JOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
レポートID | 1006591 |
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作成日 | 2016-07-20 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-02-16 10:50:18 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | 基礎情報備蓄 |
著者 | |
著者直接入力 | 石澤 英俊 |
年度 | 2016 |
Vol | 50 |
No | 4 |
ページ数 | |
抽出データ | JOGMEC備蓄企画部 国際課長石澤 英俊JOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-はじめに 石油備蓄は、第二次世界大戦後の世界の石油需要の急激な増加と数次にわたる世界的な石油供給途絶の経験を踏まえ、石油供給途絶時に石油備蓄放出等による代替供給を行うことによって経済的ダメージを緩和することを主な目的として始められた。日本では、経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)の備蓄増強勧告を受け、1972(昭和47)年に民間備蓄が開始された。その後、1973年の第1次石油危機を契機に、当時、世界の石油消費量の74%を占めていたOECDの枠内で石油供給途絶時の協調対応を調整する組織として1974年に国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が設立され、日本は設立時から加盟国となった。 日本では、1978年に当時の石油公団が実施主体となって国家備蓄が開始された。2004年、石油公団がJOGMECとなった際に日本の国家備蓄は体制移行が行われたが、JOGMECはそれ以降も一貫して、IEAの緊急時問題常設作業部会(SEQ:Standing Group on Emergency Questions)への参加、世界石油備蓄機関年次会合(ACOMES :Annual Coordinating Meeting of Entity Stockholders)総会およびその分科会への参加などを通じ、IEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力を推進し、国際協調に基づく石油供給途絶の緊急対応時に適切に対応することを石油備蓄における最重要目標としている。 一方、近年では、世界の石油消費に占めるOECD非加盟国の割合が増加、2014年には52%とOECD加盟国を上回った。日本周辺では、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of South-East Asian Nations)諸国、中国などの石油消費量が急激に増加している。IEAとしても、エネルギー需要がIEAの非加盟国へシフトするなか、世界的なエネルギー安全保障を強化するためには非加盟国との協力を強化することが極めて重要であるとしている。 JOGMECは、日本のエネルギー安全保障上アジア地域の石油備蓄体制強化が極めて重要であることから、アジア諸国、とりわけASEAN諸国に対してIEAとも連携しつつ石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強力に推進しており、また、石油消費量で米国に次ぐ世界第2位となって世界の石油市場で極めて大きな存在となり石油備蓄も意欲的に拡大しつつある中国に対して日本の知見・技術を共有することによって、アジアの石油備蓄体制を含む石油セキュリティ強化、アジアワイドでの石油セキュリティ構築への取り組みを行っている。33石油・天然ガスレビューアナリシス.OECD非加盟国の石油需要割合の増加とIEAによる非加盟国との関係強化の取り組み(1)世界の石油需要の推移と今後の展望 世界の石油消費は、経済活動の活発化とともに増加の一途をたどってきた。世界の石油消費は、1965年に3,081万バレル/日、第1次石油危機が発生した1973年には5,556万バレル/日、2014年には9,209万バレル/日と増加してきた。2014年の消費量は、1965年比で3倍、1973年からの増加率は166%となっている。 第1次石油危機後、いわゆる先進国(OECD加盟国)の石油消費は、1973年の4,132万バレル/日(世界の74%)から1970年代後半にかけて増加傾向を示したものの、1980年代には消費が減少した。その後、1980年代後半以降、経済の拡大とともに緩やかに消費は増加したが、近年の自動車燃費の改善や石油価格高騰を背景に、2005年以降は減少傾向を見せており、直近の2014年の需要は4,506万バレル/日(同48%)となっている。 一方、近年著しい石油消費の増加を示しているのがいわゆる開発途上国(OECD非加盟国)である。開発途上国の石油消費は堅調な経済成長に伴い、1973年の1,424万バレル/日(世界の26%)から増加し、2014年には4,703万バレル/日(同52%)となりOECD加盟国を上回った。 また、今後は、図1に記載のIEA“World Energy Outlook 2015”の主な展望(石油関連)のとおり、中国、インド等を中心に、今後ともOECD非加盟国の需要が増加、OECD加盟国の需要が減少していくと予想されている。○中国:2030年代までに米国を抜き世界最大の石油消費国に○インド:①石油需要は他のどの国よりも増加し、2040年までに日量1,000万バレルに迫る(2014年需要実績日量385万バレル)、②2040年までに輸入依存度は90%を超える(2014年実績77%)○米、EU、日本:需要合計は2040年までに日量約1,000万バレル減少(2)2014年の石油消費量上位20カ国・地域の生産量とIEAとの関係 このように、エネルギー需要がOECD非加盟国(IEA非加盟国)へシフトするなか、IEAにとっては、加盟国との緊密な関係を維持するとともに、世界的なエネルギー安全保障を強化するために引き続き非加盟国との組織的な結びつきを深めていくことが極めて重要なテーマとなっている。百万バレル/日10090807060504030201026%25%75%74%非OECD割合26%(1973年)52%↓52%(2014年)その他その他旧ソ連邦諸国ロシアブラジルインド中国OECDOECD割合74%(1973年)↓48%48%(2014年)2040年需要予測1億350万バレル/日IEA“WorldEnergyOutlook2015”の主な展望(石油関連)○中国:2030年代までに米国を抜き世界最大の石油消費国に○インド:①石油需要は他のどの国よりも増加し、2040年までに日量1,000万バレルに迫る(2014年需要実績日量385万バレル)②2040年までに輸入依存度は90%を超える(2014年実績77%)○米、EU、日本:需要合計は2040年までに日量約1,000万バレル減少0196519701973197519801985199019952000200520102014年OECD非加盟国(開発途上国)OECD加盟国(先進国)世界合計1973年(第1次石油危機発生時)1,424万バレル/日(26%)4,132万バレル/日(74%)5,556万バレル/日(100%)2014年実績(注)割合はトンで計算されている4,703万バレル/日(52%)4,506万バレル/日(48%)9,209万バレル/日(100%)出所:実績はBP統計2015、予測と展望はIEAホームページ掲載“World Energy Outlook 2015”を基に作成2040年増加率(1973?2014)330%109%166%図1 世界の石油需要推移(OECDおよび非OECDの割合)と主な展望342016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み- 2015年11月に開催されたIEA閣僚理事会では、IEA非加盟国の9カ国(ブラジル、チリ、中国、インド、インドネシア、メキシコ、モロッコ、南アフリカ、タイ)のハイレベルが出席し、このうち、中国、インドネシア、タイがアソシエーションに参加してIEAとの協力関係を強化していくこととなった。また、OECD加盟国のうちIEA未加盟5カ国(アイスランド、メキシコ、チリ、スロベニア、イスラエル)のうち既に加盟手続き中のチIEA加盟国IEA association参加IEA加盟国IEA 閣僚理事会出席IEA 閣僚理事会出席IEA加盟国IEA加盟国IEA加盟国IEA加盟意図表明IEA association参加IEA加盟国IEA加盟国IEA association参加消費量順位123456789911121314151617181920国名または地域名アメリカ中国日本インドブラジルロシアサウジアラビア韓国カナダドイツイランその他アフリカメキシコインドネシアフランスその他中東イギリスタイシンガポールその他中南米世界全体の消費量石油消費量(赤)と石油生産量(青)(千バレル/日)19,03511,64411,05610,83811,5054,2464,298データなし3,8468953,2292,3463,1963,1852,456データなし2,3714,2922,371データなし2,0243,6141,9852521,9412,7841,6418521,615データなし1,5882131,5018501,2744531,273データなし1,221149世界に占める消費量の割合注:トンで計算19.9%12.4%4.7%4.3%3.4%3.5%3.4%2.6%2.4%2.6%2.2%2.2%2.0%1.8%1.8%1.8%1.6%1.3%1.6%1.4%(参考)想定貿易量(生産量?消費量)プラスは輸出、△は輸入(千バレル/日)△7,391△6,810△4,298△2,951△8837,6428,320△2,4561,921△2,3711,590△1,733843△789△1,615△1,375△651△821△1,273△1,07292,086100%(注) 生産量は、原油、シェールオイル、オイルサンド、NGLs(Natural Gas Liquids)を含み、他の液体燃料(バイオマス、石炭派生物、天然ガス等)を除く。消費量は、バイオガソリン(エタノールなど)、バイオディーゼル、石炭派生物、天然ガスを含む。12位のその他アフリカは、エジプト、南ア、アルジェリアを除く。16位のその他中東は、サウジアラビア、イラン、UAE、クウェート、カタール、イスラエルを除く。20位のその他中南米は、ブラジル、べネズエラ、アルゼンチン等を除く(メキシコは北米扱い)。表枠外左側の表記は筆者が追加。「IEA 加盟国」以外の記述は2015年11月のIEA閣僚理事会で表明等されたもの。右端の(参考)列は、筆者が想定して追加したもの。出所:BP統計2015図22014年の石油消費量上位20カ国・地域の生産量とIEAとの関係35石油・天然ガスレビュー鰍ノ加えてメキシコがIEA加盟に向けた協議を開始する意図を表明した。この結果、世界の石油消費量上位20カ国・地域とIEAの関係は図2のようになった。今後とも関係強化への取り組みが継続されていくと考えられる。 IEAと非加盟国、特にエネルギー消費の増加が著しいアジアの新興国との関係強化は,日本のエネルギー安全保障の向上に資するものと考えられる。このため、JOGMECは、IEAおよびその加盟国との連携強化に引き続き取り組むとともに、特にわが国のエネルギー安全保障上アジア地域の石油備蓄体制強化が重要であることから、ASEAN諸国、中国等のアジア諸国に対して日本の知見や技術の共有などによる石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強力に推進していく方針である。2.国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力への取り組み(1)IEAの設立、主な加盟要件、加盟国備蓄保有量 第二次世界大戦後、1950年代に石油が主要なエネルギー源となっていくなか、数度の石油供給途絶が発生した。最初の大規模な石油供給途絶は1956年に発生したスエズ危機で、ピーク時の推定供給途絶量は約200万バレル/日だった。その後、最大のものは1978年のイラン革命で、ピーク時の推定供給途絶量は約560万バレル/日だった。ただし、途絶の重大さは、その途絶量だけで決まるわけではない。他の要素、例えば、商業在庫量、供給途絶の期間、余剰生産能力、供給途絶となった原油の性状(一般的に、原油は、炭化水素を主成分として、微量の硫黄、窒素、酸素、金属などを含む天然物であり、国や産地、油田によって、比重や含まれる成分などが異なる)、季節的な傾向、ロジスティクス等が影響するため、全ての供給途絶は個別に評価する必要がある。 1961年に設立されたOECD(日本は1964年に加盟)は石油供給途絶に対応することを目的に、加盟国に対して、1962年に60日分の石油備蓄保有を勧告、続く1971年に90日分石油備蓄保有を勧告した。その後、1973年10月の第4次中東戦争に端を発して極めて大規模な石油供給途絶に発展した第1次石油危機の混乱の経験から、エネルギー問題について国際協力が必要なことが石油消費国の間に改めて認識されることとなった。すなわち、当時世界の石油消費量の74%を占めていたOECDの枠内において石油供給途絶時の協調対応を調整する組織としてOECD加盟国の一部の国により1974年にIEAが設立された。 IEAの主な加盟要件は、①OECD加盟国(現在34カ国)、②備蓄基準(前年の当該国の1日あたり石油純輸入量の90日分)を満たすこととされ、IEAは石油供給途絶の緊急事態が発生またはそのおそれがある場合には、加盟国が協調して備蓄の放出等を行うことになっている。これFeb - Oct 2011Sep 2008Sep 2005Mar - Dec 2003Dec 2002 - Mar 2003Jun - Jul 2001Aug 1990 - Jan 1991Oct 1980 - Jan 1981Nov 1978 - Apr 1979Oct 1973 - Mar 1974Jun - Aug 1967Nov 1956 - Mar 19571.51.31.5Libyan CivilWarHurricanes Gustav/IkeHurricanes Katrina/RitaWar in IraqVenezuelan strikeIraqi oil export suspensionIraqi invasion of KuwaitOutbreak of Iran-Iraq warIranian RevolutionArab-Israeli War and Arab oil embargoSix-Day WarSuez Crisis2.32.62.12.02.02.0出所:IEAホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”0.01.0百万バレル/日Gross peak supply loss4.14.34.35.63.04.05.06.0図3 過去の主な石油供給途絶362016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-まで、3回のIEAによる協調行動が実施され、石油供給の大半を外国に依存する日本にとってIEAは日本のエネルギー安全保障上、極めて重要な機関となっている。 現在のIEA加盟国は、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、仏、独、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、伊、日本、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、韓国、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国(アルファベット順)の29カ国。〈参考1〉OECDに加盟しているが、IEAには未加盟の 国(5カ国)はアイスランド、メキシコ、チリ、スロベニア、イスラエル 〈参考2〉IEA加盟国のうち石油純輸出国は、IEA備蓄義務の対象外(現在は3カ国:ノルウェー、カナダ、デンマーク) 〈参考3〉EU加盟国は、EU指令に基づく石油備蓄義務がある(純輸入量90日分または消費量61日分の多いほう) 2013年6月時点で、IEA加盟国の石油備蓄量は図4に見るように約42億バレルある。このうち、15億バレル程度は公的備蓄(国家備蓄と協会備蓄)であり、緊急時対応を目的としている。26億バレル程度は民間備蓄で、政府により義務付けられた備蓄と商業在庫を合わせたものである。(2)IEAの石油供給途絶の緊急時対応メカニズムと石油備蓄の協調放出実績 IEA設立当初の石油供給途絶の緊急時対応メカニズムは、IEA設立の基となった1974年締結の国際エネルギープログラム(IEP:International Energy Program)に規定されており、その後、石油市場の発達などに伴い、下記のように設立当初の制度から柔軟性を高める制度に変更されてきている。設立当初(1974年): ESS(Emergency Sharing System:緊急時融通システム)1980年代以降: CERM(Coordinated Emergency Response Measures:協調的緊急時対応措置)2002年以降: ICRP(Initial Contingency Response Plan:初期緊急時対応計画)○主な目的・ 石油供給途絶に対して一時的に石油備蓄放出等によって代替供給を行い、石油供給途絶によって生じる経済的ダメージを緩和する・ 石油市場が需要と供給のバランスを取り戻すことを促す○具体的対応・ 重大な石油供給途絶時には、IEAは加盟国による協調行動による対応として石油備蓄の放出を行う・ これに加え、それが可能な加盟国による石油生産の急増、需要抑制、燃料転換を行う百万バレルIndustryPublic4,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000 5000198419861988199019921994199619982000200220042006200820102012年出所:IEAホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”図4IEA加盟国が各年末時点で保有した石油備蓄量推移(1984~2013年6月末)37石油・天然ガスレビュー專坙{政府は、石油供給不足の危機やそのおそれがある事態に際し、過去に5回(※)の備蓄石油放出の判断を行ったが、いずれも民間備蓄義務日数の引き下げで対応し、国家備蓄や産油国共同備蓄の緊急放出を行った実績はない。(※)このほか、石油供給危機のおそれはないが、タンカー座礁事故を「やむを得ない事情」として基準備蓄量引き下げを認めたケースがある。○そのうち3回については、IEAにおいて協調行動が決定され、わが国はその枠組みのなかで協調放出を実施した。●1991年湾岸戦争のケース1991年1月、ペルシャ湾岸地域で戦闘が発生した場合の石油の供給不足に備え、IEAが日量250万バレルの石油備蓄放出を決定。→わが国は、民間備蓄義務日数を4日分(82日→78日)引き下げ●2005年米国ハリケーン・カトリーナのケース2005年8月、ハリケーン「カトリーナ」による米国における石油施設等の被害の状況を踏まえ、IEAが日量200万バレルの石油備蓄放出を決定。→わが国は、民間備蓄義務日数を3日分(70日→67日)引き下げ●2011年リビア情勢悪化のケース2011年6月、リビア情勢悪化による石油供給不足に対応するため、IEAが日量200万バレルの石油備蓄放出を決定。→わが国は、民間備蓄義務日数を3日分(70日→67日)引き下げ●1979年第2次石油危機のケース1979年3月、前年10月のイラン政変に伴う供給削減により、80日分(当時)の備蓄義務日数維持が困難な会社が続出。→個別の会社ごとに民間備蓄義務日数の減少申請(5~25日)を受け入れ●2011年東日本大震災のケース2011年3月、東日本大震災による石油供給不足に対応するため、わが国は独自に石油備蓄の放出を決定。→民間備蓄義務日数を段階的に25日分(70日→67日→45日)引き下げ出所: 経済産業省ホームページ掲載 平成26(2014)年4月28日 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 資IEA協調行動として料を基に作成の放出(3回)日本独自の放出図5 過去のIEA協調行動としての石油備蓄放出と日本独自の放出・ 目的の重要な要素は市場の安定であって、価格のコントロールではない※ 緊急時には、IEAは、産油国(OPECおよび非OPEC)、IEA非加盟の消費国とも緊密に連携して対応(3)IEA加盟国の石油備蓄制度 IEA加盟国には、義務となっている純輸入量90日分の備蓄を行うため、下記の備蓄制度がある。①国家備蓄:緊急時対応のために一般的に政府資金により備蓄する方式 一般的に、政府の税収を原資として、政府が直接あるいは備蓄機関を通じて備蓄基地と備蓄石油を保有し、運営を行うシステム。②協会備蓄:公的あるいは民間企業により設立されたAgencyによる備蓄方式国家備蓄協会備蓄チェコエストニアベルギードイツニュージーランド日本オーストリアデンマークオランダアメリカ韓国ポーランドポルトガルフィンランドスペインフランスイタリアハンガリーアイルランドスロバキアルクセンブルクギリシャノルウェースウェーデンスイストルコイギリス民間備蓄(注)記載のない豪州、カナダは民間会社の商業在庫のみ。出所:IEAホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”を基に作成図6IEA加盟国の石油備蓄制度 一般的に、法律に基づいて設置される公的な協会備蓄実施機関が中心となり、業者負担金によって備蓄事業を推進するシステム。その法的な立場やシステムは、各国の市場構造や考え方の違いにより少しずつ異なっている。③民間備蓄:民間会社が義務的に備蓄、あるいは商業在庫として備蓄する方式 一般的に、法律に基づいて備蓄義務を課された石油企業等の民間企業が、規定されたある一定水準以上の備蓄量を自らの施設と費用で保有するシステム。企業備蓄制度とも呼ばれる。(注) IEAは、国家備蓄と協会備蓄を「公的備蓄」としている。 なお、制度としては上記のようにイメージがまとめられるが、各国の制度を詳細に見ていくと、その消費量、地質(例えば、岩塩ドーム貯槽をつくることが可能な岩塩ドームの有無、地下岩盤貯槽をつくることが可能な岩盤の有無や規模など)、財政等の要因でさまざまな部分が異382016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-なっている。そのため、筆者が過去に欧州の備蓄機関関係者と話していた際には、先方から「10カ国あったら、備蓄制度は11種類ある」という冗談が出たほどだった。(4)JOGMECのIEAとACOMES会合への参加による連携協力への取り組み①IEAの緊急時問題常設作業部会(SEQ)への参加 IEAが原則年3回開催するSEQへの参加を通じてIEAとの連携協力を推進し、わが国のプレゼンスを高め、石油市場および石油備蓄に係る各国の情報を入手し、国際協調に基づく緊急時対応への即応能力の維持・向上を図っている。②ACOMES総会と分科会への参加 世界石油備蓄機関年次会合(ACOMES)(30カ国参加)が原則年1回開催する総会に加え、分科会への参加を通じて参加各国の石油備蓄実施機関との連携協力を推進し、わが国のプレゼンスを高め、石油市場と石油備蓄に係る各国の情報を入手し、わが国石油備蓄事業の効率的な運営に貢献するとともに、国際協調に基づく緊急時対応への即応能力の維持・向上を図っている。〈参考〉 世界石油備蓄機関年次会合(ACOMES: Annual Coordinating Meeting of Entity Stockholders)参加国(30カ国):オーストリア、ベルギー、ブルガリア、中国、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、仏、独、ハンガリー、アイルランド、伊、イスラエル、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、蘭、ポーランド、ポルトガル、韓国、スロバキア、スロベニア、スペイン、スイス、米(アルファベット順)(5)JOGMECが2国間で定期協議を行っているIEA加盟国 上記のように、IEA加盟国29カ国のうち国家備蓄制度があるのは6カ国(日、米、韓、ポーランド、チェコ、ニュージーランド)である。JOGMECでは、このうち、日本の近隣にあること、備蓄規模が大きいことなどから、米国と年1回、韓国とおおむね年3回、各国の備蓄機関と定期的に2国間協議を行って連携を強化し、政策・技術動向に関する情報交換や連携を平時より強力に推進している。また、人的交流の拡大、知見の共有などを通じて更なる関係強化、ネットワークの充実を図ることで、日本のエネルギー安全保障向上に貢献すべく取り組みを行っている。①米国 米国エネルギー省(DOE:DepartmentofEnergy)との定期協議 IEA加盟国であり世界最大の石油備蓄、国家石油備蓄保有国である米国のエネルギー省(DOE)との定期協議を年1回開催し、両機関の業務効率性・機能性向上に貢献している。 JOGMECとDOEの2国間交流は石油公団の時代に開始され、2000年頃まで技術定期協議を行ってきた。2004年のJOGMEC設立後は、意見交換、DOE主催の石油備蓄シンポジウムへの参加等を通じて両機関の連携強化を図り、その後、数年前から年1回の協議を再開している。国家備蓄a.戦略石油備蓄(SPR:StrategicPetroleumReserve) 世界最大の国家原油備蓄。1973年から1974年に発生した第1次石油危機を受けて創設され、メキシコ湾岸地域の巨大な地下の岩塩ドーム(ソルトドーム)内につくられた貯槽をもつ4基地(テキサス州2基地、ルイジアナ州2基地)に原油が備蓄されており、米国がIEAによる備蓄義務を達成するための重要な手段となっている。メキシコ湾岸には、500以上の岩塩ドームが集中して存在し、安全かつ安価な石油貯蔵が可能であるとされている。また、メキシコ湾岸は、米国内でも多くの製油所やタンカー、パイプラインなどの配送拠点となっていることから基地の立地地点として選定されている。1977年、米国政府は最初の備蓄基地用にいくつかの既存の岩塩ドー表1 米国の石油備蓄概要備蓄量合計国家備蓄(エネルギー省が管理)民間備蓄(備蓄義務なし:商業在庫のみ)約20億バレル(2016年4月1日時点)・SPR(原油):約7億バレル(国家石油備蓄基地4基地は全て岩塩ドーム貯槽)・北東部ホームヒーティングオイル備蓄:100万バレル(地上タンクを借り上げ)・北東部ガソリン備蓄:100万バレル(地上タンクを借り上げ)約13億バレル 〈内訳〉原油:約5億バレル、製品:約8億バレル出所:DOEエネルギー情報局(EIA)ホームページ、DOEホームページ39石油・天然ガスレビュー\2 米国SPR備蓄基地概要基地名場所Bryan MoundBig HillWest HackberryBayou Choctaw出所:DOEホームページテキサス州テキサス州ルイジアナ州ルイジアナ州備蓄量約2.45億バレル約1.62億バレル約2.13億バレル約0.73億バレル岩塩ドーム貯槽数2014227SPR Storage SitesBayouChoctawWestHackberryBig HillBryanMoundGulf of Mexico出所:DOEホームページ図7 米国SPR備蓄基地位置図ム貯槽を入手し、同年に最初の地上施設の建設と最初の原油備蓄を開始した。に支障が出たことを踏まえ、2014年に創設された(DOEホームページ)。b.北東部ホームヒーティングオイル備蓄(NEHHOR:②韓国 韓国石油公社(KNOC:KoreaNationalOilNortheastHomeHeatingOilReserve)Corporation)との定期協議 一般家庭などがヒーティングオイルに大きく依存している米国北東部地域向け超低硫黄ディーゼルであり、備蓄量は100万バレル。この地域では、家庭の約80%に相当する約620万家庭がヒーティングオイルを利用しており、供給途絶に特に脆弱な地域となっていることに対応して2000年に創設された。ぜいじゃくc.北東部ガソリン備蓄(NGSR:NortheastGasolineSupplyReserve) ハリケーンなどの自然災害を原因とするガソリン供給途絶に特に脆弱な米国北東部地域の消費者向けに創設されたガソリン備蓄。備蓄量は100万バレル。2012年のハリケーン・サンディーでは、広い地域でガソリン供給 アジアでは、日本と韓国のみがIEA加盟国であり、連携強化が極めて重要となっている。JOGMECとKNOCは1980年代頃から交流を開始し、2004年に双方の情報交換などを目的としたMOUを締結。2007年に戦略協力協定(SAA:Strategic Alliance Agreement)を締結して更なる関係強化を図り、以後この協定に基づく定期協議をおおむね年3回実施、両機関の業務の効率性、機能性を高めるとともに、アジア諸国の備蓄協力体制整備に向けて両国で協力して貢献している。 韓国政府は、1970年代に発生した2度の石油危機が韓国経済と国民生活に大きな動揺を与えたことを踏まえ、次の危機を防ぐため、韓国石油開発公社(PEDCO:Korea Petroleum Development Corporation)を1979年402016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-表3 韓国の石油備蓄概要備蓄量合計国家備蓄(KNOCが管理)約1.76億バレル(2013年4月末時点)約0.9億バレル(0.93億バレル:2016年3月時点〈KNOCホームページ〉) 〈内訳〉原油:86%、製品:14% (参考:9国家備蓄基地の容量のうち、約9割は原油用、約7割は地下岩盤貯槽)民間備蓄(備蓄義務) 原油精製業者:販売量40日分 LPG輸入業者等:販売量30日分約0.86億バレル 〈内訳〉原油:43%、製品57%出所:IEAホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”、KNOCホームページ出所:KNOCホームページ図8 韓国の国家石油備蓄基地の位置と容量等概要に設立(1999年にKNOCに名称変更)。KNOCは国家石油備蓄を担当し、管理している備蓄基地は9基地、合計貯蔵容量は約1億4,600万バレル、2016年3月時点の国家備蓄量は9,300万バレル(KNOCホームページ)。〈参考〉日本の石油備蓄と石油ガス(LPガス)備蓄の概要 LPガス(LPG)とは、Liquefied(液化)Petroleum(石油)Gas(ガス)の頭文字をとった液化石油ガスの略称で、石油ガスとも呼ばれる。プロパン(C3H8)とブタン(C4H10)を主成分とする炭化水素で、主成分がプロパンの場合はプロパンガス、ブタンの場合はブタンガスと呼ばれる。 LPガスは常温常圧下では気体だが、冷却または加圧により液体になり、液体になると気体時の体積の約250分の1になる。冷却して液化する温度はプロパンが氷点下約42℃、ブタンが同約0.5℃である。常温で加圧して液化する圧力はプロパンが約8.5気圧、ブタンが約2.1気圧。 なお、メタン(CH4)を主成分とする天然ガスも常温常圧下では気体だが、液化したものはLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)と呼ばれ、天然ガスは氷点下約162℃まで冷却すると液体になり、液体になると気体時の体積の約600分の1になる。41石油・天然ガスレビュー痩ニ備蓄原油は、10カ所の国家石油備蓄基地に貯蔵するほか、借り上げた民間石油タンク(製油所等)にも貯蔵。国家備蓄基地民間タンク借り上げで国家備蓄石油を貯蔵している基地沖縄石油基地(OCC)沖縄ターミナル(OTC)上五島(洋上タンク)白島串木野JX・喜入志布志秋田新潟共備昭和シェル・新潟東港西部石油・山口福井北海道共備苫小牧東部むつ小川原(地上タンク)三菱商事・小名浜鹿島石油・鹿島富士石油・袖ケ浦久慈(地下岩盤タンク)JX・大崎菊間出光興産・愛知JX・知多(※)産油国共同備蓄:わが国のタンクに産油国国営石油会社(NOC)が保有する在庫で、危機時にはわが国企業が優先供給を受けることが保証されている。エネルギー基本計画(平成26〈2014〉年閣議決定)では「第3の備蓄」と位置付けられている。出所:経済産業省ホームページ掲載 平成28(2016)年2月16日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料図9 わが国の国家備蓄石油の貯蔵場所(原油)表4 日本の石油備蓄概要備蓄量合計国家備蓄民間備蓄産油国共同備蓄(原油)約5.2億バレル(IEA基準日数:166日分)約3.1億バレル(IEA基準日数:98日分) 〈内訳〉原油:約3億バレル(JOGMECが管理)、製品:約0.09億バレル(民間石油会社等が管理)約2億バレル(IEA基準日数:66日分) 〈内訳〉原油約1億バレル、製品約1億バレル約0.09億バレル(IEA基準日数:3日分) (参考:UAE〈アラブ首長国連邦〉、サウジアラビアとの間で2009年以降開始)(注1) 民間備蓄義務量は「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき、国内の消費量を基に計算した70日分で、2016年3月末現在の保有量は81日分。(注2) IEA基準日数は試算で参考値(暫定値)。IEA公表の数字とは必ずしも一致しない。出所: 経済産業省資源エネルギー庁ホームページ掲載「石油備蓄の現況」2016年5月(2016年3月末現在)および同省ホームページ掲載 平成28(2016)年2月16日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料を基に作成七尾(石川県)施設容量:25万トン備蓄方式:地上低温倉敷(岡山県)施設容量:40万トン備蓄方式:地下常温福島(長崎県)施設容量:20万トン備蓄方式:地上低温地下 地上 地下 地上 地上 七尾基地神栖((cid:7962)城県)施設容量:20万トン備蓄方式:地上低温波方基地(上:地上設備、 下:地下岩盤貯槽)出所: 経済産業省ホームページ掲載 平成28(2016)年2月16日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料波方(愛媛県)施設容量:45万トン備蓄方式:地下常温図10わが国の国家備蓄LPガスの貯蔵場所422016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-備蓄量合計国家備蓄民間備蓄表5 日本の石油ガス(LPガス)備蓄概要288万8,000トン115万トン(日数:40.8)(JOGMECが管理)173万8,000トン(日数:61.7)(注) LPガス民間備蓄は、「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき、LPガス輸入業者に対して、年間輸入量の50日分に相当する量の備蓄を義務付けることにより実施している。出所:経済産業省資源エネルギー庁ホームページ掲載「LPガス備蓄の現況」2016年5月(2016年3月現在)体制移行前体制移行後(2004〈平成16〉年2月29日以降)①国家備蓄石油石油公団資産の所有者②国家備蓄基地施設国家備蓄会社(石油公団70%出資)③国家備蓄基地用地石油公団国家備蓄の実施主体石油公団国国(JOGMECが統合管理※)国家備蓄基地の操業国家備蓄会社JOGMECから操業会社(民間などが出資)に操業委託※国家備蓄の統合管理とは・・・統合管理業務とは、ただ単に国家備蓄石油や国家備蓄基地そのものを維持管理するだけではなく、石油備蓄に要する費用の低減化の検討、災害時の対応、緊急放出時の迅速な対応のための仕組みづくり等、国が単独ではできない石油備蓄に関するあらゆる業務のこと。(注)この図での「国家備蓄石油」とは原油、石油ガスを指す。出所:JOGMEC ホームページ掲載 パンフレット「石油の備蓄」図11日本の国家石油備蓄に係る体制移行3.国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み200020132025Demand2040年Net tradeProductionSoutheast Asia net trade by fossil fuel2013年*-3.357%2020年-4.161%2025年-5.070%2030年-5.875%2035年-6.478%2040年-6.779%図12ASEANfossilfuelproductionandtradeOil(mb/d) Import dependency43石油・天然ガスレビュー百万バレル/日Oil 02468-2-4-6-8 日本のエネルギー安全保障上、アジア地域の石油備蓄体制強化は極めて重要である。これを踏まえ、JOGMECは、アジア諸国、とりわけASEAN諸国に対してIEAとも連携しつつ石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強力に推進してきた。また、石油消費量で米国に次ぐ世界第2位となって世界の石油市場で極めて大きな存在となり石油備蓄も意欲的に拡大しつつある中国に対して日本(注1) 2013年に記載されているデータは2014年の数字。(注2) 東南アジアは海運および航空の重要なハブであるため、石油の需要量に占める国際交通用燃料であるバンカー油の割合が他の地域よりも高い。そのため、World Energy Outlookの作成では通常は地域の需要分析から除外されているバンカー油について、この東南アジアの需要見通しには含めている。出所:IEAホームページ掲載 “ South East Asia Energy Outlook 2015”~ャンマー:備蓄義務:なし 輸入量の50日分相当程度を保有MyanmarMalunThanbayakanPromeラオス:備蓄義務:輸入量の15日分ベトナム:備蓄義務:消費量の30日分 マスタープランでの目標:輸入量の90日分相当Lao PDRVientianeVinhHainan(China)SanyaThanlynYangonThailandタイ:備蓄義務:消費量の43日分緊急時用備蓄を消費量の90日分相当まで引き上げることをコミットしているBangkokSri RachaCambodiaPhnom PenhAndaman SeaRayongGulf ofThailandBa RiaHo ChiMinh CityVung tauCon Son BasinLuzonSubic BayLimayManilaBatangas/TabangaoDung QuatVietnamSouth ChinaSeaPhilippine SeaPhilippinesCebuLeyteSulu SeaLabuan Isl.Bandar Seri BegawanCelebes SeaManadoMolucca SeaKalimantanBorneoBontang/SantanBalikpapanLawi LawiSeniphaArunKuala BeukahMalaysiaKertehカンボジア:備蓄義務:消費量の30日分Pangkalan BrandanDumaiSungai PakningKuala LumpurPt. DicksonMelakaSingaporeLafengNatunaNatuna SeaBruneiLumutBintuluSarawak(Malaysia)SungaisalakSumatraマレーシア:備蓄義務:なし緊急時には、首相はPetronasの在庫を完全にコントロールする指示を出すことが可能MusiPalembangPlaju/SungeigerungJavaSeaInJakartaBalonganCiberon出所:IEAホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”を基に作成図13ASEAN諸国の石油備蓄の現状dSurabayaonesiaBanda SeaCepuPolengBaliCilacapJavaシンガポール:備蓄義務:電力会社はバック アップ用燃料90日分FloresDiliEast TimorTimorインドネシア:備蓄義務:なし Pertaminaは、操業在庫とし て、消費量の約22日分を保有Crude oil pipelineRefineryTanker terminalMajor oil fieldKm4500900Pacific Oceanフィリピン:備蓄義務: 精製業者-15日分 輸入業者-7日分ブルネイ:備蓄義務:製品輸入量の31日分緊急時には、政府は石油産業保有の石油全量をコントロール下に置くことが可能Irian JayaSalawatiKasimMuturiArandaiASEAN+3首脳会合エネルギー大臣会合高級事務レベル会合石油市場・天然ガスフォーラム新エネ・省エネ・再生可能エネルギーフォーラムの知見・技術を共有することによって、アジアの石油備蓄体制を含む石油セキュリティ強化、アジアワイドでの石油セキュリティ構築への取り組みを行う計画である。(1)ASEAN諸国の石油需給見通しと石油備蓄の現状エネルギーセキュリティフォーラム石油備蓄WG ASEAN諸国の石油需給見通しは、図12が示すように、2000年頃まで域内の石油生産と消費は概してバランスが取れていたが、その後は消費の急増と生産の減少で輸入依存度が急速に高まっていく見通しとなっている。 しかし、ASEAN諸国の石油備蓄の現状は、図13のとおりIEA備蓄基準(純輸入量の90日分)に比べて低い水準にあり、石油セキュリティ構築のために備蓄体制を整備する必要が高まっている。(2)ASEAN+3(日中韓)エネルギー協力枠組みと石油備蓄WG こうした状況下、2002年に日本が提案した「日中韓ASEANエネルギー協力(平沼イニシアチブ)」に基づき、ASEAN+3エネルギー大臣会合の下に「石油備蓄WG出所: 経済産業省ホームページ掲載 平成26(2014)年4月28日 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 資料図14ASEAN+3エネルギー協力枠組みと石油備蓄WG(ワーキンググループ)」が設置された。このWGでは、ASEANのエネルギー関連機関であるACE(ASEAN Center for Energy)とJOGMECが共同事務局を担当している。 「石油備蓄WG」では、2008年から「ASEAN+3石油備蓄ロードマップ」(OSRM:Oil Stockpiling Roadmap)の検討を開始し、これは2010年のASEAN+3エネルギー大臣会合で、ASEAN各国の石油備蓄の長期的な取り組442016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-み方針で自主的かつ拘束力のない非公表目標として承認された。その後、ASEAN各国は、その目標設定や進捗度に差はあるものの、目標達成に向けた努力を続けている。JOGMECは、共同事務局として毎年WGを開催し、ASEAN各国の進捗情報の共有、日中韓からの知見の共有などを行ってきている。(3)JOGMECによるASEAN諸国の石油備蓄体制整備への協力、働きかけ 以上のように、JOGMECは、石油備蓄WGの共同事務局として、また、経済産業省資源エネルギー庁との協力により日本として、ASEAN諸国の石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強力に推進しているが、平成26年度と平成27年度の主な実績を以下に示す。の石油備蓄政策の説明、久慈国家石油備蓄基地と製油所への視察を受け入れ、カンボジアが検討中の石油備蓄マスタープラン策定に資するよう日本の知見・技術を共有し、次官を含めカンボジア側から極めて高い評価を受けた。 石油備蓄ニーズ調査の実施 本調査は、カンボジア・鉱業エネルギー大臣からの要請を受け、鉱業エネルギー省とJOGMECの間で覚書を締結して実施したもの。調査は、招へいした担当次官から直接要請を受けた内容を実施した。2015年3月、プノンペンで次官、局長他が参加した成果報告会を開催し、カンボジアの石油備蓄マスタープラン策①平成26年度実績a.石油備蓄WG共同事務局としての現地調査(初めての取り組み) ASEAN各国の石油備蓄の現状把握とロードマップへの取り組みのフォローアップを目的として、石油備蓄WGの共同事務局であるJOGMECとACEが共同で初の現地調査を実施した。各国の石油備蓄担当省庁幹部他から進捗状況を直接聴取するとともに、日本の石油備蓄の経験の共有等を実施し、各国の石油備蓄制度構築の検討に大きく寄与した。 ・8月: カンボジア、ラオス、フィリピン ・12月: ベトナム、ミャンマー、インドネシアb.日本としての協力2国間協力(初めての取り組み)-カンボジア 同国鉱業エネルギー省(Ministry of Mines and Energy)石油総局(General Department of Petroleum)との間で下記の協力を行った。 担当次官の招へい 2014年11月、担当のティナ次官を含む3名を日本に招へいして日本45石油・天然ガスレビュー出所:JOGMEC撮影写1 ラオスの担当省庁(MinistryofEnergyandMines)での協議の際に(前列左端が筆者)出所:JOGMEC撮影写2 課長級研修の志布志国家石油備蓄基地視察閧ノ必要なデータや考え得る政策オプションを提言し、カンボジア側から極めて高い評価を受けた。②平成27年度実績日本としての協力Ⅰ)ASEAN諸国のための石油セキュリティ構築支援研修(初めての取り組み) 本研修は、ASEAN側から2014年2月に開催されたASEAN+3石油備蓄WGなどで、石油備蓄に関する人材育成研修開催の要望が出されたことを踏まえ、アジア地域の石油セキュリティ向上を目指してASEAN諸国の人材育成研修として初めて実施した取り組みである。初めて開催した2015年度には、ASEAN各国の石油政策を担当する省庁幹部に対して、局長級(6月)、課長級(11月)の2度、研修を行い、日本の石油政策、石油分野における対ASEAN協力事業、国際機関が協働して整備を進めている石油の統計データベースなどに関する研修に加え、国家石油備蓄基地、製油所等の現地視察受け入れなどを行った。 2015年10月に開催されたASEAN+3エネルギー大臣会合での大臣共同声明では、下記のとおり本研修(局長級)に対する感謝、フォローアップ活動としての本研修(課長級)の実施を歓迎する旨が盛り込まれ、ASEAN側から極めて高い評価を受けた。この大臣共同声明では、OSRM事務局(JOGMECとACE)による石油備蓄WGの運営に対する感謝も盛り込まれた。Energy(ACE:石油備蓄等ASEANエネルギー協力の事務局)、ASEAN Council on Petroleum(ASCOPE:石油供給途絶時におけるASEANの緊急時対応事務局) ・場所:JOGMEC、経済産業省 ・視察先: 苫小牧東部国家石油備蓄基地、出光興産株式会社北海道製油所等 ASEANにおける石油備蓄のあり方や石油供給途絶時の対応などについて現状の課題や今後の協力の方向性についての意見交換等も行った。 課長級 ・実施期間:11月16~20日 ・参加者: ASEAN各国の石油政策を担当する課長級幹部8名(カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム) ・場所:JOGMEC、経済産業省 ・視察先: 志布志国家石油備蓄基地、串木野国家石油備蓄基地、JXエネルギー株式会社根岸製油所、JX喜入石油基地株式会社喜入基地 ASEANにおける石油備蓄のあり方や石油備蓄の構築に向けた取り組み状況、現状の課題や今後の協力の方向性についての意見交換等も行った。この課長級研修は、6月に実施した局長級研修を通じて得られた参加国のニーズも踏まえて、開催したもの。 局長級 ・実施期間:6月15~19日 ・参加者: ASEAN各国の石油政策を担当する局長級幹部7名(カンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム)、IEA、ASEAN Center for Ⅱ)2国間協力-カンボジアに対する「石油備蓄に係る法令ニーズ調査」の実施 2015年度の石油備蓄ニーズ調査は、カンボジアに対して「石油備蓄に係る法令ニーズ調査」を実施した。この調査は、カンボジア側の要請に基づき、JOGMECが経済産業省資源エネルギー庁と協力して日本の石油備蓄等に表6ASEAN+3エネルギー大臣会合での大臣共同声明(抜粋)共同声明(仮訳)第12回ASEAN+3(中、日、韓)エネルギー大臣会合2015年10月8日、マレーシア・クアラルンプール6. 石油備蓄に関し、大臣は、(略)2015年5月18日にインドネシアのジャカルタにおいて第3回ASEAN+3・石油備蓄ロードマップ(OSRM)ワークショップを運営したOSRM事務局(ASEANエネルギーセンター〈ACE〉とJOGMEC)の努力に感謝した。大臣は、また、2015年6月15~19日に、東京において局長級向けの石油セキュリティ構築支援研修を運営した日本に感謝した。当該研修において、参加者は、日本の石油政策および緊急時対応方法に関し、情報を交換し、現在の課題と将来の協力の方向性等を議論した。7. 今後の方向性として、大臣は、2015~2016年の以下のフォローアップ活動を歓迎した。(略)(e)課長級向けの石油セキュリティ構築支援研修。出所:経済産業省ホームページ462016.7 Vol.50 No.4アナリシスOGMECの石油備蓄に関する国際協力-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-係る法制度の知見等を共有することにより、カンボジアの石油備蓄体制整備等における大きな課題である法制度の構築に向けた協力を行うことを目的としたもの。2015年11月にJOGMEC渡辺理事とカンボジア鉱業エネルギー省・スイセン大臣の間で「石油備蓄に係る法令ニーズ調査の実施に関する協力覚書」を締結して実施した。出所:JOGMEC撮影写3 カンボジアでの現地成果報告会の開催状況どくざんし独山子基地(地上)容量:300万?天津基地(地上)容量:320万?蘭州基地(地上)容量:300万? JOGMECは2016年3月、カンボジア・プノンペンで、経済産業省資源エネルギー庁と協力して成果報告会を開催。この報告会では、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」「石油の備蓄の確保等に関する法律」、日本の国家石油備蓄基地の建設・操業の概要等について説明を行った。カンボジアでは、ポテンシャルがあるとして行われている石油開発を対象とした法令は存在するが、石油需要の増加に伴うガソリンスタンドの増加などの供給体制に見合った法令の整備は十分にはなされてこなかった。これについては、鉱業エネルギー省が関連法令の整備を進めているところで、報告会にはカンボジア側から鉱業エネルギー省石油総局局長を含めて法令整備担当者20名程が参加した。 カンボジア側からは、日本側の担当者から直接詳細な説明を受けるとともに質疑応答の機会が得られたこと、関連法令の整備に今回の報告会で得られた成果が有効活用できることなどについて極めて高い評価が得られた。 今回の「法令ニーズ調査」は、 2015年6月に実施した ASEAN諸国のための石油大連基地(地上):第1期容量:300万?こうとう黄島基地(地上):第1期容量:320万?黄島基地(地下岩盤)容量:300万?しゅうざん舟山基地(地上):第1期容量:500万?鎮海基地(地上):第1期容量:520万?2015年半ば現在、地図上の国家石油備蓄基地8カ所(総備蓄容量2,860万?)が完成。この8カ所と一部の民間タンクを利用して2,610万トン(1億9,000万バレル程度)の原油が貯蔵されている。出所:中国国家統計局公表内容(ホームページ掲載)(2014年11月20日、2015年12月11日)を基に作成 図15中国の国家石油備蓄基地と国家石油備蓄量47石油・天然ガスレビューZキュリティ構築支援研修(局長級)に参加したカンボジア側局長からの要請を受けて行い、報告会には同局長や11月に実施した同研修(課長級)に参加した課長などが参加するなど JOGMECが実施しているカンボジアへの協力・働きかけによる関係構築が極めて効果的なニーズ把握と成果に直結した。されている。 JOGMECは、このように、IEA非加盟国ではあるが、世界の石油市場で極めて大きな存在となっている中国の国家石油備蓄機関NORCと2007年の設立以降関係を構築して日本の知見・技術の共有などを行って連携強化に努めてきた。2016年度には、石油備蓄に関する更なる具体的な協力の方策を検討しているところである。(4)JOGMECによる中国国家石油備蓄センター(NORC:NationalOilReserveCenter)との協力(5)ASEAN等海外エネルギー関係者の日本の国家石油備蓄基地への受け入れ 既述のように、中国は、2014年に米国に次ぐ石油消費量世界第2位で世界の消費の12.4%を占め、また、IEAのWorld Energy Outlook 2015の展望では2030年代までに米国を抜き世界最大の石油消費国になると予想 ASEAN等海外からのエネルギー関係者を先方のニーズに応じて、石油、石油ガス備蓄基地に受け入れ、わが国の石油、石油ガス備蓄制度や安全管理などの取り組みなどを紹介し、国際協力を推進している。まとめ 石油公団が日本の国家石油備蓄基地の建設および操業などを通じて培った石油備蓄に関する経験と実績は、JOGMECに引き継がれている。こうした蓄積の下、日本の1次エネルギーのうちで今後も重要な位置を占め続ける石油と石油ガスのエネルギー安全保障について、その備蓄業務を通じて貢献していくことがJOGMECの重要なミッションである。 これまで繰り返し述べてきたように、JOGMECは国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力、国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障の向上に強力に取り組んでいる。 JOGMECは、今後とも、IEAとも連携しつつASEAN諸国、中国等のアジア諸国に対して日本の知見や技術の共有などによる石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強力に推進し、日本を含むアジア地域のエネルギー安全保障の向上に取り組んでいく計画である。【参考文献】1. エネルギー白書各年2. IEAホームページ執筆者紹介石澤 英俊(いしざわ ひでとし)学 歴:慶應義塾大学法学部法律学科卒業。Arthur D. Little School of Management修了。職 歴:1993年石油公団入団後、石油開発、石油備蓄、技術センター建物管理等を担当。経済産業省資源エネルギー庁に出向して資源・燃料部石油流通課、外務省に出向して在イラン日本大使館にそれぞれ勤務。経済産業省資源エネルギー庁に派遣され、資源・燃料部政策課で鉱業法改正に従事。趣 味:合気道初段。2005年春から2008年秋まで駐在したイランでは日本の武道に人気があり、現地で合気道の稽古にも参加。近 況:家族での博物館や公園巡り、スポーツ観戦など。482016.7 Vol.50 No.4アナリシス |
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