ページ番号1007413 更新日 平成30年2月19日

米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響

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レポートID 1007413
作成日 2018-01-22 01:00:00 +0900
更新日 2018-02-19 19:08:27 +0900
公開フラグ 1
媒体 石油・天然ガスレビュー
分野 エネルギー一般基礎情報
著者 本村 真澄
著者直接入力
年度 2018
Vol 52
No 1
ページ数
抽出データ JOGMEC調査部本村 眞澄米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響はじめにあつれきこ子 2014年2月のロシアによるクリミア半島の占領という事態に端を発した対露制裁は、基本的に「力にひょうそくよる現状変更は許さない」という米国とEU(欧州連合)が共有する考えに立脚して、時期・内容で平仄を合わせて発動されてきた。これまで数次にわたるウクライナ問題に関する制裁は、米国とEUが一致して行動して初めて効果の出るものであった。しかし、2017年8月に発効したいわゆる「露・イラン・北朝鮮制裁法」は、正式の名称を「米国への敵対者に対する制裁法(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act)」と言い、米国単独の制裁となっている。 ここにきて、米国とEUは価値観を段々と共有できなくなってきたと言えるかもしれない。この新たな制裁法は、具体的には現在、計画の進行しているロシアからドイツに直接接続するNord Stream 2パイプラインを阻止することをその目的の一つとしている。一方、欧州はこのパイプラインを推進したい国々と阻止したい国々とがあり、政治的な駆け引きを繰り返している。米国はその一方に肩入れしようとして、他方の国々からは反発を受けている。 Nord Stream 2に対して反対している国々には、ポーランド、スロバキア、ウクライナがある。その言い分は、表向きはこれ以上の天然ガスの対露依存は欧州のエネルギー安全保障に悪影響を及ぼすというものであるが、本音の部分はロシアからドイツに直接ガスを供給されることにより、ロシアからのパイプライン通過料が減ることを危惧してのものである。特にウクライナは年間20億ドル以上の天然ガスの通過料収入を得ており、これが大幅に減ることは、経済的な苦境に陥っている同国にとって、看過できない問題である。 ロシアのガスにしがみつきながら、ロシアのガスを増やしてはならないというのは奇妙な主張ではあるが、米国もこの点を理解していればこそ、新たな立法措置までしてウクライナなどへの梃入れに勤しんでいる。一方これは、ドイツ、オーストリア等の伝統的な欧州の主要国との軋轢を生み、米国の対EU政策は矛盾を孕むものとなった。ただ、今回の米国の新制裁法には、EUとの協調を義務付ける項目が挿入され、巧みな緩衝装置が織り込まれている。これは決定的な対立を回避できるようにする措置である。しかし、これは米国の真の意思が不明確になることでもあり、対露制裁が不徹底になる兆しとも読み取れる。はらていそ1. 米欧メジャーズの対露進出と対露制裁(1)米欧メジャーズの対露進出 2010年代に入り、高油価を反映して米欧石油メジャーズによる対露進出が盛んに行われた(表1、図1)。主な事業対象は、黒海大水深域、北極圏、シェールオイル開発で、いずれも新規の事業機会であること、事業1件あたりに期待できる埋蔵量が世界の他地域よりもはるかに大きいという特徴がある。更にはBPがロスネフチ(Rosneft)株式の19.75%を取得する例も出てきたが、これには外国企業が短時間に、それも比較的安価に大規模な石油・ガス埋蔵量を確保できるというメリットがある。31石油・天然ガスレビューアナリシス\1メジャーズの主な対露事業ExxonMobil米R/D Shell英・蘭StatoilノルウェーTotal仏Eni伊BP英・Rosneftと2011年協力で合意。 Bazhenovシェールオイル、北極海・黒海開発、極東でのLNG事業・Gazpromと2010年協力協定。北極開発、S-2LNGGazpromNeftとBazhenov層開発・Rosneftと2012年協力。Barents海、オホーツク海探鉱、重質油シェールオイル開発・NovatekとYamalLNGを推進。ハリヤガ油田のPS契約・Rosneftと2012年 協 力 協 定。Barents海と黒海で 探 鉱。SouthStreamで協力・Rosneft 株式19.75%をTNK-BPを売却して取得国主要な事業出所:各種情報に基づきJOGMEC作成Exxon MobilR/D ShellStatoilTotalEniPerseevskyPerseevskyCentral BarentsCentral BarentsBarents SeaKara SeaYamal LNGYamal LNGKharyagaKharyagaTiman-PechoraTiman-PechoraVolga-UralVolga-UralBazhenovBazhenovEast SiberiaEast SiberiaBlack SeaStavropolStavropolWest SiberiaWest Siberia出所:各種情報に基づきJOGMEC作成North CaspianNorth Caspian図1メジャーズが展開するロシアでの主要な事業(2014年まで)Chukchi SeaEast Siberian SeaLaptev SeaMagadanMagadanSakhalin Sakhalin OkhotskOkhotskSakhalin 2Sakhalin 2RosneftはExxonMobil、BP、Statoil、Eniと、ガスプロム(Gazprom)はRoyal Dutch(R/D)Shellと、トタル(Total)はノバテック(Novatek)と特に強い協力関係にあった。 これらのうち、画期的な成果としては、2014年9月のExxonMobil、Rosneftによるロシア・カラ海でのPobeda油田の発見がある。これは、両社によるこの地域の地質に対する的確な理解と極地での操業能力を示すものである。(2) 2014年のウクライナ紛争と西側による対露経済制裁 2014年2月から続くウクライナ紛争に関して、欧米は3月から対露経済制裁を段階的に実施し、ロシアによるクリミア占領以降は更に強化した(表2)。同年7月のマレーシア航空機撃墜事件の後は、大水深・北極海・シェール用機材の輸出禁止を打ち出し、更に9月にはこれらに関する機器、サービス、技術の提供を禁止するところまで拡大した。これにより、メジャーズは西シベリアのジュラ系Bazhenov層でのシェールオイル開発や、北極海での石油探鉱を断念せざるを得ない状況となった。前述のように、ExxonMobilは北極圏のカラ海で大規模な石油鉱床を発見していたが、法律には従う、としてロシアの新規事業から撤退した(サハリン1事業は制裁対象外のためそのまま継続)。 これにより、Statoilによるオホーツク海事業のような322018.1 Vol.52 No.1アナリシス\2米国とEUによる対露制裁の概要(2017年の「対露制裁強化法」を含む)EU米3月6日:3段階の対露制裁。まず、露とのビザ交渉凍結3月17日:露、クリミア当局者ら21名の資産凍結・渡航禁止3月21日:12名の資産凍結・渡航禁止5月12日:13名、2社の資産凍結・渡航禁止 4月28日:RosneftのSechin社長を含む7名17社の資産凍結・渡航禁3月6日:露政府高官・軍関係者等の資産凍結・渡航禁止3月17日:7名の資産凍結・渡航禁止追加。Yanukovych前ウクライナ大統領など3月20日:20名の資産凍結・渡航禁止追加。NovatekのTymchenko社長らが対象止7月16日:経済制裁。90日超の資金調達禁止(Gazprombank、VEB、Rosneft、Novatek)8月6日:大水深・北極海・シェール用機材の米国からの輸出禁止。3銀行と統一造船会社の米市場調達禁止9月12日:5社(Gazprom、Lukoil、GazpromNeft、Surgutneftegaz、Rosneft)に対する大水深・北極海・シェール事業を支援する機器、サービス、技術の提供禁止。5銀行の30日超の調達禁止。Transneft、GazpromNeftの90日超の社債発行禁止制裁の根拠第1次(2014年クリミア併合への対応)第2次第3次(2014年マレーシア航空機撃墜で強化)第4次(2014年ウクライナ東部の不安定化)7月12日:追加資産凍結・渡航禁止7月16日:EIB、EBRDの融資禁止7月31日:大水深・北極・シェールオイル用機材の輸出は事前認可。ガスは非対象、8月1日前の契約は不問。90日超の調達禁止(Sberbank、VTB)9月12日:大水深・北極・シェールオイル事業への掘削・テスト・検層等のサービスの禁止。Rosneft、Transneft、GazpromNeftに対する30日超の資金調達の禁止。24名の資産凍結・渡航禁止Gabriel独外相とKern墺(オーストリア)首相が米国を非難露・イラン・北朝鮮制裁法(2017年)(ロシア関連は特に「対露制裁強化法」とも称される)12月18日:ウクライナ自由支援法(未発動)8月2日:216条;制裁緩和の議会審査義務付け。223条;米国人に対し金融機関への14日超の資金調達禁止。エネルギー企業(Rosneft、GazpromNeft、Transneft、Novatek)への60日超の資金調達禁止。①石油の可能性のある②露企業が33%超の支配権・所有権を持つ新規の大水深・北極海・シェール事業の技術支援の禁止。232条;大統領は同盟国と協同しロシアのエネルギー輸出パイプライン等への投資、および1回$100万か、年に$500万以上の物品、役務、技術、情報提供の禁止。233条;露国有資産民営化への$1,000万超の参加禁止(青字は下院での修正)(注) EIB=European Investment Bank:ヨーロッパ投資銀行/EBRD=European Bank for Reconstruction and Development:ヨーロッパ復興開発銀行/VTB=Vneshtorgbank:ロシア外国貿易銀行/VEB= Vnesh Econom Bank:ロシア開発対外経済銀行出所:各種情報に基づきJOGMEC作成通常海域での探鉱といった例はあるものの、ほとんどの事業が断念されることとなった。また、2014年年央からの油価の急激な下落もあり、メジャーズによる対露投資はさほど魅力あるものではなくなった。 なお、Statoilはボルガ=ウラル地域のデボン系Domanik層でのタイトオイル探鉱をこれから実施するが、対象層はチャート質石灰岩であり、制裁対象のシェールには当たらないとしている。(3)2017年の新たな対露制裁 トランプ政権は発足当初、対露ビジネスに精通したExxonMobilのレックス・ティラーソン(Tillerson)CEOを国務長官に指名するなど、対露関係のリセットを指向した観があった。しかしその後、マイケル・フリン(Flynn)大統領補佐官(国家安全保障担当)が補佐官就任前に駐米ロシア大使と接触したことが問題視され、2月に辞任に追い込まれるなど、対露制裁の解除を模索した疑いが持たれるや、一部の議員から「対露制裁強化法」が提案されるようになった。 その後、6月に「露・イラン・北朝鮮制裁法(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act:米国の敵に制裁で対抗する法)」という形で、イラン、北朝鮮と抱き合わせの法案となった。これは、全体に制裁を強化し、かつロシアとの関係改善の意思を疑われるトランプ政権に対して対ロシア制裁を解除する前に議会審査を義務付けて制止しようとするものである。主な内容をこれまでの対露経済制裁と併せ、表2に示す。 法案は、上院で6月14日、97対2の大差で可決された。次いで7月25日、下院での修正を経て同法案は419対3という大差で可決され、7月27日、上院で再可決された。法案成立から1週間を経た8月2日、大統領がようやく署名し成立した。この1週間という長い期間は、大統領として不本意の署名であることを示したものと言われている。 ロシアのエネルギー関係の主要な条項を、以下に記す(青字は下院での修正、追加部分)。第 216条:米国がロシアに対して課している制裁を大統領が停止または緩和する場合、大統領が議会に報告することを義務付ける。第 223条:現行制裁の強化。米国人あるいは米国内滞在者に対し、金融機関への14日超の資金調達禁止。エネルギー企業(Rosneft、Gazprom Neft、Transneft、33石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響ovatek)への60日超の資金調達禁止。①石油の可能性のある②露企業が33%超の支配権・所有権を持つ、新規の大水深・北極海・シェール事業の技術支援を禁止する。第 232条:大統領は同盟国(allies)と協同(in coordination)し、米国人および外国人に対しロシアのエネルギー輸出パイプライン建設に貢献する投資、あるいはそのメンテナンスを進め、建設、近代化、改修を拡大するような1回$100万または年に$500万以上の市場価格のある物品、役務、技術、情報を提供した場合には制裁を課す。第 233条:露国有資産民営化への$1,000万超の参加を禁止する。 このなかで、第216条は、この法律の基本的な立場を端的に示している。トランプ政権による、一方的な制裁解除が疑われ、議会がその予防的措置として立法化したものと言える。 これに加え、第232条に記された「エネルギー輸出パイプライン」は、石油とガスのパイプラインが該当するが、特に現在計画が進行しているNord Stream 2を念頭に置いていると思われ、更に制裁を強化したものと言える。ただ、上院での採決後に欧州側から次々と批判が寄せられ、これに対して下院の修正で「大統領は同盟国と協同して」という文言が挿入された。すなわち、米国側による一方的な措置ではなく、欧州諸国との協議を義務付ける形式にしてあり、欧州諸国の立場に配慮した形となった。一部にはこれをもって制裁は免れたと捉える向きもある。 大統領の署名後、ホワイトハウスは、「イランと北朝鮮、ロシアに厳しい制裁を課し、挑発的で安定を脅かす行動を抑止することは支持するが 、この法案には重大な欠陥がある」との声明を発表し、不本意な署名であることうかがを窺わせた。2. Nord Streamパイプラインの経緯 前記の制裁法が想定していると言われ、現在計画が進行しているNord Stream 2の経緯について、既に先行して稼働しているNord Streamパイプラインの経緯も併せて記す。(1)Nord Streamの開通まで Nord Stream計画の発端は、既に40年以上が経過しているウクライナを通るガスパイプラインの老朽化問題をどうするか、という議論であった。これは、長期的に欧州の域内ガス生産が低下すること、石炭火力代替としてのガス需要の伸びが堅調であることから、欧州のガス輸入が今後更に増加することが予想され、このためのガス輸入インフラをどう整備していくかという問題である。 IEAのWEO(World Energy Outlook)2015による2025年、2040年のOECD欧州でのガス輸入量予測を表3に示す。2013年値に比べ、12年後の2025年には36%増、27年後の2040年は55%増と予測されている。将来、欧州においてガスの需給ひっ迫といった事態が起こらないようにするためには、ガス輸送インフラの継続的な拡充が欠かせないとの認識が産業界にはあった。 しかし、2004年のウクライナでの「オレンジ革命」以降は、ロシアにとってウクライナを通過するパイプラインの大規模な改修を展開するよりも、ウクライナをう回し、より信頼性のおける欧州の主部に直接新規のパイプラインを接続するという考えが強まった。そして具体的なルートとして、ロシアのレニングラード州ヴィボルグ(Vyborg)からバルト海を経由して直接ドイツのグライフスバルト(Greifswald)に向かう案が提出され、これが新たなパイプライン計画としてプーチン(Putin)大統領とシュレーダー(Schroder)首相(当時)の間で合意され(図2)。この計画は追ってNord Streamと命名された。た この計画自体に関しては、ポーランドなどがガスのロシア依存が高まるとして反対を表明していたが、パイプラインが排他的経済水域を通過するスウェーデンは、「すべての国は国際水域にパイプラインを敷設する権利を有している」として、工事認可を出している*1。これは、表32025年、2040年のOECD欧州でのガス輸入量(IEA、2015)年OECD欧州2013年比出所:IEA2013202520402,320億m33,160億m33,600億m3-36%増55%増342018.1 Vol.52 No.1アナリシスWEDENBornholm(DENMARK)GreifswaldGERMANYPOLANDFINLANDVyborgUst-LugaRUSSIAESTONIALATVIALITHUANIARUSSIABELARUSNord StreamNord Stream 2排他的経済水域排他的経済水域(係争中)領海出所:各種情報に基づきJOGMEC作成図2Nord StreamとNord Stream 2のルートている状況から、更にロシアからドイツに直接輸入できる能力を追加すべく、2015年6月にGazpromとR/D Shell(英・蘭)OMV(墺)、E.On(独。後にUniperと改称)との間で、Nord Stream 2計画に関して覚書が交わされた*2。 これに対して同年7月15日、スロバキアのマロシュ・シェフチョヴィッチ(Maro? ?ef?ovi?)EC(欧州委員会)エネルギー同盟担当副委員長はNord Stream 2に関して、対露依存が高まることから欧州のエネルギー安全保障に悪影響があると、ECとして初めて懸念を表明した。次いでエストニアのウルマス・パエト(Urmas Paet)元外相の率いる欧州議会議員グループがNord Stream 2の建設阻止を求める文書をECに提出した*3。 一方で同日、Engie(仏。GdF Suezから改称)がNord Stream 2への参加に際しての法的拘束力ある合意書の交渉に入る、とGazpromが発表した。Wintershall(独)国連海洋法第79条の「大陸棚における海底電線および海底パイプライン」の第1項の文言そのままである。すなわち、沿岸国の領海の外側にパイプラインを敷設する権利が、すべての国の固有の(inherent)権利として認められていることから、パイプライン計画は合法的であり、沿岸国が反対する理由がないということである。 ロシアから直接ドイツへガスを供給する総延長1,224kmのNord Streamの第1ライン(能力:275億m3/年)が稼働を開始したのは2011年9月6日、バルト海のヴィボルグでプーチン首相(当時)とドイツのシュレーダー前首相を迎えて開通式が行われた。そして、翌2012年10月には、Nord Streamの2本目のラインが開通し、通ガス能力は年間550億m3となった。う曲折を経つつも安定的に操業されよ余(2)Nord Stream 2計画の発足 Nord Streamが紆35石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響CAACCKazakhstanCCAACC--33UzbekistanTrans Trans CaspianCaspianTurkmenistanSouth StreamSouth StreamBulgariaBurgasBurgasSamsunSamsunDzhubgaDzhubgaue Streamue StreamllBBGeorgiaSSoouutthCaucasushCaucasusAzerbaijanAzerbaijanGreeceGreeceTurkeyErzurumErzurumAustriaAustriaSloveniaSloveniaHungaryNabucNabucRomaniaccooSerbiaSerbiaPPAATITGGIIITTCroatiaCroatiaBosnia-Bosnia-HerzegovinaHerzegovinaItalyNorwaySwedenmmNord StreaNord StreaGreifswaldGermany320Poland1,200CzechFinlandVyborgVyborgern Lightsern LightsorthorthNNBelarusuuhhyyooSSttooBrBrUzhgorodUzhgorodzzeeTTrrooddoohhrans Balkrans BalkananUkraineRussiaOrenburgYeletsSoyuzSyriaAkkasAkkasIraqIran出所:各種情報に基づきJOGMEC作成図3Nord Stream建設前の欧州へのガス輸出(2010年時点)(億m3/年)も参加を検討し、Nord Stream 2の欧州側からのパートナーは5社となる見込みとなった*4。これにより欧州の産業界と、EUやそれを構成する一部の旧東欧諸国の政治家が対立関係にある様子が顕在化した。(3) Nord Stream 2の建設とウクライナ通過ガス量の展望 Nord Streamに新たなラインを増設して能力を引き上げるという計画は、今後増大する欧州でのガス需要に対応しようとするものであるが、同時にウクライナあるいはポーランド、スロバキア等を経由するガスの輸送量が将来大きく低減するということでもある(図3)。 Nord Stream完成前は、欧州へのガス輸出ルートは、「兄弟(Brotherhood)」および「同盟(Soyuz)」からのガスを通すウクライナ・ルートと「北光(Northern Lights)」のみが稼働していた。通過量はウクライナ経由でおおむね年間1,200億m3、ポーランド経由で320億m3であった(図3)。 図4は、2013年時点での実績である。Nord Streamは二つのラインが完成して、年間550億m3の通ガス能力を持っていたが、EUの規則によりGreifswaldから先の能力360億m3のOPALパイプラインの50%しか使用が許可されず、このため、Nord Streamの送ガス量は230億m3と、本来の能力の半分以下にとどまっていた。パイプライン能力の50%を第三者からのアクセスのために空けておくというのが、EUの第3エネルギーパッケージで定めた規則であるが、バルト海の海底に別のガス田はなく、そもそも送ガスを希望する第三者が存在しない。それでも、ECは規則を盾にこの措置を、2017年まで変更しなかった。2017年8月に、ようやくOPALパイプラインの空き容量の40%、すなわち全体の90%をNord Streamコンソーシアムが使用することが可能となり、Nord Streamは本来の輸送能力を活用できるようになった*5。この間のEUの対応を見ると、従来自らが誇ってきた「規範の王国」ではなく、単なる「繁文縟礼」(規則・手続きが細々として煩わしいこと)の地に過ぎないのでは、と思えてくる。 現在のパイプラインを経由しての天然ガス供給契約は、2009年1月のウクライナガス紛争を解決させるべく、はんぶんじょくれい362018.1 Vol.52 No.1アナリシスussiaOrenburguuhhyyooSSttooBrBrYeletsSoyuzzzeeTTrrooddoohhananrans Balkrans BalkUkraine63BcmSouth SteramSamsunSamsunTurkeyRusskayaRusskayaue Streamue Stream136llBBTanapTanap(160)ErzurumErzurumGeorgiaSSoouutthCaucasushCaucasusAzerbaijanAzerbaijanCCAACCKazakhstanCCAACC--33UzbekistanTurkmenistanNorwaySwedenmm5555Nord StreaNord StreaBcmBcm230230(550)(550)FinlandVyborgVyborgern Lightsern LightsorthorthNNBelarusSerbiaSerbiaVarnaVarnaBulgariaPPAATT00)1(GreeceGreeceUzhgorodUzhgorodRomania30)Hungary(6CroatiaCroatiaBosnia-Bosnia-HerzegovinaHerzegovinaAustriaAustriaSloveniaSloveniaItalyCzech840310PolandOPALOPALGreifswaldNELNELRehdenDALGermanyOlbernhauMISyriaAkkasAkkasIraqIran出所:各種情報に基づきJOGMEC作成図42013年時点での欧州各パイプラインの通ガス実績(億m3/年)同年1月19日にプーチン首相とティモシェンコ首相(ともに当時)との間で11年間の契約として結ばれたものである。ロシアとしてはこの契約が満期となる2019年末以降、そのまま延長する意向はない。また、2014年の紛争時には、2019年末以降のウクライナ経由欧州向けガス輸出は完全に停止する腹積もりであったが、その後態度をやや軟化させ、年間150億m3を通すという案とした*6。ウクライナ経由のガス輸出はできる限り少なくし、その替わり、Nord Stream 2を稼働させて年間1,100億m3を直接ドイツに輸送し、他の通過国の影響を排除したいという考えである(図5)。天然ガス通過国として、ドイツは信頼できるが、ウクライナは信頼できないとの判断に基づく措置である。 経済状況が悪化しつつあるウクライナとしては、天然ガス通過料という貴重な収入源を失いたくないのが本音である。2017年のウクライナのパイプライン・ガス通過料収入は、欧州のガス需要の高まりを受けて、これまでの最高の25億ドルに上ると予想されている。これは同国のGDPの2.5%に相当する*7。このため、Nord Stream 2の実現阻止に向かって全力を挙げている。同様にポーランドの通過料の低下も予想される。 ロシアとしてはこれ以上、自国のガス輸送に関してウクライナの介入を受けたくないのが本音である。(4)Nord Stream 2に反対する一部の旧東欧諸国 パイプライン建設をめぐる議論は、欧州では非常に政治的な色彩を帯びている。2015年11月、ポーランド、スロバキアを中心とする旧東欧9カ国が、Nord Stream 2に関して、「EUの有力な加盟国がエネルギー安全保障より自らの経済的な必要性を優先している」として、パイプライン建設の中止を求める書簡をトゥスク(Tusk)EU大統領宛てに出した。旧東欧諸国はNord Stream2の新設で、ロシアの独占企業であるGazpromに対する欧州の依存が高まることを危惧し、エネルギー源の多様化や安全保障に関するEUの政策と矛盾し、他の加盟国とは異なるルールがNord Streamの経済効果を受けるドイツ等に適用されているとしている。 この問題に関するNord Stream 2反対国の政治家の発37石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響renburgKazakhstanCCAACCCCAACC--33UzbekistanTurkmenistanzzBBTTuTAustriaAustriaSloveniaSloveniaItalyCroatiaCroatia?Bosnia-Bosnia-HerzegovinaHerzegovinaSerbiaSerbiaRomaniaVarnaVarnaTTPPAABulgaria0GreeceGreece01DzhubgaDzhubgaRusskayaRusskayarkish StreamBlue Stream130315TanapTanap160SamsunSamsunTurkeyErzurumErzurumGeorgiaSSoouutthCaucasushCaucasusAzerbaijanAzerbaijanRussiaSoyuzFinlandVyborgVyborgern Lightsern LightsorthorthNNBelarusmm001111Nord StreaNord StreaBcmBcm100,1100?PolandUzhgorodUzhgorodHungaryoouuyySS150?Yeletserhooderhoodothothananrans Balkrans BalkUkrainerrNorwaySwedenGreifswaldCzechOPALOPALNELNELRehdenDALGermanyOlbernhauMISyriaAkkasAkkasIraqIran出所:各種情報に基づきJOGMEC作成図52020年に予想される欧州でのガス輸送量(億m3/年)言を拾ってみる*8。・ ポーランドのアンジェイ・ドゥダ(Duda)大統領(2015 年9月7日):「このプロジェクトはポーランドの利益を完全に無視しており、EUの結束に重大な疑念が生じている」 ・ ウクライナのヤツェニュク(Yatsenyuk)首相(同年9月9日、ポーランド・スロバキアを訪問して):「これは反欧州、反ウクライナ的なプロジェクトであり、ウクライナの年間約20億ドルのトランジット収入に損失をもたらす容認しがたい不公平な措置で、欧州委員会(EC)が阻止することを期待する」 ・ スロバキアのフィツォ(Fico)首相(同年9月10日):「Nord Stream 2に署名した西欧ガス企業はヨーロッパ諸国を裏切った。EU諸国にとってのウクライナ経由のトランジット維持の必要性を、われわれは主張してきたが、突然ウクライナう回を可能にするNord Stream 2が合意された。スロバキアは年間数億ユーロのトランジット料金を失う可能性がある」 これらの発言を見ると、反対国の首脳は、欧州全体のエネルギー安全保障よりも、自国のガスの通過料収入の減少を心配しているようである。 これに対して、ECのユンケル(Juncker)委員長は、Nord Stream 2プロジェクトを「政治的」な問題として見るべきという旧東欧諸国の意見を退け、このプロジェクトは「商業的」であり、EU内の市場ルールの順守についてのみ調査すべきと主張した*9。ユンケルEC委員長は、現実的な着地点を目指して行動していると思える。(5)欧州エネルギー産業はNord Stream 2に期待 ロシア・パイプラインの通過国首脳の激烈な発言に対して、2017年10月6日、サンクトペテルブルクの国際ガスフォーラムの席上で、Nord Stream 2の参加社のうち、E.OnのChristopher DelbruckとOMVのRainer Seele両CEOは、EUのロシア産ガスへの依存削減策、すなわち分散化(diversification)政策を批判し、LNGについては生産者はより高い価格で購入する需要先を探すものであり臨時供給手段の傾向が強いこと、カスピ海からのTanapパイプラインによる欧州へのガス供給は年382018.1 Vol.52 No.1アナリシスヤ100億m3と量が限られていることから、ロシアが依然として欧州へのガス供給の主力であると主張した。 欧州での域内ガス生産量は2005年に3,170億m3、2015年2,670億m3、2025年に2,000億m3と減退する一方、Gazpromは2020年まで1,990億m3の既往契約があり、2020年以降もロシア産ガスへの需要がある。つまり、2人のCEOはロシアを安定的なガス供給者とする見方である。このように、Nord Stream 2への参加者は「ロシアとの交渉においては政治的動機よりも経済的な現実が優先されるべき」との立場を示した*10。 このように、反露的傾向の強い旧東欧諸国と、欧州のエネルギー産業との間には、大きな見解の相違が見られる。2016年のロシアから欧州へのガス輸出は1,790億m3で、前年比12%と大きな伸びを示した*11。2017年初頭は厳冬で需要が急増した面があり、気候要因も大きいが、大きな傾向としてはIEAの予測どおり、欧州のガス輸入は増加すると言える。 欧州の天然ガス問題の権威であるオクスフォード・エネルギー研究所(OIES)のJonathan Stern教授は、「欧州委員会の法務部門がNord Stream 2パイプライン計画を阻止する法的根拠が存在しないことを認めている以上、これに反対する議論は政治的なものである」と断じ、「反対者がしてはならないことは、自身の政治的な見解と、経済性、法律、規則、ガス供給の安全保障の問題を混同することである」と述べている*12。 また、EUの一部に、Nord Stream 2に関してGazpromと何らかの交渉を行うべしとの意見が出されたが、2017年9月27日、欧州理事会(EU Council)の法務チームの判断では、Nord Stream 2に法的欠陥や争いはなく、欧州委員会に委託してGazpromと交渉を行う必要はないとした。また、プロジェクトは、国際法に従って処理されるべきとの判断がなされた。この国際法の規定とは、前述の国連海洋法第79条のことと思われる。また、9月12日のEC法務委員会の書簡でも、Nord Stream 2にEUエネルギー法を適用する法的根拠はないとした*13。(6)Nord Stream 2の合弁企業体設立が頓挫 一方でNord Stream 2への欧州企業の参加は見送られることとなった。 まず、2016年7月には、ポーランド当局はNord Stream 2に関して、同国ガス市場においてGazpromの寡占化を招くとして同国の競争法を根拠に同計画に反対を表明した。これを受け、8月12日には、Nord Stream 2のJVを構成するR/D Shell(英・蘭)、OMV(墺)、Engie(仏)、Uniper(独)、Wintershall(独)、Gazprom(露)は合弁企業設立の撤回を決めた。これは2019年稼働開始を目指す計画自体の撤回を意味するものではなく、スイスに登録された運営会社Nord Stream 2 AGについてGazpromのみが株主となり、他の5社はそれぞれ出資以外の方式での参画を検討するとしたものである*14。 ポーランドに続いて、ウクライナの反独占委員会が同年8月19日、Nord Stream 2構成6社に対して同委員会の同意が前提であると警告した*15。ウクライナは、欧州エネルギー共同体(European Energy Community)の契約メンバーであり、パイプライン建設が認可されれば、これは共同体憲章に違反するという立場も明らかにした *16。 2017年4月24日、欧州の参加企業5社は、Nord Stream 2の費用の半分にあたる最大47億5,000万ユーロの長期資金を拠出することを約束した。各社の拠出上限は事業費の10%に当たる9億5,000万ユーロである*17。これにより、EU内部での論争は残しつつも、事業推進の態勢は整った。(7)Nord Stream 2の事業発注 このように外部環境が複雑な動きを見せるなかで、Nord Stream 2は2019年末の稼働開始を目指すという姿勢は堅持している。このため、作業に関連する発注は、計画どおり進められている。 まず、敷設するパイプに関しては、2016年3月、Nord Stream 2 AGは、2本のパイプラインのための長さ2,500km、重量220万tの高品質鋼パイプの国際テンダーを行った。この結果、落札者はEuropipe GmbH、Mulheim/Germany (40%)、United Metallurgical Company JSC(OMK)、Moscow/Russia(33%)およびChelyabinsk Pipe-Rolling Plant JSC(ChelPipe)、Chelyabinsk/Russia (27%)の3社である*18。 次いで、パイプの敷設に関する国際入札が2017年に行われた。Nord Stream 2は4月6日、スイスのAllseas社と沖合パイプ敷設工事契約を結んだ。Allseas社は3隻のパイプ敷設船(Pioneering Spirit、Solitaire、Audacia)によって、2018~2019年に沖合パイプ敷設工事を行う*19。ダイナミック・ポジショニングを行えるパイプ敷設船の利用により、船舶の往来が過密化しているバルト海での環境保護や安全操業確保をより厳格にできる。 Allseas社のSolitaireは、フィンランド湾でNord Streamパイプラインが敷設された際にも使われた。AudaciaとPioneering Spiritは、現在同じくGazpromが進めている黒海のTurk Streamの敷設作業に従事して39石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響「る。 ロシアとドイツの沿岸でのパイプ敷設業者の入札も進行中である。Nord Stream 2プロジェクトでは、エンジニアリング、資機材調達、調査、環境影響評価および許認可取得等に、20カ国の約200社が関係すると見られている。このような大規模インフラ建設が、いかに大きな産業の裾野を有しているかが窺える。欧州の産業界にとっては、Nord Stream 2の事業を推進することの重要性は明らかと言ってよい。 また、独、墺、チェコのガス配送事業者(Transmission System Operators:TSOs)6社が、ECのユンケル委員長に対して、Nord Stream 2プロジェクトを支持する書簡を送った。6社とは、独Gascade、Ontras、Gasunie Germany、Fluxys Germany、墺Gas Connect Austria、チェコNet4Gasである。TSOsは陸上のリンクの精査を開始しており、法的枠組みの議論で事業が遅延することは経済的損失を招くとしている*20。 更に、米国の追加制裁法が発効した8月2日以降でも、8月31日には、この新法制定に挑むかのように、イタリアのパイプライン敷設会社のSaipemが、Nord Stream 2 AG社とNord Stream 2の浅海部およびドイツのGreifswaldの港湾へのアプローチ部分のパイプライン建設の契約を結んだと公表した*21。本件はまさに同法第232条に該当すると思われる。なお、バルト海の深海部は黒海のTurk Streamと同様にスイスのAllseas社が請け負うと見られている。 更に9月5日、Gazprom子会社でTurk Streamを建設・運営する事業体であるSouth Stream Transportは、英国のエンジニアリング会社Petrofacに対してトルコ海岸KiyikoyのTurk Streamからのガス受け入れターミナルの建設を3億4,000万ユーロ(4億400万ドル)で発注する契約を結んだ*22。Turk Streamも同法232条の対象となると思われるが、これをほとんど意識していないかのようである。Petrofacは既にGazpromとTurk Streamプロジェクトの準備作業で5カ月間作業をしており、その延長の事業という位置付けと見なしている可能性はある。(8) デンマークがパイプラインの領海内通過を拒否する法案を可決 しかしながら、2017年11月30日、デンマーク国会が領海を通るパイプラインの経路変更を強制することができる法案を可決したことで、Nord Stream 2に対する障害が更に増えることとなった。同法は、デンマークが安全保障または外交政策上の理由から、自国の領海を通過するNord Stream 2のような沖合エネルギー・プロジェクトを禁止することを認めるというものである*23。これまでの法律では、環境上の理由でのみ禁止することが許されていた。 これは、Nord Stream 2のルートが、バルト海にあるデンマーク領Bornholm島の領海内を通過する計画になっているところ、今回これを禁止するというもので、Nord Streamの時は領海内を通過していることから、今回新たに設けられた制限と言うことができる(図2)。Nord Stream 2 AG社はこの措置を受けて、Bornholm島沖の公海で、代替ルートを検討することを余儀なくされている。これにより、プロジェクト費用は95億ユーロ(110億ドル)に引き上げられ、工程の遅れが生じる可能性も出てきた。 デンマーク領海は通過できなくとも、前述の国連海洋法第79条により、排他的経済水域にルートを移動させれば、パイプラインは建設できることになり、パイプライン計画そのものを阻止するのが目的ではない。法的にNord Stream 2を阻止できないことは明確であるので、デンマークはこれによってパイプライン建設を遅延させようとしているものと思われる*24。 Nord Stream 2 AG社は先に、2018年第1四半期にも沖合パイプラインの敷設を開始したいとの意向を示していた。ロシアとウクライナとのガス契約は、2019年末に失効する。この契約に基づき、対欧州のガスがウクライナを経由しており、年間約20億ドルという通過料をウクライナは受け取ってきた。ロシアとしては、この契約を延長する気はない。そのためには、契約失効時にNord Stream 2が完成していて、ウクライナ迂回ルートが機能し始めた状況で交渉に臨みたい。契約失効時にNord Stream 2が完成していなかったら、ロシア側はウクライナとのパイプライン契約の延長を呑まざるを得なくなる。勿論、最短期間の延長をロシア側は主張するであろうが、ウクライナ側はさまざまな手段を講じて、できる限り長期の延長を勝ち取りたいと攻勢をしかけるであろう。ロシア側が面倒事を避けるために、何等かの譲歩を示すようになることがウクライナ側の狙いである。402018.1 Vol.52 No.1アナリシス. 追加「制裁法」をめぐる欧州各国の受け止め方の違い(1)欧州の推進国側の反応 Nord Stream 2への参加を考えていた欧州各国の首脳からは、「露・イラン・北朝鮮制裁法」案が上院を通過した6月時点では、以下のような厳しい反応が見られた。・ドイツのGabriel外相とオーストリアのKern首相(当 時):「欧州の市場からロシア産ガスを締め出して、米国産LNGを輸出し、米産業の雇用を確保することがこの法案の狙いだ。対露制裁を米国の経済的利益と結び付けるべきではない。Nord Stream 2計画には欧州の産業の競争力と、何千人もの雇用がかかっている。誰がどのように欧州にエネルギーを供給するかは米国ではなく、われわれが市場経済の競争原理に基づいて決めることだ」*25 ・GazpromのMedvedev副CEO:「これは米国のLNGを欧州に輸出するための方策に過ぎない」*26けんきょうふかい 米国のLNG輸出を実現するために、ロシアからのパイプラインを排除する法律という見方は、米国の真の目的がウクライナ・ポーランド擁護にあると思われることから、やや牽強付会に過ぎると言えるが、欧州のエネルギーに関する自己決定権が持ち出されたことは至極正当な反応と思われる。 EU当局者によると、対抗措置として、ECがEUのエネルギー企業を制裁の対象から外すことを米国に約束するよう求める可能性や、EU法を適用して欧州企業に対する米国の措置を阻止する可能性があるほか、特定の米企業と事業を行うことを全面的に禁止する可能性もあるとした*27。これはかなり強硬な反応である。 ユンケル欧州委員長らは米上院での採決を控えた2017年7月26日、EUのエネルギー政策に影響を与えかねないと懸念を示す声明を発表した。「法案成立によりロシアのエネルギー産業を支える外国企業が制裁対象になる可能性があり、ロシア産天然ガスをドイツに運ぶパイプライン(Nord Stream 2のこと)に関与する欧州企業などが標的になる恐れがある。米欧はこれまで、対ロシア制裁を協調して実施してきたが、今回は米国が一方的に制裁強化へと動いている」と指摘し、米国に対して苦言を呈する形となった*28。 米国下院では、第232条に関して、「大統領は同盟国(allies)と協同(in coordination)し」との文言を挿入することで、欧州諸国と協議を経た上での制裁という形式とし、軟着陸を図った。これには、欧州委員会からの働きかけがあったとの報道がある*29。その後、欧州側から厳しい批判が寄せられるような事態はなく、沈静化したものと思われる。Nord Stream 2の建設に関して制裁はないと受け止める見解もあるが、確約はなく、事態は曖昧な形のままで推移している。 米国は2016年2月から、増大するシェールガスを原料とするLNGをルイジアナ州Sabine Passから輸出を開始し、2017年7月には、旧東欧圏としてはポーランドが初めて米国産LNGの受け入れ国となった。8月にはリトアニアにも輸出された。ドゥダ大統領はトランプ大統領との会談後、ロシアの「脅迫」への依存を減ずるために米国産LNGの長期輸入契約を結ぶ意向を明らかにした。 しかし、これはビジネスとしては長続きするものとは思われない。過去1年間に欧州が輸入した米国産LNGの平均価格は$6.29/MMBtuであるのに対して、ドイツ国境渡しのロシア産ガスは$4.86/MMBtuである*30。米国のLNGを旧東欧諸国が輸入し続けるのは経済的負担が大きい。 Gazpromの2016年の欧州へのガス輸出は12%増の1,790億m3となり、欧州市場でのシェアは過去最高の33.5%となった*31。これは、Gazpromのガスが価格競争力を重視し、市場確保に方針を転換した結果と言える。(2)欧州のパイプライン通過国の対応 Nord Stream 2を阻止しようとする米国と一部の旧東欧諸国の声は、欧州では劣勢と言える。 法案審議中の7月9日、ウクライナのキエフを訪問したティラーソン国務長官に対して、ポロシェンコ(Poroshenko)大統領は、米国によるNord Stream 2建設反対の動きに関して、「この極めて政治的なプロジェクトを許さないというワシントンの明確で効果的、断固たる姿勢」が示されたとして、謝意が表された。これは、6月に米国上院に提出された対露制裁法案を指してのものである。ウクライナは、欧州エネルギー共同体(European Energy Community)の契約メンバーであり、パイプライン建設が認可されればこれは共同体憲章に違反するという立場も明らかにした*32。 これに先立ち、ウクライナのフロイスマン(Groysman)首相は、6月9日「ウクライナだけでなく、他の諸国の国家安全保障を脅かすこの政治的プロジェクトの実施を阻止するために、他国と協調することも含め、われわれは自国の国益を守るためにあらゆる政治的・法的手段を取る」と述べた。41石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響@同様の趣旨の発言は、ポーランドのシドゥウォ(Szyd?o)首相も行っており、Nord Stream 2ガスパイプラインは欧州に脅威を与える「政治的プロジェクト」だと述べている*33。 Nord Stream 2に関して、「政治的」という形容詞で非難するようになったのは、新しい傾向と言える。しかし、ロシアのGazpromと欧州の「5企業」とで進めている「民間」の計画が、どうしてビジネスではなくて「政治的」と言えるのか、説明はない。恐らく、通過国の不利益になることから、通過国側が示した考え方である。しかし、ドイツ以西の国々にとっては、より確実なガスの輸送を保障するインフラを建設することこそが、エネルギー安全保障に寄与すると考えているようである。EU内部でも、主要ガス消費国と中東欧パイプライン通過国との間で対立が生じている。 2017年夏に、ロシア産ガスの通過各国の首脳からこのような発言が相次いで出されているのは、米議会の「制裁法案」採決の動きを後押ししたい思惑からと思われる。一方、ウクライナのエネルギー企業ナフトハス(Naftogaz)のコボレフ(Kobolev)CEOは先に、Nord Stream 2およびTurk Streamパイプラインによって、ウクライナはガス輸送の役割を失い、同国のガス輸送システムの価値は5分の1に低下してしまうと発言した*34。ここでは、ウクライナの本音というものが、大変分かりやすく語られている。(3)米国務省による対露制裁法のガイドライン 2017年10月31日、米財務省と国務省は追加制裁法(「対米敵対者制裁法」)に関するガイドラインを公表した。このガイドラインによれば、仮に制裁が発動されても、それは2017年8月2日およびそれ以降の投資が対象で、8月2日以前の投資、融資合意には適用されない。Nord Stream 2に関して、欧州企業との融資契約が2017年4月に結ばれており、制裁の影響は受けないということになる*35。 国務省報道官によれば「このガイドラインによって例外扱いとなる行為はない」としているが、観測筋によれば同法232条はNord Stream 2を防護(insulate)するという。また、OIESの上席研究員Katja Yafimavaは、「Nord Stream 2は同法第232条の制裁の影響下にあるべきでないという議論のよい事例となる」とコメントしている*36。4. 欧州市場へ輸出されるロシア産ガスの歴史と評価-欧州と米国の対立(1)デタントの象徴としてのソ連からのガスパイプライン ロシア(ソ連)から欧州へのガス輸出は、実に40年以上の歴史がある。その間、2009年のウクライナのガス紛争の時以外、ガスは全く途切れることなく、安定的に輸出されてきた。 2009年、ガスの供給が停止されたのは「通過国」のウクライナに対してであり、消費地の欧州主部にはベラルーシ・ポーランド経由でガスは送り続けられた。ロシアは欧州でのガス需要の約3割強を維持しており、欧州にとっては極めて信頼のおける供給ソースというのが欧州産業界の認識であった*37。 このロシア(ソ連)からガスを輸入するという考えは、西独(当時)社民党(SPD)が戦後初めて政権を取った1969年9月の総選挙を契機としている。首相に就任したウィリー・ブラント(Willy Brandt)が、東方すなわち共産圏との連携を強化するという「東方政策(Ostpolitik)」を掲げ、共産圏との「緊張緩和(Detente)」を目指した。そして、西独からは大口径管やコンプレッサーを輸出し、見返りに西シベリアの天然ガスを初めて西側陣営に輸入するという「補償(compensation)契約」が結ばれた。パイプラインは1973年10月に完成し、「赤い」ガスが自由主義世界に流れ込むことになった。それから40年以上、ガスは流れ続け、欧州における最も安定的なエネルギーソースとなっている。 パイプラインを通して、ソ連は西側の市場を獲得し、ハードカレンシー(交換可能通貨)を稼ぐことができたが、欧州の側も安定的な天然ガスの供給が保障され、エネルギー調達の長期安定性という大きなメリットを得た。すなわち、パイプラインというものは、「互恵的」な性質を持つと言える。と同時に、ソ連には安定的に天然ガスを供給する義務があり、欧州も契約量を買い取る義務がある。双方は粛々とその義務を果たしてきた。その意味ではパイプラインを介してのビジネスは「双務的」である。要は、需要側と供給側はビジネスの世界では対等な関係にあるということであろう。このことは、欧州のビジネス界では共通の認識となっている。しゅくしゅく422018.1 Vol.52 No.1アナリシスi2)ロシア産ガスを危険視した米国レーガン政権 レーガン政権が発足した1981年、後にネオコン(neo-はconservatism:新保守主義)の代表的人物として名を馳せることになるリチャード・パール(Richard Perle)国防次官補(当時)は、1970年代にドイツ、イタリア等によって進められたソ連の天然ガスを自国にまで運ぶという「シベリア天然ガス・パイプライン」について米上院の公聴会で証言し、「欧州諸国がソ連のエネルギーに依存することは、米国と欧州の政治的・軍事的連携の弱体化につながる。ソ連の天然ガスが日々欧州に流れてくるということは、ソ連の影響力も日ごとに欧州まで及んでくるということだ」と米国政府の懸念を表明した*38。 ソ連から欧州向け天然ガス輸送プロジェクトが始動したのは、ちょうどニクソン(Nixon)政権(1969~1974)の時期に符合するが、ニクソン政権は、トルーマン(Truman)政権より長年にわたり継承されていたソ連に対する「封じ込め政策(Containment)」に代えて、融和的な「デタント政策(Detente)」を推進しており、このパイプライン政策を問題視することはなかった。パイプラインが始動して8年もたってから米国のレーガン(Reagan)政権はこれを問題視した。 ソビエト連邦が石油・ガスの輸出で得た収入は、1970年で4億4,400万ドル、ソ連の全交換可能通貨収入の18.3%であったのに対して、1980年には、これが147億ドル、全交換可能通貨収入の62.3%と急激な増加を見せていた。この時のソ連経済は、今日と同様に石油・天然ガス輸出による収入に支えられるものであった。この傾向はその後も引き続き、資源価格の高騰した2008年の時点で全交換可能通貨収入の77.7%にまで上昇している。この経済規模だけでも、東西冷戦時における対立を主導している勢力にとっては看過できない規模であったと思われる。 欧州諸国は、ソ連の天然ガスをエネルギー源の分散戦略の一つとして導入し、あくまで石油依存度を低下させ、国内のパイプライン関連産業を振興しようとする経済優先の考えであった。その後今日まで、約40年にわたって天然ガスは安定的に供給され、欧州経済にとって重要な役割を果たした。 これに対して、米国のレーガン政権はあくまでソ連の西欧に対する政治的影響力の拡大、すなわち「武器」としてのパイプラインという認識であり、経済面においてもソ連による交換可能通貨の獲得を危険視するものであった。 ソ連のガスが日々欧州に流入してきた結果として、欧州にソ連の影響の痕跡を見出すことはできるだろうか? 1991年12月、ソビエト連邦が崩壊した時、ガスは何事もなかったかのように、粛々と西シベリアから欧州へと送り続けられた。ガスはGazpromという事業体に委ねられており、ソ連邦政府が機能しなくなっても、自らのガス田もパイプラインも操業させることができた。このことは、ソ連から欧州へのガス輸出が全くの「商売」に過ぎないことを証明しているのではなかろうか? 欧州は多数の国が国境を接しており、多くの国が相互に影響を与え合うなかで「多国間(Cross-border)パイプライン」が機能してきた。欧州のような地理的条件にあっては、参加者すべてが対等な条件の下で動くこのような形態が、普遍的な輸送インフラ・システムであると言える。一方、米国のような孤立した地理的条件にある国では、「武器としてのパイプライン」という発想になった可能性がある。そしてこの考えは、最近になってロシアと対決姿勢を構える一部の旧東欧諸国にも共有されるようになり、EUの姿勢に多少反映しているものと思われる。<注・解説>*1: International Oil Daily, 2009/11/06*2: PON, 2015/6/19*3: Kommersant, 2015/7/26*4: IOD, 2015/7/17*5: IOD, 2017/7/31*6: IOD, 2017/9/08*7: IOD, 2017/9/08*8: Kommersant, 2015/9/11*9: FT, 2015/11/30*10: IOD, 2015/10/0743石油・天然ガスレビュー米国による追加対露制裁とノルド・ストリーム2への影響?11: IOD, 2017/1/03*12: FT, 2017/7/06*13: IOD, 2017/10/04*14: IOD, 2016/8/15*15: IOD, 2016/8/23*16: IOD, 2017/7/11*17: WSJ, 2017/4/25*18: Nord Stream 2 Press Release, 2016/3/11*19: Nord Stream 2 Press Release, 2017/4/11*20: IOD, 2017/6/29*21: IOD, 2017/9/01*22: PON, 2017/9/06*23: IOD, 2017/12/01*24: IOD, 2018/1/16*25: 共同, 2017/6/16*26: IOD, 2017/6/16*27: Reuters, 2017/7/24*28: 共同, 2017/7/27*29: 毎日, 2017/11/26*30: DJ, 2017/8/19*31: IOD, 2017/1/03*32: IOD, 2017/7/11*33: PAP, 2017/5/08*34: IOD, 2017/6/14*35: PON, 2017/11/02*36: IOD, 2017/11/06*37: Petroleum Argus, 2006/1/09*38: Jentleson, Bruce W.(1986), Pipeline Politics, Cornell University Press, Ithaca, 263p. p.173執筆者紹介本村 眞澄(もとむら ますみ)[学歴] 1977年3月、東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了。博士(工学)。[職歴] 同年4月、石油開発公団(当時)入団。1998年6月、同公団計画第一部ロシア中央アジア室長。2001年10月、オクスフォード・エネルギー研究所(OIES)客員研究員。2004年2月、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部 主席研究員(ロシア担当)。[主な研究テーマ]ロシア・カスピ海諸国の石油・天然ガス開発と輸送問題、地球資源論。[主な著書] 『ガイドブック 世界の大油田』(共著)技報堂出版、1984年/『石油大国ロシアの復活』アジア経済研究所、2005年/『石油・ガスとロシア経済』(共著)北海道大学出版会、2008年/『日本はロシアのエネルギーをどう使うか』東洋書店、2013年/『化石エネルギーの真実』石油通信社、2016年[趣味] ブルーグラス、カントリー・アンド・ウェスタンGlobal Disclaimer(免責事項)本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。442018.1 Vol.52 No.1アナリシス
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2018/01/22 [ 2018年01月号 ] 本村 真澄
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