ロシア:ロシアの対OPEC協調と石油増産凍結の議論
レポートID | 1006586 |
---|---|
作成日 | 2016-05-23 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | エネルギー一般市場 |
著者 | 本村 真澄 |
著者直接入力 | |
年度 | 2016 |
Vol | 50 |
No | 3 |
ページ数 | |
抽出データ | ロシア:ロシアの対OPEC協調と石油増産凍結の議論・ロシアの2016年1月の石油生産量は1,088万b/d(1.54%増)で、ロシア連邦成立以来、最高レベル。・2月16日、ロシアはサウジアラビア、ベネズエラ、カタールと、他の産油国も賛同することを条件に、原油生産量を1月の水準で据え置く(「増産凍結」する)ことで合意した。・ただし、1月の生産量がロシア連邦となって最高レベルであることから、増産凍結は容易で、自らには痛みのない政策である。サウジアラビアも同様で、減産とは程遠い内容。・油価は、3月中旬にかけてWTIが$40/bbl直前まで上昇するなど、市場はある程度これらを評価している。これは、ロシアとサウジアラビアによる際限のない増産競争のような事態を回避できたため。・焦点は制裁が解除されたイランの扱いで、ロシアは他国と同レベルの増産凍結は酷であるとの立場から、例外扱いを指向。他の湾岸産油国にはこれに難色を示す向きもあり、15産油国会議開催は難航。・4月17日にカタール・ドーハでOPECと非OPEC産油国会議が開催されるも、サウジアラビアが「今次合意にはイラン等全OPEC加盟国を含めるべき」と主張し、会議は決裂。・ロシアは、西シベリア原油の場合、2~4%のパラフィンを含み、冬期に生産を停止した場合には地表設備の固結を招くため、「減産」は技術的観点から受け入れられない。2003年にサウジアラビアから増産抑制の要請を受けた時は、石油輸出税の増税で投資意欲を抑え、生産を抑制した。・よって、ロシアとしての対応は「増産凍結」までが限界で、これを各産油国に徹底させることで対応しようとしている。・今回顕著だったのは、OPECという組織が「無意味化」し、サウジアラビアが他の産油国に対する影響力をほとんど失ったことである。ロシアが経済苦境にあるベネズエラやアゼルバイジャンを救い、制裁解除間もないイランを擁護するために、全体の取り仕切り役を引き受け、各国の説得に当たった。サウジアラビアは秩序構築者としての役割を放棄したも同然となった。1. 生産調整-対OPEC協議、増産凍結提案までの流れ(1)2016年のロシアの石油生産の傾向 ロシア連邦燃料エネルギー中央流通局(CDU TEK)によれば、2016年1月のロシアの石油生産量は、1,088万b/d(4,439万400t)で前年同期比1.54%増と大きな伸びを見せた。これは、ロシア連邦となってから最大の生産量である。推進役となったのはBashneft、Gazprom Neft、Novatek、の3社、およびPSA案件。具85石油・天然ガスレビュー体的には2015年1月からArkutun-Dagi油田からの生産が開始となったサハリン-1である。 一方、サウジアラビアの1月の原油生産量は1,060万b/dで、2002年以来の最大生産量となっている*1。 Gazprom NeftのAlexei Yankevich CFOによれば、ロシアの石油生産者は、生産コストが$3~6/bbl、輸送・掘削コストを入れても$15~16/bblで、油価が$30/bblであっても経済性があり、健全な操業利益を上げられる。更に、油価$20/bblでも新規投資を控えることで耐えることができるが、ただし投資の手控えは先行きに禍根を残す、と述べた。ロシア政府は、油価$30/bblの状況下でも$12~$13が国庫に入り、$20/bblでは僅かに$4を得るのみである、と報道されている*2。(2)ロシア側から減産情報をリーク? 1月27日、タス通信がTransneft首脳の話として伝えたところでは、ロシアが原油価格の引き上げを目指し、OPECとの協調減産の可能性について協議する見通しとなり、同国エネルギー省と石油会社幹部がOPECとの話し合いに合意したという*3。Transneftはパイプライン会社i3)「増産凍結」に向けた動き 2月16日、サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの4カ国の担当相は、ドーハで会合を開き、原油の生産量を1月の水準に据え置き、増産をしないことで合意した。他の産油国も同意することが条件で、イランやイラクなど増産を続ける国の協調が焦点となる*6。 OPECの原油生産量は過去最高水準で、1月の生産量は昨年12月比で、日量約30万bbl増えていた。ロシアも1月の生産量は12月より増えた。サウジアラビアのAl-Naimi石油鉱物資源相は会合後、今後数カ月間は状況を見た上で「市場安定のために、他の方策が必要かどうかを決める」とのみ述べた。イラク石油省のJihad報道官は取材に「価格安定化に向けた取り組みには基本的に賛成だ」と回答し、アラブ首長国連邦(UAE)の政府関係者も「正しい方向だ」と前向きに検討する姿勢を表明した。一方、1月の経済制裁の解除直後に増産を決め、更なる増産も検討するイランのZanganeh石油相は16日午後、「イラン(の原油)に関する限りは需要が供給を上回っている」と、生産調整には否定的なコメントを出した*7。 2月17日、ベネズエラのDel Pino石油・鉱業相は、Zanganeh石油相とテヘランで会談し、増産凍結への協力を求めた。この会談にはイラクのAbdul-Mahdi石油相、カタールのSadaエネルギー・産業相も出席した。会談後、Zanganeh石油相は「原油市場の安定と価格回復に向けたいかなる行動も支持する」「石油輸出国機構(OPEC)の加盟国と非加盟国が生産上限を維持する決定を支持する」と述べた。ただ、イランが増産凍結に加わるかは明言しなかった。そして、市場の反応を見極めた上で、必要に応じ更に協議する考えを示した*8。このように、イランによる支持発言で、期待感が醸成され、油価はWTIで$1.62上昇し、$30.66/bblとなった。 一方、ロシアのNovak大臣は2月20日、イランに関しては、1月11日のレベルでの増産凍結を求めるのはフェアではないとの見解を示した*9。恐らく、GCC(湾岸協力会議)諸国から、イランの増産凍結を強く求める声が挙がることを予測して、先に落とし所を提示したものであろう。また、Novak大臣は有力な産油国であるノルウェーとメキシコに関しても、建設的な見通しを示し、生産調整に加わるであろうとの見解を示した*10。 3月1日、Putin大統領は石油生産量を産油国が1月レベルで凍結するとした案に関しては、全てのロシアの生産者が賛同していると述べた*11。1月27日に、Novakエネルギー相が生産カットについて石油産業と話し合った際に、猛反対に遭っており、今回の動きは、大統領が石油業界に対する説得に成功したことを示すものと言える。 同日、Novakエネルギー相は、生産者の各自予測から、2016年の生産量は、2015年の1,072万b/dを上回ることはない、との判断を示した。また、同相は、「増産凍結は15カ国以上の支持を得ており、イランの参加がなくとも機能する。イランは制裁の経緯から特別の状況にあり、別の取り扱いが必要である。なお、油価が$50~60/bblを超えると、再び米国のシェールオイルによる過剰生産が生じる」と述べた。OPEC加盟国では、エクアドル、クウェート、UAEが増産凍結支持を打ち出し、非OPEC国ではオマーンが支持、更にイランに対しても容認姿勢を示している*12。 OPECの2月の日産量は28万bbl減の3,237万bbl。これを受けて。3月1日20時30分時点でのBrent原油は$37/bblまで上昇した*13。 OPECと非OPEC産油国は、場所は未定ながら、3月20日から4月1日までの間に会合を開き石油価格の安定化について協議する予定である、と3月4日にNovakエネルギー相が述べた。これにはアゼルバイジャンとカザフスタン、および全OPEC加盟国(13カ国)が参加の意向である*14。 3月13日、イランのZanganeh石油相は、Novakエネルギー相の訪問を受けて会談86であり、当該年の石油輸送量・輸出量を把握できる立場にはあるが、ロシアの各石油会社の生産計画に関与するわけではない。より中立的な組織であるTransneftを使って、しかるべき筋が意図的な情報リーク(意図的漏洩)を行い、市場の反応を見た可能性がある。 翌1月28日になると、ロシアのNovakエネルギー大臣が、サウジアラビアからOPECとして各国が石油生産を5%カットするという提案を受け、ロシアとしては翌2月の生産国会議に参加の意向であると述べた*4。これに対して、サウジアラビアは特段のコメントを避けた。ロシアの石油企業としては、基本的に生産調整(減産)には反対であることを常々表明しているが、この時も、RosneftとLukoilの社長は、OPECとの協調には反対であると言明した。一方、TransneftのTokarev社長によれば、ロシアの石油生産者は一致団結して冬季の生産カットに反対するが、夏季に関しては一部実施の可能性があると述べ、含みのある発言を行っている。ここでもTransneftが議論を先導している印象である。 一方2月10日の、ロンドンで開催されたInternational Petroleum WeekでのRosneftのSechin社長の発言は、Novak大臣発言を支持すると同時に、石油会社の本音も述べるという、真意のつかみにくいものであった。すなわち、以下のとおりである。 「国際市場における過剰生産分の規模は現在、日量175万bblとなっている。日量100万bblの協調減産を実施すれば、市できる。市場場の不透明感を大幅に払のアンバランスは2016年末までに改善され、2017年までに50万b/dの石油不足が生じる。ただし、OPEC加盟国(特にイラン、イラク)からの石油供給が増加した場合と、米国の掘削済み坑井で新規にフラクチャリングが実施される場合では50万b/dの増産があり、改善が鈍化する。Rosneftの生産コストは$2.7/bblに過ぎず、現状、不安はない。ただし、生産者のうちで一体誰が減産を行うというのだろうか」*5拭しふっょく2016.5 Vol.50 No.3vえない。筆者には、ロシアが根回しに動いて、OPECと非OPEC産油国の総意うかがをまとめ上げようとしている様子が窺える。同様の動きは、2月27日のシリア和平合意においても見られた。経済苦境にあるベネズエラやアゼルバイジャンへの配慮もあり、ロシアは「秩序形成者」として振る舞おうとしているかのようである。2. この十数年の油価の動向に関してゅじゅん守し(1)2000年からの油価の動き①油価の上昇機運 2000年代を通じての油価上昇の構造を見ると、そのきっかけはベネズエラでChavez政権の発足した1999年2月頃までさかのぼることができる。 Chavezは大統領に就任するや、ベネすることズエラがOPECの生産枠を遵を宣言し、これによってOPECはカルテル機能を回復した。1990年代を通じて油価はbblあたり$20近傍で低迷し、更にはアジア通貨危機のあった1998年には一時期$13程度まで下がっていた。ところが、した後、同国の原油生産量が日量400万bblに達しない限り、原油の増産凍結に参加しないとの考えを表明した。国際エネルギー機関(IEA)によると、イランの2月の生産量は322万バレル。1月に欧米による経済制裁が解除され、50万bblの増産を決めたが、前月比22万bbl増にとどまっている*15。 翌3月14日、Novakエネルギー相は、冒頭述べたように、産油国が原油生産量の凍結を話し合う追加協議を4月17日にカタールの首都ドーハで開くとの見通しを明らかにした*16。当初は、3月20日に、モスクワで開催されると見られていたが、前日のZanganeh大臣の発言を受けて、産油国間での調整に時間がかかると判断したものと思われる。(4)市場の評価 油価は、2月11日に、一時$26.05/bblと2003年5月以来の安値を付けた。その後、同月16日の4カ国会議では、減産期待から油価はジリ高となったが、合意内容が「増産凍結」で、「減産合意」でなかったことが報道されると、これを嫌気して油価はWTIで$0.4下げて$29.04/bblとなった。しかし、他産油国の賛同の声が相次ぎ、少なくともこれから際限のない増産競争のような事態は避けられるとの観測から、翌日は$1.62上昇し、$30.66/bblとなった。 その後、3月上旬まで油価は回復基調を見せた。3月11日には、IEAの石油市場月報が「原油価格は底打ちした可能性がある。コスト高の事業者の生産量が落ちている」と指摘したことから、WTIの4月渡し価格は$38.50/bblを付け、3カ月振りの高値となった*17。その後、14日にはイランの強硬発言を嫌気して$36.70/bblにまで下がるなど、産油国間の生産調整に関して、当面は進まないとの見方が強くなったものと思われる。 サウジアラビアは2014年11月のOPEC総会で石油の減産見送りを表明して以来、具体的な発言をすることは非常に少なく、市場との対話を行ってきたとは言えない。1月28日のロシア、サウジアラビア両国の5%減産発言で、WTIは$0.92上げて$33.22/bblになるなど、市場は産仰してい油国側からのメッセージを渇たフシがある。サウジアラビアは、従来、けていたようにはこのような対話に長かつごうた$/bbl15014013012011010090807060504030202003WTIBrentDubai年金ファンド流入年金ファンド流入背景にピークオイル論背景にピークオイル論リーマンリーマンショックショック米シェール米シェールオイル増産オイル増産QE終了QE終了サブプライムサブプライム問題化で資金問題化で資金が原油に流入が原油に流入200420052006200720082009QE、QE、投機資金投機資金回帰回帰20102011リビア、イラン、シリアリビア、イラン、シリアに地政学リスクに地政学リスク20122013201420152016年(注)QE:Quantitative Easing=量的緩和政策出所:野神(2016)図12003~2016年初頭までの油価の動き87石油・天然ガスレビュー000年から油価は上昇機運に乗り始め、同年のBrent価格は平均でbblあたり$28.50となった*18。しかし、翌2001年9月11日の米国同時多発テロで一気に経済が冷え込み、油価を再び押し下げた。低迷は2002年まで続き、再び上昇基調に乗ることができたのは2003年である。この年の経済状況で、油価上昇に直接結び付く要因は特にない。むしろ、9.11テロの記憶が薄まったことが理由と思われる。 2003年からこれまで14年間の油価の動きを、図1に示す*19。2007年までの油価上昇には、石油市場への年金ファンドの流入と、この頃盛んに議論された石油の資源量の限界を説く「ピークオイル」論が挙げられる。これはコインの両面のように表裏一体の動きとも言える。②QEと油価の高止まり状態 期間途中、2008年のリーマンショックによる油価の乱高下はあったが、2011年からは、Brent原油とDubai原油がbblあたり$110という空前の高値圏で推移した。この要因として、リーマンショック後に、米国で採られた3次にわたる量的緩和政策(QE: Quantitative Easing)がある。QE1は、米連邦準備制度理事会(FRB)が導入した米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量購入する政策で、1年半の間に約$1兆7,000億もの資産を購入して、市中に資金供給を行った。これは、量的緩和と呼ばれた。更にリビア、イラン、シリアと目まぐるしく推移する地政学リスクの発生が拍車をかけた。 $100超の高値圏を推移していた油価は、2014年7月から下降を始める。 これには、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)として、まず米国における毎年100万b/dが追加されるという、旺盛なシェールオイルの増産基調が挙げられる。2011年にはシェールオイルのみでの生産量は300万b/d、米国全体の石図2米国の油価、石油生産量と掘削リグ稼働数の推移出所:JOGMEC作成1,400万b/d1,2001,00080060040020002011年2014年米国の石油生産量米国の石油生産量(コンデンセートを含む):(コンデンセートを含む):2011年:786.1万b/d2011年:786.1万b/d2014年:1,164.4万b/d2014年:1,164.4万b/d(4年間で48.1%増)(4年間で48.1%増)米国サウジアラビア ロシアカナダ中国UAEイランイラククウェートメキシコ出所:BP統計による図32011年と2014年の米国の石油生産量比較88600550500450400350300250200150年月$/bbl基数(10基)万b/d原油価格(WTI)(左軸)石油水平坑井掘削リグ稼働数(左軸)主要7鉱床の生産量(右軸)2345678910111212345678910111212345678910111212345678910111212345678910111212320162011201220132014201513012011010090807060504030202016.5 Vol.50 No.3罇カ産量はコンデンセートを含めて786万1,000b/dであったものが、2014年にはシェールオイルの生産量のみで480万b/d、米国全体の石油生産量はコンデンセートを含めて1,164万4,000b/dとなり、石油市場の供給過剰感が強くなっていた(図3)。IEAによれば、2015年に世界の石油供給は、需要を日量にして200万bbl上回っていた。2014年年央には、世界の需要を同約100万bbl上回っていると言われていた。 次いで、米国のファイナンス面における動きとして、2013年5月にBernanke FRB議長がQEの終了を示唆し、2013年末から月$100億ずつの量的緩和政策の縮小を開始した。2014年2月1日には、Bernanke路線を継承するYellen新FRB議長が就任し、石油の大相場に、手仕舞い感が出てきた。よって、2014年の前半には油価が下落に転じる条件は揃っていたと言える。 しかし、2014年前半において、油価は依然としてbblあたり$100以上の水準を維持した。この理由としては、連綿と続く中東の地政学リスクがあると思われる。 特に、イスラム国(IS)という、これまでほとんど情報のなかった異形の武装集団が突如出現し、この地域の地政学リスクはいやが上にも高まった。油価の動向は、地政学的な要因における予見不能性(unpredictability)の影響を大きく受ける、と通常は理解されている。2014年に入ってイラク西部の主要都市モスールがこの一団によって占拠され、イラクの首都バグダッドに向かって進軍しているという切迫した情報が油価の高値を維持した。2014年7月、ひとまずバグダッドの手前でこの進撃が止められ、ISがイラク西部の範囲内(およびシリアの東部)に閉じ込められたことで、今後の展開が予見可能(predictable)になったことから、高油価を支える根拠が失われた。これを引き金に、油価は徐々に下降を始めた。③油価下落の加速 2014年10月29日に、FRBは資産買い入れ額をこれまでの$150億からゼロにし、QE3は終了した。一方、米国では毎年100万b/dのペースでシェールオイルの生産が伸び、国際市場では原油の供給過剰状態が明確になっていた。 油価下落局面のなかで開催された2014年11月27日のOPEC総会では、湾岸産油諸国は減産を見送ることを決定し、自らの市場シェアを維持し、油価の更なる下落によって米国のシェールオイルを減産に追い込む策を選択した。この報を受け、油価は一気に$7.54/bbl(10.2%)下落して$66.15/bblとなった。 その後、2015年を通じて油価は低迷を続けた。 2016年に入って、中国経済の減速が明らかになると、石油の需要減が強く予想された。ここから、油価は更に弱含みに転じ、2月11日にはWTIが一時$26.05/bblとリーマンショック時よりもはるか10,000万b/d9,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000アジア通貨危機アジア通貨危機ITバブル崩壊・9.11ITバブル崩壊・9.11金融危機金融危機Production19921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014年出所:BP統計から作成図4世界全体で年率約0.8%(110万b/d)の需要増加傾向続く89石油・天然ガスレビューネ前の2003年5月以来の最安値を付けた。 2月16日の4カ国による増産凍結合意も、内容が発表されるまでは、主要4カ国の会合ということもあって、期待感から油価が上昇し始めたが、その内容が発表されると、減産が明記されなかったことから、反転して失望売りとなった。ところが、その後じわじわと値を上げて、3月11日にはWTIは一時$39.02/bblを付けた。同日に公表されたIEAの月報で、石油価格が底打ちした可能性を指摘した*20。これは、少なくとも、これ以上の増産はないとの点が評価されたものと思われる。(2)基本的な需給傾向 1992年から2014年までの世界の原油生産量の推移を図4に示した。期間途中、1998年のアジア通貨危機、2002年のITバブル崩壊、そして2008年の金融危機において、世界的にも原油の生産が落ち込んだ時期があったが、基本的には右肩上がりで推移してきた。過去20年間の平均を取ると、毎年110万b/d増加しており、前年同期比では平均で0.8%増である。2016年年初の経済的な混乱から、この基調は若干の低下が予想されるが、今後も増加傾向が見込まれていることに変わりはない。 2016年初めの状況で、世界の石油需給は、175万b/dの過剰(Sechin・Rosneft社長の発言)と言われている。これを前提に考えれば、産油国が増産しない場合には2年以内で供給過剰状態は解消できる見込みが立つことになる。少なくとも増産凍結だけでも、近い将来に供給過剰を解消するめどは立つことが言われるようになった。3. 石油減産におけるロシアの立場(1) 石油生産で政府に指導力はあるのか? ロシアの石油企業は、常に減産に反対する立場であり、今回の1月からの一連の動きでも、当初から減産に反対の意向を表明してきた。これには、ロシアの地下資源法には、石油の生産量を政府がコントロールする規定がないことも根拠となっている。政府は、「協力要請」という形で石油会社の生産量に対して若干の影響力を持つことができる程度である。 後述する2003~2004年の増産抑制の時は、各石油会社に生産ライセンスを発給する天然資源省が、ライセンスに記された石油生産量を遵守させるといったことがあったが、これとても増産を忌避するための動きであって、例えばライセンスに記された生産量水準から一定割合の減産を「指導」するといったことはできない。 仮に減産の協力要請をする場合、全石油会社に対して一律に要請するのか、一定以上の生産規模を有する油田のみを対象とするのか、国有石油のみに政府出身役員が半分を占める取締役会の意向として減産を伝達するのか、さまざまなケースが考えられるが、今のところ、ロシア内部でそのような議論は行われていない。(2)ロシアの石油生産の現状 ロシア連邦燃料エネルギー中央流通局(CDU TEK)によると、ロシアの2015年の原油・ガスコンデンセート生産量は前年比1.4%増の5億3,408万1,000t(1,072万b/d)であった*21。図5は主要7石油会社の生産量推移であるが、生産量を伸ばしているのは、Bashneftの11%増、GazpromNeftの2%増、Tatneftの2.7%増である。一方、最大の生産量を有するRosneftは0.89%減、Lukoilが1.06%減となっている。図5では、2014年と2015年の生産量の合計値は、それぞれ4億3,310万tと4億3,330万tでほとんど変わらないが、Irkutsk石油(INK)をはじめ、中小の石油企業で生産を大きく伸ばしたところがある。 最大の石油生産量を有するRosneftは、TNK-BPを買収した2012年の前年から、4年連続で毎年前年比約1%の減退傾向を示している。現在Rosneftの生産子会社のうち、生産量の約1/3を占め西シベリアに操業の本拠地を置く生産子会社Yuganskneftの減退が止まらず、2015年は前年比3.3%減の6,240万tにとどまった。西シベリアで主力であったPriob油田がほぼプラトー生産の状況にあり、増産傾向に向かわせる有力な新規油田がないことが問題である。 僅かに、2015年1月にサハリン-1のArkutun-Dagi油田が生産を開始し、2016年末には、東Messoyakha油田(埋蔵量45億bbl)、およびSuzun油田が生産開始となる見込みである。Rosneftは2015年の政策として投資を増やし、成熟油田での掘削量を増加させたが、結果的に大きな成果はなかった。仮に減産の可能性を問われた場合、Rosneftとしてはこのような新規投資の手控えが考えられるが、既に減退傾向にある石油会社に更なる減産を強要することはおよそ考えづらい。 Lukoilにおいても、同社の生産量の半分を占める子会社のLukoil West Siberiaの2015年の生産量は前年比6.1%減の4,100万tにとどまった*22。こちらは、これまで西シベリアに重点を置いていた分、減退が著しい。カスピ海のFilanovskoye油田が生産開始となるが、これを減産の対象とすることは、これまでの長期にわたる投資をほとんど無意味にすることであろう。 前年比で伸びが最も著しいのはBashneftで、創業地のバシュコルトスタンの事業のみならず、チマン=ペチョラ地域のネネツ自治管区にあるTrebs-Titov名称記念油田、チュメニ州のPurnefteからの増産が加わった。当面は、主力となっているTrebs-Titov油田の開発体制の整備が続くが、これの減産は経営の根幹に関わる問題となろう。 Tatneftも基本的にタタール自治共和国内で活動しているが、増産は主としてArlan油田やその周辺の重質油田を対象としたSAGD法(Steam Assisted Gravity Drainage:水蒸気利用重力排油法)による重質油開発に注力した成果である。他社と比較して、コスト高の傾向が見られることから、減産を強いなくとも、いずれ増産傾向が収縮すると見られる。902016.5 Vol.50 No.3ュ、これらを停止して生産調整をするには膨大な作業を要し、生産調整が終わって井戸を再開することも同様に現場の負担が大きい。 更に、西シベリアの主力油田ではパラフィンの含有量が2~4%あり、寒冷地のシベリアで冬季に生産を停止すると集油パイプライン内で原油が固結化する。これを後から流動化させて再稼働するのは非常に困難であり、生産の停止は技術的選択肢に入っていない。よって、生産量を調整するには、既存油田の坑井の自然減を本来補うための坑井改修や追加掘削といった新規投資を制限することにより、多少時間をかけて全体の生産量を抑制する方法が採られる。ロシアがOPECに加盟しない主な理由は、政治的理由によるというよりも技術的問題に起因する。 以上は、事あるごとにロシアの石油企業が主張していることで、高い圧力と坑井あたり多くの生産量を有するサウジアラビアの油井と、大きく異なる点である。離り業の生産コストを比較したものであるが、RosneftとLukoilがどちらも$4/bblか、$4/bbl近傍の値であるのに対して、GazpromNeftの場合、$12~15/bblとかなり高くなっている*23(損益分岐点につかいがいては定義が異なるため、大きな乖見られる)。このことは、GazpromNeftの、特に北極圏の事業が最初に一時停止となる可能性があることを示していよう。(3)減産における技術的問題点 ロシアの石油産業にとって、減産は技術的観点から選択肢に入っていない。 GazpromNeftは、オレンブルグ州の事業に加え、2012年に生産開始した北極ペチョラ海のPrirazlomnoye海洋油田、2014年に生産を開始したヤマル半島南東部のNovo Port油田(埋蔵量18億bbl)などが同社の生産量を引き上げている。2016年後半に、Zapolyarie-Purpe石油パイプラインが稼働を開始し、Zapolyarnoyeガス田深部からのコンデンセートおよび原油、Russkoye油田からの原油が生産開始となることから、GazpromNeftの石油生産量は一段の伸びを見せるものと期待される。表1は、ロシアの主要石油企表1会社別コストと2016年の投資計画損益分岐点生産コスト16年投資予定RosneftLukoil$25$24$18~20GazpromNeft出所:RBK Daily, 2016/1/13$4$3.68$12~1530%増$85億($50/bbl)$70億($30/bbl)$55億($20/bbl)250百万t/年 ロシアの油田は、中東のような高い油層圧力・生産性を持つ油田と異なり、概して油層圧は低く、比較的早い時期に自噴が終了しポンプ井に切り替わる。中東に比べ1坑あたりの生産量ははるかに低2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年200150100500Lukoil(Yukos)Surgutneftegaz(TNK-BP)GazpromNeftTatneftRosneftavneftlSBashneft出所:各種報道から筆者作成図5ロシア主要7石油会社の石油生産量の推移(2003~2015年)91石油・天然ガスレビュー鰍ヘ、答礼としてロシアを公式訪問した。その後、両国はシリアのアサド政権の評価をめぐって、見解の相違があり、関係が若干冷却していたが、2015年6月17~18日、ムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子が、Al-Jubeir外相、Al-Naimi石油相らとロシアを公式訪問した。同副皇太子は、Putin大統領と会談し、イラン情勢、イエメン情勢、シリア情勢などについて協議し、外交デビューとなった。 基本的に、両国は人的なつながりも強固であり、かなり密接な関係にあると言える。(2) 2003年のサウジアラビアとロシアの減産協議とその結果 2003年のアブドラ皇太子(当時)の訪露の経緯とその後のロシアの石油生産の動きについて見る。 ソビエト連邦の崩壊による経済の低迷により、1990年代のロシアの石油生産量は日量600万bblと、ソ連時代の2/3の水準まで落ち込んでいたが、2000年からのPutin政権の発足と折からの油価の上昇機運から、石油産業は劇的に復活を果たした。特に水平坑井掘削や水圧破砕といった西側技術の導入に積極的であったYukosとSibneft(現GazpromNeft)は、年率15~20%といった目覚ましい増産を実現し、ロシア全体としても2000年代前半には年率10%近い良好な増産基調にあった。 2003年には中国の需要が前年比12%増、2004年には16%増となる一方で、サウジアラビアの生産量は日量950万bblで推移し、増産余力の不足が油価高騰の根拠の一つとされていた。この間、ロシアの増産が中国を含むアジアの需要増を一手に引き受けていたと言える。サウジアラビアは、2004年には生産能力を日量1,100万bblまで引き上げるという体制づくりを急いでいた。これを踏まえ、アブドラ皇太子は、ロシアを訪問し、同国のあまりに急速な増産は控えるよう要請したと言われている。 その後のロシアの対応を追ってみると、サウジアラビアが1,100万b/dの生産能力に引き上げた2004年において、ロシア側が6月12日に石油輸出税の税率を45%から59%へ引き上げた。輸出に重税感が出たことから、それまで年率10%近いロシアの石油の増産ペースは、1年後の2005年には前年比2.5%と漸増基調へと転換し、その後緩い漸増基調となっていく(表2、図6)。 前述のとおり、ロシアでは、個別の坑井で技術的に石油生産を抑制するという選択肢はない。増産率の低化は、油田に対する新規投資を控えて各坑井での生産量の自然減を導入したり、坑井での水圧破砕など坑井刺激作業を控えたりした結果である。更には、原油輸出税を引き上げて、石油会社の増産意欲を抑えたためであり、これは一種の政策的な誘導と言うべきものであろう。ロシアは個別企業に対して生産枠を与えるのではなく、税制を通じて石油生産量をコントロールしてきた例と言える。(3) OPECとの関係強化へ 2008年後半には、リーマン・ショックにより世界的に石油需要が減退し、油価は$40/bblレベルへまで暴落した。この4. ロシアの対OPEC姿勢と今後の方針(1)ロシアとサウジアラビアの協調関係 ロシアとサウジアラビアの関係は、サウジアラビアが建国した1932年までさかのぼる。サウジアラビアが最初に外交関係を持った相手がソビエト連邦で、この年、サウド皇太子(当時。第2代国王)がモスクワを訪問している。ソ連が最初となった理由は、建国当初サウジアラビアが計画経済を指向していたからと言われている。 また、71年後の2003年9月、アブドラ皇太子(当時。前国王)がモスクワを訪問した。Putin大統領はこの時の共同声明のなかでロシアのOPECに対する協調姿うたった。この時、現地テレビは連日、勢を謳アブドラ皇太子の動静を伝えており、最大級の関心を呼んだものと思われる。 2007年2月10日、Putin大統領(当時)は、ミュンヘンで開催されたNATO(北大西洋条約機構)の年次総会において、米国Bush政権によるイラク戦争に対して厳しい批判を行った。翌日、その足でサウジアラビアのリヤドへ飛んだが、リヤドの空港にはアブドラ国王、スルタン皇太子(国防相、当時)、サルマン王子(リヤド州知事。現国王)が揃って出迎えるという熱烈な歓迎ぶりを見せた。これは、アラブ社会に鬱積していた、米国の対中として東政策に対する不満を暗(implicit)、表したものと思われる。Putin大統領は自身を「イスラム王国の友人」と称し、今後の両国の関係強化に期待を滲ませた。 同年11月23日、スルタン皇太子・国防喩ゆあん表2ロシアの石油・ガス生産量と石油生産の伸び率の推移単位\年石油百万t百万b/d伸び率(%)ガスB?19993056.18059120003236.54658420013487.06858120023807.70959520034218.541162020044599.19963420054709.412.464120064809.612.165620074919.832.365320084889.78-0.766320094949.921.2582201050510.22.2650201151110.31.2670201251810.41.3655201352310.51.0668201452710.60.8640出所:各種統計から作成922016.5 Vol.50 No.32%1086420-2Growth rate1999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014年出所:JOGMEC作成図6ロシアの石油生産量の前年比増産率の変化(1999~2014年)時、対OPEC協調としてロシアの生産制限が注目された。同年9月のウィーンでのOPEC総会には、初めて副首相クラスとして、エネルギー担当のSechin副首相(当時。現Rosneft社長)が出席し、対OPEC協調を明言し、日量30万bblの削減を約束した。この時同席したShmatkoエネルギー相(当時)の発言は、「ロシアは、OPECのように個別生産者に対し生産量調整を行うのではなく、生産目標をコントロールすることにより原油価格に影響を与えることが可能である」というものであり、これは前述のとおり、ロシアは短期的な生産調整に参加はしないものの、税制等の活用により長期の生産目標を調整することによりOPECと協調できるという趣旨である。 表2に見るように、実際には2008年のロシアの石油生産量は、前年比0.7%の減少、通年で日量14万bbl減程度にとどまり、当初、日量30万bbl減というOPECとの約束は履行できていない。これは、実際の減産が容易でないことを示している。 よって、2016年における減産の議論でも、ロシアにとっては、「増産凍結」という選択は最も現実的な対応であった。<追記> 4月17日、カタールのドーハに、イラン、リビアを除くOPEC産油国11カ国、およびロシア等7産油国の計18カ国が代表を送り「増産凍結」に向けて協議したが、サウジアラビアが「今次合意はイラン等全OPEC加盟国を含むべきである」と主張したため、合意は見送られることになった。6月2日に開催が予定されているOPEC通常総会まで協議が継続される見通し。(本村 眞澄)93石油・天然ガスレビュー注・解説>IOD、2016/3/18*1: IOD、2016/2/03*2: *3: 共同、2016/1/28IOD、2016/1/29*4: *5: RBK Daily、2016/2/11*6: Bloomberg、2016/2/16*7: 朝日、2016/2/17*8: 日経、2016/2/18*9: IOD、2016/2/23*10: 共同、2016/2/21*11: IOD、2016/3/02*12: PON、2016/3/02*13: Vedomosti、2016/3/02*14: Interfax、2016/3/04*15: 共同、2016/3/14*16: 日経、2016/3/15*17: 日経、読売, 2016/3/12夕*18: BP Statistics Review of World Energy、June 2015*19: 野神隆之「原油市場他:OPEC及び主要非OPEC産油国による原油増産凍結協議に対する市場の期待等で上昇する原油価格」石油・天然ガス資源情報、2016/3/13*20: 各紙、2016/3/12*21: Interfax、2016/1/02*22: Vedomosti、2016/1/11*23: RBK Daily、2016/1/13942016.5 Vol.50 No.3 |
地域1 | 旧ソ連 |
国1 | ロシア |
地域2 | |
国2 | |
地域3 | |
国3 | |
地域4 | |
国4 | |
地域5 | |
国5 | |
地域6 | |
国6 | |
地域7 | |
国7 | |
地域8 | |
国8 | |
地域9 | |
国9 | |
地域10 | |
国10 | 国・地域 | 旧ソ連,ロシア |
Global Disclaimer(免責事項)
このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。
※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.
PDFダウンロード1.5MB
本レポートはPDFファイルでのご提供となります。
上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。
アンケートの送信
送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。