油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国-アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-
レポートID | 1006601 |
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作成日 | 2016-11-21 01:00:00 +0900 |
更新日 | 2018-03-05 19:32:42 +0900 |
公開フラグ | 1 |
媒体 | 石油・天然ガスレビュー 2 |
分野 | エネルギー一般天然ガス・LNG |
著者 | |
著者直接入力 | 杉浦 敏広 |
年度 | 2016 |
Vol | 50 |
No | 6 |
ページ数 | |
抽出データ | 公益財団法人 環日本海経済研究所杉浦 敏広油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国-アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-はじめに 2016年3月に、『北東アジアのエネルギー安全保障 東を目指すロシアと日本の将来』(ERINA北東アジア研究叢書5)が発刊されました。筆者は共著者としてこの本のなかでカスピ海周辺地域のエネルギー事情を報告しましたが、2015年10月に出稿してから既に1年が経過しました。 この間も油価低迷が続き、中央アジアやコーカサスの天然資源国の政治経済情勢に大きな影響を及ぼしています。各国はこれから2017年の国家予算原案の策定作業に入りますが、油価低迷による予算案策定作業は困難を極め、国民生活に支障を来たす厳しい予算内容になることも予見されます。 アゼルバイジャンとトルクメニスタンでは憲法が改正され、大統領権限が強化されました。カザフスタンでは、隣国ウズベキスタンのI. カリモフ大統領急逝(2016年9月)に伴い、N. ナザルバエフ大統領は後継者問題に一定の方向性を示しました。 本稿では、カスピ海沿岸資源国のうちアゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの3国に焦点を当て、この1年間の最新状況を加味しながら、上記の筆者報告内容を大幅に加筆・修正・アップデートすることにより、油価低迷がこれら資源国にどのような影響を与えているのか概観したいと思います。 なお、本稿で言及される内容はあくまで筆者の個人的見解であり、JOGMECおよび石油・天然ガス探鉱・開発事業者の認識とは必ずしも一致しているわけではないことを、ここに明記しておきます。1.カスピ海沿岸資源国の政治経済動向とエネルギー事情概観(1)アゼルバイジャン共和国①アゼルバイジャン現況 初めに、アゼルバイジャン共和国の現況を概観する。《正式国名》 「アゼルバイジャン共和国」(Azerbaijan Republic)《人口》 976万人(2016年7月末現在/アゼルバイジャン国家統計委員会発表)《国土面積》 8万6,600?(日本の北海道とほぼ同じ面積)《首都》 バクー(Baku)《民族》 アゼルバイジャン人(約9割)、その他レズギン人、ロシア人、タリシュ人等《宗教》 イスラム教シーア派が優勢《国家元首》 イルハム・アリエフ(Ilham ALIYEV)大統領*1(1961年12月24日生まれ/54歳)《首相》 アルトゥール・ラシザデ(Artur RASIZADE)首相(1935年2月26日生まれ/81歳)《議会》 1院制(定数125議席)。政権与党「新アゼルバイジャ1石油・天然ガスレビューアナリシス涛}」《GDP成長率》 2015年実績 +1.1%/2016年IMF予測 -3.3%(2006年に+24.5%を記録)(表1)《外貨準備高》 2016年1月1日現在の外貨準備高は51億7,000万ドル、7月末現在は41億6,000万ドルとなり、7カ月間で約20%減少した(表2)。《外国貿易額》 油価下落により2015年の貿易黒字額は前年比大幅減少、2016年1~7月度は1億7,000万ドルの貿易赤字となった(表3)。②政経情勢概観 旧ソ連邦は1991年12月25日に解体され、ソ連邦を構成する15の共和国は名実ともに独立した。旧ソ連邦の盟主たるロシア共和国は「ロシア連邦」として、アゼルバイジャン共和国は「アゼルバイジャン共和国」として独立した*2。 現在のイルハム(I)・アリエフ大統領はアゼルバイジャン共和国独立後、第4代目の大統領であり、同国第3代目の故ゲイダール(G)・アリエフ大統領の長男である。大統領選挙を経ての就任ではあるが、旧ソ連邦諸国において権力が親から子に継承された初めての事例となった。 第3代目の故G. アリエフ大統領は2003年10月に死去。同月実施された大統領選挙では、同大統領の長男I. アリエフ首相(当時)が立候補して当選した。 アゼルバイジャンの大統領任期は5年間である。2008年10月15日に実施された大統領選挙では投票率約76%、現職I. アリエフ候補は得票率約89%で当選、2期目の大統領に就任した。 2013年10月9日に行われた大統領選挙は同国独立後8回目の選挙になった。投票率約72%、現職のI. アリエフ候補が1回目の投票で約85%を獲得して当選した*3。 2016年9月26日には大統領権限を強化する憲法修正案を問う国民投票が実施され、承認された。これにより、大統領任期は従来の5年間から7年間に延長された。 現在第3期目を務める同大統領の外交政策は従来同様「全方位外交」であり、この政策は将来も変更されないだろう。その理由は同国の地理的立場にある。 コーカサス3国とはアゼルバイジャン、ジョージア(グルジア)、アルメニアを指すが、この3国は複雑な相互関係にあり、かつ周辺のロシア・イラン・トルコとの関係も錯綜している。 アゼルバイジャンの北側国境はロシア連邦ダゲスタン共和国と国境を接しているので、北の大国ロシア連邦との平和共存がアゼルバイジャンにとり国家安全保障の鍵となる。 アゼルバイジャンにとり最大の懸念材料は自国のナゴルノ・カラバフ紛争であり、また、隣国アルメニアと領表1アゼルバイジャン実質GDP成長率推移2010年2011年GDP成長率出所:IMF, World Economic Outlook, April 2016 Edition5.00.12012年2.22013年5.82014年2.82015年1.1%表2アゼルバイジャン金・外貨準備高推移2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年十億ドル2015年金・外貨準備高出所:アゼルバイジャン中央銀行/年末残高4.06.15.26.410.511.714.113.85.2表3アゼルバイジャン外国貿易額推移 2014年輸出額輸入額黒字額出所:アゼルバイジャン国家統計委員会資料より筆者作成21.89.212.62015年11.49.22.2十億ドル2016年1~7月4.594.76-0.1722016.11 Vol.50 No.6アナリシスニする。a. アゼルバイジャン領海カスピ海開発の歴史 旧帝政ロシア時代の1848年、カスピ海沿岸バクーで世界初の原油の商業生産が始まった。米国の原油生産は1850年代であり、世界の原油商業生産はバクー陸上油もっ田を以 独立直後のアゼルバイジャン共和国は混乱していたが、旧ソ連邦時代に第1副首相まで務めた故G・アリエフ氏が1993年6月に同国第3代目の大統領に就任後、国内情勢は安定し始めた。国内情勢が安定すると、同大統領はカスピ海の海洋開発に積極的に乗り出す政策を採用し、同大統領、英BP、アゼルバイジャン国営石油会社(SOCAR)3者による協力関係が始まった。 同国のエネルギー基本政策はアゼル領海カスピ海における原油・天然ガスの探鉱・開発の促進であり、原油・天然ガス海洋資源の探鉱・開発と原油・天然ガスの欧州向け輸出により外貨を獲得する戦略を継続している。 西側諸国が出資した代表的な欧州向け原油輸出構想が、アゼルバイジャン領海カスピ海におけるACG(Aアゼル・Cチラグ・Gグナシリ鉱区)海洋油田開発計画とBTC(Bバクー・Tトビリシ・Cジェイハン)原油パイプラインである。英BPをオペレーターとするコンソーシアムはACG海洋鉱区で1997年11月より原油の商業生産に従事している。 天然ガス分野ではカスピ海シャハ・デニーズ(Shah Deniz)海洋鉱区天然ガス田開発プロジェクトと南コーカサス天然ガスパイプライン(SCP)等があり、シャハ・デニーズ海洋鉱区においては2006年11月に第1段階の天然ガス生産が始まった。同海洋鉱区第2段階プロジェクトは2013年末に最終投資決定が行われ、2016年9月現在、シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階(ピーク時生産量年間160億?)の拡張工事が進行中である。 油価・天然ガス価格の高騰に伴い、油価が低迷していた2000年前後には経済性なしとして生産物分与契約(PSA)が破棄された海洋鉱区においても再度探鉱・開発が検討され、新たにPSAを調印して、探鉱を再開する矢しこうて嚆③アゼルバイジャンのエネルギー事情概観土問題を抱えていることだ。アゼルバイジャン国内のナゴルノ・カラバフ自治州はアルメニアの支持を受け、事実上独立状態にあるが、アゼル人は風光明媚なナゴルノ・カラバフ返還を強く望んでいる。そのアルメニアは、また隣国トルコと紛争を抱えている。アルメニアの後ろ盾はロシアであり、アルメニア駐留の外国軍隊はロシア軍である。 独立後のアゼルバイジャン国内では、アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノ・カラバフ自治州をめぐる民族紛争が表面化して、1992年に戦闘が激化。アルメニア軍は同自治州を含むアゼルバイジャン国土の約20%を占領した。ロシアの仲介により1994年に両国は停戦合意したが、その後も最前線では小規模な銃撃戦などが頻発していた。 2016年4月現在の当該国の戦力比較は下記のとおりである。アルメニア側にとりナゴルノ・カラバフの現状維持が国益にかなっているが、アゼルバイジャンのI. アリエフ大統領は国土奪還を目指し着々と軍備を増強してきている。2016年4月2日未明に勃発したナゴルノ・カラバフ紛争は1994年停戦合意後、両国間最大の戦闘行為となった(表4)。 アゼルバイジャンの経済構造は石油・天然ガス輸出額が輸出総額の9割以上を占める典型的な「油上の楼閣型経済」であり、石油・ガス依存型経済構造からの脱却が同国の喫緊の課題となっている。 2006年にGDP実質成長率24.5%を記録して以降、同国のGDP成長率の伸び率が低下している一因は、原油生産量が2010年以降減少していることにある。同国では2010年に5,080万トンがピークとなり、その後、原油生産量は漸減している。 アゼルバイジャン中央銀行発表によれば、同国の金・外貨準備高も減少しており、2015年初頭はUS$1=1.05AZN(アゼル新マナト)であったが、同年12月21日の変動為替相場制移行に伴い約50%の切り下げとなった*4。 ちなみに、2016年9月28日現在の為替レートはUS$1≒1.63AZNである。表4アゼルバイジャンとアルメニアの戦力比較兵力(千人) 予備役(千人)国防費(十億ドル)軍用機軍用ヘリ315アゼルバイジャン30ナゴルノ・カラバフ244アルメニア出所:2016年4月4日付露日刊紙Kommersant6720451.7n/a0.44421550817戦車433n/a144他の戦闘車両900n/a3003石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-vロジェクトも出現した*5。 しかし、2014年後半から始まる油価下落・油価低迷局面が今後も続けば、延期・中止される新規構想も出てくるかもしれない。また、油価下落に伴い同国の金・外貨準備高や石油基金残高も減少しており、今後各種新規大型プロジェクトの延期・中止は避けられないだろう。b. アゼルバイジャンの石油・天然ガス産業概観 アゼルバイジャン国営石油会社(State Oil Company of Azerbaijan Republic/SOCAR)は、1992年9月13日付大統領令第200号により設立され、1993年2月26日付大統領令第328号により経営形態が確立した。その後、2003年1月24日付「SOCARの改善」に関する大統領令第844号により、現在の同社の経営組織が確立した*7。 SOCARは2009年7月に国営ガス会社Azerigazを、2010年5月に国営化学会社 Azerkhimiyaを大統領令により吸収合併して、実質、国営石油・ガス・化学品会社となった。 アゼルバイジャン国家石油基金(State Oil Fund of Azerbaijan/SOFAZ)は1999年12月29日付「SOFAZ設立に関する」大統領令第240号により設立され、1年後の2000年12月29日付大統領令第434号により運営形態が確立した。その後、2001年6月19日付「SOFAZ資産管理規定」に関する大統領令第511号により実務を開出所:米EIA 2013年8月26日付“CASPIAN SEA REGION”*6。破線は領海未確定ライン図1カスピ海の領海画定問題と海洋鉱区位置42016.11 Vol.50 No.6アナリシス搖№キる国家委員会が2013年10月に新設された*8。新設の国家委員会委員長にはYagub EYUBOV第1副首相が任命され、委員には、大統領府副長官、財務相、エネルギー相、産業・経済省相、SOCAR社長等々が入っている。c. アゼルバイジャンの石油・ガス生産・輸出動向 同国では輸出額の9割以上が石油(原油・石油製品)および天然ガス輸出となる。ひょう I. アリエフ大統領は非石油・ガス産業部門の発展を標うしているが、国営企業が民営化されない限り、今後も榜ぼ天然資源依存型の経済構造は変わらないであろう。 2016年版BP統計によれば、同国の原油・天然ガス確認可採埋蔵量は表5のとおりである。 1997年にカスピ海ACG鉱区で原油生産開始以降、右肩上がりの原油生産量であったが、2010年の5,080万トンをピークとして、以後、生産量は減少に転じた。原油生産量減少の原因はACG海洋鉱区の原油生産量減少であり、SOCARの原油生産量も低下傾向が続いている(図2)。 アゼルバイジャンは2006年以降、グロス天然ガス生産量とネット生産量を発表している(表6)。 国内の火力発電所の燃料は天然ガスが主体であり、かんがい始した。 同基金設立の目的は天然資源収入を効率的に運用して現世代および次世代の国民福祉向上に活用することにある。同基金の収入源はPSA の国家取り分、PSAボーナス、投資運用益、アゼルバイジャン領内における天然資源トランジット収入等だ。支出先は国家的規模のプロジェクトであり、資金援助対象となったプロジェクトにはBTCプロジェクト、水利・灌漑プロジェクト、BTK鉄道プロジェクト(Bバクー・Tトビリシ・Kカルス接続鉄道プロジェクト)などがある。更に、2013年からは海外の不動産や金(Gold)購入も開始した。ちなみに、東京銀座1丁目のキラリト・ギンザの所有者はSOFAZである。 同国では2013年10月、省庁改編が実施された。アゼルバイジャン経済発展省と産業・エネルギー省は改編され、産業・経済省とエネルギー省が設立された。新設の産業・経済省大臣にはS.MUSTAFAYEV氏(前経済発展相)が就任。同じく新設のエネルギー省大臣には、N. Aliyev大臣(前産業・エネルギー大臣)が就任した。エネルギー省は名目上、同国の石油・ガス・化学・電力産業を管轄するが、同省の実態はいわば石油・ガス研究所であり、産業政策の実権はSOCARとアゼル国営電力会社(Azerenerji)等の国営会社が握っている。 アゼルバイジャンの欧州向け天然ガス輸出インフラを表5アゼルバイジャン原油・天然ガス確認可採埋蔵量(2015年末時点)確認可採埋蔵量世界シェア(%)可採年数原油(十億バレル)天然ガス(兆?)出所:BP Statistical Review of World Energy, June 20167.01.10.40.62360605040302010原油生産量(百万トン)天然ガス生産量(十億?)50.450.450.850.844.544.542.642.645.645.643.443.443.543.542.142.141.741.732.332.322.222.214.114.111.811.89.29.27.87.86.06.05.15.15.25.26.16.19.89.814.814.814.814.815.115.114.814.815.615.616.216.217.617.618.218.2019912008出所:BP Statistical Review of World Energy, June 2016より作成200519952000200620072009201020112012201320142015年図2アゼルバイジャン原油・天然ガス生産量推移5石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-\6アゼルバイジャン天然ガス生産量・輸出量推移十億?2011年 グロス生産量 ネット生産量輸出量出所:アゼルバイジャン国家統計委員会25.716.47.12012年2013年2014年2015年26.817.27.029.217.97.329.618.88.629.418.98.42015年を例にとると、国内年平均ガス需要量は約100億~110億?であるので、ネット生産量と国内需要との差約80億?が現行の年間輸出可能量となる*9が、現状ではほぼ全量トルコ向けである。また、シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階のピーク時年間生産量は160億?(トルコ向け60億?、イタリア向け80億?、ブルガリアとギリシャ向け各10億?)であり、トルコ経由欧州向け天然ガス輸出量のこれ以上の増加は困難である。ロシア産天然ガスの代替源として欧州が期待している将来の大規模天然ガス供給源は、トルクメン産天然ガスと制裁解除後のイラン産天然ガスしかあり得ない。故に、今後はトルクメニスタンからアゼルバイジャン向けカスピ海横断天然ガス海底パイプライン建設構想が脚光を浴びることになると筆者は予測している。d. SOCAR石油ガス化学総合発展構想発表 アゼルバイジャンは天然ガスを有効利用すべく、ガス化学産業発展にも注力しており、同国のガス化学産業発展構想には日本企業も協力している。 SOCARは2012年4月10日、アゼルバイジャン石油ガス化学総合発展計画を発表した。首都バクーから南西へ約60kmのGaradag地区に製油所や処理工場を建設するもので、SOCARによると同計画の総工費は124億ドル(金利を含めると144億ドル)、資金回収のめどは7年間とされた。 同構想の概要は以下のとおりである。 (ⅰ) 新規製油所建設:62億ドル、年間原油処理能力1,000万トン、2020年完工目標 (ⅱ) ガス処理工場 :24億ドル、年間処理能力100億?、2017年5月稼働目標 (ⅲ) 石油・ガス化学:38億ドル、2018年末完工目標を前提としていた*10。 しかしSOCARは2013年11月、同石化構想延期を発表。当初は2025年完工を予定。新製油所完工後、バクー市内に2カ所ある旧式製油所は解体される予定であったが、同石化構想延期に伴い旧式製油所解体も当面延期されることになった。延期の理由は公表されていないが、資金調達の問題と原料(天然ガス)の手当てがつかないことが延期理由と推測されている*11。 本構想は2014年後半以降の油価下落により、今後は規模を縮小、中国資本が50%資本参加して継続される見込みである*12。e. 新国営プロジェクト管理会社設立構想 I. アリエフ大統領は2014年2月25日付大統領令により、新国営会社設立を指示した。新会社は、アゼルバイジャンの4つのガスプロジェクトを管理する事業目的会社である。新会社の傘下に入る四つのプロジェクトとは、以下のとおりである*13。 (ⅰ) シャハ・デニーズ(Shah Deniz)海洋鉱区第2段階プロジェクト (ⅱ) 南コーカサスパイプライン(SCP)*14プロジェク ト(既存パイプラインの拡張工事) (ⅲ) トルコ国内東西接続パイプライン(TANAP: Trans Anatolian Natural Gas Pipeline)建設プロジェクト (ⅳ) アドリア海横断パイプライン(TAP:Trans Adriatic Pipeline)建設プロジェクト 新国営会社の出資比率は、SOCARが49%、SOFAZが51%となる(2)カザフスタン共和国 SOCARは今後25年間で国内外の石油・ガス事業に総額320億ドルを投資する予定であった。同構想のコンサルタントには伊Amec Foster Wheelerを採用。資金調達については、3割をアゼルバイジャン側(実際にはアゼルバイジャン国家石油基金)、7割を海外からの融資①カザフスタン現況 カザフスタンの現況を概観する。《正式国名》 「カザフスタン共和国」(Republic of Kazakhstan)62016.11 Vol.50 No.6アナリシスs首都》 アスタナ(Astana。1997年12月、アルマティからアクモラへ遷都。1998年5月、アクモラよりアスタナと改称)《国土面積》 272万5,000? (日本の約7倍)《人口》 約1,660万人(2014年、国連人口基金)《民族》 カザフ系65.5%、ロシア系21.5%、ウズベク系3.0%、ウクライナ系1.8%、ウイグル系1.4%、タタール系1.2%、ドイツ系1.1%、その他4.5%(2014年:カザフスタン国民経済省統計委員会)《宗教》 イスラム教70%(スンニ派が優勢)、露正教26%、他《国家元首》 ヌルスルタン・ナザルバエフ(Nursultan NAZARBAYEV)大統領(1940年7月6日生まれ/76歳) (2011年4月再選、任期7年*15)《首相》 B.サギンタエフ(Bakytzhan SAGINTAYEV)首相代行(2016年9月8日就任)。 K.マシモフ(Karim MASIMOV)首相は2016年9月8日に解任された。 (1965年6月15日生まれ/51歳) (首相第1期:2007年1月~2012年9月、第2期:2014年4月~) 後任には、上記B. サギンタエフ第1副首相が首相代行に任命された。《議会》 ナザルバエフ大統領が党首を務める政権与党「ヌル・オタン」(Nur Otan)が上院(セナート/定数47名/任期6年)・下院(マジリス/定数107名/任期5年)ともにほぼ全議席を独占しており、政権は安定している。ただし、大統領の健康問題と後継者問題あり。《GDP成長率》 1.2 % (2015年/表7)②カザフスタンのエネルギー事情概観a. エネルギー政策担当機関 2014年8月6日に石油ガス省と産業・新技術省、環境保護省の3省が統合され、エネルギー省が新設された。初代大臣には、V. シュコールニク氏(Vladimir SHKOLNIK。元石油ガス相/前Kazatomprom社長)が就任した。 エネルギー省は、天然資源開発プロジェクトにおける国益保護を目的とした関連法案の整備と戦略策定、電力および原子力分野の推進と規制、環境保全分野等を担当する。 ただし、同国のエネルギー分野を実質的に支配しているのは、ナザルバエフ大統領娘婿のチムール・クリバエフ氏(Timur KULIBAYEV。国家福祉基金Samruk Kazyna前総裁/露Gazprom現・取締役)と言われている。 2016年3月、K. ボズムバエフ氏(Kanat BOZUMBAYEV)がシュコールニク氏に代わりエネルギー相に就任した。b. エネルギー基本政策 原油・天然ガス増産が同国エネルギー戦略の基本政策である。 カザフスタン政府は、PSA(生産物分与契約)プロジェクトを含む全ての大型探鉱・開発案件に国営石油ガス会社Kazmunaigaz(KMG)を参加させる方針である。 1991年末の旧ソ連邦解体後、新生カザフスタン共和国は、旧ソ連邦時代には手付かずのカスピ海沿岸・海洋鉱区における原油・天然ガス資源の探鉱・開発を目指した。 カザフスタンは、欧州向け輸出により外貨を獲得すべく、(ⅰ)外国投資導入に向けた環境整備、(ⅱ)輸出用パイプラインの整備・拡充、(ⅲ)輸出先選択肢の多様化を推進してきた。 ところが2004年以降、同国政府は資源の国家管理強化策に方針転換して、2010年以降は新規PSAを凍結した。 ロシア・カザフスタン・ベラルーシ3カ国の大統領は2014年5月、ユーラシア経済同盟(EEU)条約に署名。同条約によって今後、マクロ経済政策や統一エネルギー市場等の一般原則や移行措置に関する合意を目指すこと表7カザフスタン実質GDP成長率推移2010年2011年GDP成長率出所:IMF, World Economic Outlook, April 2016 Edition7.37.52012年5.02013年6.02014年4.32015年1.2%7石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-ノなった。 石油ガス統一市場の創設に関しては、2015年末までに構想を固め、2017年末までに統一化作業を実施。2023年末までに統一市場を形成して、2025年までに通貨統合を目指す構想であったが、各国の思惑の相違等もあり、2016年9月現在、ほとんど進展していないのが実情である。c. 原油・天然ガス生産量推移 2016年版BP統計によれば、同国の原油・天然ガス確認可採埋蔵量は表8のとおりである。 カザフスタンは原油生産大国である。2014年には、原油8,080万トン、天然ガス193億?(ネット)を生産した*16。 ちなみに、2015年の生産量は原油7,950万トン(前年比-1.7%)、天然ガスのグロス生産量は453億?(同+5%)*17、2016年上半期(1~6月度)の原油生産量は3,880万トン(前年同期比-3.4%)、天然ガス生産量はグロスで229億?(同-1.2%)となった。この229億?の内訳は、非随伴天然ガス101億?(同-6.3%)、随伴天然ガス128億?(同+3.5%)である*18。 ここでカザフスタンにおける二つの代表的原油鉱区、テンギス(Tengiz)陸上油田と北カスピ海カシャガン(Kashagan)海洋鉱区の現況を概観したい。◆テンギス陸上油田 同国最大の陸上原油鉱区はテンギス油田、最大の海洋鉱区は北カスピ海に位置するカシャガン油田である。 テンギス鉱区の可採埋蔵量は同国全体の可採埋蔵量の約1/4、生産量は1/3弱を占める。 同鉱区で生産される原油は主にCPC(Caspian Pipeline Consortium)原油パイプラインで露黒海沿岸ノボロシースク近郊の出荷基地まで輸送され、そこからタンカーで輸送されている。また、テンギス原油の一部はカスピ海対岸のバクーまでタンカー輸送され、バクーからは総延長1,768㎞のBTC(バクー・トビリシ・ジェイハン)原油パイプラインで地中海沿岸のトルコ・ジェイハン出荷基地まで輸送され、ジェイハンから世界市場に輸出されている。 付言すれば、トルクメニスタン領海カスピ海でも原油を生産しており、この海洋原油はタンカーでカスピ海対岸のバクーまで輸送され、同じくBTCでトルコの地中表8カザフスタン原油・天然ガス確認可採埋蔵量(2015年末時点)確認可採埋蔵量世界シェア(%)可採年数原油(十億バレル)天然ガス(兆?)出所:BP Statistical Review of World Energy, June 201630.01.11.80.549769080706050403026.626.620100原油生産量(百万トン)天然ガス生産量(十億?)61.561.570.770.767.167.179.579.580.080.079.279.281.881.880.880.876.576.535.335.320.320.37.17.14.14.17.77.715.115.112.712.716.916.916.416.415.915.917.517.518.418.418.618.619.319.3199119942000200520072008200920102011201220132014年出所:BP Statiscal Review of World Energy, June 2015*19図3カザフスタン原油・天然ガス生産量推移82016.11 Vol.50 No.6アナリシスC沿岸ジェイハン出荷基地から輸出されている。 テンギス陸上油田の開発を担当する合弁会社はテンギス・シェブル・オイル(Tengizchevroil=TCO)*20、オペレーターはTCOに50%の権益を持つ米Chevronが務めている。旧ソ連邦時代の1979年に発見されたテンギス油田は、ソ連邦解体・カザフスタン共和国独立後の1991年末に探鉱・開発が始まった。 TCOは2015年5月、同鉱区の原油増産計画延期を発表した。テンギス鉱区の2014年の原油生産量は2,670万トン。2017年の原油生産量3,900万トンを目指して増産工事中であったが、目標達成を2021年まで延期。増産計画の総工費は約380億ドルだが、拡張工事延期理由は油価低迷に起因すると推測される。ただし、2017年には増産計画再開の予定である。◆北カスピ海カシャガン海洋鉱区 カスピ海における本格的な原油商業生産は、上述のとおり、アゼルバイジャン領海ACG海洋鉱区を以て嚆矢とする。 北カスピ海カシャガン海洋鉱区における原油生産開始は大幅に遅れている。2010年以降、カザフスタンの原油生産量は年間約8,000万トン前後の横ばいで推移しており、同国の原油生産予測は当面、2014年の8,080万トンの水準にとどまることになり、油価低迷と原油生産量伸び悩みは同国経済に悪影響を与えている。同国通貨テンゲも史上最安値を更新している。 カシャガン海洋鉱区では1999年に試掘が始まり、2000年に油兆が発見された。日本企業ではINPEX(国際石油開発帝石)がこのプロジェクトに権益参加している*21。 当初、同海洋鉱区の原油生産開始は2005年と想定されていたが、現地の海洋気象条件が厳しいこと、随伴ガス中に大量の硫化水素(最大19%)を含むなどの悪条件が重なり、予定より大幅に遅れていた。 2013年6月30日にはナザルバエフ大統領と英キャメロン首相(当時)臨席の下、北カスピ海沿岸アティラウ市近郊ボラシャーク(Bolashak)原油ガス陸上処理施設の開所式が挙行された。 本来ならば原油生産開始記念式典になるはずであったが、原油生産は始まらず、同鉱区の探鉱開発を担当する事業会社NCOC(North Caspian Operating Co.)は2013年9月11日、カシャガン海洋鉱区人口島Dにおいて原油生産開始を正式発表した。 ところが2週間後の9月24日、人口島Dと陸上処理施設間の天然ガスパイプラインにガス漏れが発見され、一旦原油生産は停止。パイプライン修理後の10月6日に原油生産は再開されたが、10月9日に再び停止した。 カラバリン石油・ガス相(当時)は2014年7月、楽観的見通しで2016年前半、悲観的見通しでは2016年後半と発表。接続パイプラインに関しては、全面的な新規建設が必要と指摘した。 NCOC発表によれば、楽観的原油生産再開は当初2015年末と言われていたが、楽観的見通しでも2016年後半、悲観的見通しでは2017年に原油生産再開予定となっていた*22。 その後、人口島Dと陸上処理施設間を接続するパイプライン(原油パイプラインと天然ガスパイプライン)は撤去され、新規鋼管(二重管)が製造・搬入され、新規パイプラインが敷設された。 他方、カザフスタン政府は2013年7月2日、米ConocoPhillipsがNCOC に保有する権益8.40%を、先買い権を行使して取得することを決定。この結果、KMGは従来の16.81%から16.87%の権益となり、コンソーシアム最大の権益保有者となり、中国CNPCは8.33%の権益で同プロジェクトに参加する手続きが完了した。 ナザルバエフ大統領は国益最優先と自国の国営石油ガス会社KMGの育成に努めており、この権益譲渡によりKMGは念願のNCOC最大の権益保有企業となった*23。 その後、エネルギー省のM. MIRZAGALIYEV次官は2015年12月10日、同鉱区は2016年末に原油生産再開予定、2020年には同鉱区の原油生産量は1,300万トンになる予定と発表。更に、カザフ原油の約18%、天然ガスの半分を生産しているカラチャガナク原油・ガスコンデンセート鉱区は、2018年までにカザフ政府と事業会社間で拡張計画が合意に達する見通しと発表した。 ナザルバエフ大統領は2016年9月5日、「中国向け原油輸出量は現在700万トンであるが、近い将来2,000万トンに増量予定」と発表。現在、カザフから中国向け原油パイプラインの輸送能力を増強中であり、現行輸送能力は約1,200万トン、数年以内に2,000万トンになる見込み。 北カスピ海カシャガン海洋鉱区では2016年9月28日、原油の試験生産が始まったので、11月には本格的生産に入るものと思われる*24。 上記の大統領発言は、この北カスピ海カシャガン海洋鉱区原油生産再開を前提とした発言と理解される。(3)トルクメニスタン①トルクメニスタン現況 トルクメニスタン国家の正式名称は「トルクメニスタン」である(「トルクメニスタン共和国」ではない)。同国9石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-フ概要は以下のとおり。《正式国名》 「トルクメニスタン」(Turkmenistan)《人口》 570万人(2013年)《国土面積》 48万8,000?《首都》 アシガバット(Ashgabat)《宗教》 イスラム教(スンニ派が主流)《国家元首》 国家元首:グルバングルィ・ベルディムハメドフ(Gurbanguly BERDIMUHAMEDOV)大統領(1957年6月29日生まれ/59歳) (2007年2月就任、事実上終身大統領。同国では大統領が全てを決定する。ニャゾフ前大統領は2006年末に死去。後任大統領には2007年2月、専属歯科医であり副首相兼保健・医療工業相であったベルディムハメドフ副首相が就任した)《首相》 実質首相に相当する閣僚会議議長は大統領が兼任する。《GDP成長率と消費者物価指数》(表9)《外国貿易》 同国の外国貿易額推移は表10のとおり。《国内投資》 トルクメニスタン国内の投資額は表11のとおり(通貨トルクメンマナト=TMT)。②トルクメニスタン政経情勢概観 トルクメニスタンの元首は大統領であり、大統領が首相(閣僚会議議長)を兼任している。 G. ベルディムハメドフ大統領は2016年9月14日に長老会議を開催して、憲法改正案を発表。その後議会で承認され、大統領本人が署名して、憲法改正案は発効。改正案骨子は以下のとおり。 ・ 大統領任期を従来の5年間から7年間に延長する。 ・ 大統領候補の年齢制限(70歳)を撤廃する。 要するに、実質、大統領終身制を敷いたということになる。 同国のエネルギー政策を管轄する諸機関を概観する。 大統領直轄の「炭化水素資源管理・利用庁」(State Agency for Management and Use of Hydrocarbon Resources)」が、石油・ガス資源に関連する探鉱・開発の許認可を管轄する。 エネルギー管掌副首相が石油・ガス・化学・漁業を統括する。同副首相管轄下に閣僚会議石油・ガス局があり、実務を担当する。同副首相は「石油・ガス産業・鉱物資表9トルクメニスタンGDP成長率と消費者物価指数推移%2010年2011年2012年2013年2014年2015年GDP実質成長率消費者物価指数出所:http://www.stat.gov.tm/ru/9.24.7714.75.6011.17.8110.24.0210.34.426.5n/a表10トルクメニスタン外国貿易推移2007年輸出額輸入額黒字額出所:http://www.stat.gov.tm/ru/89.344.444.92008年119.557.162.42009年93.2 89.9 3.3 2010年96.8 82.0 14.8 2011年167.5 113.6 53.9 2012年199.9 141.4 58.5 2013年188.5 160.9 27.6 億ドル2014年197.8 166.4 31.4 表11トルクメニスタン国内投資額推移生産部門への投資非生産部門への投資(注)US$1≒3.5TMT/1TMT≒29円出所:http://www.stat.gov.tm/ru/2013年327.7190.6億マナト(TMT)2014年331.2218.6102016.11 Vol.50 No.6アナリシスケ省」を管掌し、同省が石油・天然ガス・化学産業・漁業を管轄している。「石油・ガス産業・鉱物資源省」(Kharilov大臣)傘下に、下記組織(国家コンツェルン)が同格として存在する。 ・ Turkmengaz(天然ガスの生産・販売) ・ Turkmenneft(原油の生産・販売) ・ Turkmengeologia(石油・ガス鉱区の探鉱作業) ・ Turkmenneftegazstroy(各種パイプライン建設およびプラント建設) ・ Turkmenkhimiya(肥料および化学品の生産・販売) ・ Turkmenbashi石油精製コンプレックス(Turkmenistan製油所とCeiji製油所) ・ 国家漁業委員会 ベルディムハメドフ大統領は2015年11月6日付大統領令により、エネルギー部門を管掌するホッジャムハメドフ(B. KHODJAMUKHAMEDOV)副首相を解任して、後任にカカエフ長官を任命。カカエフ氏は同日、同庁長官兼任のエネルギー管掌副首相に昇格した。③トルクメニスタンの石油・天然ガス産業概観a. トルクメニスタンの原油・天然ガス生産量推移 2016年版BP統計によれば、同国の原油・天然ガス確認可採埋蔵量は表12のとおりである。 トルクメニスタンは世界第4位の天然ガス埋蔵量を誇る*25。2009年にはロシアが同国に対し天然ガス輸入量削減を唐突に通告したため、同国からロシア向け天然ガス供給に問題が発生し、天然ガス生産量は激減した。しかし2011年頃から生産は回復して年産600億?台に戻り、2016年9月現在では天然ガス生産は拡大基調にあるが、原油生産は伸びが見られず、低調である。 同国は旧ソ連邦時代より天然ガスの一大生産地であったが、ソ連邦解体後、大多数のロシア人技術者は同地を離れ、ロシア連邦に帰国した。ロシア人が主体の開発であったため、地元には技術・ノウハウが蓄積されておらず、同国の天然ガス生産は急減した*26。 故ニャゾフ前大統領は天然ガス輸出契約量の拡大を目指したが、国内技術では増産が不可能であった。前大統領時代の外資鎖国政策の行き詰まりが明白となったことから、後任の現ベルディムハメドフ大統領は段階的に外資開放策を実施した。同国は天然ガス大国であり、現大統領は天然ガスの有効利用を目指すべく、国内の天然ガス化学プロジェクトを推進している。 安倍首相は2015年10月22~28日、モンゴルと中央アジア5カ国を歴訪した。トルクメニスタンでは、民間企業がガス火力発電所建設構想等を含む総額2兆円以上の天然ガス関連プロジェクトのMoU(Memorandum of Understanding:了解覚書)に調印したと、日系各紙は表12トルクメニスタン原油・天然ガス確認可採埋蔵量(2015年末時点)確認可採埋蔵量世界シェア(%)原油(十億バレル)天然ガス(兆?)出所:BP Statistical Review of World Energy, June 20160.617.50.19.4可採年数624176.376.3原油生産量(百万トン)天然ガス生産量(十億?)65.465.466.166.160.460.457.057.072.472.469.369.359.559.562.362.362.362.342.542.529.229.25.45.44.14.17.17.142.442.436.436.49.59.59.29.29.89.810.410.410.510.510.810.810.810.811.211.211.711.712.112.112.712.719911995200020052006200720082009201020112012201320142015年80706050403020100出所:BP Statiscal Review of World Energy, June 2016図4トルクメニスタン原油・天然ガス生産量推移11石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-カている。 この時、トルクメニスタン側の窓口となったのは同国のエネルギー部門を管掌するホッジャムハメドフ副首相であったが、前述のように、2015年11月6日付大統領令により同副首相は唐突に解任された。同氏の後任には同日、カカエフ炭化水素資源管理・利用庁長官が任命され、副首相に昇格した。ス会社はトルクメン炭化水素資源管理・利用庁傘下の探鉱・開発の実務作業を執行する機能を果たし、石油ガス産業においては名実ともに、ベルディムハメドフ大統領とカカエフ副首相に全ての実権が集中する態勢になろう。 参考までに、他省の新大臣は次のとおり。 ・ D. NURSAHEDOV産業相 ・ S. AKHMAMMADOV労働・社会保護相(兼年金基b. トルクメニスタン領海カスピ海における原油鉱区の探鉱・開発概観 ・ N. SAPARDURDIYEV農業・水利相 ・ M. ANNABAYEV国家環境保護・土地資源委員会金総裁) カスピ海における本格的な原油商業生産は、アゼルバイジャン領海ACG鉱区を以て嚆矢とする。同海洋鉱区では、1997年11月に原油生産が始まった(図1)。 トルクメニスタン領海カスピ海では、三つの海洋鉱区で原油・ガスの探鉱・開発作業が進んでいる。生産された海洋原油はタンカーでカスピ海対岸のバクーまで輸送され、BTCパイプラインでトルコの地中海沿岸ジェイハン出荷基地から輸出されている。 付言すれば、カザフスタンのテンギス陸上油田の原油も一部タンカーでバクーまで輸送され、BTCパイプラインで輸出されている。 トルクメニスタンには海洋掘削技術がない。このため、カスピ海鉱区の開発は全面的に外国資本に頼らざるを得ない。同国領カスピ海海洋鉱区は外国資本に開放されており、原油開発にDragon Oil(UAE)、Petronas(マレーシア)、Maersk Oil(デンマーク)などが探鉱・開発・生産に従事している。 しかし、ドイツのRWE Dea社は2015年10月、同国領海カスピ海PSA(Product Sharing Agreement:生産物分与契約)#23鉱区からの撤退を決定した*27。c. 新国営石油ガス会社創設案発表 ベルディムハメドフ大統領は2016年1月9日、大統領令によって内閣改造を発表。従来の石油ガス産業・鉱物資源省(M.ハリロフ〈M. KHALYLOV〉大臣)は石油・ガス省と改称され、新大臣にはM.メレドフ(M. MEREDOV)同省次官が石油ガス相に任命された。KHALYLOV前大臣は国家コンツェルンTurkmengazの研究所所長に左遷された。 更に、新国営石油ガス会社Turkmen National Oil & Gas Co.(NAPECO)創設計画も発表され、大統領直属のトルクメン炭化水素資源管理・利用庁が90%、国家コンツェルンTurkmengaz2%、Turkmenneft2%、Turkmenbashi製油所5%出資予定(原文のママ)である。 この出資比率より推測すれば、新設される国営石油ガ総裁 ・ M. AYDOGDIYEV Turkmenkhimiya社長d. トルクメニスタン石油・ガス関連の省庁改編 トルクメニスタンの首都アシガバットで2016年7月15日に拡大閣僚会議が開催され、トルクメニスタン大統領令により石油・ガス関連組織が唐突に改編された。改編概要は以下のとおり。(ⅰ) 大統領府直轄の炭化水素資源管理・利用庁を廃止 して、その機能を国家コンツェルンTurkmengazに移管する。 (ⅱ) 石油・ガス省廃止し、機能をTurkmengaz、Turkmenneft、内閣府に移管する。 (ⅲ) トルクメン石油ガス建設の会長を解任(業者との癒着が指摘され、服役中)。 同国では2016年1月9日付大統領令により上記のような組織変更があったばかり故、文字どおり、迷走する朝令暮改の石油・ガス政策と言わざるを得ない。e. Galkynysh鉱区、第3段階開始記念式典開催 トルクメニスタンでは2015年12月13日、世界第2位の天然ガス埋蔵量を誇る南ヨロテン・オスマン(現・ガルクィヌィシュ)天然ガス鉱区第3フェーズ開始記念式典が開催された。 アシガバットでは12月12日、永世中立国宣言20周年記念式典が開催され、この式典には大勢の各国元首が参加。この式典に併せて翌13日、ガルクィヌィシュ天然ガス鉱区の起工式が挙行された。なお、起工式とは同鉱区探鉱・開発第3段階(天然ガス年産350億?想定)とTAPIパイプライン建設開始記念式典の二つを指す。 地下数千メートルから採取される原油や天然ガスは多くの不純物を含んでいる。原油に含まれる最大の不純物は水だが、硫化水素等を含む場合はパイプラインが腐蝕したり、硫化水素が漏れた場合は人体に害を及ぼすので、122016.11 Vol.50 No.6アナリシスサの除去が必要となる。採取された原油や天然ガスは現場で不純物が除去された後、原油や天然ガスのパイプラインに注入される。 トルクメニスタンのガルクィヌィシュ鉱区から採取される天然ガスは最大6%の硫化水素を含有しており、この硫化水素除去用ガス精製プラントは必須のものだ。日本連合5社がMoUを取得したのは、まさにこの硫化水素除去・精製処理工場である。 同鉱区は2013年に第1段階稼働(年間生産能力300億?)、同年9月には第2段階(同300億?)のEPC(Engineering〈設計〉・Procurement〈調達〉・Construction〈建設〉)契約が調印された。今回の第3段階は年間生産量350億?を想定しており、第3段階が稼働すると、同鉱区の年間天然ガス生産量は計950億?になる構想である。ちなみに、同国の2014年の天然ガス生産量は760億?、このうち450億?が輸出向けであった。 トルクメニスタンから中国向け輸出用1本目の天然ガスパイプラインは2009年末に完工した。現在3本稼働しており、2015年11月初旬までに累計1,210億?が輸出された。この1,210億?の内訳は国営ガス・コンツェルンTurkmengazが820億?、バグティヤルリク(Bagtiyarlyk)天然ガス鉱区(中国CNPCのPSA鉱区)から中国向け輸出が390億?と報じられている*28。2.カスピ海の法的地位問題と同周辺地域のパイプライン概観(1)カスピ海の法的地位問題 カスピ海周辺地域は現在でも世界有数の原油生産地であるが、同地域の石油・天然ガス事情は今、大きく変貌を遂げようとしている。 カスピ海の面積は約37万?で、日本とほぼ同じ面積である。 カスピ海には二つの問題がある。一つはカスピ海の法的地位問題(カスピ海は「海」か「湖」か?)、もう一つは領海線未画定問題である。 カスピ海を「海」とするか、「湖」と見るかで沿岸国の法的権利が異なってくる。「湖」であればそこにある資源は沿岸国の共有財産になり、「海」であれば領海の概念が発生して、大陸棚沿岸資源は沿岸国固有の資産になる。かつてカスピ海沿岸国は旧ソ連邦とイランの2カ国であったが、ソ連邦解体とともに、カスピ海沿岸国は5カ国(図5)になった。 第1回カスピ海サミットは、2002年にロシアで開催された。ロシアはカスピ海の海中資源を沿岸諸国の共有財産として、カスピ海の海底を周辺5ヵ国沿岸から中間線で分割することを提案。この提案に対し、カザフスタンとアゼルバイジャンは賛成したが、イランとトルクメニスタンは自国海域となる海底面積が5分の1以下となるとして反対した。 第2回カスピ海サミットは2007年10月にイランの首都テヘランで開催され、沿岸5カ国首脳は「テヘラン宣言」を採択した。同宣言ではカスピ海沿岸5カ国のみがカスピ海問題を協議する権利があると謳われ、問題解決のために武力を使用しない点で合意に達した。 第3回カスピ海サミットは2010年11月、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された。当該5カ国の首脳は「バクー共同宣言」を採択し、引き続き問題解決に努力することとなった。うた40%35302520151039.3 39.3 29.5 29.5 20.020.011.8 11.8 第1回(2002年)カスピ海海底分割(面積約37万?)第4回(2014年)カスピ海海岸線分割(約5,900㎞)20.4 20.4 17.0 17.0 12.5 12.5 12.3 12.3 21.021.016.2 16.2 ロシアロシアカザフスタンカザフスタントルクメニスタントルクメニスタンイランイランアゼルバイジャンアゼルバイジャン出所:BP Statiscal Review of World Energy, June 2016図5カスピ海沿岸5カ国の海底分割・海岸線の割合13石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-@第4回カスピ海サミットは2014年9月、ロシア南部のアストラハンで開催された。この会議では領海画定問題を協議し、問題解決に向けて具体的に動き出すことになった。同サミットでは、沿岸5カ国は沿岸25海里(約46km)に国家主権(15海里)と漁業権(その外側10海里)を行使する水域を設けることで合意に達した。25海里以遠は未決着だが、沿岸5カ国は(今後2年以内にカザフスタンで開催予定)の次回カスピ海サミットにおいて最終合意を目指すことで合意している。(2)カスピ海沿岸国の原油・天然ガス埋蔵量と生産量 カスピ海沿岸5ヵ国の原油・天然ガス埋蔵量と生産動向を概観する。2015年末現在、カスピ海沿岸5カ国の天然資源(原油・天然ガス)が全世界に占める割合は、原油は確認可採埋蔵量17.0%、生産量19.6%、天然ガスは確認可採埋蔵量45.9%、生産量24.6%となっている(表13)。(3)カスピ海周辺地域の原油・天然ガスパイプライン概観[カスピ海周辺地域の輸出用パイプライン構想概観] カスピ海周辺地域における原油と天然ガス既存パイプライン敷設状況と新規パイプライン建設構想は図6のとおり*29(次頁)。 カスピ海周辺地域では、既存パイプライン以外に多くの新規パイプライン建設構想がある。多くのパイプラインと輸送システムの名前が出てくるので、まずここで主要パイプラインと輸送システムの名称を整理しておく。原油関連 (既存) CPC(Caspian Pipeline Consortium)パイプライン BTC(Baku ? Tbilisi ? Ceyhan) パイプライン (新規) KCTS(Kazakhstan Caspian Transportation System)パイプライン天然ガス関連 (既存) SCP(South Caucasus Pipeline/南コーカサスパイプライン、別名BTE)パイプライン CAC(Central Asia ? Centre)パイプライン (新規) TAPI(Turkmenistan ? Afghanistan ? Pakistan - India)パイプライン TANAP(Trans Anatolian Natural Gas Pipeline /トルコ国内東西接続パイプライン)パイプライン TAP(Trans Adriatic Pipeline /アドリア海横断海底パイプライン)パイプラインa. 天然ガス「南エネルギー(ガス)回廊」構築構想 EU(欧州連合)はカスピ海周辺地域からロシアをう回する天然ガス輸出構想を「南エネルギー回廊」と命名した。EUは対露天然ガス依存度を軽減すべく同構想の実現を支援しており、この構想実現の重責を担うのがアゼルバイジャンである。 この構想は、バクー近郊のカスピ海沿岸サンガチャル基地を起点として、カスピ海シャハ・デニーズ鉱区の天然ガスをアゼルバイジャン~ジョージア~トルコ~ギリシャ経由で欧州に輸出する計画である。サンガチャル基地においては2014年9月20日、「南エネルギー回廊」建設開始記念式典が挙行された*30。 南エネルギー回廊は、カスピ海の天然ガス生産地から消費地まで下記4プロジェクト順で構成され、ギリシャからブルガリア向けには天然ガス支線パイプラインが建表13カスピ海沿岸5カ国の原油・天然ガス確認埋蔵量と生産量(2015年)*31原油天然ガス埋蔵量(十億トン)生産量(百万トン)埋蔵量(兆?)生産量(十億?)ロシアアゼルバイジャンカザフスタントルクメニスタンイランカスピ海周辺5カ国小計世界全体(カスピ海周辺5カ国シェア)出所:BP Statistical Review of World Energy, June 2016より筆者作成14.01.03.90.121.740.7239.417.0%540.741.779.312.7182.6857.04,361.919.6%32.31.10.917.534.085.8186.945.9%573.318.212.472.4192.5868.83,538.624.6%142016.11 Vol.50 No.6アナリシスources: U.S. Energy Information Administration, U.S. State Department,Sources: U.S. Energy Information Administration, U.S. State Department,IHS EDIN, Kazmunaigaz, Transneft, CPC, BP, OGJIHS EDIN, Kazmunaigaz, Transneft, CPC, BP, OGJRepresentation of international boundaries and names not authoritativeRepresentation of international boundaries and names not authoritative出所:米EIA図6カスピ海周辺地域の既存原油・天然ガスパイプラインと新規建設構想設される予定である。・ シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階プロジェクト(総工費約280億ドル)・ SCP(南コーカサスパイプライン拡張構想;総工費約42億ドル)・ TANAP(トルコ国内東西接続天然ガスパイプライン建設構想;総工費約100億ドル)・ TAP(アドリア海横断天然ガスパイプライン建設構想;総工費約50億ドル) 他方、上述のように、トルクメニスタンもカスピ海横断海底ガスパイプライン建設を希望しており、自国産天然ガスをこの回廊に接続して、欧州向けガス輸出を望んでいる。しかし、ロシアにとり欧州市場は重要な外貨獲得源である。トルクメニスタン産天然ガスが自国をう回して欧州に供給される構想はロシアにとり不利となるので、同構想を阻止したい意向である。イランも自国産天然ガスをトルコ経由欧州市場向け輸出を希望しており、この点ではロシアと利害が一致している。ここで争点となってくるのが、カスピ海の領海画定問題である。 ロシアとイランは沿岸5カ国の同意が必要であると主張し、トルクメニスタンとアゼルバイジャンは2国間の合意だけでパイプライン建設は可能であるとの立場をとっている。 従来、この構想は「南エネルギー回廊」と呼ばれていたが、2014年頃からはより直截的に「南ガス回廊」と呼ばれるようになった。 カスピ海横断海底パイプライン建設構想は15年以上前から存在したが、一度破綻した。最近再度脚光を浴びている理由は、欧州が対露天然ガス依存度の軽減を目指しこの構想を支援していること、また従来は同構想に反対していたアゼルバイジャンが態度を軟化させた(後述)ことに起因すると筆者は考える。同国では今後、アプシェロン海洋鉱区など他の新規カスピ海海洋鉱区の探鉱・開発も構想されているが、実際の天然ガス生産に寄与するちょくせつ15石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-OCAR 10%、露Lukoil 10%、イランNICO*3310%、仏Total 10%、トルコTPAO 9%であったが、FIDを機にStatoilが権益10%を譲渡し、SOCARが6.7%、BPが3.3%取得。2013年12月末現在、各社権益比率はBP 28.8%、SOCAR 16.7%、Statoil 15.5%、Lukoil 10%、NICO 10%、Total 10%、TPAO 9%となったが、その後Statoilは残りの15.5%をマレーシアのPetronasに売却して完全撤退した*34。のは早くて2020年以降になる。 現状、アゼルバイジャンだけでは欧州向けに十分な天然ガス供給量を確保することは困難である。これが欧米をして、アゼルバイジャンとトルクメニスタンの和解を求め、カスピ海横断海底パイプライン構想を促進するえん以であると筆者は考える。この構想が前進すれば、トルクメニスタン産天然ガス探鉱・開発構想は新規市場向けに大きな展望が開けるであろう。所ゆ(ⅰ)カスピ海シャハ・デニーズ(ShahDeniz)海洋鉱区第2段階プロジェクト シャハ・デニーズ海洋鉱区では、2006年末に天然ガス商業生産を開始した。 第1段階の天然ガスは南コーカサスパイプライン(SCP)で、ジョージアとトルコに輸出されている(年間60億~70億?程度)。 同海洋鉱区第2段階に関して、コンソーシアムは2013年12月17日、最終投資決定(FID)を発表。同海洋鉱区ガス開発第2段階の総工費は従来、輸送インフラも含め計約400億ドルと言われていたが、Aliyev大統領は2013年12月17日、総工費は約450億ドルになったと発表した。また同日、同鉱区のPSA は2048年まで延長された*32。 またFID発表とともに、Shah Deniz海洋鉱区コンソーシアムの権益比率が変更された。 従来、英BP 25.5%、ノルウェーStatoil 25.5%、(ⅱ)TANAP(TransAnatolianNaturalGasPipeline) TANAPはトルコ国内東西接続天然ガスパイプラインであり、幹線パイプラインの総延長は1,802㎞、鋼管口径56”(インチ)、年間輸送能力は第1段階160億?を想定している(第2段階では倍増を予定)。建設総工費は約100億ドル、権益参加比率はトルコBOTAS30%、SOCAR58%、BP12%。2015年3月17日にパイプライン建設開始記念式典開催(カルス)、2018年末に完工予定となっている。 TANAP 1,802kmの内訳は下記のとおり。2016年4月末現在、既にパイプラインは約440㎞ 野外溶接済み、約100㎞ 埋設済みである。 ・ 1,334㎞(口径56”)トルコ・ジョージア国境から ~ エスキシェヒルまで ・ 450㎞(口径48”)エスキシェヒルから ~ トルコ・ギリシャ国境まで ・ 18km(口径36”)ダーダネルス海峡横断海底パイプ(注)TAP…Trans Adriatic Pipeline、TANAP…Trans Anatolian Natural Gas Pipeline、SCP…South Caucasus Pipeline出所:SOCAR図7TAP←TANAP←SCP←ShahDeniz海洋鉱区の概略図Shah DenizSCPTANAPTAP162016.11 Vol.50 No.6アナリシスBlack SeaCaspianSeaGEORGIATURKEYAZERBAIJANUKRAINEMOLDOVAROMANIAHUNGARYSLOVAKIACZECH REPUBLICAUSTRIAITALYCROATIABOSNIAHERZEGOVINASERBIAMONTENEGROALBANIAF.Y.R.O.M.BULGARIAGREECESLOVENIAEskishekhir宴Cン(ⅲ)TAP(TransAdriaticPipeline) ギリシャ北部のテッサロニキで2016年5月17日、TAP(アドリア海横断天然ガスパイプライン)建設開始記念式典が開催された。同構想の天然ガス供給源はカスピ海シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階の天然ガスである。TAPは総延長878㎞の天然ガスパイプラインだが、トルコ・ギリシャ国境でTANAPと接続される。 2019年末にパイプラインの完工予定で、2020年からカスピ海の天然ガスがイタリアに供給される予定。年間期首輸送能力は100億?、最終的には年間200億?を目指している*35。 TAP建設総工費は約50億ドル。権益はSOCAR/BP/伊Snam各20%、ベルギーFluxys 19%、スペイン Enagas 16%、スイス Axpo 5%。5月17日のTAP建設着工記念式典には、ギリシャのチプラス首相らの他、同計画を支援する欧州連合欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長や米国務省高官らも出席した。 TAP 878kmの内訳を示す。 ・ 550km(口径48”)ギリシャ陸上パイプライン ・ 215km(口径48”)アルバニア陸上パイプライン ・ 105km(口径36”)アドリア海海底パイプライン。伊Saipemが海底パイプライン建設受注(最大水深820m) ・ 8km(口径36”)伊陸上パイプライン 上記パイプライン建設工程より、カスピ海シャハ・デニーズ海洋鉱区第2段階の天然ガスはトルコには2019年に、ギリシャ・伊・ブルガリアには2020年に供給されることになる。b. カザフスタン国内パイプラインと輸出用パイプライン建設構想 カザフスタンから原油の輸出先は、東、西、南、北の4方向ある。 北方向: 露サマーラ向け原油パイプライン(年間輸送能力1,500万トン) 西方向: CPC 原油パイプライン(同 2,800万 → 6,700万トンへ) 東方向: 中国向け原油パイプライン(同 1,000万 → 2,000万トンへ) 南方向: アクタウ港からタンカー出荷 → 対岸のバクーへ (将来) KCTS(Kazakhstan Caspian Transportation System)構築構想出所:米EIA図8カスピ海周辺地域の既存原油パイプラインと新規パイプライン構想17石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-ョ備構想が着々と進行しているのが現状である。(ⅱ)KCTS(カザフスタン・カスピ海原油輸送システム)構築構想 ナザルバエフ大統領は、同国の陸上・海洋原油をカスピ海経由で対岸のバクーまで輸送するKCTS構想を提唱している。 同大統領は2005年5月25日にバクーで開催されたBTCパイプラインのラインフィル(原油注入)記念式典において、「BTCパイプラインの頭にA(アクタウ:Aktau)を冠してABTCパイプラインと呼ぼう」と発言し、アクタウ~バクー間の海底原油パイプライン建設構想に言及した*37。 しかしその後、海底原油パイプライン建設構想は進展せず、代替案としてタンカーで原油を対岸のバクーまで輸送する構想が浮上した。 このKCTS構想の全体像は、テンギス陸上油田やカシャガン海洋鉱区の海洋原油を新規建設予定の陸上パイプラインでアクタウに近いクーリク(Kuryk)出荷基地まで輸送し、そこからタンカーでバクーまで輸送して、BTCパイプラインに接続する構想である。 2016年9月現在、上述したように、テンギス陸上鉱区の原油の一部がカスピ海対岸のバクーまでタンカー輸送され、トルコ地中海沿岸ジェイハン出荷基地から路ろ(ⅰ)CPCパイプライン(総延長1,511㎞) カザフスタン産原油は主にCPCパイプラインにより、露黒海沿岸ノボロシースク港近郊の南オゼレイカ出荷基地まで輸送されている。同パイプラインの輸送能力は年間2,800万トン(添加剤混入により最大約3,300万トン)あいであり、パイプライン輸送能力が原油生産の隘になっている(現在拡張工事中)。 このような状況下、カザフスタン側は幾つかの新規輸送選択肢を検討している。例えば同国産原油を一方的にCPCで流すのではなく、2013年10月には一部のテンギス原油をタンカーでカスピ海経由対岸のバクーまで輸送し、BTCに接続してトルコの地中海沿岸ジェイハン出荷基地から輸送を開始した。また、カザフスタン国内原油パイプライン経由で東側の中国向け輸送量を増強するプロジェクトも進行中である。 ナザルバエフ大統領は対露・対中・対欧米関係を視野に入れながら、輸送路拡大の選択肢を構築していくだろう。現状から判断すると、今後大量のカザフスタン原油がバクー経由で地中海方面、および東側の中国に向かうことになる可能性が高いと言える*36 上述のように2016年9月現在、既にカザフスタン産原油がカスピ海とバクー経由西側に輸送されており、中国方面への供給インフラ拡張工事も進展しているので、原油についても天然ガス同様、ロシアをう回する輸送路1122334455Afghanistan出所:http://www.ncoc.kz/en/kashagan/export_strategy.aspx図9KCTS構想概念図182016.11 Vol.50 No.6アナリシス^ンカーで輸出されている。今後北カスピ海カシャガン海洋鉱区で原油生産が始まれば、同様にこのルートでカシャガン海洋鉱区産原油も一部輸送されることになるだろう。(ⅲ)天然ガスパイプライン トルクメニスタンからウズベキスタンとカザフスタン経由ロシア中央への幹線天然ガスパイプラインと、同じくトルクメニスタンからウズベキスタンとカザフスタン経由の中国向け天然ガスパイプラインが稼働している。カザフスタンは中国向けに2013年7月から少量の天然ガス輸出を開始、今後本格的な輸出を目指す。c. トルクメニスタン国内パイプラインと輸出用パイプライン建設構想 トルクメニスタン国内東西接続天然ガスパイプライン建設プロジェクトと、輸出用パイプラインを概観する。 トルクメニスタンの主要外貨獲得源は天然ガス輸出であり、2016年9月現在、同国から対露・対中・対イラン向け天然ガス輸出用パイプラインが存在するが、現在の主要な天然ガス輸出先は中国である。 同国は天然ガス輸出先の多様化を目指し、2019年にはアフガン経由パキスタン・インド向け天然ガス輸出を開始すべく2015年12月13日、TAPI建設記念式典が開催された。(ⅰ)トルクメニスタン/東西接続天然ガスパイプライン完工記念式典開催 ベルディムハメドフ大統領はカスピ海沿岸 Belek において2015年12月23日、トルクメン国内東西接続天然ガスパイプライン稼働開始記念式典を開催した。同国南東部に位置する南ヨロテン(現・ガルクィヌィシュ)鉱区からカスピ海沿岸までを接続する国内東西接続天然ガスパイプラインは総延長773㎞、年間輸送能力300億?、口径56”、総工費約25億ドル。2010年5月建設着工、2015年末に完工した。 問題はここ以遠に接続するガスパイプラインが存在しないことである。このパイプラインを有効利用するためには、ここから先にカスピ海横断海底パイプラインを建設する以外、方法はないだろう(表14)。 そこで困ったトルクメニスタンが最近盛んに主張しているのが、カスピ海横断海底パイプラインを建設して、国内東西接続パイプラインで輸送される天然ガスをこの海底パイプラインに接続して、コーカサス・トルコ経由、欧州に輸出する構想である。 付言すれば、カスピ海横断海底パイプラインを建設して、トルクメニスタン産天然ガスをアゼルバイジャン経由欧州に輸出する構想自体は15年以上前から存在し、両国は当時一旦海底パイプライン建設で合意していた。 ところが、アゼルバイジャン領海カスピ海シャハ・デニーズ海洋鉱区は当初原油鉱区と推定されていたが、試掘の結果、大ガス田であることが判明。そこでアゼルバイジャン側は自国産天然ガスの欧州向け輸出を優先すべく、このカスピ海横断海底パイプライン建設構想を反故にした。 これが、その後両国間の外交関係が悪化した理由となる。15年以上前に合意・反故された構想が最近再度脚光を浴びてきた理由は、天然ガス輸出先の多様化を求めるトルクメニスタンと、対露天然ガス輸入依存度の軽減を図る欧州側の利害が一致したためと筆者は推測する。 トランジット国として鍵となるアゼルバイジャンは当初この構想に反対していたが、自国産天然ガスだけでは欧州諸国向けに十分な輸出量が確保できないこともあり、最近は態度を軟化させつつある。 EC・トルコ・アゼルバイジャン・トルクメニスタンの4者は2015年5月1日、トルクメニスタンの首都アシガバットで「エネルギー協力発展宣言」 に署名。同宣言ではトルクメン産天然ガスを欧州に供給するパイプライほ ご表14トルクメニスタンからの輸出用新規パイプライン建設構想年間輸送能力構想の位置づけ現状沿カスピ海パイプライン構想カスピ海横断海底パイプライン構想200億~300億?300億?(約300㎞)対露輸出無期延期カスピ海経由対欧輸出未定TAPI 構想(トルクメン214㎞→アフガン773㎞→パキスタン827㎞→インド国境まで)(総工費約80億~100億ドル)出所:Rus Energy、その他資料より筆者作成330億?(1,814㎞)アフガン経由輸出2015年12月13日パイプライン建設着工。2018年末完工予定(トルクメン国内)2019年対インド国境までパイプライン完工予定19石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-塔Cンフラ整備の重要性が指摘され、今後、次官級による作業部会(WG)設置を検討することになった。 上記より今後、カスピ海横断海底パイプライン建設構想が脚光を浴びることになる、と筆者は予測している。 トルクメン産天然ガスがパキスタン・インドに向かう代わりに、カスピ海を横断してバクーからジョージア経由トルコや欧州に向かうことになれば、文字どおり、アゼルバイジャンの首都バクーが原油と天然ガス物流のハブ(hub)になるだろう。(ⅱ)トルクメニスタンから中国向け天然ガスパイプライン建設構想 2016年9月現在、トルクメニスタンから中国向け天然ガスパイプラインは3本稼働している。 ベルディムハメドフ大統領は2006年春に訪中して、中国向けに天然ガスを輸出したい意向を表明。同大統領訪中の3年後には、1本目の天然ガスパイプラインが完工した。 トルクメニスタンからウズベキスタン、カザフスタン経由中国に至る1本目の天然ガスパイプラインは、2008年7月に着工して2009年末に完工し、対中向け天然ガス輸出が始まった。 中国向け天然ガスパイプラインは 2010年9月に2本目、2014年5月末には3本目が完工し、天然ガスの総輸送能力は年間550億?となった。 中国通関統計は、カザフスタンと中国間の国境渡し価格である。一方、トルクメニスタンの天然ガス輸出条件は同国の国境(この場合、トルクメニスタンとウズベキスタン間の国境)渡しであるが、その国境渡し価格は発表されていないので、同国が実際どれほどの価格で輸出しているのかは不明である。 中国の習近平国家主席は2013年9月、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタンおよびキルギスを歴訪した。訪問先の各国では大型資源開発計画実施で合意し、中央アジアからの対中天然ガス輸出の増大にも弾みがついた。同国家主席は最初の訪問国トルクメニスタンにおいて、合計13文書に調印。両首脳は世界第2位の天然ガス埋蔵量を誇るガルクィヌィシュ鉱区(復活・復興の意味)の天然ガス生産設備工場の開所式に出席した。 同鉱区の第1段階の天然ガス生産目標は年間300億?、第2段階の目標も300億?(計600億?)である。第2段階の探鉱・開発に必要な資金100億ドルのうち、中国側が80億ドルを融資することも合意した。 同国家主席は同年9月13日に開催された上海協力機構(SCO)サミットに合わせて訪問したキルギスの首都ビシュケクでは、トルクメニスタンからウズベキスタン~タジキスタン~キルギスを経由して中国に向かう、中央アジアと中国を結ぶ4本目の天然ガスパイプライン建設について当該4カ国政府間で合意。トルクメニスタンは2016年末、同天然ガスパイプライン建設開始を目指している。(ⅲ)TAPIパイプライン建設構想 最後に、TAPIパイプライン構想に言及したい。450400350300250200150100500397397394394383383360360365365345345天然ガス輸出量(億?)輸出額(億ドル)輸出単価(US$/千?)Gazpromの欧州向け輸出単価(US$/千?)2732732342342002002442442592592812817979888894947777201220132014201519119117317319019036362016(1?7月)年出所:中国通関統計より筆者作成図10トルクメニスタンから中国向け天然ガス輸出量・輸出額・単価(参考:Gazpromの欧州向け輸出単価)202016.11 Vol.50 No.6アナリシス@2016年9月現在、トルクメニスタンから対露・対中・対イラン向け3方向に輸出用天然ガスパイプラインが存在するが、今後アフガン経由、パキスタン・インド向け天然ガス輸出を目指して2015年12月13日、上記TAPI建設記念式典が開催された。 ベルディムハメドフ大統領が主催したこの天然ガスパイプライン建設開始記念式典には、アフガニスタンのA. GHANI大統領、パキスタンのN. SHARIF首相、インドのM. ANSARI副大統領が参加。トルクメニスタンからアフガン経由パキスタン向けには2019年にガス供給開始予定となっている。 トルクメニスタン国内は214㎞のパイプラインだが、国内ガス田からパキスタン・インド国境までの総延長は1,814kmになる(アフガン国内773㎞+パキスタン国内827㎞)。パイプラインの年間輸送能力330億?、総工費は80億~100億ドル。その建設・運営を担当する事業会社 TAPI Ltd. は2014年11月に設立され、Turkmengaz、Afghan Gas Corp.、Inter State Gas Systems Ltd.、インドGAIL が権益参加している。 ここで、一つ重要な点を指摘しておきたい。2015年12月の建設起工式対象の天然ガスパイプラインはあくまで、トルクメニスタン国内天然ガス鉱区から対アフガン国境までの国内214kmのパイプラインである。すなわち、これは、トルクメニスタン国内ガスパイプラインであり、アフガン以遠のアフガン経由パキスタン・インドまでの天然ガスパイプラインをいつ建設開始するのか未定であることだ。 長距離国際パイプラインを建設する場合、起点から終点まで順番に建設するわけではない。輸出用国際パイプラインであれば、おのおのの国が自国領内でほぼ同時に建設を開始する。 約40年前の旧ソ連邦西シベリアから西独向け約4,000㎞の天然ガスパイプラインは、通過各国が自国領土内のパイプラインを建設して、国境でパイプライン同士を最後の1本の鋼管で溶接して接続した(これを通常、“Golden Welding”と呼ぶ)。 全長1,768kmのBTC 原油パイプラインはアゼルバイジャン・ジョージア・トルコ領内で別々の業者が原油パイプラインを建設して、最後に国境でパイプライン同士を接続した。 トルクメニスタンからウズベキスタン~カザフスタン経由中国向け天然ガスパイプライン建設は、中国CNPCと通過各国の国営パイプライン会社が合弁企業を設立して、各国で建設を開始した。 トルコ国内東西接続ガスパイプライン(TANAP)は、国内を3区間に分けて建設中である。 つまり、TAPIが現実性のあるパイプライン建設構想であるならば、アフガニスタンとパキスタン国内でも既に建設(準備)が始まっていなければならない。 また、「パイプラインは建設すれば終わり」ではない。建設後、常にそのパイプラインルートの警護や保守・点検、必要に応じ改修工事を実施する。現状のアフガン情勢では同国経由のパイプライン建設は不可能であり、振り返れば、2015年12月13日のパイプライン建設起工式は壮大なる政治ショーだったと言える。 付言すれば、トルクメニスタン産天然ガスをアフガニスタン経由パキスタンとインドに輸出する構想がTAPI構想であるが、実はこの構想は20年前に既に存在しており、米Unocal(現・Chevron)はロシア・アフガニスタン等と1996年8月基本合意に達している*38。 すなわち、今回のTAPI建設構想は、約20年前に策定されたUnocal主導のCentral Asia Gas 構想の焼き直しに過ぎない。 今回のTAPI 建設構想の暫定事業化調査(Pre F/S)は既に完了しており(F/S発注者はADB〈アジア開発銀行〉、受注者は英 Penspen)、この仮F/S策定を受け、パイプラインの建設・運営を担当する事業会社TAPI Ltd.は2015年末に同パイプライン建設作業開始を目指すと発表したが、問題は二つある。 一つは、政情不安なアフガニスタンを経由する点。もう一つは、トルクメニスタン側が建設するのはあくまで、対アフガン国境までの国内約214kmの天然ガスパイプラインであり、アフガン以遠はいつ建設するのか現状不明である。 トルクメニスタンは国境までの自国領内では自らパイプラインを建設するが、天然ガスは国境渡しで終わる。その先は買い手(あるいは他の第三者)が建設しなければならない。TAPIもカスピ海横断海底パイプライン建設構想も、誰が資金負担するのか、誰が建設するのか、現状では不明である。この点は特に注意が必要である。繰り返しになるが、筆者はこの意味で、現状ではTAPI 建設構想の実現は不可能と考えている。 一方TAPIの代替案(競合案)として、イラン産天然ガスをパキスタンに輸出する「ミール(平和)パイプライン」構想が存在する。これも昔からある構想だが、対イラン経済制裁措置解除が実施されれば、このミールパイプライン構想のほうが早く実現するかもしれない。 ただし、この構想にはサウジアラビアが強硬に反対している。21石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-.油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国経済(1)油価推移とGDP推移概観 油価推移とカスピ海沿岸資源国のGDP推移を概観する(図11、図12)。 図11、図12より、油価とCIS(独立国家共同体)資源大国のGDPには緩やかな相関関係が存在することが分かる。 油価が大きく動いた時、ロシアでは大事件が起こっている。 1991年末にはソ連邦が解体された。 1999年末には、ロシア連邦のB.YELTSIN大統領が唐突に辞任して、後任大統領候補として、V.PUTIN首相を大統領代行に指名。2000年3月のロシア大統領選挙では、プーチン大統領候補が1回目の投票で当選した。 プーチン新大統領が誕生すると油価は上昇に転じたが、2008年にD.MEDVEDEF大統領が誕生すると、世界的規模での金融危機が起こり、油価は下落した。 2012年に大統領職に復帰した第3期目のプーチン大統領は油価高騰局面を享受してきたが、2014年後半からの油価下落により、ロシア経済は大きな影響を受けている。US$/bbl左軸:Brent油価右軸:前年比変動率%120100120100806040200-20-40806040002-20-40-60年出所:IMF, WEO, April 2016 とEIA 2016年9月度短期油価予測より筆者作成図12周辺4カ国の実質GDP成長率と油価推移22アゼルバイジャントルクメニスタンロシアカザフスタンBrent油価(US$10/bbl)20132012201420152016(予測)2017(予測)年%20082009201020111614121002468-2-4-6-8-601988198919901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015出所:2015年12月25日付Trend誌より筆者作成)*39図11北海ブレント油価推移と前年比変動率2016.11 Vol.50 No.6アナリシス廣ZN、SOFAZからの繰り入れ金60億AZNを想定していたが、今回発効した修正案は想定油価$25、歳入168億2,200万AZN(期首予算比+15.5%)、歳出184億5,900万AZN(同+13.7%)、赤字額GDP比2.9%、繰り入れ金76億1,500万AZNとなり、歳入案に占める繰り入れ金割合は41.2%から45.3%に拡大した。AZN建ての歳入が増えているのは、主に国庫への繰り入れ金の増額に起因する。 付言すると、2015年国家予算案は想定油価バレル$90、歳入194億AZN、歳出211億AZN、赤字額17億AZN(GDP比2.8%)、SOFAZからの繰り入れ金は104億AZN。歳入に占める割合は53.6%であった*43。 I. アリエフ大統領は2015年12月に2016年のSOFAZ予算案を承認した。2016年の総収入案は67億1,000万AZN、総支出案は81億8,000万AZN。収入67億1,000万AZNのうち61億AZNはACG鉱区とシャハ・デニーズ鉱区からの利益原油・ガスを想定。総支出のうち、60億AZNは国庫予算への繰り入れが前提であったが、アリエフ大統領は2016年3月18日、SOFAZの2016年修正予算案を承認した*44。 アゼルバイジャンの2016年国家予算案と修正案、SOFAZからの国庫への繰り入れ金をグラフ化すると図13のようになる(参考:2016年9月現在、US$ 1≒ 1.63AZN)。 SOFAZ設立以来の累計収入は2015年末までに1,249 億ドルに達した。累計支出は863億ドルとなり、そのう(2)アゼルバイジャンへの影響 米格付け会社Standard & Poor’s(S & P)は2016年1月29日、油価下落に伴い、アゼルバイジャンの長期格付けをBBB-からジャンク債レベルのBB+に1ノッチ下げた*40。 S & Pに続き、米格付け会社Fitch Ratingsは2016年2月29日、同国の内貨・外貨長期債券格付けを“BBB-”から“BB+”(negative)に1ノッチ下げて、投資不適格とした*41。アゼルバイジャンの2015年財政赤字はGDP比5.3%だったが、Fitchは2016年GDP比12.5%、2017年は7.5%と予測。また、2016年のインフレ率は14%、GDP実質成長率は-3.3%と予測している(参考:米S & PはGDP-1%、Moody's は-0.7%と予測)。 アゼルバイジャンの2015年GDP成長率は+1.1%、インフレ率4%であり、同国政府の2016年予測はGDP+1.8%、インフレ率10~12%であるから、大きかいな乖がある。ちなみに、2016年1月のGDP実質成長率は奇しくも-3.3%となった。 I. アリエフ大統領は2016年3月3日、2月23日にアゼル国会が承認した2016年国家予算修正案に署名し、修正予算案が発効した。2015年末に成立した2016年国家予算案の想定油価はバレル$50であったが、修正案の想定油価は$25になった*42。 2016年期首国家予算案は想定油価バレル$50、歳入145億6,600万AZN(アゼル・マナト)、歳出162億6,400離りく表15アゼルバイジャン国家石油基金資産残高(各年末)推移2011年29.82012年34.12013年35.92014年37.12015年2016年9月1日33.635.9十億ドル53.653.6%200200194194211211104104145.66145.66162.64162.64168.22168.2245.345.3184.59184.59606041.241.276.1576.15資産残高出所:SOFAZ億AZN50.850.893.493.41841842014年予算案($100)2015年予算案($90)2016年予算案($50)2016年修正案($25)国庫歳入SOFAZから国庫への繰り入れ金国庫歳出右軸:国庫歳入に占める繰り入れ金割合25020015010050055504540(注)1AZN≒64円出所:SOFAZ資料より筆者作成図13アゼルバイジャン国家予算案・修正案とSOFAZからの繰り入れ金割合(2016年)23石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-ソ784億ドルが国庫歳入に編入されたので、支出の9割以上が国庫への編入額となる*45。 SOFAZは2016年9月29日、2015年の同基金の実績を発表した。2015年1月1日現在の期首基金残高は371億ドルであったが、2016年9月1日現在の基金残高は359億ドルになった*46。 2015年12月31日の期末残高は336億ドルだから、基金残高は2015年の1年間で9.5%減少したことになる。これは1999年末に石油基金設立、2001年に実務開始以来、初めての残高減少となった*47。 また、2015年1月1日現在371億ドルの通貨別内訳は、米ドル54.1%、ユーロ33.9%、英ポンド4.8%。336億ドルの通貨別内訳は、米ドル47.7%、ユーロ35.3%、英ポンド5.2%であった。2015年の収入は72億ドルであり、そのうち69億ドルがACG鉱区からの収入であった。2014年のACG鉱区からの収入は152億ドルなので、油価下落によりSOFAZ収入は大幅減少したことになる*48。 一方、同国財務省は2016年2月18日、対外債務残高を発表。2016年1月1日現在の対外債務は68億9,000万ドル(前年同期比+6.4%)であり、GDP比約20%となった。債務の主要通貨別内訳はUS$66.3%、?20.4%、SDR(Special Drawing Right:IMF特別引き出し権)8.8%、日本円2.5%となっている*49。 その後、SOFAZは2016年6月末現在の資産残高は351億ドルになったと発表。主要通貨別内訳は、US$47.8%、?34.5%、英ポンド4.7%、金(Gold)3.8%、円1.9%である。 SOFAZの2016年上半期(1~6月)のACG鉱区収入は23億1,000万ドル、シャハ・デニーズ海洋鉱区収入は6,000万ドル、計23億7,000万ドル。ACG鉱区からの累計収入(2001~2016年6月末)は1,193億ドル、シャハ・デニーズ海洋鉱区からの累計収入(2007~2016年6月末)は25億ドルになった。また、2003~2016年6月末までの国庫への繰り入れ金累計額は656億6,000万AZN。うち、2016年上半期は17億6,000万AZNであった。 2016年の国庫繰り入れ金は76億1,500万AZNと規定されているが、2016年上半期の繰り入れ金は17億6,000万AZNに過ぎず、年末にはSOFAZ資産残高は更に減少するものと予測される。 アゼルバイジャン政府の2017年国家予算原案は2016年9月28日に総額が発表された。今後議会に提出され、審議・採択後、大統領の署名を以て発効する。 2017年国家予算原案の歳入は159億6,000万AZN、歳入は166億AZN、赤字額6億4,000万AZN、想定油価はバレル$40であるが、現時点では国家予算案の詳細は不明である。 アゼルバイジャン経済は他のCIS天然資源諸国同様、典型的な「油上の楼閣型経済」である。輸出金額の9割以上が石油と天然ガスであり、国家予算歳入案の半分をSOFAZからの繰り入れ金が占める。 (3)カザフスタンとトルクメニスタンへの影響①カザフスタンへの影響 ソ連邦解体前から自国の元首(共和国書記長や大統領)を務め、現在まで元首の職に就いているのは、ウズベキスタンのカリモフ大統領(78歳)とカザフスタン共和国のナザルバエフ大統領(76歳)の2人のみで、この2人の共11010090807060504030十億AZN106.69収入うち原油・ガス利益支出うち国庫繰り入れ金81.8167.1160.9460.0076.1545.7838.76期首予算案修正予算案出所:アゼルバイジャン国家石油基金/SOFAZ図14アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ)の2016年修正予算案242016.11 Vol.50 No.6アナリシスハ点は健康問題と後継者問題を抱えていることであった。 そのカリモフ大統領は2016年8月28日、脳出血で8月27日にタシケントの病院に入院したと発表され、その後9月2日に死亡発表、翌3日、生まれ故郷のサマルカンドで国葬となった。 ウズベキスタン政府発表は9月2日死亡、3日国葬だが、首都タシケントで2日に死亡して、3日にサマルカンドで国葬という時間設定は物理的に不可能と思われる。実際には脳梗塞を発症した8月27日から、派閥間で後継者を調整するまでの時間が「病気入院中」と発表され、9月2日に折り合いがついたので2日死亡と発表したのが実相だと筆者は推測している。 なお、後任の大統領代行には葬儀委員長を務めたミルジヨエフ首相が就任した。この隣国の出来事がカザフスタンのN. ナザルバエフ大統領(76歳)に影響を与えたと推測される。 ナザルバエフ大統領は2016年9月8日付大統領令により、K.マシモフ首相を解任して国家保安委員会議長に転出させ、後任にはB.サギンタエフ第1副首相が首相代行に昇格した。 ナザルバエフ大統領は2016年9月13日には自分の長女ダリガ・ナゼルバエバ副首相(53歳)を上院議員に任命し、同議員は9月16日、上院国際関係・国防委員長に就任した。これは近い将来、上院議長に就任する布石と見られている。 上院議長は大統領が辞任・死亡・職務不能に陥った時、次期大統領が選挙で選出されるまでの期間、大統領代行職を務める。今回の人事は事実上、長女を大統領後任候補と宣言する布石だろう。 隣国ウズベキスタンのカリモフ大統領の死亡が9月2日に公表されたことに鑑み、急きょ、自分の後継候補者を天下に知らしめたものと筆者は理解する。 ここで、カザフスタンの国家予算原案の前提となる想定油価と原油生産量予測を概観する。 同国政府は2016年9月現在、国家予算原案を策定中であるが、9月15日に2017~2021年の同国の想定油価と原油生産量予測を発表した。 2015年末に発効した2016年国家予算案の前提となる想定油価はバレル40ドルであったが、2017~2019年の国家予算原案の想定油価はバレル同35ドル、2020年は40ドル、2021年は45ドルと設定された。 また、原油生産量とカシャガン海洋鉱区第1段階の原油生産量予測は以下のとおりとなる*50。 なお、同国の原油生産量は2013年を境として、以後、毎年生産量は減少している。 付言すれば、米格付け会社Moody'sは2016年4月26日、油価低迷によりカザフスタン経済は今後更に悪化するとの見通しを発表、同国のレーティングをBa3(negative)に引き下げた。対外債務のGDP比は2014年末は14.6%であったが、2015年末は21.8%に増加、2016年末は22.9%になると予測している*51。②トルクメニスタンへの影響 トルクメニスタンのG. ベルディムハメドフ大統領(59歳)は2016年9月14日に長老会議を開催して、憲法改正案を発表。その後議会で承認され、大統領本人が署名百万トン79.579.575.575.58080797982828181858584848787848487878484908070605040302010000実績0.50.5予測2015年2016年4444AB2017年$35/bbl7777AB2018年$35/bbl:A 楽観的シナリオ:B 基礎シナリオ出所: http://www.oilcapital.ru/upstream/293395.html111111111313131313131313AB2019年$35/bbl原油生産量AAB2020年$40/bblB2021年$45/bblうちカシャガンでの生産量図15カザフスタン原油生産量予測推移25石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-オて、憲法改正案は発効。改正案骨子は以下のとおり。 ・ 大統領任期を従来の5年間から7年間に延長する。 ・ 大統領候補の年齢制限(70歳)を撤廃する。 要するに、実質、大統領終身制を敷いたことになる。 トルクメニスタンは現在、深刻な経済危機に直面していると推測される。2015年末までは金額制限はあれ、個人が内貨(トルクメン・マナト)を外貨に交換することは可能であったが、2016年に入り、個人が銀行で内貨を外貨に交換できなくなった(その逆は可能)。 同国の経済統計はほとんど公表されていない。金・外貨準備高は1993年から1999年までは発表されていたが、その後は未公表である。故に、西側調査機関は推測するしかない。 参考までに、過去発表されていた同国の金・外貨準備高を示す。(出所:http://ecodb.net/country/TM/f_reserve.html)。 ・ 1993年US$8億 ・ 1994年US$9億3,000万 ・ 1995年US$11億7,000万 ・ 1996年US$11億7,000万 ・ 1997年US$12億6,000万 ・ 1998年US$13億8,000万 ・ 1999年US$15億1,000万 外国貿易額は総額のみ公表されているが、その公表数字と西側が推定している経常収支を図16に示す。 トルクメニスタン政府発表では貿易黒字が続いているが、西側の非公式発表では経常収支は赤字となっている。2014年の経常収支赤字額は28億5,000万ドル、2015年は49億5,000万ドル、2016年予測は61億9,000万ドルである。これが何を意味するのか、別途検討が必要となろう。 最近、トルクメニスタン領海カスピ海において石油ガス探鉱・開発事業に従事している外資系石油企業やプラント関連のトルコ系建設会社では、現地従業員の削減や給与遅配などが話題になっている。マレーシアのPetronasは同国カスピ海のPSA(生産物分与契約)海洋鉱区(ブロック#1)で原油を生産している。この原油はタンカーで対岸のバクーに輸送され、バクーからはBTC原油パイプラインでトルコの地中海沿岸ジェイハン出荷基地から輸出されているが、同社は#1海洋鉱区における油井掘削事業規模を縮小している。 通貨トルクメン・マナトの公式レートは1ドル≒3.5マナトだが、現地からの報道では、実際には約6マナトで交換されている模様。銀行にも外貨がないので、公式レートでのドル売りには応じていないと言われている。 トルクメニスタンでは詳細な経済指標は発表されていないが、トルクメン経済の実態は予想以上に厳しく、今後経済危機が表面化することもあり得るのではないか。 アゼルバイジャンとカザフスタンも天然資源に依存する経済構造になっており、同様の問題を抱えている。輸出額輸入額黒字額経常収支220億ドル200180160140120100806040200-20-40-60-80200720082016(予測)出所: 2014年までの貿易額はhttp://www.stat.gov.tm/ru/。経常収支と2015年以降の貿易額はhttp://www.tradingeconomics.com/2010201120122009201320142015turkmenistan/current-account図16トルクメニスタン外国貿易額と経常収支推移年262016.11 Vol.50 No.6アナリシス@ロシアも含めカスピ海沿岸の旧ソ連邦天然資源国にとり、油価と天然資源に依存しない経済構造を構築することが喫緊の課題となっており、そのためには国内体制の変革および外資と技術の導入が欠かせない。 しかし、原油・ガス生産大国において石油・ガス・化学・電力等の基幹産業が国営会社の独占事業となっている限り、どんなに大統領が脱石油・ガスを唱えても油価依存型経済構造からの脱却は実現しないだろう。資源国経済が油価に依存しない経済体質となるには、経済構造改革が必要である。油価低迷を奇貨として、経済再生の途は経済自由化、すなわち、国営企業の民営化と経済競争原理の導入となろう。 筆者は、旧ソ連邦の天然資源の豊かな国々が自国の天然資源を有効利用して、今後発展していくことを心から祈念している。【参考資料】1. アゼルバイジャン関連参考サイトアゼルバイジャン国家統計委員会:http://www.stat.gov.az/indexen.phpアゼルバイジャン国立銀行(中銀):http://en.cbar.az/アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ):http://www.oilfund.az/en_US/2. カザフスタン関連参考サイトカザフスタン統計庁:http://www.stat.gov.kz/faces/mobileHomePage?_afrLoop=4580488553273406#%40%3F_afrLoop%3D4580488553273406%26_adf.ctrl-state%3Dvqhdg8460_25カザフスタン首相府公式サイト:https://primeminister.kz/en3. トルクメニスタン関連参考サイトトルクメニスタン国家統計委員会:http://www.stat.gov.tm/ru/(露語)NGOサイト:http://www.tradingeconomics.com/turkmenistan/current-account4. 国際通貨基金(IMF)GDP実質成長率関連サイトhttp://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/01/pdf/tblparta.pdf5. 英BP統計資料http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html6. 米EIA油価予測資料http://www.eia.gov/<注・解説>*1: アゼルバイジャン憲法により大統領3選は禁止されていた。しかし、同国議会は2009年、憲法の3選禁止条項を廃止して国民投票に付し、承認されたので、理論上、終身大統領も可能になった。3期目の大統領選挙は2013年10月に実施され、現大統領が3選されている。*2: ソ連邦解体後に成立したアゼルバイジャン共和国では、5月28日を「アゼルバイジャン独立記念日」と定めている。同国は1918年5月28日に「アゼルバイジャン民主共和国」として独立したが、1920年4月、ソ連邦に吸収された経緯がある。*3: アゼルバイジャンのアリエフ大統領が国民投票に提案した憲法修正案内容:ん免め修正箇所は計29項目にわたるが、主要な改正項目は下記のとおり。・ 第1副大統領職と副大統領職を新設する。大統領は副大統領の任命権と罷・ 大統領任期を従来の5年間から7年間に延長する。・ 「大統領候補は35歳以上のアゼル国民」の文言中「35歳以上」を削除する・ 「大統領が任期満了前に辞任する場合、3カ月以内に選挙を実施する」を「60日以内に実施する」に変更する。・ 「大統領は臨時大統領選挙を宣言できる」という新規項目を設ける。権を有する。ひ27石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来-E (現行憲法の)「大統領が職務履行不可能の場合、首相が臨時に大統領職を代行する」を「第1副大統領が職務を代行する」に変更する。 修正案の内容は大統領職の権限強化であることが一目瞭然であって、大統領独裁色が更に強まることを意味する。議員は議会選挙で選出され、議員のなかから首相が選出されるが、第1副大統領は大統領が任命する。すなわち、選挙を経ない人が大統領職を代行することが可能になる。大統領はいつでも臨時大統領選挙を宣言できることになり、選挙期間が3カ月から2カ月以内に変更となれば、対立候補が選挙運動の準備もできないまま大統領選挙となる。筆者は、(将来)自分の家族を副大統領職に就ける布石ではないかと想像する(同大統領の子供は2人の娘と息子1人)。*4: 2016年1月22日付「アゼル通信」*5: カスピ海のAbsheron海洋鉱区PSAは一旦破棄されたが、2009年2月27日に再度調印された。*6: 出所:http://www.eia.gov/beta/international/regions-topics.cfm?RegionTopicID=CSR*7: SOCAR Web site:www.socar.az*8: 2013年10月29日付アゼルバイジャン大統領令*9: 油田で生産される随伴天然ガスは、一部その場で燃焼(フレア)されるか、油層に地下圧入される。ネット生産量とは、グロス生産量からガス燃焼量(フレア)と地下圧入量を控除した量。*10: 2012年4月12日付「トゥーラン」記事*11: 2013年11月27日付「トゥーラン」記事*12: 2016年9月16日付「アゼル通信」によれば、中国CNPCが50%資本参加する見込み。*13: SOCARは2015年2月18日、プロジェクト延期を正式発表した。*14: SCPは別名BTEパイプライン(BTE=Baku~Tbilisi〈ジョージア〉~Erzurum〈トルコ〉の略)とも称される。*15: ただし、2018年以降に選出される大統領の任期は5年。*16: BP統計資料は全てネット生産量。ネット生産量=グロス生産量-フレア(燃焼)-地下圧入量*17: 2016年2月22日付「トゥーラン」記事*18: 2016年7月18日付「トゥーラン」記事*19: BP2015年版と2016年版ではカザフスタンの天然ガス生産量が大幅に異なるので、ここでは2015年版をそのまま使用する。*20: TCOの権益保有者は、米Chevron50%、同ExxonMobil25%、KMG(カザフスタン国営石油ガス会社Kazmunaigaz)20%、露Lukoil5%(2016年9月現在)*21: INPEXの権益は7.56%(2016年9月現在)。他社権益は次のとおり; 伊Eni、米 ExxonMobil、英・蘭Royal Dutch Shell、仏Totalがそれぞれ16.81%、中国CNPC 8.33%、KMG(カザフスタン)16.87%。*22: 2014年10月3日付Azernews*23: 2013年7月2日付RusEnergy。取得金額は約50億ドルだが、16.81%の権益で参加しているKMGが同社権益8.40%を取得、そのうち8.33%をCNPCに同額で転売した。*24: 2016年9月29日付Trend誌 http://en.trend.az/business/energy/2666418.html*25: 1位イラン34.0兆?、2位ロシア32兆3,000億?、3位カタール24兆5,000億?(BP 統計2016年版)*26: 1991年763億?、1992年544億?、1993年591億?、1994年323億?、1995年292億?(BP統計2015年版)*27: 2015年10月26日付habartm.org*28: 2015年12月13日付Trend誌*29: http://www.eia.gov/beta/international/regions-topics.cfm?RegionTopicID=CSR*30: 1994年9月20日にアゼルバイジャン初のPSA(カスピ海ACG鉱区の生産物分与契約)が調印された。つまり、この日(2014年9月20日)は同国にとりPSA調印20周年記念日であった。*31: BP統計2015年版では、カザフスタンの2014年末天然ガス埋蔵量は1兆5,000億?、生産量193億?であったが、2016年版ではそれぞれ9,000億?、124億?に減少している。*32: 2013年12月17日付「アゼル通信」*33: Naftian Intertrade Co.の略。イラン国営石油会社(NIOC)の100%子会社で、主に販売担当。282016.11 Vol.50 No.6アナリシス?34: 2014年10月13日付Statoil プレス・リリース www.statoil.com*35: 出所:http://en.trend.az/business/energy/2502933.html)*36: カザフスタンから中国向けの原油パイプライン年間輸送能力は当初1,000万トンであったが、2016年9月現在、2,000万トンに能力増強中。BTC原油パイプラインの年間輸送能力は120万b/d(年間輸送能力約6,000万トン)であるが、2016年9月現在、アゼル原油の輸送量は約60万b/d(同約3,000万トン)となっている。*37: 総延長約540km(海底パイプライン部分約480km)、輸送能力40万b/d、総工費約17億ドル。*38: 米Unocalが主導したCentral Asia Gasパイプライン構想。同社はアフガン問題で1998年8月撤退。*39: 出所:http://en.trend.az/business/energy/2474381.html*40: 2016年1月30日付「アゼル通信」*41: 2016年2月29日付「アゼル通信」*42: 2016年3月3日付「アゼル通信」*43: アゼルバイジャン国庫歳入の大半が、SOFAZからの繰り入れ金や石油・ガス関連税収となっている。*44: 出所:http://en.trend.az/azerbaijan/business/2509160.html*45: 出所:http://en.trend.az/azerbaijan/business/2476457.html*46: 2016年9月29日付「アゼル通信」*47: 2016年9月29日付「アゼル通信」*48: 2016年3月1日付SOFAZ プレス・リリース www.oilfund.az*49: 2016年2月18日付「アゼル通信」*50: 2016年9月15日付Oilcapital*51: 出所:http://palata.kz/en/articles/22509執筆者紹介杉浦 敏広(すぎうら としひろ)1973年、大阪外国語大学ドイツ語学科卒業。同年、伊藤忠商事入社。同社入社後に海外ロシア語研修を受け、以後、旧ソ連邦とCIS(独立国家共同体)ビジネス一筋。モスクワ駐在約6年間、サハリン駐在約7年間、バクー駐在約7年間。ソ連邦西シベリアから西独(当時)までの天然ガスパイプライン用大径鋼管供給ビジネスや旧ソ連邦諸国の原油・天然ガス探鉱開発事業に従事。2015年、同社退職。現在、(公財)環日本海経済研究所共同研究員。JBP(Japan Business Press)に定期寄稿を続ける。趣味は将棋、テニス、読書。連絡先:hs44es@bma.bigloble.ne.jpGlobal Disclaimer(免責事項)本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。29石油・天然ガスレビュー油価低迷に苦しむカスピ海沿岸資源国 -アゼルバイジャン・カザフスタン・トルクメニスタンの現況と近未来- |
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