格水準では当時伸び悩み気味であったシェールオイル生産を含めた同国原油生産(2015年6月5日の週に日量961万バレルに達して以降伸び悩みの59石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察301201101009080706050403020原油価格とリグ稼働数ドル/バレル基数(10基)原油生産量万バレル/日1,000900800700600500400月89年23456720118239101112145672012原油価格(WTI)(左軸)891011121238910111212345672013845672014石油水平坑井掘削リグ稼働数(左軸)910111212345672015原油生産量(右軸)出所:Baker Hughesデータ他を基に作成図4米国の油田開発向け水平坑井掘削リグ稼働数と原油価格・原油生産量の推移百万バレル/日17.517.016.516.015.515.014.512/520142015出所:DOE/EIAデータを基に作成12/191/21/161/302/132/273/133/274/104/245/85/226/56/197/37/177/318/148/289/11月日年億バレル図5米国原油精製処理量2015年2010?2014年幅2010?2014年平均123456789101112月5.04.84.64.44.24.03.83.63.43.23.0出所:DOE/EIAデータを基に作成図6米国原油在庫様相を呈した)が回復するのではないかとの観測が市場で発生した。 背景としては、原油価格の下落によりシェールオイルの開発・生産事業者は窮地に立たされたものの、事業環境の悪化に対応して、より効率的に生産できるプロジェクトへの集中や開発手法の改善等を実施した(掘削や水圧破砕等の事業コストが20~30%程度削減されたとの指摘もある)。これらを前提に、以前に比べ原油価格が低くても、採算に見合うプロジェクトが増加、その結果近い将来原油生産が再び増加に転ずるとの見方が市場に出てきたわけである。これらの要因が原油価格のさらなる上昇を抑制したことに加え、6月下旬以降は、ギリシャ債務問題、中国の株価下落と景気減速懸念、米国の石油水平坑井掘削リグ数が増加に転じたこと等の事象が発生した上、堅調な同国の経済指標等により、かえってFRBによる金利引き上げ観測が市場に広まった。 また、7月後半頃以降、製油所の段階では夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が峠を越え始めるとともに、秋場の石油不需要期到来で製油所の稼働率が低下、原油精製処理量が減少するとともに原油購入意欲の低下を市場が意識し始めた。しかし一方で、OPEC産油国を含めた産油国は原油生産を活発化させていた。このような要因が602015.11 Vol.49 No.6アナリシスエ油相場に下方圧力を加えた結果、8月24日に原油価格はWTIで1バレルあたり37.75ドルと2009年2月24日(この時は同37.65ドルであった)以来の安値を記録したのである。2. 米国への原油の流れの変化 近年米国ではシェールオイルの増産に従い、年間ベースで見た原油輸入量は減少してきている(図7)。ただ、原油輸入は各地域によって濃淡が見られる。米国東部やメキシコ湾岸では減少傾向となっている(図8、図9)半面、中西部では逆に原油輸入が増加してきている(図10)。こうした分散的な傾向が生じている理由としては以下のようなことが考えられる。 米国では主に鉄道によって軽質のシェールオイル等の中西部から東部への輸送が増加している(図11)他、主にパイプラインによって中西部からメキシコ湾岸への輸送が増加している(図12)。そしてこれらの国内産原油が、それまで当該地域での製油所で調達されていた軽質を中心とした輸入原油を置き換えることになり、その結果、軽質原油を中心に生産、輸出していたとされるナイジェリアやアルジェリアを中心とした産油国からの原油輸入量が減少傾向となったと見られる(図13)。他方、中西部においては、シェールオイルの生産が活発化する以前には、カナダのオイルサンド由来の重質原油の流入9.59.08.58.07.57.0百万バレル/日201020112012201320142015前半 年出所:DOE/EIAデータを基に作成図7米国年間原油輸入量1.51.00.50.0百万バレル/日201020112012201320142015前半年出所:DOE/EIAデータを基に作成図8米国東部年間原油輸入量61石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察ェ盛んになると予想されていたことから、製油所の高度化が進んだ。そうして、経済合理性の観点からカナダ産原油の輸入が優先された一方、軽質原油の受け入れが限定されたと考えられる。これによって、中西部は軽質原油を東部やメキシコ湾岸地域へと輸送する半面、カナダからの原油輸入量を増加させてきている(図14)。ただ、5.5百万バレル/日5.04.54.03.53.02010201120122013出所:DOE/EIAデータを基に作成図9米国メキシコ湾岸年間原油輸入量20142015前半年2.52.01.51.00.5百万バレル/日201020112012201320142015前半 年出所:DOE/EIAデータを基に作成図10米国中西部年間原油輸入量千バレル/日パイプラインタンカー等鉄道500400300200100020102011201220132014年2015前半出所:DOE/EIAデータを基に作成図11米国中西部から東部への原油移送量622015.11 Vol.49 No.6アナリシスト国メキシコ湾岸地域の製油所にも軽質原油を処理する製油所はあるが、他方で、メキシコ、ベネズエラ、中東の比較的重質の原油を処理するように設備が設計されているものも多い。2014年12月1日にはEnbridgeが原油輸送能力日量60万バレルのFlanagan South Pipeline(イリノイ州フラナガン~オクラホマ州クッシング)を、ま千バレル/日パイプラインタンカー等鉄道1,2001,000800600400200020102011201220132014年2015前半出所:DOE/EIAデータを基に作成図12米国中西部からメキシコ湾岸への原油移送量千バレル/日1,00080060040020002011出所:DOE/EIAデータを基に作成2010アルジェリアナイジェリア2012201320142015前半年図13米国のアルジェリアおよびナイジェリアからの原油輸入量百万バレル/日2.52.01.51.00.520102011出所:DOE/EIAデータを基に作成2012201320142015前半 年図14米国中西部のカナダからの原油輸入量63石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察ス同年12月21日にはEnbridgeとEnterprise Products PartnersがSeaway Pipeline(クッシング~テキサス州ジョーンズ クリーク〈フリーポート近郊〉)における原油輸送能力日量45万バレルの増強分を、それぞれ操業開始したことにより、カナダのオイルサンド由来の重質原油が米国メキシコ湾岸地域により届きやすくなっている。これを受け、既に米国で軽質原油は国内生産で賄われる態勢が確立されつつあるが、重質原油についてはカナダからの輸入により依存する可能性が増大することになる。その結果北米域内での原油自給が進展する一方、北米域外から米国へと輸出されていた重質原油が今後影響を受ける可能性があると考えられる。3. 世界の石油製品の流れに変化の兆し 世界の精製能力の変動の様相を見ると、ある程度の傾向を把握することができる。先進国(OECD諸国)で精製能力が増強されているのは、米国等少数の国に限られる(米国では2000年から2014年にかけ精製能力が日量120万バレル程度増加した)。むしろ欧州やアジア太平洋の先進国では精製能力が削減される傾向にある(英国、ドイツ、フランス、イタリアの欧州主要4カ国の精製能力は2000年から2014年にかけ同170万バレル強減少している他、日本と豪州の2カ国についても同じ期間に合計で同155万バレルの精製能力が削減されている)。これら諸国での精製能力の削減は、相対的に高度化が進んでおらず、また比較的小規模で老朽化している施設について、高水準の人件費もあり、精製利幅の確保が困難になってきていたことが背景にあると見られる。 一方、非OECD諸国においては、2000~2014年にかけ精製能力の増強が行われ、そのうちの一部諸国では大幅に能力が増強されている(後述)。これら世界各国での精製能力の変動により、石油製品の貿易の流れに変化555045403530万バレル/日2011201220132014出所:IEAデータを基に作成図15欧州OECD諸国のロシアからの留出油輸入量の兆しが見られ始めている。ここでは、その変化の兆しについて述べたい。 ロシアでは、2000~2014年に日量80万バレル程度精製能力が純増している(BP統計2015年版による。以下同様)が、うち同75万バレルは2012年から2014年にかけてなされている(ただし、同国では2000年から2003年にかけては同22万バレル程度精製能力が削減されている)。同国では国内のガソリン需要は国内の製油所での生産によりほぼ賄われており、その生産は国内ガソリン需要の増加とともに増加しているが、その結果留出油の生産も併せて増加した。しかし、国内での留出油需要は供給に追い付かなかった。そのため輸出余力が増大するとともに、欧州方面への留出油の輸出量が増加傾向を示すようになった(図15)。 また、サウジアラビアでは、2000~2014年にかけ精製能力が日量100万バレル強増加しているが、うち同70万バレルは2013~2014年に集中している。これは、2013年9月にSaudi Aramco(保有権益比率62.5%)とTotal(同37.5%)の合弁製油所であるSATORP製油所(原油精製処理能力同40万バレル)が、そして、2014年9月にはSaudi Aramco(保有権益比率62.5%)とSinopec(同37.5%)の合弁製油所であるYASREF製油所(原油精製処理能力同40万バレル)が、それぞれ操業を開始したことによる(ただし2014年中には規定能力での生産には達しなかったことから、BP統計では2014年2015前半年642015.11 Vol.49 No.6アナリシスWェット燃料や留出油を輸入しているが、特に顕著に輸入しているのは留出油である(図17)。また、中国では、2000~2014年の間に日量870万バレル弱の精製能力が増強されている。ただ、従来はそのような精製能力の増強を以てしても、基本的には国内需要の増加を賄いきれず、製品の輸入を行っていた。しかし、最近では、同国の経済が減速気味であることに伴い国内需要の伸びも鈍化してきている。特に物流面で利用される留出油の需給が緩和してきているので、当該製品が国外へと輸出される可能性が増大している。 このように、特に主要非OECD諸国において、石油製品を輸出する能力が増大する兆候が見受けられる。そうなると、例えば、ロシア、中東諸国、インドなどから欧州市場に向け留出油等の石油製品が流入しやすくなる。一方で、同様に、中東、インド、中国などからアジ201320142015年20112012欧州OECD諸国のサウジアラビアからの留出油輸入量1210は、Rel14万バレル/日の精製処理能力の増加について同30万バレル分の計上となっていると思われる)。これまでは、石油製品については国内の需要に供給が追い付かなかったことから、国外から石油製品を輸入していたが、精製能力を増強したことにより、特に留出油の供給に余裕が出てきた結果、このような製品が欧州等国外に輸出され始めている(図16)。 また、UAEでは2000~2014年にかけ精製能力が日量70万バレル程度増加しているが、このうち同43万バレルが2014年になされている。これは、2014年11月(ただし正式には2015年に入ってからとも伝えられる)に同国のRuwais製油所がそれまでの同40万バレルから同82万バレルへと、能力を拡大したことによる。このため、今後同国から留出油等が輸出される可能性が増大すると考えられる。 一方インドでは、2000~2014年に精製能力が日量210万バレル増強され、特に2009年と2013年の2年間で合計同100万バレル超増加している。このなかにianceのJamnagar製油所の新設等による精製能力の増強(同70万バレル)のような、主に輸出向け石油製品を生産する製油所が含まれている。これにより、国内の石油需要を上回る精製能力が確保できたことから、それら製油所で生産された石油製品は各地域へと輸出されている。2013年時点では、シンガポール、オランダ、サウジアラビア、UAEが主な輸出先となっている(ただし、既述のように、サウジアラビア、UAEで製油所が新設されているので、今後インドからこれら中東諸国への石油製品の流れには変化が生じる可能性もある)。 なお、オランダを含めた欧州諸国はインドから出所:IEAデータから推定出所:IEAデータから推定図16図1786420万バレル/日15103025202008200950201020112012201320142015年欧州OECD諸国のインドからの留出油輸入量65石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察A市場に向け、やはり留出油等の石油製品が移動しやすくなる。したがって、欧州やアジアでの石油製品市場では、供給増加により、一時的にせよ、それら地域における需給が緩和し、製油所間の競争が強まる可能性が高まることが予想される。そうなると、例えば欧州の先進国等での製油所は経営が圧迫されるところも出てこよう。既に欧州では、特に留出油について、従来の米国からの輸入に加え、ロシアや中東等からの流入が増加してきている。つまり、中間留分在庫が前年に比べて豊富な状態になっていると見られる(図18)他、シンガポールにおいても、足元の中間留分在庫がほぼ4年ぶりの高水準となっている。 また、サウジアラビアやUAEについては、従来はそれらの国からの原油輸出量が市場にとって重要視されていたが、これら産油国で精製能力が増強され、かつ、そうした傾向が今後も継続すれば(そしてそのような傾向は継続すると予想されている)、将来的には石油製品輸出量(もしくは純輸入量)についても併せて意識しておくことがより肝要になってくると考えられる。億バレル3.51995?2004年2005?2015年月年123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456782005200920102014201520062011201220133.02.52.01.5出所:IEAデータを基に作成20072008図18欧州OECD諸国中間留分在庫の推移4. 2015年、2016年の世界石油市場見通しが示唆するもの IEAは2015年7月10日に、OPECは7月13日に、それぞれ2016年の石油需給見通しの詳細を発表した。ここでは、既に2015年1月13日に2016年見通しの発表を開始しているDOE/EIAを含め2015年、2016年の世界石油需要および供給見通し等の特徴(2015年については当初見通しと現時点での見通しとの差異等)などについて述べる(ただし最新のデータを使用すべく、DOE/EIAとOPECが8月11日に、IEAが8月12日に、それぞれ発表したものに基づく)。 まず、需要について。2014年7月(つまり、IEAとOPECが初めて2015年見通しを発表した時期)の2015年の世界石油需要増減見通しは前年比で日量121万~146万バレルの増加(IEAが同141万バレル〈前年比1.5%〉、DOE/EIAが同146万バレル〈同1.6%〉、OPECが同121万バレル〈同1.3%〉の、それぞれ増加)と予想されていた。他方、現時点での2015年の世界の石油需要増減見通しは前年比で日量117万~171万バレルの増加(IEAが同171万バレル〈前年比1.8%〉、DOE/EIAが同117万バレル〈同1.3%〉、OPECが同146万バレル〈同1.6%〉の、それぞれ増加)となっている(図19)。したがってDOE/EIAは2014年時点から現在に至るまでに2015年の石油需要増加量を下方修正する一方で、他の2機関は上方修正していることになる。 ただ、DOE/EIAが需要を下方修正する時期は、2014年後半に集中している。これは、中国の経済減速を含めた世界経済成長の下方修正に伴う石油需要見通しの下振れが、原油価格下落によって米国を中心とするガソリン等石油製品の購買刺激効果を上回るとの考え方による。662015.11 Vol.49 No.6アナリシス怎oレル/日他方、2015年に入って以降、DOE/EIAは、世界石油需要を多くの場合上方修正しているが、これは、原油価格下落で需要が刺激され、当初見込みよりも需要が伸びることによるとしている。また、OPECは2015年第1および第2四半期に米国を中心とする地域で原油と輸送用石油製品価格下落に伴う影響でガソリンを含む石油需要が増加したことを考慮し、2015年7~9月に石油需要を上方修正している。 またIEAは、2014年後半には、世界経済見通しの下方修正、特にウクライナ東部問題をめぐる対ロシア経済制裁による同国経済への影響を反映し、世界石油需要を下方修正した時期もあったが、その後は世界的な経済回復、原油価格の下落による特に米国での消費刺激効果、そして欧州が前年に比べて厳冬であったことを織り込んで、2015年6月、8月に大幅な上方修正を行っている。一方、2016年の世界石油需要は、前年比で日量129万~138万バレル程度の増加と見込む(IEAが同138万バレル〈前年比1.4%〉、DOE/EIAが同131万バレル〈同1.4%〉、OPECが同129万バレル〈同1.4%〉の、それぞれ増加)など、それなりに堅調に伸びていくと予想している。これは2015年に続き原油、石油製品価格の下落に伴い消費が堅調に推移するのに加え、非OECD諸国において経済成長が加速していくと見られることなどが背景にあるとされる。 ただ、この点については、2016年の世界経済成長見通しが今後どうなるかによって、世界石油需要の伸びの予想に調整が加えられる可能性があることに留意しなければならない。IMFの世界経済見通しによれば、2016年の世界経済成長率は3.8%と2015年の3.3%から加速すると予想されているが、この見通しは近年時間の経過とともに下方修正される傾向がある。出所:各機関資料を基に作成出所:各機関資料を基に作成図20120100180160140万バレル/日5008060IEA250200150100-50 例えば、2011年9月20日時点での見通しでは2015年の世界経済は4.8%近い成長を達成すると見られていたものが、下方修正された結果、2015年7月9日発表時点で3.3%となっている。IMFのラガルド専務理事は、さらに2015~2016年の世界経済見通しを下方修正する意向である旨9月27日に報じられている。それでも、原油価格が2014年前半の時点から50%超下落しているので、それによる消費刺激効果で、それなりの増加幅を達成する可能性があることも想定しておく必要があろう。 非OPEC産油国の石油供給見通し(NGL等を含む)については、2015年は前年比で日量88万~139万バレルの増加(IEAで前年比同110万バレル、DOE/EIAで同139万バレル、OPECで同88万バレルの、それぞれ増加)と各機関は見込んでいる(図20)。2014年7月時点の予測では前年比で同97万~120万バレルの増加(IEAで前年比同120万バレル、DOE/EIAで同97万バレル、OPECで同111万バレルの、それぞれ増加)であったことから、201420152016201420152016DOE/EIAOPEC各機関の世界石油需要増加見通し(前年比)DOE/EIAOPEC図19IEA各機関の非OPEC諸国石油供給増加見通し(前年比)67石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察OE/EIAが上方修正した半面、IEAはほぼ変わらず、OPECは下方修正しているなど、対応が分かれている。DOE/EIAは、2014年7月時点で2015年のカナダの石油生産は日量6万バレルの増加にとどまると見込んでいた。しかし、2015年9月時点では同34万バレルの増加に上方修正している。これは同国でのオイルサンドプロジェクトが一部は原油価格下落の影響を受けたものの、他は進捗していることを反映していると見られる。 また、ブラジルについても2014年7月時点では前年比で日量3万バレルの増加と予想していたところ、2015年9月時点では同19万バレルへ、またロシアについても2014年7月時点では前年比で変わらずと見込んでいたが、2015年8月には同10万バレルの増加へと、それぞれ上方修正している。他方、OPECは、カナダでオイルサンド事業を行う企業の予算削減等を考慮し、2015年の同国の石油生産の増減について、2014年7月時点で前年比日量30万バレル程度の伸びとしていたところ万バレル/日200150100500-50出所:各機関資料を基に作成IEADOE/EIA図21各機関の米国石油供給増加見通し(前年比)万バレル/日3,1503,1003,0503,0002,9502,9002,850IEADOE/EIA出所:各種資料を基に作成図22各機関の対OPEC原油需要等見通し(前年比)201420152016を2015年9月時点では同10万バレル程度の伸びへと下方修正した他、メキシコにおいても2014年7月時点で同10万バレル程度の減少としていたところを2015年8月時点では同20万バレル程度の減少へと予想減少幅を引き上げている。ロシアについては前年比で横ばいの予想で特段の修正をしていない。このように、特に個別の産油国での生産に関する見方の相違が非OPEC諸国の石油供給の見通しの差になって現れている。 一方、2016年においては、特に米国の原油価格下落によるシェールオイル開発・生産事業への影響から、同国の石油生産の伸びが大きく減速。DOE/EIAは2015年比で日量9万バレルの減少となると予想している(図21)。また、米国以外の産油国でも増産規模が限定的な水準にとどまるか、むしろ減産となる旨、IEA、DOE/EIAおよびOPECは予想している。このため、各機関ともに、非OPEC諸国の石油供給は前年比で日量48万バレルの減少~同16万バレルの増加(IEAが同48万バレルの減少、DOE/EIAが同1,000バレルの増加、OPECが同16万バレルの増加)と、2015年比で大幅に伸びが鈍化すると見ている。 ただ、米国では原油価格の下落に伴いシェールオイル開発・生産事業の効率化が図られ、掘削や水圧破砕の費用が低減していると言われていることから、今後同国での原油生産が多少なりとも回復する展開になることも否定できない。今後のシェールオイル開発・生産の動向に注視していくことが必要であろう。 2016年は非OPEC産油国石油供給の伸びが限定的な水準にとどまる。世界石油需要から非OPEC産油国石油供給とOPEC産油国のNGL等を差し引いた、いわゆる対OPEC石油需要量等(「Call on OPEC」。ただしこれには在庫変動も含まれる)はIEA、DOE/EIA、OPECOPEC682015.11 Vol.49 No.6アナリシスPECともに2016年は2014年、2015年に比べて相当程度増加し、日量3,000万バレル(現行のOPECの原油生産の上限)前後かそれ以上の水準になると予想される(図22)。 IEAによれば、2015年8月現在、OPEC産油国の原油生産量は日量3,157万バレルである。この水準がこの先も維持されるとして、他の石油需給データについてもIEAの予測を併せて用い2016年の世界石油需給シナリオを描いてみると、2016年も2015年同様供給が需要を超過することに変わりはないが、その幅は相当程度縮小することになる(表1、表2)。ただ、増産傾向が続いているイラクが今後も増産する可能性があることに加え、ウラン濃縮問題をめぐって西側諸国と最終合意に達したイランがこの先増産することになれば、その分だけ需給は緩和することになるので、同国の原油生産動向、そして、西側諸国による制裁解除のタイミングとともに、どれくらいの量の原油がいつ増産されるようになるのか、注目していくことが肝要だ。表1世界石油需給バランスシナリオ(2015年)2014年総需要 非OPEC生産 OPEC原油生産 OPEC NGL生産総供給在庫変動その他出所: IEAデータを基に作成92.7357.0430.286.3693.680.962015年1Q93.5558.0830.496.4595.031.482015年2Q93.7458.2631.516.5596.312.572015年3Q94.9658.2131.646.5696.411.462015年4Q95.4658.0031.576.6996.270.80表2世界石油需給バランスシナリオ(2016年)2015年総需要 非OPEC生産 OPEC原油生産 OPEC NGL生産総供給在庫変動その他出所: IEAデータを基に作成94.4358.1431.316.5696.011.572016年1Q95.0057.6431.576.7495.950.952016年2Q95.1057.5731.576.8095.940.842016年3Q96.2457.6431.576.8596.06-0.182016年4Q96.8257.7831.576.8796.22-0.60百万バレル/日2015年94.4358.1431.316.5696.011.57百万バレル/日2016年95.7957.6631.576.8296.040.25おわりに 原油価格は2014年以降ほぼ半値になった。では、このような価格は継続するのか。既述のように、現時点では2016年は引き続き石油供給が需要を超過するものの、両者の差は縮小すると見られる。そして、現在程度の需要の伸びが続く一方(過去の経験からすると、前年比で石油需要が減少した年は、1980年代前半やリーマンショック後のごく限られた期間でしかない)、米国のシェールオイル生産の伸び悩みや、オイルサンド、深海等の新規大型プロジェクトの開始が延期されるなどにより、供給は中長期的に見て当初見込みほど増加しない、といった展開になる可能性もある。そうなれば、将来的には再び原油相場が急上昇することにもなりかねない。 その一方で、かつて、1990年代後半の原油価格低迷時(特に1997~1998年のアジア通貨危機に伴う世界経済不振により原油価格がWTIで1バレルあたり10ドル台にまで下落した)には、BP、Exxon(当時)、Chevron等69石油・天然ガスレビュー原油価格下落を含めた石油市場の最近の情勢に関する一考察ェ他の大手石油会社(Amoco、Arco、Mobil、Texaco)を合併もしくは買収し、企業規模を拡大した。その拡大した企業規模で大型プロジェクトを推進、2000年代前半以後の原油価格上昇とそれら大型プロジェクトでの生産開始と相まって、大手石油会社に利益をもたらすことになった。その意味では、現在の原油相場の低迷は、企業にとっては苦しい環境であることに違いはないが、合併・買収を通じて、将来の収益獲得の機会を提供している可能性があるとも言えよう。執筆者紹介野神 隆之(のがみ たかゆき)早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルバニア大学大学院修士課程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、現在、JOGMEC調査部主席エコノミスト(石油・天然ガス市場および産業担当)。趣味は旅行(国内・国外を問わず)。702015.11 Vol.49 No.6アナリシス
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2015/11/20 [ 2015年11月号 ] 野神 隆之
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