ページ番号1006596 更新日 平成30年2月16日

苦境からの復活を図るPetrobras-ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-

レポート属性
レポートID 1006596
作成日 2016-09-21 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-16 10:50:18 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 企業探鉱開発
著者 舩木 弥和子
著者直接入力
年度 2016
Vol 50
No 5
ページ数
抽出データ JOGMEC調査部舩木 弥和子苦境からの復活を図るPetrobras-ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-はじめに 2006年4月にCampos BasinのAlbacora Leste油田が生産を開始した際、石油自給態勢を確立し、間もなく念願の石油自給を達成できると、ブラジル中が沸き立った。2007年11月にSantos Basinのプレソルト(下部白亜系の岩塩の下位層を貯留岩とする探鉱プレイ)で発見されたTupi油田(現在のLula油田)の可採埋蔵量が石油換算50億~80億bblであると発表された際には、ブラジルは石油輸出国となり、大産油国の仲間入りを果たすことも夢ではないとされた。国営石油会社Petrobrasも、世界の5大総合エネルギー企業の一つとなることを目指すとし、投資額を増やし、探鉱・開発を進め、石油生産量を増加させようと、積極的な姿勢をとっていた。 ところが、近年、Petrobrasの財務状況が悪化、信用を失った同社は多額の負債を抱え、資金繰りに苦慮、投資額や生産目標を頻繁に引き下げ、石油生産量も思うように増加していない。 Petrobrasのこのような状況について、原因は、ブラジルの政界、財界を揺さぶることとなった同社をめぐる汚職スキャンダルや、原油価格の下落であるとする見方がある。しかし、その背景には、それ以前からのPetrobrasに対するブラジル政府の必要以上の関与があると考える。 Lula大統領(当時)は、ブラジルを豊かな国、科学、教育、社会政策の観点からより発展した国にするためにプレソルトで生産される原油やガスを利用するとした。石油産業を発展させることで、経済や産業を発展させようとしたのだ。そのため、Petrobrasは能力以上の生産増を求められ、それを実現するために投資額を増やしていくことになった。また、石油、ガスの探鉱・開発に必要な財やサービスについて一定の国内調達率を義務付けたローカルコンテンツの規制が設けられた。 ところが、国内の周辺産業の発展は探鉱・開発の進展に追いつかず、資機材の納入は遅れがちとなり、複雑で負担の重い税制、労働者保護のために高騰した労働コスト、また、鉄道網、道路、港湾が整備されていないために高くつく物流コスト、インフラコスト等のために、Petrobras等の石油会社は高コス3,500千b/d3,0002,5002,0001,5001,00050000891石油生産量石油消費量28914891689188910991299149916991899100022002400260028002010221024102年出所:BP, Statistic Review of World Energy 2016より作成図1ブラジルの石油生産量・消費量19石油・天然ガスレビューアナリシスgの資機材を利用せざるを得なくなった。石油産業の発展に伴ってブラジルの経済や産業を発展させようとしたのに、周辺産業が石油産業進展の足かせとなってしまったのだ。Petrobrasの負担は増大し、同社は生産目標を達成できず、信用を失っていった。さらに、地方の産業を活性化させることを企図して、石油の生産地でも消費地でもない北東部に製油所を建設することが計画されたものの、建設の遅れで膨れ上がるコストをPetrobrasが被った。 ブラジルは2006年に石油自給達成目前とされていたが、その後石油生産量は期待したように伸びず、一方で石油需要が急増したため、石油自給率は2006年の87%から2013年は68%に低下。需要量が減少したこともあり、2015年は石油自給率が80%に戻ったが、石油輸入を継続している。その上、政府はインフレを抑制するため国内の石油製品価格を低く抑え、国際市場価格との逆ザヤを、石油製品を輸入、販売するPetrobrasに負担させてきた。 このような苦境に陥っていたPetrobrasに襲いかかったのが同社をめぐる汚職事件だ。Petrobrasが米国Texas州の老朽化したPasadena製油所を高値で買収したとされる件に端を発したこの汚職は、その後、沖合プラットフォームや製油所建設時の贈収賄および政治家に対する違法な献金、資金洗浄等へと問題が拡大した。2014年末には、監査法人PricewaterhouseCoopersが汚職を反映しないPetrobrasの2014年第3四半期の決算に署名することを拒否したため、同社は決算を発表できない事態に陥った。これらを受けて、2015年2月にはMoody’s がPetrobrasの信用格付けを投資不適格級に、9月にはStandard & Poor’sが同社の格付けを投機的格付けに、それぞれ引き下げた。同社は、ブラジルでは汚職そのものに関してはその立場を利用された被害者であると受け止められてはいるが、信用を失い、資金調達が困難となった。 ブラジルとPetrobrasにとって、原油価格低迷は、通常の産油国や国営石油会社の場合とは異なり、原油や石油製品の輸入という観点からはプラスに働いてはいる。しかし、探鉱・開発や上流資産売却という観点からはマイナス要因となっている。 さらに、通貨(レアル)安がPetrobrasを苦しめている。同社の債務の大部分がドル建てであるため、レアルが下落すると借り入れコストが増加してしまう。同社の負債総額は、2005~2007年末は400億~500億レアルで推移していたが、プレソルトで油田が発見された後、2009年末に1,025億レアル、2012年末には1,963億レアルと急増、2014年末には3,510億レアル、2015年末には4,928億レアルとなった。ただし、2014年末と2015年末の負債総額については、ドル表示では2014年末が1,322億ドル、2015年末が1,262億ドルと減少している。億レアル6,0005,0004,0003,0002,0001,000020052008出所:Petrobrasホームページより作成200620072009201020112012201320142015年図2Petrobrasの負債総額202016.9 Vol.50 No.5アナリシス\1Petrobrasの財務状況2010年120,45220,449310,194185,94969,58880,492人売上高純利益(損失)総資産自己資本負債総額従業員数出所:Petrobrasホームページ等より作成2011年145,91519,992316,414172,58882,92781,918人2012年144,10310,931327,396161,86696,06785,065人2013年141,46210,832321,423149,123114,32586,111人2014年143,657(7,503)298,687116,978132,15880,908人百万ドル2015年97,314(8,611)230,52166,055126,21678,470人 このように、汚職や油価下落はレアル安と相まって、既に窮境に陥っていたPetrobrasの財務状況をさらに悪化させる最後の一押しとなったと考えられる。 本稿では、ブラジルの石油自給を達成し輝かしい成果を上げるはずが苦境に陥ってしまったPetrobrasの現況やその背景、そこから立ち直るために取られている対応を検証、併せてプレソルトの油田開発と同国の石油生産の見通しについて考えた。1.Petrobrasの現況とこれまでの対応(1)迷走する5カ年計画 Petrobrasは、毎年5カ年計画Business & Management Plan(BMP。2011年まではBusiness Plan〈BP〉)を発表し、探鉱・開発や経営の方針を示してきた。 この10年ほどの間で、BMPに最初に変化が見られたのは2012年のことだ。2,500億ドル2,00015001,0005645645002802802,2402,2402,2472,2472,3652,3652,3672,3672,2062,206総投資額うち探鉱・生産部門1,7441,7441,1241,1241,0461,0461,2751,2751,1881,1888718714934936516511,4181,4181,4751,4751,5391,5391,3031,3031,0861,08698498480080000102?60021102?70022102?80023102?90024102?01025102?11026102?21027102?31028102?41029102?5102年修正)9102?1/56110022(出所:Petrobrasホームページより作成図3Petrobras5カ年計画の投資額推移21石油・天然ガスレビュー それまでのBPは、5年間の総投資額を年々増加させていた。BP2006-2010では564億ドルであった総投資額は、BP2008-2012で1,000億ドルを、BP2010-2014で2,000億ドルを超えた。特に、探鉱・生産部門への投資額は、沖合Santos Basinのプレソルトで相次いで大規模な油田が発見されたことから増額され、総投資額の60%程度を占めるようになっていった。石油生産目標も、右肩上がりに急増するという強気の見通しとなっていた。 この時期のBPは、Jose Sergio Gabrielli de Azevedo CEOの下、策定苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-,200千b/d3,0002,8002,6002,4002,2002,0001,8001,6001,400実績BP2006-2010BP2009-2013BP2003-2007BP2007-2011BP2010-2014BP2004-2008BP2008-2012BP2011-20152003200420052006200720082009201020112012201320142015年出所:Petrobrasホームページより作成図4Petrobrasのブラジル国内石油生産目標と実績されたものである。 同氏は、国立Bahia大学修士課程で経済学、ボストン大学博士課程でブラジル公共部門ファイナンシングを専攻、英国のLondon School of Economicsや国立Bahia大学で教授を務めた人物だ。2003年1月31日にPetrobasのCFOに就任。その後、2005年7月から2012年1月までPetrobasのCEOを務めたが、それまでは、PetrobrasやANP(Agencia Nacional do Petroleo, Gas Natural e Biocombustiveis:ブラジル国家石油庁)、鉱山エネルギー省等石油やエネルギー産業で働いた経験はなかった。PetrobrasのCEOを辞任する際にも、政治の世界で蓄えた実力を生かし、地方政界入りを目指したとされている。 このようなGabrielli氏がCEOを務めた期間に立てられた生産目標は、技術的、経済的な裏づけに基づくものというよりは、Lula大統領(当時)の描く絵に沿ったものであったと考えられる。政府はPetrobrasを経済政策運営の道具と見ており、その結果、Petrobrasは高い生産目標を定めざるを得ない状況に置かれていた。Santos BasinプレソルトでTupi油田が発見され、その可採埋蔵量が石油とガスを合わせて石油換算50億~80 億bblであると発表された2007年末以降は、その傾向がさらに強まり、Petrobrasがプレソルト等の探鉱・開発を進めることで、ブラジル全体として発展を遂げようというLula政権の思惑を反映し、投資額、生産目標が年々引き上げられていった。BP2011-2015は、投資額の伸びはわずかだが、これはインフレ加速や経済過熱を抑制す222016.9 Vol.50 No.5アナリシスWが340万5,000b/d、生産実績が258万3,000b/dで、目標に対し76%の達成率であったが、2015年には生産目標が399万3,000b/d、生産実績が278万6,000b/d、達成率が70%となっている。ブラジル国内の石油生産目標と生産実績を比較してみても、2010年は生産目標が230万b/d、生産実績が200万4,000b/dで、目標に対し87%の達成率であったが、2015年には生産目標が307万b/d、生産実績が212万8,000b/d、達成率が69%と7割を切るようになっており、同じ傾向が見て取れる。「目標未達」との指摘を受け始める以前の2010年、2011年も達成率は決して高いわけではなかったが、生産目標とかい実績は次第に乖し、達成率は年々下がっていった。離りるため、政府からPetrobrasに、石油生産増は維持しながらも、投資額増加を抑えるようにとの圧力がかかったことが原因と見られている。 プレソルトで大規模油田が発見されたことで、ブラジルはついに石油の自給を達成し、大産油国の仲間入りを果たすという期待に反して、「ブラジルの石油生産量が伸び悩んでいる」「Petrobrasが生産目標を達成できていない」という指摘がなされるようになったのは2012年頃からだ。 図5、図6で、BP2006-2010からBP2011-2015の、それぞれの最終年にあたる2010年から2015年のPetrobrasの石油生産目標と生産実績を比較した。2010年は生産目450400350300250200150100500万b/d340.5349.3349.4365.1390.7399.3258.3262.1259.8254267278.6201020112012201320142015年実績目標出所:Petrobrasホームページより作成図5Petrobrasの石油生産目標と実績350300250200150100500万b/d230200.4237.4242.1268298307202.2198193.1203.4212.8201020112012201320142015年実績目標出所:Petrobrasホームページより作成図6Petrobrasのブラジル国内石油生産目標と実績23石油・天然ガスレビュー そこで、Gabrielli氏に代わって2012年2月にPetrobrasのCEOに就任したMaria das Gracas Silva Foster 氏は同年6月に、投資額は増やしながらも、2011年に立てられた2020年の生産目標491万b/dを420万b/dに引き下げるBMP2012-2016を発表した。 Foster氏は、Fluminense Federal University(化学専攻)を卒業、Federal University of Rio de Janeiro大学院(原子力機械エンジニアリング)を修了し、Getulio Vargas FoundationでMBAを取得している。1978年にPetrobrasに入社し、Rousseff前大統領が鉱山動力大臣に在職中の2003~2005年には鉱山動力省の局長 を 務 め、2007年 にPetrobrasのガス・エネルギー担当役員に就任している。 Foster氏は、技術者としての長年の経験から、現実的な計画を策定した、また、楽観的な生産目標を設定するというPetrobrasの慣習を破った、と一定の評価を受けた。 しかし、2014年以降、汚職問題、油価下落、レアル安によりPetrobrasの財務状況が悪化、資金調達が困難とな苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-£ハ株その他その他10.5%10.5%連邦政府連邦政府50.3%50.3%ForeignersForeigners10.4%10.4%米国預託証券米国預託証券18.9%18.9%優先株その他その他29.6%29.6%ForeignersForeigners20.3%20.3%BNDESの投資管理会社BNDESの投資管理会社23.9%23.9%米国預託証券米国預託証券23.3%23.3%ForeignersForeigners14.6%14.6%米国預託証券米国預託証券20.8%20.8%株式全体その他その他18.6%18.6%連邦政府連邦政府28.7%28.7%BNDESの投資管理会社BNDESの投資管理会社10.4%10.4%ブラジル国立経済社会ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)開発銀行(BNDES)6.9%6.9%ブラジル国立経済社会ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)開発銀行(BNDES)9.9%9.9%BNDESの投資管理会社BNDESの投資管理会社0.2%0.2%出所:Petrobrasホームページより作成ブラジル国立経済社会ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)開発銀行(BNDES)2.9%2.9%図7Petrobrasの株主構成(2016年5月31日)表2BMP2014-2018と2015-2019の比較BMP発表日2014-20182015-20192014/2/262015/6/292015/10/52016/1/12投資額(億ドル)ブラジル国内生産目標(万b/d)総額2,2061,303―9842015年―280250230*2016年―2701902002015年―212.5212.5212.8*2016年―218.5218.5214.52017年―230230―2020年420280280270*:実績出所:Petrobrasホームページ等より作成り、負債が増加し、人材や物資の調達も難しくなった。このような状況のPetrobrasにとって、この生産目標も重荷となっていった。 Foster氏に代わり2015年2月にCEOに就任した Aldemir Bendine氏の下、Petrobrasが同年6月に発表したBMP2015-2019では、投資額が前BMPの2,206億ドルから1,303億ドルに903億ドル、41%削減、2020年の生産目標が前BMPの420万b/dから280万b/dに140万b/d、33%削減と、いずれも大幅に削減された。この5カ年計画では、 Petrobrasの債務負担の軽減と株主価値の創出が目標とされた。生産を増やすことを目標としてきたPetrobrasが債務負担の軽減を目標にしたこと、また、政府の意向を反映し事業を遂行してきた同社が収益性を重視し株主価値の創出を目指すとしたことは、大きな意味があると考える。しかし、同社はこのBMP2015-2019を同年10月と2016年1月の2度にわたり修正した。 10月には、2015年の総投資額を6月に発表したBMPの280億ドルから250億ドルに11%削減、2016年の総投資額を6月発表の270億ドルから190億ドルに30%削減するとした。投資額は削減したが、この時点ではブラジル国内の石油生産目標は変更せず、2015年に212万5,000b/d、2016年に218万5,000b/d、2017年に230万b/d、2020年に280万b/dを生産するとした。 2015年の生産目標をかろうじて達成したPetrobrasは、2016年1月に、2015~2019年の5年間の投資額を前年6月発表の1,303億ドルから984億ドルに引き下げるとした。部門別では、開発・生産部門への投資額が1,086億ドルから800億ドル、配給部門への投資額が128億ドルから109億ドル、ガス・エネルギー部門への投資額が63億ドルから54億ドルにそれぞれ削減された。また、2015年の投資額は2015年10月に表明していた250億ドルよりもさらに20億ドル少ない230億ドルであったことが明らかにされた。一方、2016年の投資額は190億ドルから200億ドルに引き上げるとした。そして、Petrobrasは投資額削減に伴い2016年の生産目標を218万5,000b/dから214万5,000万b/dに、2020年の生産目標を280万b/dから270万b/dに引き下げるとした。 Petrobrasの5カ年計画は、通常であれば、その計画がスタートする前年末あるいはその年の前半に策定される。BMP2016-2020も、当初、2016年2月に発表予定とされていたが、原油価格の変動から度々先送りされ、さらに、5月にMichel Temer氏が大統領代行に就任した(後述)ことを受け、PetrobrasのCEOがPedro Parente氏に交代したことから、本稿を執筆している2016年9月1日時点ではまだ発表されておらず、9月末242016.9 Vol.50 No.5アナリシス?るいは10月末までに発表される予定とされている。新CEOのParente氏はPetrobrasの役員等を経験、同社をよく知る人物であるとされ、5カ年計画を含めた今後の経営に期待する向きもある。 このように、Petrobrasは、石油産業発展に伴いブラジル経済も発展させようとする政府の方針に従い、ばく大な投資を行い、高過ぎる生産目標を達成することを求められていたが、身の丈にあった投資を行い、実現可能性のある生産目標を目指す方向に変わりつつあるということができよう。(2)生産の伸び悩み 生産目標が高過ぎた上に、Petrobrasの生産が伸び悩んだことが、同社が生産目標を達成できなかった理由であると考える。 生産量の伸び悩みは、プレソルト等新規油田の生産開始に手間取ったことと、成熟油田の生産減退が著しくメンテナンスを必要としたことに起因する。 ブラジル沖合プレソルトの油田の生産量が合計で50万b/dを超えたのは2014年6月24日で、2006年にSantos BasinのプレソルトでLula油田が発見されてから8年目、2008年9月にCampos BasinのJubarte油田で、ブラジルで初めてプレソルトの油田からの生産が開始されてから6年目となっている。石油生産量が50万b/dを上回るまでには、メキシコ湾で20年、北海で10年かかっていることと比較しても、ブラジルのプレソルト開発は早いペースで進められているということができるだろう。 しかし、プレソルトの油田開発は当初から順調に進んだわけではない。 PetrobrasはBMP2012-2016で、2020年の生産目標を前5カ年計画の491万b/dから420万b/dに引き下げた際に、その理由として、ブラジル以外の企業に発注したリグの完成が遅延し探鉱が遅れ、生産量が計画どおり増加していないとした。2007年以降にブラジル以外の企業とリグ35基の建造契約を締結したが、そのほとんどが当初計画よりも遅れてブラジルに到着している。2011年に納入されたリグ(水深2,000m以深で掘削ができるもの)は10基で、引き渡し日程の遅れは合計で54日だった。2012年についても、水深2,000m以深で掘削ができるリグが当初計画より83 日から864日遅れて引き渡されており、これが掘削の遅れ、ひいては、新規油田の生産開始の遅れの大きな原因となった。 その後も、プレソルトを中心にポストソルトを含めて、新規生産設備の生産開始の遅れが見られたが、計画を実情に合わせるように方針が変わってきたこともあって、状況は改善してきている。2013年には予定されていた7基の生産設備のうち5基が生産を開始。2014年には2013年から繰り延べられた2基を含め5基の生産開始が予定され、うち4基が生産を開始。2015年には2014年から繰り延べられた1基を含め2基の生産開始が予定され、2基ともに生産を開始している。2016年は2月にBM-S-11鉱区Lula Alto油田のFPSO Cidade de Marica、7月に同じくBM-S-11鉱区Lula Central油田にFPSO Cidade de Saquarema(いずれも生産能力:石油15万b/d、ガス6MM?/d)が生産を始めた。 メンテナンスやストライキの影響はあるものの、プレソルトについては、リグ数の増加や生産設備の投入が計画に沿ってきたことにより、生産量が増加するようになってきた。Parente CEOによると、2016年5月6日にはプレソルトの生産量が初めて100万b/dを超えた。6月のプレソルトの生産量は124万boe/d(うち石油99万9,853b/d)、Santos Basinプレソルトの1坑井の平均生産量は2万5,000b/dであるという。2016年第3四半期にはLapa油田にFPSO Cidade de プレソルト石油生産量(万b/d)プレソルト生産量(万boe/d)2016年6月2016年6月124万124万2016年6月2016年6月99万9,85399万9,8531401201008060402002016年5月2016年2月2015年11月2015年8月2015年5月2015年2月2014年11月2014年8月2014年5月2014年2月2013年11月2013年8月2013年5月2013年2月2012年11月2012年8月2012年5月2012年2月2011年11月2011年8月2011年5月出所:ANPホームページより作成図8ブラジル・プレソルトの月別石油生産量25石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-o所:Petrobras Business Plan 2007-2011Petrobrasのブラジル国内石油生産見通し2016年6月2016年6月2,5582,558図10ブラジルの月別石油生産量262016年5月2016年1月2015年9月2015年5月2015年1月2014年9月2014年5月2014年1月2013年9月2013年5月2013年1月2012年9月2012年5月2012年1月2011年9月2011年5月2011年1月2010年9月2010年5月2010年1月2009年9月出所:ANPホームページより作成で、石油生産目標達成を確実にするプログラムに取り組んでいることを明らかにした。これに基づき、2013年には生産量が減少しているCampos Basin の既存油田の操業効率を上げるためメンテナンス作業が相次いで行われ、その結果かえって、2013年の石油生産量は伸び悩んだ。 2014年は、メンテナンスによる生産停止は減ったものの、2015年以降、プレソルトを含めた油田のメンテナンスやストライキの影響で生産量は増減を繰り返している。く Petrobrasが政府の意向を汲んで設定した高過ぎる生産目標を達成できないことに対する不満がブラジル国内1,979 2,061 2,368 2,374 2,195 生産量の純増6901,8041,358 1,176 生産量の自然減退1,11498778657020072008200920102011 年1,880 1,530 2005年の生産実績2,0001,5001,000千b/d2,500 1,684 1,684 Caraguatatuba(同10万b/d、5MM?/d)が設置される予定で、2016年下半期もプレソルトの生産増が見込まれるという。 なお、Petrobrasは、プレソルトの油田開発について、原油価格が45ドル/bblであれば利益が上がるが、随伴ガスの輸送インフラを含めると52ドル/bblであることが必要であるとしている。しかし、ブラジル政府や研究機関はこの価格水準を55~72ドル/bblと見ている。Petrobrasは、また、プレソルトの生産コストは2014年の9.1ドル/bblから2015年は8.5ドル/bblに下がり、プレソルトの坑井掘削に要する日数は2010年の310日から、現在は80日に短縮されたとしている*1。 現在、ブラジルの探鉱・開発の中心はSantos Basinのプレソルトだが、生産の中心は依然としてCampos Basinである。2016年6月のブラジルの石油生産量255万8,000b/dの約60%はCampos Basinで生産されている。しかし、Campos Basinの主要油田Marlim、Marlim Sul、Albacora、Albacora Leste、Barracuda、Caratinga等は1990年代に生産を開始しており、既に生産減退期に入っている。 図9はPetrobrasがBP 2007-2011で示した同社のブラジル国内石油生産見通しである。赤線で示されているのが自然減退による生産量の減少の見通しだ。これによれば、年に10%以上の割合で生産量が減退する。 Petrobrasが、Campos Basinの生産維持に特に力を入れ始めたのは、2013年以降である。Foster CEO(当時)は、BMP2013-2017で、Campos Basinの生産システムの操業効率を改善し、ロスを減らすこと2,600千b/d2,5002,4002,3002,2002,1002,0001,9001,8001,7001,60020052006図950002016.9 Vol.50 No.5アナリシスナ高まり、Petrobrasは信用を失っていった。そこで、同社は生産目標を実情に即し、かつ、実現が可能と考えられる数字まで引き下げた。一方、生産はプレソルトに関しては増加傾向、その他はメンテナンス等の影響で増減を繰り返すという状況だ。Petrobrasは生産目標を達成し、信頼を回復することができるのか注目される。(3)度重なるCEO交代 PetrobrasのCEOは大統領が任命する。 Lula元大統領は2005年、Jose Sergio Gabrielli氏を同社のCEOに任命した。前述したとおり、Gabrielli氏はLula政権の意向に沿って、Petrobrasを政府の経済政策実現のための手段として運営した。 2011年1月にLula氏の後を引き継ぎ大統領に就任したDilma Rousseff氏は、成立したばかりのプレソルト開発法の施行やプレソルトの油田開発が順調に進むのかについて懸念を抱き、当面、Gabrielli氏にPetrobrasのCEOを務めるよう求めた。そして、約1年後の2012年2月にFoster氏をCEOに任命した。Foster 氏は、Petrobrasをはじめとする石油業界で技術者として長年働いた経験から、Gabrielli氏時代の5カ年計画の方向修正を行い、堅実な経営を目指した。しかし、Foster 氏に対しても、政府の政策を実施するために必要とされる過剰な投資を行っていたとの見方もある。 また、同氏のCEO在任期間中に、Petrobrasは汚職事件で多額の損失を被り、負債総額は2011年末の829億ドルから2014年末には1,322億ドルに59%増加した。Foster氏は同社をめぐる汚職疑惑やその捜査による決算発表や投資計画の遅れ、さらに、混乱した経営の責任を取って、2015年2月4日、5人の幹部とともに退任することとなった。 2月6日、Rousseff大統領(当時)はPetrobrasのCEOにブラジル銀行のAldemir Bendine CEOを、CFOにブラジル銀行でCFOを務めた Ivan de Souza Monteiro氏を選んだと発表した。政府はPetrobrasとブラジル銀行の両方について議決権株式の過半数を保有し、経営権を握っている。Bendine氏はブラジル銀行で政府の意向どおり動いてきた人物との評価があり、政府の介入を排除してPetrobrasの経営を正常化するのは難しい、急場のつなぎとの見方がされた。 しかし、財務面の立て直しに銀行家としての手腕を発揮し、同年4月22日には、前の経営陣が発表できていなかった2014年の監査済みの決算を、2014年第3四半期および第4四半期の決算と併せて公表した。さらに、6月29日には例年に比べ遅い時期ではあったがBMP2015-2019を発表、同社の5カ年計画に債務の軽減と株主価値の創出という新たな概念を導入した。Petrobrasは立て直しに向けて動き出したように見えた。ところが、レアル安や原油価格低迷の影響を受け、資産売却も進まず、労働組合がストライキを起こす等、苦しい状況が続いていた。 このようななか、2016年5月12日、上院が予算法に違反したとしてRousseff大統領(当時)に対する弾劾法廷設置を承認、これにより同氏は180日間の職務停止に追い込まれ、Temer副大統領(当時)が大統領代行を務めることになった。Temer氏はPetrobrasのCEOにPedro Parente氏を充てる人事を発表した。 Parente氏は、Cardoso政権時に電力の配給制度を強行して電力危機を回避、1999年3~2002年12月にPetrobrasの経営評議会メンバー、2002年3~12月にPetrobrasの経営評議会議長、2003~2009年にメディア・コングロマリットGrupo RBSのCOO、2010~2014年に穀物大手Bungeのブラジル法人社長、PetrobrasCEO就任時にはサンパウロ証券取引所運営会社BM&FBovespaS.A.で会長職を務めていた。Bendine氏に対しては、ブラジル銀行一筋でエネルギー、石油・ガス部門での経験がなく、財務面については立て直しを図ったが、どのようにPetrobrasの探鉱・開発の舵を切っていくかを判断することは難しかったのではないかとの見方もあるが、Parente氏についてはその経歴から期待する向きも多い。Parente氏は、Petrobrasが現在の危機を乗り切るために政府の支援を求めないとし、また、Petrobrasに対する政治的な干渉は終了させると語っている。さらに、市場に沿った(market-friendly)方法でPetrobrasを運営するとしている。 政府の意向を尊重し、Lula元大統領の政策に沿ってPetrobrasの経営に当たったGabrielli氏から、同社生え抜きで探鉱・開発を理解し、投資や生産の軌道修正を図ったFoster氏、銀行家として危機的な財務状況からPetrobrasを救出することを目指したBendine氏を経て、政府の干渉を排除し市場志向の経営を行うとするParente氏にPetrobras CEOの職が引き継がれた。Petrobrasはブラジル政府の干渉から解き放たれ、再建に向け前進することができるかもしれない。Parente氏の手腕に期待がかかる。かじ(4)石油製品価格 ブラジルは、2006年に石油自給態勢を確立したとしたものの、石油生産量の伸び悩み、国内の石油需要増と製油所の精製能力の不足から、原油や石油製品の輸入を続27石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-ッている。一方で、政府は、インフレを抑制するためガソリンやディーゼルの国内販売価格を低く抑えるようPetrobrasに指示してきた。そのため、Petrobrasは、原油や石油製品を国際市場価格で輸入し、ブラジル国内でそれよりも20~25%安い価格で販売し、その逆ザヤを負担することを強いられた。このため、2014年までの3年強の間に同社は約500億ドルを負担*2、経営状況は悪化し、債務が急増する大きな要因となった。 Petrobrasは、2014年以降、2度にわたりブラジル国内の石油製品価格を引き上げた。 まず、大統領選挙直後の2014年11月にガソリン価格を3%、ディーゼル価格を5%値上げした。2014年後半以降の原油価格下落もあって、一時期逆ザヤが解消し、Petrobrasは石油製品の輸入と国内販売で利益を上げた。 ところが、その後、国内需要が減退するとともに、国内の精製能力が向上したことで、石油製品輸入量が減少し、輸入で得られていた順ザヤ利益が減少した。また、その後レアル安が進み、石油製品値上げ率を大幅に上回るようになり、同社の負担が再び増加することになった。 Petrobrasは、財政や景気の悪化、経常赤字拡大に同社をめぐる汚職問題に伴う政治的混乱が加わったことによる急激なレアル安を受けて業績が悪化することが予想されるとして、2015年9月にもガソリンとディーゼルの価格をそれぞれ6%、4%値上げした。 Petrobrasは、BMP2015-2019のなかで、国内の石油製品の価格を輸入価格と等しい価格にするとしているが、その後、国内の石油製品の価格について発表はない。(5)資産売却 PetrobrasはBMP2015-2019で、2015~2016年の2年間に151億ドルの資産売却を行い、資金を調達するとしていたが、2015年10月の投資額削減の発表で、151億ドルの資産売却のうち7億ドル分を2015年に、144億ドル分を2016年に実施するとした。 Petrobrasはこのように大規模な資産売却を計画しているが、2015年から2016年中頃までに資産売却が成立した案件は多くはなかった。売却が進まなかった理由として、売却対象が非中核資産であること、原油価格が下落したことで売却価格について合意が難しいこと等があると見られてきた。さらに、Petrobrasが資産を売却する相手企業を選別したり、上流資産をパッケージ化して売却したいと考えているとも伝えられており、スムーズに資産売却が進まない背景には同社の売却方法にも問題があったのではないかと考えられる。 とはいっても、Bendine 前CEOの「資産売却目標を達成できなければ、2016年に190億ドルの投資を行いながら、1,300億ドル以上の負債を返済することはできない」との発言からも、同社はともあれ資産売却を進めなければならない状況にあると考えられる。表3に示す通り、2015年中頃以降、資産売却に関する報道が減っていたが、2016年4月半ば以降はその動静が頻繁に伝えられるようになってきた。 このうち上流資産は、Santos BasinプレソルトのBM-S-8鉱区(Carcara油田)、陸上成熟油田と北東部浅海の生産中の鉱区の権益のみである。 Petrobrasは2015年前半にCarcara油田の権益売却を計画していたが、追加の掘削結果を待つこととし、一旦同油田を売却リストから外していた。2015年12月に再度売却対象となるとの報道があり、2016年7月29日、BM-S-8鉱区の権益66%をStatoilに25億ドルで売却することが明らかにされた。 Carcara油田は2012年に発見された。PetrobrasとQGEP(Queiroz Galvao Exploracao e Producao)が2015年末にCarcara Norte井を掘削したところ、Carcara油田は、Santos Basinプレソルトプレイのうち最も有望なエリアでLula(旧Tupi)油田に匹敵するとの結果が出たという。Statoilは同油田の確認埋蔵量を7億~13億boeと見ている。Statoilが同鉱区のオペレーターとなり、2018年までに評価井1坑を掘削する。最終投資決定は2020年以降、生産開始は2020年代中頃と見込まれている。なお、Carcara油田はBM-S-8鉱区の北部にまで広がっており、後述するとおり、2017年にブラジル政府がCarcara油田北部周辺鉱区をライセンスラウンドの対象鉱区とする可能性が浮上している。同鉱区の他の権益保有者はPetrogal(14%)、QGEP(10%)、Barra Energia(10%)である。 Carcara油田の権益売却は、25億ドルと金額的に大きいことに加え、Petrobrasがプレソルト油田のオペレーターを初めて他企業に譲り渡すということでも非常に大きな意味があると考えられる。 2015年12月には、Carcara油田のほかに、Santos BasinプレソルトのLibra油田の権益の10%を売却することをPetrobrasが検討しているとの報道もあった。しかし、Libra油田については、間もなくPetrobrasから現時点で同油田の権益売却は検討していないとのコメントがあった。同油田は、可採埋蔵量が80億~120億bbl、2013年に実施された最初のプレソルト入札で、Petrobras、Total、Shell、CNPC(中国石油天然気集団公司)、CNOOC(中国海洋石油総公司)のコンソーシアムに付与された。プレソルト開発法により、プレソルトの新282016.9 Vol.50 No.5アナリシス\3Petrobrasの主な資産売却(計画を含む)時期2015年4月2015年10月2016年1月2016年4月2016年5月2016年5月2016年5月2016年6月2016年6月2016年6月2016年7月2016年7月2016年7月2016年8月資産売却の内容アルゼンチン資産(探鉱・開発権益、輸送インフラストラクチャー)をアルゼンチン企業CGCに1億100万ドルで売却すると発表。探鉱・開発権益はAustral BasinのSanta Cruz I、Santa Cruz I Oeste、Glencross、Estancia Chiripa、Santa Cruz II鉱区(総面積1万1,500?)で、1万5,000boe/dを生産中。CGCはSanta Cruz I(29%)とSanta Cruz I Oeste(50%)鉱区の権益を保有傘下のGaspetroの株式の49%を約19億レアル(5億5,000万ドル)で売却する契約を三井物産と締結。三井物産は、関連許認可取得等の条件を充足後、子会社のMitsui Gas e Energia do Brasilを通じて株式を取得する。三井物産は2006年以降、ブラジル国内の8州でガス配給事業に参画しており、今回の株式取得により19州でガス配給事業を展開、取り扱いガス配給量は約30MM?/dとなる石化部門の子会社Braskemの株式36%を14億ドルで売却することを計画し、Banco Bradesco BBLに売却の仲介を依頼保有する陸上成熟油田の約20%を売却する計画。対象となる鉱区はCeara州、Rio Grande do Norte州、Sergipe州、Bahia州、Espirito Santo州の生産中の98コンセッションとEspirito Santo州の探鉱中の6コンセッション。ピーク時には合計で12万b/dを生産していたが、現在、生産量は3万5,000~4万b/dPetrobras Argentina株式の67.19%をPampa Energiaに8億9,200万ドルで売却することで合意。Pampa Energiaはアルゼンチンの油田(生産量1万4,000b/d、ガス7MM?/d)、製油所(精製能力3万500b/d)、石化設備、発電所、サービスステーション等の権益を取得。上流の主要資産はEl Mangrullo鉱区およびRio Neuquen鉱区。El Mangrullo鉱区ではAgrioガス田が生産中。Rio Neuquen鉱区は6億ドルを投じ開発中。2017年にピーク生産に達する見通し⇒7月27日、8億9,700万ドルで売却完了Petrobras Chile Distribucion(PCD)をSouthern Cross Groupに4億9,000万ドルで売却することについて合意。PCDはサービスステーション279カ所、燃料供給ターミナル8カ所、11カ所の空港での操業権等を保有⇒7月22日、4億6,400万ドルで売買契約締結Brookfield Asset ManagementとNova Transportadora do Sudeste(NTS)ガスパイプライン売却について交渉開始。Petrobras役員会は交渉期間を60日、オプションとして30日の延長を承認。Brookfieldは180億レアル(55億ドル)を提案Rio de Janeiro州Guanabara BayとCeara州のLNG受け入れターミナルをコージェネプラントとともに売却するため入札手続きを開始。再ガス化能力は14MM~20MM?/dと7MM?/d沖縄県の西原製油所を保有する子会社南西石油の全株式売却に向けた入札を実施LPG部門の子会社Liquigas Distribuidora S.A.売却のため入札を実施。LiquigasはブラジルのLPG市場のシェア23%、プラント23カ所、倉庫19カ所等を保有北東部浅海の生産中の鉱区を売却する計画。対象となるのは、Sergipe州Caioba、Camorim、Dourado、Guaricema、Tatui、Ceara州Curima、Espada、Atum、Xareuの9鉱区。生産量は合計で1万3,000b/dメキシコのAlpekに石油化学部門子会社Companhia Petroquimica de Pernambuco(Petroquimica Suape)およびCompanhia Integrada Textil de Pernambuco(Citepe)の持ち分を売却することで交渉を開始。交渉期間は60日で、30日の延長が可能Santos Basin、BM-S-8鉱区(Carcara油田)の権益66%をStatoilに25億ドルで売却。Statoilは同鉱区のオペレーターとなるPetrobrasは2015年に子会社Petrobras Distribuidora株式の25%を売却することを決定し、2016年6月には3社より買収の申し出を受けたが、売却は成立しなかった。そこで、同年7月、同社の議決権付き株式の49%、無議決権株式の100%、全体としては60~75%の株式を保有、残りを売却することを計画。11月末~12月初まで買収提案を受け付けるとした。しかし、8月、Petrobrasは買収に関して正式なオファーは受けておらず、売却は2017年になる見通しとした。Petrobras Distribuidoraは7,000カ所以上のサービスステーションを保有出所:各種資料より作成規鉱区についてはPetrobrasが最低でも権益の30%を保有しなければならないと定められているが、Petrobrasは同油田の権益の40%を保有していることから、権益10%の売却であれば法律上問題が生じることはない。入札時のサインボーナスが150億ドルであったが、当時に比べ原油価格が下落していることから、売却額は最大で15億ドルとなるのではないかと見られていた。 陸上成熟油田と北東部浅海の生産中鉱区については、生産量は合計で約5万b/dと、Petrobrasにとっては少ない。しかし、ブラジル国内の独立系企業にとって、今回の売却はインフラとともに油田権益を取得できる有意義な機会と捉える向きもある。特に、陸上成熟油田に興味を示す企業は少なくないという。背景には、これまでPetrobrasから独立系企業にブラジル陸上油田の権益が売却されたのは2001年と2005年の2回のみで、対象とされたのは生産量1,000b/d以下の小規模油田のみであったことが挙げられている。また、売却対象の陸上成熟油田の生産量は、これら独立系石油会社の合計生産量の2倍に相当するという事情もあると考えられる。 いずれにせよ、上流の資産については、原油価格低迷の影響を受け、Petrobrasは売却額を引き下げざるを得なくなっていると考えられる。29石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-@なお、資産売却に対しては、Petrobrasの労働組合が反対の意を表している。2015年11月には、FUP、FNP二つの労働組合の8万人が参加して、賃金引き上げを求めるとともに投資額削減や資産売却に反対する大規模なストライキを実施した。ストライキは約20日間続き、40以上の沖合プラットフォームや製油所の操業に影響が生じた。Petrobrasによると、ストライキにより同社の石油生産量は229万bbl(12万526b/d)、天然ガス生産量は48.4MM?(2.55MM?/d)減少した。 Parente CEOは、Petrobrasはキャッシュポジションを好転させ負債を削減する必要があり、労働組合等の反対を押し切って資産売却を進めるとしている。(6)組織改革、人員削減 Petrobrasは組織の統廃合や人員の削減を行うことで、コストを削減、悪化した財務状況の改善を図ろうとしている。 2016年1月28日、PetrobrasのBendine前CEOは、石油・ガス産業の新たな現実に対応し、汚職問題で失墜した同社の信用を回復し、コストを削減するための改革策を発表した。主な内容は以下のとおりである。 ・ シニアマネジメントを54人から41人に削減する。 ・ 部門の統廃合を行い、部門数を従来の7から6に削減する。 ・ 生産現場を除く管理部門などの管理職を少なくとも3割削減する。管理職ポスト7,500のうち5,300は非操業部門で、この30%に当たる約1,600人を削減する。 ・ 収益性の高い分野に注力する。 ・ 意思決定を監視するため六つの委員会を設置し、同委員会が問題ありと判断する場合はその案件を経営評議会に上げる。同委員会は、CVM(証券監視委員会)の監督を受ける。 Petrobrasは、この改革策による費用削減効果は年間約5億ドルとしている。なお、Bendine前CEOはこの改革策発表時に、今後政治家の影響を受けた管理職の任命は行わないと発言した。 Petrobrasは4月30日には、この改革策を強化するとし、非操業部門の43%に当たる2,279の管理職のポストを削減すると発表した。 また、4月1日には、全従業員(直接雇用者数約5万7,000人)の約2割に相当する1万2,000人の希望退職を募集すると発表した。資産売却で事業の規模を縮小するのに併せて、人員削減を行うという。同社は、この希望退職によって割り増し退職金などの費用44億レアル(12億ドル)がかかるが、従業員数の減少により、2016年から2020年に330億レアルの効果が得られると試算している。5月中頃までに、3,500人が希望退職募集に応じた*3という。 さらに、Petrobrasは子会社Petrobras Distribuidora従業員に自主退職を呼びかけることを決め、経営審議会にかける意向だと7月26日付地元紙が報じた。削減予定人数や募集期間などは明らかになっていない*4。 給与削減や勤務時間の短縮によりコスト削減を図ろうとする動きもある。Bendine前CEOは2015年初からコスト削減のため25%の給与削減並びに週当たり労働時間を40時間から30時間に短縮することを労働組合に提案し協議していた。Parente CEOも、組合側に25%の給与削減、週10時間の労働時間短縮、プラットフォームでの1日あたり労働時間を10時間から8時間に2時間短縮する代わりに、従業員の解雇はしないことで組合側と交渉を行うとしており*5、動向が注目される。 Petrobrasの従業員削減は、財務状況を改善させるために不可欠と考えられるが、この動向が高い技術力を誇ってきた同社の従業員を一掃させてしまうことにつながらないか懸念されるところである。(7)社債発行、借り入れ 多額の負債を抱え、思うように資産売却が進まないなか、Petrobrasは社債発行、ブラジルや中国の銀行等からの借り入れで資金調達を行っている。 格付け会社から投資不適格とされたことで、Petrobrasの国際債券市場での資金調達は難しいと見られていたが、同社は2015年6月1日、2115年償還の社債25億ドル(表面利率6.85%)を発行することで、資金確保に成功した。さらに、同社は2016年5月17日に、5年物(同8.625%)50億ドルと10年物(同9%)17億5,000万ドルのドル建て社債を発行し、67億5,000万ドルを調達した。また、7月13日には、5月発行のドル建て社債、5年物 17億5,000万ドルと10年物12億5,000万ドルの追加発行を行った。 Petrobrasは、2015年9月にブラジル銀行から10億3,000万ドルの借入枠を確保、同年11月には英国輸出ファイナンスUkefから5億ドルの信用供与枠を確保した。しかし、最も大口の資金調達先は中国である。まず、中国国家開発銀行と2015年4月に35億ドル、2016年3月に100億ドルの融資契約を締結した。さらに、2016年5月、中国輸出入銀行と10億ドルの融資を受けるための仮契約を締結した。これらのうち、中国国家開発銀行との302016.9 Vol.50 No.5アナリシス016年3月の契約については融資条件が公表されていないが、2015年4月の契約は融資提供条件として、融資総額の60%に相当する中国製の機械・装置など資本財購入が明記されている*6。また、中国輸出入銀行からの融資も、契約済みの中国企業から購入する商品やサービスの支払いに充てられるとされている。このように融資を得ることで、中国の商品やサービスを多く受け入れなくてはならなくなる可能性があり、ローカルコンテンツ政策との兼ね合いが懸念される。 Petrobrasは当面必要とする金額をこれらの社債発行や融資により手当てしたとしているが、投資も継続しながら多額の債務を返済し続けることは、同社にとって引き続き大きな負担となるだろう。(8)製油所 ブラジルには17の製油所があり、精製能力は227万b/dである。うち、Petrobrasが保有する製油所は13カ所、精製能力は223万b/dである。 急増する石油需要に対応するため、Petrobrasは、BMP2014-2018で、2020年までにRNEST(Abreu e Lima、Pernambuco州)、Comperj(Rio de Janeiro州)、Premium I(Maranhao州)、Premium II(Ceara州)の4 製油所の稼働を開始することを計画、2020年には同社の精製能力は330万b/dとなり、国内需要を満たすことができるとしていた。ところが、2015年1月同社は、RNEST、Comperjの2製油所の建設は継続するものの、財務状況の悪化から残り2カ所の製油所の建設を中止することとした。 建設が中止されたPremium I製油所とPremium II製油所は、ブラジルの主要産油地域にも石油消費地域にも遠い北東部に建設が計画されていた。石油産業を発展させることでブラジル全体の経済発展、産業振興を図ろうとするブラジル政府の政策に基づき計画された経済合理性に乏しいプロジェクトであったということができる。 建設が継続されることになったRNEST、Comperj 製油所もコストの上昇や建設遅延等の問題を抱えている。 RNEST製油所の建設は、ベネズエラのPDVSAと共同で行われる計画であったが、PDVSAが負担分の資金を拠出しないために建設に遅れを来たし、コストが当初計画の25億ドル弱から約200億ドルまで膨らんだ。RNEST製油所の一部は2014年末より操業を開始、処理能力11万5,000b/dの最初のトレインが約10万b/dの原油を処理している。 一方、Rio de Janeiro近郊に建設中のComperj製油所の完成は、Petrobrasがパートナーを探していたが見つからないため、2023年まで遅れる見通しだ。同製油所は、PremiumⅠ(60万b/d)PremiumⅠ(60万b/d)2016年、2019年操業開始2016年、2019年操業開始建設中止建設中止REPRE ⅠREPRE ⅡPremiumⅡ(30万b/d)PremiumⅡ(30万b/d)2017年操業開始2017年操業開始建設中止建設中止RNERNEST(23万b/d)RNEST(23万b/d)2012年操業開始2012年操業開始建設継続建設継続2014年末より一部操業開始2014年末より一部操業開始ComperjComperj(33万b/d)Comperj(33万b/d)2013年(フェーズ1)操業開始2013年(フェーズ1)操業開始2018年(フェーズ2)操業開始2018年(フェーズ2)操業開始建設継続建設継続完成は2023年まで遅れる見通し完成は2023年まで遅れる見通し出所:Petrobrasホームページの地図に加筆。青字はBP2011-2015、赤字は2015年Petrobras発表他を基に作成図11新製油所建設計画31石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-etrobrasが建設に140億ドルを投じ、85%まで完成している*7。 なお、2016年7月末、同社は、汚職問題の影響と原油価格の下落により2015年から停止しているRNEST製油所とComperj製油所の建設工事を間もなく再開すると発表している。 このようにPetrobrasは製油所の建設に関しても、政府の政策に振り回され、経済合理性に乏しいプロジェクトに資金、人材、時間をつぎ込んできた。 一方で、ANPは、早急に製油所を建設しなければ、ブラジルは2025年には2015年の2倍以上に相当する100万b/dの石油製品の輸入を余儀なくされると警告しており、今後、需要が増加した場合には、精製能力不足が問題となる可能性がある。2.法律・制度の変更(1)プレソルト開発法 1999年に最初のライセンスラウンドが実施されてからプレソルト開発法が成立するまでのブラジルでは、全ての鉱区について、Petrobrasもそれ以外の石油会社も同じ立場で入札に参加し、鉱区権益を取得、コンセッション契約を締結することとなっていた。 2010年に制定されたプレソルト開発法により、プレソルトの新規鉱区およびCNPE(National Council for Energy Policy:国家エネルギー政策審議会)が戦略的地域と定めた地域については、契約形態をこれまでのコンセッション契約からPS 契約に変更、Petrobrasはこれら全ての鉱区でオペレーターを務め、鉱区権益の最低30%を保有することが定められた。 同法に基づき、2013年10月にLibra鉱区の入札が実施され、Petrobras、Total、Shell、CNPC、CNOOCのコンソーシアムが同鉱区を落札した。その後、プレソルトの鉱区を対象とする入札は行われておらず、同法の適用を受けている鉱区はLibra鉱区のみとなっている。 プレソルト開発法により、Petrobrasがプレソルトの新規鉱区全てでオペレーターとなり開発を進めなくてはならないことになり、同社にとっては大きな負担となった。一方、Petrobras以外の企業はオペレーターとしてプレソルトの開発に参入する機会を奪われることになった。さらに、プレソルト開発法成立までには時間がかかり、その間にブラジル・プレソルト以外の地域へ関心を移した企業もあったと思われる。既存のコンセッション契約で開発を進めていれば、より多くの企業がプレソルトの油田開発に参入し、より早い時期に、より迅速に開発が進んだ可能性があったと考えられる。 PSDB(Partido da Social Democracia Brasileira:ブラジル社会民主党)のJose Serra上院議員は2015年3月、プレソルト開発法の改正法案を提案した。同法案は、上院の特別委員会で審議、可決された後、2016年2月24日に上院で、7月に下院委員会でそれぞれ承認された。契約形態コンセッション契約PS契約Transfer of Rights(TOR)契約表4ブラジルの契約形態概要対象鉱区1997年制定の石油法(Petroleum Law 9,478/97)により規定。Petrobrasは他企業と同じ立場でライセンスラウンドに参加。落札企業は同契約を締結する2010年制定のプレソルト開発法(Law 12351/10)により導入。プレソルトの新規鉱区及びCNPEが戦略的地域と定めた地域に適用。ライセンスラウンドの結果に基づいて契約が締結されるが、Petrobrasは同地域の全ての鉱区でオペレーターを務め、鉱区権益の最低30%を保有しなくてはならない2010年制定のプレソルト開発法(Law12276/10)により導入。政府は、ライセンスラウンドを経ずに、Santos盆地プレソルトの7 鉱区(埋蔵量50億bbl)の権益をPetrobrasに譲渡し、同契約を締結。Petrobrasは対価として同社の新株の一部425億ドル相当を政府に引き渡したPS契約及びTOR契約の対象鉱区以外の全ての鉱区LibraItapu(Florim)、Buzios(Franco)、Sul de Sapinhoa(Sul de Guara)、Sul de Lula(Sul de Tupi)、Sepia(Nordeste de Tupi)、Atapu / Sul de Berbigao / Norte de Berbigao / Norte de Sururu / Sul de Sururu(Entorno de Iara)、Peroba**:( )は元の鉱区名。Peroba鉱区は2014年5月にANPに返還。出所:各種資料より作成322016.9 Vol.50 No.5アナリシスasinBasinEspirito SantoEspirito Santoブラジル1984年以前の発見油ガス田1985?2001年の発見油ガス田2002年以降の発見油ガス田プレソルトでの発見油ガス田プレソルトで油田発見のあった主要鉱区Transfer of Rights岩塩層分布エリアプレソルトエリア(Low12351/10)1100KmサンパウロCorcovadoCorcovadoTartaruga MesticaTartaruga Mesticaリオデジャネイロ【BM-C-29鉱区】【BM-C-29鉱区】【Voador鉱区】【Voador鉱区】【Barracuda鉱区】【Barracuda鉱区】【BM-S-11鉱区】Iara【BM-S-11鉱区】Iara【BM-S-42鉱区】Dolomita Sul【BM-S-42鉱区】Dolomita SulCernambiCernambi【BM-S-54鉱区】【BM-S-54鉱区】Gato do Mato Gato do Mato 【BM-S-10鉱区】【BM-S-10鉱区】ParatiParatiMacnaimaMacnaimaLapa(Carioca)Lapa(Carioca)Papa TerraPapa Terra【BM-C-41鉱区】【BM-C-41鉱区】【BM-C-42鉱区】【BM-C-42鉱区】【Florim鉱区】【Florim鉱区】 Itaipu Itaipu【Buzios(Franco)鉱区】【Buzios(Franco)鉱区】【Marlim鉱区】【Marlim鉱区】【Caratinga鉱区】【Caratinga鉱区】【Xerelete鉱区】【Xerelete鉱区】【BM-C-43鉱区】【BM-C-43鉱区】【BM-C-33鉱区】【BM-C-33鉱区】RoncadorRoncador【Albacora Leste鉱区】【Albacora Leste鉱区】【Albacora鉱区】【Albacora鉱区】【Marlim Leste鉱区】【Marlim Leste鉱区】Campos BasinCampos Basin【S-M-623鉱区】Sagitario【S-M-623鉱区】Sagitario【BM-S-8鉱区】【BM-S-8鉱区】BaunaBaunaCarcaraCarcaraBem-Te-ViBem-Te-ViBiguaBiguaAbare OesteAbare Oeste【BM-S-21鉱区】Caramba【BM-S-21鉱区】Caramba500m500m1,000m1,000mLibraLibra【Entorno de Iara鉱区】【Entorno de Iara鉱区】【Nordeste de Tupi油田鉱区】Sepia【Nordeste de Tupi油田鉱区】Sepia【BM-S-24鉱区】Jupiter 【BM-S-24鉱区】Jupiter Lula/TupiLula/Tupi【Sul de Lula鉱区】【Sul de Lula鉱区】【Peroba鉱区】【Peroba鉱区】【BM-S-9鉱区】Sapinhoa (Guara)【BM-S-9鉱区】Sapinhoa (Guara)【Sul de Guara鉱区】Sul de Sapinhoa 【Sul de Guara鉱区】Sul de Sapinhoa AbareAbareIguacuIguacuIguacu MirimIguacu MirimSantos BasinSantos Basin1CachaloteCachaloteJubarteJubarteBaleia AzulBaleia AzulCaxareuCaxareuPirambuPirambuBaleia AnaBaleia AnaBaleiaFrancaBaleiaFrancaArgonautaArgonautaOstraOstraNautilusNautilusAbaloneAbaloneItaipuItaipuBM-C-32BM-C-32BM-C-30BM-C-30WahooWahoo2,000m2,000m出所:各種資料より作成3,000m3,000m図12ブラジル主要鉱区図間もなく下院本会議で審議、承認される模様である。 この法案では、PetrobrasはCNPEから通達を受けた後、30日以内に、該当する鉱区の探鉱・開発に参加するか否かを選択する権利を与えられるが、参加義務はない。同法案が成立すれば、Petrobrasがプレソルトの全ての新規鉱区に参入する義務はなくなり、会社の再建に力を注ぐことができるが、再建後、あるいは、資金面で余裕が生じた場合には、プレソルトの全ての新規鉱区に参入することが可能になる。また、Petrobrasの経営が苦しいために、プレソルトの新規鉱区の開発が遅延することを避けることもできる。Parente CEOも、現在の法律はPetrobrasやブラジルのニーズに合致していないとし、この法案に賛成、支持していると語った。 同法案が国会で審議されていることを受けて、6月26日にANPが、次回のライセンスラウンドにプレソルトの鉱区を含む可能性があると発表した。また、Fernando Coelho Filho鉱山エネルギー相は、2016年に小規模なライセンスラウンドを、2017年に規模の大きいライセンスラウンドを行う可能性があると語った。 7月に入ると、鉱山エネルギー省幹部が、政府は2017年中頃までにプレソルトの4エリア(Gato do Mato、Tartaruga Mestica、Sapinhoa、Carcara油田の周辺鉱区)を公開する予定であるとした。このうち、Carcara油田は構造の55%が BM-S-8 鉱区外にあり、開発にはユニタイゼーションを行う必要があるという。同省はユニタイゼーションのスタディを実施、コンセッション契約の鉱区とPS契約の鉱区のユニタイゼーションに関する規律を2016年末までに整備する予定である。 なお、次回の第14次ライセンスラウンドに向けて、ANPは低油価の状況に合うように最低探鉱義務等コンセッション契約の条件を変更したり、鉱区の規模を拡大することを検討しているという。ANPは既存の契約についても必要に応じて契約期間を延長する等の調整を行っていると伝えられる。 また、7月末には、政府がプレソルト開発法を廃止し、プレソルトの新規鉱区について契約形態をコンセッション契約に戻すことを検討している*8との報道があった。検討結果は9月にTemer大統領代行に提出されるが、議論は始まったばかりで、法律廃止には数年かかる見通しである。33石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-i2)ローカルコンテンツの変更 ブラジル政府は、石油産業発展とともにブラジル国内産業の振興を図ろうと、1999年よりローカルコンテンツ規制を導入した。Lula前政権下で、要求される国内調達比率は高まっていき、陸上、沖合の鉱区を対象とした第7次、第9次、第11次、第13次ライセンスラウンドでは、探鉱段階で37%以上、開発段階で55%以上、陸上鉱区のみを対象とした第10次、第12次ライセンスラウンドでは探鉱段階で70~80%、開発段階で77~85%の資機材等を国内で調達することが求められるようになった。また、プレソルトの新規油田に適用されることになったPS契約に関しては、ローカルコンテンツの最低ラインが探鉱段階で37%、開発段階では2021年までに生産が開始される生産設備については55%、2022年以降に生産が開始される生産設備については59%と定められた。 しかし、ブラジルにはローカルコンテンツ規制に応えるだけの十分な技術力や造船所がない上、国内で資機材を調達することにコスト面でメリットは少なく、納期が遅れることも多かった。そこで、新たに造船会社を設立したり、外資とジョイントベンチャーを組んで、その技術を取り込んだり、資機材の一部を輸入し、ブラジル国内で調達した資機材と合体したりすることで、国内調達率をクリアしてきた。また、ローカルコンテンツを満たすことを断念し、必要な資機材を輸入してペナルティを支払うプロジェクトもある。 Petrobrasの汚職問題に関連して、掘削リグを製造する同社の関連会社Sete Brasilに対するBNDESの融資が凍結された。その結果、Sete Brasilから掘削リグ建造の発注を受けた造船会社への支払いが滞り、これらの造船会社の経営状況が悪化している。また、Petrobrasの汚職事件に関与したとして、政府から同社とのビジネスを禁じられているエンジニアリング会社や建設会社もある。その結果、資機材納入が遅れ探鉱・開発が進まないことや、入札が実施できなくなることを懸念し、政府は、汚職関与企業が罰金支払いに応じることでPetrobrasとの事業を再開できるようにする等方策を検討していた。 2016年7月末には、SBM Offshoreが、ブラジルの検察当局との司法取引に関する取り決めの一部として罰金を支払うこと等により、Petrobrasが実施する入札への参加を認められた。一方、Odebrecht社は2014年12月にPetrobrasに賄賂を贈った企業18社のブラックリストに載り、Petrobrasの入札に参加できなくなっていた。その後、入札参加を認められていたが、Rio de Janeiro の裁判所から、入札に参加することを認めた命令を差し止められた*9。 なお、今後生産が始まるプレソルトの油田のローカルコンテンツ比率は、現在生産中の油田に比べ高く、これまでのように便宜的に資機材の一部を輸入し、ブラジル国内で調達した資機材と合体すること等で、ローカルコンテンツをクリアすることが難しくなる。さらに、原油価格低迷で、ペナルティを支払ってまで、進展を図ろうとするプロジェクトは減少するのではないかと見る向きもある。 Eduardo Braga鉱山エネルギー相(当時)は、「国産化政策を改めるつもりはないが、ローカルコンテンツについては交渉を通じて若干の修正を施す」としていた。しかし、2016年1月18日、Rousseff大統領が石油・ガス産業に対するローカルコンテンツを緩和する大統領令を官報に告示した。ローカルコンテンツの規制の概要は、新たに国内に供給社(者)を創設できる場合等に限って課すとの内容となっている。3.プレソルトの油田開発とブラジルの石油生産の見通し Petrobrasは2016年にプレソルトで4基の生産設備の生産を開始する計画としていた。このうち、Lula Alto 油田のFPSO Cidade de Marica が2月に、Lula Central 油田のFPSO Cidade de Saquarema が7月に生産を開始した。2016年下半期にはLapa油田のFPSO Cidade de Caraguatatubaが生産を開始、Libra油田の長期生産テストも開始される予定である。ガスについても、Santos BasinとMacaeに位置するCabiunasの処理ステーション間をつなぐブラジル最長の海底パイプラインRoute 2 ガスパイプライン(全長401km、送ガス能力13MM?/d)が2月12日に開通し、生産増が期待されている。 2015年6月時点でPetrobrasは、これらの生産設備の稼働により2016年のブラジル国内石油生産量を218万5,000b/dに引き上げる計画であるとしていたが、2016年1月の投資額見直し時に、これを214万5,000万b/dに引き下げた。このように同社は最近、生産目標を頻繁342016.9 Vol.50 No.5アナリシスノ見直し、確実に達成できる生産目標を掲げ、生産目標未達成の事態を避ける傾向にある。 2016年6月までのPetrobrasの石油生産状況を見ると、第1四半期はメンテナンスが多く実施されたことから生産量は減少していたが、第2四半期は前四半期比7.7%増と生産を伸ばし、上半期の生産量は205万6,000b/dとなった。6月の石油生産は220万4,000b/dと、2015年8月、2014年12月に次ぐ月間記録を達成、下半期にプレソルトの新規生産設備の生産が開始されることで、生産増が期待される。しかし、Petrobrasの石油開発・生産担当役員によると、2016年の生産目標214万5,000b/dを達成するためには、同社は下半期に223万5,000b/dを生産しなければならないという。 中期的な生産の見通しには、探鉱・生産部門の投資額削減が影響を与えると考える。 先述したとおり、Petrobrasは2015年6月発表のBMP2015-2019で、総投資額を前5カ年計画比41%削減し1,303億ドル、探鉱・生産部門への投資額を29%削減し1,086億ドルとした。これに伴い、2016~2020年に稼働開始予定の生産設備の数は前5カ年計画の29基から20基に31%減少し、2020年の生産目標も前5カ年計画の420万b/dから280万b/dに33%削減された。 2015年10月と2016年1月にこの5カ年計画の見直しが行われ、総投資額が984億ドルに24%削減、探鉱・生産部門への投資額が800億ドルに26%削減されたが、2020年の生産目標は270万b/dに4%削減されたのみであった。 2015年6月発表のBMP2015-2019では、探鉱・生産部門への投資額、生産量いずれも30%程度の削減となっているが、後の2回の見直しでは投資額の削減幅に比べ、生産量の削減割合が小さい。後2回の見直しは、年の途中の削減であり、また、異例の変更でもあったため、生産目標が大きく削減されなかった可能性がある。したがって、BMP2016-2020発表時には、投資削減に合わせた生産目標の削減が行われるのではないかと考えられる。 2016年9月1日時点でBMP2016-2020の発表は行われていない。Parente CEOは、9月末あるいは10月末までにこれを公表するとしている。各種機関は、新たな5カ年計画の総投資額は前5カ年計画比5~20%削減されると見ており、動向を注視したい。 なお、Petrobrasが上流資産の売却を進めることで、同社の生産量が減少、生産見通しも引き下げられる可能性があると考える。現時点で売却対象とされている上流資産のうち、陸上成熟油田や北東部浅海の生産中鉱区の生産量は合計で5万b/d程度で、生産量や生産目標に対する影響は小さいと見られるが、Carcara油田のように規模の大きい油田が売却されることになれば、その影響も大きくなろう。最近の傾向からは、Petrobrasは生産目標を売却資産の生産量分だけ引き下げることになるのではないか。Carcara油田の権益をStatoilが買収したように、メジャー等がこれらの資産を買収し、Petrobrasに代わってプロジェクトに参入することになれば、ブラジル全体としては、中長期的に生産量が増加することもあり得る。 なお、2016年中頃からは、Petrobrasが投資額を引き下げ、生産開始時期を遅らせることで、パートナー企業から苦情、改善を求められるケースが見られるようになった。 Oil and Natural Gas Corp.とIBV Brasil Petroleo Ltd.(Bharat Petroleum Corp.とVideocon Industries Inc.の50対50のJV)は、Petrobrasと共同で進めているSergipe州沖合Farfan、Barra、Cumbe等の油田について、Petrobasから開発が遅延し、生産開始が早くとも2022年となると伝えられた。これらの油田については、BMP2014-2018では、2018年に生産能力10万b/dの生産ユニットが1基、2020年にさらに1基が生産を開始する予定とされていたが、BMP2015-2019では、いずれも2020年までに生産を開始するプロジェクトのリストから外されていた。インド企業2社は2007年以降、同プロジェクトに21億ドルを投資、早期の生産開始を求めている。一方、Petrobrasは、Sergipe州沖合の探鉱には35億ドルを投じており、同地域の開発計画を2020年までに完成させたいとしたが、生産開始時期については触れていない。 今後、さらにPetrobrasの開発計画が変更され、プロジェクトに遅れが見られるようになれば、同様のケースが増加する可能性があり、Petrobrasは対処を求められる機会が増えることになろう。35石油・天然ガスレビュー苦境からの復活を図るPetrobras -ブラジル沖プレソルトの開発と生産の見通し-ィわりに Petrobrasは、政府の介入排除やコスト削減に努め、プレソルトの生産増を軌道に乗せ、窮地からの脱出を図っている。プレソルト開発法改正法案も成立する可能性が高いとされ、Petrobrasの負担が軽減され、同社以外の企業が参入し、プレソルトの油田開発が進展する可能性も出てきた。しかし、資産売却は2016年中に目標額を達成できるか危ぶまれ、負債も大きく減少することはなく、同社が資金面で引き続き大きな不安を抱えていることに変わりはない。政治に関しても、Rousseff氏が8月31日の弾劾裁判で罷免され、Temer大統領代行が大統領となったが、Temer氏自身にも汚職疑惑が浮上しており、不安定な状況が続くとの見方もある。 このような状況下、Petrobrasは新しい5カ年計画で、投資額、生産目標のさらなる引き下げを余儀なくされると考えられるが、この苦境が、Petrobrasが政府の関与から解放され、より経済効率性の高い企業に生まれ変わり、また、ブラジルの探鉱・開発に外資等Petrobras以外の企業が多く参入する機会となる可能性もある。<注・解説>*1: Platts Oilgram News 2016/4/20*2: Platts Oilgram News 2014/11/10*3: ブラジル日本商工会議所2016/5/19*4: ニッケイ新聞2016/7/27*5: ブラジル日本商工会議所2015/6/14、International Oil Daily6/15*6: ブラジル日本商工会議所2016/4/1*7: Platts Oilgram News 2016/3/29*8: Bloomberg 2017/7/28*9: Business News Americas 2016/7/27執筆者紹介舩木 弥和子(ふなき みわこ)神奈川県逗子市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。JOGMEC調査部(中南米およびカナダ担当)。近  況: 一昨年2回、昨年2回と頻繁に転居しました。思いもしなかった所で生活をする楽しさはありますが、しばらくは定住したいです。Global Disclaimer(免責事項)本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。362016.9 Vol.50 No.5アナリシス
地域1 中南米
国1 ブラジル
地域2
国2
地域3
国3
地域4
国4
地域5
国5
地域6
国6
地域7
国7
地域8
国8
地域9
国9
地域10
国10
国・地域 中南米,ブラジル
2016/09/21 [ 2016年09月号 ] 舩木 弥和子
Global Disclaimer(免責事項)

このウェブサイトに掲載されている情報はエネルギー・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、機構が作成した図表類等を引用・転載する場合は、機構資料である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。機構以外が作成した図表類等を引用・転載する場合は個別にお問い合わせください。

※Copyright (C) Japan Organization for Metals and Energy Security All Rights Reserved.

本レポートはPDFファイルでのご提供となります。

上記リンクより閲覧・ダウンロードができます。

アンケートにご協力ください
1.このレポートをどのような目的でご覧になりましたか?
2.このレポートは参考になりましたか?
3.ご意見・ご感想をお書きください。 (200文字程度)
下記にご同意ください
{{ message }}
  • {{ error.name }} {{ error.value }}
ご質問などはこちらから

アンケートの送信

送信しますか?
送信しています。
送信完了しました。
送信できませんでした、入力したデータを確認の上再度お試しください。