ページ番号1006598 更新日 平成30年3月5日

中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割

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レポートID 1006598
作成日 2016-11-21 01:00:00 +0900
更新日 2018-03-05 19:32:42 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 天然ガス・LNG基礎情報
著者
著者直接入力 パイク・グンウク 本村 眞澄(編者)
年度 2016
Vol 50
No 6
ページ数
抽出データ オックスフォード・エネルギー研究所パイク・グンウク中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割はじめに梓し 英オックスフォード・エネルギー研究所のパイク教授が、“Sino-Russian Oil and Gas Cooperation-The Reality and じょうImplications”を上されたのは、2012年のことであった。翌年2月、教授が来日されたのを機に、JOGMECにおいて出版記念の講演をお願いしたが、その内容は、石油・天然ガスレビューの2013年7月号に掲載した(2013.7 Vol.47 No.4)。同書は、その後、公益財団法人環日本海経済研究所の西村可明所長(当時)の手によって日本語訳が完成し、2016年2月に刊行された。この時も、教授には新潟市にある同研究所において講演をいただいたが、その後、東京に立ち寄られたのを機に、改めてその後の動向を踏まえた中ロエネルギー協力に関する講演をお願いした。 教授の学問的方法論の素晴らしさは、先の石油・天然ガスレビューに記したとおりであるが、その姿勢は本講演のなかでも述べられているように「実務家」(Practitioner)のそれであって、ビジネスとしての石油・ガスの動向を追跡し、事業者そして市場の側からの最適解を得ようとするものである。それ故、ロシア、中国、韓国の政策担当者との強い連携が構築されている。教授の見解が現実の世界に強い影響力を有しており、これが日本における講演でも多くの実務者の参加を得ることのできた理由と言えよう。その片鱗は、今回の講演でも窺うことができる。                                 (本村眞澄)出所: パイク・グンウク『中ロの石油・ガス協力』文眞堂(2016年2月)写パイク博士の著書(表紙)1. 中ロのガス協力の立ち位置 本日、私がお話しし、説明したいと思っていることは中国・ロシアのガス協力に関して、それがどのような立ち位置にあるか、それから両国のエネルギーバランスシート、エネルギーミックスについて、特に両国が石炭使用に大きく依存しているという点を絡め、中国とロシアのガス協力を中国当局がどのように見ているかという点です。この、中国とロシアのガス協力を生かしてゆくために、実質的な進展はどのように調整されるのか。何が成し遂げられ、また、どのように見通されてきたかが、本日の話の全体的な内容です。 この本を準備していた3年前、その当時私は2010年のデータを使用していました。現在、ロシアの2015年のデータは、2010年の値ではないはずなのに、ロシアでの数値はほとんど変わっていないことを物語っています。しかし、中国での数値は大幅に変更されて、はるかに大きくなっています。ここには中国とロシアの関係が反映されています(表1)。 私は、中国とロシアのガス協力が単に2国間の関係だけにとどまらないことを説明したいと思います。これが地域の多国間協力の導入の出発点となるからです。今後81石油・天然ガスレビューアナリシスOGMEC 調査部 担当調査役本村 眞澄(編者)表12015年時点での中国とロシアの比較China9.6 mn sq kmArea1.401 bnPopulation140 / sq kmPopulation DensityBeijingCapitalShanghaiLargest CityUnitary socialist republicGovernment US$ 11.385 tnGDP(nominal)US$ 8,280GDP per capitaUS$ 3.33 tnForeign reservesUS$ 216 bnMilitary expenditure出所:IMF, World Economic Outlook, Oct. 2015, 他Russian Federation17.1 mn sq km0.142 bn8.4 / sq kmMoscowMoscowFederal semi-presidential RepublicUS$ 1.236 tnUS$ 8,447US$ 0.36 tnUS$ 84.5 bn数年間、この地域がこの2国間協力を踏まえようとしていますが、いずれ彼らは多国間協力を考えることになるでしょう。これが、強調したい重要なポイントの一つです。 中国のガス拡大はいつも突然で、特にこの研究は日本の東京大学の平田賢教授(当時)によって1990年にまさに先駆けとして始められたものです。ですからある意味で、中国がガス受容を拡大する政策をとってきたというのは、この先駆け的な研究があったからこそなのです。私たちはこのパイプラインネットワーク接続についての日本、韓国間の協議をたくさん見聞してきましたが、その実務作業の大半は中国自身によりここ20年間に実施されました。ですから、私はその先駆け的研究から生まれた成果がどんなものであるか、これから説明したいと思います。2. ESPO(東シべリア-太平洋)石油パイプライン 天然ガスにおける中ロ協力に入る前に、簡単に石油の問題について言及します。図1は実現したパイプラインと新たな計画ですが、これは1990年代の後半から2000年初めまで議論されました。これは石油輸出の観点で実現した成果をよく示しています。 このESPO(東シベリア・太平洋)石油パイプラインが完成したことによって、ロシアはヨーロッパとアジアの双方に対し石油供給者になりました。ESPOパイプラインの開通と、沿線における油田開発がなされてきたことは大きな成果ですが、重要なことは、現在石油価格が低落している状況に鑑み、ロシア、特にRosneftにとっては、この大規模な原油パイプライン容量を満たさねばならないということが、頭痛の種となっていることです。 中国は、本当はESPO原油の輸入に必ずしも熱心ではありませんでした。中国側は、率直にロシアの石油を必要としているとロシア側に伝えているのに、です。しかし2015年の大慶油田の生産量を見ると、計画では石油生産は3,000万トンだったのが、実際の生産量は3,900万トンありました。この数字がスコボロジノから大慶への原油パイプラインの拡張の進展が遅かった理由を間接的に伝えています。石油は足りていたのです。 パイプライン拡張の進展が遅れたことについて、中国当局とCNPC(中国石油天然気集団公司)やNDRC(中国国家発展改革委員会)による公式の説明は「規制上の問題がある」ということなのですが、私の見解は大慶油田の減退がむしろ穏やかなレベルにとどまっていたからではないか。これが中国側にある種の時間的余裕を与えているわけです。 私は中国がこの原油パイプラインを拡張することに関心がないと思いたくはありません。しかし、私が強調したいのは、彼らはその拡張の時期を遅くすることを望んでいるということです。 昨年4月、私は中国とロシアの石油とガス協力についてのOIES(オックスフォード・エネルギー研究所)の論822016.11 Vol.50 No.6アナリシスakhalin Isl.Sakhalin-1 LNGSakhalin-1 LNG5MM t/y5MM t/yPrigorodnoye118K bbl/d118K bbl/d(2008.12)(2008.12)No.3 TrainNo.3 Train5MM t/y5MM t/y201661Bcm/y61Bcm/yKKVVDeKastriKomsomolsk na AmureKomsomolsk na AmureKhabarovsk201ESPO-2ESPO-22AldanYYTyndaSkovorodinoWestSiberiaYurubcheno-Yurubcheno-TokhomskoyeTokhomskoyeVerkhne-ChonskoyeTomsk19642016NovosibirskKrasnoyarskTayshetayshetKovyktaESPO-1ESPO-12009Lake BaykalAngarskAngarskIrkutskZapolyarye2016PurpePurpePurpeVankorVankorWestern Siberian BasinWestern Siberian Basin2011SurgutSamotlorNizhne-VartovskNizhne-VartovskEast SiberiaVilyuy BasinVilyuy BasinYakutskTersko-Kamov BlockChayandaKuyumbinskoyeKuyumbinskoyeTalakanskoyeSea of OkhotskSapporoSakhalin-2 LNGSakhalin-2 LNG10.8MM t/y10.8MM t/y(2009.3)(2009.3)JAPANPEOPLE’S REPUBLIC05001,000kmOF CHINAVladivostok LNGVladivostok LNG15MM t/y15MM t/y(20Bcm)(20Bcm)420K bbl/d420K bbl/d(2009.12)(2009.12)Sea of JapanTokyoSKVSKVBlagoveshchensk300K→620K(?) bbl/d300K→620K(?) bbl/d(2011.01)(2011.01)DaqingMONGOLIAGas Export to ChinaGas Export to China38-60Bcm/y38-60Bcm/yHarbinVladivostok140K bbl/d140K bbl/d(2006.10)(2006.10)NakhodkaKozminoLegendState BoundaryProvincial BoundaryCityOil FieldGas FieldExisting Oil PipelinePlanned Oil PipelineExisting Gas PipelinePlanned Gas PipelineExpected Flow出所:JOGMEC作成図1北東アジアの石油・ガスパイプライン図文を執筆しました。そこで私は、CNPCが石油部門での対ロ協力に非常に関心があったことを特に指摘しました。CNPCがロシア市場に参入したいと考えていることは確かです。とりわけ三つのターゲットが最も重要です。まずTaas-Yuryakh油田、2番目がVankor油田、そして3番目がRosneft本体です。 Taas-Yuryakh油田はCNPCから買収を提案され、買収は全株式の49%に上る予定でした。実際に、CNPCは1年間そのスキームで交渉しましたが、原油価格が崩壊するや否や問題が起こりました。RosneftとCNPCとの間で買収評価額があまりにも違い過ぎることにCNPCが気づきました。Rosneftの期待額があまりに大き過ぎたからです。結局、そのギャップを埋めることはできませんでした。 そこへ、1バレル110ドルまたは100ドルの原油価格が現在50ドルを大きく割り込み、またCNPCの董事長(会長)の交代等もあって、CNPCの立場の調整という必要が出てきました。 そのため重要な意思決定を遅らせました。昨年だったら、株式49%の買収ははるかに容易だったでしょうし、もし周永康氏の解任がなく油価の崩壊もなければ実現したはずです。これは特に大きな油田でないにもかかわらず、非常に重要な油田でした。 二つ目はVankor油田プロジェクトです。Vankor油田はRosneftにとって非常に重要な生産拠点ですが、驚いたことに、Vankor油田の石油生産が2,500万トンから2,200万トンまでかなり大幅に減少すると言われています。今後、1,000万トンの減少が予測されています。 これが、Rosneftサハ共和国のヤクーツク、そしてクラスノヤルスクにおけるフロンティア油田開発に関して語っている理由です。現在の原油価格体制、価格水準の下でこのフロンティア油田開発が時宜を得たものでなければなりません。 それから3番目の案件。CNPCがRosneftとの戦略的レベルでの協力関係に入ることに関心があるのであれば、彼らが全Rosneft株式の19.5%を購入することを私は支持していました。しかし、ここでも評価額のギャップがあります。Rosneftの株式評価額があまりにも高いのです。 Vankor油田とTaas-Yuryakh油田取得に関して、RosneftはCNPCの取り組みの遅れに不満足で、彼らはすぐに、インドのONGC Videsh(インド石油天然ガス公社の海外部門子会社)と交渉に入りました。最初にMOU(覚書)に署名し次に本当の契約を締結するまでちょうど1年かかりました。 しかし、私は今でもONGC Videshがその契約をきち83石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割ニやり直すことを期待しますが、同時にCNPCの役割が他のプレーヤー(企業等)に変更されることにも期待しています。 ONGC VideshはこのVankorプロジェクトについて交渉するためにある程度準備ができていたし、それからTaas-Yuryakhに関心を表明したわけです。しかしONGC Videshの関心はガスではなく石油です。彼らがガスパイプラインの受け取り手になることはできないからです。ちょうどバリューチェーンやパッケージとしてTaas-Yuryakh、Vankor、Rosneft3件の買収問題が持ち上がった時に、CNPCや他の中国企業はインド側よりもはるかに有利な立場にありました。しかし、Rosneft自身が自分の資産を有利に売却するためにはCNPCと他企業に競合させることが必要だったということです。ただし、私はインドの申し出を真剣だとは考えていません。それが相乗効果要因となるには、それは単に石油の問題にとどまらず、ガスと組み合わせなければならないでしょう。3. 東シベリアのガス問題 ガスの展望に移りましょう。図2が非常に重要です。3年前、私が最初にこのパイプライン(「シベリアの力」)のことを力説した時、これは軽口のようなものだと言ったのですが、今日、この地図は非常に重要です、なぜならこれは北東アジアに対するGazpromの関心を的確に示しているからです。その上、もっと重要なことは、Gazpromは12年前に、彼らがこの“版図”を実現したいと既に考えていたということです。これは非常に重要な展望ですが、残念ながらそれは現在の価格体系の下では、実現することは難しい。出所:Gazprom図2ロシアから中国向けの天然ガスパイプライン図842016.11 Vol.50 No.6アナリシス@さて私は、2年前の2014年5月、中ロのガス契約が成立する可能性は90%以上ある、しかし政治家が最終段階で決定事項を覆すかもしれない可能性が10%あると話したものですから、欧米のメディア、欧米のジャーナリストによって当初はかなり激しく批判されました。 中ロガス契約の発表は2014年5月21日に行われましたが、プーチン大統領は19日に上海に到着します。そして現地のジャーナリストが私に電話をかけてきてこう言いました。「パイクさん、あなたは見込みが90%以上だとおっしゃいましたが、私は彼らが交渉成立の準備ができて発表が行われると思います」。その48時間の間にプーチン大統領と習近平主席との間でその取引が完全に変更されたと伝えられ、私は少し落ち込んでがっかりしました。 CNPCは既に、すべての準備作業を完了していましたが、プーチン大統領が上海に到着した時は、彼らは最終的な取引を準備するように指示されていませんでした。 習主席に対するプーチン大統領の最後の数分の要請で、彼らは交渉を再開し、5月21日の早朝4時に、すべての交渉は完了したと私は伝えられたのです。 実際、21日と22日、私には眠る時間も食事をする時間もありませんでした。私は非常にたくさんの人から聞かれましたが、その時、ロ中間の取り決めの理由を私は説明できませんでした。 この「シベリアの力」パイプラインは、ある意味で、Gazprom側が大きく譲歩したものでした。ここからくみ取るべき二つの重要なメッセージは、「シベリアの力」パイプラインにおける妥協は、Gazpromが実は一貫してアルタイラインを推していたということです。なぜなら西シベリアという一つのガス田地帯でヨーロッパとアジアの両方の供給者になることができるからです。そして、今ヨーロッパの消費者は西シベリアのガスへの依存度を最小限にしたいと考えていたところでしたから、アレクセイ・ミレル社長はアルタイ1、2、3といったパイプラインの増設による一連のガス供給計画を練っていたわけです。 後ほど私は、中国が西気東輸パイプラインをNo.6,7,8まで増設する気がないことを説明します。というのは、すぐに利用できる供給源に対して優先権を与えるというのがGazpromの関心事だったからです。しかし、Gazpromの立場としては、このパイプラインガスをウラジオストクにまで運ばねばなりません。彼らは年間約600億?という規模を考えていますから。 Gazpromは根本的なジレンマに直面しています。ChayandinskoyeとKovyktaという二つのガス田開発とこれに伴うウラジオストクまでのパイプライン建設で、これは非常にコストが掛かります。当初の計算では550億ドルですが800億ドルから1,000億ドルに達する可能性があります。現在の状況下では、相当の出費となります。彼らは「シベリアの力」ラインを約束どおり遂行しようとしていますが、今の段階ではあまりに高過ぎます。 ですから、Gazpromが直面している現在の疑問は彼らが段階的開発を行うのかどうかということです。彼らはウラジオストクの3トレーンを有するLNGに向けて、容量430億?のパイプラインへの供給を維持することはできません。しかし、この時点での優先順位はあくまで中国東北部へパイプラインで供給するChayandinskoyeガス田であるべきです。 Gazpromのジレンマはまた380億?の容量のガスが二つの市場で構成されていることです。ガスが産出される山元で380億?あるわけですが、まず200億?のガス市場が三つの省、黒龍江省、吉林省、遼寧省にまたがってあり、それからその残り180億?の市場が河北省、そして山東省にあります。河北省、山東省では、非常に競争力のある価格のLNGが来る場合、市場はLNG供給のほうに開放されます。CNPCでもそれを止めることはできません。これが、Gazpromが実際に直面しているジレンマです。 この380億?のガスがパイプラインガスへ供給されることは保証されていましたが、中国東北地方での200億?のガス市場は依然として販売が保証されているとはいえ、このガス市場が完全に保証されているわけではありません。いずれ実際に競争が始まるでしょう。これはGazpromにとって本当の悪夢です。 ここでもう一つの重要な問題があります。それは当初、Chayandinskoyeガス田は250億?の生産を維持するということです。さらに、Kovyktaガス田は350億?を生産します。合わせると、600億?とはなりますが、当面「シベリアの力」で380億?を供給する場合は、Chayanadinskoyeからの250億?との差である130億?を、他社の周辺ガス田から供給されなければならないことになります。これはGazpromとして受け入れたくない状況です。彼らはすべての供給源を独占したいからです。ですから、これこそGazpromがここで直面しているジレンマで、彼らがプーチン大統領へのロビー活動によって自分の立場を守ることができるかどうかの正念場なのです。130億?は簡単にRosneft、その他の企業によってカバーできます。これは、それができる第3の生産者が周辺に存在することを意味しますが、これこそGazpromが直面している大きな問題です。85石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割. ヤマルLNGの動向 今日、多くの人がヤマルLNGについて語っています。ロシアはそれなりの規模のLNGを生産していますが、本当に巨大なプロジェクトはヤマルLNGです。中国はヤマルLNGの株式の30%程度、CNCPが20%、Silk Road Fundが9.9%の権益を保有していますが、彼らはヤマルLNGのオペレーターではありません。しかし、当初ロシアは、ヤマルという270億ドルのプロジェクトについて中国に対し60%の融資を要請しました。しかし、現時点で、中国からは30%の出資までです(編者注:その後の2016年4月、中国輸出入銀行と中国開発銀行が合計120億ドルの融資を決めた)。 したがって、この株式比率が適切にバランスが取れており、さらにタイムリーな資金調達が実際に行われているのであれば、このヤマルLNGは、非常に重要なプロジェクトであると言わなければなりません。一方、ウラジオストクLNGは、日本が参入しない限り前進するとは思いません。それはすべて日本の参入にかかっています。ですから基本的に、ウラジオストクLNGは少なくとも10年はかかるが、ヤマルLNGにはチャンスがあると私は言いたい。 私がこの北極海ルートを推奨する理由は、日本、韓国、中国に対するLNG供給の面で、この拡張された北極ルートには、どの国も関心を有しているからです。 これが中国のガス拡張の面で何を意味するのか。私がこれを「一帯一路構想」(図3)に含めた理由は、これこそ中国がGazpromに対して、「シベリアの力」パイプラ計画で便宜を与えていると解釈する上で非常に重要な地図だからです。 この全体の提案は当初、中国外務省によって準備されました。CNPCや国務院ではありません。外務省では、かなりの数の専門家がこの全体コンセプトに取り組んでいます。 これを見ると、彼らは本当に考え抜いているのが分かります。中国の計画立案者にとって、対外関係はそれほ出所:WSJによる図3中国による「一帯一路」構想862016.11 Vol.50 No.6アナリシスヌ重要ではなく、本当に重要なことは、実は国内事情なのです。なぜなら、内部に抱える社会的不安定への対処が非常に重要だからです。社会の安定、内部のセキュリティにはカネがかかります。防衛予算よりもはるかに大きいのです。 社会の安定は非常に重要だし、言い換えれば国家は多くの人を養う義務を負っています。国家は約13億から14億の人々の面倒を見、そのうち5億の人々は旅行もでき、老後の余裕ができていると話すでしょう。しかし、残りの8億の人々はいまだに貧困状態にあるのです。 ですから、国家は彼らが抱える社会的不安を解消し、かつ経済も成長させなければならない。彼らは、この、より柔軟な改革開放政策が自身の国内市場において十分な推進力を発揮してきたことを知っています。そして、現在初めて、彼らは外部市場に目を向け始めています。 しかし興味深いことに、彼らはロシア市場を「一帯一路構想」に含めていません。ですから、「シベリアの力」パイプラインは北京当局からプーチン大統領へのある種の気休めまたは慰めだと私は解釈しています。なぜなら彼らはロシアを敵視することはできないし、このイニシアティブを危うくすることは隣人を非常に不幸にすることだからです。 結局のところ、習近平主席の立場からは、プーチン大統領に何かを提供しなければなりません。ご承知のように、中央アジアの共和国、中東、それからヨーロッパや近隣の沿岸諸国への海上からの供給、これが中国側が想定しているものです。彼らの経済成長を一定レベルで維持するための助けとなる十分な市場が存在することを確認したいというわけです。 多くの人々が中国のGDP成長率を約7%とか6%と口にしています。中国の経済規模は日本と米国を合わせたものの3分の2。国家がその国民を養うことができることを確実にするためには、今後拡大できる十分な余地があると確信を持って言えるようにすることが何より重要です。 これが中国指導部にとって大きな頭痛の種です。今の中国はご承知のように1次エネルギー源に占める石炭のシェアがまだ66%にも上り、この数字が2030年までに50%をはるかに下回るまでいくことができるかどうかは大きな疑問符が付きます。これは中国に限った問題ではありませんが。5. 中国のガス需要 中国が獲得しようとしているがガスは、3,000億?や4,000億?にとどまらず、7,000億?という輸入量を検討していると聞いています。しかし疑問は現在の価格体制の下で、彼らが7,000億?を手当てできるかどうかということです。疑問は政府が1次エネルギー源におけるガスのシェアを15%と言わず、17~18%台まで引き上げる意思があるかどうかです。 中国がそれに成功すると、これはインドにとって良い先例となり、その後、ASEAN諸国が追随するでしょう。ですから、エネルギーバランスのこの変化は非常に重要です。 CNPCのなかに二つの組織があります。一つは経済研究所、もう一つは技術研究所です。彼らはこの計画を調整しバランスをチェックする二つの主要な機関です。ここを見ると、2030年の在来型のガスが堅めのケースで2,100億?となっています。非在来型ガスの573億?は、このシェールガス、コールベッドメタン(CBM)、石炭合成ガス(CTG:Coal-to-Gas)で構成されます(表2)。 この数字の重要性は、2030年におけるLNG輸入がわずか700億?、輸入パイプラインガスが1,200億?であることです。私がこの表を説明した時、彼らの政策的解釈によれば、CNPCの考え方ではLNGよりもむしろパイプラインガス輸入を最大にするほうが良い、なぜならCNPCにはLNGに関する権限がないからということでした。CNOOC(中国海洋石油総公司)はLNG事業の主要な担い手ですが、CNPCはパイプラインガス輸入を増やせる独占企業だからです。これが彼らがこの1,200億?を計画した理由です。 しかし、この2030年の総ガス需要である4,600億?は、楽観ケースにおいて想定されていた5,500億?よりはるかに低いのです。しかし、私はこれを見て悲しく思いました。それは彼らがこの原油価格の崩壊によって数値を縮小せざるを得なくなったからです。私は5,500億?以上、できれば6,000億?までこの数字を復活させるような方向転換があることを本当に願っています。 図4はパイプラインガスとLNGを輸入するCNPCの87石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割\22030年までの中国の種類別ガス需要予測201520202030ConventionalUnconventional-SG-CBM-CTGImported LNGImported Pipe GasC132.014.95.07.92.035.040.0O138.518.86.59.33.040.044.0C170.031.610.011.610.060.075.0336.6TotalNote:C means conservative projection , and O means optimistic projection.   SG means shale gas , CTG means Coal to Gas.出所:CNPC、2015241.3224.9O185.059.730.014.715.070.080.0394.7C210.057.320.017.320.070.0120.0457.3NortheastGateNorthwestGateSouthwestGate十億?O230.0116.060.026.030.080.0130.0556.0Sea LNGGate 出所:CNPC、2015図4中国のガス輸入の4ルート戦略を示す全体地図です。それらは、「北東ゲート」「北西ゲート」「南東ゲート」、そして「LNGゲート」です さて、この「北西ゲート」の重要性ですが、実際にGazpromはこれをフルに活用したかったのです。おそらくGazpromはかなり自信があったので中国側に尋ねました。「あなた方がドアを開ければ私たちはガスを供給する」と。そうすると中国は「それこそあなた方の考え方だ」と言ったのです。中国としては、ガスを(ロシア国882016.11 Vol.50 No.6アナリシスキ。正式に発表されていない理由は、これが公式に発表されるとGazpromにレバレッジを与えることになるからで、Gazpromはこのパイプラインガスが自分たちのために提供されるという立場だからです。これはCNPCとGazpromとの間の典型的な交渉戦術です。彼らは匂わすことはしても正式に発表することはありません。 しかし私の見解では、南シナ海での紛争などで海上ルートに問題があるため、このWEP VIラインは実際に検討され推進されようとしています。しかし、これまでのところは、中央アジア共和国からのパイプラインガス(WEP II, III, IV)、300-300-250億?で合計850億?と、「シベリアの力」パイプラインからの380億?やミャンマーからの120億?で、合計で1,350億?となります。しんゃくこれは、斟されていないそのままの数字の合計量です。 沿岸のLNGターミナルについて見ると、2015年末現在、彼らが運用しているのは13ターミナルで、建設中は10ターミナルです。合計数は23となり、受け入れ容量は全体で6,500万トンです。しかし、彼らはその他に23ターミナルを計画しているので合計46になりますが、どれだけ実現するのか私には分かりません。 私は主な幹線パイプラインが北東部地方を除いて、すべてカバーしていると述べました。しかし、これらのすべての沿岸地域で、LNGターミナルが一つのパイプライン・システムに接続されていないということは、実に愚かなことです。この状況をどうするのか、彼らが考えなければならない次の課題だと思います。 私が構想しているのは、上海までのこのCNOOCの古いパイプラインに、CNPCの幹線パイプラインを接続し、それから大規模な二つのLNGターミナルに接続するというものです。こうすることにより、より安価なガスの市場を拡大するモメンタムが生まれるでしょう。 現時点で人々はLNG価格で6ドル/MMBtuの電力向けのガスについて話題にしていて、これは受け入れられるでしょう。しかし、10ドル/MMBtuを超えるともうチャンスはありません。それではどのようにバランスをとるのでしょうか?これには時間がかかるでしょう。原油価格回復次第だということになります。 私は、中国は、まだたどらなければならない長い道のりがあると述べました。この幹線パイプラインに加え、彼らは同様に沿岸パイプラインとこの幹線パイプラインの共存を考える必要があります。これには彼らがガスの利用拡大を最大化するために非常に重要な意味合いがあります。これこそが、彼らの全体的なガスへの依存状況をコントロールできる唯一の方法です。酌し内で)自ら開発し、生産する、それからパイプラインを構築し、それを流通したい、それこそがバリューチェーンの概念だと言うのです。 Gazpromが中国に提案したものが何であれ、中国側はこの輸入されたガスに補助金を出す方法を見つける必要があります。というのは、この国内のガス料金は3.5ドル~4.1ドル/MMBtu(百万英国熱量単位)なので、沿岸地域に到達した時、それではあまりにも高いのです。そこで彼らはガス価格を大きく引き下げる方法を見つけなければなりません。それを実際に行い得る唯一の方法はガス上流事業の権益を持つことです。 Gazpromは、中ロにまたがる「シベリアの力」ラインの遅延に関して多くのことを訴えていましたが、彼らが最も訴えたかったことはどこが資金を出すかということでした。実は、Gazpromは250億ドル水準の資金調達を交渉したことはありません。私はその250億ドルの前払い金を検討するのにCNPCを応援した一人でした。 私がその当時CNPCと国務院の双方に話したのは、「あなた方は本当にレバレッジ(便益)をもう一度持ちたいと思っているのか」「それなら実際のガス価格を引き下げる方法を見つける必要がある」ということでした。そうすれば利益は輸入業者ではなく消費者に与えられるだろうということです。私はこの輸入されたガスはガスの流通業者に直接与えなければならないと主張しました。 日本企業への私の問いかけは、中国の観点から最も弱い立場にあるガス流通分野において、中国市場で仕事することに本当に関心があるのかどうか、というものでした。この時点で、彼らはすべての幹線パイプラインを完成させていたものの、都市ガス開発を目指すのにはまだ長い道のりがありました。その領域で本当に激しい競争になるのに5年から10年かかるでしょう。 このパイプラインはCNPCによって建設されるでしょうが、私は誰が受益者になるのかと言えば、それはガスの消費者であるべきと主張しました。 このパイプラインに関して、国内ガス用のWEP(西気東輸:West East Pipeline)Iは容量が170億?です。それからWEP IIとIIIはいずれも完成しています。これらは容量が各300億?、合計で600億?です。当初、容量250億?のWEP IVについては、輸入パイプラインと理解していましたが、完全に国内のガスも併せて使用する計画とのことです。 さて、WEP VおよびVIに関しては、正式に発表されていません。これこそ彼らが採る典型的な中国の方法で89石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割. 北朝鮮経由のガスパイプラインをどうするか? 実際に、中国は再生可能エネルギーのための大規模な投資に向かう傾向がありますが、太陽エネルギー、それから風力エネルギーで実施されたものを見ると、それは投機事業の一環としてであって、多額に上ります。しかし、彼らは完全に失敗しています。私はより論理的でなければならないと主張して来ました。 「シベリアの力」パイプラインはブラゴベシチェンスクを通り、ハルビン、そして瀋陽・北京に至ります(図4)。この地図を4年前に韓国当局に紹介しました。しかし、韓国は彼らがこのパイプラインを延長することを望むかどうか決断しませんでした。 このパイプライン網の重要性は、北朝鮮とパイプラインについて協議するに当たって、中国そして韓国の両方に対して本当のレバレッジを与えるということです。以前の政府、李明博政権は北朝鮮を経由してウラジオストクから韓国へこのパイプラインガスを延長することについて話をしていましたが、韓国のレバレッジはGazpromに比すれば部分的です。私の論点は、韓国政府として、Gazpromが予測不可能な北朝鮮の指導者をコントロールすることができると本当に信じられるかということでしたが、私は自信がありません。 ですから、そのような状況に基づいて、私は次のように主張しました。このパイプラインガスがソウルから来て平壌に向う場合、韓国はこの供給義務を遂行する上で容易になり、レバレッジは韓国に与えられます。そしてまた九州への韓国幹線パイプライン、250㎞のパイプラインがあります。 これらがすべてに接続されるというのが、本当に強調したいポイントです。中国とロシアのガス協力はLNG生産者によってかなり否定的に受け取られましたが。 この380億?のパイプラインガスが中国等に供給されている場合、かなりのエネルギー市場は押さえられてしまいます。しかし、私が本当に言いたいことは、この2国間協力が最適な価格、割引価格をもって中国、韓国、日本のためのガス利用の拡大の扉を開くということです。それが最も重要なことです。 万が一、中国が最大規模のガスを使用する余裕があれば、インドも同じようにするでしょうし、それからASEAN諸国も同じことをするでしょう。それは私が本当に見てみたい状況です。IOC(国際石油会社)の観点から、彼らはおそらくマージンが減ることは受け入れがたいでしょうから、消費者の側も一定の制限が必要と思われます。 それが、今、日本、韓国の間でこのガス消費者同盟のための時が来ていると主張した理由でした。実際に日本は、LNG供給以外にはレバレッジを持っておらず、日本がLNG輸入で成功した分、その犠牲となっています。そして福島の災害が起こりました。それから2,000万トンのLNG供給を増やしましたが、すべての財政負担を消費者が負わされました。韓国も同じ状況です。 韓国は、ベースロード電源としてまずは原子力、次いで石炭を優先に考えているので、これまでにLNGバランスを完全に歪めてしまいました。実に単純な話です。ガスはあまりにも高価でした。ガス価格を大幅に低下させるような見通しがあれば、アジア全体の買い手によって、マージンを減らすのではなく、市場を大幅に拡大することができます。COP21のパリ協定を実行するという点でも現実的な話となります。 私はこのパイプラインの接続に期待していましたので、彼らは消費者のために本当のレバレッジを提供すると思います。しかし、現時点では、政治家はそのように考えていません。 このパイプラインの延長が実行されれば、多国間協力の最初のステップになると言えますし、更には日本までの延伸も期待されます。振り子は生産者から消費者に移るでしょう。それこそ私が本当に強調したいキーポイントです。ゆが7. ガス供給の拡大 さて、最後のポイントとしてこのガス供給の拡大に関してお話ししたいと思います。私が分からないのは、何がワシントンにこのイランの制裁解除を促したのかという点です。902016.11 Vol.50 No.6アナリシス?つれき そこには、何のロジックもなかったと個人的には考えています。米国にとってアジアはシェールガスLNGの最大の市場ですが、イランがLNGの供給を開始すると、この地域の競争相手となり、大きな軋轢の種になります。一体、どのように解釈したら良いのでしょうか? 原油価格が崩壊したため、東アフリカのモザンビーク、タンザニア、これらの国でのガス生産量は縮小せざるを得なくなり、おそらく各100億?以下です。しかし、供給者としてはそれなりの規模と言えます。 簡単にLNGにして6,000万トンの供給は可能になると思います。これがイランや東アフリカと組み合わされる場合、アジアの消費国は多様なLNG供給の受益者となり得ます。大きなチャンスであると思います。 しかし、現時点では原油価格の崩壊が、事業の実施や、方向性を決めるに当たって、多くの問題を引き起こしました。私は多くのことが変わることを本当に期待しています。なぜなら日本はこのLNG産業の最大消費国であるからです。日本は最大の営業力を持っています。私は本当に見てみたい、日本が生産者から消費者に力点が移るという点で、大きな役割を果たすことができるということを。 そして、私はバランスの取れたアプローチを取り、IOCの事業推進力に強く依存しないことが重要と考えます。生産者、消費者とIOCの間でバランスの取れた役割分担がなされれば、今後のガス価格の調整は適正になされることになるでしょう。 私は中国とロシアのガス協力の果たす役割が必ずしも悪いことではないと考えます。中国のガス消費の拡大から、パイプラインガスの役割の拡大、それはガス供給源の多様化の観点から、そしてガス価格低減の観点からさらに貢献することになるでしょう。それが私の話の結論です。さて、ご質問を受けたいと思います。ありがとうございました。8. 質疑応答<質問者 1> 一つ目の質問として、あなたの、ロシアから中国へさらには韓国へ、または北朝鮮にそして日本に向けての大きなスキームにおけるガスに関するご意見を伺いたい。そしてそこに、アジア市場、特にわれわれに、日本市場へガスを供給できる大きなガスネットワークがある場合、現在のガス市場にはおそらく、より大きな競争が生じるでしょう。この流れをどう考えられますか? 二つめは、ロシアと中国の間で(ガス供給に関して)包括的な合意がなされたようですが、発表があった時、なぜそれは大きなニュースになったのでしょうか?おそらくそれは原油価格の崩壊に起因しているか、または多分崩壊した原油価格がガスの価格に何らかの影響を与えたというものでしょう。そして、もう一つはおそらく現在進行中の反汚職運動という政治的要素に連動しています。≪パイク・グンウク≫ とても難しい質問ですが、実際に即してとても短くお答えします。 チャンスが浪費されてしまいましたが、決して無駄になりません。なぜなら、たくさんの準備作業が実行されたからです。人々はこのパイプライン拡張が地域の消費者にどのような影響を与えるかを理解し始めています。ですから、この点で、政治指導者がする意思決定は重要です。 次の質問ですが、CNPCとGazpromは、実際双方ともゆっくりではありましたが、彼らのパイプライン開発を始めていたのです。その後、彼らは合意したわけですが、合法的に拘束力のあるトップからのコミットメントですからもう戻ることはできません。 ですから、ロシアでさえ、Gazpromは4年間遅れたわけですし、私は彼らが今後更に遅延させたなら、本当のダメージが生じるので、それはないと思います。相手がGazpromなので、3~4年遅れるかどうか分かりません。彼らの立ち位置は基本的に既に妥協した形です。 ここで重要なことはGazpromが実際の意思決定者ではないということです。「シベリアの力」パイプラインはまだ準備ができていません。2012年の夏にプーチン大統領にパイプラインルートが示されましたが、Gazpromのアレクセイ・ミレルは決して北朝鮮経由で韓国へのウラジオストクパイプラインについての話はしませんでした。それが彼の立場でした。 しかし、実際には、中国から韓国へのこのパイプライ91石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割唐ノついてプーチン大統領に示したのはRosneftのイーゴリ・セチン社長でした。こうして、この2012年10月にプーチン大統領がアレクセイ・ミレル社長に「シベリアの力」パイプラインを指示しました。 ですから、あなたの質問はこうですね。誰がアジアの消費者に向けてこのタイプの実際の契約を追求することに、より興味を持っているか?これをちょうど従来のアプローチ方法で分類しようとすると、整理してまとめることはできません。この時点では、「政治」というものが最も重要なツールだからです。 多くの人々がガス・プロバイダーとしてのロシアには信頼性がないと口にします。私はそれに反論します。ロシアは料金をちゃんと支払う顧客にとっては非常に良い供給者でした。彼らはガス価格を再交渉しようとする者に対しては、ガスの供給を停止しました。ですから、売り手であるGazpromの視点からすれば、ガス料金は支払ってもらわねばなりません、それも公正に。 たくさんの欧米メディアがGazpromは、そして ロシアは不良少年であると主張しました。私はそのようには思いません。あなたが、彼らが欧州市場にガスを提供しできなかったというなんらかの記録を持っているならば別ですが、全額をきちんと支払う者に対しては、ロシアからの供給途絶はありません。かつて唯一、ウクライナがガス代金を支払うことを拒否しました。こうなったらどうあっても交渉するか、彼らの腕をひねる必要がありました。 私がガスの売り手であっても、同じことをするでしょう。そして彼らが正当な支払いを拒否するならば、私は彼らの腕を捩じることでしょう。皆さんはコインの裏側も見なければなりません。異なった解釈があるということです。私は一般とは少し異なるアプローチを取っているようです。 私が中国の計画立案者に主張したのは、それはあなた方にとって非常に重要だが、それは中国のためだけではないということでした。中国がガスを最大限使用することはこの地球全体のために良いことです。それは中国が最も深刻なCO2の排出者であったためです。 しかし、この時点で、誰も中国に対してそのCO2を減らさなければならないと諭すことはできません。しかし、私は実務者です。私は30年以上、この中国とロシアのガスを研究してきました。中国の国民はこのとても汚れた空気を吸うことはできません。どうしたらよいのでしょうか? 彼らの口に食べ物を運ぶだけではありません。彼らは息をしなければなりません。思い起こしたいのはイギリねスがその汚染された空気をきれいにするために50年を費やしたことです。今、中国は同じような状況に直面しています。どうしますか? 今、彼らは再生可能エネルギーと太陽エネルギーを検討しています。私たちはスマートグリッド送電線を持つ必要がありますが、それには大規模な投資を要します。 ですから、優先順位を設定するならば、私は天然ガスを選びたい。天然ガスが最大のエネルギー源です。日本には最大の利点があります。LNGの活用、それは45年前に始まりました。日本はすべてのレバレッジを持っています。そのバランスをどのように取るかです。それが私の見解です。しかし、日本が十分にその立場を果たしているとは思えないのですが。<質問者 2> 私はカナダ太平洋、および米国からのLNGに特に大きな関心を持っています。これは韓国と日本に味方するオバマ大統領による少し政治的な考えだったのですが、アジア太平洋地域のエネルギー市場の観点からこれらの国のLNGに関する新しい状況をどのように見ますか?中国がわれわれのサイドにあるのかどうかは分かりませんが、これはロシアのLNGにとって特に大きな関心があることです。その点、どのように このシナリオを見ていますか?≪パイク・グンウク≫ 素直にお話ししましょう。私はロンドンから来たシェールLNGのマーケティング部門の最高経営責任者に尋ねたことがあります。彼は6,000万トンのLNGをしっかり輸送できることを自慢しました。アジア市場を経由して2,800万トンを提供し、それから残りの3,200万トンがいずれ来ることになっています。そして私は疑問を投げ掛けました。「価格はいくらで中国のNOC(国有石油会社)はコミットしたのでしょうか、公益事業ではなかったのですか?」と。彼は3回、答えることを拒否しました。 私は彼を揶揄して、「なぜ中国のNOCはLNGを購入しなかったのかあなたに説明しましょう」と言うと、彼は関心を見せました。中国ではすべてがCNPC、Sinopec、CNOOCという3人の兄弟によってコントロールされていたのです。 シェールLNGの供給にコミットするという点で、彼らは強くためらっています。しかし、私があなたの立場だったら、中国のNOCはこの供給オプションにどのように対応しているのかを理解してくださいと彼に助922016.11 Vol.50 No.6アナリシス痺pイク・グンウク≫ それは最も難しい質問ですね。その質問は予期していましたが、私がそれにお答えする適切な立場にあるか迷います。私はそのことを十分に勉強していません。しかしこのことについて、私は長い期間、先に触れた平田教授とともに取り組んできました。 私は、上海から本州、サハリンから本州、サハリンから沿海地方を通り長春、瀋陽、北京といったすべてを組み合わせた「内部環状パイプライン」を造りたいという考えです。 中国の山東省から韓国の釜山へ、釜山から九州へというパイプラインについて話すことがありますが、「シベリアの力」パイプラインがこれから4~5年でアジア市場にガスを配送するようになった時に、それはこれら全地域の市場にとって本当の変化になるだろうと思います。誰が受益者になるのでしょうか?イニシアティブを取るものが受益者となります。 そして、長い時間かかるだろうと思います。多分、その市場に入っていくのはそう簡単ではないかもしれない。しかし、より早く一歩先を行く努力は、状況を異なるものにするでしょう。私は、日本がこのガス事業における最有力候補であることを、もう一度繰り返します。私は日本がこのような状況を完全に活用すべきだと思います。 この時点で、プーチン大統領自身、非常に良い位置にありますが、彼はアジアに向けてこのピボット(軸足)を移し始めた時、アジア市場への浸透が非常に重要であることを知っていました。しかし、レバレッジを持っているものが期間と条件を決定しなければなりません。他の方法はないからです。<質問者 4> もしご存じならば簡単にお答えください。中国とロシアは今、輸出天然ガスの基準価格で再交渉していますが、それは2014年の5月に合意したとかつて報道されたものです。彼らがそれを再交渉しているとしたら、われわれはそれこそが、中国が石油取引の場合は前払いをしたにもかかわらず、ガス取引の場合、ロシアへの前払いをした主な理由の一つであるかもしれないと理解し躇ち躊ちゅうょていいでしょうか?≪パイク・グンウク≫ それは非常に難しい質問です。できればご質問に答えたくないくらいです。私はこの価格フォーミュラがCNPCの交渉担当者から提起された方法であることを言しました。しかし、「供給価格に競争力がある時、中国はすぐに心を開くでしょうし、すぐでなくともいずれ心を開くでしょう」と私は言いました。CNPCとは20年間協力してきましたので、私は彼らの思考方法を知っていました。 アジア諸国のたくさんの人々に私は言います、政府の役人は学術分野の専門家を無視する傾向があると。しかし、中国では学者の役割が非常に重要であると私は感じています。彼らは、あからさまではないですが、事柄が論理的であれば、注意を払います。私はいつも、オープンなブレーンストーミングで中国のNOCだけではなくNDRC(中国国家改革発展委員会)や国務院に携わっている人たちと議論してきました。 私は、関係するみんなに恩恵がなければならないと主張しています。これがロシアと中国のみの利益となるならば問題を解決することはできません。 今、彼らは考え始めています。これが供給源の多様化を考える非常に良い時期だと思い始めているのです。現状では、ガスに関してはカタール、オーストラリア、北米によってすべて支配されていると言わなければなりません。ここに、ロシア、中東、東アフリカから多様な供給源を追加することができれば、誰が最大の受益者になるでしょうか?それはアジアの消費者です。 私の主張は対価を支払っている人がものを言わなくてはならないということです。すべての売り手側が契約条件を決めているわけではありません。売り手側の営業利益を保証するために十分なお金が支払われてきた、しかし、これからは消費者がある意味保証される時期となったと主張しています。<質問者 3> 日本市場へのロシアパイプラインに関してお尋ねしたい。日本はさまざまなガス供給源を持っていますが、供給の多様化が非常に重要であり、私たちは日本市場へのパイプラインガスという選択肢を失うべきではありません。しかし私は、政治的にそれは非常に困難だということは理解するのですが、2、3年前、LNGはとても高かったので、プーチン大統領とセチン両氏を含むロシア政府は東へ、日本エリアへエネルギー供給をしたほうが良いと考えていたと思いました。 しかし、今のガス価格は$7~$8/MMBtuになりました。ですから、今は日本市場へのパイプラインガスの現実を議論する非常に良い時です。そのことであなたのご意見やアイデアをお尋ねしたいのです。93石油・天然ガスレビュー中国のガス利用拡大と中国・ロシアのガス協力の役割mっています。しかし、このところの原油価格崩壊はCNPCの交渉担当者に多くの混乱をもたらしました。私が述べたように、この意思決定プロセスに重大な真空状態があったのです。 かつての胡錦濤・温家宝政権に対し、今の習近平・李克強政権はロシアに対して異なるスタンスを持っていると主張するでしょう。すべての主要な決定は習主席が行っているので、李克強首相の役割はそれほど大きくはありません。 そして腐敗防止運動がかなり大幅に意思決定プロセスに影響を与えていると思われます。それに、アレクセイ・ミレル社長と同様の立場のCNPCの新会長がいます。彼は実行する人ですが、意思決定者ではありません。ですから、その面で私は価格交渉について、本当に真剣にトップレベルではまだ議論されているとは思いません。 彼らの見解から、250億ドルの前払いの件に絡んで、私が現時点では分からないのは、CNPCの会長と、国務院と習主席との間の関係が十分に確立されたものかどうかについてです。私はその関係を確立するのに時間がかかると思います。それが確立されると、それから実際の行動があるかもしれません。私は今、その難しい質問に答えられるか本当のところ分かりません。──司会 ありがとうございました。時間が来ました。パイク博士に大きな拍手をお願いします。どうもありがとうございました。講演者紹介パイク・グンウク博士(Keun-Wook Paik , Ph.D)北東アジアの石油ガス問題の専門家。1989年から1993年まで英国アバディーン大学留学。1993年に同大学で博士号取得。その成果は“Gas and Oil in Northeast Asia:Policies, Projects and Prospects”(London:Royal Institute of International Affairs, 1995)として出版される。1996年から王立国際問題研究所(Chatham House)研究員。2007年からオックスフォード・エネルギー研究所(OIES)上級フェロー。その間、CNPCやサハ共和国政府の顧問を務める。著書多数。Global Disclaimer(免責事項)本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。942016.11 Vol.50 No.6アナリシス
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地域2 旧ソ連
国2 ロシア
地域3
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国・地域 アジア,中国旧ソ連,ロシア
2016/11/21 [ 2016年11月号 ] パイク・グンウク 本村 眞澄(編者)
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