原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNG プロジェクトの現況
レポートID | 1006579 |
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作成日 | 2016-01-22 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 天然ガス・LNG非在来型 |
著者 | 舩木 弥和子 |
著者直接入力 | |
年度 | 2016 |
Vol | 50 |
No | 1 |
ページ数 | |
抽出データ | JOGMECK YMCJOGMEC調査部舩木 弥和子原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況はじめにけんいん 2011年以降バレルあたり100USドル程度で推移してきた原油価格が、2014年半ば過ぎから急激に下落した。引していくと考えられていたオイルサンドは、採油時に蒸気を圧入したり、改 カナダの石油生産を牽質を行ったり、パイプライン輸送用に希釈する必要があることなどから、コストが高い。また、パイプラインの輸送能力が限られているために、価格の変動が大きいという問題も抱えている。 British Columbia(BC)州のChristy Clark首相が2020年までに三つのプロジェクトを立ち上げ、雇用を促進し、BC州の経済を支える柱とするとしていたLNG輸出プロジェクトも、これまでLNG事業が行われていなかった地域での新規プロジェクトであるため多大な投資を必要とし、競争の激化、先住民や環境保護団体による反対といった課題に直面している。 原油価格下落により、これらのプロジェクトの開発、生産に大きな影響が生じるのではないかと懸念の声が上がっている。現状はどうなっているのか、原油価格が下落を始めてから1年半の状況をまとめ、2015年に政権交代があっが連邦政府とAlberta州の石油・ガス関連の政策と併せて分析を行った。1. オイルサンドプロジェクトはどこまで進展したか(1)油価下落による影響 2014年末のカナダの石油確認埋蔵量は1,729億bblで、ベネズエラ、サウジアラビアに次いで世界第3位とされている*1。この膨大な石油確認埋蔵量の98%がオイルサンドであるとされている*2。 このオイルサンドの生産量は、技術革新による開発費や操業費の低減、原油価格の高騰による経済性の好転等により、2004年末の90万b/dから2014年には216万b/dにまで急激に増加した。 オイルサンドのプロジェクトは、砂ごと採取して熱湯を注いでビチューメンを流動化させ、砂や水と分離する露天掘り(mining)法によるものが主であったが、次第に、水蒸気や有機溶剤により地下でビチューメンの粘性を下げて流動化させ、坑井で回収する地層内回収(in-situ)法によるプロジェクトが増えてきている。特に、同一オイルサンド油層内に水平坑井を上下平行に2坑掘削し、上方の坑井から水蒸気を圧入し、その熱で流動化したビチューメンを下方の坑井から回収するSAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)法のプロジェクトが増加している。原油価格が現在のように下落する以前の2014年前半時点では、新規の露天掘りプロジェクトには延期や棚上げされるものがあったが、SAGD法を用いたオイルサンドの新規生産計画や拡張計画は多数存在し、オイルサンドプロジェクトへの投資は、「露天掘り+アップグレーディング」から「SAGD法+希釈による輸送」に移っていく傾向にあった。 ところが、原油価格が急落したことにより、設備の建設等ばく大な立ち上げ費用を必要とする新規のオイルサンドプロジェクトは、資金の確保や投資決定が難しくなり、SAGD法のプロジェクトを含めて、相次いで延期、保留されるようになっている。その一方で、Imperial OilのNabiyeやKearl第2期、HuskyのSunrise第1期、ConocoPhillipsのSurmont第2期、Athabasca OilのHangingstoneフェーズ1等建設中のプロジェクトについては、既に多額の投資を行っていることから、原油価格下落にもかかわらず、大部分のプロジェクトの建設が続31石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 312016/01/13 17:13:43アナリシスOGMECK YMC出所:Alberta州ホームページ http://www.energy.alberta.ca/OilSands/pdfs/FS_SAGD.pdf図1SAGD法けられている。生産中のプロジェクトについても、同様の理由から、コスト削減を進めながら生産が続けられている。 2015年に入ると、破産を申請し、企業債権者調整法Creditors Arrangement Act(Canada)(CCAA)に基づく債権者保護を獲得して人員削減と生産性の改善に取り組んできたものの、原油価格低迷が続いていることで生産中のSTP-McKayの操業を停止するSouthern Pacific Resourceのような企業も出現するようになってきた。また、ShellのCarmon Creekプロジェクト第1期のように、既に建設が開始されていたにもかかわらず、生産開始が2年先送りされ、最終的には中止されるプロジェクトも出てきた。そして、Connacher Oil and GasやGrizzly Oil Sands等資産売却を計画する企業やSuncor Energyのように企業買収により事業拡大を図るものも現れるようになっている。 Canadian Energy Research Institute(CERI)は、2015年8月に発表したCanadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)で、ROR10%を確保した上で事業展開する場合を想定すると、輸送と希釈コストを除いたビチューメンの供給コストは、SAGD法が58.65カナダドル/bbl、露天掘りが70.18カナダドル/bbl、Cushingまでの輸送コストを加味した供給コストは、SAGD法が80.06USドル/bbl、露天掘りが89.71USドル/bblであるとした。この供給価格からも、新たにオイルサンドプロジェクトに着手することが難しいことがうかがわれる。一方で、オイルサンドプロジェクトには比較的埋蔵量が大きい案件が多い上、在来型に比べプロジェクトの寿命が長いことから、より長期の見通しに基づいて多額の投資が行われているため、建設中、生産中のプロジェクトは継続されていると考えられる。 では、それぞれの企業は、この原油価格低迷にどのように対処しているのだろうか。主要な企業の動向を見てみよう。①Suncor Energy Suncor Energyは、2015年の資本支出を、2014年秋の時点では68億カナダドルから72億~78億カナダドルに引き上げるとしていたが、原油価格下落を受けて、2015年に入りこれを62億~68億カナダドルに引き下32アナリシス_舩木.indd 322016/01/13 17:13:432016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC表12014年央以降のオイルサンドプロジェクトの主な動向年月プロジェクトオペレーター2014/092014/10CornerFirebagStatoilSuncor2014/11HangingstoneAthabasca Oil2014/122014/122015/01Kinosos-1ASunrise-1 Sunrise-22015/01Kirby North 2015/012015/012015/022015/032015/042015/042015/052015/052015/062015/062015/072015/072015/072015/092015/102015/102015000Telephone LakeGrand RapidsNarrows LakeMacKay River拡張Pierre RiverSunrise-1Black Gold-1TaigaOrionNabiyeCarmon Creek-1Surmont-2Kearl-2STP-McKayFrontierHangingstone-1Surmont-2 Carmon Creek-1Meadow Creek EastChristina LakeNexenHuskyHuskyCanadian Natural ResourcesCenovus EnergySuncorShellHuskyKNOC(Harvest Energy)Osum Oil SandsImperial OilShellConocoPhillipsImperial OilSouthern Pacific ResourceTeck ResourcesAthabasca OilConocoPhillipsShellSuncorMEG Energy注:青字はプロジェクトの進展、赤字は保留、延期等を示す。出所: 各種資料より作成生産法SAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGDSAGD露天掘りSAGDSAGDSAGDSAGDCSSVSDSAGD露天掘りSAGD露天掘りSAGDSAGDVSDSAGDSAGD生産量4万b/d 少なくとも3年延期動向18万b/d 生産開始1.2万b/d 第1フェーズ間もなく生産開始。第2、3フェーズは当面保留2万b/d 生産開始6万b/d 水蒸気圧入開始14万b/d 計画保留10万b/d 油価が安定するまで第1フェーズを延期9万b/d18万b/d9万b/d2万b/d2014年11月、Telephone Lake開発承認。投資ペースを遅らせる。生産開始は2017年以降FIDを延期。生産開始は2018年以降20万b/d 棚上げする意向を表明6万b/d 生産開始1万b/d 油価が60USドル/bblになるまで生産開始を延期3.5万b/d1万b/d 生産拡張計画を延期4万b/d 生産開始4万b/d2019年まで2年先送り14.8万b/d 蒸気圧入開始11万b/d 予定より5カ月早く生産開始1万b/d 操業停止5年延期26万b/d1.2万b/d 生産開始14.8万b/d 生産開始4万b/d 中止8万b/d 建設を申請。2017年建設開始、2020年生産開始を計画20%増産予定7.6万b/dげるとした。資本支出は削減したものの、同社の2015年第3四半期のオイルサンド生産量は前年同期の44万1,100b/dから4%増加し、45万8,400b/dとなった。 業界全体でプロジェクト向けの支出が削減される傾向にあることからコストが下がり、ガス価格の下落やメンテナンスを最低限に抑えたこともあって、Suncor Energyの操業コストは2014年の34カナダドル/bblから2015年第3四半期には27カナダドル/bblに引き下げられたという。同社のSteve Williams社長兼CEOは、「燃料コストが下がった上に、近隣に住む質の高い労働力によって生産性が高まり、遠くから労働者を呼びよせる必要がなくなったお陰で、プロジェクトにデフレが起きている」*3としている。 2015年1月にMacKay River拡張プロジェクト(生産能力2万b/d。以下プロジェクト名の後ろの( )は生産能力)のFIDを延期することとし、生産開始は早くても2018年とした。一方で、会社全体としては2017年末までにさらに10万b/d増産する計画であり、Fort Hillsプロジェクトは予算内で建設を続け、2017年末に操業開始予定とされている。また、9月には、同プロジェクトの権益10%をTotalから3億1,000万カナダドルで買収し、権益保有比率を50.8%に引き上げた。 Suncor Energyは10月に入ると、Canadian Oil Sands(COS)株主に対して、COS株式1株とSuncor Energy株式0.25株を交換するという内容の敵対的買収提案を行った。買収額は43億カナダドルで、その他負債23億カナダドルを加えて、Suncor Energyにとっては総額66億カナダドルの負担となる。Suncor Enerryは既に2015年春に2度、COSの買収を提案しており、COS経営側はこれを拒否してきた。COS経営側は今回も、Suncor 33石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 332016/01/13 17:13:43原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMC70.18Real 2014 CDN$/bbl58.65SAGD 10% RORMining 10% ROR80706050403020100Fixed Capital (Initial & Sustaining) Operating Working Capital Fuel (Natural Gas) Other Operating Costs (incl. Elec.) Royalties Income Taxes Emissions Compliance Costs Abandonment Costs 22.91 0.53 6.90 13.74 10.41 3.80 0.31 0.04 32.120.703.0716.5712.804.740.130.05出所:CERI, Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)図2ビチューメン供給コストEnergyによる買収提案は、両社が権益を保有するオイルサンドプロジェクトSyncrudeの両社を合わせた保有権益の価値を過小評価しているとして、これを拒否するよう株主に求めている。 同じく10月にSuncor Energyは、Alberta Energy RegulatorにFort Murrayの南45㎞に位置するMeadow Creek Eastプロジェクト(8万b/d)の建設を申請した。2017年に建設を開始し、2020年に生産を開始する計画だ。 このように、Suncor Enenrgyは原油価格の低迷が長引くなか、コストを低減させながら、国内原油生産最大手としての地位をさらに強固にすることを目指している。②Imperial Oil Imperial Oilは、以前より、長期的に恵まれた資産を保有していると言っており、開発計画は短期の原油価格変動に大きな影響を受けないとしていたが、その方針を変えず、長期的な視点に立ち投資額を削減せずにきた。2015年5月にはCold LakeのNabiye拡張プロジェクト(4万b/d)、6月にはKearlプロジェクト第2期(11万b/d)の生産を開始した。プロジェクトの拡張や立ち上げにより、2015年1~9月の生産量は、Cold Lakeが前年同期の14万5,000b/dから16万b/dに、Kearlが7万3,000b/d(Imperialのシェア5万2,000b/d)から13万6,000b/d(同9万6,000b/d)に増加、同社の生産量も30万8,000b/dから35万5,000b/dに15%増加した。ただし、同社はKearlプロジェクト第2期の生産開始時に、同プロジェクト第3期について2020年としていた生産開始予定年に執着しないとしており*4、今後の動向が注目される。③Shell Shellは、2015年2月に、Pierre Riverオイルサンドプロジェクト(20万b/d)を棚上げする意向を表明した。34アナリシス_舩木.indd 342016/01/13 17:13:442016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC契約は継続し、将来改めて開発を申請する考えであるという。5月には、コスト削減のために、2017年生産開始予定だったPeace River のCarmon Creekオイルサンドプロジェクト第1期(4万b/d)を2019年まで2年先送りすることとした。代わりに、既存のオイルサンドプロジェクトの収益性引き上げに注力するとしていたが、10月になると、Carmon Creekプロジェクト第1期を中止すると発表した。 同プロジェクトのように、既に建設が行われているオイルサンドプロジェクトの中止は現在の原油価格下落下でこれまで例がなかった。Southern Pacific Resourceが生産中のSTP-McKayの生産を停止したという例はあるものの、同プロジェクトの生産量は1,943b/dと少ないものであった。これと比較しても、ShellによるCarmon Creekプロジェクト第1期中止決定の影響は大きいと考えられる。④Cenovus Energy Cenovus EnergyはConocoPhillipsとFoster Creek、Christina Lakeで生産を行っている。 同社は、2014年12月に2015年の資本支出を2014年比15%減の25億~27億カナダドルとするとしていたが、2015年1月末にこれをさらに7億カナダドル削減するとした。そして、Telephone Lake(9万b/d)、Grand Rapids(18万b/d)、Narrows Lake(13万b/d)各プロジェクトへの投資ペースを遅らせるとした。いずれのプロジェクトも生産開始は2017年以降とされているが、詳細な時期は表明されていない。 その一方で、建設中でコストの低いChristina LakeやFoster Creekのオイルサンド拡張プロジェクトは計画どおりに進めるとしている。同社は、コストを30%削減しながら、Christina Lake Phase FとFoster Creek Phase Gの生産を開始することで2016年にオイルサンド生産量を10万b/d増加させる計画だ。2015年第3四半期の同社のオイルサンド生産量は、14万6,743b/dで、前年同期の12万5,089b/dから17%増加した。 同社の操業コストは、ガス価格の下落もあって、Christina Lakeが前年同期比38%、Foster Creekが24%低減した。輸送コストも2015年は8カナダドル/bblを予定していたが、生産増により単位あたりの輸送コストが下落したことと、Flanagan Southパイプラインが利用可能になり鉄道利用が減ったことで、6.5カナダドル/bblに下がった。 Cenovus Energyは、2017年末まではWTI価格がバレルあたり50USドル程度で推移すると見ており、Alberta州の地層内回収法のプロジェクトの掘削コストを現在の1坑あたり900万カナダドルから18%削減し740万カナダドルとすることを計画している。同社は既に掘削日数を30%削減したという。 Cenovus Energyは、新規プロジェクトへの投資を遅らせ、コストを削減しながら生産増を図ろうとするオイルサンド生産者の代表格と言うことができよう。⑤Total Totalは、2015年5月にSinopecとジョイントベンチャーを組んでいるAlberta Northern Lightsオイルサンドプロジェクト(10万b/d)を先送りすることとし、ConocoPhillips、Suncor Energyとパートナーを組むSurmont(14万8,000b/d)、Fort Hills(16万b/d)のオイルサンドプロジェクトに専念するとした。6月には、TotalとConocoPhillipsがSAGD法によるSurmontオイルサンドプロジェクト第2期の生産を予定どおり開始したと報じられた。同プロジェクトの第1期は2007年に生産を開始し、3万b/dを生産しており、2017年までに生産量を11万8,000b/dに増加させる計画だ。Totalは、9月には、Fort Hillsプロジェクトの権益10%をSuncor Energyに3億1,000カナダドルで売却し、同プロジェクトの権益保有比率を29.2%に引き下げた。⑥Canadian Natural Resources Canadian Natural Resourcesは、2015年1月、2015年の予算86億カナダドルを62億カナダドルに削減するとした。同社は以前より、将来のプロジェクトについては生産削減か遅らせる可能性があるが、進行中のプロジェクトは継続し、生産中のプロジェクトの生産を即座に削減することはないとしていたが、実際、建設に着手していないKirby Northプロジェクトを油価が安定するまで延期するとした。一方、Horizonプロジェクトは2016年末までに4万5,000b/d、2017年末までに8万b/d生産能力を拡張し、同プロジェクトの操業コストをバレルあたり25~27ドルに引き下げる計画であるとしている。 なお、同社の2015年第2四半期の地層内回収法によるオイルサンド生産量は、後述する森林火災の影響等で、10万5,019b/dと、2015年第1四半期比28%、前年同期比8%減少した。⑦Husky Energy Husky Energy/BPはSunriseオイルサンドプロジェクト第1期(6万b/d)について2014年12月に蒸気圧入を開始、2015年3月に生産を開始した。同プロジェクト35石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 352016/01/13 17:13:44原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMCは生産能力を20万b/dまで拡張することについて既に認可を得、第2フェーズは2020年以降に生産開始の予定とされていた。しかし、同社は、新規プロジェクトへの支出を遅らせ、リターンを多く期待できるプロジェクトに集中するとして、第2フェーズを保留することとした。3月には、Sunriseオイルサンドプロジェクトで働いていたSaipemの労働者約1,000人が解雇されている。⑧Canadian Oil Sands Canadian Oil Sandsは、原油価格下落を受けて、2015年の資本支出を4億5,100万カナダドルから4億2,200万カナダドルに削減した。また、2015年1~6月の操業コストを当初見込みよりも20%削減した。その一方で、オペレーターを務めるSyncrude Canadaの生産量を34万b/dに増やした。Syncrude Canadaの損益分岐点は55カナダドル/bblであるという。⑨Penn Growth Energy Penn Growth Energyが2014年12月に蒸気圧入を開始したSAGD法の Lindberghプロジェクト第1フェーズは、2015年6月には生産能力1万2,500b/dを超える1万3,000b/dを生産した。2015年末までに同プロジェクトの生産量を1万6,000b/dに増やす計画である。しかし、同プロジェクトの第2フェーズ(1万8,000b/d)については、生産開始時期を少なくとも1年遅らせると発表した。⑩Athabasca Oil Athabasca Oilは2015年7月にSAGD法のHanging stoneプロジェクトの生産を開始した。9月末時点で、生産量は4,000b/dを超えている。⑪Connacher Oil and Gas Connacher Oil and Gasは、Great DivideのPod1で2008年より、Algerで2010年よりオイルサンドの生産を行っている。生産量は2万b/d以下である。原油価格下落を受けて、企業ごと、あるいは、オイルサンド資産の売却手続きを開始したという。 オイルサンド企業の多くは、コストや資本投資を削減、経済性を向上させると同時に、生産能力を増強させようと努めている。そして、個別のプロジェクトの状況で見たのと同様に、建設中、生産中のプロジェクトは継続するが、新規プロジェクトは先送りする傾向にあることが見てとれる。 カナダの投資銀行TD Securitiesの推定によると、2015年9月末時点で、オイルサンド生産量220万b/dのうち3/4は損失を出して売却されている。また、原油価格が65~75USドル/bblとなっても、新規オイルサンドプロジェクトが利益を上げるためには20%から40%のコスト削減が必要とのCitigroupの見方もあり*5、原油価格低迷が長引けば、その影響はさらに大きくなろう。 なお、2015年第2四半期から第3四半期にかけて、メンテナンスに加え、森林火災と流出事故によるパイプラインの操業停止でオイルサンドの生産量が減退した。 5月22日、乾燥した気候と高温、落雷によりCold Lake近郊で山火事が発生した。その後も、Alberta州内で落雷の影響により制御不能な山火事が続々と発生した。Alberta州政府は、消防士1,600人、ヘリコプター200機を投入し、消火にあたったが、26日には8,000haであった被害地域が、27日には1万7,483haに拡大、山火事は全体で70件となり、このうち29件は手が付けられない状態となった。そこで、州政府は住民等に安全な場所への緊急避難を求めた。その結果、Kirby、Primrose/Wolf Lake、Foster Creek、Leismer、Christina Lakeの5件のオイルサンドプロジェクトに影響が生じ、生産量の1割に相当する23万3,000b/dの供給が止まった。山火事自体は例年、頻発しており、2011年にはFortMcMurrayでの火災によりオイルサンド設備の建設が遅れたことがあったが、今回は生産が止まってしまったことから、懸念が高まった。6月1日にはAlberta州政府が、一部を除き、火災は収束に向かっていると発表し、これを受け、Cenovus EnergyやCanadian Natural Resourcesが生産再開に向けての活動を開始、3~4日には各プロジェクトの生産が再開された。 また、7月15日にCNOOC子会社NexenのLong Lakeプロジェクトのパイプラインからビチューメン、排水、砂等3万1,500bblの流出が見つかった。8月30日に規制当局の指示でNexenが同パイプラインの操業を停止、同プロジェクトの生産も中止した。同プロジェクトは2008年に生産を開始し、生産量は5万b/dまで増加していた。流出したビチューメン等の除去とアルバータ州の環境規制局による調査が行われ、9月には同オイルサンドプロジェクトの操業が再開されている。(2)生産見通し カナダ石油生産者協会(CAPP:Canadian Association of Petroleum Producers)は、2015年6月、Crude Oil Forecast, Markets & Transportationを公表し、このなかでカナダの原油生産量は、2014年の374万b/dから2030年には533万b/dに増加するとの見通しを示した。アナリシス_舩木.indd 362016/01/13 17:13:44362016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC百万b/dActualForecastJune 2014 ForecastEastern CanadaPentanes/Condensate2005200720092021出所:CAPP, Crude Oil Forecast, Markets & Transportation June 201520172011201320152019Oil Sands GrowthOil Sands Operating & In ConstructionConventional HeavyConventional Light20232025..2027... 年2030図3CAPPによるカナダの石油生産見通し表2CAPPによるカナダの石油生産見通し万b/d2014年生産量2015年発表見通し2020年2030年2014年発表見通し2020年2030年1379112421635222374130131177308438264641281582383955239533145133187320465264911541603214816359644カナダ西部生産量カナダ東部生産量カナダ生産量出所: CAPP, Crude Oil Forecast, Markets & Transportationより作成在来型(コンデンセート含む)オイルサンド露天掘りin-situ計カナダ西部8.07.06.05.04.03.02.01.008.07.06.05.04.03.02.01.0CAPPは2014年の見通しでは、同国の2030年の原油生産量を644万b/dと見ていたが、今回の見通しでは、原油価格下落を受けて投資額が減少し、増産のペースが鈍化するとの予測を示している。また、CAPPは、2030年までに、在来型の原油生産量が微減するのに対し、オイルサンド生産量は180万b/d増加すると見ており、原油生産量に占めるオイルサンドの割合は2014年の58%から2020年に66%、2030年には74%に増加すると予測している。 オイルサンドの内訳は、2014年は露天掘りが91万b/d、地層内回収法が124万b/dであったのに対し、2030年は露天掘りが158万b/d、地層内回収法が238万b/dとなると予測されている。2014年の見通しでは、2030年には露天掘りが160万b/d、地層内回収法が321万b/dになると予測されていたので、地層内回収法の生産量が大きく下方修正されたことになる。 2014年半ばより油価が大きく下落したことから、CAPPは、今回の見通しでは特別にオイルサンドプロジェクトについて操業中、建設中のものだけを積み上げ、計画されている新規のプロジェクトを算入しない生産見通しも発表している。それによると、カナダの石油生産量は2019年ごろにピークを迎え、数年後からなだらかに減少し、2030年に430万b/dとなるとされている。 2015年8月には、Canadian Energy Research Institute37石油・天然ガスレビュー百万b/dActualForecastEastern CanadaOil Sands Operating & In ConstructionPentanes/Condensate020052007200920112013201520172019202120232025..2027... Conventional HeavyConventional Light年2030出所:CAPP, Crude Oil Forecast, Markets & Transportation June 2015図4CAPPによるカナダの石油生産見通し(操業中、建設中のプロジェクトのみ)アナリシス_舩木.indd 372016/01/13 17:13:44原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMC表3オイルサンド生産見通し2014年2020年2030年2035年High CaseReference CaseLow Case出所: CERI, Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)より作成205205205340310282491431394489439410万b/dピーク時生産量(年)580(2037年)500(2039年)440(2041年)千b/d7,0006,0005,0004,0003,0002,0001,000(Production, High Case Scenario)(Production, Low Case Scenario)(Production, Reference Case Scenario)20092007出所:CERI, Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2014~2048)20232027201320152011201720192021202520292031203320352037203920412043204502047年図5ビチューメン生産見通し(2014年時点)千b/d6,0005,0004,0003,000(Production, High Case Scenario)(Production, Low Case Scenario)2,000(Production, Reference Case Scenario)20092007出所:CERI, Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)20232025202720292015201120192021203120132017図6ビチューメン生産見通し(2015年時点)1,000203302035年(CERI)が、Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)を発表した。 CERIはこのなかで、①操業中のプロジェクトはプロジェクト終了まで生産を継続(新規フェーズの追加はない)、②建設中のプロジェクトはわずかに遅延しながらも進展し、計画された生産能力に達する、③認可済み、申請済みのプロジェクトは遅延するが、公表されている生産能力に達する可能性が高い、④公表されているものの申請等の手続きが行われていないプ38アナリシス_舩木.indd 382016/01/13 17:13:442016.1 Vol.50 No.1アナリシスotal Bitumen Extraction - CERITotal Bitumen Extraction - AERTotal Bitumen Extraction - NEBTotal Bitumen Extraction - CAPPJOGMECK YMC千b/d 5,500 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 5000年 20352034203320322031203020292028202720262025202420232022202120202019201820172016201520142013201220112010200920082007Actual/ HistoricalOutlook出所:CERI, Canadian Oil Sands Supply Costs and Development Projects(2015~2035)図7各機関のビチューメン生産見通しの比較ロジェクトは生産見通しに算入しない、として三つの生産シナリオを発表した。 CERIによると、オイルサンドの生産量は2014年の205万b/dから、参考(Reference)ケースシナリオでは2020年に310万b/d、2030年に431万b/d、ハイケースシナリオでは2020年に340万b/d、2030年に491万b/dに増加する見通しとされている。しかし、2014年に発表された見通しと比較すると生産増は先送りにされ、ピーク時の生産量も低い見通しとなっている(図5、図6)。 CERIは、このレポートのなかで、自らの発表したハイケースシナリオの生産見通しと、CAPPの生産見通し、National Energy Board(NEB)が2013年11月に発表した見通し、Alberta Energy Regulator(AER)が2015年6月に発表した見通しを比較している。2020年までは、いずれの見通しも同様の増加傾向を示しているが、それ以降は、CAPPの見通しがそのほかの見通しより若干低め(2020年308万b/d、2030年395万b/d)となっている。いずれにせよ、油価低迷が長期化すれば、これらの生産見通しはさらに下方修正される可能性があると考えられる。(3)パイプライン 原油価格下落により、オイルサンド生産量増加のペースは従来考えていたよりも鈍化する見通しとなったものの、それでもCAPPの見通しによるとオイルサンド生産量は2020年までは年に15万5,000b/d増加、その後2030年までの10年間は年に8万7,000b/dの割合で増加する。現在、カナダ西部のパイプラインの送油能力は約400万b/dとなっており、オイルサンド生産量の増加によって、鉄道輸送を利用しても輸送能力が不足するようになり、2018年までには新たなパイプラインが少なくとも一つは稼働を始めることが必要になると見られている。 2014年末にEnbridgeが、米国Illinois州PontiacとOklahoma州Cushing間にFlanagan Southパイプライン(輸送能力58万5,000b/d)を稼働させたことで、パイプラインの送油能力が拡張され、オイルサンドの輸送コストも削減されることとなった。Flanagan Southパイプラインのように、カナダ西部から離れた地点に敷設されたパイプラインであっても、オイルサンドの生産量、コストに大きな影響を与えることになる。 表4に、オイルサンドプロジェクト関連のパイプラインの建設、拡張計画を示した。 これら4プロジェクトのうち、最も早期に実現される可能性が高いと見られているのが、既存のTrans Mountainパイプラインの送油能力を拡張するプロジェクトである。同パイプラインは、全長1,150㎞、口径24~36インチ、送油能力30万b/dで、アルバータ州EdmontonからBC州Burnabyや米国Washington州に原油、石油製品を輸送している。Kinder Morganは54億カナダドルを投じ、このパイプラインに並走して全長994㎞、口径36インチのパイプラインを敷設する計画である。既存のパイプラインLine-1は送油能力35万b/dに拡張され、石油製品、軽質原油、重質原油を輸送し、39石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 392016/01/13 17:13:45原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMCTransCanada Energy EastNorthern GatewayTrans Mountain ExpansionKeystone XLEnbridge Line 3 capacity restoredAlberta Clipper Expansion百万b/dWestern Canadian supply + U.S. Bakken movements*RailKeystoneEnbridge MainlineExpressTrans MountainRangeland & Milk RiverWestern Canadian Re?neries2020201820162014*Refers to the portion of U.S. Bakken production that is also transported on the Canadian pipeline network.Capacity shown can be reduced by temporary operating and physical constraints.2026202220242028年20309.08.07.06.05.04.03.02.01.00出所:CAPP, Crude Oil Forecast, Markets & Transportation June 2015図8カナダ西部のパイプライン送油能力と供給量の見通し表4オイルサンド関連・パイプライン建設、拡張計画パイプライン企業Trans Mountain拡張 Kinder MorganNorthern GatewayEnergy EastKeystone XLEnbridgeTransCanada TransCanada拡張される送油能力59万b/d52.5万b/d110万b/d83万b/d総延長投資額54億カナダドル950㎞65億カナダドル1,172㎞120億カナダドル4,400 ㎞1,897 ㎞ 70億~80億USドル太平洋岸東部米国メキシコ湾岸出所: 各種資料より作成新設される送油能力54万b/dのLine-2は、重質原油を輸送、必要があれば軽質原油も輸送するという計画だ。2016年第1四半期にはNational Energy Board(NEB)の承認を得、2018年第3四半期に稼働できるのではないかとの見方もあった。しかし、2015年8月にNEBが、同パイプライン拡張に関する公聴会を延期し、また、Kinder Morganに追加のデータ提出を求めたことから、数カ月の遅れが生じる模様となった。BC州、特にパイプラインのターミナルBurnaby市ではいまだに強い反対があるものの、乗り越えられない障害ではなく、2016年には進展が見られ、2018年末か2019年初には稼働できるのではないかとの見方がなされている。 Trans Mountainパイプラインと同様に、太平洋岸に石油を供給するパイプラインとして、Northern Gatewayパイプラインが計画されている。Enbridgeは、65億USドルを投じ、Alberta州BruderheimとBC州Kitimat間に全長1,177㎞、口径36インチのパイプラインを敷設する計画だ。このパイプラインの送油能力は52万5,000b/dが予定されている。2013年12月に、NEBが209項目の条件付きでNorthern Gatewayパイプライン計画を承認、2014年6月17日には連邦政府が同パイプライン計画を承認した。しかし、同パイプラインは、四つのプロジェクトのなかで最も先住民等の反対が強いプロジェクトとなっている。また、Justin Trudeau首相も同パイプラインに反対の意を表明している。Trudeau首相は、就任直後の2015年11月13日には、運輸大臣にBC州北部太平洋沖合での原油のタンカー輸送を禁止するよう示唆した。 TransCanadaはAlberta州Hardisty~Quebec州Quebec City、New Brunswick州Saint John間全長3,000㎞のMainline天然ガスパイプラインを石油パイプラインに転用し、MontrealからNew Brunswick州まで1,40040アナリシス_舩木.indd 402016/01/13 17:13:452016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMCAlberta Clipper ExpansionBakken ExpansionCromerSouthern Access ExpansionTransCanada Energy EastKitimatEnbridge GatewayEdmontonHardistyBow RiverRangelandTransMountainBurnabyAnacortesKinder MorganTM ExpansionnoirutneCnisaBMidlandLonghornEl PasoCraneSeaway & Seaway Twin TransCanada Gulf Coast New OrleansPort ArthurShell Ho-HoHoustonSt. JamesFreeportCanadian and U.S. Oil PipelinesEnbridge Pipelines and connectionsto the U.S. MidwestSpectra Express/PlatteKinder Morgan Trans MountainTransCanada KeystoneProposed pipelines to the West CoastExisting / Proposed pipelines to PADD IIIExpansion/Reversal to existing pipelineExisting / Proposed pipelines to the E. CanadaQuebec CitySaint JohnMontrealPortland-MontrealPortlandEnbridge Line 9ReversalWestoverSarniaWarrenSpearhead North + Spearhead North TwinLimaS. Access ExtensionMustangSt. PaulEnbridgeSuperiorLine 5MinnesotaClearbrookFlanaganPBChicagoWoodRiverPatokayellaV diMenilpaCKOCHzOkraCushingPegasusExpressTransCanadaKeystone XLSandpiperN. Dakota SystemSalt Lake CityGuernseyPlattePony ExpressTransCanada KeystoneSpearhead SouthFlanagan South承認を得なくてはならないが、当初の申請は環境保全が完全には保証できないとして、2012年1月に拒否され、パイプラインルートを変更し、プロジェクトを2分割して進められている。 分割された南部部分は、Gulf Coastパイプラインとして2014年1月より操業が開始された。 ルートが変更された北部部分については、米国国務省が2014年1月に、Keystone XLパイプラインの建設があろうとなかろうと、カナダにおけるオイルサンドの開発ペースは変わらず、同パイプラインの建設が環境に著しい影響を与えないとの環境影響評価書を発表した。そ曲折を経て、2015年1月29日に米国上院で62の後紆対36、2月11日に下院で270対152をもって、同パイプラインの建設計画を承認する法案が可決された。しかし、Obama大統領はこの法案に拒否権を行使した。上院はObama大統領の拒否権を覆すための採決を行ったが、十分な賛成票を得られず、下院での採決は行われないこととなった。 さらに、Obama大統領は11月6日、KeystoneXLパイプラインを建設しても、長期的な経済貢献は期待できよ余う㎞のパイプラインを追加で敷設するEnergy Eastパイプラインプロジェクトを計画している。送油能力は110万b/dとされている。2018年第4四半期からの稼働開始を目指していたが、シロイルカを保護する必要から、Quebec州に予定していた石油輸出ターミナルの建設を取りやめ、現在、石油輸出ターミナルをNew Brunswick州Saint Johnのみに建設することで計画を見直している。TransCanadaは既にIrving OilとSaint Johnにターミナルを建設することについてジョイントベンチャーを組んでおり、Irving Oilの既存のCanaport輸入ターミナルに隣り合わせてこれを建設する計画である。Northern Gatewayパイプラインに比べると同パイプラインの敷設に対する反対は少なく、2020年以降に稼働できると見られている。 TransCanadaのKeystone XLパイプラインはAlberta州Hardistyと米国Nebraska州Steele City間をつなぐ送油能力83万b/dのパイプラインで、Alberta州で生産される重質油とBakkenシェールで生産されるシェールオイルを米国中西部とメキシコ湾岸に供給する計画である。米国との国境をまたぐパイプラインなので、米国の41石油・天然ガスレビュー出所:CAPP, Crude Oil Forecast, Markets & Transportation June 2015図9カナダと米国の石油パイプラインアナリシス_舩木.indd 412016/01/13 17:13:45原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMCず、石油価格引き下げ効果もなく、エネルギー安全保障にもつながらない等を理由とし、同パイプライン建設計画を却下する方針を表明した。これに先立って、米国国務省は4日、同パイプライン建設計画の審査手続きを一時停止するよう求めたTransCanadaの申し入れを正式に拒否しており、この決定に基づき、Obama政権は建設許可申請を却下すると予想されていた。TransCanadaの国務省に対する審査手続きの延期要請の狙いについては、Obama大統領の退任後に計画を支持する大統領が就任するまで判断を先送りさせようという試みと見られていた。民主党の有力な大統領候補者はいずれも計画に反対、一方、共和党の候補者の大半は計画を支持しており、計画の有力支持者ジョン・ホーベン上院議員は、2017年に共和党が政権を取れば直ちに計画が承認されると見ているという。TransCanadaは、国務省の決定を尊重した上で引き続き承認を強く求めていく方針であるとしている。 このように環境問題への配慮等からいずれのパイプラインプロジェクトも進展は遅い。 状況を打開しようと、2015年7月17日には、カナダ各州の首相が、Canadian Energy Strategyに合意した。石油、ガス輸出を促進するためにパイプライン、インフラの承認を合理化するという内容だ。州のエネルギー大臣が率いる四つの委員会が設置され、2016年に各州首相に勧告を行うという。ただし、現在進行中のパイプラインの承認を加速するような明白なアクションは提案されていない。また、連邦政府の規制についても触れることはないという。したがって、オイルサンド生産者にとってパイプライン経由での市場へのアクセスを劇的に変えるものではないが、Energy Eastパイプラインプロジェクトに関する州レベルでの調整を容易にする可能性はあると見られている。 一方で、先に述べたとおり、7月15日にはFort McMurrayの南を走るパイプラインで油流出事故が発覚した。この1980年以降Alberta州で起きた最大の油流出事故については、Nexenの油流出探知システムが十分に働かず、発覚するまで数週間にわたり油流出が続いていた可能性もあるとされ、パイプラインへの信頼感を喪失させる出来事となった。 10月19日に実施された連邦総選挙で単独で過半数を確保し圧勝した自由党は、一般的に保守党に比べるとオイルサンド関連のパイプラインに対しては厳しい態度をとっているものの、市場へのアクセスの重要性を理解していると見られている。後述するように、Justin Trudeau首相は、オイルサンド関連のパイプラインに関して、プロジェクトごとに態度を異にしている。また、パイプラインに関する環境規制のプロセス強化を主張しており、動向が注目される。 オイルサンドの生産量を増加させることが可能であっても、これを輸送する手段が確保されていなければ、生産量を増やすことはできず、引き続きパイプラインの敷設状況を注意深く見守っていくことが必要となろう。 なお、CAPPによると、2014年の石油の鉄道輸送量は平均で18万5,000b/dとなっている。鉄道による石油輸送は今後も2018年まではパイプラインの送油能力を補う形で増加することが見込まれ、その後は、パイプラインの稼働状況に影響を受けることになるだろうと、CAPPは見ている。2. LNGプロジェクトの状況 BC州のChristy Clark首相は、2020年までに三つのLNG輸出プロジェクトを立ち上げ、10万人の雇用を確保、今後30年間にBC州の歳入を1,000億カナダドル増やすとしてきた。豊富な天然ガス可採埋蔵量(BC政府による調査では、BC州全体では600Tcf超)、気温が低いために液化や貯蔵のコストを抑えられること、パナマ運河経由の米国や中東に比べアジア市場への距離が短く輸送コストを抑えられること等を背景に、BC州のLNG輸出プロジェクト計画は短期間のうちに次々と数を増やしてきた。現在、計画中のプロジェクトが20件、NEBが輸出を承認したものが13件となっている。そして、これまでにLNGプロジェクト推進のためにBC州で125億USドルが投じられてきたとされている。 これらのプロジェクトは新規プロジェクトであり経済性が懸念されること、先住民の反対が強いこと、環境審査に時間がかかること、いくつものプロジェクトが同時に立ち上がる可能性があり労働力の確保が難しいこと、さらに、ここ1年ほどは、中国をはじめとする需要の伸び42アナリシス_舩木.indd 422016/01/13 17:13:452016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC悩み、原油・ガス価格の低迷等の課題はあるものの、実現を目指して推し進められている。 主なプロジェクトの状況を見てみよう。 Pacific NorthWest LNGプロジェクトはPetronasが主導、JAPEX Montney Ltd.、Sinopec/Huadian、Indian Oil、PetroleumBruneiが参画、Prince Rupert近郊のLelu島に当初液化能力600万トン/年のトレイン2基を建設、その後同規模のトレインをさらに1基建設することが計画されている。 同プロジェクトは、2014年12月に最終投資決定を予定していたが、建設費用のさらなる削減を図るべく協議を継続するためこれを延期した。そして、2015年6月表5BC州で計画されているLNG輸出プロジェクトプロジェクト名関係企業概要その他①Kitimat LNGChevron Canada(50%)Woodside(50%)・ 建設予定地:Kitimat港近郊Bish Cove・ 規模:当初LNG 500万トン/年(将来は1,000万トン/年(15億cf/d)まで拡張予定)・ 環境アセスメント認可済み(BC州:2009/1, 連邦:2008/12)・ National Energy Board(NEB)輸出許可承認:2011/10(LNG 1,000万トン/年、20年間)・ 2013/1/23、連邦政府は先住民居留区における同プラント建設許可を承認(これを以て所要の全ての許可取得済み)・ 2014/1、液化プラントの設計/資材調達/建設(EPC)役務を、JGC/ Fluorに発注、現在基本設計(FEED)実施中※ 2012/12/24、Chevron がEOGおよびEncana の持ち分を買収(両社は撤退)。ApacheとChevron はLNG/ パイプライン/ 上流アセット全てにおいて50/50 のJV設立※ 2014/12、WoodsideはApacheよりWheatstone LNGおよびKitimat LNGの権益と豪州関連資産を取得することにつき合意。2015/4/10までに取引完了。発効日は2014/7/1にさかのぼる。Kitimat資産の取引額は、8億5,400万USドル※LNG Plant オペレーター:Chevron※輸出規制緩和1985年以降初の輸出許可案件Pacific Trail Pipeline(PTP)(Kitimat LNG専用パイプライン)Chevron Canada(50%)Woodside(50%)上流アセット・Liard Basin・Horn River Basin②Douglas Channel LNGChevron Canada(50%)Woodside(50%)Douglas Channel LNGコンソーシアム AIJVLP(AltaGas/出光興 EDFT Trading EXMAR産)パイプライン上流アセット③LNG Canada保有せず保有せずLNG Canada Shell (50%) 三菱商事(15%) KOGAS (15%) PetroChina (20%)Coastal GasLink Pipeline(LNG Canada専用パイプライン)TransCanada上流アセットJV構成会社④Cedar1,2,3 LNG ExportCedar LNG Export Development(Haisla族)⑤Pacific NorthWest LNGProgress Energy Canada(Petronas)62%JAPEX Montney Ltd. 10%Petroleum Brunei 3%Indian Oil Corp 10%Sinopec/Huadian 15%Prince Rupert Gas Transmission ProjectTrans Canada43石油・天然ガスレビュー・ 総延長480㎞(Kitimat近郊Bish Cove ? Summit Lake間)・ Summit Lakeは既存のSpectra Energy Westcoast Pipelineとの結節点(Spectra Energy Westcoast Pipeline:BC州二大ガス生産地であるHorn Riverおよび MontneyとVancouverを直結)・ キャパシティ:10億cf/d・ BC州環境アセスメント認可済み(2008)・ 総面積64万4,000エーカー(Liard39万5,000エーカー、Horn River 22万エーカー)※Pipeline オペレーター:Chevron※先住民16部族とBenefits agreement締結※上流オペレーター: Woodside 移行期間終了後Chevronがオペレーターを引き継ぐLot 99・ 建設予定地:Kitimat港近郊Douglas Channel西岸District ・ 規模:55万トン/年・ 浮体式液化設備(FLNG)を設置 FLNG(液化能力60 万トン/年、貯蔵能力2 万?)はWison Offshore & Marine に発注、完工2017 年、引き渡し2018 年を予定り消し、2015/6に再申請・ NEB輸出承認申請:2015/6/1 (LNG 780万トン/年、25年間) プロジェクト実施企業変更により、2015/3に輸出許可取・ 2015/9、EXMARはFEEDを完了したと発表・ FID:2015年末・ 輸出開始予定:2018年・ 既存のPacific Northern Gas(PNG) Pipelineを利用予定・ Pacific Northern Gas(PNG)の既存パイプラインの輸送能力について20 年間の合意締結・ 建設予定地:Kitimat港・ 規模:1,200万トン/年(20億cf/d)(将来的には2,400万トンまで拡張予定)・ 2015/6/17、CEAAからEnvironmental Assessmentに関する条件付き承認を、BCEAOからEnvironmental Assessment Certificateを取得・ NEB輸出承認:2013/2/4 (LNG2,400万トン/年、25年間)・ 2015/7、NEBに輸出期間延長申請・ 総延長670㎞(Kitimat ? Dawson Creek〈Montney〉間)・ キャパシティ:20億~30億cf/d・ パイプライン口径:48 ”・ BC州条件付き環境アセスメント認可済み(2014/10)・ JV構成4社がそれぞれの保有上流権益/アセットを活用見込み・ 建設予定地:Kitimat 近郊Douglas Channel・ 規模:1,450万トン/年・ 浮体式液化設備(FLNG)を設置・ NEB輸出承認(Cedar1):2015/12/1 (LNG1,450万トン/年、25年)・ 輸出開始予定: 2020年・ 建設予定地:Prince Rupert港Lelu島・ 規模:1,200万トン/年(600万トン/年×2トレイン)・ 環境アセスメント認可:2013/2・ NEB輸出承認:2013/12/16 (LNG1,968万トン/年、25年間)・ 2014/2、Environmental Impact Statement (EIS)を環境規制機関Canadian Environmental Assessment Agency (CEAA)とBritish Columbia Environmental Assessment Office(BC EAO)に提出・ 2014/11/25、BC EAOよりEnvironmental Assessment Certificate取得・ 条件付きFID:2015/6/11・ 2015/7、BC州議会がプロジェクト開発契約 (Project ・ 設備基本設計を実施中・ 輸出開始予定:2019年・ 総延長:900㎞見込み(Prince Rupert- Fort St. John間) (NOVA Inventory Transfer Trading Hubに直結)・ キャパシティ:20億cf/d・ パイプライン口径:48 ”・ 供用開始:2019~2020年見込みDevelopment Agreement)承認※ 先住民Haisla族が自ら出資、参画するプロジェクトであり、※ 2015/1/28、AIJVLP(出光興産/ AltaGas)/EDF/ 輸出許可もKitimat LNGについで2番目に取得したが、財政難により、2013 /10、企業債権者調整法による保護の適用を申請EXMARの3社から成るDouglas Channel LNGコンソーシアムはDouglas Channel LNGプロジェクトの全所有権を取得したと発表※先住民Haisla族と建設用地や水使用の長期リースに合意※EXMARがFLNG の開発・操業を担当※ LNG Canada参加4社の取り組みは、①原料ガス供給、②ガスパイプライン輸送、③LNGプラント、④LNG引き取りまでの全体を視野※ 2014/2/12、Rio Tintと港湾施設および土地利用について契約締結※ 2014/5/1、LNG Canada参加4社は合弁事業契約締結、プロジェクト開発に本格着手※LNG Plant オペレーター:LNG Canada※2012/6/5、発表※ Pipeline オペレーター:TransCanada※上流オペレーター:JV各社※ 2012/12/7、連邦政府はPetronasによるProgress Energy Canada買収(60億カナダドル)を許可※2013/3、JAPEXが10%権益を取得することを発表※LNG Plant オペレーター:Progress Energy ※2013/1/9、発表※ Trans Canadaは併せて既存のNOVA Gas Transmission System(BC州北東部)の能力増強(15億カナダドル)も発表※Pipeline オペレーター:TransCanada次頁へ続くアナリシス_舩木.indd 432016/01/13 17:13:45原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMC11日に、同プロジェクトの条件付き最終投資決定が決議されたことが明らかにされた。同プロジェクトは、BC州との間におけるプロジェクト開発契約(Project Development Agreement)がBC州議会により承認され、また、カナダ連邦政府による環境影響評価の承認が得られた後、パートナー間において最終投資決定されることとなった。7月には、同州議会がプロジェクト開発契約を承認し、現在、カナダ連邦政府による環境影響評価の承認を待っている状態である。10月には、マレーシア地元紙が、石油、ガス価格の下落を背景に同国のPetronasが同プロジェクトの稼働を先送りする可能性があると報じたが、これに対してPetronasは、原油、・ 生産中(AECO市場に販売)※上流オペレーター:Progress Energy上流アセット・BC州Northwest Montney⑥Prince Rupert LNGProgress Energy Canada(Petronas)62%JAPEX Montney Ltd. 10%Petroleum Brunei 3%Indian Oil Corp 10%Sinopec/Huadian15%BG Group・ 建設予定地:Prince Rupert港Ridley島・ 規模:2,100万トン/年(当初700万トン/年×2トレイン)・ NEB輸出承認:2013/12/16 (LNG2,100万トン、25年間)・ 輸出開始時期: 2019年Westcoast Connector Gas TransmissionSpectra Energy Corp・ 投資規模:60億~80億カナダドル・ 建設開始:2017年・ 総延長850㎞(Prince Rupert ? Northeast BC) ・ キャパシティ:42億cf/d・ パイプライン口径:48 ”上流アセット⑦Triton LNG (Western Canada LNG)未定AIJVLP(Alta Gas、出光興産)Pacific Northern Gas (PNG) Pipeline拡充同上⑧Aurora LNGNexen(CNOOC)60%IGBC(INPEX、日揮)40%上流アセット・ BC 州Horn River/Cordova /Liard⑨WCC LNG同上を設立・ 建設予定地:Prince RupertまたはKitimat近郊・ 両社でLNGとLPGのアジア向け輸出に関するJV(50/50)・ LNG関連 -操業開始:2019年見込み -230万トン/年 -NEB輸出承認:2014/4/16 (LNG247万トン/年、25年間)・ LPG関連 -操業開始2016年見込み -70万トン/年・ 既存のPNG Pipelineを拡充予定(輸送能力4倍〈P〉に)・ 総延長:525㎞・ 供用開始:2016年めど・ 総工費:170億~200億カナダドル・ 建設予定地:Prince Rupert港Digby島・ 規模:500万~600 万トン/年×2トレイン・ NEB輸出承認:2014/5/1 (LNG2,400 万トン/年、25 年間)・ FID:2017年予定・ 操業開始:2023 年予定・ 2013/11時点でHorn Riverは生産中Imperial Oil(50%)ExxonMobil Canada(50%)・ 建設予定地:Prince Rupert Tuck Inlet・ NEB輸出承認:2013/12/16 (LNG3,000万トン、25年間)・ 生産開始:2023年・ FID:2018年上流アセット・ Horn River、Montney、Duvernay⑩Grassy Point LNGWoodside Energy(Woodside Petroleum)⑪Kitsault LNGKitsault Energy⑫Discovery LNG(Campbell River LNG)Quicksilver Resources Canada Inc.上流アセット・ BC州北東部Horn River Basin⑬Woodfibre LNGQuicksilver Resources Canada Inc.Woodfibre LNG Export Pte. Ltd(Pacific Oil & Gas)Eagle Mountain-Woodfibre Gas PipelineFortis BC Energy・ 建設予定地:Grassy Point Crown Land ・ 規模:2,000万トン/年・ 2014/1/16、土地利用に関する合意・ NEB輸出承認:2015/1/29 (LNG2,000万トン/年、25年間)・ 生産開始:2021年・ 建設予定地:Kitsault・ 規模:2,000万トン/年・ NEB輸出承認申請:2015/1/29 (LNG2,000万トン/年、20年間)・ 輸出開始時期:2018年・ 建設予定地:Vancouver島Campbell River・ 規模:2,000万トン/年(生産能力各500万トン/年×4ト・ 生産開始:2021年・ NEB輸出承認:2015/6/30 (LNG2,000万トン/年、25年間)レイン)・ 建設予定地:Squamish・ 規模:210万トン/年・ FID:2015年・ 輸出開始時期: 2017年・ NEB輸出承認:2013/12/16 (LNG210万トン、25年間)・ 環境アセスメント認可:2015/10・ 総延長:47㎞・ 共用開始:2016年※ Prince Rupert Port AuthorityがBG GroupとのF/S開始を公式に表明※ 2014/4、CNOOCはBGとPrince Rupert LNGに40億USドルを投じ参入することで初期合意※ 2014/10、ガス価格が弱含みであること、米国からのLNG 輸出が積み上がっていること、コストの上昇等から、LNG 市場が供給過剰となるリスクがあると見て、同プロジェクトを休止とで合意※ 2015/4/8、ShellがBGを約700億USドルで買収するこ※LNG Plant オペレーター:BG※2012/9/10、発表。※本プロジェクトはSpectraとBGで50/50。※ BGは自社専用と発表したものの、Spectraは他社供給の余※Pipeline オペレーター:Spectra Energy地ありとコメント※ Alta Gasは、既存のPNG Pipelineを有するPacific ※LNG Plant オペレーター:Alta GasNorthern Gas Ltdの親会社降未使用状態※ PNGは2005年のMethanex社メタノールプラント閉鎖以※BC LNGにも供給予定※ 2013/4、BC州政府はPrince Rupert北40㎞の公有地Grassy PointでのLNGプラント等に関する公募に関し4グループの応募を認めた旨発表※ 2013/11、土地利用に関する合意(BC州政府に2,400万USドルを支払い、土地614.9ha、沖合158.7haを確保)※ 2015/1/12、BCEAOはプロジェクト仕様書の改訂版を公表。建設候補地はPrince Rupert近郊Digby 島※ 2013/11、INPEX、日揮はNexenがHornRiver/ Cordova /Liardに保有するシェールガス鉱区の権益の40%を取得※主な天然ガス供給源はカナダ西部堆積盆(WCSB)を予定※ 同社の親会社はPacific Oil&Gas(インドネシア財閥系)。中※ バンクーバー北方約300㎞、Squamishの木材工場跡地に※EDF TradingおよびTenaskaに対して供給合意国沿岸にLNG受入基地を保有建設予定次頁へ続く44アナリシス_舩木.indd 442016/01/13 17:13:452016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC⑭WesPac MidstreamWesPac Midstream Vancouver⑮ Canada Stewart Energy LNGCanada Stewart Energy⑯Steelhead LNGSteelhead LNGHuu-ay-aht先住民部族⑰Watson Island LNG⑱Nisga’a LNG⑲NewTimes EnergyWatson Island LNGNisga’a NationNewTimes Energy⑳Orca LNGOrca LNG出所: 各社発表資料、BC州資料等より作成・ 建設予定地:Delta、Tilbury Island・ 規模:300万トン/年・ NEB輸出承認:2015/5/7 (LNG300万トン、25年間)・ 生産開始:2016年・ 建設予定地:Stewart・ 規模:3,000万トン・ 浮体式液化設備(FLNG)を設置・ 2,500万トン/年は陸上施設・ NEB輸出承認申請:2014/3/5 (LNG3,000万トン、25年間) (うち陸上2,500万トン/年、FLNGが500万トン/年)・ 輸出開始:2017年・ 建設コスト:300億USドル・ 建設予定地:Vancouver島Sarita湾・ 浮体式液化設備(FLNG)を設置・ NEB輸出承認:2015/10/1 (LNG3,000万トン/年、25年間) (うち陸上2,400万トン/年、FLNGが600万トン/年)・ 輸出開始:2022年・ 建設予定地:Prince Rupert・ 建設予定地:Nasoga Gulf・ 建設予定地:Prince Rupert・ 規模:1,200万トン/年・ NEB輸出承認申請:2015/2/11 (LNG1,200万トン、25年間)・ 輸出開始時期: 2019年・ 建設予定地:Prince Rupert・ 浮体式液化設備(FLNG)を設置・ 規模:2,400万トン/年・ NEB輸出承認:2015/7/27 (LNG2,400万トン/年、25年間)・ 輸出開始時期: 2019年Grassy Point-North Site●▲ Grassy Point LNGPrince Rupert/Port Edward●▲ Prince Rupert LNG●▲ Paci?c Northwest LNG●▲ WCC LNG●▲ Aurora LNG ● ● Watson Island LNGNew Times EnergyOrca LNGStewart● Canada Stewart EnergyKitsault● Kitsault EnergyDawson CreekAltaGas(国内供給用)Nasoga Gulf Nisga’a LNGKitimat●▲ Kitimat LNG●▲ LNG Canada● ● Cedar 1LNG ExportCedar 2,3 LNG Export●▲ Douglas Channel● Triron LNGNEB輸出申請● 審査中● 承認British Columbia州環境評価プロセス▲ 審査中▲ 承認▲ 評価不要Squamish●▲ Wood?bre LNGCampbell River● Discovery LNGAlberni Inlet● Steelhead LNG出所:LNG in British Columbiaに加筆図10BC州で計画されているLNG輸出プロジェクトDelta●▲ WesPacLNGの価格が低迷しているなかでも、引き続き計画を継続していく方針であることを強調している。 時間の経過とともに、プロジェクトのメンバーに変化が生じるプロジェクトが増えてきた。 Kitimat LNGプロジェクトはもともと、Apache(40%)、EOG Resources(30%)、Encana(30%)から45石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 452016/01/13 17:13:48原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMCPrince Rupert GasTransmission ProjectWestcoast ConnectorGas TransmissionDAWSONDAWSONCREEKCREEKKITSAULTKITSAULTGRASSYGRASSYPOINTPOINTPRINCEPRINCERUPERTRUPERTSUMMITSUMMITLAKELAKEPRINCEPRINCEGEORGEGEORGEKITIMATKITIMATCoastal Gaslink PipelinePacific Northern Gas PipelinePacific Trail Pipeline出所:各種資料より作成図11BC州のLNG輸出プロジェクト供給用のパイプラインプロジェクト成るジョイントベンチャーにより、Kitimat近郊に液化能力1,000万トン/年(当初500万トン/年)の液化設備を建設することが検討されていた。しかし、2012年12月に、ChevronがEOGおよびEncanaの持ち分を買収しApacheとChevronが50%ずつを保有するジョイントベンチャーが設立され、同プロジェクトはこの2社により進められることとなった。 2014年1月には日揮/FluorコンソーシアムとLNG施設についてEPC契約が締結された。ところが、同年12月15日、Apacheは、Kitimat LNGプロジェクトと豪州のWheatstone LNGプロジェクトの権益を上流資産とともにWoodside Petroleumに27億5,000万USドルで売却することで合意したと発表、2015年4月10日までに売買を完了した。Woodsideは、Kitimat LNGプロジェクトの50%とHorn River、Liard basinの上流資産とともに、Wheatstone LNGプロジェクトの権益13%、WA-49-L Block(Julimar/Brunelloガス田、Balnaves油田)の権益の65%を取得した。調整額を含む取引額は36億7,100万USドル(うちKitimat関連資産は8億5,400万USドル)となった。 同じくKitimat近郊に計画されているDouglas Channel LNGプロジェクトは、先住民Haisla族が自ら出資、参画することや、バージを用いた液化能力55万トン/年の小規模プロジェクトであることから、早期の操業開始が見込まれていた。しかし、関連企業間で争議が発生し、また、財政難から2013年10月には企業債権46アナリシス_舩木.indd 462016/01/13 17:13:482016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC者調整法による保護の適用を申請することとなり、プロジェクトは停止に追い込まれた。2015年1月28日に、AIJVLP(出光興産/AltaGasのJV)/EDF/EXMARの3社から成るDouglas Channel LNGコンソーシアムが、Douglas Channel LNGプロジェクトの全所有権を取得したと発表、同プロジェクトは再び進展を見せている。Kitimat LNGに次いで2番目に早くNEBより輸出許可を取得していたが、参画企業が変更になったため、これが取り消され、現在、輸出許可を再申請している。 Prince Rupert LNGプロジェクトは、Prince Rupert近郊のRidley島に液化能力2,100万トン/年の液化設備を建設し、LNG輸出を行うというBGのプロジェクトである。しかし、BGは、2014年10月に、ガス価格が弱含みであること、米国からのLNG輸出が積み上がっていること、コストの上昇等から、LNG市場が供給過剰となるリスクがあると見て、同プロジェクトを休止することとした。米国からのLNG輸出プロジェクトの動向を注視しながら、作業を継続するとしていたが、2015年4月8日には、ShellがBGを約700億USドルで買収することで合意した。 CNOOC子会社のNexenが主導し、INPEX、日揮から成るIGBCが参画するAurora LNGプロジェクトは、2013年4月に、Prince Rupert北40㎞の公有地Grassy PointでのLNGプラント等に関するBC州政府実施の公募に応募し、同年11月に、土地利用に関し合意していたが、その後、建設候補地がPrince Rupert近郊Digby島に変更された。 この他にも三菱商事が参加するLNG Canada、出光興産が参加するTriton LNG、ExxonMobilとImperial Oilが推進するWCC LNG等合計で20のプロジェクトが計画されている。 ExxonMobilとImperial OilはWCC LNGについてコスト削減が成功の鍵を握るとしているが、2014年半ば以降の原油、ガス価格低迷により、各プロジェクトを成立させるためには、パイプラインや一部の設備、インフラストラクチャーを共用する等の措置をとり、コストを削減することが必要との考えが生まれている。 2015年10月14~16日にBC州が開催した2015 International LNG in BC Conferenceにおいて、WoodsideのPeter Coleman CEOは、次のような趣旨の発言をしている。 「LNG事業の立ち上げで重要なのは合理的に現状を分析していくことで、場合によっては、状況を見極めるために、先行するプロジェクトに後からついていくという判断も必要になる。現在、上流事業地からKitimatに独自のパイプラインを通すことを三つのLNG事業がそれぞれ計画している。これらパイプラインはロッキー山脈を越えてカナダ西海岸に達するもので、地理的条件だけを考えても、パイプラインを通せるところは限られ、さらに先住民との継続的な調整も要する。このような状況にもかかわらず各事業者がそれぞれパイプラインを引く作業を行うことは、合理的ではなく、費用対効果が低い。同じ地域でLNG事業を行う者同士が、パイプラインを共有するなり、一部施設を共有するなりの議論を行うことが必要ではないか。豪州での失敗は繰り返すべきではない」 連邦政府、BC州政府にも、カナダのLNGプロジェクトの競争力を高めようとする動きが見られている。 環境影響評価の手続きに関しては、プロジェクトを迅速に進めるために、連邦政府とBC州政府で二重に審査することを避けようと、1プロジェクト1審査方針が導入され、BC州環境評価局BCEAOの環境影響評価・審査作業をカナダ環境評価局CEAAの環境影響評価に一部代用できる制度がとられている。 また、BC州はLNG税を2014年2月に発表した当初案に比べてプロジェクトの経済性に配慮した内容に変更した。 連邦政府も2015年2月19日、LNGプロジェクトに対する投資を促進しようと、減価償却に加速償却を認め、液化設備については通常8%の減価償却率を30%とし、その他関連設備については通常6%の減価償却率を10%とする税制上のインセンティブを導入した。 さらに、6月29日には、NEBが許可する天然ガス輸出の最長期間をこれまでの25年から40年に変更すると発表した。 一方で、東海岸のLNG輸出プロジェクトも進展を見せている。現在、東海岸にはNEBの輸出許可を取得したプロジェクトが5件、申請中のプロジェクトが1件ある。 LNG Ltd.がNova Scotia州Richmond郡Cape Breton島Hawkesbury港近郊に計画するBear Head LNGプロジェクトは、もともとAnadarkoが計画していたLNG受入基地(受け入れ能力1,130万トン/年)を、2014年7月にLNG Ltd.が買収し、LNG輸出プロジェクトへ転換したものである。Anadarkoは1億USドル以上を投じ、エンジニアリング作業やサイトの開発を終わらせている。2014年11月にNEBに輸出許可承認を申請、2015年8月13日にLNG1,200万トン/年を25年にわたって輸出する許可を取得した。原料ガスの供給源は米国とカナダとする計画で、米国から最大142億?/年の天然ガスを輸入する許可も取得している。KBRにFEEDを依頼し47石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 472016/01/13 17:13:49原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMC表6東海岸で計画されているLNG輸出プロジェクトプロジェクト名関係企業概要その他Bear Head LNGLNG Ltd.Goldboro LNGPieridae EnergyMelford LNGH-EnergyCanaport LNGSaint John LNG Development Company (Repsol75%、Irving Oil25%)GNL QuebecFreestone Capital LLCBreyer Capital LLCNorth Shore LNGStolt LNG出所: 各種資料より作成・建設予定地:Nova Scotia 州Cape Breton島・規模:800万トン/年・Nova Scotia州環境省環境許可取得:2015/5/15・NEBの輸出許可取得:2015/8/13 (LNG 1,200万トン/年、25年間)・FEED:KBRが実施中・FID:2016年・輸出開始時期:2019~2020年・投資額:50億~100億カナダドル・建設予定地:Nova Scotia州Goldboro・規模:1,000万トン/年・NEBの輸出許可取得:2015/8/13 (LNG 1,000万トン/年、20年間)・Nova Scotia州環境省環境許可取得:2014 /3 ・FEED:CB & I に発注済み・輸出開始時期:2020年・建設予定地:Nova Scotia州Guysborough、Melford・規模:350万+340万+860万トン/年・NEBの輸出許可申請:2015/5 (LNG 1,350万トン/年、25年間)・輸出開始時期: 2020年・建設予定地:New Brunswick州Saint John・規模:500万トン/年・NEBの輸出許可取得:2015/9/3 (LNG 500万トン/年、25年間)・Pre-FEED:実施済み・建設予定地:Quebec州Saguenay近郊・規模:1,100万トン/年・NEBの輸出許可取得:2015/8/27 (LNG 1,265万トン/年、25年間)・輸出開始時期:2021年・投資額:75億カナダドル・建設予定地:Quebec州Becancour・規模:100万トン/年・NEBの輸出許可取得:2015/11/5 (LNG 50万トン/年、25年間)※米国から最大142億?/年の天然ガスを輸入する許可取得※ Anadarkoが Cape Breton島のLNG受入基地(受け入れ能力1,130万トン/年)として計画※ 2014/7、LNG Ltd.が買収、LNG 輸出基地プロジェクトに転換※米国から最大118億?/年の天然ガスを輸入する許可取得※ LNG約500万トン/年を20年にわたり販売するSPAをE.ONと締結※ カナダで計画中のLNG輸出プロジェクトで唯一のブラウンフィールド・プロジェクト※2009/9、カナダ初の LNG 受入基地として稼働開始※ 天然ガス生産量増加からアジア、欧州市場向けの輸出を検討※ 米国北東部、カナダ西部堆積盆(WCSB)を原料ガスの供給源に予定ており、2016年にFID、2019年にLNG輸出の開始を目指している。 Pieridae EnergyがNova Scotia州Guysborough郡Goldboro Industrial Parkで進めているGoldboro LNGプロジェクトは、2014年10月24日にNEBに輸出許可を申請、2015年8月13日にLNG1,000万トン/年を20年間にわたり輸出する許可を取得した。米国とカナダから原料ガスの供給を受ける計画で、2015年5月には米国から最大118億?/年の天然ガスを輸入する許可も取得している。FIDは2016年、商業運転開始は2020年を予定しており、既に20年間、約500万トン/年のLNGを販売するLNG長期売買契約SPAをE.ONと締結している。 Saint John LNG Development Company(Repsol75%、Irving Oil25%)がNew Brunswick州Saint Johnに計画しているCanaport LNGプロジェクトは、2015年2月にNEBに輸出許可を求める申請を行い、NEB輸出申請● 審査中● 承認Saguenay(QC)● GNL QuebecCape Breton(NS)● Bear Head LNGGoldboro(NS)● Goldboro LNGGuysborough、Melford(NS)● Melford LNGBecancour(QC)● North Shore LNGSaint John(NB)● Canaport LNG出所: 各種資料より作成図12東海岸で計画されているLNG輸出プロジェクト48アナリシス_舩木.indd 482016/01/13 17:13:502016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC9月3日にLNG500万トン/年を25年間輸出する許可を取得した。 同プロジェクトは、カナダ初のLNG受入基地として2009年に操業を開始し、受け入れたLNGを気化しカナダや米国に供給していた。しかし、これらの地域の天然ガス生産量が増加していることから、ここに液化設備を建設し、今後はアジアや欧州向けにLNG輸出を行う計画である。原料ガスの供給源は、米国とカナダを予定している。同社は、2020年の試運転開始に向け、既にPre-FEEDを実施済み、現在はさらなる評価作業を実施中。LNG販売先に関しても、初期段階の協議を行っているという*6。 GNL QuebecはQuebec州Saguenay近郊に建設が予定されている。2021年までに操業を開始し、1,100万トン/年のLNGを輸出する計画だ。ガス供給源は北米で、Waddington~Saguenay間に総延長650㎞のパイプラインを敷設することが計画されているが、道路、ユーティリティ、空港等は既存のインフラストラクチャーを利用可能で、早期に、経済的にプロジェクトを進めることができるとしている。設備の建設にかかるコストは75億カナダドルとされている。既に、NEBからLNG1,265万トン/年を25年間にわたって輸出する許可を取得している。 Pieridae EnergyのGoldboro LNG等東海岸のLNG輸出プロジェクトがカナダ初のLNG輸出プロジェクトになるだろうとの見方*7もあり、輸出先が西海岸のプロジェクトと競合することは少ないものの、プロジェクトによってはガスの供給源が西海岸のプロジェクトと重なる可能性もあり、注視していく必要があると考えられる。3. 連邦とAlberta州の政権交代による石油・ガス産業への影響 2015年には、連邦議会の総選挙と主要産油州であるAlberta州議会の総選挙が実施され、それぞれ長期間続いていた政権が敗北し、新政権が成立した。政権交代により、石油・ガス政策が大きく変わり、石油・ガス産業に影響を与えるのではないかとの懸念が生じた。(1)Alberta州政府 5月5日、Alberta州議会総選挙が実施された。結果は、新民主党(NDP:New Democrat Party)が定数87議席のうち53議席を獲得し、Alberta州初の革新政権を樹立することになった。進歩保守党(PC:Progressive Conservative Party)は、解散時には70あった議席を10まで減らし、当選した閣僚もPrentice首相を含め4名のみという結果となり、1971年以来12期44年続いた同党による一党支配体制は終了することとなった。 Alberta州は、2014年半ばからの原油価格下落により、約70億カナダドルの歳入不足となっていた。そこで、2015年の予算案では、歳入不足を補うために、医療保険料の再有料化、所得税やアルコール、ガソリン税等の引き上げを導入することとした。Prentice首相は、この予算案について州民の承認を得る必要があるとして、州議会を解散、総選挙を実施することとした。しかし、実は、進歩保守党が野党ワイルドローズ同盟党の内紛に乗じて、大きく負けずに政権維持を図ろうとしていたことに州民が気づき、このような進歩保守党の画策を嫌ったため、新民主党に対する支持が急伸することとなった。 新民主党はエネルギー産業の改革を実施するとの公約を掲げ圧勝した。同党が提案していた石油・ガス関連の主な政策とそれぞれの政策が石油・ガス産業に与える影響、そして、これまでにとられた政策は以下のとおりである。①ロイヤルティの見直し ロイヤルティの見直しに関しては、詳細が明らかにされず、Alberta州の投資環境は不確実性、潜在的な不安定性を増すことになるのではないかと懸念された。6月末にはロイヤルティの再検討に関する諮問委員会Royalty review advisory panelが設立され、2015年末までに答申を行う模様であるとされた。しかし、8月28日、同州のMargaret McCuaig-Boydエネルギー大臣は、同諮問委員会は2017年まで州のロイヤルティ率を引き上げる試みは行わないと発表。原油市場の状況が回復すれば、2017年にロイヤルティ率引き上げが実行される可能性が考えられる。②法人税率の引き上げ 7月1日より法人税が10%から12%へ引き上げられた。しかし、12%の税率は、カナダの州の法人税率としては最も低いものであり、大きな影響はないと見られている。49石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 492016/01/13 17:13:50原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMC③より厳しい環境規制の適用 新民主党政権は、6月25日にCO2排出に関するSpecified Gas Emitters Regulation(SGER)の延長と修正を発表した。 2007年より課されている既存のSGERの規制は、年間10万トン以上のCO2を排出するAlberta州の全ての設備、プロジェクトに生産ユニットごとのCO2排出量を12%削減するよう求めるもの。ベースとなるCO2排出量はその設備、プロジェクトの操業期間によって定められており、2000年12月31日以前から操業している設備については2003~2005年の平均排出量をベースとし、2000年12月31日以降に操業を開始した設備については段階的に排出義務量が引き下げられている。CO2排出量を12%削減できない場合、操業の改善など他の相殺手段がとられなければ、削減目標を上回った排出量について15カナダドル/トンのClimate Change and Emissions Management Fundへの貢献をしなくてはならない。 今回発表された規制では、年間10万トン以上のCO2を排出する設備は、2016年1月1日からはCO2排出量を15%削減、削減できない場合には削減目標を上回った排出量について20カナダドル/トンの基金への貢献、2017年1月1日からは排出量を20%削減、削減できない場合には削減目標を上回った量について30カナダドル/トンの基金への貢献をしなくてはならない。 SGERの修正に関しては、CO2排出に関する規制は強化されたものの、オイルサンドプロジェクトにとってはバレルあたり数セントから0.75ドルの負担増で経済性に大きな影響はないと見られた。 11月22日には、温室効果ガス排出を規制し気候変動に対処するためのClimate Leadership Planが発表された。先住民や環境保護団体、Suncor、Shell Canada、Canadian Natural Resources、Cenovusのトップもこの発表に同席した。計画の主な内容は次のとおりである。・ SGERに替わる制度としてCarbon Competitiveness Regulation(CCR)を導入する。同州内の全ての経済活動について、年間10万トン以上温室効果ガスを排出する者は、2017年1月より20カナダドル/トンの炭素税を課税する。2018年にはこれを30カナダドル/トンに引き上げる。その後は、毎年インフレ率+2%ずつこれを引き上げる。・ オイルサンド事業からの温室効果ガス排出を年間1億トンに制限する(現在はオイルサンド生産量240万b/dに対し7,000万トンの温室効果ガスを排出)。・ 2025年までにメタン排出量を2014年の水準から45%削減する。・ 2030年までに石炭火力発電所を段階的に廃止する。・ 2030年までにAlberta州の発電量の30%を再生可能エネルギーとする。 多くの石油生産者は、SGERに比べ負担は増えるが、さらに重い負担を負わずに済むとし、この計画を支持しているとされている。また、石炭火力発電所が廃止されることで、ガスの需要が増え、石油・ガス産業にとってはプラスとなるとの見方もある。オイルサンド生産に対する影響については、2020年以降は生産増に影響が出る可能性があると見るものから、カナダの石油産業が環境面でも、経済面でも競争力を持てるようにする内容であり、これによりオイルサンド生産増を続けられるとするものまであり、今後の動向を注視していく必要があろう。④ 主要な輸出インフラストラクチャープロジェクトに対する支援計画 新民主党は、Keystone XLパイプラインやNorthern Gatewayパイプライン等主要な輸出インフラストラクチャープロジェクトに対して支援を行う計画はないとしていた。しかし、Keystone XLパイプライン、Northern Gatewayパイプラインともに、既に州政府の支援が鍵となる段階を過ぎており、これらのプロジェクトについてのロビイ活動が減少しても、プロジェクトの進展に重大な影響はないと考えられる。 新民主党政権発足直後には、長期政権を続けてきた進歩保守党前政権に対して、経験不足の新民主党が具体的にどのような政策をとり、それを運営していくことができるのか、原油価格下落により既に影響が生じている石油・ガス産業に追い打ちをかけるのではないかと懸念する向きもあった。しかし、新民主党のRachel Notley党首は石油・ガス産業の懸念を和らげるため、経営陣に接触、石油・ガス業界と協力していくとし、ロイヤルティ率引き上げを先送りする等、原油価格低迷に苦しむ石油・ガス産業にこれ以上打撃を与えないよう配慮した政策をとっていると考えられる。(2)連邦政府 10月19日に実施された連邦総選挙では、自由党が338議席中184議席を獲得して、約10年ぶりの政権交代が実現した。 カナダで最も偉大な首相と評されているPierre Trudeau元首相(2000年没)を父に持つ自由党党首のJustin Trudeau新首相は、1971年生まれとカナダ史上アナリシス_舩木.indd 502016/01/13 17:13:50502016.1 Vol.50 No.1アナリシスOGMECK YMC2番目に若い首相である。新内閣は11月4日に発足し、天然資源相にJames Gordon Carr氏、環境・気候変動相にCather Mary McKenna氏、先住民・北方関係相にCarolyn Ann Bennett氏が就任した。これら新大臣はいずれもこれまでの経歴でそれぞれの所管事業に関し専門性を有していない。 自由党は単独多数を確保したことで、オイルサンドやパイプラインプロジェクトに対してより敵対的な姿勢をとるNDPに歩み寄ったり譲歩したりすることなしに政権を運営できることとなった。Trudeau新政権が掲げている石油・ガス関連の政策は以下のとおりである。①炭素ガスの大気排出に関する規則の厳格化 自由党およびTrudeau首相は、保守党、Harper前政権よりも環境や気候変動の問題に対して積極的な姿勢をとっている。選挙期間中も炭素ガスの大気排出に関する規則の厳格化を公約し、11月末にパリで開幕する国連の気候変動会議(COP21)で示す方針をカナダ各州知事と話し合うとしてきた。したがって、Trudeau政権は、Harper前政権よりも厳しい環境規制を課すことになると考えられている。炭化水素税を設けるよりも、大量に炭素ガスを排出する者に対して排出削減目標を設定するcarbon pricing policyを創設するものと見られている。②オイルサンド関連パイプライン Trudeau首相自身は、オイルサンド関連のパイプラインに関しては、プロジェクトごとに異なったアプローチをとると見られている。BC州沖合を通航するタンカーが増加するという理由から、一般的に西海岸向けのパイプラインには反対する傾向にあり、EnbridgeのNorthern Gatewayパイプラインについては反対している。しかし送油能力の拡張プロジェクトであるKinder MorganのTrans Mountainパイプラインや西海岸向けではないKeystone XL、Energy East各パイプラインは支援していると伝えられている。 Trudeau首相は、就任直後の11月13日、運輸大臣にBC州北部太平洋沖合での原油のタンカー輸送について正式に禁止するよう示唆した。禁止されれば、Northern Gatewayパイプラインにとっては打撃となる。 Trudeau首相は、KeystoneXLパイプライン建設を支持しているが、ここ数年、Harper前首相が同パイプライン建設問題に固執するあまり米国政府との関係を悪化させたと批判し、Harper首相よりも協調的なアプローチをとり、エネルギーと気候変動の目標達成に向けて、米国と協力、米国との関係を再構築するとしていた。11月6日に、Obama大統領がKeystoneXLパイプライン建設計画を却下する方針を表明したことに対しては、Trudeau首相は、失望したとする一方で、カナダと米国の関係は一つの建設計画よりもはるかに大きいとして、Obama政権との友好関係を重視する姿勢を示している。 Trudeau首相は、市場へのアクセスが重要であることを理解していることもあって、このようにNorthern Gateway以外のパイプラインについては建設に賛成はしているものの、保守党、Harper政権下で行われた環境影響評価法改正による環境許認可プロセスの合理化を見直す方針であると伝えられる。パイプラインプロジェクトはより厳しい環境基準とより長い承認プロセスを経なくてはならなくなる可能性があり、長期化や遅延が懸念される。③LNG輸出プロジェクト Trudeau首相は自分自身をLNG輸出賛成論者としており、カナダのLNG輸出産業へ支援を続けていくと考えられる。しかし、Trudeau首相は、先住民との関係について連邦政府が積極的に関与し、先住民との新たな関係を構築していくとしている。先住民への配慮からLNG産業よりも先住民に対する支援が優先され、LNG輸出が遅れる等の可能性がある。おわりに オイルサンドについては、当初、生産中、建設中のプロジェクトは原油価格が下落しても中止されることはないとの見方がなされていた。しかし、油価低迷が長期化するにつれ、ごくわずかではあるが生産中、建設中のプロジェクトのなかにも、中止されるプロジェクトが現れるようになってきた。パイプラインの敷設状況や環境保護の観点と合わせて、今後の状況を見ていく必要があるだろう。 西海岸のLNGプロジェクトは、20まで数を増やし、2015年6月にはPacific NorthWest LNGプロジェクト51石油・天然ガスレビューアナリシス_舩木.indd 512016/01/13 17:13:50原油価格下落下でのカナダのオイルサンド・LNGプロジェクトの現況OGMECK YMCが条件付きの最終投資決定を行った。連邦やBC州政府が、プロジェクトの進展を図ろうとインセンティブを設けてきたが、企業側もパイプラインや設備、インフラストラクチャーを共用する等の措置をとることで、コストを削減することを考えるようになっており、動向が注目される。<注・解説>*1: *2: *3: *4: *5: *6: *7: BP Statistical Review of World Energy June 2015 石油確認埋蔵量には、原油、コンデンセート、NGLを含む。 National Energy Board Canada’s Energy Future 2013カナダ・アルバータ州 オイルサンド産業の最新動向 SPRING 2015 Reuters 2015/6/17 Petroleum Intelligence Weekly 2015/9/28ダイアモンド・ガス・レポート 2015/10/15 World Gas Intelligence 2015/10/21執筆者紹介舩木 弥和子(ふなき みわこ)神奈川県逗子市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。JOGMEC調査部(南米およびカナダ担当)。近 況: 一昨年2回、昨年2回と頻繁に転居しました。思いもしなかった所で生活をする楽しさはありますが、しばらくは定住したいです。アナリシス_舩木.indd 522016/01/13 17:13:50522016.1 Vol.50 No.1アナリシス |
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